説明

洗浄装置および洗浄方法

【課題】半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することが可能な半導体基板等の洗浄装置および洗浄方法を提供する。
【解決手段】洗浄装置1は、半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物であるSiC基板50を洗浄する洗浄装置であって、洗浄液16を保持する洗浄槽11と、洗浄槽11の内部に配置され、SiC基板50を保持する基板ホルダ12と、洗浄液16の温度を調整することにより、洗浄液16を対流させるヒータ13と、SiC基板50から脱落した付着物を捕集するフィルター14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄装置および洗浄方法に関し、より特定的には、半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物を洗浄する洗浄装置、および半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物に適した洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体または半導体を含む素材からなる部材、具体的には半導体からなる半導体基板、半導体基板を用いて作製されたダイオード、トランジスタ、レーザなどの半導体装置、または半導体基板上に半導体層や金属層が形成された半導体装置の半製品など(以下、「半導体基板等」という)は、その製造工程において表面に付着した付着物を除去するため、洗浄する必要がある場合が多い。たとえば、半導体基板は、バルク状の素材をスライスし、その後表面を研磨することにより作製される場合がある。この場合、半導体基板の表面には、研磨剤などの付着物が付着している。この研磨剤などの付着物は、当該半導体基板を用いて半導体装置を製造した場合、その特性や品質に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、半導体基板を洗浄することにより、研磨剤などの付着物を除去する必要がある。
【0003】
半導体基板等の洗浄は、一般に、付着物が付着した半導体基板等を洗浄液中に浸漬し、付着物を半導体基板等から分離することにより実施される。しかし、半導体基板等から分離された付着物は洗浄液中に浮遊するため、一旦分離された付着物が再び半導体基板等に付着するという再付着の問題があった。
【0004】
これに対し、フィルターを介して洗浄液を循環させる洗浄装置が提案されている(たとえば特許文献1参照)。これにより、洗浄液中に浮遊する付着物を除去することが可能となり、再付着の発生を抑制することができる。また、半導体基板に対して対向するように電極を配置した洗浄装置が提案されている(たとえば特許文献2参照)。これにより、洗浄液中に浮遊する付着物を電気的に電極に付着させ、再付着の発生を抑制することができる。
【特許文献1】特開平6−124934号公報
【特許文献2】特開平9−22890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の洗浄装置のように単に洗浄液を循環させる構成では、洗浄液を保持する洗浄槽内において洗浄液が滞留する領域が形成されるおそれがある。そのため、再付着の発生を十分に抑制することができないという問題がある。また、上記特許文献2に記載の洗浄装置のように、半導体基板等に対向する電極により、洗浄液中に浮遊する付着物を電気的に電極に付着させる構成では、再付着の発生を有効に抑制できるものの、半導体基板等が帯電し、半導体基板等の品質に悪影響が及ぶおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することが可能な半導体基板等の洗浄装置および洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った洗浄装置は、半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物を洗浄する洗浄装置である。この洗浄装置は、洗浄液を保持する洗浄槽と、洗浄槽の内部に配置され、被洗浄物を保持する保持部材と、洗浄液の温度を調整することにより、洗浄液を対流させる温度調節部材と、被洗浄物から脱落した付着物を捕集する捕集部材とを備えている。
【0008】
本発明の洗浄装置は、洗浄液を対流させる温度調節部材と被洗浄物から脱落した付着物を捕集する捕集部材とを備えている。そのため、洗浄液内において半導体基板等から脱落した付着物は、対流する洗浄液とともに半導体基板等から分離される。その後、当該付着物は捕集部材により捕集され、洗浄液から付着物が除去される。そして、付着物が除去された洗浄液は、対流により再度被洗浄物付近に戻る。その結果、半導体基板等から分離された付着物が、再度半導体基板等に付着すること(再付着)が有効に抑制される。また、半導体基板等が帯電する等の問題も生じないため、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ上記再付着の抑制を達成することができる。このように、本発明の洗浄装置によれば、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することが可能な半導体基板等の洗浄装置を提供することができる。
【0009】
