説明

水晶発振回路

【課題】反転電圧VTH、負性抵抗−RL、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることがなく、定電圧回路を追加する必要がなく、しかも、動作電圧も低くなり、水晶振動子に流れる電流も小さくすることができる発振回路を提供する。
【解決手段】NMOSインバータIVnと、帰還抵抗Rfと、水晶振動子Qzと、が互いに並列接続され、NMOSインバータIVnの入力と電源VSSとの間にキャパシタCGが接続され、NMOSインバータIVnの出力と電源VSSとの間にキャパシタCDが接続された水晶発振回路1において、NMOSインバータIVnが、電源VDDに接続された定電流回路Inと、定電流回路Inと電源VSSとの間に接続されたn型のMOSトランジスタTnと、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振回路に係り、特に、インバータと、前記インバータに並列接続された帰還抵抗と、前記インバータに並列に接続された水晶振動子と、前記水晶振動子の一端と電源との間に接続された第1キャパシタと、前記水晶振動子の他端と電源との間に接続された第2キャパシタと、を有する水晶発振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上述した水晶発振回路として、例えば図6に示されたようなものが提案されている。図6(A)に示すように、水晶発振回路1は、水晶振動子Qzと、発振回路2と、から構成されている。上記発振回路2は、インバータとしてのCMOSインバータIVcと、帰還抵抗Rfと、第1キャパシタ及び第2キャパシタとしてのキャパシタCG及びCDと、から構成されている。上記水晶振動子Qz、CMOSインバータIVc及び帰還抵抗Rfは、互いに並列接続されている。そして、キャパシタCGは、CMOSインバータIVcの入力と電源の−側である電源VSSとの間に設けられている。キャパシタCDは、CMOSインバータIVcの出力と電源VSSとの間に設けられている。なお、キャパシタCG及びCDは、CMOSインバータIVcと電源の+側である電源VDDとの間に設けても良い。
【0003】
図6(B)に示すように、CMOSインバータIVcは、電源の+側である電源VDDに接続されたp型のMOSトランジスタTp2と、このMOSトランジスタTp2と電源VSSとの間に接続されたn型のMOSトランジスタTn2と、から構成されている。これらMOSトランジスタTp2及びTn2は、電源VDD−電源VSS間に互いに直列に接続されている。上記CMOSインバータIVcは、入力電圧Vinが反転電位VTHを超えると、MOSトランジスタTp2がオフ、MOSトランジスタTn2がオンして出力電圧Voutが電源VSSと等しくなる。これに対して、入力電圧Vinが反転電位VTHを下回ると、MOSトランジスタTp2がオン、MOSトランジスタTn2がオフして出力電圧Voutが電源VDDと等しくなる。
【0004】
上述したCMOSインバータIVcは、図7に示すように構成されている。上述したMOSトランジスタTp2及びTn2は、p型シリコン基板Spと、このp型シリコン基板Spにイオン注入して形成したn型シリコン基板Snと、を備えている。上記MOSトランジスタTp2は、n型シリコン基板Snに高濃度の不純物をイオン注入して形成したp+領域Apd、Apsと、n型シリコン基板Sn上に形成したゲート酸化膜fと、p+領域Apd、Aps上に設けられたドレイン電極Mpd及びソース電極Mpsと、ゲート酸化膜f上に設けられたゲート電極Mpgと、を備えている。p+領域Apd、Apsは、長さ方向に互いに間隔を空けて設けられている。上記ゲート電極Mpgは、このp+領域Apd及びAps間のゲート酸化膜f上に設けられている。
【0005】
また、n型のMOSトランジスタtn2は、p型シリコン基板Spに高濃度の不純物をイオン注入して形成したn+領域And、Ansと、p型シリコン基板Sp上に形成したゲート酸化膜fと、n+領域And、Ans上に設けられたドレイン電極Mnd及びソース電極Mnsと、ゲート酸化膜f上に設けられたゲート電極Mngと、を備えている。n+領域And、Adsは、長さ方向に互いに間隔を空けて設けられている。上記ゲート電極Mngは、このn+領域And、Ads間のゲート酸化膜f上に設けられている。
【0006】
上述した構成の水晶振動子Qz及び発振回路2は、図8に示すような等価回路で表すことができる。即ち、水晶振動子Qzは、互いに直列に接続された抵抗R1、キャパシタC1及びインダクタンスL1と、これら抵抗R1、キャパシタC1及びインダクタンスL1に並列接続されたキャパシタC0と、に等価することができる。また、発振回路2は、互いに直列接続された負荷抵抗−RLと、キャパシタCLと、に等価することができる。なお、上記負性抵抗−RLは、下記の式(1)で表される。
−RL=−gm/(ω2・CG・CD) …(1)
gmは、MOSトランジスタTp2、Tn2の相互コンダクタンスであり、後述する。ωは、発振角周波数である。
【0007】
上記水晶振動子Qzは、インダクタンスL1、キャパシタC1及びC0で決まる周波数で振動する。熱などで発生した水晶振動子Qzの微少振動はそのままでは抵抗R1によって減衰する。しかしながら、上記微少振動がCMOSインバータIVcに増幅されて再び水晶振動子Qzに供給されることにより水晶振動子Qzの発振が維持される。即ち、抵抗R1が振動エネルギーを減衰させる抵抗であるのに対して発振回路2の負性抵抗−RLは振動エネルギーを補充する抵抗であると考えられる。よって、下記の式(2)に示すように、負性抵抗−RLが抵抗R1より大きければ水晶振動子Qzの発振が持続する。
|R1|<|−RL| …(2)
【0008】
しかしながら、上述した従来のCMOSインバータIVcを用いた水晶発振回路1は下記に示すような問題があった。まず、CMOSインバータIVcの反転電圧VTHが電源VDDに依存して変動してしまう、という問題があった。この反転電圧VTHについて求めて見る。一般的なMOSトランジスタのドレイン−ソース間に流れる電流Idsは下記の式(3)、(4)で表すことができる。
【数1】

