説明

流体封入式能動型防振装置

【課題】 低周波振動に対する受動的な防振効果と中乃至高周波振動に対する能動的な防振効果が、何れも有効に発揮され得る、新規な構造の流体封入式能動型防振装置を提供することにある。
【解決手段】 可動板166の外周部分において両面に突出する弾性突部176を可動板166の周上で相互に離隔して複数形成し、それらの弾性突部176を上隔壁板148と下隔壁板150の間で挟圧保持せしめる一方、可動板166の弾性突部176が形成されていない外周部分170と上隔壁板148および下隔壁板150の間に連通隙間178を形成して、主液室160と副液室162を上下の通孔154,158と連通隙間178を通じて相互に連通させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非圧縮性流体が封入された受圧室の圧力を制御することにより能動的な防振効果を得るようにした流体封入式の能動型防振装置に係り、特に、受圧室の壁部の一部を変位可能な加振板で構成すると共に、駆動手段で加振板を加振変位させることに基づいて受圧室の圧力を制御するようにした、流体封入式能動型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用のエンジンマウントやボデーマウント等のように防振すべき部材間に介装されて、それらの部材を防振連結する防振連結体や防振支持体の一種として、流体封入式の防振装置が知られている。かかる防振装置は、防振連結すべきそれぞれの部材に取り付けられる第一の取付金具と第二の取付金具を本体ゴム弾性体で連結して、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室と壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された容積可変の平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、両室をオリフィス通路を通じて相互に連通させた構造とされている。このような流体封入式の防振装置では、受圧室に振動が入力された際に、受圧室と平衡室の間に惹起される圧力差に基づいて、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づく受動的な防振効果が発揮されることとなる。
【0003】
ところが、このような受動的な防振作用だけを利用する防振装置では、防振すべき振動の周波数等の特性が変化したり、より高度な防振効果が要求されたりする場合等に、十分な防振効果を実現することが難しかった。
【0004】
そこで、近年では、電磁式や空気圧式のアクチュエータを利用して、防振すべき振動の周波数に対応した周期で受圧室の圧力を能動的に制御して、振動を積極的に低減せしめるようにした流体封入式の能動型防振装置が開発されて、検討されている。かかる能動型防振装置においては、例えば特開2002−188677号公報(特許文献1)等にも示されているように、受圧室の壁部の別の一部を加振板で構成すると共に、加振板を支持ゴム弾性体を介して第二の取付金具等に変位可能に弾性支持させてアクチュエータで加振変位させることに基づいて、受圧室の圧力を制御するようになっている。これにより、例えばエンジンシェイク等の比較的低周波数域の振動に対しては、オリフィス通路を通じての流体の共振作用等の流動作用(オリフィス効果)に基づく受動的な防振効果を得る一方、アイドリング振動や走行こもり音等の比較的高周波数域の振動に対しては、加振板の加振変位による受圧室の圧力制御に基づいて能動的な防振効果を得ることが可能となる。
【0005】
ところで、流体封入式能動型防振装置では、加振板の変位が支持ゴム弾性体の弾性変形に基づいて許容されるようになっていることから、オリフィス効果が要求される低周波数域の振動入力時において、支持ゴム弾性体の弾性変形とそれに伴う加振板の変位により、受圧室の圧力変化が吸収されてしまう。その結果、受圧室と平衡室の圧力差が十分に生ぜしめられ難くなって、オリフィス通路を通じての流体流動量が少なくなり、流体の共振作用等に基づく受動的な防振効果が有利に得られなくなるおそれがあった。
【0006】
そこで、このような問題に対処するために、加振板や支持ゴム弾性体に対して静的な駆動力を作用せしめて拘束状態に保持することが考えられる(例えば、特開2002−295571号公報(特許文献2)参照)。しかしながら、能動型防振装置においては、加振板や支持ゴム弾性体に対して、その変位を拘束するのに十分な拘束力を及ぼすと、支持ゴム弾性体等に大きな応力や変形が生ぜしめられることとなり、そのへたりや耐久性等が問題となり易い。また、オリフィス通路による受動的な防振効果と加振板の加振変位による能動的な防振効果が同時に要求される場合には、上手く対処出来ないという問題もあった。
【0007】
また、前述の如き従来構造の流体封入式能動型防振装置においては、能動的な防振効果を得るために、防振すべき振動の周波数や波形に対して出来るだけ高精度に対応した圧力変動を受圧室に作用せしめることが要求される。
【0008】
しかしながら、加振板の加振駆動によって受圧室に及ぼされる圧力変動は、防振すべき振動に対して高精度に対応するものを得難いのが現実である。その原因は幾つか考えられる。例えば、一般に加振板にはアクチュエータの駆動力が一方向にだけ作用するようになっており、他方向へは支持ゴム弾性体の弾性で返戻作動せしめられることから、加振板の往動と復動で駆動力が異なることが原因として挙げられる。また、加振板を弾性支持する支持ゴム弾性体自体の弾性変形の高次成分も原因となる。更に、空気圧式のアクチュエータで加振板を加振変位させる構造では、空気圧の切り換えによる加振駆動に際して、空気圧の伝達路上に生ぜしめられる圧力脈動も原因となり易い。また、電磁力や磁力を利用した電磁式のアクチュエータを用いて加振板を加振変位させる構造では、可動子の変位に伴って該可動子と固定子の相対位置が変化することで、発生力が変化することも原因となる。加えて、電気信号で発生駆動力を制御する場合には、電気信号にのる各種ノイズによっても駆動力に高周波成分が発生する原因となる。
【0009】
これらの問題に対処するために、例えば特開2004−52872号公報(特許文献3)には、受圧室に隔壁を設けて、かかる受圧室を、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された主液室と、加振板で壁部の一部が構成された副液室に仕切り、それら主液室と副液室の間にフィルタオリフィスを設けた構造が、提案されている。即ち、フィルタオリフィスを、問題となる高次成分よりも低周波数域にチューニングすることにより、副液室に生ぜしめられる圧力変動を、その高次成分を除いた状態で主液室に作用させるようになっている。
【0010】
しかしながら、この特許文献3に記載の能動型防振装置では、受圧室に大きな振幅の振動が入力された場合には、フィルタオリフィスのチューニング有無に関係なく、主液室の圧力変動がフィルタオリフィスを通じて副液室に伝達される。その結果、副液室の壁部を構成する加振板や支持ゴム弾性体の弾性変形によって受圧室(主液室と副液室)の圧力が逃げてしまい、受圧室と平衡室の圧力差が十分に確保され難くなる。それ故、オリフィス通路を通じての流体流動量が十分に確保され難くなることに起因して所期の受動的な防振効果が得られなくなるという、前述の問題に対しては何等の解決策にもなり得なかったのである。
【0011】
【特許文献1】特開2002−188677号公報
【特許文献2】特開2002−295571号公報
【特許文献3】特開2004−52872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、(i)加振板やその弾性支持部材による受圧室の圧力変動吸収に起因する、オリフィス通路の流体流動作用に基づく受動的な防振効果の低下と、(ii)防振すべき振動に対応しない一般に高次の周波数成分の圧力変動に起因する、加振板の加振変位による能動的な防振効果の低下とが、何れも効果的に回避されて、低周波振動に対する受動的な防振効果と中乃至高周波振動に対する能動的な防振効果が、何れも有効に発揮され得る、新規な構造の流体封入式能動型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0014】
(本発明の態様1)
本発明の態様1の特徴とするところは、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結することにより、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室を形成すると共に、壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された容積可変の平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入し、該受圧室の壁部の別の一部を変位可能に弾性支持された加振板で構成して該加振板を駆動手段で加振駆動せしめて該受圧室を圧力制御するようにする一方、隔壁部材を該第二の取付部材に固定的に支持せしめて該受圧室を仕切り、該隔壁部材を挟んで該本体ゴム弾性体側に主液室を形成すると共に該加振板側に副液室を形成して、それら主液室と副液室を該隔壁部材に形成された透孔を通じて相互に連通させると共に、該主液室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式能動型防振装置において、上隔壁板と下隔壁板を重ね合わせて前記隔壁部材を構成して、該上隔壁板に設けた上側通孔と該下隔壁板に設けた下側通孔で前記透孔を形成する一方、該上下の通孔の対向面間の全体に亘って広がる大きさの可動板を該上隔壁板と該下隔壁板の間に配して、該可動板の外周部分において両面に突出する弾性突部を該可動板の周上で相互に離隔して複数形成し、それらの弾性突部を該上隔壁板と該下隔壁板の間で挟圧保持せしめることにより、該可動板の一方の面を該上側通孔を通じて該主液室に、該可動板の他方の面を該下側通孔を通じて該副液室に、それぞれ臨ましめて、該主液室と該副液室の圧力差が該可動板の両面に及ぼされた際に該可動板が該上隔壁板と該下隔壁板の間で変位せしめられるように為し、該可動板が変位して該上隔壁板や該下隔壁板に当接することによって該上側通孔や該下側通孔が該可動板で閉塞されるようにする一方、該可動板の変位に伴って該上下の通孔を通じて流動せしめられる流体の共振周波数を、前記加振板の加振駆動による前記受圧室の圧力制御で防振すべき振動の周波数以上に設定すると共に、該可動板の該弾性突部が形成されていない外周部分と該上隔壁板および該下隔壁板の間に連通隙間を形成して、該主液室と該副液室を該上下の通孔と該連通隙間を通じて相互に連通させた流体封入式能動型防振装置にある。
