説明

減衰機構

【課題】
大きなバネ力及び長いストロークを有し、且つ、製造が容易で、低コストで、他の装置への取り付け自由度の高い、減衰機構(バネダンパー機構)を提供する。
【解決手段】
減衰機構1が、第1シリンダ2と、第1シリンダ3よりも小型で且つ複数の第2シリンダ3を有し、第1シリンダ2が、流体を充填した第1ケーシング4と、第1ケーシングの内部をA室L1とB室R1に分離するように配置した第1ピストン5を有し、第2シリンダ3が、流体を充填した第2ケーシング6と、第2ケーシング6の内部をA室L2とB室R2に分離するように配置した第2ピストン7と、第2ピストン7の位置を中立点に維持するための弾性体8を有し、第1シリンダ2のA室L1と、複数の第2シリンダ3のA室L2をそれぞれ流体の流れる流路で連通し、第1シリンダ2のB室R1と第2シリンダ3のB室R2をそれぞれ流体の流れる流路で連通し、流路に絞り弁10を設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ機構及びダンパー機構を有する減衰機構に関するものである。特に、コンテナ荷役を行うクレーン等の免震装置及び制振装置に利用する免震制振用減衰機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーン、門型クレーン、コンテナトレーラによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。このコンテナターミナルにおける地震対策として、岸壁クレーンの機械室を制振マス(おもり)として利用し、制振効果を得るように構成したクレーンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7に従来型の地震対策を施した岸壁クレーンの1例を示す。岸壁クレーン11Xは、脚構造物31の下端に免震装置(アイソレータ)26Xを介して走行装置21を有し、上方にガーダ61及びブーム62を有している。このガーダ61及びブーム62に沿って、トロリ60が走行し、コンテナの荷役作業を行うように構成している。この走行装置21は、岸壁(地表面30)に敷設したレール上を走行する車輪を有している。また、免震装置26Xは、地表面30の振動からクレーン11Xを絶縁するための装置であり、例えば鋼板とゴムを交互に積層したアイソレータ等のバネダンパー機構を使用している。
【0004】
更に、このクレーン11Xは、ガーダ61上に機械室64を利用した制振装置63を有している。この制振装置63は、機械室64の下面に車輪66を設置し、この機械室64がガーダ61上を海陸方向(図7の左右方向)に移動できるように構成している。
【0005】
次に、このクレーン11Xの地震発生時の動作について説明する。地震発生時には、免震装置26Xを固定していたせん断ピン等が破断し、免震装置26Xが作動する。この免震装置26Xは、クレーン構造物を地表面30の振動から絶縁し、振動を吸収する。この構造により、クレーン11Xは免震効果を得ることができる。
【0006】
また、地震発生時には、機械室64を固定していたせん断ピン等が破断し、制振装置63が作動する。制振装置63は、機械室64がクレーン構造物(脚構造物31、ガーダ61等)に対して揺動自在となるように構成しており、クレーン構造物の振動とは異なる周期で揺動する。更に、機械室64とクレーン構造物の間に設置した減衰機構65により、相対運動を減衰するように構成している。つまり、機械室64を制振マス(制振用おもり)として利用できるように構成している。
【0007】
上記の免震装置26X及び制振装置63により、クレーン11Xの海陸方向(図7左右方向)の振動を抑制及び減衰することができる。なお、岸壁に沿った方向(図7の手前奥方向)の振動は、走行装置21に設置した車輪の転動あるいは摺動により吸収することができる。
【0008】
上記の免震装置(アイソレータ)26X及び制振装置63により、クレーン11Xは海陸方向に±300mm程度の水平方向変形を吸収することができる。しかし、近年は、海陸方向に約±1000mmの水平方向変形を吸収することが要求されている。また、将来的には例えば海陸方向に約±2000mmなど、吸収すべき水平方向変形の要求が増加する可能性もある。この要求により、免震装置及び制振装置に設置する減衰機構(例えば、バネダンパー機構)の大型化が必要となっている。
【0009】
しかしながら、バネダンパー機構を約±1000mm以上のストロークを有するように大型化するには、以下の問題点を有している。第1に、免震装置及び制振装置として復元力(バネ力、粘性減水力)を与える大型のバネダンパー機構の製造が困難であるという問題を有している。
【0010】