【数2】

なお、L:MOSトランジスタのゲート長(図7)、W:MOSトランジスタのゲート幅(図7)、εox:ゲート酸化膜fの誘電率、tox:ゲート酸化膜fの膜厚、μ:チャネル中キャリア移動度、Vgs:ゲート−ソース間電圧、Vds:ドレイン−ソース間電圧、Vth:しきい値電圧(ドレイン−ソース間が導通し始める電圧)である。
【0009】
上記CMOSインバータIVcの出力が反転するときは、下記の式(5)に示すように、MOSトランジスタTp2、Tn2に流れる電流Idsp、Idsnが等しくなる。
Idsp=−Idsn …(5)
【0010】
このとき、CMOSインバータIVcの出力VoutはVin−Vthn≦Vout≦Vin−|Vthp|の範囲内となるため、反転時の電流Idsp、Idsnは、上記式(4)を用いて下記の式(6)、(7)で表すことができる。
【数3】

【数4】

なお、Lp:MOSトランジスタTp2のゲート長(図7)、Wp:MOSトランジスタTp2のゲート幅(図7)、Ln:MOSトランジスタTn2のゲート長(図7)、Wn:MOSトランジスタTn2のゲート幅(図7)、μp:MOSトランジスタTp2のチャンネル中キャリア移動度、μn:MOSトランジスタTn2のチャンネル中キャリア移動度、Vthp:MOSトランジスタTp2のしきい値電圧、Vthn:MOSトランジスタTn2のしきい値電圧である。
【0011】
上記式(6)、(7)を上記式(5)に代入したときの入力電圧Vinが反転電圧VTHとなる。よって、反転電圧VTHは下記の式(8)で表すことができる。
【数5】

