説明

機器制御システム

【課題】操作端末を複数の機械装置で共用化することができ、尚且つ安全性の高い機器制御システムを提供する。
【解決手段】複数のロボット装置1−1〜1−nと、任意に選択した一台のロボット装置に対して動作を教示するティーチングペンダント2とを備える産業用ロボットシステムであって、複数のロボット装置1−1〜1−nそれぞれは、自機器に固有のキーが挿入されることによってのみ第1の状態と第2の状態との切り替えが可能となるシリンダーを有し、ティーチングペンダント2は、各ロボット装置に固有のキー4−1〜4−nのいずれが挿入されても教示が行える状態と教示が行えない状態との切り替えが可能となるマスターシリンダー10と、教示対象となるロボット装置に対して接続要求を送信する接続要求送信手段とを有している産業用ロボットシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御対象機器と、教示装置とを備える機器制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機器制御システムとして、ここでは、安全関連装置が設置されたティーチングペンダントとロボット装置とを備える産業用ロボットシステムを例に挙げて説明する。
【0003】
従来の産業用ロボットシステムの概略構成例を図8に示す。図8に示す従来の産業用ロボットシステムは、複数のロボット装置101−1〜101−nと、複数のロボット装置101−1〜101−nに対して1対1対応している複数のティーチングペンダント102−1〜102−nとを備えている(ただし、nは2以上の自然数)。1対1対応しているロボット装置101−kとティーチングペンダント102−kとはケーブル103−kによって有線接続されている(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。
【0004】
また、ロボット装置101−kは、ロボット装置101−k固有のキーシリンダー104−kと、複数の非常停止スイッチ106と備えている(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。キーシリンダー104−kには、キーシリンダー104−kに対応するメカニカルキー105−k、すなわちロボット装置101−k固有のメカニカルキー105−kが差し込まれている(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。
【0005】
複数のティーチングペンダント102−1〜102−nは各々、前面に非常停止スイッチ107及びタッチパネル108を備えており、背面にイネーブルスイッチ(不図示)を備えている。
【0006】
図8に示す従来の産業用ロボットシステムでは、複数のロボット装置101−1〜101−n各々に対して、初期及び調整時等に動作を覚えさせる作業すなわちティーチング作業を行う必要がある。複数のロボット装置101−1〜101−nは各々、このティーチング作業によって教え込まれた教示データを呼び出して、自動運転を実現している。
【0007】
非常停止スイッチ106及び107は全てB接点(break contact)スイッチである。ロボット装置101−kに関する非常停止回路は、ロボット装置101−kに設置される複数の非常停止スイッチ106及びティーチングペンダント102−kに設置される非常停止スイッチ107の直列接続回路であり、ロボット装置101−kに設置される複数の非常停止スイッチ106及びティーチングペンダント102−kの非常停止スイッチ107のいずれか一つでもOFFになることによって当該非常停止回路がオープンになってロボット装置101−kが非常停止する。
【0008】
タッチパネル108は、ティーチング作業時にロボットの各種情報を表示する表示装置として機能するとともに教示データを入力する入力装置としても機能する。イネーブルスイッチをONにしているときにタッチパネル108の操作内容が有効になり、イネーブルスイッチをOFFにしているときにはタッチパネル108の操作内容が無効になる。
【0009】
例えば、ロボット装置101−1のティーチング作業では、作業者が、ティーチングペンダント102−1を持って安全柵109の中に入り、ロボット装置101−1の可動部に近づいた状態でティーチングペンダント102−1を用いてロボット装置101−1の可動部を動かし、自動運転に必要な教示データをタッチパネル108を操作して入力していく。このティーチング作業中に第三者によってロボット装置101−1の自動運転が開始されることを防ぐために、メカニカルキー105−1がキーシリンダー104−1から抜かれた場合にはロボット装置101−1の自動運転が禁止される、といった手法が一般的にとられている。かかる手法を採用すると、ティーチング作業の作業者がキーシリンダー104−1からメカニカルキー105−1を抜き、その抜いたメカニカルキー105−1を携帯して安全柵109の中に入ることで、ロボット装置101−1のティーチング作業中に第三者によってロボット装置101−1の自動運転が開始されることを防止することができる。
