説明

樹脂溶液の塗布装置および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法

【課題】離型層における加熱時の酸化劣化部分を避けて、酸化劣化していない離型層領域における最大領域に樹脂溶液を塗布することにより、樹脂成形体の破損を防止するとともに、金型の使用効率を向上できる樹脂溶液の塗布装置、および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】金型2の表面に有する離型層の上に樹脂溶液4を塗布する樹脂溶液塗布装置であって、樹脂溶液を吐出するディスペンサー1;および金型ごとの情報に基づいて、該ディスペンサーによる塗布領域(4,5)を制御する塗布領域制御手段6を有する塗布装置、および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
画像形成装置において定着器や中間転写体等には、薄肉の樹脂ベルトがよく用いられる。そのような樹脂ベルトは変形が可能なため、装置の小径化に有用である。樹脂ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がないシームレスベルトが好ましい。
【0002】
シームレスベルトは、例えば、金型の外周面または内周面に樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱し、得られた樹脂皮膜を脱型する方法によって製造される。特に、ポリイミド樹脂からなるシームレスベルトは、金型の外周面または内周面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱して乾燥および反応させ、得られた樹脂皮膜を脱型する方法によって製造される。金型は一般に、樹脂皮膜の脱型を容易にするために、樹脂溶液塗布面にメッキ膜やシリコーン樹脂膜等の離型層が形成されて使用される(例えば、特許文献1)。しかも量産時において金型は数百本用意され、それらを繰り返して使用される。
【0003】
しかし、離型層には、加熱により表面が酸化劣化しやすい欠点があるので、離型層表面において樹脂溶液が塗布されずに、空気層と接していると加熱酸化が激しい。酸化劣化した離型層上に、樹脂溶液が塗布され加熱されると、樹脂皮膜が金型から離れず、樹脂皮膜成形体の破損が起こった。そのため、金型を繰り返し使用するのは困難であった。しかも、離型層の酸化劣化は目視では判別困難なため、樹脂皮膜成形体の破損が起こって初めて、酸化劣化が起こっていることを認識することが多かった。
【0004】
そのような問題を解決するためには、離型層全面に、樹脂溶液を塗布ができれば良い。しかしながら、離型層全面に樹脂溶液を塗布すると、金型端部で樹脂溶液の垂れが発生し、金型以外の装置に樹脂溶液が付着し、装置のメンテナンス障害が発生した。また金型端部に樹脂溶液が回り込むと、樹脂皮膜成形体がアンダーカット形状を有するようになるため、脱型が困難になった。そのため、金型には端部を残して樹脂溶液を塗布する必要があり、当該端部の離型層の酸化劣化の問題は回避できなかった。しかも、金型は一般に一部材からなっているので、離型層に酸化劣化が起こると、金型全体の交換または離型層全体の再形成が必要になり、経済性にも問題があった。
【特許文献1】特開2007−100208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、離型層における加熱時の酸化劣化部分を避けて、酸化劣化していない離型層領域に安定して樹脂溶液を塗布できる樹脂溶液の塗布装置、および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた、離型層における加熱時の酸化劣化部分を避けて、酸化劣化していない離型層領域における最大領域に樹脂溶液を塗布することにより、樹脂成形体の破損を防止するとともに、金型の使用効率を向上できる樹脂溶液の塗布装置、および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金型の表面に有する離型層の上に樹脂溶液を塗布する樹脂溶液塗布装置であって、
樹脂溶液を吐出するディスペンサー;および