【0015】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式能動型防振装置においては、主液室に大きな振幅の振動が作用せしめられた際に、可動板が大きく変位して上下の隔壁板に形成された上側通孔や下側通孔を塞ぐようになっている。これにより、主液室から副液室への圧力の逃げが防止されて、副液室の壁部の一部を構成する加振板や支持ゴム弾性体の変位乃至は変形に起因する主液室の圧力吸収が防止される。それ故、主液室には本体ゴム弾性体の弾性変形に伴う圧力変動が効率的に生ぜしめられて、主液室と平衡室の間で大きな相対圧力変動が発生し、それら両室間でのオリフィス通路を通じての流体流動量が十分に確保されることから、オリフィス通路を通じての流体の流動作用に基づく受動的な防振効果が有利に発揮される。
【0016】
また、本態様では、上側通孔および下側通孔を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、能動的な防振効果を目的とする防振すべき振動の周波数以上に設定されていることから、能動的な防振効果が有効に発揮される。即ち、能動的な防振効果を得るに際して、加振板を防振すべき振動周波数域で加振駆動することで副液室に生ぜしめられる圧力変動が、可動板の変位に伴って生ぜしめられる上側通孔および下側通孔を通じての流体流動によって、主液室に対して効率的に伝達されるのである。
【0017】
しかも、そのような副液室から主液室への圧力伝達に際して、上側通孔および下側通孔を流動せしめられる流体の反共振的な作用を利用したフィルタ効果が発揮され得る。即ち、副液室に高次成分や高周波成分の圧力変動が惹起された場合でも、そのような防振すべき振動周波数に対応しない周波数成分の圧力変動が、副液室から主液室に伝達することを、かかるフィルタ効果によって抑えることが出来る。それ故、主液室と副液室からなる受圧室において、防振すべき振動の周波数や波形に対して高度に対応した圧力制御を行うことが可能となり、能動的な防振効果が有効に発揮され得るのである。
【0018】
さらに、本態様では、可動板の外周部分において両面に突出形成された弾性突部が挟持されることにより、可動板の配設状態がその変位時においても安定して保たれる。従って、大きな圧力が及ぼされて可動板が変位する際にも、上下の隔壁板に対して大きく傾斜して局部的に打ち当たったり、ばたついて不規則に打ち当たるようなことが防止される。また、可動板の急激な変位が、弾性突部の弾性変形に基づいて緩衝される。それ故、受圧室に大きな振幅の振動が入力されて可動板が上下の隔壁板に打ち当たる場合にあっても、大きな打音や衝撃の発生が抑えられる。
【0019】
ところで、加振板の駆動手段としては、特に限定されるものでなく、例えば特開2002−295571号公報(特許文献2)に示される負圧と大気を利用した空気圧式のアクチュエータや、特開2002−188677号公報(特許文献1)や特開2004−52872号公報(特許文献3)に示される電磁力や磁力を利用した電磁式のアクチュエータ等が、何れも採用可能である。しかしながら、これら公知のアクチュエータは、一般に、駆動力が一方向にだけ作用するようになっており、他方向へは加振板を弾性的に支持せしめる支持ゴム弾性体等で返戻作動されるようになっている。即ち、加振板を加振駆動せしめるに際しては、加振板の振幅の中央位置となる平衡位置がバイアス的に当該駆動方向に所定量だけ変位することになる。そのために、加振駆動に際して加振板の初期位置が変化することとなり、それに起因して主液室と副液室の間で圧力差が発生して、加振板の加振駆動特性が阻害されたり、支持ゴム弾性体にへたりや耐久性が問題となるおそれがある。
【0020】
そこにおいて、本態様では、弾性突部が可動板の外周部分の周上で部分的に形成されていることにより、可動板の弾性突部が形成されていない外周部分において、上下の隔壁板の通孔を通じて主液室と副液室を相互に連通せしめる連通隙間が確保されている。これにより、連通隙間を通じて上述の加振板の初期位置の変化に伴う主液室と副液室の間での圧力差が速やかに解消される。それ故、主液室と副液室の間での静的な圧力差に起因する上述の如き問題が回避されて、目的とする防振効果が一層安定して得られる。
【0021】
(本発明の態様2)
本発明の態様2の特徴とするところは、本発明の前記態様1に係る流体封入式能動型防振装置において、前記可動板として、ゴム弾性板に対して、該ゴム弾性板よりも硬質の拘束板部材を固着せしめた略積層構造体を採用すると共に、該拘束板部材の外周部分において周上の複数箇所に切欠部を設け、該切欠部に位置する該ゴム弾性板から突出するようにして前記弾性突部が一体形成されていることにある。
【0022】
本態様においては、拘束板部材を備えていることによって可動板を充分に薄肉でコンパクトにしつつ、剛性を大きくすることが出来る。また、弾性突部の突設部分では、拘束板部材の切欠部によって弾性突部の弾性変形自由度が大きく確保されており、可動板の変位が充分に許容されるようになっている。従って、可動板が上下の隔壁板に対してより安定して当接されて、透孔が一層確実に閉塞される。また、可動板が隔壁板に当接した状態下での変形が抑えられる。その結果、主液室に大きな振幅振動が入力された際の主液室の圧力漏れがより効果的に抑えられる。加えて、可動板に係る積層構造体の一部がゴム弾性板で構成されていることから、可動板が上下隔壁板に当接するに際して、その打音や衝撃の発生がゴム弾性板の緩衝作用によって抑えられる。
【0023】
(本発明の態様3)
本発明の態様3の特徴とするところは、本発明の前記態様1又は2に係る流体封入式能動型防振装置において、前記上側通孔を前記上隔壁板の中央部分に一つ開口形成する一方、前記下側通孔を、前記下隔壁板において該上側通孔よりも小さな開口面積で複数形成したことにある。
【0024】
本態様においては、上側通孔の開口面積を大きくすることにより、可動板の変位に伴う主液室の圧力制御を、より効率的に行うことが出来る。しかも、下側通孔の開口面積を小さくすることによって、上側通孔の開口面積を大きく保ちつつ、上下通孔を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動特性のチューニングを有利に確保できる。
【0025】
(本発明の態様4)
本発明の態様4の特徴とするところは、本発明の前記態様1乃至3の何れかに係る流体封入式能動型防振装置において、前記駆動手段が、コイルへの通電によって駆動力を発生する電磁式の駆動手段であることにある。
【0026】
本態様においては、電磁式駆動手段で問題となり易い高周波成分の圧力変動がフィルタ効果で解消されて、高周波数域までの高精度な圧力制御が実現可能となる。これにより、能動的な防振効果の更なる向上が図られ得る。
【0027】
(本発明の態様5)
本発明の態様5の特徴とするところは、本発明の態様1乃至4の何れかに係る流体封入式能動型防振装置において、略筒体形状を有する前記第二の取付部材の一方の開口部側に離隔して前記第一の取付部材を配設すると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材を弾性連結する前記本体ゴム弾性体によって該第二の取付部材の該一方の開口部を流体密に閉塞する一方、該第二の取付部材の他方の開口部に前記加振板を配設すると共に、該加振板の外周縁部を該第二の取付部材の該他方の開口部に対して環状の支持ゴム弾性体で弾性連結することにより、該第二の取付部材の該他方の開口部を流体密に閉塞せしめて、該本体ゴム弾性体と該加振板の対向面間に前記受圧室を形成すると共に、該加振板を挟んで該受圧室と反対側に前記駆動手段を配し、更に、該本体ゴム弾性体と該加振板の対向面間の中間部分において、該第二の取付部材の軸直角方向に広がるようにして前記隔壁部材を配設して、該隔壁部材の外周縁部を該第二の取付部材によって固定的に支持せしめたことにある。
【0028】
本態様においては、第一の取付部材や第二の取付部材、本体ゴム弾性体、加振板、隔壁部材、駆動手段をうまく組み合わせて配設し、主液室と副液室からなる受圧室を備えた、目的とする流体封入式の能動型防振装置を有利に構成することが出来る。
【0029】
(本発明の態様6)
