説明

液圧装置とそれを使用したブレーキ圧制御装置

【課題】シリンダ上の開口によるシール部材の摩耗、傷付きを低減可能な液圧装置と、それを使用したブレーキ圧制御装置の提供。
【解決手段】リザーバ装置5のシリンダ孔511の内周面511aには、リザーバ装置5の外部と連通したポート514が開口している。リザーバボデー51には、ポート514と同心上に中空部515が形成されており、シリンダ孔511の内周面511aと中空部515との間には、ポート514を半径方向に取り囲むように、円環状の薄肉片516が形成されている。薄肉片516は、中空部515の内径よりも狭い範囲で、ポート514を中心に半径方向外方に押圧されることにより、外方へ撓み変形している。これにより、ポート514の開口514aがシリンダ孔511の内周面511aから外方へ窪むとともに、シリンダ孔511の内周面511aにおいて、薄肉片516の根元部位には曲面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダの内周面に開口したポートを備えた液圧装置と、それを使用したブレーキ圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液圧装置として、液圧ブレーキシステムに使用されるアキュムレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。このアキュムレータにおいては、ハウジングにシリンダ孔が形成され、シリンダ孔内に移動可能なピストンが嵌合しており、シリンダ孔とピストンとの間には、アキュムレータ室が形成されている。
【0003】
一方、アキュムレータ室の反対側に位置するピストンの背面には、ハウジングに形成された通路を介して大気が導入されるバネ室が形成されている。ピストンはバネ室内のスプリングによって、アキュムレータ室に向けて付勢されている。大気が導入されるバネ室と通路との間は、細孔によって連通されている。
【0004】
細孔は、打ち抜き部分の根元が曲面形状を呈したパンチによって、バネ室の内周面を打ち抜くことで形成される。細孔のバネ室への開口部には、細孔を形成するのと同時に開口部にパンチの曲面形状を転写することで、円周状に曲面(R面取り)が形成されている。これにより、バネ室への開口部にバリが形成されることがなく、シリンダ孔にピストンを挿入する際に、シール部材が開口部を通過することにより、シール部材が傷付くことが防止されている。
【0005】
また、加工穴の開口部に発生したバリの処理を行う技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。これは、一端部に把持用のグリップが形成された操作軸の他端部に、刃具部材が枢支されたバリ取り工具である。刃具部材は、所定長さの回転軸上にテーパ状の刃部が形成されている。
特許文献2に開示されたバリ取り工具を用いて開口部のバリを処理する場合、刃部のテーパ面を開口部に押し当てた状態で、開口部を中心として枢支点を公転させる。これにより、刃部が開口部上を回転して開口部のバリを除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−328526号公報
【特許文献2】特開2005−212035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたアキュムレータにおいては、細孔の内径が所定径以下である場合には、開口部に形成された曲面により、シリンダ孔に挿入される際のシール部材の傷付きが低減される一定の効果はある。しかしながら、バネ室の内周面に形成された開口が大きい場合は、ゴム材料によって形成されたシール部材が開口に入り込み、シール部材の傷付き低減に関して、然程の効果はなかった。
【0008】
また、特許文献2に開示されたバリ取り工具を用いて、開口部のバリ取りを行う場合、バリの除去作業に所定の時間あるいは工数を要する上に、開口部の形状を、シール部材を傷付けないようにするためには十分ではなかった。また、開口部から落下したバリをハウジング内から除去するためにさらに工数を必要とし、開口部の形状を整えるために効率的な方法ではなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダ上の開口によるシール部材の摩耗、傷付きを低減可能な液圧装置と、それを使用したブレーキ圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る液圧装置の発明の構成上の特徴は、中空部の内径よりも狭い範囲で、ポートを中心に薄肉片をシリンダ内から半径方向外方に押圧することにより、薄肉片が外方へ撓み変形し、ポートのシリンダへの開口がシリンダの内周面から外方へ窪むとともに、シリンダの内周面において、薄肉片の根元部位には曲面が形成されていることである。
