説明

液量測定装置及び液量測定方法

【課題】試験液体の充填及び気泡の注入を短期間で繰り返すことなく、被測定体から流出する液量を測定可能な液量測定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る液量測定装置(10)は、一端が被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14、16)と、測定通路(100)の他端に接続され、液体の飽和蒸気で満たされた密封容器(20)と、被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有する。測定通路(100)内の液体には、測定通路(100)内の液量変化に応じて測定通路(100)内を移動する気泡(110)が注入される。そして、解析装置(60)は、気泡(110)の移動量を算出し、その移動量に基づいて被測定体(1)から流出する液量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定体から流出する液量を測定する液量測定装置及び液量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料噴射装置のインジェクタなどの液漏れを検査するために、被測定体から流出する液量を測定する測定装置が知られている。例えば、特許文献1にそのような液量測定装置が開示されている。その液量測定装置は、インジェクタのような被測定体が一端に接続され、試験液体で充填された測定通路を有する。試験液体中には、気泡が注入されており、その気泡は、測定通路内の試験液体の液量変化に応じて測定通路内を移動するように構成されている。そして、液量測定装置は、その気泡をカメラで撮影した画像に基づいて、気泡の位置変化量を求めることにより、被測定体から流出する液量を測定する。さらに、液量測定装置は、測定通路内にダイアフラムを設けることによって、液量変化による気泡の最大移動量を制限して、気泡が測定可能範囲から外れることを防止している。
【0003】
【特許文献1】特開2005−172375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の液量測定装置では、長期間にわたって使用している間に、測定通路の開放端から試験液体が蒸発することによって気泡の位置が徐々にダイアフラム側へ変動する。そのため、気泡が測定可能範囲内に留まるよう、比較的短期間で繰り返し試験液体の充填及び気泡の注入を行わなければならなかった。
また、測定中に、液量測定装置に振動が加えられたり、温度変化などの環境変動が生じると、気泡の位置が変動してしまい、測定精度が低下する要因となっていた。
【0005】
そこで本発明は、試験液体の充填及び気泡の注入を短期間で繰り返すことなく、被測定体から流出する液量を測定可能な液量測定装置を提供することを目的とする。
また本発明は、振動が加えられた場合などでも、被測定体から流出する液量を正確に測定可能な液量測定装置及び液量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の形態によれば、被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置が提供される。係る液量測定装置は、一端が被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14、16)と、測定通路(100)の他端に接続され、液体の飽和蒸気で満たされた密封容器(20)と、被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有する。測定通路(100)内の液体には気泡(110)が注入される。その気泡(100)は、測定通路(100)内の液量変化に応じて測定通路(100)内を移動する。そして、解析装置(60)は、気泡(110)の移動量を算出し、その移動量に基づいて被測定体(1)から流出する液量を測定する。
測定通路を、その測定通路を満たす液体の飽和蒸気で満たされた密閉容器に接続したことにより、測定通路内の液体が蒸発することを防止できる。したがって、係る液量測定装置は、測定通路内の液体の蒸発に伴う気泡の移動を防止して、測定通路内への液体及び気泡の再注入を長期間行わなくても、被測定体から流出する液量を測定することができる。
【0007】