本発明の態様6の特徴とするところは、本発明の前記態様5に係る流体封入式能動型防振装置において、前記本体ゴム弾性体の外周側を覆うようにして略円環形状に広がるゴムダイヤフラムによって前記可撓性膜を構成し、該ゴムダイヤフラムの外周縁部を前記第二の取付部材の前記一方の開口部側に固着せしめると共に、該ゴムダイヤフラムの内周縁部を前記第一の取付部材に固着することによって、該本体ゴム弾性体を挟んで前記受圧室と反対側に前記平衡室を形成したことにある。
【0030】
本態様においては、本体ゴム弾性体を挟んで受圧室と平衡室が形成されていることから、第一の取付部材と第二の取付部材の中心軸方向での離隔距離を小さく抑えることが可能となって、防振装置全体の中心軸方向におけるサイズのコンパクト化が図られ得る。加えて、防振装置の弾性中心を支持面から低位置に設定することが可能となるという利点があり、例えば自動車用のエンジンマウント等への適用が好適に図られ得る。
【0031】
(本発明の態様7)
本発明の態様7の特徴とするところは、本発明の前記態様1乃至6の何れかに係る流体封入式能動型防振装置において、自動車のパワーユニットと車両ボデーの一方に対して前記第一の取付部材を固定すると共に、それらの他方に対して前記第二の取付部材を固定することによって自動車用エンジンマウントを構成するように為し、前記オリフィス通路をエンジンシェイクに相当する低周波数域にチューニングすると共に、エンジンシェイクに相当する±1.0mm以上の低周波大振幅振動が入力された際には前記可動板が前記上隔壁板または前記下隔壁板に当接することによって前記透孔が実質的に遮断されるようにする一方、アイドリング振動や走行こもり音に相当する±0.1mm以下の中乃至高周波数域の小振幅振動が入力された際には前記可動板の前記上隔壁板や前記下隔壁板への当接が回避されて前記透孔が開口状態に維持されるようにしたことにある。
【0032】
本態様においては、車種等によって相違するものの、一般に多くの自動車において問題となる、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対する高減衰作用による防振性能や、アイドリング振動等の中周波振動や走行こもり音等の高周波振動に対する低動ばね効果による防振性能を、有利に得ることも可能となる。
【0033】
また、本発明においては、可動板における変位乃至は変形の特性を特定周波数域にチューニングすることも可能である。例えば、可動板の固有振動数を能動的な防振を目的とする走行こもり音等の特定振動の周波数域にチューニングすることにより、可動板の共振作用を利用して副液室から主液室への圧力伝達効率の向上を図ることが出来る。なお、かかる可動板の固有振動数は、非圧縮性流体が封入された受圧室への配設状態下のものである。また、可動板の固有振動数をチューニングする場合には、能動的な防振効果を有効に得るために、能動的な防振を目的とする周波数のうちで最も高い周波数か、それ以上の周波数域にチューニングするようにされる。更にまた、可動板において、上下の隔壁板への当接部位に弾性当接突部を形成して、可動板の隔壁板への当接衝撃の更なる緩和を図るようにしても良い。
【発明の効果】
【0034】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた流体封入式能動型防振装置にあっては、可動板の外周部分において両面に突出形成された弾性突部が上下の隔壁板で挟持されていることにより、可動板の配設状態がその変位時においても安定して保たれる。従って、大振幅の振動が入力されて可動板が大きく変位する際にも、上下の隔壁板に安定して当接せしめられて、各通孔が覆蓋されることとなり、それによって、主液室から副液室への圧力の逃げが防止されて、オリフィス効果に基づく受動的な防振効果が有利に発揮され得る。
【0035】
しかも、本発明の流体封入式能動型防振装置では、可動板の弾性突部が形成されていない外周部分において、上下の隔壁板の通孔を通じて主液室と副液室を相互に連通せしめる連通隙間が確保されている。それ故、例えば一方向にだけ駆動する駆動手段を採用することによって惹起される、加振板の初期位置の変化に伴う主液室と副液室の間での圧力差が、連通隙間と上下の通孔を通じて速やかに解消されることとなり、それによって、加振板の加振変位に基づく能動的な防振効果がより有効に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。先ず、図1には、本発明の一実施形態としての自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結された構造とされており、第一の取付金具12が図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられる一方、第二の取付金具14が図示しない自動車のボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持させるようになっている。また、そのような装着状態下、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、パワーユニットの分担荷重と防振すべき主たる振動が、何れも、エンジンマウント10の略軸方向(図1中、上下)に入力されるようになっている。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、上下方向は、図1中の上下方向をいう。
【0037】
より詳細には、第一の取付金具12が、本体ゴムインナ金具18とダイヤフラムインナ金具20を含んで構成されていると共に、第二の取付金具14が、本体ゴムアウタ筒金具22とダイヤフラムアウタ筒金具24を含んで構成されている。また、本体ゴム弾性体16に本体ゴムインナ金具18と本体ゴムアウタ筒金具22が加硫接着されて、第一の一体加硫成形品26が構成されていると共に(図2参照。)、可撓性膜としてのゴムダイヤフラム28に対してダイヤフラムインナ金具20とダイヤフラムアウタ筒金具24が加硫接着されて、第二の一体加硫成形品30が構成されている。
【0038】
ここにおいて、第一の一体加硫成形品26における第一の取付金具12の一部を構成する本体ゴムインナ金具18は、略逆向き円錐台形状を有している。また、本体ゴムインナ金具18の上端面(大径側端面)には、略平面視多角形状乃至は楕円形状の嵌合凹部32が形成されていると共に、その略中央部分には、軸方向(図1中、上下)に所定の深さで延びる螺子穴34を備えている。
【0039】
また、第一の一体加硫成形品26における第二の取付金具14の一部を構成する本体ゴムアウタ筒金具22は、大径の略円筒形状を有しており、下端部には径方向外方に広がるフランジ状部36が一体形成されていると共に、上端部には下方に行くに従って円錐状に径寸法が次第に小さくなるテーパ状部38が一体形成されている。それによって、本体ゴムアウタ筒金具22の外周面には、径方向外方に開口して周方向に延びる周溝40が形成されている。なお、周溝40は、図2にも示されているように、周上の一箇所に本体ゴム弾性体16と一体形成された仕切ゴム42が充填されることによって、周方向に一周弱の長さで延びている。
【0040】
さらに、本体ゴムアウタ筒金具22の上方に離隔して、本体ゴムインナ金具18が略同一中心軸上に配置されていることによって、本体ゴムインナ金具18におけるテーパ形状の外周面と本体ゴムアウタ筒金具22におけるテーパ状部38の内周面が互いに離隔して対向位置せしめられている。そして、これら本体ゴムインナ金具18と本体ゴムアウタ筒金具22の間に本体ゴム弾性体16が配設されている。
【0041】
本体ゴム弾性体16は、全体として大径の略円錐台形状を有しており、その中央部分には本体ゴムインナ金具18が差し込まれた状態で略同一中心軸上に配されて加硫接着されていると共に、その大径側端部外周面に対して本体ゴムアウタ筒金具22のテーパ状部38が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16が、本体ゴムインナ金具18と本体ゴムアウタ筒金具22を備えた第一の一体加硫成形品26として形成されていると共に、該本体ゴム弾性体16によって本体ゴムアウタ筒金具22を含んでなる第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部が、流体密に覆蓋されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端面には、下方に開口するすり鉢形状の凹所44が形成されており、その結果、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に荷重が入力されて本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられた際に、本体ゴム弾性体16の引張応力が軽減されるようになっている。
【0042】
さらに、本体ゴムアウタ筒金具22の内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成されたシールゴム層46が略全体に亘って被着形成されており、フランジ状部36の下面にまで延び出している。なお、本体ゴムアウタ筒金具22のテーパ状部38に本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面が加硫接着されていることにより、本体ゴム弾性体16には、軸方向(図1中、上下)の圧縮荷重に対して安定した線形に近いばね特性が発揮されるようになっている。
【0043】