金型ごとの情報に基づいて、該ディスペンサーによる塗布領域を制御する塗布領域制御手段を有することを特徴とする塗布装置、および該塗布装置を用いた環状シームレス成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗布装置を環状シームレス成形体の製造に使用すれば、酸化劣化した離型層部分への樹脂溶液の塗布を回避できるので、焼成後に樹脂成形体が脱型困難になって破損する問題を防止できる。
特に、本発明においては、金型ごとで、離型層に酸化劣化が生じていない樹脂溶液塗布可能領域を把握し、その最大領域で樹脂溶液を塗布できるので、樹脂成形体の破損を防止できるとともに、金型の再利用回数を最大にすることが可能である。
さらには、塗布可能領域を事前に把握できること、およびたとえ酸化劣化領域に樹脂溶液が塗布されても検知可能であることから、製品にならないものを焼成してしまうことがなくなり、無駄が排除できる。
これらの効果により、コスト的にも管理的にも高効率で環状シームレス成形体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<塗布装置>
本発明に係る樹脂溶液の塗布装置は、金型の表面に有する離型層の上に樹脂溶液を塗布するものであって、特に、塗布後に焼成を行う環状シームレス成形体の製造に有用である。金型は通常、複数個、例えば数百個用いられ、それらの金型は個別に、本発明の塗布装置によって順次、樹脂溶液が塗布され、樹脂成形体が脱型された後、繰り返して使用される。
【0010】
本発明の塗布装置は、
樹脂溶液を吐出するディスペンサー;および
金型ごとの情報に基づいて、該ディスペンサーによる塗布領域を制御する塗布領域制御手段を有するものである。
【0011】
ディスペンサーはリング塗布法において使用されるものであり、例えば図1に示すように、金型2に対して相対的に移動することにより金型2の一端側から他端側に向けて樹脂溶液の塗布を行うものである。図1中、4は樹脂溶液が塗布された領域(実線による斜線領域)を示し、5は樹脂溶液が塗布されるべき領域(破線による斜線領域)を示す。
【0012】
塗布領域制御手段6はディスペンサー1による塗布領域(4,5)を制御するもので、詳しくはディスペンサー1の塗布開始位置11および塗布ストロークを制御する。塗布ストロークは、図1中、塗布開始位置11と塗布終了位置12との間の金型軸方向長さに相当するものである。
【0013】
塗布領域制御手段6は詳しくは、金型の使用回数等の金型ごとの情報に基づいて、樹脂溶液塗布可能領域(前回までの使用によって酸化劣化が生じていない離型層領域)を把握し、そのような領域に対して樹脂溶液の塗布がなされるように塗布開始位置11および塗布ストロークを制御する。
【0014】
例えば、図2(A)に示すように1回目の樹脂溶液塗布を終えて樹脂溶液の塗布領域4に樹脂塗膜を有する金型2aを焼成し、脱型を行うと、図2(B)に示すような金型2bとなる。金型2bにおいて樹脂溶液の塗布領域であったところ14は、樹脂の存在により、金型表面の離型層に酸化劣化は起こっていない。一方で、金型2b両端の樹脂溶液の非塗布領域15は離型層が露出していたために、酸化劣化が起こっている。そのような金型2bに対して2回目の塗布を行うに際しては、図2(C)に示すように酸化劣化が生じていない領域14に対して樹脂溶液の塗布を行うように、塗布領域制御手段がディスペンサーの塗布開始位置および塗布ストロークを制御する。図2(C)中、24は2回目に行った樹脂溶液の塗布領域を示す。2回目の樹脂溶液の塗布領域24は1回目の樹脂溶液の塗布領域4に内在し、かつ当該領域4よりも小さいが、領域4に内在する限り、当該領域4と同等であってよい。従って、n回目の金型使用時の樹脂溶液の塗布領域は(n−1)回目の金型使用時の樹脂溶液の塗布領域よりも小さくなるか、または同等である。
【0015】
具体的には、例えば、塗布〜脱型1サイクルごとに塗布開始位置および塗布終了位置を、塗布領域が前回の塗布領域よりも小さくなるように変更することができる。
また例えば、塗布〜脱型を複数サイクル行うごとに塗布開始位置および塗布終了位置を、塗布領域が前回までの塗布領域よりも小さくなるように変更することができる。詳しくは、前回までと同じ塗布開始位置および塗布終了位置で塗布〜脱型を複数サイクル行った後、塗布開始位置および塗布終了位置を、塗布領域が前回までの塗布領域よりも小さくなるように変更することを繰り返す。
