説明

液体を用いたマイクロチップ装置

本発明は、液体を用いたマイクロチップ装置に関する。より詳しくは本発明は、液体を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および該少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから導入された各液体が前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体混合装置であって、前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体間の混合を促進するための混合促進手段を有する液体混合装置を提供する。また本発明は、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法のための電気泳動装置およびマイクロチップ電気泳動装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ(微小)流体装置およびマイクロ化学分析装置に関する。より詳しくは、マイクロチャンネル内で微少量の2つ以上の液体(以下“試薬溶液”ともいう)を合流させて効率よく混合するための液体混合装置及び液体混合方法に関する。とりわけ本発明は、マイクロチャンネル内で混合される液体間での化学反応により、例えば、目的の反応生成物を効率よく生産するためのマイクロリアクター等に関する。
【0002】
さらに本発明は、分析対象物の変性剤の濃度勾配を利用して分析対象物を分離・分析するための化学分析システムに関する。より詳しくは、本発明は、核酸変性剤の濃度勾配を利用して2本鎖核酸(以下単に“核酸”ともいう)を塩基配列の違いにより分離するための変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)、そのための変性剤濃度勾配の形成方法、そのようなDGGEをマイクロチャンネル内で行うためのマイクロチップ電気泳動装置等に関する。
【0003】
特に本発明は、マイクロチャンネル内で前記緩衝剤同士を効率的に混合することができ、DGGEに有用なマイクロチップ電気泳動装置等に関する。
【背景技術】
【0004】
マイクロチャンネル構造を持つ化学分析装置の一例は、マイクロチップ電気泳動装置である。以下では、マイクロチップ電気泳動装置を例にとって本発明の技術背景を説明する。
【0005】
核酸やタンパク質などの生体高分子を分離・精製あるいは分析する手段として、電気泳動がしばしば用いられる。電気泳動は、電解質溶液を充填したアガロースやポリアクリルアミドなどのゲルやマイクロチャンネル(キャピラリー)に電位をかけ、その中で荷電粒子を移動させ、移動速度の違いにより粒子を分離するものである。2本鎖核酸を電気泳動する場合は、移動速度に影響を与える要因は分子量(分子の長さ)のみであるので、分子量(長さ)の差によって分離することができる。
【0006】
2本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離する方法として、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)が知られている。DGGEは、核酸の変異検出や一塩基多型(SNP)の検出などに利用されている。また近年、活性汚泥法やメタン発酵のような有機性排水・廃棄物処理プロセスにおいてまたは微生物を用いて汚染土壌・地下水を浄化修復するバイオレメディエーションなどにおいて活躍する微生物群集の構造解析などにDGGEが利用されている。この微生物群集の構造解析では、全微生物が共通して持っている配列である16S rRNA遺伝子がしばしば利用される。すなわち、対象とする微生物群集を含む試料から核酸を抽出してDGGEで分離する。DGGEで分析される試料は、16S rRNA遺伝子のうち複数の微生物に共通する配列部分を増幅できるPCR用プライマーで増幅した増幅産物である。DGGEでは、16S rRNA遺伝子の塩基配列の違いにより微生物群集を構成する主な微生物に由来する核酸をゲル上で分離できる。同一ゲル上の複数のレーン間においては、同一泳動距離にある核酸は同一の塩基配列を持つと判断できるため、対象とした微生物群集の構成の違いを判断できる。例えば、同一ゲル上の別のレーンに特定の微生物の16S rRNA遺伝子を同様に操作して泳動する。その核酸バンドの位置と比較することにより、その微生物が対象とする微生物群に存在するか否かを判定することもできる。
【0007】
DGGEの欠点は、ゲル作製や電気泳動に時間を要すため、高スループット(高速大量処理)の解析には向かないこと、ゲルの寸法が約20cm×約20cm×約1mmと大きいため大型の恒温槽を必要とし装置全体が大型になること、マイクロチップ電気泳動と比較すると分解能が劣ることなどである。
【0008】
さらに、変性剤濃度勾配ゲルを作製する際には、手作業の煩雑な操作を要し、ゲルの変性剤濃度勾配を一定にすることが困難である。このため、DGGEにより微生物群集構造を解析する場合、別々のゲル間でのデータの適正な比較は困難である。
【0009】
一方、1990年代の初めに、マンツが化学分析、生化学分析に必要な全ての要素を1枚のチップ上に組み込む微小化学分析装置、いわゆるマイクロタス(μTAS)の概念を提唱して以降、様々なタイプのマイクロタスが開発されてきた。
【0010】
マイクロタスの一分野に属するマイクロチップ電気泳動では、微細加工技術により、幅、深さともに10〜100μm程度の微小なチャンネルを形成させた基板上に、もう1枚の基板を接着させたマイクロチップを用いる。一般的には、DNAやRNAの分子量測定に利用される。DNAやRNAの分子量測定では、チャンネル表面を化学修飾し、電気浸透流を抑えた状態で、直鎖のポリアクリルアミドやヒドロキシメチルセルロースなどの高分子マトリックス溶液をチャンネル内に充填し、DNAやRNAの分離を行う。従来のアガロースゲル電気泳動が、30分〜1時間の泳動時間を要するのに対して、マイクロチップ電気泳動装置は10分以下で泳動が終わり、分析時間の短縮ができる。試料、試薬の消費量が少ないなどの利点がある。
【0011】
マイクロチップ電気泳動装置のさらなるマイクロタス化を目指し、ラムゼー(特表平10−507516号公報;特許文献1)は、化学物質を分析または合成するマイクロチップ実験装置を提案している。このマイクロチップ実験装置は、対象物質が充填されたリザーバーから他のリザーバーに向けて対象物質を運ぶために、複数のリザーバーの電位を同時に制御することを特徴としている。しかし、この中では、2本鎖核酸を分子量の違いにより分離しているにすぎず、2本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離していない。
【0012】
ナップ(特表2001−521622号公報;特許文献2)は、ミクロ流体工学的デバイスにおける核酸分析方法と核酸の融点分析方法を提案している。この中で、化学変性剤の濃度勾配とオリゴヌクレオチドプローブを利用して、核酸配列の変異を検出している。しかし、あらかじめ目的の核酸試料に対して、固有のオリゴヌクレオチドプローブを設計する必要があるため、塩基配列が既に知られている変異しか検出できず、塩基配列が未知の変異は検出できない。
【0013】
べック(特開平8−261986号公報;特許文献3)は、マイクロチップ上で、電気浸透流を用いた液体混合方法と液体混合装置を提案している。しかし、この中ではマイクロチップ上での液体混合方法と装置を提供しているにすぎず、変性剤濃度勾配や2本鎖核酸の分離には言及していない。
【0014】
リゲッティ(特表平10−502738号公報;特許文献4)は、マイクロチップ上で、粘性ポリマーを利用した2本鎖核酸断片中の点変異を検出する方法を提供している。しかし、経時的な温度勾配を利用しており、別途温度制御のための専用コンピュータプログラムを必要とする。
【0015】
馬場(特開2003−66003号公報;特許文献5)は、水溶性高分子が濃度勾配をつけられマイクロチャンネル内に泳動液として充填されているマイクロチップ電気泳動装置を提案している。しかし、マイクロチップ上で実現するのは水溶性高分子の濃度勾配であるため、核酸の分子量測定は可能であるが、2本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離することはできない。特にその泳動液の濃度勾配形成には、濃度の異なる緩衝液を順に充填していくという煩雑な作業を伴う。
【0016】
以上説明したように、従来のDGGEには、実験操作が煩雑なこと、分析時間が長いこと、高スループットの分析には向かないこと、大型の装置を必要とすること、キャピラリー電気泳動に比較すると分解能が劣ることなどの欠点があった。また、DGGEにより微生物群集構造を解析するような場合、別々のゲル間でのデータの比較が困難であるという欠点があった。さらに、これまで提案されているマイクロチップ電気泳動装置を含むマイクロタスは、核酸の分子量測定であるか、別途温度制御等のための専用コンピュータプログラムを必要とするか、あらかじめ特定の塩基配列を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブの設計を必要とし、未知の2本鎖核酸断片を塩基配列の違いにより分離することができない。
【特許文献1】特表平10−507516号公報
【特許文献2】特表2001−521622号公報
【特許文献3】特開平8−261986号公報
【特許文献4】特表平10−502738号公報
【特許文献5】特開2003−66003号公報
【特許文献6】特開2001−120971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
液体が混合しにくいという問題は、マイクロチップ電気泳動の場合のみならず、マイクロチャンネル内で複数の液体を混合する場合の一般的な問題である。既に述べたようにチャンネルの幅や深さが小さくなると、チャンネル内の流動に関するレイノルズ数が非常に小さくなる。レイノルズ数が100以下になると、チャンネル内の流動は安定な層流となりやすく、合流した液体間に乱流拡散が生じにくい。したがって、実質的には界面での分子拡散によってしか液体が混合されず、これが迅速な混合を妨げる。特にチャンネル内の流速が遅い場合、この傾向は顕著である。前記の問題は、分析用マイクロチップやマイクロリアクターなどのマイクロチップ装置全般において、実験操作の簡略化、分析および反応時間の短縮化、高スループット化、マイクロチップの小型化、高精度化(例えば、高分解能化)を妨げる要因となっていた。
【0018】
前記の問題の解決策としてチャンネルを長くする方法がある。例えば、2つの液体導入用マイクロチャンネルを1つの混合用マイクロチャンネルに接続して単純に2液を混合する構造(図1又は図29)において、混合用マイクロチャンネルを長くして十分な混合を行うことが考えられる(図2又は図29)。しかし、この場合、混合用マイクロチャンネルが大きな面積を占有するため装置の小型化が困難になること、および液体がチャンネルを通過するのに時間を要するため分析時間や反応時間が長くなるという欠点がある。
【0019】
別の解決策として、阿部らは、リザーバーからのチャンネルを分岐させ、分岐したチャンネルを交互に連結することにより、液体を混合しやすくした液混合装置を提案している(特開2001−120971;特許文献6)。しかし、この方法では、前方を流れる液体と後方を流れる液体とが混合されるため、流れ方向に濃度勾配を形成させるような定量的な濃度制御を行うことができない。
(1)本発明の目的は、マイクロスケールで微少量の液体を迅速に混合できかつ定量的な濃度制御が可能である液体混合装置および液体混合方法を提供することである。
(2)本発明の更なる目的は、マイクロスケールで行われる実験操作の簡略化、分析および反応時間の短縮化、並びに高スループット化、さらにはチップの小型化、高精度化(例えば、高分解能化)を可能にするために、本発明者により見出された一連の液体混合技術を適用した分析用マイクロチップ(例えば、マイクロチップ電気泳動装置)およびマイクロリアクターを提供することである。
【0020】
既に述べたように、従来のDGGEには、実験操作が煩雑なこと、分析時間が長いこと、高スループットの分析には向かないこと、大型の装置を必要とすること、マイクロスケールでの分析と比較して分解能が劣るなどの問題がある。
(3)本発明の更なる目的は、マイクロチップ上でDGGEを行うためのマイクロチップ電気泳動装置および電気泳動法を提供することである。
【0021】
DGGEをマイクロチップ上で行うには、変性剤を異なる濃度で含有する複数の緩衝液をマイクロスケールで混合することが必要とされる。例えば、変性剤含有緩衝液と変性剤を含有しない緩衝液とをそれらの混合比を連続的に変化させながら1つのマイクロチャンネル内に導入し、その混合比の変化による変性剤濃度勾配を形成することが必要である。有用なDGGE用マイクロチップを提供するには、正確で再現性の高い変性剤濃度勾配を形成することが重要である。
【0022】
しかしながら、既に述べた通りマイクロチャンネル内では液体同士が混合しにくいという問題がある。マイクロチャンネル内で合流した濃度の異なる2つの緩衝液も混ざり合わずに層状の流れを形成する傾向があるため、チャンネルの幅方向に均一である濃度勾配を得るのに時間がかかり、結果的に分析時間の短縮化が妨げられる。図2のように長いチャンネルを使用して時間をかけて混合を行うなら、迅速に所定の濃度勾配を得ることは難しい。また、図3に示される混合方法(特開2001−120971号に記載されている)では、複数の箇所で前方を流れる液体と後方を流れる液体が混合されるため、DGGEに必要とされる正確な濃度勾配を形成することは難しい。このように従来の混合方法では、マイクロスケールで要求される濃度勾配を正確に形成するという要求を満足できるものではなく、濃度勾配の形成を精密かつ自在に制御することも困難である。
(4)本発明の更なる目的は、変性剤を異なる濃度で含有する複数の緩衝液をマイクロチャンネル内で迅速に、特にチャンネルの幅方向での均一な混合ができ、DGGEに有用な変性剤濃度勾配を形成できるマイクロチップ電気泳動装置および電気泳動法を提供することである。
(5)本発明の更なる目的は、本発明者により見出された液体混合の促進のための一連の技術をマイクロスケールでの緩衝液同士の混合に適用することにより、DGGEに特に有用なマイクロチップ電気泳動装置および電気泳動法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
[液体混合装置および液体混合方法]
前記の目的(1)および(2)を達成する本発明は、液体を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから導入された各液体が混合用マイクロチャンネル内で合流する液体混合装置であって、前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体間の混合を促進するための混合促進手段を有する液体混合装置に関する。
【0024】
本発明の好ましい態様には、混合促進手段が液体間の界面の面積を増加する手段である第1の態様(態様1−1、態様1−2、態様1−3および態様1−4)、および混合促進手段が液体間の界面を不安定化する手段である第2の態様(態様2−1、態様2−2および態様2−3)が含まれる。
【0025】
態様1−1
本発明の態様1−1は、混合促進手段として、混合用マイクロチャンネル内で合流する液体間の接触界面を増やすように各液体の流量(流速)を制御する機構を有する。
【0026】
態様1−1の装置の混合促進手段は、液体導入用マイクロチャンネルに導入する液体の流量を他の液体導入用マイクロチャンネルと独立して制御できる1つ以上の液体導入手段である。
【0027】
態様1−1の一例では、混合促進手段は、好ましくは、前記液体導入手段が流量を制御できるポンプ、液体導入用マイクロチャンネルに設けられたバルブ、およびそれらの組合せである。
【0028】
態様1−1の別の例では、前記液体導入手段は、液体導入用マイクロチャンネルの各導入部に設けられた第1の電極と、前記混合用マイクロチャンネルの排出部に設けられた第2の電極とから構成され、第1と第2の電極間に電圧を印加することにより、各液体導入用マイクロチャンネルに電気浸透流を生じさせる。
【0029】
態様1−1に使用される液体混合方法の一例は、2つ以上の液体導入用マイクロチャンネルを通じて2つ以上の液体を導入し、各液体導入用マイクロチャンネルが共通地点で合流している混合用マイクロチャンネル中に液体を導入して混合する工程であって、液体導入用マイクロチャンネルから導入される液体の流量を、他の液体導入用マイクロチャンネルからの流量と異なる流量とすることにより、混合用マイクロチャンネル内で合流した液体間に形成される接触界面の面積を増加させる工程を含む。
【0030】
態様1−1に使用される液体混合方法の別の例では、液体導入用マイクロチャンネルに導入される各液体の流量をポンプにより制御すること、液体導入用マイクロチャンネルに設けられたバルブにより各液体の流量を制御すること、およびそれらの組合せにより各液体の流量を制御することを含む。
【0031】
態様1−1に使用される液体混合方法の別の例では、液体導入用マイクロチャンネルの各導入部に設けられた第1の電極と、混合用マイクロチャンネルの排出部に設けられた第2の電極との間に電圧を印加することによって生じた電気浸透流により混合用マイクロチャンネル内へ液体を導入する工程であって、付与される電位を液体導入用マイクロチャンネル毎に変えることにより、各液体導入用マイクロチャンネル中から導入される流量を独立して制御する工程を含む。
【0032】
態様1−2
本発明の態様1−2は、混合促進手段として、複数の液体導入用マイクロチャンネルの少なくともいずれか1つに設けられた高速作動バルブを有する。
【0033】
態様1−2の一例では、高速作動バルブはピエゾ素子を用いた弁体駆動手段である。態様1−2の別の例では、チャンネルの局所的加熱による液体の体積膨張を利用して、混合用マイクロチャンネルへの微小流量の液体の吐出を高速で制御可能な手段である。態様1−2の別の例では、高速作動バルブは、液体導入用マイクロチャンネル内で微細空隙を開閉可能な弁体を駆動する手段である。
【0034】
態様1−2に使用される液体混合方法の一例では、混合用マイクロチャンネルに接続される2つ以上の液体導入用マイクロチャンネルからそれぞれ液体を導入し、混合用マイクロチャンネル内で2つ以上の液体を合流させる工程であって、複数の液体導入用マイクロチャンネルの少なくともいずれか1つに設けられた高速作動バルブを高速で開閉駆動することにより、導入される液体の流量に変動を与える工程を含む。
【0035】
態様1−2に使用される液体混合方法の別の例では、高速作動バルブを高速で開閉駆動することにより導入される液体の流量に短い時間間隔で変動を与えて、混合用マイクロチャンネル内を占める液体の割合(体積比)をチャンネル幅の方向で連続的又は断続的に変化させることにより、液体間の接触界面の面積を増加させる工程を含む。
【0036】
態様1−2に使用される液体混合方法の別の例では、高速作動バルブの開閉周期を一定とし、開閉周期の1周期のうち、バルブが開いている時間の割合(Duty比)を可変にする工程を含む。この液体混合方法では、複数の液体導入用マイクロチャンネルの少なくとも2つ以上に高速作動バルブを各々設け、複数の高速作動バルブを同期させて開閉制御する工程を含む。この液体混合方法の別の例では、混合用マイクロチャンネルに流れる液の総流量が一定になるように、複数の高速作動バルブを同期させて開閉制御する工程を含む。
【0037】
態様1−1および1−2の液体混合装置はマイクロチップに適用でき、好ましくは分析対象物を混合用マイクロチャンネルに導入できる試料導入部を更に有するマイクロチップ電気泳動装置に適用することができる。
【0038】
本発明の別の側面において、マイクロチップ電気泳動装置に使用される流量の制御機構は、混合を促進することだけでなく、分析対象物を分離するための変性剤の濃度勾配を形成することに役立つ。上記の制御機構(例えば、態様1−1、1−2およびそれらの組合せを使用できる)を使用して、導入される複数の液体(例えば、変性剤を異なる濃度で含有する液体)の流量を制御することによって、混合用マイクロチャンネル内で合流する特定の液体又は合流する液体内の試薬の濃度分布(例えば、変性剤の濃度分布)を流れ方向に形成することができる。
【0039】
態様1−3
本発明の態様1−3は、混合促進手段として、混合用マイクロチャンネルの少なくとも一部に、そのチャンネル高さをそのチャンネル幅よりも小さくすることにより形成された混合室を有する。
【0040】
態様1−3の一例では、混合対象の液体を導入する複数のマイロチャンネルが上下方向に積層して合流されて混合室に接続される。
【0041】
態様1−3の別の例では、混合室の上流に、複数の導入用マイクロチャンネルを合流させた予混合用(pre-mixing)マイクロチャンネルを有する。
【0042】
態様1−3に使用される液体混合方法の一例は、混合対象の液体を複数のマイクロチャンネルを介して導入し、導入された液体を合流させ混合室へ導入させる工程であって、それら合流液体を、チャンネル高さがチャンネル幅よりも小さい混合室へ導入する工程を含む。
【0043】
態様1−3に使用される液体混合方法の別の例では、マイクロチャンネルに導入された液体を上下方向に積層するように合流する工程を含む。
【0044】
態様1−3に使用される液体混合方法の別の例では、マイクロチャンネルに導入された液体を、合流後、1つの予混合用のマイクロチャンネルへ導入させた後に混合室へ導入する工程を含む。
【0045】
態様1−4
本発明の態様1−4は、混合促進手段として、各液体導入用マイクロチャンネルから分岐する複数の分岐チャンネルが集合して接続する合流部であって、複数の分岐チャンネル同士が3次元空間上で互い違いに配置される形態で混合用マイクロチャンネルに接続する合流部を有する。
【0046】
態様1−4の一例では、複数の基板を張り合わせて形成される層構造であって、複数の基板が分岐チャンネルのほぼ合流方向またはほぼ分岐方向で重ね合わされた層構造を有する。好ましくは、合流部のチャンネルは曲線的な形状である。
【0047】
態様1−4の装置の製法の一例は、合流部のチャンネルをフォトリソグラフィー技術を使用して製作する工程を含む。その製法の別の例は、合流部のチャンネルの断面形状を曲線的な形状に加工するとよい。
【0048】
態様1−4の別の例は、液体を導入するための複数の液体導入口を有する一群の液体導入用マイクロチャンネルおよびこれらチャンネルが接続する混合用マイクロチャンネルを有する液体混合装置であって、前記複数の液体導入口が幾何学的配置で設けられている液体混合装置に関する。その幾何学的配置の例は、直線状、円弧状、又は楕円状である。
【0049】
複数の液体導入口を有する態様1−4の一例では、各液体導入用マイクロチャンネルのチャンネル幅が混合用マイクロチャンネルよりも狭い液体導入用マイクロチャンネルが集合して混合用マイクロチャンネルが形成される。この態様の別の例は、液体の少なくとも一部を電気浸透流により駆動する装置であって、複数の液体導入口の幾何学的配置に対応するように分岐状の駆動電極が着脱自在に設置される装置である。この態様のまた別の例では、液体の少なくとも一部をポンプ圧力により駆動する装置であって、複数の液体導入口の幾何学的配置に対応するように分岐状の液圧導入管が着脱自在に設置される装置である。
【0050】
複数の液体導入口を有する態様1−4の別の例では、複数の液体導入口に対しこれとほぼ同一平面上で配置される駆動電極が設けられる。この態様の別の例では、液体導入用マイクロチャンネル群のそれぞれにポンプ圧力及び/又は電気浸透流を独立して制御可能な制御手段を有する。この態様のまた別の例では、その制御手段は、同一の液体が導入される液体導入用マイクロチャンネル群の中で、送液が行われるチャンネル数を制御することによって同一の液体の混合用マイクロチャンネルへの総流入量を変更可能とする。この態様のまた別の例では、前記制御手段は、同一の液体が導入される各液体導入用マイクロチャンネルの制御バルブを制御可能とする。前記制御手段を有する態様1−4の別の例では、同一の液体が導入される液体導入用マイクロチャンネル群に対し、その上流にチャンネル群のチャンネル数よりも少ない数の圧力ポンプ又は電気浸透流駆動機構が設けられる。
【0051】
液体導入口に駆動電極が設けられる態様1−4の一例では、前記制御手段は、各液体導入用マイクロチャンネルの電極と電源との間を独立にオンオフ制御可能である。この態様の別の例では、その電気浸透流駆動機構は、前記電源と電極との間をオンオフするスイッチ又はリレーを含む。
【0052】
態様2−1
本発明の態様2−1は、混合促進手段として、液体導入用マイクロチャンネルおよび/または混合用マイクロチャンネル内の液体を加熱するためのヒータである。
【0053】
態様2−1の一例では、混合促進手段が、混合用マイクロチャンネル内の液体を下側から加熱するためのヒータである。
【0054】
態様2−1の別の例では、複数の液体導入用マイクロチャンネルの少なくとも1つを加熱するための少なくとも1つのヒータを含み、複数の液体導入用マイクロチャンネルが、ヒータによる加熱によって温度が高くなる順番で垂直方向に下から積層するように混合用マイクロチャンネルに接続される。
