説明

液体噴射装置

【課題】 支持部材に対する被噴射材の浮き上がりが生じている状態においても高精度な液体噴射を実行可能な液体噴射装置を実現する。
【解決手段】 記録紙支持部材13に支持される記録紙Pの裏面の反射光を受ける反射鏡22と、反射鏡22を介して、記録紙支持部材13に支持される記録紙Pの裏面の反射光を結像させるテレセントリック光学系24と、テレセントリック光学系24による結像を電気信号に変換して出力するイメージセンサー25と、テレセントリック光学系24の光軸方向へ反射鏡22を変位させる焦点調整装置26とを含む記録紙検出装置20を備え、制御装置100は、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるように反射鏡22の位置を調整し、合焦状態における反射鏡22の位置に基づいて記録ヘッド17から記録紙Pへインクを噴射するタイミングを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被噴射材に液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置に関する。
【0002】
ここで、液体噴射装置とは、記録ヘッド等の液体噴射ヘッドから記録紙等の被噴射材へインクを噴射して記録紙等への記録を実行するインクジェット式記録装置、複写機及びファクシミリ等に限らず、インク以外の他の液体を噴射乃至吐出する液体噴射装置も含み、微小量の液滴を噴射乃至吐出する各種の液体消費装置も含むものとする。
尚、液滴とは、上記液体噴射装置から噴射乃至吐出する液体の状態であり、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。
【0003】
また液体とは、液体噴射装置から噴射乃至吐出することができるような材料であれば良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような粒状体を含む。また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子等の固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたもの等も含まれる。
【0004】
液体の代表例としては、インクや液晶等が挙げられる。ここでインクとは、一般的な水性インクや油性インクの他、ジェルインクやホットメルトインク等の各種液体組成物も包含するものとする。
【0005】
液体噴射装置の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造等に用いられる電極材や色材等の材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられる試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であっても良い。さらに時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)等を形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板等をエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であっても良い。
【背景技術】
【0006】
被噴射材に対して液体噴射ヘッドを走査させながら液体噴射を行う構造の液体噴射装置において、液体噴射ヘッドから被噴射材へ噴射された液体は、その噴射方向(液体噴射ヘッドの走査方向と直交する方向)へ等速運動すると同時に、液体噴射ヘッドの走査方向へも等速運動しながら被噴射材に着弾することになる。したがって液体噴射ヘッドから被噴射材へ噴射された液体は、実際に噴射した位置よりも液体噴射ヘッドの走査方向へずれた位置に着弾することになる。そのため上記構造の液体噴射装置においては、液体噴射ヘッドの噴射ノズルから液体を噴射した位置と、その液体が被噴射材の液体噴射面に着弾する位置とに必然的にずれが生ずる。このようなことから一般的に上記構成の液体噴射装置においては、液体噴射ヘッドから噴射した液体が被噴射材の着弾すべき位置に着弾するように、液体噴射ヘッドから液体を噴射するタイミング(以下、「液体噴射タイミング」という。)を調整することが行われている。
【0007】
上記のような液体の着弾位置のずれは、液体噴射ヘッドの噴射ノズルから被噴射材の液体噴射面までの距離(以下、「液体噴射間隔」という。)、液体噴射ヘッドからの液体の噴射速度、及び液体噴射ヘッドの走査速度から、そのずれ量を特定することができる。つまり上記の液体噴射タイミングを補正するための補正値は、これらの要素から一義的に定まることになる。
