説明

活性エネルギー線架橋型接着剤

【課題】第一接着剤層(アンダーコート層)の被着体に対する接着性を大幅に改善した活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を提供する。
【解決手段】活性ネルギー線架橋型接着剤からなる第一接着剤層(アンダーコート層)及び第二接着剤層を介して被着体とゴム層とを接着するに当り、被着体と隣接する第一接着剤層を構成する接着剤組成物が、(A)一方の末端がイソシアネート基を少なくとも一つを有し、かつ、他方の末端が(メタ)アクリロイル基をもつ官能基を少なくとも一つ有する化合物を含む活性エネルギー線重合性モノマーを含有することを特徴とする活性エネルギー線架橋型接着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線架橋型接着剤組成物に関し、さらに詳しくは、第一接着剤層(アンダーコート層)の被着体に対する接着性を改善した活性エネルギー線架橋型接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴムは高伸長、低弾性率を有する材料であるが、その特徴を生かして実用に供するために、プラスチックス等の他の材料と複合することが行われている。そして、ゴムと被着体とをゴム加硫の際に接着し両者を一体化することにより、接着面の形状が複雑なものにも容易、簡便に適用できるので、係る目的で種々の接着剤組成物が用いられている。
さらに、近年は、環境保護のため、無溶剤の接着剤組成物あるいは接着剤組成物を固体化させる接着工程において接着層に溶剤が取り込まれる接着剤組成物が開発されている。
例えば、特許文献1では、紫外線、可視光線、電子線等の放射線の照射あるいは熱等の外的エネルギーにより重合できる単量体を含む接着剤組成物を用い、接着剤の被覆時は液状で被着体表面に空隙による接着不良が生じにくく、接着処理時に単量体を重合させることで、接着層を網状架橋化できる接着方法が開示されている。
また、特許文献2及び3においては、前記の接着方法をさらに改良し、接着剤組成物を被着体上に塗布した後、該接着剤組成物を紫外線、可視光線あるいは電子線等の放射線で網状化し、さらに、未加硫ゴムを圧着させながら加熱することにより、ゴムから接着剤層に硫黄が移行し、硫黄架橋反応に伴う強固な接着が得られる接着方法を開示している。
【0003】
また、優れた接着力を得るためには被着体表面の少なくとも一部に活性エネルギー線架橋型接着剤組成物からなる第一接着剤層(アンダーコート層)を形成し、該接着剤層の表面に活性エネルギー線を照射した後その上に、前記第一接着層とゴム層との接着に優れた活性エネルギー線架橋型接着剤組成物からなる第二接着剤層を塗膜し、該接着剤層の表面に活性エネルギー線を照射した後、該接着剤層の表面に未加硫ゴム組成物シートを圧着しながら加硫処理することによって被着体とゴム層との接着が行なわれる。
この場合、プラスチック材、特にポリエステルまたはアラミドをベースとする被着体はその化学的性質のためにゴムへの接着性が乏しいため、アンダーコート層は被着体に対する接着性が低く、被着体と第一接着剤層の界面で剥離が発生する場合があり、第一接着層には、ビスフェノールFアクリレート化合物、エポキシノボラックアクリレートなどのエポキシ基を有する化合物が使用されているが、更なる接着性の向上が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−145768号公報
【特許文献2】国際公開2002/094962号パンフレット
【特許文献3】特開2005−247954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、第一接着剤層(アンダーコート層)の被着体に対する接着性を大幅に改善した活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の官能基を有する活性エネルギー線硬化型の化合物をアンダーコート層を形成する第一接着剤組成物に配合することによってその目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) 活性ネルギー線架橋型接着剤からなる第一接着剤層(アンダーコート層)及び第二接着剤層を介して被着体とゴム層とを接着するに当り、被着体と隣接する第一接着剤層を構成する接着剤組成物が、(A)一方の末端がイソシアネート基を少なくとも一つを有し、かつ、他方の末端が(メタ)アクリロイル基をもつ官能基を少なくとも一つ有する化合物を含む活性エネルギー線重合性モノマーを含有することを特徴とする活性エネルギー線架橋型接着剤、
(2) 前記第一接着剤層及び第二接着剤層を構成する接着剤組成物が、(B)液状共役ジエン系重合体を含有してなる上記(1)の活性エネルギー線架橋型接着剤、