つまり、近年、クレーンの自重が800〜1500tに至っており、このクレーン自体の振動を抑制するバネダンパー機構には、1000〜2000KN/mという大きなバネ力が必要とされている。この要求を例えばコイルバネで満たすことを考えた場合、このコイルバネは超大型バネとなる。このため、大型のバネダンパー機構の製造コストが高コストとなる。
【0011】
第2に、このような大型バネ機構が、任意の復元力を得るように、高い精度でバネ定数を決定し、製造することは困難であるという問題を有している。これは、大型バネ機構のバネ定数が高すぎる場合、バネダンパー機構は見かけ上剛体に近い状態となり、バネダンパーとして作用しない。また、バネ定数が低すぎる場合は、十分な復元力が得られない。つまり、免震装置及び制振装置のバネダンパー機構は、バネ定数を高い精度で決定することが必須となる。
【0012】
第3に、大型のバネダンパー機構の設置スペースを確保することが困難であるという問題を有している。このバネダンパー機構は、約±1000mm以上のストロークが必要であるため大型となる。しかし、枠状構造物であるクレーン上に、このバネダンパー機構を搭載するスペースを確保することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−242062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、大きなバネ力及び長いストロークを有し、且つ、製造が容易で、低コストで、他の装置への取り付け自由度の高い、減衰機構(バネダンパー機構)を提供することを目的とする。特に、クレーンの免震装置及び制振装置に利用する減衰機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係る減衰機構は、バネ機構とダンパー機構を有した減衰機構において、前記減衰機構が、第1シリンダと、前記第1シリンダよりも小型で且つ複数の第2シリンダを有し、前記第1シリンダが、流体を充填した第1ケーシングと、前記第1ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第1ピストンを有し、前記第2シリンダが、流体を充填した第2ケーシングと、前記第2ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第2ピストンと、前記第2ピストンの位置を中立点に維持するための弾性体を有し、前記第1シリンダのA室と、複数の第2シリンダのA室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記第1シリンダのB室と前記第2シリンダのB室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記流路に絞り弁を設置したことを特徴とする。
【0016】
この構成により、第1シリンダの復元力を、複数の第2シリンダの弾性体の合力により容易に得ることができるため、巨大バネコイル等の製造が不要となり、減衰機構の低コスト化を実現することができる。また、絞り弁を設置した構成により、粘性減衰力を得るこ
とができる。そのため、この減衰機構は、見かけ上、巨大なバネダンパー機構と同様の性能を有する。
【0017】
また、第1シリンダの有するバネ定数を、複数の第2シリンダのバネ定数から精密に設計することができるため、精度の高い減衰機構を提供することができる。つまり、任意のバネ定数を有した減衰機構を提供することができる。
【0018】
更に、減衰機構の取り付け自由度を向上することができる。つまり、減衰機構を、巨大バネコイル等が不要となり小型化した第1シリンダと、第1シリンダよりも小型である複数の第2シリンダから構成し、第1シリンダと第2シリンダを、流体の流れる流路(例えば、油圧回路等)で連通する。そのため、第1シリンダと第2シリンダを、異なる場所に設置することができ、複数の第2シリンダを数箇所に分けて配置することもできる。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明に係る免震制振用減衰機構は、岸壁クレーンの免震装置又は制振装置の少なくとも一方に設置し、バネ機構とダンパー機構を有した免震制振用減衰機構において、前記免震制振用減衰機構が、第1シリンダと、前記第1シリンダよりも小型で且つ複数の第2シリンダを有し、前記第1シリンダが、流体を充填した第1ケーシングと、前記第1ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第1ピストンを有し、前記第2シリンダが、流体を充填した第2ケーシングと、前記第2ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第2ピストンと、前記第2ピストンの位置を中立点に維持するための弾性体を有し、前記第1シリンダのA室と、複数の第2シリンダのA室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記第1シリンダのB室と前記第2シリンダのB室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記流路に絞り弁を設置したことを特徴とする。この構成により、上記の減衰機構と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