【0010】
さらに、ティーチングペンダント側にも、そのティーチングペンダントに対応するロボット装置に固有のキーシリンダーを設け、ティーチングペンダント側のキーシリンダーにメカニカルキーが差し込まれた状態でなければ、ティーチングペンダントからの操作ができないようにして、安全性をより向上させているものもある。
【0011】
【特許文献1】特開2006−277531号公報
【特許文献2】特開2006−157415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図8に示す従来の産業用ロボットシステムの構成では、ロボット装置とティーチングペンダントとが1対1対応しているため、ティーチングペンダントがロボット装置の個数分必要となる。しかしながら、ティーチングペンダントはティーチング作業のときにのみ必要であるため、ティーチングペンダントを複数のロボット装置で共用化した方が、コストや配置スペースの低減の観点から望ましい。
【0013】
そこで、特許文献1で提案されている産業用ロボットシステムでは、ティーチングペンダントを複数のロボット側制御装置で共用化するために、複数のロボット側制御装置それぞれにティーチングペンダントを接続するためのコネクタを設け、ティーチングペンダントに所定長のケーブルを設け、そのケーブルの先端に複数のロボット側制御装置の各コネクタに装着脱可能なコネクタが取り付けた構成としている。
【0014】
尚、特許文献1で提案されている産業用ロボットシステムでは、ティーチングペンダントとロボット側制御装置とがケーブルによって有線接続される構成であるが、例えば特許文献2で提案されているコントローラとコントローラの操作端末との接続方法を適用すれば、ティーチングペンダントとロボット側制御装置とを無線接続してティーチングペンダントを複数のロボット側制御装置で共用化することも可能である。
【0015】
しかしながら、従来の産業用ロボットシステムにおけるティーチングペンダント側のキーシリンダーは、ロボット装置側のキーシリンダーと同様に各ティーチングペンダントに対応する各ロボット装置に固有のものであるため、ティーチングペンダントを複数のロボット側制御装置で共用化した構成には適用することができないという問題が生じる。
【0016】
また、特許文献1で提案されている産業用ロボットシステムでは、ティーチングペンダントに非常停止スイッチを設けることを考慮しておらず、仮に従来と同様にティーチングペンダントに非常停止スイッチを設ける構成にした場合、ティーチングペンダントに接続されていないロボット側制御装置では、非常停止回路がオープンになり非常停止がかかってしまうという問題が生じる。また、無線接続とした場合においても、ティーチングペンダントとの無線接続が確立していないロボット側制御装置では、非常停止回路がオープンになり非常停止がかかってしまうという問題が生じる。
【0017】
本発明は、上記の状況に鑑み、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができ、尚且つ安全性の高い機器制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明に係る機器制御システムは、複数の制御対象機器と、その複数の制御対象機器のうちの任意の一台を選択して、その選択した制御対象機器に対して動作を教示する教示装置とを備える機器制御システムであって、前記複数の制御対象機器それぞれは、自機器に固有のキーが挿入されることによってのみ第1の状態と第2の状態との切り替えが可能となる状態切替装置を有し、前記教示装置は、各制御対象機器に固有のキーのいずれが挿入されても教示が行える状態と教示が行えない状態との切り替えが可能となるマスター状態切替装置と、教示対象となる制御対象機器に対して接続要求を送信する接続要求送信手段とを有し、前記接続要求送信手段の接続要求に応じて、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立された状態において、前記マスター状態切替装置によって教示が行えない状態から教示が行える状態への切り替えが行われて、教示対象となる制御対象機器への教示が可能となるようにしている。
【0019】
このような構成によると、教示装置が、制御対象機器に固有のキーのいずれが挿入されても教示が行える状態と教示が行えない状態との切り替えが可能となるマスター状態切替装置を有しているので、キーを用いた安全対策を施した構成においても、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができる。これにより、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができ、尚且つ安全性の高い機器制御システムを実現することができる。
【0020】
