説明

樹脂型、成形体、及び成形体の製造方法

【課題】樹脂製のナノインプリント用の型であり、容易に離型可能でその表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型を提供する。
【解決手段】樹脂成分(a)を含む材料からなる樹脂型であって、樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥などにより平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した樹脂層(A)の平滑面上に3μLの水を配置して、JISR3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型。条件(1):転写対象を構成する材料のうちの樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の平滑面上に塗布して、乾燥などにより平滑面を有する樹脂層11を形成した後、形成した樹脂層11の平滑面上に3μLの水13を配置して、JISR3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と静的接触角(X1)との差の絶対値Θが20°〜60°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂型、成形体、及び成形体の製造方法に関し、更に詳しくは、微細構造の成形技術に用いられる樹脂製のナノインプリント用の型であり、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型、成形体、及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LSIやメモリなどの半導体製造の分野においては、微細パターンの形成方法としてリソグラフィ技術が用いられている。しかし、リソグラフィ技術は、工程が複雑であり、一度に加工できる面積が小さく、設備コストが非常に高いという問題がある。そこで、最近、リソグラフィ技術と比較して、工程が単純であり、一度に加工できる面積が大きく(即ち、大きな面積を一括して転写でき)、設備コストが低い、ナノインプリント法が注目されている。ナノインプリント法は、具体的には、ナノメートルオーダーの微細な形状が形成された型を、樹脂に押し当てることでナノオーダーの微細加工を達成することが可能な方法である。そして、このようなナノインプリント法によれば、上述したように、簡単な工程、かつ、低コストで微細パターンを複製することができる。なお、型としては、シリコン、石英、金属、樹脂などからなる型が用いられている。
【0003】
ナノインプリント法としては、熱ナノインプリント法、光(UV)ナノインプリント法などが報告されており、熱ナノインプリント法は、樹脂製の転写対象のガラス転移温度以上に加熱した型を、転写対象に押圧することによってマイクロメートルまたはナノメートルオーダーの微細な形状を転写対象に転写する方法である(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。また、光ナノインプリント法は、光を透過する石英などの型を、光硬化性樹脂からなる転写対象に押圧した後、押圧した状態で上記型に紫外線などの光を照射して転写対象を硬化させることによってマイクロメートルまたはナノメートルオーダーの微細な形状を転写対象に転写する方法である(例えば、非特許文献2、非特許文献3、及び特許文献2参照)。
【0004】
熱ナノインプリント法に用いられる型としては、主に、シリコンやニッケルなどからなる型が用いられ、光ナノインプリント法に用いられる型としては、主に、石英などからなる型が用いられている。
【0005】
しかし、シリコン、ニッケル、石英からなる型は、高価であり、また、汚染や破損のリスクが高いという問題がある。そのため、最近では、樹脂製の型(樹脂型)が用いられており、具体的には、環状オレフィン共重合体(COC)を含む材料からなる樹脂型(例えば、特許文献3参照)や、脂環式構造を含有する熱可塑性樹脂及び水酸基を含有する脂肪酸エステル化合物を含み、所定のガラス転移温度(Tg)、かつ、所定のメルトフローレート(MFR)を有する樹脂型(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/062886号パンフレット
【特許文献2】特開2007−84625号公報
【特許文献3】特開2007−55235号公報
【特許文献4】特開2006−35823号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Y.Chou,P.R.Krauss,P.J.Renstrom:Appl.Phys.Lett.,67(1995)p.3114
【非特許文献2】T.Bailey,B.J.Chooi,M.Colburn,M.Meissi、S.Shaya,J.G.Ekerdt,S.V.Screenivasan,C.G.Willson:J.Vac.Sci.Technol.,B18(2000)p.3572
【非特許文献3】A.Kumar,G.M.Whitesides:Appl.Phys.Lett.,63(1993)p.2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3及び4に記載の樹脂型を構成する樹脂成分は、転写対象を構成する材料中の樹脂成分と性状が類似しているため、樹脂型と転写対象との親和性が非常に高く、樹脂型を転写対象に押し当てた際に樹脂型と転写対象が密着または溶着してしまうという問題があった。このような場合、転写対象から樹脂型を離型できなかったり、離型できたとしても、転写された微細形状が破損してしまったりする不具合があった。また、特許文献4に記載の樹脂型は、添加剤(水酸基含有脂肪酸エステル化合物)を配合することによって転写対象との親和性を低下させているが、添加剤の配合割合が不均一になることがある。そのため、樹脂型の製造ロット毎に表面性状が異なること(具体的には接触角が異なること)に起因して離型性に差が生じるおそれがあった。また、同一の樹脂型であっても場所によって(部分的に)表面性状が異なること(具体的には接触角が異なること)があるため、表面性状が異なることに起因して離型性に差が生じるおそれがあった。そこで、転写対象から容易に離型可能な樹脂型の開発が切望されている。
【0009】
また、樹脂型を構成する樹脂成分と転写対象を構成する樹脂成分の性状が類似している場合、樹脂型の微細形状を有する表面を親水化処理することによって、接触角を小さくし、樹脂型と転写対象との親和性を低くすることができる。しかし、上記親水化処理によって、表面形状が悪くなる(即ち、微細形状が削れてしまう)という問題があった。そのため、親水化処理によっても微細形状が削れ難い(即ち、表面の微細形状の精度が良好である)樹脂型の開発が切望されている。
【0010】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型、成形体、及び成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、樹脂型を構成する材料中の樹脂成分の表面性状と転写対象を構成する材料中の樹脂成分の表面性状との関係に着目し、樹脂型を構成する材料中の樹脂成分の、3μLの水に対する静的接触角と、転写対象を構成する材料中の樹脂成分の、3μLの水に対する静的接触角との差の絶対値が20°〜60°となるようにすることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明により、以下の樹脂型、成形体、及び成形体の製造方法が提供される。
【0013】
[1]樹脂成分(a)を含む材料からなり、表面上にパターン形成用の微細形状が形成され、前記微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写するためのナノインプリント用の樹脂型であって、前記樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型。
