説明

正極構造及び窒化ガリウム系化合物半導体発光素子

【課題】 酸素雰囲気下での熱処理や合金化熱処理等を必要とせず、かつ良好な透光性と低接触抵抗を有する電流拡散性に優れた正極構造を提供し、さらにその正極を使用した発光効率の高い半導体発光素子を提供する。
【解決手段】 この正極構造は、化合物半導体発光素子の透明正極であって、白金族から選ばれた少なくとも1種類の金属の薄膜からなるコンタクトメタル層と、金、銀または銅からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属もしくはそれらのうち少なくとも1種を含む合金からなる電流拡散層、及びボンデイングパッドからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性正極を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関し、特に発光層にInを含む素子構造を有する場合に、出力低下の少ない正極構造と発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、短波長光発光素子用の半導体材料としてGaN系化合物半導体材料が注目を集めている。GaN系化合物半導体は、サファイア単結晶を始めとして種々の酸化物基板やIII−V族化合物を基板として、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)等によって形成される。
【0003】
GaN系化合物半導体材料の特性として、横方向への電流拡散が小さいことがある。原因は、エピタキシャル結晶中に多く存在する基板から表面へ貫通する転位の存在であることが考えられるが、詳しいことは判っていない。さらに、p型のGaN系化合物半導体においてはn型のGaN系化合物半導体の抵抗率に比べて抵抗率が高く、その表面に金属を積層しただけではp層内の横の電流の広がりはほとんど無く、pn接合を持ったLED構造とした場合正極の直下しか発光しない。
【0004】
そこで、正極として透光性を有する電極を形成し、電極を通して発光を外部に取り出す構造が採用されてきた。この構造の場合、電極が電流を拡散させる機能を備えている。例えば、p層上にNiとAuを各々数10nm程度積層させて酸素雰囲気下で合金化処理を行い、p層の低抵抗化の促進および透光性とオーミック性を有した正極の形成を行なうことが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、正極としてp層上にPt層を形成し酸素を含む雰囲気中で熱処理し、p層の低抵抗化と合金化処理を同時に行なうことが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この方法も酸素雰囲気下で熱処理するため、上述と同じ問題を有する。さらに、Pt単体で良好な透明電極とするためには相当薄く(例えば、5nm以下)しなければならないが、結果としてPt層の電気抵抗が高くなり、熱処理によりPt層の低抵抗化が成されたとしても電流の広がりが悪く、不均一な発光となり順方向電圧(VF)の上昇および発光強度の低下を招く。
【0006】
しかも熱処理によって半導体積層構造に影響があることが判ってきた。特に発光層にInを含む構造とした場合、Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体結晶は熱により劣化するので、発光出力の低下、逆方向電圧の低下などの弊害を招く。また、初期特性が良い場合でも熱履歴を経た材料ではエージングによる劣化を招きやすい。このため、Inを含む発光層を有する素子の場合、製造の過程においてできるだけ熱処理を経ないことが望まれる。
【特許文献1】特許第2803742号公報
【特許文献2】特開平11−186605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の問題点を解決する為に、Inを含む発光層を有する素子構造において、酸素雰囲気下での熱処理や合金化熱処理等を必要とせず、かつ良好な透光性と低接触抵抗を有する電流拡散性に優れた、正極構造を提供し、さらにその正極を使用した発光効率の高い半導体発光素子を提供することである。
本発明において透光性とは、300〜600nmの波長領域における光に対して透光性であることを意味し、無色透明を意味するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を提供する。
(1) Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の透明正極であって、白金族から選ばれた少なくとも1種類の金属の薄膜からなるコンタクトメタル層と、コンタクトメタル層を構成する金属以外の金属もしくは合金の薄膜からなる電流拡散層の2種類の層、及びボンデイングパッドからなることを特徴とする正極構造。
【0009】
(2) 前記コンタクトメタル層の厚さが0.1〜7.5nmであることを特徴とする(1)に記載の正極構造。
(3) 前記コンタクトメタル層の厚さが0.1〜5nmであることを特徴とする(1)に記載の正極構造。
(4) 前記コンタクトメタル層の厚さが0.5〜2.5nmであることを特徴とする(1)に記載の正極構造。
(5) 前記コンタクトメタル層を構成する白金族金属が白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウムからなる金属のうち、少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれか一つに記載の正極構造。