また、前記複数の制御対象機器それぞれは、前記教示装置の教示にしたがって動作する手動モードと、教示装置の教示とは関係なく動作する自動運転モードとを切り替える操作モード切替手段を備えるようにしてもよい。さらに、前記状態切替装置は前記操作モード切替手段であって、前記第1の状態は前記手動モードであり、前記第2の状態は前記自動運転モードであるようにしてもよい。
【0021】
また、前記複数の制御対象機器それぞれに関する安全関連回路を有し、自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されている制御対象機器に関する安全関連回路では、前記教示装置に設置された対応する安全関連装置を無効化し、自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されていない制御対象機器に関する安全関連回路では、前記教示装置に設置された対応する安全関連装置を無効化しないようにしてもよい。
【0022】
このような構成によると、自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されている制御対象機器に関する安全関連回路において、教示装置と制御対象機器との未接続に起因する安全関連動作(例えば非常停止)が起こらないようにできるので、教示装置に安全関連装置を設置した構成であるにもかかわらず、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができる。また、このような構成によると、自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されていない制御対象機器に関する安全関連回路において、教示装置に設置された対応する安全関連装置が有効に機能するため、より一層安全性を高くすることができる。
【0023】
また、利便性の観点から、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続を無線接続としてもよい。
【0024】
また、前記キーをメカニカルキーとしてもよく、電子キーとしてもよい。
【0025】
また、前記複数の制御対象機器それぞれは、自機器に固有の制御対象機器IDデータを予め格納している記憶部を有し、前記接続要求送信手段の接続要求に応じて、教示対象となる制御対象機器が前記制御対象機器IDデータを前記教示装置に返送することにより、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立されるようにしてもよい。さらに、前記教示装置は、前記教示装置に固有の教示装置IDデータを予め格納している記憶部を有し、前記接続要求送信手段の接続要求により取得した前記制御対象機器IDデータに、前記教示装置IDデータを組み合わせて接続IDデータとし、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続確立後、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との通信において、前記接続IDデータを用いるようにしてもよい。
【0026】
また、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続の確認を容易にする観点から、前記教示装置は、教示対象となる制御対象機器との接続を確認するための確認操作部を有し、前記複数の制御対象機器それぞれは、前記教示装置との接続が確立されている旨を報知するための報知部を有し、前記確認操作部が操作されることにより、前記教示装置との接続が確立された教示対象となる制御対象機器に備えられた報知部が、前記教示装置との接続が確立されている旨を報知するようにしてもよい。
【0027】
また、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立され、前記キーが前記マスター状態切替装置に挿入されている状態では、たとえ、教示対象となる制御対象機器に固有のキーが教示対象となる制御対象機器の状態切替装置に挿入され、教示対象となる制御対象機器の操作モードが自動運転モードに切り替えられても、前記教示装置の教示が優先されるようにしてもよい。
【0028】
このような構成によると、教示対象ではない制御対象機器に固有のキーが教示装置のマスター状態切替装置に挿入されている状態では、教示装置との接続が確立して教示対象となっている制御対象機器に自機器に固有のキーが挿入され、自動運転モードになっていたとしても、教示装置に設置された安全関連装置が有効になるので、より一層安全性を高くすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、複数の制御対象機器と、その複数の制御対象機器のうちの任意の一台を選択して、その選択した制御対象機器に対して動作を教示する教示装置とを備え、前記教示装置が、制御対象機器に固有のキーのいずれが挿入されても教示が行える状態と教示が行えない状態との切り替えが可能となるマスター状態切替装置を有しているので、キーを用いた安全対策を施した構成においても、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができる。これにより、教示装置を複数の制御対象機器で共用化することができ、尚且つ安全性の高い機器制御システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。本発明に係る機器制御システムとして、ここでは、安全関連装置が設置されたティーチングペンダントとロボット装置とを備える産業用ロボットシステムを例に挙げて説明する。
