減衰力可変ダンパの制御装置
【課題】バネ上が高い周波数で小さく振動するときにも振動を吸収するようにスカイフック制御することが可能な減衰力可変ダンパの制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ダンパ1aのバネ上速度が高いほどダンパ1aの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定し、バネ上速度の方向とダンパ1aのストローク速度の方向が同方向の場合に、減衰力制御量に基づいて減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパ1の制御装置20とする。そして、ストロークセンサ14が検出するストローク変位に基づいて算出されるダンパ1aの振幅が小さくなるにつれて、ダンパ1aの減衰力が低くなるように減衰力制御量を補正することを特徴とする。
【解決手段】ダンパ1aのバネ上速度が高いほどダンパ1aの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定し、バネ上速度の方向とダンパ1aのストローク速度の方向が同方向の場合に、減衰力制御量に基づいて減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパ1の制御装置20とする。そして、ストロークセンサ14が検出するストローク変位に基づいて算出されるダンパ1aの振幅が小さくなるにつれて、ダンパ1aの減衰力が低くなるように減衰力制御量を補正することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備わる減衰力可変ダンパの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体を支持して振動を吸収するため、減衰力を変化可能な減衰力可変ダンパが広く知られている。
そして、減衰力可変ダンパをスカイフック制御し、乗り心地を向上する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、バネ上の車体とバネ下の車輪の相対変化が中立位置に対して所定の変位以上となる振動のとき、変位の方向が中立位置に向かって変化する期間に限って減衰力を高める技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−143959号公報
【特許文献2】特開昭64−16413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に開示されるスカイフック制御では、車体の上下速度に応じて減衰力を高めるため、車体が共振周波数域の振動で大きく上下振動する場合に、その振動を効果的に減衰できる。しかしながら、車両が細かい凹凸のある路面を走行するときや、キャッツアイ(路面に設置される小型びょう)を踏んで走行するときなど、車体が高い周波数で小さく上下振動するときにも上下速度に応じて減衰力を高める場合があり、この場合に乗り心地が悪化するという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に開示される技術によって、車体と車輪の相対変位の変位方向が中立位置に向かうときに限って減衰力を高めることができるが、車体の上下速度との関係についての示唆はなく、車体が高い周波数で小さく上下振動するときのスカイフック制御で乗り心地が悪化するという問題を解決するには至らない。
【0006】
そこで、本発明は、バネ上が高い周波数で小さく振動するときにも振動を吸収するようにスカイフック制御することが可能な減衰力可変ダンパの制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の請求項1は、車両のサスペンション装置に設けられたダンパのバネ上速度が高いほど当該ダンパの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定するとともに前記ダンパのバネ上速度が低いほど当該ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を設定し、前記バネ上速度の方向と前記ダンパのストローク速度の方向が同方向の場合に、前記減衰力制御量に基づいて前記ダンパの減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパの制御装置とする。そして、ストロークセンサが検出する前記ダンパのストローク変位に基づいて当該ダンパの振幅を算出する振幅算出手段を備え、前記振幅算出手段が算出する前記ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって前記ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を補正することを特徴とする。
【0008】
この発明によると、スカイフック制御されるダンパの減衰力を、ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって低くできる。したがって、ダンパのバネ上が高い周波数で小さく振動する場合にダンパの減衰力を低くすることができ、例えば細かい凹凸のある路面を走行する車両やキャッツアイを踏んで走行する車両のバネ上の振動を好適に吸収して乗り心地の悪化を抑制できる。
【0009】
また、請求項2の発明は請求項1に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記振幅算出手段は、前記ストロークセンサが所定の単位時間ごとに検出する前記ストローク変位の上限値と下限値の差分を前記ダンパの振幅として算出することを特徴とする。
【0010】
この発明によると、ダンパのストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいて、スカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。したがって、バネ上の最も大きな振動成分に応じてダンパの減衰力を低くすることができ、バネ上の振動を好適に吸収できる。また、ダンパの伸縮方向(変位方向)に関係なく振幅を算出することができ、制御を簡素化できるとともに、振幅を取得する特別な装置も不要であり、部品点数の増加に伴うコストアップを抑制できる。
【0011】
また、請求項3の発明は請求項2に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記上限値を所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記上限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記上限値より大きい場合は当該ストローク変位で前記上限値を更新して、この時点から更新後の前記上限値を前記所定時間保持し、前記上限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記上限値をリセットする上限値検出手段と、前記下限値を前記所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記下限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記下限値より小さい場合は当該ストローク変位で前記下限値を更新して、この時点から更新後の前記下限値を前記所定時間保持し、前記下限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記下限値をリセットする下限値検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、所定時間に亘って保持されるストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいて、スカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。ストローク変位の上限値と下限値が算出されるタイミングは異なるものであるが、ストローク変位の上限値と下限値を所定時間保持することによって、上限値と下限値の差分を算出できる。
【0013】
また、請求項4の発明は請求項3に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記所定時間は、前記ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間であることを特徴とする。
【0014】
この発明によると、ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間以上の時間に亘って保持されるストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいてスカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、バネ上が高い周波数で小さく振動するときにも振動を吸収するようにスカイフック制御することが可能な減衰力可変ダンパの制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】減衰力可変ダンパの構成を示す図である。
【図2】ダンパ制御装置の機能ブロックを示す図である。
【図3】(a)はストローク制御マップの一例を示す図、(b)はストローク制御補正マップの一例を示す図である。
【図4】(a)はスカイフック制御マップの一例を示す図、(b)はスカイフック制御補正マップの一例を示す図である。
【図5】(a)はストローク変位の時間的変化と、上限値および下限値を示す図、(b)は振幅の時間的変化を示す図である。
【図6】(a)は振幅依存補正マップの一例を示す図、(b)は制御電流設定マップの一例を示す図である。
【図7】ダンパ制御プログラムのフローチャートである。
【図8】ストローク制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図9】スカイフック制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図10】バウンス制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図11】目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、車両100の車輪101はサスペンション装置102によって車体2に弾性支持され、サスペンション装置102には、本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1が備わる。なお、図1に示すように車両100に備わる減衰力可変ダンパ1において、車輪101はバネ下に相当し、車体2はバネ上に相当する。
また、車両100が4つの車輪101を有する場合、減衰力可変ダンパ1は各車輪101にそれぞれ1つづつ備わるように構成される。
【0018】
減衰力可変ダンパ1は、ナックル4を支持するサスペンションアーム3と車体2を接続するように備わり、サスペンションアーム3に下端を支持されるシリンダ8と、シリンダ8の内部で摺動するピストンヘッド9と、ピストンヘッド9の上方に延伸するピストンロッド10を含んで構成される。なお、シリンダ8の内部には減衰力を発生させるオイルが封入され、シリンダ8とピストンヘッド9とピストンロッド10を含んでダンパ1aが構成される。そして、ダンパ1aはサスペンションアーム3の振動によって伸縮し、シリンダ8に封入されるオイルの抵抗で発生する減衰力でサスペンションアーム3の振動及び車体2の振動を吸収する。
【0019】
ピストンロッド10の上端にはコア11が取り付けられ、さらに、コア11を囲むようにコイル12が配置されてコア11とコイル12とでアクチュエータ5を形成する。アクチュエータ5は、コイル12に制御電流Icontとしての励磁電流が供給されると発生する磁力を負荷としてダンパ1aの減衰力を高める装置であり、減衰力可変ダンパ1の減衰力を変更可能な減衰力変更装置として機能する。
また、アクチュエータ5は、コイル12に供給される制御電流Icontの大きさによってダンパ1aの減衰力の大きさを調節可能に構成されることが好ましい。
さらに、コア11の上部は、弾性体で構成されるダンパマウント6を介して車体2と接続される。
【0020】
このように、減衰力可変ダンパ1は、シリンダ8、ピストンヘッド9、ピストンロッド10の他にアクチュエータ5およびダンパマウント6を含んで構成され、ダンパ1aの定常状態からの変移(ストローク変位)がストロークセンサ14によって検出される。ここでいう定常状態は、荷重がかからずにダンパ1aが伸縮していない状態のことでありストローク変位がゼロの状態を示す。
そして、ストロークセンサ14は、例えば、ダンパ1aが定常状態から伸長する方向に変位したときを正、定常状態から圧縮する方向に変位したときを負とする符号を付してストローク変位を検出することが好ましい。
また、車体2に発生する上下加速度は上下Gセンサ16が検出し、車両100の車速Vcarは車速センサ15が検出するように構成されている。
【0021】
さらにシリンダ8の外周には外側に向かって広がるフランジ部8aが形成され、フランジ部8aと車体2の間にはコイルバネ7が配設される。コイルバネ7は、例えば車輪101に発生する上下方向の振動を弾性力で吸収するように備わっている。
【0022】
なお、符号20は減衰力可変ダンパ1の制御装置(ダンパ制御装置)である。
図2に示すように、ダンパ制御装置20は、ダンパ1a(図1参照)の減衰力を設定するストローク制御目標減衰力Dstを算出するストローク制御部20aと、スカイフック制御目標減衰力Dshを算出するスカイフック制御部20bと、ピッチ制御目標減衰力Dpitを算出するピッチ制御部20cと、ロール制御目標減衰力Drolを算出するロール制御部20dと、目標減衰力Dtgtを算出する目標減衰力選択器204と、目標減衰力Dtgtをアクチュエータ5の制御電流Icontに変換して出力する制御電流出力器205と、を含んで構成される。
【0023】
さらに、ダンパ制御装置20には、ストロークセンサ14が検出するストローク変位からストローク速度Vstを算出するストローク速度算出部200と、上下Gセンサ16が検出する車体2(図1参照)の上下加速度から車体2の上下速度(バネ上速度Vbody)を算出するバネ上速度算出部201と、を含んでいる。
【0024】
ストローク速度算出部200は、ストローク変位の方向(伸長側、圧縮側)に対応する符号を付してストローク速度Vstを算出する。例えば、ダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位するときのストローク速度Vstを正とし、ダンパ1aが圧縮する方向に変位するときのストローク速度Vstを負とする。つまり、ストローク速度Vstは、符号(正負)によってその方向が示される。
また、バネ上速度算出部201は、車体2(図1参照)に発生する上下加速度に対応する符号を付してバネ上速度Vbodyを算出する。例えば、車体2に上向きの加速度が発生しているときのバネ上速度Vbodyを正とし、車体2に下向きの加速度が発生しているときのバネ上速度Vbodyを負とする。そして、バネ上速度Vbodyも、符号(正負)によってその方向が示される。
また、本実施形態においては、バネ上速度Vbodyとストローク速度Vstの符号が一致するときバネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が同方向とし、バネ上速度Vbodyとストローク速度Vstの符号が異なるときバネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が逆方向とする。
