説明

樹脂組成物、樹脂膜及び半導体装置

【課題】 本発明の目的は、低誘電率、かつ機械強度に優れた樹脂膜を形成し得る樹脂組成物を提供すること。また、本発明の別の目的は、低誘電率、かつ耐熱性および機械特性に優れた樹脂膜およびその樹脂膜を有する半導体装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の樹脂組成物は、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の重合体を含む樹脂組成物であって、前記重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した分子量ピークにおいて、重合体を検出するピークPのピーク面積Apと残存モノマーを検出するピークMのピーク面積Amを足し合わせたピーク全面積(Ap+Am)に占める、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出されるピークLのピーク面積Alの面積の割合が0〜5%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂膜及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野では、半導体デバイスの高集積化、動作の高速化及び高性能化が進むに従い、半導体集積回路の配線抵抗の増大や配線間の電気容量の増大が要因とされる信号遅延が大きな問題となっている。この信号遅延問題を解決し、半導体デバイスの動作をより高速化させるためには、多層配線構造における絶縁膜に低誘電率の材料を用いることが必要である。また、材料には低誘電率の特性以外に多層配線構造形成プロセスに耐えうる高機械強度、高耐熱性も必要である。
【0003】
低誘電率材料としては、誘電率低減を目的に多孔質化された材料が検討されている。多孔質化する方法としては、熱分解性成分(ポロジェン)を混合あるいは結合により導入し、絶縁膜形成の際の加熱焼成工程においてポロジェンを分解させ、絶縁膜中に空孔を形成させる方法等がある。しかしながら、このような方法による多孔質化においては、膜中に存在する空孔は数ナノメーターから数10ナノメーターのサイズであり、また、これら空孔は独立してではなく連結して存在していることから、必然的に材料の強度が低下し、半導体プロセスにおいても空孔に起因した様々な問題が指摘されている。不具合を解決する方法として、ポアシール等のプロセスを導入するといった検討も行われているが、製造の工程が増えコスト増大につながることが懸念されている。
【0004】
一方、樹脂構造の内部に分子レベルの多数の空孔を有する材料が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。これは第1の架橋成分と第2の架橋成分が結合することにより分子レベルの空孔が形成され、低誘電率化がなされている。しかし、このような材料は、単一成分では低誘電率化できず、また、前記樹脂を合成する時にゲル化が起こり易いこと、合成における重合体の溶解性、およびワニスとしての保存性などが悪いことなどにより、非常に扱いにくいものであった。
合成時のゲル化や重合体の溶解性を改良した報告として、籠型構造化合物で分子内に−C≡CH基を有する化合物からなる材料で誘電率を低減した報告がされている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、2.35以下の誘電率を実現するには空孔形成剤(ポロゲン、ポア・ジェネレーター)を併用しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−332543号公報(段落番号0015〜0019)
【特許文献2】特開2007−70597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題点を解決する為の低誘電率、かつ高機械強度、高耐熱性に優れた樹脂膜を形成し得る樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の目的は、低誘電率、かつ高機械強度、高耐熱性に優れた樹脂膜およびその樹脂膜を有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(20)記載の本発明により達成される。
【0008】
(1) 重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の重合体を含み、樹脂膜を形成するために用いる樹脂組成物であって、
前記重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した分子量ピークにおいて、重合体を検出するピークPのピーク面積Apと残存モノマーを検出するピークMのピーク面積Amを足し合わせたピーク全面積(Ap+Am)に対して、前記分子量ピークの内、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される領域におけるピークLのピーク面積Alの割合が0〜5%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
(2) 上記ピークLのピーク面積Alの割合が0〜3%以下である第(1)項記載の樹脂組成物。
(3) 前記重合体は、前記籠型構造化合物のプレポリマーである第(1)項又は第(2)項に記載の樹脂組成物。
(4) 前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物は、下記式(1)で表される化合物である、第(1)項〜第(3)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0009】
【化1】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1又は2以上の基を示す。Rは、アダマンタン構造又はポリアマンタン構造を有する基を示すが、mが2以上である場合、それぞれ同一であっても、異なっていても良い。mは1又は2以上の整数である。)
【0010】
(5) 前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物は、下記式(2)で表される化合物である、第(1)項〜第(4)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0011】
【化2】

(式(2)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1又は2以上の基を示す。R及びRは、それぞれ、水素又は有機基を示すが、nが2以上である場合、繰り返し単位毎に、同一であっても異なっていても良い。nは1又は2以上の整数である。)
【0012】
(6) 前記アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造は、アダマンタン構造、ポリアマンタン構造又はポリアダマンタン構造である、第(1)項〜第(5)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(7) 前記重合性不飽和結合を含む基は、炭素−炭素三重結合を含む基である、第(1)項〜第(6)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(8) ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の数平均分子量が9,000以上500,000以下である、第(1)項〜第(7)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(9) ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の数平均分子量が15,000以上200,000以下である第(1)項〜第(8)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(10) ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の重量平均分子量と数平均分子量の比である多分散度(Mw/Mn)が20以下である、第(1)項〜第(9)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(11) ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の重量平均分子量と数平均分子量の比である多分散度(Mw/Mn)が10以下である、第(1)項〜第(10)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(12) ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記残存モノマーを検出するピークMのピークトップは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1500に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される第(1)項〜第(11)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(13) 前記樹脂組成物は、これを用いて形成される樹脂膜において、陽電子消滅寿命測定法により測定して得られる陽電子消滅寿命に対応した空孔サイズの第1ピークトップが、1nm以上の領域にあるものである第(1)項〜第(12)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(14) 前記樹脂膜は、さらに、空孔サイズの第2ピークトップが、1nm未満の領域に存在するものである第(13)項に記載の樹脂組成物。
(15) 前記第1ピークトップの強度が、前記第2ピークトップの強度よりも強いものである第(14)項に記載の樹脂組成物。
(16) 前記第1ピークトップにおける空孔サイズが、1nm以上、3nm以下である第(13)項〜第(15)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(17) 前記樹脂膜の密度が、0.7以上、1.0以下である第(1)項〜第(16)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(18) 前記樹脂組成物は、実質的に空孔形成剤を含まないものである第(1)項〜第(17)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(19) 第(1)項〜第(18)項のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて塗布して形成された塗膜を、加熱、活性エネルギー線、又は加熱と活性エネルギー線照射により架橋反応させて得られる樹脂膜。
