説明

歪み測定装置、方法、プログラムおよび記録媒体

【課題】被測定物(例えば、光ファイバ)の歪みを精度良く測定する。
【解決手段】入射光を与えることにより光ファイバにおいて発生したブリルアン散乱光のスペクトルを記録するブリルアン散乱光スペクトル記録部32aと、記録されたスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算部32bと、概算ピーク周波数におけるスペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出部32fと、導出されたピーク周波数に基づき、光ファイバの歪みを導出する歪み導出部32gとを備えた歪み測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの歪みの測定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続波光をパルス化したパルス光を光ファイバに与え、光ファイバからブリルアン散乱光を得て、ブリルアン散乱光をコヒーレント検波することが行われている(例えば、特許文献1の図8を参照)。例えば、ブリルアン散乱光と、連続波光を所定の周波数で強度変調した強度変調光とを合波してコヒーレント検波する。なお、強度変調光は、光周波数の搬送光成分と側波帯光成分とを有する。
【0003】
コヒーレント検波の結果からブリルアン散乱光に相当する信号をフィルタにより取り出して、ブリルアン散乱光のパワースペクトルを求める。ここで、所定の周波数を変化させながらブリルアン散乱光のパワースペクトルを求める。さらに、ブリルアン散乱光のパワースペクトルを所定の関数(例えば、ローレンツ関数)でフィッティングして、ブリルアン散乱光のパワーが最大となるピーク周波数を求める。ピーク周波数から光ファイバのひずみの値を求めることができる。
【0004】
ここで、図12に光ファイバの歪み分布の一例を示す。図12は、従来技術における光ファイバの入射端からの距離と歪みとを対応づけたグラフである。図12に示す歪み分布によれば、光ファイバは、歪みが小さい地点Aと歪みが大きい地点Bとを有する。図12に示す歪み分布を有する光ファイバにパルス光を与えた場合、図13に示すようなブリルアン散乱光のパワースペクトルが得られる。
【0005】
図13は、従来技術におけるブリルアン散乱光の光周波数と光パワーとを対応づけたグラフである。図13に示すように、地点Aに由来するパワースペクトルaと、地点Bに由来するパワースペクトルbとが得られる。地点Bの歪みを測定する場合、パワースペクトルbのピーク周波数fbを求める必要がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−165808号公報(図8参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ピーク周波数fbを正確に求めることは困難である。図14は、従来技術における図13に示すブリルアン散乱光のパワースペクトルを所定の関数(例えば、ローレンツ関数)でフィッティングしたときに得られる実測ピーク周波数fpを示す図である。
【0008】
図13においてはパワースペクトルを実線で示した。しかし、パワースペクトルのデータは、実際は図14に示すように、離散的なデータであり、フィッティングを行う必要がある。パワースペクトルのフィッティングの結果は、パワースペクトルbのみならずパワースペクトルaの影響も受ける。これにより、フィッティングの結果がピークをとる実測ピーク周波数fpは、ピーク周波数fbからずれてしまう。よって、光ファイバの地点Bの歪みを正確に測定することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、被測定物(例えば、光ファイバ)の歪みを精度良く測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる歪み測定装置は、入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算手段と、前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出手段と、導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出手段と、を備えるように構成される。
【0011】
上記のように構成された歪み測定装置によれば、ピーク周波数概算手段は、入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求める。ピーク周波数導出手段は、前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出する。歪み導出手段は、導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する。
【0012】
