説明

波長可変半導体レーザ

【課題】選択成長時のマスク近傍における屈折率変化の揺らぎに起因する意図しない位相シフトを低減し、特性劣化を防止することを可能とした波長可変半導体レーザを提供する。
【解決手段】半導体基板11上に形成された活性導波路層12の一部をエッチングし、活性導波路層12とは組成または層構造が異なる非活性導波路層13を選択成長することによって作製された二つのレーザ部A1,A2を有し、活性導波路層12及び非活性導波路層13の全長にわたって回折格子15が形成され、選択成長時に生じる活性導波路層12と非活性導波路層13との間の屈折率変動に起因する−ΔΩの等価的な位相シフトに対して、活性導波路層12と非活性導波路層13との接合面に対応する回折格子15の位置に位相シフト量ΔΩの補正位相シフトを挿入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信用光源および光計測用光源として用いられる波長可変半導体レーザに関し、特に光通信における光波長(周波数)多重システム用光源、および広帯域波長帯をカバーする光計測用光源の特性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信における波長多重通信方式では、異なる周波数(波長)の複数のレーザ光を規格で定められた間隔で一つの光ファイバを用いて伝送する。一つ一つの周波数をチャンネルと呼び、高速なチャンネル切り替えのために高速に発振周波数の切り替えが可能な波長可変レーザが求められている。
【0003】
通信用の波長可変半導体レーザでは、単一モードレーザと呼ばれる一つの波長で発振するレーザが用いられており、単一モードを得るために、例えば導波路に周期的に凹凸を設けた回折格子が用いられている。回折格子が形成された半導体光導波路は、回折格子周期Λと光導波路の等価屈折率nとから得られるブラッグ波長λBで選択的に反射する分布反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)となる。ここで、ブラッグ波長λBと回折格子周期Λ及び光導波路の等価屈折率nとの関係式は、
λB=2nΛ (1)
となる。また、分布反射器に利得を持たせて作成した波長可変半導体レーザのことを分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)レーザと呼ぶ。
【0004】
式(1)から、分布反射器の等価屈折率nを変化させることで、ブラッグ波長λBを変化させることができることがわかる。すなわち選択的に反射する波長を変化させることができ、分布反射器を用いた共振器を構成すれば、等価屈折率nの変化により発振波長を変化させることのできる波長可変半導体レーザを構成することが可能となる。回折格子を利用した波長可変半導体レーザとしては、均一な回折格子の分布反射器を用いた分布反射型レーザ(DBRレーザ)や、周期的に回折格子を設けるなどの方法で複数の反射ピークをもつ分布反射器を用いたSG(Sampled Grating)-DBRレーザ、SSG(Super Structure Grating)-DBRレーザなどが知られている。
【0005】
また、連続的に波長を変化させることのできる波長可変半導体レーザとしては、分布活性DFBレーザ(TDA-DFBレーザ)がある。図8は従来の分布活性DFBレーザの基本的な構造を示す断面図である。この分布活性DFBレーザは、図8に示すように、下部クラッド層1上に、長さLaの活性導波路層2と、活性導波路層2とは組成の異なる長さLtの非活性導波路層(波長制御層)3が交互に周期的に接続されている。これら活性導波路層2及び非活性導波路層3の上と、上部クラッド層4との間には周期的な凹凸を形成して導波路の等価屈折率を周期変調させた回折格子5が形成されている。上部クラッド4の上には、それぞれ活性導波路層2、非活性導波路層3に対応するように電極7,8が形成されている。基板下部に共通の電極9を形成する一方、基板上部に形成される電極7,8は、活性導波路層2の領域と非活性導波路層3の領域とで分離されている。なお、活性導波路層2の電極7同士、非活性導波路層3の電極8同士は素子上で短絡されている。
【0006】
このように、分布活性DFBレーザは光の伝播方向に沿って活性導波路層2と非活性導波路層3が交互に周期的に縦続接続された構造となっている。活性導波路層2への電流Iaの注入により発光するとともに利得が生じるが、それぞれの導波路層2,3には回折格子5が形成されており、回折格子5の周期に応じた波長のみ選択的に反射されレーザ発振が起こる。一方、非活性導波路層3への電流Itの注入によりキャリア密度に応じてプラズマ効果により屈折率が変化するため、非活性導波路層3の回折格子5の光学的な周期は変化する。非活性導波路層3の等価屈折率が変化し、1周期の長さに対する波長制御領域の長さの割合分だけ共振縦モード波長が短波長側にシフトする。活性導波路層2の光の伝播方向に沿った活性領域長をLa、非活性導波路層3の光の伝播方向に沿った波長制御領域長をLtとすれば、繰り返し構造の1周期の長さLはLt+Laとなり、共振縦モード波長λrの変化の割合Δλr/λrは、
Δλr /λr =(Lt /(Lt+La))・(Δn/n) (2)
となる(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
一方、複数の反射ピークの各波長も、電流注入による等価屈折率の変化の結果、短波長側にシフトする。反射ピーク波長は繰り返し構造1周期内の平均等価屈折率変化に比例するので、反射ピーク波長λsの変化の割合Δλs /λs は、
Δλs /λs =(Lt /(Lt+La))・(Δn/n) (3)
となる。式(2),式(3)より、反射ピーク波長λsと共振縦モード波長λrとは同じ量だけシフトする。したがって、このレーザでは、最初に発振したモードを保ったまま連続的に波長が変化する。ただし、図8の構造の場合、連続的に同一周期で回折格子5が形成されているため、もともと発振の位相条件を満たす波長が反射ピーク波長とはずれており、単一モード性が悪い。単一モード特性を高めるためには、共振器の中央部付近に、共振器の位相条件を満たすための位相シフト(λ/4)を入れるなどする必要がある。