尚、厳密には、液体噴射ヘッドの噴射ノズルから噴射された液体には、さらに重力加速度及び空気抵抗が作用するが、その影響は極めて小さく、多くの場合は無視できる程度であると考えられる。
【0008】
ここで液体噴射間隔は、被噴射材を支持する支持部材の支持面と液体噴射ヘッドのヘッド面(噴射ノズルの噴射口)との間隔及び被噴射材の厚みから理論上特定することが可能である。しかし現実には、例えば被噴射材に反りやカール等の変形が生ずることによって、支持部材の支持面から被噴射材の一部が浮き上がった状態となる場合があり、そのような被噴射材の浮き上がりが生ずると液体噴射間隔が変動することになる。そして液体噴射間隔が変動すると、それによって被噴射材の液体噴射面に対する液体の着弾位置のずれ量も変動することとなるため、本来着弾すべき位置に液体を着弾させることができず、その結果、液体噴射精度が低下してしまう虞が生ずる。
【0009】
このような液体噴射精度の低下を低減させることが可能な従来技術の一例としては、反りやカール等の被噴射材の変形に起因した被噴射材の浮き上がりを抑制する技術が公知である。具体的には、例えば支持部材に被噴射材が押し付けられる方向の付勢力が作用するように被噴射材に湾曲姿勢を付与する構造のプリンターが公知である(例えば特許文献1を参照)。また例えば、弾性を有する部材等で被噴射材を支持部材に押圧する構造のプリンターが公知である(例えば特許文献2を参照)。また例えば、支持部材に形成されている多数の吸引孔に負圧を発生させ、その負圧で被噴射材を支持部材の支持面に吸着させる構造のプリンターが公知である(例えば特許文献3を参照)。さらに他の従来技術としては、被噴射材が支持部材から浮き上がっているか否かを検出可能な浮き検知装置を備えたプリンターが公知である(例えば特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−19204号公報
【特許文献2】特開2002−19205号公報
【特許文献3】特開2006−231557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来技術のように被噴射材の浮き上がりを抑制する手法は、自ずと限界があり、被噴射材の剛性や被噴射材に生じた変形の程度等によっては、被噴射材の浮き上がりをある程度許容せざるを得ない場合がある。すなわち被噴射材の特性等によっては、その浮き上がりを完全に除去することが困難な場合があることから、上記従来技術においては、被噴射材の浮き上がりに起因した液体噴射精度の低下をある程度は許容せざるを得ないことになる。
【0012】
他方、被噴射材の浮き上がりが生じている状態であっても、その浮き上がり量を正確に特定することができれば、それに応じて液体噴射タイミングを調整することで高精度な液体噴射を実現することが可能である。しかし上記特許文献3に開示されている浮き検知装置は、その構造上、一定量以上の被噴射材の浮き上がりが生じているか否かを検出することは可能であるが、その浮き上がり量を正確に特定することは極めて困難である。
【0013】
このような状況に鑑み本発明は成されたものであり、本発明の目的は、支持部材に対する被噴射材の浮き上がりが生じている状態においても高精度な液体噴射を実行可能な液体噴射装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、液体噴射面の裏面に接して被噴射材を支持する支持部材と、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面に対して前記液体噴射ヘッドを走査させる機構と、前記支持部材に支持される被噴射材を検出可能な被噴射材検出装置と、制御装置と、を備え、前記被噴射材検出装置は、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面又はその裏面の反射光を受ける第1光学系と、前記第1光学系を介して、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面又はその裏面の反射光を結像させる第2光学系と、前記第2光学系による結像を電気信号に変換して出力する受光素子と、前記第2光学系の光軸方向へ前記第1光学系を変位させる変位装置と、を含み、前記制御装置は、前記受光素子が出力する電気信号に基づいて前記第2光学系による結像が合焦状態となるように前記第1光学系の位置を調整する手段と、前記合焦状態における前記第1光学系の位置に基づいて前記液体噴射ヘッドから被噴射材へ液体を噴射するタイミングを調整する手段と、を有する、ことを特徴とした液体噴射装置である。
【0015】