(3) (A)成分を除く前記(C)活性エネルギー線重合性モノマーが、単官能(メタ)アクリル系モノマー、2官能(メタ)アクリル系モノマー、及び3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーの中から選ばれた少なくとも一種である上記(1)又は(2)の活性エネルギー線架橋型接着剤、
(4) 前記第一接着剤層を構成する接着剤組成物がエポキシ化合物及び第二接着剤層を構成する接着剤組成物が塩基性化合物の中から選ばれた少なくとも一種を含む上記(1)〜(3)いずれかの活性エネルギー線架橋型接着剤、
(5) 被着体表面の少なくとも一部を、上記(1)〜(4)いずれかの接着剤を被覆し第一接着剤層を形成し、活性エネルギー線を照射した後、次に第二接着剤層を形成し、活性エネルギー線を照射した後、未加硫ゴムを該接着剤層に圧着しながら加硫処理し、被着体とゴムとを第一接着剤層及び、第二接着剤層を介して接着することを特徴とするゴムと被着体の接着方法。
(6) 被着体が、プラスチックス材からなる上記(5)の接着方法、
(7) プラスチック材が、フィルム、繊維、不織布、モノフィラメントコード、マルチフィラメントコード又は樹脂成形品である上記(6)の接着方法、
(8) 未加硫ゴムがジエン系ゴムである上記(5)〜(7)いずれかの接着方法、
(9) 未加硫ゴムの加硫剤が硫黄である上記(5)〜(8)いずれかの接着方法、
(10) 上記(5)〜(9)いずれかの接着方法により得られたことを特徴とするゴム補強材、
(11) 上記(10)のゴム補強材を用いて製造されたことを特徴とするゴム物品、及び
(12) 上記(10)のゴム補強材を用いて製造されたことを特徴とするタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、第一接着剤層(アンダーコート層)の被着体に対する接着性を大幅に改善した活性エネルギー線架橋型接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
先ず、本発明の第一接着剤層(アンダーコート層)に用いられる活性エネルギー線架橋型接着剤組成物について説明する。
[第一接着剤層を構成する活性エネルギー線架橋型接着剤]
本発明の上記接着剤は、被着体と隣接する第一接着剤層を構成する接着剤組成物が、(A)一方の末端にイソシアネート基を少なくとも一つを有し、かつ、他方の末端に(メタ)アクリロイル基をもつ官能基を少なくとも一つ有する化合物を含む(B)活性エネルギー線重合性モノマーを含有することを特徴とする。
特に、接着剤組成物に(A)成分を配合することによって被着体との密着性を大幅に改善することができる。
【0009】
<(A)成分:イソシアネート基を有する(メタ)アクリルモノマー>
上記、イソシアネート基を有する(メタ)アクリルモノマーは、次の一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、R1は、水素又はメチル基を示し、R2は炭素数1〜6のアルキレン基又はアリール基を示す。]
一般式(1)で表される(A)成分の具体的な例として、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−メタクロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられる。
これらの化合物は昭和電工社製の商品名「カレンズAO1」及び「カレンズMO1」として入手することができる。
第一接着剤層を構成する接着剤組成物の上記(A)成分の配合量は、(B)成分の活性エネルギー線重合性モノマー100質量部に対して、1〜5質量部の範囲で配合することが好ましい。(A)成分を上記範囲で配合することで優れた被着体との接着性を確保することができる。
【0012】
<(B)液状共役ジエン系重合体>
(B)液状共役ジエン系重合体は、共役ジエン単独重合体、共役ジエン共重合体、及びこれらの変性重合体を含むものである。
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられ、なかでも1,3−ブタジエンが好ましい。共役ジエン共重合体としては、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体が好ましい。芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられ、なかでもスチレンが好ましい。また、これら共役ジエン系重合体の主鎖は、硫黄と架橋反応の架橋部位となりやすい、アリル位に水素原子を有する炭素−炭素二重結合を、分子鎖内の単位として含むことが好ましい。
本発明における上記液状共役ジエン系重合体としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソプレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0013】
