活性粒子発生装置
【課題】オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を提供する。
【解決手段】接地電極1と、空隙を介して接地電極1と対向し、空隙側の表面が誘電体4で覆われた高圧電極2との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、空隙に原料ガス8を供給して、誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、活性粒子の寿命を、原料ガス8が空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、接地電極1および高圧電極2の単位面積に供給される放電電力が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されるものである。
【解決手段】接地電極1と、空隙を介して接地電極1と対向し、空隙側の表面が誘電体4で覆われた高圧電極2との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、空隙に原料ガス8を供給して、誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、活性粒子の寿命を、原料ガス8が空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、接地電極1および高圧電極2の単位面積に供給される放電電力が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体バリア放電を用いて活性粒子を発生させる活性粒子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放電で発生した活性粒子を輸送し、放電場の外で対象に接触させることにより、成膜、表面洗浄、表面改質、殺菌等を行うリモートプラズマ処理が用いられている。その中でも、真空気密容器を必要としない大気圧近傍でのリモートプラズマ処理が注目されている。大気圧近傍でのリモートプラズマ処理は、処理対象の形状制限を緩和するとともに、インラインプロセスへ容易に適応することができるといった優れた特徴を有する。
【0003】
大気圧近傍で活性粒子を発生させるために、様々な形態の放電が用いられている。特に、誘電体バリア放電は、大面積で均一に、かつ安定した非平衡プラズマを発生することができるので、オゾン発生装置等に広く用いられている。
【0004】
また、近年では、誘電体バリア放電により、オゾン以外にも様々な活性粒子を発生させ、発生した活性粒子を各種プロセスに応用する検討が進められている。放電によって発生する活性粒子種としては、オゾン、酸素原子、窒素原子、水素原子を始め多種存在するが、中でも酸素原子、窒素原子、水素原子等の原子状ラジカルは、活性が高く、大気圧近傍において他の活性粒子よりも比較的寿命が長いことから、リモートプラズマ処理に有効である。また、希ガスの準安定準位も、同様の理由からリモートプラズマ処理に有効である。
【0005】
なお、リモートプラズマ処理では、プロセスの高速化および高効率化を図るために、処理対象に供給する活性粒子のフラックスを高めることが重要である。そのため、活性粒子発生装置において、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させる必要がある。
【0006】
ここで、一般的な誘電体バリア放電型の活性粒子発生装置について説明する。
一般的な活性粒子発生装置では、一対の電極の少なくとも一方をガラスやセラミック等の誘電体で覆い、電極間に交流の高電圧やパルス状の高電圧を印加することにより、放電を生じさせる。このとき、放電空隙長や誘電体の厚さは一定の値に設定され、単位電極面積に供給される放電電力(以下、「放電電力密度」と称する)は、電極面内でほぼ均一に設定されている。
【0007】
この活性粒子発生装置でオゾンを発生させる場合、酸素を含む原料ガスを放電空間(電極間)に供給することでオゾンが発生するが、放電に伴って電極や原料ガスの温度が上昇する。オゾンは、熱分解性を有しているので、放電空間の上流側で発生したオゾンが放電空間の下流側で熱分解され、オゾンの発生効率が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、上記の問題を解決するために、特許文献1に記載された活性粒子発生装置では、電極に設けられた誘電体の誘電率をガス流方向に(放電空間(原料ガス流)の上流側から下流側に向けて)減少させる、誘電体の厚さをガス流方向に増加させる、または放電空隙長をガス流方向に増加させることで、放電電力密度をガス流方向に減少させている。
これにより、オゾンの熱分解を抑制し、オゾンの発生効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−81205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1に記載された活性粒子発生装置では、オゾンのように寿命が長く、かつ熱分解性を有する活性粒子種を発生させる場合には、放電電力密度を放電空間の上流側から下流側に向けて減少させることにより、その発生効率を向上させることができる。
【0011】
一方、この活性粒子発生装置で上述した原子状ラジカルを発生させる場合、原子状ラジカルは、オゾンと比較して寿命が短く、かつ温度上昇に伴う損失が少ないので、放電電力密度をガス流方向に減少させると、オゾンを発生させる場合とは逆に、発生密度および発生効率が低下するという問題がある。これは、放電空間において原子状ラジカルの生成速度と消滅速度とが短時間で平衡状態となり、かつ活性粒子の飽和密度が放電電力密度に依存して変化するためである。
【0012】
また、上述した一般的な活性粒子発生装置で原子状ラジカルを発生させる場合、放電電力密度(単位電極面積当たりの放電電力)が電極面内でほぼ均一に設定されているので、原子状ラジカルの密度が放電空間の上流側から下流側に向けて飽和する傾向を示す。そのため、電極の出口付近で原子状ラジカルの密度が飽和し、原子状ラジカルの発生密度および発生効率が低下するという問題がある。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る活性粒子発生装置は、第1電極と、空隙を介して第1電極と対向し、空隙側の表面が誘電体で覆われた第2電極との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、空隙に原料ガスを供給して、誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、活性粒子の寿命を、原料ガスが空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る活性粒子発生装置によれば、発生する活性粒子の寿命を、原料ガスが空隙に滞在する平均時間で除した値を0.1以上10以下とし、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させる。
これにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができる。
そのため、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図2】誘電体バリア放電で発生するN原子の密度と放電電力との関係を、実測結果および解析結果について示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る数値解析に採用した、放電電力条件を示す説明図である。
【図4】図3に示した各放電電力密度におけるN原子密度の時間変化を示す説明図である。
【図5】図3の条件2に示した放電電力密度を形成するための静電容量を示す説明図である。
【図6】活性粒子の寿命と平均ガス滞在時間との関係から、この発明の実施の形態1が適用可能となる条件を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態5に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図11】誘電体バリア放電の空隙長を変化させた場合における放電電力と印加電圧との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の活性粒子発生装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。なお、図1において、原料ガス8は、図の左側から供給されるとする。
図1において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0019】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2a〜2eには、それぞれ個別の容量性負荷6a〜6eの一端が接続され、容量性負荷6a〜6eの他端は、それぞれ交流電源7に並列に接続されている。ここで、容量性負荷6a〜6eの静電容量は、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に増加されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0020】
次に、図1を参照しながら、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
まず、誘電体バリア放電における放電電力Pは、一般に次式(1)で表される。
【0021】
【数1】
【0022】
式(1)において、fは電源周波数、Cdは誘電体の静電容量、Cgは空隙の静電容量、V0pは印加電圧波高値、V*は放電維持電圧を示している。ここで、放電維持電圧V*は、空隙を満たすガス組成、空隙長、圧力、温度等によって決まる値であり、空隙の静電容量Cgは、空隙長および電極面積によって決まる値である。したがって、電源周波数fおよび印加電圧波高値V0pを一定とし、電極構造、供給ガス種および放電条件を同一とした場合、誘電体バリア放電の放電電力Pは、誘電体の静電容量Cdに依存する。
【0023】
通常の誘電体バリア放電において、誘電体の静電容量Cdは、一対の導電体電極の間に設けられた誘電体の厚さ、比誘電率および面積によって決まるが、実施の形態1に係る活性粒子発生装置では、局所電極2a〜2eには、それぞれ容量性負荷6a〜6eが直列接続されている。そのため、実際の静電容量は、誘電体自身の静電容量と外部容量性負荷の静電容量との合成容量Cd'となり、合成容量Cd'は、次式(2)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
