説明

液晶性ポリエステル組成物

【課題】流動性、異方性緩和を高水準で有し、ブリスター異常等を抑制できる耐熱性を備えた成形体を得ることができる液晶性ポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】[1]ターフェニルと液晶ポリエステルとを含有する液晶性ポリエステル組成物であって、ターフェニルが実質的にp−ターフェニルのみを含有することを特徴とする、液晶性ポリエステル組成物。
[2]液晶性ポリエステル100重量部に対して、p−ターフェニルが0.3〜15重量部である、[1]の液晶性ポリエステル組成物。
[3][1]または[2]の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形して得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶性ポリエステル組成物に関する。さらには当該液晶性ポリエステル組成物を用いてなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、成形性、機械特性、耐熱性などに優れていることから、電気・電子部品用途を中心とした射出成形用途で需要が拡大している。
【0003】
近年、電気・電子部品の形状の複雑化が進み、液晶ポリマーを用いて得られるこれらの部品に関し、液晶ポリマーが発現する異方性が問題視されてきている。液晶ポリマーは流動方向に対して容易に配向するという特有の性質があるため、溶融成形時に、流動方向が一方向で一定の厚みの成形体を成形する場合には、溶融した液晶ポリマー(溶融液晶ポリマー)がランナーや金型内を流動する際、溶融液晶ポリマーの流動方向は概ね一定となり、その流動方向に溶融液晶ポリマーが配向する傾向があるので良好な流動性を示す。これに対して、複雑な形状の成形体を成形するためには、薄肉部や屈曲部が存在する金型やランナーを使用する必要がある。このように金型やランナーが屈曲部を有する場合、溶融液晶ポリマーが該屈曲部の形状にあわせて、流動方向を変えるために、液晶ポリマーがその部分で再配列しやすく、流動方向によっては、その流動性は著しく異なるようになる。例えば、同一の金型内に薄肉部と厚肉部を有する金型を使用する場合には、厚肉部に優先的に溶融液晶ポリマーが流動するために、薄肉部には該溶融液晶性ポリマーが流動しにくく、該薄肉部が未充填となり、所望の形状の部品が得らないという問題がある。
【0004】
このような液晶ポリマー特有の異方性を低減する目的で、充填材を液晶ポリマーに配合した組成物が通常使用されている。そして、この充填材としては、ガラス繊維が広範に用いられている。ガラス繊維を多く配合すると異方性は緩和されるが、反面、流動性は悪化する傾向があるため、ガラス繊維の配合量には限界がある。このような点において、液晶ポリマーの異方性緩和と流動性とを高度に有する液晶性ポリマー組成物が求められていた。ガラス繊維の如き充填剤を高充填した液晶ポリマーの流動性改良の試みとして、例えば、特許文献1には液晶ポリマーにターフェニル誘導体を添加した樹脂組成物が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−277632号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示されている樹脂組成物は、溶融成形すると溶融樹脂からガスが発生して成形体にボイド等の形状異常を生じたり、成形後の成形体を、例えばハンダリフロープロセスによってハンダ付けをすると、成形体からガスが発生してブリスターと呼ばれる膨れ(ブリスター異常)が生じたり、する場合があった。
そこで、本発明の目的は、液晶ポリマー、特に液晶性ポリエステルの流動性、異方性緩和を高度に有しながらも、ブリスター異常等を抑制できる程度にガス発生が十分低減された成形体を得ることができる液晶性ポリエステル組成物を提供することにある。また、複雑な形状を有しながらも液晶性ポリエステル特有の異方性が低く、ブリスター異常等も低減された成形体、特に電気・電子部品の製造用として、良好な特性を備えた液晶性ポリエステル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は、下記<1>を提供するものである。
<1>ターフェニルと、液晶性ポリエステルとを含有する液晶性ポリエステル組成物であって、該ターフェニルが実質的にp−ターフェニルのみからなり、且つ液晶性ポリエステル100重量部に対して、p−ターフェニルが0.3〜15重量部である、液晶性ポリエステル組成物。
【0008】
また本発明は、前記<1>に係る好適な実施態様として、
<2>液晶性ポリエステルと、p−ターフェニルとを溶融混練してなる、<1>の液晶性ポリエステル組成物。
<3>さらに、液晶性ポリエステル100重量部に対して、無機充填剤0.1〜400重量部を含有する、<1>又は<2>の液晶性ポリエステル組成物。
を提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、前記いずれかの液晶性ポリエステル組成物からなる下記の<4>、<5>を提供する。
<4>前記いずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形して得られる成形体。
<5>前記いずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形して得られる表面実装部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、液晶性ポリエステル自身の流動性及び異方性緩和を高度に有しながらも、ブリスター異常等を十分抑制できるといった耐熱性を備えた成形体を得ることができる。このような成形体は、複雑な形状を有する電気・電子部品、特に表面実装部品に好適に使用することができるので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
<液晶性ポリエステル>
本発明で使用される液晶性ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下の温度で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。
液晶性ポリエステルとしては、例えば、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの組み合わせを重合して得られるもの、
(2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの
などが挙げられる。
なお、このような芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0012】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のようにカルボキシル基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、該カルボキシル基が、ポリエステル生成反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの高反応性の誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのようにフェノール性水酸基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、該フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0013】
