水中溶接方法及び水中溶接装置
【課題】加熱工程と溶接工程との切り換えに、高精度なレンズの位置調整を必要とすることがなく、再現性良く安定的に溶接施工を行うことのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供する。
【解決手段】水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、光学素子を移動させレーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、溶接ヘッドを設置する設置工程と、レーザ光の光路内に光学素子を位置させた状態で、レーザ光を被溶接部に照射して加熱し、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、レーザ光の光路外に光学素子を位置させた状態で、レーザ光を被溶接部に照射して溶接する溶接工程とを具備している。
【解決手段】水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、光学素子を移動させレーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、溶接ヘッドを設置する設置工程と、レーザ光の光路内に光学素子を位置させた状態で、レーザ光を被溶接部に照射して加熱し、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、レーザ光の光路外に光学素子を位置させた状態で、レーザ光を被溶接部に照射して溶接する溶接工程とを具備している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接行う水中溶接方法及び水中溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器内に設置された原子炉内構造物および圧力バウンダリには、応力腐食割れが発生し、亀裂が生じる可能性がある。すでに応力腐食割れが発生し、補修を行うことが必要となった場合、対象部位を溶接補修することは対策として有効な方法である。溶接により補修を行う場合には、耐応力腐食割れ性に優れた溶加材を用いてクラッド溶接を施すことで、亀裂を炉水から隔離し漏洩防止を行うとともに、新たな応力腐食割れの発生を防止する。
【0003】
通常、このような溶接補修は、原子力プラントの定期検査時に実施されることになる。原子力プラントの定期検査は、作業者の被曝量を低減するために、原子炉内に炉水を張った状態で行われる。しかしながら、溶接による補修を行うために原子炉内に張られた炉水を抜く場合には、炉水を抜き、かつ補修を行った後に炉水を張るための作業時間が必要となる。また、炉水を抜いた状態では作業者の被曝量が多くなり、作業者の被曝量を低減するための大きな遮蔽体を設置する必要があり、定期検査期間内の限られた作業時間に補修を行うことは困難となる。
【0004】
このような問題を解決する方法として、原子炉内に炉水が張られた状態、つまり水中溶接による補修を行う方法が考えられている。その具体的な方法としては、レーザをレンズで集光して溶接部に照射するとともに、その溶接部を周りの水から隔離するため、溶接部の近傍をシールドカバーで覆って、シールドガスを噴出することによって、溶接部の近傍に気相空間を形成する方法が知られている。また、このような水中溶接による補修を行う際に、レンズを光軸方向に移動させることで、加熱と溶接とを切り換えて行えるようにし、溶接に先立って亀裂表面の加熱を行い、亀裂内部の水を加熱蒸発させた後、亀裂表面の溶融を行い、亀裂表面に溶融金属を形成して亀裂の開口を埋める方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、レンズを光軸方向に移動させることで、レーザの集光状態を加熱時と溶接時とで切り替える方法では、レンズの位置調整に高い精度を必要とする。そして、万一溶接時にレンズの位置が適正位置にならない場合、レーザ光が施工条件を満たすスポット径、エネルギー密度にならず、溶接施工ができない可能性がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に対処してなされたものであり、加熱工程と溶接工程との切り換えに、高精度なレンズの位置調整を必要とすることがなく、再現性良く安定的に溶接施工を行うことのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水中溶接方法の一態様は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、前記光ファイバーの先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記光学素子を移動させ前記レーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、前記溶接ヘッドと前記被溶接部との間に形成される気相空間に、前記被溶接部の亀裂が位置するように、前記溶接ヘッドを設置する設置工程と、前記移動機構により前記レーザ光の光路内に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して加熱することにより、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、前記移動機構により前記レーザ光の光路外に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して溶接し、亀裂を埋める溶接工程とを具備したことを特徴とする。
【0009】
本発明の水中溶接装置の一態様は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、光ファイバー先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記被溶接部を加熱して亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路内に位置させ、前記加熱工程の後に亀裂の溶接を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路外に位置させるように前記光学素子を移動させる移動機構と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱工程と溶接工程との切り換えに、高精度なレンズの位置調整を必要とすることがなく、再現性良く安定的に溶接施工を行うことのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る水中溶接方法及び水中溶接装置の説明図。