被噴射材が支持部材から浮き上がっている状態(被噴射材の液体噴射面の裏面が支持部材から離間している状態)と浮き上がっていない状態(被噴射材の液体噴射面の裏面が支持部材に接している状態)とでは、被噴射材の液体噴射面又はその裏面から第2光学系までの光軸長が異なることから、第2光学系による結像が合焦状態となる第1光学系の位置が異なってくる。また被噴射材が支持部材から浮き上がっている状態では、その浮き上がり量に応じて、被噴射材の液体噴射面又はその裏面から第2光学系までの光軸長が変化する。すなわち第2光学系による結像が合焦状態となるときの第1光学系の位置は、被噴射材が支持部材から浮き上がっているか否かによって異なるとともに、その被噴射材の浮き上がり量に応じて変化する。したがって、支持部材に対する被噴射材の浮き上がり量は、第2光学系による結像が合焦状態となるときの第1光学系の位置から正確に特定することができる。
【0016】
そして支持部材に対する被噴射材の浮き上がり量からは、その被噴射材が浮き上がった状態における液体噴射間隔を正確に特定することができる。したがって、その特定した液体噴射間隔に基づいて液体噴射タイミングを調整することによって、被噴射材が支持部材から浮き上がった状態においても高精度な液体噴射を実行することが可能になる。
【0017】
これにより本発明の第1の態様によれば、支持部材に対する被噴射材の浮き上がりが生じている状態においても高精度な液体噴射を実行可能な液体噴射装置を実現することができるという作用効果が得られる。
【0018】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載の液体噴射装置において、前記第1光学系は、前記支持部材の支持面に直交する方向の入射光を前記支持部材の支持面に平行となる方向へ反射する光学系であり、前記第2光学系の光軸方向が前記支持部材の支持面に平行となる方向である、ことを特徴とした液体噴射装置である。
尚、支持部材の支持面とは、被噴射材の液体噴射面の裏面に接して被噴射材を支持する面を意味する。
【0019】
このような特徴によれば、第1光学系を変位させると、被噴射材の液体噴射面又はその裏面から第1光学系までの光軸長を維持したまま第1光学系から第2光学系までの光軸長を変化させることができる。したがって被噴射材が支持部材から浮き上がっていない状態を基準とした第1光学系の変位量は、支持部材に対する被噴射材の浮き上がり量と一致することになる。すなわち本発明の第2の態様によれば、支持部材に対する被噴射材の浮き上がり量を第1光学系の位置から極めて容易に特定することができる。
【0020】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載の液体噴射装置において、前記支持部材の支持面に形成された吸引孔に負圧を発生させる負圧発生装置を備え、前記制御装置は、前記合焦状態における前記第1光学系の位置に基づいて前記吸引孔に発生させる負圧を調整する手段を有する、ことを特徴とした液体噴射装置である。
【0021】
支持部材の支持面に形成された吸引孔に負圧を発生させることによって、支持部材に支持されている被噴射材は支持部材に吸着されることになるので、支持部材に対する被噴射材の浮き上がりを抑制することができる。しかしその反面、その負圧によって例えば被噴射材を走査方向へ搬送するときの搬送負荷が増加する等の弊害が生ずる。したがって支持部材の吸引孔に発生させる負圧は、被噴射材の浮き上がりを抑制可能な範囲で、可能な限り低い圧力に設定するのが望ましい。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、支持部材に対する被噴射材の浮き上がり量に応じて、支持部材の吸引孔に発生させる負圧を調整することができる。したがって、支持部材に対する被噴射材の浮き上がりを的確に抑制しつつ、例えば被噴射材を走査方向へ搬送するときに搬送負荷が増加する等の弊害を最小限に止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】インクジェットプリンターの要部側面図。
【図2】インクジェットプリンターの概略のブロック図。
【図3】記録紙検出装置の要部を図示した側断面図。
【図4】記録紙検出装置の焦点調整装置を図示した斜視図。
【図5】記録紙検出装置の要部を模式的に図示した側面図。
【図6】記録ヘッドから噴射されたインクの飛行経路等を模式的に図示した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
<インクジェットプリンター1の概略構成>
インクジェットプリンター1の概略構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、インクジェットプリンター1の要部側面図である。
「液体噴射装置」としてのインクジェットプリンター1は、搬送駆動ローラー11、搬送従動ローラー12、記録紙支持部材13、排出駆動ローラー14、排出従動ローラー15、キャリッジ16及び記録ヘッド17を備えている。
