説明

樹脂組成物およびその製造方法、ならびに、転がりおよびすべり軸受

【課題】転がり軸受に使われる射出成形体である冠型樹脂製保持器および樹脂製シール、ならびに樹脂製すべり軸受等の射出成形時の流動性を確保しながら、軸受部材として使用できる機械的強度および靭性を高める。
【解決手段】成形体として軸受部材に用いられるものであり、ポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂にポリカルボジイミドを配合してなり、ポリアミド樹脂がポリアミド66樹脂およびポリアミド11樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、ポリエステル樹脂がポリトリメチレンテレフタレート樹脂であり、ポリカルボジイミドは、樹脂組成物全体に対して0.5〜6重量%配合されており、冠型樹脂製保持器1はこの樹脂組成物を射出成形して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物およびその製造方法、ならびに、転がりおよびすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製保持器を組み込んだ転がり軸受を高速回転させる場合、高速回転によって発生する遠心力が保持器に作用する結果、保持器が変形する。保持器が変形すると保持器とこの保持器に保持されている玉との摩擦が大きくなり、転がり軸受のトルクが大きくなる。また、上記摩擦が大きくなることで、軸受の発熱を引き起こす原因となる。さらに、保持器が変形すると軸受外輪との接触も起こり、この接触による摩擦熱によって樹脂が溶融して転がり軸受が回転しなくなる場合がある。このように高速回転で使用される転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器は重要な軸受部材となる。
【0003】
このような転がり軸受の高速回転時の保持器の変形を抑えるためには、保持器に用いられる樹脂組成物の機械的強度や弾性率を大きくする必要がある。そのため、通常はガラス繊維など繊維状強化材の配合量を増やすことで対応している。
【0004】
ところで転がり軸受の1種である深溝玉軸受の樹脂製保持器には「冠型保持器」が用いられている。この冠型保持器は、射出成形による製造時に、玉を保持する空間を形成するための半球状の金型が成形直後の成形体の爪を押し広げて成形体を取り出す「無理抜き」が問題となることがある。このとき繊維状強化材の配合量が多く、曲げ強度と曲げ歪み(伸び)が小さい樹脂組成物、特にポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTという)樹脂組成物では無理抜き時の変形を許容できず、ポケット内径面にクラックや白化といった不具合が生じる場合がある。同様の課題が樹脂シールの成形時に生じることがあり、リップの無理抜き成形時には材料が自身の変形を許容できず、白化・クラックが生じて成形できないことがある。
【0005】
この無理抜き対策として、保持器形状を工夫し、無理抜き時の負荷を軽減した事例が報告されている(特許文献1参照)。しかし、このような形状の保持器では必ずしも保持器の設計を高強度にすることができず、また保持器形状で無理抜き負荷を低減することは軸受組み込み後の鋼球の保持力を小さくすることと同義であるため、好ましくない。このため、高い弾性率を持ちながらも、成形時の無理抜きを可能とするような高い伸び特性を同時に満たす樹脂材料が求められているが、これまでこのような樹脂材料は存在しなかった。
【0006】
一方、生分解性プラスチック材料にカルボジイミド化合物を配合することにより生分解速度を調節した生分解性プラスチック組成物が知られている(特許文献2参照)。
また、高温の酸性媒体中における加水分解に対する耐性を改良することを目的に、ポリアミド樹脂100質量部に対して、脂肪族または脂環式カルボジイミド0.01〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物が知られている(特許文献3参照)。
また、高温の酸性媒体中における加水分解に対する耐性と、耐油性および耐ハロゲン化金属塩性を改良することを目的に、ポリアミド樹脂に対し脂肪族カルボジイミド化合物を配合するポリアミド樹脂組成物が知られている(特許文献4参照)。