なお、本発明にかかる歪み測定装置は、前記概算ピーク周波数が二種類ある場合、前記周波数の範囲が、前記スペクトルがより大きな値をとる方の前記概算ピーク周波数から所定の範囲であるようにしてもよい。
【0013】
なお、本発明にかかる歪み測定装置は、前記概算ピーク周波数が二種類ある場合、一方の前記概算ピーク周波数の前記スペクトルが、他方の前記概算ピーク周波数の前記スペクトルよりも所定値以上大きい場合に、前記周波数の範囲が前記一方の前記概算ピーク周波数から所定の範囲であるようにしてもよい。
【0014】
なお、本発明にかかる歪み測定装置は、前記ピーク周波数導出手段が、前記周波数の範囲おける前記スペクトルを所定の関数で近似し、前記所定の関数が極大値をとる周波数をピーク周波数として導出するようにしてもよい。
【0015】
なお、本発明にかかる歪み測定装置は、前記入射光はパルス光であり、前記所定の範囲は、前記パルス光のパルス幅に基づき定められるようにしてもよい。
【0016】
本発明は、入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算工程と、前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出工程と、導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出工程とを備えた歪み測定方法である。
【0017】
本発明は、入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算処理と、前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出処理と、導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0018】
本発明は、入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算処理と、前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出処理と、導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる歪み測定装置1の構成を示す図である。歪み測定装置1は、光ファイバ(被測定物)2に接続されている。また、歪み測定装置1は、連続光源10、光カプラ12、光パルス発生器14、光アンプ16、光カプラ18、光周波数シフタ20、光カプラ24、ヘテロダイン受光器26、フィルタ回路30、信号処理部32を備える。
【0021】
連続光源10は、連続光(すなわち、CW(Continuous
Wave)光)を生成する。なお、連続光の光周波数をF0とする。光カプラ12は、連続光源10から連続光を受け、光パルス発生器14および光周波数シフタ20に与える。光パルス発生器14は、連続光をパルス光に変換する。光アンプ16は、パルス光を増幅する。
【0022】
光カプラ18は、光アンプ16からパルス光を受け、入射端2aを介して光ファイバ2に与える。光ファイバ2の入射端2aからは、ブリルアン散乱光(光周波数F0±Fb)が出射され、光カプラ18に与えられる。光カプラ18は、受けたブリルアン散乱光を光カプラ24に与える。
【0023】
光周波数シフタ20は、光カプラ12から連続光を受ける。そして、光周波数シフタ20は、シフト光を出力する。なお、シフト光は、連続光と、第一側波帯光と、第二側波帯光とを有する。第一側波帯光および第二側波帯光の光周波数は、連続光の光周波数F0よりも所定の周波数シフト量Floだけずれている。
【0024】
すなわち、第一側波帯光は、連続光の光周波数F0よりも所定の光周波数Floだけ大きい光周波数F0+Floを有する光である。第二側波帯光は、連続光の光周波数F0よりも所定の光周波数Floだけ小さい光周波数F0-Floを有する光である。
【0025】
光カプラ24は、光周波数シフタ20からシフト光を受け、さらに光カプラ18からブリルアン散乱光を受けて合波し、ヘテロダイン受光器26に与える。
【0026】
ヘテロダイン受光器26は、光カプラ24の合波した光を受ける。すなわち、ヘテロダイン受光器26は、光カプラ24を介して、パルス光が入射された光ファイバ2の入射端2aからブリルアン散乱光を受ける。さらに、ヘテロダイン受光器26は、光カプラ24を介して、光周波数シフタ20からシフト光を受ける。そして、ヘテロダイン受光器26は、ブリルアン散乱光の光周波数とシフト光の光周波数との差の周波数を有する電気信号を出力する。
【0027】
ブリルアン散乱光に相当する成分の電気信号の周波数は|Flo-Fb|(=|F0+Flo-(F0+Fb)|)である。
【0028】
フィルタ回路30は、ヘテロダイン受光器26の出力する電気信号において、|Flo-Fb|の近傍の帯域を透過して、他の帯域の信号を透過しない。よって、フィルタ回路30は、ブリルアン散乱光に相当する電気信号を取り出す。これら電気信号はスペクトルに相当する。
【0029】
信号処理部32は、フィルタ回路30の出力を受け、光ファイバ(被測定物)2の歪みを導出する。