【0008】
特許文献1に開示されている分布活性DFBレーザも、下部クラッド上に、活性導波路層と非活性導波路層が交互に周期的に縦続接続されたものであり、それらの上に上部クラッドが形成されて、その上部クラッド上に、活性導波路層、非活性導波路層に対応する電極が形成されると共に、下部クラッドの下部に共通の電極が形成された構造である。この分布活性DFBレーザでは、回折格子を一部のみに形成しているが、図8に示し上述した分布活性DFBレーザと同じように連続的に波長変化する。ただし、回折格子を共振器内に周期的に形成している(サンプル回折格子という)ことから複数の反射ピークができるため、単一モード性を向上させる必要がある。
【0009】
そこで、特許文献1においては、分布活性DFBレーザの構造として、繰り返し周期の異なる二つのレーザを同一基板上に直列に集積するとともに、各々の活性導波路層に回折格子を形成した構造も開示されている。複数の反射ピークの間隔は、回折格子のサンプル周期によるので、この周期を共振器の左右で変えることにより、反射メインピーク以外の反射ピークが共振器の左右で重ならないようにし、単一モード性を向上させている。
【0010】
更に、特許文献2では、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期を変えた2つのレーザを縦続接続するとともに共振器全体にわたり回折格子を形成した構造や、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期の異なる複数個のレーザ部を縦続接続した構造、および、空間的ホールバーニングを抑えるために、活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し周期の異なる複数個のレーザ部を縦続接続し、接続した各レーザ部の間に位相シフトを入れた構造などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許3237733号公報
【特許文献2】特開2008−103466号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ishii et al, "A Tunable Distributed Amplification DFB Laser Diode (TDA-DFB-LD)," IEEE Photonics Technology Letters, vol. 10, no. 1, Jan 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
分布活性DFBレーザの基本的な動作原理、および従来例の動作原理については、非特許文献1、特許文献1、特許文献2に詳細に記載されている。しかしながら、いずれも理想的な構造を元に述べられており、作製上の問題点については指摘されていない。
【0014】
分布活性DFBレーザでは、活性導波路層と非活性導波路層が繰り返し形成されている。理想的には活性導波路層および非活性導波路層は共振方向に沿って屈折率が均一であることが望ましい。活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し構造は、例えば、活性導波路層が形成された基板を周期的に除去した上で、除去領域にのみ選択的に非活性導波路層を有機金属気相成長法などにより再成長することによって形成される。選択成長はSiO2などをマスクとして行われる。理想的には層厚や組成が均一になることが望ましいものの、実際にはマスク近傍とマスクから離れた箇所とでは成長量や組成が若干異なる。従って、層厚や結晶組成の揺らぎにより共振器方向に沿って各導波路層の屈折率が均一とはならない。選択成長の方法、条件を適切に設定することにより揺らぎを減少させることは可能であるが、完全に無くすことは非常に困難である。そして、このような活性導波路層と非活性導波路層の間のわずかな屈折率揺らぎは、各導波路層の回折格子の位相関係に影響を及ぼし、単一モード特性の劣化や、予期せぬモードホップを引き起こす要因となるおそれがある。
【0015】
このようなことから本発明は、選択成長時のマスク近傍における屈折率変化の揺らぎに起因する意図しない位相シフトを低減し、特性劣化を防止することを可能とした波長可変半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る波長可変半導体レーザは、半導体基板上に形成された第一の導波路層の一部をエッチングし、前記第一の導波路層とは組成または層構造が異なる第二の導波路層を選択成長することによって作製された少なくとも2以上の導波路構造を共振器内部に有する波長可変半導体レーザであって、前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層が利得を有し、前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の全長にわたって回折格子が形成され、前記選択成長時に生じる前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との間の屈折率変動に起因する位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトに対して、前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との接合面に対応する前記回折格子の位置に位相シフト量ΔΩの補正位相シフトを挿入したことを特徴とする。
