説明

減速機付きモータ装置

【課題】減速比が大きく、入出力効率の高い減速機付きモータ装置を提供する。
【解決手段】減速機付きモータ装置1に備えられている歯車装置400は、ウォームギヤ機構500と差動歯車機構600とを備えている。差動歯車機構600は、ハウジング300に固定されている第1の太陽歯車602と、外周壁に第1の太陽歯車602の平歯と噛み合う平歯が設けられ、ウォームホイール502に回転自在に軸支されている第1の遊星歯車603、604と、ウォームホイール502を挟み、第1の遊星歯車603、604に対し反対側に、かつ、第1の遊星歯車603、604に対し同心状に配置されるとともに、第1の遊星歯車603、604と連結される第2の遊星歯車607、608と、外周壁に第2の遊星歯車607、608の平歯と噛み合う平歯が設けられ、出力部700が連結されている第2の太陽歯車609とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、減速機付きモータ装置に関し、特に、減速機に差動歯車機構を備えている減速機付きモータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓ガラスを開閉するアクチュエータとして、減速機付きモータ装置が使用されている。減速機付きモータ装置は、電動モータと減速機とを備え、減速機は、電動モータのモータ出力軸の回転を減速し、減速された回転が減速機に備えられている出力部から出力される。そして、減速機の出力部と窓ガラスとは、リンクまたはケーブルにより連結されており、減速機の出力部の回転により窓ガラスは開閉する。
【0003】
窓ガラスは、ゴム部材を介して窓枠に加圧された状態で嵌め込まれているため、ゴム部材と窓ガラスとの間には大きな摩擦力が作用している。また、窓ガラスの自重も大きい。そのため、窓ガラスを開閉するには大きな力が必要であり、減速機の出力部は、大きな回転トルクで回転することが求められる。そこで、自動車の窓ガラスを開閉するアクチュエータとして使用される減速機付きモータ装置は、減速比の大きい減速機が用いられている。
【0004】
一般に、減速機には減速機構としてウォームギヤ機構が用いられ、ウォームギヤ機構は、外周壁につる巻き形状の歯が設けられているウォームと、ウォームの歯と噛み合う外歯が設けられているウォームホイールとにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−259316号公報(コギングトルク)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のウォームギヤ機構を減速比の大きい設定とした場合、ウォームのつる巻き形状のねじ歯と、ウォームホイールのはす歯との間に大きな滑り摩擦力が生じ、この滑り摩擦力により、減速機において大きな機械的損失が生じてしまう。その結果、減速機付きモータ装置の入出力効率を高くすることができない。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、減速比が大きく、かつ、機械的損失が少ない減速機を備え、入出力効率の高い減速機付きモータ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の減速機付きモータ装置は、モータ出力軸を有する電動モータと、出力部を有し、前記電動モータの前記モータ出力軸の回転を減速し、減速された回転を前記出力部から出力する減速機と、を備える減速機付きモータ装置において、前記減速機は、前記電動モータが取り付けられるハウジングと、前記ハウジング内に収容される歯車装置とを備え、前記歯車装置は、前記電動モータのモータ出力軸の回転とともに回転するウォームと、前記ウォームと噛み合い、ハウジング内に回転自在配置されているウォームホイールと、を有するウォームギヤ機構と、前記ウォームホイールと同心状に配置され、かつ、前記ハウジングに対し固定されている第1の太陽歯車と、前記第1
