説明

液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法

【課題】薄く、剥がれ難く、異方性が小さい液晶ポリエステル被膜が半導体基板上に形成されてなる液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造する。
【解決手段】半導体基板上に、液晶ポリエステルと溶媒とを含み、前記液晶ポリエステルが前記溶媒に溶解している液状組成物の塗膜を形成し、前記塗膜から前記溶媒を除去する。前記塗膜の形成は、前記半導体基板上に前記液状組成物を載せ、前記半導体基板を回転させることにより行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板が液晶ポリエステルで被覆されてなる液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造する方法として、特許文献1には、押出成形により得られた液晶ポリエステルフィルムを半導体基板に熱圧着することが記載されており、その際、液晶ポリエステルフィルムの密着性を向上させるために、液晶ポリエステルフィルムをフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスで処理することや、液晶ポリエステルフィルムの異方性を低減するために、押出成形法としてインフレーション法を用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-110053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、押出成形により得られた液晶ポリエステルフィルムを用いているが、押出成形法では得られるフィルムの薄肉化に限界があるため、近年の半導体製品の薄型化の要求に対応し難い。また、液晶ポリエステルフィルムの密着性や、液晶ポリエステルフィルムの等方性についても、さらなる向上が求められる。そこで、本発明の目的は、薄く、剥がれ難く、異方性が小さい液晶ポリエステル被膜が半導体基板上に形成されてなる液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、半導体基板上に、液晶ポリエステルと溶媒とを含み、前記液晶ポリエステルが前記溶媒に溶解している液状組成物の塗膜を形成し、前記塗膜から前記溶媒を除去することを特徴とする液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄く、剥がれ難く、異方性が小さい液晶ポリエステル被膜が半導体基板上に形成されてなる液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<液晶ポリエステル>
本発明で用いる液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するポリエステルであり、下記式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位(1)」ということがある)と、下記式(2)で表される構造単位(以下、「構造単位(2)」ということがある)と、下記式(3)で表される構造単位(以下、「構造単位(3)」ということがある)とを有するものであることが好ましい。
【0008】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−X−Ar3−Y− (3)
【0009】
(Ar1は、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar3はフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、O又はNHを表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0010】
−Ar4−Z−Ar5− (4)
【0011】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、O、CO又はSO2を表す。)
【0012】
構造単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位であり、該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸が挙げられる。
【0013】
構造単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位であり、該芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。
【0014】
構造単位(3)は、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン又は芳香族ジアミンに由来する構造単位であり、該芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが挙げられ、該芳香族アミンとしては、例えば、p−アミノフェノール、m−アミノフェノールが挙げられ、該芳香族ジアミンとしては、例えば、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンが挙げられる。
【0015】
構造単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計量に対して、好ましくは30〜60モル%であり、より好ましくは30〜55モル%であり、さらに好ましくは35〜50モル%である。構造単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にあり、構造単位(1)の含有量が少ないほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にある。
【0016】
構造単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計量に対して、好ましくは20〜35モル%であり、より好ましくは22.5〜32.5モル%であり、さらに好ましくは25〜32.5モル%である。構造単位(2)の含有量が多いほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、構造単位(2)の含有量が少ないほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にある。
【0017】
構造単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計量に対して、好ましくは20〜35モル%であり、より好ましくは22.5〜32.5モル%であり、さらに好ましくは25〜32.5モル%である。構造単位(3)の含有量が多いほど、液晶性ポリエステルの溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、構造単位(3)の含有量が少ないほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上する傾向にある。
【0018】
また、構造単位(2)と構造単位(3)との含有割合は、[構造単位(2)]/[構造単位(3)](モル/モル)で表して、0.9/1〜1/0.9であることが、液晶ポリエステルが高い液晶性を発現するので、好ましい。