また例えば、酸化劣化が起こるごとに塗布開始位置および塗布終了位置を、塗布領域が前回までの塗布領域よりも小さくなるように変更することができる。詳しくは、前回までと同じ塗布開始位置および塗布終了位置で塗布〜脱型を複数サイクル行い、酸化劣化が生じたら、塗布開始位置および塗布終了位置を、塗布領域が前回までの塗布領域よりも小さくなるように変更することを繰り返す。
【0016】
塗布領域制御手段によるディスペンサー1のそのような制御が金型の使用回数に基づいて行われる場合における塗布装置の一実施形態を図3に示す。図3に示す塗布装置30はディスペンサー1、塗布領域制御手段6a、および樹脂溶液検知手段7を備えたものであり、前回の樹脂溶液塗布の後、焼成および脱型を行った金型39に対して樹脂溶液を塗布するときの概略模式図を示す。金型39において、今回の樹脂溶液塗布領域を35、前回の樹脂溶液塗布後の焼成によって離型層に酸化劣化が生じた領域を36で示す。
【0017】
塗布装置30において、塗布領域制御手段6aは、金型の使用回数が増すにつれ、ディスペンサー1の塗布開始位置31を、前回の位置33よりも金型中央側の位置になるか、または前回と同じ位置になるように制御する。加えて、塗布終了位置32を、前回の位置34よりも金型中央側の位置になるか、または前回と同じ位置になるように制御することによって、塗布ストロークが前回よりも短くなるか、または前回と同じになるように制御する。
【0018】
例えば、前回使用時からのディスペンサー1の塗布開始位置31の変化量がA(mm)のとき、塗布領域制御手段6aは、塗布ストロークの減少幅が2A(mm)となるように、塗布開始位置および塗布ストロークを制御する。特に、本実施形態の塗布装置30を環状シームレス成形体の製造装置に適用する場合は、前回使用時からのディスペンサー1の塗布開始位置変化量A(mm)は、前回使用時の焼成による収縮量よりも大きくなるように設定される。
【0019】
塗布領域制御手段6aがこのように金型の使用回数に基づいて制御を行う場合、図3の金型39のように、個々の金型に対して個別に個体識別記号37を付与しておくことが好ましい。該個体識別記号に基づいて使用回数を管理することにより、前回の塗布開始位置および塗布ストロークが容易に検知され、結果としてディスペンサーの制御が容易になる。
【0020】
塗布領域制御手段6aにおいて、ディスペンサー制御の実行前に、塗布ストロークが所定の長さを確保できないことが明らかになった時には、塗布は中止される。塗布前に、塗布ストロークが短すぎることがわかっている場合は、所定の成形体幅は確保できないため、塗布は行わない。これによって、樹脂溶液や焼成エネルギーの無駄な使用を回避できる。
【0021】
塗布装置30が有する樹脂溶液検知手段7は、金型39における下方側の樹脂溶液の非塗布領域38の位置に配置され、樹脂溶液の存在を検知するものである。樹脂溶液塗布時、樹脂溶液検知手段7によって樹脂溶液の存在が検知された際は、ディスペンサー1からの樹脂溶液の吐出が停止される。塗布時に、樹脂溶液の液垂れ等が発生していることがわかるので、塗布を中止し、当該金型を系外へ排除することにより、樹脂溶液の垂れによる塗布装置のメンテナンス障害を防止でき、脱型が困難になるアンダーカット形状が付与された成形体の製造を回避できる。
【0022】
塗布装置30は、樹脂溶液検知手段7の設置位置が、金型の使用回数が増すにつれ、前回の位置よりも金型中央側の位置になるように、樹脂溶液検知手段7の駆動手段を備えておくことが好ましい。
【0023】
塗布装置30を用いて塗布を行うときの好ましいフローチャートを図4に示す。
(1A)まず、使用される金型の識別記号を入力し、以前に使用されたことがあるものか、否か、情報を得る。
(2A)以前に使用されたことがある金型を使用する場合、使用回数nを抽出する。
(2A')以前に使用されたことがない金型を使用する場合、使用回数n=0となる。
【0024】
(3A)塗布領域制御手段によってディスペンサーの移動設定を行う。詳しくは、金型を塗布する際の塗布開始位置S、塗布ストロークTを決定する。
aは上記した塗布開始位置の変化量Aに相当するものであり、1回の使用によって、塗布開始位置を金型中央部側にaだけ変位させることを意味する。aは通常、2〜10mmが適当である。
bは1回目の塗布時における塗布開始位置であって、金型における塗布開始側端面からの距離を示す。bは通常2〜20mmが適当である。