(20) 第(19)項に記載の樹脂膜を具備する、半導体装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低誘電率、かつ高機械強度、高耐熱性に優れた樹脂膜を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。
また、本発明によれば、低誘電率、かつ高機械強度、高耐熱性に優れた樹脂膜およびその樹脂膜を有する半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量ピークの定義を示す図である。
【図2】陽電子消滅寿命測定法で得られる陽電子消滅寿命スペクトルの一例を示す図である。
【図3】半導体装置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の樹脂組成物、樹脂膜および半導体装置について説明する。
本発明の樹脂組成物は、重合性不飽和結合を含む基とアダマンタン構造を最小単位とする籠型構造とを有する籠型構造化合物の重合体を含み、樹脂膜を形成するために用いられるものであって、前記重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した分子量ピークにおいて、重合体を検出するピークPのピーク面積Apと残存モノマーを検出するピークMのピーク面積Amを足し合わせたピーク全面積(Ap+Am)に対して、前記分子量ピークの内に占める、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される領域におけるピークLのピーク面積Alの割合が0〜5%以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の樹脂膜は、上記樹脂組成物を用いて塗布して形成された塗膜を、加熱、活性エネルギー線、又は加熱と活性エネルギー線照射により架橋反応させて得られることを特徴とする。
また、本発明の半導体装置は、上記に記載の樹脂膜を具備することを特徴とする。
【0017】
まず、樹脂組成物および樹脂膜について説明する。
本発明の樹脂組成物は、樹脂膜を形成するために用いられるものである。樹脂膜としては、例えば、絶縁膜、半導体装置の層間絶縁膜および表面保護膜、多層回路の層間絶縁膜、エッチング保護膜、ソルダーレジスト膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、液晶配向膜等が挙げられる。これらの中でも、半導体装置用の層間絶縁膜、表面保護膜およびエッチング保護膜の中から選ばれる1種以上の膜が好ましい。これにより、半導体素子の電気容量を低減することができる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の重合体を含んでいるものである。
重合性不飽和結合が架橋することにより耐熱性および機械的強度が向上し、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造により、骨格自体の誘電率を低減できる。
該重合体の分子量ピークの特徴を有することにより、前記樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜中に、該籠型化合物を構成する骨格由来の1nm未満の空隙に加えて、新たに1nm以上の空隙を有する膜を、空孔形成剤を用いることなく得ることができ、膜の誘電率を更に低減でき、また、機械強度も良好なものとなる。
重合体を検出するピークPが複数表れる場合もあるが、本発明では、当該複数ピークすべてをピークPの対象とし、ピークPの面積値Apも当該複数ピークの面積の総和で示す。
【0019】
本発明においては、上記のような分子量の範囲とすることにより、陽電子消滅寿命測定法にて測定される樹脂膜中の空隙について、1から3nm程度の空隙が多く得られ、これにより、樹脂膜の誘電率が2.3以下と低い結果となる。
【0020】
ゲル浸透クロマトグラフィーの分析条件としては、重合体を検出するピークPと残存モノマーを検出するピークMを分離、検出できる条件であればよい。具体的には排除限界分子量600,000(ポリスチレン換算重量平均分子量)以上であり、標準ポリスチレン分子量50から500,000の範囲の較正曲線において線形性が得られる分離カラムを用いる事で達成できる。具体例の一つとしては、ポリスチレン換算排除限界分子量4x10(推定)(東ソー株式会社製TSKgel GMHXL)のカラム2本および、ポリスチレン換算排除限界分子量1x10(東ソー株式会社製TSKgel G2000HXL)のカラム2本を、直列に組み合わせる分析カラムを用いる。溶離液はテトラヒドロフランであり、測定温度は40℃±5℃である。
検出法は、式(1)におけるX及びYがすべて脂肪族不飽和炭化水素であり、Rが飽和炭化水素または脂環式炭化水素の場合は示差屈折率法を、それ以外の場合は、波長200から300nmの紫外吸収法を用いる。
【0021】
まず、本発明に用いる重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物について説明する。
【0022】
前記重合性不飽和結合を含む基としては、炭素−炭素三重結合を含む基、炭素−窒素三重結合を含む基、炭素−炭素二重結合を含む基などが挙げられ、中でも、炭素−炭素三重結合を含む基が、重合体の合成の容易さと耐熱性の上でより好ましく、エチニル基が特に好ましい。これらの基はフェニル基などの置換基を有していても良い。また、これらの重合性不飽和結合を含む基は、フェニル基、ナフチル基など基に結合したものを挙げることができる。
【0023】
前記重合性不飽和結合を含む基の具体例としては、前記炭素−炭素三重結合を含む基として、エチニル基を代表として下記式(3)〜(5)で表されるものを挙げることがき、炭素−窒素三重結合を含む基として、ニトリル基を代表として挙げることができ、さらには、マレイミド基、ナジイミド基、ビフェニレン基、及びシクロペンタジエニル基なども挙げることができる。また、前記炭素−炭素二重結合を含む基としてビニル基を代表として下記式(6)〜(8)で表されるものを挙げることができる。
【0024】
【化3】

但し、式(3)中、Zは単結合または芳香族基を示し、Rは脂肪族基を示し、Rは水素原子または有機基を示す。Zが単結合の時、n2は1であり、Zが芳香族基の時、n2は1または2である。
【0025】
【化4】

但し、式(4)中、Rは水素又は有機基を示す。
【0026】
【化5】

但し、式(5)中、Rは水素又は有機基を示す。n3は1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
【0027】
【化6】

但し、式(6)中、Zは単結合または芳香族基を示し、Rは脂肪族基を示し、R〜R11は水素又は有機基を示し、互いに独立しており、それぞれが同一又は異なる。Zが単結合の時、n4は1であり、Zが芳香族基の時、n4は1または2である。
【0028】
【化7】

但し、式(7)中、R12〜R14は水素又は有機基を示し、互いに独立しており、それぞれが同一又は異なる。
【0029】
【化8】

但し、式(8)中、R15〜R17は水素又は有機基を示し、互いに独立しており、それぞれが同一又は異なる。n5は1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
【0030】
式(3)及び(6)におけるZとしての芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントレニレン基、芳香族環が4〜6個の多環式芳香族基、フルオレニレン基、ジフェニルフルオレニレン基及びビフェニレン基などが挙げられるが、これらに限定されない。上記芳香族基中の水素原子は、フッ素原子、メチル基、メトキシ基及びトリフルオロメチル基などで置換されていても良い。
【0031】
また、式(3)におけるR及び(6)におけるRとしての脂肪族基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基及びデシレン基などの炭素数1〜10の鎖状脂肪族基などが挙げられるが、これらに限定されない。上記脂肪族基中の水素原子は、フッ素原子及びトリフルオロメチル基などのハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル及びペンチル基などの炭素数1〜5のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基及びペンチルオキシ基などの炭素数1〜5のアルコキシ基;などで置換されていても良い。
【0032】
また、式(3)におけるR、式(4)におけるR、式(5)におけるR、式(6)におけるR〜R11、式(7)におけるR12〜R14は水素又は有機基、式(8)におけるR15〜R17としての有機基としては、鎖状脂肪族基及び環状脂肪族基などの脂肪族基、芳香族基などが挙げられる。前記鎖状脂肪族基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基など;、前記環状脂肪族基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ビシクロ[2,2,1]ヘプチル基およびアダマンチル基などが挙げられる。前記芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フェノキシフェニル基、芳香族環が4個以上の多環式芳香族基、フルオレニル基、ジフェニルフルオレニル基およびビフェニル基などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記有機基中の水素原子は、フッ素原子、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基およびフェニル基などで置換されていても良い。
【0033】
前記籠型構造化合物における籠型構造とは、アダマンタン構造を最小単位とする構造を有するものであり、このような籠型構造として、アダマンタン構造、ポリアマンタン構造、ポリアダマンタン構造、ポリ(ポリアマンタン)構造が挙げられ、このような籠型構造を有することにより、より低誘電率の樹脂膜を得ることができる。前記籠型構造を有する基としては、例えば、アダマンタン構造として、アダマンチル基;ポリアマンタン構造として、ジアマンチル基、トリアマンチル基、テトラマンチル基、ペンタマンチル基、ヘキサマンチル基、ヘプタマンチル基、オクタマンチル基、ノナマンチル基、デカマンチル基及びウンデカマンチル基など(脂肪族)多環式骨格構造を有する基が挙げられ、更には、前記多環式骨格構造を有する基を複数個有する基などが挙げられる。
【0034】
前記多環式骨格構造を有する基を複数個有する基としては、ポリ構造を有する基などが挙げられるが、ポリアダマンタン構造として、前記多環式骨格構造を有する基としてアダマンチル基の場合、例えば、ジ(1,3−アダマンタン)基及びジ(2,2−アダマンタン)基などのビアダマンチル基、トリ(1,3−アダマンタン)基及びトリ(2,2−アダマンタン)基などのトリアダマンチル基、テトラ(1,3−アダマンタン)基及びテトラ(2,2−アダマンタン)基などのテトラアダマンチル基、ペンタ(1,3−アダマンタン)基及びペンタ(2,2−アダマンタン)基などのペンタアダマンチル基、ヘプタ(1,3−アダマンタン)基及びヘプタ(2,2−アダマンタン)基などのヘプタアダマンチル基、ヘキサアダマンチル基、オクタアダマンチル基、ノナアダマンチル基、デカアダマンチル基、ウンデカアダマンチル基などや、更にアダマンチル基の個数の多いポリアダマンタン構造を有する基などが挙げられる。