【0025】
ストローク制御部20aは、ストローク速度算出部200が算出するストローク速度Vstに基づいてストローク制御ベース減衰力を算出するストローク減衰力算出部210と、車速センサ15が算出する車速Vcarに応じたストローク補正係数を算出するストローク補正係数算出部211と、ストローク補正係数算出部211が算出するストローク補正係数を乗算してストローク制御ベース減衰力を補正し、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する乗算器212と、を含んで構成される。
【0026】
ストローク減衰力算出部210では、例えば図3の(a)に示すストローク制御マップ210aをストローク速度Vstに応じて参照し、ストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を前輪、後輪ごとに算出する。このようなストローク制御マップ210aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、ストローク速度Vstに基づいてストローク制御ベース減衰力を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用してストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を算出する構成であってもよい。
【0027】
なお、図3の(a)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するストローク制御マップ210aを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するストローク制御マップであってもよい。
【0028】
ストローク補正係数算出部211(図2参照)では、例えば図3の(b)に示すストローク制御補正マップ210bを車速Vcarに応じて参照し、車速Vcarに対応するストローク補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このようなストローク制御補正マップ210bは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、車速Vcarに基づいてストローク補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して車速Vcarに対応するストローク補正係数を算出する構成であってもよい。
ストローク補正係数は車速Vcarに依存して変化し、例えば車速Vcarが低い低速時にはストローク制御ベース減衰力を小さく補正して乗り心地を向上させ、車速Vcarが高い高速時にはストローク制御ベース減衰力を大きく補正して車両100(図1参照)の走行安定性を向上させる。
【0029】
なお、図3の(b)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するストローク制御補正マップ210bを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するストローク制御補正マップであってもよい。
【0030】
そして、乗算器212(図2参照)では、ストローク制御ベース減衰力にストローク補正係数を乗算してストローク制御ベース減衰力を補正し、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
具体的には、前輪のストローク制御ベース減衰力には前輪のストローク補正係数を乗算して前輪のストローク制御目標減衰力Dstを算出し、後輪のストローク制御ベース減衰力には後輪のストローク補正係数を乗算して後輪のストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
【0031】
図2に示すスカイフック制御部20bは、バネ上速度算出部201が算出するバネ上速度Vbodyに基づいてスカイフック制御ベース減衰力を算出するスカイフック減衰力算出部220と、車速センサ15が検出する車速Vcarに応じたスカイフック補正係数を算出するスカイフック補正係数算出部221と、スカイフック制御ベース減衰力にスカイフック補正係数を乗算する乗算器227と、を含んで構成される。
【0032】
さらに、本実施形態に係るスカイフック制御部20bは、ストロークセンサ14が検出するストローク変位の上限値(伸長側)を検出する上限値検出手段(上限値検出部223)と、ストローク変位の下限値(圧縮側)を検出する下限値検出手段(下限値検出部224)と、ストローク変位の上限値および下限値からダンパ1a(図1参照)の振幅を算出する振幅算出手段(振幅算出部225)と、ダンパ1aの振幅に基づいて振幅依存補正係数を算出するスカイフック補正部226と、を含んで構成される。
【0033】
スカイフック減衰力算出部220では、例えば図4の(a)に示すスカイフック制御マップ220aをバネ上速度Vbodyに応じて参照し、バネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を前輪、後輪ごとに算出する。このようなスカイフック制御マップ220aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、バネ上速度Vbodyに基づいてスカイフック制御ベース減衰力を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用してバネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を算出する構成であってもよい。
【0034】
スカイフック制御ベース減衰力は、バネ上速度Vbodyが高いほど、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が高くなるように大きく設定され、バネ上速度Vbodyが低いほど、ダンパ1aの減衰力が低くなるように小さく設定される減衰力制御量である。
【0035】
なお、図4の(a)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するスカイフック制御マップ220aを示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するスカイフック制御マップであってもよい。
【0036】
スカイフック補正係数算出部221(図2参照)では、例えば図4の(b)に示すスカイフック制御補正マップ220bを車速Vcarに応じて参照し、車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このようなスカイフック制御補正マップ220bは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、車速Vcarに基づいてスカイフック補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を算出する構成であってもよい。
スカイフック補正係数は0から1の範囲の数で車速Vcarに依存して変化し、例えば車速Vcarが低い低速時にはスカイフック減衰力を小さく補正して乗り心地を向上させ、車速Vcarが高い高速時にはスカイフック減衰力を大きく補正して車両100(図1参照)の走行安定性を向上させる。
【0037】
なお、図4の(b)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するスカイフック制御補正マップ220bを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するスカイフック制御補正マップであってもよい。
【0038】
図2に示す上限値検出部223と下限値検出部224は、ストロークセンサ14が検出するストローク変位の上限値と下限値をそれぞれ検出する。
本実施形態においては、所定の検出時間においてダンパ1a(図1参照)が最も伸長したときのストローク変位を上限値、ダンパ1aが最も圧縮したときのストローク変位を下限値とする。
【0039】
例えば、ストロークセンサ14(図1参照)が検出するストローク変位が図5の(a)に実線で示すように変動する場合、上限値検出部223は、予め設定されるサンプリングタイムを単位時間として、そのサンプリングタイムごとにストロークセンサ14が検出するストローク変位を取得し、時刻t2でプラス(+)側ピーク値Upk1を検出すると、予め設定される所定時間(以下、ホールド時間T1と称する)をカウントするタイマ(上限値ホールドタイマ)をリセットする。そして、ピーク値Upk1を上限値として保持した状態でストローク変位の検出を継続し、ピーク値Upk1より高いストローク変位を検出する前にホールド時間T1が経過したら上限値(ピーク値Upk1)と上限値ホールドタイマをリセットし、上限値の検出を再開する。
なお、本実施形態において、上限値のリセットは、その時点でのストロークセンサ14の検出値(ストローク変位)を新たな上限値にすることを示す。また、上限値ホールドタイマのリセットは、その時点から上限値ホールドタイマが新たにホールド時間T1をカウントすることを示す。
【0040】
しかしながら、ホールド時間T1が経過するより前(図5の(a)に示す時刻t4)にピーク値Upk1より高いピーク値Upk2を検出した場合、上限値検出部223は上限値をピーク値Upk2で更新する。つまり、ピーク値Upk1に変えてピーク値Upk2を上限値として保持する。さらに、上限値ホールドタイマをリセットする。
そして、ピーク値Upk2より高いピーク値を検出することなく時刻t4からホールド時間T1が経過した時刻t6において上限値(ピーク値Upk2)と上限値ホールドタイマをリセットし、上限値の検出を再開する。
この構成によって、上限値検出部223は、上限値をピーク値Upk2で更新した時点から更新後の上限値(ピーク値Upk2)をホールド時間T1に亘って保持できる。
【0041】
同様に、下限値検出部224は、上限値検出部223と同じサンプリングタイム間隔でストローク変位を取得し、時刻t1でマイナス(−)側ピーク値Lpk1を検出すると、ホールド時間T1をカウントするタイマ(下限値ホールドタイマ)をリセットする。そして、ピーク値Lpk1を下限値として保持した状態でストローク変位の検出を継続し、ピーク値Lpk1より低いストローク変位を検出する前にホールド時間T1が経過したら下限値(ピーク値Lpk1)と下限値ホールドタイマをリセットし、下限値の検出を再開する。
なお、本実施形態において、下限値のリセットは、その時点でのストロークセンサ14の検出値(ストローク変位)を新たな下限値にすることを示す。また、下限値ホールドタイマのリセットは、その時点から下限値ホールドタイマが新たにホールド時間T1をカウントすることを示す。
【0042】
しかしながら、ホールド時間T1が経過するより前(図5の(a)に示す時刻t3)にピーク値Lpk1より低いピーク値Lpk2を検出した場合、下限値検出部224は下限値をピーク値Lpk2で更新する。つまり、ピーク値Lpk1に変えてピーク値Lpk2を下限値として保持する。さらに、下限値ホールドタイマをリセットする。
そして、ピーク値Lpk2より低いピーク値を検出することなく時刻t3からホールド時間T1が経過した時刻t5において下限値(ピーク値Lpk2)と下限値ホールドタイマをリセットし、下限値の検出を再開する。
この構成によって、下限値検出部224は、下限値をピーク値Lpk2で更新した時点から更新後の下限値(ピーク値Lpk2)をホールド時間T1に亘って保持できる。
【0043】
以上のように上限値検出部223が上限値を検出し、下限値検出部224が下限値を検出すると、ストローク変位の上限値は破線で示すように変化し、下限値は一点鎖線で示すように変化する。
【0044】
上限値検出部223と下限値検出部224は、それぞれストローク変位を取得するサンプリングタイムごとに、保持している上限値と下限値を振幅算出部225に入力する。振幅算出部225では入力された上限値から下限値を減算(上限値−下限値)し、振幅Hstを算出する。そして、図5の(b)に示すように、時間の経過に応じて連続的に変化する振幅Hstが算出される。
【0045】
ホールド時間T1は、バネ上となる車体2(図1参照)の共振周波数に基づいて決定されることが好適である。
バネ上である車体2と、バネ下である車輪101(図1参照)はそれぞれ固有の共振周波数を有し、一般的に車輪101(バネ下)は、車体2(バネ上)の共振周波数より高い周波数が共振周波数となる。例えば、車体2(バネ上)の共振周波数は3〜5Hz程度であり、車輪101(バネ下)の共振周波数は10Hz程度である。
【0046】
例えば、車体2(図1参照)の共振周波数が3Hzの場合、車体2が共振周波数(3Hz)で大きく振動するときは0.3秒周期でストローク変位のプラス側ピーク値(Upk1、Upk2)とマイナス側ピーク値(Lpk1、Lpk2)が現われることから、ホールド時間T1を0.3秒とすると、上限値検出部223および下限値検出部224は、車体2が共振周波数3Hzで大きく振動するときのストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得できる。
【0047】
また、車輪101(図1参照)の共振周波数10Hzで車体2(図1参照)が振動する場合、0.3秒より短い0.1秒周期でプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値が現われることから、上限値検出部223および下限値検出部224は、ストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得できる。
以上のことから、車体2(バネ上)の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間をホールド時間T1として決定することが好ましい。このような構成によって、上限値検出部223および下限値検出部224は、ストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得することができる。
また、上限値検出部223や下限値検出部224がストローク変位を取得する単位時間(サンプリングタイム)はホールド時間T1より短い時間であることが好ましい。
【0048】
振幅算出部225は、算出したダンパ1a(図1参照)の振幅Hstをスカイフック補正部226に入力する。スカイフック補正部226では、例えば図6の(a)に示す、振幅依存補正マップ226aを振幅Hstに応じて参照し、振幅Hstに対応する振幅依存補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このような振幅依存補正マップ226aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、ダンパ1a(図1参照)の振幅に基づいて振幅依存補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して振幅Hstに対応する振幅依存補正係数を算出する構成であってもよい。
【0049】
そして、スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数は乗算器227に入力され、スカイフック減衰力算出部220が算出するスカイフック制御ベース減衰力と、スカイフック補正係数算出部221が算出するスカイフック補正係数と、スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数と、が乗算器227で乗算されてスカイフック制御目標減衰力Dshが算出される。