また、第二の一体加硫成形品30における第一の取付金具12の一部を構成するダイヤフラムインナ金具20は、小径の略円板形状を有している。更に、ダイヤフラムインナ金具20の略中央には、挿通孔48が軸方向に貫設されている。更にまた、ダイヤフラムインナ金具20における挿通孔48を外れた位置には、上方に突出する取付板部50が一体形成されていると共に、その取付板部50の中央部分には、取付孔52が貫設されている。また、ダイヤフラムインナ金具20の下面には、前述の嵌合凹部32に対応した形状の嵌合凸部54が軸方向外方に向かって一体的に突出形成されている。
【0044】
さらに、ダイヤフラムインナ金具20の下方に離隔して、第二の一体加硫成形品30における第二の取付金具14の一部を構成するダイヤフラムアウタ筒金具24が略同一中心軸上に配置されている。このダイヤフラムアウタ筒金具24は、薄肉の略大径円筒形状を有しており、その上方の開口部には、径方向外方に向かってフランジ状に広がる環状支持部56が一体形成されている。また、環状支持部56における径方向一方向で対向位置せしめられた両側部分には、それぞれ、固定ボルト58が上方に向かって突設されている。また、ダイヤフラムアウタ筒金具24の下方開口部には、径方向外方に向かって広がる円環形状の段差部60が一体形成されており、更に、段差部60の外周縁部には、下方に突出する略円環形状のかしめ部62が一体形成されている。
【0045】
また、ゴムダイヤフラム28の内周縁部が、ダイヤフラムインナ金具20の外周縁部に加硫接着されていると共に、ゴムダイヤフラム28の外周縁部が、ダイヤフラムアウタ筒金具24の上方の開口縁部乃至は環状支持部54の内周縁部に加硫接着されている。これによって、ゴムダイヤフラム28が、ダイヤフラムインナ金具20とダイヤフラムアウタ筒金具24を備えた第二の一体加硫成形品30として形成されている。なお、ダイヤフラムアウタ筒金具24の内周面には、ゴムダイヤフラム28と一体形成されたシールゴム層64が略全体に亘って被着形成されており、ダイヤフラムアウタ筒金具24の段差部60の下面にまで延び出して形成されている。
【0046】
そして、かかる第二の一体加硫成形品30が、第一の一体加硫成形品26に対して上方から被せられて、ダイヤフラムインナ金具20の下面が本体ゴムインナ金具18の上面に重ね合わされて、嵌合凸部54が嵌合凹部32に嵌め込まれることによって、ダイヤフラムインナ金具20の挿通孔48と本体ゴムインナ金具18の螺子穴34が相互に位置合わせされると共に、固定ボルト66が、挿通孔48を通じて螺子穴34に螺着固定されている。また、本体ゴムアウタ筒金具22がダイヤフラムアウタ筒金具24に圧入されて流体密に固着されていると共に、本体ゴムアウタ筒金具22のフランジ状部36がダイヤフラムアウタ筒金具24の段差部60に重ね合わされている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が、それぞれ構成されて、マウントの中心軸を略同心状に囲むようにして配置されている。
【0047】
なお、図面上に明示されていないが、門形のストッパ金具が、本体ゴム弾性体16やゴムダイヤフラム28の外方を跨ぐように配されて、その両端基端部が、それぞれダイヤフラムアウタ筒金具24の環状支持部56に植設された固定ボルト58,58に固定されている。このストッパ金具は、第一の取付金具12に固定されたブラケット(図示せず)の外方に離隔位置せしめられ、該ブラケットに対する当接によって第一の取付金具12と第二の取付金具14のリバウンド方向の相対変位量を制限するようになっている。
【0048】
また、第二の取付金具14の下側開口部には、加振板68が組み付けられている。加振板68は、小径の略円板形状を有しており、金属材や合成樹脂材等の硬質材を用いて形成されている。また、加振板68の中央部分には、下方に延びる駆動軸70が一体形成されており、この駆動軸70の先端部分に雄ねじ部が形成されている。更に、加振板68の外周縁部には、上方に突出する略円環形状の環状連結部72が一体形成されている。
【0049】
また、環状連結部72の径方向外方には、離隔して略同一中心軸上に固定金具としての支持筒金具74が配置されている。支持筒金具74は、大径の略円筒形状を呈しており、上下の端部に、それぞれ径方向外方に拡がる略円環形状の鍔状部76a,76bが一体形成されている。なお、上方の鍔状部76aの外径寸法が、下方の鍔状部76bよりも大きくされている。また、上鍔状部76aの外周縁部には、下方に延びるリブ78が一体形成されている。これによって、支持筒金具74は、周方向の全周に亘って略一定のコ字状断面をもって連続して延びている。
【0050】
また、環状連結部72と支持筒金具74の径方向対向面間には、支持ゴム弾性体80が配設されている。支持ゴム弾性体80は、略円環形状を有しており、その内周面が環状連結部72の外周面に加硫接着されていると共に、その外周面が支持筒金具74の内周面に加硫接着されている。即ち、支持ゴム弾性体80が、加振板68と支持筒金具74を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0051】
さらに、支持筒金具74の下鍔状部76bの下端面には、支持ゴム弾性体80と一体形成されたシールゴム層82が、周方向の全体に亘って略一定の断面形状で延びるように被着形成されている。更にまた、支持筒金具74には、その筒壁部の外周面や上下の鍔状部76a,76bの軸方向対向面の略全体に亘って介装ゴム84が被着形成されている。介装ゴム84は、周方向の全周に亘って連続に乃至は不連続に延びており、支持ゴム弾性体80と一体形成されている。
【0052】
また、加振板68と支持筒金具74を備えた支持ゴム弾性体80の一体加硫成形品が、第二の取付金具14の下方開口部に嵌め込まれて、支持筒金具74のリブ78がダイヤフラムアウタ筒金具24のかしめ部62に圧入されていると共に、支持筒金具74の上鍔状部76aが、シールゴム層46を介して本体ゴムアウタ筒金具22のフランジ状部36に密着状に重ね合わされている。そして、ダイヤフラムアウタ筒金具24のかしめ部62にかしめ加工が施されていることによって、加振板68がマウントの略中心軸上に位置せしめられるようにして、加振板68および支持筒金具74を備えた支持ゴム弾性体80の一体加硫成形品が第二の取付金具14に固定されていると共に、第二の取付金具14の他方(図1中、下)の開口部が該支持ゴム弾性体80の一体加硫成形品で流体密に覆蓋されている。
【0053】
それによって、加振板68と支持筒金具74を備えた支持ゴム弾性体80の一体加硫成形品と本体ゴム弾性体16の対向面間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力に際して本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が惹起せしめられる受圧室86が形成されている。受圧室86には、非圧縮性流体が封入されている。
【0054】
また、本体ゴムアウタ筒金具22がダイヤフラムアウタ筒金具24にシールゴム層64を介して流体密に固着されていることによって、本体ゴム弾性体16とゴムダイヤフラム28の間には、壁部の一部がゴムダイヤフラム28で構成されて、該ゴムダイヤフラム28の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室88が形成されている。平衡室88には、非圧縮性流体が封入されている。更に、本体ゴムアウタ筒金具22の周溝40がシールゴム層64を介してダイヤフラムアウタ筒金具24で流体密に覆蓋されることとなり、それによって、受圧室86の径方向外方において周方向に所定の長さ(例えば一周弱の長さ)で延びるオリフィス通路90が形成されている。そして、オリフィス通路90の一方の端部が、本体ゴムアウタ筒金具22のテーパ状部38に貫設された連通孔92を通じて平衡室88に接続されていると共に、オリフィス通路90の他方の端部が、本体ゴムアウタ筒金具22の周壁部に貫設された連通孔94を通じて受圧室86に接続されている。これにより、受圧室86と平衡室88が、周方向に所定の長さ(本実施形態では一周弱の長さ)で延びるオリフィス通路90を通じて相互に連通されている。このことからも明らかなように、平衡室88は、本体ゴム弾性体16を挟んで反対側に形成されている。
【0055】
なお、受圧室86や平衡室88等に封入される非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等が採用可能であり、特にオリフィス通路90を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を自動車用のエンジンマウント10に要求される振動周波数域で効率的に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。また、本実施形態では、オリフィス通路90を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、例えば±1.0mm以上で10Hz前後のエンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるように、オリフィス通路90の通路長さや通路断面積が設定変更されている。
【0056】
また、加振板68を挟んだ受圧室86と反対側には、駆動手段としての電磁式加振器96が配設されている。この電磁式加振器96は、略カップ形状のハウジング98内にコイル100が収容状態で固定的に組み付けられていると共に、コイル100の周りに、それぞれ環状の強磁性材からなる上下のヨーク部材102, 104が組み付けられて磁路が形成されている。また、上ヨーク部材102の中央には、軸方向に延びる中心孔としての筒状内周面106が形成されていると共に、該筒状内周面106には、ガイドスリーブ108が弾性的に位置決めされて装着されている。そして、アーマチャとしての強磁性材からなる滑動子110が、ガイドスリーブ108内を軸方向に滑動可能に組み付けられている。