【0031】
本発明に係る産業用ロボットシステムの概略構成例を図1に示す。図1に示す本発明に係る産業用ロボットシステムは、複数の制御対象機器の一例である複数のロボット装置1−1〜1−nと、教示装置の一例であるティーチングペンダント2とを備えている(ただし、nは2以上の自然数)。
【0032】
また、ロボット装置1−kは、状態切替装置の一例であるロボット装置1−k固有のキーシリンダー3−kと、複数の非常停止スイッチ5と備えている(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。キーシリンダー3−kには、キーシリンダー3−kに対応するメカニカルキー4−k、すなわちロボット装置1−k固有のメカニカルキー4−kが差し込まれている(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。
【0033】
ティーチングペンダント2は、前面に安全関連装置の一例である非常停止スイッチ6と、タッチパネル7と、接続要求送信手段の一例であるペアリング及びペアリング解除を行うためのペアリングボタン8と、ペアリングの有無を示すペアリング表示LED9と、マスター状態切替装置の一例であるメカニカルキー4−1〜4−n全てに対応しているマスターシリンダー10とを備えており、背面にイネーブルスイッチ(不図示)を備えている。タッチパネル7は、後述するティーチング作業時にロボット装置の各種情報を表示する表示装置として機能するとともに教示データを入力する入力装置としても機能する。また、イネーブルスイッチをONにしているときにタッチパネル7の操作内容が有効になり、イネーブルスイッチをOFFにしているときにはタッチパネル7の操作内容が無効になる。
【0034】
図1に示す本発明に係る産業用ロボットシステムでは、複数のロボット装置1−1〜1−n各々に対して、初期及び調整時等に動作を覚えさせる作業すなわちティーチング作業を行う必要がある。複数のロボット装置1−1〜1−nは各々、このティーチング作業によって教え込まれた教示データを呼び出して、自動運転を実現している。
【0035】
図1に示すように、キーシリンダー3−1〜3−n各々にメカニカルキー4−1〜4−nが差し込まれ、キーシリンダー3−1〜3−n各々が時計回り方向に旋回されている状態では、ロボット装置1−1〜1−n各々は自動運転のみが可能な自動運転モードになっており、ティーチングペンダント2の操作内容を受け付けない。尚、キーシリンダー3−1〜3−n各々は、時計回り方向に旋回されている状態では差し込まれているメカニカルキーを抜くことができず、反時計回り方向に旋回されている状態でのみ差し込まれているメカニカルキーを抜くことができる構造になっている。
【0036】
また、図1に示すように、ティーチングペンダント2のマスターシリンダー10にメカニカルキーが差し込まれておらず、マスターシリンダー10が反時計回り方向に旋回されている状態では、内蔵バッテリからタッチパネル7への電力供給がOFFになっており、タッチパネル7に教示データを入力することができない。このような構成により、ロボット装置が自動運転モードになっているときに、作業者がティーチングペンダント2を用いた手動操作が可能であると誤認して、ロボット装置の自動運転が実行されていて危険な状態である安全柵11内に侵入することを防止している。
【0037】
非常停止スイッチ5及び6は全てB接点(break contact)スイッチである。ロボット装置1−kに関する非常停止回路は、ロボット装置1−kに設置される複数の非常停止スイッチ5及びティーチングペンダント2に設置される非常停止スイッチ6の直列接続回路であり、ロボット装置1−kに設置される複数の非常停止スイッチ5及びティーチングペンダント2の非常停止スイッチ6のいずれか一つでもOFFになることによって当該非常停止回路がオープンになってロボット装置1−kが非常停止する。
【0038】