【0035】
また、前記多環式骨格構造を有する基としてアダマンチル基以外の基の場合、前記ポリアダマンタン構造を有する基において、該アダマンチル基を前記ポリアマンタン構造に置換したポリ(ポリアマンタン)構造を有する基が挙げられ、例えば、ジ−(ジアマンタン)基、トリ−(ジアマンタン)基、テトラ−(ジアマンタン)基、ペンタ−(ジアマンタン)基、ヘキサ−(ジアマンタン)基、ヘプタ−(ジアマンタン)基、オクタ−(ジアマンタン)基、ノナ−(ジアマンタン)基、デカ−(ジアマンタン)基及びウンデカ−(ジアマンタン)基、などのジアマンタン基を複数個有する基、ジ−(トリアマンタン)基、トリ−(トリアマンタン)基、テトラ−(トリアマンタン)基、ペンタ−(トリアマンタン)基、ヘキサ−(トリアマンタン)基、ヘプタ−(トリアマンタン)基、オクタ−(トリアマンタン)基、ノナ−(トリアマンタン)基、デカ−(トリアマンタン)基及びウンデカ−(トリアマンタン)基、などのトリアマンタン基を複数個有する基、ジ−(テトラアマンタン)基、トリ−(テトラアマンタン)基、テトラ−(テトラアマンタン)基、ペンタ−(テトラアマンタン)基、ヘキサ−(テトラアマンタン)基、ヘプタ−(テトラアマンタン)基、オクタ−(テトラアマンタン)基、ノナ−(テトラアマンタン)基、デカ−(テトラアマンタン)基及びウンデカ−(テトラアマンタン)基、などのテトラアマンタン基を複数個有する基、などが挙げられる。
【0036】
アダマンタン構造及びポリアマンタン構造上の水素は、炭素数1以上20以下のアルキル基を有していてもよく、そのようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基などが挙げられ、この中でも、メチル基及びエチル基がより好ましい。アダマンタン構造に、アルキル基を導入することで、有機溶媒への溶解性及び耐熱性を向上させることができる。
【0037】
本発明に用いる重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物としては、前記重合性不飽和結合を含む基と前記籠型構造を有する化合物であり、前記籠型構造を、主鎖、側鎖又は主鎖と側鎖の両方に有するものが挙げられ、また、前記重合性不飽和結合を含む基は、前記籠型構造に直接結合していても良く、前記籠型構造とは別の基に結合していても良い。
【0038】
前記重合性不飽和結合を含む基は1つ以上であれば良いが、2から4つであることが好ましい。
前記籠型化合物として好ましくは、例えば、一般式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】

式(1)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1または2以上の基を示すが、具体例としては、上記重合性不飽和結合を含む基である。また、Rは、それぞれ、アダマンタン構造又はポリアマンタン構造を有する基を示すが、前記アダマンタン構造又はポリアマンタン構造を有する多環式骨格構造を有する基が挙げられ、各単位ごとに独立しても良いし、同じであっても良い。mは1又は2以上の整数であり、mは9以下が好ましく、更に溶解性の点から3以下が好ましい。
【0040】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物の中でも、下記一般式(2)で表されるポリアダマンタン化合物が、耐熱性の点で好ましい。
【0041】
【化2】

式(2)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1または2以上の基を示すが、具体例としては上記重合性不飽和結合を含む基である。R〜Rは、それぞれ、水素又は有機基を示すが、各単位ごとに独立しても良いし、同じであっても良い。n1は前記一般式(1)におけるmと同じである。
【0042】
前記一般式(2)おけるR〜Rとしての有機基としては、脂肪族基および芳香族基などが挙げられ、前記脂肪族としては、鎖状脂肪族基および環状脂肪族基などが挙げられ、前記鎖状脂肪族基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびヘキシル基などが挙げられ、前記環状脂肪族基の具体例としては、シクロヘキシル基、ビシクロ[2,2,1]ヘプチル基およびアダマンチル基などが挙げられる。前記芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、芳香族環が4個以上の多環式芳香族基、フルオレニル基、ジフェニルフルオレニル基およびビフェニル基などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、前記鎖状脂肪族基、例えば、メチル基、エチル基であると、有機溶媒への溶解性及び耐熱性を向上させることができる。上記有機基中の水素原子は、フッ素原子、メチル基、メトキシ基及びトリフルオロメチル基などで置換されていても良い。また、R〜Rは、前記重合性不飽和結合を含む基であってもよい。
【0043】
前記一般式(2)で表される籠型構造化合物として、アダマンタン構造が複数の連なったアダマンタン骨格の具体例としては、1,1’−ビアダマンチル骨格、2,2’−ビアダマンチル骨格および1,2’−ビアダマンチル骨格などのビアダマンチル骨格、1,1’:3’,1’’−トリアダマンチル骨格、1,2’:5’,1’’−トリアダマンチル骨格、1,2’:4’,1’’−トリアダマンチル骨格および2,2’:4’,2’’−トリアダマンチル骨格などのトリアダマンチル骨格、1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトラアダマンチル骨格、1,2’:5’,1’’:3’’,1’’’−テトラアダマンチル骨格、1,2’:4’,1’’:3’’,1’’’−テトラアダマンチル骨格、1,1’:4’,1’’:4’’,1’’’−テトラアダマンチル骨格および1,1’:3’,1’’:3’’,2’’’−テトラアダマンチル骨格などのテトラアダマンチル骨格及び1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’:3’’’,1’’’’−ペンタアダマンチル骨格、1,1’:4’,1’’:3’’,1’’’:3’’’,1’’’’−ペンタアダマンチル骨格、1,1’:4’,1’’:4’’,1’’’:3’’’,1’’’’−ペンタアダマンチル骨格および1,1’:3’,1’’:4’’,2’’’:5’’’,1’’’’−ペンタアダマンチル骨格などのペンタアダマンチル骨格などが挙げられる。
その中でも、溶媒への溶解性などの面から考えると、ビアダマンチル骨格を有するビアダマンタン化合物が好ましい。さらに、ビアダマンチル骨格としては、1,1’−ビアダマンチル骨格、2,2’−ビアダマンチル骨格および1,2’−ビアダマンチル骨格を有するものが挙げられ、より耐熱性安定性を有する有機絶縁膜を得る上で、好ましくは、1,1’−ビアダマンチル骨格が望ましい。
【0044】
前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の重合反応については、特に限定されることはなく、公知の重合方法を適用することが可能である。
【0045】
前記重合方法としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシド及びアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いたラジカル重合による方法、光照射等を用いた光ラジカル重合による方法、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロリド及びテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0)などのパラジウム触媒を用いた重合による方法、触媒を用いないで加熱して反応させる熱重合による方法、酢酸銅(II)などの遷移触媒を用いた重合による方法、塩化モリブデン(V)、塩化タングステン(VI)及び塩化タンタル(V)などの遷移金属塩化物を用いた重合による方法などを挙げることができる。これらの中でも、反応を制御しやすく所望の重合体が得られ、また、触媒等の残存による不純物除去が不要なことから、熱重合による方法が望ましい。
【0046】
反応条件としては、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の構造により、適宜変更すれば良い。特に、反応性基が炭素−炭素不飽和結合の場合、反応温度としては、通常、50℃以上500℃以下程度である。熱重合を行う際には、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物は有機溶剤中に溶解している方が望ましい。有機溶剤中の重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の濃度としては、通常、1質量%以上50質量%以下程度である。反応温度および反応時の重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の濃度は、前記範囲外でも使用できるが、それぞれ高すぎると分子量が大きくなり、有機溶剤への不溶化を引き起こす恐れがある。
【0047】
前記重合反応における有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール及び2−ブタノール等のアルコール系溶剤、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、2−ペンタノン及び2−ヘプタノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソアミル、γ−ブチロラクトン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、エトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン及びジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン及びプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、その他、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等が溶剤とし好適であり、これらは単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0048】
これらの重合反応は、通常、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の一部又は全部が反応することにより進行する。