【0010】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の液圧装置において、シリンダの軸心に対するポートの開口の位置は、シリンダと嵌合する以前の状態における、プランジャ部材に装着されたシール部材の外周端の位置よりも、半径方向外方に位置することである。
【0011】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2の液圧装置において、薄肉片を押圧する押圧部材は、少なくとも薄肉片への押圧部が球状を呈していることである。
【0012】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または2の液圧装置において、薄肉片を押圧する押圧部材は円柱状を呈しており、押圧部材を軸方向に移動させて、端部において薄肉片を押圧することである。
【0013】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至4のいずれかの液圧装置において、中空部は、ハウジングの外周面を座刳り加工することにより形成されることである。
【0014】
請求項6に係るブレーキ圧制御装置の発明の構成上の特徴は、リザーバ装置が請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の液圧装置により形成され、リザーバ装置は、プランジャ部材を圧力室に向けて押圧する付勢手段を備え、圧力室には、車輪ブレーキの液圧が吐出されるとともに、プランジャ部材の背面には、ポートを介してリザーバ装置の外部から大気が導入されていることである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る液圧装置によれば、薄肉片をシリンダ内から半径方向外方に押圧して外方へ撓み変形させ、ポートのシリンダへの開口をシリンダの内周面から外方へ窪ませるとともに、シリンダの内周面において、薄肉片の根元部位に曲面を形成することにより、プランジャ部材に装着されたシール部材の摩耗、傷付きを低減することができる。
【0016】
すなわち、ポートを中心に薄肉片を押圧することにより、薄肉片が開口に向かって徐々に大きく外方へ撓み、ポート径にかかわらず、プランジャ部材に装着されたシール部材が、開口通過時に開口に接触することがなく、シール部材の摩耗、傷付きを確実に低減することができる。また、薄肉片の根元部位が滑らかな曲面となり、屈曲部が形成されることがないため、いっそう、シール部材に発生するダメージを低減することができる。
【0017】
また、薄肉片を押圧することにより、薄肉片の表面全体が滑らかになり、さらにシール部材のダメージを低減することができる。
また、薄肉片を押圧するのみにより、シール部材の摩耗、傷付きを低減することができるため、ポートの開口を切削加工したり、落下したバリを回収する等の必要がなく、製造が容易で生産性のよい液圧装置にすることができる。
【0018】
請求項2に係る液圧装置によれば、ポートの開口の位置を、シリンダと嵌合する以前の状態における、シール部材の外周端の位置よりも、半径方向外方に位置させることにより、ポートの開口を通過する時に、シール部材に開口が触れないようにし、シール部材の摩耗、傷付きを確実に低減することができる。
【0019】
請求項3に係る液圧装置によれば、押圧部材は、少なくとも薄肉片への押圧部が球状を呈していることにより、薄肉片を均等に押圧することができ、容易に開口を外方へ窪ませることが可能になる。
【0020】
請求項4に係る液圧装置によれば、薄肉片を押圧する押圧部材が円柱状を呈しており、押圧部材を軸方向に移動させて、端部において薄肉片を押圧する。したがって、押圧部材の断面の径を所定値に設定することにより、薄肉片の押圧範囲の調整を容易に行うことができる。
【0021】
請求項5に係る液圧装置によれば、ハウジングの外周面を座刳り加工して中空部を形成していることにより、中空部の内径および薄肉片の厚みを、精度よく製造することができる。
【0022】
請求項6に係るブレーキ圧制御装置によれば、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の液圧装置を、リザーバ装置に適用したことにより、リザーバ装置に含まれるシール部材が、大気と連通したポートを通過する際に発生する摩耗、傷付きを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態によるリザーバ装置が取り付けられたブレーキ圧制御装置を示した図
【図2】図1に示したリザーバ装置の断面図
【図3】図2の要部拡大図
【図4】ポート開口を押圧する押圧装置を示した簡略図
