説明

波長可変レーザー装置

【課題】MEMS可動ミラーの振動を抑圧することにより、波長可変レーザーチップから出射されるレーザー光のスペクトル線幅の広がりを狭くできる波長可変レーザー装置を提供すること。
【解決手段】MEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップがガラス窓を有する気密パッケージ内に収納され、内部に液体が封入される波長可変レーザー装置において、前記気密パッケージの内部に、内圧の変動を軽減する安定化手段を有することを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザー装置に関し、詳しくは、光測定器、ガス分析、ファイバーセンサ用光源、光通信用光源などに好適な波長可変レーザー装置の性能改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来のMEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップを用いた波長可変レーザー装置の一例を示す構成図である。図5において、波長可変レーザー装置は、印加電圧E1に応じて出射光の波長が変わる波長可変レーザーチップ1と、この波長可変レーザーチップ1からの出射光を収束するレンズ2と、ユーザーに波長可変レーザーチップ1の光を出力する光ファイバ3と、波長可変レーザーチップ1に電圧を印加する電圧回路4などで構成されている。
【0003】
はじめに、波長可変レーザーチップ1の構成について説明する。波長可変レーザーチップ1は、InP基板101とSOI(Silicon on Insulator)基板107で構成されている。
【0004】
InP基板101の一方の表面には多層膜ミラー103が結晶成長され、多層膜ミラー103の表面には活性層104が結晶成長され、活性層104の中央部分を除いた表面には電極105が形成されている。InP基板101の他方の表面には電極102が形成されている。
【0005】
SOI基板107は、シリコン基板107a上に絶縁層107bとシリコン層107cが積層されたものである。シリコン層107cの表面を研磨することにより凹部が形成され、この凹部には可動ミラー109が設けられている。また、このシリコン層107cのInP基板101の両端と対向する部分にはシリコン結晶を成長させて、スペーサ106が形成される。そして、スペーサ106を含むシリコン層107cの表面には、電極108が形成される。
【0006】
一方、シリコン基板107aの表面の中央部分を異方性エッチングや等方性エッチングで絶縁層107bに達するまで取り除くことにより、四角錐状のレーザー光取り出し口110が形成される。このレーザー光取り出し口110の外周には電極111が形成される。
【0007】
さらに、絶縁層107bに対して選択エッチングを行い、絶縁層107bを部分的に除去する。これにより、絶縁層107bの膜厚よりなる空間が形成されてシリコン層107cはダイヤフラムとして機能することになる。以下、シリコン層107cをダイヤフラムともいう。
【0008】
これらInP基板101の電極105とSOI基板107のスペーサ106の表面に形成されている電極108との位置合わせを行って接合することにより、波長可変レーザーチップ1が形成される。これにより、InP基板101とSOI基板107との間にはスペーサ106と電極105および108の膜厚よりなる空間が形成される。ダイヤフラム107cと可動ミラー109は、これらの両面に形成された空間内で変位する。
【0009】
また、レーザー光取り出し口110には、可動ミラー109とレーザーを集光するレンズ2と光ファイバ3が出射されるレーザー光の光軸の中心線上に並ぶように配置される。
【0010】
SOI基板107の両面に形成された電極108、111間には第1の直流電源E1が接続され、InP基板101に形成された電極102とSOI基板107に形成された電極108間には第2の直流電源E2が接続されている。
【0011】
これら多層膜ミラー103と活性層104と可動ミラー109で光共振器を構成している。SOI基板107の両面に形成された電極108、111の間は絶縁層107bで絶縁されているので、可動ミラー109が設けられたダイヤフラム107cを変位させる直流電源E1の電圧を制御することができる。
【0012】
このような構成において、InP基板101に形成された電極102とSOI基板107に形成された電極108間に第2の直流電源E2の出力電圧を印加することにより活性層104に電流が注入されて活性層104に含まれる電子が励起され、光が出射される。この出力光が可動ミラー109と多層膜ミラー103の間を反射してレーザー発振を行う。すなわち、電流注入による励起方式を採っている。そして、レーザー出力光はレンズ2を経由して光ファイバ3に入射される。
【0013】
出射されるレーザー光の発振波長は、可動ミラー109と多層膜ミラー103の間の距離で決定される。すなわち、SOI基板107の両面に形成された電極108と電極111間に電圧E1を印加することにより、電圧E1に応じた静電気力でダイヤフラム107cとともに可動ミラー109が変位して多層膜ミラー103との間の距離が変化し、レーザー光の発振波長を変えることができる。そして、SOI基板107に四角錐状のレーザー光取り出し口110を設けていることにより、レンズ2および光ファイバ3に効率良くレーザー光を取り入れることができる。
【0014】
特許文献1は、面発光型レーザーから出射されるレーザー光を効率よく光ファイバに入れることができ、損失を軽減できる面発光型レーザーに関するものである。
【0015】
【特許文献1】特開2007−173550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、図5のような従来のMEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップ1を用いた波長可変レーザー装置は、MEMS可動ミラーが振動することから、波長可変レーザーチップ1から出射されるレーザー光のスペクトル線幅(波長変動)が広く(大きく)なってしまうという問題がある。レーザー光のスペクトル線幅が広くなると、たとえば光測定器の測定精度が低下することになり、好ましくない。
