説明

機械的抵抗性を有する被膜を含んでなる透明基板

本発明はガラスからできているタイプの透明基板に関する。本発明の基板は、ケイ素またはアルミニウムまたはこの2つの混合物の[窒化物、炭窒化物、酸窒化物または酸炭窒化物]をベースとする少なくとも1つの層Cを上に配設した被覆層と共に含む被膜を含んでなる。本発明は、この被覆層が酸化物ベースの機械的保護層であり、この酸化物が場合によっては化学量論以下または化学量論以上の酸素含量を有し、および/または場合によっては窒化物であることを特徴とする。本発明を使用して、多層または合わせグレージングを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的効果および/または高エネルギー放射に及ぼす効果を呈する透明な多層被覆基板の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、反射防止性を呈し、下にある層を、熱処理によるまたは多層被覆基板の転換工程による劣化より保護することに寄与する窒化ケイ素をベースとする層を含む多層物に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス基板上の多層物は、公知であり、機能性層(特に銀層などの金属層)と、および、合わせガラス板を強化、曲げまたは組み立てるためのタイプの熱処理に対する高い抵抗性を多層物に付与する、特に窒化ケイ素または窒化アルミニウムまたはこの2つの混合物でできている1つまたはそれ以上の窒化物ベースの層とを含む。銀タイプの金属機能性層を用いる多層を記載している文献、欧州特許第718 250号、欧州特許第847 965号および欧州特許第995 715号、または別の金属または金属窒化物をベースとする機能性層を用いる多層物を記載している文献、WO−01/21540を挙げ得る。
【0004】
窒化ケイ素は、熱処理時に受ける腐食性種から保護するための保護層を形成し、処理後に多層物の許容し得る光学的性質を維持するためのえり抜きの材料に見える。
【0005】
しかしながら、これらの多層物を工業的条件下での熱処理による転換操作にかける場合に欠陥に遭遇することもある。これらの欠陥は、ある場合には、腐食性種の多層物の中への進入を有利にするクラックなど多層物の物理的性状欠陥によるものであるように見え、熱処理前の微細な引っ掻きでさえも加熱時の腐食の進行により、大きさまたは外観が処理後には許容し得ない欠陥になり得る。
【0006】
摩擦係数が高いことを一因とする窒化ケイ素の引っ掻き抵抗性の欠如は、例えば特許WO−A−00/69784により公知であり、この文献は、この窒化ケイ素を炭素の存在下で堆積して、混合窒化ケイ素/炭化ケイ素被膜を一つおよび同一の層において生成させることにより、これを修復することを提案している。
【0007】
しかしながら、この解決法は、材料の固有の性質を変化させ、特に光学的性質を害する限りにおいて、完全に充分とはいえない。
【0008】
種々の材料が、これらに機械的抵抗性を与えるために知られていて、機械的保護機能を有する最上部層または被覆層として被覆基板の分野で使用されている。
【0009】
特許出願、欧州特許第183 052号および欧州特許第226 993号は、機能性金属層、特に薄い銀層、を亜鉛/スズ合金の酸化により生成された2つの絶縁反射防止層の間に配置した、低放射率の透明な多層物を開示している。これらの絶縁層は、酸素を含有する反応性ガスを用いる、Zn/Sn合金からなる金属ターゲットからの磁気増強反応性スパッタリングにより堆積される。この混合酸化物層は、特に機械的および化学的安定性の点でこの層に特に有利な性質を与える比較的大量のスズ酸亜鉛を含有する。しかしながら、ZnSn合金でできたターゲットからのスパッタリングはある技術的困難を生じる。
【0010】
文献WO−A−00/24686によれば、このターゲットは、亜鉛、スズおよびAl、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zr、Nb、HfおよびTaからの少なくとも1つの更なる元素を含有するために、スパッタリングが促進される。層の性質、特に化学的および機械的耐久性と、光学的品質においてかなりの改善も得られる。この複合層は、この化学的および機械的耐久性のために、少なくとも1つの下に隣接または上に隣接した連続酸化物層を伴う特に最上部の被覆層として使用され得る。
【0011】