また、耐加水分解性と耐油性と耐熱エージング性に優れた熱可塑性共重合ポリエステル樹脂組成物の提供を目的に、熱可塑性共重合ポリエステル樹脂100重量部に対して、モノカルボジイミド化合物および/またはポリカルボジイミド化合物0.01〜10重量部を配合してなる熱可塑性共重合ポリエステル樹脂組成物が知られている(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながら、従来カルボジイミド化合物は、加水分解性などの化学的特性を改良することを目的に配合されており、カルボジイミド化合物を配合することにより、保持器形状などの無理抜き負荷を低減して、軸受部材として使用できるような高い弾性率と高い伸び特性を同時に満たす樹脂組成物が得られることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−215610号公報
【特許文献2】特許第3776578号
【特許文献3】特開2006−176597号公報
【特許文献4】特開平11−343408号公報
【特許文献5】特開2000−281887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、転がり軸受に使われる射出成形体である冠型樹脂製保持器および樹脂製シール、ならびに樹脂製すべり軸受等の射出成形時の流動性を確保しながら、軸受部材として使用できる機械的強度および靭性を高めることができる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、成形体として軸受部材に用いられるものであり、ポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂にポリカルボジイミドを配合してなり、上記ポリアミド樹脂がポリアミド66樹脂およびポリアミド11樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂(以下、PA樹脂という)であり、上記ポリエステル樹脂がPTT樹脂であり、上記ポリカルボジイミドは、樹脂組成物全体に対して0.5〜6重量%配合されていることを特徴とする。
また、上記樹脂組成物が繊維状補強材を含有することを特徴とする。該繊維状補強材の配合量は、樹脂組成物全体の5〜40重量%であり、また、該繊維状補強材は、ガラス繊維または炭素繊維であることを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、上記成形体が射出成形体であり、上記軸受部材が転がり軸受用冠型樹脂製保持器であることを特徴とする。また、上記軸受部材が転がり軸受用樹脂製シールであることを特徴とする。
【0011】
本発明の転がり軸受は、冠型樹脂製保持器および樹脂製シールの少なくとも1つの軸受部材を構成要素として含み、該軸受部材が上記樹脂組成物の成形体であることを特徴とする。
また、本発明のすべり軸受は、機械部品に用いられるすべり軸受であって、上記樹脂組成物の成形体であることを特徴とする。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記ポリアミド樹脂または上記ポリエステル樹脂の融点以上に加熱しながらポリカルボジイミドを溶融混練することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、PA樹脂またはPTT樹脂にポリカルボジイミドを配合してなる樹脂組成物であるので、優れた成形性を確保したまま、機械的強度と靭性を同時に向上させることができる。その結果、本発明の樹脂組成物より得られる射出成形体は、射出成形後の金型より取り出すときに無理抜きとなる、または、組み立て時や使用時にスナップフィットのような変形を伴う用途に好適に使用できる。例えば、複雑で薄肉形状の高強度の転がり軸受用冠型樹脂製保持器および転がり軸受用樹脂製シール、ならびに樹脂製すべり軸受が射出成形により製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】冠型樹脂製保持器の部分拡大斜視図である。
【図2】図1の冠型樹脂製保持器のポケットをX−X線で切断した一部断面図である。
【図3】樹脂製シールの切り欠き斜視図である。
【図4】グリース封入深溝玉軸受の断面図である。
【図5】本発明の樹脂製すべり軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の樹脂製すべり軸受の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明における摩擦摩耗試験の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂組成物より得られる射出成形体は、PA樹脂またはPTT樹脂にポリカルボジイミドを配合してなる樹脂組成物を射出成形して得られる。