条件(1):前記転写対象を構成する材料のうちの前記樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した前記樹脂層(B)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【0014】
[2]微細形状が形成されている前記表面が親水化処理されて得られる前記[1]に記載の樹脂型。
【0015】
[3]前記樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面を親水化処理し、親水化処理した前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X2)が、下記条件(2)満たす前記[2]に記載の樹脂型。
条件(2):前記静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。
【0016】
[4]前記親水化処理として、UVオゾン処理を行う前記[2]または[3]に記載の樹脂型。
【0017】
[5]前記親水化処理として、コロナ放電処理を行う前記[2]または[3]に記載の樹脂型。
【0018】
[6]前記親水化処理として、プラズマ放電処理を行う前記[2]または[3]に記載の樹脂型。
【0019】
[7]前記表面が、離型剤処理されて得られる前記[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂型。
【0020】
[8]前記樹脂成分(a)は、熱可塑性樹脂を含むものであり、前記表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成された前記[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂型。
【0021】
[9]前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、及び、ポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である前記[8]に記載の樹脂型。
【0022】
[10]前記樹脂成分(a)は、光硬化性樹脂を含むものであり、前記表面上の微細形状が光ナノインプリントによって形成された前記[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂型。
【0023】
[11]前記光硬化性樹脂が、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及び、アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物に由来する構造単位を含むものである前記[10]に記載の樹脂型。
【0024】
[12]熱ナノインプリント用である前記[1]〜[11]のいずれかに記載の樹脂型。
【0025】
[13]光ナノインプリント用である前記[1]〜[11]のいずれかに記載の樹脂型。
【0026】
[14]前記[1]〜[13]のいずれかに記載の樹脂型の表面上に形成された微細形状が転写されて得られる成形体。
【0027】
[15]樹脂成分(a)を含む材料からなり、表面上にパターン形成用の微細形状が形成された樹脂型を用い、前記樹脂型の前記微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写することによって、前記樹脂型の前記微細形状の反転形状がその表面に形成された成形体を得る成形体の製造方法であって、前記樹脂型として、前記樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型を用いる成形体の製造方法。
条件(1):前記転写対象を構成する材料のうちの前記樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した前記樹脂層(B)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【0028】
[16]前記樹脂型として、微細形状が形成されている前記表面が親水化処理されて得られ、かつ、前記樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面を親水化処理し、親水化処理した前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X2)が、下記条件(2)を満たす樹脂型を用いる前記[15]に記載の成形体の製造方法。
条件(2):前記静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の樹脂型は、微細構造の成形技術に用いられる樹脂製のナノインプリント用の型であり、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好であるという効果を奏するものである。
【0030】
本発明の成形体は、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型を用いて形成されるものであるため、良好な微細パターンを有するという効果を奏するものである。
【0031】
本発明の成形体の製造方法は、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型を用いて形成されるものであるため、良好な微細パターンを有する成形体を製造することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における接触角の測定状態を模式的に示す説明図である。
【図2A】本発明の樹脂型の一実施形態の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図2B】本発明の樹脂型の一実施形態の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図2C】本発明の樹脂型の一実施形態の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図2D】本発明の樹脂型の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例5で得られたUVオゾン処理後の樹脂型のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0034】
[1]樹脂型:
本発明の樹脂型は、樹脂成分(a)を含む材料からなり、表面上にパターン形成用の微細形状が形成され、前記微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写するためのナノインプリント用のものであり、樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した樹脂層(A)の平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たすものである。
条件(1):転写対象を構成する材料のうちの樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した樹脂層(B)の平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【0035】
このような樹脂型は、微細構造の成形技術に用いられる樹脂製のナノインプリント用の型であり、転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好である。即ち、上記絶対値が20°〜60°であると、上記のような効果が得られるが、20°未満であると、離型性が悪くなり、一方、60°超であると、離型性は良好であるが、微細形状精度が悪くなる。
【0036】
上述したように、上記絶対値は、20°〜60°であることが必要であり、20°〜58°であることが好ましく、20°〜55°であることが更に好ましい。上記絶対値が上記好ましい範囲内であると、転写対象から更に容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が優れるという利点がある。
