説明

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置

【課題】ノズル形成基板の温度上昇を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、これを備えた液体噴射装置を提供する。
【解決手段】
ノズル形成基板の縁を被覆してノズル開口を露出する状態でヘッドケース37に取付けられる金属製のヘッドカバー40は、ヘッドケースへの取付け状態でノズル形成基板の表面の一部に重なるフレーム部59と、ヘッドケースの側面側に配置される側板部60とを有し、側板部を複数箇所で曲げて蛇腹部64を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関し、特に、ノズル形成基板の放熱が可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液体噴射装置は、液体を噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズル開口から液体状のインクを記録紙等の記録媒体(噴射対象物)に対して噴射・着弾させてドットを形成することで画像等の記録を行うインクジェット式プリンタ等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
ところで、上記のプリンタでは、記録媒体、特に、記録紙に画像等を記録・印刷する場合、インクに含まれる水分によって記録紙に歪みや凹凸が生じたり、記録画像が滲んだりする虞がある。特に、滲みにより異なる色同士が混色した場合には、記録画像の画質が低下する虞がある。このような問題に対応すべく、記録紙を加熱する加熱手段(熱源)を設け、この加熱手段による記録紙の加熱により、記録紙に着弾したインクの乾燥を促す構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−287455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加熱手段によって記録紙を加熱する構成では、記録ヘッドのノズル形成基板の温度も上昇する可能性がある。そして、ノズル形成基板の温度が上昇するのに伴ってノズル開口近傍のインクの温度が上昇することにより、その粘度が変化してしまう。これにより、ノズル開口から噴射されるインクの量や飛翔速度などの噴射特性が変動する虞があった。
【0006】
なお、従来のプリンタでは、記録ヘッドの周囲の温度を検出し、検出された温度に基づいて、圧力発生手段を駆動する駆動信号の補正を行っているものもあるが、一般的には、温度を検出する手段がノズル開口から離れた位置に設けられているため、ノズル開口近傍のインクの温度を正確に計測することができなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノズル形成基板の温度上昇を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、これを備えた液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル開口を有するノズル形成基板と、
前記ノズル形成基板が固定されるヘッドケースと、
前記ノズル形成基板の縁を被覆してノズル開口を露出する状態でヘッドケースに取付けられる金属製のヘッドカバーとを備え、
前記ヘッドカバーは、ヘッドケースへの取付け状態でノズル形成基板の表面の一部に重なるフレーム部と、前記ヘッドケースの側面側に配置される側板部と、を有し、
前記側板部を複数箇所で曲げたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ノズル形成基板の縁を被覆してノズル開口を露出する状態でヘッドケースに取付けられる金属製のヘッドカバーの側板部を複数箇所で曲げたので、このヘッドカバーの面積を従来よりも広くすることができ、ヘッドカバー全体でノズル形成基板から伝わる熱を放熱することができる。これにより、ノズル形成基板の温度上昇を抑制することができる。その結果、液体の粘度変化を抑えることができ、而して液体の噴射特性の変動を防止することが可能となる。
【0010】
上記構成において、曲げない状態における前記側板部の全長を、ヘッドケースの側面の高さよりも長く設定することが望ましい。
【0011】
また、上記構成において、前記ノズル形成基板と前記フレーム部との間に、熱伝導性接着剤を充填する構成を採用することも可能である。
なお、「熱伝導性接着剤」とは、例えば、金属粒子等を含ませて熱伝導性を向上させた接着剤を意味する。
【0012】
この構成によれば、ノズル形成基板とフレーム部との間の隙間を熱伝導性接着剤で埋めることができるので、ノズル形成基板の熱をヘッドカバーに効率良く伝達することができ、これにより、放熱効果を向上させることが可能となる。
【0013】
さらに、前記ヘッドケースの側面と前記側板部との間に、熱伝導性接着剤を充填する構成を採用することもできる。
【0014】
この構成によれば、ヘッドケースの側面と側板部との間に熱伝導性接着剤を充填することで、ノズル形成基板の熱をヘッドカバーに効率良く伝達することができると共に、ヘッドケースの側面と側板部との間に液体が入り込むことを防止することができる。また、側板部のガタつきを防止することも可能である。
【0015】
そして、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ヘッドと、
