渦電流探傷法による表面欠陥長さ評価方法及び装置
【課題】本発明の目的は、スケールを用いた目視検査や浸透探傷に依らずに、渦電流探傷法で金属性の被検査体の表面欠陥の長さについて評価する方法を提供することにある。
【解決手段】渦電流探傷法で励磁コイル1と検出コイル2を白抜き試験体3上で矢印の方向へ走査し、各走査位置での出力電圧を検出コイル2の出力に基づいて渦電流探傷器で測定し、各走査位置での出力電圧の分布を示す出力電圧の分布曲線5の情報から、左側の最大値から左側へ下る差分電圧範囲Vp−pで12デシベルダウンの位置情報を抽出し、右側の最大値から右側へ下る差分電圧範囲Vp−pで12デシベルダウンの位置情報を抽出し、両位置情報の間の距離を計算して試験体3の表面欠陥であるスリット4の長さとして評価する。
【解決手段】渦電流探傷法で励磁コイル1と検出コイル2を白抜き試験体3上で矢印の方向へ走査し、各走査位置での出力電圧を検出コイル2の出力に基づいて渦電流探傷器で測定し、各走査位置での出力電圧の分布を示す出力電圧の分布曲線5の情報から、左側の最大値から左側へ下る差分電圧範囲Vp−pで12デシベルダウンの位置情報を抽出し、右側の最大値から右側へ下る差分電圧範囲Vp−pで12デシベルダウンの位置情報を抽出し、両位置情報の間の距離を計算して試験体3の表面欠陥であるスリット4の長さとして評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被検体に存在する表面欠陥の存在範囲または長さを渦電流探傷法で得られる出力電圧分布を用いて求める技術に属する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷法とは、励磁コイルに交流電流を流し、その励磁コイルを金属製の被検体の表面に近づけると被検体には渦電流が誘起され、その渦電流が被検体に存在する欠陥(例えば、被検体の表面に開口している亀裂)などの構造不連続部の影響を受けて変化し、その変化に応じてその渦電流に依存する磁界も変化し、その磁界の変化で、その磁界内の検出コイルに生じている誘起電力も変化し、その変化から、被検体における欠陥の有無を検出する方法である。
【0003】
その渦電流探傷法を表面欠陥の検出に用いた例が非特許文献1に掲載され、同じく薄肉管の表面および内在欠陥の検出に用いた例が非特許文献2に掲載されている。
【0004】
また、渦電流探傷法で発見した欠陥の長さを評価する規格がないため、校正されたスケールと目視検査または浸透探傷検査との組み合わせで長さを評価していた。
【0005】
【非特許文献1】西水、小池、松井、フレキシブルマルチECTセンサの開発、第8回表面探傷シンポジウム講演論文集(2005)、pp139−142
【非特許文献2】川田、川瀬、黒川、インテリジェントECTシステム(蒸気発生器伝熱管検査用新型ECT(渦流探傷)システム)、検査技術6月号(2005)、 66−72.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属製の被検体に生じた表面欠陥の長さや表面欠陥の存在範囲を、校正されたスケールと目視検査または浸透探傷検査との組み合わせで行う場合、水中に有る狭隘部が検査部位である場合や水が張られている大型容器の底部では、浸透探傷検査が困難であり、且つカメラを用いた目視検査も必要な照明の不足や検査部位の表面に堆積した付着物や酸化膜により欠陥の一部が確認できない可能性があった。
【0007】
この様な背景により、目視検査や浸透探傷検査に依らない欠陥の長さ評価方法が必要となった。
【0008】
本発明の目的は、渦電流探傷法を利用した被検体の表面欠陥の長さの評価方法とその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1手段は、渦電流探傷法による表面欠陥の検査において、表面欠陥による出力電圧の分布を用いて、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0010】
第2手段は、表面スリットを探傷した時の出力電圧が実質的にリサージュ波形のY軸方向に出力する条件に設定し、表面欠陥を探傷した時に得られるY成分の出力電圧が、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値を利用し、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0011】
第3手段は、第2手段において、Y成分の出力電圧が連続的な上に凸の分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力電圧の最大値と1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力分布の周辺付近に現れるプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0012】
第4手段は、第3手段において、出力分布の周辺付近にプラスとマイナスの偏曲点の対が現れる場合は、マイナスの偏曲点の出力電圧を基準とし、その基準とプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0013】
第5手段は、渦電流探傷法による表面欠陥の検査装置において、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して電圧最大変位を求める手段と、出力分布と入力部からの閾値とを比較し、閾値を越える断面距離または2地点の距離を算出する手段と、該距離を表示する表示部を有することを特徴とする渦電流探傷装置である。
【0014】
第6手段は、被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷法において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき、該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを検査することを特徴とする渦電流探傷法である。
【0015】
第7手段は、被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷装置において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを算出する手段を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、目視検査や浸透探傷検査に依らないで、被検体の表面欠陥の開口長さを評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
最初に渦電流探傷法を以下に説明する。図2のように、金属製の被検査体である試験体3(被検査体3とも言う)に、試験体3の表面に開口するようにして、亀裂などの欠陥を模擬して、スリット4を加工して設けてある。このスリット4の深さは、図2の場合はスリット4の長さ全長にわたって一定である。そのスリット4を渦電流探傷法で検出する方法を実施するために、渦電流探傷装置が用いられる。渦電流探傷装置の渦電流探傷器に接続されている渦電流探傷用プローブ(以下、単に渦電流プローブという。)は、図2に示すように、励磁コイル1と、それに隣接した検出コイル2とで構成されている。励磁コイル1と検出コイル2とは、探傷プローブが移動すると、その移動の方向へ励磁コイル1と検出コイル2とが同時に移動することが出来るようにユニット化されている。
【0018】
渦電流プローブをスリット4が開口している側の試験体3の表面上に配置すると、交流電源が接続された励磁コイル1から発生する磁場により試験体3内に渦電流が流れる。また、この渦電流が形成する磁場は、検出コイル2と差交する。その結果、検出コイル2に誘起電圧を生じ、検出コイル2が誘起電圧を渦電流探傷器に送信する。
【0019】
この渦電流探傷器内では、検出コイル2からの誘起電圧の値を、試験体3の欠陥の無い部位における検出コイル2からの誘起電圧の値との差分を出力電圧の値として測定し、その出力電圧の値の情報を入力データとして、出力電圧の分布を表示する表示装置へ供給している。また、その検出コイル2の位置座標も出力電圧の分布を表示する表示装置へ供給している。この場合、検出コイル2の位置座標は、探傷プローブの位置座標と言い換えることが出来る。
【0020】
図2に示すように、この探傷プローブを試験体3の上に配置し、スリット4の上部を図2の白抜き矢印の方向(スリット4の長さ方向)へ移動させると、スリット4により試験体3内の渦電流の分布が変化する。これにより当然、その渦電流が形成する磁場も変化することになる。この磁場の変化は検出コイル2に生じる誘起電圧の変化として現れ、それが渦電流探傷器の出力電圧の変化として出現する。
【0021】
本発明の実施例で採用する渦電流探傷法は、上述したように検出コイル2に発生した誘起電圧を探傷プローブの移動の位置ごとに渦電流探傷器に入力して、無欠陥部の検出コイル2の誘起電力を基準にした変化を測定していることになる。その変化は探傷プローブの移動の位置ごとに出力電圧の変化として表示装置に入力され、その表示装置に出力電圧の分布曲線5のグラフとして表示される。このようにして、渦電流探傷装置は、検出コイル2の誘起電圧の変化を、無欠陥部の検出コイル2の誘起電力を基準にして、各探傷プローブの移動位置ごとに表現した出力電圧の分布曲線5を表示装置に表示できる。
【0022】
