説明

波長可変フィルタ分光装置

【課題】内視鏡等の医療機器に好ましく適用される波長可変フィルタ分光装置を提供する。
【解決手段】被観察部4からの光を受光する複数のレンズからなる結像レンズ系5の内部に波長可変フィルタ15を具備し、前記受光した光が前記波長可変フィルタを透過してなる分光画像が、前記結像レンズ系により固体撮像素子6上に結像し、該固体撮像素子から順次出力するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変フィルタ分光装置に関し、特に、内視鏡等の医療機器に好ましく適用される波長可変フィルタ分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体局部を観察するための医療機器例えば内視鏡は、例えば図4に示すように、光源1から出た光を、回転10させつつある回転色フィルタ2に入射させてR(赤)、G(緑)、B(青)の3色を順次透過させ、この透過光をライトガイド3を介して被観察部4に照射しながら、被観察部4からの射出光を対物レンズ系5で集光してCCDあるいはMOS等からなる固体撮像素子6に導き、電気信号に変換して画像データ13となし、これを画像プロセッサ8で処理してフルカラー画像に合成し、テレビモニタ(図示省略)に表示するように構成されている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
回転色フィルタ2の回転10を駆動するモータ(図示省略)の動作および固体撮像素子6からの画像データ13の読出し動作は、コントローラ7からの制御信号12,11によって同期制御される。
なお、光源1、回転色フィルタ2、ライトガイド3の後端部、画像プロセッサ8、コントローラ7は筐体状の処理・制御部23に収容されている。ライトガイド3の先端部、対物レンズ系5、固体撮像素子6は、人体体腔内に挿入される細長い挿入部20の先端付近に配置されている。挿入部20の後端は手元操作部21に連結されている。手元操作部21と処理・制御部23とは、着脱可能な接続コード部22で接続されている。ライトガイド3、および画像データ13、制御信号11の伝送線は、挿入部20から手元操作部21、接続コード部22を経て処理・制御部23まで延設されている。
【0004】
一方、波長可変フィルタの1例として、2枚の平行偏光子で挟んだ一軸性結晶を多段に積層することにより、特定の比較的鋭い透過スペクトルを有するバンドパスフィルタをなすようにされてなるリオ・フィルタにおいて、前記一軸性結晶に代えてECB型(ネマティック液晶を用いた電界制御複屈折型)液晶セルとし、かつ該液晶セルに電圧を印加する電圧源を設けて液晶リオ・フィルタとなし、これにさらに、クロスニコルで挟んだECBセル(前記ECB型液晶セルの略称)を付加してなる修正型液晶リオ・フィルタ(特許文献3)が知られている。
【0005】
これによれば、同フィルタ内の複数の液晶セルの個々に印加する電圧の組み合わせを変えることで、透過波長を広範囲に変化させることが可能である。
また、前記修正型液晶リオ・フィルタは、さらなる改良形態として、同フィルタ内の複数の液晶セルのセル厚比を限定することにより、前記複数の液晶セルに同時に同じ1つの電圧を印加し、その1つの電圧を変化させるだけで透過波長を広範囲に変化させることができるようにしたもの(特許文献4)が知られている。前記修正型液晶リオ・フィルタ(特許文献3)では、複数の液晶セルの個々にそれぞれ電圧制御回路を必要とするが、それの改良形態(特許文献4)では複数の液晶セルに同時に同じ電圧を可変に印加する1つの電圧制御回路があればよい。
【特許文献1】特開昭61−050546号公報
【特許文献2】特開昭63−213812号公報
【特許文献3】特開平3−282417号公報
【特許文献4】特開2000−267127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の内視鏡では、上述のように回転色フィルタを用いて光源からの光を面順次式にR,G,B等の3原色に分光している。また、特許文献4のように、患部をより高精度に特定するために、回転色フィルタに可視光およびそれ以外の例えば赤外線等の波長を透過するフィルタを配置し、用いるフィルタの組み合わせを変えて分光を行うことも知られている。
【0007】