文献WO−99/05072は、曲げおよび/または強化タイプの熱処理にかけることができ、ケイ素[窒化物、炭窒化物、酸窒化物および/または酸炭窒化物](以降は用語「窒化ケイ素層」で呼ぶ)をベースとする薄層を含む多層物を有するガラス基板を記載している。この層は、NaO、塩化物または硫化物タイプの種による高温腐食に対して保護する保護層により被覆される。この保護層は、熱処理時に光学的性質の実質的な変化と共に完全酸化されるように意図された金属層または化学量論以下の酸素の金属酸化物層、または熱処理時に転換を受けず、光学的性質の大きな変化を起こさない金属酸化物、酸炭化物および/または酸窒化物層であり得る。この金属は、Nb、Sn、Ta、TiおよびZrから選択され得、Nbが好ましい。
【0012】
実際には、最終ニオブ層のみが述べられ、合わせガラス曲げ/組み立ての熱処理は、ナトリウムとの化合物の形成を含むニオブの酸化による光透過の増加が伴う。一つの欠点は、熱処理による大きな光学的変化であり、これによって、この工程が複雑化し、実行に要する時間が増加し、製造コストが増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、窒化ケイ素(上記に説明した意味の内の)をベースとし、改善された機械的抵抗性を有する少なくとも1つの層を含む多層系を含んでなる、特にグレージング用の基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に記載の基板は請求項1に定義されている。この基板、特にガラス基板は、
−窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素または酸炭窒化ケイ素、または
−窒化アルミニウム、炭窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウムまたは酸炭窒化アルミニウム、または
−混合窒化ケイ素アルミニウム、混合炭窒化ケイ素アルミニウム、混合酸窒化ケイ素アルミニウムまたは混合酸炭窒化ケイ素アルミニウム
をベースとする少なくとも1つの層Cを含み、酸化物ベースの機械的保護層である被覆層により被覆され、この酸化物は場合によっては化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によっては窒化されているものを含む被膜を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
窒化ケイ素(本発明の意味内で)の硬質層Cを最終の最上部の酸化物層と組み合わせることによって、おそらくは、前記層に機械的に応力を加えた場合、この酸化物の潤滑性が下に隣接する多層の破壊を制限するために、顕著な機械的抵抗性を得ることが可能であるように見える。これは、押し込みと磨耗の両方に対する改善された抵抗性と、層間剪断による損傷に対する改善された抵抗性をももたらす。
【0016】
この酸化物は、ガラス製品の光学的特性を変化させないこれらの全般的な透明性と光学的性質のためにグレージングアセンブリの組成物に使用される層としても有利である。
【0017】
有利なこととして、この保護用酸化物層は、Ti、Zn、Sn、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、Nb、TaおよびHfと、好ましくはTi、Zn、SnおよびZrから選択される少なくとも1つの元素を含有する。
【0018】
この酸化物層は、単一の酸化物または酸化物の混合物をベースとしてもよく、またはこれ自身いくつかの酸化物層および/またはいくつかの混合酸化物層の重ね合わせ物からなるものであり得る。
【0019】
この機械的保護被覆層の組成物中で使用可能な酸化物のなかには、以下が挙げられる。
a)場合によっては別の金属M、例えばアルミニウムを含有する、場合によっては化学量論以下の酸素のまたは化学量論以上の酸素のおよび/または場合によっては窒化されたチタン酸化物(式TiM(式中、pとyはゼロであってもよく、xは2未満、2に等しいかそれより大きくてもよい)の化合物)を挙げ得る。チタンベースの酸化物のなかでは、TiO、TiO(式中1≦x≦2)、またはTiO(式中1≦x≦2および0.5≦y≦1)を使用することが有利である。これらの化合物もなかでは、引っ掻き抵抗性の観点から窒化されたチタン酸化物TiOはTiOよりも優れていることが判明した。不活性な酸化性および/または窒化性の雰囲気中でTiO化学量論的以下の酸化物ターゲットから、または酸化性および/または窒化性の雰囲気中でTiターゲットから、スパッタリングすることにより、これらの化合物を窒化ケイ素層上に堆積することができる。