式(2)において、C0は外部容量性負荷の静電容量を示している。式(2)より、外部容量性負荷の静電容量C0の増加に伴って合成容量Cd'が増加し、Cd'=Cdに漸近する。また、式(1)より、誘電体の静電容量Cdが大きいほど放電電力Pが増加する。したがって、放電電力Pは、外部に接続する容量性負荷6a〜6eの静電容量の増加に伴って増大し、外部容量性負荷を接続しない場合の放電電力に漸近する。
【0026】
電極入口から供給される原料ガス8は、まず、放電空間5aに誘起される誘電体バリア放電によって、その一部が活性粒子となる。放電空間5aを通過した原料ガス8は、続いて放電空間5bに誘起される誘電体バリア放電に接する。ここで、容量性負荷6bの静電容量は、容量性負荷6aの静電容量よりも大きいので、放電空間5bにおける放電電力密度は、放電空間5aにおける放電電力密度よりも大きくなる。
【0027】
以下、同様に放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
この結果、電極面内の全領域を均一の放電電力密度で放電させる場合と比較して、供給する合計電力が同一であっても、活性粒子の発生密度を向上させることができる。
【0028】
以下、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて増加させることによって、活性粒子の発生密度が向上する理由について説明する。ここでは、純窒素を原料ガス8として、誘電体バリア放電により窒素原子(N原子)を発生させる場合を例に挙げて説明する。
【0029】
大気圧近傍で放電空間5a〜5eに供給された窒素分子は、主に高エネルギー電子との衝突によって解離し、N原子を発生する。一方、発生したN原子は、第3体(主に窒素分子)を介したN原子同士の空間再結合や、電極表面への拡散に伴う表面損失によって消滅する。したがって、放電空間5a〜5eにおける実際のN原子の発生速度は、N原子の生成速度と消滅速度とのバランスによって決まり、次式(3)で表される。
【0030】
【数3】
【0031】
式(3)において、[N](cm−3)はN原子密度、G(cm−3s−1)はN原子の生成レート、L(cm−3s−1)はN原子の消滅レートを示している。式(3)におけるN原子の生成レートGは、窒素分子の解離反応レートとして、次式(4)で表される。
【0032】
【数4】
【0033】
式(4)において、kd(cm3s−1)は窒素分子の解離速度係数、[Ne](cm−3)は電子密度、[N2](cm−3)は窒素分子密度を示している。また、係数2は、一回の反応で2個のN原子が発生すること示している。ここで、窒素分子の解離速度係数kdは、電極構造、ガス組成、圧力および温度を一定とすると、一定の値となる。また、電子密度[Ne]は、放電電力密度とほぼ線形の関係にある。
【0034】
大気圧近傍の放電では、窒素分子の解離度は、一般に10−5〜10−4程度なので、窒素分子密度[N2]は、圧力および温度のみで決まる値とみなすことができる。したがって、電極構造およびガス組成を一定として、放電電力密度のみを変化させた場合、式(4)における電子密度[Ne]のみが変化する。すなわち、N原子の生成レートGは、放電電力密度に依存して一意に決まる値である。
【0035】
また、式(3)におけるN原子の消滅レートLは、主に上述した空間再結合と表面損失とに依存する。まず、空間再結合による損失レートLv(cm−3s−1)は、次式(5)で表される。
【0036】
【数5】
【0037】
式(5)において、kr(cm6s−1)は空間再結合の速度係数を示している。なお、空間再結合の速度係数krは、例えば「S.F.Adams他著,「Surface and volume loss of atomic nitrogen in a parallel plate rf discharge reactor」,Plasma Sources Sci.Technol.9,2000,p.248−255」に示されている。また、式(5)より、N原子の空間再結合による損失レートLvは、N原子自身の密度[N]の二乗に比例する。
【0038】
また、表面損失過程は、N原子が粒子拡散によって管壁(電極)に到達することによって発生する。したがって、表面損失による損失レートLs(cm−3s−1)は、N原子の粒子拡散に比例し、次式(6)で表される。
【0039】
【数6】
【0040】
式(6)において、D(cm2s−1)は窒素分子中のN原子の拡散係数、△はラプラシアンを示している。拡散係数Dは、拡散種と雰囲気ガス種とに依存し、その値は、例えば「日本機械学会編,「伝熱工学資料」,改定第4版,日本機械学会,1986年,p.356」に示されている。管壁に到達したN原子の多くは、放電空間5a〜5eに反射されるが、一部は管壁を介したN原子同士の再結合や、管壁への吸着によって消滅する。式(6)より、N原子密度[N]が高いほど、管壁に到達するN原子数が増加し、結果的に表面損失による損失レートLsが増大する。
【0041】
以上のことから、放電電力密度を一定とした場合、全放電空間にわたってN原子の生成レートGは一定となるが、N原子の消滅レートLは、空間再結合による損失レートLvと表面損失による損失レートLsとを足し合わせた値となり、N原子密度[N]の増加に伴って増大することが分かる。そのため、N原子密度[N]は、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に(入口側から出口側に)向かって飽和する傾向を示すことになる。一方、N原子の飽和密度は、N原子の生成レートGとN原子の消滅レートLとが等しくなる条件で決まる値である。したがって、放電電力密度を高めてN原子の生成レートGを増大させることにより、N原子の飽和密度を増加させることができる。
【0042】
また、全放電空間にわたって放電電力密度を一定とした場合、一度飽和密度に至ると、その後電極に供給される電力は、無効消費される。一方、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて段階的に増加させた場合、飽和密度が上流側から下流側に向けて段階的に増加することになる。これにより、放電電力密度を一定とした場合と比較して、上流側でのN原子の生成速度は遅くなるものの、下流側での生成速度が早くなるので、N原子密度の飽和を抑制することができる。したがって、下流側での供給電力が無効消費されることがなく、N原子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
【0043】
ここで、本願発明者は、誘電体バリア放電型の活性粒子発生装置を製作し、N原子密度を測定することにより、N原子の発生特性を評価する実験を行った。さらに、放電体系、放電条件、および各パラメータを詳細に検討し、数値解析によりこの発明の実施の形態1の効果を検証した。
【0044】
N原子密度の実測では、電極間に周波数10kHzの交流高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、大気圧において毎分10リットルの窒素ガスを原料ガスとして放電空間に供給した。また、高圧電極をセラミックで被覆し、空隙長は1.0mm、電極長は120mmとした。このとき、放電電力密度は、電極面の全領域にわたって均一に設定した。
【0045】
この実験条件において、例えば「G.Oinuma他著,「Method for real−time measurement of nitrogen atom density in atmospheric pressure post−discharge flows」,J.Phys.D:Appl.Phys.41,155204,2008」に示されたNO混合による間接測定法を用いてN原子密度を測定し、供給電力(放電電力)とN原子の飽和密度との関係を調べた。
【0046】
一方、数値解析では、上記の実験条件と同様の条件で計算を行い、実測結果と一致するか否かを確認した。実測により求めたN原子密度および数値解析により求めたN原子密度と放電電力との関係を図2に例示する。
図2において、発生するN原子の密度は、1014(cm−3)のオーダーであり、放電電力の増加とともにN原子の飽和密度が増加した。また、実測結果(図中の黒丸)と解析結果(図中の曲線)とは互いによく一致しており、解析モデルの妥当性が示された。
【0047】
次に、N原子密度の時間変化に対する解析結果を示す。解析条件は、放電電力を8W、放電面積を10cm2、窒素ガス流量を毎分10リットル、空隙長を1.0mmとした。なお、この解析条件において、原料ガスが放電空間(空隙)に滞在する平均時間(以下、「平均ガス滞在時間」と称する)は、16ミリ秒程度となる。ここでは、この発明の実施の形態1の効果を検証するために、図3に示す2通りの放電電力条件でN原子の発生特性を比較した。
【0048】
まず、条件1では、全放電空間にわたって均一の放電電力密度0.8W/cm2で放電させた。また、条件2では、放電空間をガス流方向に5等分し、放電電力密度を0.4W/cm2から1.2W/cm2まで、0.2W/cm2刻みで段階的に増加させて放電させた。また、全供給電力は、何れの条件も同一で8Wとした。
【0049】
上記条件1および条件2について、解析から得られたN原子密度の時間変化を図4に示す。図4において、条件1では、10ミリ秒程度でN原子密度が飽和し、その後はN原子密度がほとんど変化しない。このときの電極出口付近におけるN原子密度は、4.7×1014cm−3程度となる。一方、条件2では、全放電空間(電極面の全領域)にわたってN原子密度が飽和することなく、密度が一様に増加する。このときの電極出口付近におけるN原子密度は、5.9×1014cm−3程度となる。このように、ガス流方向に放電電力密度を増加させることにより、全供給電力が同一の場合であっても、条件2の方が条件1よりも、電極出口付近のN原子密度を向上させることができる。
【0050】
次に、図1に示した活性粒子発生装置において、図3の条件2に記載された放電電力密度の分布を実現するための静電容量の条件について説明する。上述したように、誘電体バリア放電における放電電力Pは、式(1)で表され、放電電力Pを電極面積で除した値が放電電力密度となる。ここでは、式(1)において、放電維持電圧V*を3500V、印加電圧波高値V0pを5000V、誘電体の比誘電率を6.9、誘電体厚さを1.0mm、誘電体の静電容量Cdを1.22×10−11Fとした場合について考える。
【0051】
このとき、各局所電極2a〜2eに対して、それぞれ1.26×10−12F、1.92×10−12F、2.81×10−12F、3.72×10−12F、4.77×10−12Fの容量性負荷6a〜6eを直列接続することにより、条件2に記載された放電電力密度の分布を実現することができる。この場合の外部容量性負荷の静電容量C0、誘電体の静電容量Cd、合成容量Cd'、および放電電力密度の関係を図5に示す。外部に接続される容量性負荷6a〜6eの静電容量は、概ね数pF程度なので、既製のコンデンサを用いることができる。さらに、コンデンサの静電容量、印加電圧、電源周波数を調節することで、発生させる活性粒子に適した所望の放電電力密度の分布を実現することができる。
