説明

液体吐出ヘッド、その製造方法、並びに、その駆動方法、及び、画像記録装置

【課題】高剛性、高変位の圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッド、その製造方法、並びに、その駆動方法、及び、画像記録装置を提供する。
【解決手段】上下に変位して、圧力室112の容積を拡縮させる圧電アクチュエータ134が、初期状態において、圧力室側に凸状に湾曲して形成される。圧電アクチュエータ134は、駆動電圧が印加されると、中立点を超えて、圧力室112とは反対方向に変位して、圧力室112の容積を拡大させ、駆動電圧の印加を停止すると、元の状態に復帰して、圧力室112の容積を縮小させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、その製造方法、並びに、その駆動方法、及び、画像記録装置に係り、特に高い発生圧力が得られる液体吐出ヘッド、その製造方法、並びに、その駆動方法、及び、画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電方式の液体吐出ヘッドにおいて、圧電アクチュエータの個別電極を圧力室の縁部に沿って環状に形成することが知られている。そして、特許文献1には、このような環状の個別電極を用いた液体吐出ヘッドにおいて、圧力室の中央部分を除いて圧電体を形成することにより、変位効率を高めることが提案されている。
【0003】
一方、特許文献2には、環状ではない一般的な個別電極を用いた液体吐出ヘッドにおいて、薄膜化しても十分な変位量が得られるように、あらかじめ振動板を圧力室側に凸状に撓ませて形成し、振動板を圧力室側に変位させて、液滴を吐出させることが提案されている。
【0004】
また、特許文献3、4には、環状ではない一般的な個別電極を用いた液体吐出ヘッドにおいて、薄膜化しても十分な変位量が得られるように、あらかじめ振動板を圧力室とは反対側に凸状に撓ませて形成し、振動板を圧力室側に変位させて、液滴を吐出させることが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献5には、圧力室とは反対側に凸状に撓ませて形成した振動板の上に圧電体を接触させて配置するとともに、その圧電体の上に個別電極と共通電極を配置し、この個別電極と共通電極との間に駆動電圧を印加することにより、振動板を圧力室側に変位させて、液滴を吐出させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−150948号公報
【特許文献2】特開2004−42329号公報
【特許文献3】特開2000−141643号公報
【特許文献4】再表01/072521号公報
【特許文献5】特許4287278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成の液体吐出ヘッドでは、圧力室の中央部分を除いて圧電体が形成される結果、剛性が低下し、たとえば、高粘度の液体を吐出させることが困難という欠点がある。
【0008】
また、特許文献2の構成の液体吐出ヘッドでは、撓み方向に更に変位させる構成のため、高い変位量を確保することができないという欠点がある。
【0009】
また、特許文献3、4の構成の液体吐出ヘッドは、圧力室とは反対側に凸状に撓んだ状態から撓みのない中立点に戻す方向の変位撓みであり、高い変位量が得られないという欠点がある。さらに、特許文献3、4は、いずれも成膜で形成する振動板であって、厚み制御が難しく、バラツキ制御が難しいという欠点もある。
【0010】
さらに、特許文献5の構成の液体吐出ヘッドは、電極構成が特殊で、大きな変位を得るためには、駆動に高い電圧が必要になるという欠点がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、高剛性、高変位の圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッド、その製造方法、並びに、その駆動方法、及び、画像記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、前記目的を達成するために、圧力室の容積を圧電アクチュエータによって変化させて、前記圧力室内の液体を該圧力室に連通されたノズルから吐出させる液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電アクチュエータは、前記圧力室側に凸状に形成され、駆動電圧が印加されると、前記圧力室とは反対方向に変位して、前記圧力室の容積を拡大させることを特徴とする液体吐出ヘッドを提供する。
【0013】
本発明によれば、圧電アクチュエータは、圧力室側に凸状に形成され、駆動電圧が印加されると、圧力室とは反対方向に変位する。
【0014】
請求項2に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧電アクチュエータは、駆動電圧が印加されると、撓みのない中立点を超えて、前記圧力室とは反対側に凸状に変形することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0015】
本発明によれば、圧電アクチュエータは、駆動電圧が印加されると、撓みのない中立点を超えて、圧力室とは反対側に凸状に変形する。これにより、高い変位量を得ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧電アクチュエータは、前記圧力室の一壁面を構成する振動板と、前記振動板の前記圧力室とは反対側の面に配置される圧電体と、前記圧電体の一方の面に配置され、前記圧力室の縁部と重なる領域に配置される環状の個別電極と、前記圧電体の他方の面に配置される共通電極と、を備えて構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0017】