【図5】押圧装置による押圧工程の第1段階を示した図(a)、第2段階を示した図(b)、第3段階を示した図(c)、および第4段階を示した図(d)
【図6】シリンダ孔と嵌合する以前のリザーバピストンの断面図
【図7】試験的に行った押圧工程後のポート付近を、ポートの軸心方向に見た場合を示した図
【図8】押圧工程後のポート付近を示した斜視図
【図9】第1変形例による押圧部材の側面図
【図10】第2変形例による押圧部材の側面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1乃至図8に基づき、本発明の一実施形態によるリザーバ装置5(本発明の液圧装置に該当する)について説明する。図1は、車両に搭載されたブレーキ圧制御装置1を示し、通常ブレーキ操作に加えて、アンチスキッド制御を行うことが可能に構成されている。マスタシリンダ2は、図示しない車両のエンジンルーム内に取り付けられ、ブレーキペダルBPと接続されている。運転者がブレーキペダルBPを操作することにより、マスタシリンダ2はブレーキ液圧を発生させることができる。
【0025】
マスタシリンダ2は、主管路L1によりホイルシリンダ3(本発明の車輪ブレーキに該当する)と接続されている。ホイルシリンダ3は、各車輪に取り付けられており、マスタシリンダ2からのブレーキ液圧が供給されることにより、車輪に制動力を与える。尚、図1において、ホイルシリンダ3は4輪に取り付けられているが、そのうちの一つのみ示されている。
【0026】
主管路L1上には、増圧バルブV1が設けられている。増圧バルブV1は常開型の電磁弁であり、通常ブレーキ時には開状態にある。ブレーキ圧制御装置1がアンチスキッド制御状態にある場合、増圧バルブV1は適宜閉状態となり、マスタシリンダ2とホイルシリンダ3との間の連通を遮断する。
【0027】
ホイルシリンダ3には、環流路L2を介して液圧ポンプ4の吸込口が接続されている。また、液圧ポンプ4の吐出口は、戻し路L3によりマスタシリンダ2に接続されている。環流路L2上には、リザーバ装置5が設けられている。さらに、環流路L2上のホイルシリンダ3とリザーバ装置5との間には、減圧バルブV2が設けられている。
【0028】
減圧バルブV2は常閉型の電磁弁であり、通常ブレーキ時には閉状態にあり、ホイルシリンダ3とリザーバ装置5との間の連通を遮断している。ブレーキ圧制御装置1がアンチスキッド制御を開始し、ホイルシリンダ3のブレーキ液圧を減圧させる場合に、減圧バルブV2は開状態となり、ホイルシリンダ3とリザーバ装置5との間を連通し、ホイルシリンダ3内のブレーキ液圧をリザーバ装置5に吐出させる。
液圧ポンプ4は電動モータにより駆動され、リザーバ装置5内に吐出されたブレーキ液を吸引して、マスタシリンダ2へと還流させる。
【0029】
戻し路L3上にはダンパ6が設けられ、液圧ポンプ4の作動による液圧の脈動を低減している。また、戻し路L3上のダンパ6とマスタシリンダ2との間には、逆止弁7が設けられており、マスタシリンダ2からダンパ6方向へのブレーキ液の流れを防止している。
上述した液圧ポンプ4、リザーバ装置5、ダンパ6、逆止弁7、増圧バルブV1および減圧バルブV2は一体化され、液圧制御ユニット8が形成されている。
【0030】
次に、図2および図3に基づき、リザーバ装置5の構成について詳細に説明する。液圧制御ユニット8のユニットハウジング(図示せず)の一部を構成するリザーバボデー51(本発明のハウジングに該当する)には、シリンダ孔511(本発明のシリンダに該当する)が形成されている。本実施形態において、リザーバボデー51はアルミニウム合金により形成されているが、これに限定されるべきものではなく、鋳鉄等により形成されていてもよい。
【0031】
シリンダ孔511には、リザーバピストン52(本発明のプランジャ部材に該当する)が、軸方向に移動可能に嵌合している。リザーバピストン52は、炭素鋼またはアルミニウム合金により形成されたピストンボデー521を備え、ピストンボデー521の外周面には、断面が矩形状のシール溝521aが円環状に形成されている。シール溝521aには、耐熱性を有した合成ゴム材料にて形成されたOリング522(本発明のシール部材に該当する)が装着され、リザーバピストン52はシリンダ孔511に対し、液密的に嵌合している。これにより、シリンダ孔511とリザーバピストン52との間には、液圧室53(本発明の圧力室に該当する)が形成されている。さらに、ピストンボデー521の外周面には、合成樹脂材料にて形成された摺動ガイド523が装着されている。
【0032】
シリンダ孔511の開口部には、リング状の取付溝512が形成されている。取付溝512には、円盤状のスプリングリテーナ54の外周端が挿入され、加締め固定されている。スプリングリテーナ54のリザーバピストン52との対向面には、保持部541が突出している。
