説明

渦電流センサのプローブ

【課題】渦電流センサのプローブにおいて、コイルを封止するコイルケースの破損を抑止して、プローブの長寿命を実現するための構造を提案する。
【解決手段】一端閉塞の筒状のコイルケース25と、前記コイルケース25内に挿入された円柱形状の中芯23とで、封止された空芯コイル22を備えた渦電流センサ16のプローブ20において、前記中芯23を軸方向に複数に分割して、複数の短円柱形状部材で構成する。さらに、前記コイルケース25と前記中芯23とを同一材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサのプローブの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流効果を利用して、金属で構成された測定対象までの変位を測定する渦電流センサが知られている。
渦電流センサのプローブの周囲には、高周波電流が流されたコイルによる高周波の磁界が生じており、この磁界の中に金属が近づくと、該金属内に渦電流が流れる。この渦電流の強さはコイルと測定対象までの距離に依存し、渦電流の強度によってコイルのインダクタンスが変化する。渦電流センサは、このインダクタンスの変化に起因するコイルに流れる電流の周波数の変化を検出して、測定対象までの変位を求めるものである。
【0003】
このような渦電流センサは、鋳造金型のキャビティにおける溶湯の流れを検出するために利用される。例えば、特許文献1に記載の技術である。
特許文献1に記載の技術では、銅製の空芯コイルを円筒形状のセラミック製ケースに封止して成るプローブを備えた渦電流センサが、該プローブの先端面がキャビティ面と面一となるように金型に形成された設置孔に挿設され、この渦電流センサにてキャビティ内の溶湯の湯面レベルを検出する構成とされる。
【0004】
図8に示すように、前記渦電流センサのプローブ40では、ハット形状のケース42と、前記ケース42に挿入された円柱形状の中芯43とで、空芯コイル41が封止される。前記ケース42は、鋳造の高温と鋳造圧とに耐え、且つ、溶湯と反応しない、窒化ケイ素等のセラミック製である。また、前記中芯43は、機械加工容易なマシナブルセラミック製である。
【0005】
ところが、上記構成の渦電流センサのプローブ40では、ケース42と中芯43との境界に応力集中が生じ、鋳造を数十ショット繰り返すうちに前記ケース42が破損してしまうという事態が生じていた。ケースが破損すると、ケース内に離型剤や溶湯が流入して測定値にノイズが発生したり、コイルが熱損したりする不具合が生じることとなる。
【特許文献1】特開2006−102772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑み、本発明では、渦電流センサのプローブにおいて、コイルを封止するコイルケースの破損を抑止して、プローブの長寿命を実現するための構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、一端閉塞の円筒形状のコイルケースと、前記コイルケース内に挿入された円柱形状の中芯とで、封止された空芯コイルを備えた渦電流センサのプローブであって、前記中芯が、軸方向に複数に分割されて成るものである。
【0009】
請求項2においては、前記コイルケースと前記中芯とが同一材料で成るものである。
【0010】
請求項3においては、一端閉塞の円筒形状のコイルケースと、前記コイルケース内に挿入された円柱形状の中芯とで、封止された空芯コイルを備えた渦電流センサのプローブであって、前記コイルケースと前記中芯とが同一材料で成るものである。
【0011】
請求項4においては、前記コイルケースと前記中芯とが、窒化ケイ素又はサイアロンのうち何れか一方のセラミック材料で構成されるものである。
【0012】
請求項5においては、前記空芯コイルの巻線部が、前記コイルケースの一端閉塞側端部と前記中芯との間に設けたセラミック製充填材に埋め込まれるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
本発明によれば、渦電流センサのプローブにおいて、コイルを封止するコイルケースと中芯との間で生じる熱応力が低減されるので、プローブに疲労破壊が発生するまでの冷熱サイクル数を増大させることができ、プローブの長寿命を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は渦電流センサの構成を説明する図である。
