説明

気圧式倍力装置

【課題】気圧式倍力装置において、回生協調時にブレーキペダルの反力の変動を軽減して操作フィーリングを改善する。
【解決手段】ブレーキペダルで入力ロッド133を操作し、制御バルブ132で変圧室108に大気を導入し、パワーピストン106の推力によりマスタシリンダ110でブレーキ液圧を発生させる。液圧の反力の一部をリアクション部材155を介して入力ロッド133に伝達する。入力ロッド133が非作動状態から所定位置に前進するまで、制御バルブ132により変圧室108に大気を導入せず、リアクション部材155の反力を入力ロッド133に伝達せず、マスタシリンダ110で液圧を発生しない。このとき、液圧制御装置でブレーキ液圧を発生して回生協調制御を行ない、戻しバネ140及び反力調整バネ158によって入力ロッド133に反力を付与する。液圧制御装置の作動によるマスタシリンダ110の液圧の変動が入力ロッド133に伝達されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置の操作力を軽減するための気圧式倍力装置に関し、特に、回生ブレーキシステムとの組み合わせに適した気圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ装置において、液圧式ブレーキによる摩擦制動とモータジェネレータ等の発電機による回生制動との制動力配分を制御して所望の制動力を得る回生協調制御が知られている。特許文献1には、マスタシリンダと各車輪の液圧ブレーキとの間に、ポンプ、アキュムレータ及び電磁弁等からなり液圧ブレーキに供給する液圧を増減及び保持する液圧制御装置を介装し、この液圧制御装置によって回生制動時に液圧ブレーキに供給する液圧を調整することにより回生協調制御を行なうブレーキ制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−202678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたもののように液圧制御装置により回生協調制御を行なうブレーキ制御装置では、次のような問題がある。回生協調制御の実行中に、液圧制御装置によりブレーキ液圧を増減する際、マスタシリンダの液圧が変動するため、ブレーキペダルに対する反力が変動して、ブレーキペダルの操作フィーリングが悪化する。
【0005】
本発明は、回生協調時にブレーキペダルの反力の変動を軽減してブレーキペダルの操作フィーリングを改善するようにした倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る気圧式倍力装置は、パワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成されるハウジングと、
該ハウジング内に進退動可能に設けられて前記パワーピストンに連結されたバルブボディと、
前記バルブボディに進退動可能に挿入されてブレーキペダルに連結される入力ロッドと、
前記バルブボディ内に配置されて前記入力ロッドに連結されたプランジャと、
前記プランジャの移動によって開閉して前記変圧室に作動気体を導入、排出して前記パワーピストンに推力を発生させるための弁手段と、
前記パワーピストンの推力を出力ロッドに伝達し、前記出力ロッドからの反力の一部を前記プランジャに伝達するリアクション部材と、
前記プランジャに相対移動可能に支持されて前記ハウジングに係合して前記プランジャの前記ハウジングに対する後退位置を規定するストップキーと、
前記バルブボディと前記入力ロッドとの間に設けられ、前記入力ロッドを後退方向に付勢する戻しバネと、
前記ストップキーと前記プランジャとの間に設けられて、前記プランジャを前進方向に付勢する反力調整バネとを備え、
前記入力ロッドは、非作動状態では、前記戻しバネのバネ力により、前記反力調整バネのバネ力に抗して後退位置にあり、前記プランジャと前記リアクション部材との間には隙間があり、前記入力ロッドを所定位置まで前進させたとき、前記弁手段が前記変圧室に作動気体を導入して前記バルブボディが前記入力ロッドへの追従を開始し、前記バルブボディは、所定位置まで前進したとき、前記ストップキーに当接して該ストップキーと共に移動し、前記入力ロッドが更に所定位置まで前進したとき前記プランジャが前記リアクション部材に当接して反力を受けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る気圧式倍力装置によれば、回生協調時にブレーキペダルの反力の変動を軽減してブレーキペダルの操作フィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る気圧式の倍力装置の縦断面図である。