【0057】
滑動子110は、全体として略円筒形状を有しており、外周面においてガイドスリーブ108に摺動可能とされて、上下のヨーク部材102,104間に形成された時期ギャップの領域に配設されており、コイル100に通電することにより磁力が及ぼされて、ガイドスリーブ108で案内されつつ、軸方向に駆動されるようになっている。また、滑動子110の内周面には、環状の係合突部112が径方向内方に向かって突設されている。
【0058】
また、略有底円筒形状を呈するハウジング98は、その底部にヨーク部材102, 104を固定的に収容配置していると共に、その開口部分が上ヨーク部材102の上端部よりも上方に所定長さで延びている。また、ハウジング98の開口部分には、径方向外方に拡がる環状のフランジ状部114が一体的に形成されている。更に、ハウジング98の開口部の内径寸法が、支持筒金具74の下鍔状部76bの外径寸法よりも僅かに大きくされている。更にまた、ハウジング98のフランジ状部114の外径寸法が、支持筒金具74のリブ78の内径寸法よりも小さくされている。
【0059】
さらに、ハウジング98の径方向外方には、アウタブラケット116が配設されている。アウタブラケット116は、その内径寸法がハウジング98の外径寸法よりも大きな大径の略円筒形状を有している。また、アウタブラケット116の軸方向両端部には、径方向外方に拡がる略円環形状のフランジ状部118,120が一体形成されている。なお、アウタブラケット116の軸方向一方(図1中、上)の端部に形成された上フランジ状部118の外径寸法が、ダイヤフラムアウタ筒金具24のかしめ部62の内径寸法よりも僅かに小さくされている。
【0060】
そして、ハウジング98が、ダイヤフラムアウタ筒金具24のかしめ部62に嵌め込まれていると共に、支持筒金具74の下鍔状部76bに外挿されている。また、ハウジング98のフランジ状部114が、介装ゴム84を介して支持筒金具74の上鍔状部76aに密着状に重ね合わされている。即ち、介装ゴム84が、支持筒金具74の上鍔状部76aとハウジング98のフランジ状部114の間に挟圧配置されており、それによって、ハウジング98の開口部が流体密に閉塞されている。更に、このような配設下では、ハウジング98のフランジ状部114の下端面と支持筒金具74のリブ78の下端面が略面一とされていると共に、下鍔状部76bの外周面とハウジング98の筒壁部の内周面が、周方向の略全体に亘って密着状に当接されている。
【0061】
さらに、アウタブラケット116がハウジング98に外挿されていると共に、アウタブラケット116の上フランジ状部118が、ダイヤフラムアウタ筒金具24のかしめ部62に圧入されて、ハウジング98のフランジ状部114と支持筒金具74のリブ78に重ね合わされている。そして、かしめ部62にかしめ加工が施されることによって、ハウジング98とアウタブラケット116が、滑動子110の中心軸がマウント中心軸(第一及び第二の取付金具12,14の中心軸)に略一致するようにして第二の取付金具14に固定されている。
【0062】
また、加振板68の駆動軸70が、電磁式加振器96の中心軸(滑動子110の中心軸)上で上方から差し入れられて、滑動子110の係合突部112に挿通されている。更に、駆動軸70にコイルスプリング122が外挿されて、加振板68と係合突部112の対向面間に跨って配設されていると共に、駆動軸70の先端の雄ねじ部に対して位置決めナット124が螺着されている。そして、位置決めナット124が、駆動軸70にねじ込まれて、係合突部112を介して加振板68との間でコイルスプリング122を圧縮せしめていることによって、滑動子110が、駆動軸70に対して軸方向に位置決め固定されている。また、コイルスプリング122の両端には、カラー部材126が冠着されており、コイルスプリング122と他部材との擦れによる摩擦を軽減している。而して、駆動軸70と滑動子110が、コイルスプリング122への付勢力で軸方向において連結されていることによって、コイル100への通電で滑動子110に作用せしめられる駆動力が、駆動軸70を介して加振板68に及ぼされるようになっている。
【0063】
また、ハウジング98の底壁中央には、開口部128が貫設されて、滑動子110の中心孔130に導かれている。そして、開口部128を通じて滑動子110の中心孔130に六角レンチ等の工具を差し入れて、位置決めナット124乃至は位置決めナット124の中央に締め込まれたロックボルト132を操作することにより、滑動子110の駆動軸70に対する位置を外部から調節することが出来るようになっている。要するに、位置決めナット124の駆動軸70へのねじ込み量を調節することによって、第二の取付金具14に対して支持ゴム弾性体80で弾性的に位置決め支持された加振板68に対して滑動子110の取り付け位置を変更設定することが出来るのであり、それによって、滑動子110のヨーク部材102,104に対する磁力作用対向面間の距離を調節することが出来るようになっている。
【0064】
なお、位置決めナット124の外周縁部と滑動子110の対向面間には、僅かな間隙が形成されており、滑動子110が、駆動軸70に対して軸直角方向の滑り変位が許容される状態で位置決めナット124と重ね合わされて当接状態に保持されている。これにより、各部材の製造上の寸法誤差や組み付け時の位置決め誤差等に起因する駆動軸70と滑動子110との相対的な位置ずれを有利に吸収することが出来て、滑動子110をコイル100に対して軸直角方向にも安定して位置決めすることが出来る。また、電磁式加振器96の作動時における一時的な軸ずれも有利に吸収されることとなって、安定した作動特性を得ることが出来るようになっている。また、かかる軸直角方向の相対変位量の許容量としては、例えば0.2〜3mmの範囲が好適に採用される。
【0065】
また、下ヨーク部材104の中心孔134の開口部には、周方向に連続して延びる複数条の溝部からなる取付口136が設けられており、この取付口136に対して蓋部材138が配設されている。蓋部材138は、硬質のベース板140の表面にゴム層142が被着形成された構造とされて、取付口136に嵌め入れられると共に、取付口136の端部に弾性を利用して係合された略平面視C字状の板ばね144に支持されることによって、取付口136に着脱可能に取り付けられている。これにより、下ヨーク部材104の中心孔134が、ゴム層142を介したベース板140で流体密に覆蓋されている。また、ゴム層142が加振板68の駆動軸70の先端面に対して軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられていることによって、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に大きな振動荷重が入力されて駆動軸70が蓋部材138に当接される際に、駆動軸70の先端がゴム層142を介してベース板140に当接されることに基づいて、加振板68の変位量が緩衝的に制限されるようになっている。
【0066】
なお、支持筒金具74の下鍔状部76bの下端面が、該下端面に被着形成されたシールゴム層82を介して上ヨーク部材102に密着状に重ね合わされることによって、加振板68と電磁式加振器96の間における駆動軸70やコイルスプリング122、滑動子110等が配設された空間が外部空間に対して流体密に閉塞されている。これにより、当該空間に外部から水や異物等が侵入して、それら水や異物等が駆動軸70やコイルスプリング122、滑動子110等に付着されることが防止されるようになっている。また、必要に応じて、加振板68の加振変位に起因して加振板68と電磁式加振器96の間の空間に惹起される空気ばね作用を軽減するために、ハウジング98の周壁部の適当な箇所等には、空気孔が貫設されても良い。更に、空気孔は、空気の透過を許容すると共に水や異物等の侵入を防ぐフィルタで覆蓋されるようにしても良い。
【0067】
そこにおいて、本体ゴム弾性体16と加振板68の間における受圧室86の中間部分には、隔壁部材146が配設されている。隔壁部材146は、全体として略円盤形状を有していると共に、金属材や合成樹脂材等の硬質材を用いて形成されている。また、隔壁部材146は、本体ゴム弾性体16と加振板68の対向方向(図1中、上下)に相互に重ね合わされた上蓋部材148と下蓋部材150を含んで構成されている。
【0068】
この上隔壁板としての上蓋部材148は、下方に開口する大径の略有底円筒形状を有していると共に、その開口部分には径方向外方に向かって略円環形状に拡がるフランジ状部152が一体形成されている。また、上蓋部材148の中央部分には、大径の略円孔形状の上側通孔154が貫設されている。
【0069】
一方、下隔壁板としての下蓋部材150は、下方に開口する大径の略有底円筒形状を有していると共に、その開口部分には径方向外方に向かって略円環形状に拡がるフランジ状部156が一体形成されている。ここにおいて、下蓋部材150は、上蓋部材148よりも浅底形状とされていると共に、下蓋部材150の外径寸法が、上蓋部材148の内径寸法よりも小さくされている。また、上蓋部材148のフランジ状部152と下蓋部材150のフランジ状部156が、略同一の外径寸法とされている。更に、下蓋部材150の中央部分には、下側通孔158の複数が軸直角方向乃至は周方向に所定距離を隔てて複数設けられている。また、各下側通孔158は、小径の略円孔形状を有していると共に、各下側通孔158の開口面積が、上蓋部材148の開口面積よりも小さくされている。これら上側通孔154や下側通孔158における形状や大きさ、位置等は、上下の通孔154,158を通じて流動せしめられる流体の共振周波数のチューニングに基づいて、適宜に設定変更されることとなる。