cは1回目の塗布時における塗布ストロークである。cは通常、成形体製品長さ+10mm〜成形体製品長さ+100mmが適当である。
塗布開始位置Sは、金型における塗布開始側端面からの距離を示す。
【0025】
塗布開始位置S、塗布ストロークTを決定した後は、Tがeよりも大きいか、否か、情報を得る。
eは得ようとする成形体(例えば環状シームレス成形体)1個分の所定幅Y以上であればよく、例えばYに等しくても、k×Y(kは2以上の自然数;Yの整数倍長)に等しくても、またはそれらの長さより大きくても良い。eは通常、成形体製品長さ+5mm〜成形体製品長さ+20mmが適当である。
【0026】
(4A)T≧eのとき、塗布領域制御手段によって樹脂溶液検知手段の移動設定を行う。詳しくは、樹脂溶液検知手段の設置位置Uを決定する。設置位置Uは、金型における塗布開始側端面からの距離を示す。
dは1回目の塗布時における樹脂溶液検知手段の設置位置であって、金型における塗布開始側端面からの距離を示す。dは通常、1〜4mmが適当である。
一方、T<eのときは、塗布を中止し、エラー表示を行う。
【0027】
(5A)ディスペンサーを、工程(3A)で決定された塗布開始位置Sに移動させる。
(6A)樹脂溶液検知手段を、工程(4A)で決定された設置位置Uに移動させる。
(7A)ディスペンサーに樹脂溶液を投入する。
【0028】
(8A)ディスペンサーから樹脂溶液を吐出させながら、ディスペンサーを、工程(3A)で決定された塗布ストロークTだけ移動させる。このとき、樹脂溶液検知手段で樹脂溶液が検知されたら、塗布を中止し、エラー表示を行う。
(9A)樹脂溶液検知手段で樹脂溶液が検知されなかったら、データの書き換えを行う。ここでは、n〔i〕の通過カウントを行う。すなわち、同じスタート位置および同じストロークで何回、成形体を製作したかを計測することを示す。
【0029】
(10A)同じスタート位置および同じストロークにて、何回繰り返し使用したかをカウントし、所定回数f以上の回数に到達したことを感知した場合は、n〔i〕を1だけ繰り上げられるよう書き換えられる。すなわち次回からは、前回よりn〔i〕が1繰上げられるため、(3A)において、ディスペンサースタート位置および移動距離が前回より変更されることになる。
(11A)同じスタート位置および同じストロークにて、何回繰り返し使用したかをカウントし、所定回数fより少ない回数の場合は、n〔i〕を同じ数値に書き換える。すなわち前回と次回のn〔i〕の数値は同じとなる。そのため、(3A)において、ディスペンサースタート位置および移動距離は、前回のものが維持されることになる。
前述の制御を入れることにより、離型層が酸化劣化に耐え得る間は、繰り返し同位置での樹脂溶液塗布を行うよう制御されるため、毎回該樹脂溶液塗布位置を変更する制御と比較して、金型使用回数を多くすることが可能である。fは通常21が適当である。
【0030】
塗布装置30を用いたときの全体ブロック図の一例を図5に示す。図5において、6はコンピュータであって、塗布領域制御手段に相当するものの一例である。7は受発光センサであって、樹脂溶液検知手段に相当するものの一例である。
金型2をセットし、金型の個別識別記号をコンピュータ6に入力する。金型2の個別識別記号により、該金型の履歴を検索する。
履歴に応じて、ディスペンサー1を初期位置に移動させる。ディスペンサー1は、そのホームポジション位置信号を基準に、あらかじめ記憶された情報を基に塗布開始位置へ移動させる。移動距離は、モータ回転数をパルス信号に変換させ該パルス信号と移動距離の相関に基づき制御される。(金型の酸化劣化領域を避けるように制御される)。塗布開始位置は、金型使用回数に応じて変化させるよう制御される。
金型表面までの距離を測定する受発光センサ(の光線照射位置)を、前記塗布開始位置より一定の距離(例えば塗布開始位置より5mm下方向)のところへ移動させる。受発光センサは、そのホームポジション位置信号を基準に、金型全長方向に対する位置を相関付けることが可能に構成される。前記受発光センサのホームポジション位置を基準に、モータ回転数をパルス信号に変換させ、該パルス信号と移動距離の相関に基づき制御されれば、所望のポジション移動可能である。
受発光センサの移動停止後、ディスペンサー1に樹脂溶液を供給し、該ディスペンサー1を所定量移動させ停止させる。ディスペンサー1の移動距離の測定は、前記のパルス信号によるものと同じである。