具体的には、前輪のスカイフック制御ベース減衰力には前輪のスカイフック補正係数と前輪の振幅依存補正係数を乗算して前輪のスカイフック制御目標減衰力Dshを算出し、後輪のスカイフック制御ベース減衰力には後輪のスカイフック補正係数と後輪の振幅依存補正係数を乗算して後輪のスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する。
【0050】
スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数は、例えば0から1の間の値で振幅に依存して変化し、ダンパ1a(図1参照)の振幅Hstが小さいときはスカイフック制御ベース減衰力を小さく補正してスカイフック制御の影響力を弱め、ダンパ1aの振幅Hstが大きくなるにしたがってスカイフック制御の影響力を強めるように設定される。
【0051】
図2に示すピッチ制御部20cは、車速センサ15によって検出される車速Vcarと、車体2(図1参照)の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ17によって検出される前後加速度に応じてピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する。
【0052】
ロール制御部20dは、車速センサ15によって検出される車速Vcarと、車体2(図1参照)の横方向(左右方向)の加速度を検出する横Gセンサ18によって検出される横加速度と、車体2に発生するヨーレートを検出するヨーレートセンサ19によって検出されるヨーレートに応じてロール制御目標減衰力Drolを算出する。
【0053】
ストローク制御部20aが算出するストローク制御目標減衰力Dstと、スカイフック制御部20bが算出するスカイフック制御目標減衰力Dshはバウンス制御部203に入力される。
バウンス制御部203では、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が同じときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択してバウンス制御目標減衰力Dbouとして出力し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なるときはストローク制御目標減衰力Dstを選択してバウンス制御目標減衰力Dbouとして出力する。
【0054】
前記したように、本実施形態においては、車体2(図1参照)に上向きの加速度が発生しているときにバネ上速度Vbodyが正になり、車体2に下向きの加速度が発生しているときにバネ上速度Vbodyが負になる。
また、ダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位してるときにストローク速度Vstが正になり、ダンパ1aが圧縮する方向に変位してるときにストローク速度Vstが負になる。
つまり、バウンス制御部203では、車体2が上向きに変位している場合、ダンパ1aが伸長しているときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択し、ダンパ1aが圧縮しているときはストローク制御目標減衰力Dstを選択する。
また、車体2が下向きに変位している場合、ダンパ1aが伸長しているときはストローク制御目標減衰力Dstを選択し、ダンパ1aが圧縮しているときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択する。
換言すると、バウンス制御部203では、バネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が同方向のときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択し、バネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が逆方向のときはストローク制御目標減衰力Dstを選択する。
【0055】
ピッチ制御部20cが出力するピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御部20dが出力するロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御部203が出力するバウンス制御目標減衰力Dbouは、目標減衰力選択器204に入力される。
【0056】
目標減衰力選択器204は、ストローク速度Vstが正のとき、つまりダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位しているときは、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouのうち、もっとも減衰力が高い1つ、つまり値が最大の減衰力を選択し、目標減衰力Dtgtとして出力する。
このとき、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouの全てが「0」より小さいときは、目標減衰力Dtgtとして「0」を出力する。したがってストローク速度Vstが正のとき、目標減衰力Dtgtは常に0以上になる。
【0057】
また、目標減衰力選択器204は、ストローク速度Vstが負のとき、つまりダンパ1aが圧縮する方向に変位しているときは、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouのうち、もっとも減衰力が低い1つ、つまり値が最小の減衰力を選択し、目標減衰力Dtgtとして出力する。
このとき、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouの全てが「0」より大きいときは、目標減衰力Dtgtとして「0」を出力する。したがってストローク速度Vstが負のとき、目標減衰力Dtgtは常に0以下になる。
【0058】
目標減衰力選択器204から出力される目標減衰力Dtgtは、制御電流出力器205に入力される。
制御電流出力器205では、入力された目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに基づいて、例えば図6の(b)に示すような制御電流設定マップ205aを参照し、アクチュエータ5(図1参照)の制御電流Icontを目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに応じて設定して出力する。
【0059】
図6の(b)に示す制御電流設定マップ205aは、右側の領域がストローク速度Vstが正の領域を示し、左側の領域がストローク速度Vstが負の領域を示す。そして、ストローク速度Vstが正の領域でストローク速度Vstは+V1から+V5に向かって正の方向に高くなることを示す。つまり、同じ目標減衰力Dtgtであれば、ストローク速度Vstが正の方向に高いほど制御電流Icontが小さくなることを示す。
また、ストローク速度Vstが負の領域でストローク速度Vstは−V1から−V5に向かって負の方向に高くなることを示す。つまり、同じ目標減衰力Dtgtであれば、ストローク速度Vstが負の方向に高いほど制御電流Icontが小さくなることを示す。
このような制御電流設定マップ205aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。
【0060】
なお、ストローク速度Vstが制御電流設定マップ205aに示されない中間速度の場合(例えば、V1とV2の間)、比例配分等によって制御電流Icontを設定すればよい。または、当該中間速度の前後の速度(例えば、V1とV2)のどちらかに基づいて設定される制御電流Icontを当該中間速度に対する制御電流Icontとする構成としてもよい。
【0061】
このように制御電流出力器205で設定されて出力される制御電流Icontは、アクチュエータ5(図1参照)に入力されて、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が変更される。
【0062】
以上のように、ダンパ制御装置20(図1参照)は、制御電流Icontを設定して出力し、アクチュエータ5(図1参照)に入力してダンパ1a(図1参照)の減衰力を変化させ、減衰力可変ダンパ1(図1参照)を制御する。
【0063】
ダンパ制御装置20(図1参照)は、車両100(図1参照)の動作中に、例えば、予め組み込まれたプログラム(以下、ダンパ制御プログラムと称する)を所定のインターバルで連続実行し、制御電流Icontを出力して減衰力可変ダンパ1(図1参照)を制御する。
ここでいう車両100の動作中は、車両100の図示しないメインスイッチ(例えば、イグニッション)がONになっている状態を示す。
以下、ダンパ制御プログラムの実行による減衰力可変ダンパ1の制御について説明する(適宜図1〜6参照)。
【0064】
図7に示すように、ダンパ制御装置20は、ダンパ制御プログラムを開始すると、ストロークセンサ14が検出するストローク変位をストローク速度算出部200で微分してストローク速度Vstを算出する(ステップS1)。また、上下Gセンサ16が検出する車体2の上下加速度を積分してバネ上速度Vbodyを算出する(ステップS2)。
ストローク変位の微分や上下加速度の積分には、例えば、前回またはそれ以前にダンパ制御プログラムを実行したときのストローク変位や上下加速度を利用することができる。
つまり、ダンパ制御装置20は、前回またはそれ以前にダンパ制御プログラムを実行したときに取得したストローク変位や上下加速度を利用して、ストローク変位を微分し、上下加速度を積分する。
【0065】
そして、ダンパ制御装置20は、算出したストローク速度Vstと車速センサ15が検出する車速Vcarに基づいて、ストローク制御部20aでストローク制御目標減衰力Dstを算出する(ステップS3)。
【0066】
図8を参照して、ダンパ制御装置20がストローク制御部20aでストローク制御目標減衰力Dstを算出する手順(図7におけるステップS3の詳細)を説明する。
ダンパ制御装置20は、ストローク減衰力算出部210で、図3の(a)に示すストローク制御マップ210aを参照し、ストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を算出する(ステップS301)。さらに、ストローク補正係数算出部211で、図3の(b)に示すストローク制御補正マップ210bを参照し、車速Vcarに対応するストローク補正係数を算出する(ステップS302)。そして、乗算器212で、ストローク制御ベース減衰力とストローク補正係数を乗算(ステップS303)して、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
【0067】
説明を図7のステップS4に進める。ダンパ制御装置20は、算出したストローク速度Vst、算出したバネ上速度Vbody、車速センサ15が検出する車速Vcar、ストロークセンサ14が検出するストローク変位に基づいて、スカイフック制御部20bでスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する(ステップS4)。
【0068】
図9を参照して、ダンパ制御装置20がスカイフック制御部20bでスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する手順(図7におけるステップS4の詳細)を説明する。
ダンパ制御装置20は、スカイフック減衰力算出部220で、図4の(a)に示すスカイフック制御マップ220aを参照し、バネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を算出する(ステップS401)。さらに、スカイフック補正係数算出部221で、図4の(b)に示すスカイフック制御補正マップ220bを参照し、車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を算出する(ステップS402)。
【0069】
そして、ダンパ制御装置20は、ストロークセンサ14が検出するストローク変位を取得して上限値検出部223が保持している上限値と比較する(ステップS403)。
そして、今回取得したストローク変位が、保持している上限値より大きい場合(ステップS403→Yes)、取得したストローク変位を上限値とし(ステップS404)、上限値ホールドタイマをリセットして(ステップS405)、処理をステップS406に進める。
なお、上限値検出部223はストローク変位のプラス側の絶対値が上限値の絶対値より大きいとき、ストローク変位が上限値より大きいと判定する。
【0070】
一方、今回取得したストローク変位が上限値以下の場合(ステップS403→No)、ダンパ制御装置20は、上限値を変えることなく処理をステップS406に進め、取得したストローク変位と下限値検出部224が保持している下限値を比較する。
そして、今回取得したストローク変位が、保持している下限値より小さい場合(ステップS406→Yes)、取得したストローク変位を下限値とし(ステップS407)、下限値ホールドタイマをリセットして(ステップS408)、処理をステップS409に進める。
なお、下限値検出部224はストローク変位のマイナス側の絶対値が下限値の絶対値より大きいとき、ストローク変位が下限値より小さいと判定する。
【0071】
一方、今回取得したストローク変位が保持している下限値以上の場合(ステップS406→No)、ダンパ制御装置20は、下限値を変えることなく処理をステップS409に進め、上限値検出部223が保持している上限値と、下限値検出部224が保持している下限値を振幅算出部225に入力し、上限値から下限値を減算してダンパ1aの振幅Hstを算出する。
【0072】
この構成によって、図5の(a)に示されるようにダンパ1aが振動した場合、ダンパ制御装置20は、プラス側のストローク変位のピーク値Upk2と、マイナス側のストローク変位のピーク値Lpk2とを、それぞれホールド時間T1の間ホールドして、図5の(b)に示すように振幅Hstを算出できる。
【0073】
そして、ダンパ制御装置20は、スカイフック補正部226で、図6の(a)に示す振幅依存補正マップ226aを参照し、ダンパ1aの振幅Hstに応じた振幅依存補正係数を算出する(ステップS410)。
【0074】
さらに、ダンパ制御装置20は、スカイフック減衰力算出部220で算出したスカイフック制御ベース減衰力と、スカイフック補正係数算出部221で算出したスカイフック補正係数と、スカイフック補正部226で算出した振幅依存補正係数と、を乗算器227で乗算して(ステップS411)、スカイフック制御目標減衰力Dshを算出する。
【0075】
そして、ダンパ制御装置20は、上限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていれば(ステップS412→Yes)、上限値と上限値ホールドタイマをリセットする(ステップS413)。
一方、上限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていないとき(ステップS412→No)、ダンパ制御装置20は上限値と上限値ホールドタイマをリセットすることなく処理をステップS414に進め、下限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていれば(ステップS414→Yes)、下限値と下限値ホールドタイマをリセットする(ステップS415)。
下限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていなければ(ステップS414→No)、ダンパ制御装置20は下限値と下限値ホールドタイマをリセットすることなくスカイフック制御目標減衰力を算出する処理を終了する。
【0076】
