説明

液晶樹脂の製造方法

【課題】プリント配線板やパッケージ基板などの基板に絶縁樹脂基材の材料として用いられる液晶樹脂をバッチ式重合法で工業的に効率よく製造する。
【解決手段】重合容器3内で原料Mを溶融重合させて液晶樹脂Pを生成する樹脂生成工程と、この樹脂生成工程で生成された液晶樹脂Pを重合容器3から吐出する樹脂吐出工程とが、複数のロットに対して繰り返し実行される。各ロットに対する樹脂吐出工程の後であって次のロットに対する樹脂生成工程の前に、重合容器3の吐出口3cに溶融状態で残存している液晶樹脂Pを0.005MPaを超えるゲージ圧で重合容器3から再吐出する。これにより、重合容器3内に残存した液晶樹脂Pが固化して重合容器3の吐出口3cを閉塞する事態の発生を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板(プリント基板、プリント回路基板)やパッケージ基板などの基板に絶縁樹脂基材の材料として用いるに好適な液晶樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の基板においては、導電層を表面に付して用いられるような絶縁樹脂基材が用いられており、この絶縁樹脂基材には、耐熱性、電気特性、低吸湿性、寸法安定性などの特性が求められている。従来、こうした絶縁樹脂基材としては、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた基材が広範に使用されてきた。
【0003】
ところが、近年の電子機器のデジタル信号伝播速度の高速化(数百MHz以上)に伴い、デジタル信号周波数の高周波化が進展しており、より高度の電気特性(低誘電正接)を有する絶縁樹脂基材が要望されている。そのため、従来のガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた基材では、必ずしも十分に対応できない状況にある。
【0004】
そこで、このような要望に応えるべく、例えば特許文献1には、溶媒可溶性の液晶樹脂を含浸した樹脂含浸基材が提案されており、高度の電気特性の他、はんだ耐熱性を維持し得ることが開示されている。この溶媒可溶性の液晶樹脂は、結合の一部にアミド結合を有している。
【0005】
このような液晶樹脂を工業的に製造する際には、通常、バッチ式重合法が広く採用されている(例えば、特許文献2参照)。このバッチ式重合法とは、重合すべき原料を予め複数のロット(1バッチ相当量)に分けた上で、最初のロットについて、原料を重合容器に投入し、この原料を重合させて液晶樹脂(重合物)を生成し、この液晶樹脂を重合容器の吐出口から吐出した後、次のロットについて、原料を同じ重合容器に投入し、この原料を重合させて液晶樹脂を生成し、この液晶樹脂を重合容器の吐出口から吐出した後、最後のロットの原料の重合作業が終了するまで同様の手順を繰り返すことにより、すべての原料の重合を実行する重合法を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−146139号公報
【特許文献2】特開平6−192403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特定構造の液晶樹脂、特にアミド結合を多く含む液晶樹脂については、ガラス転移温度(ガラス転移点)を有するため、バッチ式重合法を用いて工業的に製造しても、次のような製造上の不都合により、生産性を高めることができないという課題があった。
【0008】
すなわち、重合容器内で生成された液晶樹脂は、所定の粘度を有するため、重合容器の吐出口から吐出しても一部が重合容器の内壁に付着する形で残存する。こうして重合容器内に残存した液晶樹脂は、時間の経過とともに流動して重合容器の吐出口に溜まり、ガラス転移温度以下に温度が低下して固化すると、重合容器の吐出口を閉塞してしまう。したがって、次のロットについて、液晶樹脂の吐出作業を実行することができず、バッチ式重合を繰り返し行うことができなくなる。
【0009】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、液晶樹脂がガラス転移温度を有する場合であっても、この液晶樹脂をバッチ式重合法で工業的に効率よく製造することが可能な液晶樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、重合容器内に残存した液晶樹脂が固化して重合容器の吐出口を閉塞する事態の発生を回避すべく、液晶樹脂を重合容器から吐出した後に、所定の圧力をかけて液晶樹脂を再吐出することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、重合容器内で原料を溶融重合させて液晶樹脂を生成する樹脂生成工程と、この樹脂生成工程で生成された液晶樹脂を前記重合容器から吐出する樹脂吐出工程とが、複数のロットに対して繰り返し実行される液晶樹脂の製造方法であって、各ロットに対する樹脂吐出工程の後であって当該ロットの次のロットに対する樹脂生成工程の前に、前記重合容器の吐出口に溶融状態で残存している液晶樹脂を0.005MPaを超えるゲージ圧で当該重合容器から再吐出する樹脂再吐出工程が組み込まれている液晶樹脂の製造方法としたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶樹脂が、50〜200℃の範囲内にガラス転移温度を有する液晶樹脂であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記液晶樹脂が、1,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位、2,