【0033】
一方、ピストンボデー521のスプリングリテーナ54側には、円筒状の凹部521bが形成されており、凹部521bの底面には嵌合部521cが突出している。スプリングリテーナ54の保持部541と、ピストンボデー521の嵌合部521cには、それぞれピストンスプリング55(本発明の付勢手段に該当する)の両端が嵌合している。ピストンスプリング55は、スプリングリテーナ54とリザーバピストン52との間に弾発的に介装され、これによりピストンスプリング55は、常時、リザーバピストン52を液圧室53に向けて押圧している。
【0034】
シリンダ孔511の底部には、図1に示した環流路L2と連通した吐出路513が形成されている。これによって、ホイルシリンダ3内のブレーキ液圧は、吐出路513を介して液圧室53に吐出される。また、液圧ポンプ4は、吐出路513を介して液圧室53内のブレーキ液を吸引する。
【0035】
液圧室53の反対側に位置するリザーバピストン52の背面には、エアチャンバ56が形成されている。シリンダ孔511の内周面511aには、エアチャンバ56と連通するようにポート514が開口している(図3示)。リザーバ装置5の組付け時において、リザーバピストン52をシリンダ孔511内に挿入する場合、Oリング522がポート514の開口514aを通過する。
【0036】
また、シリンダボデー51には、ポート514に対しシリンダ孔511の半径方向外方に位置するように、中空部515が形成されている。中空部515は、ポート514と連通するとともに、ポート514から外方に向けて円筒状に延びている。中空部515は、ポート514と同心上に形成され、ポート514の内径よりも大径に形成されている(図3においてDp<Ds)。本実施形態において中空部515は、ポート514の軸心を中心に、シリンダボデー51の外周面を座刳り加工することにより形成されているが、これに限定されるべきものではない。
【0037】
図3に示すように、シリンダ孔511の内周面511aと中空部515との間には、ポート514を半径方向に取り囲むように円環状の薄肉片516が形成されている。後述するように、薄肉片516をシリンダ孔511内から半径方向外方に押圧することにより、薄肉片516が外方へ撓み変形し、ポート514の開口514aがシリンダ孔511の内周面511aから外方へ窪んでいる。また、シリンダ孔511の内周面511aにおいて、薄肉片516の根元部位には曲面Cが形成されている。さらに、外方へ撓んだ薄肉片516上には、外方へ突出した球面φが形成されている。
【0038】
図2に示すように、リザーバボデー51の外周面にはケース57が装着されることにより、中空部515と接続した大気供給路58が形成される。大気供給路58は、リザーバ装置5の外部と連通することにより、中空部515およびポート514を介して、エアチャンバ56に大気を導入可能に形成されている。
【0039】
次に、図4に基づき、薄肉片516を押圧するプレス装置100について説明する。プレス装置100は、電動モータまたは油圧、もしくはエア圧により作動するプレスアクチュエータ101と、プレスアクチュエータ101の作動を制御する制御装置102を備えている。プレスアクチュエータ101には、軸方向(図4において左右両方向)に移動するように、ステー部材103が取り付けられている。ステー部材103の端部には、鋼球104(本発明の押圧部材に該当する)が取り付けられており、ステー部材103とともに一体的に移動する。当然のことながら、鋼球104の外形は球状を呈している。また、鋼球104に代えて、半球状のような、薄肉片516への押圧部のみが球状を呈している押圧部材を、ステー部材103に取り付けてもよい。
【0040】
また、プレスアクチュエータ101の端部には、位置センサ105が設けられている。一方、ステー部材103には、位置センサ105の検出体106が取り付けられており、位置センサ105によって、鋼球104の移動量を検出している。位置センサ105は、ホール素子等の磁気センサが考えられるが、これに限定されるべきものではない。
制御装置102は、プレスアクチュエータ101および位置センサ105に接続されており、位置センサ105による検出量に基づき、プレスアクチュエータ101の移動量および移動速度を制御している。
【0041】
図4に示すように、ステー部材103の先端とともに、鋼球104をシリンダ孔511内に挿入した状態で、プレスアクチュエータ101を所定の移動速度および移動量により作動させる。これにより鋼球104が、ポート514の軸心を中心に薄肉片516をシリンダ孔511の外方に押圧する。
【0042】