の太陽歯車の平歯と噛み合い、前記ウォームホイールに回転自在に軸支されている少なくとも一つ以上の第1の遊星歯車と、前記ウォームホイールを挟み前記第1の遊星歯車に対し反対側で、前記第1の遊星歯車に対し同心状に配置されるとともに、前記第1の遊星歯車と一体的に連結される第2の遊星歯車と、前記第1の太陽歯車と同心状に回転自在に配置されて、前記第2の遊星歯車の平歯と噛み合い、前記出力部が一体的に連結されている第2の太陽歯車と、を有する差動歯車機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の減速機付きモータ装置に備わる減速機は、ウォームギヤ機構と差動歯車機構を有し、ウォームギヤ機構と差動歯車機構により、電動モータのモータ出力軸の回転を2段階に減速する構成となっている。そのため、ウォームギヤ機構と差動歯車機構により減速比を大きなものとする一方、減速機全体の減速比をウォームギヤ機構と差動歯車機構の両者により減速比を分担することでウォームギヤ機構の減速比を小さくし、ウォームギヤ機構に生じる機械的損失を小さくすることができる。その結果、減速機に生じる機械的損失を少なくし、減速機付きモータ装置の入出力効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における減速機付モータ装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における減速機付モータ装置の展開斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における歯車装置の斜視図である。
【図4】図3にて断面A−Aにて示す歯車装置の断面図である。
【図5】本発明の実施形態における歯車装置に減速比を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明の実施形態を図1から図2に基づき説明する。本実施の形態の減速機付きモータ装置1は、自動車の窓ガラスを開閉するアクチュエータとして用いられるものである。減速機付きモータ装置1は、電動モータ100と減速機200とを備える。電動モータ100は、モータ出力軸(図示せず)を有し、モータ出力軸は、電動モータ100に供給される電力により回転する。
【0012】
減速機200は、出力部700を有し、電動モータ100のモータ出力軸の回転を減速し、減速された回転を出力部700から出力する。また、減速機200は、電動モータ100が取り付けられるハウジング300と、ハウジング300内に収容される歯車装置400とを備えている。なお、減速機200の出力部700と窓ガラスとは、リンクまたはケーブルにより連結されており、減速機200の出力部700の回転により窓ガラスは開閉する。
【0013】
次に、図3および図4に基づき、本実施の形態の歯車装置400について説明する。歯車装置400は、ウォームギヤ機構500および差動歯車機構600を備えている。
【0014】
ウォームギヤ機構500は、ウォーム501およびウォームホイール502を備えている。そして、ウォーム501は、略棒状に形成されるとともに、外周壁につる巻き形状のねじ歯が設けられており、電動モータ100のモータ出力軸が連結され、モータ出力軸の回転とともに回転する。
【0015】
ウォームホイール502は、円盤形状に形成され、外周壁にウォーム501のつる巻き形状の歯と噛み合う複数のはす歯が設けられ、ハウジング300内に回転自在配置されている。そして、ウォーム501のつる巻き形状の歯と、ウォームホイール502のはす歯とが噛み合い、モータ出力軸の回転数は、ウォーム501とウォームホイール502との間で減速され、ウォームホイール502は、この減速された回転数で回転する。
【0016】
本実施の形態の差動歯車機構600は、第1の太陽歯車602、2つの第1の遊星歯車603、604、連結軸605、606、第1の遊星歯車603、604と同数である2つの第2の遊星歯車607、608、および第2の太陽歯車609を備えている。
【0017】
第1の太陽歯車602は、円盤形状に形成され、外周壁に複数の平歯が設けられており、ウォームギヤ機構500のウォームホイール502と同心状の位置にて、ハウジング300上に一体配置され、ハウジング300に対し固定されている。
【0018】
第1の遊星歯車603、604は、円盤形状に形成され、外周壁に複数の平歯が設けられているとともに、一方の端面の中央には棒形状の連結軸605、606が一体形成されている。そして、連結軸605、606がウォームホイール502に回転自在に軸支されることにより、第1の遊星歯車603、604は、ウォームホイール502に回転自在に軸支される。そして、第1の遊星歯車603、604に設けられている平歯は、第1の太陽歯車602に設けられている平歯に噛み合わされている。
【0019】