(6) 前記コンタクトメタル層が白金を含むことを特徴とする(1)から(5)のいずれか一つに記載の正極構造。
【0010】
(7) 前記電流拡散層が金、銀および銅から選ばれた少なくとも1種の金属の薄膜、または少なくとも1種の金属を含む合金の薄膜であることを特徴とする(1)から(6)のいずれか一つに記載の正極構造。
(8) 前記電流拡散層が金であることを特徴とする(1)から(7)のいずれか一つに記載の正極構造。
(9) 前記電流拡散層の厚さが1〜20nmであることを特徴とする(1)から(8)のいずれか一つに記載の正極構造。
(10) 前記電流拡散層の厚さが10nm以下であることを特徴とする(1)から(8)のいずれか一つに記載の正極構造。
(11) 前記電流拡散層の厚さが3〜6nmであることを特徴とする(1)から(8)のいずれか一つに記載の正極構造。
【0011】
(12) Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体からなる量子井戸構造の発光層を有し、(1)から(11)のいずれか一つに記載の正極構造を具備してなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
(13) 前記発光層が、複数の井戸層と複数の障壁層からなる多重量子井戸構造であることを特徴とする(12)に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、Inを含む発光層を有する発光素子用の電極として、金属のみからなる透光性の電極とし、作製の過程で熱処理を実施しないことにより、発光強度の低下や逆耐圧の悪化を招くことなく、エージング劣化の少ない発光素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の各実施形態に限定されるものではなく、例えばこれら実施実施形態の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
図1は、本発明の透光性の正極を有する発光素子の断面を示した模式図である。本発明の化合物半導体発光素子100は、基板1上にバッファ層6を介してGaN系化合物半導体層2が形成されており、その上に本発明の透光性の正極10が形成されている。
GaN系化合物半導体層2は、例えばn型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5からなるヘテロ接合構造で構成される。発光層4はInを含んでいる。また、発光層4はInを含む井戸層とInを含まない障壁層からなる多重量子井戸構造としてもよい。
n型半導体層3の一部には負極20が形成され、p型半導体層5の一部には透光性の正極10が形成される。
また、透光性の正極10は、コンタクトメタル層11、電流拡散層12およびボンディングパッド層13の3層で構成されている。
【0014】
コンタクトメタル層11に要求される性能としては、p層との接触抵抗が小さいことが必須である。さらに、発光層からの光を電極面側より取り出すフェイスアップマウント型の発光素子にあっては優れた光透過性が要求される。
【0015】
コンタクトメタル層11の材料は、熱処理を実施しなくとも良好な接触抵抗を得ることができるとの観点から、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)等の白金族金属が好ましい。これらの中でもPtは、仕事関数が高く、高温熱処理を施していない比較的高抵抗なp型GaN系化合物半導体層に対してでも良好なオーミック接触を得ることが可能なので、特に好ましい。
【0016】
コンタクトメタル層11を白金族金属で構成した場合、光透過性の観点からその厚さを非常に薄くすることが必要である。コンタクトメタル層11の厚さは、0.1〜7.5nmの範囲が好ましい。0.1nm未満では安定した薄層が得られ難い。7.5nmを超えると透光性が低下してくるので、5nm以下がさらに好ましい。また、その後の電流拡散層12の積層による透光性の低下と成膜の安定性を考慮すると、0.5〜2.5nmの範囲が特に好ましい。
【0017】
しかし、コンタクトメタル層11の厚さを薄くすることでコンタクトメタル層11の面方向の電気抵抗が高くなり、かつ比較的高抵抗なp層とあいまって電流注入部であるパッド層の周辺部しか電流が拡がらず、結果として不均一な発光パターンとなり発光出力が低下する。
【0018】
そこで、コンタクトメタル層11の電流拡散性を補う手段として高光透過率で高導電性の金属薄膜からなる電流拡散層12をコンタクトメタル層11上に配置することにより、白金族金属の低接触抵抗性や光透過率を大きく損なうことなく電流を均一に広げることが可能となり、結果として発光出力の高い発光素子を得ることが出来る。
【0019】
電流拡散層12は、コンタクトメタル層11を構成する金属以外の金属もしくは合金の薄膜で構成する。
電流拡散層12の材料は、導電率の高い金属、例えば金(Au)、銀(Ag)および銅(Cu)からなる群から選ばれた金属または少なくともそれらの一種を含む合金が好ましい。中でも金は、薄膜とした時の光透過率が高いことから最も好ましい。
【0020】