【0017】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る波長可変半導体レーザは、第1の発明に係る波長可変半導体レーザにおいて、前記第一の導波路層は利得を有し且つ回折格子が形成され、前記第二の導波路層は利得を有しない一方回折格子が形成され、前記第一の導波路層と前記第二の導波路層とが一定の割合で交互に配置されるとともに少なくとも一以上の繰り返し周期を有して複数のレーザ部を構成し、前記レーザ部間に対応する前記回折格子に、前記補正位相シフトに加えて、前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトを挿入したことを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る波長可変半導体レーザは、第1の発明に係る波長可変半導体レーザにおいて、前記第一の導波路層は利得を有するとともに回折格子が形成されて分布帰還型レーザを構成し、前記第二の導波路層は利得を有しない一方回折格子が形成されて分布ブラッグ反射器を構成し、前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との接合面に対応する前記回折格子に、前記補正位相シフトに加えて、前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトを挿入したことを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る波長可変半導体レーザは、半導体基板上に形成された第一の導波路層の一部をエッチングし、前記第一の導波路層とは組成または層構造が異なる第二の導波路層を選択成長することによって作製された少なくとも二以上の導波路構造を共振器内部に有する波長可変半導体レーザであって、前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層が利得を有し、前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層に回折格子が形成され、前記回折格子が形成された前記導波路層が前記共振器内部に少なくとも二以上存在し、前記選択成長時に生じる前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との間の屈折率変動に起因する位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトを補正するように、前記回折格子が形成された前記導波路層間に存在する接合面の数nに対して相互に隣接する前記回折格子の位相がn×ΔΩだけずれるように該回折格子を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る波長可変半導体レーザによれば、選択成長時のマスク近傍における屈折率変化のゆらぎに起因する意図しない位相シフトを解消し、特性劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの断面構造を示す説明図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの上面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの導波路の作製工程を示す説明図である。
【図4】導波路の接続部の例を示す説明図である。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る波長可変半導体レーザの断面構造を示す説明図である。
【図6】本発明の第三の実施形態に係る波長可変半導体レーザの断面構造を示す説明図である。
【図7】本発明の第三の実施形態に係る波長可変半導体レーザの位相関係を説明する模式図である。
【図8】一般的な分布活性DFBレーザの基本構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る波長可変半導体レーザの詳細を説明する。
【0023】
(第一の実施形態)
以下、図1乃至図4に基づいて本発明に係る波長可変半導体レーザの第一の実施形態について説明する。
【0024】
図1は本発明の第一の実施形態に係る波長可変半導体レーザの導波方向に沿った断面を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、n型InP下部クラッド層11上に、第一のレーザ部A1においては長さLa1のGaInAsP活性導波路層12a1と、活性導波路層12a1とは組成の異なる長さLt1のGaInAsP非活性導波路層(波長制御層)13t1とが交互に周期的に接続されている。また、第二のレーザ部A2においては長さLa2のGaInAsP活性導波路層12a2と、活性導波路層12a2とは組成の異なる長さLt2のGaInAsP非活性導波路層13t2とが交互に周期的に接続されている。以下、GaInAsP活性導波路層12a1,12a2を総称する場合はGaInAsP活性導波路層12、GaInAsP非活性導波路層13t1,13t2を総称する場合はGaInAsP非活性導波路層13と呼称する。
【0025】
これらGaInAsP活性導波路層12及びGaInAsP非活性導波路層13の上と、p型InP上部クラッド層14との間には周期的な凹凸を形成して導波路の等価屈折率を周期変調させた回折格子15が形成されている。InP上部クラッド14の上には、オーミックコンタクトのために高ドープのp型InGaAsコンタクト層16を設け、その上にそれぞれ活性導波路層12、非活性導波路層13に対応するように電極17,18を形成している。基板下部に形成した電極19は共通としているが、基板上部に形成する電極は、活性導波路層12の領域と非活性導波路層13の領域とで分離している。具体的には、活性導波路層12の領域と非活性導波路層13の領域とでコンタクト層16および電極17,18を分離し、さらに、図2に示すように、活性導波路層12の電極17同士、非活性導波路層13の電極18同士を素子上で短絡している。
【0026】