式(8)から明らかなように、電源VDDが変動すると反転電圧VTHも変動してしまう。
【0012】
また、従来のCMOSインバータIVcを用いた水晶発振回路1では、負性抵抗−RLが電源VDDに依存して変動してしまう、という問題もあった。この負性抵抗−RLは、上記式(1)に示すようにgmに比例する。このgmについて求めて見る。gmはMOSトランジスタTp2の相互コンダクタンスgmp、MOSトランジスタTn2の相互コンダクタンスgmnを用いて下記の式(9)で表すことができる。
【数6】

【0013】
また、上記gmp、gmnは下記の式(10)、(11)で表すことができる。
【数7】

【数8】

式(9)〜(11)から明らかなように、上記負性抵抗−RLも電源VDDに依存して変動してしまう。このため、電源VDDの変動によっては式(2)に示す発振条件を満たすことができずに発振が停止したり、発振異常が生じる恐れがあった。
【0014】
さらに、水晶発振回路1の発振周波数f0も電源に依存して変動してしまう、という問題があった。発振周波数f0は下記の式(12)で表すことができる。
【数9】

【0015】
上記CMOSインバータIVcには、図示しないダイオードを用いたESD保護回路が設けられている。このため、図6に示すように、上記ESD保護回路で用いられるダイオードによって付く寄生ダイオードDG、DCが、キャパシタCG、CDに並列に発生してしまう。寄生ダイオードDG、DCは、無電位の場合は、その接合面において電位障害が発生し、逆方向の電圧が加えられると障害が増加する。この障害は外部からは容量として見え、この寄生ダイオードDG、DCの容量が等価回路の直列容量CLに追加される。そして、この寄生ダイオードDG、DCの容量は、反転電位VTH、即ち電源VDDに依存して変化してしまうため、発振周波数f0も変化してしまう。
【0016】
上記問題を解決するために、例えば、定電圧回路を追加して電源VDDに変動がないようにしていた。しかしながら、定電圧回路を追加する必要があるため、大型化及びコストアップを招く、という問題があった。
【0017】
また、上記CMOSインバータIVcは、少なくともMOSトランジスタが2段必要であった。上記定電圧回路にMOSトランジスタと用いると3つのMOSトランジスタを直列に接続する必要があり、高い動作電圧が必要になる、という問題があった。さらに、CMOSインバータIVcの出力電圧Voutが電源VDDと電源VSSとの間に大きくふれるため、水晶振動子QZに流れる電流が増大する、という問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−187004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明は、反転電圧VTH、負性抵抗−RL、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることがなく、定電圧回路を追加する必要がなく、しかも、動作電圧も低くなり、水晶振動子に流れる電流も小さくすることができる発振回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、インバータと、前記インバータに並列接続された帰還抵抗と、前記インバータに並列に接続された水晶振動子と、前記インバータの入力と電源との間に接続された第1キャパシタと、前記インバータの出力と電源との間に接続された第2キャパシタと、を有する水晶発振回路において、前記インバータが、電源の+側に接続された定電流回路と、前記定電流回路と電源の−側との間に接続されたn型のMOSトランジスタと、から構成されていることを特徴とする水晶発振回路に存する。
【0021】
請求項2記載の発明は、インバータと、前記インバータに並列接続された帰還抵抗と、前記インバータに並列に接続された水晶振動子と、前記インバータの入力と電源との間に接続された第1キャパシタと、前記インバータの出力と電源との間に接続された第2キャパシタと、を有する水晶発振回路において、前記インバータが、電源の−側に接続された定電流回路と、前記定電流回路と電源の+側との間に接続されたp型のMOSトランジスタと、から構成されていることを特徴とする水晶発振回路に存する。