【図2】一実施形態に係る水中溶接方法及び水中溶接装置の説明図。
【図3】第1実施形態に係る加熱工程の説明図。
【図4】第1実施形態に係る溶接工程の説明図。
【図5】第2実施形態における光ファイバー接続装置の説明図。
【図6】第2実施形態における光ファイバー接続装置の説明図。
【図7】第2実施形態の変形例に係る加熱工程の説明図。
【図8】第2実施形態の変形例に係る溶接工程の説明図。
【図9】第3実施形態に係る加熱工程の説明図。
【図10】第3実施形態に係る加熱工程の変形例の説明図。
【図11】加熱工程の加熱経路を示す説明図。
【図12】溶接工程の施工パスを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
まず、図1を参照して第1実施形態について説明する。第1実施形態では、図1に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水20中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0014】
図3、図4に示すように、溶接ヘッド4の先端部には、シールドカバー4aが配設されており、このシールドカバー4a内に溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給することによって、溶接ヘッド4と被溶接部10との間に気相空間を形成できるようになっている。また、溶接ヘッド4には、レーザ光を集光するための複数の集光レンズ7が配設されている。
【0015】
さらに、溶接ヘッド4には、被溶接部10に照射されるレーザ光8のエネルギー密度を低下させる光学素子として、レーザ光8のビーム径を拡大するレンズ14が配設されている。このレンズ14は、移動機構15に接続されており、この移動機構15によって、レンズ14をレーザ光8の光路内と、光路外とに移動可能とされている。なお、図3はレンズ14をレーザ光8の光路内に位置させた状態を示し、図4はレンズ14をレーザ光8の光路外に位置させた状態を示している。
【0016】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂11を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4からシールドカバー4a内に不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0017】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図3に示すように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0018】
そして、図3(a)、(b)、(c)に示すように、溶接ヘッド4を走査させながらレーザ光8を被溶接部10に照射して亀裂11の内部の水20を蒸発させる。この加熱工程におけるレーザ光8の走査は、例えば、図11(a)、(b)に示すように、レーザ光8を、亀裂11を含む表面全てに照射されるように走査させながら照射し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。なお、図11(a)は、亀裂11の長手方向に沿ってレーザ光8を走査する場合、図11(b)は、ジグザグにレーザ光8を走査する場合を示している。
【0019】
その後、図4に示すように、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させ、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内から光路外へ位置させる。このように、レンズ14がレーザ光8の光路から外れることによって、固定されている集光レンズ7による集光が行われ、被溶接部10でのレーザビーム8のビーム径が、図3に示した加熱工程でのビーム径よりも小さくなり、エネルギー密度が高い状態となる。この状態で、被溶接部10にレーザ光8を照射するとともに、被溶接部10に溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、図4(a)、(b)、(c)に示すように、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11表面を溶接する。なお、この溶接工程の状態を図2にも示す。
【0020】
上記溶接工程では、例えば図12(a)、(b)に示すように、亀裂11を含む被溶接部表面を溶接ビード12にて覆うように溶接ヘッド4を走査しながら亀裂11の表面を溶接する。
【0021】
なお、上記の加熱工程及び溶接工程において、図3に示す加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、図4に示す溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深くなっている。
【0022】
上記の水中溶接方法及び水中溶接装置では、加熱工程において、亀裂11内部の水を蒸発させた後、そのまま、溶接ヘッド4の気相空間内に亀裂11を覆ったままで溶接工程へ移行する。これによって、亀裂11内部に水が侵入することはなく、亀裂11内部の水が蒸発した状態で溶接を行うことができ、水蒸気によって生じる溶接欠陥を防止して溶接ビード12を形成することができる。
【0023】
以上説明した第1実施形態では、加熱工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を大きくし、レーザ光8のエネルギー密度を低下させた状態で加熱を行う。また、溶接工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外すことによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度を高くして溶接を行う。
【0024】
この時、レーザ光8のビーム径を小さく絞り、エネルギー密度を高くした状態は、集光レンズ7の位置が固定された状態となっており、集光レンズ7の位置を精度よく位置合わせしてフォーカス等を行う必要がない。そして、集光レンズ等の位置を高精度に位置制御する必要のない加熱工程では、レーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、レーザ光8のビーム径を拡大した状態とする。このため、集光レンズ7等を光軸方向に沿って移動させて加熱工程と溶接工程とを切り換える場合のように、集光レンズ7等の高精度な位置調整を必要としない。これによって、再現性良く安定的に溶接施工を行うことができる。
