説明

液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置

【課題】インク液滴の吐出不良をより簡易に検出可能とする。
【解決手段】光ビームを、インク滴の飛翔経路上の、複数のインク滴が合体して1つの主滴を形成する位置の近傍であって、且つ、飛翔経路に直交するように照射する。光ビームがインク滴と交差することで発生する散乱光を受光素子で受光した出力に対し、ハイパスフィルタ処理および増幅処理を施し、ピークを抽出する。このとき、ノズルから複数の液滴が吐出された直後から、複数の液滴が合体して1つの主滴を形成するタイミングの直前までの間の所定の時刻からのピークを抽出する。主滴によるピークおよび微小滴であるサテライトを容易に抽出でき、インク滴の吐出不良のより簡易な検出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク液滴の吐出不良を検出する液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、微細なノズルから微小な各色インク滴を吐出する各色のインクジェットヘッドを備え、用紙等の記録媒体に対してそのインクジェットヘッドを移動させながらインク滴を吐出することで記録媒体上に画像形成を行う。高解像度の画像形成のためには、ノズルを微細化してインク滴サイズを微小化する必要がある。この場合、ノズルが微細なため、印刷停止時にインクが乾燥するなどによりノズル詰まりが起きてインク滴の吐出不良が発生し、画像にドット抜けなどが生じて画像品質の低下を引き起こしてしまう。
【0003】
従来より、このノズル詰まりによる画像品質の低下を防ぐために、液吐出不良を検出する液吐出不良検出装置がインクジェット記録装置に備えられていた。このような液吐出不良検出装置は、例えば、ノズルから吐出するインク滴などの液滴に、レーザーダイオードなどの発光素子から射出したレーザー光を照射して散乱光を発生させ、その散乱光をフォトダイオードなどの受光素子で受光し、受光素子の出力に基づく出力電圧と基準電圧値とを比較して、インク滴が正常に吐出されたか否かを判定することで液吐出不良を検出する。
【0004】
ところが、実際には、ノズルの詰まりなどによって液滴が分裂してサテライトやミストと呼ばれる微小サイズの液滴群が発生し、この液滴群に光ビームが照射されることによって散乱光が発生することがある。なお、液滴の吐出線上に発生する液滴群をサテライトと呼び、サテライトが液滴の吐出線に対して散乱した液滴群をミストと呼ぶ。受光素子がこの微小サイズの液滴群からの散乱光を受光すると、基準電圧(オフセット電圧)がボトムアップされて、液滴吐出を判定する電圧閾値を越えてしまうことがある。この場合、吐出不良で液滴が無い場合でも、電圧閾値を越えている為、吐出を検出したと誤判断してしまうおそれがある。
【0005】
このサテライトやミストによる誤判断を防ぐための方法が提案されている。例えば特許文献1には、サテライトあるいはインクミストの発生量を正確に算出することにより、回収機構の交換を最適なタイミングで行うことができるインクジェット記録装置を提供するための技術が記載されている。すなわち、特許文献1では、記録ヘッドの温度情報を取得するヘッド温度センサーを有し、検出した記録ヘッドの温度情報を含んだ記録の条件に基づいて、副滴の発生する量を算出し、算出された量に基づき、回収機構の交換の要否を判定するようにしている。
【0006】
また、特許文献2には、ヘッドの個別吐出特性の差による副滴の飛散状態のばらつきをそれぞれ調整するための技術が記載されている。すなわち、特許文献2では、受光部と発光部とを有し、吐出口から吐出されるインク滴と、付随して吐出される副滴の吐出状態を検知するための検知手段を備え、副滴の吐出状態をもとに、吐出口のレジストレーション調整値にオフセット値を加えて調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−023159号公報
【特許文献2】特開2009−137127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、副滴(ミスト、サテライト)の発生量をヘッド温度やインク種類、ヘッド−プラテンギャップなどで判定しており、真のミスト発生量を把握していない。また、副滴の発生量を算出するために必要な要因が多数あるため、処理が複雑になっている。さらに、情報が無い新規ヘッドや新規インクに対しては、新たに情報を取得する必要があるため、汎用性が少ない。
【0009】
また、特許文献2では、発光素子と受光素子によって作られる光束の中をインク滴がインク検出領域を横断した場合の光束の微量な光量低下を検出している。すなわち、特許文献2では、インク滴の影を検知していることになる。サテライトやミストは、主滴よりも微小であるので、特許文献2の方法では検出することが困難であると考えられる。また、ヘッドが長尺化した場合、光の回折現象により、検出の困難度がさらに増大する。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、インク液滴の吐出不良をより簡易に検出可能な液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明は、ヘッドに設けられる各ノズルからの液滴の吐出不良を検出する液吐出不良検出装置であって、1のノズルから連続的に吐出される複数の液滴の飛翔経路上の、複数の液滴が印字に関わる1の液滴に合体する位置近傍に光ビームを照射する発光手段と、光ビームの光軸から予め定められた方向にずれた所定位置に配設され、光ビームと液滴とが交差して生ずる散乱光を受光する受光手段と、受光手段で散乱光を受光して得られた出力のピークを抽出し、ピークに基づき、ノズルによる液滴の吐出不良を検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、第2の発明は、ヘッドに設けられる各ノズルからの液滴の吐出不良を検出する液吐出不良検出装置であって、1のノズルから連続的に吐出される複数の液滴の飛翔経路上の、複数の液滴が1の液滴に合体する位置近傍に光ビームを照射する発光手段と、光ビームの光軸から予め定められた方向にずれた所定位置に配設され、光ビームと液滴とが交差して生ずる散乱光を受光する受光手段と、受光手段で散乱光を受光して得られた出力に対してローパスフィルタ処理を施すフィルタ手段と、フィルタ手段の出力が予め定められた閾値を超えた場合に、吐出不良が発生したと検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インク液滴の吐出不良をより簡易に検出可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の各実施形態に係る液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタの一例の構造を正面から示す図である。