【0052】
以上の検討は、N原子を発生させる場合について行ったものであるが、N原子以外であっても、活性粒子の寿命と平均ガス滞在時間との関係が、ある条件を満足するときには、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を適用し、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
以下、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置が適用可能となる条件について説明する。
【0053】
この発明の実施の形態1の効果は、放電空間において活性粒子の発生密度が飽和に至るまでの時間(飽和時間)と、平均ガス滞在時間との関係によって決まる。活性粒子種の飽和時間が平均ガス滞在時間と比較して十分長い場合、全放電空間にわたって活性粒子の生成レートが消滅レートよりも十分に大きくなる。したがって、活性粒子密度は、供給電力に比例して増加し、放電電力密度分布には依存しない。
【0054】
一方、活性粒子の飽和時間が平均ガス滞在時間と比較して十分短い場合、活性粒子密度は、放電空間のごく上流で飽和に至る。したがって、単に電極面積を小さくすることによって、活性粒子の発生密度を向上させることができる。
このことから、この発明の実施の形態1が効果を発揮するのは、この中間領域、すなわち活性粒子の飽和時間が平均ガス滞在時間と同程度の場合である。
【0055】
活性粒子の飽和時間は、活性粒子の寿命に依存し、短寿命の活性粒子は、放電空間において短時間で飽和密度に至り、例えばオゾン等の長寿命の活性粒子は、放電空間に長時間滞在しなければ、飽和密度に到達しない。そこで、活性粒子の寿命をパラメータとして、図3に示された条件1および条件2における活性粒子の発生密度を、数値解析により比較した。この数値解析によって得られた結果を図6に示す。
【0056】
図6において、横軸は、活性粒子の寿命を平均ガス滞在時間で除した値であり、縦軸は、条件2において発生する活性粒子の発生密度を、条件1において発生する活性粒子の発生密度で除した値(活性粒子の相対発生密度)である。図6より、横軸の値が10を超える場合、両者に差異はほとんど生じない。これは、活性粒子の発生密度が供給電力に比例しており、放電電力密度の分布に依存しないためである。横軸の値が10以下の場合に、この発明の実施の形態1の効果が現れ始め、横軸の値が減少するにつれて、その効果は増加する。
【0057】
一方、横軸の値が0.1以下の場合、縦軸の値が一定値に収束し、この発明の実施の形態1の効果が飽和する。このように、活性粒子の寿命が平均ガス滞在時間と比較して十分短い場合、活性粒子密度は、放電空間のごく一部で飽和に至る。したがって、放電電力密度の分布とは無関係に、放電電力密度の最大値によって活性粒子の発生密度が決まる。この場合、単純に放電空間の容積を狭める(電極面積を小さくする)だけで活性粒子の発生効率が向上するので、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を適用する意義はない。以上の結果から、活性粒子の寿命を平均ガス滞在時間で除した値が、0.1〜10の場合に、この発明の実施の形態1は有効である。
【0058】
なお、活性粒子の寿命とは、活性粒子密度が、1/e倍(eは自然対数の底)に減少するまでに要する時間を指している。活性粒子の消滅過程には、輻射脱励起、クエンチング反応、空間再結合反応、電極表面損失等があり、その消滅速度は、活性粒子種、ガス温度、ガス組成、圧力、電極材料、電極形状、電極温度、空隙長等様々な条件に依存する。一方、平均ガス滞在時間は、放電空間のガス流方向長さをガス流速で除した値であり、原料ガス流量、放電空間容積、ガス温度、圧力に依存する。
【0059】
したがって、この発明の実施の形態1の適用可否は、発生対象とする活性粒子種およびその発生条件、また電極構造によって決まる。この発明の実施の形態1が適用される代表例として、上述した大気圧近傍でのN原子があるが、それ以外にも、水素原子や酸素原子等の原子状活性粒子(原子状ラジカル)が挙げられる。さらに、大気圧近傍においても比較的長寿命である希ガスの準安定励起種、窒素分子の準安定励起種等が挙げられるが、上述した条件を満たすものであれば、これらに限定されるものではない。
【0060】
以上のように、実施の形態1によれば、発生する活性粒子の寿命を、平均ガス滞在時間で除した値を0.1以上10以下としている。また、第2電極は、原料ガス流方向に電気的に分割されて複数の局所電極を形成し、複数の局所電極には、それぞれ一端が局所電極に直列接続され、他端が同一の電源に並列接続された複数の容量性負荷が接続されている。また、複数の容量性負荷の静電容量は、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されて、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させるようになっている。
これにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができる。そのため、電極面内の全領域を均一の放電電力密度で放電させる場合と比較して、供給する合計電力が同一であっても、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
したがって、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることができる。
また、外部に接続する容量性負荷の静電容量を調節することで、所望の放電電力密度の分布を形成することができ、発生対象とする活性粒子種に適した放電条件を実現することができる。
【0061】
なお、上記実施の形態1では、局所電極2a〜2eの全てに容量性負荷6a〜6eを接続しているが、原料ガス流の最下流に位置する容量性負荷6eは、必ずしも必要ではない。容量性負荷を直列に接続した場合、容量性負荷を接続しない場合と比較して、必ず放電電力が小さくなる。したがって、最下流に位置する局所電極2eには、容量性負荷を接続しなくても、放電電力密度を最も高くすることができる。
【0062】
実施の形態2.
図7は、この発明の実施の形態2に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図7において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0063】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2aと局所電極2bとは、容量性負荷10aを介して互いに接続されている。同様に、局所電極2bと局所電極2cと、局所電極2cと局所電極2dと、および局所電極2dと局所電極2eとは、それぞれ容量性負荷10b〜10dを介して互いに接続されている。また、原料ガス流の最下流に位置する局所電極2eには、交流電源7が接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0064】
原料ガス流の最下流に位置する放電空間5eにおける静電容量Cdは、誘電体3と誘電体4との合成容量である。また、放電空間5dにおける静電容量は、誘電体3および誘電体4に加えて、容量性負荷10dを含めた合成容量となり、放電空間5eと比較して静電容量は減少する。また、放電空間5dにおける静電容量は、誘電体3および誘電体4に加えて、容量性負荷10dおよび容量性負荷10cを含めた合成容量となり、放電空間5eと比較して静電容量はさらに減少する。以下、同様に、原料ガス流の上流側ほど静電容量Cdが小さく、下流側に進むに従って大きくなる。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
【0065】
以上のように、実施の形態2によれば、複数の局所電極のうち、隣り合う局所電極同士を互いに接続する複数の容量性負荷を備え、原料ガス流の最下流に位置する局所電極を電源に接続することにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に接続する容量性負荷の静電容量を選択することで、所望の放電電力密度の分布を形成することができ、発生対象とする活性粒子種に適した放電条件を実現することができる。
さらに、原料ガス流の最下流に位置する局所電極のみを電源に接続することにより、構造を簡素化することができる。
【0066】
実施の形態3.
図8は、この発明の実施の形態3に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図8において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0067】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2a〜2eには、それぞれ個別の交流電源7a〜7eが接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0068】
ここで、交流電源7a〜7eの印加電圧は、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に高くなるように設定されている。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。なお、放電電力密度を増加させる方法として、交流電源7a〜7eの印加電圧をガス流方向に順に高くなるように設定する他に、交流電源7a〜7eの電源周波数をガス流方向に順に高くなるように設定するものある。
【0069】
以上のように、実施の形態3によれば、複数の局所電極の各々に電源を接続し、電源の印加電圧または電源周波数を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて高くなるように設定することにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態3は、実施の形態1または2と比較して電源が複数必要になるという欠点があるが、外部に容量性負荷を接続する必要がなくなり、かつ電源の出力を調節することのみで、所望の放電電力密度の分布を形成することができる。
さらに、図8に示した活性粒子発生装置を複数個積層したり、複数の活性粒子発生装置を同時に稼働させたりする場合には、同一箇所に位置する局所電極を、共通の電源で動作させることができる。そのため、装置毎に独立の電源を使用する構成と比較して、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
【0070】
実施の形態4.