また、本発明の請求項5に記載の形態によれば、被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置が提供される。係る液量測定装置は、一端が被測定体(1)と接続された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14,16)と、測定通路(100)内に配置され、その測定通路(100)を、被測定体(1)が接続され、試験液体で充填された被測定体側通路(102)と、観測通路(104、106)とに仕切り、被測定体側通路(102)内の液量変化に応じて形状が変化するダイアフラム(30)と、観測通路(104、106)に充填され、測定環境下で蒸発しない高沸点液体(120)と、被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有する。高沸点液体(120)には、ダイアフラム(30)の形状変化に応じて観測通路(104、106)内を移動する気泡(110)が注入される。そして解析装置(60)は、気泡(110)の移動量を算出し、その移動量に基づいて被測定体(1)から流出する液量を測定する。
測定通路をダイアフラムで被測定体側通路と観測通路に分離し、観測通路を測定環境下で蒸発しない高沸点液体で満たしたことにより、観測通路内の液体が蒸発することを防止できる。したがって、係る液量測定装置は、観測通路内の液体の蒸発に伴う気泡の移動を防止して、観測通路内への液体及び気泡の再注入を長期間行わなくても、被測定体から流出する液量を測定することができる。
【0008】
また請求項6に記載のように、高沸点液体(120)は、その化学的安定性の高さ、温度による粘性変化の低さなどから、使用が容易なシリコンオイルであることが好ましい。
【0009】
また請求項2及び7に記載のように、本発明に係る液量測定装置は、気泡を連続的に撮影して、複数の測定画像を取得するカメラ(50)をさらに有し、解析装置(60)は、各測定画像について気泡(110)の位置を求め、各測定画像について求めた気泡(110)の位置に基づいて気泡(110)の移動量を算出することが好ましい。
【0010】
さらに請求項3及び8に記載のように、解析装置(60)は、少なくとも3枚の測定画像について気泡(110)の位置を求め、各測定画像について求めた気泡(110)の位置から、経過時間と気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの気泡(110)の移動量を算出することが好ましい。係る構成により、測定中に加えられた振動などによって気泡の位置が変動する場合でも、その位置変動による誤差を最小化するように気泡の位置を評価して、気泡の単位時間当たりの移動量を求めるので、正確に被測定体から流出する液量を測定することができる。
【0011】
さらに請求項4及び9に記載のように、解析装置(60)は、測定画像に写った気泡(110)の界面形状を求め、その界面形状を正常な気泡の界面形状と比較することにより、測定画像に写った気泡(110)が正常か否か判定することが好ましい。気泡と液体との界面は、通常球面となる。一方、異物などが測定通路内に混入して気泡と重なると、その界面形状は、異物の外形に依存して変形する。したがって、係る構成により、液量測定装置は、気泡と重なった異物を検出することができ、不正確な測定を行うことを防止できる。また測定通路の表面への異物付着、曇りなどで界面の一部が隠れてしまう場合も同様に検出することができ、不正確な測定を行うことを防止できる。
【0012】
また、本発明の請求項10に記載の形態によれば、被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置が提供される。係る液量測定装置は、一端が被測定体と接続され、液体が充填された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14、16)と、測定通路(100)を連続的に撮影して、複数の測定画像を取得するカメラ(50)と、複数の測定画像に基づいて被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有する。測定通路(100)内の液体には、測定通路(100)内の液量変化に応じて測定通路(100)内を移動する気泡(110)が注入される。そして解析装置(60)は、少なくとも3枚の測定画像について気泡(110)の位置を求め、各測定画像について求めた気泡(110)の位置から、経過時間と気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの気泡(100)の移動量を算出し、その単位時間当たりの移動量に基づいて被測定体(1)から所定期間に流出した液量を測定する。係る構成により、測定中に加えられた振動などによって気泡の位置が変動する場合でも、その位置変動による誤差を最小化するように気泡の位置を評価して、気泡の単位時間当たりの移動量を求めるので、正確に被測定体から流出する液量を測定することができる。
