説明

深絞り成形用熱収縮性多層フィルム及びその製造方法

【課題】高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを提供すること。
【解決手段】グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り成形用の蓋材、底材等として有用な深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、延伸収縮性の多層フィルムは生肉、畜肉加工品、魚、チーズ、スープ類といった食品包装に広く用いられている。これらの内容物の包装方法として、バッグ又はパウチの袋に内容物を充填包装する方法、縦ピロー・横ピロー包装機械にて製袋直後のフィルムに充填包装する方法、深絞り成形により充填包装する方法等が一般的に行われている。
【0003】
ここで、生肉包装の場合、その多くはバッグ充填包装されており、このようなバック充填包装としては、手作業にて生肉をバッグ内に充填し、真空チャンバー内にて減圧(真空)脱気した後に、開口部をシールし包装体を得るという方法が行われている。このような一連の充填包装方法は充填速度が遅く、経済的な観点から充填速度の増速が求められていた。
【0004】
一方、前記バッグ充填包装に比べて充填速度が速い深絞り包装には、未延伸、非収縮性の多層フィルムが用いられており、特に、ハム、焼豚、ベーコンといった異形な内容物を充填包装した場合、フィルムの収縮性が乏しいために包装体に皺が入り易く、内容物とのフィット性に欠け内容物の液汁が溜り易くなるという欠点がある。また、フィルムの収縮性が乏しいためにフィルムの密着性が悪くなり、内容物の保存性が悪くなるという欠点もある。
【0005】
これらの問題を解決するために、特表2003−535733号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂からなる表面層(a)、ポリアミド系樹脂からなる中間層(b)、およびシール可能な樹脂からなる表面層(c)の少なくとも3層からなり、−10℃における厚さ50μm換算における衝撃エネルギーが1.5ジュール以上である延伸配向多層フィルムが開示されており、明細書中において、PET/mod−VL/Ny/EVOH/mod−VL/LLDPE樹脂構成からなる収縮性多層フィルムの深絞り包装が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の収縮性多層フィルムにおいては、内容物の保存性に関連する酸素ガスバリア性を有するNy及びEVOHは湿度依存性を有しており、特に高湿度下における酸素透過度が高値となるために、高湿度下での酸素ガスバリア性に劣るという点において必ずしも十分なものではなかった。
【0007】
一方、酸素ガスバリア性に優れ、その湿度依存性がない材料としては、塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)が知られているが、PVDCは熱分解し易く、各種の樹脂との共押出(溶融)加工においては、積層する樹脂の組合せが問題となる。例えば、ポリエチレン、エチレン系共重合体、アイオノマーといった低融点樹脂との組合せでは容易に共押出加工が可能であるが、PET、Nyといった融点が200℃を超える高融点樹脂との組合せにおいては共押出加工が非常に難しいという問題があった。
【特許文献1】特表2003−535733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲である深絞り成形用熱収縮性多層フィルムが、高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなるフィルムの少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなるフィルムが積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)が、下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
により表される繰り返し単位を60質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層と、前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層と、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層と、シーラント樹脂(d)からなる内層とを備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記第二の熱可塑性樹脂(c)が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記シーラント樹脂(d)が、ポリエチレン単独重合体、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレン単独重合体、ポリプロピレン共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記内層が、前記シーラント樹脂(d)70〜97質量%と接着性樹脂(e)3〜30質量%とを混合した樹脂からなることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において50cm/m・day・atm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の深絞り成形用底材フィルムは、前記深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の深絞り成形用蓋材フィルムは、前記深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ10〜35%の範囲であることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の深絞り成形用フィルムキットは、前記深絞り成形用底材フィルムと前記深絞り成形用蓋材フィルムとからなることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の深絞り包装体は、前記深絞り成形用底材フィルムと、前記深絞り成形用蓋材フィルムとを備えることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、溶融された少なくとも2種の樹脂を管状に共押出しして管状体を形成する工程と、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向(管状体の流れ方向)に引出しつつ縦方向及び横方向(管状体の円周方向)にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、
前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和(弛緩)処理する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