電流拡散層12の厚さは、1〜20nmが好ましい。1nm未満では電流拡散効果が十分発揮されない。20nmを超えると電流拡散層12の光透過性の低下が著しく発光出力の低下が危惧される。10nm以下がさらに好ましい。さらに厚さを3〜6nmの範囲とすることで電流拡散層12の光透過性と電流拡散の効果のバランスが最も良くなり、上記のコンタクトメタル層11と合わせることで正極上の全面で均一に発光し、かつ高出力な発光が得られる。
【0021】
コンタクトメタル層11および電流拡散層12の成膜方法については、特に制限されることはなく公知の真空蒸着法やスパッタ法を用いることができる。中でも、熱ダメージの少ない蒸着法は、Inを含む発光層4を有する素子に電極を形成する方法としては好適である。
【0022】
ボンディングパッド部を構成するボンディングパッド層13については、各種の材料を用いた各種の構造のものが知られており、これら公知のものを特に制限されることなく用いることが出来る。但し、電流拡散層12との密着性の良い材料を用いることが望ましく、厚さはボンディング時の応力に対してコンタクトメタル層11あるいは電流拡散層12へダメージを与えないよう十分厚くする必要がある。また最表層はボンディングボールとの密着性の良い材料とすることが望ましい。
【0023】
本発明に提案されたような、金属のみからなる透光性電極は、作製する工程に熱処理を含まずに作製することが可能なのが最大の利点である。作製工程に熱処理を含まないことは、発光層4にInを含む従来公知の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に対し、発光層4への熱ダメージの蓄積を抑える上で非常に有利である。従来の熱処理工程を経ないと形成できない酸化物層を含む構造の透光性電極や、金属製の透光性電極でもオーミック接触を取るための熱処理を施した電極では、InGaN等で構成されたInを含む発光層4に結晶が熱分解して金属化した部分が見られた。また、そのような明確な破壊の痕が見られない場合でも、エージングによって破壊が顕在化することがあったが、熱処理工程を経ない電極を用いた場合、このような不都合が解消される。
このことは、Inを含む発光層4を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であれば一般的に見られる有利点である。また、InGaN層を薄膜化させ、格子歪のかかる構成とした量子井戸構造においては、特に効果が著しい。中でも、多重量子井戸構造を用いた場合に、更に発光層4の破壊の抑制の効果が顕著である。
【0024】
基板1には、サファイア単結晶(Al;A面、C面、M面、R面)、スピネル単結晶(MgAl)、ZnO単結晶、LiAlO単結晶、LiGaO単結晶、MgO単結晶などの酸化物単結晶、Si単結晶、SiC単結晶、GaAs単結晶、AlN単結晶、GaN単結晶およびZrBなどのホウ化物単結晶などの公知の基板材料を何ら制限なく用いることができる。なお、基板の面方位は特に限定されない。また、ジャスト基板でも良いしオフ角を付与した基板であっても良い。
【0025】
n型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5は各種構造のものが周知であり、これら周知のものを何ら制限なく用いることができる。特にp型半導体層5のキャリア濃度は一般的な濃度のものを用いるが、比較的キャリア濃度の低い、例えば1×1017cm−3程度のp型半導体層にも本発明の透光性正極は適用できる。
【0026】
それらを構成する窒化ガリウム系化合物半導体として、一般式AlInGa1−x−yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)で表わされる各種組成の半導体が周知であり、本発明におけるn型半導体層3およびp型半導体層5を構成する窒化ガリウム系化合物半導体としても、一般式AlInGa1−x−yN(0≦x<1,0≦y<1,0≦x+y<1)で表わされる各種組成の半導体を何ら制限なく用いることができる。発光層4を構成する窒化ガリウム系化合物半導体としては、Inを含む一般式AlInGa1−x−yN(0≦x<1,0<y<1,0<x+y<1)で表わされる半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0027】
これらの窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法は特に限定されず、有機金属化学気相成長法(MOCVD)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、分子線エピタキシー法(MBE)、などIII族窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。好ましい成長方法としては、膜厚制御性、量産性の観点からMOCVD法である。
MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H)または窒素(N)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH)、ヒドラジン(N)などが用いられる。また、ドーパントとしては、n型にはSi原料としてモノシラン(SiH)またはジシラン(Si)を、Ge原料としてゲルマン(GeH)を用い、p型にはMg原料としては例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム((EtCp) Mg)を用いる。
【0028】