渦電流探傷器は、検出コイル2の誘起電圧変化をリサージュ波形として表示できる機能も備えている。このリサージュ波形とは、励磁コイル1に印加する電圧を基準に検出コイル2の誘起電圧変化をX成分とY成分に分離して表示したものである。渦電流探傷法では、通常渦電流探傷器に備わっているその機能を利用して、欠陥の影響を受けた検出信号のリサージュ波形の位相を回転し、X軸またはY軸のいずれかの軸と一致させ欠陥検出感度を向上させる場合が多い。図2の出力電圧の分布曲線5の各位置ごとの出力電圧は、スリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をY軸に回転させ、Y成分の出力電圧として表示装置に表示することで、図2の出力電圧の分布曲線5を得られる。
【0023】
図2の下部の図に示したグラフは、その表示内容である出力電圧の分布曲線5のグラフを表していて、渦電流プローブでスリット4を探傷した結果の一例を示している。その出力電圧は、スリット4の長さに対応した領域に分布するように発生する。
【0024】
しかし、その分布領域から求める長さ(出力電圧の消失長さ)は、実際のスリット4の長さより大きめになる傾向がある。これは渦電流が励磁コイル1の直下のみでなく分布をもつことによる。例えば、励磁コイル1により試験体3に発生する渦電流の分布は次のようになる。
【0025】
即ち、図3の(a)図のように、試験体3の表面上に励磁コイル1を配置し場合、試験体3に発生する電流方向7の渦電流9は、図3(b)図のように、励磁コイル1の近傍に分布する。図4に渦電流9の分布の様子を示す。渦電流9は励磁コイル1の近傍で大きいものの、励磁コイル1から離れた領域にも達することが分かる。この分布により、出力電圧の分布曲線5は探傷プローブがスリット4にある程度接近した地点から変化が発生し始めることになり、その消失長さはスリット4の長さより長めになる。そこで、次に示す評価方法により、スリット4の長さの評価精度を向上させることにする。
【0026】
図5に示すように出力電圧の分布曲線5は、スリット4の両端近傍でピークを持つ特徴がある。また、図5の下図中のグラフの右側に注目するとマイナス側で最小値11、プラス側で最大値10を持つ。このマイナス側の最小値11はスリット4の端部に達する前に発生し、プラス側の最大値10はスリット4の端部を過ぎた位置(スリット上)に発生する。つまり、スリット4の端部は最大値10と最小値11で示される2つの偏曲点の間に存在することになる。
【0027】
そこで、図5に示すように、このスリットの端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値10と最小値11との差から得られる差分電圧範囲Vp−p12に対して、プラスの偏曲点である最大値10から数dB(図中では−XdBと表示してある。)低い閾値13を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。この設定は、表示装置がコンピュータの表示装置の場合には、表示装置の画面中のカーソルを用いてその画面内に描画する。出力電圧の分布曲線5の左側においても同様に、出力電圧の分布曲線5の最大値
15と最小値16の差から得られる差分電圧範囲Vp−p17に対して、プラスの偏曲点である最大値15から数dB低い閾値18を出力電圧の分布曲線5のグラフに設ける。出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点14と19の間の距離を求めることで長さ精度を向上させることができる。この説明で、出力電圧の分布曲線5の左側とは、スリット4の左端寄りの出力分布を言い、出力電圧の分布曲線5の右側とは、スリット4の右端寄りの出力分布を言う。
【0028】
探傷プローブを白抜き矢印の方向へ移動(走査ともいう。)させ、その探傷プローブの移動位置ごとに、その位置の座標を記録し、且つその位置での出力電圧の値を記録しておく。このことで、2点14と19の位置の出力電圧値が測定された位置座標をその記録から割り出す。その2点14と19の位置座標が割り出せた後には、2点14と19の位置座標から2点14と19の間隔を算出してスリット4の長さと評価する。2点14と19の位置の出力電圧値が記録した出力電圧値の中に一致したものが無い場合には、その2点14と19の位置の出力電圧値に最も近い出力電圧値を示す位置座標を割り出し、その位置座標から2点14と19の間隔を算出してスリット4の長さと評価する。
【0029】
図6はスリット4の深さがスリット4の一端から他端にかけて徐々に変化する場合のスリット4の長さの評価について説明する図面である。この場合も図5の場合と同様に評価することで長さ評価が可能である。即ち、スリット4の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値21と最小値22の差から得られる差分電圧範囲Vp−p
23に対して、プラスの偏曲点である最大値21から数dB低い閾値24を図6の下図のグラフ中に設ける。出力電圧の分布曲線5の左側も同様に、最大値26と最小値27の差から得られる差分電圧範囲Vp−p28に対して、プラスの偏曲点である最大値26から数dB低い閾値29をグラフ中に設ける。出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間25と30の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間25と30の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0030】
図7もスリット4の一端から他端にかけて徐々に変化する場合のスリット4の長さの評価について説示する図面である。スリット4の深さの程度によっては、出力電圧の分布曲線5の右側にで最小値の偏曲点(マイナス側の偏曲点)が得られない。この場合のスリット4の長さ評価の方法を以下に説明する。上述の最小値の偏曲点がない場合は、最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。無欠陥部の出力電圧値は、図7の下図のグラフ中で出力電圧の軸のグラフ原点(出力電圧のグラフ軸と位置のグラフ軸との交点)の電圧レベルを意味している。
【0031】
出力電圧の分布曲線5からスリット4の右側の端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5中のスリット4の右側の端部寄りの出力電圧の最大値32と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p33に対して、プラスの偏曲点である最大値32から数dB低い閾値34を出力電圧の分布曲線5のグラフ中に設定する。
【0032】
出力電圧の分布曲線5からスリット4の左側の端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5中のスリット4の左側の端部寄りの出力電圧の最大値36と最小値37の差から得られる差分電圧Vp−p38に対して、プラスの偏曲点である最大値36から数dB低い閾値39を出力電圧の分布曲線5のグラフ中に設定する。
【0033】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間35と40の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
35と40の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0034】
図8はスリット4の長さが短くて出力電圧の分布曲線5上の出力電圧の最大値42が一つの場合のスリット4の長さの評価について説明する図である。この場合は、出力電圧の分布曲線5でスリットの右側端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5上の最大値
42と最小値43の差から得られる差分電圧範囲Vp−p44に対して、プラスの偏曲点である最大値42から数dB低い閾値45を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。出力電圧の分布曲線5でスリットの左側端部を決定するために、同様に、出力電圧の分布曲線5上の最大値42と最小値47の差から得られる差分電圧範囲Vp−p48に対して、プラスの偏曲点である最大値42から数dB低い閾値49を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0035】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間46と50の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
46と50の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0036】
図9もスリット4の長さが短く出力電圧の分布曲線5における出力電圧の最大値52が一つの場合の長さ評価について説明する図である。スリット4の深さの程度により、スリット4の右側寄りの位置で出力電圧の分布曲線5上に最小値の偏曲点が得られない場合におけるスリット4の長さの評価方法を図9に基づいて以下に説明する。
【0037】
図9の下図のグラフに見られるように、スリット4の右側寄りの位置で出力電圧の分布曲線5上に最小値の偏曲点がない場合は、その最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。出力電圧の分布曲線5の出力電圧に基づいてスリット4の右側の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値52と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p53に対して、プラスの偏曲点である最大値52から数dB低い閾値54を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0038】