【0022】
請求項3記載の発明は、前記MOSトランジスタのゲート長を0.8μm以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶発振回路に存する。
【0023】
請求項4記載の発明は、前記MOSトランジスタのゲート長を0.5μ以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶発振回路に存する。
【0024】
請求項5記載の発明は、前記第1キャパシタを電源の+側及び−側のうち一方に接続し、前記第2キャパシタを電源の+側及び−側のうち他方に接続したことを特徴とする請求項1〜4何れか1項に記載の水晶発振回路に存する。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、インバータを定電流回路とn型のMOSトランジスタとで構成することにより、反転電圧VTH、負性抵抗−RLが電源VDDの変動の影響を受けることがない。また、定電流回路とn型のMOSトランジスタとを直列接続して構成したインバータは、その反転電圧VTHが定電流値とn型のMOSトランジスタとで決定されるため、寄生ダイオードの値が変動しにくくなりその結果、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることがないので、従来のように定電圧回路を設ける必要がない。しかも、インバータを構成するMOSトランジスタが1つでよい。定電流回路にMOSトランジスタを用いたとしても2つのMOSトランジスタを電源間に直列接続すればよく、電源間に直列接続するMOSトランジスタの数を減らしてMOSトランジスタの動作電圧も低くすることができる。また、水晶振動子には定電流回路からの定電流が流れるため、この定電流の設定によって低水晶電流化と水晶発振から出る電磁波の低減も図ることができる。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、インバータを定電流回路とp型のMOSトランジスタとで構成することにより、反転電圧VTH、負性抵抗−RLが電源VDD基準で決定される為、電源VDDの変動の影響を受けることがない。また、p型のMOSトランジスタと定電流回路とを直列接続して構成したインバータは、その反転電圧VTHが定電流値とp型のMOSトランジスタとで決定されるため、寄生ダイオードの値が変動しにくくなりその結果、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることがないので、定電圧回路を設ける必要がない。しかも、少なくとも1つのMOSトランジスタにより構成されているため、MOSトランジスタの動作電圧も低くすることができる。また、水晶振動子には定電流回路からの定電流が流れるため、この定電流の設定によって低水晶電流化と水晶発振から出る電磁波の低減も図ることができる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、CMOSインバータ、帰還抵抗、第1キャパシタ及び第2キャパシタを内蔵した1つのICチップの大きさを0.8mm×0.8mm、CMOSインバータのゲート長を1μm以下とした従来品と同等の大きさ(=0.8mm×0.8mm)で同等の特性(即ち同等のドレイン−ソース電流、gm)にすることができる。
【0028】
請求項4記載の発明によれば、CMOSインバータ、帰還抵抗、第1キャパシタ及び第2キャパシタを内蔵した1つのICチップの大きさを0.8mm×0.8mm、CMOSインバータのゲート長を1μm以下とした従来品と同等の特性(即ち同等のドレイン−ソース電流、負性抵抗−RL)で、ICチップの大きさを0.72mm×0.72mm以内に抑えることができる。
【0029】