【図2】図1の倍力装置の要部の拡大図である。
【図3】図1の倍力装置において、制御バルブが閉じた状態を示す要部の拡大図である。
【図4】図1の倍力装置において、パワーピストンの推進によってバルブボディが前進してストップキーに当接した状態を示す要部の拡大図である。
【図5】図1の倍力装置を組込んだ自動車のブレーキ装置の概略構成を示す液圧回路図である。
【図6】図1に示す倍力装置の入出力特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る倍力装置101を示し、図2は、その要部を拡大して示している。図1及び図2に示すように、倍力装置101は、気圧式アクチュエータを倍力源とするシングル型の気圧式倍力装置である。薄板によって形成されたフロントシェル102とリアシェル103とが結合されてハウジング104が形成され、このハウジング104内がダイアフラム105を有するパワーピストン106によって定圧室107と変圧室108との2室に画成されている。フロントシェル102及びリアシェル103は、略有底円筒状であり、これらは、フロントシェル102の外周の開口縁部に、リアシェル103の外周の開口縁部を嵌合し、これらの間にダイアフラム105の外周部を挟み込むことによって、気密的に結合されている。
【0010】
フロントシェル102の底部の中央開口109にマスタシリンダ110の後端部が挿入され、フロントシェル102にマスタシリンダ110が取付けられている。リアシェル103の底部の中央部には、後述するバルブボディ111を挿入するための後部円筒部112が突出され、後部円筒部112の周囲には、車体のダッシュパネル(図示せず)に当接するリア座面103Aが形成されている。
【0011】
ハウジング104には、フロントシェル102からリアシェル103のリア座面103Aに貫通するタイロッド114が設けられている。タイロッド114は、両端部に取付ネジ部115及び固定ネジ部116が形成され、取付ネジ部115及び固定ネジ部116の基部に、それぞれ拡径されたフロントフランジ117及びリアフランジ118が形成されている。そして、フロントフランジ117がフロント座面102Aの内側にリテーナ119及びシール120を介して気密的に当接し、リアフランジ118がリア座面103Aの内側に気密的に当接した状態で、リアシェル103側にカシメによって固定されている。タイロッド114の中央部は、パワーピストン106に設けられた開口121及びダイアフラム105と一体に形成された略円筒状のロッドシール122に挿入されて、パワーピストン106及びダイアフラム105に対して摺動可能かつ気密的に貫通している。
【0012】
タイロッド114は、フロントシェル102及びリアシェル103の直径方向2箇所に配置されており(一方のみ図示する)、取付ネジ部115によってフロントシェル102にマスタシリンダ110を固定し、固定ネジ部116によってリア座面103Aを車体のダッシュパネル(図示せず)に固定する。また、リア座面103Aには、これをダッシュパネルに固定するためのリアボルト123がカシメによって固定されている。
【0013】
パワーピストン106及びダイアフラム105に略円筒状のバルブボディ111が連結されている。バルブボディ111には、円筒状の本体部111Aの前部の外側に拡開するように外側前部111Bが一体に形成され、外側前部111Bがパワーピストン106及びダイアフラム105の中央開口に挿入され、中央開口の内周縁部が外側前部111Bの外周溝に嵌合して、これらが気密的に結合されている。バルブボディ111は、変圧室108を通り、リアシェル103の後部円筒部112に挿入されて、その後部が外部へ延出している。後部円筒部112には、シール部材124が装着されて、バルブボディ111との間を摺動可能にシールしている。また、後部円筒部112とバルブボディ111との間には、蛇腹状のダストカバー125が設けられている。フロントシェル102には、接続管126が取付けられており、接続管126がエンジンの吸気管等の負圧源(図示せず)に接続されて、定圧室107が常時おおよそ所定の負圧に維持される。
【0014】
バルブボディ111の円筒状の本体部111Aの前端部内には、環状の反力受部材127が嵌合されて固定されている。バルブボディ111の本体部111Aの前端部には、出力ロッド128の基端部がリアクション部材155を介して連結され、出力ロッド128の先端部がマスタシリンダ110のプライマリピストン160(後述)に当接している。出力ロッド128の基端部は、カップ状に形成され、その内部にゴム等の弾性体からなる円板状のリアクション部材155が嵌合されている。そして、出力ロッド128の基端部に挿入されたバルブボディ111の本体部111Aの前端部が反力受部材127と共にリアクション部材155に当接している。