基板1上にn型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5が順次積層された窒化ガリウム系化合物半導体のn型半導体層3に接して負極20を形成するために、発光層4およびp型半導体層5の一部を除去して、n型半導体層3を露出させる。その後残したp型半導体層5上に本発明の透光性正極を形成し、露出させたn型半導体層3上に負極20を形成する。負極20としては、各種組成および構造の負極が周知であり、これら周知の負極を何ら制限無く用いることができる。
【0029】
本発明では発光層(活性層)4中にはインジウム(In)が含まれていることが前提となる。発光層4は、InGaNなどの単層で構成しても構わないし、量子井戸構造としても構わないが、特に、量子井戸構造を採用した場合に、本発明の効果が顕著に現れる。
量子井戸構造としては、単一の層からなる単一量子井戸構造でもよいが、活性層である井戸層と障壁層とを交互に複数層積層させた多重量子井戸構造が、発光出力が向上するので好ましい。積層の回数は3回から10回程度が好ましく、3回から6回程度がさらに好ましい。多重量子井戸構造の場合、全ての井戸層(活性層)が厚膜部と薄膜部を備えている必要はなく、また、厚膜部および薄膜部それぞれの寸法や面積比などを各層によって変化させても良い。なお、多重量子井戸構造の場合、井戸層(活性層)と障壁層を併わせた全体を本明細では発光層と呼ぶ。
【0030】
障壁層の膜厚は、70Å以上であることが好ましく、さらに好ましくは140Å以上である。障壁層の膜厚が薄いと、障壁層上面の平坦化を阻害し、発光効率の低下やエージング特性の低下を引き起こす。また、膜厚が厚すぎることは、駆動電圧の上昇や発光の低下を引き起こす。このため、障壁層の膜厚は500Å以下であることが好ましい。
【0031】
多重量子構造の場合、障壁層は、GaNやAlGaNのほか、井戸層(活性層)を構成するInGaNよりもIn比率の小さいInGaNで形成することができる。中でも、GaNが好適である。
【0032】
活性層を、多重量子井戸構造で構成し、アンドープとする場合、井戸層には膜厚の厚い領域と薄い領域を含む構造とすることができる。井戸層をこの構造とすることで、駆動電圧の低減を実現することができる。
このような構造は、600度から900度などの比較的低い温度で井戸層を成長させておき、その後成長を停止した状態で昇温する工程を入れることで形成することが可能である。
【0033】
活性層にSiをドープする場合、ドーパント源としては一般に良く知られたシラン(SiH)、ジシラン(Si)のほか、有機珪素原料を用いることができる。シラン(SiH)、ジシラン(Si)は100%のガスとして供給しても良いが、安全性の観点からは希釈したガスをボンベから供給することが望ましい。
【0034】
同様に、活性層にGeをドープする場合、ドーパント源としては一般に良く知られたゲルマン(GeH)のほか、有機ゲルマニウム原料を用いることができる。ゲルマン(GeH)は、100%のガスとして供給しても良いが、安全性の観点からは希釈したガスをボンベから供給することが望ましい。
【0035】
活性層にnドーパントをドープする場合、全領域にドープしても良いし、一部の領域のみにドープしても良い。特に、量子井戸構造を採用している構造において障壁層にnドーパントをドープすると、素子の駆動電圧が低下する効果があるので、障壁層にnドーパントをドープすることは望ましい。この場合、障壁層全体にドープするだけでなく、一部の領域にドープしても良い。特に、井戸層の直下にあたる領域に選択的にドープすることで高い出力と低い駆動電圧を両立することができる。
nドーパントをドープする濃度としては、5×1016cm−3以上で1×1019cm−3以下とすることが良い。濃度がこれ以上低くては駆動電圧の低減が実現できないし、これ以上高いと結晶性や平坦性が低下する。更に望ましくは1×1017cm−3以上で5×1018cm−3以下であり、1×1017cm−3以上で1×1018cm−3以下が最も好適である。
【0036】
コンタクト層と発光層との間に、nクラッド層を設けることが好ましい。nコンタクト層の最表面に生じた平坦性の悪化を埋めることができるからである。nクラッド層は、AlGaN、GaN、InGaNなどで形成することが可能であるが、InGaNとする場合には活性層のInGaNのバンドギャップよりも大きい組成とすることが望ましいことは言うまでもない。nクラッド層のキャリア濃度は、nコンタクト層と同じでも良いし、大きくても小さくても良い。その上に形成される活性層の結晶性をよくするために、成長速度、成長温度、成長圧力、ドープ量などの成長条件を適宜調節して、平坦性の高い表面とすることが好ましい。
【0037】
またnクラッド層は、組成や格子定数の異なる層を、交互に複数回積層して形成しても良い。その際、積層する層によって組成のほか、ドーパントの量や膜厚などを変化させても良い。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例)