さらに、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2とで活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期をL1,L2と変えて直列に接続した構造となっている。さらに、全ての活性導波路層12と非活性導波路層13の境界(接合面)付近の回折格子に位相シフト量ΔΩの位相シフト(以下、補正位相シフトという)を入れ、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間に補正位相シフトに加えて位相シフト量λ/4の共振器の位相条件を満たすための位相シフトを入れている。以下、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間に挿入した位相シフトをレーザ部間位相シフト21、これ以外の部分に挿入した位相シフトを導波路層間位相シフト20と呼称する。なお、位相シフト量ΔΩは各導波路層の接続面近辺に生じる結晶成長時の層厚や組成の揺らぎにより生じる屈折率変動に起因する位相シフト分を打ち消すように決定するものとする。
【0027】
ここで、活性導波路層12にバンドギャップ波長1.55μmのGaInAsPを用いた場合、非活性導波路13はそれより短波のバンドギャップ波長、たとえば、1.4μmのバンドギャップ波長のGaInAsPを用いることにより、レーザ発振の利得に寄与しないために、キャリア密度が一定にならない。これにより、電流注入により大きく屈折率を変化させることができる。
【0028】
また、活性導波路層12および非活性導波路層13はバルク材料でなくともよく、たとえば、量子井戸構造、もしくは、量子井戸をバリア層を挟んで重ねた多層量子井戸構造や、さらに量子ドットや量子細線などの低次元の量子井戸構造を備えたものであっても良い。また、活性層への光閉じ込めやキャリア閉じ込めを高めるなどのために、活性層とクラッド層の間に中間の屈折率を持つ層を導入する分離閉じ込めへテロ構造などを導入しても良い。
【0029】
回折格子15は屈折率が周期的に変動していることが重要であるため、回折格子15を形成する位置は、活性導波路層12や非活性導波路層13と上部クラッド14との間では無くともよく、例えば、各導波路層12,13と下部クラッド11との間や、各層から離れた位置に形成しても良い。
【0030】
本素子に用いる半導体は、InPとGaInAsPの組み合わせに限定することなく、GaAs、GaInNAs、AlGaInAsなど、その他の半導体を用いても良いし、活性導波路層12と非活性導波路層13のバンドギャップ波長の組み合わせも上記に限定するものではない。
【0031】
本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、図示はしないが、電流Iaが活性導波路層12に効率よく注入されるように、導波路の両脇に半絶縁性材料であるFeをドープしたInPを埋め込み再成長した埋め込みヘテロ構造(BH)としている。FeドープInPの代わりに、p型n型の半導体を交互に重ねることにより電流ブロック層としてもよい。また、Feの代わりにRuをドーピングして高抵抗としたInP層としてもよい。
【0032】
また、導波路構造は、本実施形態では埋め込みヘテロ構造を採用しているが、一般的なリッジ構造やハイメサ構造などでも本発明の原理を用いることができる。
第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2では、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期Lは、それぞれL1,L2と異なるが、活性導波路層12と非活性導波路層13の割合(La1/Lt1、および、La2/Lt2)は同じである。本実施形態では、この割合を1/2とした。また、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間にレーザ部間位相シフト21を入れて、回折格子15の位相を1/4波長+ΔΩ変化させている。これにより、第一のレーザ部A1での反射波と第二のレーザ部A2での反射波の位相を発振条件を満たすように整合させている。
【0033】
また、上述したように、活性導波路層12、および波長制御用非活性導波路層13の上部に設けられる電極17,18は互いに分離されており、図2に示すように、活性導波路層12上の電極17同士、および非活性導波路層13上の電極18同士は素子上で接続されている。このように素子上で各々の領域の電極17,18同士を短絡しておくことにより、金属製のボンディング・ワイヤをどこか一か所ずつ接着させるだけで、各領域に電流Ia又は波長制御電流Itを注入することができる。
【0034】
続いて、本実施形態に係る波長可変半導体レーザの作製方法を簡単に説明する。最初に有機金属気相エピタキシャル成長(MOCVD)法と、これによる選択成長法を用いて、n型InP下部クラッド層11上に活性導波路層12と非活性導波路層13とを作製する。具体的には、図3のように行う。まず、活性導波路層12が形成された基板上にSiO2などのエッチングマスク22を形成する(図3(a))。続いて、エッチングマスク22を用いて活性導波路層12を島状に加工する(図3(b))。そして、エッチングマスク22をそのままにして非活性導波路層13を再成長することにより、活性導波路層12と非活性導波路層13が接続される(図3(c))。
【0035】
ところで、図3では、模式図のため、活性導波路層12と非活性導波路層13の層厚などは均一に描かれている。しかし、実際には、エッチングマスク22を用いた選択成長の場合、エッチングマスク22上の材料がエッチングマスク22のない場所に移動してエッチングマスク22の無い箇所のみに成長することになるので、エッチングマスク22近傍のみ成長レートが変わる。また、結晶面によって成長レートが異なることなどにより、やはりエッチングした面の形状によりエッチングマスク22近傍の組成や厚さが均一にはならない。
【0036】