b)少なくとも亜鉛と場合によっては少なくとも1つの他の元素を含有し、場合によってはAl、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zr、Nb、HfおよびTaから選択される少なくとも1つの他の元素によりドープ処理されている酸化物であって、この酸化物が場合によっては化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によっては窒化されているものを挙げ得る。このような酸化物は、特に亜鉛と別の金属をベースとした混合酸化物、特に亜鉛とスズ(ZnSnO)または亜鉛とチタン(ZnTiO)または亜鉛とジルコニウム(ZnZrO)をベースとするものであって、場合によっては、特にAlまたはSbによりドープ処理されているものであり得る。混合亜鉛スズ酸化物のなかで、WO−00/24686に記載されているようにAl、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、Nb、TaおよびHfからの1つまたはそれ以上の添加元素を例えば0.5から6.5重量%の量で含有する三元酸化物を使用することが好ましい。これらの酸化物は高い機械的安定性を有することが知られているが、窒化ケイ素層に及ぼすこれらの「潤滑」効果(事実、粗さの低下による摩擦係数の低下)は本発明者により示され、特許請求された多層物での良好な使用に供されている。有利なこととして、一般に、ZnSnSb、ZnSnAlおよびZnTiAlタイプなどのスピネル構造の混合酸化物が本発明により使用され得る。および
c)少なくともジルコニウムと、場合によっては少なくとも1つの他の元素を含有する酸化物、特に別の金属を場合によっては含有し、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zn、Nb、HfおよびTaから選択される少なくとも1つの他の元素により場合によってはドープ処理されているZrをベースとする混合酸化物であって、この酸化物が場合によっては化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものである。
【0020】
この機械的保護被覆層を形成するために、特にZnO/TiO、ZnSnSb/TiO、ZnSnAl/TiOおよびZnZr/TiO層の組み合わせ物などの上述の酸化物の層の重ね合わせ物を使用することも可能である。
【0021】
この酸化物層は磨耗抵抗性をもたらすのに極めて厚い必要がない。このように、この層の厚さは、ほぼ15nm以下、有利なこととして10nm以下であり得る。
【0022】
窒化ケイ素の層C(本発明の意味内で)はアルミニウムなどの少なくとも1つの他の金属元素を更に含有し得る。
【0023】
この層Cの厚さが比較的大きくても引っ掻き抵抗性の改善が観察される。このように、この層の厚さは、ほぼ5から60nm、好ましくは10から40nmであり得る。
【0024】
一つの特徴によれば、この被膜は金属または金属窒化物をベースとする少なくとも1つの機能性層を含む。
【0025】
本発明の保護された多層系は、いかなるタイプの機能、例えば単純な反射防止機能も提供し得るが、好ましくは太陽光スペクトルの光線の一部を反射する少なくとも1つの機能性層、特に金属層を用いる低放射率タイプの反射防止機能または太陽光コントロール機能またはエネルギーコントロール機能を提供する。本発明の保護層は、この系の光学的性質または強化または曲げに対する抵抗性を認識可能なほど損なうことはない。
【0026】
本発明のこのような保護された多層系は、一般に、最終酸化物絶縁層/窒化ケイ素/酸化物、特にZnO/Si/ZnO(ここで、Siはアルミニウムなどの更なる元素を含有してもよい)の配列を含んでなるものであり得る。
【0027】
有利なこととして、この機能性層は銀をベースとし、Si/ZnO/Ag/ZnO/SiまたはSi/ZnO/Ag/Si/ZnO/Ag/ZnO/Siの配列を有する多層物の一部を形成する。TiまたはNiCrなどの「ブロッキング」金属層もこの層の最上部および/または下部にこの機能性銀層の少なくとも1つと接触して挿入され得る。
【0028】
特に、本発明は、曲げおよび/または強化などの熱処理にかけるように意図された多層系の保護のみならず、合わせアセンブリの保護にも好適である。
【0029】