図2は本発明の実施例1に係る渦電流センサのプローブの構成を示す図、図3は中芯の軸方向断面図、図4は中芯の図3におけるX方向矢視図、図5はコイルケースと中芯とでコイルを封止する手順を説明する図である。
図6は本発明の実施例2に係る渦電流センサのプローブの構成を示す図、図7は中芯の図である。
図8は従来の渦電流センサのプローブの構成を示す図である。
【0016】
まず、本発明の実施例に係る渦電流センサ16の構成について説明する。
図1に示すように、渦電流センサ16は、プローブ20と、高周波発信器17と、アンプユニット18と、演算・表示ユニット19等で構成される。
また、本実施例において前記渦電流センサ16は、金型10のキャビティ11に充填される溶湯の流れ(溶湯の湯面レベル)を検出するために使用され、渦電流センサ16のプローブ20は、端面がキャビティ11に露出するように金型10に穿設された設置孔12に挿設される。
【0017】
前記プローブ20にはコイルケース25に収容されたコイル22が具備され、該コイル22には、前記高周波発信器17にて高周波電流が通電される。前記演算・表示ユニット19では、前記アンプユニット18を介して増幅された前記コイル22の電圧変化が測定され、電流の周波数の変化に基づいて測定対象までの変位が演算されるとともに表示出力される。
【0018】
本発明に係る渦電流センサ16のプローブ20は、上記構成を一例とする渦電流センサ16に備えられるものである。但し、本発明は、上述の渦電流センサ16の構成及び使用形態に限定されるものではなく、渦電流効果を利用して変位を計測するための装置に広く適用することができる。
以下に、本発明に係る渦電流センサ16のプローブ20の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
ここで、渦電流センサ16のプローブ20の実施例1について説明する。
図2に示すように、渦電流センサ16のプローブ20は、空芯のコイル22、コイルケース25、本体21、並びに、中芯23等で構成される。
【0020】
前記コイルケース25は、ハット形状を有する一端閉塞の円筒形状体であり、該円筒形状体の閉塞された一端面は検出面とされ、他端の開放端には鍔25aが形成される。前記コイルケース25の閉塞端面がキャビティ11に露出するように、金型10の設置孔12にプローブ20が挿設される。
また、前記本体21は円筒形状体であって、該円筒形状体の一端には内周側へ突出したフランジ21aが形成され、他端には同軸ケーブル28が接続される。
【0021】
前記コイルケース25は、閉塞端から前記本体21に挿入され、開放端の鍔25aと本体21のフランジ21aとが係合する位置にて、同じく本体21に挿入された位置保持部材27により保持される。このように結合された本体21とコイルケース25とで、プローブ20の外形が形成される。
【0022】
図2〜図5に示すように、前記コイル22は、導線が略同一平面内で渦巻状に巻かれた巻線部22aと、該巻線部22aの外周と中心とから導線を同軸ケーブル28へと導く延長部22b・22bとを有する。前記コイル22の延長部22b・22bは、本体21内にて同軸ケーブル28に接続されて、該同軸ケーブル28から高周波発信器17やアンプユニット18に接続される。
【0023】
前記中芯23は、前記コイルケース25に内挿可能な円柱形状体である。前記コイルケース25の内径よりも中芯23の外径は僅かに小さく、これにより、前記コイルケース25と該コイルケース25に内挿された中芯23との間には、中芯23が落脱しない程度に僅かな大きさの間隙が設けられる。
【0024】
図3及び図4に示すように、コイル22の巻線部22aを位置保持するために、前記中芯23の一端面に突起23aが設けられる。また、コイル22の延長部22b・22bを中芯23の一端から他端まで軸方向に導通させるために、中芯23の内部を貫通する導通孔23bと、中芯23の周面に開口する導通溝23cとが、それぞれ設けられる。
なお、本実施例において、コイル22の2本の延長部22b・22bを1本の同軸ケーブル28に接続するための便宜を図って、中芯23に設けられた導通溝23cは、コイル22の巻線部22aが配置される一端から、他端に向かって溝が漸次深くなるように形成される。
