説明

機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】高強度であるとともに加工性に優れ、機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、Ti:0.005〜0.07%、B:0.0001〜0.01%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.60%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板組織が、主としてフェライト及びマルテンサイトからなる鋼板の表層において、前記鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の部品に用いられる鋼板の高強度化に対する要求が高まってきており、引張最大応力900MPa以上の高強度冷延鋼板も用いられるようになってきている。また、高強度鋼板を幅広く使用するためには、成形性に優れた使い易い高強度鋼板を開発する必要がある。
【0003】
一般に、鋼板の成形性は、高強度化に伴って劣化することから、高強度化しても成形性が劣化しない、即ち、成形性の良好な高強度鋼板の開発が進められている。例えば、特許文献1に記載の鋼板においては、鋼板組織をフェライト及びマルテンサイトより成る組織とし、高強度でありながら高い伸びを確保している。さらに、特許文献2に記載された、フェライト、残留オーステナイト及びベイナイト組織から成る鋼板は、残留オーステナイトの変態誘起塑性を利用することで、さらなる高延性が得られている。また、これら特許文献1、2に記載されたような鋼板は、衝突エネルギー吸収能にも優れていることから、自動車用構造部材として多くの部材に使用されている。
【0004】
一方で、従来の高強度鋼板においては、上述の成形上の課題に加えて、鋼板の高強度化に伴い、これら鋼板を加工する装置の劣化が問題となっている。例えば、シャー切断や打ち抜き加工においては、高強度の鋼板に加工を施すことから、シャー刃や打ち抜き工具の磨耗や刃こぼれといった問題が顕在化し、工具寿命の低下が問題となっている。また、これらの加工を行う際は、切断や打ち抜き荷重も大きいことから、装置の能力向上も必須となる。
機械切断や打ち抜き時の切断過程は、鋼板の塑性変形の過程、シャーやポンチと鋼板との接触位置、ダイと鋼板との接触位置での亀裂形成過程、さらには、これら亀裂が伝播−連結する過程の、3つの過程に分けることが出来る。上述のような塑性変形の過程や亀裂伝播過程は、室温や通常の加工(歪)速度での延性破壊に分類されることから、鋼板強度の増加とともに、亀裂伝播に要するエネルギーも増大する。この結果、高強度化に伴う切断荷重の増加は避けられないものとなっている。
【0005】
上述のような、機械加工の際の切断性や被削性を改善した鋼として、例えば、特許文献3、4に記載の鋼板が知られている。特許文献3、4に記載の鋼板は、鋼中に、Pb、S、Alを所定量添加して、MnS系の硫化物やAlを分散させることで、切削加工時の被削性を向上させたものである。特許文献3、4によれば、鋼中にMnSやAlといった変形能の乏しい介在物を分散させ、切削加工時にこれら介在物を破壊させることで、被削性を向上させている。しかしながら、特許文献3、4の鋼板は、鋼中の全体にわたって多量の介在物(MnS系の硫化物、Al)を含むことから、プレス成形や穴拡げ加工に代表される自動車用鋼板として必要不可欠な成形性に劣るため、プレス成形を行う部材への適用が難しいという問題があった。加えて、Pbの添加は、環境問題の観点からも好ましくないという問題があった。
【0006】
これに対し、特許文献5においては、鋼板の表層のみに酸化物を分散させた鋼板が開示されている。特許文献5に記載の技術によれば、鋼板中にSiやAlを添加するとともに、熱間圧延時に高温巻き取りを行うか、あるいは、熱延鋼板に付加的な処理を施すことで、鋼板表層にSiやMnの酸化物を形成させ、機械切断や打ち抜き加工等の加工性を向上させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−143435号公報
【特許文献2】特開平01−230715号公報
【特許文献3】特開昭59−205453号公報
【特許文献4】特開昭62−23970号公報
【特許文献5】特許第3870891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載されたような一連の反応においては、熱延段階で付加的な熱処理を行うことで、亀裂形成を促進する酸化物を分散させることから、冷間圧延のような大きな塑性変形を行う工程においても亀裂形成を促進し、板破断を誘発しやすくなる虞がある。加えて、機械加工性の向上可能な多量の酸化物を形成させると、より強加工を伴う冷延加工の際に、酸化物を起点に亀裂が形成されるか、あるいは、圧延時に酸化物が剥離して、鋼板とロール間に噛み込まれることで、鋼板表面の疵の原因になるという問題がある。また、特許文献5においては、切断時の機械切断性向上を意図した構成とはされていない。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、高強度であるとともに加工性に優れ、加工設備等を劣化させることがなく、機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
また、本発明者等は、機械切断特性を向上させるために鋭意検討した結果、鋼板の表層にある特定の形状を有する酸化物の密度を最適化することで、プレス成形や穴拡げ加工といった成形時には亀裂形成をもたらさず、機械切断時には亀裂形成を促進することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
[1] 質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、Ti:0.005〜0.07%、B:0.0001〜0.01%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.60%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板組織が、主としてフェライト及びマルテンサイトからなる鋼板の表層において、前記鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[2] 前記鋼板の表層において、結晶粒界に存在する、Siを含有する酸化物のアスペクト比が2以上であることを特徴とする上記[1]に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[3] さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.07%を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[4] さらに、質量%で、Cr:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、Cu:0.01〜2.0%、Mo:0.01〜0.8%の内の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[5] さらに、質量%で、V:0.005〜0.07%含有することを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[6] さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を、合計で0.0001〜0.5%の範囲で含有することを特徴とする上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
[7] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に亜鉛系めっきが施されてなることを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板。
【0012】
[8] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼板に冷間圧延を行なう際に、ロール径が800mm以下の小径ロールを用いて、冷延率30〜70%で冷間圧延を行うことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
[9] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼板に熱処理を施す際の炉内の雰囲気を、Hを1〜60体積%含有し、残部がN、HO、O及び不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5に制御した雰囲気で行うことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【0013】
[10] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、上記[8]に記載の条件で冷間圧延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板させて上記[9]に記載の条件で焼鈍を行なうに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、室温まで冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
[11] 前記焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、450〜250℃まで冷却した後、450〜250℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする請求項10に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【0014】
