説明

浮遊式生簀用枠体の表面処理方法

【課題】 高い耐食性及び耐磨耗性を有すると共に、海洋を汚染することなく、且つ耐用年数を大幅に伸ばして維持管理費の経済性を向上することができる浮遊式生簀用枠体の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 鋼管1からなる浮遊式生簀用枠体の表面を、先ず、サンドブラストで研磨して刻みを付けた後、アルミニウム又は亜鉛を溶射して金属被膜による溶射層2を形成し、次いでこの溶射層2の表面にパラフィン混入樹脂層2を含む低分子合成樹脂液を塗布し第1保護層5を形成した。とくに、高い表面強度を要する箇所、例えば、海水面に近接する部分、作業用の船舶と接触する部分、固定用ロープの締結部分等には、さらに高分子合成樹脂液を塗布して第2保護層6を形成して仕上げた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内海や沿海等において魚の養殖に使用される生簀、とくに鋼管を組み合わせて構成された浮遊式生簀用枠体の表面処理方法に関し、枠体表面に防食用金属を溶射して被膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮遊式生簀用枠体は、矩形や多角形に形成された鋼管の主枠材と、鋼管の網吊兼手摺材との相互間を連結材によって全体が連結された剛体構造とされている。そして、これら鋼管としては亜鉛メッキ鋼管が使用され、組立て後は防錆処理として生簀枠体の表面全体に塗料を塗布して仕上げられる。亜鉛メッキ鋼管が用いられた生簀用枠体は、耐用年数が2〜3年間と短く、これを伸ばすために、耐用年数に達する前に定期的に表面に塗料を塗布して防錆処理が行われるが、これには多大な労力とコストがかかるという問題があった。また、塗料や亜鉛が海中に溶け続けるため、海水汚染を起こす原因となるおそれもあった。そこで、従来、橋桁等の海中に没する構造物表面の経年劣化による腐食・剥落防止のために、銅などの防食用金属を溶射して被膜を形成する技術がある。
【0003】
金属溶射被膜処理の公知技術としては、(例えば、特許文献1参照。)がある。この金属溶射被膜処理方法では、海水に没する鉄鋼構造物の表面に銅または銅合金を溶射し、その上から有機質材料で封孔処理を行い、さらにその上に銅または銅合金を溶射する防食方法が提案されている。また、船体外板を長期に亘って海洋生物の付着から保護し、かつ防食するために、アルミニウムまたは亜鉛よりなる第1溶射層、電気的絶縁材料よりなる第2溶射層、銅または銅合金等の第3層を順次積層した船体外板を長期に亘って海洋生物の付着から保護し、かつ防食するものが提案されている(特許文献2参照。)。また、溶射処理ではないが、チタン線で亀甲編み等の必要巾で長尺に製作してから、全体に連続して樹脂コーティングを施し、金網の捩れ部分が波や潮流によって摩擦し、磨耗することが無く、もし一部の樹脂コーティングが剥がれても海水によって腐食することがない二重構造の養殖生簀用金網等が提案されている(特許文献3参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−145776号公報
【特許文献2】特開昭58−94459号公報
【特許文献3】特開平7−50954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、浮遊式生簀用枠体は、風雨に晒されて経年劣化することのみならず波の上下動によって常に強い荷重が加わり、とくに台風時などに発生する強烈な波のうねり等により枠体に生じる捩れや固定用ロープ締結部分の磨耗により、塗装や防食溶射処理した表層部分に剥落が起こるという問題があった。
本発明は高い耐食性及び耐磨耗性を有すると共に、海洋を汚染することなく、且つ耐用年数を大幅に伸ばして維持管理費の経済性を向上することができる浮遊式生簀用枠体の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため、本発明の浮遊式生簀用枠体の表面処理方法は、鋼管からなる浮遊式生簀用枠体の表面に防食用金属を溶射して被膜を形成する方法において、枠体の表面をサンドブラスト処理した後に、アルミニウム又は亜鉛をフレーム溶射して金属被膜層を形成し、該金属被膜層表面に合成樹脂及びパラフィンからなる保護層を形成することを第1の特徴とする。