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位および2,3−ナフタレン骨格を有するモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を全構造単位に対して10〜45モル%の割合で含む液晶樹脂であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶樹脂は、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が20〜70モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%の液晶樹脂であることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液晶樹脂を重合容器から吐出する樹脂吐出工程の後に、所定の圧力で液晶樹脂を重合容器から再吐出する樹脂再吐出工程を組み込むことにより、重合容器内に残存した液晶樹脂が固化して重合容器の吐出口を閉塞する事態の発生を回避することができる。その結果、液晶樹脂がガラス転移温度を有する場合であっても、この液晶樹脂をバッチ式重合法で工業的に効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る製造設備を示す概略構成図である。
【図2】樹脂再吐出工程での液晶樹脂の吐出圧力が所定の閾値より高い場合における液晶樹脂の流動状態を示す断面図であって、(a)は樹脂再吐出工程の直前の状態図、(b)は樹脂再吐出工程の直後の状態図である。
【図3】樹脂再吐出工程での液晶樹脂の吐出圧力が所定の閾値以下である場合における液晶樹脂の流動状態を示す断面図であって、(a)は樹脂再吐出工程の直前の状態図、(b)は樹脂再吐出工程の直後の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0019】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
<液晶樹脂の構成>
【0020】
本発明に係る液晶樹脂は、溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶樹脂であり、特にはガラス転移温度を有する液晶樹脂である。なお、ガラス転移温度は、50〜200℃の範囲において示差走査熱量測定(DSC)によって観測することができる。
【0021】
この液晶樹脂としては、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、芳香族−脂肪族ポリエステル、芳香族−脂肪族ポリエステルアミド等が挙げられるが、1,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位、2,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位および2,3−ナフタレン骨格を有するモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を全構造単位に対して10〜45モル%の割合で含む液晶樹脂であることが好ましい。
【0022】
このような液晶樹脂としては、例えば、下記式(1)で示される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という)と、下記式(2)で示される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という)と、下記式(3)で示される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という)とを有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が20〜70モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%の液晶樹脂であると好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0023】
ここで、式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸等を挙げることができる。
【0024】
また、式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0025】
さらに、式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、1,2−ベンゼンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等を挙げることができる。
【0026】
なお、このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール等が挙げられ、芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0027】
本発明に係る液晶樹脂において、式(2)構造単位が芳香族ジオールとしてレゾルシン、1,2−ベンゼンジオールである場合、および/または芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸である場合と併用して、式(3)構造単位が芳香族ジオールとしてレゾルシン、1,2−ベンゼンジオールである場合、および/またはフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である場合には、溶媒可溶性の液晶樹脂となる。