【0055】
態様2−1に使用される液体混合方法の一例は、複数の混合対象の液体を複数の液体導入用マイクロチャンネルを介して導入し、複数の液体を合流させて混合用マイクロチャンネルへ導入する工程であって、ヒータにより液体導入用マイクロチャンネルおよび/または混合用マイクロチャンネル内の液体を加熱する工程を含む。この液体混合方法の別の例では、複数の液体を上下方向に積層して合流させ、混合用マイクロチャンネルへ導入する工程を含む。この液体混合方法のまた別の例では、ヒータにより混合用マイクロチャンネル内の液体を加熱する工程を含む。この液体混合方法の別の例では、ヒータにより混合用マイクロチャンネル内の液体を下側から加熱する工程を含む。
【0056】
態様2−1に使用される液体混合方法の別の例では、複数の液体導入用マイクロチャンネルの少なくとも1つのチャンネル内の液体をヒータにより加熱し、複数の液体導入用マイクロチャンネル内の液体を、温度が高い順に下から上へ積層して合流させるように混合用マイクロチャンネルへ導入する工程を含む。
【0057】
態様2−2
本発明の態様2−2は、混合促進手段として、混合用マイクロチャンネルで合流する液体間に形成された界面を乱すための機械的変動手段を有する。
【0058】
態様2−2の一例では、機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に設置された可動揚力面(lifting surface)、回転子または揺動子である。
【0059】
態様2−2の別の例では、機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネルの壁面に設置された振動子である。態様2−2のまた別の例では、機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネルの壁面外に設置された振動子である。ここで、可動揚力面とは、動作することによって上下面に圧力差を生じ、後方へ渦度を形成する面のことであり、好ましくは、断面が翼型形状をしたフラップでもよいし、単純な平板面であってもよい。
【0060】
態様2−2の別の例では、回転子または揺動子が磁力により駆動される。
【0061】
態様2−2に使用される液体混合方法の一例は、2つ以上の液体導入用マイクロチャンネルを通じて2種類以上の液体を前記液体導入用マイクロチャンネルが共通地点で合流している混合用マイクロチャンネル内に導入して混合する工程であって、液体導入用マイクロチャンネルの合流部付近(混合用マイクロチャンネルの上流部)において、合流する液体間の接触界面を機械的変動手段によって乱す工程を含む。この液体混合方法の別の例では、機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネルの外壁に設置された振動子、あるいは混合用マイクロチャンネル内に設けられた可動揚力面、回転子又は揺動子である。
【0062】
態様2−2に使用される液体混合方法の別の例は、合流する液体を混合用マイクロチャンネル内に各液間の接触界面を保持するように導入する工程、および液体の導入の完了後、流動を静止してから、振動子によって各液間の接触界面を不安定化する工程を含む。この液体混合方法の一例では、混合用マイクロチャンネルの壁面に設置されている振動子によって各液間の接触界面を不安定化する工程を含む。この液体混合方法の別の例では、混合用マイクロチャンネルの壁面外に設置されている振動子によって、振動を混合用マイクロチャンネル内の液体に伝播させ、各液間の接触界面を不安定化する工程を含む。
【0063】
態様2−3
本発明の態様2−3は、混合促進手段として、混合用マイクロチャンネル内に多数配列された微小な構造物を有する。態様2−3の一例では、微小構造物が混合用マイクロチャンネルのチャンネル幅よりも充分に小さな突起または溝である。
【0064】
混合促進手段を有する態様の組合せ
本発明の液体混合装置および方法には、態様1−1から2−3に示される混合促進手段を単独で使用することもできるし、それらをあらゆる組合せで使用することもできる。
【0065】
好ましい組合せの一例には、流量制御により液体間の接触界面を増加するための第1の態様と、流量制御により増加した液体間の接触界面を破壊するための第2の態様との組合せである。特に好ましい組合せには、態様1−1の流量独立制御と、態様2−1のヒータとの組合せが含まれる。態様1−1による流量制御によって混合用マイクロチャンネルで形成される液体間の接触界面の面積が増加すると同時に、増加した接触界面が態様2−1のヒータによる熱対流で不安定化すれば、混合が効果的に促進される。
【0066】
同様に、液体間の面積を増やすことができる第1の態様(態様1−1から1−4)の少なくとも1つと、液体間の接触界面を不安定化することができる第2の態様(態様2−1から2−3)の少なくとも1つとの組合せにより、混合を効果的に促進することができる。
【0067】
態様2−1のヒータは、他の混合促進手段と組み合わせることが容易である。例えば、態様1−3の混合室の下側または態様1−4の分岐チャンネルの合流部の下側にヒータを使用すれば、加熱される液体界面が増えるので好ましい。態様2−3の微小細構造体に熱伝導率の高い材料を使用して、これをヒータにより加熱してもよい。
【0068】
同じタイプの混合促進手段であっても、それらが同じマイクロチップ上に適用可能であるなら、1つのマイクロチップ上に一緒に適用することができる。例えば、態様1−1または1−2の流量制御による合流液体の接触界面の増加と、態様1−3または態様1−4のチャンネル形状に基づく合流液体の接触界面の増加とを同時に使用してもよい。同様に、同一のチャンネル上に直列に適用可能であれば、1つのチャンネル上に複数の混合促進手段を設置することができる。なお、温度感受性の試薬や反応体を使用する場合は、ヒータ以外の手段、例えば、態様2−2の振動子による方法を使用するとよい。
【0069】
液体混合装置および方法のマイクロチップ電気泳動装置への適用
上記の態様1−1から2−3の液体混合装置および方法は、マイクロチップ電気泳動装置に使用することができる。
【0070】
液体混合装置および方法を使用するマイクロチップ電気泳動装置の一例では、変性剤を異なる濃度で含有する少なくとも1つの緩衝液を各々導入するための液体導入マイクロチャンネル、各液体導入マイクロチャンネルから導入された緩衝液の混合による濃度勾配領域を形成するための混合用マイクロチャンネル、混合用マイクロチャンネルに分析対象物を含有する試料を導入するための試料導入部、および混合用マイクロチャンネル内での液体合流のための態様1−1から2−3までに示される少なくとも1つの混合促進手段を有する。この態様では、態様1−1から2−3の液体混合装置および方法を単独でまたはあらゆる好ましい組合せで適用することにより、変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液同士の混合を促進することができる。
【0071】
上記の各態様の液体混合手段または流量制御手段は、下記の態様Aまたは態様Bに使用することができる。それらの組合せは、本明細書の開示に従ってあらゆる態様において適用可能である。本明細書の開示は、それらの好ましい組合せおよび好ましい組合せの実施の態様を教示する。
【0072】
[分析対象物の分離装置および方法]
前記の目的(3)(4)および(5)を達成する本発明は、分析対象物の変性剤の濃度勾配を利用する分析対象物の分離装置および方法に関する。この発明の好ましい態様は、分析対象物の変性剤の濃度勾配領域を形成するためのマイクロチャンネルを含んでなり、濃度勾配領域に導入された分析対象物が電気泳動される装置に関する。本発明の分離装置および方法には、下記の通り、変性剤濃度勾配の形態が異なる“態様A”および“態様B”がある。これら態様において、典型的な分析対象物は2本鎖核酸である。2本鎖核酸には、2本鎖DNAと2本鎖RNAなどがある。
【0073】
態様A
態様Aでは、異なる濃度で変性剤を含有する緩衝液を混合することにより、変性剤濃度が連続的に変化する変性剤濃度勾配を形成する。
【0074】
態様Aの一例は、変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および該少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなるマイクロチップ電気泳動装置であって、各液体導入用マイクロチャンネルから変動する割合で導入される各緩衝液が混合用マイクロチャンネル内で合流することにより変性剤の濃度勾配領域が形成される装置である。
【0075】
態様Aの別の例では、“異なる濃度で変性剤を含有する2つの緩衝液”が、変性剤含有緩衝液と変性剤不含有緩衝液(以下単に緩衝液ともいう)である。
【0076】
態様Aのマイクロチップ電気泳動装置の一例では、好ましくは、混合用マイクロチャンネル内で合流する緩衝液間の混合を促進するための少なくとも1つの混合促進手段を有する。態様Aに使用される混合促進手段には、上記の態様1−1から2−3の液体混合装置およびそれらの組合せが含まれる。態様Aに使用される混合促進手段の一例は、別途特別な装置を必要とせず、コスト面で有利である流量独立制御、例えば、態様1−1の電気浸透流の制御または態様1−1のポンプによる独立制御手段である。
【0077】
態様Aの装置の別の例は、泳動用緩衝液中の核酸変性剤の濃度勾配が形成される濃度勾配領域チャンネル(混合用マイクロチャンネル)と;濃度勾配領域チャンネルの上流側に設けられ、濃度勾配領域チャンネルに緩衝液を供給するための複数のリザーバー及びチャンネル(液体導入用マイクロチャンネル)を有する濃度勾配形成部と;濃度勾配領域チャンネルの下流側に設けられ、濃度勾配領域チャンネルに2本鎖核酸を含む核酸試料を導入するための試料導入部とを有する。この態様では、各リザーバー内に核酸変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液が充填される。例えば、リザーバー内の緩衝液の各々に電位を与えることによりそれらに生じる各電気浸透流を制御することができ、電気浸透流の制御により任意のリザーバーからの緩衝液を適切な流量で濃度勾配領域チャンネル内へ供給することができる。緩衝液の供給は電気浸透流による駆動に限られない。前記リザーバー及びチャンネルに態様1−1および1−2において説明したようなポンプおよび/またはバルブを設けることにより各リザーバーから緩衝液の供給を制御することができる。
【0078】
上記液体駆動のための制御手段を使用して、濃度勾配形成部のリザーバー及びチャンネルから核酸変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液を濃度勾配領域チャンネル内へ変動する割合で合流させることができる。濃度勾配領域チャンネル内に導入される異なる濃度の緩衝液の流入割合を連続的に変化させることにより、濃度勾配領域チャンネル内に核酸変性剤濃度勾配を形成することができる。この濃度勾配領域に核酸試料を導入して電気泳動することができる。
【0079】
態様Aの装置の一例では、濃度勾配領域チャンネル(9)を有し、その上流側に濃度勾配形成部(2)が設けられ、その下流側に試料導入部(3)を有する電気泳動部(4)が設けられる。さらにこの態様では、濃度勾配形成部(2)には、変性剤含有緩衝液が充填される第1のリザーバー(5)とこれに通じる第1のチャンネル(7)と;核酸変性剤不含有緩衝液が充填される第2のリザーバー(6)とこれに通じる第2のチャンネル(8)とを含む。この態様では、第1のチャンネル(7)と第2のチャンネル(8)とが合流することにより濃度勾配領域チャンネル(9)が形成される。さらにこの態様は、第1のリザーバー(5)に接続する第1の電極(10)とこれに接続する第1の電源(11)、及び第2のリザーバー(6)に接続する第2の電極(12)とこれに接続する第2の電源(13)をさらに含む。
【0080】
前記の態様では、第1及び第2の電源(11,13)の各電位を制御することにより、変性剤含有緩衝液と変性剤不含有緩衝液の各々に生じる電気浸透流を制御して2種の液体を変動する割合で混合することができる。それら緩衝液の変動する割合の混合によって濃度勾配領域チャンネル(9)内に変性剤濃度勾配領域を形成しながら電気泳動部(4)へ導入することができる(各符号は図59から図64を参照)。
【0081】
態様Aの装置の別の例では、さらに濃度勾配形成部に第1のリザーバー又は第1のチャンネル内の液体を駆動可能な第1のポンプ(14)、及び第2のリザーバー又は第2のチャンネル内の液体を駆動可能な第2のポンプ(15)を含む(各符号は図59から図64を参照)。この態様では、第1の電源と第2の電源による電位の付与を制御することおよび第1のポンプと第2のポンプの各出力を制御することにより、変性剤含有緩衝液及び緩衝液の各流量を制御することができる。
【0082】
態様Aの装置の別の例では、電気泳動部に設けられる試料導入部に、核酸試料が充填される第3のリザーバーとこれに通じる第4のチャンネル、及び核酸試料廃液用の第4のリザーバーとこれに通じる第5のチャンネルを含む。この態様では、第4のチャンネルと第5のチャンネルとが濃度勾配領域チャンネルと交差して連通しており、さらに第3のリザーバーに接続する第3の電極とこれに接続する第3の電源、及び第4のリザーバーに接続する第4の電極とこれに接続する第4の電源を含む。この態様では、第3及び第4の電源の各電位を制御することおよび電気浸透流および/または電気泳動を生じさせることによって、核酸試料を濃度勾配領域チャンネルに導入することができる。核酸試料の供給は電気浸透流による駆動に限られない。前記リザーバー及びチャンネルに態様1−1および1−2において説明したようなポンプおよび/またはバルブを設けることによりリザーバーからの核酸試料の供給を制御することができる。
【0083】
態様Aの装置の別の例では、電気泳動部(4)には、濃度勾配領域チャンネル上の下流側(試料導入部よりも下流側)に設けられた廃液用の第5のリザーバー(24)、及び第5のリザーバー(24)に接続する第5の電極(25)とこれに接続する第5の電源(26)を含む(各符号は図59から図64を参照)。この態様では、試料導入部(3)から導入された核酸試料を濃度勾配領域チャンネル(9)内で電気泳動することができる。
【0084】
態様Aに使用される分析対象物の分離方法の一例は、マイクロチップ内のチャンネルに変性剤含有緩衝液と緩衝液とを割合を変えて混合することにより変性剤の濃度勾配を形成し、チャンネル内に2本鎖核酸を含む核酸試料を導入し、導入された核酸試料を電気泳動により移動させ、分離する方法である。
【0085】
態様Aに使用される分離方法の別の例では、核酸変性剤の濃度勾配を形成するための濃度勾配領域チャンネルを有し、濃度勾配領域チャンネルの上流側に核酸変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液の各々を供給するための複数のリザーバー及びチャンネルが設けられ、その下流側に2本鎖核酸を含む核酸試料を導入するための試料導入部が設けられたマイクロチップ上で実施される方法であって、各リザーバー内の緩衝液の各々に電位を与えると共にそれらに生じる各電気浸透流を制御してそれら緩衝剤を変動する割合で混合させつつ濃度勾配領域チャンネル内に導入し、濃度勾配領域チャンネル内に核酸変性剤の濃度勾配を形成する工程、および濃度勾配領域チャンネル内に核酸試料を導入して電気泳動する工程を含む。
【0086】
態様B
本出願人は、上記の態様Aに関する装置および方法を特願2003−392302号として出願した。しかし、本願では、従来のDGGEの濃度勾配形成方法にとらわれず、さらに大量生産が容易で再現性の高い分析を可能にする分離技術をも提供する。
【0087】
態様Bでは、異なる濃度で変性剤を含有する緩衝液同士を混合する必要のない分離装置および方法に関する。態様Bでは、変性剤の濃度勾配が不連続である変性剤濃度勾配を利用する分析対象物の分離方法、そのための緩衝液領域配列の形成方法、及びそれらを用いたマイクロチップ電気泳動装置に関する。
【0088】
態様Bは、分析対象物の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を泳動方向に交互に配置し、緩衝液領域の配列に分析対象物を導入して電気泳動する工程を含む。
【0089】
態様Bの一例では、緩衝液領域の配列のうち、変性剤を含まない又は低い濃度で含む緩衝液領域の各々の長さ(泳動方向の幅)が下流側に向かって漸次小さくなるように配列される。態様Bの別の例では、緩衝液領域の配列のうち、変性剤を高い濃度で含む緩衝液領域の長さ(泳動方向の幅)が下流側に向かって漸次大きくなるように配列される。
【0090】
態様Bの別の例では、変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列がマイクロチャンネル内に形成される。この場合、マイクロチャンネル内に、所定の濃度で変性剤を含む第1の緩衝液とこれとは異なる濃度で変性剤を含む第2の緩衝液とを交互に導入することにより、マイクロチャンネル内に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を交互に配列する。この態様では、上記の態様1−1および1−2に使用される流量制御の手段を使用して、マイクロチャンネル内に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を交互に導入することができる。
【0091】
態様Bの別の例では、緩衝液領域を交互に配列する工程が、第1のマイクロチャンネル内に第1の緩衝液を導入してから、第1のマイクロチャンネルと交差する第2のマイクロチャンネルに第2の緩衝液を導入することにより、第1のマイクロチャンネル内の第1の緩衝液が第2のマイクロチャンネル内の第2の緩衝液によりそれらの交差部で分断する工程、および前記工程に従って第1の緩衝液と第2の緩衝液とを交互に送り込む工程を含む。これらの工程により、第1のマイクロチャンネル内に第1の緩衝液と第2の緩衝液の交互配列を形成する。この態様では、第1の緩衝液の送り量を調節することにより、第1の緩衝液の泳動方向の長さを漸次変化させる工程を含むこともできる。
【0092】
態様Bの方法を使用する装置の一例は、マイクロチップ電気泳動装置であって、電気泳動を行うための第1のマイクロチャンネルと、第1のマイクロチャンネル内に第1の緩衝液を導入する手段と、第1のマイクロチャンネル内に第1の緩衝液とは異なる濃度で変性剤を含む第2の緩衝液を導入する手段と、第1のマイクロチャンネルに2本鎖核酸を含む試料を導入する手段とを有する。
【0093】
態様Bの別の例は、2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列を電気泳動用の基板に形成するための方法であって、緩衝液領域の配列を形成すべき基板をステージ手段に保持し、基板に対して2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液を射出するための射出手段を設け、前記ステージ手段及び/又は前記射出手段を位置制御すると共に射出手段を逐次駆動することによって、前記基板に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を配列する方法に関する。
【0094】
態様Bによる緩衝液領域配列形成のための方法の別の例では、基板として電気泳動用のマイクロチップ基板を保持し、保持されたマイクロチップ基板のマイクロチャンネル内に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列を配置する。また別の例では、前記基板の代わりに電気泳動用の平板ゲルを保持し、保持された平板ゲルに変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列を配置する。
【0095】
態様Bによる緩衝液領域配列形成のための装置の一例は、2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列を電気泳動用の基板上又は平板ゲルに形成するための装置であって、緩衝液領域の配列を形成すべき基板又は平板ゲルを保持するためのステージ手段と、基板又は平板ゲルに対して2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度を含む緩衝液を射出するための射出手段と、前記ステージ手段及び/又は前記射出手段を位置制御すると共に射出手段を逐次駆動するための制御手段とを有する。
【0096】
態様Bによる緩衝液領域配列形成のための装置および方法の別の例では、前記射出手段が、混合促進手段を有する態様1−1から態様2−3の液体混合装置および方法を利用できる。この態様では、前記射出手段に供給された変性剤を異なる濃度で含む緩衝液同士の混合が適切な液体混合手段により促進される。
【発明の効果】
【0097】
本発明は、マイクロスケールで微少量の液体を迅速かつ均一に混合することのできる液体混合装置または方法を提供する。本発明により提供される液体混合装置または方法は、現存するまたは今後開発されるであろうあらゆるμTAS、例えばマイクロ化学分析装置やマイクロ化学反応装置(マイクロリアクター)に適用することができ、その結果、マイクロスケールで行われる実験操作の簡略化、分析時間および反応時間の短縮化、並びに高スループット化、さらにはチップの小型化、高精度化(例えば、高分解能化)が可能となるなど、様々な利点をもたらす。
【0098】
本発明は、他の側面において、分析対象物の変性剤の濃度勾配を利用して分析対象物を分離するための装置および方法、並びに変性剤濃度勾配の形成装置および方法を提供する。特にこの発明は、マイクロチップ上でDGGEを行うためのマイクロチップ電気泳動装置および電気泳動法を提供する。この発明は、マイクロスケールで液体混合を促進するための一連の技術をマイクロチャンネル内での緩衝液同士の混合に適用することにより、DGGEに有用なマイクロチップ電気泳動装置および電気泳動法をも提供する。
【0099】
本発明によるDGGEマイクロチップ電気泳動装置およびその電気泳動法によれば、核酸変性剤の濃度勾配を正確に形成でき、かつ濃度勾配の形成を自在に制御することができる。特に、常に同じ変性剤濃度勾配または配列を再現できる分析用チップを大量に提供することが可能である。その結果、別々のデータ間での厳密な比較および検討が可能となり、例えば、分析される試料に含まれる核酸の比較(典型的にはrRNA遺伝子の塩基配列の比較)に基づく微生物群集の構造を解析する場合、採取データのデータベース化が容易となるなど、様々な利点をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】公知の標準的なマイクロ混合用マイクロチャンネルを示す概略図である。
【図2】拡散距離を十分取るため混合用マイクロチャンネルを長くしたマイクロ混合用マイクロチャンネルを例示する概略図である。
【図3】混合を促進するための液体分割細溝を有するマイクロチャンネルを例示する。(態様1−1)
【図4】態様1−1の装置を示す概略図である。
【図5】本態様の電圧制御を示す概念図である。
【図6】本態様の濃度勾配形成装置を示す概略図である。
【図7】本態様の送圧制御を示す概念図である。(態様1−2)
【図8】態様1−2の液体混合装置を示す概略構成図である。
【図9】図8の液体混合装置の具体的構成を示す斜視図である。
【図10】図8の液体混合装置の高速作動バルブを拡大して示す斜視図である。
【図11】図10の高速作動バルブ(未作動時)を示す断面図である。
【図12】図10の高速作動バルブ(作動時)を示す断面図である。
【図13】高速作動バルブに使用する突起の作成方法を説明するための図である。
【図14】高速作動バルブに使用する突起の作成工程を説明するための図である。
【図15】本態様の液体混合装置の他の例を示す構成図である。
【図16】本態様による混合の効果を説明するための図である。
【図17】本態様の液体混合装置のさらに他の例を示す構成図である。
【図18】図16の液体混合装置の制御に関するタイムチャートである。
【図19】図16の液体混合装置の制御に関する他のタイムチャートである。
【図20】本態様の液体混合装置のさらに他の例を示す構成図である。
【図21】図20の液体混合装置の制御に関する他のタイムチャートである。
【図22】本態様の液体混合装置のさらに他の例を示す構成図である。
【図23】図22の液体混合装置の制御に関する他のタイムチャートである。
【図24】本態様の液体混合装置のさらに他の例を示す構成図である。
【図25】図24の液体混合装置の制御に関する他のタイムチャートである。
【図26】本態様の液体混合装置のさらに他の例を示す概念図である。
【図27】本態様の液体混合装置のさらにまた他の例を示す概念図である。
【図28】従来の液体混合装置の問題点を説明するための図である。
【図29】従来の液体混合装置の問題点を説明するための図である。(態様1−3)
【図30】態様1−3の液体混合装置の一例を示す図である。
【図31】単位チャンネル長あたりのチャンネル体積(V)に対する接触界面面積(S)の比(S/V)について説明する図である。
【図32a】導入用マイクロチャンネルの積層方向と混合室の高さ方向とが垂直である場合であって、導入用チャンネルと混合室とが直接接続されている場合の、混合室における液体の状態を示す。