(B)液状共役ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、接着剤の粘度が高くなり過ぎて加工困難にならない限りその上限に特に制限はないが、500〜100,000が好ましい。上記範囲内にあれば、接着剤の塗布が困難になることがなく、圧着した未加硫ゴムを加硫したときに充分な接着力が得られる。
また、上記(B)液状共役ジエン系重合体は、接着剤を配合する温度において液状、特に0℃以下でも液状であると作業性及び接着剤の混合工程が容易で好ましく、また50℃以上の温度でも液状でかつ蒸気圧が小さいことが好ましい。
【0014】
さらに(B)液状共役ジエン系重合体は、共役ジエン系重合体の末端にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する官能基を導入した変性重合体を好ましく用いることができる。
このような官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基などが挙げられる。変性重合体としては、ブタジエン重合体の末端に、(メタ)アクリロイル基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基を導入したものが特に好ましい。このような変性重合体は市販品あるいは試供品として入手可能である。
市販品としては、例えばアクリロイル基(CH2=CHCO−)をブタジエン重合体の末端に導入したアクリル化ポリブタジエンとして、大阪有機化学工業(株)製の商標「BAC45」(ポリブタジエン部位のMw=2800,粘度=3.4Pa・s,ケン化価=約49)などが挙げられる。また、メタクリル化ポリブタジエンとして、Ricon Resins INC.製の商標「RIACRYL3100」(Mw=5100,メタクリロイル(オキシ)基の個数=2/分子鎖);同社製の商標「RIACRYL3500」(Mw=6800,メタクリロイル基の個数=9/分子鎖);同社製の商標「RIACRYL3801」(Mw=3200,メタクリロイル(オキシ)基の個数=8/分子鎖)などが挙げられる。
【0015】
(B)液状共役ジエン系重合体は、上記したものを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。ゴム層と隣接する第二接着剤層を構成する接着剤中の(B)液状共役ジエン系重合体の含有量は、20〜80質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましく、また、被着体と隣接する第一接着剤層を構成する接着剤中の(B)液状共役ジエン系重合体の含有量は、1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。
【0016】
<(C)活性エネルギー線重合性モノマー>
(A)成分を除く前記(C)活性エネルギー線重合性モノマーが、単官能(メタ)アクリル系モノマー、2官能(メタ)アクリル系モノマー、及び3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーの中から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
単官能のアクリル系モノマーとしては、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどのアクリレート類が挙げられる。
2官能のアクリル系モノマーとしては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0017】
1官能、2官能のアクリル系モノマーは粘度調整剤として使用され、このような粘度調整剤は市販品として入手可能であり、単官能の化合物としては、例えば、式

(式中、n=4)で表されるフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート(新中村化学工業(株)製;商標「AMP−60G」,商標「APG−400」),テトラヒドロフルフリルモノアクリレート(SARTOMER社製,商標「SR−285」),イソオクチルモノアクリレート(SARTOMER社製,商標「SR−440」)などが挙げられる。また、2官能の低分子化合物としては例えば、

(式中、m+n=7)で表されるポリプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製,商標「APG−400」),ポリプロピレングリコールジメタクリレート(同社製,商標「9PG」)などが挙げられる。
さらに、加工上必要に応じて、ラジカル反応性を有する低粘度液体を適宜混合することもできる。
【0018】
3官能以上のアクリル系モノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
3官能以上のアクリル系モノマーとしては、市販品として入手可能なものとして、例えば、式