【0037】
樹脂成分(a)は、熱可塑性樹脂を含むものであることが好ましい。そして、熱可塑性樹脂としては、例えば、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、及び、ポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、環状オレフィン系樹脂であることが更に好ましい。環状オレフィン系樹脂としては、例えば、環状オレフィン開環重合/水素添加体(COP樹脂)、環状オレフィン共重合体(COC樹脂)を挙げることができる。
【0038】
樹脂成分(a)が熱可塑性樹脂を含む場合、樹脂型としては、その表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成されたものであることが好ましい。熱ナノインプリントによって微細形状を形成することによって、良好な微細形状を効率良く形成することができるためである。
【0039】
樹脂成分(a)は、光硬化性樹脂を含むものであることが好ましい。この光硬化性樹脂は、硬化性化合物に由来する構造単位を含むものであり、硬化性化合物としては、例えば、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、アクリル化合物、無水マレイン酸などを挙げることができる。これらの中でも、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、アクリル化合物が好ましい。これらの化合物は1種単独または2種以上を用いることができる。即ち、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及び、アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物に由来する構造単位を含むものであることが好ましい。
【0040】
樹脂成分(a)が光硬化性樹脂を含む場合、樹脂型としては、その表面上の微細形状が光ナノインプリントによって形成されたものであることが好ましい。光ナノインプリントによって微細形状を形成することによって、良好な微細形状を効率良く形成することができるためである。
【0041】
樹脂成分(a)としては、上記熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂以外に、熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0042】
本発明の樹脂型は、樹脂成分(a)を含む材料からなるものである限り特に制限はなく、樹脂成分(a)のみからなるものであってもよいし、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線安定剤、レベリング剤(表面調整剤)、粘度調整剤、重合開始剤、増感剤などのその他の成分(添加剤)を更に含んでいてもよい。
【0043】
本発明の樹脂型は、微細形状が形成されている表面が親水化処理されていることが好ましい。表面を親水化処理することによって、樹脂層表面の静的接触角を容易に低下させることができ、良好な離型性を有する樹脂型を得ることができる。また、樹脂型を製造した後に親水化処理によって表面の性状を変化させる場合には、樹脂型の製造工程においては、金属などからなる金型との良好な離型性を確保することができるとともに、親水化処理後においては、この親水化処理によって樹脂型と転写対象との親和性を低減させ、転写対象との良好な離型性を有する樹脂型を得ることができる。
【0044】
更に、親水化処理する場合には、下記静的接触角(X2)が、下記条件(2)を満たすように処理することが好ましい。静的接触角(X2)は、樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の平滑面上に塗布し、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した樹脂層(A)の平滑面を親水化処理し、親水化処理した平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される値である。
条件(2):静的接触角(Y1)と静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。
【0045】
そして、本発明の樹脂型は、上述したように、静的接触角(Y1)と静的接触角(X2)との差が20°〜60°であることが好ましく、20°〜58°であることが更に好ましく、20°〜55°であることが特に好ましい。静的接触角(Y1)と静的接触角(X2)との差が上記範囲内であると、転写対象から特に容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が優れた樹脂型を得ることができる。
【0046】
親水化処理としては、UVオゾン処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、金属ナトリウム処理などを挙げることができる。これらの中でも、UVオゾン処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理が好ましい。
【0047】
UVオゾン処理によって親水化する場合、大気中で表面処理を行うことができ、かつ、樹脂へのダメージが小さいという利点がある。UVオゾン処理の条件としては、特に制限はなく、従来公知の条件を適宜採用することができるが、具体的には、低圧水銀灯を用い、空気中、照射距離10〜30mmの条件でUV照射する処理を例示することができる。低圧水銀灯以外に、キセノンエキシマランプなどを挙げることができる。
【0048】
コロナ放電処理によって親水化する場合、UVオゾン処理と同様に、大気中で表面処理を行うことができ、かつ、処理速度が速いという利点がある。コロナ放電処理の条件としては、特に制限はなく、従来公知の条件を適宜採用することができるが、具体的には、空気中、0.5〜20mmの放電空隙で周波数10kHz〜100kHzの高周波、高電圧で印加する処理を例示することができる。
【0049】
プラズマ放電処理によって親水化する場合、樹脂型のごく表面のみを改質することができるので、樹脂成分(a)のバルク特性に影響しないという利点がある。プラズマ放電処理の条件としては、特に制限はなく、従来公知の条件を適宜採用することができるが、具体的には、酸素ガス存在下、RIE(反応性イオンエッチング)処理することや、窒素ガス存在下、逆スパッタ処理することを例示することができる。
【0050】
本発明の樹脂型は、その表面が、離型剤処理されて得られるものがことが好ましい。このような離型剤処理を行うことによって離型性が更に良好になるという利点がある。離型剤処理としては、例えば、ディップコート、スピンコート、スプレーコートなどによって離型剤を樹脂型の表面に塗布して行うことができる。離型剤としては、例えば、フッ素系溶剤、シリコン系離型剤などを挙げることができる。なお、離型剤処理は、樹脂型の表面を親水化処理する場合には、親水化処理の前に行ってもよいし、親水化処理の後に行ってもよいが、親水化処理された後に行うことが好ましい。
【0051】
[2]樹脂型の製造方法:
本発明の樹脂型は、構成する材料のうちの樹脂成分(a)が熱可塑性樹脂からなるものである場合(即ち、表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成される場合)には、以下のように製造することができる。まず、所望の凹凸パターンが形成された金型を用意する(図2A参照)。この金型の材料としては、例えば、シリコン、石英、SiC、ニッケル、タンタルなどの金属、グラッシーカーボンなどを挙げることができる。次に、熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを用意する。熱可塑性樹脂としては、上述した、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂などを挙げることができる。図2Aは、凹凸パターン15が形成された金型1を模式的に示す断面図である。