【0028】
かかる溶媒可溶性とは、温度50℃において、1質量%以上の濃度で溶媒(溶剤)に溶解することを意味する。
【0029】
このような溶媒可溶性を有する液晶樹脂としては、前記式(3)構造単位として、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンおよび/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)で示される構造単位として、XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位を含むと好ましく、実質的に全ての式(3)構造単位が、以下の式(3’)で示される構造単位(以下、「式(3’)構造単位」という)であることがより好ましい。
(3’)−X−Ar3 −NH−
(式中、Ar3 およびXは前記と同義である。)
【0030】
式(3’)構造単位は、全構造単位の合計に対して、40〜15モル%の範囲で含むと、より好ましく、更に好ましくは35〜20モル%の範囲である。こうすることにより、溶媒可溶性が一層良好になる。
【0031】
式(1)構造単位は、全構造単位の合計に対して、20〜70モル%の範囲であり、25〜55モル%の範囲であると、より好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶樹脂は、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸および/または2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が、容易に入手できるという点で好適である。液晶樹脂の溶媒可溶性の向上および誘電正接の低下といった観点からは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好ましい。
【0032】
式(2)構造単位は、全構造単位の合計に対して、40〜15モル%の範囲であり、37.5〜22.5モル%の範囲であると、より好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶樹脂は、液晶性を十分維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種が容易に入手できるという点で好ましい。液晶樹脂の溶媒可溶性向上といった観点からはイソフタル酸が好ましく、誘電正接の低下といった観点からは2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0033】
また、得られる液晶樹脂がより高度の液晶性を発現する点では、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル分率は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1〜1/0.9の範囲が好適である。
<液晶樹脂の製造方法>
【0034】
本発明に係る液晶樹脂の製造方法に用いられる製造設備1は、図1に示すように、原料Mのアシル化反応を行うためのガラス製の反応容器2を備えている。この反応容器2は円筒状のケーシング2aを有しており、ケーシング2aの上部には投入口2bが上向きに形成されている。なお、反応容器2には、攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計および還流冷却器(いずれも図示せず)が設けられている。
【0035】
また、反応容器2の近傍(図1右方)には、液晶樹脂Pの生成反応(原料Mの重合反応)を行うためのガラス製の重合容器3が設置されている。この重合容器3は円筒状のケーシング3aを有しており、ケーシング3aの上部には投入口3bが上向きに形成されている。また、ケーシング3aの下部には吐出口3cが下向きに形成されており、吐出口3cにはコック3dが開閉自在に取り付けられている。さらに、ケーシング3aの下部内壁には円錐状の傾斜面3eが、ケーシング3a内の内容物をその自重で吐出口3cに導いて集めるように傾斜する形で形成されている。また、重合容器3の外側面にはジャケット5が周設されており、このジャケット5に外部熱源(図示せず)から熱媒(熱媒体)を供給することにより、重合容器3内の内容物を加熱または冷却することができる。
【0036】
そして、この製造設備1において液晶樹脂Pを工業的に製造する際には、用いる原料Mを複数のロットに分けた上で、以下に述べるとおり、これらのロットに対して、バッチ式重合法により、液晶樹脂Pを繰り返し製造する。
【0037】
まず、最初のロット(1ロット目)の製造を行う。
【0038】
すなわち、アシル化工程で、反応容器2において、原料Mをアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体に転換する。それには、原料Mを反応容器2内にその投入口2bから投入し、反応容器2内でアシル化反応を進行させる。このように、後述する樹脂生成工程に先立って原料Mをアシル化する方法が、操作が簡便である点で好ましい。
【0039】
ここで、このエステル形成性・アミド形成性誘導体について、例を挙げて説明する。
【0040】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように、カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、酸塩化物、酸無水物等の反応活性の高い基になっているものや、当該カルボキシル基が、エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0041】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のように、フェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0042】