出力電圧の分布曲線5に基づいてスリット4の左側の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値52とスリット4の左側よりの出力電圧の最小値56との差から得られる差分電圧範囲Vp−p57に対して、プラスの偏曲点である最大値52から数dB低い閾値58を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0039】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間46と50の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
46と50の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0040】
図10は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。したがって、以下の説明は、欠陥60をスリット4と読み替えても同じである。
【0041】
図10の欠陥60を渦電流探傷装置で測定すると、その出力電圧の分布曲線5は、図
10の下図のグラフで示されるように、欠陥60の左側寄りに出現する出力電圧の最大値66と、同じく右側寄りに出現する出力電圧の最大値61の範囲に、繰り返し凹凸の曲線成す出力電圧の分布曲線が出現する。このような場合も、図10の欠陥60の長さ評価するにあたって、欠陥60の両端部の位置を決定するために、欠陥60の左側寄りに出現する出力電圧の最大値66と、同じく右側寄りに出現する出力電圧の最大値61とを左右両側におけるプラスの偏曲点として利用する。
【0042】
出力電圧の分布曲線5から欠陥60の右側の端部位置を決定するために、最大値61と最小値62から得られるVp−p63に対して、プラスの偏曲点61から数dB低い閾値64を設ける。欠陥60の左側の端部位置を決定するために、同様に、最大値66と最小値67の差から得られる差分電圧範囲Vp−p68に対して、プラスの偏曲点66から数dB低い閾値69を設ける。出力電圧の分布曲線5上におけるこれらの閾値の2点間65と70の距離を求めることで長さ評価の精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0043】
図11は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。図10の例と異なる点は、出力電圧の分布曲線5の右側周辺の最小値を示す偏曲点がない場合の評価に対応していることである。
【0044】
即ち、最小値の偏曲点がない場合は、最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。出力電圧の右側のスリット端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5の右側の最大値72と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p73に対して、プラスの偏曲点である最大値72から数dB低い閾値74を設ける。出力電圧の分布曲線5の左側は、最大値76と最小値77の差から得られる差分電圧範囲Vp−p78に対して、プラスの偏曲点である最大値76から数dB低い閾値79を設ける。
【0045】
出力電圧の分布曲線5上におけるこれらの閾値の2点間75と80の距離を求めることで長さ評価の精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0046】
図12は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。図12の例は、出力電圧の分布曲線5に全体的に直流成分を含んでいる場合の長さ評価を説明するものである。
【0047】
出力電圧に直流成分を含んでいる場合もこれまでと同様に長さ評価が可能である。即ち、出力電圧の分布曲線5から右側のスリット端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の右側の最大値80と無欠陥部の出力電圧値との差から得られる差分電圧範囲
Vp−p81に対して、プラスの偏曲点である最大値80から数dB低い閾値82を設ける。出力電圧の左側は、最大値84と最小値85との差から得られる差分電圧範囲Vp−p86に対して、プラスの偏曲点である最大値84から数dB低い閾値87を設ける。出力電圧の分布曲線5上のこれらの閾値の2点間83と88の距離を求めることで長さ精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0048】
以上に示す閾値としては、1/2(−6dB)以下の値を利用することが望ましい。
【0049】
図13に本発明で評価したスリットの長さと実際のスリット長さとを比較した結果を示す。閾値には−12dBを利用した。実際のスリットの形状は、矩形と半だ円を用いた。本結果より、実際のスリットの長さと評価した長さは、よく一致しており、いずれの例も、同様な結果となり、本発明の評価方法の妥当性が確認できる。
【0050】
ここで、上記の実施例はスリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をY軸に回転させ、Y成分の出力電圧を利用した場合を示したが、スリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をX軸に回転させ、X成分の出力電圧を利用した場合でも同様に評価可能である。
【0051】
図1に、本発明の長さ評価フロー図を示す。長さ評価は次の工程で可能となる。渦電流探傷装置の探傷プローブを被検査体上で移動(走査)させて、被検査体に対して渦電流探傷法を適用し、測定を開始121後、電流探傷装置の探傷プローブの各移動位置ごとに検出コイルからの電圧を渦電流探傷器に入力して検出コイルの基準電圧値に対する出力の変化を渦電流探傷器の出力電圧として検知して、各移動位置の位置座標上方とともにコンピュータに入力し、各移動位置に対する出力電圧のデータを作成し、そのデータに基づいて表示装置に出力電圧の分布曲線を表示する。このように出力電圧分布を測定する工程122の後に、工程122で得られた出力電圧の分布曲線5が図8や図9のように連続的な上に凸の分布を示す場合(プラス側に一つのピークとなる偏曲点を有する)は次を実施する。
【0052】
即ち、出力電圧の分布曲線5の出力電圧の最大値を出力電圧のデータから例えばコンピュータの演算処理で抽出する工程123、出力電圧の分布曲線5にマイナス側の偏曲点を有する場合、この値を基準として、ない場合は無欠陥部の電圧値を基準として、電圧分布の最大値の1/2以下の任意の閾値を出力電圧の分布曲線5に対して、例えばコンピュータで設定する工程124、その閾値を越える断面距離またはその閾値と一致する出力電圧を示す探傷プローブの位置の2地点の距離を、例えばコンピュータで算出する工程125、以上で長さ評価を実施できる。
【0053】
一方、工程122で得られた出力電圧の分布曲線5が図10,図11,図12のように不連続的な分布を有する場合(複数の偏曲点を有する)は次の工程を実施する。出力電圧の分布の周辺付近(欠陥の両端に相当する付近)に現れるプラスの偏曲点を、例えば出力電圧のデータからコンピュータで抽出する工程126、同じく出力電圧の分布の周辺付近にマイナス側の偏曲点を有する場合、この値を基準として、ない場合は無欠陥部の電圧値を基準として、プラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値を出力電圧の分布曲線5に対して、例えばコンピュータで設定する工程127、出力電圧の分布の周辺付近の閾値を越える断面距離またはその閾値を越える断面距離またはその閾値と一致する出力電圧を示す探傷プローブの位置の2地点の距離を、例えばコンピュータで算出する工程128、以上で長さ評価を実施できる。
【0054】
次に欠陥長さ評価が出来る装置の説明を記す。まず、渦電流探傷装置の渦電流プローブとしてマルチプローブの説明を行い、次にこのマルチプローブを利用した欠陥長さ評価が行える装置の説明をする。図14は複数のコイルを利用したマルチプローブ92を示している。マルチプローブ92は一度の走査でコイル列の長さに対応する範囲を探傷することができるため、高速検査が可能となる。
【0055】
マルチプローブ92は上述した渦電流プローブと同様に励磁コイル90と検出コイル
91があり、これを電子的にコイル列方向へ切り替えコイル列の長さに対応する範囲の探傷が可能となる。図中のコイル列方向に設けた複数の矢印は電子的な切り替え方向を示している。矢印の始点は励磁コイルを、終点は検出コイルを示し、1chからnchまでのコイル列に渡り電子的に切り替えることで、試験体3の表面に開口した欠陥93の長さ方向、即ち欠陥の一端から他端方向へ一組の励磁コイルと検出コイルとを移動させたと同じ状況を作る。これで、コイル列の長さに対応する範囲で渦電流探傷法を試験体に対して実施する。この渦電流探傷法で各チャンネルの検出コイルからの誘起電力を渦電流探傷器に入力して各チャンネルの位置ごとの出力電圧を検知して出力電圧の分布曲線のデータを作成して表示装置に出力電圧の分布を表示する。
【0056】
マルチプローブを利用した渦電流探傷装置を図15に示す。図15の渦電流探傷装置は上記したマルチプローブ92を専用の渦電流探傷器94に結線し、マルチプローブの一要素となる励磁コイルと検出コイルを電子的に切り替え、各chの出力電圧を表示することが出来る。例えば、図15に示すように各コイルの出力電圧のデータ96を基にして探傷領域を表示画面95のように2次元的に表示する表示装置を渦電流探傷装置が有する。
【0057】