【0013】
また、本発明の請求項11に記載の形態によれば、被測定体から流出する液量を測定する液量測定方法が提供される。係る液量測定方法は、一端が被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)内に注入され、その測定通路(100)内の液量変化に応じて測定通路(100)内を移動する気泡(110)を撮影した測定画像を取得するステップと、少なくとも3枚の測定画像について気泡(110)の位置を算出するステップと、各測定画像について求めた気泡(110)の位置から、経過時間と気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの気泡(110)の移動量を算出するステップとを有する。
【0014】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る液量測定装置について詳細に説明する。係る液量測定装置は、被測定体から、所定期間内に流出する液量を測定する。被測定体は、例えば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン用のインジェクタであり、液量測定装置は、インジェクタの閉弁時におけるシート部からの漏れ量を測定する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る液量測定装置10を示す。液量測定装置10は、通路部材12、14、16、密閉容器20、ダイヤフラム30、液体供給装置40、カメラ50、および解析装置60を有する。
【0017】
通路部材12、14、16は、測定通路100を形成している。測定通路100は、通路部材12に形成された測定通路102と、通路部材14により形成された測定通路104と、通路部材16により形成された測定通路106とを有している。測定通路102は、インジェクタ1から漏れる液量を測定するために、試験液体140で満たされている。そして、測定通路102の一端に設けられた連結部130には、インジェクタ1が取り付けられる。さらに、通路部材12は、その連結部130の周囲に、試験液体140を貯留するためのタンク132を有しており、タンク132も試験液体140で満たされている。そして、連結部130は、タンク132に貯留された試験液体140中に油没されており、連結部130から測定通路100内に空気が流入することを防止している。
【0018】
一方、測定通路104及び測定通路106は、一体となって、後述する気泡110の位置を観測するための観測通路を形成している。また測定通路104及び測定通路106は、測定環境下では蒸発しないような高い沸点温度を有する液体120で満たされている。そのような高沸点液体として、例えば、シリコンオイルを使用することができる。また測定通路106の一端は、密閉容器20に接続されている。密閉容器20は、高沸点液体120及びその飽和蒸気122で満たされており、測定通路104及び106から高沸点液体120が蒸発することを防止している。
【0019】
また、測定通路104及び106に充填された高沸点液体120には、空気で形成された気泡110が注入されている。さらに、測定通路106を形成する通路部材16は、通路部材16の外から気泡110を観察できるように、光透過性材質(例えば、ガラス、透明プラスチック)で形成されている。また測定通路106の断面形状は円形である。測定通路106の通路径は、気泡110が測定通路104側の高沸点液体120と密閉容器20側の高沸点液体120を遮断するよう、例えば1mm以下に設定することが好ましい。さらに、測定通路106の通路径が小さいほど、インジェクタ1から流出した液量に対する気泡110の移動量が大きくなるので、正確に液量を検出できる。測定通路106の通路径の最小値は、気泡110が測定通路106を移動可能な通路径の最小値で決定される。数ミクロンの通路径であっても気泡110は測定通路106を移動可能である。
【0020】
ダイヤフラム30は、金属製の薄膜で形成されており、通路部材12と通路部材14との間に挟持されている。そしてダイヤフラム30は、測定通路100を、燃料噴射弁1側の測定通路102と、気泡110側の測定通路104及び106とに仕切っている。ダイヤフラム30と通路部材12、14との間はOリング46によりシールされ、測定通路104内の液体が測定通路102内へ漏れないようになっている。このため、測定通路102側と、測定通路104、106側とに異なる液体を充填することが可能となっている。ダイアフラム30は、測定通路102に流入する試験液体140の液量に応じて変形する。