【0030】
図2は、信号処理部32の構成を示す機能ブロック図である。信号処理部32は、ブリルアン散乱光スペクトル記録部32a、ピーク周波数概算部32b、パワー比較部32c、周波数範囲設定部32d、フィッティング部32e、ピーク周波数導出部32f、歪み導出部32gを備える。
【0031】
ブリルアン散乱光スペクトル記録部32aは、フィルタ回路30の出力を受ける。そして、ブリルアン散乱光スペクトル記録部32aは、フィルタ回路30が出力するブリルアン散乱光に相当する電気信号を記録する。この電気信号は、ブリルアン散乱光のスペクトルに相当する。
【0032】
図3は、光ファイバ2の歪み分布の一例である。光ファイバ2の歪みはおおむねどの部分でもε0である。しかし、歪み区間Xにおいて、光ファイバ2の歪みはε1(>ε0)となる。ここで、光ファイバ2の各地点を地点E(入射端2aの近傍)、地点A(歪み区間Xの近傍かつ手前)、地点B(歪み区間Xの内部)、地点C(歪み区間Xの直近かつ手前)とする。このような光ファイバ2の歪み分布を測定することを考える。
【0033】
図4は、地点Eから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。入射端2aから地点Eまでの距離をzとすると、入射端2aに光を入射してから、z=(ct)/(2n)なる関係を満たす時間tが経過した後で得られるパワースペクトルが、地点Eから得られたパワースペクトルである。ただし、cは真空中の光速、nは光ファイバ2の光が通る部分の屈折率である。このようにして、入射端2aに光を入射してからスペクトルが得られるまでの時間により、光ファイバ2におけるどの地点から得られたスペクトルであるかがわかる。
【0034】
図4を参照して、歪みε0に対応するピーク周波数f0において、ブリルアン散乱光のパワーが最大となる。
【0035】
図5は、地点Aから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。地点Aは歪みε0であるものの、歪み区間X(歪みε1)の近傍であるため、ブリルアン散乱光のパワースペクトルは、二つの極大点を有する。すなわち、歪みε0に対応するピーク周波数f0においてパワースペクトルが極大(極大値P0A)となる一方で、歪みε1に対応するピーク周波数f1においてパワースペクトルが極大(極大値P1A)となる。なお、地点Aは歪み区間Xの内部ではないため、P0A>P1Aである。
【0036】
図6は、地点Bから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。地点Bは歪み区間Xの内部であるものの、歪み区間Xは光ファイバ2の長さに比べるとかなり短いため、ブリルアン散乱光のパワースペクトルは、二つの極大点を有する。すなわち、歪みε0に対応するピーク周波数f0においてパワースペクトルが極大(極大値P0B)となる一方で、歪みε1に対応するピーク周波数f1においてパワースペクトルが極大(極大値P1B)となる。なお、地点Bは歪み区間Xの内部であるため、P0B<P1Bである。
【0037】
図7は、地点Cから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。地点Cは地点Aよりも歪み区間Xに近い。本来ならば、図5に示すように、ピーク周波数f0におけるパワースペクトルが、ピーク周波数f1におけるパワースペクトルよりも大きいはずである。しかし、地点Cが歪み区間Xの直近であるため、パワースペクトルが光ファイバ2の過度応答の影響を受け、ピーク周波数f0におけるパワースペクトルP0Cよりも、ピーク周波数f1におけるパワースペクトルP1Cがわずかに大きくなってしまうことがある。パワースペクトルの単位をdBとすると、例えばP1C-P0C<2dB程度である。
【0038】
図8は、光ファイバ2の地点の入射端2aからの距離と、その地点から得られたピーク周波数f0の光パワーP0およびピーク周波数f1の光パワーP1との対応を示すグラフである。
【0039】
図8を参照して、歪み区間Xの近傍を除けば、光パワーP1は光パワーP0に比べて無視できるほどに小さい。歪み区間Xの内部では、光パワーP1は光パワーP0よりも大きい。ただし、歪み区間Xの外部でも歪み区間Xの直近では、パワースペクトルが光ファイバ2の過度応答の影響を受け、光パワーP1が光パワーP0よりも大きくなる。
【0040】
ピーク周波数概算部32bは、ブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求める。ブリルアン散乱光のスペクトルが極大値を一つの周波数でとる場合(地点E:図4参照)は、概算ピーク周波数は一つ(f0)である。ブリルアン散乱光のスペクトルが極大値を二つの周波数でとる場合(地点A,B,C:図5、図6、図7参照)は、概算ピーク周波数は二つ(f0,f1)である。
【0041】
パワー比較部32cは、概算ピーク周波数が二種類ある場合、どちらの概算ピーク周波数におけるパワースペクトルが大きいかを判定する。そして、判定結果を出力する。