【0027】
搬送駆動ローラー11は、金属軸体の外周面に高摩擦被膜が施されて形成されており、PFモーター31(図2)の回転駆動力が伝達されて回転する。搬送従動ローラー12は、搬送駆動ローラー11に当接する方向へ付勢された状態で従動回転可能に軸支されている。排出駆動ローラー14は、PFモーター31(図2)の回転駆動力が伝達されて回転する。排出従動ローラー15は、従動回転可能に軸支されるとともに、排出駆動ローラー14に当接する方向へ付勢されている。
【0028】
「支持部材」としての記録紙支持部材13は、記録ヘッド17からインクが噴射される領域(以下、「インク噴射領域」という。)で、「被噴射材」としての記録紙Pの記録面(液体噴射面)の裏面に接して記録紙Pを支持する部材である。記録紙支持部材13の支持面(記録紙Pを支持する面であり、記録紙Pの裏面が接する部分。以下同じ。)又は記録紙Pの裏面が対面する部分には、多数の吸引孔(図示せず)が形成されている。この多数の吸引孔は、記録紙支持部材13の底部に配設された吸引装置36を動作させることによって負圧が発生する。この吸引装置36は、後述する制御装置100により制御される。
【0029】
キャリッジ16は、軸受部161に挿通されたキャリッジガイド軸18及び被支持部162が当接するキャリッジ支持フレーム19によって、主走査方向Xへ往復動可能に支持されている。この主走査方向Xは、記録紙支持部材13に支持された状態の記録紙Pの記録面に沿って副走査方向Y(記録紙Pの搬送方向)と交差する方向である。キャリッジガイド軸18及びキャリッジ支持フレーム19は、主走査方向Xに沿って配設されている。キャリッジ16は、CRモーター32(図2)の回転駆動力で双方向回転する無端ベルト(図示せず)が連結されている。当該無端ベルトは、CRモーター32の駆動プーリーと従動プーリー(図示せず)に掛架され、キャリッジガイド軸18及びキャリッジ支持フレーム19に対して略平行に配設されている。キャリッジ16は、CRモーター32の駆動力で当該無端ベルトを双方向回転させることによって主走査方向Xへ往復動させることができる。
【0030】
「液体噴射ヘッド」としての記録ヘッド17は、記録紙支持部材13に支持された状態の記録紙Pの記録面にヘッド面が対面するようにキャリッジ16に搭載されている。記録ヘッド17のヘッド面には、記録紙Pの記録面にインクを噴射してドットを形成するための多数の噴射ノズルが設けられている(図示せず)。記録ヘッド17へのインクの供給は、インクジェットプリンター1の本体に設けられたインクタンク(図示せず)からインクチューブ(図示せず)を介して行われる。
【0031】
以上説明した構成のインクジェットプリンター1において、給送された記録紙Pは、記録紙支持部材13に支持され、主走査方向Xへ往復動する記録ヘッド17のヘッド面からインクが噴射されて記録面にドットが形成される主走査動作と、所定の搬送量で副走査方向Yへ搬送される副走査動作とが繰り返されることによって、記録面に記録が実行される。これらの一連の記録制御は、公知のマイコン制御回路を有する制御装置100により実行される。
【0032】
図2は、インクジェットプリンター1の概略のブロック図である。
制御装置100は、ROM101、RAM102、ASIC(特定用途向け集積回路)103、CPU(中央処理装置)104、不揮発性メモリー105、PFモータードライバー106、CRモータードライバー107、ヘッドドライバー108及びMRモータードライバー109を備えている。ROM101、RAM102、ASIC103、CPU104及び不揮発性メモリー105は、制御装置100のシステムバスに接続されている。PFモータードライバー106、CRモータードライバー107、ヘッドドライバー108及びMRモータードライバー109は、ASIC103に接続されている。
【0033】
ROM101は、CPU104によるインクジェットプリンター1の制御に必要な記録制御プログラム(ファームウェア)等が格納される。RAM102は、CPU104の作業領域や記録データー等の格納領域として用いられる。ASIC103は、DCモーターであるPFモーター31、CRモーター32及び後述するMRモーター264の速度制御、並びに記録ヘッド17のノズル駆動制御を行うための制御回路を有している。ASIC103は、PFモーター31の制御信号をPFモータードライバー106へ、CRモーター32の制御信号をCRモータードライバー107へ、記録ヘッド17の制御信号をヘッドドライバー108へ、MRモーター264の制御信号をMRモータードライバー109へ、それぞれ送出する。さらに、ASIC103は、パーソナルコンピューター200とのインターフェース機能も有している。CPU104は、インクジェットプリンター1の記録制御を実行するための演算処理やその他必要な演算処理を行う。不揮発性メモリー105は、記録制御プログラムの処理に必要な各種データー等が記憶されている。