【0025】
次に、第2実施形態について説明する。この第2実施形態においても、図1、2に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0026】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0027】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図3に示したように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。
【0028】
そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0029】
これとともに、図5に示すように、光ファイバー接続装置3において、移動機構18によってレーザ光8の光路中にハーフミラー等の減光可能なミラー16を挿入し、このミラー16を経由してレーザ光8を伝送することで、被溶接部10に伝送されるレーザ出力を減衰する。この状態のレーザ光8を、溶接ヘッド4を走査させながら被溶接部10に照射して加熱し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。なお、図5において、符号17は略100%レーザ光を反射するミラー、19はビームダンパーを示している。
【0030】
その後、図4に示すように、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させて、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度が高くなるように設定する。これとともに、図6に示すように、レーザ光8を減衰するためのミラー16をレーザ光8の光路から外し、略100%レーザ光を反射するミラー17をレーザ光8の光路内に位置させ、レーザ光8の減衰が発生しないようにする。
【0031】
そして、この状態で、レーザ光8を被溶接部10に照射しつつ、溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11の表面を溶接する。このとき、加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深い。
【0032】
なお、レーザ光8の減衰は、光ファイバー接続装置3において行うのではなく、図7に示すように、ハーフミラー等の減光可能なミラー16を溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路に挿入して行ってもよい。
【0033】
以上説明した第2実施形態では、加熱工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を大きくしてエネルギー密度を低下させるとともに、光ファイバー接続装置3又は溶接ヘッド4において減光可能なミラー16をレーザ光8の光路内に挿入することによってレーザ光8を減衰させる。また、溶接工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外すことによって、レーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度を高くするとともに、減光可能なミラー16をレーザ光8の光路内から外して溶接を行う。
【0034】
したがって、前述した第1実施形態と同様な効果が得られるとともに、レーザ光8の光路内に減光可能なミラー16を挿入することによって、加熱工程におけるレーザ光8を減衰させるので、レーザ発振器1の出力調整を省くことができる。また、加熱工程で必要とされる最適なレーザ光8のエネルギーが、レーザ発振器1の最低出力を下回る場合でも、最適なエネルギーのレーザ光8で加熱工程を実施することができる。
【0035】
次に、第3実施形態について説明する。この第3実施形態においても、図1、2に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0036】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0037】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図9に示すように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。
【0038】
そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0039】
これとともに、移動機構18によってレーザ光8の光路中にハーフミラー等の減光可能なミラー16を挿入し、このミラー16経由してレーザ光8を伝送することで、被溶接部10に伝送されるレーザ出力を減衰する。この状態のレーザ光8を、溶接ヘッド4を走査させながら被溶接部10に照射して加熱し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。
【0040】
第3実施形態では、シールドカバー4a内に被溶接部10の表面温度をモニタリングする光センサ21が配設されており、光センサ21には、検出信号を処理するためのアンプ22が接続され、アンプ22には判定装置23が接続されている。これらの機構は、亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認するためのものであり、光センサ21によって検出される被溶接部10の表面温度が、判定装置23によって判定される規定の温度に到達するまで加熱工程を継続するようになっている。これによって、亀裂11内部の水20が確実に除去された後、溶接工程を実施することができる。
【0041】
なお、光センサ21の替わりに図10に示すように湿分検出センサ24を使用し、シールドカバー4a内の不活性ガス雰囲気の湿分が規定値よりも下がったことによって、亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認する構成としてもよい。
【0042】