[12] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、上記[8]に記載の条件で冷間圧延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板させて上記[9]に記載の条件で焼鈍を行なうに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、{亜鉛めっき浴温度(℃)−40(℃)}℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)+50(℃)}℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬し、その後、冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[13] 請求項12に記載の方法で亜鉛めっき浴に浸漬した後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、その後、冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度合金化亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[14] 上記[10]又は[11]に記載の方法で高強度冷延鋼板を製造した後、該高強度冷延鋼板に亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板によれば、上記構成により、プレス成形や穴拡げ加工といった成形時には亀裂形成をもたらさず、良好な成形性が得られ、また、機械切断時には亀裂形成を促進することができ、良好な機械切断特性が得られる。これにより、高い強度特性に加え、優れた機械切断特性と延性とを同時に兼ね備える高強度冷延鋼板を提供することが可能となる。
【0016】
また、本発明の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、上記方法によって鋼板組織を制御することで、高い強度特性に加え、優れた機械切断特性と延性とを同時に兼ね備える高強度冷延鋼板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板(以下、単に高強度冷延鋼板と称することがある)及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法の実施形態について説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板]
本発明に係る機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板は、質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.50%、Mn:1.5〜3.0%、Ti:0.005〜0.07%、B:0.0001〜0.01%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.60%以下、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、鋼板組織が、主としてフェライト及びマルテンサイトからなる鋼板の表層において、前記鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有し、概略構成される。
本発明に係る高強度冷延鋼板は、機械切断特性に優れ、延性及び曲げ性が良好で高い加工性を有し、且つ、引張最大応力900MPa以上の高強度を有するものである。
以下、本発明に係る高強度冷延鋼板について詳述する。
【0019】
『鋼成分(化学成分組成)』
まず、本発明を実施するにあたって規定した必須の化学成分範囲の限定理由について説明する。なお、以下の説明において、各元素の添加量は全て「質量%」で表す。
【0020】
「C:炭素」0.07〜0.25%
Cは、マルテンサイトの強度を高めるものであり、高強度冷延鋼板の強度を高めるために添加される。しかし、Cの含有量が0.25%を超えると溶接性や加工性が不充分となる。また、Cの含有量が0.07%未満であると強度が不充分となる。
【0021】
「Si:ケイ素」0.3〜2.50%
Siは、鋼板表層に酸化物を形成し、機械切断時の亀裂形成を促すことから、本発明において最も重要な元素である。Siの添加量が0.3%未満であると、所定の量の酸化物を表層に分散させることが出来ず、機械切断性に劣るものとなる。また、Siの含有量は、0.45〜2.25%の範囲であることがより好ましく、0.6〜2.0%の範囲であることが最も好ましい。
また、Siは、フェライト安定化元素であり、Ac変態点を上昇させることから、広い焼鈍温度にて多量のフェライトを形成させることが可能であり、組織制御性向上の観点から添加することが好ましい。
【0022】
「Al:アルミニウム」0.60%以下
Alも、Siと同様に鋼板表層に酸化物を形成することから添加しても良く、また、脱酸剤としても使用可能である。但し、Siのみを含有させることによって上記の効果が充分に得られる場合には、Alを含有していなくてもよい。
本発明においてAlの添加量を0.60%以下としたのは、Alは、Siと比較して、かなり強いフェライト安定化元素であり、少量の添加で延性確保に必要な量のフェライトを確保できるためである。一方、0.60%を超えるAlの添加は、フェライト体積率を過剰に増大させ過ぎ、900MPa以上の強度確保が困難となるので好ましくない。
【0023】
「Mn:マンガン」1.5〜3.0%
Mnは、高強度冷延鋼板の強度を高めるために添加される。また、Feに比較して酸化しやすいため、鋼板表層に酸化物を形成し、機械切断時の亀裂形成を促進することから添加する必要がある。Mnの含有量が1.5%未満では、900MPa以上の強度確保が困難となると共に、鋼板表層での酸化物の形成促進効果が小さいことから、1.5%以上添加する必要がある。一方、Mnの含有量が3.0%を超えるとマルテンサイトの体積率が多くなりすぎて、延性確保に寄与するフェライトの体積率が不充分となり、延性及び曲げ性が不充分となるので好ましくない。Mnの含有量は、より好ましくは、1.65〜2.8%の範囲であり、さらに好ましくは、1.8〜2.6%の範囲である。
【0024】
「Ti:チタン」0.005〜0.07%
Tiは、微細析出物を析出するとともに、細粒化に寄与することから、900MPa以上の強度確保を行うために添加する必要がある。また、Bが窒化物となるのを防止し、B添加による高強度化の効果を引き出すことから、添加する必要がある。しかしながら、Tiの含有量が0.07%を超えると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化する。また、Tiの含有量が多すぎると、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残りやすく、大幅な延性低下をもたらす。このことからTiの含有量の上限を0.07%以下とする。また、Tiの含有量が0.005%未満であると、Tiを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。また、Tiの含有量は、0.01〜0.06%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.05%の範囲であることがさらに好ましい。
【0025】
「B:ホウ素」0.0001〜0.01%
Bは、オーステナイトからのフェライト変態を遅延することから、鋼板の高強度化に活用でき、加えて、マルテンサイト体積率を確保するために重要である。特に、本発明のような高強度冷延鋼板は、疲労耐久性確保の観点から、多量のSiを含み、マルテンサイト体積率が小さくなりがちである。このことから、Bによるフェライト変態遅延を活用して、マルテンサイト体積率を確保する必要がある。しかしながら、Bの含有量が0.0001%未満であると、上記効果が十分に得られない。また、Bの含有量が0.01%を超えると、Bを含有することによる効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造性を低下させる。また、Bの含有量は、0.0003〜0.007%の範囲であることがより好ましく、0.0005〜0.005%の範囲であることがさらに好ましい。
【0026】
「P:リン」0.001〜0.03%
Pは、鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。Pの含有量が0.03%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.03%以下に限定した。また、Pの含有量の下限値は特に定めないが、0.001%未満とすることは、経済的に不利であることから、この値を下限値とした。
【0027】
「S:硫黄」0.0001〜0.01%
Sは、溶接性、並びに、鋳造時及び熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、Sの含有量の上限値を0.01%以下とした。Sの含有量の下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることから、この値を下限値とする。また、SはMnと結びついて粗大なMnSを形成することから、曲げ性を低下させる。このため、Sの含有量は出来るだけ少ないことが好ましい。
【0028】
「N:窒素」0.0005〜0.0100%