【0070】
また、上蓋部材148が下蓋部材150よりも受圧室86側に位置せしめられるようにして、下蓋部材150が上蓋部材148に対してマウント軸方向(図1中、上下)に嵌め込まれている。更に、上蓋部材148のフランジ状部152と下蓋部材150のフランジ状部156が、マウント軸方向で相互に重ね合わされていると共に、シールゴム層46を介した本体ゴムアウタ筒金具22と支持筒金具74の上鍔状部76aの間で挟圧保持されていることに基づいて、上蓋部材148の外周縁部と下蓋部材150の外周縁部が、第二の取付金具14で固定的に支持されている。これによって、上下の蓋部材148,150からなる隔壁部材146が、第二の取付金具14に対して略軸直角方向に拡がるようにして固定されている。
【0071】
また、このように受圧室86の中間部分に隔壁部材146が配設されて受圧室86が流体密に二分されていることによって、隔壁部材146を挟んだ本体ゴム弾性体16側には、壁部が本体ゴム弾性体16や本体ゴムアウタ筒金具22、上蓋部材148等で構成されてオリフィス通路90を通じて平衡室88と相互に連通せしめられた主液室160が形成されている。更に、隔壁部材146を挟んだ加振板68側には、壁部が加振板68や支持ゴム弾性体80、下蓋部材150等で構成された副液室162が形成されている。
【0072】
また、斯くの如き上下の蓋部材148,150が重ね合わされることによって、上蓋部材148中央部分と下蓋部材150の中央部分の対向面間には、上下の通孔154,158を通じて主液室160と副液室162に連通せしめられた略円板形状の収容領域164が設けられている。そして、この収容領域164に対して可動板166が配設されている。
【0073】
可動板166は、図3にも示されているように、略円板形状を有していると共に、弾性変形可能な薄肉のゴム膜からなるゴム弾性板168を備えている。また、ゴム弾性板168の外周縁部には、略円環形状の当接突部170が軸方向両面に、それぞれ所定長さで突出して一体形成されている。
【0074】
さらに、可動板166は、ゴム弾性板168の厚さ方向の中間部分に埋設状態で固着された拘束板部材としての拘束プレート172を備えている。この拘束プレート172は、略円板形状を有していると共に、金属材や合成樹脂材等の硬質材を用いて形成されていることによって薄肉ながらゴム弾性板168よりも大きな変形剛性を備えている。また、拘束プレート172の外径寸法がゴム弾性板168の外径寸法と略同一に或いはそれよりも僅かに小さく設定されていることによって、拘束プレート172の外周縁部が、ゴム弾性板168の外周部分に一体形成された一対の当接突部170,170の厚さ方向中間部分に位置せしめられている。要するに、可動板166が、ゴム弾性板168と拘束プレート172が一体的に固着されて層状を呈する積層構造体とされている。
【0075】
また、拘束プレート172の外周縁部には、径方向外方に向かって凹状に開口する切欠部174が形成されている。特に本実施形態では、切欠部174が、周方向に所定距離を隔てて4つ設けられている。また、切欠部174内には、ゴム弾性板168のゴム材料が充填されている。
【0076】
さらに、切欠部174の幅方向中間部分に位置するゴム弾性板168には、軸方向両面に突設された当接突部170よりも更に軸方向外方に突出して、弾性突部としての挟入部176, 176の一対が、一体形成されている。即ち、挟入部176が、ゴム弾性板168の各一方の面の外周部分の周上で所定距離を隔てて4つ設けられている。かかる挟入部176の形状や大きさ等は、特に限定されるものでないが、本実施形態では、略平面視矩形状を呈していると共に、軸方向で対向位置せしめられた各一対の挟入部176,176が、切欠部174の幅方向中間部分に位置せしめられて、軸方向で拘束プレート172と重ね合わせられないようになっている。また、上述の説明からも明らかように、可動板166の厚さ寸法が、拘束プレート172が埋設されたゴム弾性板168の中央部分、一対の当接突部170, 170が一体形成されたゴム弾性板168の外周部分、各切欠部174に位置する一対の挟入部176,176が一体形成されたゴム弾性板168の外周部分の順に大きくされている。
【0077】
さらに、可動板166が、その中心軸がマウント10の略中心軸上に位置せしめられるようにして収容領域164に収容配置されていると共に、可動板166の挟入部176が、上蓋部材148と下蓋部材150の間で厚さ方向(図1中、上下)に挟圧保持されている。従って、可動板166が、収容領域164において略軸直角方向に拡がるようにして隔壁部材146に固定的に支持されている。
【0078】
また、可動板166の一方の面が、上蓋部材148の上側通孔154を通じて主液室160に臨まされていると共に、可動板166の他方の面が、下蓋部材150の下側通孔158を通じて副液室162に臨まされている。その結果、主液室160と副液室162の圧力差が可動板166の両面に及ぼされた際に、挟入部176等の弾性変形に基づいて、ゴム弾性板168の中央部分が、拘束プレート172と一体的に上下の蓋部材148,150の間(収容領域164内)で軸方向に変位するようになっている。なお、上述の説明からも、隔壁部材146に形成されて主液室160と副液室162を相互に連通せしめる透孔が、上蓋部材148の上側通孔154と下蓋部材150の下側通孔158を含んで構成されていることが明らかである。
【0079】
さらに、本実施形態では、可動板166の変位に伴って上下の通孔154,158を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、加振板68の加振駆動による受圧室86の圧力制御で防振すべき振動の周波数以上に設定されている。具体的には、例えば、上下の通孔154,158を通じての流体の共振周波数が、±0.1〜0.25mm程度で20〜40Hzのアイドリング振動等の中周波振動と同じかそれよりも高周波数域に設定されている。更にまた、当該流体の共振周波数が、支持ゴム弾性体80自体の弾性変形の高次成分や、電磁式加振器96の発生駆動力を制御する電気信号にのる各種ノイズに起因して該駆動力に発生する高周波成分よりも低周波数域に設定されている。なお、かかる共振周波数のチューニングは、例えば可動板166のばね定数や質量、上下の通孔154,158の流路長さや流路断面積等を適宜に設定変更することにより為される。
【0080】
また、このような可動板166の配設下では、図4〜5にも拡大して示されているように、可動板166の当接突部170と上蓋部材148または下蓋部材150が、軸方向に僅かな距離をもって対向位置せしめられている。即ち、可動板166の外周部分において複数の挟入部176を除いた当接突部170,170と上蓋部材148および下蓋部材150の間には、連通隙間178が形成されており、主液室160と副液室162が、この連通隙間178と上下の通孔154,158を通じて相互に連通されている。
【0081】
そして、可動板166の両面に及ぼされる主液室160と副液室162の圧力差と挟入部176の弾性変形に基づいて、可動板166が大きく変位して、両面に突設された一対の当接突部170,170の何れか一方が上蓋部材148または下蓋部材150に当接されることによって、上側通孔154や下側通孔158、連通隙間178が可動板166で実質的に遮断されるようになっている。
【0082】
特に本実施形態では、可動板166の変位に伴って上下の通孔154,158を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が適宜に設定変更されることによって、受圧室86に対して例えばエンジンシェイクに相当する±1.0mm以上の低周波大振幅振動が入力された際に、可動板166の当接突部170が上蓋部材148または下蓋部材150に当接されて、上下の通孔154,158や連通隙間178が実質的に遮断されるようになっている。また、例えばアイドリング振動に相当する±0.1〜0.25mmの中周波数域の小振幅振動が入力された際には、可動板166の当接突部170が上蓋部材148または下蓋部材150に当接されないようになっており、それに基づいて上下の通孔154,158や連通隙間178の開口状態が維持されるようになっている。
【0083】
このような構造とされたエンジンマウント10においては、第一の取付金具12が取付板部50の取付孔52に挿通される図示しない固定ボルト等によってパワーユニットに対して固定される一方、第二の取付金具14がアウタブラケット116の下フランジ状部120に固着される図示しない固定ボルト等で自動車ボデーに固定されることにより、パワーユニットと自動車ボデーの間に装着されて、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。そして、かかる装着状態下、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の弾性変形によって受圧室86と平衡室88の間に惹起される圧力差に基づいてオリフィス通路90を通じて流体流動が生ぜしめられることとなり、該流体の共振作用等の流動作用に基づいて受動的な防振効果が発揮され得る。
【0084】