【0052】
次に、図2Bに示すように、上記樹脂フィルム3上に、所望の凹凸パターン15が形成された面が上記樹脂フィルム3に接触するように上記金型1を配置する。その後、従来公知のプレス機などを用いて熱を加えながら金型を樹脂フィルムに押し当てる(図2C参照)。その後、樹脂フィルムを金型から離型させて、図2Dに示すような、所望の凹凸パターン17(金型1の凹凸パターン15の反転形状)が形成された樹脂型5を得ることができる。図2Cは、金型1を樹脂フィルム3に押し当てた状態を示す断面図であり、図2Dは、所望の凹凸パターン17が形成された樹脂型5を示す断面図である。
【0053】
次に、本発明の樹脂型は、構成する材料のうちの樹脂成分(a)が光硬化性樹脂からなるものである場合には、以下のように製造することができる。まず、所望の凹凸パターンが形成された金型を用意する。この金型の材料としては、例えば、石英などを挙げることができる。次に、光硬化性樹脂を基板上に塗布して基板上に塗膜を形成する。光硬化性樹脂としては、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、アクリル化合物などからなる硬化性化合物に由来する構造単位を含むものを挙げることができる。基板としては、PETフィルム、環状オレフィン樹脂フィルムなどの樹脂フィルムやシリコンウエハなどの半導体基板などを挙げることができる。塗膜の形成方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、バーコーターなどを用いる方法や、スピンコート法などを挙げることができる。
【0054】
次に、形成した塗膜上に、所望の凹凸パターンが形成された面が上記塗膜に接触するように金型を配置する。従来公知のプレス機などを用いて金型を塗膜に押し当てる。その後、所定の光を照射して塗膜を硬化させて硬化樹脂フィルムとする。そして、硬化樹脂フィルム及びPETフィルムを、金型から離型して、所望の凹凸パターンが形成された樹脂型を得ることができる。照射する光の波長としては、光硬化性樹脂に応じて適宜選択することができる。
【0055】
[3]樹脂型の用途:
本発明の樹脂型は、熱ナノインプリントまたは光ナノインプリントによって、転写対象の表面(樹脂表面)に凹凸形状を有する成形体を得るために用いることができる。この成形体としては、具体的には、光ディスク成形体、光ファイバー、カメラ用レンズ、オーバーヘッドプロジェクター用レンズ、LBP用Fθレンズ、プリズム、液晶表示素子(LCD)、光拡散板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、集光フィルム等の光学成形品;液体薬品容器、アンプル、輸液用バッグ、点眼薬容器、半導体用ウエハ格納容器等の各種清浄容器;注射器、医療用輸液チューブ等の医療器材;シリコン、サファイヤなどの基板加工用のレジストマスクなどを挙げることができる。
【0056】
本発明の樹脂型は、熱ナノインプリント用であってもよいし、光ナノインプリント用であってもよい。即ち、熱ナノインプリント法に用いられてもよいし、光ナノインプリント法に用いられてもよい。
【0057】
熱ナノインプリント用である場合、樹脂型は、表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成されたものであってもよいし、光ナノインプリントによって形成されたものであってもよいが、熱ナノインプリントによって形成されたものであることが好ましい。光ナノインプリントによって形成されたものであると、樹脂型の耐熱性が十分でなく、転写対象に転写する際の熱によって樹脂型が変形してしまうおそれがある。また、光ナノインプリント用である場合、樹脂型は、表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成されたものであってもよいし、光ナノインプリントによって形成されたものであってもよいが、光ナノインプリントによって形成されたものであることが好ましい。光ナノインプリントによって形成されたものであると、樹脂型の製造時間が短いことに加え、転写対象に対する転写時間も短くて良いため、短時間で成形体を製造することができるという利点がある。
【0058】
また、本発明の樹脂型は、光ナノインプリント用であることが好ましい。即ち、転写対象を構成する材料のうちの樹脂成分(b)として光硬化性樹脂を含む場合、光ナノインプリント法によって、樹脂型の微細形状が転写対象に転写されるが、本発明の樹脂型は、上記のような光ナノインプリント法に用いる樹脂型であることが好ましい。このように光ナノインプリント用の樹脂型として用いた場合、光ナノインプリント法の方が、熱ナノインプリント法に比べて短時間で、目的とする成形体を製造することができるという利点がある。
【0059】
[4]成形体:
本発明の成形体は、本発明の樹脂型の表面上に形成された微細形状が転写されて得られるものである。即ち、本発明の樹脂型の表面上に形成された微細形状が転写された転写対象からなるものである。このような成形体は、「転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型」を用いて形成されるものであるため、良好な微細パターンを有するものである。
【0060】
成形体としては、具体的には、上述した、光ディスク成形体、光ファイバー、カメラ用レンズ、オーバーヘッドプロジェクター用レンズ、LBP用Fθレンズ、プリズム、液晶表示素子(LCD)、光拡散板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、集光フィルム等の光学成形品;液体薬品容器、アンプル、輸液用バッグ、点眼薬容器、半導体用ウエハ格納容器等の各種清浄容器;注射器、医療用輸液チューブ等の医療器材;シリコン、サファイヤなどの基板加工用のレジストマスクなどを挙げることができる。
【0061】
[5]成形体の製造方法:
本発明の成形体の製造方法は、樹脂成分(a)を含む材料からなり表面上にパターン形成用の微細形状が形成された樹脂型を用い、この樹脂型の微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写することによって、樹脂型の微細形状の反転形状がその表面に形成された成形体を得る成形体の製造方法であって、樹脂型として、樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した樹脂層(A)の平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型を用いる方法である。
条件(1):転写対象を構成する材料のうちの樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した樹脂層(B)の平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【0062】
このような製造方法によれば、「転写対象から容易に離型可能であり、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好な樹脂型」を用いて成形体が形成されるため、良好な微細パターンを有する成形体を製造することができる。
【0063】
樹脂型を構成する樹脂成分(a)を含む材料としては、上述した樹脂成分(a)を含む材料と同様の材料を用いることができる。また、転写対象を構成する樹脂成分(b)としては、例えば、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂などを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂などを挙げることができる。また、光硬化性樹脂としては、具体的には、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、アクリル化合物などを挙げることができる。
【0064】