Nは、TiやBと窒化物を生成し、これら元素の添加効果を減じることから、Nの含有量を0.0100%以下とする。加えて、Nは、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が好ましい。また、Nの含有量の下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、Nの含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
【0029】
「O:酸素」0.0005〜0.007%
Oは、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。特に、酸化物は介在物として存在する場合が多く、打抜き端面あるいは切断面に存在すると、端面に切り欠き状の傷や粗大なディンプルを形成することから、曲げ時や強加工時に応力集中を招き、亀裂形成の起点となって大幅な穴拡げ性あるいは曲げ性の劣化をもたらす。Oの含有量が0.007%を超えると、この傾向が顕著となることから、Oの含有量の上限を0.007%以下とした。また、Oの含有量を0.0005%と未満とすることは、過度のコスト高を招き、経済的に好ましくないことから、これを下限とした。但し、Oの含有量を0.0005%未満にしたとしても、本発明の効果である900MPa以上の引張最大応力と優れた疲労耐久性を確保できる。
【0030】
本発明においては、上記必須元素に加え、さらに、以下に説明するような元素を選択的に添加することができる。以下、本発明における選択成分元素の添加範囲の限定理由につい説明する。
【0031】
「Nb:ニオブ」0.005〜0.07%
Nbは、強化元素であり、Tiと同様に、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化、及び、再結晶の抑制を通じた転位強化において、鋼板の強度上昇に寄与する。しかしながら、Nbの含有量が0.07%を超えると、炭窒化物の析出が多くなって成形性が劣化する。また、Nbの含有量が多いと、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残りやすく、大幅な延性低下をもたらす。このため、Nbの含有量の上限を0.07%以下とすることが好ましい。また、Nbの含有量が0.005%未満であると、Nbを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。また、Nbの含有量は、0.01〜0.06%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.05%の範囲であることがさらに好ましい。
【0032】
「Cr:クロム」0.01〜2.0%、
「Ni:ニッケル」0.01〜2.0%、
「Cu:銅」0.01〜2.0%、
「Mo:モリブデン」0.01〜0.8%、の内の1種または2種以上
Cr、Ni、Cu、Moは、強度の向上に寄与する元素であり、Mnの一部に代えて用いることができる。Cr、Ni、Cu、Moは、これらの内の1種又は2種以上を、それぞれ0.01%以上含有することが好ましい。一方、各元素の含有量が多すぎると、酸洗性や溶接性、熱間加工性などが劣化することがあるため、Cr、Ni、Cuの含有量は2.0%以下であることが好ましく、Moの含有量は0.8%以下であることが好ましい。
【0033】
「V:バナジウム」0.005〜0.07%
Vは、強化元素であり、Ti、Nbと同様に、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化、及び、再結晶の抑制を通じた転位強化において、鋼板の強度上昇に寄与する。また、Vを含有させることで、遅れ破壊特性を向上させることができる。このことから、本発明に係る引張最大強度が900MPaを超える高強度冷延鋼板の製造にあたっては、Vを含有させることが好ましい。
【0034】
しかしながら、Vの含有量が0.07%を超えると、炭窒化物の析出が多くなり、成形性が劣化する。また、Vの含有量が多いと、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき設備での製造の際に、フェライトの再結晶を大幅に遅延することから、焼鈍後に未再結晶フェライトが残りやすく、大幅な延性低下をもたらすため、上限を0.07%以下とすることが好ましい。また、Vの含有量が0.005%未満であると、Vを含有することによって得られる上記効果が不十分となる。また、Vの含有量は、0.01〜0.06%の範囲であることがより好ましく、0.015〜0.05%の範囲であることがさらに好ましい。
【0035】
「Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5%」
Ca、Ce、Mg、REMは、硫化物や酸化物の形態制御を通じて、穴拡げ性や曲げ性改善に寄与する元素である。これらCa、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上の合計含有量が0.0001%未満であると十分な効果が得られない場合があり、また、0.5%を超えると延性を損なう虞がある。
【0036】
『鋼板組織』
本発明に係る高強度冷延鋼板は、上述のように、鋼板組織が、主としてフェライト及びマルテンサイトからなる構成とされている。
【0037】
本発明に係る高強度冷延鋼板の鋼板組織は、主として上述のフェライトとマルテンサイトより構成されており、また、ベイナイトや残留オーステナイトを含むことも可能である。また、本発明に係る高強度冷延鋼板の鋼板組織に含まれるマルテンサイトは粒状であり、フェライト粒界あるいは粒内の何れにも存在することが可能である。なお、個々のマルテンサイト粒は、一見して一つの粒に見える場合がある。透過型電子顕微鏡(TEM)による組織観察や、走査電子顕微鏡(SEM)−後方散乱電子回折(EBSP)法等を用いて結晶方位解析を行うと、マルテンサイト組織は、パケット、ブロック、ラスといった階層構造により構成されている。
【0038】
マルテンサイト組織を構成するパケット、ブロック、ラスは、TEMによる組織観察やSEM−EBSP法を用いた結晶方位解析の他、電界放射型走査電子顕微鏡{FE(Field Emission)−SEM}−EBSP法を用いた高分解能結晶方位解析等によって確認できる。
【0039】
本発明の高強度鋼板は、延性及び曲げ性の良好な引張最大応力900MPa以上を有するものである。本発明の高強度鋼板における鋼板組織は、フェライトを主としてマルテンサイトを含む複相組織鋼板であり、延性確保に寄与するフェライトの体積率を下記範囲とすることで、特に優れた延性を確保できる。
【0040】
本発明の高強度鋼板の引張最大応力は、強化組織であるマルテンサイトの体積率に依存することから、狙いとする鋼板強度に合せてマルテンサイトの体積率を変化させることが望ましい。
例えば、鋼板の引張最大応力を900〜1130MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は60%〜85%の範囲であることが好ましく、65%〜80%の範囲であることがより好ましい。
また、鋼板の引張最大応力を1130〜1280MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は55%〜80%の範囲であることが好ましく、60%〜75%の範囲であることがより好ましい。
また、鋼板の引張最大応力を1280〜1430MPaの範囲とするのであれば、フェライトの体積率は50%〜75%の範囲であることが好ましく、55%〜70%の範囲であることがより好ましい。
【0041】
上述のように、鋼板の引張最大応力に応じて、フェライトの体積率を上記範囲に制御することで、良好な機械切断性、900MPa以上の引張最大応力(TS)、並びに、強度−延性バランス(TS×El.)16000(MPa×%)以上の優れた延性が得られる。なお、強度−延性バランス(TS×El.)とは、引張試験における引張最大応力(TS)と全伸び(El.)との積である。
【0042】
また、本発明においては、フェライトの平均結晶粒径(dF)を5μm以下とすることが好ましく、4.5μm以下とすることがより好ましく、4μm以下とすることが最も好ましい。
フェライトの平均結晶粒径(dF)を上記範囲としたのは、結晶粒径を細粒化することにより、延性をさほど劣化させずに、降伏応力及び引張最大強度を増加させることができるためである。また、フェライトの平均結晶粒径(dF)を5μm以下にすると、変形の局在化や亀裂伝播が生じ難くなり、引張変形であれば局部延性の向上がもたらされ、曲げや穴拡げ成形であれば曲げ性や穴拡げ率の向上がもたらされる。しかしながら、フェライトの平均結晶粒径(dF)が上記範囲を超えると、細粒化による強度上昇への寄与が小さくなる。このため、鋼に含まれるマルテンサイトの体積率を増加させることによって強度を補わねばならなくなり、フェライトの体積率が不十分となって延性が不十分となる虞がある。
【0043】
また、マルテンサイトの平均結晶粒径(dM)は、フェライトの平均結晶粒径(dF)の1/3以下とすることが好ましく、出来るだけ小さくすることが好ましい。具体的には、マルテンサイトの平均結晶粒径(dM)は、1.5μmとすることが好ましく、1.2μmとすることがより好ましく、0.9μmとすることが最も好ましい。
硬質なマルテンサイトは、軟質なフェライトと変形能が大きく異なる。このため、引張変形であればネッキング後の大変形下、曲げ成形であれば、小Rでの曲げ加工あるいは穴拡げ成形中に、鋼板のフェライトとマルテンサイト界面に変形が集中し、破壊へと至ってしまう虞がある。このような問題に対し、マルテンサイトを細粒化して、平均結晶粒径(dM)を1.5μm以下とすることで、フェライトとマルテンサイトとの個々の界面における変形の集中が抑制されるので、界面へのマイクロボイドや亀裂形成を抑制することが可能となる。
【0044】
『鋼板の表層における酸化物の分布』