このことを更に説明すると、図4(a)は理想的な導波路の接続面であるが、実際には図4(b)のように接続面近傍の厚さ等が均一では無くなるため、導波路接続面近傍で屈折率のゆらぎが生じる。ここで、図4(b)は一例であり、層厚や組成の揺らぎは、エッチング形状や成長条件により異なる。また、厚くなる場所や薄くなる場所も生じる。通常、導波路のコア層はクラッドに比べて屈折率の高い材料を用いる。
【0037】
図4(b)の例では、接続面近傍で非活性導波路層13が厚くなっている。若干薄くなっている箇所もあるものの、平均すると厚くなっているため、図4(a)の理想的な場合に比べて、接続面近傍の等価屈折率は高くなっている。従って、活性導波路層12から非活性導波路層13にかけて均一に回折格子15を形成したとしても、接続面近傍の光学長が長くなっているために等価的に位相シフト量−ΔΩの位相シフトが入っているのと同等となる。
【0038】
接続面近傍の平均的な等価屈折率が理想的な場合と比べて変化している量をΔnとして、屈折率が理想的な場合と比べて変化している領域をΔLとすると、等価的な位相シフトの位相シフト量−ΔΩは、
−ΔΩ=Δn×ΔL
と考えることができる。ただし、位相シフトの符号は空間の定義により逆転することもある。更に、より詳細には、ΔLを更に微細化してδLと考え、層厚の揺らぎによる屈折率変化δnとの積をΔLの領域で積分すればよい。
【0039】
その後、塗布したレジストに、電子ビーム露光法を用いて回折格子15のパターンを転写し、転写パターンをマスクとしてエッチングを行い回折格子15を形成する。このとき、回折格子15には、図1に示すように各導波路層12,13の間にΔΩの導波路層間位相シフト20、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間に1/4+ΔΩのレーザ部間位相シフト21を挿入する。
【0040】
位相シフト量ΔΩは前述の選択成長時に生じる層厚や組成の揺らぎによる屈折率変化を補正するように決定する。これは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などで観察することにより層厚などの揺らぎを確認することが可能であるため、テスト成長などを行い、断面をSEM観察した上で、層厚揺らぎなどを位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトとして計算し、実際のレーザ作製時には、これを打ち消すために回折格子の位相シフト量ΔΩを決めるという方法で作製することができる。これにより、層厚揺らぎなどにより生じた位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトを、回折格子15に挿入した位相シフト量ΔΩの補正位相シフトにより打ち消すことが可能となる。
【0041】
層厚などが揺らぐ箇所は、マスクの厚さや成長条件などにもよるが、おおむねマスクから10マイクロメートル以内の変動が顕著であるため、マスク近傍から10マイクロメートルの間の厚さをSEM観察すればよい。活性導波路層をドライエッチングでエッチング後にウエットエッチングなどを用いてエッチングマスク下部にもサイドエッチングが入るようにした場合には、その箇所も含めて考えればよい。
【0042】
また、微小な領域のフォトルミネッセンス(PL)を計測することができる顕微PL装置などを用いれば組成変動も知ることができる。ただし、一般的な成長方法を用いた場合は、組成揺らぎも生じているが、層厚の揺らぎの方が屈折率への影響が大きい。従って、簡易的には、断面のSEM観察のみを行い、層厚変化から屈折率変化を算出するようにすることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、回折格子15は活性導波路層12、非活性導波路層13の両者ともに同一周期としている。
【0044】
p型InP上部クラッド層14およびp型InGaAsコンタクト層16を成長した後、横モードを制御するために、幅1.2μmのストライプ状に導波路を加工し、その両側にFeをドープしたInP電流ブロック層を成長する。そして、各電極17,18を形成した後、活性層駆動電極17と波長制御電極18とを電気的に分離するために、それらの電極17,18間のp型InGaAsコンタクト層16を除去する。さらに各導波路層12,13を分離する場合は、分離溝を形成するなどしてもよい。
【0045】
半導体の成長法としては、有機金属気相エピタキシャル成長法に限らず、分子線エピタキシャル成長法やその他の手段を用いてもよい。回折格子15の形成方法も電子線露光法に限らず、二束干渉露光法やそのほかの手段を用いてもよい。
【0046】
本実施形態では、第一のレーザ部A1および第二のレーザ部A2の活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返しの数をそれぞれ6としている。第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2では同じ結合係数の回折格子15を用いているので、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返し周期の長い第二のレーザ部A2の方が結合係数と長さの積が大きくなるため反射率は高くなる。したがって、繰り返し数を同数とした場合、自然に出力は非対称となり、反射率の低い第一のレーザ部A1からの出力が反射率の高い第二のレーザ部A2からの出力に比べて大きくとれるため、第一のレーザ部A1側から出力を効率よく取り出すことができる。なお、活性導波路層12と非活性導波路層13の繰り返しの数は6に限らず、また繰り返し数が第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2で同じである必要もないため、必要な反射率に応じて繰り返し周期や繰り返し数を設計すればよい。
【0047】
本実施形態では、第一のレーザ部A1の繰り返し周期を57μmとし、第二のレーザ部A2の繰り返し周期を72μmとしている。また回折格子15の結合係数は25cm-1である。