【0042】
例えば、図5に示すパワースペクトルの場合は、概算ピーク周波数f0に関するパワーP0Aの方が、概算ピーク周波数f1に関するパワーP1Aよりも大きい。そこで、概算ピーク周波数f0を出力する。
【0043】
例えば、図6に示すパワースペクトルの場合は、概算ピーク周波数f1に関するパワーP1Bの方が、概算ピーク周波数f0に関するパワーP0Bよりも大きい。そこで、概算ピーク周波数f1を出力する。
【0044】
ただし、パワー比較部32cは、概算ピーク周波数が二種類ある場合、一方の概算ピーク周波数のスペクトルが、他方の概算ピーク周波数のスペクトルよりも所定値(例えば、2dB)以上大きい場合に、一方の概算ピーク周波数を出力する。それ以外の場合は、他方の概算ピーク周波数を出力する。
【0045】
例えば、図6に示すパワースペクトルの場合は、概算ピーク周波数f1に関するパワーP1Bの方が、概算ピーク周波数f0に関するパワーP0Bよりも2dB以上大きい。そこで、概算ピーク周波数f1を出力する。
【0046】
例えば、図7に示すパワースペクトルの場合は、概算ピーク周波数f1に関するパワーP1Cの方が、概算ピーク周波数f0に関するパワーP0Cよりも大きいが、P1C-P0C<2dBである。そこで、概算ピーク周波数f0を出力する。
【0047】
周波数範囲設定部32dは、パワー比較部32cの判定結果(概算ピーク周波数f0またはf1)から所定の範囲をフィッティング対象の周波数範囲として設定する。周波数範囲は、パルス光のパルス幅に基づき定められる。例えば、パルス幅が10nsの場合は周波数範囲の幅を100MHzとし、パワー比較部32cの判定結果から±50MHzを周波数範囲とする。パルス幅が20nsの場合は周波数範囲の幅を80MHzとし、パワー比較部32cの判定結果から±40MHzを周波数範囲とする。
【0048】
フィッティング部32eは、周波数範囲設定部32dにより設定された周波数範囲におけるパワースペクトルを所定の関数(例えば、ローレンツ関数)で近似する。
【0049】
図9は、周波数範囲設定部32dにより設定された周波数範囲を説明するためのグラフである。図9は、図6における概算ピーク周波数f0およびf1の近傍を拡大したものである。図4〜図8において、パワースペクトルを実線で連続的に図示してきた。しかし、図9に示すように、ブリルアン散乱光スペクトル記録部32aに記録されるパワースペクトルは離散的なデータであり、概算ピーク周波数f0およびf1もまた、離散的なデータでしかない。よって、概算ピーク周波数f0およびf1は、真のピーク周波数f0tおよびf1tとは若干異なる。ここで、図9に示す場合は、周波数範囲設定部32dは、概算ピーク周波数f1から±R[MHz](Rは例えば50または40)を周波数範囲とする。なお、図9において、概算ピーク周波数f0に対応する光パワーをP0Btと表記し、概算ピーク周波数f1に対応する光パワーをP1Btと表記する。
【0050】
図10は、フィッティング部32eの動作を説明するグラフである。図10は、図9における周波数範囲の部分を抽出したグラフである。フィッティング部32eは、周波数範囲の部分を、ローレンツ関数で近似する。近似した結果が実線で図示されている。
【0051】
ピーク周波数導出部32fは、フィッティング部32eにより導出された関数(例えば、ローレンツ関数)が最大値をとる真のピーク周波数f1tを導出する(図10参照)。
【0052】
図11は、概算ピーク周波数f1から半値幅のパワースペクトルを用いてフィッティングを行ったと仮定した場合のフィッティングの結果と、得られる真のピーク周波数f1t’を示すグラフである。
【0053】
図11に示す比較例においては、P1Bから3dBの範囲のパワーをとるデータを用いて、ローレンツ関数で近似することになる。近似結果は、概算ピーク周波数f0の近傍のデータをもフィッティングに使用してしまうため、図10に示す場合と比べて誤りが大きい。よって、得られる真のピーク周波数f1t’は真のピーク周波数f1tとはかけ離れたものとなる。
【0054】
このように、図10に示すような本願実施形態の方が、図11に示す比較例よりも、真のピーク周波数をより正確に求めることができる。
【0055】
歪み導出部32gは、ピーク周波数導出部32fにより導出された真のピーク周波数に基づき、光ファイバ2の歪みを導出する。真のピーク周波数と周波数F0との差が、ブリルアン周波数シフトsである。
【0056】
光ファイバ2の歪みεと、ブリルアン周波数シフトsとは、s(ε) = s(0)+(ds/dε)・εなる関係がある。ただし、s(0)は歪みεが0であるときのブリルアン周波数シフトである。そこで、ブリルアン周波数シフトsがわかれば、光ファイバ2の歪みεを導出できることがわかる。
【0057】
次に、本発明の実施形態の動作を説明する。
【0058】
まず、連続光源10が連続光を生成する。
【0059】
連続光は、光カプラ12を介して、光パルス発生器14に与えられる。光パルス発生器14は、連続光をパルス光に変換する。パルス光は、光アンプ16により増幅され、光カプラ18を通過して、光ファイバ2の入射端2aに入射される。