具体的には、ダイアフラム30は、測定通路102側に充填された試験液体140から受ける圧力と、測定通路104側に充填された高沸点液体120の圧力から受ける圧力が平衡している場合、略平面状となり、通路部材12によって係止される(すなわち、ダイアフラム30は基準位置に位置する)。そして、インジェクタ1から測定通路102に流入する試験液体140の液量が増加するにつれて、ダイアフラム30は測定通路104側へ湾曲して、試験液体140の増加量に相当する体積だけ測定通路104内の体積を減少させる。この体積の減少に伴い、測定通路104内の高沸点液体120が測定通路106側へ移動するので、測定通路106内に注入された気泡110も密閉容器20側へ移動する。また通路部材14には、測定通路104の端部において凹曲面を形成する凹部が形成されており、この凹部により液室が形成されている。ダイヤフラム30は通路部材12の端面および凹部により係止され、変位量を規制される。また、ダイヤフラム30は、インジェクタ1の連結部30の液面位置よりも高い位置に設置されている。これは、インジェクタ1から試験液体140が漏れない場合に、ダイヤフラム30が基準位置に位置させるためである。
【0021】
また、インジェクタ1を取り付けた状態で試験液体140及び高沸点液体120が漏れないように、各部材の接続箇所はシールされている。
【0022】
液体供給装置40は、測定期間中、インジェクタ1に対して、試験液体140を一定の圧力で加圧して供給する。液体供給装置40として、液体に圧力を加えて供給する公知の装置を含む、様々な装置を使用することができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
カメラ50は、CCDまたはC−MOSセンサなどの2次元検出器と、その2次元検出器上に物体の像を結像させる光学系を有し、所定の時間間隔(例えば、100msec間隔)で測定通路106中の気泡110を撮影する。そしてカメラ50は、気泡110が写った測定画像を取得する。得られた測定画像は、逐次解析装置60へ送信される。また測定画像が気泡110と高沸点液体120との界面の形状を識別可能な解像度を有するよう、例えば測定通路106の内径が測定画像上で約100画素の幅を有するように、カメラ50は構成される。
【0024】
解析装置60は、例えば、演算装置と記憶装置とを有するパーソナルコンピュータ(PC)と、ディスプレイ及びキーボードなどの周辺機器と、PC上で動作するコンピュータプログラムなどで構成される。そして解析装置60は、カメラ50から受信した各測定画像における気泡110の位置を検出し、検出した気泡110の位置から気泡110の単位時間当たりの移動量を求めて、インジェクタ1から流出した液量を測定する。また、解析装置60を、液体供給装置40を制御するコントローラとして用いてもよい。
【0025】
図2は、解析装置60による、インジェクタ1から流出した液量を測定するフローチャートを示す。
まず、解析装置60は、カメラ50から受信した各測定画像から、気泡110を検出する(ステップS101)。測定画像上では、気泡110に相当する領域と高沸点液体120に相当する領域では輝度が異なる。そこで解析装置60は、例えば、測定画像上で、測定通路106に相当する領域を所定の閾値で2値化して、高輝度領域を抽出することにより、気泡110に相当する領域を検出することができる。所定の閾値は、例えば、測定通路106に相当する領域に含まれる画素の平均輝度値とすることができる。なお、測定画像の2値化によって求めた2値化画像では、気泡110に相当する領域に含まれる画素は1の値を有し、それ以外の画素は0の値を有する。
【0026】
次に、解析装置60は、気泡110に相当する領域の平均輝度値Bavを算出し、所定の輝度範囲に含まれるか否か判定する(ステップS102)。所定の輝度範囲は、気泡110が異物を含まず正常に形成されている場合に取得された測定画像上の気泡110に相当する領域の平均輝度を略中心として、一定の輝度幅を持った範囲として予め設定される。その範囲は、気泡110が正常であると考えられる範囲として、実験的または経験的に定められる。ステップS102において、その平均輝度値Bavが所定の輝度範囲から外れている場合、気泡110そのものが存在しないか、異物を含む可能性が高いため、解析装置60は、測定を中止する。また解析装置60は、測定が中止されたこと及び測定中止の推定原因などを表す警告メッセージを、ディスプレイなどを通じて表示する。
【0027】