そして、転写対象としては、その用途により異なるが、例えば、厚さが40μm〜3mmのフィルム状または板状のものや、基材上に形成されたナノオーダーからミクロンオーダーの薄膜状のものなどを挙げることができる。樹脂成分のみからなる場合、フィルム状または板状のものであることが多い。また、薄膜の場合、PETフィルム、シリコンウエハなどの平らな基材上に、上記転写対象を構成する樹脂成分を含む材料を塗布し、乾燥させることで得ることができる。なお、熱ナノインプリント法によって樹脂型の微細形状を転写する際には、転写対象を加熱して柔軟な状態にしておくことが好ましい。転写条件としては、従来公知の条件を適宜採用することができる。
【0065】
本発明の成形体の製造方法は、樹脂型として、微細形状が形成されている表面が親水化処理されて得られ、かつ、樹脂層(A)を形成した後、形成した樹脂層(A)の平滑面を親水化処理し、親水化処理した平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X2)が、下記条件(2)を満たす樹脂型を用いることが好ましい。
条件(2):静的接触角(Y1)と静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。
【0066】
親水化処理としては、既に上述した、UVオゾン処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、金属ナトリウム処理などを挙げることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0068】
表1及び表2には、樹脂型の材料として用いた樹脂(樹脂成分(a))、転写対象の材料として用いた樹脂(樹脂成分(b))を示す。なお、表1中、「エチレン−メチルフェニルノルボルネン共重合体」とは、特開2005−239975号公報に記載のエチレン/メチルフェニルノルボルネン共重合体である(以下、「Et−MePhNB」と示す場合がある)。表2中、「TCDVE/1−AdVE=70/30」とは、トリシクロデカンビニルエーテル(TCDVE)/1−アダマンチルビニルエーテル(1−AdVE)を質量比70:30で混合して混合物を得、得られた混合物100質量部に対して、5.0質量部の重合開始剤(和光純薬工業社製の商品名「WPI113」)、1.0質量部のレベリング剤(楠本化成社製の商品名「ディスパロン1761」)、1.5質量部の増感剤(川崎化成社製の商品名「UVS−1221」)、及び1.0質量部の粘度調整剤(エチレン/メチルフェニルノルボルネン共重合体、特開2005−239975号公報に記載)を添加して得られるものである。「PAK相当品」とは、硬化性モノマーとしてトリプロピレングリコールジアクリレートを53.2質量%、トリメチロールプロパントリアクリレートを9.9質量%、N−ビニル−2−ピロリドンを27.0質量%、開始剤として、チバ・ジャパン社製の商品名「IRGACURE651」を9.0質量%、レベリング剤として、楠本化成社製の商品名「ディスパロン1761」を0.9質量%混合したものである。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
次に、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0072】
[静的接触角]:
JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」の中の「静滴法」に準拠して下記の方法で静的接触角を測定した。静的接触角の測定は、協和界面科学社製の「AUTO SLIDING ANGLE SA−30DM」を使用して計測した。まず、熱可塑性樹脂の静的接触角の測定方法を説明する。
【0073】
まず、以下に示す、平滑面を有する樹脂層を用意した。そして、この樹脂層の表面(平滑面)上に3μLの水を配置したときの、樹脂層表面と水滴表面の接線との角度θ(図1参照)を計測した。熱可塑性樹脂(1)、(2)は、オプティス社製の商品名「ZF−16」、商品名「ZF−14」(いずれも、縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのシート)をそのまま樹脂層として使用した。熱可塑性樹脂(3)、(4)は、溶媒(デカリン)に溶かした後、バーコーターによって、上記溶媒に溶かした上記樹脂を基板(ガラス板)上に平滑に塗布し、その後、真空オーブンで乾燥させて、表面が平滑な(平滑面を有する)樹脂層を得た。熱可塑性樹脂(5)は、四国化工社製の商品名「HC−31」(縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのシート)をそのまま樹脂層として使用した。熱可塑性樹脂(6)は、縦100mm×横100mm×厚み1mmのシートに熱成型し、表面が平滑な(平滑面を有する)樹脂を得た。熱可塑性樹脂(7)は、溶媒(ジエチルベンゼン)に溶かした後、バーコーターによって、上記溶媒に溶かした上記樹脂を基板(ガラス板)上に平滑に塗布し、その後、真空オーブンで乾燥させて、表面が平滑な(平滑面を有する)樹脂層を得た。
【0074】
次に、光硬化性樹脂の静的接触角の測定方法を説明する。まず、バーコーターによって光硬化性樹脂を基板の平滑面上に塗布して塗膜を形成し、形成した塗膜に光を照射して、上記塗膜を硬化させることで表面に平滑面を有する樹脂層を得た。そして、得られた樹脂層の表面(平滑面)上に3μLの水を配置したときの、樹脂層表面と水滴表面の接線との角度θ(図1参照)を計測した。計測結果は、表1〜表3中では単に「接触角(°)」と示し、表5,表6中では「接触角X(°)」または「接触角Y(°)」と示す。
【0075】
[親水化処理後の静的接触角]:
親水化処理後の静的接触角は、上記[静的接触角]の評価の方法と同様にして樹脂層を形成した後、この樹脂層の表面(平滑面)を親水化処理し、親水化処理した樹脂層の表面に液滴を配置して角度θを測定(計測)した。表3に、実施例及び比較例で使用した樹脂の、UVオゾン処理またはプラズマ処理後における静的接触角(°)を示す。親水化処理によって静的接触角は小さくなった。
【0076】
親水化処理としては、UVオゾン処理、プラズマ処理を行った。UVオゾン処理は、アイグラフィックス社製のUVオゾン洗浄装置「OC−2506(オゾン分解装置OCA−150L−D付き)」を使用し、低圧水銀灯、照射距離10mmの条件でUV照射した。UVオゾン洗浄装置内の排気時間は2分間とした。UVオゾン処理を行った場合、表3には、処理時間(秒)を示す。
【0077】
プラズマ処理は、第一のプラズマ処理及び第二のプラズマ処理の2種類のプラズマ処理を行った。第一のプラズマ処理としては、神鋼精機社製のプラズマエッチング装置「EXAM」を使用し、酸素ガス(圧力15Pa)、パワー20W、処理時間1分間の条件で行った。第二のプラズマ処理としては、芝浦メカトロニクス社製のスパッタリング装置「CFS−4ES」を使用し、窒素ガス(圧力0.5Pa)、パワー50W、処理時間1分間の条件で逆スパッタを行った。プラズマ処理を行った場合、表3中、「O、15Pa下、20W、1分間RIE」または「N、15Pa下、50W、1分間逆スパッタ」と示す。
【0078】
【表3】

【0079】
以下、角度θの計測方法について具体的に説明する。まず、樹脂層を、その平滑面が上方を向くようにして「AUTO SLIDING ANGLE SA−30DM」の試料台に載せた。この試料台は上下左右に可動するものである。その後、注射筒に蒸留水を吸い取り、この注射筒を上記「AUTO SLIDING ANGLE SA−30DM」に固定した。そして、注射筒の先端に、3μLの液滴状の蒸留水(液滴)を形成し、この液滴が注射筒の先端から落ちないように試料台をゆっくりと移動させて、注射筒の先端の液滴を樹脂層の表面(平滑面)にゆっくり接触させて樹脂層の平滑面上に液滴を配置した(図1参照)。その後、上記「AUTO SLIDING ANGLE SA−30DM」に取り付けられた光学的読み取り装置によって、樹脂層の表面に配置した上記液滴の像を読み取り、図1に示すように樹脂層11の表面と水滴(液滴)13の表面の接線の角度θを計測した。なお、角度θの計測は、「AUTO SLIDING ANGLE SA−30DM」に付属の「FACE測定/解析統合システムFAMAS バージョン2.1.0」で行った。なお、平滑面上に液滴を配置したのは、微細形状による撥水効果の影響を排除するためである。即ち、微細形状を形成した後の樹脂層の上記微細形状部分(微細形状が形成された面上)に液滴を配置した状態における「角度θ」を計測することもできるが、形成された微細形状の違いによって撥水効果が異なるおそれがある。そのため、微細形状の違いに起因する撥水効果の差異を生じさせないため、平滑面上に液滴を配置して「角度θ」を計測した。