ロボット装置1−kに関する非常停止回路は、キーシリンダー3−kにメカニカルキー4−kが差し込まれていれば、ティーチングペンダント2の非常停止スイッチ6を無効化し、キーシリンダー3−kにメカニカルキー4−kが差し込まれていなければ、ティーチングペンダント2の非常停止スイッチ6を無効化しない。例えば、ロボット装置1−kの非常停止回路を、ロボット装置1−kに設置されている非常停止スイッチ5と、ティーチングペンダント2に設置されている非常停止スイッチ6と、ロボット装置1−kに設置するスイッチSW1とによって構成し、キーシリンダー3−kにメカニカルキー4−kが差し込まれている状態では、ロボット装置1−kの制御回路が図2に示すようにスイッチSW1をオン状態にすることで、ティーチングペンダント2の非常停止スイッチ6をロボット装置1−kの非常停止回路において無効化することができる(ただし、kは1〜nの任意の自然数)。尚、上記例において、ロボット装置1−kの制御装置は、非常停止回路から24VのDC電圧入力がある場合は非常停止を行わず、非常停止回路から24VのDC電圧入力が無い場合は非常停止を行うようにしている。図1に示す状態では、ロボット装置1−1〜1−nのキーシリンダー3−1〜3−nそれぞれに対応するメカニカルキーが差し込まれているので、ロボット装置1−1〜1−nの各非常停止回路において非常停止スイッチ6が無効化されている。
【0039】
以下、図1に示す状態から、ロボット装置1−2のティーチング作業を開始するまでの手順について説明する。まず、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングを行う。本実施形態では、ロボット装置1−1〜1−n及びティーチングペンダント2それぞれが図3に示すような通信装置を内蔵しており、ロボット装置1−2に内蔵される通信装置の赤外線通信部とティーチングペンダント2に内蔵される通信装置の赤外線通信部との間の赤外線通信によりロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングを実現している。尚、本実施形態で用いた赤外線通信の代わりに、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とをペアリング処理時に一時的に有線接続して、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングを実現してもよい。
【0040】
作業者が、ティーチングペンダント2をロボット装置1−2に近づけ、ティーチングペンダント2のペアリングボタン8を押すと、ティーチングペンダント2の赤外線通信部13がティーチングペンダント2の不揮発性メモリ14に記憶されているティーチングペンダント2のIDデータをロボット装置1−2に送信し、その送信されたティーチングペンダント2のIDデータをロボット装置1−2の赤外線通信部13が受信しロボット装置1−2の不揮発性メモリ14に記憶し、さらにロボット装置1−2の赤外線通信部13がロボット装置1−2の不揮発性メモリ14に記憶されているロボット装置1−2のIDデータをティーチングペンダント2に送信し、その送信されたロボット装置1−2のIDデータをティーチングペンダント2の赤外線通信部13が受信しティーチングペンダント2の不揮発性メモリ14に記憶する。これにより、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングが完了する。そして、ペアリングが完了すると、ペアリング表示LED9が点灯する。
【0041】
また、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングが完了すると、ロボット装置1−2に設置される複数の非常停止スイッチ5とティーチングペンダント2の非常停止スイッチ6とが無線接続により接続されるので、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2との未接続に起因する非常停止が起こらなくなる。
【0042】
ペアリングが完了したロボット装置とティーチングペンダントの各無線通信部12同士が通信を行う際は、各無線通信部12が各不揮発性メモリ14から接続IDデータの一例である自己のIDデータとペアリング相手のIDデータを対にしたペアリングデータを通信データのヘッダ又はフッタに付けて送信し、各無線通信部12の受信において通信データのヘッダ又はフッタに付されているペアリングデータが各不揮発性メモリ14に記憶されているペアリングデータと一致しなければ、通信データを受信しないようにしておく。これにより、ペアリングが完了したロボット装置とティーチングペンダントの各無線通信部12同士しか通信を行えないようにしている。
【0043】
ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングが完了した後、作業者がロボット装置1−2のキーシリンダー3−2に差し込まれているメカニカルキー4−2を反時計回り方向に回してキーシリンダー3−2を反時計回り方向に旋回されている状態にする。キーシリンダー3−2が反時計回り方向に旋回されている状態では、ロボット装置1−2は手動運転のみが可能な手動運転モードになっており、ティーチングペンダント2の操作内容を受け付ける。そして、図5に示すように、作業者はロボット装置1−2のキーシリンダー3−2からメカニカルキー4−2を抜く。ロボット装置1−2のキーシリンダー3−2からメカニカルキー4−2が抜かれると、ロボット装置1−2の非常停止回路において非常停止スイッチ6の無効化が解除される。例えば、ロボット装置1−2の制御回路が、キーシリンダー3−2からメカニカルキー4−2が抜かれたことを検出すると、図4に示すようにスイッチSW1をオフ状態にするとよい。図5においては、ロボット装置1−2はティーチングペンダント2の操作内容を受け付ける状態であるが、タッチパネル7に電力供給がされておらず、タッチパネル7に教示データを入力することができない状態であるので、ロボット装置1−2にティーチングペンダント2の操作内容が伝送されてくることはない。