上述の、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール又はこれらのエステル形成性誘導体は、そのエステル形成性を阻害しない程度であれば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基などを置換基として有していてもよい。
【0014】
液晶性ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができる。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、芳香環に結合している水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0016】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、芳香環に結合している水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0017】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:

上記の繰り返し構造単位は、芳香環に結合している水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0018】
なお、上記アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基又はブチル基がより好ましい。また、上記アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0019】
繰り返し構造単位の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記の(a)〜(f)が挙げられる。
(a):
前記繰り返し構造単位(A1)、(B2)及び(C3)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A2)、(B2)及び(C3)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A1)、(B1)、(B2)及び(C3)の組み合わせ、又は、
前記繰り返し構造単位(A2)、(B1)、(B2)および(C3)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A2)、(B3)及び(C3)の組み合わせ
(b):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部又は全部を(C1)に置きかえた組み合わせ
(c):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部又は全部を(C2)に置きかえた組み合わせ
(d):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部又は全部を(C4)に置きかえた組み合わせ
(e):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(C3)の一部又は全部を(C4)と(C5)の混合物に置きかえた組み合わせ
(f):前記(a)に組み合わせのそれぞれにおいて、(A1)の一部を(A2)に置きかえた組み合わせ
【0020】
液晶性ポリエステルとしては、耐熱性の観点から、該液晶性ポリエステルの繰り返し構造単位の合計を100mol%として、p−ヒドロキシ安息香酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位の合計が30〜80mol%であり、ヒドロキノン及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルからなる群から選ばれた少なくとも一種の芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位の合計が10〜35mol%であり、テレフタル酸、イソフタル酸及び6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位の合計が10〜35mol%である液晶性ポリエステルが好ましい。
【0021】
さらに、耐熱性及び機械特性のバランスからは、液晶性ポリエステルは、前記(A1)式で表される繰り返し構造単位(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し構造単位)を、全繰り返し構造単位の合計に対して30モル%以上含むことが好ましい。
【0022】
液晶性ポリエステルの重量平均分子量は、特に限定されないが、10000〜100000であることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる液晶性ポリエステルの製造方法は、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールを、過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジオールアシル化物)のアシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とが、エステル交換を起こすようにして、重縮合させるといった溶融重合が挙げられる。なお、芳香族ジカルボン酸は脂肪酸無水物によってほとんど影響を受けないので、アシル化の段階で、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールとともに、芳香族ジカルボン酸を共存させていてもよい。また、予めアシル化しておいた芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジオールアシル化物を用い、これらと芳香族ジカルボン酸とを、エステル交換させて重縮合を行う溶融重合も好適な態様である。
【0024】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の使用量がフェノール性水酸基の合計(芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールにあるフェノール性水酸基の合計)に対して1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が少ないと、エステル交換(重縮合)時にアシル化物や芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、多すぎると、得られる液晶性ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0025】
アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0026】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、又は無水イソ酪酸が好ましく用いられ、より好ましくは、無水酢酸が用いられる。