【図2】図2は、本発明の各実施形態に係る液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタの一部を斜め上から観察した図である。
【図3】図3は、本発明の各実施形態に共通のインクジェットプリンタの機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、本発明の各実施形態に共通する液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。
【図5】図5は、光ビームの一例の強度分布を示す略線図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施形態に係る受光部の一例の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、インク滴の吐出時におけるミスト発生の仕組みを概略的に示す模式図である。
【図8】図8は、インク滴の大きさと、光ビームがインク滴に散乱された散乱光を受光素子で受光した際の出力との関係の例を示す略線図である。
【図9】図9は、第1の実施形態による、インク滴の吐出タイミングと散乱光出力値VPDTP2との一例の関係を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第1の実施形態によるインク滴吐出不良検出処理を示す一例のフローチャートである。
【図11】図11は、ヘッドクリーニングを説明するための略線図である。
【図12】図12は、本発明の第2の実施形態によるインク滴吐出不良検出処理を示す一例のフローチャートである。
【図13】図13は、本発明の第3の実施形態に係る受光部の一例の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は、第3の実施形態による、インク滴の吐出タイミングと散乱光出力値VPDTP2との一例の関係を示す図である。
【図15】図15は、本発明の第3の実施形態の第1の変形例に係る受光部の一例の構成を示すブロック図である。
【図16】図16は、本発明の第3の実施形態の第2の変形例に共通する液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の各実施形態に係る液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)1の一例の構造を正面から示す。また、図2は、インクジェットプリンタ1の一部を斜め上から観察した図を示す。
【0017】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1の筐体10の左右の側板11、12には、ガイドシャフト13とガイド板14とが平行に掛け渡して設けられている。ガイドシャフト13およびガイド板14は、キャリッジ15に摺動可能に貫通される。キャリッジ15には、不図示の無端ベルトが取り付けられる。無端ベルトは、筐体10内の左右に設けられる図示しない駆動プーリと従動プーリに掛けまわされる。そして、駆動プーリの回転と共に従動プーリが従動回転されて無端ベルトを走行する。これにより、キャリッジ15が、図1の矢印で示されるよう左右に移動される。
【0018】
キャリッジ15には、イエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b(以下、ヘッド16で代表させて記述する)が、キャリッジ15の移動方向に並列配置されている。各ヘッド16は、下向きのノズル面に複数のノズルを直線状に並べたノズル列を有する。図示しないが、直線状のノズル列は、キャリッジ15の移動方向と直交する方向に設けられる。
【0019】
そして、キャリッジ15が図1のように右端のホームポジションに存在するときには、各ヘッド16は、筐体10内の底板17上に設置する単独回復装置18と対向する。単独回復装置18は、液吐出不良検出装置20でインク滴吐出不良を検出したノズルからインクを吸い出し、インクジェットプリンタ1自身で単独で液体吐出不良を回復する装置である。
【0020】
液吐出不良検出装置20は、筐体10内の底板17上に、単独回復装置18に隣接して配置される。液吐出不良検出装置20の詳細については後述する。
【0021】
液吐出不良検出装置20に隣接する位置には、板状のプラテン22を設置する。プラテン22の背面側には、記録媒体である用紙23をプラテン22上に供給する給紙台24が斜めに立てて設けられる。また、図示を省略するが、給紙台24上の用紙23をプラテン22上に送り出す給紙ローラが備えられる。さらに、プラテン22上の用紙23を矢示方向に搬送して正面側に排出する搬送ローラ25が設けられる。
【0022】
筐体10内の底板17上には、さらに左端に駆動装置26が設置される。駆動装置26は、不図示の給紙ローラや搬送ローラ25などを駆動するとともに、上述した駆動プーリを駆動することにより無端ベルトを走行してキャリッジ15を移動する。
【0023】
そして、記録時は、駆動装置26で駆動されることにより用紙23がプラテン22上に移動され、所定位置に位置決めされる。また、キャリッジ15が移動されて用紙23上を走査され、左方向に移動しながら4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。
【0024】
次いで、再びキャリッジ15が左方向に移動されながら往路で4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。そして、同様に画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。以下同様の動作が繰り返され、1枚の用紙23上に画像が記録される。
【0025】
次に、本発明の各実施形態に共通のインクジェットプリンタ1の機能構成について説明する。図3は、各実施形態に共通のインクジェットプリンタ1の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。インクジェットプリンタ1は、ヘッド16、吐出制御部101、発光制御部102、発光素子30、受光部111、検出部104、制御部110および記憶部121を備える。制御部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有し、CPUがROMに予め記憶されたプログラムに従い、RAMをワークメモリに用いてこのインクジェットプリンタ1全体の動作を制御する。