前記ディスペンサー1の移動中に、前記受発光センサにて、測長データの変化(膜厚変化約300μm以上)を検出した場合は、ディスペンサー1への樹脂溶液の供給停止を命令するとともに、警告を発する。
【0031】
本発明において樹脂溶液を構成する樹脂は公知の樹脂が使用可能であり、例えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂等であってよい。熱硬化性樹脂、特にポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂は比較的高温での加熱を要し、金型離型層の酸化劣化が起こり易いが、そのような樹脂を使用する場合であっても、本発明の目的を有効に達成できるためである。
【0032】
樹脂溶液は上記樹脂を有機溶剤に溶解して得られるものである。有機溶剤としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されず、例えば、後述する有機溶剤等が挙げられる。
【0033】
本発明の塗布装置によって樹脂溶液が塗布される金型の構成材料は特に制限されないが、特に当該塗布装置を環状シームレス成形体の製造に使用する場合においては、焼成時の加熱によっても変形が起こらないものが使用される。そのような材料として、例えば、アルミニウム、銅、鋼等の金属が好ましく使用される。中でも市場流通性、耐溶剤性、熱伝導性、強度等の観点から、アルミニウムが特に好ましく用いられる。そのような金属を円筒形状、円柱形状等の所定形状に加工するに際しては、管材もしくは棒材を切削により所定形状にすればよい。特にアルミニウムを用いる場合は、金属の中でも比較的硬度が低く、切削性に優れるため、加工し易い特徴があり、金型生産効率を上げられる。
【0034】
図1〜図3,図5において、金型は離型層を外周面に有し、当該離型層の上に樹脂溶液が塗布される態様について説明されているが、これに制限されるものではなく、金型は離型層を内周面に有し、当該離型層の上に樹脂溶液が塗布される態様であってもよい。
【0035】
離型層としては、例えば、シリコーン樹脂やフッ素含有樹脂等を被覆したり、シリコーン系、フッ素系離型剤をコーティングして使用される。
【0036】
また図1〜図3,図5において、金型を縦に配置し、ディスペンサーを当該金型に対して相対的に下方から上方に移動させることによって塗布を行う態様について説明されているが、これに制限されるものではない。本発明においては、金型ごとに、樹脂溶液塗布可能領域(前回までの使用によって酸化劣化が生じていない離型層領域)を把握し、そのような領域に対して樹脂溶液の塗布がなされればよく、例えば、金型を縦に配置し、ディスペンサーを当該金型に対して相対的に上方から下方に移動させることによって塗布を行う態様であっても、または金型を横に配置し、ディスペンサーを当該金型に対して相対的に一方から他方に移動させることによって塗布を行う態様であってもよい。
【0037】
<環状シームレス成形体の製造方法>
本発明の環状シームレス成形体の製造方法は、上記した塗布装置を使用することを特徴とし、通常は以下の工程を含むものである;
上記塗布装置を用いて、金型の離型層上に樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を形成する樹脂塗膜形成工程;
樹脂塗膜を焼成し、樹脂皮膜を形成する樹脂皮膜形成工程;および
樹脂皮膜を金型から剥離する脱型工程。
【0038】
本方法においてポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリイミド前駆体溶液が使用される。ポリイミド前駆体として、いわゆるポリアミック酸、例えば、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)からなる前駆体、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4'−ジアミノフェニルエーテル(ODA)からなる前駆体等が使用される。
【0039】
ポリアミドイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、樹脂溶液としてポリアミドイミド前駆体溶液が使用される。ポリアミドイミド前駆体として、例えば、アミド基含有芳香族ジアミンとPMDAからなる前駆体や、芳香族ジアミンまたはその誘導体と無水トリメリット酸(TMA)からなる前駆体等が使用される。