図9は、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図9において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0071】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。ここで、局所電極2a〜2eから誘電体4の空隙側表面までの距離が、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に短縮されている。また、局所電極2a〜2eは、交流電源7に並列に接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0072】
次に、図9を参照しながら、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
まず、平板誘電体の静電容量は、一般に誘電体の厚さd、面積S、真空の誘電率ε0、比誘電率εrから、次式(7)で表される。
【0073】
【数7】
【0074】
式(7)より、誘電体が薄いほど、静電容量は大きくなる。また、式(1)より、誘電体の静電容量が大きいほど、放電電力密度は増加する。そのため、誘電体が薄い部分では、放電電力密度が相対的に大きく、誘電体が厚い部分では、放電電力密度が相対的に小さくなる。この発明の実施の形態4では、高圧電極2から誘電体4の空隙側表面までの距離が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮されているので、実効的な誘電体の厚さが、ガス流方向に段階的に減少することになる。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
【0075】
以上のように、実施の形態4によれば、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮させることにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に容量性負荷を接続することなく、かつ単一の電源によって放電電力密度を原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができるので、構造を簡素化することができる。
【0076】
なお、上記実施の形態4では、高圧電極2をガス流方向に分割して5個の局所電極2a〜2eを形成しているが、必ずしも高圧電極2を分割する必要はなく、各局所電極2a〜2eは、電気的に接続されていてもよい。
また、上記実施の形態4では、高圧電極2を階段状にすることで、実効的な誘電体の厚さを、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて段階的に変化させているが、高圧電極2を1枚の板とし、誘電体4に対して傾斜をつけて配置した場合であっても、上記実施の形態4と同様の効果を得ることができる。この場合には、実効的な誘電体の厚さが、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて連続的に変化することとなる。
【0077】
また、上記実施の形態1〜4では、高圧電極2をガス流方向に5個に分割し、複数の容量性負荷または複数の電源を用いたり、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を変化させたりすることによって、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて増加させている。しかしながら、これに限定されず、局所電極の数は、2個以上の任意の数を適宜選択すればよい。また、各局所電極の面積は、必ずしも同一である必要はなく、ガス流方向に増減させる等、発生対象とする活性粒子種や発生条件に合わせて決定することができる。
【0078】
また、上記実施の形態1〜4では、高圧電極2をガス流方向に5個に分割し、複数の容量性負荷または複数の電源を用いたり、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を変化させたりすることによって、放電電力密度の分布を形成している。しかしながら、これに限定されず、接地電極1をガス流方向に分割し、分割された接地電極の各々とグランドとの間に容量性負荷を接続すること等によっても、上記実施の形態1と同様に、放電電力密度の分布を形成することができる。
【0079】
実施の形態5.
図10は、この発明の実施の形態5に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図10において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0080】
また、高圧電極2は、交流電源7に並列に接続されている。ここで、誘電体3と誘電体4とによって形成される放電空間5の空隙長が、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)連続的に短縮されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0081】
次に、図10を参照しながら、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
放電空間5の空隙長を変化させると、式(1)の放電維持電圧V*および空隙の静電容量Cgが変化する。一般に空隙長を大きくすると、放電維持電圧V*は大きくなり、空隙の静電容量Cgは小さくなる。放電電力と印加電圧との関係を、空隙長の大小について比較したものを図11に示す。
【0082】
図11において、空隙長が大きい場合、放電開始に必要な電圧が大きいので、低い印加電圧での放電電力は小さくなるが、印加電圧の増加に伴う放電電力の増加は大きくなる。一方、空隙長が小さい場合、放電開始に必要な電圧は小さくてもよいので、低い印加電圧での放電電力は大きくなるが、印加電圧の増加に伴う放電電力の増加は小さくなる。
【0083】
したがって、印加電圧が図11のVa以下である場合には、空隙長が小さい方が放電電力は高くなり、印加電圧がVa以上である場合には、空隙長が大きい方が放電電力は高くなる。図11のVa以下の印加電圧で活性粒子発生装置を動作させる場合には、空隙長をガス流方向に減少させ、Va以上の印加電圧で活性粒子発生装置を動作させる場合には、空隙長をガス流方向に増加させることにより、放電空間5の上流側から下流側に向けて、放電電力密度を増加させることができる。
【0084】
以上のように、実施の形態5によれば、電極間に形成される空隙の空隙長を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮させることにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に容量性負荷を接続することなく、かつ一対の放電電極と単一の電源とによって放電電力密度を原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができるので、構造を簡素化することができる。
【0085】
なお、上記実施の形態1〜5では、高圧電極2は誘電体4の内部に埋設されているが、高圧電極2を誘電体4の空隙と反対側の表面に設けてもよい。この場合には、誘電体4の表面で沿面放電が生じないように、局所電極間の距離を、上記実施の形態1〜5と比較して長く取る必要があるものの、高圧側電極の製作を容易にすることができる。
【0086】
また、上記実施の形態1〜5では、接地電極1の空隙側表面が誘電体3で覆われているが、誘電体バリア放電を発生させるためには、接地電極1および高圧電極2の少なくとも一方の電極が誘電体で覆われていればよい。したがって、誘電体3は、必ずしも必要ではない。しかしながら、導電体を放電空間に露出させた場合には、金属原子や金属酸化膜成分がイオンによりスパッタリングされ、活性粒子含有ガス9中にコンタミネーションとして混入する可能性がある。
【0087】
また、上記実施の形態1〜5では、接地電極1と高圧電極2との間に交流電圧を印加しているが、これに限定されず、誘電体バリア放電を生じさせることのできる印加電圧形態であれば、交流に限定されるものではない。
また、上記実施の形態1〜5では、電極構造を平行平板型としているが、これに限定されず、同軸円筒型の電極構造であっても、この発明の実施の形態1〜5を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 接地電極、2 高圧電極、2a〜2e 局所電極、3 誘電体、4 誘電体、5、5a〜5e 放電空間、6a〜6e 容量性負荷、7、7a〜7e 交流電源、8 原料ガス、9 活性粒子含有ガス、10a〜10d 容量性負荷。
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体バリア放電を用いて活性粒子を発生させる活性粒子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放電で発生した活性粒子を輸送し、放電場の外で対象に接触させることにより、成膜、表面洗浄、表面改質、殺菌等を行うリモートプラズマ処理が用いられている。その中でも、真空気密容器を必要としない大気圧近傍でのリモートプラズマ処理が注目されている。大気圧近傍でのリモートプラズマ処理は、処理対象の形状制限を緩和するとともに、インラインプロセスへ容易に適応することができるといった優れた特徴を有する。
【0003】
大気圧近傍で活性粒子を発生させるために、様々な形態の放電が用いられている。特に、誘電体バリア放電は、大面積で均一に、かつ安定した非平衡プラズマを発生することができるので、オゾン発生装置等に広く用いられている。
【0004】
また、近年では、誘電体バリア放電により、オゾン以外にも様々な活性粒子を発生させ、発生した活性粒子を各種プロセスに応用する検討が進められている。放電によって発生する活性粒子種としては、オゾン、酸素原子、窒素原子、水素原子を始め多種存在するが、中でも酸素原子、窒素原子、水素原子等の原子状ラジカルは、活性が高く、大気圧近傍において他の活性粒子よりも比較的寿命が長いことから、リモートプラズマ処理に有効である。また、希ガスの準安定準位も、同様の理由からリモートプラズマ処理に有効である。
【0005】
なお、リモートプラズマ処理では、プロセスの高速化および高効率化を図るために、処理対象に供給する活性粒子のフラックスを高めることが重要である。そのため、活性粒子発生装置において、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させる必要がある。
【0006】
ここで、一般的な誘電体バリア放電型の活性粒子発生装置について説明する。
一般的な活性粒子発生装置では、一対の電極の少なくとも一方をガラスやセラミック等の誘電体で覆い、電極間に交流の高電圧やパルス状の高電圧を印加することにより、放電を生じさせる。このとき、放電空隙長や誘電体の厚さは一定の値に設定され、単位電極面積に供給される放電電力(以下、「放電電力密度」と称する)は、電極面内でほぼ均一に設定されている。