【0044】
その後、図6に示すように、作業者はティーチングペンダント2のマスターシリンダー10にメカニカルキー4−2を差し込み、メカニカルキー4−2を時計回り方向に回してマスターシリンダー10を時計回り方向に旋回されている状態にする。ティーチングペンダント2のマスターシリンダー10にメカニカルキーが差し込まれ、マスターシリンダー10が時計回り方向に旋回されている状態では、内蔵バッテリからタッチパネル7への電力供給がONになっており、タッチパネル7に教示データを入力することができる。したがって、作業者は、図6に示す状態からティーチングペンダント2を携帯して安全柵11内に侵入し、ロボット装置1−2のティーチング作業を開始する。尚、タッチパネル7への電力供給がONになれば、ペアリング相手であるロボット装置1−2のIDデータを不揮発性メモリ14から読み出し、ペアリング相手であるロボット装置1−2のIDに対応する表示データをタッチパネル7に表示させるようにしてもよい。
【0045】
ここで、ロボット装置1−2のティーチング作業が行われている際に、例えば図7に示すように第三者がロボット装置1−n固有のメカニカルキー4−nをロボット装置1−2のキーシリンダー3−2に差し込もうとしても、ロボット装置1−2のキーシリンダー3−2に対応するのはティーチングペンダント2のマスターシリンダー10に差し込まれているメカニカルキー4−2のみであるので、メカニカルキー4−nがロボット装置1−2のキーシリンダー3−2に差し込まれてロボット装置1−2の非常停止回路において非常停止スイッチ6が無効化されるおそれはない。
【0046】
そして、ロボット装置1−2のティーチング作業が終了すると、作業者はティーチングペンダント2のマスターシリンダー10からメカニカルキー4−2を抜き、メカニカルキー4−2をロボット装置1−2のキーシリンダー3−2に差し込む。これにより、ロボット装置1−2の非常停止回路において非常停止スイッチ6が再び無効化される。その後、作業者はロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリングを解除するための作業を行う。具体的には、ティーチングペンダント2をロボット装置1−2に近づけ、ティーチングペンダント2のペアリングボタン8を押す。そうすると、ティーチングペンダント2の不揮発性メモリ14がロボット装置1−2のIDデータを消去し、ティーチングペンダント2の赤外線通信部13がペアリング解除指令をロボット装置1−2に送信し、その送信されたペアリング解除指令をロボット装置1−2の赤外線通信部13が受信し、そのペアリング解除指令に従ってロボット装置1−2の不揮発性メモリ14がティーチングペンダント2のIDデータを削除する。これにより、ロボット装置1−2とティーチングペンダント2とのペアリング解除が完了する。そして、ペアリング解除が完了すると、ペアリング表示LED9が消灯する。
【0047】
尚、ペアリングを解除するための作業が安全柵11内では行えないように、赤外線通信可能範囲を設定したり、又、赤外線通信の代わりに一時的な有線接続によってペアリング及びペアリング解除を行う場合には一時的な有線接続に用いるケーブル長を設定したりすることで、ロボット装置1−2の非常停止回路において非常停止スイッチ6が無効化された状態で、ロボット装置1−2を囲っている安全柵11内にティーチングペンダント2が放置されるおそれがなくなる。
【0048】
上述した実施形態では、ロボット装置1−2のティーチング作業を行う場合について説明したが、ティーチングペンダント2のマスターシリンダー10はロボット装置1−2固有のメカニカルキー4−2のみならず、メカニカルキー4−1〜4−n全てに対応しているので、他のロボット装置のティーチング作業についてもロボット装置1−2のティーチング作業と同様に実行することができる。
【0049】