【0060】
光ファイバ2の入射端2aからはブリルアン散乱光が出射され、光カプラ18に与えられる。光カプラ18は、受けたブリルアン散乱光を、光カプラ24に与える。
【0061】
また、連続光は、光カプラ12を介して、光周波数シフタ20に与えられる。
【0062】
光周波数シフタ20は、連続光(光周波数F0)を受け、シフト光(連続光(光周波数F0)、第一側波帯光(光周波数F0+Flo)、第二側波帯光(光周波数F0-Flo))を出力する。光周波数シフタ20の出力するシフト光は、光カプラ24に与えられる。
【0063】
光カプラ24は、光周波数シフタ20からシフト光を受け、さらに光カプラ18からブリルアン散乱光を受けて、合波し、ヘテロダイン受光器26に与える。
【0064】
ヘテロダイン受光器26は、光カプラ24の合波した光を受け、ブリルアン散乱光の光周波数とシフト光の光周波数との差の周波数を有する電気信号を出力する。
【0065】
ここで、まずフィルタ回路30は、ヘテロダイン受光器26の出力する電気信号において、周波数|Flo-Fb|(=|F0+Flo-(F0+Fb)|)の近傍の帯域を透過して、他の帯域の信号を透過しないようにする。すると、フィルタ回路30は、ブリルアン散乱光に相当する電気信号を取り出す取出手段として機能する。ブリルアン散乱光に相当する電気信号は、信号処理部32のブリルアン散乱光スペクトル記録部32aに記録される。
【0066】
ピーク周波数概算部32bは、ブリルアン散乱光スペクトル記録部32aの記録内容を読み出し、概算ピーク周波数(f0,f1)を求める。
【0067】
パワー比較部32cは、概算ピーク周波数(f0,f1)を受け、どちらの概算ピーク周波数におけるパワースペクトルが大きいかを判定する。そして、判定結果を出力する。ただし、概算ピーク周波数f1に関するパワーの方が、概算ピーク周波数f0に関するパワーよりも大きいが、それらのパワーの差が所定値(例えば、2dB)未満である場合(図7参照)は、概算ピーク周波数f0を出力する。
【0068】
周波数範囲設定部32dは、パワー比較部32cの判定結果(概算ピーク周波数f0またはf1)から所定の範囲をフィッティング対象の周波数範囲として設定する(図9参照)。
【0069】
フィッティング部32eは、周波数範囲設定部32dにより設定された周波数範囲におけるパワースペクトルを所定の関数(例えば、ローレンツ関数)で近似する(図10参照)。
【0070】
ピーク周波数導出部32fは、フィッティング部32eにより導出された関数(例えば、ローレンツ関数)が最大値をとる真のピーク周波数f1tを導出する(図10参照)。
【0071】
歪み導出部32gは、ピーク周波数導出部32fにより導出されたピーク周波数に基づき、光ファイバ2の歪みを導出する。
【0072】
本発明の実施形態によれば、(1)パワー比較部32cによって、概算ピーク周波数(f0,f1)のどちらにおけるパワースペクトルが大きいかを判定し、(2)周波数範囲設定部32dが、その判定結果から所定の範囲をフィッティング対象の周波数範囲として設定し(図9参照)、(3)フィッティング部32eにより所定の範囲のパワースペクトルをフィッティングし(図10参照)、(4)フィッティングの結果から真のピーク周波数f1tを導出する(図10参照)ため、概算ピーク周波数f1から半値幅のデータをフィッティングして、そのフィッティングの結果から真のピーク周波数f1t’を導出する(図11参照)場合と比べて、正確に真のピーク周波数を測定できる。正確な真のピーク周波数から歪み導出部32gが光ファイバ2の歪みを導出するため、正確に光ファイバ2の歪みを測定できる。
【0073】
なお、上記の実施形態は、以下のようにして実現できる。CPU、ハードディスク、メディア(フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROMなど)読み取り装置を備えたコンピュータに、上記の各部分(例えば、信号処理部32)を実現するプログラムを記録したメディアを読み取らせて、ハードディスクにインストールする。このような方法でも、上記の実施形態を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態にかかる歪み測定装置1の構成を示す図である。
【図2】信号処理部32の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】光ファイバ2の歪み分布の一例である。
【図4】地点Eから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。
【図5】地点Aから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。
【図6】地点Bから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。
【図7】地点Cから得られたブリルアン散乱光のパワースペクトルを示すグラフである。