【0007】
この活性粒子発生装置でオゾンを発生させる場合、酸素を含む原料ガスを放電空間(電極間)に供給することでオゾンが発生するが、放電に伴って電極や原料ガスの温度が上昇する。オゾンは、熱分解性を有しているので、放電空間の上流側で発生したオゾンが放電空間の下流側で熱分解され、オゾンの発生効率が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、上記の問題を解決するために、特許文献1に記載された活性粒子発生装置では、電極に設けられた誘電体の誘電率をガス流方向に(放電空間(原料ガス流)の上流側から下流側に向けて)減少させる、誘電体の厚さをガス流方向に増加させる、または放電空隙長をガス流方向に増加させることで、放電電力密度をガス流方向に減少させている。
これにより、オゾンの熱分解を抑制し、オゾンの発生効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−81205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1に記載された活性粒子発生装置では、オゾンのように寿命が長く、かつ熱分解性を有する活性粒子種を発生させる場合には、放電電力密度を放電空間の上流側から下流側に向けて減少させることにより、その発生効率を向上させることができる。
【0011】
一方、この活性粒子発生装置で上述した原子状ラジカルを発生させる場合、原子状ラジカルは、オゾンと比較して寿命が短く、かつ温度上昇に伴う損失が少ないので、放電電力密度をガス流方向に減少させると、オゾンを発生させる場合とは逆に、発生密度および発生効率が低下するという問題がある。これは、放電空間において原子状ラジカルの生成速度と消滅速度とが短時間で平衡状態となり、かつ活性粒子の飽和密度が放電電力密度に依存して変化するためである。
【0012】
また、上述した一般的な活性粒子発生装置で原子状ラジカルを発生させる場合、放電電力密度(単位電極面積当たりの放電電力)が電極面内でほぼ均一に設定されているので、原子状ラジカルの密度が放電空間の上流側から下流側に向けて飽和する傾向を示す。そのため、電極の出口付近で原子状ラジカルの密度が飽和し、原子状ラジカルの発生密度および発生効率が低下するという問題がある。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る活性粒子発生装置は、第1電極と、空隙を介して第1電極と対向し、空隙側の表面が誘電体で覆われた第2電極との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、空隙に原料ガスを供給して、誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、活性粒子の寿命を、原料ガスが空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る活性粒子発生装置によれば、発生する活性粒子の寿命を、原料ガスが空隙に滞在する平均時間で除した値を0.1以上10以下とし、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させる。
これにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができる。
そのため、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図2】誘電体バリア放電で発生するN原子の密度と放電電力との関係を、実測結果および解析結果について示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る数値解析に採用した、放電電力条件を示す説明図である。
【図4】図3に示した各放電電力密度におけるN原子密度の時間変化を示す説明図である。
【図5】図3の条件2に示した放電電力密度を形成するための静電容量を示す説明図である。
【図6】活性粒子の寿命と平均ガス滞在時間との関係から、この発明の実施の形態1が適用可能となる条件を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態5に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。
【図11】誘電体バリア放電の空隙長を変化させた場合における放電電力と印加電圧との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の活性粒子発生装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を示す構成図である。なお、図1において、原料ガス8は、図の左側から供給されるとする。
図1において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0019】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2a〜2eには、それぞれ個別の容量性負荷6a〜6eの一端が接続され、容量性負荷6a〜6eの他端は、それぞれ交流電源7に並列に接続されている。ここで、容量性負荷6a〜6eの静電容量は、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に増加されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0020】
次に、図1を参照しながら、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
まず、誘電体バリア放電における放電電力Pは、一般に次式(1)で表される。
【0021】
【数1】
【0022】
式(1)において、fは電源周波数、Cdは誘電体の静電容量、Cgは空隙の静電容量、V0pは印加電圧波高値、V*は放電維持電圧を示している。ここで、放電維持電圧V*は、空隙を満たすガス組成、空隙長、圧力、温度等によって決まる値であり、空隙の静電容量Cgは、空隙長および電極面積によって決まる値である。したがって、電源周波数fおよび印加電圧波高値V0pを一定とし、電極構造、供給ガス種および放電条件を同一とした場合、誘電体バリア放電の放電電力Pは、誘電体の静電容量Cdに依存する。
【0023】
通常の誘電体バリア放電において、誘電体の静電容量Cdは、一対の導電体電極の間に設けられた誘電体の厚さ、比誘電率および面積によって決まるが、実施の形態1に係る活性粒子発生装置では、局所電極2a〜2eには、それぞれ容量性負荷6a〜6eが直列接続されている。そのため、実際の静電容量は、誘電体自身の静電容量と外部容量性負荷の静電容量との合成容量Cd'となり、合成容量Cd'は、次式(2)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
式(2)において、C0は外部容量性負荷の静電容量を示している。式(2)より、外部容量性負荷の静電容量C0の増加に伴って合成容量Cd'が増加し、Cd'=Cdに漸近する。また、式(1)より、誘電体の静電容量Cdが大きいほど放電電力Pが増加する。したがって、放電電力Pは、外部に接続する容量性負荷6a〜6eの静電容量の増加に伴って増大し、外部容量性負荷を接続しない場合の放電電力に漸近する。
【0026】
電極入口から供給される原料ガス8は、まず、放電空間5aに誘起される誘電体バリア放電によって、その一部が活性粒子となる。放電空間5aを通過した原料ガス8は、続いて放電空間5bに誘起される誘電体バリア放電に接する。ここで、容量性負荷6bの静電容量は、容量性負荷6aの静電容量よりも大きいので、放電空間5bにおける放電電力密度は、放電空間5aにおける放電電力密度よりも大きくなる。
【0027】
以下、同様に放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
この結果、電極面内の全領域を均一の放電電力密度で放電させる場合と比較して、供給する合計電力が同一であっても、活性粒子の発生密度を向上させることができる。
【0028】
以下、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて増加させることによって、活性粒子の発生密度が向上する理由について説明する。ここでは、純窒素を原料ガス8として、誘電体バリア放電により窒素原子(N原子)を発生させる場合を例に挙げて説明する。
【0029】
大気圧近傍で放電空間5a〜5eに供給された窒素分子は、主に高エネルギー電子との衝突によって解離し、N原子を発生する。一方、発生したN原子は、第3体(主に窒素分子)を介したN原子同士の空間再結合や、電極表面への拡散に伴う表面損失によって消滅する。したがって、放電空間5a〜5eにおける実際のN原子の発生速度は、N原子の生成速度と消滅速度とのバランスによって決まり、次式(3)で表される。
【0030】
【数3】
【0031】
式(3)において、[N](cm−3)はN原子密度、G(cm−3s−1)はN原子の生成レート、L(cm−3s−1)はN原子の消滅レートを示している。式(3)におけるN原子の生成レートGは、窒素分子の解離反応レートとして、次式(4)で表される。
【0032】
【数4】
【0033】
式(4)において、kd(cm3s−1)は窒素分子の解離速度係数、[Ne](cm−3)は電子密度、[N2](cm−3)は窒素分子密度を示している。また、係数2は、一回の反応で2個のN原子が発生すること示している。ここで、窒素分子の解離速度係数kdは、電極構造、ガス組成、圧力および温度を一定とすると、一定の値となる。また、電子密度[Ne]は、放電電力密度とほぼ線形の関係にある。
【0034】
大気圧近傍の放電では、窒素分子の解離度は、一般に10−5〜10−4程度なので、窒素分子密度[N2]は、圧力および温度のみで決まる値とみなすことができる。したがって、電極構造およびガス組成を一定として、放電電力密度のみを変化させた場合、式(4)における電子密度[Ne]のみが変化する。すなわち、N原子の生成レートGは、放電電力密度に依存して一意に決まる値である。
【0035】
また、式(3)におけるN原子の消滅レートLは、主に上述した空間再結合と表面損失とに依存する。まず、空間再結合による損失レートLv(cm−3s−1)は、次式(5)で表される。
【0036】
【数5】
【0037】
式(5)において、kr(cm6s−1)は空間再結合の速度係数を示している。なお、空間再結合の速度係数krは、例えば「S.F.Adams他著,「Surface and volume loss of atomic nitrogen in a parallel plate rf discharge reactor」,Plasma Sources Sci.Technol.9,2000,p.248−255」に示されている。また、式(5)より、N原子の空間再結合による損失レートLvは、N原子自身の密度[N]の二乗に比例する。
【0038】
また、表面損失過程は、N原子が粒子拡散によって管壁(電極)に到達することによって発生する。したがって、表面損失による損失レートLs(cm−3s−1)は、N原子の粒子拡散に比例し、次式(6)で表される。