噴射対象物を加熱する加熱手段と、を備え、
前記加熱手段により加熱された前記噴射対象物に対し、前記液体噴射ヘッドから液体を噴射する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。なお、本実施形態では、液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、ノズル開口群を等間隔ピッチで噴射対象物(又は記録媒体)としての記録紙の最大記録幅に相当する長さに配置した長尺なライン型液体噴射ヘッド(以下、ラインヘッドという)を搭載したインクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタという)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るプリンタ1の概略構成を説明する一部欠截斜視図である。本実施形態のプリンタ1は、筐体2の内部に、複数のヘッドユニット11(狭義の液体噴射ヘッド)を千鳥状に配置して構成されるラインヘッド3(広義の液体噴射ヘッド)と、記録紙4を積層状態で収納する給紙トレイ5と、該給紙トレイ5から記録紙4を1枚ずつ送り出してラインヘッド3の下流側(搬送部7側)へと供給する給紙部6と、給紙部6により供給された記録紙4を記録ポジションに搬送する搬送部7と、ラインヘッド3によって記録が行われた記録紙4の記録面を加熱してインクの乾燥を促進する乾燥アシスト部8(本発明における加熱手段の一種)と、ラインヘッド3によって記録が行われた記録紙4を排出する排出部9と、排出部9から排出された記録紙4を保持する排紙トレイ10とを備え、ラインヘッド3を走査することなく記録紙4の記録領域の全幅にテキストや画像等を記録できるように構成されている。
【0018】
筐体2の内部には、図示しないが、インク(本発明における液体の一種)を貯留したインクカートリッジ(液体供給源の一種)が配置される。そして、エアポンプ等によるインクカートリッジ内の加圧によって、カートリッジ内に貯留されているインクがインク供給チューブを通じてラインヘッド3の各ヘッドユニット11に供給(圧送)されるように構成されている。
【0019】
また、筐体2の内部には、搬送部7の上方の領域であってラインヘッド3がインクを噴射して記録紙4に対し画像等の記録(印刷)を行う記録ポジションと、ラインヘッド3が記録を行わない場合に記録ポジションから外れて待機する待機ポジション(ホームポジション)が設定されている。ラインヘッド3は、この記録ポジションと待機ポジションに渡って延設されたガイド軸12に移動可能に支持されており、このガイド軸12に沿って待機ポジションと記録ポジションとの間で進退移動するように構成されている。
【0020】
上記待機ポジションには、ラインヘッド3の各ヘッドユニット11のノズル形成面(ノズル形成基板35。図2等参照)を封止するキャップ14を備えたキャッピング機構15が配設されている。このキャッピング機構15は、エラストマー等の弾性部材からなるトレイ状のキャップ14をラインヘッド3のヘッドユニット11毎に対応して複数有している。そして、キャッピング機構15は、待機ポジションに移動してきたラインヘッド3の各ノズル形成面に向けて進出(上昇)し、対応するヘッドユニット11のノズル形成面に対して各キャップ14を圧接させて封止する。このキャップ14によるノズル形成面の封止により、ノズル開口33(図2等参照)からのインク溶媒の蒸発を防止して、インクの増粘を抑制することができる。
【0021】
給紙部6は、ピックアップローラ16と、上下一対の給送ローラ17a,17bと、駆動ローラ18及び従動ローラ19に架け渡された無端状の給送ベルト20とを備えている。図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラ16は、給紙トレイ5にセットされた記録紙4の最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の記録紙4を給紙トレイ5から繰り出す。また、給送ローラ17a,17bは、給紙トレイ5から繰り出された最上位の記録紙4を互いにニップした状態で1枚ずつ給送ベルト20へと給送する。駆動ローラ18は、図示しない回転駆動源により回転されることで給送ベルト20を駆動し、この給送ベルト20上に載置された記録紙4を下流側の搬送部7へと送るように構成されている。
【0022】
搬送部7は、搬送駆動ローラ22及び搬送従動ローラ23に架け渡された搬送ベルト24と、上流側と下流側の2つに分割されたガイド板25a,25b(プラテン)と、これらのガイド板25a,25bの間に配置され、ガイド板としても機能しつつ搬送ベルト24上の記録紙4を加熱する加熱手段の一種として機能する加熱ガイド板26とから構成されている。搬送駆動ローラ22は、図示しない回転駆動源により、ラインヘッド3の記録動作に同期して回転されることで無端状の搬送ベルト24を駆動し、給紙部6から給送されてきた記録紙4をラインヘッド3の下方を通過させて排出部9側へと搬送するように構成されている。
【0023】
ガイド板25a,25bは、搬送ベルト24の内側に配置され、搬送ベルト上の記録紙4をラインヘッド3のノズル形成面に対し平行となるように搬送ベルト24の裏面側から支持するようになっている。加熱ガイド板26は、ガイド板25a,25bと同様に搬送ベルト24の内側に配置され、搬送ベルト上の記録紙4を搬送ベルト24の裏面側から支持する。また、この加熱ガイド板26は図示しない熱源を備え、この熱源によってラインヘッド3によって記録動作が行われている記録紙4を裏面側から加熱するように構成されている。