【0017】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、MEMS可動ミラーの振動を抑圧することにより、波長可変レーザーチップから出射されるレーザー光のスペクトル線幅の広がりを狭くでき、光測定器などスペクトル線幅の広がりが問題となるアプリケーションにも使用できる波長可変レーザー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のような目的を達成するために、本発明の請求項1は、
MEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップがガラス窓を有する気密パッケージ内に収納され、内部に液体が封入される波長可変レーザー装置において、
前記気密パッケージの内部に、内圧の変動を軽減する安定化手段を有することを特徴とする。
【0019】
請求項2は、請求項1記載の波長可変レーザー装置において、
安定化前記手段は、ゴム状弾性体を隔壁として形成された空間部であることを特徴とする。
【0020】
請求項3は、請求項1記載の波長可変レーザー装置において、
前記安定化手段は、ゴム状弾性体で形成された中空のボールであることを特徴とする。
【0021】
請求項4は、請求項1〜3いずれかに記載の波長可変レーザー装置において、
前記封入液体は、絶縁性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように構成することにより、波長可変レーザーチップのMEMS可動ミラーの振動を抑えることができ、波長可変レーザー装置から出力されるレーザー光のスペクトル線幅の広がりを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を用いて、本発明の波長可変レーザー装置を説明する。図1は本発明の一実施例を示す構成図である。図1において、ステム5の穴にハーメチックピン6が差し込まれ、ステム5とハーメチックピン6の間を封着ガラス7で封止されている。
【0024】
ハーメチックピン6には、ゴム状弾性体(以下、ゴムシート9という)よりなる隔壁が取り付けられた第1のスペーサー8と、図5と同様なMEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップ1が実装された第2のスペーサー10が、重ね合わせるようにして取り付けられている。
【0025】
第1のスペーサー8の一方の面には段付凹部が形成されていて、この段付凹部を塞ぐようにゴムシート9よりなる隔壁が接合されている。他方の面には、第2のスペーサー10に実装された波長可変レーザーチップ1よりも広い開口面を有する凹部が形成されている。
【0026】
第2のスペーサー10は、第1のスペーサー8と重ね合わせた状態で外周が一致するように等しい大きさに形成されている。第2のスペーサー10の第1のスペーサー8との対向面には、図5の波長可変レーザーチップ1を上下反転させた状態で実装するための凹部が形成されている。この凹部の中心部には、波長可変レーザーチップ1のレーザー光取り出し口110の開口と重なり合う大きさの穴が設けられている。
【0027】
ステム5には、重ね合わせるようにしてハーメチックピン6に取り付けられた第1のスペーサー8と第2のスペーサー10を内包するように形成されたキャップ11が気密パッケージを構成するように取り付けられている。キャップ11の主平面中央部にはレーザー光を取り出すための開口が設けられるとともにその外周の内面には凹部が形成され、この凹部にはガラス窓12が接合されている。
【0028】
このように気密パッケージ化された波長可変レーザー装置において、ゴムシート9で塞がれた第1のスペーサー8の段付凹部の空間部14以外の全空間部には、液体13が封入されている。
【0029】
図2は、図1に示した波長可変レーザー装置の作製プロセスの一実施例を示す工程図である。まず、(a)に示すように、ステム5の穴にハーメチックピン6を差し込み、ステム5とハーメチックピン6の間を封着ガラス7で封止する。
【0030】
次に、(b)に示すように、第1のスペーサー8の段付凹部に位置を合わせながらゴムシート9を接合する。
【0031】
そして、(c)に示すように、ステム5の穴に差し込んで封着ガラス7で封止されたハーメチックピン6に、段付凹部にゴムシート9よりなる隔壁が接合された第1のスペーサー8を、ゴムシート9よりなる隔壁がステム5と対向するようにして差し込み接合する。
【0032】
次に、(d)に示すように、第2のスペーサー10の凹部に、図5の波長可変レーザーチップ1を上下反転させた状態で位置を合わせながら接合する。なお、これら第1および第2のスペーサー8、10は、たとえばセラミックで形成されている。
【0033】
その後、(e)に示すように、凹部に波長可変レーザーチップ1が接合された第2のスペーサー10を、波長可変レーザーチップ1が第1のスペーサー8と対向するようにしてハーメチックピン6に差し込み接合する。
【0034】
続いて、(f)に示すように、キャップ11の凹部に位置を合わせながらガラス窓12を接合する。
【0035】
そして、(g)に示すように、凹部にガラス窓12が接合されたキャップ11を、重ね合わせるようにしてハーメチックピン6に取り付けられた第1のスペーサー8と第2のスペーサー10を内包するようにステム5に取り付けて接合固着する。
【0036】
ここまでの工程で、気密パッケージ化された波長可変レーザー装置を組み立てることができるが、さらに本発明の波長可変レーザー装置では、ゴムシート9で塞がれた第1のスペーサー8の段付凹部の空間部14以外の全空間部に、液体13を封入する。
【0037】
液体13の封入にあたっては、たとえば真空状態の雰囲気で図示しないステム5の穴から液体13を注入してステム5の穴を閉じるようにするが、他の方法によって液体13を封入してもよい。