先ず、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムについて説明する。すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とするものである。また、本発明においては、第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層と、前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層と、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層と、シーラント樹脂(d)からなる内層とを備えることが好ましい。
【0027】
(グリコール酸(共)重合体樹脂)
本発明で使用するグリコール酸(共)重合体樹脂(a)としては、例えば、ポリグリコール酸の単独重合体、ポリグリコール酸の共重合体を挙げることができる。また、本発明においては、前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)が、下記一般式(1):
【0028】
【化2】

【0029】
により表される繰り返し単位を60質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることが好ましく、上記繰り返し単位を70質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることがより好ましく、上記繰り返し単位を80質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることが特に好ましい。前記ポリグリコール酸中の前記一般式(1)により表される繰り返し単位が前記下限未満であると、ポリグリコール酸が本来有している結晶性が損われ、得られる熱収縮性多層フィルムのガスバリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0030】
また、前記ポリグリコール酸には、前記一般式(1)で表わされる繰り返し単位以外の繰り返し単位として、例えば、下記一般式(2)〜(6)からなる群から選択される少なくとも一つの繰り返し単位を含有させることができる。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
上記一般式(2)において、nは1〜10の整数を表し、mは0〜10の整数を表す。また、上記一般式(3)において、jは1〜10の整数を表す。さらに、上記一般式(4)において、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、kは2〜10の整数を表す。これらのその他の繰り返し単位を1質量%以上の割合で導入することにより、前記ポリグリコール酸の単独重合体の融点を下げることができる。そして、前記ポリグリコール酸の融点を下げれば、加工温度を下げることができ、溶融加工時の熱分解を低減させることができる。また、このように共重合させることにより、ポリグリコール酸の結晶化速度を制御して、加工性を改良することもできる。
【0037】
また、このようなポリグリコール酸を合成する方法としては、グリコール酸の脱水重縮合する方法、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合する方法、グリコリドの開環重合する方法等を挙げることができる。これらの中でも、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120〜250℃の温度に加熱して、開環重合する方法によってポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)を合成する方法が好ましい。なお、このような開環重合は、塊状重合法または溶液重合法によることが好ましい。
【0038】
一方、ポリグリコール酸の共重合体は、グリコール酸、グリコール酸アルキルエステル、グリコリドからなる群から選択される少なくとも1種と共重合成分を共重合させることにより合成することができる。このような共重合成分としては、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそれらのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール;こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのアルキルエステルを挙げることができる。これらの共重合成分は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0039】
また、これらの中でも、共重合させやすく、かつ物性に優れた共重合体が得られやすいという観点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート等の環状化合物;乳酸等のヒドロキシカルボン酸が好ましい。なお、これらの共重合成分は、全仕込みモノマー量の通常45質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で使用する。これらの共重合成分の割合が大きくなると、生成する重合体の結晶性が損なわれやすくなり、得られる熱収縮性多層フィルムの耐熱性、ガスバリア性、機械的強度等が低下する傾向にある。
【0040】
このようなグリコール酸(共)重合体樹脂は、においセンサーによる測定やL−メントールの透過量の測定等から見て、EVOHよりも保香性に優れており、アルコール透過防止性の点でも、EVOHより優れている。さらに、このようなグリコール酸(共)重合体樹脂は、温度270℃及び剪断速度120sec−1の条件下において測定した溶融粘度が300〜10,000Pa・sであることが好ましく、400〜8,000Pa・sであることがより好ましく、500〜5,000Pa・sであることが特に好ましい。
【0041】
また、このようなグリコール酸(共)重合体樹脂の融点(Tm)は、200℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。例えば、ポリグリコール酸の融点は約220℃であり、ガラス転移温度は約38℃で、結晶化温度は約91℃である。ただし、これらのグリコール酸(共)重合体樹脂の融点は、ポリグリコール酸の分子量や共重合成分等によって変動する。
【0042】
なお、本発明においては、グリコール酸(共)重合体樹脂を単独で使用することができるが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、グリコール酸(共)重合体樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤などを配合した樹脂組成物を使用することができる。また、グリコール酸(共)重合体樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0043】