この点で、少なくとも部分的に窒化されたチタン酸化物でできた保護層は、熱処理の間に多層物中に光学的欠陥(ピッティング、ヘーズなど)の外観を生じず、この処理の後のこの製品の光学的挙動を変化させないので、特に有利であることが判明する。
【0030】
本発明の主題は、また、上述の少なくとも1つの基板を特に多層グレージングまたは合わせグレージング構成物に組み込んだグレージングアセンブリでもある。
【0031】
次の実施例は本発明を示す。
【実施例1】
【0032】
この実施例においては、銀ベースの多層系上の保護チタン酸化物層の保護性能を評価した。この系は下記の構造:
ガラス/Al:Si/Al:ZnO/Ti/Ag/Al:ZnO/Al:Si/Al:ZnO/Ti/Ag/Al:ZnO/Al:Si
を有し、ここでAl:Siはこの窒化物がアルミニウムを含有するということを意味する。同じことがAl:ZnOの場合にも成り立ち、この酸化物がアルミニウムを含有するということを意味する。
【0033】
次の表はこの層の各々について厚さをナノメートルで示す。
【0034】
【表1】

【0035】
この基板上への公知のスパッタリング法により多層物を製造した。スパッタリングチャンバを介して、窒素含有雰囲気中でアルミニウムでドープ処理したSiカソード下に、次に酸素含有雰囲気中でアルミニウムでドープ処理したZnカソード下に、次に不活性雰囲気中でチタンカソードおよび銀カソード下に、再度酸素含有雰囲気中でZnカソード下に基板を走行させ、最終的に窒素含有雰囲気中でSiターゲット下にこの基板を走行させるように、この配列を順番に繰り返した。
【0036】
化学量論以下のチタン酸化物(TiO)からできたカソードから酸素含有雰囲気中でこのTiO保護層を窒化ケイ素上に堆積させ、これによって、化学量論的酸化物への転換を確保した。この条件はこのTiO厚さが1nmとなるように選択された。
【0037】
この多層物の性質を次の試験で上記に示した構造のコントロール多層物と比較した。
−洗浄機試験(ASTM2486による):ふくれにより伝播する銀層における層剥離の形の多層物中のいかなる損傷も観察する。この試験は基板上に堆積された多層系の剪断抵抗性を代表する。
−エリクセン引っ掻き抵抗性試験:錘を載せた0.75mmの直径の半球状先端の円筒形状のBosch鋼点を基板の上で所定の速度で動かす。この点が多層物を目視可能なほど引っ掻くのに必要とされる通過数を記す。
【0038】
この結果を下記の表1に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
これらの結果は、TiO被覆層が多層物の引っ掻き抵抗性と内部剪断に対する抵抗性を極めて実質的に改善するということを示す。これはチタン酸化物による窒化ケイ素の潤滑効果に帰せられる。
【0041】
類似の結果が酸化雰囲気中でチタン金属ターゲットから堆積される被覆層により得られる。
【実施例2】
【0042】
この実施例は、窒化されたチタン酸化物のTiO層によるという点を除いて、実施例1に述べた多層物の保護に関する。
【0043】
実施例1におけるように、窒素含有雰囲気中で化学量論以下のチタン酸化物(TiO)でできたカソードからこの保護層を窒化ケイ素上に堆積した。必要ならば、後者の層の堆積は、窒化ケイ素堆積と同一のチャンバ中、すなわち同一の雰囲気中で実施可能であった。
【0044】
TiO厚さが1から3nmまで変わるように、堆積条件を変えた。
【0045】
この多層物の抵抗性を次の項目により評価した。
−洗浄機試験;
−錘を載せた0.75mmの直径の半球状先端の円筒形状のBosch鋼点を用いる押し込みによるエリクセン引っ掻き抵抗性試験;および
−テーバー磨耗抵抗性試験:この試験においては、この試料を所定の時間研磨円板にかけ、磨耗しない多層系の面積の%比率を評価する。
【0046】
この結果を下記の表2に示す。
【実施例3】
【0047】
この実施例においては、実施例1に特定した構造の銀ベースの多層系上の実施例2と異なるタイプの保護用チタン酸窒化物TiO層の保護性能を評価した。
【0048】
この実施例と実施例2の間の差異は、窒素と酸素を含有する雰囲気中での化学量論以下のTiOxターゲットからのスパッタリングにより保護層を堆積させたという事実中に存する。
【0049】
この結果を下記の表2に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
これらの結果は、実施例2および3の2つの保護層が多層物の引っ掻き抵抗性と剪断抵抗性を極めて実質的に改善するということを示す。
【実施例4】
【0052】
この実施例においては、下記の構造:
ガラス/Si/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si/TiO
を得るために、本発明の保護層を銀ベースの多層系に施した。
【0053】
この基板はサンゴバンガラスにより販売されているPLANILUXタイプの透明なシリカ−ソーダ−ライムガラスであった。
【0054】
下記の表はこの多層物の種々の薄層の厚さの値を示す。
【0055】
【表4】

【0056】
この実施例においては、窒化されたチタン酸化物TiOでできた保護層の保護性能を評価した。酸素と窒素を含有する雰囲気中で化学量論以下のチタン酸化物TiOでできたカソードからこの保護用TiO層を窒化ケイ素上に堆積した。
【0057】
TiO厚さが0.5から2nmまで変わるように、堆積条件を変えた。すべての場合、堆積雰囲気が酸素を含有する場合でも、保護用被覆層の無いコントロール多層物を超える多層物の0.5%より大きい光透過の増加は観察されなかった。
【0058】
0.5mmの直径の球状先端のVan Laarタイプの鋼点を用いるエリクセン試験により、引っ掻き抵抗性を評価した。裸眼に視認可能な引っ掻きの外観に必要とされる荷重を求めた。
【0059】
更に、この基板を620℃で8分間熱処理にかけ、無処理状態と処理状態の間の光学的変化を観察した。
【0060】
この結果を下記の表3に示す。
【実施例5】
【0061】
この実施例においては、下記の構造:
ガラス/Si/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si/TiO
を得るために、本発明の保護層を銀ベースの多層系に施した。
【0062】
この実施例においては、窒化されたチタン酸化物TiOでできた保護層の保護性能を評価した。窒素含有雰囲気中で化学量論以下のチタン酸化物TiOでできたカソードからこの保護用TiO層を窒化ケイ素上に堆積した。
【0063】
実施例4におけるように、エリクセン試験により得られる引っ掻き抵抗性、および強化により引き起こされた光学的変化を評価し、この結果を下記の表3に示す。これには表面酸化物層を含まないコントロール製品により得られる結果も示す。
【0064】
【表5】

【0065】
これは、本発明による保護層が多層物の引っ掻き抵抗性をかなり増加させるということを示す。
【0066】
更には、実施例5の基板の光学的変化は制限され、コントロール製品と同じオーダーに留まり、透過ΔE(T)での測色的応答の強化前/強化後変化は約3であり、外部反射ΔE(Rext)での測色的応答の強化前/強化後変化は約2.9であり、および内部反射ΔE(Rint)での測色的応答の強化前/強化後変化は約2.7である。実施例4の基板は基板の加熱後若干赤色のヘーズを有していた。
【0067】
測色的応答ΔEの変化は、(L、a、b)系においてΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2の方法で慣用的に表現されるということを想起させる。
【0068】
酸素を含有しない雰囲気中で堆積された層の場合には、加熱後の光学的品質は良好であり、欠陥は出現しないということが明らかである。対照的に、このチタン酸化物層を堆積させるための雰囲気が酸素を含有する場合には、着色したヘーズの形の若干の欠陥が出現する。
【実施例6】
【0069】
この実施例においては、ジルコニウム酸化物ZrOでできた保護層の保護性能を下記の銀ベースの多層系:
ガラス/Si/ZnO/Ag/Ti/ZnO/Si/ZrO
において評価した。次の表はこの層の各々に対するナノメートルでの厚さを示す。
【0070】
【表6】

【0071】
実施例4におけるように、エリクセン試験により得られる引っ掻き抵抗性、テーバー試験により得られる磨耗抵抗性、および強化により引き起こされた光学的変化を評価し、この結果を下記の表4に示す。これには表面酸化物層を含まないコントロール製品により得られる結果も示す。
【0072】
【表7】

【0073】
これは、実施例6の基板の光学的変化が制限され、コントロール製品と同じオーダーに留まるが、引っ掻き抵抗性がZrO保護層によりかなり増加し、磨耗抵抗性も改善されるということを示す。
【実施例7】
【0074】
この実施例においては、アンチモンによりドーピングされた混合亜鉛スズ酸化物、ZnSnSbOでできた保護層の保護性能を下記の銀ベースの多層系:
ガラス/Si/ZnO/Ag/Ti/ZnO/Si/ZnSnSbO
において評価した。次の表はこの層の各々に対するナノメートルでの厚さを示す。