上記の加熱工程の後、図8に示したように、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させて、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外し、被溶接部10でのレーザ光8のビーム径が、加熱工程でのビーム径よりも小さくなるように設定するとともに、レーザ光を減衰するためのミラー16をレーザ光8の光路から外す。
【0043】
そして、この状態で、レーザ光8を被溶接部10に照射しつつ、溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11の表面を溶接する。この時、加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深い。
【0044】
以上説明した第3実施形態では、前述した第2実施形態と同様な効果を得られるとともに、被溶接部10の表面温度をモニタリングする光センサ21(又は湿分検出センサ24)、アンプ22、判定装置23により亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認した後に溶接工程を行うことができるので、亀裂11内部の水が確実に蒸発した状態で溶接することができ、水蒸気によって生じる溶接欠陥を防止して溶接ビード12を形成することができる。
【0045】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1……レーザ発振器、2……光ファイバー、3……光ファイバー接続装置、4……レーザ溶接ヘッド、5……溶加材、6a,6b……温度が100℃以上となる範囲、7……集光レンズ、8……レーザ光、9……不活性ガス、10……被溶接部、11……亀裂、12…溶接ビード、14……レンズ、15……移動機構、16……減光可能なミラー、17……略100%レーザ光を反射するミラー、18……移動機構、19……ビームダンパー、20…水、21……光センサ、22……アンプ、23……判定装置、24……湿分検出センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接行う水中溶接方法及び水中溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器内に設置された原子炉内構造物および圧力バウンダリには、応力腐食割れが発生し、亀裂が生じる可能性がある。すでに応力腐食割れが発生し、補修を行うことが必要となった場合、対象部位を溶接補修することは対策として有効な方法である。溶接により補修を行う場合には、耐応力腐食割れ性に優れた溶加材を用いてクラッド溶接を施すことで、亀裂を炉水から隔離し漏洩防止を行うとともに、新たな応力腐食割れの発生を防止する。
【0003】
通常、このような溶接補修は、原子力プラントの定期検査時に実施されることになる。原子力プラントの定期検査は、作業者の被曝量を低減するために、原子炉内に炉水を張った状態で行われる。しかしながら、溶接による補修を行うために原子炉内に張られた炉水を抜く場合には、炉水を抜き、かつ補修を行った後に炉水を張るための作業時間が必要となる。また、炉水を抜いた状態では作業者の被曝量が多くなり、作業者の被曝量を低減するための大きな遮蔽体を設置する必要があり、定期検査期間内の限られた作業時間に補修を行うことは困難となる。
【0004】
このような問題を解決する方法として、原子炉内に炉水が張られた状態、つまり水中溶接による補修を行う方法が考えられている。その具体的な方法としては、レーザをレンズで集光して溶接部に照射するとともに、その溶接部を周りの水から隔離するため、溶接部の近傍をシールドカバーで覆って、シールドガスを噴出することによって、溶接部の近傍に気相空間を形成する方法が知られている。また、このような水中溶接による補修を行う際に、レンズを光軸方向に移動させることで、加熱と溶接とを切り換えて行えるようにし、溶接に先立って亀裂表面の加熱を行い、亀裂内部の水を加熱蒸発させた後、亀裂表面の溶融を行い、亀裂表面に溶融金属を形成して亀裂の開口を埋める方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、レンズを光軸方向に移動させることで、レーザの集光状態を加熱時と溶接時とで切り替える方法では、レンズの位置調整に高い精度を必要とする。そして、万一溶接時にレンズの位置が適正位置にならない場合、レーザ光が施工条件を満たすスポット径、エネルギー密度にならず、溶接施工ができない可能性がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に対処してなされたものであり、加熱工程と溶接工程との切り換えに、高精度なレンズの位置調整を必要とすることがなく、再現性良く安定的に溶接施工を行うことのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水中溶接方法の一態様は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、前記光ファイバーの先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記光学素子を移動させ前記レーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、前記溶接ヘッドと前記被溶接部との間に形成される気相空間に、前記被溶接部の亀裂が位置するように、前記溶接ヘッドを設置する設置工程と、前記移動機構により前記レーザ光の光路内に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して加熱することにより、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、前記移動機構により前記レーザ光の光路外に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して溶接し、亀裂を埋める溶接工程とを具備したことを特徴とする。
【0009】
本発明の水中溶接装置の一態様は、水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、光ファイバー先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記被溶接部を加熱して亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路内に位置させ、前記加熱工程の後に亀裂の溶接を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路外に位置させるように前記光学素子を移動させる移動機構と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱工程と溶接工程との切り換えに、高精度なレンズの位置調整を必要とすることがなく、再現性良く安定的に溶接施工を行うことのできる水中溶接方法及び水中溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る水中溶接方法及び水中溶接装置の説明図。