上記の免震制振用減衰機構において、前記第1シリンダと前記第2シリンダを連通する前記流路に、ロックバルブを設置し、地震が発生した際に、前記ロックバルブが、閉止していた流路を開放し、前記第1シリンダのA室と前記複数の第2シリンダのA室間で前記流体を移動可能とし、前記第1シリンダのB室と前記複数の第2シリンダのB室間で前記流体を移動可能とする構成を有したことを特徴とする。
【0021】
この構成により、クレーンがコンテナの荷役等を行う通常時には、免震装置及び制振装置を固定し、地震発生時には、免震装置及び制振装置が作動するように制御することができる。また、免震装置及び制振装置の作動開始を、ロックバルブの開閉のみで制御できるため、従来のせん断ピン等を利用する場合と比べ、確実且つ迅速な制御を実現することができる。
【0022】
上記の免震制振用減衰機構において、前記ロックバルブと前記複数の第2シリンダを連通してユニットを形成し、前記第1シリンダに対して、複数の前記ユニットを連通したことを特徴とする。この免震制振用減衰機構が、複数のロックバルブを有する構成により、各ロックバルブの開閉制御により、第1シリンダの有するバネ定数を可変とすることができる。
【0023】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンは、前述の減衰機構を、少なくとも免震装置又は制振装置に設置したことを特徴とする。この構成により、耐震効果の高いクレーンを提供することができる。つまり、岸壁クレーンは、±300mm以上のストロークを有し、且つ精度の高い減衰機構(バネダンパー機構)を、免震装置又は制振装置に搭載しているため、大規模地震にも耐えることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る減衰機構によれば、大きなバネ力及び長いストロークを有し、且つ、製造が容易で、低コストで、他の装置への取り付け自由度の高い、減衰機構(バネダンパー機構)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る実施の形態の減衰機構の概略を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の免震制振用減衰機構を設置するクレーンの概略を示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の免震制振用減衰機構を免震装置に設置した図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の免震制振用減衰機構を設置するクレーンの概略を示した図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の免震制振用減衰機構を設置するクレーンの一部を示した図である。
【図6】本発明に係る異なる実施の形態の減衰機構の概略を示した図である。
【図7】従来の制振装置を有する岸壁クレーンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態の減衰機構について、図面を参照しながら説明する。図1に免震制振用減衰機構1の概略を示す。この免震制振用減衰機構(以下、減衰機構という)1は、大型の第1シリンダ2と、前記第1シリンダよりも小型で且つ複数の第2シリンダ3を有している。
【0027】
この第1シリンダ2が、流体を充填した第1ケーシング4と、第1ケーシング4の内部をA室L1とB室R1に分離するように配置した第1ピストン5を有している。同様に、第2シリンダ3が、流体を充填した第2ケーシング6と、第2ケーシング6の内部をA室L2とB室R2に分離するように配置した第2ピストン7を有している。更に、第2シリンダ3が、第2ピストンの位置を、予め定めた中立点に維持するための弾性体8を有している。
【0028】
また、第1シリンダ2のA室L1と、複数の第2シリンダ3のA室L2をそれぞれ流体の流れる流路で連通している。同様に、第1シリンダ2のB室R1と、複数の第2シリンダ3のB室R2をそれぞれ流体の流れる流路で連通している。つまり、第1シリンダ2のA室L1又はB室R1に充填している流体を、複数の第2シリンダ3のA室L2又はB室R2にそれぞれ分配する流路を構成する。なお、A室L1、L2と、B室R1、R2の間での流体の移動はない。