【0048】
本実施形態では、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の回折格子15の間に、選択成長時の屈折率変動を補正するための位相シフト量ΔΩの位相シフトに加えて、1/4波長のレーザ部間位相シフト21を入れている。1/4波長シフトは通常、理想的な状態、すなわち、活性導波路層12及び非活性導波路層13の屈折率が共振方向に沿って均一である場合でも、回折格子15中に共振器の位相条件を満たすために挿入される。これにより最も位相整合がとれる条件となるが、必ずしも1/4波長シフトでなくともよく、例えば1/8波長シフトや3/8波長シフトとすることで、位相条件はずれることになるが、その分、位相シフト領域への光の集中を抑制することが可能となる。位相シフト領域への光の集中は、キャリア密度の低下を招き屈折率を上昇させる。これは、ホールバーニングと呼ばれ、高出力時にモードが安定しないなどの問題を生じさせるおそれがある。つまり、1/4波長シフトからずらした波長シフトとすれば、ホールバーニングを抑制し、モードを安定化させることが可能となる。
【0049】
また、理想的な状態でも回折格子15に挿入される、共振器の位相条件を満たすための位相シフト(本実施形態では1/4波長シフト)の位置は、必ずしも第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2の間である必要はなく、共振器中央の全共振器長の約1/3程度の範囲内に位相シフトがあれば、位相条件を満たすことができる。共振器の位相条件を満たすための位相シフトを導波路接合面近傍としない場合には、この位相シフトと、接合面の揺らぎに起因して生じる等価的な位相シフトを補償するためのΔΩの位相シフトは別々に挿入すればよい。
【0050】
上述したように、本実施形態では、第一のレーザ部A1および第二のレーザ部A2の活性導波路層12と非活性導波路層13の割合を1:2としている。非活性導波路13の割合を大きくすることで、平均の等価屈折率変化を大きくすることができるので、波長変化量を大きくすることができる。しかしながら、非活性導波路層13の割合を大きくすると必然的に活性導波路層12の割合が小さくなってしまい、レーザ発振に必要な利得を得ることが困難になるおそれがある。したがって、活性層の層数などの設計や導波路の損失に応じて割合を調整することが必要であるが、本発明の原理は、第一のレーザ部A1と第二のレーザ部A2で活性導波路層12と非活性導波路層13の割合を同一とすることであるため、その割合は要求に応じて変更可能である。
【0051】
上述したように、本実施形態に係る波長可変半導体レーザでは、活性導波路層12と非活性導波路層13を交互に周期的に配置する点が異なるだけで、通常の波長可変半導体レーザの作製法を用いて容易に作製することができる。また、回折格子15に、ΔΩの導波路層間位相シフト20、λ/4+ΔΩのレーザ部間位相シフト21を挿入することは、電子ビーム描画のパターンを変更するだけで実現可能である。回折格子15は電子ビーム描画により周期的にラインアンドスペースを繰り返すことにより実現できるが、導波路層間位相シフト20,21は、導波路層間位相シフト20,21を入れたい箇所でラインまたはスペースの位置を所望の量ずらすことにより実現できる。
【0052】
また、導波路層間位相シフト20,21は必ずしも活性導波路12と非活性導波路13の接続面の直上である必要は無い。実際には、接続面近傍から10μm程度の範囲の層厚や組成変動が顕著であるので、おおよそその範囲内に導波路層間位相シフト20,21を設ければ効果が顕著となる。
【0053】
本実施形態では、全ての領域にわたって同一周期の回折格子15としているが、本発明の本質は、選択成長によって理想状態からずれた屈折率変動による等価的な位相シフトを、回折格子15に挿入する導波路層間位相シフト20,21によって補正することにあるので、それぞれの領域での回折格子15の周期や結合係数が異なっていても本発明の原理を適用可能である。
【0054】
また、通常のpnダイオード型の層構造のため、半導体増幅器や変調器などとの集積も容易に実施することができるため、高性能多機能素子の要素となる光源素子として使用可能である。
【0055】
(第二の実施形態)
以下、図5に基づいて本発明に係る波長可変半導体レーザの第二の実施形態について説明する。
本発明は異なる導波路を選択成長により突合せ接合(バットジョイント)する際に、選択成長マスク近傍で再成長する層の層厚や組成の乱れが生じ、屈折率が変動することに起因する等価的な位相シフトを、導波路上に形成する回折格子に位相シフトを入れることで補償することを特徴としている。すなわち、本発明は、選択成長による異なる種類の導波路の接合面を有し、異なる種類の導波路上に回折格子が形成されている素子に適用できる。そこで、本実施形態では、分布活性DFBレーザについて説明した第一の実施形態とは異なり、回折格子が形成された分布ブラッグ反射器(DBR)と利得と回折格子を有する分布帰還型(DFB)レーザが接続された構造を例として説明する。
【0056】
図5は本実施例に係る波長可変半導体レーザを説明する図である。図5に示すように、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいては、下部クラッド層31上に、非活性導波路層32と、活性導波路層33とが接続されている。これら非活性導波路層32及び活性導波路層33の上と、上部クラッド層34との間には周期的な凹凸を形成して導波路の等価屈折率を周期変調させた回折格子35が形成されている。上部クラッド層34の上には、電極36,37が形成されている。基板下部には共通の電極38を形成しているが、上部は、非活性導波路層32の領域と活性導波路層33の領域とで電極36,37を分離し、さらに、非活性導波路層32の電極36同士、活性導波路層33の電極37同士は素子上で短絡されている。
【0057】