【図32b】導入用マイクロチャンネルの積層方向と混合室の高さ方向とが垂直である場合であって、導入用マイクロチャンネルと混合室とが予混合用マイクロチャンネルを介して接続されている場合の、混合室における液体の状態を示す。
【図33】本態様の液体混合装置の一例を示す図である。
【図34a】予混合用マイクロチャンネルと混合室とがなだらかに連結されている場合の液体の流れを示す。
【図34b】予混合用マイクロチャンネルと混合室とがなだらかに連結されていない場合の液体の流れを示す。
【図35】本態様の液体混合装置の別の例を示す。(態様1−4)
【図36】態様1−4の液体混合装置の概略構成を示す左側面図(a)正面図(b)、右側面図(a)および断面図(d)である。
【図37】液体混合装置の層構造と張り合わせ工程を示す図である。
【図38】他の層構造について示す断面図である。
【図39】液体混合装置の合流部について他の構成を示す断面図である。
【図40】複数の液体導入口を有する態様1−4の構成例を示す図である。
【図41】図40の装置に使用できる分岐状電極の構成例を示す図である。
【図42】複数の液体導入口を有する態様1−4の他の構成を示す図である。
【図43】図40又は図42の液体混合装置の制御手段および方法を説明するための図である。(態様2−1)
【図44】態様2−1の液体混合装置の一例を示す図である。
【図45】本態様の液体混合装置の他の例を示す図である。
【図46】本態様の液体混合装置の他の例を示す図である。(態様2−2)
【図47】態様2−2の液体混合装置の一例を示す概略図である。
【図48】本態様の液体混合装置の別の例を示す概略図である。
【図49】本態様の液体混合装置の更に別の例を示す概略図である。
【図50】本態様の液体混合装置の更に別の例を示す概略図である。
【図51】本態様の液体混合装置における液体の導入形態を示す模式図である。
【図52】本態様の液体混合装置の更に別の例を示す概略図である。
【図53】本態様の液体混合装置の更に別の例を示す概略図である。(態様2−3)
【図54】本態様2−3の液体混合装置を示す概略構成図である。
【図55】図54の装置の柱形状の微小構造物群の例を示す図である。
【図56】溝形状の微小構造物群を有する本態様を示す概略構成図である。
【図57】溝形状の微小構造物群の例を示す模式図である。
【図58】溝形状の微小構造物群の他の例を示す模式図である。(態様A)
【図59a】態様Aのマイクロチップ電気泳動装置の基本構成の一例を模式的に示す概念図である。
【図59b】態様Aの基本構成の他の例を示す概念図である。
【図59c】態様Aの基本構成の更に他の例を示す概念図である。
【図59d】態様Aの基本構成の更に他の例を示す概念図である。
【図60】態様Aのための変性剤濃度勾配形成部の構成例を示す模式図である。
【図61】変性剤濃度勾配形成部の別の例を示す模式図である。
【図62】態様Aのための試料導入部の例を示す模式図である。
【図63】態様Aの一例を示す模式図である。
【図64】態様Aの他の例を示す模式図である。
【図65】高速バルブを設けた態様Aの変性剤濃度勾配形成部を示す模式図である。
【図66】高速バルブを設けた別の変性剤濃度勾配形成部を示す模式図である。
【図67】高速バルブを設けた態様Aの一例を示す模式模式図である
【図68】高速バルブを設けた態様Aの他の例を示す模式図である(態様B)
【図69】態様Bによる第1の形態の変性剤間欠配置を示す概念図である。
【図70】態様Bによる第2の形態の変性剤間欠配置を示す概念図である。
【図71】変性剤間欠配置を有する平板ゲルを含む泳動装置の概略構成を示す斜視図である。
【図72】マイクロチャンネルに形成される変性剤間欠配置を示す概念図である。
【図73】態様Bによるマイクロチップ電気泳動装置の一例を示す図である。
【図74】態様Bによるマイクロチップ電気泳動装置の別の例を示す図である。
【図75】態様Bによるマイクロチップ電気泳動装置の別の例を示す図である。
【図76】図75の装置を構成する各基板の構成図である。
【図77】態様Bによるマイクロチップ電気泳動装置の別の例を示す図である。
【図78】態様Bのための緩衝液領域配列を形成する装置の概略構成を示す斜視図である。
【図79】平板ゲルに緩衝液領域配列を形成するのに適した装置の概略構成を示す斜視図である。
【図80】態様Bのための緩衝液領域配列の形成方法の一例を示す概念図である。
【図81】態様Bのための変性剤含有緩衝液領域の長さの調整方法を示す概念図である。
【図82】態様Bの原理を説明するための図である。
【図83】緩衝液領域配列の形成のための高速作動バルブを設置した装置を模式的に示す。
【図84】緩衝液領域配列の形成のための射出手段の一例を模式的に示す。
【符号の説明】
【0101】
(態様1−1;図1〜7)
5;第1のリザーバー、6;第2のリザーバー、7;第1の液体導入用マイクロチャンネル、8;第2の液体導入用マイクロチャンネル、9;混合用マイクロチャンネル、10;第3のリザーバー、11;第1の電極、12;第2の電極、13;第3の電源、14;第1のポンプ、15;第2のポンプ:
(態様1−2;図8〜29)
130;液体導入用マイクロチャンネル、131;混合用マイクロチャンネル、132;高速作動バルブ:
(態様1−3;図30〜35)
205;第1のリザーバー、206;第2のリザーバー、207;第1の液体導入用マイクロチャンネル、208;第2の液体導入用マイクロチャンネル、230;混合室、233;混合用マイクロチャンネル、234;予混合用マイクロチャンネル、235;接続部:
(態様1−4;図36〜43)
330;液体導入用マイクロチャンネル、330a;液体導入口、331;混合用マイクロチャンネル、X;分岐方向、Y;合流方向:
(態様2−1;図44〜46)
405;第1のリザーバー、406;第2のリザーバー、407;第1の液体導入用マイクロチャンネル、408;第2の液体導入用マイクロチャンネル、430;合流部、431,432,451,452;導入用マイクロチャンネル、433,453;混合用マイクロチャンネル、435;ヒータ、440,450;合流部、441,442;導入用マイクロチャンネル、443;混合用マイクロチャンネル、445、455;ヒータ:
(態様2−2;図47〜50)
505;第1のリザーバー、506;第2のリザーバー、507;第1の液体導入用マイクロチャンネル、508;第2の液体導入用マイクロチャンネル、509,533;混合用マイクロチャンネル、535,536;混合対象の液体、510,537;振動子、538;バルブ、511;可動揚力面、512;回転子、513;揺動子:
(態様2−3;図54〜57)
707;第1の液体導入用マイクロチャンネル、708;第2の液体導入用マイクロチャンネル、709;液体混合用濃度勾配領域チャンネル(混合用マイクロチャンネル)、709a;濃度勾配領域チャンネル下面、709b;濃度勾配領域チャンネル上面、730;合流部、731;微小構造物群:
(態様A;図59〜68)
801;マイクロチップ、802;変性剤濃度勾配形成部、803;試料導入部、804;電気泳動部、805;第1のリザーバー、806;第2のリザーバー、807;第1のチャンネル(液体導入用マイクロチャンル)、808;第2のチャンネル、(液体導入用マイクロチャンル)、809;濃度勾配領域チャンネル(混合用マイクロチャンネル)、810;第1の電極、811;第1の電源、812;第2の電極、813;第2の電源、814;第1のポンプ、815;第2のポンプ、816;第3のリザーバー、817;第4のリザーバー、818;第4のチャンネル、819;第5のチャンネル、820;第3の電極、821;第3の電源、822;第4の電極、823;第4の電源、824;第5のリザーバー、825;第5の電極、826;第5の電源
(態様B;図69〜84)
901;核酸分析用チャンネル(マイクロチャンネル)、902;核酸試料導入チャンネル、903;マイクロチップ基板、905;検出部、906;変性剤含有緩衝液導入チャンネル、910;基板、911;ステージ手段、912;射出手段、914;平板ゲル。
【本発明を実施するための態様】
【0102】
[液体混合装置および方法]
本発明の液体混合装置は、液体を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから導入された各液体が前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体混合装置であって、前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体間の混合を促進するための混合促進手段を有する。
【0103】
本発明による第1の態様において、混合促進手段は、混合される液体間の界面の面積を増加する手段である。第1の態様の液体混合装置の例には、下記に示される態様1−1、1−2、1−3および1−4が含まれる。
【0104】
本発明による第2の態様において、混合促進手段は、混合される液体間の界面を、熱的、機械的および/または構造的手段により不安定化する手段である。第2の態様の液体混合装置の例には、下記に示される態様2−1、2−2および2−3が含まれる。
【0105】
以下、本発明の各態様ついて順に説明する。
【0106】
態様1−1(図4〜図7)
本態様の装置の混合促進手段は、液体導入用マイクロチャンネルに導入する液体の流量を他の液体導入用マイクロチャンネルと独立して制御できる少なくとも1つの液体導入手段である。
【0107】
図4は本態様の装置を示す。この装置は、第1の試薬溶液が充填された第1のリザーバー5と、第2の試薬溶液が充填された第2リザーバー6と、第1のリザーバー5に通じる第1のチャンネル(液体導入用マイクロチャンネル)7と、第2のリザーバー6に通じる第2のチャンネル(液体導入用マイクロチャンネル)8と、第1のチャンネル7と第2のチャンネル8が連結する第3のチャンネル(混合用マイクロチャンネル)9と第3のリザーバー10とを含み、さらに第1のリザーバー5には、第1の電極11を含み、さらに第2のリザーバー6には、第2の電極12を含み、さらに第3のリザーバー10には、第3の電極13を含む。
【0108】
第1の電極11と第3の電極13との間に電圧V1を印加すると、生じる電気浸透流により第1のリザーバー5からは第1の試薬溶液が第1のチャンネル7を通じて、第3のチャンネル9に導入される。同様に第2の電極12と第3の電極13との間に電圧V2を印加すると、第2のリザーバー6からは第2の試薬溶液が第2のチャンネル8を通じて、第3のチャンネル9に導入される。
【0109】
一般的に、マイクロチャンネルでは、2液が合流すると層流が形成され2液が接する界面が安定に維持される。このため拡散係数が小さい供試液の場合、拡散による混合が十分に行われず、2層に分離したまま混合用マイクロチャンネル内を流れることが知られている。このとき図5(b)の実線に示すように電圧V1と電圧V2に適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは界面構造を崩壊させることができるため、2液を高速かつ均一に混合できる。よって、電圧V1と電圧V2に適宜変動成分を与えることにより、第1の試薬溶液と第2の試薬溶液を第3のチャンネル9上で任意の割合で速やかに混合できる。さらに、電圧V1と電圧V2を図5(a)の破線、一点鎖線のように連続的に変化させれば、第1の試薬溶液と第2の試薬溶液の流量比を連続的に変化させることができる。ここで図5(b)の破線、一点鎖線のように電圧信号に変動成分を重畳させると第1と第2の試薬溶液が十分混合し、第3のチャンネル9に試薬溶液の濃度勾配領域を速やかに形成できる。変動成分としては、正弦波、ノコギリ波、矩形波等及びそれらの組合せも考えられる。また、拡散の促進や流量保持のため各チャンネルの変動成分の位相をずらすことも考えられる。
【0110】
図6は本態様の一例を示すものである。第1の試薬溶液が充填された第1のリザーバー5と、第2の試薬溶液が充填された第2リザーバー6と、第1のリザーバー5に通じる第1のチャンネル(液体導入用マイクロチャンネル)7と、第2のリザーバー6に通じる第2のチャンネル(液体導入用マイクロチャンネル)8と、第1のチャンネル7と第2のチャンネル8が連結する第3のチャンネル(混合用マイクロチャンネル)9と第3のリザーバー10とを含み、さらに第1のリザーバー5には、第1の電極11を含み、さらに第2のリザーバー6には、第2の電極12を含み、さらに第3のリザーバー10には、第3の電極13を含む。さらに第1のリザーバー5と第2のリザーバー6に、それぞれ第1のポンプ14と第2のポンプ15を付加した構造である。
【0111】
これらのポンプによる送液により、図4における電気浸透流による送液を補助することができ、試薬溶液の粘性が高い場合においても比較的高速で送液することができる。この場合、図7(b)の実線に示すように第1のポンプ14と第2のポンプ15の送液圧に適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは界面構造を崩壊させることができるため、2液を高速で均一に混合できる。よって、第1のポンプ14と第2のポンプ15の送液圧に適宜変動成分を与えることにより、第1の試薬溶液と第2の試薬溶液を第3のチャンネル9上で任意の割合で速やかに混合できる。さらに、第1のポンプ14と第2のポンプ15の送液圧を図7(a)の破線、一点鎖線のように連続的に変化させれば、第1の試薬溶液と第2の試薬溶液の流量比を連続的に変化させることができる。ここで図7(b)の破線、一点鎖線のように送液圧に変動成分を重畳させると第1の試薬溶液と第2の試薬溶液が十分混合し、第3のチャンネル9に試薬溶液濃度勾配領域を形成できる。また図6において、ポンプ14とポンプ15の送液圧および電極11と電極12の付与電位を同時に制御し、さらに効果的な拡散促進と濃度勾配の制御を実施することも可能である。変動成分としては、正弦波、ノコギリ波、矩形波等及びそれらの組合せも考えられる。また、拡散の促進や流量保持のため各チャンネルの変動成分の位相をずらすことも考えられる
態様1−2(図8〜図22)
本態様の装置の混合促進手段は、少なくとも1つの液体導入用マイクロチャンネルに設けられた高速作動バルブである。
【0112】
図8は、本態様のマイクロチップ装置のチャンネルの概略構成を示し、図9は本態様のマイクロチップの具体的な構成を示す。このマイクロチップのマイクロチャンネルは、2つの液体導入用マイクロチャンネル130a,130b及びこれらが合流する1つの混合用マイクロチャンネル31からなる。本態様に従い、液体導入用マイクロチャンネルの1つには高速動作バルブ132が取り付けられている。
【0113】
図9はマイクロチップ全体の構成を示す。また図10は高速作動バルブ機構の部分を拡大して示し、図11はその高速作動バルブの断面を示す。図9に示すように、液体導入用マイクロチャンネルの各リザーバーからA液とB液がシリンジポンプPで加圧され、各液体導入用マイクロチャンネル130a,130bにそれぞれ導入され、1つの混合用マイクロチャンネル131で合流する。A液を導入する液体導入用マイクロチャンネル130aの途中にはピエゾ素子駆動による高速作動バルブ132が備えられている。その高速作動バルブが開閉することで、A液の液体導入用マイクロチャンネル130aから混合用マイクロチャンネル131への導入が制御される。高速作動バルブ132の制御によりA液の流入量に変動が与えられ、混合用マイクロチャンネル131内に供給される液のA液とB液の混合比等を制御できる。
【0114】
高速作動バルブは、図11(液体導入用マイクロチャンネル30aの軸方向断面)及び図12に示されるように、液体導入用マイクロチャンネル130aの一部を含む。その部分は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)製の膜でできた厚さ20μm、幅300μm程度の弁体133である。同じチャンネル内で弁体に近接するところに突起134を設け、弁体133に対し外部から当接するφ250μm程度の圧子135を設けて、この圧子135がピエゾ素子により駆動される構成となっている。弁体133と突起134との間の空間は10μm程度の微細間隙hとなっている。弁体133が応答周波数10kHz以上で動作するピエゾ素子により直接上下に高速駆動されることによってその微細間隙hの開閉が行われる。
【0115】
本態様に使用される高速作動バルブによる好都合な機能は、バルブ開閉動作が高速性であること、およびその開閉時の作動体積(バルブの弁体が動いてチャンネルを閉ざす際にチャンネル内にあった液体が押しのけられる体積に相当する)が小さいことである。この点、本態様のようにチャンネル内の突起を半円柱状等にして弁体が突起と線接触に近い形で接触するようにし、また弁体が上下するストローク(h)も10μm程度の微小にすることが好ましい。
【0116】
また、本態様に使用できる他の高速作動バルブとしては、インクジェットプリンタで用いられているようなバルブがある。例えば、熱で液体導入用マイクロチャンネルを局所的に加熱することにより、液体導入用チャンネル内を流れている液体を気化させて体積を膨張させ、これによっての液体導入用チャンネルから混合用マイクロチャンネルへの一定の微小流量の吐出を高速で制御できるバルブを用いてもよい。
【0117】
図13及び図14を参照して、高速作動バルブに使用される半円柱状の突起134の製作方法を説明する。ガラス基板に50μmの厚膜レジストを塗布し、フォトリソグラフィー工程でチャンネル形成パターンをg線(波長436nmの紫外光)に露光し、現像する。図13に示すように、液体導入用マイクロチャンネルのチャンネル幅は例えば100μmであり、半円柱状突起を形成する部分に直交するようチャンネル幅100μmのラインパターンを施す。図14(図13のA−A断面)に示すように、そのブリッジパターンを半円柱状の突起形状に変形させるため、レジストパターニングしたガラス基板を恒温炉に投入し、300℃で20分間加熱処理を施す。これによりレジストは250℃以上では軟化するため、エッジが表面張力で丸く変形し、最終的には半円柱形状になる。次いでこの基板をドライエッチングにかける。ガラス基板をエッチングすると、レジストも一緒にエッチングされていくため、結果としてレジスト形状をガラス基板にそのまま転写できる。このような加工はRIE (Reactive Ion Etching)を用いてもできるが、形状の転写性を良好に行うには中性粒子ビーム加工が好ましい。このようにして液体導入用マイクロチャンネル内に適切な突起構造を形成することができる。
【0118】
本態様に使用される高速作動バルブの“高速での開閉動作”とは、弁体の応答周波数として、約10Hz以上、好ましくは10〜20kHzの周期を持つ動作を意味する。
【0119】
次に図15〜21を参照し、本態様の液体混合方法について説明する。
【0120】
上述の構成のマイクロチップにおいてA液とB液を導入する時に、A液の液体導入用マイクロチャンネル上に設置された高速作動バルブを一定の周期で、高速で開閉動作させる。そのように液体の流量に短い時間間隔で変動を与えると、混合用マイクロチャンネル内に形成されるA液とB液との間の接触界面は、図15の混合用マイクロチャンネル31中に描かれたような“ひだ(wave)”形状となる。高速作動バルブを通過して導入される液体Aは、混合用マイクロチャンネルの幅方向に占める割合が短い時間で連続的に変化させることができる。したがって、液体Aは、混合用マイクロチャンネル内において合流する他の液体Bとの接触面積が増加する。このようにして2液の接触界面が広くなり、2液の拡散混合が進みやすくなる。
【0121】
高速作動バルブを使用しない従来のやり方では、図28に示すように2液の界面は混合用マイクロチャンネル内でほぼ直線的に形成される。例えば、幅200μmのチャンネルで流れの進行方向に単位長さをとったとき、高速作動バルブを使用することにより形成された50μm周期で幅100μmのひだ形状の界面(図15参照)を、平らな界面(図28参照)と比較すると、ひだ形状を正弦波で近似すれば、その表面積は4倍に広がっている。
【0122】
2つの界面間のひだの形成により混合時間がどの程度短縮するかは、次の計算モデルで示される。図16のモデルにおいて、ひだの周期がLのとき、その半分のL/2まで拡散が進めば、実際はひだの両側から拡散が進むので混合が完了したと考えられる。液体の拡散についての単純拡散の計算モデルは、次式で記述される(D0=拡散係数[m2/sec](変性剤;10-10、水;10-9とする)、t=時間[sec]):
【式1】
【0123】

【0124】
例えば、変性剤(拡散係数D0=10-11)の場合、5分で混合を完了するように周期L=2σを設計するなら、その計算は次式で示される。
【式2】
【0125】

【0126】
上記のように拡散距離σが77[μm]となる。これは、ひだ間の間隔が50μmならば5分で混合を完了できることを示す。この時間は、DGGE分析を行うには十分に短い。
【0127】
図17の装置では、図15の混合装置よりも更に混合効率を高めることができる。この装置には、2つの液体A,Bのための2つの液体導入用マイクロチャンネルの各々に高速作動バルブ(バルブAとバルブB)が設置されている。この態様に好適な高速作動バルブの運転タイムチャートの例を図18及び図19に示す。
【0128】
前記の態様の装置では、図18に示すように、バルブAとバルブBとの開閉動作を同期させて、バルブAが“開”のときはバルブBを“閉”に、逆に、バルブAが“閉”のときはバルブBを“開”にする。こうすることにより混合用マイクロチャンネル内でA液が形成するひだ形状の幅をチャンネルの全幅分に広げることができる。また、A液とB液の両者の流量の和は常に一定となるので、一定の流速で混合用マイクロチャンネル内を液体が流れる。したがって、混合用マイクロチャンネル内に濃度勾配を作成するのに好ましい制御特性が得られる。なお、態様1−2を使用して濃度勾配を形成する方法については後述する。
【0129】
図17の装置では、2液界面の表面積が図14の場合の2倍となり、すなわち、ひだが形成されない場合(図28)の8倍となる。図18ではバルブの開閉を全開/全閉制御している。しかし、バルブ開度は、全閉又は全開いずれかの開閉制御だけでなく、ピエゾ素子を使用し、ピエゾ素子に与える電位を調整することにより、バルブ開度を可変制御してもよい。例えば、図19のような運転タイムチャートで運用してもよい。いずれにしても、運転タイムチャートは前記の方式に限定されず、他の様々な方式でバルブの開閉を制御可能である。
【0130】
図20の装置では、また更に混合効率を高めることができる。この装置では、3本の液体導入用マイクロチャンネル130a,130b,130cが混合用マイクロチャンネル131に接続する。A液は、中心位置の液体導入用マイクロチャンネル130aから混合用マイクロチャンネル131に導入され、B液は、その両脇に位置する2つの液体導入用マイクロチャンネル130b,130cから導入される。それら2つの液体導入用マイクロチャンネル130b,130cに高速作動バルブ(バルブ1とバルブ2)を各々設置している。これらを、例えば、図21の運転タイムチャートに示すように開閉動作させることができ、これにより図20の混合用マイクロチャンネル131内に描かれたようなひだ形状の界面を形成できる。この2液の接触界面(ひだの全表面積)は、図15の場合の2倍となり、すなわち、ひだが形成されないの場合(図28)の16倍の界面表面積が得られ、これにより非常に高効率な液体混合を実現できる。ここではA液とB液の2液体混合を示したが、B液を送るための2つの液体導入用マイクロチャンネル130b,130cのいずれか一方をC液用にすれば、混合用マイクロチャンネル131でA、B、Cの3液を好適に混合できる。
【0131】
次に図22〜25を参照して、本態様によって液体導入を制御する方法について説明する。
【0132】
A液とB液とを混合用マイクロチャンネル内で濃度勾配を持つように混合する方法において、A液及びB液として異なる濃度の溶質(例えば核酸変性剤)を含有する液体を使用することができる。この場合に適するように、上で説明した装置においてバルブの開閉動作の運転方法を変えることで可能である。濃度勾配を形成する混合方法の一例は、高速作動バルブの開閉周期を一定とし、その1周期のうち、バルブが開いている時間の割合(Duty比)を可変制御することである。
【0133】
例えば、バルブAとバルブBの動作を、図23の運転タイムチャートのように動作させれば、異なる濃度を持つ2液の界面のひだ形状をその大きさを漸次変化させながら形成することができる(図22の混合用マイクロチャンネル内に描いたように)。その後、5分程度放置すれば、その界面を通じて2液間のすみやかな拡散混合が起き、混合用マイクロチャンネル31内に一定の濃度勾配を持つ混合液を形成することができる。
【0134】
濃度勾配を形成する混合方法に好適な運転タイムチャートの例について図23を用いて説明する。まず基本は、バルブAが“開”のときバルブBは“閉”、逆にバルブAが“閉”のときバルブBは“開”である。この基本に従いながら、1周期の時間をたとえば100 msec(ミリ秒)と設定し、はじめの1周期では、90 msec間、バルブAを“開”にする。次の2周期目では80 msec間、バルブAを“開”にする。さらに次の3周期目では70 msec間、バルブAを“開”にする。このようにして1周期中のバルブAの開時間を徐々に短くしていくと、混合用マイクロチャンネル内に濃度が下流方向(図面の左側から右側に向かって)で徐々に1次線形で濃くなる濃度勾配が得られる。