また、芳香族ジアミンのように、アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも液晶樹脂をより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンといったフェノール性ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するモノマーとを脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後、このアシル化物のアシル基と、カルボキシル基を有するモノマーのカルボキシル基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ、液晶樹脂を製造する方法が特に好ましい。
【0044】
アシル化においては、フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の使用量が1〜1.2倍当量であることが好ましく、1.05〜1.1倍当量であると、より好ましい。脂肪酸無水物の使用量が1倍当量未満では、重合時にアシル化物や原料Mが昇華して反応系が閉塞しやすくなる傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶樹脂の着色が著しくなる傾向がある。
【0045】
アシル化は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
【0046】
アシル化に使用される脂肪酸無水物は、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、特に好ましくは、無水酢酸である。
【0047】
このアシル化工程においては、ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0048】
なお、アシル化工程や樹脂生成工程においては、触媒の存在下に行ってもよい。こうした触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
【0049】
但し、金属を含む触媒は電気特性に大きく影響するため、前記の触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(例えば、特開2002−146003号公報参照)。
【0050】
この触媒は、通常、原料Mの投入時に一緒に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、触媒を除去しない場合には、アシル化工程からそのまま樹脂生成工程に移行することができる。
【0051】
こうして原料Mがアシル化されたところで、樹脂生成工程に移行し、重合容器3において、この原料Mを溶融重合させて液晶樹脂Pを生成する。それには、重合容器3のコック3dが閉じた状態で、反応容器2内の原料Mを重合容器3内にその投入口3bから投入し、重合容器3内で溶融重合反応を進行させる。この樹脂生成工程においては、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0052】
こうして液晶樹脂Pが生成されたところで、樹脂吐出工程に移行し、重合容器3において、この液晶樹脂Pを重合容器3から吐出する。それには、重合容器3のコック3dが閉じた状態のまま、重合容器3内を通常0.01MPa以上(好ましくは、0.03MPa以上)0.2MPa以下のゲージ圧(例えば、0.05MPaのゲージ圧)まで加圧した後、重合容器3のコック3dを開く。すると、重合容器3内が高圧状態から一気に大気開放されるため、重合容器3内の液晶樹脂Pが吐出口3cから吐出される。そして、液晶樹脂Pの吐出動作が途切れたところで、重合容器3のコック3dを閉じる。このとき、液晶樹脂Pは、所定の粘度を有するため、その一部が重合容器3の傾斜面3e上に付着する形で重合容器3のケーシング3a内に残存する。
【0053】
こうして液晶樹脂Pの大部分が重合容器3から吐出されたところで、樹脂再吐出工程に移行し、重合容器3において、ケーシング3a内に残存している液晶樹脂Pを0.005MPaを超えて通常0.2MPa以下のゲージ圧(好ましくは、0.007MPa以上0.2MPa以下のゲージ圧)で重合容器3から再吐出する。それには、重合容器3のコック3dが閉じた状態のまま、0.005MPaを超えて0.2MPa以下のゲージ圧(例えば、0.01MPaのゲージ圧)まで重合容器3内を加圧した後、重合容器3のコック3dを開く。すると、重合容器3内が高圧状態から一気に大気開放されるため、ケーシング3a内に残存していた液晶樹脂Pが吐出口3cから吐出される。
【0054】
このとき、この樹脂再吐出工程における吐出圧力(0.005MPaを超えるゲージ圧)により、重合容器3内に溶融状態で残存していた液晶樹脂Pの大部分をその固化前に掃き出すようにして重合容器3の吐出口3cから吐出することができる。したがって、重合容器3内に残存した液晶樹脂Pが固化して重合容器3の吐出口3cを閉塞する事態の発生を回避することができる。
【0055】
これは、上述のように、樹脂再吐出工程における吐出圧力が0.005MPa(ゲージ圧)を超える場合、樹脂再吐出工程の直前において、図2(a)に示すように、液晶樹脂Pが溶融状態で重合容器3の吐出口3cの近傍に残存していても、樹脂再吐出工程の直後には、図2(b)に示すように、この液晶樹脂Pを高圧の吐出圧力によって傾斜面3eに沿って流動させて重合容器3の吐出口3cから押し出すことができるためであると推察することができる。