【0034】
さらにインクジェットプリンター1は、リニアエンコーダー33、ロータリーエンコーダー34、ミラー用エンコーダー35及びイメージセンサー25を備えている。このリニアエンコーダー33、ロータリーエンコーダー34、ミラー用エンコーダー35及びイメージセンサー25の出力信号は、ASIC103を介してCPU104へ入力される。
【0035】
公知のリニアエンコーダー33は、キャリッジ16の位置や移動速度等を検出するためのエンコーダーであり、キャリッジ16が主走査方向Xへ往復動することによって、その移動速度に応じた周期のパルス信号が移動量に相当する数だけ出力される。公知のロータリーエンコーダー34は、搬送駆動ローラー11の回転量等を検出するためのエンコーダーであり、搬送駆動ローラー11及び排出駆動ローラー14が回転することによって、その回転速度に応じた周期のパルス信号が回転量に相当する数だけ出力される。ミラー用エンコーダー35及びイメージセンサー25については後述する。
【0036】
<記録紙検出装置20の構成>
インクジェットプリンター1は、記録紙支持部材13に支持される記録紙Pを検出可能な「被噴射材検出装置」としての記録紙検出装置20を備えている。以下、記録紙検出装置20の構成について、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0037】
図3は、記録紙検出装置20の要部を図示した側断面図である。図4は、記録紙検出装置20の焦点調整装置26を図示した斜視図である。
記録紙検出装置20は、発光素子21、反射鏡22、フィルター23、テレセントリック光学系24、イメージセンサー25及び焦点調整装置26を備えている。
【0038】
発光素子21は、記録紙支持部材13の支持面131から反射鏡22へ通じる長孔132の内周面に形成された取付凹部133に配設されている。発光素子21は、記録紙支持部材13に支持される記録紙Pの裏面の長孔132に位置する部分に光を照射する。この発光素子21は、例えば電球や発光ダイオード(LED)等を用いることができる。
【0039】
「第1光学系」としての反射鏡22は、記録紙支持部材13の長孔132を通じて、記録紙支持部材13の支持面131に支持される記録紙Pの裏面の反射光を受ける光学系である。より具体的には反射鏡22は、記録紙支持部材13の支持面131に直交する方向の入射光に対して45度の角度をもって配設されており、その入射光を記録紙支持部材13の支持面131に平行となる方向へ反射する。当該実施例において「第1光学系」は、反射鏡22を用いる他、例えば光学部品として公知のプリズムを用いても良い。
【0040】
フィルター23は、例えば埃やインクミスト等からテレセントリック光学系24を保護するために設けられている。
【0041】
「第2光学系」としてのテレセントリック光学系24は、反射鏡22を介して、記録紙支持部材13の支持面131に支持される記録紙Pの裏面の反射光をイメージセンサー25に結像させる光学系である。公知のテレセントリック光学系24は、主光線がレンズ光軸に平行な光学系であり、イメージセンサー25に対して光が垂直に入射する光学系である。
【0042】
「受光素子」としてのイメージセンサー25は、テレセントリック光学系24による結像を電気信号に変換して制御装置100(図2)へ出力する。このイメージセンサー25は、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサーやCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー等である。
【0043】
このように記録紙Pの裏面からイメージセンサー25までの光軸を反射鏡22で90度屈折させる構造の記録紙検出装置20を採用することによって、インクジェットプリンター1が大型化する虞を低減させることができる。
【0044】
「変位装置」としての焦点調整装置26は、テレセントリック光学系24の光軸方向(符号Aで示した方向)へ反射鏡22を変位させてテレセントリック光学系24の焦点を調整する装置であり、ベース部261、スライド可動部262、回転軸体263及び前記のMRモーター264を有している。
【0045】
ベース部261は、テレセントリック光学系24の光軸方向Aへスライド移動可能にスライド可動部262を支持する。スライド可動部262には、光軸方向Aに対して45度の角度をもって反射鏡22が設けられている。MRモーター264の回転軸には、反射鏡22の位置を検出するために、前記のミラー用エンコーダー35が設けられている(図示せず)。このミラー用エンコーダー35は、前記のロータリーエンコーダー34と同じ構造のエンコーダーであり、MRモーター264が回転することによって、その回転速度に応じた周期のパルス信号が回転量に相当する数だけ出力される。