【0080】
上記のようにして樹脂型の材料として用いた樹脂と転写対象の材料として用いた樹脂の静的接触角をそれぞれ測定し、測定した静的接触角から「静的接触角の差」を算出した。具体的には、式:(転写対象の材料として用いた樹脂の静的接触角)−(樹脂型の材料として用いた樹脂の静的接触角)から、「静的接触角の差」を算出した。表5,表6中、「静的接触角の差(Z=Y−X)」に示す。
【0081】
[ガラス転移温度(Tg)または軟化温度(Tm)]:
ガラス転移温度(Tg)は、セイコー電子工業社製の示差走査熱量分析計(型式「EXSTAR6000」と「DSC6200」)を用いて室温から200℃まで昇温するときの吸熱ピークから求めた。軟化温度(Tm)は、セイコー電子工業社製の応力歪測定機能付熱的機械分析計(型式「EXSTAR6000」と「TMA/SS6000」)を用い、樹脂に石英プローブ先端を一定荷重で押し付けた状態で上記型式「TMA/SS6000」の加熱炉内に入れ、上記石英プローブ及び樹脂を昇温し、上記樹脂が軟化して石英プローブ先端がめり込む挙動を観測して求めた。なお、熱可塑性樹脂の場合は、ガラス転移温度(Tg)または軟化温度(Tm)を測定した。光硬化性樹脂の場合は、硬化させた後の樹脂におけるガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0082】
[離型性]:
実施例、比較例のようにして、表面に微細形状が形成されている樹脂型と転写対象とをそれぞれ用意した。次に、転写対象と樹脂型の表面(微細形状面)が接触するように重ね合わせ、その後、樹脂型を転写対象に押し付けた後、樹脂型を転写対象から引き離した。このようにしてインプリントを行った。樹脂型を転写対象から引き離したときの剥離性を評価した。評価基準は、樹脂型を転写対象から剥がすことができない場合、または、剥がせたとしても転写対象の微細形状が破損している場合を不良「B」とし、樹脂型を転写対象から離型可能で、かつ、転写対象の微細形状に破損が認められない場合を良好「G」とした。表4には、実施例及び比較例で使用した樹脂毎のインプリント条件を示す。なお、転写対象の樹脂が光硬化樹脂(表5、表6参照)である場合には、光硬化させる前の塗膜の状態の転写対象に樹脂型を押し付けた後、上記塗膜に対して表4に示す条件で光を照射して硬化させ、その後、樹脂型を転写対象から引き離した。また、転写対象の樹脂が熱可塑性樹脂(表5、表6参照)である場合には、塗膜を真空乾燥させた後の膜である転写対象に対して、表4に示す条件で加熱、加圧、圧力保持、冷却する工程を経ることによって、樹脂型を押し付けた後、樹脂型を転写対象から引き離した。なお、表5中、UVオゾン処理を行った場合には処理時間(秒)を示す。プラズマ処理を行った場合には「O、15Pa下、20W、1分間」または「N、15Pa下、50W、1分間逆スパッタ」と示す。
【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
[微細形状精度]:
樹脂型の微細形状の精度の評価は、親水化処理前後の樹脂型の微細形状の高さ(深さ)を、日本電子社製の電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(型式「JSM−6700F」)を使用して、観察倍率10万倍の画像を得、得られた画像における微細形状の高さ(深さ)を計測して行った。具体的には、親水化処理前における微細形状の高さに対する、「親水化処理前における微細形状の高さと親水化処理後における微細形状の高さの差」の割合(%)が20%超の場合を不良「B」、20%以下の場合を良好「G」とした。以下、この割合を「微細形状変化率」と記す場合がある。なお、表5、表6中、親水化処理を行っていない場合には「−」と示す。本評価は、表5、表6中、「樹脂型微細形状精度」と示す。
【0086】
図3は、実施例5で得られたUVオゾン処理後の樹脂型の表面のSEM写真である。微細形状の高さ(深さ)を符号「D」で示す。
【0087】
(実施例1)
直径220nm(精度±10%)、深さ200nm(精度±5%)のホール状パターンが形成されたシリコン製の金型を用い、熱ナノインプリント法によって環状オレフィン系樹脂(シクロオレフィンポリマー(COP);オプティス社製の商品名「ZF−16」)フィルムに上記パターンを転写した。具体的には、まず、図2Aに示すようにシリコン製の金型1を用意した。次に、図2Bに示すように、樹脂フィルム3上に、ホール状パターンが形成された面が上記樹脂フィルム3に接触するようにシリコン製の金型1を配置した。その後、SCIVAX社製の熱ナノインプリント装置「VX−2000」のプレスステージにセットした。その後、プレス板温度195℃、プレスステージ温度195℃、圧力1.5MPa、圧力保持時間60秒、冷却温度100℃の条件で、上記樹脂フィルム(熱可塑性樹脂(1)(ZF−16))にインプリントを行った(上記樹脂フィルムに上記金型を押し付けた)。その後脱圧して、プレスステージから取り出し(図2C参照)、上記樹脂フィルム3(樹脂型5)を上記金型1から離型した。このようにして、上記金型のホール状パターンが転写されたフィルム(直径215nm、深さ204nmのホール状パターンが形成された樹脂型5)を得た(図2D参照)。その後、得られた樹脂型の微細形状面(表面)にダイキン社製の離型剤「オプツールDSX」を滴下してその全面に塗布した。その後、風乾させ、100℃のホットプレート上で10分間ベークした。ベーク後、フッ素系溶剤「デムナムソルベント(ダイキン社製)」で余分な離型剤を洗浄して(洗い落として)樹脂型を得た。一方、転写対象として、縦100mm×横100mm×厚み1mmのポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)からなるシート(熱可塑性樹脂(6))を使用した。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0088】
(実施例2)
親水化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂型を得た。親水化処理はUVオゾン処理を行った。具体的には、UVオゾン処理は、アイグラフィックス社製のUVオゾン洗浄装置「OC−2506(オゾン分解装置OCA−150L−D付き)」を使用し、低圧水銀灯を用い、オゾン存在下、照射距離10mm、UVオゾン処理時間60秒の条件で樹脂型にUV照射を行った。なお、UVオゾン洗浄装置内の排気時間は2分間とした。親水化処理後、樹脂型の表面である微細形状面(UV照射面)にダイキン社製の離型剤「オプツールDSX」を滴下してその全面に塗布した。その後、風乾させ、100℃のホットプレート上で10分間ベークした。ベーク後、フッ素系溶剤「デムナムソルベント(ダイキン社製)」で余分な離型剤を洗浄して(洗い落として)樹脂型を得た。
【0089】
一方、転写対象として、以下のようにして得られたシートを用意した。まず、縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、表5に示す樹脂(Et−MePhNB)をデカリンに溶解した溶解液をバーコーターにより塗工して塗膜を形成した。その後、形成した塗膜について真空乾燥を行うことで、上記PETの表面に樹脂(Et−MePhNB)の膜が形成されたシートを用意した。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0090】
(実施例3、5)
表5に示す樹脂を用いたこと、及び、表5に示す処理時間でUVオゾン処理を行ったこと以外は、実施例2と同様にして各樹脂型及び転写対象としての各シートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0091】