【0015】
バルブボディ111の本体部111A内には、プランジャ131が挿入されている。プランジャは131は、前端の小径部131Aが反力受部材127に摺動可能に嵌合し、後端の大径部131Bが本体部111Aの内面部によって軸方向に沿って移動可能に案内されている。バブルボディ111の本体部111A内のプランジャ131の後部には、プランジャ131によって操作される環状の弁手段である制御バルブ132が設けられている。さらに、プランジャ131の後部には、制御バルブ132に挿通された入力ロッド133の先端部が挿入、連結され、入力ロッド133の後端は、バルブボディ111の本体部111Aの後端部内に装着された通気性のダストシール134を貫通して外部へ延出されている。入力ロッド133の後端部には、ブレーキペダル19(図5参照)を連結するためのクレビス135が取付けられている。
【0016】
制御バルブ132は、後部の円筒状の摺動シール部132Aと前部の拡径された当接シール部132Bとが一体に形成されたゴム等の弾性体からなり、当接シール部132Bには、補強リング132Cが埋設されている。バルブボディ111の本体部111A内には、円筒状のガイド部材151が嵌合、固定され、ガイド部材151と本体部111Aとの間がシール部材152によってシールされている。制御バルブ132は、摺動シール部132Aがガイド部材151に挿入されて、摺動シール部132Aの後端部外周に突出するリップ部132Dがガイド部材151の内周面に気密的に摺接して軸方向に沿って移動可能に案内されている。当接シール部132Bは、軸方向の移動により、その前端内周縁部のテーパ面がプランジャ131の大径部131Bの後端の外周縁部の大気弁シート部153に離着座し、また、前端部がバルブボディ111の本体部111Aの内周に形成された段部の内周縁部に突出した環状の真空弁シート部154に離着座するようになっている。
【0017】
制御バルブ132は、入力ロッド133の段部と補強リング132Cとの間に介装されたテーパ状のコイルバネである弁バネ141によって大気弁シート部153及び真空弁シート部154に向かって付勢されている。バルブボディ111の本体部111Aの内部は、その側壁を貫通する大気通路137を介して変圧室108に連通し、ダストシール134を介して大気に連通している。また、本体部111Aの内部は、その側壁に軸方向に沿って設けられた真空通路136を介して定圧室107に連通している。そして、制御バルブ132は、プランジャ131の大気弁シート部153に離着座することにより、変圧室108と大気との間を連通、遮断し、また、真空弁シート部154に離着座することにより、定圧室107と変圧室108との間を連通、遮断する。
【0018】
バルブボディ111の側壁を径方向に貫通する大気通路137には、ストップキー138が挿入されている。ストップキー138は、リアシェル103の後部円筒部112の段部112Aに係合することによってバルブボディ111の後退位置を規定し、プランジャ131の外周溝156に係合することによってバルブボディ111とプランジャ131との相対変位量を制限し、また、プランジャ131のハウジング104に対する後退位置を規定している。プランジャ131に固定されたバネ受157とストップキー138との間に圧縮コイルバネである反力調整バネ158が介装され、プランジャ131は、反力調整バネ158のバネ力によって所定のセット荷重をもってストップキー138に対してリアクション部材155側(前進方向)へ向って付勢されている。また、プランジャ131に連結された入力ロッド133のバネ受部133Aとガイド部材151との間には、入力ロッド133を後退方向に付勢するテーパ状の圧縮コイルばねである戻しバネ140が介装されている。フロントシェル102の前壁とバルブボディ111に前端部に取付けられた案内部材142との間には、バルブボディ111を後退方向へ付勢する戻しバネ139が設けられている。
【0019】
