説明

樹脂製玉軸受

【課題】耐食性ある合成樹脂製の玉軸受において、高負荷化を図ることである。
【解決手段】内輪1及び外輪2が合成樹脂製、玉5がセラミック製である樹脂製玉軸受において、前記内外輪サイズを標準玉軸受と同等に保ち、その玉5の径を軸受の径方向厚さの68〜75%の大きさに設定した構成を採用した。樹脂製玉軸受であるが、内外輪の転走面が薄肉化されるにもかかわらず強度低下することなく、従来品の1.5倍の高負荷化が達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製玉軸受に関し、特に腐食性雰囲気下において使用される樹脂玉軸受の高負荷対応化(以下、単に「高負荷化」という。)を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
水中や薬品中あるいは高湿度雰囲気等の腐食雰囲気下において使用される耐食性の樹脂製玉軸受として、内輪及び外輪を曲げ弾性率2000〜6000MPaの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)によって形成したものが知られている(特許文献1)。この樹脂玉軸受は、特定の樹脂材料の選択により例えば#6000系列の深溝玉軸受において、ラジアル荷重2kgf/cm(1.96×10−1MPa)程度の高負荷化が可能となったものである。
【特許文献1】特開平10−47355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された樹脂製玉軸受は、ラジアル荷重1.96×10−1MPaを超える高負荷、例えば従来品の1.5倍のラジアル荷重3.0×10−1MPaでの使用では耐摩耗性が十分ではなく、製品寿命が満足しないという問題がある。
【0004】
そこで、この発明は、軸受サイズを変えることなく高負荷対応化を図った樹脂製玉軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために、この発明においては、内輪1及び外輪2が合成樹脂製、玉5がセラミック製である樹脂製玉軸受において、前記内外輪サイズを標準玉軸受と同等に保ち、その玉5の径を軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%に設定した構成とした。
【0006】
内外輪サイズが標準玉軸受と同等の樹脂製玉軸受の玉5の径を、軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%に設定した構成を採用した樹脂製玉軸受であるので、内外輪の転走面が薄肉化されるにもかかわらず強度低下することなく、従来品の1.5倍の高負荷化が達成できる。
なお、前記の標準玉軸受とはJIS B 1521のことをいう。
【発明の効果】
【0007】
前記の構成によると、玉の径が軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%の大きさであるので強度低下することなく高負荷化が図れる。また、内輪1及び外輪2を形成する合成樹脂の曲げ弾性率が3500〜6000MPaであるので、高負荷条件での長時間使用に耐えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1及び図2に示した本発明の玉軸受は、内輪1、外輪2、これらの転走面3、4間に介在された多数の玉5及び各玉5を等間隔に保持する保持器6とからなる。前記内輪1の内径A及び幅寸法、外輪2の外径B及び幅寸法は標準品(例えば、JIS B 1521相当)の大きさに設定され、そのため軸受サイズは標準品と同一サイズである。
【0009】
前記内輪1及び外輪2は耐薬品性の高い合成樹脂製であり、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のいずれかであり、曲げ弾性率が3500MPa〜6000MPaのものが使用される。
【0010】
PEEK、PPSは補強材等の配合材を含まないナチュラル材であっても曲げ弾性率がそれぞれ3800MPa、3900MPaであり、各種配合材を配合しなくても使用可能であるが、強化材や固体潤滑剤を各種配合することで、曲げ弾性率を3500MPa〜6000MPaの範囲に調整して使用しても良い。PIは、熱硬化性PIと熱可塑性PIが存在するが、いずれもナチュラル材は曲げ弾性率が3500MPaに満たないため、強化材の配合が必須であり、摺動特性の向上のため固体潤滑剤を配合しても良い。
【0011】
配合可能な強化材としては、ガラス繊維(GF)、カーボン繊維、アラミド繊維や、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ等のウィスカ類が使用できる。
【0012】
固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、グラファイト、二硫化モリブデン、炭素粉末、タルク等が使用できる。
【0013】
PEEK、PPSであっても、内輪1及び外輪2の摺動特性を高めるために固体潤滑剤を配合した場合、曲げ弾性率が3500MPaより低くなる場合が有る。また、PIでは強化材の配合量が少ない場合は曲げ弾性率が3500MPaを満たない。曲げ弾性率が3500MPaより低い場合は、ラジアル荷重1.96×10−1MPaを超える高負荷条件で、長時間使用した場合にクリープにより転走面3、4が変形し、転がり抵抗が高くなるという不具合が生じる。曲げ弾性率が6000MPaを超える場合は、転走面3、4の摩耗が大きくなることによってラジアル隙間が大きくなり、回転精度が低下するという不具合が生じる。
【0014】
本発明の樹脂製玉軸受では、水中や薬品中あるいは高湿度雰囲気等の腐食雰囲気下で使用されるため、グリース等の潤滑剤は流出するため使用することは出来ない。そのため、内輪1及び外輪2の合成樹脂は、耐薬品性を有し、潤滑特性に優れることが求められる。PEEK、PI、PPSは高い耐薬品性を有しているが、中でもPEEKは固体潤滑剤を配合しなくても潤滑特性に優れているため、本発明の樹脂製玉軸受の内輪1及び外輪2としては、PEEKのナチュラル材が好適に使用できる。
【0015】
玉5はセラミック製であり、例えば、アルミナセラミック、ジルコニアセラミック、炭化ケイ素セラミック、窒化ケイ素セラミック等の公知のセラミックが使用される。
【0016】
保持器6は耐薬品性を有する合成樹脂製であれば使用可能であり、PEEK、PI、PPS、PTFE等の合成樹脂が例示できる。生産性、寸法精度等を考慮するとPEEK、PI、PPSを用いて射出成形で製造することが望ましい。
【0017】
玉5の径は、転走面3、4の最小肉厚a、b(図2参照)を必要な厚さに保ち、かつ玉5と転走面3、4との接触面積の増大を図る観点から、軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%に設定される。玉5の径が軸受の径方向厚さの68%より小さい場合は、期待する高負荷条件である従来品の1.5倍であるラジアル荷重3×10−1MPaに対して顕著な効果が現れない。75%を超える大径の場合は、内輪1及び外輪2における転走面3、4の最小肉厚a、bが薄くなり、内輪1及び外輪2の必要強度が確保できなくなる。
【0018】
転走面3、4の最小肉厚a、bを薄肉化して、内輪1及び外輪2の必要強度を確保する目的で、強化材を例えば40重量%以上配合した合成樹脂を用いた場合では、上述のように合成樹脂の曲げ弾性率が6000MPaを超えてしまい、転走面3、4の摩耗が大きくなるため採用できない。
【0019】
前記内輪1の転走面3の曲率は玉5の径の1.015〜1.025倍に設定され、外輪2の転走面4の曲率は玉5の径の1.035〜1.045倍に設定される。
【0020】
内輪1及び外輪2の転走面の曲率が上記した所定値を外れる場合は、いずれの場合でも従来品の1.5倍のラジアル荷重において、転走面の耐摩耗性が低下する。
【0021】
〔実験例〕
本発明の樹脂製玉軸受の高負荷化の効果を確認するため、内外輪がPEEK(ナチュラル材)、玉が窒化ケイ素セラミック、保持器がPPS(GF30重量%含有)からなり、外輪外径がφ62mm、外輪幅が16mm、内輪内径がφ30mm、内輪幅が16mmの樹脂製玉軸受について、現行品との比較実験を行った。
【0022】
本比較実験に使用した樹脂製玉軸受の仕様を表1に示す。なお、比較例1はJIS B 1521の#6206相当の現行品である。
【0023】
本比較実験の試験条件は、ハウジング内に実験用軸受を嵌合し、この実験用軸受の内輪内径に支持軸を嵌合させた状態で水中(水温25℃)に浸漬し、支持軸に250N(3.3×10−1MPa)のラジアル荷重を掛けながら回転数200rpmで回転させた。試験開始から1週間後(200万回転)と2週間後(400万回転)とで実験用軸受のラジアル隙間の増加量を計測した。この結果を表1に併記した。なお、実験用軸受の初期のラジアル隙間は、0.010mmである。
【0024】
【表1】