【0026】
なお、図3では、各実施形態に関わりの深い、主に液吐出不良検出処理に関連する機能を備えた構成部を記載しており、画像の記録に関連する構成部は図示を省略している。
【0027】
本発明の各実施形態に係るインクジェットプリンタ1は、ノズルnx(1≦x≦N、Nはノズルの個数)からインク滴が正常に吐出するか否かを検出する液吐出不良検出処理を行う。液吐出不良検出処理では、インク滴の吐出経路に対して発光素子30から光ビームを出射し、出射した光ビームにノズルnxからインク滴を吐出して、インク滴による散乱光を発生させる。受光部111は、受光した光に応じた信号を出力する受光素子と、受光素子の出力に対して所定の信号処理(詳細は後述する)を施す受光回路とを有し、散乱光に応じた出力を得る。検出部104は、この受光部111の出力に基づき、ノズルnxの液吐出不良の有無を検出する。
【0028】
吐出制御部101は、ヘッド16の各ノズルからインク滴を吐出する吐出処理を制御する。例えば、吐出制御部101は、ヘッド16に対して所定の駆動電圧を印加することで、各ノズルに対してインク滴の吐出動作を実行させる。
【0029】
発光制御部102は、発光素子30を発光させる発光処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、発光制御部102は、一定電圧値の発光制御信号を出力して、発光素子30を連続点灯させる。発光素子30は、例えば、半導体レーザなどの発光素子であって、発光制御部102から供給される発光制御信号に従って点灯し、光ビームを発生する。ヘッド16が短尺である場合には、発光素子30としてLED(Light Emitting Diode)を用いてコスト低減を図ることもできる。
【0030】
検出部104は、受光部111から出力された出力信号に基づき、インク滴の吐出不良を検出する。第1の実施形態では、検出部104は、受光部111において受光素子103で発生された電流が変換された電圧値の変化を検出する。液吐出不良検出装置20は、検出された電圧値の変化に基づき、吐出不良の有無を判定する。記憶部121は、検出部104が電圧値の変化を検出し吐出不良の有無を判定するために用いる各種規定値を記憶する。
【0031】
次に、図4および図5を用いて、各実施形態の液吐出不良検出装置20の動作原理について説明する。図4は、各実施形態に共通する液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。図4のノズルn1、n2、…、nx、…、nNは、キャリッジ15に搭載する1個のヘッド16で、1つのノズル列を構成する。ヘッド16において、各ノズルn1、n2、…、nx、…、nNのインク滴吐出口側の面37を、ノズルヘッド面37と呼ぶ。本第1の実施形態の液吐出不良検出装置20が備えられたインクジェットプリンタ1では、このノズル列のうち一度に1つのノズルnxからインク滴36が吐出される。
【0032】
発光素子30で発光された拡散光は、コリメートレンズ32で略平行な光ビーム31に変換される。発光素子30は、光ビーム31の光軸35がインク滴36の吐出方向と直交する方向に配置される。
【0033】
受光素子103は、例えばフォトダイオード(PD)からなり、受光面に受光した光量に比例する電流を発生する。受光素子103で発生された電流は、受光部111内で電圧値に変換される。受光素子103は、発光素子30から照射された光ビーム31がインク滴36に衝突して生じる散乱光を受光可能なように、インクジェットプリンタ1の筐体10内に配置される。
【0034】
ここで、受光素子103は、光ビーム31のビーム径を外れた位置に配置される。具体的には、受光素子103は、受光面が光ビーム31のビーム径と重ならない位置で、できるだけ光軸35の中心近くにオフセットして配設される。これにより、効率の良い検知が可能となる。図4では、光ビーム31の下部であって、ノズル直下よりも発光素子30から離れた位置に受光素子103が配置された例が示されている。
【0035】
図4に例示される構成で、ヘッド16のノズルnxからインク滴36が吐出され、光ビーム31と交わると、散乱光S1〜S7が発生する。受光素子103は、この散乱光S1〜S7のうち、特に光強度が強い前方散乱光S1〜S3を受光し、受光した散乱光の光強度を表す電圧値VPDを光出力値として出力する。光ビーム31の光強度が強い場合、散乱光S1〜S7の光強度も高くなる。
【0036】
図5は、光ビーム31の一例の強度分布を示す。発光素子30として半導体レーザを使用した場合、垂直および水平方向にそれぞれ角度を持って発光する。一般的な半導体レーザの垂直および水平方向の角度は、それぞれ14°および30°となっている。以下では、発光素子30として半導体レーザを使用するものとして説明する。このような光をコリメートレンズ32で平行光にした場合、その進行方向に対し垂直方向の断面は、図5にビーム断面40として例示されるように、縦横比が異なる楕円形状となる。
【0037】
ここで、図5において、X方向すなわち水平方向は、インク滴の吐出方向に対して直角の方向を示す。また、Y方向すなわち垂直方向は、インク滴の吐出方向を示す。これにより、光ビーム31の中心(光軸35)で最も光強度が強く、縁に行くに従い光強度は低下しており、ガウシアン分布となっていることがわかる。
【0038】
図6は、受光部111の一例の構成を示す。受光部111は、受光素子103、I/V変換部201、増幅部202(以下、1段目増幅部202)、ハイパスフィルタ203および増幅部204(以下、2段目増幅部204)を有する。
【0039】
I/V変換部201は、受光素子103の出力電流を電圧に変して出力する。このI/V変換部201の出力は、1段目増幅部202で増幅される。1段目増幅部202の出力TP1は、ハイパスフィルタ203でDC成分(ノイズ成分)を除去されて、2段目増幅部204でさらに増幅される。この2段目増幅部204の出力TP2は、散乱光に基づくパルス波形となる。この出力TP2の電圧値を散乱光出力値VPDTP2と呼ぶ。2段目増幅部204の出力TP2は、検出部104に供給される。
【0040】
検出部104について説明する。検出部104は、受光部111から供給された出力TP2(散乱光出力値VPDTP2)に基づき、インク滴の主滴や、サテライトBs/ミストm(後述する)の検出処理を行い、検出結果に基づき、ノズルnxにおける液滴吐出不良を検出する。