【0029】
更に、減衰機構1は、流路上に、ロックバルブ(トリガー弁とも言う)9及び絞り弁(オリフィス等)10を有している。
【0030】
なお、上記の第1シリンダ2及び第2シリンダ3は、例えば充填する流体を油とした油圧シリンダ等を利用することができる。また、弾性体8は、例えばコイルバネ8や、板バネ等を利用することができる。更に、ロックバルブ9は、例えばソレノイドコイルを利用することができる。
【0031】
次に、減衰機構1の動作を説明する。地震発生時に、流路を遮断していたロックバルブ9を開放し、第1シリンダ2と第2シリンダ3に充填した流体が、相互に移動可能となるように制御する。同時に、地震動により制振マス等の移動体12が揺動し、この移動体12の移動に伴い、第1シリンダ2の第1ピストン5が移動する。
【0032】
例えば、第1ピストン5が図1の左方に移動した場合、第1ケーシング4のA室L1の流体が押し出され、流路を経由して、複数の第2シリンダ3のA室L2に移動する。この流体の移動により、第2シリンダ3の第2ピストン7は図1の右方に移動する。
【0033】
このとき、各第2シリンダ3の第2ピストン7は、コイルバネ等の弾性体8から、移動前の場所(中立点)に戻る方向の力(復元力)を受ける。この復元力により、各第2シリンダ3のA室L2の流体は、第1シリンダ2のA室L1に押し戻される。つまり、複数の第2シリンダ3の弾性体8の有する復元力の合力が、第1シリンダ2の第1ピストンを移動前の場所(中立点)に戻す方向の力(復元力)となるように構成している。
【0034】
なお、第1シリンダ2は、流体が流路中を移動する抵抗及び、絞り弁10による流動抵抗により、粘性減衰力を得ることができる。また、地震等の影響のない通常時は、ロックバルブ9を閉止し、流体の移動を遮断し、第1ピストン5を固定した状態とする。
【0035】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、第1シリンダ2に復元力を、複数の第2シリンダ3の弾性体8の合力により容易に得ることができる。つまり、実質的には製造困難な巨大なバネコイルを製造した場合と同様の復元力を得ることができるため、減衰機構1の製造が容易となる。また、減衰機構1の低コスト化を実現することができる。
【0036】
第2に、第1シリンダ2の有する復元力を高い精度で設計することができる。つまり、第1シリンダ2の有するバネ定数を、第2シリンダ3の複数の弾性体8の集合として高い精度で決定することができる。特に、大型の第1シリンダ2に大型の弾性体(コイルバネ等)を設置した装置を、実験により検査することは、非常に困難となる。しかし、小型の第2シリンダ3は製造して、実験検査をすることが可能であるため、精度の高いものを提供することが可能となる。
【0037】
第3に、減衰機構1の取り付けの自由度を向上することができる。つまり、第1シリンダ2は、巨大なコイルバネ等の弾性体を有さないため、小型となり、クレーン等への設置自由度が向上する。また、第1シリンダ2と、複数の第2シリンダ3を流体の流路で連結しているため、第1シリンダ2及び第2シリンダ3を異なる場所に設置することも可能となる。
【0038】
なお、第1シリンダ2の中立点の決定は、第1シリンダ2のA室L1と複数の第2シリンダ3のA室L2に封入した流体量と、第1シリンダ2のB室R1と複数の第2シリンダ3のB室R2に封入した流体量を、調整して行うことができる。そのため、第1シリンダ2の中立点の決定を、容易に行うことができ、更に、容易に変更することができる。つまり、第1シリンダ2の中立点を事後的に調整できるため、クレーン等への設置作業時の位置合わせが容易となる。
【0039】
なお、図1の第1シリンダ2及び第2シリンダ3は、両ロッドシリンダで構成しているが、これを片ロッドシリンダで構成してもよい。この構成により、装置全体をコンパクト化することができる。つまり、シリンダ2、3から突出するロッドが一方のみとなるため、他方にロッドがストロークするためのスペースを設ける必要がなくなる。
【0040】
ここで、例えば図1の右側(B室側)にロッドを有する片ロッドシリンダを使用する場合、A室L1の断面積と、A室L2の断面積の総和を同一とする。同様にB室R1の断面積(ロッド部分を除く)と、B室R2の断面積(ロッド部分を除く)の総和を同一とする。
【0041】