そして、図1及び図2に示す非作動状態では、パワーピストン106及びバルブボディ111は、戻しバネ139のバネ力によって後退位置にあり、入力ロッド133は、戻しバネ140のバネ力によって後退して、プランジャ131の外周溝156の端部がストップキー138に当接し、ストップキー138がリアシェル103の後部円筒部112の段部112Aに当接して、プランジャ131の後退位置を規定している。このとき、反力調整バネ158は戻しバネ140のバネ力によって所定のセット荷重をもって圧縮された状態となっている。また、制御バルブ132は、プランジャ131の大気弁シート部153に着座し、大気弁シート部153に押圧されて弁バネ141のバネ力に抗して後退して、真空弁シート部154に対して所定の距離Aだけ離間している。これにより、変圧室108は、大気から遮断され、定圧室107と変圧室108とが互いに連通されている。この状態で、バルブボディ111の大気通路137の側部137Aとストップキー138とは、所定の距離Bだけ離間している。また、プランジャ131の先端部とリアクション部材155との間には、所定の隙間D(>B)が形成されている。
【0020】
マスタシリンダ110には、開口側に、先端部がカップ状に形成された円筒状のプライマリピストン160が嵌装され、底部側にカップ状のセカンダリピストン161が嵌装されている。プライマリピストン160の後端部は、マスタシリンダ110の開口部から突出して、定圧室107内において出力ロッド128の先端部に当接している。マスタシリンダ110内は、プライマリピストン160及びセカンダリピストン161によってプライマリ室162及びセカンダリ室163の2つの圧力室が形成されている。プライマリ室162及びセカンダリ室163には、液圧ポート164、165がそれぞれ設けられている。液圧ポート164、165は、2系統の液圧回路からなる液圧制御装置5を介して各車輪Wa〜Wdの液圧ブレーキのホイールシリンダBa〜Bdに接続されている(図5参照)。
【0021】
マスタシリンダ110の側壁の上部には、プライマリ室162及びセカンダリ室163をリザーバRに接続するためのリザーバポート166、167が設けられている。マスタシリンダ110のシリンダボアと、プライマリピストン160及びセカンダリピストン161との間は、それぞれ2つのシール部材168A、168B及び169A、169Bによってシールされている。シール部材168A、168Bは、軸方向に沿ってリザーバポート166を挟むように配置されている。そして、プライマリピストン160が図1及び図2に示す非作動状態にあるときに、プライマリ室162がプライマリピストン160の側壁に設けられたポート170を介してリザーバポート166に連通し、プライマリピストン160が非作動状態から所定のストロークS1(図2参照)だけ前進したとき、シール部材168Bによってプライマリ室162がリザーバポート166から遮断されてプライマリ室162の加圧が開始される。同様に、シール部材169A、169Bは、軸方向に沿ってリザーバポート167を挟むように配置されている。そして、セカンダリピストン161が図1に示す非作動状態にあるとき、セカンダリ室163がセカンダリピストン161の側壁に設けられたポート171を介してリザーバポート167に連通する。セカンダリピストン161が非作動状態から所定のストロークS1だけ前進したとき、シール部材169Bによってセカンダリ室163がリザーバポート167から遮断されてセカンダリ室163の加圧が開始される。
【0022】
プライマリ室162内のプライマリピストン160とセカンダリピストン161との間には、バネアセンブリ172が介装されている。また、セカンダリ室163内のマスタシリンダ110の底部とセカンダリピストン161との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ173が介装されている。バネアセンブリ172は、圧縮コイルバネを伸縮可能なリテーナによって所定の圧縮状態で保持し、そのバネ力に抗して圧縮可能としたものである。そして、プライマリピストン160及びセカンダリピストン161は、通常は同時に移動してプライマリ室162及びセカンダリ室163を同時に加圧する。
【0023】
次に倍力装置101の作動について、図1乃至4及び図6を参照して説明する。入力ロッド133(ブレーキペダル19)のストロークSに対する入力Fi(ブレーキペダル19の踏力)及びマスタシリンダ110のブレーキ液の液圧P並びに入力Fiに対するマスタシリンダ110の液圧Pを図6中に実線で示す。
【0024】
図1及び図2に示す非作動状態においては、入力ロッド133(すなわち、プランジャ131)が図示の位置にあり、制御バルブ132は、プランジャ131の大気弁シート部153に着座して変圧室108を大気から遮断すると共に、バルブボディ111の真空弁シート部154から離座して定圧室107と変圧室108とを連通させる。これにより、定圧室107と変圧室108とは同圧(負圧)となるため、パワーピストン106に推力は生じない。このとき、制御バルブ132と真空弁シート部154とは距離Aだけ離間し、ストップキー138とバルブボディ111の大気通路137の側部137Aとは距離Bだけ離間し、また、リアクション部材155とプランジャ131の先端部とは距離Dだけ離間している。