【0041】
図7は、インク滴Bの吐出時におけるミストm発生の仕組みを概略的に示す模式図である。先ず、ノズルヘッド面37にあるノズルnxからインク滴b1が吐出される(図7(a))。その後、連続的に複数のインク滴b2、b3を吐出し(図7(b))、飛翔中に1つのインク滴Bに合体する(図7(c)、図7(d))。この複数のインク滴が1つのインク滴Bとして合体するまでの距離を、マージ距離MKとする。
【0042】
このとき、吐出された複数のインク滴b1、b2、…のうちインク滴Bに合体しなかったものがサテライトBsと呼ばれ、インク滴Bの後ろを飛翔している。このサテライトBsは、インク滴Bに比べサイズが微小であるため、空気抵抗の影響を大きく受け、ある高さからインク滴Bの飛翔軌跡から外れ浮遊し始める(図7(e)、図7(f))。この浮遊したサテライトBsをミストmと呼ぶ。
【0043】
図8は、インク滴の大きさと、光ビーム31が当該インク滴に散乱された散乱光を受光素子103で受光した際の出力との関係の例を示す。ここでは、受光素子103の出力が、受光部111における出力TP2の散乱光出力値VPDTP2であるものとする。
【0044】
散乱光出力の特徴の一つに、滴径によって散乱光の強度分布が変化することが挙げられる。図8に例示されるように、滴径が大きくなると散乱光強度も大きくなり、それに伴い散乱光出力値VPDTP2が高くなる。より具体的に、実際のインク滴径でみると、大滴(直径約40μm)での散乱光出力値VPDTP2Bを約6Vとしたとき、中滴(直径約25μm)では散乱光出力値VPDTP2Mが約3Vとなり、小滴(直径約20μm)では散乱光出力値VPDTP2Sが約1Vとなる。また、サテライトBs/ミストmは、小滴よりも小さく、直径が約15μmであり、散乱光出力値VPDTP2mが約0.5Vとなる。
【0045】
なお、散乱光出力値VPDTP2は、受光部111における増幅率(1段目増幅部202および2段目増幅部204)や、受光素子103の受光面と光軸35とがなす角度などにより変化する。
【0046】
次に、本第1の実施形態によるサテライトBsおよびミストmの検出方法について説明する。図9の上側の図および下側の図は、インク滴の吐出タイミングと、散乱光出力値VPDTP2との一例の関係を、横軸に同一の時間軸を設けてそれぞれ示す。
【0047】
一例として、ノズルヘッド面37から、複数のインク滴b1、b、…が1つのインク滴Bに合体するまでのマージ距離MKが略1mmであるものとする。また光ビーム31とノズルヘッド面37との間の距離を略2mmであるものとする。さらに、光ビーム31がマージ距離MKの直下を通過するように、各部が配置されているものとする。
【0048】
図9の上側の図は、インク滴の吐出タイミングの例を示す。図9の上側の図において、縦軸は、吐出制御部101によるインク滴吐出のための駆動電圧VHを示す。ヘッド16の各ノズル(例えばノズルnx)は、このインク滴吐出駆動電圧VHとして、電圧VHLよりも高電圧の電圧VHHを印加するとインク滴の吐出を行い、電圧VHHの印加を停止すると、インク滴の吐出を停止する。
【0049】
図9の下側の図は、散乱光出力値VPDTP2(出力TP2)の時間に対する変化の例を示す。時間t1でヘッド16の1番目のノズルn1に対するインク滴吐出駆動電圧VHとして電圧VHHが印加され(図9の上側の図参照)、ノズルn1からインク滴b、b、…が吐出される。インク滴b、b、…がマージ距離MKにて合体してインク滴Bが生成され、このインク滴Bに光ビーム31が照射され散乱光S1〜S7が発生する。
【0050】
これら散乱光S1〜S7のうち前方散乱光が受光素子103に受光される。この散乱光の受光に応じて、受光部111において1段目増幅部202の出力TP1が上昇する。この出力TP1からハイパスフィルタ203によりDC成分が除去され、2段目増幅部204でさらに増幅されて、散乱光の受光に応じて電圧VPD0(≒0V)から電圧VPDmに上昇する散乱光出力値VPDTP2が得られる。
【0051】
同様にして、時間t2、t3、…においてノズルn2、n3、…に対するインク滴吐出駆動電圧VHとして順次、電圧VHHを印加し、ノズルn2、n3、…からインク滴を吐出させる。これにより、各ノズルn2、n3、…に対応した散乱光出力値VPDTP2を検出できる。この各ノズルn1、n2、n3、…に対応した散乱光出力値VPDTP2を、検出部104において図示されない閾値VTHと比較することで、各ノズルn1、n2、n3、…におけるインク滴Bの吐出の有無や曲がりなどを検出することができる。
【0052】
ここで、図8を参照し、インク滴を、その大きさに応じて、直径が約40μmの大滴と、直径が約25μmの中滴と、直径が約20μmの小滴と、直径が約15μmのサテライト/ミストとに分類したとき、大滴(主滴)、中滴および小滴が印字に関わるインク滴となる。一方、小滴よりも小さい滴(サテライト/ミスト)は、印字結果に大きな影響を与える場合がある。
【0053】
すなわち、図7を用いて説明したように、サテライトBsは、滴径が小さいため空気抵抗の影響により軌跡が変化してミストmとなり、狙った着弾位置とは異なる位置に着弾し、印字結果における濃度ムラや色変化を引き起こしてしまう可能性がある。また、近年では、有機ELディスプレイや電子回路のパターン形成を、インクジェット技術を用いて行うことが多くなっている。このようなパターン形成に用いられる機能液滴の場合、パターンの不形成があると、ショートなど深刻なトラブルが発生する。そういったことから、サテライトBs/ミストmの発生を監視する必要性が生じている。
【0054】
以下に、第1の実施形態によるサテライトBs/ミストmの検出について説明する。図4の構成に従いノズルnxからインク滴Bを吐出した際にサテライトBsが発生していると、図9の下側の図を参照して、主滴(大滴、中滴または小滴)によるピーク電圧の高い波形300に対して時間的に後に、ピーク電圧の低い波形301、301、…を計測することができる。図8を用いて説明したように、滴径が小さいほど散乱光出力値VPDTP2も低くなるため、このピーク電圧の低い波形301、301、…がサテライトBs/ミストmに対する波形であることがわかる。
【0055】
第1の実施形態では、あるノズルnxでのインク滴吐出タイミングから、次のノズルnx+1でのインク滴吐出タイミングの間における所定時間範囲内に出現する、散乱光出力値VPDTP2のピークを抽出し、抽出されたピーク数を計数する。
【0056】