以上のように、本実施形態に係るダンパ制御装置20は、ホールド時間T1におけるストローク変位の上限値と下限値とから振幅Hstを算出し、さらに、振幅Hstに基づいた振幅依存補正係数を算出する。そして、バネ上速度Vbodyに基づいて算出されるスカイフック制御ベース減衰力を、スカイフック補正係数と振幅依存補正係数とで補正できる。
【0077】
説明を図7のステップS5に進める。ダンパ制御装置20は、算出したストローク制御目標減衰力Dstとスカイフック制御目標減衰力Dshとに基づいて、バウンス制御部203でバウンス制御目標減衰力Dbouを算出する(ステップS5)。
【0078】
図10を参照して、ダンパ制御装置20がバウンス制御部203でバウンス制御目標減衰力Dbouを算出する手順を説明する。
最初にダンパ制御装置20は、バネ上速度Vbodyの符号を判定する。具体的に、バネ上速度Vbodyが「0」以上のとき(ステップS501→Yes)、バネ上速度Vbodyが正と判定する。
【0079】
そして、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。具体的に、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS502→Yes)、ストローク速度Vstが正と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が等しいと判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が同方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(上方向)とダンパ1aの変位の方向(伸長する方向)とが等しいと判定し、スカイフック制御目標減衰力Dshを選択して(ステップS503)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS502→No)、ストローク速度Vstが負と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なると判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が逆方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(上方向)とダンパ1aの変位の方向(圧縮する方向)とが異なると判定し、ストローク制御目標減衰力Dstを選択して(ステップS504)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0080】
また、バネ上速度Vbodyが「0」未満のとき(ステップS501→No)、ダンパ制御装置20は、バネ上速度Vbodyが負と判定する。そして、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。
【0081】
ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS505→Yes)、ストローク速度Vstが正と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なると判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が逆方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(下方向)とダンパ1aの変位の方向(伸長する方向)とが異なると判定し、ストローク制御目標減衰力Dstを選択して(ステップS506)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS505→No)、ストローク速度Vstが負と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が等しいと判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が同方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(下方向)とダンパ1aの変位の方向(圧縮する方向)とが等しいと判定し、スカイフック制御目標減衰力Dshを選択して(ステップS507)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0082】
このように、ダンパ制御装置20は、車体2の変位の方向とダンパ1aの変位の方向が等しいときは、スカイフック制御目標減衰力Dshをバウンス制御目標減衰力Dbouとし、車体2の変位の方向とダンパ1aの変位の方向が異なるときは、ストローク制御目標減衰力Dstをバウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0083】
説明を図7のステップS6に進める。ダンパ制御装置20は、ピッチ制御部20cでピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する(ステップS6)。ピッチ制御部20cでは、前記したように、車速Vcarと、車体2の前後加速度と、ストローク変位に応じてピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する。例えば、図示はしないが、車速Vcarと、車体2の前後加速度と、ピッチ制御目標減衰力Dpitの関係を示すマップを用いて、ピッチ制御目標減衰力Dpitを算出できる。
【0084】
さらに、ダンパ制御装置20は、ロール制御部20dでロール制御目標減衰力Drolを算出する(ステップS7)。ロール制御部20dでは、前記したように、車速Vcarと、車体2の横加速度と、車体2のヨーレートに応じてロール制御目標減衰力Drolを算出する。例えば、図示はしないが、車速Vcarと、車体2の横加速度と、車体2のヨーレートと、ロール制御目標減衰力Drolの関係を示すマップを用いて、ロール制御目標減衰力Drolを算出できる。
【0085】
そして、ダンパ制御装置20は、バウンス制御部203で算出するバウンス制御目標減衰力Dbouと、ピッチ制御部20cで算出するピッチ制御目標減衰力Dpitと、ロール制御部20dで算出するロール制御目標減衰力Drolと、を利用して、目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する。
【0086】
図11を参照して、ダンパ制御装置20が目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する手順を説明する。
【0087】
最初にダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。具体的に、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS801→Yes)、ストローク速度Vstが正で、ダンパ1aが伸長する方向に変位していると判定する。そして、ダンパ制御装置20は、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうち、減衰力が最大となるものを選択して、目標減衰力Dtgtとする。具体的に、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうちの最大値を目標減衰力Dtgtとする(ステップS802)。
【0088】
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS801→No)、ストローク速度Vstが負で、ダンパ1aが圧縮する方向に変位していると判定する。そして、ダンパ制御装置20は、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうち、減衰力が最小となるものを選択して、目標減衰力Dtgtとする。具体的に、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうちの最小値を目標減衰力Dtgtとする(ステップS803)。
【0089】
このように、ダンパ制御装置20は目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する。
【0090】
説明を図7のステップS9に進める。ダンパ制御装置20は、目標減衰力選択器204で算出された目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに基づいて、制御電流出力器205で制御電流Icontを設定する(ステップS9)。前記したように、制御電流出力器205では、図6の(b)に示すような制御電流設定マップ205aを参照し、目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに対応した制御電流Icontを設定する。
【0091】
そして、ダンパ制御装置20は、設定した制御電流Icontをアクチュエータ5に入力してダンパ1aの減衰力を変更して減衰力可変ダンパ1を制御する(ステップS10)。
【0092】
なお、前記したように、4つの車輪101(図1参照)を備える車両100(図1参照)の場合、4つの減衰力可変ダンパ1(図1参照)が車両100に備わる。したがって、ダンパ制御装置20(図1参照)は、各減衰力可変ダンパ1ごとに、目標減衰力Dtgtを算出して制御する構成となる。
そして、ストローク制御ベース減衰力、ストローク補正係数、スカイフック制御ベース減衰力、スカイフック補正係数、振幅依存補正係数は、前輪、後輪ごとにそれぞれ算出され、目標減衰力Dtgtも前輪、後輪ごとに算出される。
【0093】
なお、ダンパ制御装置20は各減衰力可変ダンパ1ごとに備わっていてもよいし、1つのダンパ制御装置20が4つの減衰力可変ダンパ1を制御する構成であってもよい。
【0094】
以上のように、本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1(図1参照)は、ダンパ制御装置20のスカイフック制御部20b(図2参照)で、ダンパ1a(図1参照)の振幅Hstに応じた振幅依存補正係数を算出するとともに、スカイフック制御ベース減衰力を振幅依存補正係数で補正することを特徴とする。
【0095】
図6の(a)に示すように、振幅依存補正係数はダンパ1a(図1参照)の振幅が小さいときは小さく設定される。したがって、ダンパ1aの振幅Hstが小さいとき、スカイフック制御ベース減衰力が振幅依存補正係数によって小さく補正される。
【0096】
従来、スカイフック制御では、バネ上速度Vbodyに応じて減衰力が設定され、バネ上速度Vbodyが大きいほど高い減衰力が発生していた。
したがって、ダンパ1aの振幅が小さい場合であってもバネ上速度Vbodyが大きければ減衰力が高くなり、バネ上(車体2(図1参照))が高い周波数で小さく振動するときの減衰力が高くなって乗り心地が悪化していた。
【0097】
本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1(図1参照)では、ダンパ1aの振幅Hstが小さいときにスカイフック制御ベース減衰力を小さくするように補正し、減衰力が高まることを抑えられる。したがって、車両100(図1参照)が、細かい凹凸のある路面を走行する場合や、キャッツアイを踏んで走行する場合など、車体2が高い周波数で小さく振動するときに減衰力が高まることが抑えられ、乗り心地が悪化することを回避できる。
【0098】
なお、図5の(a)に示すホールド時間T1を、バネ上である車体2(図1参照)の共振周波数の周期より短く設定すると、例えば、上限値検出部223(図2参照)が上限値をプラス側ピーク値Upk2に更新したときに、下限値検出部224(図2参照)が下限値をリセットし、下限値がマイナス側ピーク値Lpk2より大きな値となる場合がある。
この場合、振幅算出部225(図2参照)が算出する振幅Hstは、共振周波数による振動で発生する振幅(Upk2−Lpk2)より小さくなる。したがって、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が低下しやすくなり、細かい振動に対する乗り心地が優先される。
【0099】
また、図5の(a)に示すホールド時間T1を、バネ上である車体2(図1参照)の共振周波数の周期より長く設定すると、車体2の振動が収束しても上限値検出部223(図2参照)は上限値としてプラス側ピーク値Upk2を保持し、下限値検出部224(図2参照)は下限値としてマイナス側ピーク値Lpk2を保持する。この場合、ダンパ1aの振幅が小さくなっても、振幅算出部225(図2参照)が算出する振幅Hstは「Upk2−Lpk2」の状態が継続し、スカイフック補正係数が大きい状態が維持される。つまり、スカイフック制御ベース減衰力が小さくなるように補正されず、従来のスカイフック制御による振動抑制効果を得ることができる。
【0100】
そして、図5の(a)に示すホールド時間T1を、ダンパ1a(図1参照)の設定、路面状態、運転者の意向等によって適宜変更可能とすれば、例えば、車両100(図1参照)の走行性能や居住性を運転者の好みに合わせられ、快適な車両100にできるという効果を得ることができる。
【0101】
また、所定のホールド時間T1(図5の(a)参照)の間に出現するプラス側ピーク値を上限値、マイナス側ピーク値を下限値として、ストローク変位の振幅を算出する構成であってもよい。つまり、上限値および下限値を更新しても上限値ホールドタイマおよび下限値ホールドタイマをリセットせず、ホールド時間T1における上限値と下限値を検出してストローク変位の振幅を算出する構成であってもよい。
この構成であっても、ホールド時間T1にストローク変位の振幅を算出でき、その振幅に応じて振幅依存補正係数を算出できる。さらに、算出した振幅依存補正係数で補正したスカイフック制御目標減衰力Dshを算出できる。
【符号の説明】
【0102】
1 減衰力可変ダンパ
1a ダンパ
2 車体(バネ上)
14 ストロークセンサ
20 ダンパ制御装置(減衰力可変ダンパの制御装置)
100 車両
101 車輪(バネ下)
102 サスペンション装置
223 上限値検出部(上限値検出手段)
224 下限値検出部(下限値検出手段)
225 振幅算出部(振幅算出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備わる減衰力可変ダンパの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体を支持して振動を吸収するため、減衰力を変化可能な減衰力可変ダンパが広く知られている。
そして、減衰力可変ダンパをスカイフック制御し、乗り心地を向上する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、バネ上の車体とバネ下の車輪の相対変化が中立位置に対して所定の変位以上となる振動のとき、変位の方向が中立位置に向かって変化する期間に限って減衰力を高める技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−143959号公報
【特許文献2】特開昭64−16413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に開示されるスカイフック制御では、車体の上下速度に応じて減衰力を高めるため、車体が共振周波数域の振動で大きく上下振動する場合に、その振動を効果的に減衰できる。しかしながら、車両が細かい凹凸のある路面を走行するときや、キャッツアイ(路面に設置される小型びょう)を踏んで走行するときなど、車体が高い周波数で小さく上下振動するときにも上下速度に応じて減衰力を高める場合があり、この場合に乗り心地が悪化するという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に開示される技術によって、車体と車輪の相対変位の変位方向が中立位置に向かうときに限って減衰力を高めることができるが、車体の上下速度との関係についての示唆はなく、車体が高い周波数で小さく上下振動するときのスカイフック制御で乗り心地が悪化するという問題を解決するには至らない。