【0075】
【表8】

【0076】
実施例6におけるように、エリクセン試験により得られる引っ掻き抵抗性、テーバー試験により得られる磨耗抵抗性、および強化により引き起こされた光学的変化を評価し、この結果を下記の表5に示す。これには表面酸化物層を含まないコントロール製品により得られる結果も示す。
【0077】
【表9】

【0078】
これは、実施例7の基板の光学的変化が概して許容可能のまま留まるが、引っ掻き抵抗性がZnSnSbO保護層によりかなり増加し、磨耗抵抗性も改善されるということを示す。
【0079】
前出では、本発明を実施例として記載されている。勿論、当業者ならば、特許請求の範囲に定義されるこの特許の範囲を逸脱することなく、本発明の種々の代替の実施態様を作り出すことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素またはアルミニウムの[窒化物、炭窒化物、酸窒化物または酸炭窒化物]またはこれら2つの混合物をベースとする少なくとも1つの層Cを含む被膜を含んでなり、被覆層により覆われた透明基板、特にガラスタイプの透明基板であって、前記被覆層は酸化物ベースの機械的保護層であり、この酸化物は場合によって化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によって窒化されていることを特徴とする、前記基板。
【請求項2】
有利なこととして前記保護酸化物層が、Ti、Zn、Sn、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、Nb、TaおよびHfから選択される少なくとも1つの元素を含有することを特徴とする、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記保護層が、少なくとも1つの場合によっては窒化されたチタン酸化物を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
前記チタン酸化物が、別の金属M、例えばアルミニウムを含有する(式TiM(式中、pとyはゼロであってもよい)の化合物)ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の基板。
【請求項5】
前記チタン酸化物が、TiO、TiO(式中1≦x≦2)、またはTiO(式中1≦x≦2および0.5≦y≦1)から選択されることを特徴とする、請求項3または4に記載の基板。
【請求項6】
前記保護層が、少なくとも亜鉛と場合によって少なくとも1つの他の元素とを含有する少なくとも1つの酸化物を含み、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zr、Nb、HfおよびTaから選択される少なくとも1つの他の元素により場合によってドープ処理されていて、この酸化物は場合によって化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によって窒化されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の基板。
【請求項7】
前記酸化物が、亜鉛と別の金属とをベースとした混合酸化物、特に亜鉛とスズ(ZnSnO)または亜鉛とチタン(ZnTiO)または亜鉛とジルコニウム(ZnZrO)とをベースとするものであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の基板。
【請求項8】
前記亜鉛ベースの混合酸化物が、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zr、Nb、HfおよびTaから選択される少なくとも1つの他の元素によりドープ処理されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の基板。
【請求項9】
前記保護層が、少なくともジルコニウム、特に別の金属を場合によって含むZrベースの混合酸化物、を含有する少なくとも1つの酸化物を含み、この酸化物は場合によって化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によって窒化されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の基板。
【請求項10】