本発明によれば、個別電極が圧力室の縁部と重なる領域に環状に配置される。個別電極が環状に形成された圧電アクチュエータでは、駆動電圧を印加することにより、引っ張り応力を発生させることができるため、変位を増大させることができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧電アクチュエータは、前記圧電体を前記圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で形成することにより、前記圧力室側に凸状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0019】
本発明によれば、圧電アクチュエータは、圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で圧電体を形成することにより、圧力室側に凸状に形成される。これにより、容易に圧力室側に凸状に湾曲した圧電アクチュエータを得ることができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧電体はNbを含有し、該Nbの添加量が調整されて、線膨張係数が前記振動板よりも高くされることを特徴とする請求項3〜4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0021】
本発明によれば、Nbの添加量が調整されて、圧電体の線膨張係数が、振動板の線膨張係数よりも高くされる。これにより、容易に圧電体の線膨張係数を調整でき、容易に所望の圧電アクチュエータを構成することができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、前記目的を達成するために、前記振動板が、シリコンであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0023】
本発明によれば、振動板が線膨張係数の低いシリコンで形成される。
【0024】
請求項7に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧力室が形成される基板に対して、前記圧力室が千鳥状に配列して形成されるとともに、前記ノズルがノズル面に対して千鳥状に配列して形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0025】
本発明によれば、圧力室が千鳥状に配列して形成されるとともに、ノズルがノズル面に千鳥状に配列して形成される。すなわち、圧力室とノズルとが、第1の方向、及び、その第1の方向に対して所定角度傾斜した第2の方向に沿って2次元的に配列して形成される。これにより、ノズルの高密度化を図ることができる。
【0026】
請求項8に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧電アクチュエータへの駆動電圧の印加を制御して、前記ノズルからの液滴の吐出を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記ノズルから液滴を吐出させる時にのみ前記圧電アクチュエータに駆動電圧を印加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを提供する。
【0027】
本発明によれば、ノズルから液滴を吐出させる時にのみ圧電アクチュエータに駆動電圧が印加される。これにより、信頼性の高い駆動を行うことができる。
【0028】
請求項9に係る発明は、前記目的を達成するために、圧力室の一壁面を構成する振動板の上に圧電体が配置される構造の液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で前記圧電体を形成して、前記圧電体を前記振動板と共に前記圧力室側に凸状に湾曲させて形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0029】
本発明によれば、圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で圧電体を形成する。これにより、圧力室側に凸状に湾曲した圧電アクチュエータを容易に形成することができる。
【0030】
請求項10に係る発明は、前記目的を達成するために、前記圧力室の縁部と重なる領域に環状に個別電極を形成することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0031】
本発明によれば、個別電極が圧力室の縁部と重なる領域に環状に配置される。個別電極が環状に形成された圧電アクチュエータでは、駆動電圧を印加することにより、引っ張り応力を発生させることができるため、高変位の圧電アクチュエータを構成することができる。
【0032】
請求項11に係る発明は、前記目的を達成するために、前記振動板が、シリコンであることを特徴とする請求項9又は10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0033】
本発明によれば、振動板が線膨張係数の低いシリコンで形成される。
【0034】
請求項12に係る発明は、前記目的を達成するために、Nbの添加量を調整して、前記圧電体の線膨張係数を調整することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0035】
本発明によれば、Nbの添加量を調整して、圧電体の線膨張係数が振動板の線膨張係数よりも高くなるように調整される。
【0036】
請求項13に係る発明は、前記目的を達成するために、請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする画像記録装置を提供する。
【0037】
本発明によれば、請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを用いて画像の記録が行われる。