【0006】
そこで、本発明は、バネ上が高い周波数で小さく振動するときにも振動を吸収するようにスカイフック制御することが可能な減衰力可変ダンパの制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の請求項1は、車両のサスペンション装置に設けられたダンパのバネ上速度が高いほど当該ダンパの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定するとともに前記ダンパのバネ上速度が低いほど当該ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を設定し、前記バネ上速度の方向と前記ダンパのストローク速度の方向が同方向の場合に、前記減衰力制御量に基づいて前記ダンパの減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパの制御装置とする。そして、ストロークセンサが検出する前記ダンパのストローク変位に基づいて当該ダンパの振幅を算出する振幅算出手段を備え、前記振幅算出手段が算出する前記ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって前記ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を補正することを特徴とする。
【0008】
この発明によると、スカイフック制御されるダンパの減衰力を、ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって低くできる。したがって、ダンパのバネ上が高い周波数で小さく振動する場合にダンパの減衰力を低くすることができ、例えば細かい凹凸のある路面を走行する車両やキャッツアイを踏んで走行する車両のバネ上の振動を好適に吸収して乗り心地の悪化を抑制できる。
【0009】
また、請求項2の発明は請求項1に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記振幅算出手段は、前記ストロークセンサが所定の単位時間ごとに検出する前記ストローク変位の上限値と下限値の差分を前記ダンパの振幅として算出することを特徴とする。
【0010】
この発明によると、ダンパのストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいて、スカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。したがって、バネ上の最も大きな振動成分に応じてダンパの減衰力を低くすることができ、バネ上の振動を好適に吸収できる。また、ダンパの伸縮方向(変位方向)に関係なく振幅を算出することができ、制御を簡素化できるとともに、振幅を取得する特別な装置も不要であり、部品点数の増加に伴うコストアップを抑制できる。
【0011】
また、請求項3の発明は請求項2に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記上限値を所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記上限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記上限値より大きい場合は当該ストローク変位で前記上限値を更新して、この時点から更新後の前記上限値を前記所定時間保持し、前記上限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記上限値をリセットする上限値検出手段と、前記下限値を前記所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記下限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記下限値より小さい場合は当該ストローク変位で前記下限値を更新して、この時点から更新後の前記下限値を前記所定時間保持し、前記下限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記下限値をリセットする下限値検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、所定時間に亘って保持されるストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいて、スカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。ストローク変位の上限値と下限値が算出されるタイミングは異なるものであるが、ストローク変位の上限値と下限値を所定時間保持することによって、上限値と下限値の差分を算出できる。
【0013】
また、請求項4の発明は請求項3に記載の減衰力可変ダンパの制御装置であって、前記所定時間は、前記ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間であることを特徴とする。
【0014】
この発明によると、ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間以上の時間に亘って保持されるストローク変位の上限値と下限値の差分に基づいてスカイフック制御されるダンパの減衰力を低くできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、バネ上が高い周波数で小さく振動するときにも振動を吸収するようにスカイフック制御することが可能な減衰力可変ダンパの制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】減衰力可変ダンパの構成を示す図である。
【図2】ダンパ制御装置の機能ブロックを示す図である。
【図3】(a)はストローク制御マップの一例を示す図、(b)はストローク制御補正マップの一例を示す図である。
【図4】(a)はスカイフック制御マップの一例を示す図、(b)はスカイフック制御補正マップの一例を示す図である。
【図5】(a)はストローク変位の時間的変化と、上限値および下限値を示す図、(b)は振幅の時間的変化を示す図である。
【図6】(a)は振幅依存補正マップの一例を示す図、(b)は制御電流設定マップの一例を示す図である。
【図7】ダンパ制御プログラムのフローチャートである。
【図8】ストローク制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図9】スカイフック制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図10】バウンス制御目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【図11】目標減衰力を算出する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、車両100の車輪101はサスペンション装置102によって車体2に弾性支持され、サスペンション装置102には、本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1が備わる。なお、図1に示すように車両100に備わる減衰力可変ダンパ1において、車輪101はバネ下に相当し、車体2はバネ上に相当する。
また、車両100が4つの車輪101を有する場合、減衰力可変ダンパ1は各車輪101にそれぞれ1つづつ備わるように構成される。
【0018】
減衰力可変ダンパ1は、ナックル4を支持するサスペンションアーム3と車体2を接続するように備わり、サスペンションアーム3に下端を支持されるシリンダ8と、シリンダ8の内部で摺動するピストンヘッド9と、ピストンヘッド9の上方に延伸するピストンロッド10を含んで構成される。なお、シリンダ8の内部には減衰力を発生させるオイルが封入され、シリンダ8とピストンヘッド9とピストンロッド10を含んでダンパ1aが構成される。そして、ダンパ1aはサスペンションアーム3の振動によって伸縮し、シリンダ8に封入されるオイルの抵抗で発生する減衰力でサスペンションアーム3の振動及び車体2の振動を吸収する。
【0019】
ピストンロッド10の上端にはコア11が取り付けられ、さらに、コア11を囲むようにコイル12が配置されてコア11とコイル12とでアクチュエータ5を形成する。アクチュエータ5は、コイル12に制御電流Icontとしての励磁電流が供給されると発生する磁力を負荷としてダンパ1aの減衰力を高める装置であり、減衰力可変ダンパ1の減衰力を変更可能な減衰力変更装置として機能する。
また、アクチュエータ5は、コイル12に供給される制御電流Icontの大きさによってダンパ1aの減衰力の大きさを調節可能に構成されることが好ましい。
さらに、コア11の上部は、弾性体で構成されるダンパマウント6を介して車体2と接続される。
【0020】
このように、減衰力可変ダンパ1は、シリンダ8、ピストンヘッド9、ピストンロッド10の他にアクチュエータ5およびダンパマウント6を含んで構成され、ダンパ1aの定常状態からの変移(ストローク変位)がストロークセンサ14によって検出される。ここでいう定常状態は、荷重がかからずにダンパ1aが伸縮していない状態のことでありストローク変位がゼロの状態を示す。
そして、ストロークセンサ14は、例えば、ダンパ1aが定常状態から伸長する方向に変位したときを正、定常状態から圧縮する方向に変位したときを負とする符号を付してストローク変位を検出することが好ましい。
また、車体2に発生する上下加速度は上下Gセンサ16が検出し、車両100の車速Vcarは車速センサ15が検出するように構成されている。
【0021】
さらにシリンダ8の外周には外側に向かって広がるフランジ部8aが形成され、フランジ部8aと車体2の間にはコイルバネ7が配設される。コイルバネ7は、例えば車輪101に発生する上下方向の振動を弾性力で吸収するように備わっている。
【0022】
なお、符号20は減衰力可変ダンパ1の制御装置(ダンパ制御装置)である。
図2に示すように、ダンパ制御装置20は、ダンパ1a(図1参照)の減衰力を設定するストローク制御目標減衰力Dstを算出するストローク制御部20aと、スカイフック制御目標減衰力Dshを算出するスカイフック制御部20bと、ピッチ制御目標減衰力Dpitを算出するピッチ制御部20cと、ロール制御目標減衰力Drolを算出するロール制御部20dと、目標減衰力Dtgtを算出する目標減衰力選択器204と、目標減衰力Dtgtをアクチュエータ5の制御電流Icontに変換して出力する制御電流出力器205と、を含んで構成される。
【0023】
さらに、ダンパ制御装置20には、ストロークセンサ14が検出するストローク変位からストローク速度Vstを算出するストローク速度算出部200と、上下Gセンサ16が検出する車体2(図1参照)の上下加速度から車体2の上下速度(バネ上速度Vbody)を算出するバネ上速度算出部201と、を含んでいる。
【0024】
ストローク速度算出部200は、ストローク変位の方向(伸長側、圧縮側)に対応する符号を付してストローク速度Vstを算出する。例えば、ダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位するときのストローク速度Vstを正とし、ダンパ1aが圧縮する方向に変位するときのストローク速度Vstを負とする。つまり、ストローク速度Vstは、符号(正負)によってその方向が示される。
また、バネ上速度算出部201は、車体2(図1参照)に発生する上下加速度に対応する符号を付してバネ上速度Vbodyを算出する。例えば、車体2に上向きの加速度が発生しているときのバネ上速度Vbodyを正とし、車体2に下向きの加速度が発生しているときのバネ上速度Vbodyを負とする。そして、バネ上速度Vbodyも、符号(正負)によってその方向が示される。
また、本実施形態においては、バネ上速度Vbodyとストローク速度Vstの符号が一致するときバネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が同方向とし、バネ上速度Vbodyとストローク速度Vstの符号が異なるときバネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が逆方向とする。
【0025】
ストローク制御部20aは、ストローク速度算出部200が算出するストローク速度Vstに基づいてストローク制御ベース減衰力を算出するストローク減衰力算出部210と、車速センサ15が算出する車速Vcarに応じたストローク補正係数を算出するストローク補正係数算出部211と、ストローク補正係数算出部211が算出するストローク補正係数を乗算してストローク制御ベース減衰力を補正し、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する乗算器212と、を含んで構成される。
【0026】
ストローク減衰力算出部210では、例えば図3の(a)に示すストローク制御マップ210aをストローク速度Vstに応じて参照し、ストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を前輪、後輪ごとに算出する。このようなストローク制御マップ210aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、ストローク速度Vstに基づいてストローク制御ベース減衰力を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用してストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を算出する構成であってもよい。
【0027】
なお、図3の(a)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するストローク制御マップ210aを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するストローク制御マップであってもよい。
【0028】
ストローク補正係数算出部211(図2参照)では、例えば図3の(b)に示すストローク制御補正マップ210bを車速Vcarに応じて参照し、車速Vcarに対応するストローク補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このようなストローク制御補正マップ210bは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、車速Vcarに基づいてストローク補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して車速Vcarに対応するストローク補正係数を算出する構成であってもよい。
ストローク補正係数は車速Vcarに依存して変化し、例えば車速Vcarが低い低速時にはストローク制御ベース減衰力を小さく補正して乗り心地を向上させ、車速Vcarが高い高速時にはストローク制御ベース減衰力を大きく補正して車両100(図1参照)の走行安定性を向上させる。
【0029】
なお、図3の(b)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するストローク制御補正マップ210bを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するストローク制御補正マップであってもよい。