表示画面95の内容では、欠陥の影響を受けた出力電圧の分布が漠然として判るがその分布から欠陥の長さを精度よく評価するには適さない。そこで、図16に示した渦電流探傷装置は、欠陥の長さを精度よく評価するように構成されている。
【0058】
即ち、図16の渦電流探傷装置も図15の渦電流探傷装置と同様に、渦電流探傷器がマルチプローブの各チャンネルの検出コイルから入力を受けると、渦電流探傷器は図15の渦電流探傷装置と同様に各チャンネルごとに出力電圧のデータ96を作って、コンピュータ104のメモリ(データ)97へ電送する。メモリ(データ)97内のデータ構成は、データ96のように各チャンネルごとに且つマルチプローブ全体の各走査位置ごとに出力電圧のレベルが表示できる構成となっている。
【0059】
渦電流探傷装置は、メモリ(データ)97内のデータを用いて、コンピュータ104の表示部105に各chの2次元的な出力電圧分布の表示106、表示106の欠陥部に対応する出力電圧の分布曲線5の表示107,長さ評価結果108の表示を行うように構成される。
【0060】
これらの表示を可能とする渦電流探傷装置の構成部分について詳細を以下に示す。即ち、各チャンネルの位置座標データと紐付けしてた各コイルの出力電圧のデータ96をメモリ(データ)97に蓄積し、各chの代表値として最大値変位の絶対値をコンピュータ
104の演算部98で算出し、プラスとマイナスの符号付でメモリ100に蓄積する。このデータは、ch間距離を軸とした欠陥部に対応する出力電圧分布の表示107に利用する。次に、この出力電圧の周辺付近に現れるプラスの偏曲点部及び最小値をコンピュータ104の比較部99で抽出し、これを利用して周辺付近の差分電圧範囲Vp−pをコンピュータ104で算出してメモリ101に蓄積する。別途、評価者は最大値の偏曲点からの閾値を入力部103からコンピュータ104に与える。この入力値を閾値として、メモリ100に蓄積した各chの代表値(欠陥部に対応する出力電圧分布のデータ)とコンピュータ104で比較する。長さ評価結果108には、閾値と一致する2点の出力電圧のデータを選択してその選択したデータが有する位置座標情報を抽出し、2点の位置座標情報から2点の距離を演算する処理をコンピュータ104が実行し、その実行結果が2地点の距離として表示部105内の評価結果108に表示される。その表示部105に表示された表示107は出力電圧の分布曲線5を横軸に出力電圧レベルを、縦軸に各チャンネルの位置を採用して表示したものであり、109が欠陥の一方の端部よりの出力電圧の最小値
(マイナスの偏曲点)を、111が欠陥の他端の端部よりの出力電圧の最小値(マイナスの偏曲点)を、110が欠陥の一方の端部よりの出力電圧の最大値(プラスの偏曲点)を、112が欠陥の他端の端部よりの出力電圧の最大値(プラスの偏曲点)を表している。
【0061】
渦電流探傷法では、探傷プローブを構成している各コイルと被検査体の表面との間隔を一定に保つことがリフトオフノイズの低減に寄与して、亀裂の長さ評価に好結果をもたらす。そのため、探傷プローブとしてマルチプローブを採用した際のマルチプローブの試験体と各コイルまでの距離を一定に保つための機構を以下に説明する。
【0062】
マルチプローブの試験体と各コイルまでの距離を一定に保つための機構は、マルチプローブ92の被検査体3との接触部が被検査体3に点接触する形状の複数の突起物に形成されている点に特徴的構成がある。
【0063】
その構成によれば、マルチプローブ92を図14の白抜き矢印の方向へ走査しても、突起物が被検査体3の表面との間隔を一定の間隔に維持するので、リフトオフノイズが抑制できる。そのため、リフトオフノイズによるマルチプローブの探傷性能の低下が抑制できる。
【0064】
上記の特徴的構成を備えたマルチプローブの第1実施例は次のとおりである。即ち、図17のように、屈曲性に富んで柔軟性のあるプラスチック製の基板201と、その基板
201の上面に固定された複数個の渦電流探傷用コイル202と、その基板201の下面に各渦電流探傷用コイル202の真下において形成された部分球面形状又は断面が逆三角形状の突起物204と、前記基板201にエッチングで高密度に配線した銅配線とから構成される。基板201としては、プラスチックの中でも耐熱性や機械的強度の良いポリイミド樹脂製のフィルム(フィルム厚が0.15ミリ )を用いることが好ましい。
【0065】
その渦電流探傷用コイル202とは、励磁コイル,検出コイル又は励磁・検出兼用コイルであり、それらのコイルには、銅配線が結線されて、マルチプローブ外の電源からコイルへ通電したり、コイルからの信号をマルチプローブに接続されている渦電流探傷装置の渦電流探傷器へと電送する際のマルチプローブ内での電送路として用いられる。
【0066】
このような基板201は、屈曲性がよく被検査体の表面形状に沿って柔軟に変形するので、フレキシブルプリント基板と称せられ、フレキシブルプリント基板を採用したマルチプローブは基板がリジッドなものに比較して柔軟性があることからフレキシブル型マルチコイルECTプローブと称せられている。
【0067】
基板201は、成型用の金型にプラスチックを流し込む成型加工やプラスチック板を切削加工する方法などで製造される。基板201に装備される突起物204は、金型に突起物の型も加工しておき、その金型による成型加工によって、あるいは、プラスチック板から基板1を切削加工で製造する際に、突起物204も同時に切削加工で成型することによって基板201と一体に製造される。
【0068】
基板201内に銅配線を電気配線として施すことで、渦電流探傷用コイル202から直接的に電線をフレキシブル型マルチコイルECTプローブの外に引き出すものに比べてそのプローブの取扱い時の断線防止が可能となる。また、部分球面または逆三角形断面の突起物204を備えたことで突起物204を被検査体3の表面に接触させてそのプローブを走査するので、基板201の摩耗による基板201内の電気配線(銅配線)の断線を抑えることができる。更に、基板201に熱や触媒等で硬化する材料を用いてある場合には、基板201を作成した後に、突起物204を熱や触媒等で硬くすれば、基板201の耐摩耗性を向上し、フレキシブル型マルチコイルECTプローブの寿命を向上できる。
【0069】
突起物204は、図17(d)図のように球面の一部分を成す形状である部分球面形状と、図17(e)図のように突端を下方に向けた際に円錐や多角錐などの逆三角形の断面となる形状の例がかかげられるが、被検査体3の表面に点接触乃至は点接触に近い状態で接触する形状であればどの様な形状でも良い。いずれの場合も、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。
【0070】
この様なマルチプローブを渦電流探傷プローブとして用いれば、被検査体3の表面凹凸を有する曲面形状部であってもその部位の検査において、リフトオフによるノイズ信号が発生しない原理を以下に説明する。図23のように、滑らかな曲面を表面6に有する被検査体3のその表面に対して、突起204の無いフレキシブル型マルチコイルECTプローブを探傷プローブとして適用して探傷した場合は、基板を被検査体3の表面に押し付けると、基板と被検査体との間に隙間が生じないので、フレキシブル型マルチコイルECTプローブをその表面に沿って走査しても、基板上に配置した渦電流探傷用コイルと被検査体の間隔(リフトオフ)が常に一定に保たれる。そのため、リストオフによるノイズ信号が発生しない探傷が可能である。
【0071】
しかし、グラインダ等で被検査体3の表面206を研摩した後においては、その表面
206が図23の中央の図のように凹凸状態となる。そのような凹凸状態では、局所的な表面凹凸により、基板上に配置した渦電流探傷用コイルと被検査体3の表面との間隔がフレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査する際に変動する。そのため、リフトオフによるノイズ信号が発生し、探傷性能が悪化する等の問題が生じる。また、従来のフレキシブル型マルチコイルECTプローブでは、被検査体3と基板とが直接接触するため、フレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査する際に基板が摩耗し、基盤内に施されている電気配線が断線する等の問題があった。
【0072】
一方、突起204を備えたフレキシブル型マルチコイルECTプローブでは、基板201の被検査体3の表面206との接触部に、部分球面状の突起物204を備えている。そのため、基板201を被検査体3の表面206に押し付けた際に突起物204が凸凹状の表面206に点接触して、基板201上に配置した渦電流探傷用コイル202と被検査体3の距離が突起物204で一定に保たれる。
【0073】
そのため、表面206が凹凸状態においても、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面206との間の間隔がフレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査した際にも変化せず、リフトオフの変動によるノイズ信号が渦電流探傷用コイル内に誘導されることは無く、リフトオフノイズの発生を抑制できる。
【0074】
また、突起物204が被検査体3に接触するので、フレキシブル型マルチコイルプローブの基板201に施されている電気配線にまで摩耗が進行するまでに従来よりも時間がかかり、断線防止事故にいたるまでのプローブ寿命が飛躍的に延命化できる。
【0075】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る実施例2を、図18に示す。実施例2は、既述の図17(実施例1)のフレキシブル型マルチコイルプローブを改良したもので、改良内容を以下に解説し、その他の構成や作用は既述の実施例1と同じである。