【0024】
ラインヘッド3は、記録動作を行う際にガイド軸12に案内されつつ待機ポジションから記録ポジションに移動してこの記録ポジションで停止し、ノズル形成面を搬送ベルト24上の記録紙4に対向させた状態で、この記録紙4に対してノズル開口33からインクを噴射する記録動作を行うように構成されている。この際、記録紙4が加熱ガイド板26によって加熱されているため、この熱によって、記録紙4の記録面に着弾したインクの溶媒の蒸発が促されることにより、インクの乾燥時間を短縮することができる。
【0025】
排出部9は、図示しない回転駆動源によって回転駆動される排出駆動ローラ28及び排出従動ローラ29に架け渡された排出ベルト30と、排出ガイド板31とを備えて構成されている。排出駆動ローラ28は、回転駆動源により回転されることで排出ベルト30を駆動する。排出ベルト30は、記録ポジション側で画像等の記録が行われた記録紙4を下流側に搬送して排紙トレイ10に排出する。この排出ベルト30の上方には、乾燥アシスト部8が配置されている。この乾燥アシスト部8は記録ポジション側から送られてくる記録紙4を加熱して記録紙4の記録面に着弾したインクの乾燥をさらに促進するように構成されている。
【0026】
図2は、本実施形態におけるラインヘッド3の構成を示す平面図であり、ノズル形成面側から見た図である。ラインヘッド3は、図示するように、複数のヘッドユニット11を記録紙4の搬送方向に対して直交する方向(図2における上下方向)に2段の千鳥状に並べてユニットホルダ34に取り付け、各ヘッドユニット11のノズル開口33が全体として記録紙4の最大記録幅に対応可能な長さに配置されている。ユニットホルダ34は、ガイド軸12に移動可能に取り付けられており、このユニットホルダ34が図示しないヘッド移動機構によってガイド軸12に沿って移動することにより、ラインヘッド3が待機ポジションと記録ポジションとの間で進退するようになっている。
【0027】
図3はヘッドユニット11の構成を説明する要部断面図、図4はヘッドユニット11をノズル形成基板35側から見た平面図、図5はユニットホルダ34に取り付けられた状態のヘッドユニット11の側方図である。このヘッドユニット11は、ヘッドケース37と、このヘッドケース37内に収納される振動子ユニット38と、ヘッドケース37の底面(先端面)に接合される流路ユニット39と、この流路ユニット39を保護する金属製のヘッドカバー40(図4,5参照)等を備えている。
【0028】
ヘッドケース37は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット38を収納するための収容空部41が形成されている。振動子ユニット38は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子42と、この圧電振動子42が接合される固定板43と、圧電振動子42に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル44とを備えている。圧電振動子42は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向に直交する方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子である。
【0029】
流路ユニット39は、流路形成基板45の一方の面にノズル形成基板35を、流路形成基板45の他方の面に振動板46をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット39には、リザーバ47(液体室)と、インク供給口48と、圧力発生室49と、ノズル開口33とを設けている。そして、インク供給口48から圧力発生室49を経てノズル開口33に至る一連のインク流路(液体流路)が、各ノズル開口33に対応して形成されている。
【0030】
上記振動板46は、支持板51の表面に弾性体膜52を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板51とし、この支持板51に樹脂フィルムを弾性体膜52としてラミネートした複合板材を用いて振動板46を形成している。この振動板46には、圧力発生室49の容積を変化させるダイヤフラム部53が設けられている。また、この振動板46には、リザーバ47の一部を封止するコンプライアンス部54が設けられている。
【0031】
上記のダイヤフラム部53は、エッチング加工等によって支持板51を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部53は、圧電振動子42の自由端部の先端面が接合される島部55と、この島部55の周囲の薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部54は、リザーバ47の開口面に対向する領域の支持板51を、ダイヤフラム部53と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバ47に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0032】
