説明

機構部品における微細溝の加工方法および機構部品における微細溝の加工装置

【課題】加工時に被加工物を移動速度と同期的に揺動させながら加工することで、加工精度を向上させた、機構部品における微細溝の加工方法および機構部品における微細溝の加工装置を提供する。
【解決手段】機構部品10に対し、微細溝16を形成するための機構部品10における微細溝16の加工方法であって、微細溝16を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、機構部品10を移動速度と同期的に揺動させながら加工を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機構部品における微細溝の加工方法および機構部品における微細溝の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の機構部品において、精密加工を施す必要がある、細溝加工部位には、ワイヤ放電加工が用いられてきた。
しかしながら、ワイヤ放電加工は、加工部位が外形上からの加工であれば、不要であるが、製品の内形部位であれば、ワイヤ線の通過する下穴が必須となるのと相俟って、ワイヤの通り道が必要で、微細複雑形状では配線処理が困難である。
【0003】
一方、特許文献1にあるように、いわゆるウォータジェットレーザ加工方法で、加工部位に細溝を加工する場合、複数回、レーザ光と高圧水による走査を繰り返して行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−320526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、ウォータジェットレーザ加工は、上述した放電加工では得られない利点を有するものであるが、特許文献1に記載されている方法では、ウォータジェットレーザ加工を、複数回、繰り返し行っているのにもかかわらず、加工壁面粗度は6〜12μmと、満足のいく加工精度が得られていない。
かかる要因としては、複数回、レーザ光と高圧水とを走査した場合でも、加工表面に近い所は、レーザーパワー値は入力値に比較して、あまり減衰しないが、深潭部ではパワーの減衰率が大きいと思われる。このウォータジェットレーザ加工法は、細いウォータジェットをレーザの導波路として利用する方法なので、このウォータジェットが極微細幅の中を壁面に干渉しながら、深潭部に到達することから、深潭領域においてはウォータジェットが乱れる故に、有効性が低下するものと考えられる。すなわち、被加工物の表面近傍より、深潭近傍の面粗度は荒くなる傾向があると思われる。
本発明は、以上のような背景から提案されたものであって、加工時に被加工物を揺動させながら加工することで、加工精度を向上させた、機構部品における微細溝の加工方法および機構部品における微細溝の加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、機構部品(10)に対し、微細溝(16)を形成するための機構部品(10)における微細溝(16)の加工方法であって、微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、機構部品(10)を揺動させながら加工を行うようにしたことを特徴とする。
【0007】
これにより、機構部品(10)に微細溝(16)を形成すべき部位に、機構部品(10)を揺動させることで、機構部品(10)の揺動範囲でレーザ光が照射されるため、断面扇形状の微細溝(10)が形成される。
【0008】
請求項2に記載の発明では、微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、機構部品(10)を当初、加工テーブル(8)に、微細溝(16)を形成すべき部位の中心軸が鉛直軸と一致し、且つ、レーザ光の照射点が一致するように載置し、次いで加工テーブル8を、鉛直軸を中心として、所定角度、揺動させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
これにより、機構部品(10)に微細溝(16)を形成すべき部位に、鉛直軸を中心として、機構部品(10)を揺動させることで、断面扇形状に拡開する微細溝(10)が形成される。
【0010】
請求項3に記載の発明では、レーザ加工は、レーザ発生部(2)からレーザ光を照射すると共に高圧水供給部(6)から高圧水を供給し、これらレーザ光および高圧水をノズルから機構部品(10)に照射および噴射して加工を行うウォータジェットレーザ加工であることを特徴とする。
【0011】
これにより、ノズルから水柱(5)が噴射されると共にレーザ光が照射されることで、微細溝(16)を形成すべき部位に、ビーム痕が形成され、対応する溝幅の加工溝が形成される。
【0012】
請求項4に記載の発明では、機構部品(10)における加工部位は、揺動加工により、扇形状となっていることを特徴とする。