【0025】
ブレーキペダル19が踏込まれると、先ず、入力ロッド133及びプランジャ131のみが前進し、これらのストロークS(ブレーキペダル19のストローク)が制御バルブ132と真空弁シート部154との距離Aに達するまでの領域(図6において0≦S<S1)では、定圧室107と変圧室108との連通及び変圧室108と大気との遮断が維持される。このとき、入力ロッド132への入力Fi(ブレーキペダル19の踏力)が、
Fi>F1−F2−Fv−Fpr
但し、
F1:戻しバネ140のセット荷重
F2:反力調整バネ158のセット荷重
Fv:制御バルブ132に作用する差圧によって生じる力
Fpr:プランジャ131に作用する差圧によって生じる力
となったとき、入力ロッド133及びプランジャ131が前進し始める(図6においてS=0)。
【0026】
そして、この領域(図6において0≦S<S1)では、入力ロッドのストロークSと入力Fiとの関係は、
Fi=(F1+S・k1)−(F2−S・k2)−Fv−Fpr
但し、
k1:戻しバネ140のバネ定数
k2:反力調整バネ158のバネ定数
したがって、
Fi=(k1+k2)・S+F1−F2−Fv−Fpr
となり、入力Fiは、バネ定数(k1+k2)でストロークSに比例する。このとき、ストップキー138は、リアシェル103の後部円筒部112の段部112Aに当接した状態で移動しない。
【0027】
図3に示すように、プランジャ131のストロークSが距離Aに達すると(図6においS=S1)、制御バルブ132がバルブボディ111の真空弁シート部154に着座して、定圧室107と変圧室108との連通が遮断され、プランジャ131の大気弁シート部153が制御バルブ132から離座して変圧室108に大気が導入される。このとき、制御バルブ132が真空弁シート部154に当接することにより、入力ロッド133に対して
差圧による力Fvが作用しなくなり、代りに、弁バネ141のセット荷重Fpが作用し、また、プランジャ131の先端部は、リアクション部材155に当接せず、プランジャ131にはリアクション部材155からの反力が作用しない。ストロークSが距離Aに達したとき(図6においてS=S1)、入力ロッド132への入力Fiは、
Fi=(k1+k2)・A+F1−F2+Fp−Fpr
但し、
Fp:弁バネ141のセット荷重
となり、差圧による力Fvの解消及び弁バネ141のセット荷重Fpの分だけ大きくなる。
【0028】
変圧室108への大気の導入により、定圧室107と変圧室108との間に差圧が生じ、パワーピストン106に推力が発生し、バルブボディ111が前進して、リアクション部材155を介して出力ロッド128を前進させ、マスタシリンダ110のプライマリピストン160を押圧する。そして、バルブボディ111の前進により、制御バルブ132がプランジャ131の大気弁シート部153に着座して変圧室108を大気から遮断し、定圧室107と変圧室108との差圧が維持され、パワーピストン106の推力が一定になる。その結果、バルブボディ111は、プランジャ131及び入力ロッド133に追従して移動し、戻しバネ140のバネ力は、F1+k1・Aで一定となる。このとき、バルブボディ111のストロークが距離Bに達するまで、すなわち、入力ロッド133及びプランジャ131のストロークSが距離A+Bに達するまでの領域(図6においてS1<S<S3)では、入力Fiは、
Fi=k2・S+k1・A+F1−F2+Fp−Fpr
となり、入力ロッド133のストロークSに比例する。
【0029】
バルブボディ111が前進すると、その推力がリアクション部材155を介して出力ロッド128に伝達され、出力ロッド128が前進してマスタシリンダ110のプライマリピストン160を押圧する。そして、プライマリピストン160及びセカンダリピストン161は、そのストロークが無効ストロークCに達したとき、すなわち、入力ロッド133のストロークSが距離Aと無効ストロークCの和A+Cに達したとき(図6においてS=S2)、リザーバポート170、171を閉じてプライマリ室162及びセカンダリ室163の加圧を開始し、マスタシリンダ110でブレーキ液の液圧Pが発生する。
【0030】
そして、図4に示すように、バルブボディ111のストロークが距離Bに達すると、すなわち、入力ロッド133のストロークSが距離Aと距離Bの和A+Bに達すると(図6においてS=S3)、バルブボディ111の大気通路137の一側の側部137Aがストップキー138に当接し、その後、ストップキー138は、バルブボディ111と共に前進する。このため、プランジャ131に作用する反力調整バネ158のバネ力は、F2−(A+B)・k2で一定となる。このとき、プランジャ131の先端部とリアクション部材155との間には、隙間Dj(ジャンプインクリアランス)があり、リアクション部材155からプランジャ131に反力は作用しない。したがって、プランジャ131の先端部が