【0038】
請求項14に係る発明は、前記目的を達成するために、請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法であって、前記圧電アクチュエータには、前記ノズルから液滴を吐出させる時にのみ駆動電圧を印加することを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動方法を提供する。
【0039】
本発明によれば、ノズルから液滴を吐出させる時にのみ圧電アクチュエータに駆動電圧が印加される。これにより、信頼性の高い駆動を行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高剛性、高変位な圧電アクチュエータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】インクジェット記録装置の全体構成図
【図2】インクジェットヘッドのインク吐出面の平面透視図
【図3】インクジェットヘッドの一部を示した縦断面図
【図4】圧電アクチュエータの平面図
【図5】圧電アクチュエータの動作を説明する説明図
【図6】圧電アクチュエータに印加する駆動電圧の駆動波形の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0043】
なお、ここでは、本発明をインクジェットヘッドに適用した場合を例に説明する。まず、インクジェットヘッドが使用されるインクジェットヘッド記録装置の構成について説明する。
【0044】
《インクジェット記録装置の構成》
図1は、枚葉紙にインクジェット方式で画像を印刷するインクジェット記録装置の全体構成図である。
【0045】
このインクジェット記録装置10は、用紙(枚葉紙)14を給紙する給紙部20と、用紙14の印刷面に所定の処理液を付与する処理液付与部30と、用紙14の印刷面にインクジェットヘッドからインク滴を打滴して、画像を描画する描画部40と、用紙14に打滴されたインクを乾燥させる乾燥部50と、用紙14に描画された画像を定着させる定着部60と、印刷後の用紙を排紙する排紙部70とで構成されている。
【0046】
処理液付与部30と、描画部40と、乾燥部50と、定着部60の各部には、それぞれ搬送手段としての圧胴(搬送ドラム)34、44、54、64が備えられており、用紙14は、この圧胴34、44、54、64の周面に巻き掛けられて、処理液付与部30、描画部40、乾燥部50、定着部60の各部を回転しながら搬送される。
【0047】
また、給紙部20と処理液付与部30との間、処理液付与部30と描画部40との間、描画部40と乾燥部50との間、乾燥部50と定着部60との間には、それぞれ搬送手段としての渡し胴(搬送ドラム)32、42、52、62が配置されており、用紙14は、この渡し胴32、42、52、62の周面に巻き掛けられて、各部の間を回転しながら搬送される。
【0048】
圧胴34、44、54、64と渡し胴32、42、52、62は、交互に配置されており、それぞれ図示しないモータに駆動されて、互いに逆方向に回転する。すなわち、圧胴34、44、54、64は、図1において反時計回りの方向に回転し、渡し胴32、42、52、62は、図1において時計回りの方向に回転する。
【0049】
この圧胴34、44、54、66と渡し胴32、42、52、62の周面には、それぞれ用紙14の先端を把持するためのグリッパGが備えられており、用紙14は、このグリッパGに先端部を把持されて、圧胴34、44、54、66と渡し胴32、42、52、62の周面に巻き掛けられる。
【0050】
なお、用紙14は、圧胴34、44、54、64に対しては、印刷面が外側になるようにして、その周面に巻き掛けられ、渡し胴32、42、52、62に対しては、裏面(印刷面の裏側の面)が外側になるようにして、その周面に巻き掛けられる。
【0051】
給紙部20から給紙された用紙14は、渡し胴32を介して処理液付与部30の圧胴34に受け渡され、処理液付与部30の圧胴34から渡し胴42を介して描画部40の圧胴44に受け渡される。そして、描画部40の圧胴44から渡し胴52を介して乾燥部50の圧胴54に受け渡され、乾燥部50の圧胴54から渡し胴62を介して定着部60の圧胴64に受け渡される。そして、さらに定着部60の圧胴64から排紙部70へと受け渡される。この一連の搬送過程で用紙14は、処理液付与部30、描画部40、乾燥部50、定着部60を通過し、各部で所要の処理が施されて、印刷面に画像が形成される。
【0052】
以下、本実施の形態のインクジェット記録装置10の各部(給紙部20、処理液付与部30、描画部40、乾燥部50、定着部60、排紙部70)の構成について詳説する。
【0053】
<給紙部>
給紙部20は、給紙装置22と給紙トレイ24とを備えており、用紙(たとえば、印刷用塗工紙)14を1枚ずつ連続的に給紙する。
【0054】
給紙装置22は、図示しないスタッカに積層された状態で格納された用紙14を上側から順に1枚ずつ給紙トレイ24に給紙する。
【0055】
給紙トレイ24は、給紙装置22から1枚ずつ順に給紙された用紙14を渡し胴32に向けて送り出す。
【0056】
給紙トレイ24から送り出された用紙14は、渡し胴32を介して、処理液付与部30の圧胴34に受け渡される。
【0057】
<処理液付与部>
処理液付与部30は、用紙14の印刷面に所定の処理液を付与する。この処理液付与部30は、用紙14を搬送する圧胴(処理液ドラム)34と、処理液ドラム34によって搬送される用紙14の印刷面に所定の処理液を付与する処理液付与装置36とを備えて構成されている。
【0058】
処理液ドラム34は、渡し胴32から用紙14を受け取り(グリッパGで用紙14の先端を把持して受け取る。)、その周面に巻き掛けて、用紙14を回転搬送する。この際、処理液ドラム34は、用紙14の印刷面を外側にして、渡し胴32から用紙14を受け取り、用紙14を回転搬送する。
【0059】