(第一の熱可塑性樹脂)
本発明で使用する第一の熱可塑性樹脂(b)としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0044】
これらの第一の熱可塑性樹脂(b)の中でも、前述したグリコール酸(共)重合体樹脂の延伸性、強度等を補うことができるという観点から、ポリアミド系樹脂が好ましい。このようなポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン69、ナイロン610等の脂肪族ポリアミド重合体;ナイロン6/66、ナイロン6/69、ナイロン6/610、ナイロン6/12等の脂肪族ポリアミド共重合体を挙げることができる。これらの中でも、ナイロン6/66やナイロン6/12が成形加工性の点で特に好ましい。これらの脂肪族ポリアミド(共)重合体は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0045】
また、このようなポリアミド系樹脂としては、これらの脂肪族ポリアミド(共)重合体を主体とし、芳香族ポリアミドとのブレンド物も用いてもよい。このような芳香族ポリアミドとは、ジアミン及びジカルボン酸の少なくとも一方が芳香族単位有するものをいい、その例としては、ナイロン66/610/MXD6(ここで「MXD6」はポリメタキシリレンアジパミドを示す)、ナイロン66/69/6I、ナイロン6/6I、ナイロン66/6I、ナイロン6I/6T(ここで「ナイロン6I」はポリヘキサメチレンイソフタラミド、「ナイロン6T」はポリヘキサメチレンテレフタラミドを示す)等が挙げられる。これらのポリアミド系樹脂は、単独で又は2種以上を混合して、融点が160〜210℃となるものが好ましく用いられる。さらに、これらのポリアミド系樹脂には、マレイン酸等の酸またはこれらの無水物によって変成されたオレフィン系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びそのケン化物等の熱可塑性樹脂を30質量%程度まで含有させることができる。
【0046】
(第二の熱可塑性樹脂)
本発明で使用する第二の熱可塑性樹脂(c)としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂を挙げることができる。これらの第二の熱可塑性樹脂の中でも、透明性、表面硬度、印刷性、耐熱性等の表面特性に優れるという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0047】
(シーラント樹脂)
本発明で使用するシーラント樹脂(d)としては、90〜250℃の範囲において適当なシール強度を有するものを挙げることができる。このようなシーラント樹脂(d)としては、例えば、ポリエチレンの単独重合体もしくは共重合体、ポリプロピレンの単独重合体もしくは共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーを挙げることができる。これらのシーラント樹脂(d)は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0048】
また、本発明においては、隣接する樹脂層との接着性の観点から、前記シーラント樹脂(d)に接着性樹脂(e)を3〜30質量%の範囲で混合して用いることが好ましい。
【0049】
(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)
本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムは、前述したグリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、前述した第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなるフィルムである。そして、本発明の収縮性多層フィルムにおいては、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率(10秒間)がそれぞれ3〜35%の範囲であることが必要である。熱水収縮率が3%未満であると内容物とのタイトフィット性が悪くなり、他方、35%を超えると延伸後の非晶部の配向が緩められていないために深絞り性が悪くなる。なお、熱水収縮率は後述する実施例で説明する通りの方法で測定した値である。
【0050】
また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることが好ましい。熱水収縮率が上記下限未満では、熱水収縮時において絞り部の内容物へのフィット性が不足し、さらにはシール部における収縮が不足する傾向にあり、他方、上記上限を超えると、包装された内容物の角が潰れやすくなり、場合によってはシール部が収縮応力により剥がれてしまう傾向にある。さらに、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ10〜35%の範囲であることが好ましい。熱水収縮率が上記下限未満では、蓋材の内容物に対するフィット性が不足し、しわが発生しやすくなる傾向にあり、他方、上記上限を超えると熱水収縮時において蓋材に底材側が引っ張られるためにつっぱり皺が生じやすく、さらには内容物へのフィット性が不足する傾向にある。
【0051】
さらに、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、フィルムの厚みが60〜150μmの範囲であることが好ましい。フィルムの厚みが60μm未満では、強度やガスバリア性が不満足となる傾向にある。他方、150μmを超えると、フィルム製造時のインフレーション延伸における内圧が高くなり、製膜が難しくなる傾向にある。また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、フィルムの厚みが30〜90μmの範囲であることが好ましい。フィルムの厚みが30μm未満では、強度、ガスバリア性等が不満足となる傾向にある。他方、90μmを超えると、包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。また、蓋材はフラット状に成形もしくは浅絞り成形され用いられることになるため、厚みが90μm以下でも十分な強度、ガスバリア性等が保持される傾向にある。
【0052】
なお、本発明においては、このような底材フィルムとこのような蓋材フィルムとを組み合わせて深絞り成形用フィルムキットとして使用することができる。そして、このような深絞り成形用フィルムキットを用いると、高湿度条件においても長期間の保管が可能な深絞り包装体を得ることができる。
【0053】