このようにして得られる重合体は、前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物において、重合性不飽和結合同士が反応して生成した不飽和結合、あるいは前記重合性不飽和結合同士が反応して生成した不飽和結合及び未反応の不飽和結合を有するプレポリマーであることが好ましい。
【0049】
本発明において、籠型構造化合物のプレポリマーとすることで籠型構造を中心に分岐架橋構造が形成され、分子鎖の凝集を防ぐことが可能になる。これにより、分子密度が疎になり、内部にナノ空孔構造が形成され、ナノ空孔構造を埋めてしまうような低分子成分を5%以下含めば、ナノ空孔構造が保持された膜ができると推察される。このことは密度低下からも示唆される。ナノ空孔構造を埋めてしまうような低分子成分を少なくすることにより、より低密度化され、密度の低下により、より低誘電率化を達成することができる。
【0050】
このような重合体の具体例として、重合性不飽和結合基を含む基がエチニル基の場合、一般式(1)において、末端の重合性不飽和結合基を含む基をエチニル基とした以外の部位をZとし簡略化した化学式により重合体の説明をすると、重合反応により、重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物がとり得る構造は、例えば、下記式(化9)に示された構造の繰り返し単位を有するものが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0051】
【化9】

【0052】
上記式(化9)で示した例においては、上記一般式(1)で表される化合物における1つないし2つの炭素−炭素三重結合を含む基の炭素−炭素三重結合が反応した例を示したが、さらに複数の炭素−炭素三重結合を含む基の炭素−炭素三重結合が反応してもよい。
また、前記重合反応により得られたプレポリマーは、樹脂膜製造時の架橋反応による耐熱性、弾性率向上のため、また有機溶剤への溶解性向上のため、(化9)の中に示されるように未反応の炭素−炭素三重結合が部分的に残るように残存させておくことがより望ましい。前記プレポリマーにおける未反応の不飽和結合の残存率としては、20%以上、80%以下であることがより好ましい。
【0053】
このようにして得られる重合体は、オリゴマーであってもポリマー状であっても良いが、そのゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した分子量ピークにおいて、重合体を検出するピークPのピーク面積Apと残存モノマーを検出するピークMのピーク面積Amを足し合わせたピーク全面積(Ap+Am)に対して、前記分子量ピークの内、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される領域におけるピークLのピーク面積Alの割合が0〜5%以下であり、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。ナノ空孔構造を埋めてしまうような上記低分子成分を、より少なくすることで、より多くのナノ空孔構造が保持された膜ができると推察される。これにより膜の密度低下が生じ、低誘電率化が期待される。
ここで、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量ピークの定義を図1に示す。
【0054】
ピークPは、ポリスチレン換算の数平均分子量が9,000以上500,000以下であり、好ましい下限値は10,000であり、好ましい上限値は400,000である。また、より好ましい下限値は15,000、より好ましい上限値は200,000である。前記数平均分子量の上限値を超えると、有機溶剤への不溶化を引き起こす可能性がある。前記数平均分子量の下限値を下回ると、低分子成分の増加に由来すると推察される誘電率の上昇及び塗布膜作製時に外観不良を引き起こす可能性がある。
【0055】
また、ピークPは、ポリスチレン換算の重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。Mw/Mnが小さいほど、分子量分布が狭くなり、ろ過性に優れる。
【0056】
また、本発明において、残存モノマーを検出するピークMのピークトップは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1500に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出されることが好ましい。これにより、上記重合体の換算分子量を重合時に制御しやすくなる。
【0057】
このようにするには、重合体を前記ピーク面積Alの面積が0〜5%以下になるように重合する方法でもよいが、重合終了段階で前記ピーク面積Alの面積が5%を超えている場合は、前記重量平均分子量9000未満の成分を除去することで、面積比を調整することもできる。
【0058】
この除去方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、前記重量平均分子量9000未満の成分の揮発性が高い場合は蒸留操作によって除去できる。
また、得られる重合体と前記重量平均分子量9000未満の成分の溶解度とに差がある場合は、その溶解度差を利用して再沈精製に代表される沈殿分別法等の処理により除去することができる。
また、分子量差を利用した、遠心分離法や、分子ふるい、もしくは限外ろ過などに代表される膜分離法による除去も可能である。
これらの中でも、溶解度差を利用する方法が簡便であり、中でも沈殿分別法が好ましい。
沈殿分別法に使用される良溶媒と貧溶媒の組み合わせは、重合に用いる化合物及びその重合体によって、重合前に適宜予備実験等を行って決定することができる。
【0059】
良溶媒としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルムおよび四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサン等のエーテル類;などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素類やエーテル類は、ハロゲンを含まない点で好ましく、さらにはエーテル類がより好ましい。
【0060】
貧溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エトキシエタノールおよび3−メトキシプロパノール等のアルコール類;アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘプタノンおよび3−ヘプタノン等のケトン類;n−ヘキサン、シクロヘキサンおよびn−ヘプタン等の炭化水素類;などが挙げられる。これらの中では、揮発性の低いアルコール類およびケトン類が好ましく、さらには溶解性の低いアルコール類が好ましいが、分離したい重合体と化合物により、良溶媒及び貧溶媒を選択することが望ましい。
【0061】
また、この分離操作の過程において、大気中の酸素等が系中に混入し、重合体が更に反応することで、分子量が増大することもあるが、分離操作後の重合体について前記ピーク面積Alの面積が0〜5%以下であればよい。
【0062】
本発明に用いる樹脂組成物は、上記で得た重合体を含むものである。
本発明の樹脂組成物は、上記で得た重合体を含むものであり、一般的には、後述するように、樹脂膜用ワニスとして、支持体上に塗布することによって、樹脂膜を形成することから、該重合体を溶解又は分散させる溶媒を含むことができる。樹脂膜用ワニスにするにあたっては、上記で得た重合体を有機溶剤に溶解させて樹脂膜用ワニスとしてもよいし、前記重合体を製造する際に得られた反応溶液を、直接、樹脂膜用ワニスとして用いてもよいし、また、反応溶液に別の有機溶剤を混合してもよい。
【0063】
樹脂膜用ワニスに用いる有機溶媒としては、前記重合体を溶解又は分散させることができるものであれば、特に限定されない。
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール及び2−ブタノール等のアルコール系溶媒;アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン及び2−ヘプタノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール及び1,3−ジメトキシベンゼンなどのエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン及びプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;などが、工業的に入手可能であるため溶媒とし好適であるが、これらに限定されない。また、これらは単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0064】
樹脂膜用ワニスにおける重合体の濃度としては、前記重合体の構造や分子量により、適宜決めればよいが、樹脂膜用ワニス中に、前記重合体が、0.1質量%から50質量%が好ましく、さらには0.5質量%から15質量%がより好ましい。
【0065】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、界面活性剤、シランカップリング剤に代表されるカップリング剤等の密着促進剤、加熱により酸素ラジカルや硫黄ラジカルを発生するラジカル開始剤、ジスルフィド類などの触媒類などの添加剤を含んでいても良い。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、実質的に空孔形成剤を含まなくとも、樹脂膜の誘電率を低減できるが、本発明の効果に影響しない範囲で、空孔形成剤を用いることができる。
前記空孔形成剤としては、例えば、中空構造を有するカーボンナノチューブやフラーレン、籠型シルセスキオキサン、シクロデキストリン、融点の高い有機化合物、界面活性剤、アゾビス化合物、有機過酸化物、ポリアミドアミン構造などからなるデンドリマー、ポリメタクリル酸系ハイパーブランチポリマー等が挙げられる。これらの中でも、界面活性剤又はハイパーブランチポリマーが好ましい。これにより、空孔形成剤を、樹脂組成物中に、均一に分散することが可能となる。空孔形成剤を均一に分散できると、更に加熱、抽出処理により、均一に微細孔を有する樹脂膜を得ることができる。
【0067】
かかる樹脂組成物を用いてナノフォームを形成して樹脂膜を得た場合に、樹脂膜の架橋密度を上げることができれば、ナノフォームが凝集等することなく、その形状を保持することが可能となり、樹脂膜の誘電率を更に低下することができる。
【0068】
次に、樹脂膜について説明する。
本発明の樹脂膜は、前記樹脂組成物を用いて得られるが、例えば、上記のように、樹脂組成物を樹脂膜用ワニスとして、基板などの支持体に塗布し、これを、加熱や活性エネルギー線照射などの処理をすることで製造できる。また、樹脂組成物を加熱して溶解して、支持体に塗布して製造しても良い。
【0069】