【0135】
前記の方式でも十分に拡散混合が進むが、図24と図25に示す装置と方法によればさらに拡散混合が改善される。この方式では、図25の運転タイムチャートに示すように、バルブAが“開”の時間T1は固定し、バルブAが“閉”の時間T2を変化させる。T1は、好ましくは、高速作動バルブが動作できる最短のパルス時間程度に設定する。例えば、バルブの応答周波数が1 kHzであれば、最少作動時間である1 msecの数倍の5 msecにT1を設定する。そして、図22のような濃度勾配を形成するなら、T2を徐々に長く設定していけばよい。そのようにすれば図22の場合よりもA液とB液との界面が増えるので、拡散混合がより高速で進み、短時間で混合が完了する。
【0136】
以上の説明では、2つの液体導入用マイクロチャンネルを合流させて1つの混合用マイクロチャンネルへ送液する例を示した。しかし、図26のようにその混合構成単位を何段にも組み合わせて、多数回の混合を行うこともできる。この場合、各所に導入される液体は種類を変えてもよいことは言うまでもない。また図27のように、2つ以上の多数の液体導入用マイクロチャンネル(同図では4本の液体導入用マイクロチャンネル)を一度に1つの混合用マイクロチャンネルに導入して混合を行うとしてもよい。
【0137】
態様1−3(図30〜図35)
本態様の装置の混合促進手段は、混合用マイクロチャンネルの形状に関するものであり、混合用マイクロチャンネルのチャンネル高さをそのチャンネル幅よりも小さくすることにより形成された混合室である。
【0138】
図30に示す本態様の装置は、混合対象の液体を導入するための2つの液体導入用マイクロチャンネル207,208と、2つの液体導入用マイクロチャンネルを上下方向に積層して合流させた1つの予混合用のマイクロチャンネル234と、予混合用マイクロチャンネルに連結された混合室230とを含む。予混合用のマイクロチャンネル234と混合室230が混合用マイクロチャンネルを構成する。
【0139】
本態様の装置においては、混合対象の液体が液体導入用マイクロチャンネル207,208から導入され、混合対象の液体が上下方向に積層して合流され、液体導入用マイクロチャンネルに連結された予混合用マイクロチャンネル234へ導入され、合流した液体が予混合用マイクロチャンネルに連結された混合室230へ導入される。本態様においては、液体導入用マイクロチャンネルおよび予混合用マイクロチャンネルという狭いチャンネルを通ってきた液体が扁平型の混合室230に導入されることにより、液体間の界面面積が増大し、それによって複数の液体の混合が促進される。
【0140】
本態様の装置においては、液体導入用マイクロチャンネル207,208の上流にリザーバー205,206を接続することができ、この場合、リザーバー205,206へ2種類の液体を供給する。液体の供給は、公知のいかなる方法によって行うことができ、例えば、機械的あるいは電気的駆動力によって行うことができる。具体的には、送液ポンプやバルブにより流量を調節することによって行うことが可能である。例えば、リザーバー間での印加電圧または付与電位を調節することによる電気浸透流の制御、マイクロシリンジ等による送液の圧力を調節することによる送液ポンプの制御により、各液体の流量を調節することができる。
【0141】
本態様において混合対象の液体は2種類であるが、これに限られず、混合される液体は2種類以上であってよい。また、本態様において液体導入用マイクロチャンネルは2つであるが、これに限られず、液体導入用マイクロチャンネルは2つ以上にすることができる。
【0142】
本態様において、チャンネル高さとは、複数の液同士が接することで形成される液接触界面に対して垂直な方向のチャンネル寸法を意味し、チャンネル幅とは、液接触界面に平行で、流れの方向に垂直な方向のチャンネル寸法を意味する。本態様において、例えば、予混合用マイクロチャンネル234についてはチャンネル幅を500μm、チャンネル高さを100μm、混合室230についてはチャンネル幅を(最大となる箇所において)10mm、チャンネル高さを5μmとするように設計することができる。
【0143】
本態様による液体の混合プロセスをより詳細に説明する。まず、本態様においては、液体導入用マイクロチャンネルおよび予混合用マイクロチャンネル内の液体の流れは実質的に層流である。というのは、液体導入用マイクロチャンネルや予混合用マイクロチャンネルの幅が狭いためである。なお、この傾向は、液体導入用マイクロチャンネルを流れる液体の流量が小さい場合、より顕著である。その結果、予混合用マイクロチャンネルにおいては、各液体間の界面でのみ混合が生じるが、液体間の界面の面積が小さいため各液間の混合は生じにくい。一方、合流した液体がこの予混合用マイクロチャンネルから混合室へ流入すると、混合室においては液体間の界面面積が大きくなるため、界面における拡散混合によって混合対象の液体が十分速やかに混合される。
【0144】
液体導入用マイクロチャンネルは混合室と直接接続されていてもよいし、図30の態様ように混合室の上流に予混合用マイクロチャンネルが設けられていてもよい。しかし、図30の態様ように混合室の上流に予混合用マイクロチャンネルを設けることが好ましい。なぜなら、予混合用マイクロチャンネルがなく、2つの液体導入用マイクロチャンネルから直接に混合室に接続した場合、チャンネル幅が急激に拡がるため、流れが乱れてしまうからである。本態様のように混合室の上流に予混合室を設けた場合、流入する液の流れは乱れない。
【0145】
ここで、予混合用マイクロチャンネルおよび混合室における液体の混ざりやすさを検討する。界面での拡散混合を考えた場合、液体の混ざりやすさは、単位チャンネル長あたりのチャンネル体積(V)と接触界面面積(S)との比(S/V)に依存する。この比(S/V)は、チャンネル高さ(H)によれば1/Hと表すことができるので(図31参照、L;チャンネル長さ、W;チャンネル幅、H;チャンネル高さ)、液体の混ざりやすさはチャンネル高さ(H)にのみ依存することが分かる。
【式3】
【0146】

【0147】
例えば、予混合用マイクロチャンネルの各液のチャンネル高さが50μmであり、混合室の各液のチャンネル高さが2.5μmである場合について検討すると、チャンネル体積(V)と接触界面面積(S)との比(S/V)は、予混合用マイクロチャンネルで1/50(μm-1)、混合室で1/2.5(μm-1)となる。したがって、混合室は予混合用マイクロチャンネルより20倍ほど混ざりやすいといえる。
【0148】
ここで、本態様の装置においては、液体導入用マイクロチャンネルをチャンネルの高さ方向で合流させる。チャンネルの高さ方向で合流させることによって、混合室における液体間の界面が十分広くなり、各液間の混合が速やかに行われるためである。逆に、チャンネル幅方向に合流させた場合(図32)、液体間の界面面積がチャンネル体積に対して小さくなり、液体を速やかに混合することが困難になる。本態様の液体混合装置は、液体導入用マイクロチャンネルが上下方向に積層されて合流して予混合用マイクロチャンネル、および混合室へと接続されている。
【0149】
次いで、混合室内での混合時間について検討する。一般に、液体の拡散は単純拡散の方程式によって記述することができる。
【式4】
【0150】

【0151】
この方程式は、拡散係数がD0(m2/sec)である2つの液体を接触させると、時間t(sec)においてσ(m)まで拡散して互いに混合するというものである。
【0152】
例えば、変性剤の拡散係数D0が10-11である場合、5秒後の拡散距離σは10μmである。したがって、チャンネル高さが20μm以下ならば、理論的には5秒で混合を完了させることができる。実際、本態様における拡散においては、上下2液の両方から拡散が進むため、混合室のチャンネル高さをLとすると、その半分のL/2まで拡散が進めば、ほぼ混合は完了したと考えてよい。5秒で混合を完了したい場合、実際にはチャンネル高さを10μmに設計することができる。なお、マイクロチップDGGEを行う場合、5秒という混合時間は十分に短いため、本態様の液体混合装置はマイクロチップDGGEに好適な液体混合装置といえる。
【0153】
また、以上の検討から、チャンネル高さを小さくすれば混合時間を短縮できることが理解できるが、チャンネル幅がチャンネル高さと同じように小さいと、流せる流量が小さくなり、産業応用上、実用的でない。したがって高速に送液し、かつ、混合時間を短くするために、チャンネル幅を、チャンネル高さよりも長くすることが好ましい。
【0154】
図33は、別の態様を示す。この態様の装置は、混合対象の液体を導入するための2つの液体導入用マイクロチャンネル207,208と、2つのチャンネルが上下方向に積層して合流した1つの予混合用マイクロチャンネル234と、予混合用マイクロチャンネルと混合室とを連結する接続部235と、接続部に連結された混合室230とを含む。ここで、本態様の液体混合装置においては、予混合用マイクロチャンネルと混合室とが、なだらかな勾配を備えた合流部235によって連結されている。
【0155】
本態様のように予混合用マイクロチャンネルと混合室とがなだらかに連結されていることが好ましい。なぜなら、予混合用マイクロチャンネルと混合室とがなだらかに連結されている場合、予混合用マイクロチャンネルと混合室との合流部において、淀み領域が発生せず、チャンネルの途中で液体が渦を巻くことがないため、各液体間の界面が乱れず、液体を流した順に混合して混合室から取り出すことができるからである(図34a)。一方、接続部を徐々に先広がりな形状にしない場合、淀み領域が生じ、そこに渦が発生してしまう。その結果、複数の液体を液体導入用マイクロチャンネルから同時に注入したとしても、淀み領域で液体が滞留し、ピンポイントで混合すべき液体が時間的に前後して混合室に到達し混合されることになり、精密な濃度勾配を形成することが難しくなってしまう(図34b)。特に、正確な濃度勾配を形成することが望ましいマイクロチップDGGEにおいては、本態様の液体混合装置は好適である。
【0156】
図33の態様においては、例えば、予混合用マイクロチャンネル234についてはチャンネル幅を500μm、チャンネル高さを100μm、接続部235についてはチャンネル流れ方向の長さを15mm、混合室230についてはチャンネル幅を10mm、チャンネル高さを5μmと設計することができる。
【0157】
図35は、また別の一態様を示す。この態様の装置は、混合対象の液体を導入するための2つの液体導入用マイクロチャンネル207,208と、液体導入用マイクロチャンネルが合流した1つの混合用マイクロチャンネル(混合室230)とを含む。本態様においては、混合対象の液体が液体導入用マイクロチャンネル207,208を介して合流されるが、混合室230は合流後の各液体間の界面面積が大きくなるように設計されている。
【0158】
図35の態様においては、例えば、混合室のチャンネル高さを20μm、チャンネル幅を100μmと設計することができる。本態様の装置は、基板を2枚貼り合わせて作製する必要がなく、ガラスのドライエッチングで加工することができる。より詳細には、パターンマスクにNiのスパッタ膜を用いICPエッチングをおこなうことで加工することができる。
【0159】
態様1−4(図36〜図43)
本態様の装置の混合促進手段は、液体導入用マイクロチャンネルが混合用マイクロチャンネルへ接続する合流部の形状、および液体導入用マイクロチャンネルの配置等に関する。詳しくは、その混合促進手段は、液体導入用マイクロチャンネルが複数の分岐チャンネルを有し、分岐チャンネルから混合用マイクロチャンネルへの合流部であって、複数の分岐チャンネル同士が3次元空間上で互い違いに配置される形態で混合用マイクロチャンネルに接続する合流部である。
【0160】
先ず、この態様の技術背景を説明する。
【0161】
本態様は、混合する液体毎にチャンネルを細分化し、それらを入れ子的に合流させることにより多種の液体を層状に並ばせながら、チャンネル内を流すことにより、各液体の接触面積を増大させ、液体間の拡散を促進することが容易になるという発見に基づく。さらに検討を進めた結果、下記の課題が見出された。
(1)液体導入用マイクロチャンネルへの液体導入口が各々の液体につき1つである場合、本態様を実現するには液体毎にチャンネルに分岐させて、それらを再び合流させる構造が必要である。この構造を2次元形状チップの1つの層に形成することは容易でない。この構造は3次元的な立体交差を必要とする。これをリソグラフィとエッチングで製作しようとすると、1枚のチップの裏表にエッチングや犠牲層を形成する必要があり製造工程が複雑となる。
(2)また、チャンネル幅100μm程度のマイクロチャンネルにおいてリソグラフィーとエッチングで製作を行うと、合流部が角張り、送液の際の圧力損失が大きくなる。
(3)各液体の導入方法のために1つの液体導入用マイクロチャンネルから分岐させる構造をとらずに、分岐チャンネル数に応じて複数の導入口を設けることができる。この構造によれば、2次元形状チップの1つの層に混合用マイクロチャンネルを形成することができる。しかしながら、その場合はチップの上流における、あるいは準備的段階における液体の導入機構や導入方法が複雑になる。
(4)上記のように複数の導入口を設けた装置において、混合用マイクロチャンネル内で混合液体の混合濃度比を自由に制御する方法が確立されていない。例えば、DGGEを行うためのマイクロチップ電気泳動装置では、正確で再現性よく核酸変性剤の濃度勾配を形成するためには、濃度勾配を精密に制御することに対応する必要がある。
【0162】
本態様は、前記の問題を解決する液体混合装置に関する。さらに本態様は、複数の導入口を持つ液体導入用マイクロチャンネルを有する液体混合装置において、マイクロチャンネル内で速やかに試薬溶液を混合し、かつ流れ方向の濃度勾配を良好に制御等することができる装置を提供する。
【0163】
図36は、本態様の装置の概略構成を側面(a),(c)、正面(b)及び断面(d)で示す。この装置は、液体を導入するための2つの液体導入用マイクロチャンネル330およびこれらが接続する混合用マイクロチャンネル331を備えたマイクロチップである。液体は、2つの液体導入用マイクロチャンネル330(図36の左側)から入り、内部で合流し1つの混合用マイクロチャンネル331で混合する。液体導入用マイクロチャンネル330の各々は、櫛形状に分かれた2つの分岐チャンネル330aを有し、これら2つの分岐チャンネル同士が上下から混合用マイクロチャンネル331に接続する(この接続方向を合流方向Yと称する)。その合流部では、図36(d)の断面DD及び断面EEに示されるように、分岐チャンネル330aの分岐方向Xは合流方向Yに対しほぼ直角の櫛型形状である。これら分岐チャンネル330a同士が互いに3次元上で噛み合わさるように統合され、1つの混合用マイクロチャンネルに合流する。この形態の合流部を介して合流する液体は、マイクロチャンネル内でも速やかに均等に混ざり合うことができる。
【0164】
図37は、図36の装置の概略構成を斜視図等で示す。この装置は、所定のチャンネル等が形成された基板を張り合わせて製造することができる。この態様では、中間の基板2つの基板を張り合わせた構造である。中間の基板は、各液体導入用マイクロチャンネル330およびそれらの分岐チャンネル330a並びに混合用マイクロチャンネル331は各々1枚の基板上に形成され、混合用マイクロチャンネル331が形成されている(図36(d)の断面BBのもの)。これを中心に、各液体導入用マイクロチャンネルが形成された2つの基板(図36(d)の断面AA及びCCのもの)を上下から張り合わせ、さらに蓋となる基板を張り合わせる。こうして、合流方向Y、つまり分岐方向Xとほぼ垂直な方向で重ね合わされた層構造を形成する。複数の分岐チャンネル330aは1つの液体導入用マイクロチャンネルにこれとほぼ同一平面上で設けられる。このように合流する分岐チャンネル330aは櫛歯状の構造であると言える。
【0165】
図38では、図36の装置と同様のチャンネル構造を分岐方向X(つまり合流方向Yとほぼ垂直な方向)で張り合わせている。この態様では、分岐した分岐チャンネル毎に基板を設けた層構造を形成する。
【0166】
図39は、図36の断面FF,GG及び図38の合流部構造に曲線的形状を適用した構成を例示する。このように合流部のチャンネルは曲線的に構成されてもよい。このようにすれば合流部における圧損を低減させた液体混合装置を作製できる。
【0167】
基板の材質は、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などから適宜選ぶことができる。前記のような多数層の重ね合わせや表裏の複数段階の構成はリソグラフィー・エッチング加工により製作することができる。ただし本態様の装置は、フォトリソグラフィー技術で製作することもでき、合流部の各チャンネルの断面形状を曲線(概流線形)に加工することによりより良好に圧損を低減させるとしてもよい。
【0168】
次に、液体導入を効率的に行うための態様を説明する。この態様は、複数の導入口を持つ液体導入用マイクロチャンネルを有する装置に関する。
【0169】
図40の装置では、試薬溶液を導入するための複数の液体導入口330aを有する液体導入用マイクロチャンネル330が集合して混合用マイクロチャンネル331に接続する。この集合型のチャンネル構成では、液体導入用マイクロチャンネル330が寄り集まってできた幅は、混合用マイクロチャンネル331のチャンネル幅と同一である。ここで、一群の複数の液体導入口330aは、同一の液体(同一濃度の緩衝液または同種の試薬溶液等、図40では第1の試薬溶液又は第2の試薬溶液)を液体導入用マイクロチャンネル330へ送る液体導入用マイクロチャンネル群に対応している。それらは基板上に規則的な何学的配置で設けられる。幾何学的配置としては、図40(a)又は(b)のような直線状や円弧状、楕円状の2次元的配置が挙げられる。またこれら装置のように、各々の液体導入口330a群のための各幾何学的配置は、互いに相似形であることが好ましい。
【0170】
本態様の装置として、各液体導入口330aに電極を設けて液体を電気浸透流により駆動するものがある。この態様では、図41に示すような分岐状の駆動電極を作製し、各液体導入口群の所定の幾何学的配置に対応するように設置するとよい。図41は、直線的な幾何学的配置に対応した分岐電極の構成を模式的に示す。このような分岐電極を着脱自在に設けることにより、一定の液体導入口群から試薬溶液を効率的に駆動することができる。例えば、同一の試薬溶液を導入する複数の液体導入口330aに対して1つの分岐電極を使用し、複数の液体導入口330aから同時に送液を行うことができる。
【0171】
また図示していないが、液体をポンプ圧力により駆動する装置であれば、その液体導入口群の幾何学的配置に対応する分岐状の液圧導入管を設置して、すべての液体導入口に同時にかつ等しく圧力をかけることができ、同様に試薬溶液体の効率的な導入を行うことができる。また、本態様の混合装置をマイクロチップに適用する場合、マイクロチップ装置の薄型化を可能にする。図42に示すように、複数の液体導入口330aの位置に対応する分岐状の駆動電極を、液体導入口とほぼ同一平面上で設けることができる。
【0172】
次に本態様の装置に好適な液体導入の制御手段および方法について説明する。前記のように同一の液体が一群の液体導入口330aを通じて導入される態様では、それらの液体導入用マイクロチャンネル群の上流にポンプ又は電気浸透流駆動機構を設けることができる。この場合、使用されるポンプ又は電気浸透流駆動機構の数が、同種の液体導入のための液体導入用マイクロチャンネルのチャンネル数よりも少なくても、液体導入を適正に制御することができる。
【0173】
図43は、電気浸透流を駆動するための制御手段の例を示す。各液体導入用マイクロチャンネル330からは同一試薬溶液が電気浸透流によって混合用マイクロチャンネル331の方向へフィードされる。ここでスイッチにより電源電位差A−Cが印加されたチャンネルでは試薬溶液が下流にフィードされ、他の試薬溶液と層状に合流し混合する。他方、同一試薬溶液のチャンネルでもスイッチにより電源電位差B−Cが付与される。これらチャンネルにおいては、適切な電位Bを設定することにより試薬溶液が下流に流れず且つ逆流しないようにすることができる。
【0174】
それら複数のスイッチのオン・オフを適宜切り替えることにより同一試薬溶液を下流に流すチャンネルの有効本数を変化させれば、その結果、同一試薬溶液の混合用マイクロチャンネル331への総流入量を経時的かつ独立に変化させることができる。同一試薬溶液を送るための液体導入用マイクロチャンネルの各群(すなわち各試薬溶液ごと)に設けられたスイッチ群をオンオフ制御するだけで、各試薬溶液の流入流量を、少ない電源数で多段階的に変化させることができ、混合用マイクロチャンネルでの当試薬溶液の濃度を制御できる。特にその総流入量を経時的に制御すれば、混合後の流れ方向に形成される当試薬溶液の濃度分布を精度良く制御できる。
【0175】
複数のスイッチにはリレーを用いてもよし、また電極の代わり又はその補助として圧力ポンプを設けて各試薬溶液毎に圧力駆動を制御してもよい。圧力ポンプを設ける場合には、各液体導入用マイクロチャンネルにそれぞれ制御バルブを設け、それら制御バルブを駆動制御するようにして各試薬溶液毎の流量を変化させてもよい。
【0176】
態様2−1(図44〜図46)
本態様の装置の混合促進手段は、液体導入用マイクロチャンネルおよび/または混合用マイクロチャンネルに設置されたヒータを含んでなる。
【0177】
図44は本態様の装置を示す。本態様の装置は、混合対象の液体を導入するための液体導入用マイクロチャンネル431,432と、複数のチャンネルを合流部430で合流させた1つの混合用のマイクロチャンネル433と、混合用マイクロチャンネル内の液体を加熱するためのヒータ435とを含む。
【0178】
本態様の装置においては、混合対象の液体が液体導入用マイクロチャンネル431,432から導入され、混合対象の液体が合流部430で合流され、合流された液体が合流部430に接続された混合用マイクロチャンネル433へ導入され、ヒータ435(例えば、クロム鋼ヒータ及びペルチェ素子など)により混合用マイクロチャンネル内の溶液が加熱され、混合用マイクロチャンネル内の液体が混合される。本態様によれば、混合用マイクロチャンネル内で合流した液体がヒータ435により加熱され、混合用マイクロチャンネル内の液体の温度が上昇し、液体内の溶質のブラウン運動が活性化されるため、分子拡散が促進され、複数の液体の速やかな混合が可能となる。また、加熱による熱対流によっても、合流した液体の混合が促進される。
【0179】
液体の供給は、公知のいかなる方法によっても行うことができ、例えば、機械的あるいは電気的駆動力によって行うことができる。具体的には、送液ポンプやバルブにより流量を調節することによって、変化させることが可能である。例えば、リザーバー間の印加電圧または付与電位を調節することによる電気浸透流の制御、マイクロシリンジ等による送液の圧力を調節することによる送液ポンプの制御により、各液体の流量を調節することができる。
【0180】
本態様の装置において混合対象の液体は2種類であるが、これに限らず、混合する液体は2種類以上であってよい。また、本態様の液体導入用マイクロチャンネルは2つであるが、これに限らず、2つ以上にすることができる。
【0181】
図45は別の態様を示す。この態様の装置は、液体導入用マイクロチャンネル441,442と、液体導入用マイクロチャンネル441,442を合流部40で合流させた1つの混合用のマイクロチャンネル443と、混合用マイクロチャンネル443を加熱するためこのマイクロチャンネル443の下方に取り付けられたヒータ445とを含む。本態様によれば、混合対象の液体が合流部440において鉛直方向に積層されて合流され、合流された液体が合流部440に接続された混合用マイクロチャンネル443へ導入され、混合用マイクロチャンネルの下方に取り付けられたヒータ445により、混合用マイクロチャンネル443内の溶液がその下面から加熱される。こうして、混合用マイクロチャンネル内の液体の混合が促進される。本態様においては、合流した液体がヒータ445により加熱され、混合用マイクロチャンネルの下側にある液体の温度が上昇し、チャンネル443内で熱対流が生じるため、鉛直方向の対流による拡散効果が促進され、合流した液体の混合が促進される。また、加熱による分子拡散の増大によっても、合流した液体の混合が促進される。
【0182】
図46はまた別の態様を示す。本態様の装置は、液体導入用マイクロチャンネル451,452と、液体導入用マイクロチャンネル451,452を合流部450で合流させた1つの混合用のマイクロチャンネル453と、液体導入用マイクロチャンネル453を加熱するためのヒータ455とを含む。本態様によれば、ヒータ部455により液体導入用マイクロチャンネル452内の溶液が加熱され、加熱されていないチャンネル451内の液体と加熱されたチャンネル452内の液体とが合流部450において、加熱されて温度の高いチャンネル452内の液体を下にして鉛直方向に下から順に積層されて合流され、合流された液体が合流部450に接続された混合用マイクロチャンネル453へ導入される。こうして、混合用マイクロチャンネル内の液体の混合が促進される。本態様においては、チャンネル452内の液体がヒータ455により加熱されたにもかかわらず、合流部450において加熱されていないチャンネル451内の液体の下側に積層されて合流されるため、加熱された液体が上側に移動しようとしてチャンネル453内で熱対流が生じ、鉛直方向の対流による拡散効果が促進され、合流した液体の混合が促進される。また、加熱による分子拡散の増大によっても、合流した液体の混合が促進される。