【0056】
これに対して、樹脂再吐出工程における吐出圧力が0.005MPa(ゲージ圧)以下である場合、樹脂再吐出工程の直前において、図3(a)に示すように、液晶樹脂Pが溶融状態で重合容器3の吐出口3cの近傍に残存していれば、樹脂再吐出工程の直後においても、図3(b)に示すように、この液晶樹脂Pを吐出圧力によって重合容器3の吐出口3cから十分に押し出せないため、重合容器3内に残存している液晶樹脂Pは、そのままガラス転移温度以下に温度が低下して固化し、重合容器3の吐出口3cを閉塞する恐れがある。
【0057】
ここで、最初のロットの製造が終了する。
【0058】
引き続き、次のロット(2ロット目)の製造を行うべく、最初のロットの製造と同様の手順で、アシル化工程、樹脂生成工程、樹脂吐出工程および樹脂再吐出工程を順に実行する。このときも、最初のロットの製造時と同様、重合容器3内に残存した液晶樹脂Pが固化して重合容器3の吐出口3cを閉塞する事態の発生を回避することができる。
【0059】
以下、同様にして3ロット目以降の製造を行い、最後のロットの製造が終了したところで、液晶樹脂Pの製造工程が完了する。
【0060】
このように、上述した液晶樹脂Pの製造方法においては、各ロットに対する樹脂吐出工程の後であって当該ロットの次のロットに対する樹脂生成工程の前に樹脂再吐出工程が組み込まれるため、重合容器3の吐出口3cが液晶樹脂Pによって閉塞される事態を回避することができる。したがって、液晶樹脂Pがガラス転移温度を有する場合であっても、この液晶樹脂Pをバッチ式重合法で工業的に効率よく製造することが可能となる。
【0061】
なお、上述したとおり、アシル化工程では反応容器2のみを使用するとともに、樹脂生成工程、樹脂吐出工程および樹脂再吐出工程では重合容器3のみを使用することから、各ロットの樹脂生成工程、樹脂吐出工程および樹脂再吐出工程を実行している間に、その次のロットのアシル化工程を併せて実行する。こうすることにより、製造設備1を構成する反応容器2および重合容器3におけるアイドル時間をなるべく短くして、全ロットを通じた液晶樹脂Pの製造を短時間で効率的に行うことができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0062】
なお、上述した実施の形態1では、樹脂生成工程の前にアシル化工程が組み込まれた液晶樹脂Pの製造方法について説明したが、使用する原料Mの種類によっては、このアシル化工程を省くことも可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0064】
まず、1ロット目の製造を行った。
【0065】
すなわち、アシル化工程で、攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計および還流冷却器を備えた反応容器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸35モル%、4−ヒドロキシアセトアニリド32.5モル%およびイソフタル酸32.5モル%を原料として仕込むとともに、これらの原料をアシル化するための脂肪酸無水物として無水酢酸を仕込んだ。この無水酢酸の含有量は、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸および4−ヒドロキシアセトアニリドのフェノール性ヒドロキシル基とアミン基の合計に対して1.1倍当量となるようにした。そして、反応容器を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて145℃まで昇温し、その温度(145℃)を保持して3時間還流させた。
【0066】
その後、樹脂生成工程で、内容物を重合容器に移送し、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留出しながら、昇温して290℃に到達させた。
【0067】
次いで、樹脂吐出工程で、重合容器から液晶樹脂を0.05MPaのゲージ圧で吐出した。
【0068】
最後に、樹脂再吐出工程で、重合容器の吐出口を一旦閉じ、重合容器内を0.01MPaのゲージ圧で加圧して、重合容器内に溶融状態で残存している液晶樹脂を吐出した。
【0069】
そして、重合容器を大気圧に戻し、重合容器の吐出口において液晶樹脂の付着状況を目視で確認したところ、重合容器の吐出口が液晶樹脂によって閉塞されていないことが判明した。
【0070】
引き続き、2ロット目に移行し、ジャケットに水を流すことにより、重合容器の温度を150℃まで冷却した後、上述した1ロット目の製造と同様の手順で、2ロット目の製造を行った。そして、この2ロット目においても、重合容器の吐出口が液晶樹脂によって閉塞されていないことが判明した。
【0071】
引き続き、3ロット目に移行し、ジャケットに水を流すことにより、重合容器の温度を150℃まで冷却した後、上述した1ロット目の製造と同様の手順で、3ロット目の製造を行った。但し、3ロット目では、1ロット目の1.6倍のスケールで実施した。そして、この3ロット目においても、重合容器の吐出口が液晶樹脂によって閉塞されていないことが判明した。
<比較例1>
【0072】
樹脂再吐出工程における吐出圧力を0.01MPa(ゲージ圧)から0.005MPa(ゲージ圧)に変更したことを除き、上述した実施例1と同様にして、1ロット目の製造を行った。
【0073】