本発明の樹脂膜の製造方法について、前記樹脂膜用ワニスを用いる場合の具体例を説明すると、まず、前記樹脂膜用ワニスを、適当な支持体、例えば、ポリエステルフィルムなどの有機基材、銅箔などの金属板、シリコンウエハーやセラミック基板などの半導体基板等の基材に、塗布して塗膜を形成する。塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等の方法が挙げられる。その後、塗膜を乾燥し、加熱等の処理をして、溶媒除去に続いて、加熱による方法や活性エネルギー線を照射する方法、これら両方の方法を用いる方法などにより、架橋反応させて、機械特性に優れる樹脂膜とすることができる。
【0070】
前記加熱による方法においては、例えば、ホットプレート等の熱板、ファーネス炉、オーブン及び減圧オーブン等により、150〜425℃×5分〜24時間で加熱して行うことができる。前記活性エネルギー線としては、可視光、紫外光、赤外光及びレーザー光等の活性エネルギー光線、X線、電子線ならびにマイクロ波などが挙げられる。
これら活性エネルギー線を照射する際には、同時に加熱を行っても、加熱と別に行ってもよい。加熱および活性エネルギー線を照射するにあたっては、特に制限はないが、絶縁膜の酸化を抑制するために、雰囲気中における酸素などの酸化性ガスの濃度を1%以下、好ましくは100ppm以下とすることが好ましい。
【0071】
本発明の樹脂膜は、上記方法により、半導体基板などの基板に直接塗布して形成しても良いし、有機基材などの支持体に形成した樹脂膜を、該支持体より剥離することにより、ドライフィルムとして使用することもできる。
また、基板などの支持体と樹脂膜の密着性を高めるために、基板上に密着促進剤により密着促進剤層を形成後、その上に樹脂膜を形成しても良い。
【0072】
前記樹脂膜は、例えば、半導体用の層間絶縁膜や表面保護膜、多層回路の層間絶縁膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜、エッチング保護膜、接着剤等として用いることができる。これらの中でも、半導体用の層間絶縁膜及び表面保護膜、エッチング保護膜として好適に用いられる。
【0073】
前記樹脂膜の厚さは、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜などにおいては、0.01〜20μmが好ましく、特に0.02〜10μmが好ましく、0.05〜0.7μmが最も好ましい。厚さが前記範囲内であると、半導体の製造プロセス適合性に優れる。
前記保護膜の厚さは、特に限定されないが、0.01〜70μmが好ましく、特に0.2〜50μmが好ましい。厚さが前記範囲内であると、特に半導体素子の保護特性及び加工性の両方に優れる。
【0074】
前記樹脂膜を、半導体用層間絶縁膜として用いる場合、例えば、前記樹脂膜用ワニスを、シリコンウエハーやセラミック基板等の所定の位置に直接塗布して塗膜を形成する。塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等による方法が挙げられる。その後、塗膜を乾燥し、溶媒を除去し、上記同様に加熱による方法や活性エネルギー線を照射する方法、これら両方の方法を用いる方法などにより架橋反応させて、層間絶縁膜とすることができる。また、予め前記樹脂膜用ワニスを用いてドライフィルムとし、これを所定の位置に積層しても良い。
【0075】
また、前記樹脂膜を前記半導体用の保護膜として用いる場合も、前記半導体用層間絶縁膜同様に、前記樹脂膜用ワニスを、シリコンウエハーやセラミック基板等の所定の位置に直接塗布する。塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等の方法が挙げられる。その後、塗膜を乾燥し、溶媒を除去し、上記同様に加熱による方法や活性エネルギー線を照射する方法、これら両方の方法用いる方法などにより架橋反応させて、前記樹脂膜で構成される保護膜とすることができる。
【0076】
本発明において得られた上記樹脂膜は、図2に示すように、陽電子消滅寿命測定法で測定して得られる空孔サイズに対応した陽電子消滅寿命の第1ピークトップ(A)が、1nm以上の領域にあることを特徴とする。
ここで、第1ピークトップとは、後述する他のピークトップと明確に区別するためのものであり、第1番目のピーク等とは異なる意味である。これにより、樹脂膜を構成する樹脂構造の内部にナノレベルの空孔を多数形成することができ、それによって樹脂膜の誘電率を低下することができる。
【0077】
さらに、空孔サイズの第2ピークトップ(B)が、1nm未満の領域に存在するものである。1nm未満の空孔サイズは骨格由来のピークであり、必ず出現するピークである。
【0078】
また、前記第1ピークトップ(A)の強度は、特に限定されないが、前記第2ピークトップ(B)の強度よりも強いことが好ましい。これにより、ナノレベルの空孔を多く有することができ、誘電率の低減を実現することができる。
【0079】
前記第1ピークトップ(A)における空孔サイズは1nm以上、3nm以下であることが好ましく、1.1nm以上、2.7nm以下であることが好ましく、1.2nm以上、2.4nm以下であることがより好ましい。第1ピークトップ(A)における陽電子消滅寿命が前記範囲内であると、誘電率の低減と機械的強度保持のバランスに優れる。
【0080】
また、前記樹脂膜について、陽電子消滅寿命測定法で測定して得られるスペクトルを、陽電子消滅寿命解析プログラムで解析処理して得られる全空孔に対する、ナノレベル空孔成分の占める割合に相当するI4(%)項が、特に限定されないが、5〜40%であることが好ましく、特に10〜30%であることが好ましい。I4(%)項が前記範囲内であると、特に誘電率の低減と機械的強度保持のバランスに優れる。
【0081】
ここで、前記陽電子消滅寿命は、例えば陽電子・ポジトロニウム寿命測定・ナノ空孔計測装置(フジ・インバック株式会社製)を用いて、陽電子が消滅する際に発生する電磁波(消滅γ線)を測定することで求めることができ、得られた陽電子消滅寿命スペクトルを、解析プログラムを用いて、逆ラプラス変換処理することで、空孔サイズ分布を得ることができる。
なお、測定に際しては、上述の樹脂膜用ワニスを、スピンコート法により、シリコンウエハー上に塗布し、さらに硬化処理することで作製した厚さ300nmの膜を用いた。
【0082】
本発明において得られた前記樹脂膜の密度は、好ましくは0.7以上、1.0以下であり、より好ましくは0.75以上、0.95以下であり、さらに好ましくは0.8以上、0.9以下である。前記密度の範囲外でも用いることができるが、前記密度の上限値を超えると樹脂膜中に含まれる空孔量が少なくなり、誘電率が低減しない可能性がある。前記密度の下限値を下回ると、機械的強度が弱くなり、前記樹脂膜を具備する半導体装置を作製する過程で樹脂膜にクラックが生じる可能性がある。
【0083】
上記樹脂膜の密度は、X線反射率測定法により求めることができる。樹脂膜に対し、極低角度、例えば、0.2度〜2度の範囲で、X線照射を行い、その反射率を測定し、得られた反射率曲線を、フレネルの式より求められる膜試料の反射率の式にフィッティングすることにより、樹脂膜の密度を求めることができる。
【0084】
次に、本発明は、上記で得た樹脂膜を具備する半導体装置であり、半導体装置の好適な実施形態について、図3に基づいて説明する。但し、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0085】
図3は、本発明の半導体装置の一例を模式的に示す断面図である。
半導体装置100は、素子が形成された半導体基板1と、半導体基板1の上側(図3上側)に設けられた配線構造から構成されている。トランジスタ等の素子を作り込んだ半導体基板1に、まず1層目の層間絶縁膜2を形成する。この層間絶縁膜2には、上述の樹脂組成物より形成された樹脂膜(有機絶縁膜)あるいは化学気相堆積(CVD)法により形成した無機絶縁膜等が使用される。
層間絶縁膜2には、配線すべきパターンに対応した凹部が形成されており、その凹部の内部には銅配線層3が設けられている。
また、層間絶縁膜2と、銅配線層3との間には、バリアメタル層4を有していてもよい。層間絶縁膜2とバリアメタル層4もしくは層間絶縁膜2と銅配線層3との密着性を向上する目的で、例えば、配線溝の内面にプラズマ処理等により改質処理層を設けることがある。
また、層間絶縁膜2の上側(半導体基板1と反対側面)には、ハードマスク層5が形成されている。この1層目の配線の上部には、さらに配線層が形成され、上記と同様にして層間絶縁膜等が形成され多層配線構造とすることができる。
【0086】
前記半導体装置100の製造方法の一例としては、まず、シリコンウエハーにトランジスタ等のデバイスが作製された半導体基板1を用意し、その上に、層間絶縁膜2およびハードマスク層5を形成する。さらにその上にフォトレジスト層を形成し、ドライエッチングにより、層間絶縁膜2およびハードマスク層5からなる絶縁層の所定の位置に貫通した配線溝(凹部)を加工する。次に、この配線溝の内面に、PVD法やCVD法等の方法により、Ta、Ti、TaN、TiNおよびWN等で構成されるバリアメタル層4を形成する。さらに、電界メッキ法等により配線層となる銅配線層3を形成し、その後、CMP法により配線部以外の銅層およびバリアメタル層を研磨除去、平坦化することで前記半導体装置100を作製することができる。
さらに配線層を積層する場合にも、基本的に上記1層目の配線形成と同様な方法により形成することができる。
【0087】
層間絶縁膜2の形成方法としては、半導体基板1の上に、層間絶縁膜2を形成するための樹脂膜用ワニスを直接塗布して形成することができるが、予め層間絶縁膜2のドライフィルムを用意し、これを半導体基板1の上に積層するようにして層間絶縁膜2を形成することもできる。より具体的には、半導体基板1の上に、上記で得た樹脂膜用ワニスを直接塗布して塗膜を形成し、加熱および/または活性エネルギー線を照射して硬化して形成することができる。ドライフィルムを用いる場合は、予め、上述の樹脂膜用ワニスを用いて、基材上に樹脂層を形成して乾燥して、ドライフィルムを形成し、これを、上記半導体基板1の上に、積層して、加熱および/または活性エネルギー線を照射して硬化して形成することができる。なお、層間絶縁膜を形成する位置はこれに限定されない。
【0088】
また、本実施の形態では、層間絶縁膜2を用いた半導体装置100について説明したが、本発明はこれに限定されない
本発明の半導体装置は、上述したような層間絶縁膜2を用いているので寸法精度に優れ、絶縁性を十分に発揮できるので、それにより接続信頼性が優れている。
また、上述したような層間絶縁膜2は、誘電特性に優れているので、配線遅延を低下することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0090】
[重合体の合成例]
(合成例1)
[1,7−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,5−ジメチルアダマンタンの合成]