散乱光出力値VPDTP2のピーク数を計数する所定時間範囲は、図7を参照し、ノズルnxから吐出されたインク滴b1、b2、…が合体してインク滴Bが生成されるタイミングを含む必要がある。例えば、当該所定時間範囲の開始時刻txSをノズルnxにおけるインク滴吐出タイミングの直後とし、終了時刻txEを次のノズルnx+1におけるインク滴吐出タイミングの直前とする。より詳細には、例えば、当該所定時間範囲の開始時刻txSは、ノズルnxにおけるインク滴吐出タイミングの直後から、インク滴Bが生成されるタイミングの直前までの範囲から選択することが考えられる。
【0057】
このように設定された時間範囲内で散乱光出力値VPDTP2のピーク数を計測することで、ノズルnxから吐出される液滴について、主滴およびサテライトBsのピークを選択的に検出することができ、サテライトBsの発生数を容易に把握することが可能となる。
【0058】
散乱光出力値VPDTP2のピーク数を計数するための所定時間範囲に、計数されたピーク数が1個であれば、主滴のみが存在していると判断できる。すなわち、受光部111が主滴の散乱光を検出していれば、少なくとも1個のピークが計数される。
【0059】
一方、計数されたピーク数が1個以外であれば、当該ノズルnxに何らかの不具合が発生していると考えることができる。例えば、所定時間範囲内に計数されたピーク数が0個であれば、当該ノズルnxからインク滴が吐出されていないことを示す。また、所定時間範囲内に計数されたピーク数が2個以上であれば、サテライトBsが発生していることを示す。この場合、ピーク数から1を減じた値が、サテライトBsの数となる。
【0060】
ここで、検出部104において、散乱光出力値VPDTP2に対して、図8を用いて説明した、ミストm/サテライトBsの滴径に対応する電圧VPDTP2mよりもやや低い閾値(基準電圧値)を設定することが考えられる。散乱光出力値VPDTP2がこの閾値を超えた場合に、ピークとして計数する。これに限らず、散乱光出力値VPDTP2を微分することでピークを求めてもよい。
【0061】
ノズルnxから吐出されるインク滴を検知する検知位置について説明する。なお、この場合、検知位置は、インク滴吐出方向における下方向の位置を指す。本第1の実施形態では、この検知位置すなわちノズルヘッド面37に対する光ビーム31の位置を、図7(d)に示したマージ距離MKよりも下に設定する。
【0062】
インク滴Bは、図7を用いて説明したように、複数のインク滴b1、b2、…が1個の滴に合体されて形成される。これにより、検知位置、すなわちノズルヘッド面37に対する光ビーム31の距離がマージ距離MKよりも近いと、合体する前のインク滴b1、b2、…を検出してしまうことになる。これら合体する前のインク滴b1、b2、…は、滴径がインク滴Bよりも小さいため、これら合体する前のインク滴b1、b2、…を、サテライトBsと判定してしまう可能性がある。
【0063】
そこで、検知位置を、複数のインク滴b1、b2、…が1つの滴として合体する位置(マージ距離MK)より下に設定することにより、印字に影響するサテライトBsを検出することができる。この場合、検知位置が、マージ距離MKより下で、且つ、サテライトBsがミストmとなっていない距離にすると、より好ましい。
【0064】
ここで、ラインプリンタといった、ヘッドが稼動しないタイプのプリンタでは、吐出された複数のインク滴b1、b2、…の合体する距離(マージ距離MK)が用紙位置になる場合がある。この場合は、マージ距離MK内に光ビーム31を配置する。そして、所定時間範囲内でのピーク数の計数結果に対し、マージさせるために吐出した滴数以上のピーク数をサテライトBsによるピーク数とすることで、サテライトBsの発生数を把握することができる。
【0065】
さらに、このように検知位置を設定すると共に、上述したようにして設定された時間範囲内で散乱光出力値VPDTP2のピーク数を計測することで、サテライトBsの発生数をより容易に把握することが可能となる。
【0066】
図10は、本第1の実施形態によるインク滴吐出不良検出処理を示す一例のフローチャートである。先ず、制御部110は、キャリッジ15を制御して、検査対象のノズル列を液吐出不良検査装置20における光ビーム31の光路上に移動させる(ステップS10)。制御部110は、ステップS11で、例えば受光素子103に対して所定の電圧を印加して、受光素子103を受光状態にし、次のステップS12で、発光制御部102を制御して発光素子30を発光させ、光ビーム31を照射する。
【0067】
次に、制御部110は、吐出制御部101を制御してヘッド16に対する駆動電圧VHを電圧VHLから電圧VHHに変化させる(ステップS13)。ヘッド16に対する駆動電圧が電圧VHHになると、ヘッド16の検査対象のノズルnxからインク滴が吐出される。発光素子30から照射された光ビーム31が、ノズルnxから吐出されたインク滴により散乱され、散乱光が受光素子103に受光される。受光部111では、この受光素子103の出力に基づき、予め設定された所定の時間範囲内(例えば図9の下側の図における時間t1S〜時間t1E)において発生した散乱光出力値VPDTP2のピーク数を計数する。ピーク数の計数が終了すると、処理がステップS14に移行される。
【0068】
ステップS14で、検出部104は、ステップS13での計数結果に基づき、所定の時間範囲内における受光素子103の出力に基づく散乱光出力値VPDTP2のピークが、1個のみ検出されたか否かを判定する。ピークが1個のみ検出された場合は、インク滴Bの吐出が行われると共に、ミストm/サテライトBsが発生しておらず、対象のノズルnxは正常に機能していると判断することができる。
【0069】
若し、ステップS14で、散乱光出力値VPDTP2のピークが1個のみ検出されたと判断したら、処理はステップS15に移行される。ステップS15では、制御部110は、発光制御部102を制御して発光素子30による発光を停止させる。そして、次のステップS16で、受光素子103に対する電圧印加が停止され、一連の処理が終了される。
【0070】
一方、ステップS14で、散乱光出力値VPDTP2のピークの検出数が1個以外であると判定されたら、処理はステップS17に移行される。この場合、ピークの検出数が0個および2個以上の何れかとなる。ステップS17で、検出部104は、この1個以外のピークが検出されたノズルnxの番号を例えば記憶部121に記憶し、次のステップS18で、当該ノズルnxに対してヘッドクリーニングを所定回数M回行ったか否かを判定する。若し、既にヘッドクリーニングを所定回数M回行っていると判定されたら、一連の処理を終了し、エラーである旨を通知する。
【0071】