以下、特に好ましい態様として、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0040】
(樹脂塗膜形成工程)
本工程では、まず、ポリイミド前駆体を有機溶剤に溶解させて樹脂溶液を調製する。
ポリイミド前駆体は上記したものが使用可能であり、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
有機溶剤は、ポリイミド前駆体を溶解可能なものであれば、特に制限されず、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。樹脂溶液におけるポリイミド前駆体の濃度、粘度等は、塗布方法および成形体の所望厚みに応じて適宜選択される。
【0042】
得られる成形体を、定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等として使用し、導電性機能を付与する必要がある場合には、樹脂溶液の中に導電性物質等の添加剤を分散させることができる。
導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In23複合酸化物等の導電性金属酸化物等が挙げられる。
【0043】
次いで、上記塗布装置を用いて、樹脂溶液を金型の離型層上に塗布して、例えば、図3および図5に示すように、樹脂塗膜(35)を形成する。その際、金型ごとに、樹脂溶液塗布可能領域(前回までの使用によって酸化劣化が生じていない離型層領域)を把握し、前記したように、そのような領域に対して樹脂溶液を塗布するようにする。
【0044】
(樹脂皮膜形成工程)
本工程では、樹脂塗膜を焼成し、樹脂皮膜を形成する。詳しくは、樹脂塗膜を加熱乾燥させてから、加熱反応させてポリイミド樹脂皮膜を形成する。
【0045】
まず、樹脂塗膜中に過度に残留する溶剤を除去する目的で、静置しても塗膜が変形しない程度まで加熱乾燥を行う。乾燥条件は、80〜200℃の温度で30〜60分間であることが好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。また、加熱することに加え、風を当てることも有効である。また、遠赤外線加熱を用いれば、溶剤除去をさらに効率よく行うことができる。加熱は、時間内において、段階的に上昇させたり、一定速度で上昇させてもよい。なお、樹脂塗膜から溶剤を除去させすぎると、塗膜はまだ成形体としての強度を保持していないので、割れを生じる虞がある。そのため溶剤を適度に残留させておくことが好ましい。具体的には樹脂塗膜中に15〜50質量%、特に35〜50質量%の割合で溶剤を残留させることが好ましい。
【0046】
次いで、300〜450℃、好ましくは350℃前後で、20〜60分間、樹脂塗膜を加熱反応させることで、ポリイミド樹脂皮膜を形成できる。加熱反応の際、塗膜中に有機溶剤が残留していると、ポリイミド樹脂皮膜に膨れが生じることがあるため、加熱の最終温度に達する前に、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、加熱前に、200〜250℃の温度で、10〜30分間加熱乾燥して残留溶剤を除去し、続けて、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱し、ポリイミド樹脂皮膜を形成することが好ましい。この際、遠赤外線加熱を併用すれば、残留溶剤の除去とイミド化反応を効率的に行える。
【0047】
(脱型工程)
本工程では、ポリイミド樹脂皮膜を金型から剥離し、脱型する。
金型からの樹脂皮膜の剥離方法は特に制限されるものではなく、例えば、金型と皮膜との隙間に、加圧空気を注入することで、皮膜を膨張させて剥離する。加圧空気の圧力は、一般的な空気圧縮機で得られる数気圧程度でよい。注入された加圧空気は、ある程度は皮膜端部から漏れるが、全部が漏れるわけではないので、皮膜は空気圧により、多少、膨れることになる。そのため、形成された樹脂皮膜を金型から容易に抜き取ることができる。
【0048】
抜き取られた樹脂皮膜が所定の幅を有している場合はそのままポリイミド樹脂環状シームレス成形体として使用できる。樹脂皮膜が所定幅より大きい場合は、不要部分を切断して、ポリイミド樹脂環状シームレス成形体を得ることができる。樹脂皮膜が所定幅の整数倍の長さを有している場合は、所定幅に切断するだけで、そのまま使用可能なポリイミド樹脂環状シームレス成形体を複数個得ることができる。