本発明に係る高強度冷延鋼板においては、良好な機械切断性を得るため、鋼板表層の酸化物の分布や形態を厳密に制御する必要がある。即ち、鋼板組織が上記構成とされたうえで、鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有する。また、本発明においては、鋼板の表層において、結晶粒界に存在する、Siを含有する酸化物のアスペクト比を2以上とすることで、さらに良好な機械切断性が得られる。
【0045】
本発明者等は、高強度冷延鋼板に機械切断や打ち抜き加工等を施す際の機械切断特性を向上させるために鋭意検討した。この結果、高強度冷延鋼板を切断する際の亀裂形成の元となる酸化物を鋼板表層に分散させることにより、機械切断や打ち抜き加工等の際に酸化物が亀裂形成の元となり、機械切断が容易になることを見出した。さらに、本発明者等は、鋼板の表層に分散させる酸化物の密度を適性化、具体的には2×10(個/mm)以上とすることにより、機械切断特性を向上させる効果が顕著になることを見出した。さらには、酸化物の形態を制御し、板厚方向のアスペクト比を2以上とすることで、機械切断性の改善効果が顕著になることを見出した。
【0046】
本発明において、酸化物の密度を2×10(個/mm)以上としたのは、鋼板表層にSiを含む酸化物を上記範囲で密度分散させることで、機械切断性が改善するためである。
なお、1×1011(個/mm)超で酸化物を分散させた場合には、鋼板内部のみならず、表面への酸化物形成も著しく促進されてしまい、溶融めっき鋼板であれば不めっきや合金化遅延を、電気亜鉛めっき鋼板であればめっき剥離しやすくなり、冷延鋼板であれば化成性を劣化させることから好ましくない。このため、酸化物の密度は、1×1011(個/mm)以下とすることが好ましい。
【0047】
なお、本発明では、結晶粒界に存在する、Siを含有する酸化物のアスペクト比を、板厚方向で2以上とすることにより、酸化物を板厚方向に伸長した形状とすることで、鋼板表層に楔状の酸化物を分散させ、板厚方向への亀裂形成を促進することがより好ましい。これは、酸化物の形状が球状、あるいは、圧延方向と垂直な方向に伸びた形状とした場合、板厚方向への亀裂形成促進効果が得られ難く、酸化物の密度を多くする必要があり、機械切断性とめっき性、化成性の両立が困難となるためである。また、より好ましくは、アスペクト比を2.5以上、さらに好ましくは3.0以上に制御する必要がある。
【0048】
高強度冷延鋼板の機械切断特性を向上させるために、鋼板表層に分散させる酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Si、Ai又はMnを含む酸化物等を用いることができる。そして、これらの酸化物を高強度冷延鋼板の表層に分散させることにより、機械切断や打ち抜き加工時の亀裂形成を促進し、高強度冷延鋼板の機械加工特性を向上させることができる。このように、高強度冷延鋼板の表層近傍に内部酸化物を高密度で分散させる方法としては、例えば、鋼板の製鋼過程においてSi、Ai又はMnを添加したうえで、冷間圧延時の鋼板表層へのせん断歪の導入、及び、引き続いて行われる熱処理過程での、炉内の雰囲気を制御する方法等が挙げられる。
【0049】
本実施形態で説明する例において、高強度冷延鋼板の表層に分散させる酸化物をSi、Ai又はMnとした理由としては、鋼板表層に楔状に酸化物を分散させるためである。一方、例えば、FeあるいはFeより酸化し難いNi等の酸化物を鋼板表層に分散させた場合、鋼板表面に露出したFeが膜状に酸化してしまうため、機械切断特性を向上させることが困難となる。また、一般に、酸化物は溶融金属との間の濡れ性が良くないことから、その後のめっき工程において不めっきを生じさせたり、あるいは、化成処理特性を劣化させたりする虞があることから好ましくない。このような理由により、鋼板の機械切断特性の向上を目的として酸化物を含有させる場合には、Feよりも酸化し易い元素を主体とする酸化物を利用する必要がある。
また、鋼板表面においてSi酸化物が膜状となった場合も、上記同様、機械切断特性向上に何ら寄与せず、めっき性、合金化反応あるいは化成処理性を劣化させることから好ましくない。このことから、冷間加工及び熱処理工程で製造条件をある範囲に制御することで、酸化物の分布や形態を制御する必要がある。
【0050】
例えば、製鋼過程においてSi、Ai又はMnを添加したとしても、通常の炉内雰囲気で熱処理を施したのでは、これらの元素は、鋼板表面において酸化物を形成してしまい、鋼板表層の内部に、これら酸化物を分散させることは出来ないという問題がある。即ち、通常の連続焼鈍設備や連続溶融亜鉛めっき設備における炉内雰囲気は、Feにとっては還元雰囲気であっても、Si、AlあるいはMnにとっては酸化雰囲気となる。このため、通常のFeの還元雰囲気では、鋼板内部に含まれるSi、Ai又はMnの各々は、鋼板表面へ拡散し、鋼板表面で膜状の酸化物を形成してしまう。
そこで、本発明においては、詳細を後述する製造方法を採用することで炉内の雰囲気を制御することにより、Si、Ai又はMnが鋼板表面に拡散する前に、鋼板表層近傍における内部で、酸化物として析出させることが可能となる。
【0051】
なお、高強度冷延鋼板の表層に酸化物を分散させて形成する際は、鋼板表面の外観品位の確保や製造性の確保等の観点から、冷延後の焼鈍時に形成させることが簡便であるとともに、成形性、概観確保の観点からも好ましい。
【0052】
また、本発明においては、上述のような高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層や合金化した亜鉛メッキ層を設けることにより、高強度亜鉛めっき鋼板を構成することが可能である。高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層が形成されていることにより、優れた耐食性を有する鋼板となる。また、高強度冷延鋼板の表面に、合金化した亜鉛メッキ層が形成されていることにより、優れた耐食性を有し、塗料の密着性に優れたものとなる。
【0053】
なお、製鋼段階において、鋼板中のO濃度を高めておいて、Alのような酸化物を、鋼板表層のみならず、内部まで分散させることも可能であるが、機械切断性が改善可能なほどの多量の酸化物を分散させるとプレス成形性が劣化してしまうことから、優れたプレス成形性が必要な用途には適用し難い。
【0054】
『引張最大強度』
本発明において、鋼板強度を900MPa以上としたのは、900MPa以上の高強度鋼板において、シャー切断や打ち抜き加工の際の工具劣化が顕著になるためである。900MPa未満の鋼板であっても、本発明の効果である機械切断性改善の効果は享受できるものの、その効果が小さいことから、900MPa以上の鋼板に規定した。
【0055】
『機械切断特性』
本発明において説明する機械切断特性とは、例えば、以下に説明するような方法で測定し、評価することができる。
一般に、高強度鋼板に対し、シャー切断やポンチによる打ち抜き加工を多数行うと、シャー刃やポンチ先端が磨耗し、クリアランスが増加する。このため、鋼板の打ち抜き回数が増加すると、シャー切断端面や打ち抜き端面のバリが大きくなる。そこで、本発明に係る高強度鋼板の機械切断特性を評価する方法としては、厚さ1.2mmの鋼板を、穴径10.3mmφのダイ、ポンチ材質SKD11、ポンチ径10mmφ(クリアランス12.5%)の条件にて、連続して打ち抜き加工を行い、50回毎にバリ高さを測定する方法を採用することができる。
【0056】
上記方法による評価においては、鋼板の打ち抜き回数が増大すると、ポンチ先端が磨耗し、クリアランスが大きくなることから、バリ高さが増加することが明らかとなっている。但し、測定を重ねた結果、ケースによっては、後半の特定端面のみ、顕著にバリ高さが変化する場合が見受けられた。そこで、打ち抜き穴を、0、90、180、270°の各位置で4分割し、何れか一方向のバリ高さが初期値の3.0倍を越えた時点で試験を終了し、この際の打ち抜き回数を限界の打ち抜き回数と定義する。本発明においては、打ち抜き回数が500回を超えるものを機械切断特性に優れた高強度鋼板と規定することができる。より好ましくは、限界打ち抜き回数が800回であり、さらに好ましくは1000回である。
【0057】
以上説明したような本発明に係る機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板によれば、上記構成により、プレス成形や穴拡げ加工といった成形時には亀裂形成をもたらさず、良好な成形性が得られ、また、機械切断時には亀裂形成を促進することができ、良好な機械切断特性が得られる。これにより、高い強度特性に加え、優れた機械切断特性と延性とを同時に兼ね備える高強度冷延鋼板を提供することが可能となる。
【0058】
[高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法]
次に、本発明に係る機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度冷延鋼板の製造方法は、上述した化学成分組成を有する鋼板に冷間圧延を行なう際に、ロール径が800mm以下の小径ロールを用いて、冷延率30〜70%で冷間圧延を行う方法とする。
また、本発明の製造方法は、上述した化学成分組成を有する鋼板に熱処理を施す際の炉内の雰囲気を、Hを1〜60体積%含有し、残部N、HO、O及び不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5に制御した雰囲気で行う方法とする。
【0059】
そして、本発明の高強度冷延鋼板の製造方法は、上記化学成分組成を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、請求項7に記載の条件で冷間圧延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板させて請求項8に記載の条件で焼鈍を行なうに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、室温まで冷却する方法である。
【0060】