【図8】光ファイバ2の地点の入射端2aからの距離と、その地点から得られたピーク周波数f0の光パワーP0およびピーク周波数f1の光パワーP1との対応を示すグラフである。
【図9】周波数範囲設定部32dにより設定された周波数範囲を説明するためのグラフである。
【図10】フィッティング部32eの動作を説明するグラフである。
【図11】概算ピーク周波数f1から半値幅のパワースペクトルを用いてフィッティングを行ったと仮定した場合のフィッティングの結果と、得られる真のピーク周波数f1t’を示すグラフである。
【図12】従来技術における光ファイバの入射端からの距離と歪みとを対応づけたグラフである。
【図13】従来技術におけるブリルアン散乱光の光周波数と光パワーとを対応づけたグラフである。
【図14】従来技術における図13に示すブリルアン散乱光のパワースペクトルを所定の関数(例えば、ローレンツ関数)でフィッティングしたときに得られる実測ピーク周波数fpを示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 歪み測定装置
2 光ファイバ
2a 入射端
10 連続光源
14 光パルス発生器
20 光周波数シフタ
26 ヘテロダイン受光器
30 フィルタ回路
32 信号処理部
32a ブリルアン散乱光スペクトル記録部
32b ピーク周波数概算部
32c パワー比較部
32d 周波数範囲設定部
32e フィッティング部
32f ピーク周波数導出部
32g 歪み導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算手段と、
前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出手段と、
導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出手段と、
を備えた歪み測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歪み測定装置であって、
前記概算ピーク周波数が二種類ある場合、
前記周波数の範囲が、前記スペクトルがより大きな値をとる方の前記概算ピーク周波数から所定の範囲である、
歪み測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の歪み測定装置であって、
前記概算ピーク周波数が二種類ある場合、
一方の前記概算ピーク周波数の前記スペクトルが、他方の前記概算ピーク周波数の前記スペクトルよりも所定値以上大きい場合に、前記周波数の範囲が前記一方の前記概算ピーク周波数から所定の範囲である、
歪み測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の歪み測定装置であって、
前記ピーク周波数導出手段が、前記周波数の範囲おける前記スペクトルを所定の関数で近似し、前記所定の関数が極大値をとる周波数をピーク周波数として導出する、
歪み測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の歪み測定装置であって、
前記入射光はパルス光であり、
前記所定の範囲は、前記パルス光のパルス幅に基づき定められる、
歪み測定装置。
【請求項6】
入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算工程と、
前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出工程と、
導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出工程と、
を備えた歪み測定方法。
【請求項7】
入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算処理と、
前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出処理と、
導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
入射光を与えることにより被測定物において発生したブリルアン散乱光のスペクトルが極大値をとる概算ピーク周波数を求めるピーク周波数概算処理と、
前記概算ピーク周波数における前記スペクトルの大小関係に基づき定められた周波数の範囲において、前記スペクトルが極大値をとるピーク周波数を導出するピーク周波数導出処理と、
導出された前記ピーク周波数に基づき、前記被測定物の歪みを導出する歪み導出処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−187473(P2007−187473A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3872(P2006−3872)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】