図2は本実施例で作製した窒化ガリウム系化合物半導体発光素子200の断面を示した模式図であり、図3はその平面を示した模式図である。サファイアからなる基板1上に、AlNからなるバッファ層6を介して、厚さ8μmのアンドープGaNからなる下地層3a、厚さ2μmのGeドープn型GaNコンタクト層3b、厚さ0.03μmのn型In0.1 Ga0.9 Nクラッド層3c、厚さ16nmのSiドープGaN障壁層および厚さ3nmのIn0.2 Ga0.8 N井戸層を5回積層し、最後に障壁層を設けた多重量子井戸構造の発光層4、厚さ0.01μmのMgドープp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層5a、厚さ0.15μmのMgドープp型AlGaNコンタクト層5bを順に積層し、窒化ガリウム系化合物半導体を形成した。p型AlGaNコンタクト層5b上に、厚さ1.5nmのPtコンタクトメタル層11、厚さ5nmのAu電流拡散層12およびAu/Ti/Al/Ti/Au5層構造(厚さはそれぞれ50/20/10/100/200nm)のボンディングパッド層13よりなる正極10を形成した。多重量子井戸構造をなす発光層4の断面構造を図4に示す。図において41−1〜41−6は障壁層であり、42−1〜42−5は井戸層である。
【0039】
次にn型GaNコンタクト層3b上にTi/Auの二層構造の負極20を形成し、光取り出し面を半導体側とした発光素子である。正極10および負極20の平面形状は図3に示したとおりである。
【0040】
この発光素子構造において、n型GaNコンタクト層3bのキャリア濃度は5×1018cm−3であり、GaN障壁層のSiドープ量は1×1018cm−3であり、p型AlGaNコンタクト層5bのキャリア濃度は5×1018cm−3であり、p型AlGaNクラッド層5aのMgドープ量は5×1019cm−3であった。
【0041】
窒化ガリウム系化合物半導体層の積層は、MOCVD法により、当該技術分野においてよく知られた通常の条件で行なった。また、正極10および負極20は次の手順で形成した。
【0042】
初めに反応性イオンエッチング法によって負極20を形成する部分のn型GaNコンタクト層3bを下記手順により露出させた。
【0043】
まず、エッチングマスクをp型半導体層5b上に形成した。形成手順は以下の通りである。レジストを全面に一様に塗布した後、公知のリソグラフィー技術を用いて、正極領域より一回り大きい領域からレジストを除去した。真空蒸着装置内にセットして、圧力4×10−4Pa以下でNiおよびTiをエレクトロンビーム法により膜厚がそれぞれ約50nmおよび300nmとなるように積層した。その後リフトオフ技術により、正極領域以外の金属膜をレジストとともに除去した。
【0044】
次いで、反応性イオンエッチング装置のエッチング室内の電極上に半導体積層基板を載置し、エッチング室を10−4Paに減圧した後、エッチングガスとしてClを供給してn型GaNコンタクト層3bが露出するまでエッチングした。エッチング後、反応性イオンエッチング装置より取り出し、上記エッチングマスクを硝酸およびフッ酸により除去した。
【0045】
次に、公知のフォトリソグラフィー技術及びリフトオフ技術を用いて、p型AlGaNコンタクト層5b上の正極を形成する領域にのみ、Ptからなるコンタクトメタル層11、Auからなる電流拡散層12を形成した。コンタクトメタル層11、電流拡散層12の形成では、まず、窒化ガリウム系化合物半導体層を積層した基板1を真空蒸着装置内に入れ、p型AlGaNコンタクト層5b上に初めにPtを1.5nm、次にAuを5nm積層した。引き続き真空室から取り出した後、通常リフトオフと呼ばれる周知の手順に則って処理し、さらに同様な手法で電流拡散層12上の一部にAuからなる第1の層、Tiからなる第2の層、Alからなる第3の層、Tiからなる第4の層、Auからなる第5の層を順に積層し、ボンディングパッド層13を形成した。このようにしてp型AlGaNコンタクト層5b上に正極10を形成した。
【0046】
この方法で形成した正極10は透光性を示し、470nmの波長領域で60%の光透過率を有していた。なお、光透過率は、上記と同じコンタクトメタル層および電流拡散層を光透過率測定用の大きさに形成したもので測定した。
【0047】
次に、露出したn型GaNコンタクト層3b上に負極20を以下の手順により形成した。レジストを全面に一様に塗布した後、公知リソグラフィー技術を用いて、露出したn型GaNコンタクト層3b上の負極形成部分からレジストを除去して、通常用いられる真空蒸着法で半導体側から順にTiが100nm、Auが200nmよりなる負極20を形成した。その後レジストを公知の方法で除去した。
【0048】
このようにして正極10および負極20を形成したウエーハを、基板裏面を研削・研磨することにより80μmまで基板1の板厚を薄くして、レーザスクライバを用いて半導体積層側から罫書き線を入れたあと、押し割って、350μm角のチップに切断した。続いてこれらのチップをプローブ針による通電で電流印加値20mAにおける順方向電圧の測定をしたところ2.9Vであった。
【0049】
その後、TO−18缶パッケージに実装してテスターによって発光出力を計測したところ印加電流20mAにおける発光出力は6mWを示した。また、この試料をTO−18缶パッケージに実装したまま30mAの電流を100hrの間、通電し続けて、テスターによって発光特性および電気特性を計測した。すると、発光出力や逆方向電圧に変化は見られなかった。
【0050】
(比較例1)
電極を、従来のAu/NiOの構造とした以外は、実施例1と同様に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製した。Au/NiO透光性電極の作製に際しては、酸素雰囲気で450℃の温度で熱処理を行った。この発光素子の順方向電圧及び発光出力はそれぞれ2.9V及び3.7mWであった。発光の様子を顕微鏡で確認すると、ところどころに暗いスポットが見られることが判った。これは、透光性電極作成時の熱処理により発光層の劣化が発生したことを示しているものと思われる。