【0013】
これにより、機構部品(10)における加工部位を揺動させることで、ビームが加工部位に対し、扇形状に当たり、この結果、加工部位には、断面扇形状の微細溝となって形成されるのである。
【0014】
請求項5に記載の発明では、機構部品(10)はインジェクタであり、微細溝(16)は噴孔であることを特徴とする。
【0015】
これにより、インジェクタ(10)の噴孔(16)を、断面扇形状に加工することで、インジェクタ(10)を、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたものとすることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、機構部品(10)に対し、微細溝(16)を形成するための機構部品(10)における微細溝(16)の加工装置であって、微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、機構部品(10)を載置して揺動させながら加工を行うための加工テーブル(8)を備えたことを特徴とする。
【0017】
これにより、機構部品(10)を載置した加工テーブル(8)を揺動させることで、微細溝(16)を形成すべき部位に、レーザ光が揺動範囲で照射され、この結果、微細溝(16)を形成すべき部位には、断面扇形状の微細溝(16)となって形成される。
【0018】
請求項7に記載の発明では、加工装置は、レーザ発生部(2)と、高圧水を水柱(5)として発生する高圧水供給部(6)と、レーザ発生部(2)からのレーザ光を照射すると共に高圧水供給部(6)から高圧水を供給し、これらレーザ光と高圧水とを、機構部品(10)を載置して揺動させながら、機構部品(10)における微細溝(16)を形成すべき部位に照射および噴射して加工を行うための加工テーブル(8)とを備えたことを特徴とする。
【0019】
これにより、機構部品(10)における微細溝(16)を形成すべき部位には、水柱(5)が噴射されると共にレーザ光が照射されて、ビーム痕が形成され、対応する溝幅の加工溝が形成される。
【0020】
さらに請求項8に記載の発明では、機構部品(10)はインジェクタであり、微細溝(16)は噴孔であることを特徴とする。
【0021】
これにより、インジェクタ(10)の噴孔(16)を、断面扇形状に加工することで、インジェクタ(10)を、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたものとすることができる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0023】
機構部品に微細溝を形成すべき部位に、機構部品を揺動させることで、断面扇形状の微細溝を形成することができる。機構部品がインジェクタである場合、断面線形状の噴孔として形成することができ、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたインジェクタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる機構部品における細溝の加工方法を実施するにあたり用いられる、ウォータジェットレーザ加工装置の一例を示した、模式的な構成説明図である。
【図2】被加工物を具備する機構部品の対象としてのインジェクタの一例を示す、要部断面説明図である。
【図3】図2で示すインジェクタの上方から観た、平面図である。
【図4】図1で示すウォータジェットレーザ加工装置で加工される加工範囲である、レーザ光の照射範囲を示した、線図である。
【図5】加工部位を一定速度で移動させた場合の加工範囲である、レーザ光の照射範囲を示した、線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明にかかる機構部品における細溝の加工方法を実施するにあたり用いられる、ウォータジェットレーザ加工装置1の一例を示す。
このウォータジェットレーザ加工装置1(以下、レーザ加工装置1)は、機構部品の被加工部位(後述)に対し微細溝を形成するに際し、微細溝を形成すべき被加工部位にレーザ加工を施す際に、機構部品を揺動させながら加工を行うようにしたものである。
すなわちこのレーザ加工装置1は、レーザ光を発生させるレーザ発生部2と発生したレーザ光を所望の径に絞るレーザヘッド3と、これらの間を結びレーザ光を導く光ファイバ4と、レーザ光の周囲において噴射する水柱5用の高圧水をレーザヘッド3部分に供給する高圧水供給部6と、高圧水を水柱5として噴射するノズル7とを有する。
また、レーザ加工装置1は、被加工物Wを揺動可能に保持する加工テーブル8を有する。なお、上述の高圧水供給部6、レーザ発生部2および加工テーブル8はこれらを制御するための制御盤(図示省略)に接続されている。