つまり、第1シリンダ2のA室L1の流体変化量と、第2シリンダ3のA室L2の流体変化量の総和は等しくなり、この流体変化量により、第1ピストン5及び第2ピストン7のストローク量が自ずと決定する。このストローク量から自ずと決定される第1シリンダ2のB室R1の流体変化量は、ストローク量から自ずと決定される第2シリンダ3のB室R2の流体変化量の総和と同一となる必要がある。上記の条件を満たさない場合は、第1シリンダ2及び第2シリンダ3は、摺動することが不可能となる。この断面積を同一とする設計は、片ロッドシリンダのロッド径を変化させることで、実現することができる。
【0042】
また、両ロッドシリンダを使用する場合、A室側L1、L2とB室側R1、R2のロッド径が異なるように構成することもできる。この際には、上記の片ロッドシリンダを使用する場合と同様に、A室L1の断面積と、A室L2の断面積の総和を同一とする。同様にB室R1の断面積(ロッド部分を除く)と、B室R2の断面積(ロッド部分を除く)の総和を同一とする。
【0043】
更に、第2シリンダ3に、片ロッドシリンダを採用する場合は、シリンダ3の外に突出しているロッドに弾性体8を設置すればよい。なお、両ロッドシリンダを採用した場合、弾性体8は両側のロッドに設置することもでき、片側のロッドのみに設置することもできる。
【0044】
なお、片ロッドシリンダ又は両ロッドシリンダのシリンダ側に弾性体8を設置する構成としても良い。つまり、シリンダにガイドを設置し、シリンダ自体が長手方向に摺動可能に構成する。このシリンダからブラケート等を突設し、弾性体8を設置するように構成してもよい。
【0045】
次に、減衰機構1をクレーン11の免震装置26に適用した例を説明する。図2に、岸壁クレーン11の台形リンク脚20の拡大図を示す。台形リンク脚20は、海側走行装置21a上の海側シルビーム22aから、上方(例えば鉛直方向)に延伸した海側揺脚23aと、この海側揺脚23aに対して陸側(図2左方)に傾斜した海側リンク脚24aを有している。この海側リンク脚24aは、海側免震装置26aを介して水平材(以下、ポータルタイビームという)25に設置している。陸側も海側と同様の構造を有している。
【0046】
なお、それぞれの揺脚23(海側揺脚23a、陸側揺脚23b)及びリンク脚24(海側リンク脚24a、陸側リンク脚24b)は、海陸方向(図2の左右方向)に揺動(移動)できるように、端部にそれぞれピンジョイントを有している。このリンク機構により、台形リンク脚20は海陸方向に変形することができる。
【0047】
次に、台形リンク脚20の動作及び制御を説明する。クレーン11がコンテナの荷役作業等を行う通常時には、台形リンク脚20を固定して剛の状態としている。具体的には、海側揺脚23a及び陸側揺脚23bを、それぞれ上方に位置する海側脚及び陸側脚に対してせん断ピン等により固定している。同様に、海側免震装置26a及び陸側免震装置26bの動きを、ロックバルブ9を閉止した減衰機構1Aで固定し、海側リンク脚24a及び陸側リンク脚24bをポータルタイビーム25に固定している。地震発生時には、せん断ピン等の破断及びトリガー弁(ロックバルブ)9の開放により、台形リンク脚20が海陸方向に変形する。
【0048】
図3に、減衰機構1Aを有する陸側免震装置26bの拡大図を示す。この陸側免震装置26bは、水平スライダー機構及び減衰機構1Aを組み合わせて構成したものである。なお、説明は陸側免震装置26bを例に行うが、海側免震装置26aも同様に構成することができる。この陸側免震装置26bは、陸側リンク脚24bの上端部にピンジョイント1
9を介して設置している。また、陸側免震装置26bは、ポータルタイビーム25上を海陸方向に移動するためのコロ27を有している。更に、陸側免震装置26bは、ポータルタイビーム25との間に、減衰機構1Aを有している。加えて、陸側免震装置26bの無制限の移動を制限するために、ストッパー29を設置している。
【0049】
この減衰機構1Aは、第1シリンダ2と、トリガー弁(ロックバルブ)9と、複数の第2シリンダ3を有している。この第1シリンダ2の有する第1ピストン5の端部であるロッドを、陸側免震装置26bのスライダー機構に固定している。また、第1シリンダ2を、ポータルタイビーム25の下面に設置し、複数の第2シリンダ3をポータルタイビーム25の上面に設置している。
【0050】
次に、陸側免震装置26b及び減衰機構1Aの動作について説明する。地震発生時には、減衰機構1Aが、センサ等で地震発生を検知し、トリガー弁9を開放し、第1ピストン5を摺動自在とする。この制御により、陸側免震装置26bはポータルタイビーム25に対して移動自在となる。この陸側免震装置26bは、地震動をクレーン11に伝達しないように、海陸方向に移動して地震動を吸収する。また、減衰機構1Aにより地震動を減衰する。更に、減衰機構1Aの有する第1ピストン5に、中立点に戻ろうとする復元力が働く。この復元力により、陸側免震装置26に対しても復元力が働く。