すなわち、アシル化工程で、攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計および還流冷却器を備えた反応容器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸35モル%、4−ヒドロキシアセトアニリド32.5モル%およびイソフタル酸32.5モル%を原料として仕込むとともに、これらの原料をアシル化するための脂肪酸無水物として無水酢酸を仕込んだ。この無水酢酸の含有量は、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸および4−ヒドロキシアセトアニリドのフェノール性ヒドロキシル基とアミン基の合計に対して1.1倍当量となるようにした。そして、反応容器を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて145℃まで昇温し、その温度(145℃)を保持して3時間還流させた。
【0074】
その後、樹脂生成工程で、内容物を重合容器に移送し、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留出しながら、昇温して290℃に到達させた。
【0075】
次いで、樹脂吐出工程で、重合容器から液晶樹脂を0.05MPaのゲージ圧で吐出した。
【0076】
最後に、樹脂再吐出工程で、重合容器の吐出口を一旦閉じ、重合容器内を0.005MPaのゲージ圧で加圧して、重合容器内に溶融状態で残存している液晶樹脂を吐出した。
【0077】
そして、重合容器を大気圧に戻し、重合容器の吐出口において液晶樹脂の付着状況を確認したところ、重合容器の吐出口が液晶樹脂によって閉塞されていることが判明した。そのため、2ロット目以降の製造を繰り返し行うことができなかった。
<液晶樹脂のガラス転移温度の測定>
【0078】
実施例1および比較例1で得られた液晶樹脂についてそれぞれ、ガラス転移温度を測定した。すなわち、セイコーインスツル(株)製の分析示差走査熱量測定システム「DSC6200」を用いて、10℃/分の昇温速度で得られる熱量プロファイルを測定し、吸熱曲線を求めた。こうして得られた吸熱曲線における吸熱ピークの最低温度を融点とし、この融点より低温側に現れる吸熱曲線における変極点となる温度をガラス転移温度とした。
【0079】
その結果、実施例1および比較例1で得られた液晶樹脂はいずれも、ガラス転移温度が130〜135℃の範囲にあることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、プリント配線板やパッケージ基板などの基板に絶縁樹脂基材の材料として用いられる液晶樹脂の製造に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1……製造設備
2……反応容器
2a……ケーシング
2b……投入口
3……重合容器
3a……ケーシング
3b……投入口
3c……吐出口
3d……コック
3e……傾斜面
5……ジャケット
P……液晶樹脂
M……原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合容器内で原料を溶融重合させて液晶樹脂を生成する樹脂生成工程と、この樹脂生成工程で生成された液晶樹脂を前記重合容器から吐出する樹脂吐出工程とが、複数のロットに対して繰り返し実行される液晶樹脂の製造方法であって、
各ロットに対する樹脂吐出工程の後であって当該ロットの次のロットに対する樹脂生成工程の前に、前記重合容器の吐出口に溶融状態で残存している液晶樹脂を0.005MPaを超えるゲージ圧で当該重合容器から再吐出する樹脂再吐出工程が組み込まれていることを特徴とする液晶樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記液晶樹脂が、50〜200℃の範囲内にガラス転移温度を有する液晶樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の液晶樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記液晶樹脂が、1,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位、2,3−フェニレン骨格を有するモノマー単位および2,3−ナフタレン骨格を有するモノマー単位からなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を全構造単位に対して10〜45モル%の割合で含む液晶樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記液晶樹脂は、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が20〜70モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が40〜15モル%の液晶樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液晶樹脂の製造方法。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【請求項5】
前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項4に記載の液晶樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−93971(P2011−93971A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247246(P2009−247246)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】