【0076】
図2に示したフレキシブル型マルチコイルECTプローブの基板201は、表裏両面が平坦なフレキシブルプリント基板201に突起物204を機械的に固定したものである。突起物204は部分球面状あるいは逆三角形の断面を持つ形状を有し、材質は炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用している。その材料の硬度は被検査体3の表面206の硬度よりも高い硬度を示している。
【0077】
その突起物204は、図18(a)(b)(c)(d)(e)(f)のように、渦電流探傷用コイル202の中心線5の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。このように配置された突起物204は、基板201に接着した複数層のプラスチック板208で突起物
204の周囲を基板201とで挟んで基板201に固定されている。プラスチック板208は基板201の柔軟性を損なわないように、及び突起物204の最突端部がプラスチック板208よりの外側に突き出るようにその厚さを配慮する。
【0078】
そのほかの機械的固定方法としては、基板201に雌ネジ穴を開け、突起物204に加工した雄ネジをそのネジ穴に螺合させて基板201と突起物204とを固定する方法もある。
【0079】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る実施例3を、図19に示す。実施例3は、既述の実施例1を改良したもので、改良内容を以下に解説し、その他の構成や作用は既述の実施例1と同じである。
【0080】
図19に示したフレキシブル型マルチコイルECTプローブの基板201は、表裏両面が平坦なフレキシブルプリント基板201に突起物204を接着剤209で固定したものである。突起物204は部分球面状あるいは断面が逆三角形の形状を有し、材質は炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用している。その材料の硬度は被検査体3の表面206の硬度よりも高い硬度を示している。
【0081】
その突起物204は、図19(a)(b)(c)(d)(e)(f)のように、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。このように配置された突起物204は基板201に接着剤209で接着されて固定される。
【0082】
このタイプのフレキシブル型マルチコイルECTプローブは簡単に突起物204を取付けられるが、突起物204の脱落が問題となりそうな接着剤209の接着力低下を引き起こす環境で使用する場合は別の実施例1や実施例2の固定方法を採用した方がよい。
【0083】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第4実施例を図20に示す。その第4実施例はコイル押付型マルチコイルECTプローブの例である。コイル押付型マルチコイル
ECTプローブのフレーム210には、図18(a)(b)(c)のように、被検査体3の表面に対向する面に、複数のコイルホルダ203をフレーム210から突き出る方向へ進出したりフレーム210側へ戻る方向へ退避したり出来るようにされている。
【0084】
このような被検査体の方向へ進退自在にされているコイルホルダ203は次のようにしてフレーム210に装着される。このフレーム210は探傷作業中に被検査体側へ押しあてがわれても変形することの無い剛性を持たせてある。
【0085】
即ち、フレーム210に形成されている開口211は、フレーム210の下面において狭い口径とされ、内側ではそれよりも広い口径とされている。その開口211の内側には、前記狭い開口よりも幅広なつば部212を有するコイルホルダ203が上下動自在に挿入され、その一部下部がフレーム210の下面から下方へ突き出ている。そのコイルホルダ203の上端部分と開口の上端部分との間にはコイルバネ213が設けられて、そのコイルバネ213が常にコイルホルダ203を開口211から突き出すようにコイルホルダ203にバネ力を加えている。
【0086】
開口から突き出されたコイルホルダ203の突端部は、図18(d)(f)のような部分球面状または図18(e)(g)のような円錐や多角錐などの突起端が下方に向けられた状態で逆三角形の断面形状を有する形状を有する突起物204として成型され、その突起物204がその最突端部で被検査体3の表面に点接触する形状とされている。
【0087】
コイルホルダ203の内側は、中空となっていて、その中には渦電流探傷用コイル202が内蔵され、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長線上に突起物204の最突端部が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との位置関係が配慮されている。渦電流探傷用コイル202には電気配線が結線され励磁用の電力や検出信号の伝送用に用いられる。このようにして、コイルホルダ203の先端に成型した突起物204は渦電流探傷用コイル202とコイルホルダ203を介して一体となっている。
【0088】
このようなコイル押付型マルチコイルECTプローブは、渦電流探傷用コイル202が渦電流探傷装置の渦電流探傷器や電源に接続されて用いられる。渦電流探傷を実施する際には、フレーム210を被検査体3の表面に向けて押すことによって、コイルホルダ203をその表面に押し付ける。その押し付けにより、被検査体3の表面に突起物204が点接触する。その被検査体3の表面が凹凸を有する場合には、凸部に接触した突起部が成型されているコイルホルダ203は、凹部に接触したコイルホルダ203よりも大きく開口
211内にコイルバネ213の力に逆らって押し入る。
【0089】
このようにして、その凹凸によって各コイルホルダ203の開口211内への押し入り寸法が相違しますが、その押し入り動作には、渦電流探傷用コイル202がコイルホルダ203と同量だけ押し入れ方向に移動しますので、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面との間隔(リフトオフ量)は一定に保たれます。そのため、リフトオフノイズの発生を抑制することが出来ます。
【0090】
コイル押付型マルチコイルECTプローブを走査して検査位置を被検査体3の表面に沿って移動させても、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面との間隔(リフトオフ量)は一定に保たれますので、リフトオフノイズの発生を抑制することが出来ます。
【0091】
図20の例ではコイルバネ213をコイルホルダ203のサスペンションとして用いて検査表面の凹凸に追従させたが、コイルバネ213の代わりにガス圧,水圧,油圧を用いたシリンダ装置でコイルホルダ203のサスペンションを構成しても良い。また、ゴム等の弾性体の中にコイルホルダ203を抜けないように埋め込み、その弾性体の弾性力を利用してコイルホルダ203をサスペンスしてもよい。
【0092】
コイル押付型マルチコイルECTプローブを走査する際に、コイルホルダ203と同材質の突起物204の摩耗が問題となる場合は、コイルホルダや突起物204の材料として熱硬化性プラスチックを採用して、少なくとも突起物204を熱硬化により耐摩耗性を向上できる。
【0093】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第5実施例を図21に示した。図21の第5実施例は、既述の第4実施例のコイル押付型マルチコイルECTプローブを改良した例である。改良内容を以下に説明し、ここで説明しない構成や作用は第4実施例と同じなのでその説明を省略する。即ち、改良点は、コイルホルダ203と突起物204とを別々に作成し、コイルホルダ203の端部に突起物204をはめ込むことで機械的にコイルホルダ203と突起物204を一体化する。
【0094】
その一体化のために、コイルホルダ203の端部には逆ハの字型の断面を有する孔214を加工しておく。その孔214には、図21(d)(e)(f)(g)のように、突起物204をはめ込んで、突起物204の突端はコイルホルダ203から突き出しておく。
【0095】
突起物204の摩耗が問題となる場合は、突起物204の材料として、炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用することで耐摩耗性の問題は解決する。このように、突起物204の材料をコイルホルダ203の材料とは相違する材料に選択して、必要に応じた材料が選択できる。
【0096】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第6実施例を図22に示した。第6実施例は、既述の第4実施例のコイル押付型マルチコイルECTプローブを改良した例である。改良内容を以下に説明し、ここで説明しない構成や作用は第4実施例と同じなのでその説明を省略する。即ち、改良点は、コイルホルダ203と突起物204とを別々に作成し、図21(d)(e)(f)(g)のように、コイルホルダ203の端部に突起物204を接着剤209で接着してコイルホルダ203と突起物204を一体化する。
【0097】
突起物204の摩耗が問題となる場合は、突起物204の材料として、炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用することで耐摩耗性の問題は解決する。このように、突起物204の材料をコイルホルダ203の材料とは相違する材料に選択して、必要に応じた材料が選択できる。
【0098】