(式中、m×a=3;a+b=3)で表されるペンタエリスリトールポリエトキシアクリレート(日本化薬(株)製の商標「KAYARAD THE−330」)、ペンタエリスリトールポリプロポキシアクリレート(同社製、商標「KAYARAD TPA−320」;同社製,商標「KAYARAD TPA−330」)や、ジペンタエリスリトールポリアクリレート(荒川化学工業(株)製、商標「ビームセット700」)、ペンタエリスリトールポリアクリレート(同社製、商標「ビームセット710」)などが挙げられる。
【0020】
本発明の接着剤においては、(B)成分が(メタ)アクリル系オリゴマーであることが好ましい。アクリル系オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系などが挙げられる。ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0021】
また、アクリレート系オリゴマーとしては、他に主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーンアクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂アクリレート系オリゴマーなどがある。
アクリレート系オリゴマーの重量平均分子量は、GPC法で測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲で選定される。
【0022】
(A)成分を除く(C)成分のアクリレート系モノマー、及びオリゴマーは、主に粘度調整材として使用され、アクリレート系官能基1〜2を有するモノマーを(C1)、アクリレート系官能基を3以上有する架橋性モノマーを(C2)、アクリレート系官能基を有するオリゴマーを(C3)とし、本発明の接着剤の粘度によって適宜選択して使用することができる。また、それぞれを混合して用いることができる。
通常、粘度調整材としては、(C1)が主に用いられる。
接着剤の好ましい粘度は、2000mPa・s以下である。
【0023】
<エポキシ化合物>
前記接着剤には、さらにエポキシ化合物を配合することが好ましい。エポキシ化合物の接着剤中の配合量は10〜30質量%であることが好ましい。エポキシ化合物は加熱により架橋し、接着剤に延性と強靱性とを付与することができ、例えば、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物にエポキシ基あるいは(メタ)アクリル基を導入したノボラック型フェノール類樹脂などが挙げられる。これらの市販品としては、香川ケミカル(有)製のエポキシノボラックアクリレート(商標「ENA」)、エポキシ基とカルボキシ基を含むノボラックアクリレート(商標「ENC」)などがある。
【0024】
<電子対供与性の塩基性化合物(含窒素複素環式化合物)>
本発明の接着剤においては、被着体表面の少なくとも一部を前記接着剤で被覆して接着剤層を形成し、未加硫ゴムを該接着剤層に圧着しながら加硫処理する際に、未加硫ゴム中の硫黄が接着剤層に移行し、(A)成分とゴム成分が共加硫して被着体とゴムとの間に強固な接着が形成される。電子対供与性の塩基性化合物(以下含窒素複素環式化合物ということがある)は、(A)成分の不飽和部分と未加硫ゴムから移行してくる硫黄との反応を触媒する。反応温度が190℃以下になると、一般に、ラジカル的な加硫反応よりも、加硫促進剤や電子対供与性塩基が関与した開環反応による加硫反応が促進される。(メタ)アクリロイル基などの比較的酸性の末端基を有する成分を含む接着剤では、電子対供与性塩基が加硫反応に関与しにくくなる。従って、電子対供与性塩基(含窒素複素環式化合物)を加え加硫し易くする必要がある。
【0025】
また、電子対供与性塩基(含窒素複素環式化合物)から環状硫黄S8などの硫黄系加硫剤に電子対を供与することは、ドナー・アクセプターの相互作用が生じていることを意味する。このため、接着剤中の電子対供与性塩基の量や硫黄に対する塩基性の強さなどにより、未加硫ゴムから接着剤内に移行する硫黄量も変化する。本発明者らは、一般的に電子対供与性塩基の量が多くなる、あるいは硫黄に対する塩基性が強くなると硫黄の移行量も多くなる傾向があることを見出した。
接着剤による接着層内の硫黄量の分布レベルが高くなると、接着層とゴム組成物の界面における硫黄量も高くなり、ひいては硫黄加硫による接着レベルが高くなるため、電子対供与性塩基(含窒素複素環式化合物)を加え接着剤内へ加硫剤が移行し易くする必要がある。
【0026】
単環式で窒素のみを含有する複素環式化合物としては、アジリン、アゼート、アゼチジン、1H−ピロール、2H−ピロール、ピロリジン、2−イミダソリン、3−イミダソリン、1,2,3−トリアゾール、ピラゾール、イミダゾール、1−ピラゾリン、3−ピラゾリン、ピペリジン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,5トリアジン、1,2,4トリアジン、1H−アゼピン、2H−アゼピン、3H−アゼピン、4H−アゼピン、等が挙げられる。