少なくともジルコニウムを含有する酸化物が、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Ce、Ti、Zn、Nb、HfおよびTaから選択される少なくとも1つの他の元素によりドープ処理されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の基板。
【請求項11】
前記機械的保護被覆層が、酸化物層の重ね合わせ物、例えば特にZnO/TiO、ZnSnSb/TiO、ZnSnAl/TiOおよびZnZr/TiO層の組み合わせ物、から構成されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の基板。
【請求項12】
前記酸化物層がほぼ15nmかそれ未満の厚さ、好ましくは10nmに等しいかそれ未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の基板。
【請求項13】
前記層Cがアルミニウムなどの少なくとも1つの他の金属元素を更に含有し得ることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の基板。
【請求項14】
前記層Cまたは各C層が、ほぼ5から60nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の基板。
【請求項15】
前記被覆が、太陽光スペクトルの放射のある部分を反射する少なくとも1つの機能層、特に金属層、を用いて、低放射率タイプの反射防止機能または太陽光制御機能またはエネルギー制御機能を有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の基板。
【請求項16】
少なくとも1つの金属機能性層または金属窒化物ベースの機能性層を含むことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の基板。
【請求項17】
前記被膜が、酸化物/窒化ケイ素/酸化物、特にZnO/Si/ZnO、の絶縁体の最終配列を含むことを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の基板。
【請求項18】
前記多層が、前記銀層の少なくとも1つと接触する金属ブロッキング層と、場合によって共に下記の配列:
Si/ZnO/Ag/ZnO/Si/被覆層または
Si/ZnO/Ag/ZnO/Si/ZnO/Ag/ZnO/Si/被覆層
とを有することを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の基板。
【請求項19】
前記被膜が、熱処理後に、その性質、特に光学的性質、を実質的に保っていることを特徴とする請求項15から18のいずれか一項に記載の基板。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の少なくとも1つの基板を特に多層グレージング構成物中または合わせグレージング構成物中に組み込んだグレージング構成物。
【請求項21】
ケイ素またはアルミニウムの[窒化物、炭窒化物、酸窒化物または酸炭窒化物]またはこれら2つの混合物をベースとする少なくとも1つの層Cを含む多層物を含んでなる透明基板、特にガラス基板、の機械的抵抗性を改善するための方法であって、酸化物ベースの層が少なくとも1つの絶縁体層C上に堆積され、この酸化物は場合によって化学量論以下の酸素のものまたは化学量論以上の酸素のものであり、および/または場合によって窒化されていることを特徴とする、前記方法。
【請求項22】
ケイ素またはアルミニウムの[窒化物、炭窒化物、酸窒化物または酸炭窒化物]またはこれら2つの混合物をベースとする少なくとも1つの層Cを含む多層被膜を含んでなる透明基板、特にガラス基板、の機械的抵抗性を改善するための、場合によって化学量論以下の酸素のものであるおよび/または場合によっては窒化されている酸化物ベースの被膜の使用。

【公表番号】特表2007−527328(P2007−527328A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516328(P2006−516328)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001621
【国際公開番号】WO2005/000578
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(399052888)サン−ゴバン グラス フランス (23)
【Fターム(参考)】