【0015】
本発明に用いることができるポリアミド樹脂としては、ポリアミド66樹脂またはポリアミド11樹脂が挙げられる。また、他のエンジニアリングプラスチックやエラストマーとのポリマーアロイ材とすることができる。
【0016】
本発明に用いることができるPTT樹脂としては、テレフタル酸と1,3-プロパンジオールとの反応により得られるポリエステル構造を有するPTT樹脂であればどのようなものでもよい。具体的な商品名としてはデュポン社製;ソロナ、シェル社製;コルテラ等が挙げられる。また、他のエンジニアリングプラスチックやエラストマーとのポリマーアロイ材とすることができる。
【0017】
また、これらのPA樹脂またはPTT樹脂にはガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、鉱物繊維等の繊維状強化材を含んでもよい。繊維状強化材の中で、軸受材料の機械的強度を維持するためには、ガラス繊維または炭素繊維であることが好ましい。
ガラス繊維または炭素繊維の配合量としては保持器またはシールを成形可能な配合量ならどの程度でもよいが、樹脂組成物全体に対して、5重量%以上40重量%以下が好ましく、より好ましくはPA樹脂の場合は10重量%以上35重量%以下であり、PTT樹脂の場合は20重量%以上35重量%以下である。5重量%未満であると曲げ弾性率が小さく、高速回転時の変形が大きく、保持器が外輪との接触によって溶融する場合がある。40重量%より多い場合には、伸び特性が小さく、ポリカルボジイミドを添加しても、保持器の成形時に無理抜きによって白化等の問題が生じる可能性がある。
【0018】
本発明に使用できるポリカルボジイミドは、分子内にカルボジイミド構造を有する樹脂である。ポリカルボジイミドは、ポリイソシアナートと、分子量調節剤としてのモノイソシアネートとをカルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸縮合反応させることにより得られる。ポリイソシアナートとしては、有機ジイソシアナート類が好ましく、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。また、モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等を例示することができる。
【0019】
カルボジイミド化触媒としては、例えば、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、3−メチル−1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1,3−ジメチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−メチル−2−フォスフォレン−1−オキシドおよびこれらの二重結合異性体を例示することができ、これらの中で工業的に入手の容易な3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシドが好ましい。ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡績社製商品名のカルボジライトが挙げられる。
【0020】
ポリカルボジイミドの配合量としては樹脂組成物全体に対して、0.5重量%以上、6重量%以下、好ましくは、3重量%以上、6重量%以下である。0.5重量%未満では、成形体の機械的強度および伸び特性を十分に高めることができない。6重量%をこえると溶融時に粘着性が高く、成形時に金型に貼り付く成形不良となる、また、溶融粘度が高いために適切に混練や成形を実施できない場合がある。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、射出成形で得られる射出成形体の用途に応じて、熱、紫外線、酸化や加水分解等による劣化を抑制する劣化抑制剤や劣化防止剤、成形性や成形体の柔軟性を向上する為の可塑剤、柔軟剤、帯電防止剤や導電材等の添加剤、分散剤や顔料等を添加することができる。また成形体の耐衝撃性を向上するための、例えばゴム変性等の耐衝撃性向上手法や、ラジカル発生剤、架橋剤、放射線や電子線等による架橋構造の導入による耐熱性向上手法を用いることができる。その他、ガスバリア性や防水性、撥水性、耐熱性、潤滑性向上等を目的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)など無機物系表面処理や樹脂コーティングなどの有機物系表面処理を施すことができる。