【図2】一実施形態に係る水中溶接方法及び水中溶接装置の説明図。
【図3】第1実施形態に係る加熱工程の説明図。
【図4】第1実施形態に係る溶接工程の説明図。
【図5】第2実施形態における光ファイバー接続装置の説明図。
【図6】第2実施形態における光ファイバー接続装置の説明図。
【図7】第2実施形態の変形例に係る加熱工程の説明図。
【図8】第2実施形態の変形例に係る溶接工程の説明図。
【図9】第3実施形態に係る加熱工程の説明図。
【図10】第3実施形態に係る加熱工程の変形例の説明図。
【図11】加熱工程の加熱経路を示す説明図。
【図12】溶接工程の施工パスを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
まず、図1を参照して第1実施形態について説明する。第1実施形態では、図1に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水20中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0014】
図3、図4に示すように、溶接ヘッド4の先端部には、シールドカバー4aが配設されており、このシールドカバー4a内に溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給することによって、溶接ヘッド4と被溶接部10との間に気相空間を形成できるようになっている。また、溶接ヘッド4には、レーザ光を集光するための複数の集光レンズ7が配設されている。
【0015】
さらに、溶接ヘッド4には、被溶接部10に照射されるレーザ光8のエネルギー密度を低下させる光学素子として、レーザ光8のビーム径を拡大するレンズ14が配設されている。このレンズ14は、移動機構15に接続されており、この移動機構15によって、レンズ14をレーザ光8の光路内と、光路外とに移動可能とされている。なお、図3はレンズ14をレーザ光8の光路内に位置させた状態を示し、図4はレンズ14をレーザ光8の光路外に位置させた状態を示している。
【0016】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂11を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4からシールドカバー4a内に不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0017】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図3に示すように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0018】
そして、図3(a)、(b)、(c)に示すように、溶接ヘッド4を走査させながらレーザ光8を被溶接部10に照射して亀裂11の内部の水20を蒸発させる。この加熱工程におけるレーザ光8の走査は、例えば、図11(a)、(b)に示すように、レーザ光8を、亀裂11を含む表面全てに照射されるように走査させながら照射し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。なお、図11(a)は、亀裂11の長手方向に沿ってレーザ光8を走査する場合、図11(b)は、ジグザグにレーザ光8を走査する場合を示している。
【0019】
その後、図4に示すように、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させ、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内から光路外へ位置させる。このように、レンズ14がレーザ光8の光路から外れることによって、固定されている集光レンズ7による集光が行われ、被溶接部10でのレーザビーム8のビーム径が、図3に示した加熱工程でのビーム径よりも小さくなり、エネルギー密度が高い状態となる。この状態で、被溶接部10にレーザ光8を照射するとともに、被溶接部10に溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、図4(a)、(b)、(c)に示すように、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11表面を溶接する。なお、この溶接工程の状態を図2にも示す。
【0020】
上記溶接工程では、例えば図12(a)、(b)に示すように、亀裂11を含む被溶接部表面を溶接ビード12にて覆うように溶接ヘッド4を走査しながら亀裂11の表面を溶接する。
【0021】
なお、上記の加熱工程及び溶接工程において、図3に示す加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、図4に示す溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深くなっている。
【0022】
上記の水中溶接方法及び水中溶接装置では、加熱工程において、亀裂11内部の水を蒸発させた後、そのまま、溶接ヘッド4の気相空間内に亀裂11を覆ったままで溶接工程へ移行する。これによって、亀裂11内部に水が侵入することはなく、亀裂11内部の水が蒸発した状態で溶接を行うことができ、水蒸気によって生じる溶接欠陥を防止して溶接ビード12を形成することができる。
【0023】
以上説明した第1実施形態では、加熱工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を大きくし、レーザ光8のエネルギー密度を低下させた状態で加熱を行う。また、溶接工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外すことによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度を高くして溶接を行う。
【0024】