(実施例4)
表5に示す樹脂を用いたこと、表5に示す処理時間でUVオゾン処理を行ったこと、及び、転写対象として四国化工社製の商品名「HC−31」(縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのシート)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして樹脂型及び転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0092】
(実施例6)
直径220nm(精度±10%)、深さ200nm(精度±5%)のホール状パターンが形成された石英製の金型を用い、UVナノインプリント法によって光硬化樹脂にホール状パターンを転写して樹脂型を得た。
【0093】
具体的には、まず、PET製のフィルム上に光硬化樹脂(TCDVE/1−AdVE=70/30)をバーコーターで塗布して塗膜を形成した。この塗膜上に、石英製の金型のホール状パターンが形成された面が上記塗膜に接触するように上記金型を配置した後、熱プレス機「AH−1T」(アズワン社製)のプレスステージにセットした。次に、プレス板温度常温、プレスステージ温度常温、圧力1.0MPa、圧力保持時間10秒の条件(表4参照)で、光硬化性樹脂(1)(UNP−β)にインプリントを行った(上記塗膜に上記金型を押し付けた)。その後脱圧して、これらをプレスステージから取り出した。その後、LED光源(HOYA社製の「EXECURE−H−1VC」、波長365nm)を用いて、UV照射量20mW/cm、UV照射時間38秒の条件で上記塗膜をUV照射することによって上記塗膜を硬化させて硬化樹脂フィルムとした。そして、硬化樹脂フィルム及びPETフィルムを、上記金型から離型した。このようにして、表面に微細なホール状パターンが転写された(形成された)親水化処理前樹脂型(直径210nm、深さ201nmのホール状パターンが形成された樹脂型)を得た。
【0094】
次に、得られた親水化処理前樹脂型についてUVオゾン処理(親水化処理)を行った。UVオゾン処理は、アイグラフィックス社製のUVオゾン洗浄装置「OC−2506(オゾン分解装置OCA−150L−D付き)」を使用し、低圧水銀灯を用い、オゾン存在下、照射距離10mmの条件で親水化処理前樹脂型にUV照射を行った。なお、UVオゾン洗浄装置内の排気時間は2分間とした。親水化処理後、上記樹脂型の表面である微細形状面(UV照射面)にダイキン社製の離型剤「オプツールDSX」を滴下してその全面に塗布した。その後、風乾させ、100℃のホットプレート上で10分間ベークした。ベーク後、フッ素系溶剤「デムナムソルベント(ダイキン社製)」で余分な離型剤を洗浄して(洗い落として)樹脂型を得た。
【0095】
一方、転写対象として、以下のようにして得られたシートを用意した。まず、縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのPETフィルム上に、熱可塑性樹脂(4)(Topas8007)をデカリンに溶解した溶解液をバーコーターにより塗工して塗膜を形成した。その後、形成した塗膜について真空乾燥を行うことで、上記PETの表面に樹脂(Topas8007)の膜が形成されたシートを用意した。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0096】
(実施例7、8、11)
表5に示す樹脂を用いたこと、表5に示す処理時間でUVオゾン処理を行ったこと、及び、転写対象として、縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのPETフィルム上に、光硬化樹脂(1)をバーコーターにより塗工して塗膜を形成したシート(上記塗膜を光硬化させる前のシート)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして各樹脂型及び転写対象としての各シートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0097】
(実施例9、10)
表5に示す樹脂を用いたこと、及び、転写対象として、縦100mm×横100mm×厚み0.1mmのPETフィルム上に、表5に示す光硬化樹脂をバーコーターにより塗工して塗膜を形成したシート(上記塗膜を光硬化させる前のシート)を使用したこと以外は実施例1と同様にして樹脂型を得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0098】
(実施例12、13)
表5に示す樹脂を用いたこと以外は、実施例6と同様にして樹脂型を得た。また、実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0099】
(実施例14、15)
プラズマ処理(親水化処理)を行ったこと以外は、実施例2と同様にして樹脂型を得た。プラズマ処理は、神鋼精機社製のプラズマエッチング装置「EXAM」を使用し、酸素ガス(圧力15Pa)、パワー20W、処理時間1分間の条件でRIE処理することにより行った。本条件を、表5中、「O、15Pa下、20W、1分間」と示す。
【0100】
一方、転写対象については、実施例14では実施例5と同様にして転写対象としてのシートを得た。また、実施例15では実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0101】
(実施例16、17)
芝浦メカトロニクス社製のスパッタリング装置「CFS−4ES」を使用し、窒素ガス(圧力0.5Pa)、パワー50W、処理時間1分間の条件で逆スパッタ処理によりプラズマ処理を行ったこと以外は、実施例2と同様にして樹脂型を得た。本条件を、表5中、「N、0.5Pa下、50W、1分間逆スパッタ」と示す。
【0102】
一方、転写対象については、実施例16では実施例5と同様にして転写対象としてのシートを得た。また、実施例17では実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0103】
(比較例1、6、7、10、11、15、16)
表6に示す樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂型を得た。一方、転写対象については、比較例1では実施例2と同様にして転写対象としてのシートを得た。比較例6では実施例4と同様にして転写対象としてのシートを得た。比較例7では実施例6と同様にして転写対象としてのシートを得た。比較例10、11、15、16では実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0104】
【表6】

【0105】
(比較例2〜5、12、13)
UVオゾン処理時間を表6に示す時間に変えたこと、及び、表6に示す樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂型を得た。一方、転写対象については、比較例2〜5では実施例2と同様にして転写対象としてのシートを得た。比較例12、13では、表6に示す樹脂を用いたこと以外は、実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0106】
(比較例8)
直径220nm(精度±10%)、深さ200nm(精度±5%)のホール状パターンが形成された石英製の金型を用い、UVナノインプリント法によって光硬化樹脂にホール状パターンを転写して樹脂型を得た。
【0107】
具体的には、まず、PET製のフィルム上に光硬化樹脂(TCDVE/1−AdVE=70/30)をバーコーターで塗布して塗膜を形成した。この塗膜上に、石英製の金型のホール状パターンが形成された面が上記塗膜に接触するように上記金型を配置した後、熱プレス機「AH−1T」のプレスステージにセットした。
【0108】