上記洗浄装置において好ましくは、保持部材は、被洗浄物を回転させる回転機構を有している。これにより、洗浄液の対流の向きに対する被洗浄物の向きを変化させることが可能となり、被洗浄物全体を容易に洗浄することができる。なお、この回転機構は、たとえば被洗浄物が平板状の形状を有している場合、当該被洗浄物の主面を含む平面内で被洗浄物を回転させるものであってもよいし、主面に交差する回転軸周りに回転させるものであってもよいし、主面を含む平面に含まれる回転軸周りに回転させるものであってもよい。
【0010】
上記洗浄装置において好ましくは、洗浄槽の内部に超音波を発生させる超音波発生部材をさらに備えている。これにより、半導体基板等からの付着物の分離を促進することができる。
【0011】
上記洗浄装置において好ましくは、温度調節部材は複数個設置されている。これにより、洗浄槽内部の洗浄液に種々の温度分布を形成することが容易となり、たとえば被洗浄物の大きさや形状等に応じて適切な洗浄液の対流状態を実現することができる。
【0012】
上記洗浄装置において好ましくは、温度調節部材に接続され、洗浄液の対流の向きを制御する対流制御部材をさらに備えている。これにより、被洗浄物の洗浄過程において洗浄液の対流の向きを変化させることが可能となり、被洗浄物全体をより確実に洗浄することができる。
【0013】
本発明に従った洗浄方法は、半導体または半導体を含む素材からなり、表面に付着物が付着した被洗浄物を準備する工程と、被洗浄物を洗浄液中に浸漬して、被洗浄物から付着物を除去する工程とを備えている。そして、付着物を除去する工程では、洗浄液において、隣接する領域とは異なる温度の領域を形成することにより、洗浄液を対流させ、被洗浄物から脱落した付着物を捕集部材により捕集する。
【0014】
洗浄液を対流させるとともに、被洗浄物から脱落した付着物を捕集部材により捕集することにより、再付着の発生が有効に抑制される。また、このとき、半導体基板等が帯電する等の問題も生じないため、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ上記再付着の抑制を達成することができる。このように、本発明の洗浄方法によれば、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することができる。
【0015】
上記洗浄方法において好ましくは、付着物を除去する工程は、洗浄液を第1の向きに対流させる工程と、洗浄液を第1の向きとは異なる第2の向きに対流させる工程とを含んでいる。
【0016】
これにより、洗浄液が第1の向きに対流する状態では付着物の分離が十分に進行しない被洗浄物の領域が存在する場合でも、その後洗浄液を第2の向きに対流させることにより、当該領域における付着物の分離が十分に進行する。その結果、被洗浄物全体をより確実に洗浄することができる。
【0017】
上記洗浄方法において好ましくは、上記半導体は、炭化珪素または窒化ガリウムである。本発明の洗浄方法は、半導体装置等を構成する半導体が炭化珪素または窒化ガリウムである場合に、有利に適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明の洗浄装置および洗浄方法によれば、半導体基板等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することが可能な半導体基板等の洗浄装置および洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1における洗浄装置について説明する。図1は、実施の形態1における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【0021】
図1を参照して、実施の形態1における洗浄装置1は、洗浄液16を保持する洗浄槽11と、洗浄槽11の内部に配置され、被洗浄物(たとえば炭化珪素(SiC)基板50)を保持する保持部材としての基板ホルダ12と、基板ホルダ12に対向する洗浄槽11の壁面(底面)に配置された温度調節部材としてのヒータ13と、洗浄槽11の内部において基板ホルダ12から見てヒータ13とは反対側に配置された捕集部材としてのフィルター14と、ヒータ13に接続され、ヒータ13の温度を調節するヒータ制御部15とを備えている。
【0022】
ここで、フィルター14は、ヒータ13により形成される洗浄液16の対流の向きを横切って延在するように配置されている。また、洗浄液16としては、たとえばアンモニア水と過酸化水素水との混合溶液、超純水、硫酸と過酸化水素水との混合溶液など、種々の洗浄液を採用することができる。ヒータ制御部15は、たとえば電熱線を含むヒータ13に対して印加する電圧を制御することにより、洗浄液16の対流の開始および停止とともに、対流の速さ(洗浄液16の流速)を制御することができる。さらに、基板ホルダ12は、被洗浄物を回転させる回転機構を有している。なお、図1においては、ヒータ13は洗浄槽11の内部(内壁)に設置されているが、洗浄槽11の外部(外壁)に設置され、洗浄槽の壁(底壁)を加熱することにより洗浄液16を対流させる構成であってもよい。
【0023】
次に、実施の形態1における洗浄装置の動作および洗浄方法を、半導体基板等の一例としてSiC基板が洗浄される場合を例に説明する。図2は、実施の形態1における洗浄方法の概略を示すフローチャートである。また、図3は、実施の形態1における再付着の抑制メカニズムを説明するための概略図である。
【0024】