請求項5記載の発明によれば、電源オン直後に定電流回路の動作が遅れてもインバータの入力と出力とを反転させることができ、電源オン直後の発振を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態における本発明の水晶発振回路を示す回路図である。
【図2】図1に示すNMOSインバータの一例を示す回路図である。
【図3】第2実施形態における本発明の水晶発振回路を示す回路図である。
【図4】(A)は図1に示す水晶振動子、発振回路を含んだパッケージの断面図であり、(B)はパッケージの上面図である。
【図5】第3実施形態における本発明の水晶発振回路を示す回路図である。
【図6】(A)は従来の水晶発振回路の一例を示す回路図であり、(B)は(A)に示すCMOSインバータを示す回路図である。
【図7】図6(B)に示すCMOSインバータの構成を示す斜視図である。
【図8】図1及び図6の水晶発振回路の等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
第1実施形態
次に、第1実施形態における本発明の水晶発振回路について図1及び図2を参照して以下説明する。図1に示すように、水晶発振回路1は、水晶振動子Qzと、発振回路2と、増幅回路3と、から構成されている。上記発振回路2は、インバータとしてのNMOSインバータIVnと、帰還抵抗Rfと、第1キャパシタ及び第2キャパシタとしてのキャパシタCG及びCDと、から構成されている。上記水晶振動子Qz、NMOSインバータIVn及び帰還抵抗Rfは、互いに並列接続されている。そして、キャパシタCGは、NMOSインバータIVnの入力と電源Vの−側である電源VSSとの間に設けられている。キャパシタCDは、NMOSインバータIVnの出力と電源VSSとの間に設けられている。
【0032】
上記NMOSインバータIVnは、電源Vの+側である電源VDDに接続された定電流回路Inと、定電流回路Inと電源Vの−側である電源VSSとの間に接続されたn型のMOSトランジスタTnと、から構成されている。MOSトランジスタTnは、ドレインが電源VDD側に接続され、ソースが電源VSS側に接続されている。これら定電流回路In及びMOSトランジスタTnは互いに直列接続され、MOSトランジスタTnのゲートがNMOSインバータIVnの入力となり、定電流回路InとMOSトランジスタTnのドレインとの接続点がNMOSインバータIVnの出力となる。
【0033】
上記定電流回路Inとしては、例えば図2(A)に示すようにカレントミラー回路21から構成されたものや、図2(B)に示すように抵抗R2から構成されたものや、図2(C)に示すように、トランジスタTから構成されたものなど公知のものが用いられる。
【0034】
上記NMOSインバータIVnは、入力電圧VinがMOSトランジスタTnのしきい値電圧Vthnを超えると、MOSトランジスタTnがオンして出力電圧Voutが電源VSSと等しくなる(Loレベル)。これに対して、入力電圧Vinがしきい値電圧Vthnを下回ると、MOSトランジスタTnがオフして、出力電圧Voutが電源VDDと等しくなる(Hiレベル)。
【0035】
増幅回路3は、NMOSインバータIVnの出力と、基準電圧Vrefと、が供給されたオペアンプ31から構成されている。上記基準電圧Vrefは、電源V間に互いに直列接続された定電流回路I1とn型のMOSトランジスタTn1との接続点の電圧である。定電流回路I1は、上記定電流回路Inと同じ構成で設けられている。MOSトランジスタTn1は、上記MOSトランジスタTnと同じ構成で設けられ、ゲートが電源VDDに接続されている。よって、基準電圧Vrefは、NMOSインバータIVnの反転電位VTHの出力と等しくなる。オペアンプ31は、NMOSインバータIVnの出力と基準電圧Vrefとの差分を増幅して出力することによりNMOSインバータIVnの出力を増幅する。
【0036】
次に、上述した構成の水晶発振回路1の反転電圧VTHについて求めて見る。上記定電流回路Inからの定電流をIcとする。背景技術でも示したように、NMOSインバータIVnの出力が反転するときは、MOSトランジスタTnのドレイン−ソース間に流れる電流Idsnは下記の式(13)で表すことができる。
【数10】