本発明の高強度冷延鋼板を製造するには、まず、上述した化学成分組成を有するスラブを鋳造する。熱間圧延に供するスラブの製造方法は、特に限定されるものではなく、連続鋳造スラブや薄スラブキャスター等で製造したものを適宜用いることができる。また、本発明の製造方法は、鋳造後、直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)プロセスにも適合できる。
【0061】
次に、鋳造されたスラブを直接又は一旦冷却した後、1050℃以上に加熱し、Ar変態点以上の仕上げ圧延温度で熱間圧延を完了する。本発明においては、熱間圧延におけるスラブの加熱温度を1050℃以上にする必要がある。なお、熱間圧延におけるスラブの加熱温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮される。しかし、スラブの加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないため、スラブの加熱温度の上限は1300℃未満とすることが好ましい。
【0062】
熱間圧延におけるスラブの加熱温度が1050℃未満であると、仕上げ圧延温度がAr変態点未満となってフェライト及びオーステナイトの二相域圧延となり、熱延板組織が不均質な混粒組織となるので、冷延及び焼鈍工程を経たとしても不均質な組織が解消されず、延性や曲げ性に劣るものとなる。また、本発明に係る高強度鋼板の製造方法においては、焼鈍後に900MPa以上の引張最大応力を有する高強度鋼板を得るため、スラブに多量の合金元素を含有している。このため、熱間圧延の仕上げ圧延時における圧延荷重が大きくなりがちである。熱間圧延におけるスラブの加熱温度が1050℃未満であると、仕上げ圧延温度が低くなり、更なる圧延荷重の増加を招くため、熱間圧延における仕上げ圧延が困難となったり、熱間圧延後に得られる鋼板の形状不良を招いたりする虞がある。
【0063】
なお、本実施形態において、Ar変態点は以下の式により計算する。
Ar変態点(℃)=901−325×C+33×Si−92×(Mn+Ni/2+Cr/2+Cu/2+Mo/2)
なお、上記式中のC、Si、Mn、Ni、Cr,Cu、Moは、鋼中の各成分の含有量(質量%)である。
【0064】
また、熱間圧延の仕上げ圧延温度は、Ar変態点以上であればよく、上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮される。しかしながら、熱間圧延の仕上げ圧延温度を過度に高温とした場合、その温度を確保するために、スラブの加熱温度を過度に高温にせねばならなくなり、好ましくない。このことから、熱間圧延の仕上げ圧延温度の上限温度を、1000℃以下とすることが望ましい。
【0065】
次に、熱間圧延を完了した鋼板を400℃〜670℃の温度域にて巻き取る。ここでの巻き取り温度が670℃を超えると、熱延組織中に粗大なフェライトやパーライト組織が存在するものとなる。このため、焼鈍後の組織不均質性が大きくなり、最終製品の曲げ性が劣化する。また、巻き取り温度が670℃を超えると、鋼板表面に形成される酸化物の厚さが過度に増大するため、後述する酸洗による効果が十分に得られなくなるので好ましくない。
【0066】
また、巻き取り温度が630℃以下であると、焼鈍後の組織を微細にして強度延性バランスを向上させるとともに、焼鈍後の組織を均質分散させて曲げ性を向上させることができ、より好ましい。しかしながら、巻き取り温度が400℃未満になると、熱延板強度が極端に増加することから、冷間圧延の際に板破断や形状不良といったトラブルを誘発しやすくなる。従って、巻き取り温度の下限は400℃とする必要がある。
なお、仕上げ圧延は、熱延時に粗圧延板同士を接合して連続的に行っても良い。また、粗圧延板は、一旦巻き取っても構わない。
【0067】
次に、熱間圧延を完了し、巻き取られた鋼板を酸洗する。酸洗を行うことにより、鋼板表面の酸化物を除去することができる。このため、酸洗は、最終製品の高強度冷延鋼板の化成性や、溶融亜鉛あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の冷延鋼板の溶融めっき性を向上させるために、重要である。また、酸洗は、一回行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。
【0068】
その後、冷間圧延並びに焼鈍を行うことで、酸化物の形態や分布を制御するとともに、900MPa以上の引張最大強度と優れた成形性を具備させるため、鋼板の組織を制御する。この際、まず、以下に詳述する条件の冷間圧延及び焼鈍を適用するとともに、以下に示す第1条件または第2条件で高強度冷延鋼板を製造する。
【0069】
「冷間圧延条件」
本発明の製造方法においては、鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有させるため、上述した化学成分組成を有する鋼板に冷間圧延を行なう際に、ロール径が800mm以下の小径ロールを用いて、冷延率30〜70%で冷間圧延を行う方法とする。このような方法とすることにより、高強度冷延鋼板の表面に多くのせん断歪を導入し、鋼板表層に酸化物を高密度で分散させることが可能となる。
【0070】
本発明において、冷延時のロール径を800mm以下と規定したのは、鋼板表面にせん断歪を可能な限り多く導入し、酸化物を高密度に分散させるためである。このような作用が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、粒界や転位が高密度に絡み合ったせん断帯には、楔状の酸化物が形成しやすい傾向があるためと考えられる。あるいは、せん断帯は、再結晶の優先核生成サイトになることから、鋼板表面の細粒化をもたらすためと考えられる。これらの結果、粒界面積が増大し、酸化物の密度も増加するものと考えられる。
上記理由により、冷延時に用いるロールの径を800mm以下とし、鋼板表面に効果的にせん断歪を加えることが好ましい。また、ロール径は出来る限り小径であることが好ましく、700mm以下とすることがより好ましい。一方、ロール径を過度に小さくすると、磨耗により消耗が早くなってしまう等、メンテナンスコストが高くなることから、100mm以上とすることが好ましい。
【0071】
また、本発明に係る製造方法においては、圧延油を用いて上述のような冷間圧延を行っても良い。ここで、鋼板表層にせん断歪を効果的に導入する観点からは、鋼板表面の摩擦係数は高い方が望ましいものの、無潤滑では圧延荷重の増大を招いてしまうという問題がある。このため、鋼板表面の摩擦係数を大幅に低減しない範囲であれば、圧延油を用いた冷間圧延を行っても良い。
【0072】
「焼鈍(熱処理)の条件」
本発明に係る高強度鋼板の製造方法では、上述した化学成分組成を有する鋼板に熱処理を施す際の炉内の雰囲気を、Hを1〜60体積%含有し、残部N、HO、O及び不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5に制御した雰囲気で行う方法とする。本発明においては、炉内雰囲気を上記条件とすることにより、高強度冷延鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有させることが可能となる。また、Siを多量に含有する鋼板であっても、連続めっきラインの炉内の雰囲気を上記条件とすることで、鋼板内部にSi酸化物を分布させることができ、この酸化物により、溶融金属との間の濡れ性の向上や、合金化反応の促進を図ることが可能となる。
【0073】
本発明に係る製造方法において、炉内の雰囲気のH濃度を1〜60体積%の範囲としたのは、60体積%を超えてH濃度が増加すると製造コストが上昇し、また、1体積%未満だと、鋼板に含まれるFeが酸化して濡れ性やめっき密着性を低下させるためである。特に、H濃度を60体積%超とすることは経済的に好ましくないことから、本発明に係る製造方法では、これを上限とし、炉内の雰囲気のH濃度を1〜60体積%の範囲とした。
【0074】
また、本発明に係る製造方法において、炉内の雰囲気の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5とすることで、Siを多量に含む鋼であっても、優れためっき性が確保される。ここで、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)の下限を−3以上としたのは、この数値未満では鋼板表面にSiを含む酸化物が形成される割合が多くなり、濡れ性やめっき密着性を低下させるためである。一方、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)の上限を−0.5としたのは、これ以上の数値としても、その効果が飽和するためである。
【0075】
即ち、本発明に係る製造方法においては、炉内の雰囲気を上記範囲に制御することで、鋼板内部において、Feが酸化せず、且つ、Siが内部酸化する条件となる。ここで、本発明において説明する内部酸化とは、鋼板の内部に酸化物が形成される現象であり、鋼板内部に拡散したOと、鋼板内部に含まれるSiとが反応して酸化物を形成することで、Siが鋼板表層に拡散する前に、鋼板内部で酸化物を形成する現象である。これにより、不めっきや、めっき密着性の低下の原因であった、鋼板表面における酸化物形成を抑制することが可能となる。
【0076】
なお、本発明に係る製造方法においては、炉内の雰囲気を制御する方法として、水分圧と水素分圧との比を制御する方法を採用しているが、これには限定されない。例えば、二酸化炭素と一酸化炭素、又は、二酸化窒素と一酸化窒素との分圧を制御するか、あるいは、炉内に直接酸素を吹き込む方法であっても上記同様の効果が得られる。また、炉内の水分圧と水素分圧との比は、炉内に水蒸気を吹き込むことで調整する方法が簡便で好ましい。
【0077】
従来の製造方法を用いて冷延鋼板または亜鉛めっき鋼板を製造する場合、製造時における焼鈍炉内の雰囲気が適性化されていないため、以下に示すような問題が生じる虞があった。