【0049】
成形体の厚みは樹脂塗膜の厚みを調整することによって制御可能で、例えば、20〜1000μm、特に30〜100μmとすることができる。
【0050】
特に樹脂塗膜形成工程で金型内周面の離型層上に樹脂溶液が塗布される場合は、以下の順序で工程処理を行うことが好ましい。樹脂塗膜形成工程後、樹脂皮膜形成工程の加熱乾燥処理、および脱型工程を行う。次いで、脱型して得られた未反応の樹脂皮膜を別の金型外周面に嵌める型嵌工程、および樹脂皮膜形成工程の加熱反応処理を行い、再度、脱型工程を行う。
【0051】
成形体表面には、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂層が形成されてもよい。その場合には、樹脂皮膜形成工程の加熱反応処理後であって、脱型工程前に、樹脂皮膜を外周面に有した金型に対して、所定のポリマーからなるチューブを被せ、加熱溶着処理を行った後、脱型工程を行うことが好ましい。
【0052】
脱型された金型は樹脂塗膜形成工程に送られ、繰り返し使用される。当該工程において上記塗布装置により樹脂溶液が塗布される際は、前記したように、当該金型の使用回数または金型の現実の表面状態等の金型ごとの情報に基づいて、樹脂溶液塗布可能領域に対して樹脂溶液の塗布がなされるようにディスペンサーの塗布開始位置および塗布ストロークが制御されればよい。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
(金型Aの製造)
内径26mm、外径30mmおよび長さ320mmのアルミニウム製円筒状金型を切削法により製造した。
金型の外周面にシリコーン系離型剤(商品名;KS700、(株)信越化学社製)を塗布することによって離型層としてシリコーン樹脂膜(膜厚約1μm)を形成し、金型Aとして用いた。
【0054】
(樹脂塗膜形成工程)
3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PDA)とを、N,N−ジメチルアセトアミド中で反応させて、22質量%濃度ポリイミド前駆体溶液Aを調製した。この前駆体溶液Aに、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で23%混合し、次いでジェットミルにより分散し、樹脂溶液Aを得た。
塗布領域制御手段によるディスペンサー制御を金型の使用回数に基づいて行う図3に示す塗布装置を用いて、樹脂溶液Aを金型外周面に塗布し、約500μm厚の樹脂塗膜を形成した。具体的には図4に示すフローチャートに従うもので、n=0、S=b=10mm、T=c=300mm、e=250mm、U=d=5mmであった。
【0055】
(樹脂皮膜形成工程)
次に、金型Aを水平にして、20rpmにて回転させながら、室温で5分間の乾燥後、80℃で20分間、100℃で1時間、加熱乾燥させた。これにより、厚さ約150μmの樹脂塗膜を得た。次に、金型Aを一旦、室温まで冷却した。その後、金型Aを垂直に立てて、200℃で30分、300℃で30分加熱反応させ、樹脂皮膜を形成した。
【0056】
(脱型工程)
室温に冷えた後、金型と皮膜との隙間に圧力0.5MPaの加圧空気を注入したところ、ポリイミド樹脂皮膜が膨張し、容易に抜き取ることができた。得られたポリイミド樹脂シームレス成形体を所定長の幅230mmでカットすることによって、電子写真用転写ベルトとして使用できる寸法を有していた。
【0057】
(評価;金型の繰り返し使用)
脱型された金型Aに対して樹脂塗膜形成工程、樹脂皮膜形成工程および脱型工程からなる成形体の製造工程を繰り返して行ったところ、100個の成形体を、成形体の破損なしに製造できた。但し、図4に示すフローチャートにおけるaは3mmとした。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の塗布装置は、画像形成装置の定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等として使用可能な環状シームレス成形体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の塗布装置の一実施形態を示す概略模式図である。