また、本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムは、前述したグリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、前述した第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなるフィルムであるが、前述した第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層と、前述したシーラント樹脂(d)からなる内層とをさらに備えることが好ましい。さらに、上記各層の層間の接着性の観点から、上記各層の他に接着性樹脂(e)からなる接着剤層を備えていてもよい。ここで、本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムの積層態様の例を示す。ただし、これらはあくまでも例示であって、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
1:(a)/(e)/(b)、
2:(a)/(e)/(b)/(d)、
3:(c)/(e)/(a)/(e)/(d)、
4:(c)/(e)/(b)/(e)/(a)/(e)/(d)。
【0054】
このようなグリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の厚さとしては、中間層の厚みが1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。中間層の厚みが前記下限未満では、高ガスバリア性の機能が得られない傾向にあると共に、押出し加工、製膜時における膜厚みのコントロールが難しくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、得られるフィルムの剛性が増加し過ぎると共に包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。なお、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、中間層の厚みが2〜20μmであることが好ましく、2〜15μmであることがより好ましく、2〜10μmであることが特に好ましい。また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、中間層の厚みが1〜10μmであることが好ましい。
【0055】
また、このような第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層の厚さとしては、樹脂層の厚みが5〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。樹脂層の厚みが前記下限未満では、包装体の強度が不足する傾向にある。他方、前記上限を超えると、フィルムが硬すぎるために延伸性が悪くなる傾向にある。
【0056】
さらに、このような第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層の厚さとしては、外層の厚みが1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。外層の厚みが前記下限未満では、包装体の強度が不足する傾向にある。他方、前記上限を超えると、フィルムが硬すぎるために延伸性が悪くなる傾向にある。
【0057】
また、このようなシーラント樹脂(d)からなる内層の厚さとしては、内層の厚みが10〜120μmであることが好ましく、10〜80μmであることがより好ましい。内層の厚みが前記下限未満では、十分なシール強度が得られない傾向にある。他方、前記上限を超えると、包装体の強度が不足すると共にフィルムの透明性が悪くなる傾向にある。
【0058】
さらに、このような接着性樹脂(e)からなる接着剤層の厚さとしては、接着剤層の厚みが1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。接着剤層の厚みが前記下限未満では、十分な接着力が得られない傾向にある。他方、前記上限を超えても、それ以上の接着力の向上は見込めず、さらには包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。
【0059】
このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において50cm/m・day・atm以下であることが好ましく、30cm/m・day・atm以下であることがより好ましく、更に好ましくは20cm/m・day・atm以下であることが特に好ましい。酸素ガス透過度が前記上限を超えると、内容物が酸化し易い生肉などの食品を包装した場合、包装体の保存時に赤味が無くなる等の劣化が起こる傾向にある。
【0060】
また、このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、透湿度(WVTR)が、20g/m・day以下であることが目減りの点で好ましい。透湿度(WVTR)が20g/m・dayを超えると、包装体の内容物の水分が透過して蒸散し易くなり、包装体の質量である賞味量が保持できなくなる傾向にある。
【0061】
さらに、このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、ヘイズ値(曇価)が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。ヘイズ値が前記上限を超えると、包装体の内容物の形状、色相等を目視により判断するができない傾向にある。
【0062】
また、このような深絞り成形用収縮性多層フィルムは、十分な強度を有することが望ましい。例えば、内容物が骨付き肉等の場合にはフィルムが硬い鋭利な突起物により突刺されて穴が開くことや突起物があったときに落下や繰返し衝撃(特に低温時)に穴(ピンホール)が開くことがあるからである。このような強度を評価する方法としては、後述する実施例で説明する突刺し強度試験、ゲルボフレックス試験(ねじり試験、温度条件:5℃)、六角回転強度試験等の方法を挙げることができる。
【0063】
(深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法)
次いで、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法について説明する。すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、溶融された少なくとも2種の樹脂を管状に共押出しして管状体を形成し、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向(管状体の流れ方向)に引出しつつ縦方向及び横方向(管状体の円周方向)にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成し、
次いで、前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和(弛緩)処理することによって、
前述した本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを得る方法である。
【0064】
本発明においては、包装用のフィルムに要求される諸特性の改善を実現するという観点から、延伸倍率が縦方向及び横方向(MD/TDの各方向)において、それぞれ2.5〜4倍であることが好ましい。延伸倍率が2.5未満では、熱処理後に必要なフィルムの熱収縮性が得られず、またフィルムの偏肉も大きくなり、包装適性が得られ難い傾向がある。