上述したプレス装置100において、鋼球104はステー部材103とともに直線的に移動するようにしたが、所定の位置を中心としてステー部材103を揺動させることにより、鋼球104を薄肉片516に対し押圧させるようにしてもよい。
【0043】
次に、図5に基づき、プレス装置100を用いた薄肉片516の押圧工程を詳述する。尚、図5(a)〜(d)において、説明の都合上、鋼球104の押圧方向を下向きに図示している。したがって、押圧工程時の実際の方向とは異なるが、図5(a)〜(d)の上下方向を、説明中における上下方向とする。
【0044】
最初に押圧工程の第1段階として、シリンダ孔511の内周面511aに形成された薄肉片516上に、プレス装置100の鋼球104を載置する(図5(a)示)。鋼球104は、その中心がポート514の開口514aの軸心上にあるように配置する。
次に、第2段階として、プレスアクチュエータ101を作動させ、鋼球104による薄肉片516の下方への押圧を開始する(図5(b)示)。鋼球104は、ポート514の開口514aの軸心を中心に押圧し、薄肉片516の下方への撓み変形(塑性変形)が開始する。
【0045】
次に、第3段階として、鋼球104による薄肉片516への押圧をさらに増大させると、それにともなって、薄肉片516の撓み変形がいっそう進行する(図5(c)示)。これにより、シリンダ孔511の内周面511aにおいて、薄肉片516の根元部位には曲面Cが形成されていく。また、鋼球104が薄肉片516を押圧する範囲(図5(c)における、直径D1の真円状の範囲)も、徐々に増大していく。
【0046】
次に、第4段階として、鋼球104による薄肉片516への押圧量が所定値に達すると、プレス装置100の作動を停止させる。この段階において、薄肉片516は、ポート514の開口514aに近づくにつれて徐々に大きく撓み変形し、開口514aが、シリンダ孔511の内周面511aから下方に窪んでいる(図5(d)示)。
【0047】
ここで、鋼球104による薄肉片516への押圧量は、リザーバピストン52のシリンダ孔511への挿入時に、Oリング522に開口514aが触れなくなる量に設定されている。
例えば、シリンダ孔511の軸心に対する、ポート514の開口514aの半径位置(図5(d)において、Rpにて示す)が、シリンダ孔511と嵌合する以前の状態における、ピストンボデー521に装着されたOリング522の外周端の、リザーバピストン52の軸心に対する半径位置(図6において、Rgにて示す)よりも外方に位置(Rg<Rp)し、この条件が満足されるように、鋼球104による薄肉片516への押圧量を設定してもよい。
【0048】
また、上述した方法とは異なり、リザーバピストン52をシリンダ孔511へ挿入した時の、Oリング522の形状をFEM(有限要素法)解析等により求め、その解析結果から、Oリング522に開口514aが触れないように、鋼球104による薄肉片516への押圧量を設定してもよい。
【0049】
押圧工程終了時において、鋼球104が薄肉片516を押圧する範囲(図5(d)における、直径D2の真円状の範囲)は最大の広さに達するが、これは、中空部515の内径Dsよりも小さい(D2<Ds)。このように、薄肉片516を押圧する範囲を中空部515の内径よりも小さくすることによって、薄肉片516の根元部位に所定の大きさの滑らかな曲面Cを形成することができ、屈曲部が形成されることを防ぐことができる。さらに、外方へ撓んだ薄肉片516上には、鋼球104の外形状が転写され、下方へ突出した球面φが形成されている。
【0050】
上述したように、薄肉片516を下方に押圧する量を適正に設定することにより、薄肉片516を押圧する範囲の調整が可能となる。これによって、薄肉片516の根元部位に滑らかな曲面Cを形成することができ、Oリング522が接触しないように、開口514aをシリンダ孔511の内周面511aから窪ませることができる。ここで、薄肉片516を押圧する範囲を設定値に合致させるために必要な薄肉片516の押圧量は、実験的に求めることができる。
【0051】
次に、図7および図8に基づき、本発明者が行った試行結果について説明する。シリンダ孔511に形成した薄肉片516に対し、試験的に鋼球104による押圧工程を施し、その後、シリンダ孔511にOリング522を備えたリザーバピストン52を嵌合させてみた。
ポート514の開口514a付近には、シリンダ孔511にリザーバピストン52を嵌合させる前に、着色剤を塗布しておいた。リザーバピストン52のシリンダ孔511への挿入により、Oリング522が着色剤を払拭した領域を観察することにより、シリンダ孔511の内周面511a上における、Oリング522の当接範囲を確認することができる。
【0052】
図に示すように、ポート514の開口514aの周囲には着色剤が残っており、リザーバピストン52のシリンダ孔511への挿入時に、Oリング522が開口514aに当接していないことが確認された。また、薄肉片516の押圧範囲の外周部には、上述した滑らかな曲面Cが形成されている。