複環式で窒素のみを含有する複素環式化合物としては、インドール、ベンズイミダゾ−ル、プリン、カルバゾール、β−カルボリン、キノリン、イソキノリン、シノリン、ペテリジン、アクリジン、フェナトリジンリン、キノキサリン、フタラジン等が挙げられる。
単環式で窒素およびその他のヘテロ原子を含有する複素環式化合物としては、3−オキサゾリン、2−オキサゾリン、4−オキサゾリン、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4オキサジアゾール、1,4−オキサジン、モルホリン、2−チアゾリン、3−チアゾリン、4−チアゾリン、1,2,3−チアジオソール、チアゾール、イソチアゾール、1,4−チアジン、1,4チアザン等が挙げられる。
複環式で窒素およびその他のヘテロ原子を含有する複素環式化合物としては、
ベンズオキサゾール、1H−Furo[3,4−c]ピラゾール、フェノキサジン、ベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0027】
上記含窒素複素環式化合物をジエン系モノマーと共重合させる場合には、該含窒素複素環式化合物にラジカル反応性官能基を付与した状態で用いられる。ラジカル反応性官能基の例としては、ビニル基、メルカプト基、他の炭素・炭素二重結合などが挙げられるが、ビニル基が特に好ましい。
ビニル基が付与された含窒素複素環式化合物としては、例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、5メチル−2−ビニルピリジン、5エチル−4−ビニルピリジン、ビニルピロール、ビニルキノリン、ビニルイソキノリン、ビニルアクリジン、ビニルピラジン、ビニルピリミジン、ビニルイミダゾール、ビニルチアゾール,N−ビニルカルバゾールなどが挙げられる。中でも2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが好ましく、特に4−ビニルピリジンが特に好ましい。
また、5メチル−2−ビニルピリジンや5エチル−4−ビニルピリジンのようにメチル基やエチル基のような置換基を持った含窒素複素環式化合物も好適に使用することができる。
【0028】
[接着方法]
本発明の接着方法においては、先ず被着体表面の少なくとも一部、例えばシート状被着体の一方の面に、浸漬、はけ塗り、流延、噴霧、ロール塗布、ナイフ塗布等により前記接着剤組成物を用い、第一接着剤層(アンダーコート層)の塗膜を形成する。かかる被着体表面は、予め電子線、マイクロ波、コロナ放電、プラズマ処理等の前処理加工されたものでもよい。接着剤層の厚みは0.5〜50μmが好ましく、1〜10μmが特に好ましい。
次に、このようにして形成された第一接着剤層(アンダーコート層)は、活性エネルギー線照射される。ここで、活性エネルギー線とは、紫外線、可視光レーザー等の可視光線の活性光をいう。電子線、α線等の荷電粒子線、非荷電粒子線である中性子線やX線、ガンマ線等の電離放射線は本発明に係る活性エネルギー線には含まれない。活性エネルギー線の中では、紫外線が好ましい。一般に、紫外線照射の場合、照射量は100〜3000mJ/cm2であり、照射時間は1〜30秒である。活性エネルギー線照射は、空気雰囲気下で行ってもよいが、照射効果を低下させないために、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が好ましく、取り扱いの簡便さ、コスト等から窒素が特に好ましい。次いで、その上に第二接着剤層を塗膜し、同様に活性エネルギー線照射される。
次いで、未加硫ゴム組成物シートを第二接着剤層に好ましくは0.5〜5MPaの圧力で圧着しながら好ましくは140〜190℃で好ましくは10〜30分間加熱することにより、接着剤組成物の(B)液状共役ジエン系重合体とゴムとの間で共加硫反応が生じ、接着剤組成物とゴムとの間の強力な接着力が得られる。
【0029】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、活性エネルギー線として、紫外線などの活性光を使用する場合に、所望により用いられる。
光重合開始剤としては、2,4ジエチルチオキサントン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ベンゾインやベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、エオシン、チオニン、9,10−アントラキノン、2−エチル−9,10−アントラキノンなどが挙げられる。
【0030】
<被着体>
本発明において、ゴムと接着される被着体の材質は特に限定されるものでないが、熱可塑性プラスチックスが好ましい。熱可塑性プラスチックスとしては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン;ポリカーボネート、ポリアクリレート、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;塩化ビニル樹脂などが挙げられるが、これらの中では、機械的強度が高く、かつ通常の方法ではゴムとの接着が比較的困難なポリエステルが特に好ましい。