【0065】
また、本発明においては、緩和熱処理条件である熱処理温度が60〜95℃範囲であることが好ましい。熱処理温度が60℃未満であると熱処理時の緩和がとり難くなる傾向にあり、他方、95℃以上を超えるとバブルが蛇行し不安定となる傾向にある。さらに、本発明においては、緩和率が10〜35%の範囲であることが好ましい。緩和率が10%未満であると深絞り適正が不満足となる傾向にあり、他方、35%を超えると緩和後のバブルが不安定となり、幅斑を起こし安定製造が出来なくなる傾向にある。
【0066】
なお、一般的に高延伸したフィルムをあえて高緩和熱処理することはしない。その理由は、延伸により得られたフィルムの剛性や強度を、わざわざ低下させる方向に働く高緩和熱処理は望ましくないと考えられているからである。しかしながら、本発明においては、高延伸−高緩和熱処理を行っても高強度のフィルムが得られることが判った。この理由については必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、延伸によってフィルム構成分子の結晶部及び非晶部が分子配向し、引張強度等が向上する。このままの状態ではフィルムの破断伸びは減少する傾向にあるが、高緩和熱処理により結晶配向を維持したまま非晶部の配向が緩められるために、引張強度等のフィルム強度を維持しつつ破断伸びが向上するものと本発明者らは推察する。このような非晶部の緩和による効果により、フィルムの諸物性、すなわち、突刺し強度、落下衝撃強度、耐ピンホール性等を十分に達成することができる。また、このような非晶部の緩和によっても、収縮特性(率、応力)は低下する傾向にあるが、深絞り成形を行うことにより再度分子配向が促進されるために、十分な収縮特性を達成することができると本発明者らは推察する。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した樹脂を、その略号とともに表1にまとめて示す。また、実施例及び比較例における深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造条件を表2にまとめて示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(実施例1)
先ず、積層態様が外側から内側へ順に且つかっこ内に示す厚み比で、PGA(3)/M−PE(3)/VLDPE(84)となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出し加工を行った。ダイ出口から流出した温度250℃の溶融環状体を水浴中で、10〜25℃に冷却し、扁平幅約200mmの環状体とした。次に、得られた扁平環状体を約90℃温水中を通過させながら加熱した後、バブル形状の管状体とし15℃〜20℃エアリングで冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に2.9倍、横方向(TD)に2.8倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。次いで、得られた二軸延伸フィルムを円筒状の熱処理筒中に導き、バブル形状フィルムとし、熱処理緩和温度90℃にて縦方向(MD)に20%、横方向(TD)に20%弛緩させながら約2秒間緩和熱処理を行い、二軸延伸フィルム(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)を得た。得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの厚みは90μmであった。
【0071】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
フィルムの製造条件をそれぞれ表2に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルム(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)を得た。なお、比較例3のフィルムの製造条件においては、共押出し加工時にPVDCが熱分解を起こしてしまい、二軸延伸フィルム(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)を得られなかった。
【0072】
得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの厚みは、それぞれ90μm(実施例2〜4)、70μm(実施例5)、40μm(実施例6)、88μm(比較例1)、90μm(比較例2)、90μm(比較例4)であった。
【0073】
<深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの諸特性の評価>
(I)評価方法
以下の方法によって、熱収縮性多層フィルムの諸特性を評価又は測定した。
【0074】
(1)熱水収縮率
得られた深絞り成形用熱水収縮率フィルムの機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に10cmの距離で印を付けたフィルム試料を、90℃に調整した熱水に10秒間浸漬した後、取り出し、直ちに常温の水で冷却した。その後、印をつけた距離を測定し、10cmからの減少値の原長10cmに対する割合を百分率で表示した。1試料について5回試験をおこない、縦方向及び横方向のそれぞれについての平均値を熱水収縮率として表示した。
【0075】
(2)透明性(ヘイズ値)
JIS K−7105に記載された方法に準拠して、測定装置としては日本電色工業社製の曇り度計NDH−Σ80を使用して、フィルム試料の曇り度(ヘイズ;%)を測定した。なお、ヘイズ値は値が小さくなるほど、透明性が優れることを意味し、数値が大きくなるほど、透明性が悪くなることを意味する。
【0076】
(3)フィルム強度(突刺し強度試験)
測定装置としてTENSILON RTC−1210型(オリエンテック社製)を用いて、円錐形の先端(先端0.5R、先端角度15°)を有する直径10φの棒状の突刺し地具を速度200mm/minにて、突刺し地具に垂直に固定(45φ)したフィルム試料を突刺し、貫通時の応力を測定した。
【0077】
(4)ガスバリア性
(i)酸素透過度
JIS K−7126に準拠して、温度23℃、100%RHの条件下において、モダンコントロール社製オキシトラン(OX−TRAN2/20)を用いて測定した。
(ii)透湿度(WVTR)
JIS Z−0208に記載された方法に準拠して、カップ法にて温度40℃、湿度90%RHの条件下において測定した。
【0078】
(5)深絞り適性
大森機械社製の深絞り成形機(FV603型)を用い、絞り金型100φの円筒型(絞り成形温度:90℃)にて、面積絞り比を3倍でフィルム試料を絞り成形した。そして、フィルム試料の状態を目視にて観察して、以下の基準で評価した。
○:正常に絞り成形できた。
△:金型より浅い絞り形状となった。