本発明に係る高強度冷延鋼板では、機械切断性を向上させるためのSi酸化物を表層に形成させるために、鋼板中にSiを添加している。このSiは、Feと比較して極めて酸化しやすい元素であるため、Siの添加された鋼板の表面には、Si酸化物が形成されやすい。鋼板の表面に形成されたSi酸化物は、高強度冷延鋼板における化成処理性を劣化させる原因となる。また、これらの酸化物は、亜鉛などの溶融金属との濡れ性が悪いため、Siの添加された高強度鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成する場合、不めっきの原因となる。また、Siは、合金化処理を施した高強度亜鉛めっき鋼板を製造する際に、合金化を遅延するなどの問題を引き起こす場合があった。
【0078】
これに対し、本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法では、鋼板の焼鈍を行う際の炉内雰囲気を上記条件とすることにより、鋼板表面への酸化物形成が抑制されることから、高強度冷延鋼板を製造した場合においては高強度冷延鋼板の化成処理性を向上させることができる。これにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造した場合においては高強度亜鉛めっき鋼板の濡れ性の向上を向上させることができ、不めっきを抑制できるとともに合金化反応の促進を図ることができる。
【0079】
なお、上述したように、高強度冷延鋼板の表層に酸化物を分散させて形成する際は、鋼板表面の外観品位の確保や製造性の確保等の観点から、冷延後の焼鈍時に形成することが簡便であるとともに、成形性、概観確保の観点からも好ましい。
【0080】
また、本発明に係る製造方法においては、めっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前の鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの内の単独あるいは複数からなるめっきを施しても良く、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0081】
さらには、めっき前の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H及びNを含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に侵漬する」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初に鋼板表面を酸化させ、その後還元することにより、めっき前の清浄化を行った後にめっき浴に侵漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行い、めっき浴に侵漬」というフラックス法等があるが、何れの条件で処理を行った場合でも、本発明の効果が得られる。
【0082】
「第1条件」
上記条件で冷延された鋼板を、上記条件で焼鈍を行なう連続焼鈍ラインに通板させるに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、室温まで冷却する。
【0083】
「第2条件」
上記条件で冷延された鋼板を、上記条件で焼鈍を行なう連続焼鈍ラインに通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で450〜250℃まで冷却した後、450〜250℃の温度域で30秒以上保持する。
【0084】
本発明に係る製造方法では、上記第1条件又は第2条件の工程を備えることにより、機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板が得られる。
【0085】
また、本発明においては、第1条件又は第2条件で得られた高強度冷延鋼板に亜鉛系電気めっきを施すことにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造することが可能である。
またさらに、本発明においては、上記方法によって得られた冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインに通板させることにより、高強度亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。この場合には、以下に示すような第3条件又は第4条件で処理を行う。
【0086】
「第3条件」
連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間を第1条件と同様にして冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、{亜鉛めっき浴温度(℃)−40(℃)}℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)+50(℃)}℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬し、その後、冷却する。
上述のように、鋼板を、630℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)−40(℃)}℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)+50(℃)}℃間において好適な温度まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬することで、表面に亜鉛めっき層が形成された高強度亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0087】
「第4条件」
連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第3条件と同様にして、亜鉛めっき浴に浸漬するまでの工程を行った後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、その後、冷却する。
このような合金化処理を行うこことで、表面に亜鉛メッキ層が合金化されてなるZn−Fe合金が形成され、表面に合金化した亜鉛メッキ層を有する高強度亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0088】
以上説明したような本発明に係る機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、上記方法によって鋼板組織を制御することで、高い強度特性に加え、優れた機械切断特性と延性とを同時に兼ね備える高強度冷延鋼板を製造することが可能となる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明に係る機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0090】
[鋼板の製造]
まず、製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御することにより、下記表1に示す化学成分組成のスラブを得た。
【0091】
【表1】

【0092】
その後、得られた冷延鋼板を、下記表2及び表3に示す条件の連続焼鈍ライン又は連続溶融亜鉛めっきラインを通板させて高強度冷延鋼板または高強度亜鉛めっき鋼板を製造した。この際、各実験例において、以下に説明する第1〜第4条件の各々を適宜適用し、各鋼板を製造した。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
「第1条件」
連続焼鈍ライン又は連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、加熱時に550〜760℃間の温度において表2及び表3に示す滞留時間で滞留させ、さらに、表2及び表3に示す最高加熱温度〜Ac℃で焼鈍を行った。そして、最高到達温度〜630℃間を表2に示す平均冷却速度で冷却した後、さらに、630℃〜570℃間を表2及び表3に示す平均冷却速度で冷却し、鋼板を製造した。
その後、一部の実験例においては、表2及び表3に示す保持温度において、表2及び表3に示す保持時間で保持することにより、以下に説明する第2〜第4条件の工程を行なった。
【0096】
「第2条件」
連続焼鈍ラインを通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間、630℃〜570℃間を第1条件と同様にして冷却した。さらに、450〜250℃の温度域で30秒以上保持することにより、鋼板を製造した。
【0097】
「第3条件」
連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第1条件と同様にして焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間を第1条件と同様にして冷却した。さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、{亜鉛めっき浴温度(℃)−40(℃)}℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)+50(℃)}℃まで冷却した。その後、亜鉛めっき浴に浸漬し、冷却することにより、表面に亜鉛めっき層が形成された鋼板を製造した。
【0098】
「第4条件」
連続溶融亜鉛めっきラインを通板させるに際して、上述した第3条件と同様にして、亜鉛めっき浴に浸漬するまでの工程を行った後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、その後、冷却することにより、表面に合金化した亜鉛メッキ層を有する鋼板を製造した。
【0099】