【0046】
回転軸体263は、ベース部261に軸支されており、MRモーター264の回転が伝達されて回転する。この回転軸体263の外周面には雄螺旋溝が形成されている。またスライド可動部262の底部には、回転軸体263が挿通する円筒部(図示せず)が一体的に形成されており、その円筒部の内周面には、回転軸体263の雄螺旋溝が螺合する雌螺旋溝が形成されている。したがってMRモーター264を双方向回転させることによって、反射鏡22を支持するスライド可動部262がテレセントリック光学系24の光軸方向Aへスライドし、それによってテレセントリック光学系24の焦点を調整することができる。
【0047】
<制御装置100によるインク噴射制御>
制御装置100によるインク噴射制御について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0048】
図5は、記録紙検出装置20の要部を模式的に図示した側面図である。
【0049】
制御装置100は、イメージセンサー25が出力する電気信号に基づいて、テレセントリック光学系24による結像がイメージセンサー25において合焦状態となるように反射鏡22のスライド位置を調整する。これは例えば、記録紙Pに対する記録を開始する前に、あるいは記録紙Pへの記録実行中に所定のタイミング(例えば主走査動作のタイミング等)で実行すれば良い。
【0050】
ここで、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっていない状態において、記録紙Pの裏面から反射鏡22までの光軸長をH1、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となる反射鏡22からイメージセンサー25までの光軸長をL1、このときの反射鏡22のスライド位置を基準位置Bとする(図5(a))。この基準位置Bは、予め実験等により特定し、その位置に関する情報を不揮発性メモリー105に記憶させておく。また記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態において、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となる反射鏡22からイメージセンサー25までの光軸長をL2、このときの反射鏡22のスライド位置と基準位置Bとの差をΔLとする(図5(b))。
【0051】
テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるときの記録紙Pの裏面からイメージセンサー25までの光軸長は、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっていない状態では、H1+L1となる(図5(a))。それに対して、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態では、ΔH+H1+L2となる(図5(b))。ここでテレセントリック光学系24による結像がイメージセンサー25において合焦状態となるのは、記録紙Pの裏面からイメージセンサー25までの光軸長が一定の光軸長となるときである。すなわちテレセントリック光学系24による結像が合焦状態となっているのであれば、記録紙Pが浮き上がっていない状態でも浮き上がっている状態でも、記録紙Pの裏面からイメージセンサー25までの光軸長は同じ長さになるはずである。したがって以下の式(1)が成立する。
【0052】
H1+L1=ΔH+H1+L2 …(1)
そして、L2=L1−ΔLであるから、これを式(1)に代入して整理すると、以下の式(2)が得られる。
【0053】
ΔH=ΔL …(2)
すなわち記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態では、その浮き上がり量ΔHは、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるときの反射鏡22のスライド位置と基準位置Bとの差ΔLと一致する。つまり記録紙Pの浮き上がり量ΔHは、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるときの反射鏡22のスライド位置から正確かつ極めて容易に特定することができる。
【0054】
図6は、記録ヘッド17の噴射ノズルから記録紙Pへ噴射されたインクの飛行経路等を模式的に図示した正面図である。
【0055】