なお、Ln:MOSトランジスタTnのゲート長、Wn:MOSトランジスタTnのゲート幅、μn:MOSトランジスタTnのチャンネル中キャリア移動度、Vthn:MOSトランジスタTnのしきい値電圧である。
【0037】
また、NMOSインバータIVnが反転するときは、下記の式(14)に示すように、電流Idsnと定電流Icとが等しくなる。
Idsn=Ic …(14)
上記式(14)を上記式(13)に代入したときの入力電圧Vinが反転電圧VTHとなる。よって、反転電圧VTHは下記の式(15)で表すことができる。
【数11】

式(15)から明らかなように、反転電圧VTHは電源VDDに依存する値ではない。
【0038】
次に、上記水晶発振回路1の負性抵抗−RLについて求めて見る。負性抵抗−RLは背景技術でも説明したようにgmに比例する。第1実施形態の水晶発振回路1においては、gmはMOSトランジスタTnの相互コンダクタンスgmnと等しくなり、下記の式(16)に示すように電流Idsnに依存する値である。
【数12】

上記式(16)からも明らかなように、gm(=gmn)は電源VDDに依存する値とならない。
【0039】
よって、上記水晶発振回路1によれば、NMOSインバータIVnを定電流回路Inとn型のMOSトランジスタTnとで構成することにより、反転電圧VTH、負性抵抗−RLが電源VDDの変動の影響を受けることがない。また、寄生ダイオードDG、DD(図6参照)(VSS側)にかかる電圧が変動しないため、その容量が変動せずその結果、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることないので、従来のように定電圧回路を設ける必要がない。
【0040】
しかも、上記NMOSインバータIVnは、MOSトランジスタTnが1つでよい。上記定電流回路InにMOSトランジスタと用いたとしても2つのMOSトランジスタを電源V間に直列接続すればよく、電源間に直列接続するMOSトランジスタの数を減らしてMOSトランジスタの動作電圧も低くすることができる。また、水晶振動子Qzには定電流回路Inからの定電流Icが流れるため、この定電流Icの設定によって低水晶電力化と水晶発振からでる電磁波の低減も図ることができる。
【0041】
第2実施形態
次に、第2実施形態について図3を参照して説明する。なお、同図において、上述した図1について第1実施形態で既に説明した部分と同等の部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。第1実施形態と第2実施形態とで大きく異なる点は、インバータの構成である。第2実施形態では、NMOSインバータIVnに変わってPMOSインバータIVpを用いている。
【0042】
上記PMOSインバータIVpは、電源Vの+側である電源VDDに接続されたp型のMOSトランジスタTpと、MOSトランジスタTpと電源Vの−側である電源VSSとの間に接続された定電流回路Ipと、から構成されている。MOSトランジスタTpは、ドレインが電源VDD側に接続され、ソースが電源VSS側に接続されている。これら定電流回路Ip及びMOSトランジスタTpは互いに直列接続され、MOSトランジスタTpのゲートがPMOSインバータIVpの入力となり、定電流回路IpとMOSトランジスタTpのドレインとの接続点がPMOSインバータIVpの出力となる。
【0043】
上記PMOSインバータIVpは、入力電圧VinがMOSトランジスタTpのしきい値電圧Vthpを下回ると、MOSトランジスタTpがオンして出力電圧Voutが電源VDDと等しくなる(Hiレベル)。これに対して、入力電圧Vinがしきい値電圧Vthpを超えると、MOSトランジスタTpがオフして出力電圧Voutが電源VSSと等しくなる(Loレベル)。
【0044】
また、オペアンプ31には、電源V間に互いに直列接続されたp型のMOSトランジスタTp1と定電流回路I2との接続点の電圧である基準電圧refが供給されている。MOSトランジスタTp1は、上記MOSトランジスタTpと同じ構成で設けられ、ゲートが電源VSSに接続されている。定電流回路I2は、上記定電流回路Ipと同じ構成で設けられている。よって、基準電圧Vrefは、PMOSインバータIVpの反転電位VTHの出力と等しくなる。オペアンプ31は、PMOSインバータIVpの出力と基準電圧Vrefとの差分を増幅して出力することによりPMOSインバータIVpの出力を増幅する。
【0045】
次に、上述した構成の水晶発振回路1の反転電圧VTHについて求めて見る。上記定電流回路Ipからの定電流をIcとする。背景技術でも示したように、PMOSインバータIVpが反転するときは、MOSトランジスタTpのドレイン−ソース間に流れる電流Idnpは下記の式(17)で表すことができる。
【数13】

なお、Lp:MOSトランジスタTpのゲート長、Wp:MOSトランジスタTpのゲート幅、μp:MOSトランジスタTpのチャンネル中キャリア移動度、Vthp:MOSトランジスタTpのしきい値電圧である。
【0046】
また、PMOSインバータIVpが反転するときは、下記の式(18)に示すように、電流Idspと定電流Icとが等しくなる。
Idsp=Ic …(18)
上記式(18)を上記式(17)に代入したときの入力電圧Vinが反転電圧VTHとなる。よって、反転電圧VTHは下記の式(19)で表すことができる。
【数14】