【0025】
〔実験結果〕
表1及び図3に示したように、実施例の玉軸受は、現行品(比較例1)に比べ、ラジアル隙間増加量が1/4〜1/5であり、高負荷下における耐久性が認められた。また、玉の径が軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%の範囲を外れた比較例2及び比較例3は、実施例よりもはるかにラジアル隙間増加量が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1の断面図
【図2】同上の一部拡大断面図
【図3】実験結果のグラフ
【符号の説明】
【0027】
1 内輪
2 外輪
3 転走面
4 転走面
5 玉
6 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(1)及び外輪(2)が合成樹脂製、玉(5)がセラミック製である樹脂製玉軸受において、前記内輪(1)及び外輪(2)のサイズを標準玉軸受と同等に保ち、その玉(5)の径を軸受の径方向厚さ((外輪外径寸法−内輪内径寸法)/2)の68〜75%に設定したことを特徴とする樹脂製玉軸受。
【請求項2】
前記樹脂製玉軸受は、内輪(1)、外輪(2)、玉(5)及び保持器(6)のみから構成されることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製玉軸受。
【請求項3】
前記玉(5)の保持器(6)が合成樹脂製であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂製玉軸受。
【請求項4】
前記内輪(1)及び外輪(2)の合成樹脂の曲げ弾性率が3500MPa〜6000MPaであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂製玉軸受。
【請求項5】
前記内輪(1)及び外輪(2)の合成樹脂がポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の樹脂製玉軸受。
【請求項6】
前記保持器(6)の合成樹脂がポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)のいずれかであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の樹脂製玉軸受。
【請求項7】
前記保持器(6)がポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のいずれかの合成樹脂の射出成形体であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂製玉軸受。
【請求項8】
前記内輪(1)の転走面(3)の曲率が前記玉(5)の径の1.015〜1.025倍であり、前記外輪(2)の転走面(4)の曲率が前記玉(5)の径の1.035〜1.045倍であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の樹脂製玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−197820(P2009−197820A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37143(P2008−37143)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】