このように、第1の遊星歯車603、604は、ウォームホイール502に回転自在に軸支されため、第1の遊星歯車603、604は、上記のウォームホイール502の回転数と同じ回転数で第1の太陽歯車602の回りを公転運動する。そして、第1の遊星歯車603、604の平歯は、第1の太陽歯車602の平歯に噛み合わされているため、公転運動とともに上記の公転運動と同じ回転方向に自転運動を行う。
【0020】
第2の遊星歯車607、608は、円盤形状に形成され、外周壁に複数の平歯が設けられている。そして、ウォームホイール502を挟み、第1の遊星歯車603、604に対し反対側に、かつ、第1の遊星歯車603、604に対し同心状に配置されるとともに、連結軸605、606により第1の遊星歯車603、604に一体的に連結されている。
【0021】
このように、第2の遊星歯車607、608は、連結軸605、606により第1の遊星歯車603、604に一体的に連結されていることにより、第2の遊星歯車607、608は第1の遊星歯車603、604と一体的に回転し、第1の遊星歯車603、604と同じ回転数で公転および自転運動を行う。
【0022】
第2の太陽歯車609は、円盤形状に形成され、外周壁に複数の平歯が設けられている。そして、ウォームホイール502を挟み、第1の太陽歯車602に対し反対側に、かつ、第1の太陽歯車602に対しと同心状に配置されているとともに、第2の太陽歯車609の平歯は、第2の遊星歯車607、608の平歯と噛み合わされている。
【0023】
このように、第2の太陽歯車609の平歯と、上記のように公転および自転運動する第2の遊星歯車607、608の平歯とが噛み合わされることにより、第2の太陽歯車609は、第2の遊星歯車607、608の公転および自転運動により回転される。そして、第2の太陽歯車609には、減速機200の出力部700が一体的に連結されており、主力部700は、第2の太陽歯車609とともに回転する。
【0024】
次に、図5に基づき、本実施の形態の歯車装置400の減速比Zrについて、ウォームギヤ機構500の減速比Zurおよび差動歯車機構600の減速比Zsrに分けて説明する。
【0025】
ウォームギヤ機構500の減速比Zurについて、ウォーム501が1回転するときのウォーム501のねじ歯の送り歯数を「Zu1」、ウォームホイール502の歯数を「Zu2」としたとき、減速比Zurは、「Zur=Zu2/Zu1」となる。このとき、モ
ータ出力軸とともに回転するウォーム501の回転数を「Nin」とすると、ウォームホイール502の回転数は、「N1=Nin/Zur」となる。
【0026】
差動歯車機構600の減速比Zsrについて、第1の太陽歯車602の歯数を「Zs1」、第1の遊星歯車603、604の歯数を「Zs2」、第2の遊星歯車607、608の歯数を「Zs3」、および第2の太陽歯車609の歯数を「Zs4」としたとき、減速比Zsrは、「Zsr=(Zs2×Zs4)/(Zs2×Zs4−Zs1×Zs3)」となる。このとき、上記のようにウォームホイール502が回転数N1で回転し、第1の遊星歯車603、604が回転数N1で公転運動するとき、出力部700が一体形成されている第2の太陽歯車609の回転数は、「Nout=N1/Zsr」となる。
【0027】
ウォームギヤ機構500の減速比Zurと差動歯車機構600の減速比Zsrとの積により歯車装置400の減速比Zrは示され、減速比Zrは、「Zr=Zur×Zsr」となる。そして、モータ出力軸の回転数Ninは、減速比Zrで除する回転数Nout(Nout=Nin/Zr)に減速され、出力部700は、減速された回転数Noutで回転する。また、モータ出力部の回転トルクは、減速比Zrに相応する値に増大され、この増大された回転トルクが出力部700の回転トルクとなる。
【0028】
次に、本実施の形態の減速機付きモータ装置1の有する効果について説明する。本実施の形態の減速機付きモータ装置1に備わる減速機200は、ウォームギヤ機構500と差動歯車機構600を有し、ウォームギヤ機構500と差動歯車機構600により、電動モータ100のモータ出力軸の回転を2段階に減速する構成となっている。そのため、ウォームギヤ機構500と差動歯車機構600の両者により減速機200全体の減速比を大きなものとすることができる。
【0029】
そして、ウォームギヤ機構500と、平歯による力の伝達により機械的損失の少ない差動歯車機構600と、により減速機200全体の減速比を2段階に分担することで、ウォームギヤ機構500の減速比を小さくし、ウォームギヤ機構に生じる機械的損失を小さくすることができる。その結果、減速機200に生じる機械的損失を少なくすることができ、減速機付きモータ装置1の入出力効率を高くすることができる。