また、本発明で用いられるプラスチック被着体の形態は、フィルム、繊維、不織布、モノフィラメントコード、マルチフィラメントコードのいずれでもよく、押出成形品や射出成形品でもよい。
【0031】
<未加硫ゴム>
本発明において未加硫ゴムとして用いられるゴム成分は特に限定されるものではなく、例えば天然ゴム;ポリイソプレン合成ゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム;エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴムなどか挙げられるが、これらの中では天然ゴム及び共役ジエン系合成ゴムが好ましい。また、ゴムは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのゴムの加硫は、例えば硫黄;テトラメチルチラリウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラリウムテトラサルファイドなどのチラリウムポリサルファイド化合物;4,4−ジチオモルフォリン;p−キノンジオキシム;環式硫黄イミド;過酸化物を加硫剤として行うことができるが、好ましくは硫黄である。
また、ゴムには、前記の配合成分以外に通常ゴム業界で用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤などの各種配合剤を、適宜配合することができる。さらに、各種材質の粒子、繊維、布などとの複合体としてもよい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1及び2ならびに比較例1
(1)活性エネルギー線架橋型接着剤の調整
第1表に示す配合組成に従い、活性エネルギー線架橋型接着剤を調製した。
(2)ポリエステルフイルム−ゴム複合体
(1)で得られたそれぞれの一層の接着剤を、二軸延伸のPETフィルム(100μm厚,商標「テトロン(タイプO)」:帝人(株)製)のコロナ処理面にバーコーターで10μm厚で塗工し、該塗工面を、メタルハライドランプ(3kW)を装備した紫外線照射装置(型式「ECS−301G1」:(株)アイグラフィックス製)を用いて、1000mJ/cm2の紫外線を照射した。次いで、それぞれに対応する二層の接着剤を一層の接着剤の上に塗工し、同様の装置を用いて500mJ/cm2の紫外線を照射した。次いで
以下のようにして加硫を行い80mm×80mmの大きさのポリエステルフィルム−ゴム複合体を得た。
未加硫ゴム
厚さ:2.3mm
配合:下記表に示した。
配合組成
天然ゴム 100質量部
カーボンブラック 40質量部
ステアリン酸 2質量部
石油軟化剤 2質量部
亜鉛華 5質量部
老化防止剤* 1.5質量部
N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド 1.2質量部
ジフェニルグアニジン 0.75質量部
硫黄 2.5質量部
*,N−フェニル−N−イソプロピル−p−フェニレンジアミン
加硫条件
圧着圧力:1.5Mpa
加硫温度:160℃
加硫時間:20分
【0033】
(3).ポリエステルコード−ゴム複合体
連続工程において、撚り構造が1500d/2、下撚り数が39回/10cm、上撚り数が39回/10cmのポリエチレンテレフタレート製タイヤコードを先ず第1表に示す一層の組成の接着剤に浸漬し、スクィーズロールを通過させて過剰の接着剤を除いた。次いで、150cm/分のコード速度で紫外線照射装置の光硬化ゾーンを通過させ接着剤組成物層を紫外線照射(1000mJ/cm2の強度で10秒間)した。
次いで、それぞれに対応した第2層の組成の接着剤に浸漬し、スクィーズロールを通過させて過剰の接着剤を除いた。次いで、150cm/分のコード速度で紫外線照射装置の光硬化ゾーンを通過させ接着剤組成物層を紫外線照射(500mJ/cm2の強度で5秒間)した。
このようにして得られた接着剤処理ポリエステルコードを、上記表に示した配合の厚さ2.3mmの未加硫ゴム組成物に埋め込み、圧力20kgf/cm2、温度160℃で20分間加硫し、ポリエステルコード−ゴム複合体を得た。
【0034】
【表1】

[注]
*1.2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート:商品名「カレンズAO1」昭和 電工社製
*2.2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート:商品名「カレンズMO1」昭 和電工社製
*3.スチレン:東京化成工業社製
*4.アクリル末端液状ポリブタジエン:商品名「BAC−45」大阪有機化学工業社製