しかし、回転色フィルタを用いる分光方式においては、(1)モータ等の駆動手段を必要とするため、小型化が困難である、(2)前記モータ等の駆動手段から不快音が発生する、(3)光源からの熱により色フィルタが劣化しやすい、などの点が、解決されるべき課題として残っている。
本発明は、上述の課題を解決し、内視鏡等の医療機器に好ましく適用される波長可変フィルタ分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、次のとおりである。
1.被観察部からの光を受光する複数のレンズからなる結像レンズ系の内部に波長可変フィルタを具備し、前記受光した光が前記波長可変フィルタを透過してなる分光画像が、前記結像レンズ系により固体撮像素子上に結像し、該固体撮像素子から順次出力するようにされてなることを特徴とする波長可変フィルタ分光装置。
【0009】
2.前記結像レンズ系は、メニスカスレンズとダブルガウス型レンズとを組み合わせてなることを特徴とする前項1に記載の波長可変フィルタ分光装置。
3.前記波長可変フィルタは、修正型液晶リオ・フィルタからなることを特徴とする前項1または2に記載の波長可変フィルタ分光装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内視鏡等の医療機器の小型化が容易で、不快音の発生がなく、熱による透過性能の劣化もない波長可変フィルタ装置を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、内視鏡に適用した本発明の1例を示す概略図である。図4と同一または相当部材には同じ符号を付し説明を省略する。9は本発明の波長可変フィルタ装置の光学系部分であり、この波長可変フィルタ装置の光学系部分9は、波長可変フィルタ15を結像レンズ系5の内部に具備してなる。14は波長可変フィルタ15の透過波長を電気的に変化させる制御信号である。
【0012】
結像レンズ系(対物レンズ系)5は複数のレンズからなり、被観察部4からの光(ライトガイド3から射出して被観察部4を照射した後の光)を受光する。この受光光は、波長可変フィルタ15を透過する際、コントローラ7からの制御信号14により電気的に例えばR,G,Bの順で変化させた波長可変フィルタ15の透過波長と同じ波長の光に分光し、その分光画像が、結像レンズ系5によって固体撮像素子6上に結像する。
【0013】
この結像した分光画像は、固体撮像素子6により電気信号に変換されて画像データ13となり、コントローラ7からの制御信号11(制御信号14と同期されている)により固体撮像素子6から順次画像プロセッサ8へ出力され、画像プロセッサ8で合成される。
図1と図4を比較して明らかなように、本発明では、光源1とライトガイド3の間に回転色フィルタ2のような大きい部材は存在しないから内視鏡の小型化が容易であり、また、波長可変フィルタ15の透過波長の変更(切り替え)が機械的にではなく電気的に行なわれるから不快音の発生もなく、また、波長可変フィルタ15が光源1からの熱影響のほとんどない挿入部20の先端付近に組込まれているから、前記熱影響による劣化もない。
【0014】
結像レンズ系5は、ピント合わせやズーミングの容易性の点から、メニスカスレンズとダブルガウス型レンズとを組み合わせたものが好ましい。その1例を図2に示す。これは、一対のダブルガウス型レンズ5,5を中心として、入射側に第1、第2のメニスカスレンズ5,5、出射側にバックフォーカス調整用レンズ5が、これらに共通とされた光軸5A上に配列されてなる結像レンズ系5の例である。一対のダブルガウス型レンズ5,5の間には、光学系の有効直径を機械的に変更する装置であるアイリス絞り16が配置されている。
【0015】
波長可変フィルタ15は、結像レンズ系5の内部に具備される限りにおいてその配置箇所は特に限定されないが、好ましくは、アイリス絞り16の開口部近傍に配置することである。アイリス絞り16の開口部では、入射側のレンズ群(第1、第2のメニスカスレンズ5,5、ダブルガウス型レンズ5)を順次通過してきた光の光束径が最小となっており、それゆえアイリス絞り16の開口部近傍に波長可変フィルタ15を配置することで、波長可変フィルタ15のサイズを最小(受光面積を最小)とすることができる。
【0016】