【0019】
また、液晶ポリエステルは、構造単位(3)として、X及び/又はYがNHであるものを有すること、すなわち、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する構造単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、実質的に全ての構造単位(3)のX及び/又はYがNHであることが、より好ましい。
【0020】
液晶性や溶媒に対する溶解性に加えて、原料モノマーの入手性も考慮すると、液晶ポリエステルは、構造単位(1)として、Ar1が1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位)及び/又はAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位)を有し、構造単位(2)として、Ar2が1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する構造単位)、Ar2が1,3-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構造単位)、及びAr2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位)からなる群から選ばれる少なくとも1種を有し、構造単位(3)として、Ar3が1,4−フェニレン基であり、XがOであり、YがNHであるもの(p−アミノフェノールに由来する構造単位)を有することが、好ましい。
【0021】
液晶ポリエステルは、種々公知の方法により製造可能である。例えば、構造単位(1)のような芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位と、構造単位(2)のような芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位と、構造単位(3)のような芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン又は芳香族ジアミンに由来する構造単位とを有する液晶ポリエステルを製造する場合、これら各構造単位を誘導するモノマーを、エステル形成性誘導体やアミド形成性誘導体(以下、合わせて「エステル・アミド形成性誘導体」ということがある)に転換した後、重合させて液晶ポリエステルを製造する方法が、操作が簡便であるため好ましい。
【0022】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有するモノマーのエステル・アミド形成性誘導体としては、例えば、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、カルボキシル基がハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基等の反応活性の高い基になって、酸塩化物や酸無水物等を形成しているものや、エステル交換やアミド交換(以下、合わせて「エステル・アミド交換」ということがある)によりポリエステルやポリアミドを生成するように、カルボキシル基がアルコール類やエチレングリコール等とエステルを形成しているものが挙げられる。
【0023】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールやフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンのようなフェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル・アミド形成性誘導体としては、例えば、エステル・アミド交換によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。
【0024】
また、芳香族ジアミンのようなアミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているものが挙げられる。
【0025】
これらの中でも液晶ポリエステルをより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンのようなフェノール性ヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有するモノマーを脂肪酸無水物でアシル化して、エステル・アミド形成性誘導体であるアシル化物とした後、該アシル化物のアシル基と、カルボキシ基を有するモノマーのカルボキシ基からヒドロキシル基を除いてなる残基に相当するアシル基とが交換するように、該アシル化物と該カルボキシ基を有するモノマーとをエステル・アミド交換により重合させ、液晶ポリエステルを製造する方法が特に好ましい。このような液晶ポリエステルの製造方法は、例えば、特開2002−220444号公報又は特開2002−146003号公報に記載されている。
【0026】
アシル化においては、フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の使用量が1.0〜1.2モル倍であることが好ましく、1.05〜1.1モル倍であることがより好ましい。脂肪酸無水物の使用量があまり少ないと、重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞し易くなる恐れがあり、また、あまり多いと、得られる液晶ポリエステルが着色し易くなる。
【0027】
アシル化は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。アシル化に使用される脂肪酸無水物としては、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸又はこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、より好ましくは無水酢酸である。
【0028】
アシル化に続く重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。また、重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2モル倍であることが好ましい。
【0029】
アシル化及び/又は重合の際には、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0030】
なお、アシル化や重合においては触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、ポリエステル製造用の重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒が挙げられる。これらの触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環式化合物が好ましく使用される(例えば特開2002−146003号公報参照)。該触媒は、通常モノマーの投入時に一緒に投入され、アシル化後に該触媒を除去しない場合には、アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0031】