リアクション部材155に当接するまで(図6においてS3<S<S4)、入力Fiは、
Fi=k2・(A+B)+k1・A+F1−F2+Fp−Fpr
で一定となる。このとき、マスタシリンダ110の液圧Pは、入力ロッド133のストロークに応じて上昇する。
【0031】
更にブレーキペダル19が踏込まれて入力ロッド133及びプランジャ131のストロークSが距離Aと距離Bと隙間Djとの和A+B+Djに達すると(図6においてS=S4)、プランジャ131の先端部がリアクション部材155に当接して、マスタシリンダ110の液圧によるプライマリ及びセカンダリピストン160、161からの反力の一部がリアクション部材155を介してプランジャ131に作用する。プランジャ131がリアクション部材155に当接した後(図6においてS4<S<S5)、入力Fiは、
Fi=(F1+A・k1)−(F2−(A+B)k2)+Fp−Fpr+(Fo−Fj)/α
但し、
Fo:出力ロッド128の推力
Fj:ジャンプイン出力(プランジャ131の先端部がリアクション部材155に当接したときの出力ロッド128の推力)
α:倍力比
となり、その後、全負荷点(図6においてS=S5)に達する。
【0032】
以上により、図6の右下欄に示すように入力ロッド133のストロークSに対して入力Fiが生じ、右上欄に示すように入力Fiに対してマスタシリンダ110の液圧Pが発生し、これにより、左上欄に示すようにストロークSに対してマスタシリンダ110の液圧Pが発生する。
【0033】
上述の構成において、プライマリピストン160及びセカンダリピストン161が非作動状態からリザーバポート170、171を遮断しプライマリ室162及びセカンダリ室163で液圧が発生するまでの無効ストロークCは、ストップキー138とバルブボディ111の大気通路137の側部137Aとの距離Bより小さいことが望ましい。これにより、マスタシリンダ110で液圧が発生して、その反力がリアクション部材155を介してプランジャ131に作用する前の領域(図6においてS<S2)において、戻しバネ140及び反力調整バネ158の特性によって入力ロッド133すなわちブレーキペダル19に対する反力を設定することができので、マスタシリンダ110の液圧の変動による影響を受けることなく、良好なブレーキペダル19の操作フィーリングを得ることができる。
【0034】
ブレーキペダル19を解放して入力ロッド133への入力を解除すると、プランジャ131が後退し、制御バルブ132によって変圧室108が大気から遮断され、定圧室107と変圧室108とが連通され、これにより、定圧室107と変圧室108との差圧が解消し、パワーピストン106の推力が消失して、パワーピストン106及びバルブボディ111が戻しバネ139のバネ力によりプランジャ131の後退に追従して後退して図1に示す非作動状態に戻る。
【0035】
次に、倍力装置101が組込まれた自動車のブレーキ装置について主に図5を参照して説明する。
図5に示すように、ブレーキ装置200は、倍力装置101と、倍力装置101のマスタシリンダ110の液圧ポート164、165に接続されて、各車輪Wa〜Wdの液圧ブレーキのホイールシリンダBa〜Bdにブレーキ液圧を供給する液圧制御装置5と、液圧制御装置5を制御するコントローラ7と、回生制動を行なう回生ブレーキ装置8とを備えている。
【0036】
液圧制御装置5は、マスタシリンダ110のプライマリポート164からの液圧を左前輪Wa及び右後輪Wbのブレーキ装置のホイールシリンダBa、Bbに供給するための第1液圧回路5A(図5の液圧制御装置5の中央より右側分部)と、セカンダリポート165からの液圧を右前輪Wc及び左後輪Wdのブレーキ装置のホイールシリンダBc、Bdに供給するための第2液圧回路5B(図5の液圧制御装置5の中央より左側分部)とからなる所謂「X配管」とした2系統の液圧回路を備えている。本実施形態では、ブレーキ装置は、液圧をホイールシリンダBa〜Bdに供給してピストンを前進させ、ブレーキパッドを車輪と共に回転するディスクロータに押圧して制動力を発生させる液圧式ディスクブレーキとしているが、公知のドラムブレーキ等の他の液圧式ブレーキでもよい。
【0037】
第1液圧回路5Aと第2液圧回路5Bとは同様の構成であり、また、各車輪Wa〜Wdのブレーキ装置Ba〜Bdに接続された液圧回路の構成は同様の構成であり、以下の説明において参照符号の添え字A及B並びにa乃至dは、それぞれ、第1液圧回路5A及び第2液圧回路5B、並びに、各車輪Wa乃至Wdに対応することを示している。