【0025】
上記構成のプローブ20において、前記空芯のコイル22は、円筒形状のコイルケース25と、前記コイルケース25内に挿入された円柱形状の中芯23とで、封止される。詳細には、前記コイルケース25と、該コイルケース25に内挿された中芯23と、コイルケース25の奥部、即ち一端閉塞側端部と中芯23との間に設けたコイル保持材24とで、コイル22が封止される。
つまり、コイルケース25、中芯23及びコイル保持材24にて、コイル22が被覆されて、機械的ストレスや温度等の影響から保護されるのである。
なお、前記コイルケース25に内挿された中芯23は、コイルケース25の中実となって剛性を向上させるためにも機能する。
【0026】
前記コイルケース25、中芯23、及びコイル保持材24で、前記コイル22を封止する手順は以下の通りである。
図5に示すように、初めに、中芯23にコイル22が組み付けられる。コイル22の巻線部22aは、空芯部分が突起23aに挿入されるように中芯23の一端に配置される。また、コイル22の延長部22b・22bは、中芯23の導通孔23bと導通溝23cとを各々通じて、該中芯23の前記一端から他端まで導通される。
【0027】
次に、コイル22の巻線部22aを埋め込むように、中芯23の一端面に、熱硬化性のセラミック製充填材であるコイル保持材24が塗布される。
続いて、前記中芯23が、コイル保持材24が塗布された一端からコイルケース25内に挿入される。
最後に、コイル保持材24が加熱により硬化され、コイル22の巻線部22aは、前記コイルケース25の奥部と前記中芯23との間に設けたコイル保持材24に埋め込まれて、形状が保持されることとなる。
【0028】
上記構成の渦電流センサ16のプローブ20では、前記コイルケース25と前記中芯23とが、同一の材料で構成される。
コイルケース25と中芯23とが同一材料で成ることによれば、コイルケース25と中芯23とで熱膨張がほぼ均一に生じるため、異なる材料で構成された場合と比較して、生じる熱応力が小さくなる。
このように、コイルケース25と中芯23との間で生じる熱応力を低減することで、プローブ20に疲労破壊が発生するまでの冷熱サイクル数を増大させることができ、プローブ20の長寿命を実現することができる。
【0029】
コイルケース25と中芯23との構成材料は、溶湯と反応しないこと、鋳造圧に耐えうること、及び鋳造温度に耐えうることの各条件を満たす材料であって、線膨張率が小さいものであることがより望ましい。コイルケース25と中芯23との構成材料として、例えば、窒化ケイ素又はサイアロン等のセラミック材料を採用することができる。なお、前記サイアロン(SiAlON)とは、Si3N4(窒化ケイ素)にAl2O3(アルミナ)やSiO2(シリカ)などを固溶させて作るSi3N4系のエンジニアリング・セラミックスである。
【実施例2】
【0030】
次に、渦電流センサ16のプローブ20の実施例2について説明する。
実施例2に係る渦電流センサ16のプローブ20は、中芯23を除いて、上記実施例1に記載の渦電流センサ16のプローブ20と同一構成である。そこで、中芯23以外の渦電流センサ16のプローブ20についての詳細な説明は、省略する。
【0031】
図6及び図7に示すように、中芯23は、前記コイルケース25に内挿可能な円柱形状体である。前記コイルケース25の内径よりも中芯23の外径は僅かに小さく、これにより、前記コイルケース25と該コイルケース25に内挿された中芯23との間には、中芯23が落脱しない程度に僅かな大きさの間隙が設けられる。また、本体21内にてコイルケース25の開放端に当接する位置保持部材27と、中芯23との間に、該中芯23が振れない程度に僅かな大きさの間隙が設けられる。
【0032】
コイル22の巻線部22aを位置保持するために、前記中芯23の一端面に突起23aが設けられる。また、コイル22の延長部22b・22bを中芯23の一端から他端まで軸方向に導通させるために、中芯23の内部を貫通する導通孔23bと、中芯23の周面に開口する導通溝23cとが、それぞれ設けられる。
【0033】
さらに、前記中芯23は、軸方向に複数に分割されて成る。つまり、前記中芯23は、複数の短円柱形状部材にて構成され、この結果、各短円柱形状部材間には、微量の間隙が備わることとなる。