【0030】
そして、乗算器212(図2参照)では、ストローク制御ベース減衰力にストローク補正係数を乗算してストローク制御ベース減衰力を補正し、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
具体的には、前輪のストローク制御ベース減衰力には前輪のストローク補正係数を乗算して前輪のストローク制御目標減衰力Dstを算出し、後輪のストローク制御ベース減衰力には後輪のストローク補正係数を乗算して後輪のストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
【0031】
図2に示すスカイフック制御部20bは、バネ上速度算出部201が算出するバネ上速度Vbodyに基づいてスカイフック制御ベース減衰力を算出するスカイフック減衰力算出部220と、車速センサ15が検出する車速Vcarに応じたスカイフック補正係数を算出するスカイフック補正係数算出部221と、スカイフック制御ベース減衰力にスカイフック補正係数を乗算する乗算器227と、を含んで構成される。
【0032】
さらに、本実施形態に係るスカイフック制御部20bは、ストロークセンサ14が検出するストローク変位の上限値(伸長側)を検出する上限値検出手段(上限値検出部223)と、ストローク変位の下限値(圧縮側)を検出する下限値検出手段(下限値検出部224)と、ストローク変位の上限値および下限値からダンパ1a(図1参照)の振幅を算出する振幅算出手段(振幅算出部225)と、ダンパ1aの振幅に基づいて振幅依存補正係数を算出するスカイフック補正部226と、を含んで構成される。
【0033】
スカイフック減衰力算出部220では、例えば図4の(a)に示すスカイフック制御マップ220aをバネ上速度Vbodyに応じて参照し、バネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を前輪、後輪ごとに算出する。このようなスカイフック制御マップ220aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、バネ上速度Vbodyに基づいてスカイフック制御ベース減衰力を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用してバネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を算出する構成であってもよい。
【0034】
スカイフック制御ベース減衰力は、バネ上速度Vbodyが高いほど、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が高くなるように大きく設定され、バネ上速度Vbodyが低いほど、ダンパ1aの減衰力が低くなるように小さく設定される減衰力制御量である。
【0035】
なお、図4の(a)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するスカイフック制御マップ220aを示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するスカイフック制御マップであってもよい。
【0036】
スカイフック補正係数算出部221(図2参照)では、例えば図4の(b)に示すスカイフック制御補正マップ220bを車速Vcarに応じて参照し、車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このようなスカイフック制御補正マップ220bは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、車速Vcarに基づいてスカイフック補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を算出する構成であってもよい。
スカイフック補正係数は0から1の範囲の数で車速Vcarに依存して変化し、例えば車速Vcarが低い低速時にはスカイフック減衰力を小さく補正して乗り心地を向上させ、車速Vcarが高い高速時にはスカイフック減衰力を大きく補正して車両100(図1参照)の走行安定性を向上させる。
【0037】
なお、図4の(b)には、前輪と後輪で異なる特性曲線を有するスカイフック制御補正マップ220bを図示したが、前輪と後輪で共通する特性曲線を有するスカイフック制御補正マップであってもよい。
【0038】
図2に示す上限値検出部223と下限値検出部224は、ストロークセンサ14が検出するストローク変位の上限値と下限値をそれぞれ検出する。
本実施形態においては、所定の検出時間においてダンパ1a(図1参照)が最も伸長したときのストローク変位を上限値、ダンパ1aが最も圧縮したときのストローク変位を下限値とする。
【0039】
例えば、ストロークセンサ14(図1参照)が検出するストローク変位が図5の(a)に実線で示すように変動する場合、上限値検出部223は、予め設定されるサンプリングタイムを単位時間として、そのサンプリングタイムごとにストロークセンサ14が検出するストローク変位を取得し、時刻t2でプラス(+)側ピーク値Upk1を検出すると、予め設定される所定時間(以下、ホールド時間T1と称する)をカウントするタイマ(上限値ホールドタイマ)をリセットする。そして、ピーク値Upk1を上限値として保持した状態でストローク変位の検出を継続し、ピーク値Upk1より高いストローク変位を検出する前にホールド時間T1が経過したら上限値(ピーク値Upk1)と上限値ホールドタイマをリセットし、上限値の検出を再開する。
なお、本実施形態において、上限値のリセットは、その時点でのストロークセンサ14の検出値(ストローク変位)を新たな上限値にすることを示す。また、上限値ホールドタイマのリセットは、その時点から上限値ホールドタイマが新たにホールド時間T1をカウントすることを示す。
【0040】
しかしながら、ホールド時間T1が経過するより前(図5の(a)に示す時刻t4)にピーク値Upk1より高いピーク値Upk2を検出した場合、上限値検出部223は上限値をピーク値Upk2で更新する。つまり、ピーク値Upk1に変えてピーク値Upk2を上限値として保持する。さらに、上限値ホールドタイマをリセットする。
そして、ピーク値Upk2より高いピーク値を検出することなく時刻t4からホールド時間T1が経過した時刻t6において上限値(ピーク値Upk2)と上限値ホールドタイマをリセットし、上限値の検出を再開する。
この構成によって、上限値検出部223は、上限値をピーク値Upk2で更新した時点から更新後の上限値(ピーク値Upk2)をホールド時間T1に亘って保持できる。
【0041】
同様に、下限値検出部224は、上限値検出部223と同じサンプリングタイム間隔でストローク変位を取得し、時刻t1でマイナス(−)側ピーク値Lpk1を検出すると、ホールド時間T1をカウントするタイマ(下限値ホールドタイマ)をリセットする。そして、ピーク値Lpk1を下限値として保持した状態でストローク変位の検出を継続し、ピーク値Lpk1より低いストローク変位を検出する前にホールド時間T1が経過したら下限値(ピーク値Lpk1)と下限値ホールドタイマをリセットし、下限値の検出を再開する。
なお、本実施形態において、下限値のリセットは、その時点でのストロークセンサ14の検出値(ストローク変位)を新たな下限値にすることを示す。また、下限値ホールドタイマのリセットは、その時点から下限値ホールドタイマが新たにホールド時間T1をカウントすることを示す。
【0042】
しかしながら、ホールド時間T1が経過するより前(図5の(a)に示す時刻t3)にピーク値Lpk1より低いピーク値Lpk2を検出した場合、下限値検出部224は下限値をピーク値Lpk2で更新する。つまり、ピーク値Lpk1に変えてピーク値Lpk2を下限値として保持する。さらに、下限値ホールドタイマをリセットする。
そして、ピーク値Lpk2より低いピーク値を検出することなく時刻t3からホールド時間T1が経過した時刻t5において下限値(ピーク値Lpk2)と下限値ホールドタイマをリセットし、下限値の検出を再開する。
この構成によって、下限値検出部224は、下限値をピーク値Lpk2で更新した時点から更新後の下限値(ピーク値Lpk2)をホールド時間T1に亘って保持できる。
【0043】
以上のように上限値検出部223が上限値を検出し、下限値検出部224が下限値を検出すると、ストローク変位の上限値は破線で示すように変化し、下限値は一点鎖線で示すように変化する。
【0044】
上限値検出部223と下限値検出部224は、それぞれストローク変位を取得するサンプリングタイムごとに、保持している上限値と下限値を振幅算出部225に入力する。振幅算出部225では入力された上限値から下限値を減算(上限値−下限値)し、振幅Hstを算出する。そして、図5の(b)に示すように、時間の経過に応じて連続的に変化する振幅Hstが算出される。
【0045】
ホールド時間T1は、バネ上となる車体2(図1参照)の共振周波数に基づいて決定されることが好適である。
バネ上である車体2と、バネ下である車輪101(図1参照)はそれぞれ固有の共振周波数を有し、一般的に車輪101(バネ下)は、車体2(バネ上)の共振周波数より高い周波数が共振周波数となる。例えば、車体2(バネ上)の共振周波数は3〜5Hz程度であり、車輪101(バネ下)の共振周波数は10Hz程度である。
【0046】
例えば、車体2(図1参照)の共振周波数が3Hzの場合、車体2が共振周波数(3Hz)で大きく振動するときは0.3秒周期でストローク変位のプラス側ピーク値(Upk1、Upk2)とマイナス側ピーク値(Lpk1、Lpk2)が現われることから、ホールド時間T1を0.3秒とすると、上限値検出部223および下限値検出部224は、車体2が共振周波数3Hzで大きく振動するときのストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得できる。
【0047】
また、車輪101(図1参照)の共振周波数10Hzで車体2(図1参照)が振動する場合、0.3秒より短い0.1秒周期でプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値が現われることから、上限値検出部223および下限値検出部224は、ストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得できる。
以上のことから、車体2(バネ上)の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間をホールド時間T1として決定することが好ましい。このような構成によって、上限値検出部223および下限値検出部224は、ストローク変位のプラス側ピーク値とマイナス側ピーク値を確実に取得することができる。
また、上限値検出部223や下限値検出部224がストローク変位を取得する単位時間(サンプリングタイム)はホールド時間T1より短い時間であることが好ましい。
【0048】
振幅算出部225は、算出したダンパ1a(図1参照)の振幅Hstをスカイフック補正部226に入力する。スカイフック補正部226では、例えば図6の(a)に示す、振幅依存補正マップ226aを振幅Hstに応じて参照し、振幅Hstに対応する振幅依存補正係数を前輪、後輪ごとに算出する。このような振幅依存補正マップ226aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。または、ダンパ1a(図1参照)の振幅に基づいて振幅依存補正係数を算出する関数を予め設定しておき、当該関数を使用して振幅Hstに対応する振幅依存補正係数を算出する構成であってもよい。
【0049】
そして、スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数は乗算器227に入力され、スカイフック減衰力算出部220が算出するスカイフック制御ベース減衰力と、スカイフック補正係数算出部221が算出するスカイフック補正係数と、スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数と、が乗算器227で乗算されてスカイフック制御目標減衰力Dshが算出される。
具体的には、前輪のスカイフック制御ベース減衰力には前輪のスカイフック補正係数と前輪の振幅依存補正係数を乗算して前輪のスカイフック制御目標減衰力Dshを算出し、後輪のスカイフック制御ベース減衰力には後輪のスカイフック補正係数と後輪の振幅依存補正係数を乗算して後輪のスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する。
【0050】
スカイフック補正部226が算出する振幅依存補正係数は、例えば0から1の間の値で振幅に依存して変化し、ダンパ1a(図1参照)の振幅Hstが小さいときはスカイフック制御ベース減衰力を小さく補正してスカイフック制御の影響力を弱め、ダンパ1aの振幅Hstが大きくなるにしたがってスカイフック制御の影響力を強めるように設定される。
【0051】
図2に示すピッチ制御部20cは、車速センサ15によって検出される車速Vcarと、車体2(図1参照)の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ17によって検出される前後加速度に応じてピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する。
【0052】
ロール制御部20dは、車速センサ15によって検出される車速Vcarと、車体2(図1参照)の横方向(左右方向)の加速度を検出する横Gセンサ18によって検出される横加速度と、車体2に発生するヨーレートを検出するヨーレートセンサ19によって検出されるヨーレートに応じてロール制御目標減衰力Drolを算出する。
【0053】
ストローク制御部20aが算出するストローク制御目標減衰力Dstと、スカイフック制御部20bが算出するスカイフック制御目標減衰力Dshはバウンス制御部203に入力される。
バウンス制御部203では、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が同じときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択してバウンス制御目標減衰力Dbouとして出力し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なるときはストローク制御目標減衰力Dstを選択してバウンス制御目標減衰力Dbouとして出力する。
【0054】
前記したように、本実施形態においては、車体2(図1参照)に上向きの加速度が発生しているときにバネ上速度Vbodyが正になり、車体2に下向きの加速度が発生しているときにバネ上速度Vbodyが負になる。
また、ダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位してるときにストローク速度Vstが正になり、ダンパ1aが圧縮する方向に変位してるときにストローク速度Vstが負になる。
つまり、バウンス制御部203では、車体2が上向きに変位している場合、ダンパ1aが伸長しているときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択し、ダンパ1aが圧縮しているときはストローク制御目標減衰力Dstを選択する。
また、車体2が下向きに変位している場合、ダンパ1aが伸長しているときはストローク制御目標減衰力Dstを選択し、ダンパ1aが圧縮しているときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択する。