処理液付与装置36は、処理液ドラム34によって回転搬送される用紙14の印刷面に所定の処理液を付与する。この処理液付与装置36は、周面に処理液が付与された塗布ローラを用紙14の周面に押圧当接させて、用紙14の印刷面に処理液を付与(塗布)する。
【0060】
ここで、用紙14に付与する処理液は、描画部40で付与するインクと反応して、インク中の色材を凝集させる機能を有する液体が付与される。このような処理液を事前に付与して、用紙14にインク滴を打滴すると、インク滴は、着弾後ただちにインク中の色材が凝集され、隣接してインク滴が着弾しても、色材混合が生じるのを防ぐことができる。
【0061】
処理液付与部30は、以上のように構成される。渡し胴32から処理液ドラム34に受け渡された用紙14は、処理液ドラム34によって回転搬送される過程で処理液付与装置36から印刷面に処理液が付与される。そして、処理液が付与された用紙14は、処理液ドラム34から渡し胴42に受け渡され、渡し胴42から描画部40の圧胴44に受け渡される。
【0062】
<描画部>
描画部40は、用紙14の印刷面にC、M、Y、Kの各色のインク滴を打滴して、用紙14の印刷面にカラー画像を形成する。この描画部40は、用紙14を搬送する圧胴(描画ドラム)44と、用紙14にC、M、Y、Kの各色のインク滴を打滴するインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kを備えて構成されている。
【0063】
描画ドラム44は、渡し胴42から用紙14を受け取り、その周面に巻き掛けて、用紙14を回転搬送する。この際、描画ドラム44は、用紙14の印刷面を外側にして、渡し胴42から用紙14を受け取り、用紙14を回転搬送する。
【0064】
なお、渡し胴42は、処理液付与部30の処理液ドラム34から用紙14を受け取る際、裏面を外側にして、処理液ドラム34から用紙14を受け取り、用紙14を回転搬送する。
【0065】
4台のインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kは、描画ドラム44の周囲に一定の間隔をもって配置されており、それぞれ対応する色のインク滴を描画ドラム44に向けて吐出する。このインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kは、用紙幅に対応したラインヘッドで構成されており、描画ドラム44と対向する面(ノズル面)には、用紙14の搬送方向と直交する方向に沿って、用紙幅に対応した長さのノズル列が形成されている。
【0066】
なお、このインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kの構成については、のちに詳述する。
【0067】
描画部40は、以上のように構成される。渡し胴42を介して処理液ドラム34から描画ドラム44に受け渡された用紙14は、描画ドラム44によって回転搬送される過程で各インクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kの下を通過し、その通過時に各インクジェットヘッド46C、46M、46Y、46KからC、M、Y、Kの各色のインク滴が印刷面に打滴されて、印刷面にカラー画像が記録される。
【0068】
この際、用紙14には、事前にインク中の色材を凝集させる機能を有する処理液が付与されているので、色材混合等を生じさせることなく、高品位な画像を記録することができる。
【0069】
なお、本例では、各インクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kから吐出するインクとして、インク中に熱可塑性樹脂が分散された水性インクが使用される。
【0070】
各インクジェットヘッド46C、46M、46Y、46KからC、M、Y、Kの各インク色のインク滴が打滴されて印刷面に画像が記録された用紙14は、描画ドラム44から渡し胴52に受け渡され、渡し胴52から乾燥部50の圧胴54に受け渡される。
【0071】
<乾燥部>
乾燥部50は、画像が記録された用紙14を乾燥させる。この乾燥部50は、用紙14を搬送する圧胴(乾燥ドラム)54と、乾燥ドラム54によって搬送される用紙14に対して乾燥処理を施す乾燥装置56とを備えて構成されている。
【0072】
乾燥ドラム54は、渡し胴52から用紙14を受け取り、その周面に巻き掛けて、用紙14を回転搬送する。この際、乾燥ドラム54は、用紙14の印刷面を外側にして、渡し胴52から用紙14を受け取り、用紙14を回転搬送する。
【0073】
乾燥装置56は、用紙上に存在する水分を蒸発させる処理を行う。すなわち、描画部40で用紙14の上にインクが打滴されると、処理液とインクとの凝集反応により分離したインクの液体成分と処理液の液体成分とが用紙上に残留するので、この用紙上に残存する液体成分を蒸発させて除去する処理を行う。この乾燥装置56は、乾燥ドラム54によって搬送される用紙14に向けて温風を吹き付けることにより、用紙上に存在する液体成分を蒸発させて除去する。
【0074】
乾燥部50は、以上のように構成される。渡し胴52を介して描画ドラム44から乾燥ドラム54に受け渡された用紙14は、乾燥ドラム54による搬送過程で乾燥装置56から温風が吹き付けられて乾燥処理される。乾燥装置56を通過した用紙14は、乾燥ドラム54から渡し胴62に受け渡され、定着部60へと搬送される。
【0075】
<定着部>
定着部60は、用紙14を加熱加圧して、印刷面に描画された画像を定着させる。この定着部60は、用紙14を搬送する圧胴(定着ドラム)64と、定着ドラム64によって搬送される用紙14に加熱加圧処理を施すヒートローラ66とを備えて構成されている。
【0076】
定着ドラム64は、渡し胴62から用紙14を受け取り、その周面に巻き掛けて、用紙14を回転搬送する。この際、定着ドラム64は、用紙14の印刷面を外側にして、渡し胴62から用紙14を受け取り、用紙14を回転搬送する。
【0077】