【0183】
本態様のように液体導入用マイクロチャンネルをヒータによって加熱する場合、液体導入用マイクロチャンネル内の液体は、高温の液体から順に鉛直方向に下から積層して合流される。本態様に使用し得るヒータは、公知のあらゆる加熱装置から選択することができる。例えば、クロム鋼ヒータやペルチェ素子を使用することができる。ヒータの設置位置は、チャンネル内の液体を加熱することができれば、いかる位置であってもよい。例えば、チャンネル壁面に設置することができる。また、ヒータの設置個数は1個だけでなく、複数個であってよい。
【0184】
態様2−2(図47〜図53)
本態様の装置の混合促進手段は、混合用マイクロチャンネルで合流する液体間の界面を乱すための機械的変動手段である。第1のタイプの機械的変動手段は、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に設置された振動子、可動揚力面、回転子または揺動子である。第2のタイプの機械的変動手段は、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に限らず、それより下流側の混合用マイクロチャンネルの壁面または壁面外に設置された振動子である。
【0185】
図47〜図50は、第1のタイプの機械的変動手段を有する1つの態様を示す。図47の装置では、合流部に振動子510が設置されている。この装置は、第1の液体が充填された第1のリザーバー505と、第2の液体が充填された第2リザーバー506と、第1のリザーバー505に通じる第1のチャンネル507(液体導入用マイクロチャンネル)と、第2のリザーバー506に通じる第2のチャンネル508(液体導入用マイクロチャンネル)と、第1のチャンネル507と第2のチャンネル508が連結する第3のチャンネル509(混合用マイクロチャンネル)とを含み、さらに第3のチャンネル509の壁面に振動子510を含む。振動子510は図示しない電源および駆動制御手段に接続されている。第1のリザーバー505からは第1の液体が第1のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入され、第2のリザーバー506からは第2の液体が第2のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入される。
【0186】
一般的に、マイクロチャンネルでは、2液が合流すると層流が形成され2液が接する界面が安定に維持される。このため拡散係数が小さい供試液の場合、拡散による混合が十分に行われず、2層に分離したまま流れることが知られている。このときチャンネル壁面あるいは壁面外側のごく近傍に設置した振動子510により(あるいは1つ以上の複数個の振動子群により)混合部の流れ場に適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは前記揚力面により発生される渦(渦度)によって界面構造を崩壊させること、あるいは渦変動による負圧領域内にキャビテーションを発生させることができるため、2液を迅速かつ均一に混合できる。
【0187】
図48に示す別の態様の装置では、合流部に可動揚力面511が設置されている。この装置は、第1の液体が充填された第1のリザーバー505と、第2の液体が充填された第2リザーバー506と、第1のリザーバー505に通じる第1のチャンネル507と、第2のリザーバー506に通じる第2のチャンネル508と、第1のチャンネル507と第2のチャンネル508が連結する第3のチャンネル509とを含み、さらに第3のチャンネル509の合流部に可動揚力面511を含む。可動揚力面511は図示しない電源および駆動制御手段に接続されている。第1のリザーバー505からは第1の液体が第1のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入され、第2のリザーバー506からは第2の液体が第2のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入される。このとき合流部に設置した可動揚力面511により界面の不安定を誘起する周波数で適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは界面構造を崩壊させること、あるいは液体内にキャビテーションを発生させることができるため、2液を高速で均一に混合できる。
【0188】
図49に示す更に別の態様の装置では、合流部に回転子512が設置されている。この装置は、第1の液体が充填された第1のリザーバー505と、第2の液体が充填された第2リザーバー506と、第1のリザーバー505に通じる第1のチャンネル507と、第2のリザーバー506に通じる第2のチャンネル508と、第1のチャンネル507と第2のチャンネル508が連結する第3のチャンネル509とを含み、さらに第3のチャンネル509内に回転子512を含む。回転子512は図示しない電源および駆動制御手段に接続されている。第1のリザーバー505からは第1の液体が第1のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入され、第2のリザーバー506からは第2の液体が第2のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入される。このときチャンネル509内に設置した回転子512(あるいは複数個の回転子列により)により適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは界面構造を崩壊させる、あるいは液体内にキャビテーションを発生させることができるため、2液を高速で均一に混合できる。
【0189】
図50に示す更に別の態様の装置では、合流部に揺動子513が設置されている。この装置は、第1の液体が充填された第1のリザーバー505と、第2の液体が充填された第2リザーバー506と、第1のリザーバー505に通じる第1のチャンネル507と、第2のリザーバー506に通じる第2のチャンネル508と、第1のチャンネル507と第2のチャンネル508が連結する第3のチャンネル509とを含み、さらに第3のチャンネル509内に揺動子513を含む。揺動子513は図示しない電源および駆動制御手段に接続されている。第1のリザーバー505からは第1の液体が第1のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入され、第2のリザーバー506からは第2の液体が第2のチャンネル507を通じて、第3のチャンネル509に導入される。このときチャンネル内に設置した揺動子513(あるいは複数個の揺動子列により)により適宜変動成分を与えると、2液が形成する界面に不安定を生じさせ、2液が接する界面の面積が広くなる、あるいは界面構造を崩壊させる、あるいは液体内にキャビテーションを発生させることことができるため、2液を高速で均一に混合できる。
【0190】
上記の各態様によれば、第1の液体と第2の液体とを第3のチャンネル509上で任意の割合で速やかに混合できる。異なる濃度の第1の液体と第2の液体を使用すれば、その混合比を連続的に変化させることにより、第3のチャンネル509に濃度勾配領域を形成できる。
【0191】
図51〜図53は、第2のタイプの機械的変動手段を有する装置の態様を示す。このタイプの装置は、複数の液体導入用マイクロチャンネルと、複数の液体導入用マイクロチャンネルを合流させた1つの混合用のマイクロチャンネルと、混合用マイクロチャンネル中の各液体間の界面を不安定化するための振動子とを含む。この態様では、振動子(好ましくは複数の振動子)が混合用マイクロチャンネルの下流側にも設けられ、混合の促進は混合用マイクロチャンネルへの液体の導入後に行われることに特徴がある。具体的には、混合対象の液体を各液間の接触界面が保持されるように導入した後、液の導入を止め、次いで、前記振動子によって各液間の接触界面を不安定化して各液体を混合する。濃度勾配を形成するなら、混合用マイクロチャンネル内の流れ方向で2つの液体の体積比が連続的に変化するように合流を完了させ、次いで、振動子の出力および駆動時間を制御しつつ振動子を駆動する。
【0192】
2種類の液体は、各液体導入用マイクロチャンネルからの流量の割合を変えて導入することにより、混合用マイクロチャンネル内に様々な形態の幾何学的パターンを形成し得る(例えば、上記の態様1−1および1−2による流量制御を適用できる)。図51は、混合用マイクロチャンネルに形成された2種類の液体の形態を表している。混合対象の液体635,636は、複数の液体導入用マイクロチャンネルから合流部を経由して、混合用マイクロチャンネル633に導入されるが、背景技術において説明した通り、マイクロチャンネル内では混合が進み難いため、それら液体は接触界面を保持した状態を維持する傾向にある。2液の割合を変えて導入すれば、チャンネルの長さ方向に対して2液の割合が連続的に変化するように導入することができる(図51a及び図51b)。また2液を交互に、且つその比率をチャンネルの長さ方向に対して変化するように導入することができる(図51c)。さらには単純にチャンネルの長さ方向を2液で二分するように導入することができる(図51d)。連続的な濃度勾配を形成するには、チャンネルの長さ方向に対して液体の体積比が連続的に変化する形態でそれらの接触界面が安定に保持しておくことが望ましい。
【0193】
図52は、図51の形態に従って混合用マイクロチャンネル633へ導入された2種類の液体を、混合用マイクロチャンネル633の壁面に沿って設置された複数の振動子を使用して混合し、濃度勾配が形成されるプロセスを表している。振動子は、混合用マイクロチャンネル633の壁面に沿って複数設置する。上記のように液体635,636は、接触界面を保持した状態で混合用マイクロチャンネルに導入される(図51c、図52a)。次いで、振動子637を駆動することにより液体635,636間の界面の不安定を誘起する周波数で適宜変動成分を与え、各液体間の界面を不安定化させることができる。振動子の駆動により、各液体間の界面の面積が増大し、または、各液体間の界面が破壊され、または、液体内にキャビテーションが発生することによって、各液体を迅速かつ均一に混合することができる。適正な体積比を維持するように導入された2つの液体は、振動子の駆動によりチャンネルの長さ方向で互いに混ざり合い、チャンネル流れ方向に一様かつ連続的な濃度勾配を形成することができる(図52b)。
【0194】
図53は、図51の混合用マイクロチャンネルに導入された2種類の液体を混合する様子を表したものである。まず、液体635,636が、図51aに示すように接触界面を保持した状態で混合用マイクロチャンネルに導入されている(図51a)。次いで、混合用マイクロチャンネル端部に設置した振動子637により界面の不安定を誘起する周波数で適宜変動成分を与え、各液体間の界面を不安定化させる。それによって、各液体間の界面の面積が増大し、または、各液体間の界面が破壊され、または、液体内にキャビテーションが発生することにより、各液体を迅速かつ均一に混合することができる(図53b)。具体的には、混合後に、チャンネル内の流れ方向に対して2液の混合比が連続的に変化をするように、体積比を変化させつつ両液体間の接触界面が安定に保持されるように液体635,636を導入し、出力および駆動時間を制御しつつ振動子を駆動させることにより、図53b示すような液体の濃度勾配を形成させることができる。
【0195】
混合対象の液体を導入する方法および装置は、公知のあらゆる方法および装置を使用することができる。例えば、ポンプの流量を制御して2種類の液体をそれぞれ任意の割合で導入する方法、バルブの開閉時間を制御して混合対象の液の割合を変化させる方法、電気浸透流駆動方式において付与電位を制御して液体を導入する方法、あるいは関らの方法(M. Yamada and M. Seki, Proc. IEEE the 16th International Symposium on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS), 2003, pp. 347-350, 2003を参照)を挙げることができる。混合対象の液体を導入する方法および装置は、各液体を混合した後に、チャンネルの長さ方向に対して各液体の混合比が連続的となるように、体積比を変化させて各液体間の接
触界面が安定に保持されるように導入できるものであることが望ましい。
【0196】
本態様に使用される振動子およびその駆動方法としては、公知のあらゆる手段および方法を使用することができる。例えば、圧電素子、静電アクチェータ、形状記憶効果可動素子、電磁力アクチェータ、高分子動電材による方法などを挙げることができる。本態様で使用される液体は2種類であるが、これに限らず、2種類以上であってよい。また、本態様の液体導入用マイクロチャンネルは2つであるが、これに限らず、2つ以上でもよい。
【0197】
振動子の設置位置は、混合用マイクロチャンネル内の液体の界面を振動させることができれば、いかなる位置であってもよい。例えば、混合用マイクロチャンネルの壁面に設置したり(図52)、混合用マイクロチャンネルの端部に設置することができる(図53)。また、混合用マイクロチャンネルの両側に設置することや、混合用マイクロチャンネルの壁面と端部の両方に並存させることもできる。さらに、チャンネル内の液体に振動を伝播させることができれば、振動子をチャンネルから離れた位置に設けてもよい。さらに、振動子の設置個数は、1つに限らず、複数個であってもよい。
【0198】
態様2−3(図54〜図58)
本態様の装置の混合促進手段は、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に多数配列された微小構造物である。
【0199】
本態様の装置の基本構成は、液体を導入する2つ以上の液体導入用マイクロチャンネルおよびそれらが接続して形成される1つの混合用マイクロチャンネルを含んでなり、混合用マイクロチャンネル内には微小な構造物が多数配列されている。液体導入用マイクロチャンネルから導入されて合流した液体は、混合用マイクロチャンネル内の微小構造物群に接触によって混合が促進される。マイクロチップ電気泳動装置を例に挙げると、前記液体導入用マイクロチャンネルが緩衝液及び/又は変性剤含有緩衝液を導入するためのマイクロチャンネルであり、前記混合用マイクロチャンネルが濃度勾配形成領域のチャンネルである。以下、マイクロチップ電気泳動装置の態様を説明する。
【0200】
図54の装置は、濃度勾配領域チャンネル709(混合用マイクロチャンネル)内に混合促進手段として微小構造物群を設けている。この図に示されるように、変性剤濃度勾配形成部2では、液体を導入するための第1のチャンネル707(液体導入用マイクロチャンネル)と第2のチャンネル708(液体導入用マイクロチャンネル)が共通の合流部730で連結されてマイクロチャンネル709に接続され、その合流部730の下流近傍にはそのチャンネル幅より微小な構造物群731が設けられている。この微小構造物群731は、微細な大きさの構造物が幾何学的な配列でほぼ等間隔に列をなし、好ましくは各列の構造物が液体の流動方向から見て互い違いに並ぶよう設けられる。第1のチャンネル707と第2のチャンネル8から導入された液体は合流部730で接触し層状になって流れるが、微小構造物群31を通過する際にそれらの接触界面に渦による拡散作用が生じるので、それら2液は良好に混合されてからチャンネル709の下流側(矢印方向)へ流れる。
【0201】
図55は、微小構造物群731として柱状構造物の配列を備えた態様を示す。この柱状構造物群は、混合液体の接触界面に平行で流動方向に垂直な軸を持つものとして構成でき、図55(a)のような円柱でもよいし、図55(b)のような三角柱でもよい。微小構造物群731の形状は、特に限定されず、合流した液体が通過する際にその流れが側壁から剥離し、その剥離渦の拡散作用によって速やかな混合を可能にするものであれば、あらゆる形状を適用可能である。また、上流から核酸試料が流れてくる場合、その流れが柱状構造物にからむため、核酸の分子量分離が可能である。
【0202】
図56は、微小構造物群731として、合流部730の下流近傍でマイクロチャンネル709の壁面に細い溝を規則的な幾何学形状が設けられた態様を示す。合流部730で合流した液体は、微小構造物群731を通過する際に各溝に沿ってチャンネル幅方向の流れが生じ、さらに溝縁の負からも剥離渦が生じて拡散作用が生じ、これにより速やかな混合が可能となる。
【0203】
細い溝からなる微小構造物群731は、図57のような流動方向と交差する網目状のものでもよいし、図58のような独立したV字状の溝を多数設けたものでもよい。これらの図で示されるように、微小構造物群731はマイクロチャンネル709の下面709a及びその上面709bに前記の溝配列を備えている。このような微小構造物群731は、公知のフォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて作製することができる。
【0204】
液体混合装置の製造方法
本発明の液体混合装置は、当該技術分野において周知であるマイクロチップ製造のための慣例的な方法によって製造される。
【0205】
本発明の液体混合装置は、通常、2枚の基板で構成されるが、1枚の基板で構成することもできる。マイクロチップが2枚の基板で構成される場合、1枚の基板には、フォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて、幅、深さともに10〜100μm程度のチャンネルを形成させ、もう1枚の基板には、超音波加工などの機械加工を用いて、リザーバー用の穴を開ける。これら2枚の基板を、熱による溶融接合などの接着技術を用いて貼り合わせると、所定の位置にチャンネルとリザーバーを有するマイクロチップが得られる。
【0206】
マイクロチャンネルの寸法(幅および深さ)は、要求される仕様および可能な加工精度に基づいて決定されるものである。また分析対象物(例えば、2本鎖核酸)より大きければ1mmまで許容される。本発明に適用し得る“マイクロチャンネル”の寸法は、概して1nm〜1000μm、現状の加工精度から好ましくは1nm〜500nm、より好ましくは10μm〜100μmである。
【0207】
基板の加工は、パターン幅、深さに応じて、ウェットエッチングだけでなく、ドライエッチングやサンドブラスト加工を用いてよく、当然、マスクもフォトレジストマスクだけでなく、NiやCrなどのメタルマスクを利用してもよい。例えば、マイクロチャンネルは、フォトリソグラフィー技術によりレジストマスクをパターニングした後、HFの10%希釈液でウェットエッチングにより形成することができる。チャンネル内の深さが異なる部分は、マスクを変えて、複数回パターニング工程とエッチング工程を行うことで形成することができる。
【0208】
基板の材料は、ガラス、石英、パイレックス(登録商標)、プラスチック、シリコン、樹脂、金属から、用途や製造方法に応じて選択することができる。例えば、ガラス基板の貼り合わせは、1%に希釈したHF溶液をガラス接合面に滴下した後、両者をアライメントして重ね、70kPaの圧力で60時間放置することにより行うことができる。なお、接合は、溶融接合、真空装置内でのビーム照射を利用した直接接合などを利用することができる。
【0209】
プラスチックの場合、マイクとチップの作製には射出成形、金型転写、ナノインプリンティング、ナノスタンプを利用することができ、低コストであり、大量生産、使い捨てに適する。
【0210】
液体混合装置の用途
本発明の液体混合装置は、微少量の液体を混合することが必要とされるあらゆる装置に適用することができる。例えば、本発明は、化学分析または生化学分析のための分析用マイクロチップのような微小化学分析装置(μTAS)に適用することができ、それら装置における微小量の液体の混合を高速化することができる。さらに化学合成のためのマイクロリアクターでは、瞬間的な加熱や冷却機構を付加することによる中間反応の抑制など、従来のビーカ内反応ではできなかったファインケミカルへの応用も可能となる。
【0211】
マイクロリアクターの用途の一例は、芳香族化合物と高反応活性な炭素カチオンとを混合する場合のフリーデル・クラフツ化反応において、モノ置換体だけを高収率で得る装置である。従来のビーカ内での反応では、トリメトキシベンゼンとイミニウムカチオンを混合した場合、トリメトキシベンゼンの置換率は80%以下、目的のモノ置換体の収率は40%以下、副生成物としてのジ置換体の収率が30%以上である。しかし、本発明を適用したマイクロリアクターによれば、それら反応体の高効率かつ迅速な混合が可能になるため、トリメトキシベンゼン置換率は90%以上、モノ置換体の収率は90%以上、ジ置換体の収率は5%以下となり、望ましい反応生成物だけを選択的に製造できる。その結果、同じ収量を得るのに必要とされる原料及び反応試薬の量も少なくなる。
【0212】
また、本発明を適用できる他の用途としてマイクロチップ電気泳動装置が挙げられる。マイクロチップ上で電気泳動を行うことは、使用される試料や試薬が少量で足りる;反応時間や分析時間が短縮する;反応およびプロセス処理時間が短縮され、反応効率や生成物収率が向上する;廃液が少量である;高スループット分析に適するといった様々な利点を有する。特に、本発明の液体混合装置および方法を、変性剤濃度勾配を形成するための緩衝液の混合に使用することにより、DGGEに有用なマイクロチップ電気泳動装置を提供することができる。
【0213】
[分析対象物を分離する装置および方法]
以下、DGGEを使用して分析対象物を分離する装置および方法について説明する。
【0214】
DGGEに関する態様A
態様Aでは、変性剤濃度勾配が泳動方向に連続的に変化するように形成される。
【0215】
本態様のマイクロチップ電気泳動装置は、変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから変動する割合で導入される各緩衝液が前記混合用マイクロチャンネル内で合流することにより前記変性剤の濃度勾配領域が形成される。
【0216】
さらに好ましい態様は、混合用マイクロチャンネル内で合流する緩衝液間の混合を促進するための混合促進手段を有する。この混合促進手段には、上で説明した態様1−1から2−3までの各態様およびそれらのあらゆる組合せを適用することができる。
【0217】
態様Aのマイクロチップ電気泳動装置
図59a、図59b、図59c、及び図59dは、マイクロチップ電気泳動装置の基本構造を模式的に示す。先ずこれらを参照して本態様の基本概念を説明する。
【0218】
図59aは、1枚のマイクロチップ801上に、変性剤濃度勾配形成部802と、電気泳動部804とを含む。変性剤濃度勾配形成部802は、電気泳動部804の濃度勾配領域チャンネル809と連結しており、変性剤濃度勾配形成部802から変性剤を含む泳動用緩衝液が濃度勾配領域チャンネル809に供給される。電気泳動部804は、濃度勾配領域チャンネル809とその下流側に接続された試料導入部803を含む。一般的なやり方では、濃度勾配形成部802において変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液同士が変化する割合で混合され、こうして得られる変性剤濃度勾配を持つ緩衝剤領域が、濃度勾配領域チャンネル9の上流側からその下流側の電気泳動部804へ逐次導入される。
【0219】
試料導入部803は電気泳動部804に設けられている。精製DNA等の核酸試料(以下DNA試料)は、試料導入部803から電気泳動部804の濃度勾配領域チャンネル809内へ導入される。チャンネル809内の変性剤濃度勾配領域へDNA試料が導入されると、ここでDNA試料中の2本鎖DNAが塩基配列の違いにより分離される。
【0220】
図59bに示すマイクロチップ電気泳動装置は、1枚のマイクロチップ801上に変性剤濃度勾配形成部802と、試料導入部803と、電気泳動部804とを含み、電気泳動部804において、試料導入部803は濃度勾配領域チャンネル809を横切る形態で濃度勾配領域チャンネル809と連結されている。この形態で試料導入部803を連結することにより、電気泳動部804の領域外から(濃度勾配領域チャンネル809とは別個の試料導入チャンネルから)DNA試料を導入でき、試料の導入操作が容易になる。
【0221】
図59c及び図59dに示すマイクロチップ電気泳動装置は、1枚のマイクロチップ801上に変性剤濃度勾配形成部802と、試料導入部803と、電気泳動部804とを含み、変性剤濃度勾配形成部802が電気泳動部804を含み、変性剤濃度勾配形成部802が電気泳動部804を兼ねる構成となっている。変性剤濃度勾配形成部802が電気泳動部804を兼ねることによって、マイクロチップの小型化が可能になる上、変性剤濃度勾配802で形成した変性剤濃度勾配領域を電気泳動部804に移動させる必要がなくなる。
【0222】
次に、上記態様の各構成部分を説明する。
【0223】
以下では説明の簡略化のため、異なる濃度で変性剤を含む緩衝液として、変性剤を含有する緩衝液と、変性剤を含有しない緩衝液(本明細書では単に緩衝液という場合もある)とを使用する態様について説明する。