【0051】
そのため、地震後は、トリガー弁9を閉止して陸側免震装置26bを固定し、陸側揺脚23bと上方に位置する陸側脚を固定するのみで、クレーン11の復旧作業が完了する。
【0052】
上述のように、免震装置26(26a及び26b)を大型部材であるポータルタイビーム25に設置する構成により、免震装置26の移動範囲を大きくとることができる。つまり、ポータルタイビーム25上で、コロ27を有した免震装置26は、容易に海陸方向に約±1000mm移動することができる。そのため、クレーン11は、大規模地震に対して有効な免震効果を得ることができる。
【0053】
また、減衰機構1Aを使用する構成により、免震装置26の移動を効果的に減衰することができる。更に、地震後の復旧作業を容易に行うことができる。この減衰機構1Aの第1シリンダ2は、コイルバネ等の弾性体を有していないため、小型に構成することができる。
【0054】
加えて、複数の第2シリンダ3を、第1シリンダ2の設置場所とは、異なる任意の場所に設置することができるため、減衰装置1Aの取り付け自由度を向上することができる。特に、第2シリンダ3をポータルタイビーム25の上面に設置するように構成すると、第2シリンダ3のメンテナンス性を向上することができる。ポータルタイビーム25は大型部材であり、この上面に、作業者の作業領域を確保することができるためである。
【0055】
第1シリンダ2と第2シリンダ3を油圧回路等の流体の流れる流路で連結する構成により、複数の第2シリンダ3の設置位置を、走行装置21、シルビーム22又は揺脚23とすることもできる。この構成により、第2シリンダ3の設置位置を、作業員が定期的にメンテナンスを行うことが容易となる位置に変更することができる。
【0056】
次に、減衰機構1をロープロファイルクレーン40の制振装置を構成する緊張装置45に適用した例を説明する。図4に、ロープロファイルクレーン40の概略を示す。図4に示すクレーン40は、脚構造物31の上部に、枠状の上部構造物43を有している。この上部構造物43の内部に、スライド式ブーム(以下、ブームという)41を配置している。また、上部構造物43は、スライドローラ(以下、ローラという)42を有している。このローラ42上に、ブーム41を移動自在に配置している。ブーム41は、図4の左右
方向に移動することができる。
【0057】
また、上部構造物43にワイヤロープドラム(以下、ドラムという)44を設置している。このドラム44から、ワイヤロープ46を繰り出し、又は巻き取るように構成している。このワイヤロープ46は、ドラム44から出て、ブーム41の端部にそれぞれ固定している。
【0058】
なお、ドラム44は、例えば、海側のワイヤロープ46を巻き取った際は、同量の長さのワイヤロープ46を陸側に繰り出すように構成している。また、クレーン40は、ドラム44とスライド式ブーム41の各端部の間に緊張装置45を有している。このそれぞれの緊張装置45に、ワイヤロープ46を通すように構成している。
【0059】
図5に緊張装置45の概略を示す。緊張装置45は、筐体48の内部に引出しシーブ49、移動シーブ50、戻しシーブ51、及び減衰機構(第1シリンダ2等)1Bを有している。そして、ドラム44から繰り出したワイヤロープ46を、引出しシーブ49から移動シーブ50に通し、戻しシーブ51を経由して、スライド式ブーム41の端部に送るように構成する。つまり、ドラム44から繰り出したワイヤロープ46を、緊張装置45で迂回して、ブーム46の端部に固定するように構成する。
【0060】
次に、緊張装置45の動作について説明する。緊張装置45は、減衰機構1Bの作動により、引出しシーブ49及び戻しシーブ51に対する移動シーブ50の相対的位置を移動して、ワイヤロープ46に発生する張力を制御するように動作する。図5Aは、クレーン11が荷役を行う、又はブーム41の移動(スライド)を行う際(以下、通常時という)の緊張装置45の状態を示している。このとき、減衰機構1Bの第1シリンダ2は収縮しており、移動シーブ50は、引出しシーブ49(又は戻しシーブ51)に対して、離れた位置(0.2〜1.20m程度)にある。そして、ワイヤロープ46は一定の張力が働いた状態(たるみのない状態)にある。
【0061】
図5Bは、地震発生時の緊張装置45の状態を示している。このとき、減衰機構1Bの第1シリンダ2は伸長して、移動シーブ50は、引出しシーブ49(又は戻しシーブ51)に対して、接近した位置(0.02〜0.20m程度)となる。つまり、地震が発生した際には、緊張装置45が作動し、第1シリンダ2が摺動自在となる。これに伴いワイヤロープ46により固定していたブーム41は、ローラ42上を自由に移動することができる。