一方、ステップS102において、平均輝度値Bavが所定の輝度範囲に含まれる場合、解析装置60は、各測定画像上における、気泡110と高沸点液体120の界面形状を気泡110が正常な場合の界面形状と比較して、気泡110が正常か否か判定する(ステップS103)。図3(a)及び(b)を用いてこの様子を説明する。気泡110が正常な場合、図3(a)に示すように、気泡110と高沸点液体120の界面112は、球面状に形成されるため、測定画像上で界面112の形状は略円弧となる。一方、図3(b)に示すように、気泡110の近傍に異物301が存在すると、界面112は異物301と気泡110の境界に沿って形成されるため、測定画像上で界面112の形状は異物301の外形に依存した形状となる。
【0028】
そこで、解析装置60は、例えばテンプレートマッチングにより、測定画像上の気泡110が正常な気泡か否か判定することができる。この場合、正常な気泡110の形状を表すテンプレートが予め準備され、解析装置60の記憶部に保存しておく。そのテンプレートは、例えば気泡110に相当する領域に含まれる画素は1の値を有し、それ以外の画素は0の値を有する2値画像である。そして解析装置60は、上記の測定画像の2値化画像と、テンプレートとのパターンマッチングを行って一致度を算出する。その一致度は、例えば、2値化画像とテンプレートの対応する画素の値が一致する画素の数が、テンプレートの総画素数に占める割合として求められ、気泡110に相当する領域とテンプレートが完全に一致する場合1となる。そして、一致度が所定の閾値(例えば、0.9)未満となった場合、解析装置60は、測定を中止する。
同様に、解析装置60は、測定通路106の表面に異物が付着したり、曇ることによって、気泡110の界面の一部または全部が隠れる場合も、上記の方法によって測定画像上の気泡が正常でないと判定し、測定を中止する。
【0029】
また、解析装置60は、別の方法により、測定画像上の気泡110が正常な気泡か否か判定してもよい。例えば、解析装置60は、近傍画素間の差分演算によって、界面112上に存在する境界画素を複数検出し、正常な気泡110から求めた所定の円弧上に存在する境界画素の合計数を求める。そして解析装置60は、その合計数が所定の閾値未満の場合、測定画像上の気泡110が正常でないと判定することができる。
【0030】
一方、ステップ103において、一致度が所定の閾値以上となった場合、解析装置60は、界面112の位置を算出する(ステップS104)。本実施形態では、気泡110のダイアフラム30側の界面112の位置が、気泡110の位置を表す値として算出される。そこで解析装置60は、上記の2値化画像において、測定通路106と略平行な方向に沿った各ライン上で、ダイアフラム30側から密閉容器20側へ画素値を順に調べ、画素値が0から1に変わる画素を、界面112に位置する境界画素として求める。
【0031】
図4に示すように、測定画像上で測定通路106が水平方向に延びるように写っており、左側にダイアフラム30が存在する場合を例として説明する。解析装置60は、測定通路106に相当する領域に含まれる各ライン401〜405上で、左側から順に2値化画像の画素値を調べる。そして、解析装置60は、最初に画素値が1となった画素411〜415をそれぞれ界面112に位置する境界画素とする。境界画素が求まると、解析装置60は、境界画素の位置を平均し、界面112の位置とする。例えば、図4の場合、解析装置60は、各境界画素411〜415の水平座標を平均し、界面112の位置とする。
なお、解析装置60は、測定画像を直接測定通路106に沿った方向に差分演算を行って、界面112上の境界画素を求めてもよい。また、解析装置60は、界面112の位置を、境界画素の位置の平均値とする代わりに、最もダイアフラム30に近い画素の位置若しくは最もダイアフラム30から遠い画素の位置を、界面112の位置として算出してもよい。
【0032】
解析装置60は、複数の測定画像について求めた界面112の位置から、単位時間(例えば、1秒)当たりの気泡110の移動量を算出する(ステップS105)。上記のように、液体供給装置40は、測定期間中、一定の圧力で試験液体140を加圧するため、インジェクタ1が液漏れを生じる場合、インジェクタ1から単位時間当たりに流出する液量は一定である。したがって、気泡110は、一定の速度で密閉容器20の方へ移動する。 しかし、測定中に液量測定装置10に振動が加えられたり、温度変化などの環境変化が生じる場合、気泡110の位置が変動して、測定誤差を生じる要因となる。また、測定中に気泡110の形状が変化することもある。このような場合も、気泡110の位置がずれて観測されるので、測定誤差を生じる要因となる。
【0033】
そこで解析装置60は、複数の測定画像について求めた界面112の位置と、各測定画像の取得時間との関係を、例えば最小二乗法を用いて直線近似することにより、単位時間当たりの気泡110の移動量(すなわち、気泡110の移動量を時間の1次関数として表したときの傾き)を算出する。そのため、振動などによって、気泡110の位置が変動しても、液量測定装置10は、その位置変動による誤差を最小化するように気泡の位置を評価して、気泡の単位時間当たりの移動量を正確に求めることができる。