このタイプのコイル押付型マルチコイルECTプローブは簡単に突起物204をコイルホルダ203に取付けられるが、突起物204の脱落が問題となりそうな環境で使用する場合は第4実施例や第5実施例のような別の固定方法を突起物204をコイルホルダ203へ固定する方法として採用することが好ましい。
【0099】
渦電流探傷用コイル202の配置は、図17から図22に見受けられるように、千鳥配置でもよく正方格子配置でもかまわない。
【0100】
図17から図22に示したいずれかのマルチプローブを渦電流探傷器94に接続して渦電流探傷法の実施に用いれば、被検査体3の表面が平坦でなくともリフトオフノイズの悪影響を受けずに渦電流探傷結果や欠陥長さの評価が達成できる。
【0101】
図17から図22に示した各マルチプローブに基づいて以下のような提案が出来る。即ち、基板と、前記基板の一方の面に設けられた複数個の渦電流探傷用コイルと、前記一方の面とは反対の位置に面する前記基板の他方の面に、前記渦電流探傷用コイルの中心線延長上に設けられた複数個の突起物とを備えている渦電流探傷用マルチコイルプローブを第1の提案として提案できる。
【0102】
さらには、その第1の提案において、前記基板は前記渦電流探傷用コイルと結線された電気配線が施されているフレキシブルプリント基板である渦電流探傷用マルチコイルプローブを第2の提案として提案できる。
【0103】
また、フレームと、前記フレームに被検査体の方向へ進退自在に設けられた複数個の渦電流探傷用コイルと、前記渦電流探傷用コイルの前記被検査体に面する側に配置されて前記コイルと一体にされている複数個の突起物とを備えている渦電流探傷用マルチコイルプローブを第3の提案として提案できる。
【0104】
更には、第1の提案から第3の提案のいずれかの提案において、前記突起物の硬度は、前記被検査体の硬度以上とされている渦電流探傷用マルチコイルプローブが第4の提案として提案できる。
【0105】
更には、第1の提案から第4の提案のいずれかの提案において、前記突起物の前記被検査体側の部分は突起端を下方に向けた際に部分球面状又は逆三角形の断面を有する形状に形成されている渦電流探傷用マルチコイルプローブが提案できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、渦電流探傷法による非破壊検査を実施する渦電流探傷装置に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の欠陥長さ評価方法に関する説明図である。
【図2】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図3】渦電流探傷コイルと金属製試験体の配置図。
【図4】コイルが作る渦電流分布の説明図である。
【図5】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図6】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図7】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図8】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図9】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図10】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図11】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図12】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図13】本発明による欠陥長さ評価の実験結果の説明図である。
【図14】本発明の渦電流探傷装置に利用するプローブの説明図である。
【図15】従来の渦電流探傷装置の説明図である。
【図16】本発明の渦電流探傷装置の説明図である。
【図17】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第1実施例にを示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図18】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第2実施例示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図19】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第3実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図20】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第4実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図21】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第5実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図22】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第6実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図23】従来例と本発明の実施例によるフレキシブル型マルチコイルECTプローブを表面凹凸を有する被検査体の曲面部にそのプローブをあてがった状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0108】
1…励磁コイル、2…検出コイル、3…試験体(被検査体とも言う)、10…プラス側の偏曲点(最大値とも言う。)、11…マイナス側の偏曲点(最小値とも言う。)、12…差分電圧範囲Vp−p、13…閾値。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被検体に存在する表面欠陥の存在範囲または長さを渦電流探傷法で得られる出力電圧分布を用いて求める技術に属する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷法とは、励磁コイルに交流電流を流し、その励磁コイルを金属製の被検体の表面に近づけると被検体には渦電流が誘起され、その渦電流が被検体に存在する欠陥(例えば、被検体の表面に開口している亀裂)などの構造不連続部の影響を受けて変化し、その変化に応じてその渦電流に依存する磁界も変化し、その磁界の変化で、その磁界内の検出コイルに生じている誘起電力も変化し、その変化から、被検体における欠陥の有無を検出する方法である。
【0003】
その渦電流探傷法を表面欠陥の検出に用いた例が非特許文献1に掲載され、同じく薄肉管の表面および内在欠陥の検出に用いた例が非特許文献2に掲載されている。
【0004】
また、渦電流探傷法で発見した欠陥の長さを評価する規格がないため、校正されたスケールと目視検査または浸透探傷検査との組み合わせで長さを評価していた。
【0005】
【非特許文献1】西水、小池、松井、フレキシブルマルチECTセンサの開発、第8回表面探傷シンポジウム講演論文集(2005)、pp139−142
【非特許文献2】川田、川瀬、黒川、インテリジェントECTシステム(蒸気発生器伝熱管検査用新型ECT(渦流探傷)システム)、検査技術6月号(2005)、 66−72.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属製の被検体に生じた表面欠陥の長さや表面欠陥の存在範囲を、校正されたスケールと目視検査または浸透探傷検査との組み合わせで行う場合、水中に有る狭隘部が検査部位である場合や水が張られている大型容器の底部では、浸透探傷検査が困難であり、且つカメラを用いた目視検査も必要な照明の不足や検査部位の表面に堆積した付着物や酸化膜により欠陥の一部が確認できない可能性があった。
【0007】
この様な背景により、目視検査や浸透探傷検査に依らない欠陥の長さ評価方法が必要となった。
【0008】
本発明の目的は、渦電流探傷法を利用した被検体の表面欠陥の長さの評価方法とその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1手段は、渦電流探傷法による表面欠陥の検査において、表面欠陥による出力電圧の分布を用いて、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0010】
第2手段は、表面スリットを探傷した時の出力電圧が実質的にリサージュ波形のY軸方向に出力する条件に設定し、表面欠陥を探傷した時に得られるY成分の出力電圧が、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値を利用し、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0011】
第3手段は、第2手段において、Y成分の出力電圧が連続的な上に凸の分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力電圧の最大値と1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力分布の周辺付近に現れるプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0012】
第4手段は、第3手段において、出力分布の周辺付近にプラスとマイナスの偏曲点の対が現れる場合は、マイナスの偏曲点の出力電圧を基準とし、その基準とプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法である。