【0039】
【数6】
【0040】
式(6)において、D(cm2s−1)は窒素分子中のN原子の拡散係数、△はラプラシアンを示している。拡散係数Dは、拡散種と雰囲気ガス種とに依存し、その値は、例えば「日本機械学会編,「伝熱工学資料」,改定第4版,日本機械学会,1986年,p.356」に示されている。管壁に到達したN原子の多くは、放電空間5a〜5eに反射されるが、一部は管壁を介したN原子同士の再結合や、管壁への吸着によって消滅する。式(6)より、N原子密度[N]が高いほど、管壁に到達するN原子数が増加し、結果的に表面損失による損失レートLsが増大する。
【0041】
以上のことから、放電電力密度を一定とした場合、全放電空間にわたってN原子の生成レートGは一定となるが、N原子の消滅レートLは、空間再結合による損失レートLvと表面損失による損失レートLsとを足し合わせた値となり、N原子密度[N]の増加に伴って増大することが分かる。そのため、N原子密度[N]は、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に(入口側から出口側に)向かって飽和する傾向を示すことになる。一方、N原子の飽和密度は、N原子の生成レートGとN原子の消滅レートLとが等しくなる条件で決まる値である。したがって、放電電力密度を高めてN原子の生成レートGを増大させることにより、N原子の飽和密度を増加させることができる。
【0042】
また、全放電空間にわたって放電電力密度を一定とした場合、一度飽和密度に至ると、その後電極に供給される電力は、無効消費される。一方、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて段階的に増加させた場合、飽和密度が上流側から下流側に向けて段階的に増加することになる。これにより、放電電力密度を一定とした場合と比較して、上流側でのN原子の生成速度は遅くなるものの、下流側での生成速度が早くなるので、N原子密度の飽和を抑制することができる。したがって、下流側での供給電力が無効消費されることがなく、N原子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
【0043】
ここで、本願発明者は、誘電体バリア放電型の活性粒子発生装置を製作し、N原子密度を測定することにより、N原子の発生特性を評価する実験を行った。さらに、放電体系、放電条件、および各パラメータを詳細に検討し、数値解析によりこの発明の実施の形態1の効果を検証した。
【0044】
N原子密度の実測では、電極間に周波数10kHzの交流高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、大気圧において毎分10リットルの窒素ガスを原料ガスとして放電空間に供給した。また、高圧電極をセラミックで被覆し、空隙長は1.0mm、電極長は120mmとした。このとき、放電電力密度は、電極面の全領域にわたって均一に設定した。
【0045】
この実験条件において、例えば「G.Oinuma他著,「Method for real−time measurement of nitrogen atom density in atmospheric pressure post−discharge flows」,J.Phys.D:Appl.Phys.41,155204,2008」に示されたNO混合による間接測定法を用いてN原子密度を測定し、供給電力(放電電力)とN原子の飽和密度との関係を調べた。
【0046】
一方、数値解析では、上記の実験条件と同様の条件で計算を行い、実測結果と一致するか否かを確認した。実測により求めたN原子密度および数値解析により求めたN原子密度と放電電力との関係を図2に例示する。
図2において、発生するN原子の密度は、1014(cm−3)のオーダーであり、放電電力の増加とともにN原子の飽和密度が増加した。また、実測結果(図中の黒丸)と解析結果(図中の曲線)とは互いによく一致しており、解析モデルの妥当性が示された。
【0047】
次に、N原子密度の時間変化に対する解析結果を示す。解析条件は、放電電力を8W、放電面積を10cm2、窒素ガス流量を毎分10リットル、空隙長を1.0mmとした。なお、この解析条件において、原料ガスが放電空間(空隙)に滞在する平均時間(以下、「平均ガス滞在時間」と称する)は、16ミリ秒程度となる。ここでは、この発明の実施の形態1の効果を検証するために、図3に示す2通りの放電電力条件でN原子の発生特性を比較した。
【0048】
まず、条件1では、全放電空間にわたって均一の放電電力密度0.8W/cm2で放電させた。また、条件2では、放電空間をガス流方向に5等分し、放電電力密度を0.4W/cm2から1.2W/cm2まで、0.2W/cm2刻みで段階的に増加させて放電させた。また、全供給電力は、何れの条件も同一で8Wとした。
【0049】
上記条件1および条件2について、解析から得られたN原子密度の時間変化を図4に示す。図4において、条件1では、10ミリ秒程度でN原子密度が飽和し、その後はN原子密度がほとんど変化しない。このときの電極出口付近におけるN原子密度は、4.7×1014cm−3程度となる。一方、条件2では、全放電空間(電極面の全領域)にわたってN原子密度が飽和することなく、密度が一様に増加する。このときの電極出口付近におけるN原子密度は、5.9×1014cm−3程度となる。このように、ガス流方向に放電電力密度を増加させることにより、全供給電力が同一の場合であっても、条件2の方が条件1よりも、電極出口付近のN原子密度を向上させることができる。
【0050】
次に、図1に示した活性粒子発生装置において、図3の条件2に記載された放電電力密度の分布を実現するための静電容量の条件について説明する。上述したように、誘電体バリア放電における放電電力Pは、式(1)で表され、放電電力Pを電極面積で除した値が放電電力密度となる。ここでは、式(1)において、放電維持電圧V*を3500V、印加電圧波高値V0pを5000V、誘電体の比誘電率を6.9、誘電体厚さを1.0mm、誘電体の静電容量Cdを1.22×10−11Fとした場合について考える。
【0051】
このとき、各局所電極2a〜2eに対して、それぞれ1.26×10−12F、1.92×10−12F、2.81×10−12F、3.72×10−12F、4.77×10−12Fの容量性負荷6a〜6eを直列接続することにより、条件2に記載された放電電力密度の分布を実現することができる。この場合の外部容量性負荷の静電容量C0、誘電体の静電容量Cd、合成容量Cd'、および放電電力密度の関係を図5に示す。外部に接続される容量性負荷6a〜6eの静電容量は、概ね数pF程度なので、既製のコンデンサを用いることができる。さらに、コンデンサの静電容量、印加電圧、電源周波数を調節することで、発生させる活性粒子に適した所望の放電電力密度の分布を実現することができる。
【0052】
以上の検討は、N原子を発生させる場合について行ったものであるが、N原子以外であっても、活性粒子の寿命と平均ガス滞在時間との関係が、ある条件を満足するときには、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を適用し、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
以下、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置が適用可能となる条件について説明する。
【0053】
この発明の実施の形態1の効果は、放電空間において活性粒子の発生密度が飽和に至るまでの時間(飽和時間)と、平均ガス滞在時間との関係によって決まる。活性粒子種の飽和時間が平均ガス滞在時間と比較して十分長い場合、全放電空間にわたって活性粒子の生成レートが消滅レートよりも十分に大きくなる。したがって、活性粒子密度は、供給電力に比例して増加し、放電電力密度分布には依存しない。
【0054】
一方、活性粒子の飽和時間が平均ガス滞在時間と比較して十分短い場合、活性粒子密度は、放電空間のごく上流で飽和に至る。したがって、単に電極面積を小さくすることによって、活性粒子の発生密度を向上させることができる。
このことから、この発明の実施の形態1が効果を発揮するのは、この中間領域、すなわち活性粒子の飽和時間が平均ガス滞在時間と同程度の場合である。
【0055】
活性粒子の飽和時間は、活性粒子の寿命に依存し、短寿命の活性粒子は、放電空間において短時間で飽和密度に至り、例えばオゾン等の長寿命の活性粒子は、放電空間に長時間滞在しなければ、飽和密度に到達しない。そこで、活性粒子の寿命をパラメータとして、図3に示された条件1および条件2における活性粒子の発生密度を、数値解析により比較した。この数値解析によって得られた結果を図6に示す。
【0056】
図6において、横軸は、活性粒子の寿命を平均ガス滞在時間で除した値であり、縦軸は、条件2において発生する活性粒子の発生密度を、条件1において発生する活性粒子の発生密度で除した値(活性粒子の相対発生密度)である。図6より、横軸の値が10を超える場合、両者に差異はほとんど生じない。これは、活性粒子の発生密度が供給電力に比例しており、放電電力密度の分布に依存しないためである。横軸の値が10以下の場合に、この発明の実施の形態1の効果が現れ始め、横軸の値が減少するにつれて、その効果は増加する。
【0057】
一方、横軸の値が0.1以下の場合、縦軸の値が一定値に収束し、この発明の実施の形態1の効果が飽和する。このように、活性粒子の寿命が平均ガス滞在時間と比較して十分短い場合、活性粒子密度は、放電空間のごく一部で飽和に至る。したがって、放電電力密度の分布とは無関係に、放電電力密度の最大値によって活性粒子の発生密度が決まる。この場合、単純に放電空間の容積を狭める(電極面積を小さくする)だけで活性粒子の発生効率が向上するので、この発明の実施の形態1に係る活性粒子発生装置を適用する意義はない。以上の結果から、活性粒子の寿命を平均ガス滞在時間で除した値が、0.1〜10の場合に、この発明の実施の形態1は有効である。
【0058】
なお、活性粒子の寿命とは、活性粒子密度が、1/e倍(eは自然対数の底)に減少するまでに要する時間を指している。活性粒子の消滅過程には、輻射脱励起、クエンチング反応、空間再結合反応、電極表面損失等があり、その消滅速度は、活性粒子種、ガス温度、ガス組成、圧力、電極材料、電極形状、電極温度、空隙長等様々な条件に依存する。一方、平均ガス滞在時間は、放電空間のガス流方向長さをガス流速で除した値であり、原料ガス流量、放電空間容積、ガス温度、圧力に依存する。
【0059】
したがって、この発明の実施の形態1の適用可否は、発生対象とする活性粒子種およびその発生条件、また電極構造によって決まる。この発明の実施の形態1が適用される代表例として、上述した大気圧近傍でのN原子があるが、それ以外にも、水素原子や酸素原子等の原子状活性粒子(原子状ラジカル)が挙げられる。さらに、大気圧近傍においても比較的長寿命である希ガスの準安定励起種、窒素分子の準安定励起種等が挙げられるが、上述した条件を満たすものであれば、これらに限定されるものではない。