また、合成樹脂液がビスフェノール樹脂又はビニールエステル樹脂であることを第2の特徴とする。さらに前記保護層の表面にノボラック型エポキシ樹脂又はノボラック型ビスフェノール樹脂又はノボラック型ビニールエステル樹脂からなる高分子合成樹脂層を形成することを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鋼管表面の腐食・表層部剥落防止効果が得られるだけでなく、鋼管の耐磨耗力を著しく増大させることができるという優れた効果がある。特に、金属溶射被膜面にビスフェノール樹脂又はビニールエステル樹脂又はパラフィン等の合成樹脂液を塗布することにより、耐磨耗性及び金属溶射面の酸塩基に対する化学的耐用性を高めて、鋼管表面の劣化を長期に亘って防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明に係る浮遊式生簀用枠体の表面処理方法を示す工程図、図2は本発明方法による処理面の要部断面図である。
【実施例】
【0009】
本実施例は、鋼管1からなる浮遊式生簀用枠体の表面を、先ず、サンドブラストで研磨して刻みを付けた後、アルミニウム又は亜鉛を溶射して金属被膜による溶射層2を形成し、次いでこの溶射層2の表面に合成樹脂液を塗布し保護層5を形成したものである。とくに、高い表面強度を要する箇所、例えば、海水面に近接する部分、作業用の船舶と接触する部分、固定用ロープの締結部分等には、さらに合成樹脂液を塗布して第2の保護層6を形成して仕上げたものである。以下、図1及び図2に基づいてこの防食被膜形成処理を具体的な工程手順に従って説明する。
【0010】
まず、鋼管1表面にサンドブラストを行って金属溶着に必要な刻みを加工する。この場合、一次ブラストとして処理面全体に細かい刻みを付ける。研削材としては、粒度の小さい珪砂研削材、例えば、珪砂5号A(宇部サンド工業株式会社製、粒径1.6〜0.2mm)又は銅ブラスを用いる。次いで、二次ブラストとして、一次ブラストより粗めの刻みを付ける。用いる研磨剤は、珪砂5号A(粒径1.6〜0.2mm)、珪砂3号A(粒径3.3〜0.8mm)、アルミナ、ガーネット等である。この場合、一次ブラストより噴射距離を近ずけ、ノズルと被処理面との距離は50〜70mmであるのが好ましい。これにより溶射に必要な深さの刻み1aを成形体表面に設けることができる。
【0011】
次に、成形体の表面に、アルミニウム又は亜鉛を溶射して表面に溶射層2を形成する。この溶射層2は密着層2aと粗着層2bとから形成し、最終的な溶射層2の厚さは110〜130ミクロン程度にする。まず、密着層2aを形成するために、通常の溶射距離より極端に火を近づけて溶射スピードを上げ、LP・酸素ガス圧力も上げて、膜厚が25〜35ミクロン程度になるように、1回目の溶射を行う。この場合の溶射距離は50〜70mm、圧力は、酸素ガスが55〜60kg/cm2、LPガスが40〜50kg/cm2、溶射スピードは0.2〜0.5m/sで被処理面に対して強い活着力と気孔を少なくすることを目的とする。次いで、密着層2aを形成する2回目の溶射を行う。LP・酸素ガス圧力は上記と同様で、溶射距離は50〜100mm、圧力、酸素ガス55〜60kg/cm2、LPガス40〜50kg/cm2、溶射スピード 0.2〜0.5m/s程度で行い、40〜50ミクロンの膜厚を得る。この都合2回の溶射で金属被膜の合計膜厚が70〜80ミクロン程度になる。
【0012】
次いで、溶射層の気孔を利用し、金属溶射被膜と表面処理剤との融合を図るため、粗着層2bを溶射する。この場合、LP・酸素ガス圧力を下げ、距離も離し、溶射スピードを落とす。溶射距離150〜200mm、圧力、酸素ガス40〜45kg/cm2、LPガス30〜35kg/cm2で行い、さらに40〜50μの膜厚を得る。以上3回の溶射で金属被膜の合計膜厚が110〜130μ程度になるが、粗着層2bには気孔が多く存在し、表面処理の際の合成樹脂等のプライマーの浸透性が良好になる。
【0013】