【0013】
第5手段は、渦電流探傷法による表面欠陥の検査装置において、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して電圧最大変位を求める手段と、出力分布と入力部からの閾値とを比較し、閾値を越える断面距離または2地点の距離を算出する手段と、該距離を表示する表示部を有することを特徴とする渦電流探傷装置である。
【0014】
第6手段は、被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷法において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき、該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを検査することを特徴とする渦電流探傷法である。
【0015】
第7手段は、被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷装置において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを算出する手段を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、目視検査や浸透探傷検査に依らないで、被検体の表面欠陥の開口長さを評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
最初に渦電流探傷法を以下に説明する。図2のように、金属製の被検査体である試験体3(被検査体3とも言う)に、試験体3の表面に開口するようにして、亀裂などの欠陥を模擬して、スリット4を加工して設けてある。このスリット4の深さは、図2の場合はスリット4の長さ全長にわたって一定である。そのスリット4を渦電流探傷法で検出する方法を実施するために、渦電流探傷装置が用いられる。渦電流探傷装置の渦電流探傷器に接続されている渦電流探傷用プローブ(以下、単に渦電流プローブという。)は、図2に示すように、励磁コイル1と、それに隣接した検出コイル2とで構成されている。励磁コイル1と検出コイル2とは、探傷プローブが移動すると、その移動の方向へ励磁コイル1と検出コイル2とが同時に移動することが出来るようにユニット化されている。
【0018】
渦電流プローブをスリット4が開口している側の試験体3の表面上に配置すると、交流電源が接続された励磁コイル1から発生する磁場により試験体3内に渦電流が流れる。また、この渦電流が形成する磁場は、検出コイル2と差交する。その結果、検出コイル2に誘起電圧を生じ、検出コイル2が誘起電圧を渦電流探傷器に送信する。
【0019】
この渦電流探傷器内では、検出コイル2からの誘起電圧の値を、試験体3の欠陥の無い部位における検出コイル2からの誘起電圧の値との差分を出力電圧の値として測定し、その出力電圧の値の情報を入力データとして、出力電圧の分布を表示する表示装置へ供給している。また、その検出コイル2の位置座標も出力電圧の分布を表示する表示装置へ供給している。この場合、検出コイル2の位置座標は、探傷プローブの位置座標と言い換えることが出来る。
【0020】
図2に示すように、この探傷プローブを試験体3の上に配置し、スリット4の上部を図2の白抜き矢印の方向(スリット4の長さ方向)へ移動させると、スリット4により試験体3内の渦電流の分布が変化する。これにより当然、その渦電流が形成する磁場も変化することになる。この磁場の変化は検出コイル2に生じる誘起電圧の変化として現れ、それが渦電流探傷器の出力電圧の変化として出現する。
【0021】
本発明の実施例で採用する渦電流探傷法は、上述したように検出コイル2に発生した誘起電圧を探傷プローブの移動の位置ごとに渦電流探傷器に入力して、無欠陥部の検出コイル2の誘起電力を基準にした変化を測定していることになる。その変化は探傷プローブの移動の位置ごとに出力電圧の変化として表示装置に入力され、その表示装置に出力電圧の分布曲線5のグラフとして表示される。このようにして、渦電流探傷装置は、検出コイル2の誘起電圧の変化を、無欠陥部の検出コイル2の誘起電力を基準にして、各探傷プローブの移動位置ごとに表現した出力電圧の分布曲線5を表示装置に表示できる。
【0022】
渦電流探傷器は、検出コイル2の誘起電圧変化をリサージュ波形として表示できる機能も備えている。このリサージュ波形とは、励磁コイル1に印加する電圧を基準に検出コイル2の誘起電圧変化をX成分とY成分に分離して表示したものである。渦電流探傷法では、通常渦電流探傷器に備わっているその機能を利用して、欠陥の影響を受けた検出信号のリサージュ波形の位相を回転し、X軸またはY軸のいずれかの軸と一致させ欠陥検出感度を向上させる場合が多い。図2の出力電圧の分布曲線5の各位置ごとの出力電圧は、スリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をY軸に回転させ、Y成分の出力電圧として表示装置に表示することで、図2の出力電圧の分布曲線5を得られる。
【0023】
図2の下部の図に示したグラフは、その表示内容である出力電圧の分布曲線5のグラフを表していて、渦電流プローブでスリット4を探傷した結果の一例を示している。その出力電圧は、スリット4の長さに対応した領域に分布するように発生する。
【0024】
しかし、その分布領域から求める長さ(出力電圧の消失長さ)は、実際のスリット4の長さより大きめになる傾向がある。これは渦電流が励磁コイル1の直下のみでなく分布をもつことによる。例えば、励磁コイル1により試験体3に発生する渦電流の分布は次のようになる。
【0025】
即ち、図3の(a)図のように、試験体3の表面上に励磁コイル1を配置し場合、試験体3に発生する電流方向7の渦電流9は、図3(b)図のように、励磁コイル1の近傍に分布する。図4に渦電流9の分布の様子を示す。渦電流9は励磁コイル1の近傍で大きいものの、励磁コイル1から離れた領域にも達することが分かる。この分布により、出力電圧の分布曲線5は探傷プローブがスリット4にある程度接近した地点から変化が発生し始めることになり、その消失長さはスリット4の長さより長めになる。そこで、次に示す評価方法により、スリット4の長さの評価精度を向上させることにする。
【0026】
図5に示すように出力電圧の分布曲線5は、スリット4の両端近傍でピークを持つ特徴がある。また、図5の下図中のグラフの右側に注目するとマイナス側で最小値11、プラス側で最大値10を持つ。このマイナス側の最小値11はスリット4の端部に達する前に発生し、プラス側の最大値10はスリット4の端部を過ぎた位置(スリット上)に発生する。つまり、スリット4の端部は最大値10と最小値11で示される2つの偏曲点の間に存在することになる。
【0027】
そこで、図5に示すように、このスリットの端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値10と最小値11との差から得られる差分電圧範囲Vp−p12に対して、プラスの偏曲点である最大値10から数dB(図中では−XdBと表示してある。)低い閾値13を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。この設定は、表示装置がコンピュータの表示装置の場合には、表示装置の画面中のカーソルを用いてその画面内に描画する。出力電圧の分布曲線5の左側においても同様に、出力電圧の分布曲線5の最大値
15と最小値16の差から得られる差分電圧範囲Vp−p17に対して、プラスの偏曲点である最大値15から数dB低い閾値18を出力電圧の分布曲線5のグラフに設ける。出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点14と19の間の距離を求めることで長さ精度を向上させることができる。この説明で、出力電圧の分布曲線5の左側とは、スリット4の左端寄りの出力分布を言い、出力電圧の分布曲線5の右側とは、スリット4の右端寄りの出力分布を言う。
【0028】
探傷プローブを白抜き矢印の方向へ移動(走査ともいう。)させ、その探傷プローブの移動位置ごとに、その位置の座標を記録し、且つその位置での出力電圧の値を記録しておく。このことで、2点14と19の位置の出力電圧値が測定された位置座標をその記録から割り出す。その2点14と19の位置座標が割り出せた後には、2点14と19の位置座標から2点14と19の間隔を算出してスリット4の長さと評価する。2点14と19の位置の出力電圧値が記録した出力電圧値の中に一致したものが無い場合には、その2点14と19の位置の出力電圧値に最も近い出力電圧値を示す位置座標を割り出し、その位置座標から2点14と19の間隔を算出してスリット4の長さと評価する。
【0029】
図6はスリット4の深さがスリット4の一端から他端にかけて徐々に変化する場合のスリット4の長さの評価について説明する図面である。この場合も図5の場合と同様に評価することで長さ評価が可能である。即ち、スリット4の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値21と最小値22の差から得られる差分電圧範囲Vp−p
23に対して、プラスの偏曲点である最大値21から数dB低い閾値24を図6の下図のグラフ中に設ける。出力電圧の分布曲線5の左側も同様に、最大値26と最小値27の差から得られる差分電圧範囲Vp−p28に対して、プラスの偏曲点である最大値26から数dB低い閾値29をグラフ中に設ける。出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間25と30の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間25と30の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0030】