この時、レーザ光8のビーム径を小さく絞り、エネルギー密度を高くした状態は、集光レンズ7の位置が固定された状態となっており、集光レンズ7の位置を精度よく位置合わせしてフォーカス等を行う必要がない。そして、集光レンズ等の位置を高精度に位置制御する必要のない加熱工程では、レーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、レーザ光8のビーム径を拡大した状態とする。このため、集光レンズ7等を光軸方向に沿って移動させて加熱工程と溶接工程とを切り換える場合のように、集光レンズ7等の高精度な位置調整を必要としない。これによって、再現性良く安定的に溶接施工を行うことができる。
【0025】
次に、第2実施形態について説明する。この第2実施形態においても、図1、2に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0026】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0027】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図3に示したように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。
【0028】
そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0029】
これとともに、図5に示すように、光ファイバー接続装置3において、移動機構18によってレーザ光8の光路中にハーフミラー等の減光可能なミラー16を挿入し、このミラー16を経由してレーザ光8を伝送することで、被溶接部10に伝送されるレーザ出力を減衰する。この状態のレーザ光8を、溶接ヘッド4を走査させながら被溶接部10に照射して加熱し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。なお、図5において、符号17は略100%レーザ光を反射するミラー、19はビームダンパーを示している。
【0030】
その後、図4に示すように、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させて、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度が高くなるように設定する。これとともに、図6に示すように、レーザ光8を減衰するためのミラー16をレーザ光8の光路から外し、略100%レーザ光を反射するミラー17をレーザ光8の光路内に位置させ、レーザ光8の減衰が発生しないようにする。
【0031】
そして、この状態で、レーザ光8を被溶接部10に照射しつつ、溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11の表面を溶接する。このとき、加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深い。
【0032】
なお、レーザ光8の減衰は、光ファイバー接続装置3において行うのではなく、図7に示すように、ハーフミラー等の減光可能なミラー16を溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路に挿入して行ってもよい。
【0033】
以上説明した第2実施形態では、加熱工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入することによって、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径を大きくしてエネルギー密度を低下させるとともに、光ファイバー接続装置3又は溶接ヘッド4において減光可能なミラー16をレーザ光8の光路内に挿入することによってレーザ光8を減衰させる。また、溶接工程においては、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外すことによって、レーザ光8のビーム径を小さくし、エネルギー密度を高くするとともに、減光可能なミラー16をレーザ光8の光路内から外して溶接を行う。
【0034】
したがって、前述した第1実施形態と同様な効果が得られるとともに、レーザ光8の光路内に減光可能なミラー16を挿入することによって、加熱工程におけるレーザ光8を減衰させるので、レーザ発振器1の出力調整を省くことができる。また、加熱工程で必要とされる最適なレーザ光8のエネルギーが、レーザ発振器1の最低出力を下回る場合でも、最適なエネルギーのレーザ光8で加熱工程を実施することができる。
【0035】
次に、第3実施形態について説明する。この第3実施形態においても、図1、2に示すように、原子炉圧力容器等の内部に収容された水20中に位置する被溶接部10に対して溶接施工する場合について説明する。水20の外部に、レーザ発振器1が配設されており、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、光ファイバー接続装置3にて接続された複数の光ファイバー2を介して水中に配置された溶接ヘッド4まで伝送され、被溶接部10に照射されるようになっている。
【0036】
溶接ヘッド4の設置工程では、亀裂を有した被溶接部10が溶接ヘッド4にて形成される気相空間に完全に含まれるように溶接ヘッド4を設置して、溶接ヘッド4から不活性ガス9として例えばアルゴンガスを供給して気相空間を形成する。
【0037】
上記のように被溶接部10に気相空間を形成した後、図9に示すように、被溶接部10の亀裂11の内部に残留した水20を蒸発させる加熱工程を実施する。加熱工程では、溶接ヘッド4にて形成される気相空間に常に亀裂11が覆われた状態とし、気相空間に溶接ヘッド4から不活性ガス9を供給する。
【0038】
そして、移動機構15によって、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内にレンズ14を挿入し、被溶接部10に照射されるレーザ光8のビーム径が、図4に示す溶接工程でのビーム径よりも大きくなり、エネルギー密度を低下させた状態に設定する。
【0039】
これとともに、移動機構18によってレーザ光8の光路中にハーフミラー等の減光可能なミラー16を挿入し、このミラー16経由してレーザ光8を伝送することで、被溶接部10に伝送されるレーザ出力を減衰する。この状態のレーザ光8を、溶接ヘッド4を走査させながら被溶接部10に照射して加熱し、亀裂11内部の水20を蒸発させる。
【0040】