【0027】
エステル交換においては、アシル化して得られたアシル化物のアシル基の合計が、カルボキシル基の合計(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸のアカルボキシル基の合計)の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0028】
エステル交換は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。
【0029】
エステル交換においては、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去させることが好ましい。
【0030】
アシル化反応、エステル交換は、触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができる。このような触媒としては、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N-ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。触媒は、通常、液晶性ポリエステル製造用の原料モノマー類の投入時に、併せて投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換を行なうことができる。ただし、本発明の液晶性ポリエステル組成物から電気・電子部品を製造する場合、当該部品には金属成分が含有されていない方が好ましいので、触媒としては、前記例示の中でも有機化合物触媒が好ましい。
【0031】
エステル交換による重合は、上述のように、通常溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出して冷却し、粉砕して、パウダー状もしくはフレーク状にした後、熱処理により行うといった一連の操作で実施することができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理するといった固相重合などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。また、適当な攪拌機構を備える反応槽を用いることにより、溶融重合と固相重合とを同一の反応槽で行うこともできる。固相重合後、得られた液晶性ポリエステルは、公知の方法によりペレット化してもよい。
液晶性ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置の、いずれも用いることができる。
【0032】
<ターフェニル>
本発明の液晶性ポリエステル組成物に適用するターフェニルとしては、実質的にp−ターフェニルのみであることを特徴とする。なお、実質的にp−ターフェニルのみとは、市場から入手できる高純度品のp−ターフェニルを用いればよいことを意味し、企図せずp−ターフェニル高純度品に混入している不純物を排除するものではない。たとえば、関東化学(株)から入手できるような特級試薬のp−ターフェニルを用いればよい。
本発明の液晶性ポリエステル組成物には、非極性有機化合物としてp−ターフェニルのみが実質的に含有されていると好ましい。ここでいう非極性有機化合物とは、炭素原子及び水素原子から構成される炭化水素化合物であることを意味し、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を分子内に有しない有機化合物である。
【0033】
本発明者は、前記特許文献1で使用されている樹脂組成物から得られる成形体が、成形中に発生するガスや、ブリスター異常を引き起こす原因について、詳細に検討したところ、ターフェニル誘導体として含まれている、m−ターフェニルやo−ターフェニルによって、このような問題が引き起こされていることを見出した。そして、実質的にp−ターフェニルのみを非極性有機化合物として液晶性ポリエステルに配合すると、その配合量が少量でも、流動性と液晶性ポリエステル特有の異方性緩和が高水準で達成され、ブリスター異常の抑制も兼ね備えた成形体が得られることを見出るに至った。また、p−ターフェニルは剛直性の分子であることから、従来液晶性ポリエステルの異方性を著しく悪化させると推定されていた(特開2005−248052号公報、段落[0006])が、後述する溶融混練によれば、異方性はむしろ改良されることが判明した。このような効果の発現は、本発明者の独自の知見に基づくものである。
【0034】
本発明で用いるp−ターフェニルは、液晶性ポリエステル100重量部に対して、0.3〜15重量部である。さらには、液晶性ポリエステル100重量部に対して、p−ターフェニルが0.5〜12重量部であるとさらに好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。
p−ターフェニルの配合量が上記の範囲であると、本発明の効果である液晶性ポリエステルの流動性や異方性緩和が、より高度に発現され、成形時に金型汚れなどが生じることもないので好ましい。
【0035】
<その他の充填剤、添加剤>
本発明の液晶性ポリエステル組成物においては、その機械強度等、その他の特性を付与するために、充填剤を使用することもできる。かかる充填材としては、繊維状の充填材、板状、粉末状又は粒状など非繊維状の充填剤を使用することができる。具体的には、例えば、ガラス繊維;PAN系炭素材料やピッチ系炭素材料の炭素繊維;ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維;芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維;石膏繊維;セラミック繊維;アスベスト繊維;ジルコニア繊維;アルミナ繊維;シリカ繊維;酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維;ロックウール;チタン酸カリウムウイスカー;チタン酸バリウムウイスカー;ほう酸アルミニウムウイスカー;窒化ケイ素ウイスカーなどの、繊維状又はウイスカー状の充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、ニ硫化モリブデン、ワラストナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状、あるいは板状の充填剤などが挙げられる。これらの中でも炭素材料又は無機材料からなる充填材が好ましく、無機材料からなる充填剤(無機充填剤)が特に好ましい。該無機充填剤の中でも、ガラス繊維やタルクが好ましく使用され、より好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維は一般に樹脂の強化用に用いられているものであれば特に限定されることはなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。
【0036】
また、充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する充填剤は、その表面を、公知のカップリング剤(例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理したものも用いることもできる。ただし、多量の表面処理剤で表面処理された充填剤は、成形体のブリスター異常の発生を誘発することもあるので、充填剤を表面処理する場合は、少量の表面処理剤を用いることが好ましい。