【0030】
減速機付きモータ装置1により開閉する自動車の窓ガラスに、例えば、車外から不法に進入しようとする者により外力が作用したとき、リンク等により窓ガラスに連結されている減速機付きモータ装置1の出力部700が、窓ガラスに作用する外力により回されようとする。このような外力が出力部700に作用すると、外力は、出力部700が一体形成されている第2の太陽歯車609、第2の太陽歯車609に噛み合わされている第2の遊星歯車607、608、連結軸605、606を介して第1の遊星歯車603、604へと順に伝達され、第1の遊星歯車603、604は第1の太陽歯車602の周囲を公転運動しようとする。
【0031】
このように出力部700に作用する外力が第1の遊星歯車603、604へと伝達されるとき、ウォームホイール502と、連結軸605、606との間に存在する隙間によるガタにより、連結軸605、606は傾く。そして、この連結軸605、606の傾きによりウォームホイール502に軸支されている第1の遊星歯車603、604と、第1の太陽歯車602との軸心距離が変化する。この軸心距離の変化により、第1の遊星歯車603、604と、第1の太陽歯車602とは不正噛み合い状態となる。
【0032】
第1の太陽歯車602はハウジング300に一体固定されており、第1の太陽歯車602に対し不正噛み合い状態となる第1の遊星歯車603、604は、第1の太陽歯車602の周囲を公転運動することができない。そのため、第1の遊星歯車603、604と連
結されている出力部700は、外力によって回転されず、減速機付きモータ装置1は、ブレーキ手段を内部に別途設けることなく、いわゆる逆転防止機能を有することになる。
【符号の説明】
【0033】
1 減速機付きモータ装置
100 電動モータ
200 減速機
300 ハウジング
301 カバー体
400 歯車装置
500 ウォームギヤ機構
501 ウォーム
502 ウォームホイール
600 差動歯車機構
601 センターポール
602 第1の太陽歯車
603、604 第1の遊星歯車
605、606 連結軸
607、608 第2の遊星歯車
609 第2の太陽歯車
700 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ出力軸を有する電動モータと、
出力部を有し、前記電動モータの前記モータ出力軸の回転を減速し、減速された回転を前記出力部から出力する減速機と、を備える減速機付きモータ装置において、
前記減速機は、前記電動モータが取り付けられるハウジングと、前記ハウジング内に収容される歯車装置とを備え、
前記歯車装置は、
前記電動モータのモータ出力軸の回転とともに回転するウォームと、
前記ウォームと噛み合い、ハウジング内に回転自在配置されているウォームホイールと、を有するウォームギヤ機構と、
前記ウォームホイールと同心状に配置され、かつ、前記ハウジングに対し固定されている第1の太陽歯車と、
前記第1の太陽歯車の平歯と噛み合い、前記ウォームホイールに回転自在に軸支されている少なくとも一つ以上の第1の遊星歯車と、
前記ウォームホイールを挟み前記第1の遊星歯車に対し反対側で、前記第1の遊星歯車に対し同心状に配置されるとともに、前記第1の遊星歯車と一体的に連結される第2の遊星歯車と、
前記第1の太陽歯車と同心状に回転自在に配置されて、前記第2の遊星歯車の平歯と噛み合い、前記出力部が一体的に連結されている第2の太陽歯車と、を有する差動歯車機構と、
を備えることを特徴とする減速機付きモータ装置。
【請求項2】
前記第2の遊星歯車は、前記第1の遊星歯車と一体的に回転することを特徴とする請求項1に記載の減速機付きモータ装置。
【請求項3】
前記第1および第2の遊星歯車、ならびに前記第1および第2の太陽歯車は、それぞれ円盤形状に形成され、外周壁に複数の平歯が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の減速機付きモータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276030(P2010−276030A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125909(P2009−125909)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】