第3実施形態では、シールドカバー4a内に被溶接部10の表面温度をモニタリングする光センサ21が配設されており、光センサ21には、検出信号を処理するためのアンプ22が接続され、アンプ22には判定装置23が接続されている。これらの機構は、亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認するためのものであり、光センサ21によって検出される被溶接部10の表面温度が、判定装置23によって判定される規定の温度に到達するまで加熱工程を継続するようになっている。これによって、亀裂11内部の水20が確実に除去された後、溶接工程を実施することができる。
【0041】
なお、光センサ21の替わりに図10に示すように湿分検出センサ24を使用し、シールドカバー4a内の不活性ガス雰囲気の湿分が規定値よりも下がったことによって、亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認する構成としてもよい。
【0042】
上記の加熱工程の後、図8に示したように、溶接ヘッド4内のレンズ14の位置を移動させて、溶接ヘッド4内のレーザ光8の光路内からレンズ14を外し、被溶接部10でのレーザ光8のビーム径が、加熱工程でのビーム径よりも小さくなるように設定するとともに、レーザ光を減衰するためのミラー16をレーザ光8の光路から外す。
【0043】
そして、この状態で、レーザ光8を被溶接部10に照射しつつ、溶加材5を供給して溶接ビード12を形成し、溶接ヘッド4を走査しながら被溶接部10の亀裂11の表面を溶接する。この時、加熱工程で100℃以上に加熱される範囲6aは、溶接工程で100℃以上に加熱される範囲6bよりも深い。
【0044】
以上説明した第3実施形態では、前述した第2実施形態と同様な効果を得られるとともに、被溶接部10の表面温度をモニタリングする光センサ21(又は湿分検出センサ24)、アンプ22、判定装置23により亀裂11内部の水20が十分に蒸発したことを確認した後に溶接工程を行うことができるので、亀裂11内部の水が確実に蒸発した状態で溶接することができ、水蒸気によって生じる溶接欠陥を防止して溶接ビード12を形成することができる。
【0045】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1……レーザ発振器、2……光ファイバー、3……光ファイバー接続装置、4……レーザ溶接ヘッド、5……溶加材、6a,6b……温度が100℃以上となる範囲、7……集光レンズ、8……レーザ光、9……不活性ガス、10……被溶接部、11……亀裂、12…溶接ビード、14……レンズ、15……移動機構、16……減光可能なミラー、17……略100%レーザ光を反射するミラー、18……移動機構、19……ビームダンパー、20…水、21……光センサ、22……アンプ、23……判定装置、24……湿分検出センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、
レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、前記光ファイバーの先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記光学素子を移動させ前記レーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、
前記溶接ヘッドと前記被溶接部との間に形成される気相空間に、前記被溶接部の亀裂が位置するように、前記溶接ヘッドを設置する設置工程と、
前記移動機構により前記レーザ光の光路内に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して加熱することにより、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、
前記移動機構により前記レーザ光の光路外に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して溶接し、亀裂を埋める溶接工程と
を具備したことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の水中溶接方法であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項3】
請求項2記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子が、前記溶接ヘッドに配設されていることを特徴とする水中溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の水中溶接方法であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項5】
請求項4記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子が、前記溶接ヘッド又は前記光ファイバーを繋ぐ光ファイバー接続装置に配設されていることを特徴とする水中溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部の温度又は前記気相空間内の湿度を検出するセンサの検出結果に基づいて、前記加熱工程の終了タイミングを検出することを特徴とする水中溶接方法。
【請求項7】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、
光ファイバー先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、
前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、
前記被溶接部を加熱して亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路内に位置させ、前記加熱工程の後に亀裂の溶接を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路外に位置させるように前記光学素子を移動させる移動機構と、
を具備したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項8】
請求項7記載の水中溶接装置であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項9】