【0062】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、地震により脚構造物31及び上部構造物43が振動した場合、この振動と異なる周期でブーム41が揺動して、クレーン11に発生する振動を減衰することができる。つまり、クレーン11は、超重量物(300〜400t)であるスライド式ブーム41を制振マスとして利用できるため、クレーン11の自重を増加することなく、高い制振効果を得ることができる。
【0063】
なお、第1シリンダ2が伸張する長さは、ブーム41の揺動する距離により決定する。つまり、クレーン11の大きさや、想定される地震の種類や規模により異なる。この第1シリンダ2が伸張する長さの具体例としては、例えば、それぞれ0.2〜1.0m程度とすることが望ましく、更に望ましくは0.5m程度とする。
【0064】
また、地震発生時には、ドラム44にはブレーキがかかり、ワイヤロープ46の繰り出し、巻取りが発生しないように構成している。これは、地震や停電等が発生して、電気等の動力の供給がない場合にドラム44にブレーキがかかり、動力の供給がある場合に、ブレーキを解除する力が働くように制御する構成により、事故を防止することが望ましいか
らである。
【0065】
図6に、減衰機構1Bの概略を示す。この減衰機構1Bは、複数の第2シリンダ3及びトリガー弁9からなるユニットを、少なくとも2つ有している。また、移動シーブ50を設置した第1シリンダ2に、流体(油等)が流れる方向を制御する制御バルブ52を介して、油圧ポンプ53で圧力をかけるように構成している。なお、前述と同様に、第1シリンダ2及び第2シリンダ3を、片ロッドシリンダで構成しても良い。また、制御バルブ52は、ソレノイドバルブで構成することができる。
【0066】
次に、減衰機構1Bの制御について説明する。通常時には、ソレノイドバルブで構成した制御バルブ52で、流体の流れる方向を制御する。この制御により、ワイヤロープ46のたるみを取り、ワイヤロープ46に発生する張力を調整することができる。つまり、この減衰機構B1の流路では、第1シリンダ2の移動シーブ50側(B室R1)の内圧を一定に保つように制御を行い、この内圧が低下した場合、制御バルブ52が自動的に図6の下方に動き、このB室R1の内圧を上昇するように制御する。そして、内圧が予め定めた規定値に達すると、制御バルブ52を閉止状態(図6に示す状態)となるように制御する。また、コストを下げる目的で、内圧が上がりすぎたときに、制御バルブ52が図6の上方に動き、内圧を下げる回路(クロス回路)を有さないように構成してもよい。
【0067】
地震発生時には、トリガー弁9を開放して、第1シリンダ2に充填した流体が、複数の第2シリンダ3との間で移動可能となるように制御する。つまり、第1シリンダ2の第1ピストン5は、外力(移動シーブ50の自重、又はブーム41の揺動によるワイヤロープ46への張力発生等)により自由に移動することが可能となる。その結果、地震発生時には、ワイヤロープ46でブーム41を固定した状態を解除し、ブーム41が制振マスとして揺動自在な状態となる。また、振動減衰機構B1は、ブーム41の揺動を減衰する。
【0068】
なお、トリガー弁9は、電圧がかからない状態では、バネ等の作用により、自動的に開放側に制御できるソレノイドバルブで構成することが望ましい。この構成により、地震と共に、停電が発生した場合であっても、トリガー弁9を開放することができる。また、クレーン11を地震発生後に復旧する際に、第1シリンダ2の第1ピストン5は、複数の第2シリンダ3が有する弾性体8の復元力の働きにより中立点となっている。そのため、トリガー弁9を閉止し、制御バルブ52を制御して、第1シリンダ2内の圧力を若干調整するのみで、クレーン11を復旧することができる。
【0069】
また、地震の検知は、クレーン11に設置した加速度計や地震計等で行うことができる。この地震の検知信号に基づき、トリガー弁9に流れる電気を停止し、ブーム41の固定を開放する制御により、応答性の高い制振効果を得ることができる。また、せん断ピンによりトリガー弁9を機械的に固定し、地震発生時には、せん断ピンの折損によってトリガー弁9を開放するように構成してもよい。
【0070】
加えて、複数の第2シリンダ3及びトリガー弁9を有するユニットを、複数設置する構成(図6においては2つのユニットを設置)により、第1シリンダ2の有するバネ定数を可変とすることができる。例えば、地震速報等の情報により、大規模な地震発生が予想される場合には、複数のトリガー弁9を開放し、第1シリンダ2のバネ定数を上げて対処する。また、小規模な地震発生が予想される場合には、開放するトリガー弁9の数を減らし、第1シリンダ2のバネ定数を下げて対処する。この制御により、適切にブーム41の振動を減衰することができる。