【0224】
本態様において、一方の緩衝液が変性剤を含有するか、含有しないかが重要ではなく、緩衝液間の変性剤の相対的濃度差が重要である。例えば、“変性剤を含有しない緩衝液”が相対的に低濃度の変性剤を含有しており、“変性剤を含有する緩衝液”が“変性剤を含有しない緩衝液”よりも有意に高い濃度の変性剤を含有すれば同様の効果を得られる。このような態様も本発明の範囲内である。
【0225】
図60は、図59a〜59dの装置における変性剤濃度勾配形成部802の具体的構成を示す。図60の変性剤濃度勾配形成部802には、一定濃度で変性剤を含有する緩衝液が充填された第1のリザーバー805と、変性剤を含有しない緩衝液が充填された第2リザーバー806と、第1のリザーバー805に通じる第1のチャンネル807(液体導入マイクロチャンネル)と、第2のリザーバー806に通じる第2のチャンネル808(液体導入マイクロチャンネル)と、第1のチャンネル807と第2のチャンネル808が合流して形成された濃度勾配領域チャンネル809(混合用マイクロチャンネル)とを含む。第1のリザーバー805は、第1の電源811と接続された第1の電極810を含む。第2のリザーバー806は、第2の電源813と接続された第2の電極812を含む。
【0226】
変性剤濃度勾配形成部802において、第1の電源811と電極810及び第2の電源813と電極812を介して各リザーバー内に電圧を印加すると、これによってチャンネル内に電気浸透流が生じる。その電気浸透流によって第1のリザーバー805からは変性剤含有緩衝液が第1のチャンネル807を通じて濃度勾配領域チャンネル809に導入される。同様にして、第2のリザーバー806からは緩衝液が第2のチャンネル808を通じて、チャンネル809に導入される。
【0227】
上記のように第1の電源811と第2の電源813の各電位を制御することにより、チャンネル807およびチャンネル808からの各緩衝液の流入の割合を変えることができる。こうして、変性剤含有緩衝液と緩衝液とを、濃度勾配領域チャンネル809の上流点(チャンネル807およびチャンネル808からの各緩衝液の合流点)において、任意の割合で混合することができる。チャンネル809内に連続的な変性剤濃度勾配領域を形成するためには、第1の電源811と第2の電源813の各電位を連続的に変化させる、好ましくは、互いに合流する2つの緩衝液の流量間の割合を一定の速度で変化させることにより、変性剤含有緩衝液と緩衝液の混合比を連続的に変化させる。
【0228】
図61は、変性剤濃度勾配形成部802について別の構成を示す。図61の変性剤濃度勾配形成部802には、変性剤含有緩衝液が充填された第1のリザーバー805と、緩衝液が充填された第2リザーバー806と、第1のリザーバー805に通じる第1のチャンネル807と、第2のリザーバー806に通じる第2のチャンネル808と、第1のチャンネル807と第2のチャンネル808が合流して形成される濃度勾配領域チャンネル809とを含む。第1のリザーバー805は、第1の電源811と接続された第1の電極810を含み、その上流側に第1のポンプ814が接続される。さらに第2のリザーバー806には、第2の電源813と接続された第2の電極812を含み、その上流側に第2のポンプ815が接続される。
【0229】
図61の変性剤濃度勾配形成部802は、図60に示される第1のリザーバー805と第2のリザーバー806に、それぞれ第1のポンプ814と第2のポンプ815を付加した構造である。この態様では、第1のポンプ814および第2のポンプ815を介した送液により、各電気浸透流による送液を補助することができ、変性剤含有緩衝液や緩衝液の粘性が高い場合においても濃度勾配領域チャンネル809へ適正な液体導入および変性剤濃度勾配の形成が確実になるという利点がある。
【0230】
図61の変性剤濃度勾配形成部802においても、第1の電源811と第2の電源813の各電位の制御に加え、第1のポンプ814と第2のポンプ815の流量を制御することにより、第1のリザーバー805からは変性剤含有緩衝液が第1のチャンネル807を通じてチャンネル809に導入され、同様に第2のリザーバー806からは緩衝液が第2のチャンネル808を通じてチャンネル809に導入される。こうして、変性剤含有緩衝液と緩衝液とを、濃度勾配領域チャンネル809の上流点(チャンネル807およびチャンネル808からの各緩衝液の合流点)において、任意の割合で混合することができる。チャンネル809内に連続的な変性剤濃度勾配領域を形成するためには、第1の電源811と第2の電源813の各電位を連続的に変化させる、好ましくは、互いに合流する2つの緩衝液の流量間の割合を一定の速度で変化させることにより、変性剤含有緩衝液と緩衝液の混合比を連続的に変化させる。第1のポンプ814と第2のポンプ815は、図61に示されるようにそれぞれ第1のリザーバーと第2のリザーバーに接続されてもよいし、第1のチャンネル807と第2のチャンネル808の上に設けられてもよい。
【0231】
図62は、図59b及び図59dの装置における試料導入部803の具体的構成を示す。図62に示される試料導入部803は、DNA試料が充填された第3のリザーバー816と、排出されるDNA試料廃液のための第4のリザーバー817と、第3のリザーバー816に通じる第4のチャンネル818と、第4のリザーバー817に通じる第5のチャンネル819とを含む。第4のチャンネル818と第5のチャンネル819とは、チャンネル809と交差して接続され、そこで第4のチャンネル818と第5のチャンネル819とが連通する。さらに、第3のリザーバー816には第3の電極820が接続され、第3の電極820には第3の電源821が接続される。さらに第4のリザーバー817には第4の電極822が接続され、第4の電極822には第4の電源823が接続される。
【0232】
試料導入部803において、第3の電源821と第4の電源823の各電位を制御することにより、DNA試料の供給が行われる。DNA試料は第3の電源821と第4の電源823の電位の制御により生じた電気浸透流と電気泳動力により第3のリザーバー816からチャンネル818,819を通じて第4のリザーバー817の方へ送られる。そのプロセスにおいて、DNA試料は、第4のチャンネル818および第5のチャンネル819のチャンネル809上の交点に導入され、次いで、チャンネル809の両端に電圧を印加する。チャンネル809内への電圧印加により、チャンネル818,819との交点に導入されているDNA試料断片のみがチャンネル809内に導入される。チャンネル809内にはDNA変性剤の濃度勾配があるため、そこに導入されたDNA試料は濃度勾配内で電気泳動的に分離されることができる。
【0233】
図63は、図59bの装置の一態様を示す。電気泳動部804には、チャンネル809の下流側には廃液用の第5のリザーバー824が設けられている。第5のリザーバー824は、第5の電源826と接続された第5の電極825を含む。チャンネル809の上流側には、図60を参照して説明した通りの変性剤濃度勾配形成部802と、図62を参照して説明した通りの試料導入部803とを含む。第1〜第5の電源は適宜共用してもよい。
【0234】
図63の態様において、変性剤濃度勾配形成部2で形成される変性剤濃度勾配を持つ緩衝剤流がチャンネル809内に導入されることにより、チャンネル809内に変性剤濃度勾配領域の流れ(移動)が生じる。この変性剤濃度勾配領域上に試料導入部803からDNA試料が導入される。ここで、チャンネル809に上流側から導入される変性剤濃度勾配領域は、変性剤濃度勾配形成部802およびチャンネル809内で生じる電気浸透流により下流方向に移動する。その一方、チャンネル809内に導入されたDNA試料は、変性剤濃度勾配形成部802およびチャンネル809内で生じる電気浸透流による下流への移動量と、DNA試料自身の負電荷により生じる電気泳動による上流への移動量との総和によって移動する。DNA試料の正味の移動量は、変性剤濃度勾配領域の下流方向への移動量よりも、DNA試料自身の負電荷に起因する上流への電気泳動の分だけ小さくなる。ここで十分時間が経過すれば、DNA試料は上流に位置する変性剤濃度勾配領域に到達できる。したがって、所定時間の泳動によりDNA試料中のGCクランプが付いた2本鎖DNA断片が、塩基配列の違いおよび変性剤濃度勾配に依存して、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)によりチャンネル809の移動方向で分離される。
【0235】
本態様におけるDGGEの原理は、尿素やホルムアミドなどのDNA変性剤により核酸塩基の電荷を中和するためヌクレオチド間の水素結合が切断され、2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離する現象を利用するものである。DNA試料は、その一端にDNA変性剤濃度が高くても1本鎖DNAに解離しにくい人工的なDNA配列(GCクランプ)を付けてPCR増幅した2本鎖DNAを含む。DNA変性剤の濃度勾配が形成されたゲル中でGCクランプを付けた2本鎖DNAを電気泳動すると、ある変性剤濃度において、GCクランプが付いていない側の2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離し、その2本鎖DNAの移動速度は小さくなる。2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離する変性剤濃度はその塩基配列に依存するため、同じ濃度勾配領域上で異なる塩基配列を有する2本鎖DNAを泳動すると、移動距離に差が生じる。こうして2本鎖DNAを塩基配列の違いによって分離することができる。
【0236】
図64は、図59bの装置の一態様を示す。図64の電気泳動部804は、廃液用の第5のリザーバー824と、第5のリザーバー824に通じるチャンネル809と含む。第5のリザーバー824は、第5の電源826と接続された第5の電極825を含む。この態様は、その上流側に図61を参照して説明した通りの変性剤濃度勾配形成部802と、図62を参照して説明した通りの試料導入部803とを含む。
【0237】
図64の態様において、変性剤濃度勾配形成部802で形成される変性剤濃度勾配を持つ緩衝剤の流れ(移動)がチャンネル809内に導入されることにより、チャンネル809内に変性剤濃度勾配流が生じる。この変性剤濃度勾配領域上に試料導入部803からDNA試料が導入される。ここで、変性剤濃度勾領域は、第1の電源811と第2の電源813の電位による電気浸透流に加えて、第1のポンプ810及び第2のポンプ815の駆動によりチャンネル809内を下流に移動する。一方、チャンネル809に導入されたDNA試料は、第1のポンプ814、第2のポンプ815及び第1の電源811と第2の電源813の電位による電気浸透流による下流への移動と、DNA試料自身の負電荷により生じる電気泳動による上流への移動との総和により移動する。DNA試料の正味の移動量は、変性剤濃度勾配領域の下流方向への移動量よりも、DNA試料自身の負電荷に起因する上流への電気泳動の分だけ小さくなる。ここで十分時間が経過すれば、DNA試料は上流に位置する変性剤濃度勾配領域に到達できる。したがって、所定時間の泳動によりDNA試料中のGCクランプが付いた2本鎖DNA断片が、塩基配列の違いおよび変性剤濃度勾配に依存して、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)によりチャンネル9の移動方向で分離される。
【0238】
本態様のマイクロチップ電気泳動装置のチャンネル及びリザーバーには、高分子マトリックスを含有する緩衝液が充填される。これは、高分子マトリックスの網目構造や高分子マトリックスとDNAの相互作用によって、DNAを分離できるからである。本態様に使用し得る高分子マトリックスは、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド、ポリメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリオール類、デキストラン、プルランなどから適宜選択される。高分子マトリックスがヒドロキシエチルセルロースの場合は、2本鎖DNAの長さに依存し、0.01%〜3.0%の濃度範囲にあることが好ましい。このような緩衝液の例として、トリス−酢酸緩衝液やトリス−ホウ酸緩衝液などがある。
【0239】
本態様に使用し得るDNA変性剤は、尿素、ホルムアミド、ホルムアルデヒド、水酸化ナトリウムなどの強アルカリなどから適宜選択される。好ましくは尿素とホルムアミドである。ホルムアミドと尿素を変性剤として用いた場合、一般的には、7M尿素、40%ホルムアミドを含む変性剤含有緩衝液を100%変性剤含有緩衝液とし、変性剤を含んでいない緩衝液を0%緩衝液とする。一般的には、60℃で泳動する場合、変性剤濃度勾配は、0%−100%または20%−70%の範囲であるが、16S rRNA遺伝子を用いた微生物群集構造解析の場合、35%−55%が好ましい。
【0240】
本態様で分析可能なDNA試料には、人の血液や細胞などのような生体試料や、食品、土壌や河川水、海水などの環境試料、あるいは活性汚泥やメタン発酵汚泥などから抽出した2本鎖DNAを用いる。抽出したゲノムDNAの所定の領域を、PCR反応などにより、一端にDNA変性剤濃度が高くても1本鎖DNAに解離しにくい人工的なDNA配列(GCクランプ)を付けて増幅した2本鎖DNAを用いることができる。
【0241】
本態様によるDNAの検出手段は、蛍光検出、発光検出、吸光検出、電気化学的検出などから選択される。蛍光検出では、あらかじめPCR反応のプライマーを蛍光標識しておく方法、PCR産物を蛍光標識する方法、あらかじめPCR産物をDNA染色剤で染色する方法、および、高分子マトリックス含有緩衝液にDNA染色剤を含有させ、電気泳動中に染色する方法などがある。蛍光標識物質としては、フルオレセイン、ローダミン、Cy3、Cy5、BODIPY FL、TexasRed、Alexa Fluorなどがある。DNA染色剤としては、SYBR Green、Vistra Green、エチジウムブロマイド、YOYO−1、TOTO−1、thiazole orangeなどがある。検出器には、蛍光検出、発光検出、吸光検出の場合、光電子増倍管、UV検出器、フォトダイオード検出器などを用いることができる。
【0242】
次に、本態様のマイクロチップ電気泳動装置を用いた分析について、図63を参照しつつその操作手順の一例を以下に示す。
【0243】
第1のリザーバー805、第2のリザーバー806、第3のリザーバー816、第4のリザーバー817、又は第5のリザーバー824のいずれかを通じて、第1のチャンネル807、第2のチャンネル808、チャンネル809、第4のチャンネル818、及び第5のチャンネル819内に、高分子マトリックスを含有する緩衝液を充填する。毛管現象で充填されない場合は注射器などで圧力をかけて充填するとよい。
【0244】
前記緩衝液の充填の後、第1のリザーバー805には変性剤含有緩衝液を充填し、第2のリザーバー806、第4のリザーバー817、第5のリザーバー824には緩衝液を充填し、第3のリザーバー816にはDNA試料を充填する。第4のリザーバー817および第5のリザーバー824には、場合により変性剤を含有しない緩衝液を充填してよい。使用される緩衝液とDNA試料には、全て高分子マトリックスを含有させることが好ましい。DNA試料、第4のリザーバー817、第5のリザーバー824に充填する緩衝液には高分子マトリックスを含有させなくてもよい。
【0245】
次に、第1の電極810、第2の電極812、第3の電極820、第4の電極822、及び第5の電極825を、第1のリザーバー805、第2のリザーバー806、第3のリザーバー816、第4のリザーバー817、及び第5のリザーバー824にそれぞれ差し込む。但し、それら電極は、あらかじめ第1のリザーバー805、第2のリザーバー806、第3のリザーバー816、第4のリザーバー817、及び第5のリザーバー824の内部にそれぞれ形成されていてもよい。
【0246】
次に、第5の電極825を接地し、第1の電極810、及び第2の電極811に所定の電位を与え、所定の変性剤濃度の緩衝液をチャンネル809に導入する。このとき、第4のチャンネル818と第5のチャンネル819に緩衝液が流れ込まないように、第3の電極820と第4の電極822に所定の電位を与えることが好ましい。
【0247】
次に、まず第4のチャンネル818及び第5のチャンネル819で生じる電気浸透流速度が2本鎖DNAの電気泳動速度より大きい場合には、第4の電極822を接地し、第3の電極820に所定の電圧を印加し、DNA試料をチャンネル809、第4のチャンネル818、第5のチャンネル819の交点に導入する。逆に第4のチャンネル818及び第5のチャンネル819で生じる電気浸透流速度が、2本鎖DNAの電気泳動速度より小さい場合には、第3の電極820を接地し、第4の電極822に所定の電圧を印加する。どちらの場合にも、第3のチャンネル809にDNA試料が流れ込まないように、第1の電極810、第2の電極812、及び第5の電極825に所定の電位を与えることが好ましい。
【0248】
次に、第5の電極825を接地し、第1の電極810及び第2の電極812に印加する電圧を連続的に変化させ、チャンネル809に所定の変性剤濃度勾配を持つ領域を導入する。それと同時に、このチャンネル809と第4のチャンネル818,819との交点で、DNA試料が上記変性剤濃度勾配領域を有するチャンネル809上に導入される。このとき、第4のチャンネル818と第5のチャンネル819に緩衝液が流れ込まないように、第3の電極820と第4の電極822に所定の電位を与えることが好ましい。第1の電極810と第2の電極812に付与する電位の変動手順は、最初に第2の電極812の電位を第1の電極810の電位より大きくしておき、そして徐々に第2の電極812の電位を小さくし、そして、第1の電極810の電位を大きくしていく。この結果、チャンネル809に導入される変性剤濃度勾配領域は、下流では変性剤濃度が薄く、上流に行くほど濃いものに形成される。
【0249】
上記のような操作によりDNA試料中の2本鎖DNAを変性剤濃度勾配領域中で分離しながら又はその分離後に、チャンネル9に向けて設けられたDNA検出器で検出が行われる。DNA検出は、チャンネル9のいずれの箇所で行ってもよい。分析中、マイクロチップは一定の温度に保つ必要があり、好ましくは40℃〜70℃である。
【0250】
混合促進手段を有する態様Aのマイクロチップ電気泳動装置
態様1−1から2−3までの各態様において説明した混合促進手段を、上記態様Aのマイクロチップ電気泳動装置に適用することができる。マイクロチップ電気泳動装置において混合促進手段を使用する場合、緩衝液を導入するためのマイクロチャンネル807,808が液体導入用マイクロチャンネルであり、濃度勾配形成領域のチャンネル809が混合用マイクロチャンネルであり、チャンネル9内での緩衝液の混合に混合促進手段が使用される。また、緩衝液を送るための各リザーバーが液体導入用マイクロチャンネルの液体導入口または導入部である。
【0251】
また混合促進手段は、濃度勾配の形成にも役立つ。例えば、態様1−1および1−2による流量の独立制御手段(例えば、付与電位または印可電圧を調整することによる電気浸透流の制御、マイクロシリンジによる圧力を調節することによる送液ポンプの制御、またはそれらによる液体駆動を2次的に調節するためのバルブの制御)を利用することにより、マイクロチャンネル807,808から導入される緩衝液の割合を任意に変化させると同時に、合流する緩衝液の接触界面を増加させることができる。接触界面の増加により緩衝液間の分子拡散による混合が促進されるので、チャンネル809内にはチャンネル幅方向に均一な濃度勾配を速やかに形成することができる。この技術は、DEEGに有用なマイクロチップ装置を提供することができ、DEEG分析時間の短縮化および高スループット化を可能にする。
【0252】
図65〜図68は、高速バルブ832を設けた上記態様Aの装置を示す。これらの図に示すように、例えば、第1のチャンネル807に高速作動バルブ832を設けることができる。この変性剤濃度勾配形成部802において、第1の電源811と電極810及び第2の電源813と電極812を介して各リザーバー内に電圧を印加すると、これにより生じる電気浸透流によって第1のリザーバー805から変性剤含有緩衝液が第1のチャンネル807を通じて濃度勾配領域チャンネル809に導入され、同様に第2のリザーバー806から変性剤不含有緩衝液が第2のチャンネル7を通じてチャンネル809に導入される。このとき、高速作動バルブ832の開閉動作を制御することにより、第2のリザーバー806からの一定流量の緩衝液に対する第1のリザーバー805からの変性剤含有緩衝液の混合割合を任意に変化させることができる。高速作動バルブ832の開閉時間を連続的に変化させることにより、連続的な濃度勾配を形成できる。
【0253】
DGGEに関する態様B
態様BのDGGE法は、変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域(泳動ゲル)が泳動方向に交互に配置され、濃度勾配領域に分析対象物が導入されて電気泳動が行われる。
【0254】
態様Bのマイクロチップ電気泳動装置では、マイクロチャンネル内に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域が泳動方向に交互に配置され、該濃度勾配領域に分析対象物が導入されて電気泳動が行われる。
(1)本態様の原理
態様Bによる2本鎖核酸の分離方法は、異なる濃度で変性剤を含有する少なくとも2つの緩衝液領域を核酸の泳動方向に対して交互に配置することを特徴とする。核酸は、そのような変性剤濃度の不連続配置構造の中を電気泳動的に移動することによって分離する。この原理を従来のDGGE法を参照して説明する。
【0255】
DGGEの原理は、尿素やホルムアミドなどの核酸変性剤の濃度勾配が形成されたゲルの中で、それら核酸変性剤が、泳動される2本鎖核酸の核酸塩基の電荷を中和することによりヌクレオチド間の水素結合が切断され、2本鎖核酸が1本鎖核酸に解離する現象を利用するものである。具体的には、泳動する核酸断片を、その一端に核酸変性剤濃度が高くても1本鎖核酸に解離しにくい人工的な核酸配列(GCクランプ)を付けてPCR増幅して2本鎖核酸に調製し、調製した2本鎖核酸を電気泳動する。このとき、ある変性剤濃度において、GCクランプがついていない側の2本鎖核酸が1本鎖核酸に解離し、移動速度が小さくなる。2本鎖核酸が1本鎖核酸に解離する変性剤濃度は、2本鎖核酸の塩基配列に依存するので、各種の2本鎖核酸を塩基配列の違いに応じて分離することができる。つまり、DGGEは、2本鎖核酸の解離に要する変性剤濃度の塩基配列依存性を巧妙に利用する。異なる塩基配列を持った2本鎖核酸は、塩基配列によって解離しやすくなる変性剤濃度が異なる。したがって、それら2本鎖核酸は、変性剤濃度に勾配を持たせたゲル中を電気泳動すると、変性剤濃度勾配上で次第に解離状態に差を生じさせ、それらの分離を実現する。
【0256】
この変性剤濃度の塩基配列依存性は、変性剤中の尿素やホルムアミドなどの変性剤分子が2本鎖核酸の水素結合部位に作用する頻度の違いであると関連付けて考えることができ、これは次のように説明することができる。すなわち、ある塩基配列を持った2本鎖核酸の水素結合を部分的に切るには、その部分の2本鎖核酸の水素結合部位に変性剤分子をある閾値以上の頻度で作用させなければならない。また、2本鎖核酸のある部分の水素結合を切るという反応には有限の反応時間が必要である。その水素結合部位に、少なくともそれに必要とされる反応時間より長い時間、変性剤分子が作用しなければならない。この有限の反応時間も、塩基配列に依存すると考えられる。
【0257】
上記のアイデアに基づき、本発明者は、移動する核酸と変性剤分子との反応頻度の閾値に加えて、それらの反応時間の閾値にも着目して2本鎖核酸の分離方法を検討した。その結果、本発明者は、変性剤の濃度を連続的に変化させることなく反応頻度を変化させて2本鎖核酸を分離できることを見出した。本分離方法は、2本鎖核酸の水素結合を切るのに必要とされる反応頻度と反応時間の閾値が塩基配列によって異なることを利用する方法であって、電気泳動方向に変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を配列する方法に関する。具体的には、変性剤を高い濃度で含む緩衝液領域および/または変性剤を含まない又は低い濃度で含む緩衝液領域の“長さ(泳動方向の距離)”を泳動方向で変化させ、ここで、各緩衝液領域は、泳動方向で変性剤分子との反応頻度又は/及び反応時間(変性剤を高い濃度で含む緩衝液領域の通過時間)が漸次上昇するよう配置される。このように配置された緩衝液領域上に2本鎖核酸を泳動させると、それらを塩基配列の違いにより分離可能であることが見出された。
【0258】
態様Bでは、各緩衝液領域内に変性剤濃度が連続的に変化する勾配を形成する必要はない。所定濃度の変性剤を含有する緩衝液領域の2次元分布の勾配を形成し、泳動方向の下流に行くほど変性剤の分布が密になるようにする。
【0259】
上述の通り、本態様は、変性剤濃度の不連続な配置構造を形成することに関する。
【0260】