×:絞り成形出来ない、もしくはフィルムが破断した。
【0079】
(II)評価結果
実施例1〜6、比較例1〜2、4で得られた各深絞り成形用熱収縮性多層フィルムについて、深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの諸特性を、上記の方法で評価又は測定した。得られた結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを有することが確認された。
【0082】
<深絞り成形用フィルムキットの諸特性の評価>
(I)評価対象
実施例4で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用い、実施例6で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いて、深絞り成形用フィルムキット(実施例7)とした。一方、比較例1で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルム及び深絞り成形用蓋材フィルムとして用いて、比較用の深絞り成形用フィルムキット(比較例5)とした。
【0083】
(II)評価方法及び評価結果
(1)フィルム強度(六角回転強度試験)
深絞り成形用フィルムキット(実施例7)を用いて、ムルチバック社製成形機(R250)にて深絞り成形(金型:113×167×60mm)し、ブロックハム400gを充填して包装し、90℃、10秒、熱水中で収縮させて試験サンプルを得た。得られた試験サンプル10個を六角試験機(幅:365mm、長さ:615mm)に入れ、室温5℃、回転数30rpm、10分間回転させた。試験サンプルを目視にて観察したところ、ピンホールの発生は皆無であった。
【0084】
(2)深絞り適性(生肉保存性)
深絞り成形用フィルムキット(実施例7)を用いて、ムルチバック社製成形機(R250)にて深絞り成形(金型:113×167×60mm)し、牛モモ肉(約400g)を充填して脱気包装し、90℃、10秒、熱水中で収縮させて試験サンプルを得た。一方、比較用の深絞り成形用フィルムキット(比較例5)を用いた以外は上記と同様の方法により比較用試験サンプルを得た。得られた各試験サンプルを、1〜2℃、100%RH条件下で30日間、60日間の保存を行い、開封後の色調について評価した。すなわち、深絞り包装体を開封後、内容物を表面から1cmの厚みで切り出し、内容物の表面を検体として日本電色工業(株)製の色差計SE2000を使用して、Lab値におけるa値(赤み)を測定した。得られた結果を表4に示す。なお、a値が高いほど赤みが強く、変色度合いは小さいといえる。
【0085】
【表4】

【0086】
表4に示した結果から明らかなように、本発明の深絞り成形用フィルムキットを用いると、高湿度条件で60日という長期保管を行っても実用上問題となるような変色は起こらないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、高透明性と、高強度と、高湿度下における高ガスバリア性とを有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【0088】
したがって、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、深絞り成形用の蓋材、底材等として有用である。そして、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、深絞り成形用の蓋材、底材等を製造する技術として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項2】
前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)が、下記一般式(1):
【化1】

により表される繰り返し単位を60質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層と、前記グリコール酸(共)重合体樹脂(a)からなる中間層と、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層と、シーラント樹脂(d)からなる内層とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
前記第二の熱可塑性樹脂(c)が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
前記シーラント樹脂(d)が、ポリエチレン単独重合体、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレン単独重合体、ポリプロピレン共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項3又は4に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
前記内層が、前記シーラント樹脂(d)70〜97質量%と接着性樹脂(e)3〜30質量%とを混合した樹脂からなることを特徴とする請求項3〜5のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項7】
酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において50cm/m・day・atm以下であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用底材フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ10〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用蓋材フィルム。
【請求項10】
請求項8に記載の深絞り成形用底材フィルムと請求項9に記載の深絞り成形用蓋材フィルムとからなることを特徴とする深絞り成形用フィルムキット。
【請求項11】
請求項8に記載の深絞り成形用底材フィルムと、請求項9に記載の深絞り成形用蓋材フィルムとを備えることを特徴とする深絞り包装体。
【請求項12】
溶融された少なくとも2種の樹脂を管状に共押出しして管状体を形成する工程と、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向に引出しつつ縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、
前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和処理する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−160574(P2007−160574A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356838(P2005−356838)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】