図2を参照して、実施の形態1における洗浄方法では、まず、工程(S10)として被洗浄物準備工程が実施される。この工程(S10)では、表面に付着物が付着した被洗浄物としてのSiC基板が準備される。具体的には、たとえば昇華法により作製された原料基板がワイヤーソーなどによりスライスされ、厚み方向に分離されてスライス基板とされる。その後、当該スライス基板に対して、たとえばCMP(Chemical Mechanical Polishing;化学機械研磨)が実施されることにより表面が平坦化され、円盤状のウェハとしてのSiC基板50が作製される。このとき、SiC基板50の表面には、上記作製過程において付着物が付着する。付着物としては、たとえば上記CMPにおいて用いられた研磨剤(研磨粒子)などが挙げられる。
【0025】
次に、図2を参照して、工程(S20)として被洗浄物浸漬工程が実施される。具体的には、この工程(S20)では、図1を参照して、円盤状の形状を有する上記SiC基板50が洗浄槽11に保持された洗浄液16中に浸漬され、基板ホルダ12により固定されることにより洗浄液16中に保持される。
【0026】
次に、工程(S30)として洗浄工程が実施される。具体的には、上記工程(S20)において洗浄液16中に保持されたSiC基板50の表面から付着物が脱落する。そして、この付着物は洗浄液16中を浮遊する。このとき、工程(S30)では、図3を参照して、ヒータ制御部15によりヒータ13に所定の電圧が印加されることにより電流が流される。これにより、ヒータ13に接する領域の洗浄液16が隣接する領域よりも高い温度に加熱される。その結果、加熱されて比重が小さくなった洗浄液16が上昇するとともに、当該洗浄液16の上昇を補うように周囲の領域からヒータ13に向けて洗浄液16が流れ込む。これにより、洗浄液16は図3の矢印に沿った向きに対流する。そして、洗浄液16がフィルター14内を通過することにより、SiC基板50から脱落した付着物がフィルター14において捕集される。その結果、SiC基板50から脱落した付着物のSiC基板50への再付着が有効に抑制される。
【0027】
さらに、本実施の形態においては、基板ホルダ12の回転機構により、SiC基板50を回転させてもよい。より具体的には、SiC基板50を回転させつつ工程(S30)を実施することにより、SiC基板50全体を容易に洗浄することができる。また、SiC基板50を固定した状態で工程(S30)を実施した後、回転機構によりSiC基板50を回転させ、さらに工程(S30)を実施しても同様の効果を得ることができる。
【0028】
以上のように、本実施の形態における洗浄装置1を用いたSiC基板50の洗浄方法においては、SiC基板50が帯電する等の品質への悪影響を抑制しつつ、再付着の発生を有効に抑制することができる。
【0029】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2における洗浄装置について説明する。図4は、実施の形態2における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【0030】
図4および図1を参照して、実施の形態2における洗浄装置1は、基本的には実施の形態1における洗浄装置1と同様の構成を有し、同様に動作するとともに同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の洗浄装置1は、洗浄槽11の内部に超音波を発生させる超音波発生部材としての超音波発生器17を備えている点において、実施の形態1の洗浄装置1とは異なっている。この超音波発生器17は、洗浄槽11の内部において、底壁に沿って配置される。
【0031】
次に、実施の形態2における洗浄装置1を用いた実施の形態2における洗浄方法について説明する。実施の形態2における洗浄方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施され、同様の効果を得ることができる。そして、実施の形態2における洗浄方法では、超音波発生器17を備えた実施の形態2の洗浄装置1を用いるため、工程(S20)〜(S30)において、洗浄槽11の内部に超音波を発生させることができる。これにより、SiC基板50からの付着物の脱落を促進し、効率よくSiC基板50の洗浄を実施することができる。
【0032】
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3における洗浄装置について説明する。図5は、実施の形態3における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【0033】
図5および図1を参照して、実施の形態3における洗浄装置1は、基本的には実施の形態1における洗浄装置1と同様の構成を有し、同様に動作するとともに同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の洗浄装置1は、洗浄槽11の壁面(底面)に配置された複数の(3つの)温度調節部材としてのヒータ13A,13B,13Cと、当該ヒータ13A,13B,13Cに接続された対流制御部材としてのヒータ制御部19とを備えている点において、実施の形態1の洗浄装置1とは異なっている。このヒータ制御部19は、実施の形態1におけるヒータ制御部15と同様に、たとえば電熱線を含むヒータ13に対して印加する電圧を制御することにより、洗浄液16の対流の開始および停止とともに、対流の速さ(洗浄液16の流速)を制御するだけでなく、3つのヒータ13A,13B,13Cをそれぞれ所望の温度に制御することにより、対流の向きを制御することができる。また、3つのヒータ13A,13B,13Cのうち、ヒータ13Bは洗浄槽11の底壁において基板ホルダ12の直下に設置される。そして、ヒータ13A,13Cは、ヒータ13Bを挟むように洗浄槽11の底壁に設置される。