【0037】
前記充填剤の添加量は、液晶性ポリエステル100重量部に対し、0.1〜400重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜200重量部、さらに好ましくは20〜100重量部であり、特に好ましくは20〜80重量部である。充填材の配合量は、得られる液晶性ポリエステル組成物の流動性を著しく悪化させない範囲で選択する必要がある。
【0038】
さらに液晶性ポリエステルの組成物には、酸化防止剤及び熱安定剤(例えば。ヒンダードフェノール類、ヒドロキノン類、ホスファイト類又はこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレートなど)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、離型剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド又はポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてのカーボンブラック、結晶核剤、難燃剤(臭素系難燃剤、リン系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、可塑剤、難燃助剤、及び帯電防止剤から選ばれる通常の添加剤等の使用も可能である。このような添加剤は、極性官能基など、ヘテロ原子を含む基を有することで前記した非極性有機化合物とは明確に区別される。これらの添加剤は、得られる成形体のブリスター異常を発生させない範囲で、種類及び配合量を選択する必要がある。
【0039】
<液晶性ポリエステル組成物>
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、樹脂成分として液晶性ポリエステルを必須として含有するが、当該液晶性ポリエステル以外の熱可塑性樹脂を少量含有させることもできる。このような液晶性ポリエステル組成物以外の熱可塑性樹脂を用いる場合、液晶性ポリエステル特有の機械特性、耐熱性等が著しく低下しない範囲で、その種類、配合量を選択する必要がある。
【0040】
上述のように、本発明の液晶性ポリエステル組成物は、他の熱可塑性樹脂や添加剤を併せて使用することができるが、より好適な実施態様とすれば、液晶性ポリエステルとp−ターフェニルとからなる組成物、又は液晶性ポリエステルと、無機充填材及び/又は炭素材料の充填材と、p−ターフェニルとからなる組成物が特に好ましい。
【0041】
ここで、本発明の好適な液晶性ポリエステル組成物に関し、その調製方法について説明する。
p−ターフェニル、又はp−ターフェニルと充填剤の組合わせは、溶融混練することにより液晶性ポリエステルに配合されることが好ましい。こうすることにより、異方性が十分低減された成形体を得ることができる。
溶融混練には公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜420℃、好ましくは250〜380℃、さらに好ましくは280〜360℃の温度で溶融混練して液晶性ポリエステル組成物とすることができる。その際には、1)液晶性ポリエステル、p−ターフェニル及び必要に応じて配合される充填剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにp−ターフェニルを高濃度に含む液晶性ポリエステル組成物(マスターペレット)を作製し、次いで液晶性ポリエステル及び必要に応じて配合される充填剤と配合する方法(マスターペレット法)など、どの方法を用いてもかまわない。
【0042】
また、添加剤は溶融混練を行わずに、例えば液晶性ポリエステル組成物のペレットに
ヘンシェルミキサーなどにより粉末状で混合して、そのまま射出成形などに使用することもできる。
【0043】
かくして得られる本発明の液晶性ポリエステル組成物は、溶融加工時における流動性が極めて良好であり、異方性が十分緩和され、同一金型内に断面積の異なる流路や厚みの異なる部分を有する場合にも厚肉部分に過充填を起こしたりすることなく、安定した成形が行える。
【0044】
<成形方法及び用途>
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、通常の射出成形、押し出し成形、プレス成形などの成形方法によって、種々の形状を有する3次元成形体、シート、容器、パイプ、フィルムなどに加工することが可能である。中でも本発明の液晶性ポリエステル組成物は、流動性に優れ、異方性が十分緩和されていることから、コネクター、リレーケース、コイルボビン、スイッチなどの表面実装部品の製造用として特に適している。特に、本発明の液晶性ポリエステル組成物は、高度の流動性を有していることから、比較的複雑な形状の表面実装部品を得る上でも、良好な成形性を示すものである。そして、このようにして得られた表面実装部品はハンダリフローによってハンダ付けを行ったとしても、ガス発生が十分低減されているので、ブリスター異常等の発生が十分防止されている。
【0045】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、上述のように表面実装部品を得る上で特に好ましいが、他の用途に使用することもできる。かかる用途としては、例えば、各種ギア、各種ケース、センサー、LEDランプ、抵抗器、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレイ部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ、レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディア用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウインドウオッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモグ、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は、磁気記録媒体用フィルム、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルム、シート用途としては自動車内部天井、ドアトリム、インストロメントパネルのパッド材、バンパーやサイドフレームの緩衝材、ボンネット裏等の吸音パット、座席用材、ピラー材、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブおよびそれらの周辺部品が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
流動開始温度測定方法
フローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて試料量約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填させる。9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶性ポリマーをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0048】