ヒートローラ66は、乾燥部50で乾燥させたインクを加熱加圧することによって、インク中に分散された熱可塑性樹脂を溶着して、インクを皮膜化させる。また、これと同時に用紙14に生じたカックルを矯正する。このヒートローラ66は、用紙幅に対応して形成されており、内蔵する熱源(たとえば、赤外線ヒータ)によって所定温度に加熱されている。そして、図示しない加圧手段によって、定着ドラム64の周面に所定の押圧力で押圧当接されている。
【0078】
定着部60は、以上のように構成される。渡し胴62から定着ドラム64に受け渡された用紙14は、この定着ドラム64で搬送される過程で印刷面にヒートローラ66が押圧当接されて、加熱加圧される。これにより、インク中に分散された熱可塑性樹脂が溶着されて、インクが皮膜化される。また、これと同時に用紙14に生じたカックルが矯正される。
【0079】
ヒートローラ66によって加熱加圧された用紙14は、定着ドラム64から排紙部70へと受け渡される。
【0080】
<排紙部>
排紙部70は、一連の画像記録工程が終了した用紙14をスタッカ72に回収する。この排紙部70は、用紙14をスタッカ72まで搬送するコンベア74を備えている。定着部60で定着処理された用紙14は、定着ドラム64からコンベア74に受け渡され、このコンベア74によってスタッカ72の設置位置まで搬送される。スタッカ72は、所定の回収位置にセットされており、コンベア74で搬送された用紙14は、このスタッカ72の中に排紙される。スタッカ72の中に排紙された用紙14は、スタッカ72の中に積み重ねられて回収される。
【0081】
《印刷動作》
次に、上記インクジェット記録装置10による印刷動作について説明する。
【0082】
給紙装置22は、図示しないスタッカに格納された用紙14を上から順に1枚ずつ給紙トレイ24に給紙する。給紙トレイ24に給紙された用紙14は、渡し胴32を介して処理液付与部30の処理液ドラム34に受け渡される。そして、その処理液ドラム34による搬送過程で処理液付与装置36によって印刷面に処理液が付与される。
【0083】
処理液が付与された用紙14は、処理液ドラム34から渡し胴42を介して描画部40の描画ドラム44に受け渡される。そして、その描画ドラム44による搬送過程で各インクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kから各インク色のインク滴が付与されて、印刷面に画像が形成される。
【0084】
印刷面に画像が形成された用紙14は、描画ドラム44から渡し胴52を介して乾燥部50の乾燥ドラム54に受け渡される。そして、その乾燥ドラム54による搬送過程で乾燥装置56から温風が吹き付けられることにより、印刷面に付与されたインクが乾燥される。
【0085】
インクが乾燥された用紙14は、乾燥ドラム54から渡し胴62を介して定着ドラム64に受け渡される。そして、その定着ドラム64による搬送過程で印刷面にヒートローラ66が押圧当接されて、加熱加圧される。これにより、印刷面に形成された画像が定着される。
【0086】
定着部60で画像が定着された用紙14は、排紙部70のコンベア74に受け渡され、そのコンベア74によってスタッカ72まで搬送されて、スタッカ内に排紙される。
【0087】
以上のように、印刷は、給紙→処理液塗布→描画→乾燥→定着→排紙という一連の工程を経て行われる。
【0088】
《インクジェットヘッドの構成》
次に、上記のインクジェット記録装置10に搭載されるインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kの構成について説明する。
【0089】
なお、各色に対応するインクジェットヘッド46C、46M、46Y、46Kの構造は共通しているので、以下においては、これらを代表して符号100によってインクジェットヘッドを示すものとする。
【0090】
図2は、インクジェットヘッド100のインク吐出面の平面透視図である。
【0091】
同図に示すように、本実施の形態のインクジェットヘッド100では、インク吐出面102にノズル110が千鳥状に配置されている。すなわち、ヘッドの長手方向(第1の方向)、及び、そのヘッドの長手方向に対して所定角度傾斜した方向(第2の方向)にそれぞれ所定の間隔をもって複数のノズル110が二次元的に配列された構造を有している。このようにノズル110を千鳥状に配列することにより、ヘッドの長手方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に投影される実質的なノズルの間隔を狭めることができ、ノズル110の高密度化を図ることができる。
【0092】
各ノズル110は、それぞれ対応して設けられた圧力室112にノズル流路114を介して連通されており、各圧力室112もノズル110と同様にインク吐出面102と平行な面に千鳥状に配列されている。
【0093】
圧力室112は、図2に示すように、その平面形状が長円形状に形成されており、その長軸(長手方向の軸)が、インクジェットヘッド100の長手方向と平行になるように配列されている。この圧力室112には、その長手方向の両端部にノズル流路114と個別供給流路116が連通されている。
【0094】
ノズル流路114は、圧力室112から鉛直下向きに延びるように形成されており(図3参照)、インク吐出面102に形成されたノズル110に連通されている。
【0095】
一方、個別供給流路116は、各圧力室112に共通してインクを供給する共通供給流路118に連通されている。この共通供給流路118は、図2に示すように、インクジェットヘッド100の長手方向と平行な方向に延びる本流部118aと、その本流部118aから分岐して、前記第2の方向に延びる複数の支流部118bとで構成されており、各圧力室112に連通された個別供給流路116は、支流部118bに連通されている。インクは、図示しないインクタンクから本流部118aの一端に形成されたインク供給口120に供給され、このインク供給口120に供給されたインクが、本流部118aから支流部118b、個別供給流路116を介して各圧力室112に供給される。