請求項8記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子が、前記溶接ヘッドに配設されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項10】
請求項7〜9いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項11】
請求項10記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子が、前記溶接ヘッド又は前記光ファイバーを繋ぐ光ファイバー接続装置に配設されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項12】
請求項7〜11いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部の温度又は前記気相空間内の湿度を検出するセンサを具備し、当該センサの検出結果に基づいて、前記加熱工程の終了タイミングを検出することを特徴とする水中溶接装置。
【請求項1】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接方法であって、
レーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、前記光ファイバーの先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、前記光学素子を移動させ前記レーザ光の光路内及び光路外に位置させるための移動機構と、を具備した装置を使用し、
前記溶接ヘッドと前記被溶接部との間に形成される気相空間に、前記被溶接部の亀裂が位置するように、前記溶接ヘッドを設置する設置工程と、
前記移動機構により前記レーザ光の光路内に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して加熱することにより、亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程と、
前記移動機構により前記レーザ光の光路外に前記光学素子を位置させた状態で、前記レーザ光を前記被溶接部に照射して溶接し、亀裂を埋める溶接工程と
を具備したことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載の水中溶接方法であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項3】
請求項2記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子が、前記溶接ヘッドに配設されていることを特徴とする水中溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の水中溶接方法であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接方法。
【請求項5】
請求項4記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子が、前記溶接ヘッド又は前記光ファイバーを繋ぐ光ファイバー接続装置に配設されていることを特徴とする水中溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の水中溶接方法であって、
前記被溶接部の温度又は前記気相空間内の湿度を検出するセンサの検出結果に基づいて、前記加熱工程の終了タイミングを検出することを特徴とする水中溶接方法。
【請求項7】
水中にある亀裂を含む被溶接部に対して溶接ヘッドにより溶接を行う水中溶接装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出射したレーザ光を伝送するための光ファイバーと、
光ファイバー先端に接続され前記被溶接部との間にシールドガスを供給して気相空間を形成可能とされた溶接ヘッドと、
前記レーザ光のエネルギー密度を低下させる光学素子と、
前記被溶接部を加熱して亀裂内部から水を蒸発させる加熱工程を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路内に位置させ、前記加熱工程の後に亀裂の溶接を実施する際に、前記光学素子を前記レーザ光の光路外に位置させるように前記光学素子を移動させる移動機構と、
を具備したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項8】
請求項7記載の水中溶接装置であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項9】
請求項8記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光のビーム径を拡大する機能を有する素子が、前記溶接ヘッドに配設されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項10】
請求項7〜9いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記光学素子として、前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子を含むことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項11】
請求項10記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部に照射される前記レーザ光を減光する機能を有する素子が、前記溶接ヘッド又は前記光ファイバーを繋ぐ光ファイバー接続装置に配設されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項12】
請求項7〜11いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記被溶接部の温度又は前記気相空間内の湿度を検出するセンサを具備し、当該センサの検出結果に基づいて、前記加熱工程の終了タイミングを検出することを特徴とする水中溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−250249(P2012−250249A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123703(P2011−123703)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]