本実施形態では、上記のように、測定画像は一定の時間間隔で取得され、古いものから順に解析装置60へ送られているので、解析装置60は、最初に受信した測定画像を基準として、他の測定画像の取得時間を決定できる。
【0034】
最後に、解析装置60は、気泡110の単位時間当たりの移動量に、測定通路106の断面積と、所定の測定期間(例えば、1分間)とを乗じて、インジェクタ1から流出した試験液体140の液量を算出する(ステップS106)。そして解析装置60は、算出した液量をディスプレイ等に表示させる。また、解析装置60は、算出した液量が規定以上であった場合、インジェクタ1を不良品と判定し、その液量が規定未満であった場合、インジェクタ1を良品と判定するようにしてもよい。
【0035】
次に、図5に示すフローチャートを参照しつつ、インジェクタ1の漏れ量を測定する手順について説明する。
(1)まず、測定通路102の連結部130に何も接続せず、連結部130にかかる圧力を大気圧として、気泡110を測定開始時の基準位置へ移動させる(ステップS201)。このとき、ダイアフラム30は、上記のように、通路部材12で係止される。
(2)次に、被検査体であるインジェクタ1を、その弁が閉じた状態で、連結部130に接続し、液量検査装置10に設置する(ステップS202)。
(3)インジェクタ1の設置を終えると、液体供給装置40により、インジェクタ1に対して試験液体140の供給を開始する(ステップS203)。液体供給装置40は、試験液体140の供給中、一定の圧力で試験液体140を加圧する。
【0036】
(4)インジェクタ1が液漏れを生じる場合、インジェクタ1から流出する試験液体140によって、ダイアフラム30が変形する(ステップS204)。すなわち、インジェクタ1から測定通路102に流入する試験液体140の液量が増加するにつれて、ダイアフラム30は測定通路104側へ湾曲して、試験液体140の増加量に相当する体積だけ測定通路104内の体積を減少させる。
(5)ダイアフラム30の変形に伴い、測定通路104内の高沸点液体120が測定通路106側へ移動するので、測定通路106内に注入された気泡110も密閉容器20側へ移動する。(ステップS205)。
(6)試験液体140の供給開始とともに、カメラ50は気泡110を撮影した測定画像の取得を開始する。そしてカメラ50は、所定の時間間隔(例えば、100msec間隔)で測定画像を取得し、解析装置60へ送る。解析装置60は、それら複数の測定画像に基づいて、気泡110の単位時間当たりの移動量を算出する。さらに解析装置60は、その移動量に基づいて、インジェクタ1について、所定時間当たりの液漏れ量を算出する(ステップS206)。また液漏れ量、良否判定結果などをディスプレイ等に表示する。なお、気泡110の単位時間当たりの移動量及びインジェクタ1の液漏れ量の算出の詳細については、上述したとおりである。
【0037】
(7)1回の検査当たりの測定時間が経過すると、液体供給装置40からインジェクタ1への試験液体140の供給を停止する(ステップ207)。
(8)インジェクタ1を通路部材12の連結部30から取り外す(ステップ208)。これにより、測定通路102に印加される圧力は大気圧に戻るので、ダイヤフラム30は基準位置に戻り、通路部材12の端面に係止される(ステップ209)。ダイヤフラム30が基準位置に戻ると、気泡110も通路部材16内の測定通路106で基準位置に戻る(ステップ210)。
以後、別のインジェクタを検査する度に、上記の(ステップS201)〜(S210)の手順を繰り返す。
【0038】
以上説明してきたように、本発明の一実施形態に係る液量測定装置10は、気泡110が注入された測定通路106の開放端を密閉容器20に接続し、その密閉容器20内を測定通路104及び106に充填された液体の飽和蒸気で満たす。さらに、測定通路100をダイアフラム30で仕切り、測定通路104及び106を満たす液体に、測定環境下では蒸発し難い高沸点液体120を使用した。係る構成により、液量測定装置10は、測定通路104及び106を満たす液体の蒸発による気泡110の移動を抑制できる。従って、測定通路104及び106への液体及び気泡の再注入といったメンテナンス作業を長期間行わなくても、液量測定装置10を使用することができる。
【0039】
また液量測定装置10は、気泡110を撮影した測定画像を解析して界面の形状を調べることにより、測定通路106内への異物の混入など、測定精度の劣化要因を発見して警告することができるので、誤った検査結果を出力する可能性を低減できる。