一方、ステップS18で、未だ、当該ノズルnxに対するヘッドクリーニングを所定回数M回行っていないと判定されたら、処理はステップS19に移行され、当該ノズルnxに対してヘッドクリーニングが実行される。なお、ヘッドクリーニング中には、発光素子30による発光および受光素子103による光ビーム31の受光は、OFFとされる。クリーニングが実行されたら、処理はステップS10に戻される。
【0072】
ヘッドクリーニングは、例えば図示されない吸引キャップによる吸引や空吐出(複数回のインク滴の吐出)により行う。これにより、ノズルnxを正常状態とすることができる。また、図11に例示されるような1または複数のノズルnxをカバーできるチューブ部Tを用いてポンプPで吸引を行い、部分的にクリーニングをすることにより、クリーニングに使用するインクの消費量を抑えることができる。吸引されたインクは、廃液タンクに導出される。
【0073】
なお、上述では、ステップS14において、ピークが1個のみであるか否かを判定しているが、これはこの例に限定されない。例えば、ステップS14において、ピークが0個または印字結果に影響を与えるサテライトBsの数以上か否かを判定してもよい。
【0074】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上述した第1の実施形態では、所定時間範囲内の散乱光出力値VPDTP2のピーク数に基づきノズルの吐出不良の判定を行った。これに対して、本第2の実施形態では、散乱光出力値VPDTP2に基づきインク滴の大きさを判定し、このインク滴の大きさに基づきノズルの吐出不良の判定を行う。
【0075】
なお、本第2の実施形態では、上述の第1の実施形態で説明したインクジェットプリンタ1の構成をそのまま適用できるので、煩雑さを避けるため、ここでの構成に関する説明を省略する。
【0076】
図8を用いて説明したように、インク滴の滴系が大きくなるほど散乱光出力値VPDTP2が高くなる。そこで、検出部104が、散乱光出力値VPDTP2のサテライトBs/ミストmに対応するピークを選択的に検出可能なように、閾値を設定する。
【0077】
より具体的には、検出部104は、図8を参照し、主滴となる例えば小滴に対応する散乱光出力値VPDTP2Sより低く、サテライトBs/ミストmに対応する散乱光出力値VPDTP2mより高い電圧を、上限の閾値VPDTHmaxとしてに設定する。これにより、サテライトBs/ミストmによる散乱光出力値VPDTP2のピークを、主滴によるピークと区別する。
【0078】
また、サテライトBs/ミストmに対応する散乱光出力値VPDTP2mより低い電圧を、下限の閾値VPDTHminとして検出部104に設定する。この下限の閾値VPDTHminと、上述の上限の閾値VPDTHmaxにより、印字に影響を及ぼすサテライトBs/ミストmの個数および大きさを知ることができる。なお、下限の閾値VPDTHminの設定は、必須ではない。検出部104は、予め設定された所定の時間範囲内(図9の下側の図における時間t1S〜時間t1E)で、上限の閾値VPDTHmaxおよび下限の閾値VPDTHminの間における散乱光出力値VPDTP2のピークを検出する。
【0079】
図12は、本第2の実施形態によるインク滴吐出不良検出処理を示す一例のフローチャートである。なお、図12において、上述の図10と対応する処理には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0080】
制御部110は、ステップS10で検査対象のノズル列を液吐出不良検査装置20における光ビーム31の光路上に移動させ、ステップS11で受光素子103を受光状態にし、次のステップS12で、発光素子30を発光させて光ビーム31を照射する。そして、ステップS13で、ヘッド16に対する駆動電圧VHを電圧VHLから電圧VHHに変化させ、ヘッド16の検査対象のノズルnxからインク滴が吐出される。
【0081】
発光素子30から照射された光ビーム31が、ノズルnxから吐出されたインク滴により散乱され、散乱光が受光素子103に受光される。検出部104は、予め設定された所定の時間範囲内(図9の下側の図における時間t1S〜時間t1E)で、上限の閾値VPDTHmaxおよび下限の閾値VPDTHminの間における受光素子103の出力に基づく散乱光出力値VPDTP2のピークを検出する。
【0082】
ステップS30で、検出部104は、ピークの検出結果に基づき、上限の閾値VPDTHmaxおよび下限の閾値VPDTHminによる所定電圧範囲内に、散乱光出力値VPDTP2のピークが存在するか否かを判定する。
【0083】
若し、当該所定電圧範囲内に散乱光出力値VPDTP2のピークが存在しないと判定された場合は、検査対象のノズルnxにおいてサテライトBs/ミストmが発生していないと判断することができる。この場合、処理はステップS15に移行され、制御部110は、発光制御部102を制御して発光素子30による発光を停止させる。そして、次のステップS16で、受光素子103に対する電圧印加が停止され、一連の処理が終了される。
【0084】
一方、ステップS30で、当該所定電圧範囲内に散乱光出力値VPDTP2のピークが存在すると判定された場合は、検査対象のノズルnxにおいてサテライトBs/ミストmが発生していると判断することができる。この場合、処理はステップS31に移行され、検出部104は、所定電圧範囲内に散乱光出力値VPDTP2のピークが存在すると判定されたノズルnxの番号を例えば記憶部121に記憶する。
【0085】
処理はステップS18に移行され、当該ノズルnxに対してヘッドクリーニングを所定回数N回行ったか否かを判定する。若し、既にヘッドクリーニングを所定回数N回行っていると判定されたら、一連の処理を終了し、エラーである旨を通知する。一方、ステップS18で、未だ、当該ノズルnxに対するヘッドクリーニングを所定回数N回行っていないと判定されたら、処理はステップS19に移行され、当該ノズルnxに対してヘッドクリーニングが実行される。なお、ヘッドクリーニング中には、発光素子30による発光および受光素子103による光ビーム31の受光は、OFFとされる。クリーニングが実行されたら、処理はステップS10に戻される。
【0086】
このように、本第2の実施形態では、散乱光出力値VPDTP2のピークを上限の閾値VPDTHmaxと比較することで、サテライトBs/ミストmによる散乱光出力値VPDTP2のピークを、主滴によるピークと区別することができる。また、散乱光出力値VPDTP2のピークを下限の閾値VPDTHminおよび上限の閾値VPDTHmaxと比較することで、印字に影響を及ぼすサテライトBs/ミストmの個数および大きさを知ることができる。