【図2】(A)は1回目の樹脂溶液塗布を終えて樹脂溶液の塗布領域4に樹脂塗膜を有する金型の概略模式図であり、(B)は(A)の金型を焼成および脱型して得られた金型の概略模式図であり、(C)は(B)の金型に対して本発明の塗布装置を用いて樹脂溶液を塗布したときの金型の概略模式図である。
【図3】本発明の塗布装置の一実施形態を示す概略模式図である。
【図4】図3の塗布装置を用いて樹脂溶液の塗布を行うときの好ましいフローチャートである。
【図5】本発明の塗布装置を用いたときの全体ブロック図の一例である。
【符号の説明】
【0060】
1:ディスペンサー、2:2a:2b:2c:金型、分割面、4:樹脂溶液が塗布された領域、5:樹脂溶液が塗布されるべき領域、6:6a:6b:塗布領域制御手段、7:樹脂溶液検知手段、8:金型表面検出手段、11:塗布開始位置、12:塗布終了位置、14:樹脂溶液の塗布領域であったところ、15:樹脂溶液の非塗布領域、24:2回目に行った樹脂溶液の塗布領域、30:40:塗布装置、31:塗布開始位置、32:塗布終了位置、33:前回の塗布開始位置、34:前回の塗布終了位置、35:今回の樹脂溶液塗布領域、36:酸化劣化が生じた領域、37:個体識別記号、39:金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の表面に有する離型層の上に樹脂溶液を塗布する樹脂溶液塗布装置であって、
樹脂溶液を吐出するディスペンサー;および
金型ごとの情報に基づいて、該ディスペンサーによる塗布領域を制御する塗布領域制御手段を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
ディスペンサーが、金型に対して相対的に移動することにより金型の一端側から他端側に向けて樹脂溶液の塗布を行うものであり、
塗布領域制御手段によってディスペンサーの塗布開始位置および塗布ストロークが制御される請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
金型ごとの情報が、金型の使用回数である請求項1または2に記載の塗布装置。
【請求項4】
金型の使用回数が増すにつれ、塗布領域制御手段によって、ディスペンサーの塗布開始位置が前回の位置よりも金型中央側の位置になるか、または前回と同じ位置になるように制御され、かつ塗布ストロークが前回のよりも短くなるか、または前回と同じになるように制御される請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前回使用時からのディスペンサーの塗布開始位置変化量がA(mm)のとき、塗布ストロークの減少幅が2A(mm)となるように、塗布領域制御手段によって塗布開始位置および塗布ストロークが制御される請求項4に記載の塗布装置。
【請求項6】
金型に個体識別記号が付与され、該個体識別記号に基づいて、塗布領域制御手段によってディスペンサーの塗布開始位置および塗布ストロークが制御される請求項2〜5のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項7】
塗布ストロークが所定の長さを確保できない時には、塗布が中止される請求項5に記載の塗布装置。
【請求項8】
金型における樹脂溶液の非塗布領域の位置で樹脂溶液の存在を検知する樹脂溶液検知手段を有する請求項1〜7のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項9】
樹脂溶液検知手段の設置位置が、金型の使用回数が増すにつれ、前回の位置よりも金型中央側の位置になる請求項8に記載の塗布装置。
【請求項10】
樹脂溶液塗布時、樹脂溶液検知手段によって樹脂溶液の存在が検知された際は、ディスペンサーからの樹脂溶液の吐出が停止される請求項8または9に記載の塗布装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の塗布装置を使用することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−126157(P2009−126157A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306765(P2007−306765)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】