以上のようなレーザ加工装置1によりなされる加工は、加工テーブル8に揺動可能に保持された被加工物Wの被加工部位に、水を噴射して水柱5を形成すると共に、該水柱5の中を通してレーザ光を照射するようにしている。
【0026】
ここで、かかる被加工物Wを具備する機構部品10の対象としては、図2に示すように、例えばインジェクタを一例として挙げることができる。
機構部品10(以下、インジェクタ10)は、詳細は説明しないが燃料噴射先端側に円筒形状のノズルボディ11と、ノズルボディ11先端に嵌着可能な、被加工物Wである蓋部12と、後端側にインジェクタ本体(図示省略)に取り付けてなる取付部13とを有している。
【0027】
ノズルボディ11は横断面円形状で軸方向に延び、その中空部11aに針状のニードル弁14が軸方向に移動可能に挿通されている。
また、蓋部12は、図に示すように、先端側が内側に空間を有する略円錐形状のドーム部15を有する。ドーム部15の内側空間には、円錐台状の弁座部15aを形成している。
【0028】
そしてドーム部15の先端には、ドーム部15を肉厚方向に貫通させた長さlの異径噴孔16が形成されている。かかる噴孔16は、図3に示すように左右一対の側壁16a、横壁16bにより区画されている。異径噴孔16の溝幅hは全長に亘って一定である。溝幅hは、40μ〜200μとする設定である。
これに対して、幅は図2に示すように内周面側のw1から外周面側のw2まで拡開しており、異径噴孔16は扇形状の縦断面形状を有する。よって、左右の側壁16aは細長い矩形状を持つが、横壁16bは扇形状を有する。この場合、幅の最大限である外周面側のw2は、0.6〜2mmとする設定である。
【0029】
ニードル弁14はノズルボディ10の案内孔11aの内径よりも小さい外径を有し、両者間には環状の燃料流通路17が画成される。また、ニードル弁14はその先端に、ドーム部15の内側空間の弁座部15aに着座する弁部18を有する。ニードル弁14は軸方向に進退(図1において上下動)され、上方に移動したとき弁部18が弁座部15aから離れて異径噴孔16を開放する。その結果、燃料流通路17内の燃料が異径噴孔16から扇形状の噴霧分布形状で噴射されるようになっている。
【0030】
次に、ウォータジェットレーザ加工装置1を用いた、上述のインジェクタ10のノズルボディ11先端の蓋部12における微細溝である、異形噴孔16の加工手順について説明する。
先ず、被加工物Wである蓋部12を、加工テーブル8に保持しておく。この場合、加工テーブル8は、当初は頂部の被加工物である蓋部12の載置面は、略水平状態にあり、かかる載置面に蓋部12が置かれると、蓋部12の中心軸が鉛直軸と一致し、且つ、ウォータジェットレーザ加工装置1におけるレーザ発生部2からのレーザ光および高圧水供給部6からの水柱5と一致するようになっている(ニュートラル状態)。
【0031】
次いで操作指令を、レーザ加工装置1における制御盤により、加工テーブル8、高圧水供給部6、およびレーザ発生部2に対し与え、蓋部12の異形噴孔16を形成すべき部位に、水を噴射して水柱5を形成すると共に、水柱5の中を通してレーザ光を照射するようにする。
これにより、高圧水供給部6から水柱5用の高圧水が、ノズル7を通じて蓋部12の異形噴孔16を形成すべき部位に、鉛直軸方向から水柱5となって当たる。
一方、レーザ発生部2から出射されたレーザ光は、レーザ発生部2から光ファイバ4を通じて、レーザヘッド3に導かれて所望の径に絞られ、水柱5に沿って水柱5と共に蓋部12の異形噴孔16を形成すべき部位に導かれる。
ここで、加工テーブル8は、図示しない駆動機構により、鉛直軸を中心として、すなわち、ドーム部15の内側空間における中心軸上の一点を揺動中心として(図1参照)所定角度スイングするように、一定速度で揺動している。
これにより、被加工物Wである、蓋部12の異形噴孔16を形成すべき部位には、水柱5と共にレーザ光が、図4に示すように、加工テーブル8のニュートラル状態における開始点から、加工テーブル8の揺動動作に基づいて、左右に、扇形状に噴射、照射され、所望の異形噴孔16が貫通形成されるのである。
【0032】
ところで、以上のように、加工テーブル8の揺動動作下に、水柱5と共にレーザ光が蓋部12の異形噴孔16を形成すべき部位に照射されると、レーザ光のパワー値が適切な入力値であっても、実加工上のパワー値は、表面>深潭であることから、深潭近傍の面粗度は悪化傾向となる。
しかしながら、上述のような揺動加工を実施することで、深潭部周辺は、レーザ光の照射点の移動速度Vが、表面寄りのレーザ光の照射点の移動速度Vに比較して低下することで、レーザ光のパワー値が落ちても、加工度合いを所定の水準に維持することができる。
言い換えれば、深潭部周辺は、レーザ光の照射点がより狭い範囲で密集し、重なり合うことになるため、加工面の仕上がり向上につながる。
【0033】