また、上述した実施形態では、キーとしてメカニカルキーを用いたが、メカニカルキーの代わりに電子的なIDを有する電子キー(例えば、RFID(Radio Frequency Identification)カードなど)を用いるようにしてもよい。この場合、電子的なIDには、電子キーが対応している固有のロボット装置のアドレスと電子キーが対応している固有のロボット装置との通信条件の設定情報とが含まれるようにすることが望ましい。そして、キーシリンダーの代わりに、電子キー挿入部(例えば、カードスロット)を有し固有の電子キーによってのみ自動運転モードと手動運転モードとの切り替えが可能になる状態切替装置を用い、マスターキーシリンダーの代わりに、電子キー挿入部(例えば、カードスロット)を有しいずれの電子キーによってもタッチパネルへの電源供給のON/OFF切り替えが可能になるマスター状態切替装置を用いるようにするとよい。さらに、ティーチングペンダントと特定のロボット装置とがペアリングしているときは、マスター状態切替装置が、電子キーの電子的なIDに含まれるロボット装置のアドレスを認識し、特定のロボット装置のアドレスを含んでいる電子的なIDを有する電子キーによってのみタッチパネルへの電源供給のON/OFF切り替えが可能になるようにすることが望ましい。これにより、ティーチングペンダントとペアリングしていないロボット装置の電子キーによって、マスター状態切替装置の切り替え動作が可能になることを防止でき、安全性が更に向上する。
【0050】
また、ティーチングペンダント2とペアリングしているロボット装置の確認を容易にするために、ティーチングペンダント2に確認操作部(例えば、確認スイッチ)を設け、ロボット装置1−1〜1−nそれぞれに、ティーチングペンダント2との接続が確立されている旨を報知するための報知部(例えば、確認表示灯)を設け、作業者が前記確認操作部を操作すると、ティーチングペンダント2の無線通信部12から確認指令を送信し、ティーチングペンダント2とペアリングしているロボット装置の無線通信部12がその確認指令を受信し、その受信した確認指令に応じて、ティーチングペンダント2とペアリングしているロボット装置の報知部が、ティーチングペンダント2との接続が確立されている旨を報知するようにしてもよい。報知部を確認表示灯にした場合は例えば点灯によりティーチングペンダント2との接続が確立されている旨を報知するとよいが、報知部の構成に応じて他の表示或いは音などによる報知を行ってもよい。
【0051】
また、ティーチングペンダント2と教示対象となるロボット装置との接続が確立され、キー(例えば、メカニカルキー)がティーチングペンダント2のマスター状態切替装置(例えば、マスターシリンダー10)に挿入されている状態では、たとえ、教示対象となるロボット装置器に固有のキーが教示対象となるロボット装置の状態切替装置(例えば、キーシリンダー)に挿入され、教示対象となるロボット装置の操作モードが自動運転モードに切り替えられても、ティーチングペンダント2の教示が優先されるようにしてもよい。
【0052】
このような構成によると、教示対象ではないロボット装置に固有のキーがティーチングペンダント2のマスター状態切替装置に挿入されている状態では、ティーチングペンダント2との接続が確立して教示対象となっているロボット装置が自動運転モードになることはないので、より一層安全性を高くすることができる。例えば、ティーチングペンダント2との接続が確立して教示対象となっているロボット装置の制御部は、ティーチングペンダント2との接続が確立している状態で、自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されていることを検出すると、自機器の操作モードが自動運転モードに切り替えられても、ティーチングペンダント2の教示を優先する制御動作を行うようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】は、本発明に係る産業用ロボットシステムの概略構成例を示す図である。
【図2】は、ティーチングペンダントの非常停止スイッチを無効化している状態の非常停止回路を示す図である。
【図3】は、ロボット装置及びティーチングペンダントそれぞれが内蔵している通信装置の概略構成例を示す図である。
【図4】は、ティーチングペンダントの非常停止スイッチを無効化していない状態の非常停止回路を示す図である。
【図5】は、本発明に係る産業用ロボットシステムの概略構成例を示す図である。
【図6】は、本発明に係る産業用ロボットシステムの概略構成例を示す図である。
【図7】は、本発明に係る産業用ロボットシステムの概略構成例を示す図である。
【図8】は、従来の産業用ロボットシステムの概略構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1−1〜1−n ロボット装置
2 ティーチングペンダント
3−1〜3−n キーシリンダー
4−1〜4−n メカニカルキー
5、6 非常停止スイッチ
7 タッチパネル
8 ペアリングボタン
9 ペアリング表示LED
10 マスターシリンダー
11 安全柵
12 無線通信部
13 赤外線通信部
14 不揮発性メモリ
SW1 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御対象機器と、その複数の制御対象機器のうちの任意の一台を選択して、その選択した制御対象機器に対して動作を教示する教示装置とを備える機器制御システムであって、
前記複数の制御対象機器それぞれは、自機器に固有のキーが挿入されることによってのみ第1の状態と第2の状態との切り替えが可能となる状態切替装置を有し、