なお、中芯23の分割数は多いほど熱歪みの吸収効果が高まるが、部品点数増大による組立性の低下やコスト上昇を考慮して分割数を決定することが望ましく、本実施例では中芯23を6つの短円柱形状部材に分割している。
【0034】
上記構成の渦電流センサ16のプローブ20では、コイルケース25と中芯23との間と、中芯23を構成する各短円柱形状部材間との、それぞれに間隙が備えられることとなる。この構成により、コイルケース25や中芯23等のプローブ20の構成部品が熱膨張しても、この熱歪みが前記間隙にて吸収されるため、コイルケース25と中芯23との間で生じる熱応力が低減される。従って、プローブ20に疲労破壊が発生するまでの冷熱サイクル数を増大させることができ、プローブ20の長寿命を実現することができる。
【0035】
上記において、中芯23とコイルケース25とは異なる材料で構成することができるが、同一材料で構成することがより好ましい。
この場合、中芯23とコイルケース25との構成材料は、溶湯と反応しないこと、鋳造圧に耐えうること、及び鋳造温度に耐えうることの各条件を満たす材料であって、線膨張率が小さいものであることがより望ましい。中芯23とコイルケース25との構成材料として、例えば、窒化ケイ素、サイアロン等を採用することができる。
【0036】
中芯23とコイルケース25とを、同一材料で構成することによれば、コイルケース25と中芯23とで熱膨張がほぼ均一に生じるため、異なる材料で構成された場合と比較して、生じる熱応力が小さくなるので、プローブ20に生じる熱疲労をより効果的に低減させることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】渦電流センサの構成を説明する図。
【図2】本発明の実施例1に係る渦電流センサのプローブの構成を示す図。
【図3】中芯の軸方向断面図。
【図4】中芯の図3におけるX方向矢視図。
【図5】コイルケースと中芯とでコイルを封止する手順を説明する図。
【図6】本発明の実施例2に係る渦電流センサのプローブの構成を示す図。
【図7】中芯の図。
【図8】従来の渦電流センサのプローブの構成を示す図。
【符号の説明】
【0038】
10 金型
11 キャビティ
12 設置孔
16 渦電流センサ
17 高周波発信器
18 アンプユニット
19 演算・表示ユニット
20 プローブ
21 本体
22 コイル
23 中芯
24 コイル保持材
25 コイルケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端閉塞の円筒形状のコイルケースと、前記コイルケース内に挿入された円柱形状の中芯とで、封止された空芯コイルを備えた渦電流センサのプローブであって、
前記中芯が、軸方向に複数に分割されて成ることを特徴とする、
渦電流センサのプローブ。
【請求項2】
前記コイルケースと前記中芯とが同一材料で成ることを特徴とする、
請求項1に記載の渦電流センサのプローブ。
【請求項3】
一端閉塞の円筒形状のコイルケースと、前記コイルケース内に挿入された円柱形状の中芯とで、封止された空芯コイルを備えた渦電流センサのプローブであって、
前記コイルケースと前記中芯とが同一材料で成ることを特徴とする、
渦電流センサのプローブ。
【請求項4】
前記コイルケースと前記中芯とが、窒化ケイ素又はサイアロンのうち何れか一方のセラミック材料で構成されることを特徴とする、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の渦電流センサのプローブ。
【請求項5】
前記空芯コイルの巻線部が、前記コイルケースの一端閉塞側端部と前記中芯との間に設けたセラミック製充填材に埋め込まれることを特徴とする、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の渦電流センサのプローブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−170234(P2008−170234A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2739(P2007−2739)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】