すなわち、本実施形態に係る波長可変半導体レーザは、回折格子35aが形成された分布ブラッグ反射器(DBR)B1と、利得及び回折格子35bを有する分布帰還型(DFB)レーザB2が接続された構造となっている。これは分布反射型(DR)レーザとも呼ばれる。このように、分布ブラッグ反射器B1、分布帰還型レーザB2にそれぞれ回折格子35a,35bが形成されており、分布ブラッグ反射器B1の回折格子35aと分布帰還型レーザB2の回折格子35bとの位相関係により安定度合が決まり、分布ブラッグ反射器B1と分布帰還型レーザB2の間に位相シフト39を入れることによって位相関係を決定している。
【0058】
ここで、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいて、非活性導波路層32と活性導波路層33との境界付近の回折格子35に挿入する位相シフト39を、λ/4シフトに位相シフト量ΔΩの補正位相シフトを加えた位相シフトとしている。位相シフト量ΔΩは各導波路層の接続面近辺に生じる結晶成長時の層厚や組成の揺らぎにより生じる屈折率変動に起因する等価的な位相シフト分を打ち消すように決定する。
【0059】
分布ブラッグ反射器B1と分布帰還型レーザB2の接続構造は、第一の実施形態で説明したように、たとえば、下部クラッド層31上に分布帰還型レーザB2の活性導波路層33を成長した基板の一部をSiO2をマスクとしてエッチングし、そのSiO2マスクを残したまま分布ブラッグ反射器B1の非活性導波路層32を選択成長する。その後、回折格子35を形成して上部クラッド層34を成長することにより作製できる。
【0060】
しかしながら、やはり第一の実施形態と同様に、再成長時の層厚や組成の揺らぎによって屈折率が設計よりもずれてしまい、等価的な位相シフトが挿入されてしまう場合がある。したがって、これを回避するために分布ブラッグ反射器B1と分布帰還型レーザB2との間に、層厚などの乱れに起因する等価的な位相シフトの無い理想的な接続構造の場合に必要な共振器の位相条件を満たすための位相シフトに、層厚などの乱れに起因する等価的な位相シフトを相殺するΔΩの補正位相シフトを加えた位相シフト39を挿入する。
【0061】
ここで、本実施形態では、理想的な接続構造の場合に必要な共振器の位相条件を満たすための位相シフトを1/4波長として、分布ブラッグ反射器B1と分布帰還型レーザB2との間に、λ/4+ΔΩの位相シフト39を導入している。これにより、理想的な設計に近い安定した動作を得ることができるようになる。
【0062】
なお、本実施形態でも、第一の実施形態同様に、材料やレーザの構造によらず、本発明を適用可能である。また、共振器の位相条件を満たすための位相シフトと補正位相シフトは独立に決定可能であり、共振器の位相条件を満たすための位相シフトも1/4波長に限らない。
【0063】
(第三の実施形態)
以下、図6及び図7に基づいて本発明の第三の実施形態に係る波長可変半導体レーザについて説明する。図6は第三の実施形態を説明する図である。
【0064】
第一の実施形態では、共振器全体にわたって回折格子15を形成した分布活性DFBレーザを例に説明したのに対し、本実施形態では、回折格子を形成する箇所を周期的かつ部分的に限定したサンプル回折格子を有する分布活性DFBレーザを例として説明する。
以下、図1ないし図4に示し第一の実施形態において説明した部材と同一の部材については同一の符号を付して重複する説明は省略し、異なる点を中心に説明するものとする。
【0065】
図6に示すように、本実施形態では、活性導波路層23に回折格子25があり、非活性導波路層24には回折格子がない構造となっている。非活性導波路層24には回折格子がないため、第一の実施形態のように、活性導波路層23と非活性導波路層24との位相関係を決めることはできないが、この場合、活性導波路層23同士の回折格子25の位相関係が重要となる。
【0066】
つまり、例えば、本実施形態においては、活性導波路層23a11に続いて非活性導波路層24t1を伝搬した光が、次の活性導波路層23a12に入ることとなる。そのため、非活性導波路層24t1の光学長によって、活性導波路層23a11と活性導波路層23a12との回折格子25の位相関係が決まるということになる。これは、非活性導波路層24が活性導波路層23に形成された回折格子25の位相シフトとなると考えても良い。
【0067】
図7は非活性導波路層24が活性導波路層23に形成された回折格子25の位相シフトとなることを説明する図である。簡単に説明するため、ここでは、活性導波路層23と非活性導波路層24の平均的屈折率が等しいものとして説明する。
【0068】
活性導波路層23には回折格子25があり、非活性導波路層24には回折格子が無い。図7では、左側の活性導波路層23a11の回折格子25a11が非活性導波路層24t1にまで連続していると仮定した場合の回折格子が点線で書かれており、本実施形態に係る波長可変半導体レーザにおいて、この点線と右側の活性導波路層23a12の回折格子25a12とでは位相が一致していないことが分かる。つまり、隣接する活性導波路層23の回折格子25の位相が相互に連続しない構成とすることにより、隣接する活性導波路層23の回折格子25間に位相シフトが入っているのと同様の作用効果を得ることができる。
【0069】
なお、図7では、活性導波路層23と非活性導波路層24の平均的屈折率が一致しているとして説明したが、屈折率が異なる場合は、実長ではなく屈折率と長さの積で表せる光学長を元に算出すればよい。
【0070】
本実施形態に係る波長可変半導体レーザは、非活性導波路層24を挟んで隣接する活性導波路層23の位相関係を理想状態に近づければ安定動作することになる。したがって、活性導波路層23に対して非活性導波路層24を選択成長する際の層厚や組成の乱れによって生じる屈折率の変化に起因する等価的な位相シフトを補償するためには、非活性導波路層24の光学長が接続面2個分の位相シフト、すなわち、2ΔΩとなるようにすればよい。これにより、活性導波路層23間の位相関係は理想的な状態に近づけることが可能となり、安定動作を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、活性導波路層23に回折格子25が形成され、非活性導波路層24には回折格子が無いが、逆に、非活性導波路層24に回折格子を形成し、活性導波路層23に回折格子が無い場合であっても本発明を適用できる。その場合、活性導波路26と非活性導波路27を入れ替えて考えれば容易に類推できる。