そして、上記の島部55には圧電振動子42の先端面が接合されているので、この圧電振動子42の自由端部を伸縮させることで圧力発生室49の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力発生室49内のインクに圧力変動が生じる。そして、ヘッドユニット11は、この圧力変動を利用してノズル開口33からインクを噴射させるようになっている。
【0033】
上記ノズル形成基板35は、例えばステンレス鋼などの金属製の板材から作製されている。図2及び図4に示すように、各ヘッドユニット11のノズル形成基板35は、インクを噴射するノズル開口33を記録紙4の搬送方向に直交する方向に複数列設してノズル列(ノズル群の一種)を構成し、このノズル列を記録紙搬送方向に複数形成している。本実施形態における1つのノズル列は、180dpiのピッチで開設された180個のノズル開口33から成る。このヘッドユニット11では、インクの種類毎、つまり、インクの色毎に2列のノズル列が対応している。本実施形態においては、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエローインク(Y)、及びブラックインク(K)の4色のインクに対応している。したがって、本実施形態においては、合計8列のノズル列が搬送方向に並べて形成されている。そして、同色の2つのノズル列は、隣り合うノズル列とのノズル開口33のノズル列設方向におけるピッチが360dpiとなるように、ノズル列設方向に相対的に位置をずらした状態で配置されている。したがって、1つのヘッドユニット11は、記録紙搬送方向に直交する方向(記録紙幅方向)で見て360dpiのピッチで合計360個のノズル開口33をインクの色毎に千鳥状に配置している。
【0034】
そして、図2に示すように、各ヘッドユニット11は、記録紙搬送方向に直交する方向で見て全体としてノズル開口33が360dpiで並ぶような配置間隔で2段の千鳥状にユニットホルダ34に配設されている。このヘッドユニット11の配置個数は、記録紙4の最大記録幅に応じて決定される。
【0035】
次にヘッドカバー40について説明する。ヘッドカバー40は、ノズル形成基板35と同様にステンレス鋼等の導電性を有する薄手の金属板で作製されており、ノズル形成基板35の表面(インク噴射側の面)の外周縁部を被覆してノズル開口33を露出した状態でヘッドケース37に取り付けられる部材である。
【0036】
このヘッドカバー40は、中央部分に開口窓部58が開設された額縁状のフレーム部59と、ヘッドケース37への取付け状態でフレーム部59の外周縁からヘッドケース37の側面に沿って延出した4枚の側板部60とにより概略構成されている。各側板部60の先端部には、止着部61が設けられている。この止着部61には、ヘッドケース37に取り付けるための止着ピン62(止着部材)を挿通する止着穴63が開設されている。このヘッドカバー40は、プリンタ本体側に通じる接地線(図示せず)に接続されるようになっている。これにより、ヘッドカバー40を通じてノズル形成基板35が接地電位に調整されるように構成されている。
【0037】
ヘッドカバー40の開口窓部58は、窓枠状の形状をしており、その開口寸法(内寸)は、ノズル形成基板35よりも少しだけ小さめに設定されている。したがって、ヘッドカバー40をヘッドケース37に取り付けると、図4に示すように、フレーム部59がノズル形成基板35の一部、詳しくはインク噴射側の面の外周部に重なる状態で、開口窓部58からノズル開口33(ノズル列)を露出するようになっている。このように、流路ユニット39とノズル形成基板35を外側から包囲するようにヘッドケース37の先端側にヘッドカバー40が取り付けられるので、記録ヘッド3をキャッピングやワイピング等による外部からの衝撃から保護するだけでなく、ノズル形成基板35とヘッドカバー40とが当接することで電気的に導通し、これにより、ヘッドカバー40を介してノズル形成基板35を接地電位に調整することができる。
【0038】
以下、このヘッドカバー40の特徴である放熱機能について説明する。
図6は、ヘッドカバー40を展開した状態の平面図である。上述したように、このヘッドカバー40には、フレーム部59の四辺から延出した4枚の側板部60を有している。これらの側板部60の寸法は、従来のヘッドカバーの側板と比較して可及的に広い面積となるように設計されている。例えば、この側板部60の延出長さ(折り曲げていない状態の全長)をヘッドケース37の高さよりも長くしている。また、各側板部60には、その幅方向(延出方向に直交する方向)を横断する折り曲げ予定線BLを、延出方向における複数箇所に等間隔で設定している。より具体的には、山折り予定線と谷折り予定線を交互に設定している。そして、各側板部60の折り曲げ予定線BL(山折り予定線と谷折り予定線)で折り曲げることによって、図5に示すように、蛇腹部64が形成される。この際、折り曲げ角度は、側板部60の寸法(延出長さ)と折り曲げ予定線の数等で異なる。また、必ずしも折り目を付けるように屈曲しなくても良く、なだらかな波状となるように、折り目を付けることなく曲げるようにしても良い。
【0039】
以上のように構成されたヘッドカバー40は、ヘッドケース37の取付面(フランジ部)に開設された雌ネジ部(図示せず)に止着穴63を合わせた状態で止着部61を取付面に当接させ、止着穴63に止着ピン62を挿通して雌ネジ部に螺合させることで、フレーム部59をノズル形成基板35のインク噴射側の面における外周縁部に重ね合わせ、側板部60(蛇腹部64)がヘッドケース37の側面側に配置された状態で、ヘッドケース37に取り付けられる。
【0040】