【0038】
液圧制御装置5には、マスタシリンダ110から各車輪Wa〜Wdのブレーキ装置Ba〜Bdのホイールシリンダへの液圧の供給を制御する電磁開閉弁である供給弁35A、35Bと、ブレーキ装置Ba〜Bdへの液圧の供給を制御する電磁開閉弁である増圧弁36a〜36dと、ブレーキ装置Ba〜Bdから液圧を解放するためのシステムリザーバ37A、37Bと、ブレーキ装置Ba〜Bdからシステムリザーバ37A、37Bへの液圧の解放を制御する電磁弁開閉弁である減圧弁38a〜38dと、ブレーキ装置のホイールシリンダBa〜Bdに液圧を供給するためポンプ39A、39Bと、ポンプ39A、39Bを駆動するポンプモータ40と、マスタシリンダ110からポンプ39A、39Bの吸込み側への液圧の供給を制御する電磁開閉弁である加圧弁41A、41Bと、ポンプ39A、39Bの下流側から上流側への逆流を防止するための逆止弁42A、42B、43A、43B、44A、44Bと、マスタシリンダ110のプライマリポート164及びセカンダリポート165の液圧を検出する液圧センサ45A、45Bとを備えている。
【0039】
そして、ホイール圧制御ユニットとしてのコントローラ7によって供給弁35A、35B、増圧弁36a〜36d、減圧弁38a〜38d、加圧弁41A、41B及びポンプモータ40の作動を制御して、次のような作動モードを実行することができる。
[通常制動モード]
通常制動時には、供給弁35A、35B及び増圧弁36a〜36dを開き、減圧弁38a〜38d、加圧弁41A、41Bを閉じることにより、マスタシリンダ110から各車輪Wa〜WdのホイールシリンダBa〜Bdに液圧を供給する。
[減圧モード]
減圧弁38a〜38dを開き、供給弁35A、35B、増圧弁36a〜36d及び加圧弁41A、41Bを閉じることにより、ホイールシリンダBa〜Bdの液圧をリザーバ37A、37Bに解放して減圧する。
[保持モード]
増圧弁36a〜36d及び減圧弁38a〜38dを閉じることにより、ホイールシリンダBa〜Bdの液圧を保持する。
[増圧モード]
増圧弁36a〜36dを開き、供給弁35A、35B、減圧弁38a〜38d及び加圧弁41A、41Bを閉じて、ポンプモータ40を作動することにより、ブレーキ液をリザーバ37A、37Bからマスタシリンダ110側へ戻してホイールシリンダBa〜Bdの液圧を増圧する。
[加圧モード]
加圧弁41A、41B及び増圧弁36a〜36dを開き、減圧弁38a〜38d及び供給弁35A、35Bを閉じて、ポンプモータ40を作動することにより、マスタシリンダ110の液圧にかかわらず、ポンプ39A、39Bによってブレーキ液をホイールシリンダBa〜Bdに供給する。
【0040】
これらの作動モードを車両状態に応じて適宜実行することにより、各種ブレーキ制御を行なうことができる。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して、ブレーキペダル19の操作量にかかわらず各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0041】
なお、ポンプ39A、39Bとしては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。ポンプモータ40としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、制御性、静粛性、耐久性、車載性等の観点からDCブラシレスモータが望ましい。
【0042】
また、液圧制御装置5の電磁開閉弁の特性は、使用態様に応じて適宜設定することができるが、供給弁35A、35B及び増圧弁36a〜36dを常開弁とし、減圧弁38a〜38d及び加圧弁41A、41Bを常閉弁とすることにより、コントローラ7からの制御信号がない場合に、マスタシリンダ110からブレーキ装置Ba〜Bdに液圧を供給することができるので、フェイルセーフ及び制御効率の観点から、このような構成とすることが望ましい。
【0043】
回生ブレーキ装置8は、減速時及び制動時等に少なくとも1つの車輪の回転によって発電機(電動モータ)を駆動することにより、運動エネルギーを電力として回収する。回生ブレーキ装置8とコントローラ7とは、相互に制御信号の授受を行ない、運転者によるブレーキペダル19の操作に対して、回生制動中には回生制動分を減じたブレーキ液圧をホイールシリンダBa〜Bdに供給することにより、所望の制動力を得る回生協調制御を実行する。
【0044】
次に、コントローラ7によるブレーキ装置200の制御について説明する。