200mlフラスコに、1,7−ジブロモ−3,5−ジメチルアダマンタン5.5g(17mmol)、臭化アルミニウム2.3g(9mol)およびm−ジブロモベンゼン100mlを仕込み、60℃で10時間撹拌した。冷却後、反応液を、濃塩酸10gを溶解させた氷水150gに添加し、撹拌後、水層を除去した。過剰のジブロモベンゼンを減圧蒸留で除去した後、残渣に塩化メチレン100mlを添加、溶解させ、水および食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別後、エバポレーターで塩化メチレンを濃縮し、メタノール100mlを加えて撹拌した。析出した結晶を濾別し、減圧乾燥させた。この結晶6.0gを200mlフラスコに仕込み、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム200mg、トリフェニルホスフィン400mg、よう化銅(I)180mgおよびトリエチルアミン100mlを加え、80℃まで昇温した。トリメチルシリルアセチレン6.7gを1時間かけて滴下し、80℃で4時間反応させた。冷却後、溶媒を留去し、残渣にジエチルエーテル200mlを加え、不溶塩を濾過した。濾液を1mol/L塩酸、飽和食塩水および水で洗浄し、エーテル層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別し、エーテルを留去し、残渣をカラムで精製した。生成物5.8gをメタノール150ml、テトラヒドロフラン100mlに溶解させ、炭酸カリウム0.5gを加え、室温で4時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣に塩化メチレン200ml、1mol/L塩酸100mlを加え、撹拌後、塩酸相を除去した。塩化メチレン層を純水100mlで3回洗浄し、塩化メチレン相から溶媒を留去し、残渣を減圧乾燥することで、1,7−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,5−ジメチルアダマンタン3.0g(7.3mmol:収率43%)を得た。
【0091】
[1,7−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,5−ジメチルアダマンタンの重合]
上記の操作を繰り返して得られた1,7−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,5−ジメチルアダマンタン5.0gを、アニソール45gに溶解させ、乾燥窒素雰囲気下155℃で18時間反応させ、反応液を10倍の体積のメタノールに滴下して沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥させて4.4gの重合体(A)を得た。
【0092】
(合成例2)
合成例1と同様の操作で得られた沈殿物から、更に分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてモノマーを取り除き、1.0gの重合体(B)を得た。
【0093】
(合成例3)
合成例1の重合において、メタノールをメタノール/テトラヒドロフラン=2/1混合溶媒にした以外は合成例1の重合と同様の操作により4.2gの重合体(C)を得た。
【0094】
(合成例4)
合成例1の重合において、メタノールをメタノール/ジオキサン=4/3混合溶媒にした以外は合成例1の重合と同様の操作により3.8gの重合体(D)を得た。
【0095】
(合成例5)
[7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成]
1)3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成
温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の1000mLフラスコに、金属ナトリウム14g(0.6mol)とn−オクタン600mlを入れ、内温を0℃に冷やした。激しく撹拌しながら、n−オクタン300mlに予め溶解した1−ブロモ−3,5−ジメチルアダマンタン73.0g(0.3mol)を徐々に滴下した。滴下中、内温は、0℃〜5℃に保った。滴下終了後、温度が上昇しなくなったら、引き続き1時間反応を続けた。その後、冷水約1500mLに注いで、粗生成物を濾別し、純水で洗い、乾燥した。更に粗成生物を、熱ヘキサンにより、再結晶した。得られた再結晶物を、減圧乾燥することにより、生成物78.0g(0.24mol:収率80%)を得た。
赤外分光分析(IR)によりBr基の吸収(690−515cm−1付近)が消失し、質量分析による分子量が326である結果より、生成物が3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンであることが示された。
【0096】
2)7,7’−ジブロモ−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成
温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の2000mLフラスコに、四塩化炭素700mL、臭素35g(0.22mol)を入れ、撹拌しながら、上記で得た3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン65.3g(0.2mol)を、少量ずつ添加した。添加中、内温は20℃〜30℃に保った。添加終了後、温度が上昇しなくなったら、引き続き1時間反応を続けた。その後、冷水約2000mLに注いで、粗生成物を濾別し、純水で洗い、乾燥した。粗生成物を、熱エタノールにより再結晶した。得られた再結晶物を、減圧乾燥することにより、生成物64.9g(0.13mol:収率65%)を得た。
IR分析によりブロモ基の吸収が690〜515cm−1に見られること、質量分析による分子量が482である結果より、生成物が7,7’−ジブロモ−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンであることが示された。
【0097】
3)7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成
3Lナスフラスコに、上記で合成した7,7’−ジブロモ−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン48.4g(100mmol)、1,3−ジブロモベンゼン1180g(500mmol)および撹拌子を投入し、窒素気流下、室温で撹拌しながら、臭化アルミニウム(III)26.7g(100mmol)を少量ずつ添加した。添加終了後、50℃で7時間撹拌した。反応液を1mol/L塩酸水溶液2Lに投入し、水層を分液除去した後、アセトン1Lを加えて抽出した固体を濾過により回収し、減圧乾燥することで、7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン71.4g(89.9mmol;収率90%)を得た。
【0098】
4)7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成
次に、3Lナスフラスコに、上記で得た7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン39.7g(50.0mmol)、エチニルベンゼン40.9g(400mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム3.5g(5.0mmol)、ヨウ化銅(I)3.8g(20.0mmol)、トリフェニルホスフィン5.2g(20.0mmol)、トリエチルアミン1Lおよび攪拌子を投入し、窒素気流下、95℃で6時間攪拌した。反応液をアセトン1Lに投入し、析出固体を2mol/L塩酸水溶液1L、アセトン1Lで洗浄後、減圧乾燥させることで、生成物26.3g(29.9mmol:収率60%)を得た。
【0099】
以下に、上記で得られた生成物の外観、質量分析(MS)および元素分析の結果を示す。これらのデータは、得られた化合物が7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンであることを示している。
外観:白色固体
MS(FD)(m/z):878(M
元素分析:理論値(/%)C;92.89、H;7.11
実測値(/%)C;92.95、H;7.05
【0100】
[7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの重合]
上記で得られた7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gを、トルエン95gに溶解させ、塩化タンタル(V)0.5gを添加し、乾燥窒素下30℃で24時間反応させ、反応液を、10倍の体積のメタノールに滴下して沈殿物を集めて乾燥し、4.4gの重合体(E)を得た。
【0101】
(合成例6)
合成例5で得られた7,7’−ビス(3,5−ビス(フェニルエチニル)フェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gを、1,3−ジメトキシベンゼン45gに溶解させ、ビス(ベンゾ二トリル)パラジウム(II)ジクロリド0.1gを添加し、乾燥窒素下190℃で6時間反応させ、反応液を、10倍の体積のメタノールに滴下して沈殿物を集めて乾燥し、4.6gの重合体(F)を得た。
【0102】
(合成例7)
合成例5の重合において、メタノールをメタノール/ジオキサン=4/3の混合溶媒にした以外は合成例5の重合と同様の操作により3.8gの重合体(G)を得た。
【0103】
(合成例8)
合成例5の重合において、メタノールをメタノール/テトラヒドロフラン=1/1混合溶媒にした以外は合成例5の重合と同様の操作により2.9gの重合体(H)を得た。
【0104】
(合成例9)
[7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの合成]
1)合成例5−3)に記載した方法により、7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンを合成した。
次に、7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン50g(63mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム3.53g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン6.60g(25.2mmol)、ヨウ化銅(II)4.79g(25.2mmol)、トリエチルアミン750mlをフラスコに投入し、攪拌した。これを75℃に昇温した後、トリメチルシリルアセチレン37.1g(377.7mmol)をゆっくり添加した。これを75℃において7時間攪拌した後、120℃に昇温してトリエチルアミンを留去した。室温に戻し、ジクロロメタン1000mlを反応液に添加し、20分間攪拌した。反応液中の析出物をろ過により除去し、ろ液に5%塩酸水溶液1000mlを加えて分液した。分液により得られた有機層を水1000mlで3回洗浄した後、有機層の溶媒を減圧除去し化合物を得た。得られた化合物をヘキサン1500mlに溶解させ、不溶物をろ過により除去し、ろ液部のヘキサンを減圧除去した。これに、アセトン1000mlを投入し、析出物をアセトンで3回洗浄することにより、7,7’−ビス(3,5−ジトリメチルシリルエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン43g(50mmol:収率79%)を得た。