式(19)から明らかなように、反転電圧VTHは電源VDDとの差分に依存する値となる。即ち、反転電位VTHは電源VDDを基準として決定される値となる。
【0047】
次に、上記水晶発振回路1の負性抵抗−RLについて求めて見る。負性抵抗−RLは背景技術でも説明したようにgmに比例する。第2実施形態の水晶発振回路1においては、gmはMOSトランジスタTpの相互コンダクタンスgmpと等しくなり、下記の式(20)に示すように電流Idspに依存する値である。
【数15】

上記式(20)からも明らかなように、gm(=gmp)は電源VDDとの差分に依存する値となる。即ち、gmは電源VDDを基準として決定される値となる。
【0048】
よって、上記水晶発振回路1によれば、PMOSインバータIVpを定電流回路Ipとp型のMOSトランジスタTpとで構成することにより、反転電圧VTH、負性抵抗−RLが電源VDDを基準として決定される値となるため電源VDDの変動の影響を受けることがない。また、定電流回路Ipとp型のMOSトランジスタTpとを直列接続して構成したPMOSインバータIVpは、従来のCMOインバータIVcのようにp型半導体とn型半導体とが一つの基板上に共存していない。このため、寄生ダイオード(VDD側)にかかる電圧が変動しないため、容量が変動せずその結果、発振周波数f0が電源VDDの影響を受けることないので、従来のように定電圧回路を設ける必要がない。
【0049】
しかも、上記PMOSインバータIVpは、MOSトランジスタTpが1つでよい。上記定電流回路IpにMOSトランジスタと用いたとしても2つのMOSトランジスタを電源V間に直列接続すればよく、電源間に直列接続するMOSトランジスタの数を減らしてMOSトランジスタの動作電圧も低くすることができる。また、水晶振動子Qzには定電流回路Ipからの定電流Icが流れるため、この定電流Icの設定によって低水晶電流化と水晶発振から出る電磁波の低減も図ることができる。
【0050】
ところで、第1実施形態及び第2実施形態においては、図4に示すように、上述した発振回路2は1つのICチップ5内に樹脂封止され、このICチップ5は水晶振動子Qzと共にケース6内に収容された1つのパッケージ7になっている。このパッケージ7のサイズは、A×B=3.2mm×2.5mmより小さくなってくると水晶振動子Qzの小型化によって水晶振動子Qzで消費される電力が制限されると共に、搭載されるICチップ5の大きさも制限される。
【0051】
パッケージ7のサイズがA×B=3.2mm×2.5mmの場合は、ICチップ5の大きさはC×D=0.8mm×0.8mm以下にする必要がある。図6に示す従来のCMOSインバータIVcを用いた従来品では、ICチップ5の大きさがC×D=0.8mm×0.8mmのときにMOSトランジスタTp2、Tn2のゲート長Ln、Lpを1μm以下とするような特性(Idsとgmの値)に設計されている。
【0052】
CMOSインバータIVcを用いた従来品では、gmはp型のMOSトランジスタTp2のgmpとn型のMOSトランジスタTp2とのgmnとの合成とになる。第1実施形態で説明したNMOSインバータIVnのgmはn型のMOSトランジスタTnのgmnと等しくなる。また、第2実施形態で説明したNMOSインバータIVnのgmはp型のMOSトランジスタTpのgmpと等しくなる。従って、従来品のICチップ5と同じ大きさで同等の特性を第1実施形態及び第2実施形態で得るためには、ゲート長Ln、Lpを小さくする必要がある。また、このICチップ5内に定電流回路In、Ipで用いられるMOSトランジスタも含めることを考慮すると、ICチップ5の大きさを変えずにこれと同じ特性に設計するためには、第1実施形態及び第2実施形態では、MOSトランジスタTn、Tpのゲート長Ln、Lpを0.8μm以下となるようにしている。
【0053】
よって、ゲート長Ln、Lpを0.8μm以下とすることにより、従来品と同等の大きさ(C×D=0.8mm×0.8mm以下)で同等の特性(即ち同等のIds、gm)にすることができる。
【0054】
また、第1実施形態及び第2実施形態においてMOSトランジスタTn、Tpのゲート長Ln、Lpを0.5μm以下とすれば、従来品と同等の特性でICチップ5の大きさをC×D=0.72mm×0.72mm以内にすることができる。このC×D=0.72mm×0.72mmのICチップ5は、A×B=2.5mm×2.0mmのパッケー7に内蔵することができる。