【0022】
本発明の製造方法は、樹脂の融点以上に加熱された上記PA樹脂またはPTT樹脂にポリカルボジイミドを溶融混練する工程を有する形態であればどのような手段でもよい。溶融混練する工程は、二軸混練押出機またはサイドフィード式二軸混錬押出機を用いることが好ましい。溶融混練されたペレットは樹脂成形の材料として利用できる。成形方法としては、射出成形が好ましい。
【0023】
本発明の樹脂組成物を射出成形して得られる射出成形体の態様として、射出成形後の金型より取り出すときに無理抜き部を有するものや、成形体を他部品と締結したり、製品として使用したりする際にスナップフィットのような変形を伴うものに好適に応用できる。
本発明の樹脂組成物より得られる射出成形体は優れた射出成形性を確保したまま、機械的強度と靭性を同時に向上させることができるので、無理抜き部を有する射出成形体であっても生産性を低下させることなく製造できる。無理抜き部を有する射出成形体として、また組み立て時や使用時に変形を伴う射出成形体としては、転がり軸受用冠型樹脂製保持器や組み立てを要する樹脂製保持器、または転がり軸受用樹脂製シールなどが挙げられる。
【0024】
本発明の軸受部材である転がり軸受用冠型樹脂製保持器の一例を図1および図2に示す。図1は樹脂組成物を一体成形した冠型樹脂製保持器の部分拡大斜視図であり、図2は図1に示す冠型樹脂製保持器のポケットをX−X線で切断した一部断面図である。
転がり軸受用冠型樹脂製保持器1は、環状の保持器本体2上面に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持器爪3を形成し、その対向する各保持器爪3を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪3間に転動体としてのボールを保持する転動体保持用ポケット4を形成したものである。また、隣接するポケット4における相互に隣接する保持爪3の背面相互間に、保持爪3の立ち上がり基準面となる平坦部5が形成される。
この保持器を射出成形する場合、図2に示すように、厚さCを有する保持器本体2より上面方向に高さDの保持爪3を形成している。転動体保持用ポケット4の直径Aが金型の抜き径Bよりも大きいので、保持器爪3のわん曲している先端部3aは、金型から取り出すときに無理抜きされる。そのため、この先端部3a部分に亀裂や白化が生じる場合がある。本願発明は上記樹脂組成物を用いるので、この無理抜き時に発生する亀裂や白化を抑えることができる。
【0025】
本発明の転がり軸受用樹脂製シールの一例を図3に示す。図3は樹脂製シールの切り欠き斜視図である。樹脂製シール6は、軸受外輪の内径面に形成されているシール部材係止溝に係止される外周縁部6aと、シール部材を補強する金属板(芯金)6bと、軸受内輪軌道の両側に設けられた周方向のシール溝に摺接するシールリップ6dと、シールリップ6dに軸径方向に設けられた切欠き6cとを有している。図3に示すシールを射出成形する場合、シールリップ6dまたは6d’は、金型から取り出すときに無理抜きされる。そのため、この部分に亀裂や白化が生じる場合がある。本願発明は上記樹脂組成物を用いるので、この無理抜き時に発生する亀裂や白化を抑えることができる。
【0026】
上記冠型樹脂製保持器と樹脂製シールとを用いた本発明の転がり軸受の一例を図4に示す。図4はグリース封入深溝玉軸受の断面図である。グリース封入深溝玉軸受7は、外周面に転走面8aを有する内輪8と内周面に転走面9aを有する外輪9とが同心に配置され、内輪の転走面8aと外輪の転走面9aとの間に複数個の転動体10が介在して配置される。この複数個の転動体10を保持する冠型樹脂製保持器1および外輪9に固定される樹脂製シール6により深溝玉軸受7が構成される。転動体10の周囲に潤滑グリース11が封入される。グリース封入深溝玉軸受7は冠型樹脂製保持器1および樹脂製シール6から選ばれた少なくとも一つが上記本願発明の成形体を用いて製造されていればよい。
【0027】
本発明の転がり軸受の潤滑方式は、上記したグリース潤滑以外に、油潤滑、エアオイル潤滑、固体潤滑等、どのような方法を採用してもよい。また、本発明の転がり軸受は、玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受等、任意の転がり軸受のいずれであってもよい。
【0028】
ポリカルボジイミドの添加によりPA樹脂またはPTT樹脂の耐摩耗性を向上させることができるので、樹脂組成物の射出成形体は樹脂製すべり軸受として適用できる。