さらに、上記操作を繰り返して得られた7,7’−ビス(3,5−ジトリメチルシリルエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン47.5g(55mmol)と炭酸カリウム1.46g(10.6mmol)を、テトラヒドロフラン600mlおよびメタノール300ml混合溶媒中において、窒素雰囲気下、室温で4時間攪拌させた。これを10%塩酸水溶液1000mlに投入して、析出物をろ過し、得られた析出物を水1000mlで洗浄し、さらにアセトン1000mlで洗浄したのち乾燥させることにより、生成物21.2g(36.9mmol:収率67%)を得た。
以下に、上記で得られた生成物の外観、質量分析および元素分析の結果を示す。これらのデータは、得られた化合物が7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンであることを示している。
外観:白色固体
MS(FD)(m/z):574(M
元素分析:理論値(/%):C,91.93;H,8.07
実測値(/%):C,91.89;H,8.11
【0105】
[7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタンの重合]
上記で得られた7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gを、1,3−ジメトキシベンゼン45gに溶解させ、ビス(ベンゾ二トリル)パラジウム(II)ジクロリド0.1gを添加し、乾燥窒素下170℃で2時間反応させ、反応液を、10倍の体積のメタノール/テトラヒドロフラン=3/1に滴下して沈殿物を集めて乾燥し、3.9gの重合体(I)を得た。
【0106】
(合成例10)
合成例9で得られた7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gを、アニソール45gに溶解させ、乾燥窒素下155℃で18時間反応させ、反応液を、10倍の体積のメタノール/ジオキサン=3/2の混合溶媒に滴下して沈殿物を集めて乾燥し、3.6gの重合体(J)を得た。
【0107】
(合成例11)
[9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタンの合成]
1)4,4’−ビ(ジアマンタン)の合成
温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の500mLフラスコに、金属ナトリウム14g(0.6mol)とn−オクタン600mlを入れ、内温を0℃に冷やした。激しく撹拌しながら、n−オクタン300mlに予め溶解した4−ブロモジアマンタン80.2g(0.3mol)を徐々に滴下した。滴下中、内温は、0℃〜5℃に保った。滴下終了後、温度が上昇しなくなったら、引き続き1時間反応を続けた。その後、冷水約1500mLに注いで、粗生成物を濾別し、純水で洗い、乾燥した。更に粗生成物を、熱ヘキサンにより、再結晶した。得られた再結晶物を、減圧乾燥することにより、生成物78.6g(0.21mol:収率70%)を得た。
IR分析によりBr基の吸収(690−515cm−1付近)が消失し、分子量が374である質量分析の結果により、生成物が4,4’−ビ(ジアマンタン)であることが示された。
【0108】
2)9,9’−ジブロモ−4,4’−ビジアマンタンの合成
上記で得た4,4’−ビ(ジアマンタン)74.9g(0.2mmol)を、合成例5−2)と同様な方法で反応させることにより、9,9’−ジブロモ−4,4’−ビジアマンタン63.9g(0.12mol:収率60%)を得た。
IR分析によりブロモ基の吸収が690〜515cm−1に見られること、質量分析による分子量が530である結果より、生成物が9,9’−ジブロモ−4,4’−ビジアマンタンであることが示された。
【0109】
3)9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタンの合成
上記で得た9,9’−ジブロモ−4,4’−ビジアマンタン40g(75mmol)を、合成例9−1)と同様な方法で反応させることにより、9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタン21.8g(35mmol:収率47%)を合成した。
以下に、生成物の外観、質量分析および元素分析の結果を示す。これらのデータは、得られた化合物が9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタンであることを示している。
外観:白色固体
MS(FD)(m/z):622(M
元素分析:理論値(/%):C;92.56、H;7.44
実測値(/%):C;92.68、H;7.32
【0110】
[9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタンの重合]
合成例10の重合において、7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gに代えて、上記で得た9,9’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−4,4’−ビジアマンタン5.0gを用いた以外は、合成例10の重合と同様な方法で反応させることにより3.8gの重合体(K)を得た。
【0111】
(合成例12)
[3,3’’’−ジメチルエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタンの合成]
1)フラスコ内で、3,3’’’−ジブロモ−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン56.5g(70mmol)およびブロモエテン18ml(256mmol)をジクロロメタン240mlに溶解させ、乾燥窒素下−15℃において、塩化アルミニウム(III)3.0g(22mmol)を滴下し、これを1時間攪拌した。さらに、−15℃において、水40mlを滴下した後、室温に戻し、反応液を得た。10%塩酸水溶液400mlに、反応液を投入し、ジクロロメタン80mlずつを用いて、3回抽出、水80mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を濃縮して、3,3’’’−ビス(ジブロモエチル)−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン49.8g(49mmol:収率70%)を得た。
IR分析によりブロモ基の吸収が690〜515cm−1に見られること、質量分析による分子量が1018である結果より、生成物が3,3’’’ −ビス(ジブロモエチル)−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタンであることが示された。
【0112】
2)さらに、上記得られた3,3’’’−ビス(ジブロモエチル)−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン49.8g(49mmol)をジメチルスルホキシド400mlに溶解させ、カリウムtert−ブトキシド28g(250mmol)を室温で添加し、これを48時間攪拌した。さらに、800mlの水に反応液を投入し、ジクロロメタン400mlずつを用いて、3回抽出、水400mlで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を濃縮して、3,3’’’−ジエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン30.8g(44mmol:収率90%)を得た。
【0113】
3)上記で得られた3,3’’’−ジエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン30.8g(44mmol)およびヨウ化メチル22.7g(160mmol)をトリエチルアミン80mlおよびピリジン40mlに溶解させ、ヨウ化銅(II)0.124g(0.66mmol)およびトリフェニルホスフィン0.48g(1.82mmol)を添加した。さらに、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)0.116g(0.164mmol)を添加し、乾燥窒素雰囲気下110℃で5時間反応させた。反応後、トリエチルアミンとピリジンを留去し、2mol/L塩酸水溶液1000mlを加えることにより、沈殿物を析出させた。沈殿物を濾過し、水1000mlとメタノール1000mlで洗浄し、真空乾燥機を用いて60℃の雰囲気で24時間乾燥させることにより、3,3’’’−ジメチルエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン27.1g(38mmol:収率86%)を得た。
以下に、生成物の外観、質量分析および元素分析の結果を示す。これらのデータは、得られた化合物が3,3’’’−ジメチルエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタンであることを示している。
外観:白色固体
MS(FD)(m/z):727(M
元素分析:理論値(/%):C;89.19、H;10.81
実測値(/%):C;89.25、H;10.75
【0114】
[3,3’’’−ジメチルエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタンの重合]
合成例10の重合において、7,7’−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)−3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビアダマンタン5.0gに代えて、上記で得た3,3’’’−ジメチルエチニル−5,7,5’,7’,5’’,7’’,5’’’,7’’’−オクタメチル−1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’−テトアラダマンタン5.0gを用いた以外は、合成例10の重合と同様な方法で反応させることにより3.7gの重合体(L)を得た。
【0115】
上記合成例で得られた重合体について、下記分子量分布の測定方法により評価を行った結果を表1に示す。
【0116】
分子量分布の測定は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC)装置(東ソー株式会社製、HLC−8220GPC)を用い、また、カラムとして、TSKgel GMHXL(ポリスチレン換算排除限界4x10(推定))x2本及びTSKgel G2000HXL(ポリスチレン換算排除限界1x10)x2本を直列接続して、検出器として、屈折率計(RI)又は紫外・可視検出器(UV(254nm))を用いて、下記条件により、上記重合体の分子量について、RI又はUVで得られた結果を解析した。