【0087】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。上述した第1の実施形態では、受光部111において、受光素子103の出力を電流/電圧変換して増幅した出力TP1に対して、ハイパスフィルタ203を用いてDC成分の除去を行っていた。これに対して、本第3の実施形態では、図6に示した受光部111におけるハイパスフィルタ203を、図13に例示されるように、ローパスフィルタ210に置き換え受光部111’とする。受光部111’の他の部分は、図6に示した受光部111と共通である。なお、図13において、上述した図6と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0088】
ハイパスフィルタ203をローパスフィルタ210に置き換えて用いる効果について説明する。液吐出不良検出装置20をインクジェットプリンタ1に配置する際に、ヘッド16や他のユニットとの干渉を考慮した結果、ノズルヘッド面37から光ビーム31までの距離がマージ距離MKよりも大きく、さらには、サテライトBsがミストmとなる距離よりも大きくなってしまう場合がある。この場合、図7(d)〜図7(f)で説明したように、インク滴がサテライトBsからミストmに変化し、飛翔速度がサテライトBsの場合よりも遅くなってしまう。
【0089】
インク滴がミストmに変化した状態で、図6に例示されるようにハイパスフィルタ203による処理を行った場合について考える。ミストmは、サテライトBsや主滴などに比べて飛翔速度が非常に遅く、複数のミストmがミスト群として光ビーム31中に比較的長時間、留まることになる。この場合、ミスト群を構成する各ミストmの散乱光の分離が難しく、ミスト群による1段目増幅部202からの出力TP1のピークの波形は、ミスト群を構成する複数のミストmによるピークが混合された、なだらかな波形となる。したがって、ミスト群による出力TP1のピークは、ハイパスフィルタ203により除去されてしまう。
【0090】
図14を用いてより具体的に説明する。なお、図14の上側および下側の図は、それぞれ上述した図9の上側の図および下側の図と対応するものである。図6の構成において、インク滴がミスト群に変化した状態での1段目増幅部202の出力TP1の波形の例を、図14の下側の図において点線で示す。このように、主滴によるピーク310が現れると共に、ミスト群を構成する各ミストmによるピークが混合されて形成されるなだらかな波形による丘311が、図9の下側の図に例示される各サテライトBsによるピークに対して遅れた位置に現れる。
【0091】
この点線による波形をハイパスフィルタ203に供給すると、ピーク310はハイパスフィルタ203を通過するが、丘311は、ハイパスフィルタ203で除去される。当該点線による波形をハイパスフィルタ203で処理して2段目増幅部204で増幅した出力TP2の波形の例を、図14の下側の図において破線で示す。このように、ハイパスフィルタ203の通過後は、主滴によるピーク312のみが現れた波形が得られる。したがって、ミスト群が発生していても、ミスト群が発生してないと判断され、適切にヘッドクリーニングを行うことができずに印字結果に大きな影響を与えてしまうことになる。
【0092】
本第3の実施形態による、ハイパスフィルタ203の代わりにローパスフィルタ210を用いた場合の出力TP2の波形の例を、図14の下側の図において実線で示す。ミスト群による丘311は、ローパスフィルタ210を通過して2段目増幅部204の出力TP2のなだらかなピーク313となって現れる。一方、主滴によるピーク310は、ローパスフィルタ210により除去される。したがって、2段目増幅部204の出力TP2に対する閾値VPDTHを設定し、出力TP2の電圧値と閾値VPDTHとを検出部104で比較することで、ミストmの発生を検出することができる。例えば、出力TP2の電圧値が閾値VPDTHを超えた場合に、ミストmが発生したものとする。
【0093】
ここで、閾値VPDTHは、実際にノズルnxからミスト群を発生させて出力TP2を計測するなどして、実験的に求めた値を用いる。
【0094】
なお、上述したように、ミスト群は、比較的長時間、光ビーム31中に留まっているため、検査対象のノズルnxを順次変更した場合に、ミスト群をノズルn1、n2、…、nx、…毎に分離するのが困難となる。したがって、本第3の実施形態によるインク滴吐出不良検出処理は、複数のノズルnxによるノズル群単位でミストmが発生したか否かを判断する、簡易的なものとなる。
【0095】
<第3の実施形態の第1の変形例>
次に、上述の第3の実施形態の第1の変形例について説明する。上述の第3の実施形態では、ミスト群の発生は検出できるが、主滴が適切に吐出されたか否かを判断することができない。そこで、本第1の変形例では、図15に例示されるように、受光部111”に対してローパスフィルタ210およびハイパスフィルタ203を設け、1段目増幅部202の出力TP1を、これらローパスフィルタ210およびハイパスフィルタ203にそれぞれ供給する。そして、ローパスフィルタ210の出力を2段目増幅部204’で増幅して出力TP2’を得ると共に、ハイパスフィルタ203の出力を2段目増幅部204で増幅して出力TP2を得る。
【0096】
上述の第3の実施形態で説明したように、ローパスフィルタ210の出力を増幅した出力TP2’を、検出部104で閾値VPDTHと比較することで、ミスト群の発生を検出する。また、ハイパスフィルタ203の出力を増幅した出力TP2を、図示されない検出部104で主滴を検出するための閾値(例えば上述した閾値VPDTHmax)と比較して、主滴を検出する。この第3の実施形態の第1の変形例によれば、主滴の検出とミスト群の検出とを同時に行うことができる。
【0097】
<第3の実施形態の第2の変形例>
次に、上述の第3の実施形態の第2の変形例について説明する。本第2の変形例では、図4を用いて説明した液吐出不良検出装置20に対して、図16に例示されるように、受光素子103’を追加して設ける。受光素子103’は、光軸35に対する角度θが受光素子103と等しくなるように設けるとよい。そして、受光素子103に対して、図6に示す、ハイパスフィルタ203を有する受光部111を接続し、主滴の検出を行う。一方、受光素子103’が含まれる受光部111’は、図13に示す、ローパスフィルタ210を有する受光部111’とし、ミスト群の発生状況を検出する。このように、本第2の変形例でも、主滴の検出とミスト群の検出とを同時に行うことができる。