このような重合で得られた液晶ポリエステルはそのまま、本発明に用いることができるが、耐熱性や液晶性という特性のさらなる向上のためには、より高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化は固相重合により行うことが好ましい。この固相重合は、前記の重合で得られた比較的低分子量の液晶ポリエステルを、粉砕してパウダー状又はフレーク状にし、続いて、粉砕後の液晶ポリエステルを、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で加熱処理することにより、好適に行うことができる。該固相重合は、攪拌しながら行ってもよいし、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、次に述べる好適な流動開始温度の液晶ポリエステルを得るためには、固相重合温度は好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃〜350℃であり、固相重合時間は好ましくは1〜10時間である。
【0032】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が250℃以上であることが好ましく、250℃〜350℃であることがより好ましく、270℃〜330℃であることがさらに好ましい。液晶ポリエステルの流動開始温度が高いほど、得られる液晶ポリエステル被覆半導体基板において、液晶ポリエステル被膜の半導体基板に対する密着性が向上する傾向にあるが、あまり高いと、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低下したり、得られる液状組成物の粘度が増加したりして、取り扱い難くなる。
【0033】
なお、ここでいう流動開始温度とは、フローテスターによる溶融粘度の評価において、9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステルの溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお、この流動開始温度とは、液晶ポリエステルの分子量の目安として当業者には周知のものである(小出直之編,「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」,95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行)。
【0034】
本発明では、前述のような液晶ポリエステルを溶媒に溶解させ、必要に応じて他の成分を溶媒に溶解又は分散させ、得られる液状組成物の塗膜を半導体基板上に形成し、次いでこの塗膜から溶媒を除去することにより、液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造する。このように、半導体基板上に液晶ポリエステル被膜を形成する方法として、所謂溶液流延法による製膜法を採用することにより、固形分濃度を下げることや、塗膜を薄く形成すること等の簡便な処方で、被膜の薄膜化が可能となるので、従来の押出成形により得られたフィルムを用いる方法に比べて、薄い被膜を形成することができる。また、押出成形に起因するスキン層の形成が避けられると共に、溶液流延法による密着性が得られるので、剥がれ難い被膜を形成することができる。さらに、押出成形に起因する液晶ポリエステルの面内配向が避けられるので、電気的特性、機械的特性、熱的特性の点で異方性の小さい被膜を形成することができる。加えて、他の樹脂に比べて、ガスバリア性、耐熱性、耐薬品性、寸歩安定性、低吸湿性、高周波特性(低誘電率・低誘電損失)等の点で優れるという液晶ポリエステル本来の特性を備えた被膜を形成することができる。
【0035】
溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、必要に応じて2種以上の混合溶媒として用いられる。また、腐食性が低く、取り扱い易いことから、ハロゲン原子を含まない非プロトン性有機溶媒が好ましく用いられる。また、塗膜形成後、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である溶媒が好ましく用いられる。
【0036】
ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;γ―ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン系溶媒が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
中でも、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である非プロトン性極性溶媒が好ましいく、アミド系溶媒やラクトン系溶媒がより好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンがさらに好ましい。
【0038】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、溶媒100質量部に対して、通常5〜30質量部、好ましくは8〜20質量部であり、所望の液状組成物の粘度が得られるように、また所望の塗膜の厚み、ひいては被膜の厚みが得られるように、適宜調整される。
【0039】
なお、液状組成物には、必要に応じて、液晶ポリエステル以外の樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルやその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が、1種又は2種以上含まれていてもよい。この場合、これら他の樹脂も溶媒に溶解していることが好ましい。
【0040】
また、液状組成物には、寸法安定性、熱電導性、電気特性の改善等を目的として、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0041】
液状組成物は、必要に応じて、そこに含まれる微細な異物を濾過等で除去したり、脱泡したりした後、半導体基板上に塗工され、その塗膜が形成される。半導体基板としては、シリコン層、ゲルマニウム層、3−5族化合物半導体層等を有する単層又は多層の各種半導体基板が適用できる。原料にはシリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素等が用いられるが、高純度の多結晶シリコンを精製、使用したものがよく、市販の0.5mm〜1.5mm程度の円盤で、直径5インチ(125mm)、8インチ(200mm)、12インチ(300mm)のものを用いてもよい。
【0042】
塗工方法としては、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ローラーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーンコート法が挙げられる。中でも、塗膜の薄膜化、ひいては被膜の薄膜化が容易で、その厚みムラも低減し易いことから、スピンコート法が好ましく用いられる。
【0043】