【0060】
以上のように、実施の形態1によれば、発生する活性粒子の寿命を、平均ガス滞在時間で除した値を0.1以上10以下としている。また、第2電極は、原料ガス流方向に電気的に分割されて複数の局所電極を形成し、複数の局所電極には、それぞれ一端が局所電極に直列接続され、他端が同一の電源に並列接続された複数の容量性負荷が接続されている。また、複数の容量性負荷の静電容量は、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加されて、第1電極および第2電極の単位面積に供給される放電電力を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させるようになっている。
これにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができる。そのため、電極面内の全領域を均一の放電電力密度で放電させる場合と比較して、供給する合計電力が同一であっても、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
したがって、オゾンよりも短い所定の寿命を有する活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる活性粒子発生装置を得ることができる。
また、外部に接続する容量性負荷の静電容量を調節することで、所望の放電電力密度の分布を形成することができ、発生対象とする活性粒子種に適した放電条件を実現することができる。
【0061】
なお、上記実施の形態1では、局所電極2a〜2eの全てに容量性負荷6a〜6eを接続しているが、原料ガス流の最下流に位置する容量性負荷6eは、必ずしも必要ではない。容量性負荷を直列に接続した場合、容量性負荷を接続しない場合と比較して、必ず放電電力が小さくなる。したがって、最下流に位置する局所電極2eには、容量性負荷を接続しなくても、放電電力密度を最も高くすることができる。
【0062】
実施の形態2.
図7は、この発明の実施の形態2に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図7において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0063】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2aと局所電極2bとは、容量性負荷10aを介して互いに接続されている。同様に、局所電極2bと局所電極2cと、局所電極2cと局所電極2dと、および局所電極2dと局所電極2eとは、それぞれ容量性負荷10b〜10dを介して互いに接続されている。また、原料ガス流の最下流に位置する局所電極2eには、交流電源7が接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0064】
原料ガス流の最下流に位置する放電空間5eにおける静電容量Cdは、誘電体3と誘電体4との合成容量である。また、放電空間5dにおける静電容量は、誘電体3および誘電体4に加えて、容量性負荷10dを含めた合成容量となり、放電空間5eと比較して静電容量は減少する。また、放電空間5dにおける静電容量は、誘電体3および誘電体4に加えて、容量性負荷10dおよび容量性負荷10cを含めた合成容量となり、放電空間5eと比較して静電容量はさらに減少する。以下、同様に、原料ガス流の上流側ほど静電容量Cdが小さく、下流側に進むに従って大きくなる。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
【0065】
以上のように、実施の形態2によれば、複数の局所電極のうち、隣り合う局所電極同士を互いに接続する複数の容量性負荷を備え、原料ガス流の最下流に位置する局所電極を電源に接続することにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に接続する容量性負荷の静電容量を選択することで、所望の放電電力密度の分布を形成することができ、発生対象とする活性粒子種に適した放電条件を実現することができる。
さらに、原料ガス流の最下流に位置する局所電極のみを電源に接続することにより、構造を簡素化することができる。
【0066】
実施の形態3.
図8は、この発明の実施の形態3に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図8において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0067】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。局所電極2a〜2eには、それぞれ個別の交流電源7a〜7eが接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0068】
ここで、交流電源7a〜7eの印加電圧は、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に高くなるように設定されている。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。なお、放電電力密度を増加させる方法として、交流電源7a〜7eの印加電圧をガス流方向に順に高くなるように設定する他に、交流電源7a〜7eの電源周波数をガス流方向に順に高くなるように設定するものある。
【0069】
以上のように、実施の形態3によれば、複数の局所電極の各々に電源を接続し、電源の印加電圧または電源周波数を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて高くなるように設定することにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態3は、実施の形態1または2と比較して電源が複数必要になるという欠点があるが、外部に容量性負荷を接続する必要がなくなり、かつ電源の出力を調節することのみで、所望の放電電力密度の分布を形成することができる。
さらに、図8に示した活性粒子発生装置を複数個積層したり、複数の活性粒子発生装置を同時に稼働させたりする場合には、同一箇所に位置する局所電極を、共通の電源で動作させることができる。そのため、装置毎に独立の電源を使用する構成と比較して、活性粒子の発生密度および発生効率を向上させることができる。
【0070】
実施の形態4.
図9は、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図9において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0071】
また、高圧電極2は、電気的に分割されて、ガス流方向に5個の局所電極2a〜2eを形成している。また、接地電極1と局所電極2a〜2eとによって、空隙内に5箇所の放電空間5a〜5eが形成されている。ここで、局所電極2a〜2eから誘電体4の空隙側表面までの距離が、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)順に短縮されている。また、局所電極2a〜2eは、交流電源7に並列に接続されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0072】
次に、図9を参照しながら、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
まず、平板誘電体の静電容量は、一般に誘電体の厚さd、面積S、真空の誘電率ε0、比誘電率εrから、次式(7)で表される。
【0073】
【数7】
【0074】
式(7)より、誘電体が薄いほど、静電容量は大きくなる。また、式(1)より、誘電体の静電容量が大きいほど、放電電力密度は増加する。そのため、誘電体が薄い部分では、放電電力密度が相対的に大きく、誘電体が厚い部分では、放電電力密度が相対的に小さくなる。この発明の実施の形態4では、高圧電極2から誘電体4の空隙側表面までの距離が、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮されているので、実効的な誘電体の厚さが、ガス流方向に段階的に減少することになる。この結果、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて、段階的に放電電力密度が増加し、放電空間5eにおける放電電力密度が最大となる。
【0075】
以上のように、実施の形態4によれば、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮させることにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に容量性負荷を接続することなく、かつ単一の電源によって放電電力密度を原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができるので、構造を簡素化することができる。
【0076】
なお、上記実施の形態4では、高圧電極2をガス流方向に分割して5個の局所電極2a〜2eを形成しているが、必ずしも高圧電極2を分割する必要はなく、各局所電極2a〜2eは、電気的に接続されていてもよい。
また、上記実施の形態4では、高圧電極2を階段状にすることで、実効的な誘電体の厚さを、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて段階的に変化させているが、高圧電極2を1枚の板とし、誘電体4に対して傾斜をつけて配置した場合であっても、上記実施の形態4と同様の効果を得ることができる。この場合には、実効的な誘電体の厚さが、放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて連続的に変化することとなる。
【0077】
また、上記実施の形態1〜4では、高圧電極2をガス流方向に5個に分割し、複数の容量性負荷または複数の電源を用いたり、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を変化させたりすることによって、放電電力密度を放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて増加させている。しかしながら、これに限定されず、局所電極の数は、2個以上の任意の数を適宜選択すればよい。また、各局所電極の面積は、必ずしも同一である必要はなく、ガス流方向に増減させる等、発生対象とする活性粒子種や発生条件に合わせて決定することができる。
【0078】
また、上記実施の形態1〜4では、高圧電極2をガス流方向に5個に分割し、複数の容量性負荷または複数の電源を用いたり、第2電極から誘電体の空隙側表面までの距離を変化させたりすることによって、放電電力密度の分布を形成している。しかしながら、これに限定されず、接地電極1をガス流方向に分割し、分割された接地電極の各々とグランドとの間に容量性負荷を接続すること等によっても、上記実施の形態1と同様に、放電電力密度の分布を形成することができる。
【0079】
実施の形態5.