換言すると、バウンス制御部203では、バネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が同方向のときはスカイフック制御目標減衰力Dshを選択し、バネ上速度Vbodyの方向とストローク速度Vstの方向が逆方向のときはストローク制御目標減衰力Dstを選択する。
【0055】
ピッチ制御部20cが出力するピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御部20dが出力するロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御部203が出力するバウンス制御目標減衰力Dbouは、目標減衰力選択器204に入力される。
【0056】
目標減衰力選択器204は、ストローク速度Vstが正のとき、つまりダンパ1a(図1参照)が伸長する方向に変位しているときは、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouのうち、もっとも減衰力が高い1つ、つまり値が最大の減衰力を選択し、目標減衰力Dtgtとして出力する。
このとき、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouの全てが「0」より小さいときは、目標減衰力Dtgtとして「0」を出力する。したがってストローク速度Vstが正のとき、目標減衰力Dtgtは常に0以上になる。
【0057】
また、目標減衰力選択器204は、ストローク速度Vstが負のとき、つまりダンパ1aが圧縮する方向に変位しているときは、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouのうち、もっとも減衰力が低い1つ、つまり値が最小の減衰力を選択し、目標減衰力Dtgtとして出力する。
このとき、ピッチ制御目標減衰力Dpit、ロール制御目標減衰力Drol、バウンス制御目標減衰力Dbouの全てが「0」より大きいときは、目標減衰力Dtgtとして「0」を出力する。したがってストローク速度Vstが負のとき、目標減衰力Dtgtは常に0以下になる。
【0058】
目標減衰力選択器204から出力される目標減衰力Dtgtは、制御電流出力器205に入力される。
制御電流出力器205では、入力された目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに基づいて、例えば図6の(b)に示すような制御電流設定マップ205aを参照し、アクチュエータ5(図1参照)の制御電流Icontを目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに応じて設定して出力する。
【0059】
図6の(b)に示す制御電流設定マップ205aは、右側の領域がストローク速度Vstが正の領域を示し、左側の領域がストローク速度Vstが負の領域を示す。そして、ストローク速度Vstが正の領域でストローク速度Vstは+V1から+V5に向かって正の方向に高くなることを示す。つまり、同じ目標減衰力Dtgtであれば、ストローク速度Vstが正の方向に高いほど制御電流Icontが小さくなることを示す。
また、ストローク速度Vstが負の領域でストローク速度Vstは−V1から−V5に向かって負の方向に高くなることを示す。つまり、同じ目標減衰力Dtgtであれば、ストローク速度Vstが負の方向に高いほど制御電流Icontが小さくなることを示す。
このような制御電流設定マップ205aは、実験計測等によって予め設定されることが好ましい。
【0060】
なお、ストローク速度Vstが制御電流設定マップ205aに示されない中間速度の場合(例えば、V1とV2の間)、比例配分等によって制御電流Icontを設定すればよい。または、当該中間速度の前後の速度(例えば、V1とV2)のどちらかに基づいて設定される制御電流Icontを当該中間速度に対する制御電流Icontとする構成としてもよい。
【0061】
このように制御電流出力器205で設定されて出力される制御電流Icontは、アクチュエータ5(図1参照)に入力されて、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が変更される。
【0062】
以上のように、ダンパ制御装置20(図1参照)は、制御電流Icontを設定して出力し、アクチュエータ5(図1参照)に入力してダンパ1a(図1参照)の減衰力を変化させ、減衰力可変ダンパ1(図1参照)を制御する。
【0063】
ダンパ制御装置20(図1参照)は、車両100(図1参照)の動作中に、例えば、予め組み込まれたプログラム(以下、ダンパ制御プログラムと称する)を所定のインターバルで連続実行し、制御電流Icontを出力して減衰力可変ダンパ1(図1参照)を制御する。
ここでいう車両100の動作中は、車両100の図示しないメインスイッチ(例えば、イグニッション)がONになっている状態を示す。
以下、ダンパ制御プログラムの実行による減衰力可変ダンパ1の制御について説明する(適宜図1〜6参照)。
【0064】
図7に示すように、ダンパ制御装置20は、ダンパ制御プログラムを開始すると、ストロークセンサ14が検出するストローク変位をストローク速度算出部200で微分してストローク速度Vstを算出する(ステップS1)。また、上下Gセンサ16が検出する車体2の上下加速度を積分してバネ上速度Vbodyを算出する(ステップS2)。
ストローク変位の微分や上下加速度の積分には、例えば、前回またはそれ以前にダンパ制御プログラムを実行したときのストローク変位や上下加速度を利用することができる。
つまり、ダンパ制御装置20は、前回またはそれ以前にダンパ制御プログラムを実行したときに取得したストローク変位や上下加速度を利用して、ストローク変位を微分し、上下加速度を積分する。
【0065】
そして、ダンパ制御装置20は、算出したストローク速度Vstと車速センサ15が検出する車速Vcarに基づいて、ストローク制御部20aでストローク制御目標減衰力Dstを算出する(ステップS3)。
【0066】
図8を参照して、ダンパ制御装置20がストローク制御部20aでストローク制御目標減衰力Dstを算出する手順(図7におけるステップS3の詳細)を説明する。
ダンパ制御装置20は、ストローク減衰力算出部210で、図3の(a)に示すストローク制御マップ210aを参照し、ストローク速度Vstに対応するストローク制御ベース減衰力を算出する(ステップS301)。さらに、ストローク補正係数算出部211で、図3の(b)に示すストローク制御補正マップ210bを参照し、車速Vcarに対応するストローク補正係数を算出する(ステップS302)。そして、乗算器212で、ストローク制御ベース減衰力とストローク補正係数を乗算(ステップS303)して、ストローク制御目標減衰力Dstを算出する。
【0067】
説明を図7のステップS4に進める。ダンパ制御装置20は、算出したストローク速度Vst、算出したバネ上速度Vbody、車速センサ15が検出する車速Vcar、ストロークセンサ14が検出するストローク変位に基づいて、スカイフック制御部20bでスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する(ステップS4)。
【0068】
図9を参照して、ダンパ制御装置20がスカイフック制御部20bでスカイフック制御目標減衰力Dshを算出する手順(図7におけるステップS4の詳細)を説明する。
ダンパ制御装置20は、スカイフック減衰力算出部220で、図4の(a)に示すスカイフック制御マップ220aを参照し、バネ上速度Vbodyに対応するスカイフック制御ベース減衰力を算出する(ステップS401)。さらに、スカイフック補正係数算出部221で、図4の(b)に示すスカイフック制御補正マップ220bを参照し、車速Vcarに対応するスカイフック補正係数を算出する(ステップS402)。
【0069】
そして、ダンパ制御装置20は、ストロークセンサ14が検出するストローク変位を取得して上限値検出部223が保持している上限値と比較する(ステップS403)。
そして、今回取得したストローク変位が、保持している上限値より大きい場合(ステップS403→Yes)、取得したストローク変位を上限値とし(ステップS404)、上限値ホールドタイマをリセットして(ステップS405)、処理をステップS406に進める。
なお、上限値検出部223はストローク変位のプラス側の絶対値が上限値の絶対値より大きいとき、ストローク変位が上限値より大きいと判定する。
【0070】
一方、今回取得したストローク変位が上限値以下の場合(ステップS403→No)、ダンパ制御装置20は、上限値を変えることなく処理をステップS406に進め、取得したストローク変位と下限値検出部224が保持している下限値を比較する。
そして、今回取得したストローク変位が、保持している下限値より小さい場合(ステップS406→Yes)、取得したストローク変位を下限値とし(ステップS407)、下限値ホールドタイマをリセットして(ステップS408)、処理をステップS409に進める。
なお、下限値検出部224はストローク変位のマイナス側の絶対値が下限値の絶対値より大きいとき、ストローク変位が下限値より小さいと判定する。
【0071】
一方、今回取得したストローク変位が保持している下限値以上の場合(ステップS406→No)、ダンパ制御装置20は、下限値を変えることなく処理をステップS409に進め、上限値検出部223が保持している上限値と、下限値検出部224が保持している下限値を振幅算出部225に入力し、上限値から下限値を減算してダンパ1aの振幅Hstを算出する。
【0072】
この構成によって、図5の(a)に示されるようにダンパ1aが振動した場合、ダンパ制御装置20は、プラス側のストローク変位のピーク値Upk2と、マイナス側のストローク変位のピーク値Lpk2とを、それぞれホールド時間T1の間ホールドして、図5の(b)に示すように振幅Hstを算出できる。
【0073】
そして、ダンパ制御装置20は、スカイフック補正部226で、図6の(a)に示す振幅依存補正マップ226aを参照し、ダンパ1aの振幅Hstに応じた振幅依存補正係数を算出する(ステップS410)。
【0074】
さらに、ダンパ制御装置20は、スカイフック減衰力算出部220で算出したスカイフック制御ベース減衰力と、スカイフック補正係数算出部221で算出したスカイフック補正係数と、スカイフック補正部226で算出した振幅依存補正係数と、を乗算器227で乗算して(ステップS411)、スカイフック制御目標減衰力Dshを算出する。
【0075】
そして、ダンパ制御装置20は、上限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていれば(ステップS412→Yes)、上限値と上限値ホールドタイマをリセットする(ステップS413)。
一方、上限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていないとき(ステップS412→No)、ダンパ制御装置20は上限値と上限値ホールドタイマをリセットすることなく処理をステップS414に進め、下限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていれば(ステップS414→Yes)、下限値と下限値ホールドタイマをリセットする(ステップS415)。
下限値ホールドタイマのカウントがホールド時間T1を超えていなければ(ステップS414→No)、ダンパ制御装置20は下限値と下限値ホールドタイマをリセットすることなくスカイフック制御目標減衰力を算出する処理を終了する。
【0076】
以上のように、本実施形態に係るダンパ制御装置20は、ホールド時間T1におけるストローク変位の上限値と下限値とから振幅Hstを算出し、さらに、振幅Hstに基づいた振幅依存補正係数を算出する。そして、バネ上速度Vbodyに基づいて算出されるスカイフック制御ベース減衰力を、スカイフック補正係数と振幅依存補正係数とで補正できる。
【0077】
説明を図7のステップS5に進める。ダンパ制御装置20は、算出したストローク制御目標減衰力Dstとスカイフック制御目標減衰力Dshとに基づいて、バウンス制御部203でバウンス制御目標減衰力Dbouを算出する(ステップS5)。
【0078】
図10を参照して、ダンパ制御装置20がバウンス制御部203でバウンス制御目標減衰力Dbouを算出する手順を説明する。
最初にダンパ制御装置20は、バネ上速度Vbodyの符号を判定する。具体的に、バネ上速度Vbodyが「0」以上のとき(ステップS501→Yes)、バネ上速度Vbodyが正と判定する。
【0079】
そして、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。具体的に、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS502→Yes)、ストローク速度Vstが正と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が等しいと判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が同方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(上方向)とダンパ1aの変位の方向(伸長する方向)とが等しいと判定し、スカイフック制御目標減衰力Dshを選択して(ステップS503)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS502→No)、ストローク速度Vstが負と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なると判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が逆方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(上方向)とダンパ1aの変位の方向(圧縮する方向)とが異なると判定し、ストローク制御目標減衰力Dstを選択して(ステップS504)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0080】
また、バネ上速度Vbodyが「0」未満のとき(ステップS501→No)、ダンパ制御装置20は、バネ上速度Vbodyが負と判定する。そして、ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。
【0081】
ダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS505→Yes)、ストローク速度Vstが正と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が異なると判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が逆方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(下方向)とダンパ1aの変位の方向(伸長する方向)とが異なると判定し、ストローク制御目標減衰力Dstを選択して(ステップS506)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS505→No)、ストローク速度Vstが負と判定し、バネ上速度Vbodyの符号とストローク速度Vstの符号が等しいと判定する。つまり、ストローク速度Vstの方向とバネ上速度Vbodyの方向が同方向と判定する。そして、車体2の変位の方向(下方向)とダンパ1aの変位の方向(圧縮する方向)とが等しいと判定し、スカイフック制御目標減衰力Dshを選択して(ステップS507)、バウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0082】