【0098】
ここで、受光素子103および103’の配置位置は、光ビーム31に対して上下方向の位置に限られない。すなわち、受光素子103および103’は、例えば光ビーム31に対して水平方向や、斜め方向といった、光ビーム31のインク滴による散乱光Sを受光できればどの位置でもよい。
【0099】
以上説明したように、本発明によれば、インク滴が光ビーム31と交差した際に発生する散乱光Sを受光素子103(および受光素子103’)で受光し、主滴を検出すると共に、主滴以外のサテライトBs/ミストmを検出し、サテライトBs/ミストmの発生状態を判断するようにしている。そのため、簡易的にサテライトBs/ミストmの発生状態を把握することができ、インクや機能液滴を用いた印字の際の印字不良を低減させることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 インクジェットプリンタ
16 ヘッド
30 発光素子
31 光ビーム
101 吐出制御部
102 発光制御部
103,103’ 受光素子
104 検出部
110 制御部
111,111’,111” 受光部
202 1段目増幅部
203 ハイパスフィルタ
204,204’ 2段目増幅部
210 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドに設けられる各ノズルからの液滴の吐出不良を検出する液吐出不良検出装置であって、
1の前記ノズルから連続的に吐出される複数の液滴の飛翔経路上の、該複数の液滴が印字に関わる1の液滴に合体する位置近傍に光ビームを照射する発光手段と、
前記光ビームの光軸から予め定められた方向にずれた所定位置に配設され、該光ビームと前記液滴とが交差して生ずる散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で前記散乱光を受光して得られた出力のピークを抽出し、該ピークに基づき、前記ノズルによる前記液滴の吐出不良を検出する検出手段と
を有する
ことを特徴とする液吐出不良検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記受光手段で前記散乱光を受光して得られた出力の、前記ノズルから前記複数の液滴が吐出された直後から、該複数の液滴が前記1の液滴に合体するタイミングの直前までの間の所定の時刻からのピークを抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
前記ピークの数に基づき前記吐出不良を検出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記ピークの数が1個以外の場合に、前記吐出不良が発生したと検出する
ことを特徴とする請求項3に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項5】
前記検出手段は、
前記ピークの数が2個以上の場合に、前記印字の結果に影響を与える微小滴が発生したと判定し、前記ピークの数が0個の場合に、前記ノズルから前記液滴が吐出されなかったと判定する
ことを特徴とする請求項4に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記ピークの大きさに基づき前記吐出不良を検出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項7】
前記受光手段は、前記光ビームと交差する前記液滴が大きいほど高い出力値を出力し、
前記検出手段は、
前記1の液滴による前記ピークより低く、該印字の結果に影響を与える微小滴による前記ピークより高い第1の閾値を超えない前記ピークが抽出された場合に、前記吐出不良が発生したと検出する
ことを特徴とする請求項6に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項8】
前記受光手段の出力に対してローパスフィルタ処理を施すフィルタ手段をさらに有し、
前記検出手段は、さらに、
前記フィルタ手段の出力が予め定めた第2の閾値を超えた場合に、前記吐出不良が発生したと検出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項9】
前記発光手段は、
前記飛翔経路に直交する前記光ビームを、前記複数の液滴が1の液滴に合体する位置に対して前記液滴の吐出方向側に照射する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項10】
前記発光手段は、
前記飛翔経路に直交する前記光ビームを前記複数の液滴が1の液滴に合体する位置に対して前記ノズル側に照射する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項11】
ヘッドに設けられる各ノズルからの液滴の吐出不良を検出する液吐出不良検出装置であって、
1の前記ノズルから連続的に吐出される複数の液滴の飛翔経路上の、該複数の液滴が1の液滴に合体する位置近傍に光ビームを照射する発光手段と、
前記光ビームの光軸から予め定められた方向にずれた所定位置に配設され、該光ビームと前記液滴とが交差して生ずる散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で前記散乱光を受光して得られた出力に対してローパスフィルタ処理を施すフィルタ手段と、
前記フィルタ手段の出力が予め定められた閾値を超えた場合に、前記吐出不良が発生したと検出する検出手段と
を有する
ことを特徴とする液吐出不良検出装置。
【請求項12】
前記検出手段は、さらに、
前記受光手段で前記散乱光を受光して得られた出力の、前記ノズルから前記複数の液滴が吐出された直後から、該複数の液滴が印字に関わる1の液滴に合体するタイミングの直前までの間の所定の時刻からのピークを抽出し、該ピークに基づき、前記ノズルによる前記液滴の吐出不良を検出する
ことを特徴とする請求項11に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の液吐出不良検出装置を備える
ことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−93155(P2011−93155A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248099(P2009−248099)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】