制御装置100は、キャリッジ16を主走査方向Xへ往復動させながら記録ヘッド17から記録紙Pにインクを噴射する際には、記録ヘッド17の噴射ノズルからインクを噴射した位置と実際に記録紙Pにインクが着弾する位置とで必然的にずれが生ずる。これは、静止している記録紙Pに対し、キャリッジ16を移動させながら記録ヘッド17からインクを噴射することによるものである。つまり記録ヘッド17の噴射ノズルから噴射されたインクは、その噴射方向へ噴射速度Vmで等速運動すると同時に、キャリッジ16の移動方向へキャリッジ16の移動速度Vcrで等速運動しながら記録紙Pに着弾することから、実際に噴射した位置よりもキャリッジ16の移動方向へ距離LXだけ、ずれた位置に着弾することになる。
【0056】
ここで、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっていない状態における記録ヘッド17のヘッド面と記録紙Pの記録面との間隔をPGとすると、そのときの距離LXは、以下の式(3)から導出することができる。
距離LX=Vcr×PG/Vm …(3)
制御装置100は、インクが記録紙Pの着弾すべき位置C(以下、単に「着弾すべき位置C」という。)に着弾するように、記録ヘッド17の噴射ノズルからインクを噴射するタイミング(以下、「インク噴射タイミング」という。)を調整する。より具体的には、距離LXに相当する分だけ、記録ヘッド17の噴射ノズルからインクを噴射する位置をキャリッジ16の移動方向の上流側にへずらす。それによって、記録ヘッド17の噴射ノズルから噴射したインクを着弾すべき位置Cに正確に着弾させることができる。
尚、厳密には、記録ヘッド17の噴射ノズルから噴射されたインクには、重力加速度及び空気抵抗が作用するが、その影響は極めて小さく、ほとんどの場合は無視できる程度であると考えられる。
【0057】
さらに制御装置100は、テレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるときの反射鏡22のスライド位置に基づいてインク噴射タイミングを調整する。つまり記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がることに起因したPGの変化に対して、制御装置100は、特定したPGの変化量(浮き上がり量ΔH)に応じて、記録ヘッド17の噴射ノズルからインクを噴射するタイミングを調整する。以下、より具体的に説明する。
【0058】
記録紙Pが浮き上がっていない状態におけるPGに対して、記録紙Pが浮き上がっている状態におけるPG´は、記録紙Pの浮き上がり量ΔHだけ狭くなる。そのため記録ヘッド17の噴射ノズルから噴射したインクの飛行距離は、その浮き上がり量ΔHの分だけ短くなる。つまり着弾位置がずれる距離LXは、記録紙Pが浮き上がっている状態における距離LX´の方が短くなる。この距離LX´は、以下の式(4)から導出することができる。
距離LX´=Vcr×PG´/Vm …(4)
制御装置100は、記録紙Pが浮き上がっていない状態における距離LXと記録紙Pが浮き上がっている状態における距離LX´との距離差Dに相当する分だけ、インク噴射タイミングを遅らせる。それによって、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態においても着弾すべき位置Cにインクを着弾させることが可能になる。
【0059】
このようにして本発明によれば、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態においても高精度なインク噴射を実行することが可能になる。
【0060】
<他の実施例、変形例>
本発明は、上記説明した実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0061】
例えば上記実施例において、さらにテレセントリック光学系24による結像が合焦状態となるときの反射鏡22のスライド位置に基づいて吸引装置36を制御することもできる。より具体的には、例えば記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pがほとんど浮き上がっていない状態、つまり特定した浮き上がり量ΔHが極めて小さい状態では、吸引装置36を停止させる。他方、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がっている状態では、その浮き上がり量ΔHに応じて、記録紙支持部材13の支持面131の吸引孔に発生させる負圧を増減調整する。それによって吸引装置36による吸引を最小限に止めることができるので、記録紙支持部材13の支持面131から記録紙Pが浮き上がることを抑制しつつ、記録紙Pの搬送負荷が増加して搬送精度が低下する等、その吸引孔に発生させる負圧に起因して生ずる弊害を最小限に止めることができる。