【0053】
本実施形態によれば、薄肉片516をシリンダ孔511内から半径方向外方に押圧して外方へ撓み変形させ、ポート514の開口514aをシリンダ孔511の内周面511aから外方へ窪ませるとともに、シリンダ孔511の内周面511aにおいて、薄肉片516の根元部位に曲面を形成することにより、リザーバピストン52に装着されたOリング522の摩耗、傷付きを低減することができる。
【0054】
すなわち、ポート514を中心に薄肉片516を押圧することにより、薄肉片516が開口514aに向かって徐々に大きく外方へ撓み、ポート514の径にかかわらず、リザーバピストン52に装着されたOリング522が、開口514aを通過する際に開口514aに接触することがなく、Oリング522の摩耗、傷付きを確実に低減することができる。また、薄肉片516の根元部位が滑らかな曲面となり、屈曲部が形成されることがないため、いっそう、Oリング522に発生するダメージを低減することができる。
【0055】
また、薄肉片516を押圧することにより、薄肉片516の表面全体が滑らかになり、さらにOリング522のダメージを低減することができる。
また、薄肉片516を押圧するのみにより、Oリング522の摩耗、傷付きを低減することができるため、ポート514の開口514aを切削加工したり、落下したバリを回収する等の必要がなく、製造が容易で生産性のよいリザーバ装置5にすることができる。
【0056】
また、ポート514の開口514aの位置を、シリンダ孔511と嵌合する以前の状態における、Oリング522の外周端の位置よりも、半径方向外方に位置させることにより、ポート514の開口514aを通過する時に、Oリング522に開口514aが触れないようにし、Oリング522の摩耗、傷付きを確実に低減することができる。
また、薄肉片516を押圧する押圧部材が球状を呈していることにより、薄肉片516を均等に押圧することができ、容易に開口514aを外方へ窪ませることが可能になる。
【0057】
また、リザーバボデー51の外周面を座刳り加工して中空部515を形成していることにより、中空部515の内径および薄肉片516の厚みを、精度よく製造することができる。
また、本発明をブレーキ圧制御装置1のリザーバ装置5に適用したことにより、リザーバ装置5に含まれるOリング522が、大気と連通したポート514を通過する際に発生する摩耗、傷付きを低減することができる。
【0058】
<第1変形例>
図9に基づき、本発明の第1変形例による押圧部材について説明する。本変形例において、薄肉片516を押圧する押圧部材であるパンチ107は、円柱状の本体部107aの先端部に、テーパ(円錐台)状の当接部107bが形成されている。また、本体部107aの側面からは、一対の板状のストッパ107cが突出している。
【0059】
パンチ107はプレス装置100に取り付けられ、軸方向に移動させて、端部の当接部107bにおいて薄肉片516を押圧する。パンチ107による薄肉片516への押圧が進行して、ストッパ107cがシリンダ孔511の内周面511aに当接したことを検出することにより、プレス装置100の作動を停止させる。パンチ107におけるストッパ107cの位置は、薄肉片516を下方に押圧する量を考慮して、適正に設定されている。
【0060】
<第2変形例>
図10に基づき、本発明の第2変形例による押圧部材について説明する。本変形例においてパンチ108は、第1変形例の場合と同様に円柱状に形成されている。パンチ108の端部は平坦状に形成されており、角部に僅かな曲面(R面取り)108aが形成されている。パンチ108もプレス装置100に取り付けられ、軸方向に移動されて、端部の曲面108aにおいて薄肉片516を押圧する。
【0061】
本変形例によれば、薄肉片516を押圧するパンチ108が円柱状を呈しており、パンチ108を軸方向に移動させて、端部の曲面108aにおいて薄肉片516を押圧するため、パンチ108の断面の径Dtを所定値に設定することにより、薄肉片516の押圧範囲の調整を容易に行うことができる。
【0062】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるべきものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明はリザーバ装置に限られず、マスタシリンダ、ホイルシリンダ、電磁弁、アキュムレータ等のあらゆる液圧装置において実施可能である。
【0063】
また本発明は、アンチスキッド制御以外に、トラクション制御または車両安定制御を行うことができるブレーキ圧制御装置にも適用可能である。