【0034】
次に、実施の形態3における洗浄装置の動作および洗浄方法について説明する。図6は、実施の形態3における洗浄方法の概略を示すフローチャートである。また、図7および図8は、実施の形態3における再付着の抑制メカニズムを説明するための概略図である。
【0035】
図6を参照して、実施の形態3における洗浄方法では、工程(S110)および(S120)が実施の形態1の工程(S10)および(S20)と同様に実施される。その後、工程(S130)として第1洗浄工程が実施される。この工程(S130)においては、図7を参照して、ヒータ制御部19によりヒータ13Bに所定の電圧が印加されることにより電流が流される。これにより、ヒータ13Bに接する領域の洗浄液16が隣接する領域よりも高い温度に加熱される。これにより、SiC基板50の周囲の洗浄液16が上昇するとともに、当該洗浄液16の上昇を補うように周囲の領域からヒータ13Bに向けて洗浄液16が流れ込む。これにより、洗浄液16は図7の矢印に沿った向きに対流する。そして、洗浄液16がフィルター14内を通過することにより、SiC基板50から脱落した付着物がフィルター14において捕集される。
【0036】
次に、工程(S140)として第2洗浄工程が実施される。この工程(S140)においては、工程(S130)においてヒータ13Bに印加された電圧が解除されてヒータ13Bに流れる電流が停止されるとともに、ヒータ13Bを挟んで配置されるヒータ13Aおよびヒータ13Cに所定の電圧が印加される。これにより、SiC基板50を挟む領域において洗浄液16が上昇するとともに、SiC基板50の周囲の洗浄液16が下降する。すなわち工程(S140)においては、洗浄液16は工程(S130)の場合と逆向きに対流する(図8の矢印参照)。そして、洗浄液16がフィルター14内を通過することにより、SiC基板50から脱落した付着物がフィルター14において捕集される。つまり、工程(S130)においてはヒータ13Bをオン状態、ヒータ13Aおよびヒータ13Cをオフ状態とし、工程(S140)においてはヒータ13Bをオフ状態、ヒータ13Aおよびヒータ13Cをオン状態とする。このように、工程(S130)および(S140)において逆向きに洗浄液16を対流させることにより、SiC基板50全体をより確実に洗浄することができる。
【0037】
なお、本発明の洗浄方法が実施される時間については、基本的には長くすることにより洗浄効果は向上するが、1時間を超えると洗浄液が劣化しての洗浄効果が低下するおそれがあるため、1時間以下とすることが好ましい。一方、洗浄時間の下限値は半導体基板等の状態に合わせて十分な洗浄効果が得られる時間以上とすればよいが、一般に5秒未満では十分な効果が得られないため、5秒以上とすることが好ましい。また、洗浄槽内における温度勾配(洗浄液において最も温度が高い領域と最も低い領域との温度差をその距離で除した値)は、基本的には大きいほうが対流する洗浄液の流速が大きくなるため、再付着防止の効果は大きくなるが、30℃/cmを超えると温度の高い領域における洗浄液の劣化が進行し易くなるため、30℃/cm以下であることが好ましい。一方、洗浄槽内における温度勾配が0.1℃/cm未満では洗浄液の流速が小さく、再付着防止の効果が小さくなるため、当該温度勾配は0.1℃/cm以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の洗浄装置を用いた本発明の洗浄方法を実施し、従来の洗浄方法と比較する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0039】
表面積2500μm(一辺50μmの正方形領域)あたり10000個以上の付着物が付着したSiCウェハをサンプルとして準備し、上記実施の形態1において説明した洗浄装置1を使用して、実施の形態1の洗浄方法を実施した。洗浄液としては、アンモニア水と過酸化水素水との混合溶液(アンモニア水+過酸化水素水)、フッ酸、イソプロピルアルコール(IPA)、純水、超純水、塩酸と過酸化水素水との混合溶液、硫酸と過酸化水素水との混合溶液の各種洗浄液を採用した(実施例)。一方、比較のため、同様の洗浄装置1を用い、ヒータ13を動作させることなく洗浄を実施する従来の洗浄方法も実施した(比較例)。そして、洗浄完了後、サンプルの表面を顕微鏡で観察し、表面積2500μmあたりの付着物(残留付着物)の個数を調査した。なお、洗浄槽内における温度勾配は5℃/cm、洗浄時間は1分間とした。試験結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1においては、各種洗浄液を用いた比較例および実施例の試験結果とともに、比較例に対する実施例における付着物の減少割合が「減少率」として表示されている。表1を参照して、いずれの洗浄液を採用した場合でも減少率は50%以上となっている。このことから、本発明の洗浄方法によれば、再付着の発生が抑制され、従来の洗浄方法に比べて高い洗浄効果が得られることが確認された。中でも、洗浄液として純水、超純水およびアンモニア水+過酸化水素水を採用した場合、洗浄効果の向上が大きくなっている。そして、特に、アンモニア水+過酸化水素水を採用した場合、減少率が大きいだけでなく、残留付着物の個数密度も極めて小さくなっている。
【0042】