【0096】
図3は、インクジェットヘッド100の一部を示した縦断面図である。
【0097】
同図に示すように、本実施の形態のインクジェットヘッド100は、ノズルプレート130、流路基板132、圧電アクチュエータ134が順に積層された構造を有している。
【0098】
ノズルプレート130は、ノズル110が形成された基板であり、流路基板132の下面を覆うようにして、流路基板132に接合されている。
【0099】
本実施の形態のインクジェットヘッド100において、このノズルプレート130は、シリコン(Si)で形成され、SOI基板を用いて形成される。この場合、まず、SOI基板に異方性エッチング等を用いてノズルを形成し、このノズルが形成されたSOI基板を流路基板132の下面に接合する。そして、接合後、SOI基板のSi基板及びSiO層を除去する。これにより、流路基板132の下面にSi製のノズルプレート130が形成される。
【0100】
流路基板132は、圧力室112、ノズル流路114、個別供給流路116、共通供給流路118等が形成された基板である。本実施の形態のインクジェットヘッド100において、この流路基板132は、所定厚さのSi基板で形成される。圧力室等は、このSi基板をエッチング処理等して形成される。
【0101】
圧電アクチュエータ134は、流路基板132に形成された個々の圧力室112に対応して設けられており、主として、振動板136と、その振動板136の上に設けられた圧電素子138とで構成される。
【0102】
振動板136は、流路基板132の上面を覆うようにして、流路基板132に接合されている。この振動板136は、流路基板132の上面に接合されることにより、流路基板132に形成された個々の圧力室112の天井面(一壁面)を構成する。すなわち、流路基板132に形成された各圧力室112は、上部が開口して形成されており、この振動板136が接合されることにより、開口した上部が覆われて、天井面が形成される。
【0103】
本実施の形態のインクジェットヘッド100において、この振動板136は、Siで形成され、SOI基板を用いて形成される。この場合、表面Si層を下側にしてSOI基板を流路基板132の上面に接合し、接合後、SOI基板のSi基板及びSiO層を除去する。これにより、流路基板132の上面にSi製の振動板136が形成される。
【0104】
また、図3に示すように、本実施の形態のインクジェットヘッド100において、振動板136は、各圧力室112の形成領域(各圧力室112の天井面を形成する領域)において、圧力室112側に凸状に湾曲して形成される。
【0105】
圧電素子138は、圧力室112ごとに設けられており、各圧力室112の天井面を構成する振動板136の上に配置されている。この圧電素子138は、圧電体140と、共通電極としての下部電極142と、個別電極としての上部電極144とで構成されており、圧電体140を下部電極142と上部電極144とで挟んだ構造を有している。そして、その平面形状が、図4に示すように、圧力室112の平面形状(長円形状)に対応して、長円形状に形成されるとともに、振動板136に倣って、圧力室側に凸状に湾曲して形成されている。
【0106】
圧電体140は、圧力室112の平面形状に対応して、長円形状に形成されており、圧力室112の同軸上に配置されている。この圧電体140は、圧力室112の外形寸法よりも大きく形成されており、その外周部が圧力室112の周縁部から所定量食みだすようにして、振動板上に配置されている。
【0107】
この圧電体140は、強誘電性を有する圧電材料、たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のセラミックス系材料で形成される。
【0108】
下部電極142は、振動板136の上面全面に形成されている。圧電体140は、この下部電極142の上面に形成される。
【0109】
この下部電極142は、たとえば、金、銀、銅、パラジウム、白金、チタン等の導電性材料で形成され、スクリーン印刷、スパッタ法、蒸着法等によって、振動板136の上に形成される。
【0110】
下部電極142は、フレキシブルプリント配線板(図示せず)を介してグランドに接続される。
【0111】
一方、上部電極144は、圧力室112の縁部に重なるように環状に形成されており、圧電体140の上面に形成されている。この上部電極144の外周は、圧電体140の外周に合致した長円形状に形成されており、内周も相似の長円形状に形成されている。すなわち、上部電極144は、圧力室112の中心部以外の領域を覆うように形成されている。
【0112】
この上部電極144は、たとえば、金、銀、銅、パラジウム、白金、チタン等の導電性材料で形成され、スクリーン印刷、スパッタ法、蒸着法等によって、圧電体140の上に個別に形成される。
【0113】
各上部電極144は、フレキシブルプリント配線板(図示せず)を介して駆動回路(図示せず)に接続される。そして、この駆動回路から各上部電極144に対して選択的に駆動電圧が印加される。
【0114】
さて、上記のように、本実施の形態のインクジェットヘッド100において、圧電アクチュエータ134は、初期状態において、圧力室側に凸状に湾曲して形成される。このように、初期状態において、圧力室側に凸状に湾曲した圧電アクチュエータ134は、次のようにして、形成することができる。
【0115】
すなわち、Siで形成された振動板136の上に下部電極142を介して圧電体140を形成する際、圧電体140をPZT系の膜を薄膜形成法(たとえば、スパッタ、ゾルゲル、レーザーアブレーション、CDV等)で形成することとし、この形成時に熱処理を加える。
【0116】