【0072】
本実施形態では、活性導波路層23と非活性導波路層24が交互に周期的に配置された構造としているが、例えば、回折格子の形成された活性導波路層と第一の非活性導波路層と第二の非活性導波路層の3種類の導波路が交互に繰り返し接続された場合には、回折格子の形成された活性導波路層間の回折格子の位相関係を、活性導波路層間に存在する接合面の数nと一つの接合面辺りの等価的な位相シフトΔΩとの積n×ΔΩとすればよい。理想的な状態で必要な位相シフトθがある場合には、θ+n×ΔΩとなることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、異なる種類の導波路を選択成長により突合せ接合してなる接合面と、少なくとも一種類の導波路上に回折格子が形成された構成を有する波長可変半導体レーザに適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0074】
11,31 n型InP下部クラッド層
12,32 GaInAsP活性導波路層
13,33 GaInAsP非活性導波路層(波長制御層)
14,34 p型InP上部クラッド層
15,35 回折格子
16 p型InGaAsコンタクト層
17,37 活性層電極
18,36 波長制御電極
19,38 電極
20 導波路層間位相シフト
21 レーザ部間位相シフト
22 エッチングマスク
32 GaInAsP非活性導波路層
33 GaInAsP活性導波路層
39 位相シフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に形成された第一の導波路層の一部をエッチングし、前記第一の導波路層とは組成または層構造が異なる第二の導波路層を選択成長することによって作製された少なくとも2以上の導波路構造を共振器内部に有する波長可変半導体レーザであって、
前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層が利得を有し、
前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の全長にわたって回折格子が形成され、
前記選択成長時に生じる前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との間の屈折率変動に起因する位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトに対して、前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との接合面に対応する前記回折格子の位置に位相シフト量ΔΩの補正位相シフトを挿入した
ことを特徴とする波長可変半導体レーザ。
【請求項2】
前記第一の導波路層は利得を有し且つ回折格子が形成され、
前記第二の導波路層は利得を有しない一方回折格子が形成され、
前記第一の導波路層と前記第二の導波路層とが一定の割合で交互に配置されるとともに少なくとも一以上の繰り返し周期を有して複数のレーザ部を構成し、
前記レーザ部間に対応する前記回折格子に、前記補正位相シフトに加えて、前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトを挿入した
ことを特徴とする請求項1記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項3】
前記第一の導波路層は利得を有するとともに回折格子が形成されて分布帰還型レーザを構成し、
前記第二の導波路層は利得を有しない一方回折格子が形成されて分布ブラッグ反射器を構成し、
前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との接合面に対応する前記回折格子に、前記補正位相シフトに加えて、前記第一の導波路層及び前記第二の導波路層の屈折率が共振方向に沿って均一である場合に前記共振器の位相条件を満たすように設定される位相シフトを挿入した
ことを特徴とする請求項1記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項4】
半導体基板上に形成された第一の導波路層の一部をエッチングし、前記第一の導波路層とは組成または層構造が異なる第二の導波路層を選択成長することによって作製された少なくとも二以上の導波路構造を共振器内部に有する波長可変半導体レーザであって、
前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層が利得を有し、
前記第一の導波路層又は前記第二の導波路層に回折格子が形成され、
前記回折格子が形成された前記導波路層が前記共振器内部に少なくとも二以上存在し、
前記選択成長時に生じる前記第一の導波路層と前記第二の導波路層との間の屈折率変動に起因する位相シフト量−ΔΩの等価的な位相シフトを補正するように、前記回折格子が形成された前記導波路層間に存在する接合面の数nに対して相互に隣接する前記回折格子の位相がn×ΔΩだけずれるように該回折格子を形成した
ことを特徴とする波長可変半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93414(P2013−93414A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234073(P2011−234073)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】