次に、プレス板温度常温、プレスステージ温度常温、圧力1.0MPa、圧力保持時間10秒の条件(表4参照)で、光硬化性樹脂(1)(UNP−β)についてインプリントを行った(上記塗膜に上記金型を押し付けた)。その後脱圧して、これらをプレスステージから取り出した。その後、LED光源(HOYA社製の「EXECURE−H−1VC」、波長365nm)を用いて、UV照射量20mW/cm、UV照射時間38秒の条件で上記塗膜をUV照射することによって上記塗膜を硬化させて硬化樹脂フィルムとした。そして、硬化樹脂フィルム及びPETフィルムを、上記金型から離型した。このようにして、ホール状のパターンが転写された樹脂型(直径206nm、深さ197nmのホール状パターンが形成された樹脂型)を得た。得られた樹脂型の表面である微細形状面にダイキン社製の離型剤「オプツールDSX」を滴下してその全面に塗布した。その後、風乾させ、100℃のホットプレート上で10分間ベークした。ベーク後、フッ素系溶剤「デムナムソルベント(ダイキン社製)」で余分な離型剤を洗浄して(洗い落として)樹脂型を得た。一方、転写対象については、実施例6と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0109】
(比較例9)
比較例8と同様にして樹脂型を得た。一方、転写対象については、実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0110】
(比較例14)
表6に示す樹脂を用いたこと以外は比較例8と同様にして樹脂型を得た。一方、転写対象については、実施例7と同様にして転写対象としてのシートを得た。そして、これら(樹脂型、シート)を用いて上記評価を行った。
【0111】
表5及び表6から明らかなように、実施例1〜17の樹脂型は、比較例1〜16の樹脂型と比べて、転写対象から容易に離型可能であり(離型性が良好であり)、その表面が親水化処理された場合にも表面の微細形状の精度が良好であることが確認できた。
【0112】
比較例4、5の樹脂型の場合、離型性は良好であるが、樹脂型の微細形状の精度が不良であった。具体的には、比較例4においては、微細形状変化率が21%、比較例5においては微細形状変化率が64%であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の樹脂型は、ナノインプリント用の樹脂型として好適に用いることができる。本発明の成形型は、集光フィルム等の光学成形品として好適に用いることができる。本発明の成形型の製造方法は、集光フィルム等の光学成形品として用いることが可能な成形型を製造することができる。
【符号の説明】
【0114】
1:金型、3:樹脂フィルム、5:樹脂型、11:樹脂層、13:水滴、15,17:凹凸パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(a)を含む材料からなり、表面上にパターン形成用の微細形状が形成され、前記微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写するためのナノインプリント用の樹脂型であって、前記樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型。
条件(1):前記転写対象を構成する材料のうちの前記樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した前記樹脂層(B)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【請求項2】
微細形状が形成されている前記表面が親水化処理されて得られる請求項1に記載の樹脂型。
【請求項3】
前記樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面を親水化処理し、親水化処理した前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X2)が、下記条件(2)を満たす請求項2に記載の樹脂型。
条件(2):前記静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。
【請求項4】
前記親水化処理として、UVオゾン処理を行う請求項2または3に記載の樹脂型。
【請求項5】
前記親水化処理として、コロナ放電処理を行う請求項2または3に記載の樹脂型。
【請求項6】
前記親水化処理として、プラズマ放電処理を行う請求項2または3に記載の樹脂型。
【請求項7】
前記表面が、離型剤処理されて得られる請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂型。
【請求項8】
前記樹脂成分(a)は、熱可塑性樹脂を含むものであり、
前記表面上の微細形状が熱ナノインプリントによって形成された請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂型。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、及び、ポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項8に記載の樹脂型。
【請求項10】
前記樹脂成分(a)は、光硬化性樹脂を含むものであり、
前記表面上の微細形状が光ナノインプリントによって形成された請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂型。
【請求項11】
前記光硬化性樹脂が、直鎖状ビニルエーテル化合物、脂環ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及び、アクリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性化合物に由来する構造単位を含むものである請求項10に記載の樹脂型。
【請求項12】
熱ナノインプリント用である請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂型。
【請求項13】
光ナノインプリント用である請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂型。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の樹脂型の表面上に形成された微細形状が転写されて得られる成形体。
【請求項15】
樹脂成分(a)を含む材料からなり、表面上にパターン形成用の微細形状が形成された樹脂型を用い、前記樹脂型の前記微細形状を、樹脂成分(b)を含む材料からなる転写対象に転写することによって、前記樹脂型の前記微細形状の反転形状がその表面に形成された成形体を得る成形体の製造方法であって、
前記樹脂型として、前記樹脂成分(a)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X1)が、下記条件(1)を満たす樹脂型を用いる成形体の製造方法。
条件(1):前記転写対象を構成する材料のうちの前記樹脂成分(b)を、平滑面を有する基材の前記平滑面上に塗布して、乾燥させるか、または、光を照射することで平滑面を有する樹脂層(B)を形成した後、形成した前記樹脂層(B)の前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X1)との差の絶対値が20°〜60°である。
【請求項16】
前記樹脂型として、微細形状が形成されている前記表面が親水化処理されて得られ、かつ、前記樹脂層(A)を形成した後、形成した前記樹脂層(A)の前記平滑面を親水化処理し、親水化処理した前記平滑面上に3μLの水を配置して、JIS R 3257に準拠して測定される静的接触角(X2)が、下記条件(2)を満たす樹脂型を用いる請求項15に記載の成形体の製造方法。
条件(2):前記静的接触角(Y1)と前記静的接触角(X2)との差((Y1)−(X2))が20°〜60°である。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178155(P2011−178155A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253039(P2010−253039)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】