【0038】
ここで、液体13としては、たとえばシリコンオイルのような絶縁剤を用いる。
【0039】
波長可変レーザー装置の空間部に封入された液体13は、波長可変レーザーチップ1の可動ミラー109の振動とダイヤフラム107cの振動を抑制するように機能する。ダイヤフラム107cの振動を抑制することにより、スペクトル線幅の拡大が低減できる。
【0040】
また、多層膜ミラー103と活性層104と可動ミラー109で構成される波長可変レーザーチップ1の光共振器の光路部分に液体13を封入することにより、外部からの衝撃による揺れが生じたとしても液体13により振動が抑制されるので、ダイヤフラム107cの振動を軽減できる。
【0041】
なお、ガラス窓12が設けられた気密パッケージ内にシリコンオイルなどの液体13を封入した場合、封入した液体13が温度上昇によって膨張して内圧が上昇し、ガラス窓12が割れるおそれがある。また、温度が低下した場合には、液体13の収縮によって気泡が発生し、レーザー光を遮るおそれもある。
【0042】
そこで、本発明では、温度変化に基づく液体13の膨張および収縮による内圧変化を吸収して軽減するために、ゴムシート9の隔壁を設けている。
【0043】
なお、ゴムシート9としては、耐薬品性・耐熱性が高い液体13中で安定な材料であるバイトン(登録商標)などのフッ素ゴム系の材料を用いる。
【0044】
このように、ゴムシート9のような柔らかい材料で液体13の膨張収縮による内圧変化を吸収することにより、波長可変レーザーチップ1のMEMS可動ミラー109の振動を抑えることができ、波長可変レーザー装置から出力されるレーザー光のスペクトル線幅の広がりを抑制できる。
【0045】
図3は本発明の他の実施例を示す構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と異なる点は、空間部14を形成する第1のスペーサー8の隔壁がゴムシート9ではなく、中空のゴムボール15を用いていることである。
【0046】
図3のように液体13内部に中空のゴムボール15を設けることによって、図1と同じように液体13の膨張収縮による内圧変化を吸収して、軽減できる。
【0047】
また、中空のゴムボール15を用いることにより、第1のスペーサー8に隔壁としてゴムシート9を接合するための段付凹部の段付部が不要になり、第1のスペーサー8の構造を単純化できる。
【0048】
そして、中空のゴムボール15で液体13の膨張収縮による内圧変化を吸収して軽減することにより、図1と同様に、波長可変レーザーチップ1のMEMS可動ミラー109の振動を抑えることができ、波長可変レーザー装置から出力されるレーザー光のスペクトル線幅の広がりを抑制できる。
【0049】
図4は図3に示した波長可変レーザー装置の作製プロセスの他の実施例を示す工程図であり、図2と共通する部分には同一の符号を付けている。図2と異なる点は、(b)に示す第1のスペーサー8に隔壁として接合しているゴムシート9に代えて中空のゴムボール15を設けていることである。
【0050】
このように、中空のゴムボール15のような柔らかい材料で液体13の膨張収縮による内圧変化を吸収して軽減することにより、波長可変レーザーチップ1のMEMS可動ミラー109の振動を抑えることができ、波長可変レーザーチップ1における出力光のスペクトル線幅の狭窄化を実現できる。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、波長可変レーザーチップのMEMS可動ミラーの振動を抑えることができ、出力レーザー光のスペクトル線幅の広がりを抑制できる波長可変レーザー装置を実現でき、光測定器、ガス分析、ファイバーセンサ用光源、光通信用光源などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】図1の波長可変レーザー装置の作製プロセスの一実施例を示す工程図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図4】図3の波長可変レーザー装置の作製プロセスの他の実施例を示す工程図である。
【図5】従来のMEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップを用いた波長可変レーザー装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 波長可変レーザーチップ
5 ステム
6 ハーメチックピン
7 封着ガラス
8 第1のスペーサー
9 ゴムシート
10 第2のスペーサー
11 キャップ
12 ガラス窓
13 液体
14 空間部
15 ゴムボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMS可動ミラーを有する波長可変レーザーチップがガラス窓を有する気密パッケージ内に収納され、内部に液体が封入される波長可変レーザー装置において、
前記気密パッケージの内部に、内圧の変動を軽減する安定化手段を有することを特徴とする波長可変レーザー装置。
【請求項2】
安定化前記手段は、ゴム状弾性体を隔壁として形成された空間部であることを特徴とする請求項1記載の波長可変レーザー装置。
【請求項3】
前記安定化手段は、ゴム状弾性体で形成された中空のボールであることを特徴とする請求項1記載の波長可変レーザー装置。
【請求項4】
前記封入液体は、絶縁性を有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の波長可変レーザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−147284(P2010−147284A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323632(P2008−323632)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】