[評価試験]
上記方法によって製造した各実験例の鋼板について、以下のような評価試験を行った。
【0100】
「鋼板組織」
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて各実験例の鋼板の組織観察を行い、鋼板の組織分率、並びに、フェライト及びマルテンサイト粒径を測定し、下記表4及び表5に記載した。ここで、フェライト、マルテンサイト、パーライト、セメンタイト、ベイナイト、オーステナイト及び残部組織の同定や、存在位置の観察及び面積率の測定は、ナイタール試薬及び特開59−219473号公報に開示された試薬により、鋼板圧延方向断面又は圧延方向直角方向断面を腐食して、板厚の1/4厚み位置を1000〜10000倍にて観察した。
なお、組織の同定にあたっては、本実施例では上記方法を採用したが、その他、光学顕微鏡、FESEM(電界放射型走査電子顕微鏡)−EBSP(後方散乱電子回折)法を用いた結晶方位解析や、マイクロビッカース硬度測定等の微小領域の硬度測定を用いることも可能である。
【0101】
「酸化物の分布密度並びにアスペクト比」
酸化物の個数密度並びにアスペクト比の測定に関しては、SEM並びにEPMAを用いることで評価した。まず、鋼板圧延方向断面または圧延方向直角方向断面を観察面とし、埋め込み研磨を行った後、EPMAにて、Si、Mn、Al、Oの元素のマッピングを行い酸化物の種類を同定した。その後、SEMを用いて、3000倍にて、各20視野ずつ観察を行い、酸化物の個数密度を測定し、その平均値を個数密度とした。なお、本発明の成分並びに製造条件で製造した鋼板の表層に存在する酸化物は、Siを含有するSiO、MnSiO等の酸化物であり、その一部が、AlやCrで置換された酸化物であった。
また、本発明では、Siの一部が、AlやCrで置換された含む酸化物であっても、Siを多く含む酸化物であることから、Si酸化物として個数密度やアスペクト比を測定した。なお、本実施例において、鋼板表層とは、鋼板表面を示すのではなく、冷延鋼板であれば表面近傍の地鉄側を示し、電気めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であれば、めっき層と地鉄界面から鋼板側の界面近傍を指す。
【0102】
「機械切断特性」
各実験例の鋼板を厚さが1.2mmに成るように、冷間圧延、焼鈍、めっきを行い、板厚1.2mmの鋼板を加工した後、穴径10.3mmφのダイ、ポンチ材質SKD11、ポンチ径10mmφ(クリアランス12.5%)の条件にて、連続して打ち抜き加工を行い、50回毎にバリ高さを測定した。この際、打ち抜き穴を、0、90、180、270°の各位置で4分割し、何れか一方向のバリ高さが初期値の1.5倍を越えた時点で試験を終了し、この際の打ち抜き回数を限界の打ち抜き回数とし、結果を下記表4及び表5に記載した。なお、本実施例においては、製品板の板厚を変えることなく種々の冷延率を得るために、熱延板の厚みを種々変化させて製品板を作製した。
【0103】
「引張最大強度(TS)及び伸び率(EL:延性)」
各実験例の鋼板から、JIS Z 2201に記載の5号試験片を加工して、JIS Z 2241に記載の試験方法に沿って、引張最大強度TS(MPa)及び伸び率(EL)を測定し、下記表4及び表5に記載した。
【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
[評価結果]
表1〜表5に示すように、本発明で規定する鋼成分を有し、また、本発明で規定する製造条件によって製造された本発明例(表1〜表5の備考欄を参照)の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板は、鋼板表層における酸化物の分布密度が全て2×10(個/mm)以上であり、また、機械切断特性の指標である限界打ち抜き回数が全て800回以上、引張最大強度が900MPa以上、強度−延性バランス(TS×El)が16000(MPa×%)以上であった。さらに、本発明例においては、鋼板の表層において、結晶粒界に存在する、Siを含有する酸化物のアスペクト比が、全て2以上であった。これらの評価結果より、本発明例の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板は、引張最大応力900MPa以上の高い強度特性に加え、優れた機械切断特性と延性とを同時に兼ね備えることが明らかとなった。
【0107】
これに対し、比較例の冷延鋼板及び亜鉛めっき鋼板は、本発明で規定する化学成分組成や各製造条件の何れかが満たされていないため、以下に説明するように、鋼板表層における酸化物の分布密度、限界打ち抜き回数(機械切断特性)、引張最大強度及び延び率(成形性)、さらにアスペクト比の何れかの項目が、目標となる特性を満足することができない結果となった。
【0108】
実験例A−4、A−5の冷延鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例A−9の冷延鋼板は、巻き取り温度が本発明の規定範囲を超えているため、引張最大応力が劣っている。
実験例A−10の冷延鋼板は、550〜760℃での滞留時間が本発明の規定範囲未満となっているため、酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例A−11の冷延鋼板は、焼鈍時の最高到達温度が本発明の規定範囲未満となっているため、マルテンサイト体積率が0%となり、引張最大応力が劣っている。
実験例A−12の冷延鋼板は、焼鈍加熱時の滞留時間が本発明の規定範囲未満となっているため、引張最大応力が劣っている。
【0109】
実験例A−13、A−15の冷延鋼板は、それぞれ、炉内のH濃度が1%を下回るか、あるいは、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が−0.5超と、本発明の規定範囲外で製造したため、鋼板表面にFeの酸化物(ブルーイング)が形成され、めっき鋼板であれば不めっきの発生、冷延鋼板であれば化成処理の不良を生じてしまった例である。
実験例A−14の冷延鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層に酸化物が観察されず、機械切断特性が劣っている。
実験例A−16の冷延鋼板は、焼鈍時における760〜630℃間の平均冷却速度が本発明の規定範囲を超えているため、強度−延性バランス(TS×El)が劣っている。
実験例A−17の冷延鋼板は、焼鈍時の保持温度が本発明の規定範囲を超えているため、引張最大応力が劣っている。
【0110】
実験例A−22の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例A−23の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層に酸化物が観察されず、また、合金化処理温度が本発明の規定範囲を超えており、マルテンサイト体積率が0%となっているため、引張最大応力が劣っている。
実験例A−24の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、550〜760℃での滞留時間が本発明の規定範囲未満となっているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例A−25の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、630℃〜亜鉛めっき浴温度間の平均冷却温度が本発明の規定範囲未満となっているため、引張最大応力が劣っている。
実験例A−26の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、焼鈍時の最高到達温度が本発明の規定範囲未満となっているため、マルテンサイト体積率が0%となり、引張最大応力が劣っている。
【0111】
実験例C−2の冷延鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例C−3の冷延鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例C−7の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例C−8の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層において酸化物が観察されず、また、合金化処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、機械切断特性が劣っている。
【0112】
実験例P−2の冷延鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例P−3の冷延鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層において酸化物が観察されず、機械切断特性が劣っている。
実験例P−7の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例P−8の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層において酸化物が観察されず、また、合金化処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、機械切断特性が劣っている。
【0113】
実験例S−2の冷延鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例S−3の冷延鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層において酸化物が観察されず、機械切断特性が劣っている。