反対に上述のような揺動加工でない加工では、図5に示すように、深潭部近傍では、レーザパワーが減衰しているにもかかわらず、レーザ光の照射点の移動速度Vは、表面側と同一であることから、加工能力が追従することができず、面粗度の悪化は避けられないことは、容易に諒解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上、本発明にかかる機構部品における細溝の加工方法を実施するにあたり、被加工物Wを具備する機構部品の対象として、インジェクタ10を挙げ、蓋部12における微細溝である、異形噴孔16の加工手順を説明したが、もちろん、被加工物Wを具備する機構部品の対象として、インジェクタ10に限るものではなく、微細溝を有する様々な機構部品(気化器噴出孔、流体流量調整用オリフィス、印字機噴射ノズル等)も可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ウォータジェットレーザ加工装置
2 レーザ発生部
3 レーザヘッド
4 光ファイバ
5 水柱
6 高圧水供給部
7 ノズル
8 加工テーブル
10 インジェクタ
11 ノズルボディ
11a 中空部
12 蓋部
13 取付部
14 ニードル弁
15 ドーム部
15a 弁座部
16 噴孔
16a 側壁
16b 横壁
17 燃料流通路
18 弁部
19 ニードル
W 被加工物
h 溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構部品(10)に対し、微細溝(16)を形成するための機構部品(10)における微細溝(16)の加工方法であって、
前記微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、前記機構部品(10)を揺動させながら加工を行うようにしたことを特徴とする機構部品における微細溝の加工方法。
【請求項2】
前記微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、機構部品(10)を当初、加工テーブル(8)に、前記微細溝(16)を形成すべき部位の中心軸が鉛直軸と一致し、且つ、レーザ光の照射点が一致するように載置し、
次いで加工テーブル8を、鉛直軸を中心として、所定角度、揺動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の機構部品における微細溝の加工方法。
【請求項3】
前記レーザ加工は、レーザ発生部(2)からレーザ光を照射すると共に高圧水供給部(6)から高圧水を供給し、これらレーザ光および高圧水をノズル(7)から機構部品(10)に照射および噴射して加工を行うウォータジェットレーザ加工であることを特徴とする請求項1または2に記載の機構部品における微細溝の加工方法。
【請求項4】
前記機構部品(10)における加工部位は、揺動加工により、扇形状となっていることを特徴とする請求項1ないし3記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細溝の加工方法。
【請求項5】
前記機構部品(10)は、インジェクタであり、前記微細溝(16)は噴孔であることを特徴とする請求項1ないし4記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細溝の加工方法。
【請求項6】
機構部品(10)に対し、微細溝(16)を形成するための機構部品(10)における微細溝(16)の加工装置であって、
前記微細溝(16)を形成すべき部位にレーザ加工を施す際に、前記機構部品(10)を載置して揺動させながら加工を行うための加工テーブル(8)を備えたことを特徴とする機構部品における微細溝の加工装置。
【請求項7】
前記加工装置は、レーザ発生部(2)と、
高圧水を水柱(5)として発生する高圧水供給部(6)と、
前記レーザ発生部(2)からのレーザ光を照射すると共に高圧水供給部(6)から高圧水を供給し、これらレーザ光と高圧水とを、前記機構部品(10)を載置して揺動させながら、前記機構部品(10)における前記微細溝(16)を形成すべき部位に照射および噴射して加工を行うための加工テーブル(8)と、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載の機構部品における微細溝の加工装置。
【請求項8】
前記機構部品(10)は、インジェクタであり、前記微細溝(16)は噴孔であることを特徴とする請求項6または7記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細溝の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−167453(P2010−167453A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12296(P2009−12296)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】