なお、上記洗浄液のほか、ギ酸と過酸化水素水との混合溶液、カロ酸、王水、緩衝フッ酸、アンモニア水と過酸化水素水との混合溶液にキレート剤を添加したもの、オゾン水、電解イオン水、エタノール、アセトンを洗浄液として採用した場合についても実験を行なったところ、いずれも減少率は50%以上となった。
【0043】
以上の実験結果より、本発明の洗浄装置を用いて本発明の洗浄方法を実施することにより、高い洗浄効果が得られることが確認された。
【0044】
なお、上記実施の形態および実施例においては、被洗浄物としてSiC基板を例として説明したが、本発明の洗浄装置および洗浄方法により洗浄可能な被洗浄物はこれに限らない。本発明の洗浄装置および洗浄方法は、SiC、窒化ガリウム(GaN)などの半導体基板、当該半導体基板上に電極などの金属膜が形成された半導体装置の半製品、あるいはパワー半導体装置、半導体発光装置などの半導体装置など、半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物に広く適用することができる。また、上記実施の形態および実施例においては、温度調節部材としてヒータが用いられて洗浄液が加熱される場合について説明したが、本発明の温度調節部材はこれに限られず、洗浄液を冷却する冷却部材であってもよい。つまり、本発明の温度調節部材としては、洗浄液内に温度差を形成可能な部材であれば種々の部材を採用することができる。
【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の洗浄装置および洗浄方法は、半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物を洗浄するための洗浄装置および洗浄方法に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態1における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1における洗浄方法の概略を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1における再付着の抑制メカニズムを説明するための概略図である。
【図4】実施の形態2における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【図5】実施の形態3における洗浄装置の構成を示す概略図である。
【図6】実施の形態3における洗浄方法の概略を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態3における再付着の抑制メカニズムを説明するための概略図である。
【図8】実施の形態3における再付着の抑制メカニズムを説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1 洗浄装置、11 洗浄槽、12 基板ホルダ、13,13A,13B,13C ヒータ、14 フィルター、15,19 ヒータ制御部、16 洗浄液、17 超音波発生器、50 SiC基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体または半導体を含む素材からなる被洗浄物を洗浄する洗浄装置であって、
洗浄液を保持する洗浄槽と、
前記洗浄槽の内部に配置され、前記被洗浄物を保持する保持部材と、
前記洗浄液の温度を調整することにより、前記洗浄液を対流させる温度調節部材と、
前記被洗浄物から脱落した付着物を捕集する捕集部材とを備えた、洗浄装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記被洗浄物を回転させる回転機構を有している、請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄槽の内部に超音波を発生させる超音波発生部材をさらに備えた、請求項1または2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記温度調節部材は複数個設置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記温度調節部材に接続され、前記洗浄液の対流の向きを制御する対流制御部材をさらに備えた、請求項4に記載の洗浄装置。
【請求項6】
半導体または半導体を含む素材からなり、表面に付着物が付着した被洗浄物を準備する工程と、
前記被洗浄物を洗浄液中に浸漬して、前記被洗浄物から前記付着物を除去する工程とを備え、
前記付着物を除去する工程では、前記洗浄液において、隣接する領域とは異なる温度の領域を形成することにより、前記洗浄液を対流させ、前記被洗浄物から脱落した前記付着物を捕集部材により捕集する、洗浄方法。
【請求項7】
前記付着物を除去する工程は、
前記洗浄液を第1の向きに対流させる工程と、
前記洗浄液を前記第1の向きとは異なる第2の向きに対流させる工程とを含んでいる、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記半導体は、炭化珪素または窒化ガリウムである、請求項6または7に記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−27641(P2010−27641A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183499(P2008−183499)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】