そこにおいて、本実施形態では、受圧室86を主液室160と副液室162に仕切る上下の蓋部材148,150の間に可動板166が配設されており、主液室160に対してエンジンシェイクに相当する±1.0mm以上の低周波大振幅振動が入力された際に、可動板166の当接突部170が上蓋部材148または下蓋部材150に当接されて、上下の通孔154,158や連通隙間178が実質的に遮断されるようになっている。その結果、該大振幅振動の入力時に、主液室160の圧力が上下の通孔154,158や連通隙間178を通じて副液室162に逃がされることが阻止されて、副液室162の壁部の一部を構成する加振板68や支持ゴム弾性体80の変位乃至は変形に起因する主液室160の圧力吸収が防止される。それ故、主液室160と平衡室88の間での大きな圧力差に基づくオリフィス効果によって、受動的な防振効果が有利に発揮され得るのである。
【0085】
また、特に段差乗り越え等に際してエンジンシェイク等に相当する衝撃的な大振幅振動が入力された場合には、前述の如く主液室160から副液室162への圧力変動の伝達が制限されて、支持ゴム弾性体80の過度の変形が回避されることから、支持ゴム弾性体80における損傷や耐久性低下が有利に防止される。
【0086】
また、例えば、パワーユニットのエンジン点火信号を参照信号とすると共に、車両ボデー等の防振すべき部材の振動検出信号をエラー信号として適応制御等のフィードバック制御を行うこと等によって、コイル100への通電を制御し、駆動軸70を軸方向に加振駆動せしめる。その結果、例えばエンジンシェイク等の低周波振動が入力された際に、主液室160および副液室162からなる受圧室86と平衡室88の間に圧力変動が有効に惹起せしめられるように加振板68を駆動制御せしめることによって、オリフィス通路90の流体流動量が十分に確保されて、オリフィス通路90を通じての流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が一層有利に発揮され得る。
【0087】
さらに、例えばアイドリング振動等の中周波振動が入力された際に、該振動に対応した駆動力を加振板68に作用せしめることによって、加振板68の加振駆動に基づき、可動板166の軸方向変位に伴い隔壁部材146の透孔としての上下の通孔154,158や連通隙間178を通じて流体流動が許容される。従って、副液室162から主液室160に圧力変動が伝達されて、受圧室86の内圧が制御されることとなり、当該中周波振動に対して積極的乃至は能動的な防振効果が有効に発揮され得る。なお、オリフィス通路90のチューニング周波数を超えた周波数域となる当該中周波の入力振動に対しては、オリフィス通路90を通じての流体の反共振的な作用に起因してオリフィス通路90が実質的に閉塞された状態とされることから、上下の通孔154,158や連通隙間178を通じての流体流動量が有効に確保されることとなる。
【0088】
そこにおいて、本実施形態では、アイドリング振動に相当する±0.1〜0.25mmの中周波数域の小振幅振動が入力された際に、可動板166の当接突部170の上下蓋部材148,150への当接が阻止されて、上下の通孔154,158や連通隙間178の開口状態が維持される。そして、かかる状態下で、加振板68の加振制御に基づく主液室160と副液室162の圧力差に基づいて可動板166が変位されることに伴って、副液室162から主液室160への圧力伝達が許容される。しかも、可動板166の変位に伴って上下の通孔154, 158や連通隙間178を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、加振板68による能動的な防振効果を得ようとする、アイドリング振動等の中周波振動数と同じかそれよりも高周波数域にチューニングされていることと相俟って、加振板68の加振駆動に基づいて副液室162に生ぜしめられる圧力変動が、かかる流体の共振作用を利用して、主液室160に効率的に伝達される。それ故、目的とする積極的乃至は能動的な防振効果が一層有利に発揮され得るのである。
【0089】
特に本実施形態では、上下の通孔154,158や連通隙間178を通じて可動板166の変位に伴って流動せしめられる流体の共振周波数が、支持ゴム弾性体80自体の弾性変形の高次成分や、電磁式加振器96の発生駆動力を制御する電気信号にのる各種ノイズに起因して該駆動力に発生する高周波成分よりも低周波数域に設定されている。これにより、副液室162に高次の圧力変動が生ぜしめられた際には、上下の通孔154,158や連通隙間178を通じて副液室162から主液室160のへの圧力伝達に対してフィルタ作用が発揮されて、高次成分の圧力伝達が抑えられることとなる。その結果、防振すべき振動に対して高度に対応した周波数や波形の圧力変動を主液室160に生ぜしめることが可能となり、目的とする能動的防振効果を一層効果的に得ることが出来る。
【0090】
また、本実施形態に係る大きな特徴的部分としては、可動板166が、周上の4箇所で軸方向両側に突出された各一対の挟入部176,176で上下の蓋部材148, 150に弾性的に支持されていると共に、拘束プレート172がゴム弾性板168に埋設された略積層構造とされていることによって、可動板166の変位が極めて安定とされていることにある。
【0091】
それ故、大振幅振動の入力時には、可動板166が上下の蓋部材148,150に安定して当接せしめられることにより、主液室160から副液室162への圧力漏れが一層確実に防止されて、オリフィス効果に基づく受動的な防振効果の更なる向上が図られ得る。加えて、中周波振動の入力時には、可動板166が軸方向に効率良く変位せしめられることとなって、加振板68の加振駆動に基づく副液室162から主液室160への圧力伝達が効率的に為されることから、所期の能動的な防振効果が一層安定して得られる。
【0092】
また、本実施形態では、加振板68を一方向(例えば、図1中、下)に加振駆動せしめると共に支持ゴム弾性体80の弾性を利用して加振板68を元の位置に返戻作動せしめる例示の如き電磁式加振器96が採用されていることによって、加振板68を加振駆動せしめるに際して、平衡位置がバイアス的に当該駆動方向(例えば、図1中、下)に所定量だけ変位する。その結果、駆動に際しての加振板68の初期位置が変化することに起因して、主液室160と副液室162の間で圧力差が及ぼされることにより、例えば加振板68の駆動特性に悪影響を及ぼすおそれ等がある。
【0093】
そこにおいて、本実施形態では、可動板166の当接突部170と上蓋部材148および下蓋部材150の間に連通隙間178が形成されていることによって、該連通隙間178を通じて上述の加振板68の初期位置の変化に伴う主液室160と副液室162の間での圧力差が速やかに解消されるのであり、それ故目的とする防振効果が一層安定して得られるのである。
【0094】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であり、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0095】
例えば、前記実施形態では、上蓋部材148と下蓋部材150が軸方向に重ね合わせられると共に、両蓋部材148,150のフランジ状部152,156が本体ゴムアウタ筒金具22と支持筒金具74の間で挟圧保持されることによって、隔壁部材146が構成されていたが、下蓋部材150の外周縁部(フランジ状部156)だけを本体ゴムアウタ筒金具22と支持筒金具74の間で挟圧保持せしめると共に、上蓋部材を下蓋部材150に軸方向に重ね合わせてボルトや溶接等で固着されることによって、隔壁部材を構成するようにしても良い。
【0096】
また、可動板166は例示の如き形状や大きさ、構造等に限定されるものでない。具体的には、例えば可動板166の中央部分において上側通孔154や下側通孔158の開口面積よりも大きな外形寸法を備えて軸方向両側に突出する台地状の突部を形成して、該突部が上蓋部材148や下蓋部材150に当接して、上側通孔154や下側通孔158を閉塞するようにしても良い。それによって、主液室160に大きな振幅振動が入力された際に、可動板166が上下の蓋部材148,150に対して速やかに当接せしめられて上下の通孔154,158が閉塞されることから、主液室160から副液室162への圧力漏れの防止がより好適に図られ得る。
【0097】
また、例えば前述の台地状突部がゴム弾性板168と一体形成されることによって、可動板166の急激な変位が突部の弾性変形に基づいて緩衝されて、その結果、大きな打音や衝撃の発生が一層効果的に抑えられるという利点もある。
【0098】
また、主液室160や副液室162、平衡室88、オリフィス通路90等の形状や大きさ、構造、位置、その他の設計事項は、例示の如きものに限定されるものでなく、目的とする防振効果や製造条件等に応じて適宜に設定変更可能である。
【0099】
例えば、前記実施形態では、可動板166の変位に伴って上下の通孔154,158や連通隙間178を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、±0.1〜0.25mm程度で20〜40Hzのアイドリング振動等に相当する中周波数域の小振幅振動数と同じかそれよりも高周波数域に設定されていたが、±0.01〜0.02mm程度で60〜120Hzの走行こもり音等に相当する高周波数域の小振幅振動と同じかそれよりも高周波数域に設定されていても良い。
【0100】