図10は、この発明の実施の形態5に係る活性粒子発生装置を示す図である。
図10において、導電体からなる接地電極1(第1電極)と高圧電極2(第2電極)とが、空隙を介して互いに対向して配置され、一対の平行平板型の放電電極を形成している。接地電極1の空隙側表面は、誘電体3で覆われ、高圧電極2は、その全体が誘電体4によって被覆されている。
【0080】
また、高圧電極2は、交流電源7に並列に接続されている。ここで、誘電体3と誘電体4とによって形成される放電空間5の空隙長が、ガス流方向に(放電空間5a〜5eの上流側から下流側に向けて)連続的に短縮されている。原料ガス8は、放電空間5aから放電空間5eに向けて流れ、発生した活性粒子を含む活性粒子含有ガス9となって電極出口から噴出する。
【0081】
次に、図10を参照しながら、この発明の実施の形態4に係る活性粒子発生装置の動作について説明する。
放電空間5の空隙長を変化させると、式(1)の放電維持電圧V*および空隙の静電容量Cgが変化する。一般に空隙長を大きくすると、放電維持電圧V*は大きくなり、空隙の静電容量Cgは小さくなる。放電電力と印加電圧との関係を、空隙長の大小について比較したものを図11に示す。
【0082】
図11において、空隙長が大きい場合、放電開始に必要な電圧が大きいので、低い印加電圧での放電電力は小さくなるが、印加電圧の増加に伴う放電電力の増加は大きくなる。一方、空隙長が小さい場合、放電開始に必要な電圧は小さくてもよいので、低い印加電圧での放電電力は大きくなるが、印加電圧の増加に伴う放電電力の増加は小さくなる。
【0083】
したがって、印加電圧が図11のVa以下である場合には、空隙長が小さい方が放電電力は高くなり、印加電圧がVa以上である場合には、空隙長が大きい方が放電電力は高くなる。図11のVa以下の印加電圧で活性粒子発生装置を動作させる場合には、空隙長をガス流方向に減少させ、Va以上の印加電圧で活性粒子発生装置を動作させる場合には、空隙長をガス流方向に増加させることにより、放電空間5の上流側から下流側に向けて、放電電力密度を増加させることができる。
【0084】
以上のように、実施の形態5によれば、電極間に形成される空隙の空隙長を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮させることにより、誘電体バリア放電によって発生する活性粒子の飽和密度を、原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができ、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、外部に容量性負荷を接続することなく、かつ一対の放電電極と単一の電源とによって放電電力密度を原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加させることができるので、構造を簡素化することができる。
【0085】
なお、上記実施の形態1〜5では、高圧電極2は誘電体4の内部に埋設されているが、高圧電極2を誘電体4の空隙と反対側の表面に設けてもよい。この場合には、誘電体4の表面で沿面放電が生じないように、局所電極間の距離を、上記実施の形態1〜5と比較して長く取る必要があるものの、高圧側電極の製作を容易にすることができる。
【0086】
また、上記実施の形態1〜5では、接地電極1の空隙側表面が誘電体3で覆われているが、誘電体バリア放電を発生させるためには、接地電極1および高圧電極2の少なくとも一方の電極が誘電体で覆われていればよい。したがって、誘電体3は、必ずしも必要ではない。しかしながら、導電体を放電空間に露出させた場合には、金属原子や金属酸化膜成分がイオンによりスパッタリングされ、活性粒子含有ガス9中にコンタミネーションとして混入する可能性がある。
【0087】
また、上記実施の形態1〜5では、接地電極1と高圧電極2との間に交流電圧を印加しているが、これに限定されず、誘電体バリア放電を生じさせることのできる印加電圧形態であれば、交流に限定されるものではない。
また、上記実施の形態1〜5では、電極構造を平行平板型としているが、これに限定されず、同軸円筒型の電極構造であっても、この発明の実施の形態1〜5を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 接地電極、2 高圧電極、2a〜2e 局所電極、3 誘電体、4 誘電体、5、5a〜5e 放電空間、6a〜6e 容量性負荷、7、7a〜7e 交流電源、8 原料ガス、9 活性粒子含有ガス、10a〜10d 容量性負荷。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、空隙を介して前記第1電極と対向し、前記空隙側の表面が誘電体で覆われた第2電極との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、前記空隙に原料ガスを供給して、前記誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、
前記活性粒子の寿命を、前記原料ガスが前記空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、
前記第1電極および前記第2電極の単位面積に供給される放電電力が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする活性粒子発生装置。
【請求項2】
前記第2電極は、前記原料ガス流方向に電気的に分割されて、複数の局所電極を形成することを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【請求項3】
前記複数の局所電極にそれぞれ一端が直列接続され、他端が同一の電源に並列接続された複数の容量性負荷を備え、
前記複数の容量性負荷の静電容量は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項4】
前記複数の局所電極のうち、隣り合う局所電極同士を互いに接続する複数の容量性負荷を備え、
前記原料ガス流の最下流に位置する局所電極を電源に接続する
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項5】
前記複数の局所電極の各々に接続された複数の電源を備え、
前記複数の電源の印加電圧は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項6】
前記複数の局所電極の各々に接続された複数の電源を備え、
前記複数の電源の電源周波数は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項7】
前記第2電極から前記誘電体の前記空隙側表面までの距離が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮される
ことを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【請求項8】
前記空隙の空隙長が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮される
ことを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【請求項1】
第1電極と、空隙を介して前記第1電極と対向し、前記空隙側の表面が誘電体で覆われた第2電極との間に、高電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせるとともに、前記空隙に原料ガスを供給して、前記誘電体バリア放電により活性粒子を発生させる活性粒子発生装置であって、
前記活性粒子の寿命を、前記原料ガスが前記空隙に滞在する平均時間で除した値が0.1以上10以下であり、
前記第1電極および前記第2電極の単位面積に供給される放電電力が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする活性粒子発生装置。
【請求項2】
前記第2電極は、前記原料ガス流方向に電気的に分割されて、複数の局所電極を形成することを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【請求項3】
前記複数の局所電極にそれぞれ一端が直列接続され、他端が同一の電源に並列接続された複数の容量性負荷を備え、
前記複数の容量性負荷の静電容量は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項4】
前記複数の局所電極のうち、隣り合う局所電極同士を互いに接続する複数の容量性負荷を備え、
前記原料ガス流の最下流に位置する局所電極を電源に接続する
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項5】
前記複数の局所電極の各々に接続された複数の電源を備え、
前記複数の電源の印加電圧は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項6】
前記複数の局所電極の各々に接続された複数の電源を備え、
前記複数の電源の電源周波数は、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて増加される
ことを特徴とする請求項2に記載の活性粒子発生装置。
【請求項7】
前記第2電極から前記誘電体の前記空隙側表面までの距離が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮される
ことを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【請求項8】
前記空隙の空隙長が、前記原料ガス流の上流側から下流側に向けて短縮される
ことを特徴とする請求項1に記載の活性粒子発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−272355(P2010−272355A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123251(P2009−123251)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
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