スピンコートによる半導体基板上への液状組成物の塗膜の形成は、液状組成物を半導体基板上に滴下等により載せ、次いで半導体基板を回転させることにより、行うことができる。その際、液状組成物を載せる量や、その中の固形分量、載せる回数を調整することにより、塗膜の厚み、ひいては被膜の厚みを調整することができる。
【0044】
スピンコートにおける半導体基板の回転は、2段階で行い、その際、第1段階における半導体基板の回転速度r1に対して、第2段階における半導体基板の回転速度r2が、2〜5倍となるように、すなわちr2/r1が2〜5となるように、各回転速度を調整することが、塗膜ひいては被膜の厚みムラをより低減できるので、好ましい。なお、r1は通常50〜200rpmであり、r2は通常100〜1000rpmである。
【0045】
こうして半導体基板上に液状組成物の塗膜を形成した後、塗膜から溶媒を除去することにより、液晶ポリエステル被覆半導体基板を製造することができる。溶媒の除去は、操作が簡便であることから、通常、溶媒の蒸発により行われ、加熱、減圧、通風又はこれらを組み合わせた方法が用いられる。また、溶媒を除去した後、さらに加熱処理を行ってもよい。このような加熱処理を行うと、被膜中の液晶ポリエステルをさらに高分子量化することができる。この加熱処理は、例えば、窒素等の不活性ガスの雰囲気下、240〜330℃で、1〜30時間行われる。なお、被膜の耐熱性をより高めるためには、加熱処理温度は、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは260〜320℃である。また、生産性の点から、加熱処理時間は通常1〜60時間である。
【0046】
こうして得られる液晶ポリエステル被覆半導体基板は、例えば、ダイシングストリートに沿ってダイシングブレードにより個々の半導体素子に分割されて用いられる。
【実施例】
【0047】
実施例1〜4
(1)芳香族液晶ポリエステルの製造
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、パラアミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。次いで、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で内容物を取り出し、室温まで冷却した後、粗粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステル粉末を得た。この液晶ポリエステル粉末について、フローテスター((株)島津製作所製「CFT−500」)により流動開始温度を測定したところ、185℃であった。次に、この液晶ポリエステル粉末を、窒素雰囲気において255℃3時間で加熱処理することにより固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステル粉末の流動開始温度は、320℃であった。
【0048】
(2)液状組成物の調製
前記(1)で得られた固相重合後の液晶ポリエステル粉末80gを、N−メチルピロリドン920gに加え、140℃で4時間加熱して溶解させ、液状組成物(液晶ポリエステルのN−メチルピロリドン溶液)を得た。この液状組成物の粘度を、B型粘度計(東機産業(株)製「TVL−20型」、ローターNo.21、回転速度5rpm)を用いて、23℃で測定したところ、530cPであった。
【0049】
(3)半導体基板の製造
前記(2)で得られた液状組成物を、シリコンウエハ(三菱マテリアルシリコン(株)製、6インチ)上に6ml滴下し、スピンコーター(ミカサ(株)製「1H−360S6」)により、表1に示す回転速度(r1)で30秒間、次いで表1に示す回転速度(r2)で30秒間回転させ、シリコンウェハ上に塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成されたシリコンウェハを、90℃に設定したホットプレート上で30分熱処理し、さらに熱風式乾燥機により窒素雰囲気下320℃で3時間熱処理して、液晶ポリエステル被覆半導体基板を得た。その被膜の膜厚ムラの有無を目視で観察し、結果を表1に示した。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、液晶ポリエステルと溶媒とを含み、前記液晶ポリエステルが前記溶媒に溶解している液状組成物の塗膜を形成し、前記塗膜から前記溶媒を除去することを特徴とする液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜の形成が、前記半導体基板上に前記液状組成物を載せ、前記半導体基板を回転させることにより行われる請求項1に記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記半導体基板の回転が2段階で行われ、第2段階における回転速度が、第1段階における回転速度に対して、2〜5倍である請求項2に記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位と、下記式(3)で表される構造単位とを有する液晶ポリエステルである請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−X−Ar3−Y− (3)
(Ar1は、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基又は下記式(4)で表される基を表す。Ar3はフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、O又はNHを表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
−Ar4−Z−Ar5− (4)
(式中、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、O、CO又はSO2を表す。)
【請求項5】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全構造単位の合計量に対して、前記式(1)で表される構造単位を30〜60モル%、前記式(2)で表される構造単位を20〜35モル%、及び前記式(3)で表される構造単位を20〜35モル%有する液晶ポリエステルである請求項4に記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。
【請求項6】
X及び/又はYがNHである請求項4又は5に記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。
【請求項7】
Ar1が1,4−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であり、Ar2が1,4−フェニレン基、1,3-フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であり、Ar3が1,4−フェニレン基であり、XがOであり、YがNHである請求項4〜6のいずれかに記載の液晶ポリエステル被覆半導体基板の製造方法。

【公開番号】特開2011−136266(P2011−136266A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296829(P2009−296829)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】