さらに液量測定装置10は、気泡の移動量と時間との関係を、複数の測定画像に基づいて線形近似することにより、単位時間当たりの気泡の移動量を正確に算出することができる。そのため、インジェクタ1から流出した液体の液量を、正確に測定することができる。
【0040】
なお、上述してきた実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、インジェクタの液漏れ量の測定に限らず、他の流体流量を制御する流量制御弁の漏れ量の測定に適用することもできる。また、液漏れ量の測定に限らず、被測定体から流出する微量の液量を測定する場合に本発明を適用することも可能である。
さらに、上記の実施形態において、密閉容器20の内部を、試験液体140の飽和蒸気で満たすことにより、測定通路102、測定通路104及び106を、同一の試験液体140で満たしてもよい。この場合には、ダイアフラム30を省略してもよい。あるいは、測定通路104及び106を上記のような測定環境下で蒸発しない高沸点液体120で満たし、密閉容器20を除去して、測定通路106の一端を大気中に開放してもよい。
【0041】
また、本実施形態では、空気で気泡110を形成したが、測定通路104及び106を満たす液体に溶け難い、他の気体を用いて気泡110を形成してもよい。
さらに、測定通路102を途中で分岐して、大気中に開放する開放通路と、その開放通路を開閉するための開閉弁を設けてもよい。このような構成とすることで、ダイアフラム30に掛かる圧力を調整して、測定開始時における測定通路106内の気泡110の位置を調整することができる。
このように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る液量測定装置の概略構成図である。
【図2】解析装置による、インジェクタから流出した液量を測定するフローチャートである。
【図3】(a)は正常な場合の気泡の界面の形状を概略的に示す図であり、(b)は気泡の近傍に異物が存在する場合の界面の形状を概略的に示す図である。
【図4】気泡の界面の位置決定の方法を概略的に示す図である。
【図5】インジェクタの液漏れ量を測定する手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 インジェクタ(被測定体)
10 液量測定装置
12、14、16 通路部材
100、102、104、106 測定通路
110 気泡
112 界面
120 高沸点液体
122 飽和蒸気
130 連結部
132 タンク
140 試験液体
20 密閉容器
30 ダイアフラム
40 液体供給装置
50 カメラ
60 解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置であって、
一端が前記被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14、16)と、
前記測定通路(100)の他端に接続され、前記液体の飽和蒸気で満たされた密封容器(20)と、
前記被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有し、
前記液体に、前記測定通路(100)内の液量変化に応じて前記測定通路(100)内を移動する気泡(110)が注入され、前記解析装置(60)は、前記気泡(110)の移動量を算出し、該移動量に基づいて前記被測定体(1)から流出する液量を測定することを特徴とする液量測定装置。
【請求項2】
前記気泡を連続的に撮影して、複数の測定画像を取得するカメラ(50)をさらに有し、
前記解析装置(60)は、前記各測定画像について前記気泡(110)の位置を求め、前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置に基づいて前記気泡(110)の移動量を算出する、請求項1に記載の液量測定装置。
【請求項3】
前記解析装置(60)は、少なくとも3枚の前記測定画像について前記気泡(110)の位置を求め、前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置から、経過時間と前記気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの前記気泡(110)の移動量を算出する、請求項2に記載の液量測定装置。
【請求項4】
前記解析装置(60)は、前記測定画像に写った気泡(110)の界面形状を求め、該界面形状を正常な気泡の界面形状と比較することにより、前記測定画像に写った気泡(110)が正常か否か判定する、請求項2または3に記載の液量測定装置。
【請求項5】
被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置であって、