電気的に透過波長を変化させうる波長可変フィルタとしては、前述の修正型液晶リオ・フィルタ(特許文献3の特許請求の範囲に記載された「波長可変型オプティカル・バンドパスフィルタ」)が好ましく用いうる。より好ましくは、それの改良形態(特許文献4の特許請求の範囲に記載された「液晶を用いた波長可変カラーフィルタ」)である。その1例を図3に示す。この例は、特許文献3の第6図に示されたのと同じく、クロスニコルで挟んだECBセル(P,LC,P)を、2組の平行偏光子で挟んだ液晶(P,LC,P,LC)に付加した、つまり、出力側にクロスニコルで挟んだECBセル1枚を配置した構造を有する。
【0017】
ECBセルLC,LC,LCへの個別の印加電圧V,V,Vは、コントローラ7からの印加電圧信号14,14,14に乗せて送られる。各セルにそれぞれ印加する電圧の組み合わせ(V,V,V)を変化させれば、透過光のピーク波長が変化し、可視域内あるいは可視域外(赤外域や紫外域)の任意の分光画像を得ることができる。
【0018】
また、この例において、3枚のECBセルLC,LC,LCのセル厚の比を1:2:1.5にすることで、前記改良形態の1実施形態(特許文献4の図1参照)が実現する。すなわち、印加電圧を各セルに共通した1つの電圧V(V=V=V=V)とすること(すなわち電圧制御回路を1つに統合すること)ができ、この電圧Vを変化させることで、同様に可視域内あるいは可視域外の任意の分光画像を得ることができる。
【0019】
また、3原色に対応した分光画像を生成する透過ピーク波長の光としては、R,G,B以外の3原色(例えばシアン、マゼンタ、イエロー)を採用してもよい。
なお、本発明に用いられる波長可変フィルタは、上述のような電気的に透過波長を切り替え可能なものに限らず、例えば運転時の発生音が無視できる程度に小さいマイクロマシン(例えばMEMUS等)で受光面の角度を変化させることにより透過波長を変化させる方式の色フィルタなどのような、機械的に透過波長を切り替え可能なものであってもよい。
【0020】
また、上述の例では、本発明を内視鏡に適用した場合について説明したが、本発明は内視鏡以外の医療機器、例えば虫歯診断用医療機器など、にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】内視鏡に適用した本発明の1例を示す概略図である。
【図2】本発明の波長可変フィルタ分光装置の1例を示す概略図である。
【図3】本発明に好ましく適用される波長可変フィルタの1つである修正型液晶リオフィルタの1例を示す概略図である。
【図4】従来の内視鏡の1例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 光源
2 回転色フィルタ
3 ライトガイド
4 被観察部(人体局部)
5 対物レンズ系(結像レンズ系)
第1のメニスカスレンズ
第2のメニスカスレンズ
、5 ダブルガウス型レンズ
バックフォーカス調整用レンズ
5A 光軸
6 固体撮像素子
7 コントローラ
8 画像プロセッサ
9 波長可変フィルタ装置の光学系部分
10 回転
11 制御信号
12 制御信号
13 画像データ
14 制御信号
14,14,14 印加電圧信号
15 波長可変フィルタ
16 アイリス絞り
20 挿入部
21 手元操作部
22 接続コード部
23 処理・制御部
LC,LC,LC ECBセル
P 偏光子
,V,V 印加電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被観察部からの光を受光する複数のレンズからなる結像レンズ系の内部に波長可変フィルタを具備し、前記受光した光が前記波長可変フィルタを透過してなる分光画像が、前記結像レンズ系により固体撮像素子上に結像し、該固体撮像素子から順次出力するようにされてなることを特徴とする波長可変フィルタ分光装置。
【請求項2】
前記結像レンズ系は、メニスカスレンズとダブルガウス型レンズとを組み合わせてなることを特徴とする請求項1に記載の波長可変フィルタ分光装置。
【請求項3】
前記波長可変フィルタは、修正型液晶リオ・フィルタからなることを特徴とする請求項1または2に記載の波長可変フィルタ分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216479(P2008−216479A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51804(P2007−51804)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503354044)財団法人21あおもり産業総合支援センター (27)
【Fターム(参考)】