本態様に使用される用語“変性剤濃度の不連続配置構造”または“変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液領域の配列”とは、変性剤の濃度が異なる少なくとも2つの緩衝液領域を交互に配列した構造を意味する。
【0261】
本態様に使用される用語“緩衝液領域”とは、一定濃度の緩衝液を含むゲル等の電気泳動用マトリックスをいう。
【0262】
以下では説明の簡略化のため、変性剤を含有する緩衝液領域と変性剤を含有しない緩衝液領域との交互配置(以下“変性剤間欠配置”という)を説明する。ただし、各緩衝液領域が変性剤を含有するか、含有しないかが重要ではなく、変性剤の相対的な濃度差が重要である。例えば、“変性剤を含有しない領域”が相対的に低濃度の変性剤を含有しており、“変性剤を含有する領域”が“変性剤を含有しない領域”よりも有意に高い濃度の変性剤を含有すれば同様の効果を得られる。このような態様も本発明の範囲内である。
【0263】
好ましい態様では、2本鎖の核酸はその移動距離に応じて変性剤分子との反応頻度が漸次大きくなるように或いは変性剤分子との反応時間が漸次長くなるように企図される。この好ましい態様では、泳動方向で徐々に長さが変化する変性剤含有緩衝液の領域および/または変性剤不含有緩衝液の領域の配列を使用する。
【0264】
上記の緩衝液領域配列による分離原理は次のように説明することができる。ここでは、図69の態様(後述の第1の態様)を例に説明する。図82に示すように、泳動方向で変性剤含有緩衝液の領域の間隔が短くなる場合、その配列パターンを横切って泳動する各核酸は、移動距離が小さいところ(上流域)では時間tのうち変性剤含有緩衝液に接触する時間の割合Aが小さい。そして、移動距離が大きいところ(下流域)では同じ時間tのうち変性剤含有緩衝液に接触する時間の割合Bが大きくなる。すなわち、上流と下流とで核酸移動度に有意な差が無く、且つ変性剤含有緩衝液の各領域を通過する時間Δtが同じであるとすれば、同じ長さの時間t内で核酸が変性剤含有緩衝液と接触する時間の割合は、通過する変性剤含有緩衝液の領域の数に依存してA<Bの関係が成り立つ。このように、核酸はその移動距離(移動時間)によって同一時間t内に変性剤含有緩衝液に接触する時間の割合(すなわち反応頻度)が次第に増えていく。接触時間の割合が次第に増えていくにつれ、2本鎖核酸は、塩基配列の相違に応じて異なる反応閾値を越えたところで解離し、結果としてそれぞれ固有の移動度(移動距離)を持つ。したがって、変性剤含有領域の間欠的配置の利用により、連続的に形成した変性剤濃度勾配を利用する場合と同じ分離効果が得られる。
【0265】
図69は、変性剤間欠配置の第1の態様を示す。この態様では、核酸の泳動方向で変性剤含有緩衝液の各領域の長さをほぼ一定とし、変性剤不含有緩衝液の各領域を徐々に短くしていく変性剤間欠配置である。つまり変性剤含有緩衝液同士の間隔(変性剤を含有しない緩衝液領域の幅)は核酸の泳動方向に行くにしたがって狭まる。この態様において、核酸が変性剤間欠配置上を移動すると、それが変性剤含有緩衝液と変性剤不含有緩衝液を交互に通過する。ここで、核酸が各変性剤含有緩衝液領域の通過に要する時間は、塩基配列の相違に起因する解離反応時間の差よりも十分に短くなるよう設定されている。そして、核酸が下流に行くにつれて、それが一定時間内に変性剤含有緩衝液を通過する頻度は増えていくので(即ち反応頻度が増加し)、2本鎖に解離しやすくなる。したがって、2本鎖の結合が比較的不安定となる塩基配列を有する核酸は、変性剤間欠配置上の変性剤含有緩衝液領域の密度が小さい場所(上流域)で解離するが、2本鎖の結合が比較的安定となる塩基配列を有する核酸は変性剤含有緩衝液領域の密度がより大きい場所(下流域)で解離することになる。この態様は、変性剤含有緩衝液領域の配列密度の変化(通過頻度の変化)を利用するものである。
【0266】
図70は、変性剤間欠配置の第2の態様を示す。この態様は、核酸の泳動方向で変性剤不含有緩衝液の各領域の長さをほぼ一定とし、変性剤含有緩衝液の各領域を徐々に長くしていく変性剤間欠配置である。この態様においても、核酸が、適切な数の変性剤含有緩衝液領域の通過に要する時間は、塩基配列の相違により生じる解離反応時間の差よりも短い。泳動される核酸は、各変性剤含有緩衝液領域を通過する時間が塩基配列の解離に要する反応時間に達していたか否かにより解離の度合いが異なる。また、核酸が下流に行くにつれて変性剤含有緩衝液領域を通過する時間が長くなるので、2本鎖が解離しやすくなる。したがって、核酸の2本鎖が不安定であれば変性剤間欠配置の上流域で解離するが、安定であればより下流域で解離することになる。この態様は、各々の変性剤含有緩衝液領域の長さ(泳動方向の幅)に依存する継続的作用(一つの配列での反応時間)の変化を利用するものである。
【0267】
なお、核酸が変性剤含有緩衝液を通過するのに要する時間は、変性剤含有緩衝液の長さと核酸の泳動速度によって決まる。また、核酸が変性剤含有緩衝液を通過する頻度は、緩衝液の長さと核酸の泳動速度によって決まる。したがって、変性剤含有緩衝液領域の長さ、変性剤不含有緩衝液領域の長さ、核酸の泳動速度、変性剤含有緩衝液の変性剤濃度、変性剤間欠配置の全体長などを適切に選択することにより、各種2本鎖核酸を塩基配列の違いにより適切に分離することができる。これらのパラメータは分析する核酸の種類や要求される精度などにより異なる。これらは、事前に実施される予備実験により決定するとよい。例えば、2本鎖核酸の分離を制御するために、変性剤含有緩衝液領域の長さや濃度を調節することができる。例えば、変性剤含有緩衝液領域の長さを短くすれば、核酸が変性剤含有緩衝液領域を通過する時間が短くなり、精度の良い検出が可能となる。変性剤含有緩衝液領域の変性剤濃度を薄くすれば、精度の良い検出が可能となる。このように分離精度を制御するため、変性剤含有緩衝液領域の長さ、変性剤不含有緩衝液領域の長さ、核酸の泳動速度、変性剤含有緩衝液の変性剤濃度、変性剤間欠配置の全体長などを必要に応じて調節することができる。
【0268】
変性剤間欠配置の第1の態様では変性剤不含有緩衝液の各領域のみの長さを変え、また、第2の態様では変性剤含有緩衝液の各領域のみの長さを変えているが、これらに限らず、変性剤不含有緩衝液の各領域と変性剤含有緩衝液の各領域の両方の長さを変える配置としてもよい。
【0269】
本態様をマイクロチップ上で行う場合、濃度勾配形成領域の上流点における緩衝液同士の混合操作(態様Aのように変性剤の連続的勾配を形成する場合に分析チップ上での混合が要求される)が必要とされない点で好都合である。また、そのような分析チップ上での混合を促進する手段が必要とされないという点で好都合である。
【0270】
本態様に使用される緩衝液は、必要に応じて高分子マトリックスを含有する緩衝液である。これは、高分子マトリックスの網目構造や高分子マトリックスと核酸の相互作用によって、核酸を分離できるからである。
【0271】
本態様に使用し得る高分子マトリックスは、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド、ポリメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリオール類、デキストラン、プルランなどから適宜選択される。高分子マトリックスがヒドロキシエチルセルロースの場合は、2本鎖DNAの長さに依存し、0.01%〜3.0%の濃度範囲にあることが好ましい。この高分子マトリックスをトリス−酢酸緩衝液やトリス−ホウ酸緩衝液などに含有させ、緩衝液として用いる。但し、既成の平板ゲルに緩衝液を打ち込んで緩衝液領域の配列を形成することもできる。既に高分子マトリックスの網目構造が形成されているゲルには、高分子マトリックスを含有しない緩衝液を使用し得る。
【0272】
本態様に使用される変性剤は、尿素、ホルムアミド、ホルムアルデヒド、および水酸化ナトリウムなどの強アルカリなどから選択される。好ましくは尿素とホルムアミドを使用する。ホルムアミドと尿素を変性剤として用いた場合、一般的には、7M尿素、40%ホルムアミドを含む変性剤含有緩衝液を100%変性剤含有緩衝液として使用し、変性剤を含んでいない緩衝液を0%緩衝液として使用するが、これに限られない。上記の通り、態様Bでは、有意な濃度差を有する変性剤の緩衝液領域配列を形成できればよい。
【0273】
本態様の分析対象物には、代表的には単離された2本鎖核酸(単に核酸又は核酸分子ともいう場合も含む)であり、変性剤により解離する性質を有する限りあらゆるタイプの核酸分子を使用することができる。典型的には、人の血液や細胞などのような生体試料や、食品、土壌や河川水、海水などの環境試料、あるいは活性汚泥やメタン発酵汚泥などから抽出したゲノム核酸の所定の領域を、PCR反応などにより、一端に核酸変性剤濃度が高くても1本鎖核酸に解離しにくい人工的な核酸配列(GCクランプ)を付けて増幅した2本鎖核酸を用いる。なお、本態様の分析対象物は必ずしも核酸に限定されるとは限らない。例えば、適切な緩衝液及び変性剤並びに分離条件等を選択することにより電気泳動可能であるならば、そのような生体高分子(例えば、タンパク質)も本態様の分析対象物に含まれ得る。
【0274】
本態様の変性剤間欠配置上で分離した核酸は、検出手段を用いて検出される。検出手段は、蛍光検出、発光検出、吸光検出、電気化学的検出などから選択され、検出器として、蛍光検出、発光検出、吸光検出の場合、光電子増倍管、UV検出器、フォトダイオード検出器などが使用される。蛍光検出では、あらかじめPCR反応のプライマーを蛍光標識しておく方法、PCR産物を蛍光標識する方法、あらかじめPCR産物をDNA染色剤で染色する方法、および、高分子マトリックス含有緩衝液にDNA染色剤を含有させ、電気泳動中に染色する方法などがある。蛍光標識物質としては、フルオレセイン、ローダミン、Cy3、Cy5、BODIPY FL、TexasRed、Alexa Fluorなどがある。DNA染色剤としては、SYBR Green、Vistra Green、エチジウムブロマイド、YOYO−1、TOTO−1、thiazole orangeなどがある。
(2)本態様の分離方法と装置
本態様の核酸分離を行うための支持体として、平板ゲルまたは電気泳動用のマイクロチップなどの分析基板が挙げられる。
【0275】
本態様に使用し得る平板ゲルには、緩衝液を含んだポリアクリルアミドゲルが挙げられるがこれに限定されない。緩衝液を含んだポリアクリルアミドゲルは、例えばアクリルアミド,N,Nメチレン−ビスアクリルアミド,蒸留水からなるアクリルアミド溶液、トリス−酢酸緩衝液、過硫酸アンモニウム溶液、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、蒸留水を混合して重合させたものである。あらゆるタイプの平板ゲルを当該技術分野において知られている定法に従って作成することができる。
【0276】
平板ゲルには、本態様に好適な緩衝液領域形成方法により変性剤間欠配置が形成される。平板ゲルを使用する場合、例えば、図71に示すように他の緩衝液で満たされた泳動槽に浸され、緩衝液や変性剤間欠配置の蒸発を防止するための蓋がなされる。詳細の図示は省略しているが、慣例的な電気泳動法と同様に、平板ゲルの泳動方向の上流側には試料孔が等間隔に設けられ、泳動槽には電極および電源が接続される。
【0277】
支持体には、平板ゲルのみならず、変性剤間欠配置を支持できるものである限り、あらゆるタイプの分析基板が含まれる。基板の材質は、例えば、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂、紙、などから選ぶことができる。また、例えば、変性剤間欠配置が形成された基板に、変性剤間欠配置の蒸発を防止するための蓋となる基板を張り合わせることで作成してもよい。また、変性剤間欠配置を形成していない基板の部分を折り曲げることにより、この部分を蓋として利用してもよい。
【0278】
典型的な分析基板はマイクロチップである。図72に示されるように、マイクロチップの濃度勾配形成領域であるマイクロチャンネル内に変性剤間欠配置を形成することができる。このマイクロチャンネル内の変性剤間欠配置では、変性剤含有緩衝液領域と変性剤不含有緩衝液領域とを泳動方向で交互に配列され、且つ各変性剤不含有緩衝液領域の幅が次第に泳動方向で短くなっている。
【0279】
マイクロチップは、通常少なくとも2枚の基板からなる。1枚の基板には、フォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて、幅、深さともに10〜100μm程度のチャンネルを形成させ、もう1枚の基板には、超音波加工などの機械加工を用いて、リザーバー用の穴を開ける。これら2枚の基板を、熱による溶融接合などの接着技術を用いて張り合わせると、所定の位置にチャンネルとリザーバーを有するマイクロチップが得られる。基板の材質は、ガラス、石英、プラスチック、シリコン樹脂などから適宜選ぶことができる。マイクロチップでは分析用チャンネルが微細な構造であるので、高スループットの解析、装置全体の小型化などを実現できる。
【0280】
次に、態様Bのマイクロチップ電気泳動装置について説明する。
【0281】
図73のマイクロチップ電気泳動装置は、濃度勾配形成領域であるマイクロチャンネル901(以下“核酸分析用チャンネル901”という)と、核酸試料の導入のためのマイクロチャンネル902とを含むプラスチック製マイクロチップ903として提供される。核酸分析用チャンネル901内に変性剤間欠配置が形成される。このマイクロチップ903は、上記チャンネル901,902が形成されたプラスチック製基板903aと、試料導入のための核酸投入口及び排出口902a,902b、および第1及び第2のリザーバー901a,901bが設けられたプラスチック製基板3bとを張り合わせることにより製造される。
【0282】
図73のマイクロチップを用いて2本鎖核酸を塩基配列の違いにより分離する方法の手順の一例を以下に示す。核酸導入チャンネル902に緩衝液を充填する。ここで、核酸分析用チャンネル内901へ試料を導入する方法は、試料である2本鎖核酸を核酸分析用チャンネル901に電気泳動により導入する方法である。核酸投入口902aに2本鎖核酸を含有する緩衝液を投入し、核酸投入口902aと核酸排出口902bに直流電源に接続された電極(図示せず)を差し込む。核酸試料は、その一端に核酸変性剤濃度が高くても1本鎖核酸に解離しにくい人工的な核酸配列(GCクランプ)を付けて増幅した2本鎖核酸を含む。2本鎖核酸は負に帯電しているので、核酸投入口側を陰極、核酸排出口側を陽極とする。使用する電極は、核酸投入口と核酸排出口に、例えば蒸着やメッキなどによってあらかじめ形成されていてもよい。2本鎖核酸が導入される時、核酸分析用チャンネル1側への試料の拡散を抑制するとよい。このために第1のリザーバー901aと第2のリザーバー902aに電極を差し込み、核酸投入口902aの電位よりも大きく、核酸排出口902bの電位よりも小さい電位を印加するとよい。
【0283】
次に、核酸分析用チャンネル901の両端に直流電源に接続された電極(図示せず)を設置する。2本鎖核酸は負に帯電しているので、第1のリザーバー側を陰極、第2のリザーバー側を陽極とする。電極は、第1のリザーバーおよび第2のリザーバーに例えば蒸着やメッキなどによってあらかじめ形成されていてもよい。第1のリザーバーおよび第2のリザーバーに差し込んだ電極に所定の電位を印加することにより、および分析用基板の両端に設置した電極に所定の電圧を印加することにより、上記のように導入された2本鎖核酸が変性剤間欠配置内を電気泳動する。泳動される2本鎖核酸は、変性剤間欠配置上で塩基配列の違いにより分離される。
【0284】
上記のような操作により分離した核酸は、核酸分析用チャンネル901内またはその下流にある検出部905により検出される。使用し得る検出法は、既に説明したとおり、蛍光検出、発光検出、吸光検出、電気化学的検出などから選択され、好ましくは蛍光検出である。蛍光検出では、あらかじめPCR反応のプライマーを蛍光標識しておく方法、PCR産物を蛍光標識する方法、あらかじめPCR産物をDNA染色剤で染色する方法、および、高分子マトリックス含有緩衝液にDNA染色剤を含有させ、電気泳動中に染色する方法などがある。蛍光標識物質は、前述の通りであり、検出器も前述の通りである。分析中、分析用基板903a、903bは一定の温度に保つ必要があり、好ましくは40℃〜70℃である。
【0285】
使用されるマイクロチップはガラス製でもよい。ガラス製のマイクロチップでは、電気浸透流の効果が大きくなるが、チャンネル表面を公知の技術により修飾して電気浸透流を抑制するとよい。これにより、プラスチック製のマイクロチップと同じ構成のガラス製マイクロチップ上で電気泳動による2本鎖核酸の分離が可能である。
【0286】
図74は、ガラス製マイクロチップ電気泳動装置の一態様を示す。電気浸透流が存在する場合でも、図74のような構成により2本鎖核酸の分析が可能となる。その基本構造は図5のマイクロチップと同様であるが、核酸導入チャンネル2が下流側に設けられている点で異なる。
【0287】
まず、核酸導入チャンネル2から試料となる2本鎖核酸を、変性剤間欠配置のある核酸分析用チャンネル901に電気浸透流により導入する。核酸投入口902aに2本鎖核酸を含んだ緩衝液を投入し、核酸投入口902aと核酸排出口902bに直流電源に接続された電極を差し込む。核酸投入口と核酸排出口との間に所定の電圧を印加することにより、2本鎖核酸を含んだ緩衝液が核酸導入チャンネル902を電気浸透流により移動し、核酸分析用チャンネル901内に導入される。ここで、電気浸透流を利用するために、核酸投入口側を陽極、核酸排出口側を陰極とする。この2本鎖核酸導入の時に、核酸分析用チャンネル901側への拡散を抑制するとよい。このために、第1のリザーバー901aと第2のリザーバー901bに電極を差し込み、核酸投入口902aの電位よりも小さく、核酸排出口902bの電位よりも大きい電位を印加しておくとよい。各電極は例えば蒸着やメッキなどによって予め形成されていてもよい。
【0288】
次に、導入された2本鎖核酸を電気泳動して分離する。第1のリザーバー901aおよび第2のリザーバー902bに差し込んだ電極に所定の電圧を印加することにより、核酸分析用チャンネル901内を変性剤間欠配置の緩衝液領域が電気浸透流により輸送される。その緩衝液領域に導入されている2本鎖核酸も電気泳動により移動する。一般的には電気浸透流による変性剤間欠配置の移動方向と、電気泳動による核酸の移動方向は互いに対向する方向(反対方向)になる。したがって、図74の変性剤間欠配置を使用する場合には、第1のリザーバー901aを陽極とし、第2のリザーバー901bを陰極とし、これにより変性剤間欠配置は第2のリザーバー901bの方向に、2本鎖核酸は第1のリザーバー901aの方向にそれぞれ移動する。したがって、2本鎖核酸は変性剤間欠配置上を電気泳動されて、塩基配列の違いにより分離される。
【0289】
上記のような操作で分離した2本鎖核酸は、変性剤間欠配置内またはその下流にある検出部(図示せず)で検出する。
【0290】
図75は、ガラス製マイクロチップ電気泳動装置の他の態様を示す。この装置は、変性剤間欠配置が形成される核酸分析用チャンネル901(第1のマイクロチャンネル)と、核酸分析用チャンネル901の一端側でこれと交差する変性剤含有緩衝液導入部と、核酸分析用チャンネル901の他端側でこれと交差する核酸導入部とを備えている。第1のリザーバー901aは、第1の緩衝液用の緩衝液投入口であり、第2のリザーバー901bはその排出口である。
【0291】
変性剤含有緩衝液導入部は、核酸分析用チャンネル901を横切る変性剤含有緩衝液導入チャンネル906(第2のマイクロチャンネル)を有する。変性剤含有緩衝液導入チャンネル906は、第2の緩衝液を導入するための変性剤含有緩衝液投入口906aとその排出口906bを有する。この変性剤含有緩衝液導入チャンネル906から第2の緩衝液が導入される。
【0292】
核酸導入部は、核酸分析用チャンネル901を横切る核酸試料導入チャンネル902を有する。核酸試料導入チャンネル902は、核酸投入口902aとその排出口902bを有する。
【0293】
図75の装置は、核酸分析用チャンネル901、変性剤含有緩衝液導入チャンネル906および核酸導入チャンネル902が形成された基板903a(図76(a)参照)と、各チャンネル端部の緩衝液投入口とその排出口、核酸投入口とその排出口、および変性剤含有緩衝液投入口とその排出口を形成した基板903b(図76(b)参照)とを、例えば、熱による溶融接合などの接着技術を用いて張り合わせ1枚のマイクロチップとしたものである。各リザーバーのための孔は、例えば直径2〜10mm程度の円形であり、例えば、超音波加工などの周知の加工技術を用いて形成する。
【0294】
上記構成の装置は、変性剤含有緩衝液導入部により核酸分析用チャンネル901内に、図77に示すような所望の変性剤間欠配置を形成することができる。その形成方法は、後述の「(3)態様Bのための緩衝液領域の配列の形成方法及び装置」の項で詳しく説明する。ここでは図75のマイクロチップ電気泳動装置を使用する場合であって、核酸分析用チャンネル1に変性剤間欠配置を形成した後に行われる分離工程を示す。
【0295】
核酸分析用チャンネル901に所望の変性剤間欠配置を形成した後、核酸投入口902aから核酸排出口902bの方向に2本鎖核酸を流動させ、2本鎖核酸を核酸分析用チャンネル901内に導入する。2本鎖核酸を流動させる方法としては、流動方向と流動時間(流動距離)を制御できる方法から任意に選ぶことができるが、ガラス製マイクロチップであれば核酸投入口902aと核酸排出口902bの間に直流電圧を印加して電気浸透流を発生させる方法が好ましい。なお、2本鎖核酸導入工程の際に核酸分析用チャンネル901に余分な試料が流出しないように、緩衝液投入口901a、その排出口901b、変性剤含有緩衝液投入口906a、その排出口906bに、例えば直流電圧を印加したり圧力をかけたりするとよい。
【0296】
次に、緩衝液投入口901aと排出口901bに電極を差し込み所定の直流電圧を印加すると、導入された2本鎖核酸が核酸分析用チャンネル901内の変性剤間欠配置上を電気泳動し、塩基配列の違いにより分離される。各電極は、チップに例えば蒸着やメッキなどによって予め形成されていてもよい。なお、ガラス製マイクロチップなどの場合で電気浸透流も同時に起こる場合には、変性剤間欠配置が電気浸透流により2本鎖核酸と逆方向、即ち陰極側に流動する。この場合、例えば図77に示すように緩衝液の長さが核酸の泳動方向で次第に短くなるように変性剤間欠配置を核酸分析用チャンネル901内に形成しておく必要がある。
【0297】
上記のような操作で、核酸試料中の2本鎖核酸を分離した後、核酸分析用チャンネル901上の所定箇所、例えばその下流にある検出部(図示せず)で2本鎖核酸を検出する。分析中、マイクロチップは一定の温度に保つ必要があり、好ましくは40℃〜70℃である。また、使用できる変性剤、緩衝液、分析できる試料、検出法等も既述の装置と同様である。
(3)態様Bのための緩衝液領域の配列の形成方法及び装置
従来のDGGEでは、変性剤含有緩衝液に連続的な濃度勾配を持たせる必要があった。しかし、マイクロチップ電気泳動装置に使用されるマイクロチャンネル内では、変性剤含有緩衝液と緩衝液の混合に十分な時間を必要とするか、変性剤含有緩衝液と緩衝液を効率よく混合するための機構を必要とした。
【0298】
態様Bの発明によると、マイクロチャンネル内に形成された変性剤間欠配置を核酸が電気泳動するので、変性剤含有緩衝液と緩衝液が全く混合していなくても核酸分離は実現可能である。特に変性剤含有緩衝液と緩衝液を混合するための撹拌手段を必要しない。
【0299】
以下では、態様Bの分離方法に使用できる所望の緩衝液領域の配列の形成方法及び装置を提供する。
【0300】
図78は、緩衝液領域配列を形成するための装置の一態様を示す。この装置は、2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域の配列を電気泳動用の分析基板910上に形成するための装置であって、分析基板910を保持するためのステージ手段911と、その基板910に対して2本鎖核酸の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液の液滴913(例えば、変性剤を含有しない緩衝液と変性剤を含有する緩衝液の各々の液滴)を射出するための射出手段912と、ステージ手段911及び/又は射出手段912を位置制御すると共に射出手段を逐次駆動するための制御手段(図示せず)とを有する。ステージ手段911及び/又は射出手段912は、図中の矢印で示されるように2次元方向で相互に直進運動できる移動機構を有する。
【0301】
図78の装置では、上述の核酸分析用チャンネル1を有するマイクロチップ等の基板910をステージ手段911上に保持し、この基板910に対して、変性剤を含有しない緩衝液及び/又は変性剤を含有する緩衝液液滴913を射出できる射出手段912を使用し、ステージ手段911及び/又は射出手段912を位置制御すると共に所望の射出手段912を逐次駆動することができる。このようにして射出手段912から所定の変性剤濃度の緩衝液の液滴913を核酸分析用チャンネル901内の任意の位置に付着させ、そこに変性剤間欠配置を形成することができる。なお、1回の射出で塗布される緩衝液の厚さが薄すぎる場合は、全く同じ分布(同じ変性剤領域)への塗布を適度な厚さになるまで重ねればよい。
【0302】