また、例えば、採用される電磁式加振器96には、例示の如きものに限定されるものでなく、具体的には、例えば固定子側に永久磁石を配設すると共に、可動子側を強磁性材からなる可動部材で構成することにより、コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界によって固定子側のN極とS極を交互に増減させて、可動部材を往復駆動せしめるようにした構造のもの(原理は、例えば特開2003−339145号公報等に開示されて公知のものであるから、ここでは詳細な説明を省略する)の他、特開2000−213586号公報や特開2001−1765号公報等に開示された従来から公知の各種の電磁式アクチュエータが、何れも採用可能である。
【0101】
また、前記実施形態では、可撓性膜として薄肉のゴム膜からなるゴムダイヤフラム28が採用されていたが、例えば可撓性を有する薄肉の合成樹脂材からなるダイヤフラムが採用されても良い。
【0102】
また、本発明は、例示の如きエンジンマウントの他、能動的な防振装置に対して広く適用可能であり、例えばFF型自動車用エンジンマウント等として採用されている円筒型のエンジンマウント(例えば特開2002−155984号公報等参照。)においても、流体封入式能動型防振装置として実現する場合に適用可能であり、或いは例示の如きパワーユニットとボデー間等の二つの部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体の他、制振すべき振動対象物に対して取り付けられる制振器としても、同様に利用することが可能である。具体的には、かかる流体封入式の能動型制振器は、例えば前記実施形態に示されたエンジンマウントを、その第二の取付金具をブラケットにより制振対象物に対して固定する一方、第一の取付金具に対して、その取付板部に適当な質量のマス部材を装着することにより、能動的な制振装置を実現することが出来る。
【0103】
また、本発明は、例えば特開2002−188677号公報(特許文献1)にも示されているように、加振板や支持ゴム弾性体を挟んで受圧室と反対側に平衡室を設けたエンジンマウント等に対して適用可能である。
【0104】
加えて、本発明は、自動車用のボデーマウントやメンバマウント等、或いは自動車以外の各種装置におけるマウントや制振器などの防振装置や、そのような防振装置に用いられるアクチュエータに対して、同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面説明図であって、図3のI−I断面に相当する図である。
【図2】図1における自動車用エンジンマウントの一部を構成する第一の一体加硫成形品を示す縦断面説明図である。
【図3】図1における自動車用エンジンマウントの一部を構成する可動板を示す平面説明図である。
【図4】図1における自動車用エンジンマウントの一つの要部を拡大して示す縦断面説明図である。
【図5】図1における自動車用エンジンマウントの別の一つの要部を拡大して示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0106】
10 自動車用エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
28 ゴムダイヤフラム
68 加振板
86 受圧室
88 平衡室
90 オリフィス通路
96 電磁式加振器
146 隔壁部材
148 上蓋部材
150 下蓋部材
154 上側通孔
158 下側通孔
160 主液室
162 副液室
166 可動板
170 当接突部
176 挟入部
178 連通隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結することにより、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室を形成すると共に、壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された容積可変の平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入し、該受圧室の壁部の別の一部を変位可能に弾性支持された加振板で構成して該加振板を駆動手段で加振駆動せしめて該受圧室を圧力制御するようにする一方、隔壁部材を該第二の取付部材に固定的に支持せしめて該受圧室を仕切り、該隔壁部材を挟んで該本体ゴム弾性体側に主液室を形成すると共に該加振板側に副液室を形成して、それら主液室と副液室を該隔壁部材に形成された透孔を通じて相互に連通させると共に、該主液室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式能動型防振装置において、
上隔壁板と下隔壁板を重ね合わせて前記隔壁部材を構成して、該上隔壁板に設けた上側通孔と該下隔壁板に設けた下側通孔で前記透孔を形成する一方、該上下の通孔の対向面間の全体に亘って広がる大きさの可動板を該上隔壁板と該下隔壁板の間に配して、該可動板の外周部分において両面に突出する弾性突部を該可動板の周上で相互に離隔して複数形成し、それらの弾性突部を該上隔壁板と該下隔壁板の間で挟圧保持せしめることにより、該可動板の一方の面を該上側通孔を通じて該主液室に、該可動板の他方の面を該下側通孔を通じて該副液室に、それぞれ臨ましめて、該主液室と該副液室の圧力差が該可動板の両面に及ぼされた際に該可動板が該上隔壁板と該下隔壁板の間で変位せしめられるように為し、該可動板が変位して該上隔壁板や該下隔壁板に当接することによって該上側通孔や該下側通孔が該可動板で閉塞されるようにする一方、該可動板の変位に伴って該上下の通孔を通じて流動せしめられる流体の共振周波数を、前記加振板の加振駆動による前記受圧室の圧力制御で防振すべき振動の周波数以上に設定すると共に、該可動板の該弾性突部が形成されていない外周部分と該上隔壁板および該下隔壁板の間に連通隙間を形成して、該主液室と該副液室を該上下の通孔と該連通隙間を通じて相互に連通させたことを特徴とする流体封入式能動型防振装置。
【請求項2】
前記可動板として、ゴム弾性板に対して、該ゴム弾性板よりも硬質の拘束板部材を固着せしめた略積層構造体を採用すると共に、該拘束板部材の外周部分において周上の複数箇所に切欠部を設け、該切欠部に位置する該ゴム弾性板から突出するようにして前記弾性突部が一体形成されている請求項1に記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項3】
前記上側通孔を前記上隔壁板の中央部分に一つ開口形成する一方、前記下側通孔を、前記下隔壁板において該上側通孔よりも小さな開口面積で複数形成した請求項1又は2に記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項4】
前記駆動手段が、コイルへの通電によって駆動力を発生する電磁式の駆動手段である請求項1乃至3の何れかに記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項5】
略筒体形状を有する前記第二の取付部材の一方の開口部側に離隔して前記第一の取付部材を配設すると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材を弾性連結する前記本体ゴム弾性体によって該第二の取付部材の該一方の開口部を流体密に閉塞する一方、該第二の取付部材の他方の開口部に前記加振板を配設すると共に、該加振板の外周縁部を該第二の取付部材の該他方の開口部に対して環状の支持ゴム弾性体で弾性連結することにより、該第二の取付部材の該他方の開口部を流体密に閉塞せしめて、該本体ゴム弾性体と該加振板の対向面間に前記受圧室を形成すると共に、該加振板を挟んで該受圧室と反対側に前記駆動手段を配し、更に、該本体ゴム弾性体と該加振板の対向面間の中間部分において、該第二の取付部材の軸直角方向に広がるようにして前記隔壁部材を配設して、該隔壁部材の外周縁部を該第二の取付部材によって固定的に支持せしめた請求項1乃至4の何れかに記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体の外周側を覆うようにして略円環形状に広がるゴムダイヤフラムによって前記可撓性膜を構成し、該ゴムダイヤフラムの外周縁部を前記第二の取付部材の前記一方の開口部側に固着せしめると共に、該ゴムダイヤフラムの内周縁部を前記第一の取付部材に固着することによって、該本体ゴム弾性体を挟んで前記受圧室と反対側に前記平衡室を形成した請求項5に記載の流体封入式能動型防振装置。
【請求項7】
自動車のパワーユニットと車両ボデーの一方に対して前記第一の取付部材を固定すると共に、それらの他方に対して前記第二の取付部材を固定することによって自動車用エンジンマウントを構成するように為し、前記オリフィス通路をエンジンシェイクに相当する低周波数域にチューニングすると共に、エンジンシェイクに相当する±1.0mm以上の低周波大振幅振動が入力された際には前記可動板が前記上隔壁板または前記下隔壁板に当接することによって前記透孔が実質的に遮断されるようにする一方、アイドリング振動や走行こもり音に相当する±0.1mm以下の中乃至高周波数域の小振幅振動が入力された際には前記可動板の前記上隔壁板や前記下隔壁板への当接が回避されて前記透孔が開口状態に維持されるようにした請求項1乃至6の何れかに記載の流体封入式能動型防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−17134(P2006−17134A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192441(P2004−192441)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】