PZTは、下地基板であるSiより線膨張係数が大きいため、下に凸となり、これにより、初期状態において、圧力室側に凸状に湾曲した圧電アクチュエータ134を形成することができる。たとえば、Siの線膨張係数は2.6E−6/℃であり、真性のPZTの線膨張係数は3.0E−6/℃である。この場合、PZTを500℃又は400℃で成膜し、常温(25℃)に戻したとき、240μm幅の圧電アクチュエータ(PZT厚さ2.5μm、振動板厚さ11.5μm)で、0.1μm(0.08μm)程度、下に凸状に湾曲した構造を形成することができる。このとき、25Vの電圧を印加すると、137nm上に凸状に変位する(Ansysによるシミュレーション)。
【0117】
本実施の形態のインクジェットヘッド100では、熱処理を伴うスパッタにより、Siで形成された振動板136の上に下部電極142を介して圧電体140を薄膜形成する。
【0118】
《インクジェットヘッドの動作》
次に、インクジェットヘッド100の動作について説明する。
【0119】
インクジェットヘッド100は、各圧力室112に対応して設けられた圧電アクチュエータ134の上部電極144に個別に駆動電圧を印加することにより、各圧力室112の容積が個別に拡縮されて、各圧力室112に連通されたノズル110からインクの液滴が吐出される。
【0120】
上記のように、各圧電アクチュエータ134に対する駆動電圧の印加は、図示しない駆動回路によって行われる。
【0121】
図5(a)に示すように、圧電アクチュエータ134は、初期状態(駆動電圧が印加されていない状態)において、圧力室側に凸状に湾曲している。
【0122】
駆動回路から圧電アクチュエータ134の上部電極144に駆動電圧が印加されると、環状の上部電極144と下部電極142に挟まれた圧電体140の環状領域が、分極方向(圧電体140の厚み方向)と直交する方向(水平方向)に収縮する。そして、この圧電体140の環状領域が分極方向と直交する方向に収縮することにより、図5(b)に示すように、振動板136が撓みのない中立点(上下に凹凸のできない状態)を超えて、圧力室112と反対側に凸状に変形する。
【0123】
この際、圧電アクチュエータ134は、あらかじめ圧力室側に凸状に湾曲させて形成しているので、駆動電圧を印加することにより、容易に変形させることができる。すなわち、圧電体140は、あらかじめ圧力室側に凸状に湾曲させて形成することにより、引っ張り応力を受けるので、これに駆動電圧を印加して、引っ張り力を作用させると、座屈を利用して、容易に変形させることができる。
【0124】
そして、このように振動板136が圧力室とは反対側に凸状に変形することにより、圧力室112の容積が拡大する。
【0125】
この後、上部電極144への駆動電圧の印加を停止すると、振動板136は元の形状(圧力室側に凸状に湾曲した形状)に戻る。これにより、圧力室112の容積が縮小し、圧力室内のインクがノズル流路114に押し出されて、ノズル110からインク滴が吐出される。
【0126】
このように、本実施の形態のインクジェットヘッド100では、あらかじめ圧力室側に凸状に湾曲して形成された圧電アクチュエータ134に駆動電圧を印加して、圧力室とは反対側に変位させ、これを元に戻して、インクを吐出させる。これにより、振動板136に高い変位量を与えて、高い吐出圧力を得ることができる。また、振動板136を必要以上に薄膜化したり、圧力室112の中央部分を除いて圧電体140を形成したりしなくても、十分な変位量が得られるので、剛性も確保することができる。
【0127】
図6は、圧電アクチュエータ134に印加する駆動電圧の駆動波形の一例を示す図である。
【0128】
スパッタで薄膜形成された圧電体(PZT)140は、分極方向が通常使いたい方向とは逆となるため、共通電極である下部電極142を0[V]として、個別電極である上部電極144にマイナス電位(―V[V])を与える。この時の駆動方法としては、インクを引く動作で電圧を印加し、吐出の時に電圧を開放する。このように、インクを吐出する時にのみ駆動電圧を印加することにより、信頼性の高い駆動を行うことができる。
【0129】
一方、上部電極144を環状に形成した場合、インク吐出時は、電圧を0[V]に開放する方向であり、強制的に変位を与えているわけではないので、通常方式に比べて発生圧力を高くするのが困難となるが、上記のように、本実施の形態のインクジェットヘッド100では、あらかじめ圧電アクチュエータ134を圧力室側に凸状に湾曲させて形成することにより、高い変位量を確保することでき、高い吐出圧力を得ることができる。
【0130】
なお、圧電アクチュエータ134は、駆動電圧を印加することにより、中立点を超えて、圧力室112とは反対側に変位するように構成される。したがって、印加電圧に対する変位量をδLとしたとき、初期の撓み量δ0(初期状態における中立点からの変位量)との関係は、δL>δ0となる。この式の所望の撓み量δ0、変位量δLを得るために、振動板136の厚さ、圧電体140の厚さ、印加電圧を設計する必要がある。
【0131】
また、初期の撓み量を制御するパラメータの1つとして、圧電体140の線膨張係数(Nb(ニオブ)の添加量を変えることで、線膨張係数を大きくすることができる。)、下部電極142の材料(線膨張係数)、厚さがある。これらを組み合わせて圧電アクチュエータ134を設計する。
【0132】
なお、上記実施の形態では、振動板136をSiで形成しているが、振動板136の組成は、これに限定されるものではない。この他、たとえば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム等の金属系材料で形成してもよい。
【0133】
一方、上記実施の形態のインクジェットヘッド100のように、振動板136を線膨張係数の低いSiで形成し、熱処理を伴う薄膜形成法で圧電体140を形成することにより、容易に圧力室側に凸状に湾曲した圧電アクチュエータ134を形成することができる。
【0134】
流路基板132についても同様にSi等のシリコン系材料ではなく、ステンレス等の金属系材料で構成することもできる。また、ノズルプレート130もSi等のシリコン系材料ではなく、ポリイミド等の樹脂系材料やステンレス等の金属系材料で形成することもできる。