【0051】
(比較例2)
電極を、Ptのみからなるの構造とし、熱処理を施した以外は、実施例1と同様に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製した。この発光素子の順方向電圧及び発光出力はそれぞれ2.9V及び4.5mWであった。この試料を30mAの電流を100hr通電し続けてエージング試験をしたところ、10μAの逆方向電流における逆方向電圧は、試験前には20V以上あったが、試験後に5Vに低下していた。これは、透光性電極作成時の熱処理で蓄積された発光層へのダメージによるものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によって提供される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子用電極は、透光型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の正極として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の化合物半導体発光素子の断面構造を示した模式図である。
【図2】実施例の化合物半導体発光素子の断面構造を示した模式図である。
【図3】実施例の化合物半導体発光素子の平面を示した模式図である。
【図4】実施例の発光層の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・基板、2・・・GaN系化合物半導体層、3・・・n型半導体層、3a・・・下地層、3c・・・クラッド層、4・・・発光層、5・・・p型半導体層、5a・・・クラッド層、5b・・・コンタクト層、6・・・バッファ層、10・・・正極、11・・・コンタクトメタル層、12・・・電流拡散層、13・・・ボンディングパッド層、20・・・負極、41−1〜41−6・・・障壁層、42−1〜41−5・・・井戸層、100,200・・・窒化ガリウム系化合物半導体発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の透明正極であって、白金族から選ばれた少なくとも1種類の金属の薄膜からなるコンタクトメタル層と、コンタクトメタル層を構成する金属以外の金属もしくは合金の薄膜からなる電流拡散層の2種類の層、及びボンデイングパッドからなることを特徴とする正極構造。
【請求項2】
前記コンタクトメタル層の厚さが0.1〜7.5nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極構造。
【請求項3】
前記コンタクトメタル層の厚さが0.1〜5nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極構造。
【請求項4】
前記コンタクトメタル層の厚さが0.5〜2.5nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極構造。
【請求項5】
前記コンタクトメタル層を構成する白金族金属が白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウムからなる金属のうち、少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項6】
前記コンタクトメタル層が白金を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項7】
前記電流拡散層が金、銀および銅から選ばれた少なくとも1種の金属の薄膜、または少なくとも1種の金属を含む合金の薄膜であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項8】
前記電流拡散層が金であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項9】
前記電流拡散層の厚さが1〜20nmであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項10】
前記電流拡散層の厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項11】
前記電流拡散層の厚さが3〜6nmであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の正極構造。
【請求項12】
Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体からなる量子井戸構造の発光層を有し、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の正極構造を具備してなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項13】
前記発光層が、複数の井戸層と複数の障壁層からなる多重量子井戸構造であることを特徴とする請求項12に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−13475(P2006−13475A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151288(P2005−151288)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】