実験例S−7の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷間圧延工程で用いるロール径が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
実験例S−8の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、炉内の水素分圧の対数log(PHO/PH)が本発明の規定範囲未満であるため、鋼板表層において酸化物が観察されず、また、合金化処理温度が本発明の規定範囲を超えているため、機械切断特性が劣っている。
【0114】
実験例U−1の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼中の化学成分(組成)において、Cの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、引張最大応力が劣っている。
実験例V−1の冷延鋼板は、鋼中の化学成分(組成)において、Cの含有量が本発明の規定範囲を超えているとともに、Siの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、また、フェライト体積率が0%となり、機械切断特性が劣っている。また、実験例V−2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、実験例V−1と同様の化学成分とされているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
【0115】
実験例W−1の冷延鋼板は、Siの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、また、フェライト体積率が0%となり、機械切断特性が劣っている。また、実験例W−2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、実験例W−1と同様、Siの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、鋼板表層における酸化物の分布密度が本発明の規定範囲未満となり、さらに、アスペクト比が低くなっており、機械切断特性が劣っている。
【0116】
実験例X−1の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Mnの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、引張最大応力が劣っている。
実験例Y−1の冷延鋼板は、Siの含有量が本発明の規定範囲未満となっているとともに、Mnの含有量が本発明の規定範囲を超えているため、鋼板表層において酸化物が観察されず、また、フェライト体積率が0%となり、機械切断特性が劣っている。また、実験例Y−2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、実験例Y−1と同様の化学成分とされているため、鋼板表層において酸化物が観察されず、機械切断特性が劣っている。
実験例Z−1の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Tiの含有量が0.000%とされているため、引張最大応力が劣っている。
実験例AA−1の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Bの含有量が本発明の規定範囲未満となっているため、引張最大応力が劣っている。
【0117】
以上説明した実施例の結果より、本発明の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及び高強度亜鉛めっき鋼板が、高強度であるとともに加工性に優れ、また、加工設備等を劣化させることがなく、高い機械切断特性を備えることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.07〜0.25%、
Si:0.3〜2.50%、
Mn:1.5〜3.0%、
Ti:0.005〜0.07%、
B :0.0001〜0.01%、
P :0.001〜0.03%、
S :0.0001〜0.01%、
Al:0.60%以下、
N :0.0005〜0.0100%、
O :0.0005〜0.007%、
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼成分を有し、
鋼板組織が、主としてフェライト及びマルテンサイトからなる鋼板の表層において、前記鋼板の表層4μm以下の結晶粒界、もしくは、結晶粒内のいずれか一方、あるいは、両方に、Siを含有する酸化物を2×10(個/mm)以上の分布で含有することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項2】
前記鋼板の表層において、結晶粒界に存在する、Siを含有する酸化物のアスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Nb:0.005〜0.07%
を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項4】
さらに、質量%で、
Cr:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Mo:0.01〜0.8%
の内の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項5】
さらに、質量%で、
V:0.005〜0.07%
含有することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項6】
さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの内の1種又は2種以上を、合計で0.0001〜0.5%の範囲で含有することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に亜鉛系めっきが施されてなることを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼板に冷間圧延を行なう際に、ロール径が800mm以下の小径ロールを用いて、冷延率30〜70%で冷間圧延を行うことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼板に熱処理を施す際の炉内の雰囲気を、Hを1〜60体積%含有し、残部がN、HO、O及び不可避的不純物からからなる雰囲気とし、その雰囲気中の水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)を−3≦log(PHO/PH)≦−0.5に制御した雰囲気で行うことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、
次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、請求項8に記載の条件で冷間圧延を施し、
次いで、連続焼鈍ラインを通板させて請求項9に記載の条件で焼鈍を行なうに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、室温まで冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記焼鈍を行った後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、450〜250℃まで冷却した後、450〜250℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする請求項10に記載の機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを、直接又は一旦冷却した後に1050℃以上に加熱し、その後、Ar変態点以上で熱間圧延を完了し、
次いで、400〜670℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、請求項8に記載の条件で冷間圧延を施し、
次いで、連続焼鈍ラインを通板させて請求項9に記載の条件で焼鈍を行なうに際して、加熱時に550〜760℃間の温度で30秒以上滞留させ、最高加熱温度760〜Ac℃で焼鈍した後、最高到達温度〜630℃間を平均冷却速度10℃/秒以下で冷却し、さらに、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で、{亜鉛めっき浴温度(℃)−40(℃)}℃〜{亜鉛めっき浴温度(℃)+50(℃)}℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬し、その後、冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法で亜鉛めっき浴に浸漬した後、460〜600℃の温度で合金化処理を施し、その後、冷却することを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度合金化亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
請求項10又は請求項11に記載の方法で高強度冷延鋼板を製造した後、該高強度冷延鋼板に亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする機械切断特性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−111673(P2011−111673A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272072(P2009−272072)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】