本発明の樹脂製すべり軸受を図5および図6により説明する。図5は、樹脂製すべり軸受の一実施形態を示す樹脂製すべり軸受の断面図である。図6は、樹脂製すべり軸受の他の実施形態を示す樹脂製すべり軸受の断面図である。図5に示すように、樹脂製すべり軸受12は、軸に対する摺動面が円筒形状の射出成形体13の内周面13aであり、反摺動面が円筒形状の射出成形体13の外周面13bであり、この外周面13bが相手材(図示せず)に固定される。射出成形体13は、ポリアミド66樹脂および/またはポリアミド11樹脂からなるPA樹脂、またはPTT樹脂に、ポリカルボジイミドを上記樹脂組成物全体に対して0.5〜6重量%配合してなる樹脂組成物を射出成形したものである。
【0029】
図6(a)〜図6(e)は、それぞれ樹脂製すべり軸受の断面図である。樹脂製すべり軸受14は、摺動面が樹脂組成物の射出成形体15であり、反摺動面であって、樹脂組成物の射出成形体15の裏面に潤滑油供給層16となる金属焼結体層がそれぞれ形成されている。なお、金属焼結体層を用いず、樹脂組成物の射出成形体15自体が潤滑油供給層であってもよい。樹脂製すべり軸受14の形状としては、フランジ付きブッシュ型(図6(a))、スラスト型(図6(b))、ラジアル型(図6(d))、スラストおよびラジアル混合型(図6(c)、(e))等があり、摺動部の形状に合わせて最適な軸受形状を選択できる。また、摺動面に溝を設けた形状とすることもできる。
【実施例】
【0030】
本発明の各実施例および各比較例において使用した材料を以下に示す。なお、GFはガラス繊維を、GFに続く2桁の数字は材料中に含まれるガラス繊維の配合量(重量%)を表す。
(1)ポリアミド66/GF25:BASF社製;UltramidA3HG5
(2)ポリアミド11/GF30:アルケマ社製;Rilsan BZM30 0TL
(3)ポリアミド11/GF30:アルケマ社製;Rilsan BMNO
(4)ガラス繊維:オーウェンスコーニング社製;CS03−JAFT756D
(5)炭素繊維:東邦ナテックス社製;HTAC6
(6)PTT樹脂/GF30:デュポン社製;ソロナ3GT
(7)ポリカルボジイミド:日清紡社製;カルボジライトLA−1
【0031】
実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例6
表1に示す組成・条件で二軸混練押出機を用いて樹脂と繊維状補強材とを溶融混練し、ペレタイザーを用いてペレット化した。得られたペレットを射出成形機で1号ダンベル(JIS K 7113)に成形し、ダンベル試験片を得た。得られたダンベル試験片を以下に示す曲げ試験(3点曲げ;JIS K 7171)に供し、曲げ強さ、曲げ強さ時曲げ歪み、曲げ弾性率を表1に示す。また得られたペレットを用いて以下に示す保持器成形試験に供し、成形性を評価するとともに、樹脂製保持器試験片を得た。この保持器試験片は、図2に示す形状でA:4.2mmφ、B:3.6mm、C:3.6mm、D:0.6mmである。得られた樹脂製保持器試験片を以下に示す高速回転試験1に供し、高速回転性を評価し、成形性と合わせて以下に示す保持器総合評価を実施した。また、得られたダンベル試験片を以下に示す摩擦摩耗試験に供し、樹脂製シールとして用いた場合の比摩耗量を測定し、耐摩耗性を評価した。結果を表1に併記する。
【0032】
<曲げ試験>
得られたダンベル試験片をJIS K 7171に準拠する曲げ試験(3点曲げ;)に供し、曲げ強さ、曲げ強さ時曲げ歪み、曲げ弾性率を測定する。
【0033】
<保持器成形試験>
得られたペレットを用いて、図1に示す形状の保持器(深溝玉軸受用保持器、呼び番号608)の成形試験を行なった。良好に成形できたものは成形性に優れると評価して「○」印として、また保持器爪3のわん曲している先端部3aに目視で外観上白化が生じたものは「白化」として、それぞれ記録する。
【0034】
<高速回転試験1>
得られた保持器試験片を組み込んだ軸受試験片を用いて以下に示す条件で高速回転試験を行なった。
軸受試験片:608ZZ(NTN社製;外径22mm、内径8mm、幅7mm、鉄板シールド)
封入グリース:マルテンプSRL(協同油脂社製)
グリース封入量:空間容積比35体積%
荷重:Fa=3kgf、
回転数:60000rpmまたは80000rpm
試験温度:室温
評価時間:10min