図6を参照して、倍力装置101は、入力ロッド133のストロークSが0〜S2の領域においては、マスタシリンダ110で液圧を発生しないので、コントローラ7は、ストロークセンサ20によって検出した入力ロッド133(すなわちブレーキペダル19)のストロークSに基づき、回生ブレーキ装置8により回生制動を行なうと共に、液圧制御装置5により、回生制動分を減じブレーキ液圧をホイールシリンダBa〜Bdに供給して、所望の制動力を得る回生協調制御を実行する。そして、倍力装置101によりマスタシリンダ110で液圧が発生するストロークS2から、全負荷点S5に達する前の所定ストロークSc(液圧Pc)の領域では、マスタシリンダ110で発生する液圧Pに相当する液圧分を液圧制御装置5による供給液圧から減じる。そして、入力ロッド133のストロークSが所定ストロークScに達した後は、倍力装置101によってホイールシリンダBa〜Bdに供給する全液圧を発生させる。回生協調制御による制動分に相当するマスタシリンダ110の液圧Pを図6中に斜線部で示す。入力ロッド133のストロークSが、プランジャ131がリアクション部材155に当接するストロークS4に達するまでは、戻しバネ140及び反力調整バネ158のバネ力により、所定の反力を発生させるので、良好なブレーキペダル19の操作フィーリングを得ることができる。
【0045】
入力ロッド133のストロークSがストロークS2に達するまでは、マスタシリンダ110で液圧が発生しないので、回生制動を最大限に活用することができ、効率よくエネルギーを回収することができる。また、入力ロッド133のストロークSがストロークS4に達するまでは、プランジャ131がリアクション部材155に当接せず、マスタシリンダ110の液圧の反力が入力ロッド133に作用しないので、液圧制御装置5の作動により、マスタシリンダ110の液圧に変動が生じた場合でも、ブレーキペダル19は、液圧の反力によるキックバックの影響を受けることがなく、良好な操作フィーリングを得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
19…ブレーキペダル、101…倍力装置(気圧式倍力装置)、104…ハウジング、106…パワーピストン、107…定圧室、108…変圧室、111…バルブボディ、128…出力ロッド、131…プランジャ、132…制御バルブ(弁手段)、133…入力ロッド、138…ストップキー、140…戻しバネ、155…リアクション部材、158…反力調整バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成されるハウジングと、
該ハウジング内に進退動可能に設けられて前記パワーピストンに連結されたバルブボディと、
前記バルブボディに進退動可能に挿入されてブレーキペダルに連結される入力ロッドと、
前記バルブボディ内に配置されて前記入力ロッドに連結されたプランジャと、
前記プランジャの移動によって開閉して前記変圧室に作動気体を導入、排出して前記パワーピストンに推力を発生させるための弁手段と、
前記パワーピストンの推力を出力ロッドに伝達し、前記出力ロッドからの反力の一部を前記プランジャに伝達するリアクション部材と、
前記プランジャに相対移動可能に支持されて前記ハウジングに係合して前記プランジャの前記ハウジングに対する後退位置を規定するストップキーと、
前記バルブボディと前記入力ロッドとの間に設けられ、前記入力ロッドを後退方向に付勢する戻しバネと、
前記ストップキーと前記プランジャとの間に設けられて、前記プランジャを前進方向に付勢する反力調整バネとを備え、
前記入力ロッドは、非作動状態では、前記戻しバネのバネ力により、前記反力調整バネのバネ力に抗して後退位置にあり、前記プランジャと前記リアクション部材との間には隙間があり、前記入力ロッドを所定位置まで前進させたとき、前記弁手段が前記変圧室に作動気体を導入して前記バルブボディが前記入力ロッドへの追従を開始し、前記バルブボディは、所定位置まで前進したとき、前記ストップキーに当接して該ストップキーと共に移動し、前記入力ロッドが更に所定位置まで前進したとき前記プランジャが前記リアクション部材に当接して反力を受けることを特徴とする気圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−176735(P2012−176735A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41902(P2011−41902)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】