【0062】
また例えば上記実施例において、さらにイメージセンサー25が出力する電気信号に基づいて、例えば公知のテンプレートマッチング等によって副走査方向Yへの記録紙Pの移動量及び移動速度を検出し、それによって記録紙Pの現実の搬送速度及び搬送量を特定し、それに基づいて搬送駆動ローラー11の回転制御を実行するようにしても良い。それによって、例えば搬送駆動ローラー11と記録紙Pとの接触面に生ずるスリップに起因した搬送誤差も高精度に補正して記録紙Pを搬送することが可能になる。したがって、ロータリーエンコーダー34の出力信号のみに基づいて記録紙Pの搬送制御を行う場合と比較して、より高精度な記録紙Pの搬送を実現することができる。
【0063】
また例えば、反射鏡22及びテレセントリック光学系24を介してイメージセンサー25に結像させるのは、記録紙支持部材13に支持される記録紙Pの記録面の反射光であっても良い。さらに「第1光学系」は、特に反射鏡22に限定されるものではなく、例えばレンズを用いることもできる。この場合、記録紙支持部材13に支持される記録紙Pからイメージセンサー25までの光軸は一直線となるが、そのような態様でも、合焦状態における「第1光学系」の位置に基づいて記録紙Pの浮き上がり量ΔHを特定できることは説明するまでもないことである。また「第2光学系」は、特にテレセントリック光学系24に限定されるものではなく、記録紙Pの記録面又はその裏面の反射光をイメージセンサー25に結像可能な光学系であれば、どのような光学系であっても良い。
【0064】
また例えば上記実施例において、反射鏡22に付着したインクミスト等を除去可能な機構を設けるのがより好ましい。より具体的には、ゴム等の弾性材からなる除去部材を反射鏡22の鏡面に摺接させる機構を設けることによって、反射鏡22の鏡面に付着したインクミスト等を払拭して除去することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェットプリンター、13 記録紙支持部材、17 記録ヘッド、20 記録紙検出装置、21 発光素子、22 反射鏡、23 フィルター、24 テレセントリック光学系、25 イメージセンサー、26 焦点調整装置、100 制御装置、P 記録紙、X 主走査方向、Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射面の裏面に接して被噴射材を支持する支持部材と、
前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面に対して前記液体噴射ヘッドを走査させる機構と、
前記支持部材に支持される被噴射材を検出可能な被噴射材検出装置と、
制御装置と、を備え、
前記被噴射材検出装置は、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面又はその裏面の反射光を受ける第1光学系と、
前記第1光学系を介して、前記支持部材に支持される被噴射材の液体噴射面又はその裏面の反射光を結像させる第2光学系と、
前記第2光学系による結像を電気信号に変換して出力する受光素子と、
前記第2光学系の光軸方向へ前記第1光学系を変位させる変位装置と、を含み、
前記制御装置は、前記受光素子が出力する電気信号に基づいて前記第2光学系による結像が合焦状態となるように前記第1光学系の位置を調整する手段と、
前記合焦状態における前記第1光学系の位置に基づいて前記液体噴射ヘッドから被噴射材へ液体を噴射するタイミングを調整する手段と、を有する、ことを特徴とした液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、前記第1光学系は、前記支持部材の支持面に直交する方向の入射光を前記支持部材の支持面に平行となる方向へ反射する光学系であり、前記第2光学系の光軸方向が前記支持部材の支持面に平行となる方向である、ことを特徴とした液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射装置において、前記支持部材の支持面に形成された吸引孔に負圧を発生させる負圧発生装置を備え、
前記制御装置は、前記合焦状態における前記第1光学系の位置に基づいて前記吸引孔に発生させる負圧を調整する手段を有する、ことを特徴とした液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235476(P2011−235476A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107011(P2010−107011)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】