評価方法:回転数60000rpmまたは80000rpmと、回転可能時間(単位:min)との積である積算回転数が60000r以上であるものは、高速回転性が良好であると評価して「○」印を、特に80000r以上であるものは高速回転性に優れると評価して「◎」印を、高速回転で保持器が変形し、外輪等との接触によって樹脂が融解したものは「融解」を、それぞれ記録する。
【0035】
<保持器総合評価>
図1に示した保持器形状で白化等の不具合を生じることなく、かつ高速回転が可能であったものは総合評価に優れると評価して「○」印を、保持器成形または高速回転試験のどちらかに不具合のあったものを総合評価に劣ると評価して「×」印を、それぞれ記録する。
【0036】
<摩擦摩耗試験>
得られたダンベル形状の試験片を研磨紙(#2000)で研磨し、樹脂スキン層を除去した上で表面粗さを整えリング状試験片を得た。得られたリング状試験片を用いて摩擦摩耗試験をサバン型摩擦摩耗試験機にて行なった。図7はサバン型摩擦摩耗試験機を示す図である。図7(a)は正面図を、図7(b)は側面図をそれぞれ表す。回転軸18にリング状試験片17を取り付け、アーム部19のエアスライダー21に鋼鈑20を固定する。リング状試験片17は所定の荷重22を図面上方から印加されながら鋼鈑20〔SCM415浸炭焼入れ焼戻し処理品(Hv 700、表面粗さRa 0.01μm)〕に回転接触する。リング状試験片17を回転させたときに発生する摩擦力はロードセル23により検出される。所定時間運転した試験片の摩耗状況を比摩耗量で確認した。試験条件を以下に示す。
相手材:SUJ2
温度:室温
評価時間:1時間
周速:0.05m/sec
荷重:200N 潤滑油:なし
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、保持器成形試験において、強度と曲げ弾性率が向上することで、同じ遠心力が加わった場合でも変形量が小さくなり、保持器と外輪の接触が抑制された結果、積算限界回転数を向上させることができた。また、保持器総合評価から、ポリカルボジイミドを添加した実施例1〜実施例8では曲げ歪み(伸び特性)が向上することで成形時の無理抜きが可能となり、また、弾性率が向上することで軸受として高速回転が可能となった。また、摩擦摩耗試験の結果から、ポリカルボジイミドを添加した材料では比摩耗量が抑えられ耐摩耗性が比較例に較べて最大2倍と大きく向上したことが分かった。
【0039】
実施例9〜実施例11および比較例7
表2に示す組成・条件で二軸混練押出機を用いて樹脂と繊維状補強材とを溶融混練し、ペレタイザーを用いてペレット化した。得られたペレットを射出成形機で1号ダンベル(JIS K 7113)に成形し、ダンベル試験片を得た。得られたダンベル試験片を上述の曲げ試験(3点曲げ;JIS K 7171)に供し、曲げ強さ、曲げ強さ時曲げ歪み、曲げ弾性率を表2に示す。また得られたペレットを用いて上述の保持器成形試験に供し、成形性を評価するとともに、保持器試験片を得た。この保持器試験片は、図2に示す形状でA:4.2mmφ、B:3.6mm、C:3.4mm、D:0.8mmである。得られた保持器試験片を以下に示す高速回転試験2に供し、高速回転性を評価し、成形性と合わせて上述の保持器総合評価を実施した。また、得られたダンベル試験片を上述の摩擦摩耗試験に供し、シール部材として用いた場合の比摩耗量を測定し、耐摩耗性を評価した。結果を表2に併記する。
【0040】
<高速回転試験2>
得られた保持器試験片を組み込んだ軸受試験片を用いて以下に示す条件で高速回転試験を行なった。
軸受試験片:608ZZ(NTN社製;外径22mm、内径8mm、幅7mm、鉄板シールド)
封入グリース:マルテンプSRL(協同油脂社製)
グリース封入量:空間容積比35体積%
荷重:Fa=3kgf、
回転数:60000rpmまたは80000rpm
試験温度:室温
評価時間:10min
評価方法:回転数60000rpmまたは80000rpmと、回転可能時間(単位:min)との積である積算限界回転数が100000r以上であるものは、高速回転性が良好であると評価して「○」印を、高速回転で保持器が変形し、外輪等との接触によって樹脂が融解したものは「融解」を、それぞれ記録する。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、保持器成形試験において、従来では成形不可能であったPTT樹脂でガラス繊維の配合量が多い場合でも充填材の配合組成を変更することなく、保持器形状の無理抜きを有する射出成形が可能となった。また、高速回転試験2において、強度と曲げ弾性率が向上することで、同じ遠心力が加わった場合でも変形量が小さくなり、保持器と外輪の接触が抑制された結果、積算限界回転数を向上させることができた。