【0071】
また、地震発生中に、開放するトリガー弁9及び閉止するトリガー弁9を、リアルタイムに制御する構成により、第1シリンダ2のバネ定数をリアルタイムに変更し、高い減衰
効果を得るように制御してもよい。
【0072】
更に、ユニットにより、配置する第2シリンダ3の数を変更したり、設置する弾性体8のバネ定数を変更したりして、構成することも可能である。加えて、メンテナンス時に、この構成を変更し、地域毎に条件の異なる地震動に最適に対応する減衰機構1としてもよい。
【0073】
以上より、免震装置及び制振装置に利用できる高性能な免震制振用減衰機構1、1A、1Bを提供することが可能となる。なお、減衰機構1の使用は、上記の免震装置及び制振装置以外の装置でも可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 減衰機構(免震制振用減衰機構)
2 第1シリンダ
3 第2シリンダ
4 第1ケーシング
5 第1ピストン
6 第2ケーシング
7 第2ピストン
8 弾性体
9 ロックバルブ(トリガー弁)
10 絞り弁(オリフィス)
11 岸壁クレーン
L1、L2 A室
R1、R2 B室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネ機構とダンパー機構を有した減衰機構において、
前記減衰機構が、第1シリンダと、前記第1シリンダよりも小型で且つ複数の第2シリンダを有し、
前記第1シリンダが、流体を充填した第1ケーシングと、前記第1ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第1ピストンを有し、
前記第2シリンダが、流体を充填した第2ケーシングと、前記第2ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第2ピストンと、前記第2ピストンの位置を中立点に維持するための弾性体を有し、
前記第1シリンダのA室と、複数の第2シリンダのA室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記第1シリンダのB室と前記第2シリンダのB室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記流路に絞り弁を設置したことを特徴とする減衰機構。
【請求項2】
岸壁クレーンの免震装置又は制振装置の少なくとも一方に設置し、バネ機構とダンパー機構を有した免震制振用減衰機構において、
前記免震制振用減衰機構が、第1シリンダと、前記第1シリンダよりも小型で且つ複数の第2シリンダを有し、前記第1シリンダが、流体を充填した第1ケーシングと、前記第1ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第1ピストンを有し、前記第2シリンダが、流体を充填した第2ケーシングと、前記第2ケーシングの内部をA室とB室に分離するように配置した第2ピストンと、前記第2ピストンの位置を中立点に維持するための弾性体を有し、
前記第1シリンダのA室と、複数の第2シリンダのA室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記第1シリンダのB室と前記第2シリンダのB室をそれぞれ前記流体の流れる流路で連通し、前記流路に絞り弁を設置したことを特徴とする免震制振用減衰機構。
【請求項3】
前記第1シリンダと前記第2シリンダを連通する前記流路に、ロックバルブを設置し、
地震が発生した際に、前記ロックバルブが、閉止していた流路を開放し、前記第1シリンダのA室と前記複数の第2シリンダのA室間で前記流体を移動可能とし、前記第1シリンダのB室と前記複数の第2シリンダのB室間で前記流体を移動可能とする構成を有したことを特徴とする請求項2に記載の免震制振用減衰機構。
【請求項4】
前記ロックバルブと前記複数の第2シリンダを連通してユニットを形成し、前記第1シリンダに対して、複数の前記ユニットを連通したことを特徴とする請求項3に記載の免震制振用減衰機構。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の減衰機構を、少なくとも免震装置又は制振装置に設置したことを特徴とする岸壁クレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−163413(P2011−163413A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25491(P2010−25491)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】