このように、ダンパ制御装置20は、車体2の変位の方向とダンパ1aの変位の方向が等しいときは、スカイフック制御目標減衰力Dshをバウンス制御目標減衰力Dbouとし、車体2の変位の方向とダンパ1aの変位の方向が異なるときは、ストローク制御目標減衰力Dstをバウンス制御目標減衰力Dbouとする。
【0083】
説明を図7のステップS6に進める。ダンパ制御装置20は、ピッチ制御部20cでピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する(ステップS6)。ピッチ制御部20cでは、前記したように、車速Vcarと、車体2の前後加速度と、ストローク変位に応じてピッチ制御目標減衰力Dpitを算出する。例えば、図示はしないが、車速Vcarと、車体2の前後加速度と、ピッチ制御目標減衰力Dpitの関係を示すマップを用いて、ピッチ制御目標減衰力Dpitを算出できる。
【0084】
さらに、ダンパ制御装置20は、ロール制御部20dでロール制御目標減衰力Drolを算出する(ステップS7)。ロール制御部20dでは、前記したように、車速Vcarと、車体2の横加速度と、車体2のヨーレートに応じてロール制御目標減衰力Drolを算出する。例えば、図示はしないが、車速Vcarと、車体2の横加速度と、車体2のヨーレートと、ロール制御目標減衰力Drolの関係を示すマップを用いて、ロール制御目標減衰力Drolを算出できる。
【0085】
そして、ダンパ制御装置20は、バウンス制御部203で算出するバウンス制御目標減衰力Dbouと、ピッチ制御部20cで算出するピッチ制御目標減衰力Dpitと、ロール制御部20dで算出するロール制御目標減衰力Drolと、を利用して、目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する。
【0086】
図11を参照して、ダンパ制御装置20が目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する手順を説明する。
【0087】
最初にダンパ制御装置20は、ストローク速度Vstの符号を判定する。具体的に、ストローク速度Vstが「0」以上のとき(ステップS801→Yes)、ストローク速度Vstが正で、ダンパ1aが伸長する方向に変位していると判定する。そして、ダンパ制御装置20は、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうち、減衰力が最大となるものを選択して、目標減衰力Dtgtとする。具体的に、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうちの最大値を目標減衰力Dtgtとする(ステップS802)。
【0088】
一方、ストローク速度Vstが「0」未満のとき(ステップS801→No)、ストローク速度Vstが負で、ダンパ1aが圧縮する方向に変位していると判定する。そして、ダンパ制御装置20は、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうち、減衰力が最小となるものを選択して、目標減衰力Dtgtとする。具体的に、「0」とバウンス制御目標減衰力Dbouとピッチ制御目標減衰力Dpitとロール制御目標減衰力Drolのうちの最小値を目標減衰力Dtgtとする(ステップS803)。
【0089】
このように、ダンパ制御装置20は目標減衰力選択器204で目標減衰力Dtgtを算出する。
【0090】
説明を図7のステップS9に進める。ダンパ制御装置20は、目標減衰力選択器204で算出された目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに基づいて、制御電流出力器205で制御電流Icontを設定する(ステップS9)。前記したように、制御電流出力器205では、図6の(b)に示すような制御電流設定マップ205aを参照し、目標減衰力Dtgtとストローク速度Vstに対応した制御電流Icontを設定する。
【0091】
そして、ダンパ制御装置20は、設定した制御電流Icontをアクチュエータ5に入力してダンパ1aの減衰力を変更して減衰力可変ダンパ1を制御する(ステップS10)。
【0092】
なお、前記したように、4つの車輪101(図1参照)を備える車両100(図1参照)の場合、4つの減衰力可変ダンパ1(図1参照)が車両100に備わる。したがって、ダンパ制御装置20(図1参照)は、各減衰力可変ダンパ1ごとに、目標減衰力Dtgtを算出して制御する構成となる。
そして、ストローク制御ベース減衰力、ストローク補正係数、スカイフック制御ベース減衰力、スカイフック補正係数、振幅依存補正係数は、前輪、後輪ごとにそれぞれ算出され、目標減衰力Dtgtも前輪、後輪ごとに算出される。
【0093】
なお、ダンパ制御装置20は各減衰力可変ダンパ1ごとに備わっていてもよいし、1つのダンパ制御装置20が4つの減衰力可変ダンパ1を制御する構成であってもよい。
【0094】
以上のように、本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1(図1参照)は、ダンパ制御装置20のスカイフック制御部20b(図2参照)で、ダンパ1a(図1参照)の振幅Hstに応じた振幅依存補正係数を算出するとともに、スカイフック制御ベース減衰力を振幅依存補正係数で補正することを特徴とする。
【0095】
図6の(a)に示すように、振幅依存補正係数はダンパ1a(図1参照)の振幅が小さいときは小さく設定される。したがって、ダンパ1aの振幅Hstが小さいとき、スカイフック制御ベース減衰力が振幅依存補正係数によって小さく補正される。
【0096】
従来、スカイフック制御では、バネ上速度Vbodyに応じて減衰力が設定され、バネ上速度Vbodyが大きいほど高い減衰力が発生していた。
したがって、ダンパ1aの振幅が小さい場合であってもバネ上速度Vbodyが大きければ減衰力が高くなり、バネ上(車体2(図1参照))が高い周波数で小さく振動するときの減衰力が高くなって乗り心地が悪化していた。
【0097】
本実施形態に係る減衰力可変ダンパ1(図1参照)では、ダンパ1aの振幅Hstが小さいときにスカイフック制御ベース減衰力を小さくするように補正し、減衰力が高まることを抑えられる。したがって、車両100(図1参照)が、細かい凹凸のある路面を走行する場合や、キャッツアイを踏んで走行する場合など、車体2が高い周波数で小さく振動するときに減衰力が高まることが抑えられ、乗り心地が悪化することを回避できる。
【0098】
なお、図5の(a)に示すホールド時間T1を、バネ上である車体2(図1参照)の共振周波数の周期より短く設定すると、例えば、上限値検出部223(図2参照)が上限値をプラス側ピーク値Upk2に更新したときに、下限値検出部224(図2参照)が下限値をリセットし、下限値がマイナス側ピーク値Lpk2より大きな値となる場合がある。
この場合、振幅算出部225(図2参照)が算出する振幅Hstは、共振周波数による振動で発生する振幅(Upk2−Lpk2)より小さくなる。したがって、ダンパ1a(図1参照)の減衰力が低下しやすくなり、細かい振動に対する乗り心地が優先される。
【0099】
また、図5の(a)に示すホールド時間T1を、バネ上である車体2(図1参照)の共振周波数の周期より長く設定すると、車体2の振動が収束しても上限値検出部223(図2参照)は上限値としてプラス側ピーク値Upk2を保持し、下限値検出部224(図2参照)は下限値としてマイナス側ピーク値Lpk2を保持する。この場合、ダンパ1aの振幅が小さくなっても、振幅算出部225(図2参照)が算出する振幅Hstは「Upk2−Lpk2」の状態が継続し、スカイフック補正係数が大きい状態が維持される。つまり、スカイフック制御ベース減衰力が小さくなるように補正されず、従来のスカイフック制御による振動抑制効果を得ることができる。
【0100】
そして、図5の(a)に示すホールド時間T1を、ダンパ1a(図1参照)の設定、路面状態、運転者の意向等によって適宜変更可能とすれば、例えば、車両100(図1参照)の走行性能や居住性を運転者の好みに合わせられ、快適な車両100にできるという効果を得ることができる。
【0101】
また、所定のホールド時間T1(図5の(a)参照)の間に出現するプラス側ピーク値を上限値、マイナス側ピーク値を下限値として、ストローク変位の振幅を算出する構成であってもよい。つまり、上限値および下限値を更新しても上限値ホールドタイマおよび下限値ホールドタイマをリセットせず、ホールド時間T1における上限値と下限値を検出してストローク変位の振幅を算出する構成であってもよい。
この構成であっても、ホールド時間T1にストローク変位の振幅を算出でき、その振幅に応じて振幅依存補正係数を算出できる。さらに、算出した振幅依存補正係数で補正したスカイフック制御目標減衰力Dshを算出できる。
【符号の説明】
【0102】
1 減衰力可変ダンパ
1a ダンパ
2 車体(バネ上)
14 ストロークセンサ
20 ダンパ制御装置(減衰力可変ダンパの制御装置)
100 車両
101 車輪(バネ下)
102 サスペンション装置
223 上限値検出部(上限値検出手段)
224 下限値検出部(下限値検出手段)
225 振幅算出部(振幅算出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサスペンション装置に設けられたダンパのバネ上速度が高いほど当該ダンパの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定するとともに前記ダンパのバネ上速度が低いほど当該ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を設定し、
前記バネ上速度の方向と前記ダンパのストローク速度の方向が同方向の場合に、前記減衰力制御量に基づいて前記ダンパの減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパの制御装置において、
ストロークセンサが検出する前記ダンパのストローク変位に基づいて当該ダンパの振幅を算出する振幅算出手段を備え、
前記振幅算出手段が算出する前記ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって前記ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を補正することを特徴とする減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項2】
前記振幅算出手段は、前記ストロークセンサが所定の単位時間ごとに検出する前記ストローク変位の上限値と下限値の差分を前記ダンパの振幅として算出することを特徴とする請求項1に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項3】
前記上限値を所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記上限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、
前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記上限値より大きい場合は当該ストローク変位で前記上限値を更新して、この時点から更新後の前記上限値を前記所定時間保持し、
前記上限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記上限値をリセットする上限値検出手段と、
前記下限値を前記所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記下限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、
前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記下限値より小さい場合は当該ストローク変位で前記下限値を更新して、この時点から更新後の前記下限値を前記所定時間保持し、
前記下限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記下限値をリセットする下限値検出手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、前記ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間であることを特徴とする請求項3に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項1】
車両のサスペンション装置に設けられたダンパのバネ上速度が高いほど当該ダンパの減衰力が高くなるように減衰力制御量を設定するとともに前記ダンパのバネ上速度が低いほど当該ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を設定し、
前記バネ上速度の方向と前記ダンパのストローク速度の方向が同方向の場合に、前記減衰力制御量に基づいて前記ダンパの減衰力を制御するスカイフック制御を行う減衰力可変ダンパの制御装置において、
ストロークセンサが検出する前記ダンパのストローク変位に基づいて当該ダンパの振幅を算出する振幅算出手段を備え、
前記振幅算出手段が算出する前記ダンパの振幅が小さくなるのにしたがって前記ダンパの減衰力が低くなるように前記減衰力制御量を補正することを特徴とする減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項2】
前記振幅算出手段は、前記ストロークセンサが所定の単位時間ごとに検出する前記ストローク変位の上限値と下限値の差分を前記ダンパの振幅として算出することを特徴とする請求項1に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項3】
前記上限値を所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記上限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、
前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記上限値より大きい場合は当該ストローク変位で前記上限値を更新して、この時点から更新後の前記上限値を前記所定時間保持し、
前記上限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記上限値をリセットする上限値検出手段と、
前記下限値を前記所定時間保持するとともに前記単位時間ごとに前記下限値を前記振幅算出手段に入力する機能を有し、
前記ストロークセンサが検出するストローク変位が、保持している前記下限値より小さい場合は当該ストローク変位で前記下限値を更新して、この時点から更新後の前記下限値を前記所定時間保持し、
前記下限値を更新しないで前記所定時間保持したときに前記下限値をリセットする下限値検出手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、前記ダンパのバネ上の共振周波数の周期と等しい時間かそれ以上の時間であることを特徴とする請求項3に記載の減衰力可変ダンパの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−96643(P2012−96643A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245457(P2010−245457)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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