一端が前記被測定体(1)と接続された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14,16)と、
前記測定通路(100)内に配置され、前記測定通路(100)を、前記被測定体(1)が接続され、試験液体で充填された被測定体側通路(102)と、観測通路(104、106)とに仕切り、前記被測定体側通路(102)内の液量変化に応じて形状が変化するダイアフラム(30)と、
前記観測通路(104、106)に充填され、測定環境下で蒸発しない高沸点液体(120)と、
前記被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有し、
前記高沸点液体(120)に、前記ダイアフラム(30)の形状変化に応じて前記観測通路(104、106)内を移動する気泡(110)が注入され、前記解析装置(60)は、前記気泡(110)の移動量を算出し、該移動量に基づいて前記被測定体(1)から流出する液量を測定することを特徴とする液量測定装置。
【請求項6】
前記高沸点液体(120)は、シリコンオイルである、請求項5に記載の液量測定装置。
【請求項7】
前記気泡(110)を連続的に撮影して、複数の測定画像を取得するカメラ(50)をさらに有し、
前記解析装置(60)は、前記各測定画像について前記気泡(110)の位置を求め、前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置に基づいて前記気泡(110)の移動量を算出する、請求項5または6に記載の液量測定装置。
【請求項8】
前記解析装置(60)は、少なくとも3枚の前記測定画像について前記気泡(110)の位置を求め、前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置から、経過時間と前記気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの前記気泡(110)の移動量を算出する、請求項7に記載の液量測定装置。
【請求項9】
前記解析装置(60)は、前記測定画像に写った気泡(110)の界面形状を求め、該界面形状を正常な気泡の界面形状と比較することにより、前記測定画像に写った気泡(110)が正常か否か判定する、請求項7または8に記載の液量測定装置。
【請求項10】
被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定装置であって、
一端が前記被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)を設けた通路部材(12、14、16)と、
前記測定通路(100)を連続的に撮影して、複数の測定画像を取得するカメラ(50)と、
前記複数の測定画像に基づいて前記被測定体(1)から流出する液量を測定する解析装置(60)とを有し、
前記液体に、前記測定通路(100)内の液量変化に応じて前記測定通路(100)内を移動する気泡(110)が注入され、前記解析装置(60)は、少なくとも3枚の前記測定画像について前記気泡(110)の位置を求め、前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置から、経過時間と前記気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの前記気泡(100)の移動量を算出し、該単位時間当たりの移動量に基づいて前記被測定体(1)から所定期間に流出した液量を測定することを特徴とする液量測定装置。
【請求項11】
被測定体(1)から流出する液量を測定する液量測定方法であって、
一端が前記被測定体(1)と接続され、液体が充填された測定通路(100)内に注入され、該測定通路(100)内の液量変化に応じて該測定通路(100)内を移動する気泡(110)を撮影した測定画像を取得するステップと、
少なくとも3枚の前記測定画像について前記気泡(100)の位置を算出するステップと、
前記各測定画像について求めた前記気泡(110)の位置から、経過時間と前記気泡(110)の移動量の関係を線形近似して、単位時間当たりの前記気泡(110)の移動量を算出するステップと、
を有することを特徴とする液量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−19972(P2009−19972A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182280(P2007−182280)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】