この後、表面処理1として金属被膜(溶射層)2の表面に浸透性のある低分子合成樹脂液を塗布して低分子合成樹脂層3を形成する。ここで使用される合成樹脂液は市販のFRPの濃縮液をアセトン等の希釈液で3〜4倍程度に希釈し、ハケなどで溶射面に手塗りするかスプレーガンを使用して素材内部まで十分浸透させる。金属溶射面に合成樹脂液を塗る目的は、金属溶射面の耐アルカリ性又は耐酸性を増し、風化を防止して耐用性を高めるためである。上記低分子合成樹脂液としては、淡赤色透明液体であるビニールエステル系樹脂液体やビスフェノール系樹脂液体が挙げられ、具体的には硬化剤1%添加、比重1.15〜1.20の商品名ポリキュートPC−760NやポリキュートPC−701TN(九州塗料株式会社製造)を使用できる。ポリキュートPC−760Nの性状は、粘度:250〜550c.p.s.(25℃)、組成:不飽和ポリエステル樹脂55%及びスチレンモノマー45%、硬化特性:P.L.20〜50分(25℃)である。またポリキュートPC−701TNの性状は、粘度:600〜900c.p.s.(25℃)、組成:ビニールエステル樹脂55%及びスチレンモノマー45%、硬化特性:P.L.35〜55分(25℃)でしたものである。
【0014】
次いで、表面処理2として仕上及び保護層となるパラフィン混入樹脂層4を形成する。これは表層を外気と遮断することを目的として、ビニールエステル系樹脂にパラフィンを10〜30%加えて主剤とし、溶剤としてスチレンモノマを使用する。希釈割合は 樹脂に対して溶剤 6:4、5:5、4:6の割合。硬化剤を2〜3%添加する。被膜厚は30〜50μが適正である。すなわち、パラフィンにより外気中の酸素を遮断して酸化を防ぎ、高い防食効果が得られる。また、パラフィンは柔軟性が高く、船舶の接触等の衝撃を緩和するばかりでなく、耐候性が高く、アルカリ、酸に対して高い防食効果を示す。以上、低分子合成樹脂層3及びパラフィン混入樹脂層4により第1保護層5が得られる。
【0015】
さらに、とくに強度を必要とする箇所、例えば、海水に近接する部分、作業用の船舶と接触する部分及び固定用ロープ締結部分に対しては、高分子合成樹脂層6を形成して更なる表面処理3を施す。これには、ノボラック型のエポキシ樹脂、ノボラック型のビニールエステル樹脂、ノボラック型のビスフェノール樹脂を主剤とし、溶剤に、例えば、スチレンモノマーを用いる。希釈割合は、樹脂に対して溶剤が3:7〜7:3の割合。硬化剤を2〜3%添加する。塗布はハケ又はスプレーガンで行う。塗膜厚は30〜70μとする。ノボラック型樹脂の特性は、酸、アルカリに対して高い防食効果を示す。高分子であるため強度、耐熱性に優れ、柔軟性があり、金属に対して高い接着性能を有する。これにより第2の保護層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る浮遊式生簀用枠体の表面処理方法を示す工程図である。
【図2】本発明方法による処理面の要部断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 浮遊式生簀用枠体の鋼管
1a 刻み
2 溶射層
2a 密着層
2b 粗着層
3 低分子合成樹脂層
4 パラフィン混入樹脂層
5 第1保護層
6 高分子合成樹脂層(第2保護層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管からなる浮遊式生簀用枠体の表面に防食用金属を溶射して被膜を形成する方法において、枠体の表面をサンドブラスト処理した後に、アルミニウム又は亜鉛をフレーム溶射して金属被膜層を形成し、該金属被膜層表面に合成樹脂及びパラフィンからなる保護層を形成することを特徴とする浮遊式生簀用枠体の表面処理方法。
【請求項2】
合成樹脂がビスフェノール樹脂又はビニールエステル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の浮遊式生簀用枠体の表面処理方法。
【請求項3】
前記保護層の上にノボラック型エポキシ樹脂又はノボラック型ビスフェノール樹脂又はノボラック型ビニールエステル樹脂からなる高分子樹脂層を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の浮遊式生簀用枠体の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−325553(P2006−325553A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157596(P2005−157596)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(502431559)
【Fターム(参考)】