前記教示装置は、各制御対象機器に固有のキーのいずれが挿入されても教示が行える状態と教示が行えない状態との切り替えが可能となるマスター状態切替装置と、
教示対象となる制御対象機器に対して接続要求を送信する接続要求送信手段とを有し、
前記接続要求送信手段の接続要求に応じて、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立された状態において、前記マスター状態切替装置によって教示が行えない状態から教示が行える状態への切り替えが行われて、教示対象となる制御対象機器への教示が可能となることを特徴とする機器制御システム。
【請求項2】
前記複数の制御対象機器それぞれは、前記教示装置の教示にしたがって動作する手動モードと、教示装置の教示とは関係なく動作する自動運転モードとを切り替える操作モード切替手段を備える、請求項1に記載の機器制御システム。
【請求項3】
前記状態切替装置は前記操作モード切替手段であって、前記第1の状態は前記手動モードであり、前記第2の状態は前記自動運転モードである、請求項2に記載の機器制御システム。
【請求項4】
前記複数の制御対象機器それぞれに関する安全関連回路を有し、
自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されている制御対象機器に関する安全関連回路では、前記教示装置に設置された対応する安全関連装置を無効化し、
自機器に固有のキーが状態切替装置に挿入されていない制御対象機器に関する安全関連回路では、前記教示装置に設置された対応する安全関連装置を無効化しない、請求項1〜3のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項5】
前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が無線接続である、請求項1〜4のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項6】
前記キーがメカニカルキーである、請求項1〜5のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項7】
前記キーが電子キーである、請求項1〜5のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項8】
前記複数の制御対象機器それぞれは、自機器に固有の制御対象機器IDデータを予め格納している記憶部を有し、
前記接続要求送信手段の接続要求に応じて、教示対象となる制御対象機器が前記制御対象機器IDデータを前記教示装置に返送することにより、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立される、請求項1〜7のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項9】
前記教示装置は、前記教示装置に固有の教示装置IDデータを予め格納している記憶部を有し、
前記接続要求送信手段の接続要求により取得した前記制御対象機器IDデータに、前記教示装置IDデータを組み合わせて接続IDデータとし、
前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続確立後、前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との通信において、前記接続IDデータを用いる、請求項8に記載の機器制御システム。
【請求項10】
前記教示装置は、教示対象となる制御対象機器との接続を確認するための確認操作部を有し、
前記複数の制御対象機器それぞれは、前記教示装置との接続が確立されている旨を報知するための報知部を有し、
前記確認操作部が操作されることにより、前記教示装置との接続が確立された教示対象となる制御対象機器に備えられた報知部が、前記教示装置との接続が確立されている旨を報知する、請求項1〜9のいずれかに記載の機器制御システム。
【請求項11】
前記教示装置と教示対象となる制御対象機器との接続が確立され、前記キーが前記マスター状態切替装置に挿入されている状態では、たとえ、教示対象となる制御対象機器に固有のキーが教示対象となる制御対象機器の状態切替装置に挿入され、教示対象となる制御対象機器の操作モードが自動運転モードに切り替えられても、前記教示装置の教示が優先される、請求項3〜10のいずれかに記載の機器制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−52106(P2010−52106A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221512(P2008−221512)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000134109)株式会社デジタル (224)
【Fターム(参考)】