【0055】
第3実施形態
次に、第3実施形態について説明する。なお、同図において、上述した図1について第1実施形態で既に説明した部分と同等の部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。第1実施形態と第3実施形態とで大きく異なる点は、キャパシタCD、CGの接続である。第1実施形態では、キャパシタCD、CGは両方とも電源VSSに接続されていた。これに対して、第3実施形態では、キャパシタCDは電源VSSに接続され、キャパシタCGは電源VDDに接続されている。
【0056】
電源Vオン直後は定電流回路Inが動作を開始しないため、第1実施形態では、NMOSインバータIVnの入力及び出力とも電源VSSとなり、発振が安定していなかった。これに対して、第3実施形態では、電源Vオン直後に定電流回路Inの動作が遅れてもNインバータIVnの入力を電源VSS、出力を電源VDDにして入力と出力とを反転させることができ、電源Vオン直後の発振を安定させることができる。
【0057】
なお、第3実施形態では、キャパシタCDを電源VSSに接続し、キャパシタCGを電源VDDに接続していたが、本発明はこれに限ったものではない。逆に、キャパシタCDを電源VDDに接続し、キャパシタCGを電源VDDに接続してもよい。
【0058】
また、上述した図3に示す第2実施形態のキャパシタCDを電源VSS、電源VDDの一方に接続し、キャパシタCGを電源VSS、電源VDDの他方に接続してもよい。
【0059】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 水晶発振回路
G キャパシタ(第1キャパシタ)
D キャパシタ(第2キャパシタ)
In 定電流回路
Ip 定電流回路
Tn MOSトランジスタ
Tp MOSトランジスタ
IVn NMOSインバータ(インバータ)
IVp PMOSインバータ(インバータ)
Qz 水晶振動子
Rf 帰還抵抗
V 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、前記インバータに並列接続された帰還抵抗と、前記インバータに並列に接続された水晶振動子と、前記インバータの入力と電源との間に接続された第1キャパシタと、前記インバータの出力と電源との間に接続された第2キャパシタと、を有する水晶発振回路において、
前記インバータが、電源の+側に接続された定電流回路と、前記定電流回路と電源の−側との間に接続されたn型のMOSトランジスタと、から構成されている
ことを特徴とする水晶発振回路。
【請求項2】
インバータと、前記インバータに並列接続された帰還抵抗と、前記インバータに並列に接続された水晶振動子と、前記インバータの入力と電源との間に接続された第1キャパシタと、前記インバータの出力と電源との間に接続された第2キャパシタと、を有する水晶発振回路において、
前記インバータが、電源の−側に接続された定電流回路と、前記定電流回路と電源の+側との間に接続されたp型のMOSトランジスタと、から構成されている
ことを特徴とする水晶発振回路。
【請求項3】
前記MOSトランジスタのゲート長を0.8μm以下とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶発振回路。
【請求項4】
前記MOSトランジスタのゲート長を0.5μ以下とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶発振回路。
【請求項5】
前記第1キャパシタを電源の+側及び−側のうち一方に接続し、
前記第2キャパシタを電源の+側及び−側のうち他方に接続した
ことを特徴とする請求項1〜4何れか1項に記載の水晶発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−199610(P2012−199610A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60560(P2011−60560)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(509096968)佳帆電子株式会社 (5)
【Fターム(参考)】