このように、金属製のヘッドカバー40における側板部60の寸法を従来のヘッドカバーにおける側板よりも大きく設定し、側板部全長方向における複数箇所で曲げて蛇腹部64を形成したので、ヘッドカバー40全体でノズル形成基板35の熱を大気中に積極的に放熱することができる。これにより、記録紙4に着弾したインクの乾燥を促進するべく加熱部(加熱ガイド板26及び乾燥アシスト部8)によって記録紙4が加熱されることによってノズル形成基板35の近傍の温度が上昇する構成においても、ノズル形成基板35の温度上昇を抑制することができる。その結果、ノズル開口33の周囲のインクの粘度変化を抑えることができ、而してインクの噴射特性の変動を防止することが可能となる。そして、一般的な記録ヘッドに設けられているヘッドカバーを利用して蛇腹部を形成したので、放熱手段を別途設ける必要が無い。これにより、コストの上昇を抑えつつ簡単に放熱機能を記録ヘッド(ラインヘッド)に付与することができる。
【0041】
なお、ヘッドカバー40の側板部60の寸法に関し、ヘッドユニット11間やプリンタ内の他の構造体との間で蛇腹部64が干渉しない範囲内で、できるだけ大きく設定することが望ましい。これにより、側板部60の表面積を増加させることができ、蛇腹部64における放熱効果を向上させることができる。
【0042】
また、ノズル形成基板35の熱をヘッドカバー40に効率良く伝達する観点から、ノズル形成基板35とフレーム部59との間に、例えばアルミニウム等の金属粒子を含む熱伝導性接着剤を充填することが望ましい。これにより、放熱効果をより向上させることが可能となる。また、同様に、ヘッドケース37の側面と側板部60(蛇腹部64)との間の隙間(図5においてSで示す部分)に、熱伝導性接着剤を充填しても良い。これにより、ノズル形成基板35の熱をヘッドカバー40に効率良く伝達することができると共に、ヘッドケース37の側面と側板部60(蛇腹部64)との間の隙間Sにインクが入り込むことを防止することができる。また、側板部60のガタツキを防止することも可能である。
【0043】
さらに、加熱手段に関し、上記実施形態では、ラインヘッド3の直下に配置されて記録中の記録紙4を加熱する加熱ガイド板26と、記録が終了した後に記録面を加熱する乾燥アシスト部8を例示したが、これには限られない。例えば、ラインヘッド3によって記録が行われる前に予め記録紙4を加熱しておくプレ加熱手段を設ける構成においても本発明は好適である。
【0044】
また、以上では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、プリンタ(液体噴射装置の一種)に搭載されるラインヘッド3を例示したが、本発明は、金属製のヘッドカバーを有する他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、記録紙の幅方向(搬送方向に直交する方向)に往復移動しつつインクの噴射を行う所謂シリアル型の記録ヘッドに本発明を適用することができる。また、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図2】ラインヘッドの構成を示す平面図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】ヘッドユニットをノズル形成基板側から見た平面図である。
【図5】ユニットホルダに取り付けられた状態のヘッドユニットの側方図である。
【図6】ヘッドカバーの展開図である。
【符号の説明】
【0046】
1…プリンタ,3…ラインヘッド,4…記録紙,8…乾燥アシスト部,11…ヘッドユニット,26…加熱ガイド板,33…ノズル開口,34…ユニットホルダ,35…ノズル形成基板,37…ヘッドケース,40…ヘッドカバー,58…開口窓部,59…フレーム部,60…側板部,64…蛇腹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口を有するノズル形成基板と、
前記ノズル形成基板が固定されるヘッドケースと、
前記ノズル形成基板の縁を被覆してノズル開口を露出する状態でヘッドケースに取付けられる金属製のヘッドカバーとを備え、
前記ヘッドカバーは、ヘッドケースへの取付け状態でノズル形成基板の表面の一部に重なるフレーム部と、前記ヘッドケースの側面側に配置される側板部と、を有し、
前記側板部を複数箇所で曲げたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
曲げない状態における前記側板部の全長を、ヘッドケースの側面の高さよりも長く設定したことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ノズル形成基板と前記フレーム部との間に、熱伝導性接着剤を充填したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記ヘッドケースの側面と前記側板部との間に、熱伝導性接着剤を充填したことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
噴射対象物を加熱する加熱手段と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214510(P2009−214510A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63514(P2008−63514)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】