また、保持器総合評価から、従来の保持器形状では成形不可能であったPTT樹脂材料でも、ポリカルボジイミドを添加することで、伸び特性が向上し、保持器形状の無理抜きを有する射出成形が可能となった。また、弾性率が向上することで、高速回転でも使用可能な樹脂製保持器となることが分かった。また、シール部材の摩擦摩耗試験の結果から、ポリカルボジイミドを添加したPTT樹脂材料では比摩耗量を抑えられ耐摩耗性が約2倍と向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の樹脂組成物を用いた軸受部材である射出成形体は、PA樹脂またはPTT樹脂にポリカルボジイミドを所定量添加した樹脂組成物を射出成形して形成することで、曲げ強度、曲げ歪み(伸び性)および曲げ弾性率が向上し、高い弾性率と、成形時の無理抜きを可能とするような高い伸び特性とを同時に満たす射出成形体となる。このため、転がり軸受用冠型保持器材やシール部材、すべり軸受として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 転がり軸受用冠型樹脂製保持器
2 保持器本体
3 保持器爪
4 ポケット
5 平坦部
6 樹脂製シール
7 グリース封入深溝玉軸受
8 内輪
9 外輪
10 転動体
11 潤滑グリース
12 樹脂製すべり軸受
13、15 樹脂組成物の射出成形体
14 樹脂製すべり軸受
16 基材または金属焼結体
17 リング状試験片
18 回転軸
19 アーム部
20 鋼鈑
21 エアスライダー
22 荷重
23 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体として軸受部材に用いられ、ポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂にポリカルボジイミドを配合してなる樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂がポリアミド66樹脂およびポリアミド11樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であり、
前記ポリエステル樹脂がポリトリメチレンテレフタレート樹脂であり、
前記ポリカルボジイミドは、樹脂組成物全体に対して0.5〜6重量%配合されていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物が繊維状補強材を含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記繊維状補強材の配合量は、前記樹脂組成物全体の5〜40重量%であることを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維状補強材は、ガラス繊維または炭素繊維であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成形体が射出成形体であり、前記軸受部材が転がり軸受用冠型樹脂製保持器であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記軸受部材が転がり軸受用樹脂製シールであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
冠型樹脂製保持器および樹脂製シールの少なくとも1つの軸受部材を構成要素として含む転がり軸受であって、
前記軸受部材が請求項5または請求項6記載の樹脂組成物の成形体であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項8】
機械部品に用いられるすべり軸受であって、
該すべり軸受は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の樹脂組成物の成形体であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂または前記ポリエステル樹脂の融点以上に加熱しながら前記ポリカルボジイミドを溶融混練することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32356(P2011−32356A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179322(P2009−179322)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】