上記の射出手段912は、より詳しくは、液滴射出ヘッドを有する射出機構により構成することができる。例えば、図示しない制御手段を介して電気信号を印加することにより任意のタイミングで標的へ緩衝液を射出することができる。
【0303】
最も簡易には、緩衝液を含んだゲルが予め形成されている基板をセットし、ゲル中の緩衝液とは異なる変性剤濃度(少なくともゲルに含まれている緩衝液よりも高い濃度)の緩衝液を射出する1つの液滴射出ヘッド912が使用される。これは、例えば、核酸分析用チャンネル内に緩衝液を含んだゲルが既に充填されているマイクロチップや緩衝液を含んだ平板ゲル914を使用する場合(図79)である。
【0304】
他方、ゲルを持たない核酸分析用チャンネルやガラス基板を使用する場合、図78に示すように濃度の異なる緩衝液に対応した複数の液滴射出ヘッド912,912′を設け、所望の液滴を選択的に射出させることによって対応可能である。この場合、通常は緩衝液にはゲルを形成するための高分子マトリックスを含ませる。
【0305】
上記のような液滴射出機構としては、例えばインクジェットプリンタ用の射出ヘッド等を利用することができる。適切な液滴射出ヘッドを使用することによって、少なくともマイクロチップ基板910上の核酸分析用チャンネル1の幅よりも小さい直径の緩衝液の液滴913を容易に塗布することができる。
【0306】
上記の液滴射出機構には、同じ濃度の緩衝液を射出する液滴射出ヘッドを複数連結して使用してもよい。このようにすれば、変性剤間欠配置の形成時間を短縮ことができる。また、異なる濃度の緩衝液を射出する液滴射出ヘッド同士を連結してもよく、例えば、変性剤含有緩衝液用の液滴射出ヘッドと緩衝液用の液滴射出ヘッドを一体とした射出ヘッドモジュールとしてもよい。このような射出ヘッドモジュールを使用すれば、装置がコンパクトになりかつ変性剤間欠配置の形成時間を短縮ことができる。さらに、そのようにモジュール化した液滴射出ヘッド群を更に複数設けて使用すれば、さらに効率良く変性剤間欠配置を形成することができる。
【0307】
また図79に示すように、マイクロチップ基板910の代わりに電気泳動用の平板ゲル914を保持し、平板ゲル914上の任意の位置に変性剤含有緩衝液の液滴913を射出することもできる。このようにして平板ゲル914の任意の場所に変性剤含有緩衝液の液滴913を打ち込むことができ、そこに任意のパターンで変性剤間欠配置を効率的に形成することができる。
【0308】
上述の通り、位置決め手段(911)と液滴射出手段(912)等を採用することにより任意のパターンをもつ変性剤間欠配置を容易に形成することができ、またあらゆるタイプの基板に対応でき、特に同じパターンの変性剤間欠配置を効率良くかつ再現性良く、大量に形成することができる。
【0309】
次に図80及び図81を参照して、マイクロチャンネル内への変性剤間欠配置の別の形成法を説明する。
【0310】
まず緩衝液送り工程により、緩衝液(第1の緩衝液;変性剤を含有しない緩衝液)を緩衝液投入口から排出口方向に流動させる。その駆動方法としては、緩衝液投入口と排出口の間に直流電圧を印加して電気浸透流を発生させる方法や、緩衝液投入口、または/ならびに、排出口にポンプを接続して流動させる方法など、流動方向と流動時間(流動距離)を制御できる方法から任意に選ぶことができる。ここで、緩衝液送り工程の際に核酸分析用チャンネルから核酸導入チャンネルや変性剤含有緩衝液導入チャンネルに緩衝液が流出しないようにする。このためには、核酸投入口、核酸排出口、変性剤含有緩衝液投入口、変性剤含有緩衝液排出口に、例えば直流電圧を印加する、圧力をかけるなどすることが好ましい。変性剤含有緩衝液導入チャンネル内の変性剤含有緩衝液の駆動方法と操作は、上記の緩衝液の駆動方法等と同様である。
【0311】
緩衝液送り工程において、緩衝液領域は核酸分析用チャンネル901内に導入され、その緩衝液領域がチャンネル906との交点を通過するところまで導入される。その後、図80に示すように、変性剤含有緩衝液送り工程によりチャンネル6から変性剤含有緩衝液(第2の緩衝液)を送ると、チャンネル906からの変性剤含有緩衝液領域がチャンネル901の緩衝液領域を真横から横切る。こうして、緩衝液領域を分断する1つの変性剤含有緩衝液領域ができる。次いで再び緩衝液送り工程では、チャンネル901内に位置する変性剤含有緩衝液領域部分が、チャンネル906から分離し、排出口方向に緩衝液領域と共に移動する。こうして、緩衝液領域内に独立した1つの変性剤含有緩衝液領域901cができる。
【0312】
上記のように緩衝液送り工程と変性剤含有緩衝液送り工程とを交互に繰り返すことにより、核酸分析用チャンネル901内に変性剤間欠配置を形成することができる。ここで、緩衝液送り工程の時間を調節することにより変性剤含有緩衝液領域と変性剤含有緩衝液領域との間隔を任意に調整可能であり、例えば、図69のように変性剤を含有する緩衝液領域間の間隔が下流に行くほど短くなる形態の変性剤間欠配置チャンネルを形成することができる。
【0313】
なお、核酸分析用チャンネルの長さ、変性剤含有緩衝液の長さ、変性剤含有緩衝液の濃度、その間隔などは、分離の対象となる2本鎖核酸の種類などにより異なるので、事前に実施される予備実験などにより決定しておくとよい。
【0314】
図81は、変性剤含有緩衝液領域の泳動方向の長さ(幅)を小さくできる方法の一例を示す。変性剤含有緩衝液領域の泳動方向の長さを小さくすることにより、2本鎖核酸の分離精度を向上させることができる。図80の方法により形成される変性剤含有緩衝液領域の泳動方向の長さは、変性剤含有緩衝液流入口の幅とほぼ等しくなる。したがって、そのような変性剤含有緩衝液領域の長さを小さくするには、変性剤含有緩衝液流入口を狭くするとよい。しかし、変性剤含有緩衝液流入口を狭くすると流動損失が著しく大きくなるので、変性剤含有緩衝液を流動させるのに非常に大きな動力が必要となる場合がある。
【0315】
上記の問題を回避するためには、図81で示すように変性剤含有緩衝液導入部において変性剤含有緩衝液導入チャンネル906に隣接する補助緩衝液チャンネル906′を設けるとよい。こうして補助緩衝液チャンネル906′の投入口906c、906dからの補助緩衝液の流入量を増やすことにより変性剤含有緩衝液の流入幅を細めることができ、泳動方向で変性剤含有緩衝液領域の長さを徐々に短く形成することができ、同時に流動損失の増加を防ぐこともできる。補助緩衝液の投入口は、図81のように変性剤含有緩衝液導入チャンネル6を挟むように複数の補助緩衝液チャンネルおよび投入口を設けてもよいし、そのいずれか一方のみを設けるとしてもよい。
【0316】
流量制御手段を有する態様Bの緩衝液領域の配列を形成する装置
態様Bの装置において、態様1−1および1−2において説明したような液体導入用マイクロチャンネルからの緩衝液の流量を制御する手段(例えば、印加電圧または付与電位を調節することによる電気浸透流の制御、マイクロシリンジ等による送液の圧力を調節することによる送液ポンプの制御、またはそれらによる送液を2次的に調節するためのバルブの制御)は、上記の変性剤間欠配置を形成する手段として利用することができる。
【0317】
態様Bの装置では、変性剤を異なる濃度で有する緩衝液同士が分子拡散により混合しにくい条件にあるという前提(既に説明した通り、液体の拡散係数が極端に小さい場合には混合が起こらない場合がある)において、態様1−1および1−2に示される流量制御手段を、変性剤間欠配置を形成するような緩衝剤の交互供給に利用することができる。
【0318】
図83は、態様1−2において説明した高速作動バルブを設置した態様を示す。この態様では、2つの緩衝液導入チャンネル(変性剤を含有しない緩衝液のための導入チャンネルと変性剤を含有する緩衝液のための導入チャンネル)の各々に高速作動バルブ(バルブ1およびバルブ2)を設けている。バルブ1およびバルブ2の開閉時間を制御することで、図83に示すように核酸分析用チャンネル1内に変性剤間欠配置を形成することができる。
【0319】
混合促進手段を有する態様Aのマイクロチップ電気泳動装置
図78および図79に示す変性剤間欠配置を形成する装置において、混合促進手段を利用することができる。
【0320】
図84は、射出手段912を模式的に示す。矢印aと矢印bは変性剤を異なる濃度で含む緩衝液の入力経路を示す。射出手段912は、変性剤を異なる濃度で含む2つの緩衝液、例えば、変性剤含有緩衝液(矢印a)と変性剤不含有緩衝液(矢印b)とを任意の割合で混合することができる混合装置(図示していない)を内蔵している。
【0321】
射出手段912内の混合装置には、上記の態様1−1から態様2−3の混合促進手段を有する液体混合装置を使用することができる。適切な混合促進手段を有する混合装置によれば、矢印aおよび矢印aで示す2つの緩衝液の混合が速やかに行われるので、所望の濃度で変性剤を含有する緩衝液を連続的に調製することができる。
【0322】
混合装置により混合されて調製された変性剤含有緩衝液は、射出手段912から所望濃度の液滴913として射出される。この態様によれば、異なる濃度の変性剤含有緩衝液を連続的に供給することが可能となる。したがって、異なる濃度の緩衝液を供給するためのカートリッジを交換することが必要も無くなる。また、カートリッジ方式の射出手段を使用する必要も無くなる。また、複数の射出手段を設置する必要も無くなる。このタイプの射出手段を有する態様によれば、少品種大量生産に適した変性剤間欠配置形成置および方法を提供することができる。
【0323】
例えば、射出手段912内の混合促進手段として態様2−2の液体混合装置を使用する場合、緩衝液同士の混合を高速化できるので、混合濃度の情報を受け取ってから混合を完了するまでの時間を短くすることができる。また、射出手段に態様2−3の液体混合装置を使用する場合、装置をコンパクトにすることができる。
【実施例】
【0324】
実施例1
上記の各態様に記載した通りのマイクロチップ電気泳動装置を用いて、塩基配列の異なる2種類の2本鎖核酸の分離を行った。分析対象物として2種類のSphingomonas属に属する微生物から得た16S rRNA遺伝子のV3領域断片を含む核酸試料を調製した。
【0325】
実験では、まず2種類の微生物をそれぞれ液体培地で培養後、遠心分離により回収した。菌体を混合し、この混合菌体から塩化ベンジル法により核酸を抽出した。この抽出核酸に対して、16S rRNA遺伝子のV3領域を標的とした、ユニバーサルプライマー(フォワード;5’-CGCCCGCCGC GCGCGGCGGG CGGGGCGGGG GCACGGGGGG CCTACGGGAG GCAGCAG-3’(配列番号1)、リバース5’-ATTACCGCGG CTGCTGG-3’(配列番号2))を用いてPCRを行い、生成したPCR産物を最終的な核酸試料とした。ユニバーサルプライマーは5′末端をFITC標識してあるものを用いた。フォワードプライマーにはGCクランプ領域が付与してある。
【0326】
実験では、パイレックス(登録商標)ガラス(7cm×3.5cm)にフォトリソグラフィー技術により、幅100μm、深さ25μmのチャンネルを形成したマイクロチップを用いた。このマイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡に配置し、光電子増倍管で検出した。変性剤には尿素とホルムアミドを用いた。
【0327】
実験の結果、2種類の微生物に対応する2つのピークが検出された。30分という短時間で分析は終了し、高速分析が可能なことが確認された。
【0328】
実施例2
実施例1の装置を用いて、塩基配列の異なる2種類以上の2本鎖核酸を分離した。2種類以上の2本鎖核酸が存在する試料には、エストラジオールを単一炭素源として集積培養した活性汚泥を用いた。実験方法は実施例1と同様である。
【0329】
実験の結果、複数の微生物に対応する複数のピークが検出され、2種類以上の塩基配列の異なる2本鎖核酸の分離も可能であることが確認された。
【0330】
比較例1
実施例1の比較として、従来のDGGE装置を用いて、同じ試料を分析した。実験は、Muyzerらの方法(Appl.Environ.Microbiol.,Mar 1
993,695−700,Vol 59,No.3)を元にして行った。DGGE装置は、DCode Universal Mutation Detection System(BIORAD)を用いた。
【0331】
実験では、実施例1と同様に、2種類の微生物をそれぞれ液体培地で培養後、遠心分離により回収した菌体を混合し、この混合菌体から塩化ベンジル法により核酸を抽出した。この抽出核酸に対して、16S rRNA遺伝子のV3領域を標的とした、実施例1に記載したユニバーサルプライマーを用いてPCRを行い、生成したPCR産物を最終的な核酸試料とした。ここで使用したユニバーサルプライマーは、実施例1とは異なり、蛍光標識せず、電気泳動後、Vistra Greenで2本鎖核酸を蛍光染色することにより検出した。フォワードプライマーにGCクランプ領域が存在することは実施例1と同様である。変性剤濃度勾配ゲルの濃度勾配は、35%−55%とした。
【0332】
核酸試料の泳動の結果、2種類の微生物に対応する2つのバンドが検出されたが、電気泳動時間は210分であり、変性剤濃度勾配ゲルの作製時間やゲルの染色時間などを含めると、分析には6時間程度必要であった。
【0333】
比較例2
実施例2の比較対照として、従来のDGGE装置を用いて、同じ試料を分析した。実験装置、実験方法は比較例2と同様である。
【0334】
実験の結果、複数の微生物に対応する複数のピークが検出されたが、比較例1と同様に、電気泳動時間は210分であり、変性剤濃度勾配ゲルの作製時間やゲルの染色時間などを含めると、分析には6時間程度必要であった。さらに、変性剤濃度勾配ゲルの作製やゲルの染色など手作業の煩雑な操作が必要であった。
【0335】
上記の実施例において、態様Aおよび態様Bの装置を使用することによりマイクロチップ上でのDGGEにより2本鎖核酸を塩基配列の違いによって分離・分析することができた。
【0336】
また、DGGEのためのマイクロチップ装置に、態様1−1から態様2−3までに記載したような混合促進方法および装置を適用することにより、迅速に濃度勾配を形成することができ、より短時間で分離・分析をすることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および該少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから導入された各液体が前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体混合装置であって、
前記混合用マイクロチャンネル内で合流する液体間の混合を促進するための混合促進手段を有する液体混合装置。
【請求項2】
前記混合促進手段が、混合される液体間の界面の面積を増加する手段である、請求項1の液体混合装置。
【請求項3】
前記混合促進手段
が、混合される液体間の界面を不安定化する手段である、請求項1の液体混合装置。
【請求項4】
前記混合促進手段が、液体導入用マイクロチャンネルに導入する液体の流量を他の液体導入用マイクロチャンネルと独立して制御できる少なくとも1つの液体導入手段を含んでなる、請求項2の液体混合装置。
【請求項5】
前記液体導入手段が、流量を制御できるポンプである、請求項4の液体混合装置。
【請求項6】
前記液体導入手段が、液体導入用マイクロチャンネルに設けられたバルブである、請求項4の液体混合装置。
【請求項7】
前記液体導入手段が、液体導入用マイクロチャンネルの各導入部に設けられた第1の電極と、前記混合用マイクロチャンネルの排出部に設けられた第2の電極とから構成され、第1と第2の電極間に電圧を印加することにより、各液体導入用マイクロチャンネルに電気浸透流を生じさせるものである、請求項4の液体混合装置。
【請求項8】
前記混合促進手段が、少なくとも1つの液体導入用マイクロチャンネルに設けられた高速作動バルブを含んでなる、請求項2に記載の液体混合装置。
【請求項9】
前記高速作動バルブが、ピエゾ素子を用いた弁体駆動手段である、請求項8の液体混合装置。
【請求項10】
前記高速作動バルブが、液体導入用チャンネルの局所的加熱による液体の体積膨張を利用して、前記混合用マイクロチャンネルへの微小流量の液体の吐出を高速で制御可能な手段である、請求項8の液体混合装置。
【請求項11】
前記混合促進手段が、混合用マイクロチャンネルのチャンネル高さをそのチャンネル幅よりも小さくすることにより形成された混合室を含んでなる、請求項2の液体混合装置。
【請求項12】
前記混合室が、液体導入用マイクロチャンネルを上下方向に積層するように接続することにより形成されている、請求項11の液体混合装置。
【請求項13】
前記混合室の上流に、前記複数の液体導入用マイクロチャンネルが合流することにより形成される少なくとも1つの予混合用マイクロチャンネルをさらに含んでなる、請求項11の液体混合装置。
【請求項14】
前記混合促進手段が、各液体導入用マイクロチャンネルが接続する複数の分岐チャンネルの合流部であって、該複数の分岐チャンネル同士が3次元空間上で互い違いに配置される形態で前記混合用マイクロチャンネルに接続する合流部を含んでなる、請求項2の液体混合装置。
【請求項15】
前記分岐チャンネルの3次元的配置は、分岐チャンネルを有する複数の基板を分岐チャンネルの合流方向または分岐方向で重ね合わせて形成されている、請求項14の液体混合装置。
【請求項16】
前記混合促進手段が、液体導入用マイクロチャンネルおよび/または混合用マイクロチャンネルに設置されたヒータを含んでなる、請求項3の液体混合装置。
【請求項17】
前記ヒータが、混合用マイクロチャンネルの下側に設置されている、請求項16の液体混合装置。
【請求項18】
前記混合促進手段が、混合用マイクロチャンネルで合流する液体間の界面を乱すための機械的変動手段を含んでなる、請求項3の液体混合装置。
【請求項19】
前記機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に設置された可動揚力面、回転子または揺動子である、請求項18の液体混合装置。
【請求項20】
前記機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネルの壁面に設置された振動子である、請求項18の液体混合装置。
【請求項21】
前記機械的変動手段が、混合用マイクロチャンネルの壁面外に設置された振動子である、請求項18の液体混合装置。
【請求項22】
前記混合促進手段が、混合用マイクロチャンネル内の合流部付近に多数配列された微小構造物を含んでなる、請求項3の液体混合装置。
【請求項23】
前記微小構造物が、前記混合用マイクロチャンネルのチャンネル幅よりも充分に小さな突起または溝である、請求項22の液体混合装置。
【請求項24】
分析対象物を分離するためのマイクロチップ電気泳動装置であって、
分析対象物の変性剤の濃度勾配領域が形成されるマイクロチャンネルを含んでなり、該濃度勾配領域に導入された分析対象物が電気泳動される装置。
【請求項25】
前記分析対象物が2本鎖核酸である、請求項24のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項26】
変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液を導入するための少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネル、および該少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルが接続している混合用マイクロチャンネルを含んでなり、各液体導入用マイクロチャンネルから変動する割合で導入される各緩衝液が前記混合用マイクロチャンネル内で合流することにより前記変性剤の濃度勾配領域が形成される、請求項24のマイクロチップ電気泳動装置装置。
【請求項27】
前記混合用マイクロチャンネル内で合流する緩衝液間の混合を促進するための混合促進手段を有する、請求項26のマイクロチップ電気泳動装置装置。
【請求項28】
請求項1〜23のいずれかの液体混合装置を含んでなる、請求項26のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項29】
分析対象物を分離するための方法であって、
少なくとも2つの液体導入用マイクロチャンネルから混合用マイクロチャンネル内に、分析対象物の変性剤を異なる濃度で含有する緩衝液を変動する割合で導入することにより、該混合用マイクロチャンネル内に変性剤の濃度勾配領域を形成し、該濃度勾配領域に分析対象物を導入して電気泳動する方法。
【請求項30】
前記濃度勾配領域が、変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を泳動方向に交互に配置することにより形成される、請求項24のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項31】
前記分析対象物が2本鎖核酸である、請求項30のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項32】
前記変性剤を含まない又は低い濃度で含む緩衝液領域が、各々の長さが泳動方向の下流側に向かって漸次小さくなるように配列される、請求項30のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項33】
前記変性剤を高い濃度で含む緩衝液領域が、各々の長さが泳動方向の下流側に向かって漸次大きくなるように配列される、請求項30のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項34】
分析対象物を分離するための方法であって、
マイクロチャンネル内に分析対象物の変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を泳動方向に交互に配置することにより変性剤の濃度勾配領域を形成し、該濃度勾配領域に分析対象物を導入して電気泳動する方法。
【請求項35】
分析対象物を分離するための方法であって、
変性剤を異なる濃度で含む緩衝液領域を泳動方向に交互に配置し、該緩衝液領域の配列内に分析対象物を導入し、電気泳動する方法。
【請求項36】
前記分析対象物が2本鎖核酸である、請求項35の方法。
【請求項37】
前記変性剤を含まない又は低い濃度で含む緩衝液領域を、各々の長さが泳動方向の下流側に向かって漸次小さくなるように配列する、請求項35の方法。
【請求項38】
前記変性剤を高い濃度で含む緩衝液領域を、各々の長さが泳動方向の下流側に向かって漸次大きくなるように配列する、請求項35の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図32a】
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【図32b】
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【図59a】
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【図59b】
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【図59c】
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【図59d】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図34a】
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【図34b】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【図77】
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【図78】
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【図79】
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【図80】
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【図81】
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【図82】
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【図83】
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【図84】
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【国際公開番号】WO2005/049196
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517888(P2006−517888)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017341
【国際出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】