また、本発明において使用可能なシール部材はOリングのみではなく、外周部にリップを有するカップ、あるいは角リング等であってもよい。
【0064】
上述した実施形態においては、シリンダ孔にプランジャ部材を挿入する際に、シール部材がポートを通過する時のシール部材の摩耗、傷付きを低減する場合について説明した。しかしながら、本発明は、液圧を受けたプランジャ部材がシリンダ孔内を摺動することによって、シール部材がポートを通過する時の、シール部材のダメージを低減するためにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
図面中、1はブレーキ圧制御装置、2はマスタシリンダ、3はホイルシリンダ(車輪ブレーキ)、4は液圧ポンプ、5はリザーバ装置(液圧装置)、51はリザーバボデー(ハウジング)、52はリザーバピストン(プランジャ部材)、53は液圧室(圧力室)、55はピストンスプリング(付勢手段)、104は鋼球(押圧部材)、107,108はパンチ(押圧部材)、511はシリンダ孔(シリンダ)、511aは内周面、514はポート、514aは開口、515は中空部、516は薄肉片、522はOリング(シール部材)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたシリンダと、
前記シリンダの内周面に開口し、前記シリンダの外部と連通したポートと、
外周面にシール部材が装着され、前記シリンダに対し液密的かつ軸方向に移動可能に嵌合することにより、前記シール部材が、前記シリンダ上における前記ポートの開口を通過可能なプランジャ部材と、
前記シリンダと前記プランジャ部材との間に形成され、液圧が導入される圧力室と、
を備えた液圧装置において、
前記ハウジングは、
前記ポートと連通するとともに、前記ポートから前記シリンダの半径方向外方に延び るように円筒状に形成され、前記ポートと同心上に前記ポートよりも大径に形成された
中空部と、
前記シリンダの内周面と前記中空部との間において、前記ポートを半径方向に取り囲
むように形成された円環状の薄肉片と、
を有し、
前記中空部の内径よりも狭い範囲で、前記ポートを中心に前記薄肉片を前記シリンダ内から前記シリンダの半径方向外方に押圧することにより、前記薄肉片が外方へ撓み変形し、前記ポートの開口が前記シリンダの内周面から外方へ窪むとともに、前記シリンダの内周面において、前記薄肉片の根元部位には曲面が形成されていることを特徴とする液圧装置。
【請求項2】
前記シリンダの軸心に対する前記ポートの開口の位置は、
前記シリンダと嵌合する以前の状態における、前記プランジャ部材に装着された前記シール部材の外周端の位置よりも、半径方向外方に位置することを特徴とする請求項1記載の液圧装置。
【請求項3】
前記薄肉片を押圧する押圧部材は、少なくとも前記薄肉片への押圧部が球状を呈していることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧装置。
【請求項4】
前記薄肉片を押圧する押圧部材は円柱状を呈しており、
前記押圧部材を軸方向に移動させて、端部において前記薄肉片を押圧することを特徴とする請求項1または2に記載の液圧装置。
【請求項5】
前記中空部は、
前記ハウジングの外周面を座刳り加工することにより形成されることを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の液圧装置。
【請求項6】
車両の乗員の操作によって、液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダからの液圧が供給される車輪ブレーキと、
前記車輪ブレーキの液圧を吐出させるリザーバ装置と、
前記リザーバ装置に排出された液圧を、前記マスタシリンダ側に還流させる液圧ポンプと、
を備えたブレーキ圧制御装置において、
前記リザーバ装置は、
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の液圧装置により形成され、
前記プランジャ部材を前記圧力室に向けて押圧する付勢手段、
を備え、
前記圧力室には、前記車輪ブレーキの液圧が吐出されるとともに、
前記圧力室の反対側に位置する前記プランジャ部材の背面には、前記ポートを介して、前記リザーバ装置の外部から大気が導入されていることを特徴とするブレーキ圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−286018(P2010−286018A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138750(P2009−138750)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】