*5.ペンタエリトリトールポリエトキシアクリレート:商品名「KAYARAD T HE330」日本化薬社製
*6.ビスフェノールF型ポリエトキシアクリレート:商品名「KAYARAD R− 712」日本化薬社製
*7.フェノキシポリエチレングリコールアクリレート:商品名「AMP−60G」新 中村化学社製
*8.ポリプロピレングリコールジアクリレート:商品名「APG−400」新中村化 学社製
*9.エポキシノボラックアクリレート:商品名「ENA」香川ケミカル社製
*10.4−ビニルピリジン:東京化成工業社製
*11.2,4−ジエチルチオキサントン:商品名「KAYACURE DETX−S」日本化薬社製
【0035】
(4)フィルム剥離テスト
ポリエステルフィルム−ゴム複合体を25mm幅にカットして剥離テスト用試験片を調製した。
この試験片を用いて、ゴム層とポリエステルフィルムの剥離テストを、剥離角180度(T形剥離)、引張り速度50mm/分で行い、剥離後フイルムの表面積に対する被覆ゴムの面積率(ゴム付着率)を測定し、下第2表に従いゴム付着のランク付を行った。
【0036】
【表2】

【0037】
(5)コード引張テスト
ポリエステルコード−ゴム複合体及びナイロンコード−ゴム複合体からコードを掘り起こし、30cm/分の速度でコードを複合体から剥離するときの抗力を測定し、これと接着力(張力)とした。測定結果を第1表に示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、第一接着剤層(アンダーコート層)の被着体に対する接着性を大幅に改善した活性エネルギー線架橋型接着剤を提供することができる。
当該活性エネルギー線架橋型接着剤は、特にゴムとポリエステル系樹脂材料との接着において良好な接着性を有し、優れたポリエステル系樹脂材料とゴムとの複合体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性ネルギー線架橋型接着剤からなる第一接着剤層(アンダーコート層)及び第二接着剤層を介して被着体とゴム層とを接着するに当り、被着体と隣接する第一接着剤層を構成する接着剤組成物が、(A)一方の末端がイソシアネート基を少なくとも一つを有し、かつ、他方の末端が(メタ)アクリロイル基をもつ官能基を少なくとも一つ有する化合物を含む活性エネルギー線重合性モノマーを含有することを特徴とする活性エネルギー線架橋型接着剤。
【請求項2】
前記第一接着剤層及び第二接着剤層を構成する接着剤組成物が、(B)液状共役ジエン系重合体を含有してなる請求項1に記載の活性エネルギー線架橋型接着剤。
【請求項3】
(A)成分を除く前記(C)活性エネルギー線重合性モノマーが、単官能(メタ)アクリル系モノマー、2官能(メタ)アクリル系モノマー、及び3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーの中から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線架橋型接着剤。
【請求項4】
前記第一接着剤層を構成する接着剤組成物がエポキシ化合物及び第二接着剤層を構成する接着剤組成物が塩基性化合物の中から選ばれた少なくとも一種を含む請求項1〜3のいずれかに記載の活性エネルギー線架橋型接着剤。
【請求項5】
被着体表面の少なくとも一部を、請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤を被覆し第一接着剤層を形成し、活性エネルギー線を照射した後、次に第二接着剤層を形成し、活性エネルギー線を照射した後、未加硫ゴムを該接着剤層に圧着しながら加硫処理し、被着体とゴムとを第一接着剤層及び、第二接着剤層を介して接着することを特徴とするゴムと被着体の接着方法。
【請求項6】
被着体が、プラスチックス材からなる請求項5に記載の接着方法。
【請求項7】
プラスチック材が、フィルム、繊維、不織布、モノフィラメントコード、マルチフィラメントコード又は樹脂成形品である請求項6に記載の接着方法。
【請求項8】
未加硫ゴムがジエン系ゴムである請求項5〜7のいずれかに記載の接着方法。
【請求項9】
未加硫ゴムの加硫剤が硫黄である請求項5〜8のいずれかに記載の接着方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の接着方法により得られたことを特徴とするゴム補強材。
【請求項11】
請求項10記載のゴム補強材を用いて製造されたことを特徴とするゴム物品。
【請求項12】
請求項10記載のゴム補強材を用いて製造されたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2009−197100(P2009−197100A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38982(P2008−38982)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】