測定条件としては、移動相:テトラヒドロフラン、温度:40℃、流量:1.00mL/min、試料濃度:0.1wt%テトラヒドロフラン溶液とした。
【0117】
【表1】

【0118】
[樹脂膜の製造]
(実施例1)
上述の合成例3で得た重合体(C)3gを、シクロペンタノン27gに溶解させ、孔径0.05μmのフィルターでろ過することで樹脂膜用ワニスとした。この樹脂膜用ワニスを用いて、スピンコーターにより、シリコンウエハー上に塗布した。この際、熱処理後の樹脂膜の厚さが約0.3μmとなるように、スピンコーターの回転数と時間を設定した。塗布後に200℃のホットプレート上で1分間乾燥。その後、400℃のオーブン中で窒素雰囲気下30分間硬化することで、硬化性樹脂の樹脂膜(硬化膜)を得た。
【0119】
(実施例2〜8)
合成例4および7〜12で得られた重合体DおよびG〜Lについて、それぞれ、実施例1と同様の操作を行うことで硬化性樹脂の樹脂膜(硬化膜)を得た。
【0120】
(比較例1〜3)
合成例1、2、5で、それぞれ得られた重合体A、B、Eについて、実施例1と同様の操作を行うことで硬化性樹脂の樹脂膜(硬化膜)を得た。
【0121】
(比較例4)
合成例6で得られた重合体Fについて実施例1と同様の操作を行ったところシクロペンタノンに不溶であった為、評価できなかった。
【0122】
(比較例5)
上述の合成例1で得られた重合体(A)1.5gおよび空孔形成剤として重量平均分子量4000のポリスチレン(Aldrich製)1.5gをシクロペンタノン27gに溶解させた以外は実施例1と同様の操作を行うことで硬化性樹脂の樹脂膜(硬化膜)を得た。
【0123】
樹脂膜の評価
【0124】
各実施例および比較例で得られた樹脂膜について、膜厚、誘電率、空隙径、密度、ガラス転移温度及び弾性率のそれぞれの特性を、下記の評価方法により、評価を行った。
得られた結果を表2に示す。
【0125】
1.膜厚
膜厚は、n&kテクノロジー社製n&kアナライザー1500を用いて、波長633nmの光を照射して評価した。
【0126】
2.誘電率
誘電率は、日本エス・エス・エム(株)製、自動水銀プローブCV測定装置SSM495を用いて評価した。
【0127】
3.空隙径
空隙径は、陽電子消滅寿命測定法により評価した。
ここで、前記陽電子消滅寿命は、例えば陽電子・ポジトロニウム寿命測定・ナノ空孔計測装置(フジ・インバック株式会社製)を用いて、陽電子が消滅する際に発生する電磁波(消滅γ線)を測定することで求めることができ、得られたスペクトルを陽電子消滅寿命解析プログラムで逆ラプラス変換処理解析することにより空孔サイズ分布を得た。
【0128】
4.密度
密度はX線反射率測定法により評価した。
X線膜厚・構造評価装置(bede社製 BedeMetrixTM−L)を用いて、SAXS(小角X線散漫散乱測定)モード(測定波長0.154nm)において得られたX線反射率測定パターンを解析することにより求めた。
【0129】
5.ガラス転移温度(Tg)
Tgは、膜を削り取り、ティー・エイ・インスツルメント社製DSC−Q1000装置で評価した。測定温度範囲を、250℃〜450℃とし、昇温速度を2℃/分とした。ガラス転移温度の評価は、250℃〜450℃の温度範囲においてリバースヒートフローに変極点がないかを解析して求めた。
【0130】
6.弾性率
弾性率は、MST社製ナノインデンターで薄膜測定用プログラムを用いて、押し込み深さが膜厚の10分の1までの信号が安定した領域で評価した。
【0131】
【表2】

【0132】
表2から明らかなように、実施例1〜8の樹脂膜は、誘電率が低く、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れ、かつ弾性率が高く機械強度に優れていた。
【0133】
[半導体装置の製造]
次に、実施例3、6および比較例5で得られた樹脂膜を用いた半導体装置について、信号遅延の評価を行った。
半導体基板の上に窒化珪素層を形成し、該窒化珪素層上に、それぞれ実施例3、6および比較例5で得られた樹脂膜用ワニスを塗布して、400℃で30分間加熱処理して、厚さ0.1μmの層間絶縁膜を形成した。
次に、前記層間絶縁膜に、所定のパターンを形成するように、金属配線を形成して、半導体デバイスを得た。比較例5の樹脂膜を層間絶縁膜として用いた場合は、半導体装置作成の過程で膜にクラックが生じ、信号遅延の評価まで進めなかった。
また、この半導体デバイスと同様な構成でSiO絶縁膜を有する半導体デバイスとの配線遅延の程度を比較した。評価の基準には、リングオシュレータの発信周波数から換算して求めた信号遅延時間を採用した。両者を比較した結果、本発明で得られた半導体デバイスでは、SiO絶縁膜を有する半導体デバイスより配線遅延が少なく、平均して約25%の速度の向上があることが確認された。
実施例3および6で得られた絶縁膜を層間絶縁膜として用いた半導体デバイスは、層間絶縁膜の誘電率が低いので、信号遅延の低減効果に優れていた。
【符号の説明】
【0134】
1 半導体基板
2 層間絶縁膜
3 銅配線層
4 バリアメタル層
5 ハードマスク層
100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物の重合体を含み、樹脂膜を形成するために用いる樹脂組成物であって、
前記重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した分子量ピークにおいて、重合体を検出するピークPのピーク面積Apと残存モノマーを検出するピークMのピーク面積Amを足し合わせたピーク全面積(Ap+Am)に対して、前記分子量ピークの内、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される領域におけるピークLのピーク面積Alの割合が0〜5%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記ピークLのピーク面積Alの割合が0〜3%以下である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記重合体は、前記籠型構造化合物のプレポリマーである請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物は、下記式(1)で表される化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1又は2以上の基を示す。Rは、アダマンタン構造又はポリアマンタン構造を有する基を示すが、mが2以上である場合、それぞれ同一であっても、異なっていても良い。mは1又は2以上の整数である。)
【請求項5】
前記重合性不飽和結合を含む基と、アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造を有する籠型構造化合物は、下記式(2)で表される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、X及びYは、それぞれ、同一又は異なる重合性不飽和結合を含む1又は2以上の基を示す。R及びRは、それぞれ、水素又は有機基を示すが、nが2以上である場合、繰り返し単位毎に、同一であっても異なっていても良い。nは1又は2以上の整数である。)
【請求項6】
前記アダマンタン構造を最小単位とする籠型構造は、アダマンタン構造、ポリアマンタン構造又はポリアダマンタン構造である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記重合性不飽和結合を含む基は、炭素−炭素三重結合を含む基である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の数平均分子量が9,000以上500,000以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の数平均分子量が15,000以上200,000以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の重量平均分子量と数平均分子量の比である多分散度(Mw/Mn)が20以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記重合体を検出するピークPは、ポリスチレン換算の重量平均分子量と数平均分子量の比である多分散度(Mw/Mn)が10以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記残存モノマーを検出するピークMのピークトップは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1500に相当する溶出時間よりも遅い溶出時間で検出される請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂組成物は、これを用いて形成される樹脂膜において、陽電子消滅寿命測定法により測定して得られる陽電子消滅寿命に対応した空孔サイズの第1ピークトップが、1nm以上の領域にあるものである請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂膜は、さらに、空孔サイズの第2ピークトップが、1nm未満の領域に存在するものである請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記第1ピークトップの強度が、前記第2ピークトップの強度よりも強いものである請求項14に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記第1ピークトップにおける空孔サイズが、1nm以上、3nm以下である請求項13〜15のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
前記樹脂膜の密度が、0.7以上、1.0以下である請求項1〜16のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
前記樹脂組成物は、実質的に空孔形成剤を含まないものである請求項1〜17のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて塗布して形成された塗膜を、加熱、活性エネルギー線、又は加熱と活性エネルギー線照射により架橋反応させて得られる樹脂膜。
【請求項20】
請求項19に記載の樹脂膜を具備する、半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256631(P2009−256631A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64425(P2009−64425)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】