【0135】
なお、上記実施の形態のインクジェットヘッド100のように、ノズルプレート130、流路基板132、振動板136をSiで形成することにより、精度よく流路等を形成することができ、かつ、高密度化することができる。
【0136】
また、本実施の形態では、振動板136の上面全面に下部電極142を形成しているが、下部電極142は、圧電体140の下面形状(長円形状)に対応して長円形状に形成してもよい。
【0137】
また、上記実施の形態では、本発明をインクジェットヘッドに適用した場合を例に説明したが、本発明の適用は、これに限定されるものではない。この他、たとえば、導電ペーストを吐出して基板上に微細な配線パターンを形成したり、有機発光体を基板に吐出して高精細ディスプレイを形成したり、光学樹脂を基板に吐出して光導波路等の微小電子デバイスを形成するための種々の液体吐出ヘッドに適用することができる。
【符号の説明】
【0138】
10…インクジェット記録装置、46C、46M、46Y、46K…インクジェットヘッド、100…インクジェットヘッド、102…インク吐出面、110…ノズル、112…圧力室、114…ノズル流路、116…個別供給流路、118…共通供給流路、118a…本流部、118b…支流部、120…インク供給口、130…ノズルプレート、132…流路基板、134…圧電アクチュエータ、136…振動板、138…圧電素子、140…圧電体、142…下部電極(共通電極)、144…上部電極(個別電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室の容積を圧電アクチュエータによって変化させて、前記圧力室内の液体を該圧力室に連通されたノズルから吐出させる液体吐出ヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、前記圧力室側に凸状に形成され、駆動電圧が印加されると、前記圧力室とは反対方向に変位して、前記圧力室の容積を拡大させることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧電アクチュエータは、駆動電圧が印加されると、撓みのない中立点を超えて、前記圧力室とは反対側に凸状に変形することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧電アクチュエータは、
前記圧力室の一壁面を構成する振動板と、
前記振動板の前記圧力室とは反対側の面に配置される圧電体と、
前記圧電体の一方の面に配置され、前記圧力室の縁部と重なる領域に配置される環状の個別電極と、
前記圧電体の他方の面に配置される共通電極と、
を備えて構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータは、前記圧電体を前記圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で形成することにより、前記圧力室側に凸状に形成されることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧電体はNbを含有し、該Nbの添加量が調整されて、線膨張係数が前記振動板よりも高くされることを特徴とする請求項3〜4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記振動板が、シリコンであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記圧力室が形成される基板に対して、前記圧力室が千鳥状に配列して形成されるとともに、前記ノズルがノズル面に対して千鳥状に配列して形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧電アクチュエータへの駆動電圧の印加を制御して、前記ノズルからの液滴の吐出を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記ノズルから液滴を吐出させる時にのみ前記圧電アクチュエータに駆動電圧を印加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
圧力室の一壁面を構成する振動板の上に圧電体が配置される構造の液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記圧電体よりも線膨張係数の低い振動板の上に熱処理を伴う薄膜形成法で前記圧電体を形成して、前記圧電体を前記振動板と共に前記圧力室側に凸状に湾曲させて形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記圧力室の縁部と重なる領域に環状に個別電極を形成することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記振動板が、シリコンであることを特徴とする請求項9又は10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
Nbの添加量を調整して、前記圧電体の線膨張係数を調整することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする画像記録装置。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記圧電アクチュエータには、前記ノズルから液滴を吐出させる時にのみ駆動電圧を印加することを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−56913(P2011−56913A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212161(P2009−212161)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】