発生ガス測定方法
JIS K71131(1/2)号ダンベル×0.8mmtをガラス瓶に5g計量し、封入後120℃で20時間加熱処理し、発生する酢酸ガスの総量をヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(島津製作所製GC15A/HSS3A)で測定した。
【0049】
薄肉流動性
図1に示す製品部厚さ0.2mmあるいは0.3mmのキャビティーを4個有する薄肉流動長測定金型を用い、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS10E1ASE型)で350℃の測定温度で試料を成形した(射出速度95%、射出圧力900kg/cm2)。取り出した成形体の、4個のキャビティー部の長さを測定し、その平均値をもって薄肉流動長とした。流動異方性は0.2mmの金型を用いた時の平均値を、0.3mmの金型を用いた時の平均値で除した値として算出した。
【0050】
合成例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)及び無水酢酸1235g(12.1モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られたポリマーは室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から288℃まで5時間かけて昇温し、288℃で3時間保持するといった固相重合を行った。得られた液晶性ポリエステルの流動開始温度は325℃で、偏光顕微鏡により370℃でネマチック液晶に特有のシュリーレン模様を呈することを確認した。この液晶性ポリエステルをLCP1とする。
【0051】
合成例2
合成例1と同様の反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(11.9モル)及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で3時間保温した。得られたポリマーを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmのプレポリマーを得た。
このプレポリマーについて、フローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、267℃であった。
次に、このプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から310℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で5時間保温するといった固相重合に供した。その後、得られた液晶性ポリエステルを室温まで冷却した。得られた液晶性ポリエステルの流動開始温度は333℃で、偏光顕微鏡により370℃でネマチック液晶に特有のシュリーレン模様を呈することを確認した。この液晶性ポリエステルをLCP2とする。
【0052】
実施例1
合成例1で得られたLCP1 100重量部に対して、p−ターフェニル(関東化学(株)から入手した特級試薬)を3重量部配合後、セントラルガラス製ミルドガラス(EFH−7501)を全体の40重量%になるよう配合して混合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)PCM−30)を用いて、340℃で造粒してペレットとした。得られたペレットを日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE型射出成形機を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で射出成形を行い、得られた成形体の特性(発生ガス量、薄肉流動性、流動異方性)を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
実施例2〜8
LCP1に対してp−ターフェニルを表1に示す所定量で配合した以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例9
合成例2で得られたLCP2を用いた以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
比較例1、3
p−ターフェニルを用いない(比較例1)、又はp−ターフェニルの代わりにm−ターフェニルを用いる(比較例3)以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果を表2に示す。
【0056】
比較例2
LCP1 100重量部に対してのp−ターフェニルの配合部数を0.25重量部に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
【表1】


※1 PT:p−ターフェニル
※2 液晶性ポリエステル100重量部に対するターフェニル配合部数
【0058】
【表2】


※1 PT:p−ターフェニル MT:m−ターフェニル
※2 液晶性ポリエステル100重量部に対するターフェニル配合部数
【0059】
実施例1〜9に示した本発明の液晶性ポリエステル組成物は、薄肉流動性に優れ、流動異方性も良好であった。そして得られた成形体は、発生ガスが十分低減されているので、ブリスター異常の発生も十分抑制されているものである。p−ターフェニルを用いないか、その配合量が少ない、比較例1、2では薄肉流動性が不十分であることが判明した。また、m−ターフェニルをp−ターフェニルの代わりに用いた比較例3では、発生する酢酸ガスが5ppmを大きく超える濃度になり、ブリスター異常の発生が懸念され、表面実装部品等のような高温処理(ハンダリフロー)を必要とする部品には不適であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例で、薄肉流動性評価に使用した薄肉流動長測定金型の形状を説明する模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターフェニルと、液晶性ポリエステルとを含有する液晶性ポリエステル組成物であって、該ターフェニルが実質的にp−ターフェニルのみからなり、且つ液晶性ポリエステル100重量部に対して、p−ターフェニルが0.3〜15重量部であることを特徴とする、液晶性ポリエステル組成物。
【請求項2】
液晶性ポリエステルと、p−ターフェニルとを溶融混練してなることを特徴とする、請求項1記載の液晶性ポリエステル組成物。
【請求項3】
さらに、液晶性ポリエステル100重量部に対して、無機充填剤0.1〜400重量部を含有する、請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形して得られる成形体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形して得られる表面実装部品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−30015(P2009−30015A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67382(P2008−67382)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】