図7もスリット4の一端から他端にかけて徐々に変化する場合のスリット4の長さの評価について説示する図面である。スリット4の深さの程度によっては、出力電圧の分布曲線5の右側にで最小値の偏曲点(マイナス側の偏曲点)が得られない。この場合のスリット4の長さ評価の方法を以下に説明する。上述の最小値の偏曲点がない場合は、最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。無欠陥部の出力電圧値は、図7の下図のグラフ中で出力電圧の軸のグラフ原点(出力電圧のグラフ軸と位置のグラフ軸との交点)の電圧レベルを意味している。
【0031】
出力電圧の分布曲線5からスリット4の右側の端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5中のスリット4の右側の端部寄りの出力電圧の最大値32と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p33に対して、プラスの偏曲点である最大値32から数dB低い閾値34を出力電圧の分布曲線5のグラフ中に設定する。
【0032】
出力電圧の分布曲線5からスリット4の左側の端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5中のスリット4の左側の端部寄りの出力電圧の最大値36と最小値37の差から得られる差分電圧Vp−p38に対して、プラスの偏曲点である最大値36から数dB低い閾値39を出力電圧の分布曲線5のグラフ中に設定する。
【0033】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間35と40の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
35と40の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0034】
図8はスリット4の長さが短くて出力電圧の分布曲線5上の出力電圧の最大値42が一つの場合のスリット4の長さの評価について説明する図である。この場合は、出力電圧の分布曲線5でスリットの右側端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5上の最大値
42と最小値43の差から得られる差分電圧範囲Vp−p44に対して、プラスの偏曲点である最大値42から数dB低い閾値45を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。出力電圧の分布曲線5でスリットの左側端部を決定するために、同様に、出力電圧の分布曲線5上の最大値42と最小値47の差から得られる差分電圧範囲Vp−p48に対して、プラスの偏曲点である最大値42から数dB低い閾値49を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0035】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間46と50の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
46と50の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0036】
図9もスリット4の長さが短く出力電圧の分布曲線5における出力電圧の最大値52が一つの場合の長さ評価について説明する図である。スリット4の深さの程度により、スリット4の右側寄りの位置で出力電圧の分布曲線5上に最小値の偏曲点が得られない場合におけるスリット4の長さの評価方法を図9に基づいて以下に説明する。
【0037】
図9の下図のグラフに見られるように、スリット4の右側寄りの位置で出力電圧の分布曲線5上に最小値の偏曲点がない場合は、その最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。出力電圧の分布曲線5の出力電圧に基づいてスリット4の右側の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値52と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p53に対して、プラスの偏曲点である最大値52から数dB低い閾値54を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0038】
出力電圧の分布曲線5に基づいてスリット4の左側の端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の最大値52とスリット4の左側よりの出力電圧の最小値56との差から得られる差分電圧範囲Vp−p57に対して、プラスの偏曲点である最大値52から数dB低い閾値58を出力電圧の分布曲線5のグラフに設定する。
【0039】
出力電圧の分布曲線5上でこれらの閾値となる左右の2点間46と50の距離を求めてスリット4の長さと評価し、長さの評価精度を向上させることができる。左右の2点間
46と50の距離を求める方法は、図5の例と同様である。
【0040】
図10は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。したがって、以下の説明は、欠陥60をスリット4と読み替えても同じである。
【0041】
図10の欠陥60を渦電流探傷装置で測定すると、その出力電圧の分布曲線5は、図
10の下図のグラフで示されるように、欠陥60の左側寄りに出現する出力電圧の最大値66と、同じく右側寄りに出現する出力電圧の最大値61の範囲に、繰り返し凹凸の曲線成す出力電圧の分布曲線が出現する。このような場合も、図10の欠陥60の長さ評価するにあたって、欠陥60の両端部の位置を決定するために、欠陥60の左側寄りに出現する出力電圧の最大値66と、同じく右側寄りに出現する出力電圧の最大値61とを左右両側におけるプラスの偏曲点として利用する。
【0042】
出力電圧の分布曲線5から欠陥60の右側の端部位置を決定するために、最大値61と最小値62から得られるVp−p63に対して、プラスの偏曲点61から数dB低い閾値64を設ける。欠陥60の左側の端部位置を決定するために、同様に、最大値66と最小値67の差から得られる差分電圧範囲Vp−p68に対して、プラスの偏曲点66から数dB低い閾値69を設ける。出力電圧の分布曲線5上におけるこれらの閾値の2点間65と70の距離を求めることで長さ評価の精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0043】
図11は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。図10の例と異なる点は、出力電圧の分布曲線5の右側周辺の最小値を示す偏曲点がない場合の評価に対応していることである。
【0044】
即ち、最小値の偏曲点がない場合は、最小値を無欠陥部の出力電圧値とする。出力電圧の右側のスリット端部を決定するために、出力電圧の分布曲線5の右側の最大値72と無欠陥部の出力電圧値の差から得られる差分電圧範囲Vp−p73に対して、プラスの偏曲点である最大値72から数dB低い閾値74を設ける。出力電圧の分布曲線5の左側は、最大値76と最小値77の差から得られる差分電圧範囲Vp−p78に対して、プラスの偏曲点である最大値76から数dB低い閾値79を設ける。
【0045】
出力電圧の分布曲線5上におけるこれらの閾値の2点間75と80の距離を求めることで長さ評価の精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0046】
図12は自然亀裂のように亀裂の深さが亀裂の長さ範囲内で何度も繰り返して変化するタイプの欠陥60が金属製の試験体3に発生し、その亀裂、即ち欠陥60の長さについて評価する例を説明する図である。この種欠陥60もスリット4と同様に試験体の表面に開口している。図12の例は、出力電圧の分布曲線5に全体的に直流成分を含んでいる場合の長さ評価を説明するものである。
【0047】
出力電圧に直流成分を含んでいる場合もこれまでと同様に長さ評価が可能である。即ち、出力電圧の分布曲線5から右側のスリット端部の位置を決定するために、出力電圧の分布曲線5の右側の最大値80と無欠陥部の出力電圧値との差から得られる差分電圧範囲
Vp−p81に対して、プラスの偏曲点である最大値80から数dB低い閾値82を設ける。出力電圧の左側は、最大値84と最小値85との差から得られる差分電圧範囲Vp−p86に対して、プラスの偏曲点である最大値84から数dB低い閾値87を設ける。出力電圧の分布曲線5上のこれらの閾値の2点間83と88の距離を求めることで長さ精度を向上させることができる。その距離の求め方は図5の例と同じである。
【0048】
以上に示す閾値としては、1/2(−6dB)以下の値を利用することが望ましい。
【0049】
図13に本発明で評価したスリットの長さと実際のスリット長さとを比較した結果を示す。閾値には−12dBを利用した。実際のスリットの形状は、矩形と半だ円を用いた。本結果より、実際のスリットの長さと評価した長さは、よく一致しており、いずれの例も、同様な結果となり、本発明の評価方法の妥当性が確認できる。
【0050】
ここで、上記の実施例はスリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をY軸に回転させ、Y成分の出力電圧を利用した場合を示したが、スリット4を渦電流探傷法で探傷して得られるリサージュ波形をX軸に回転させ、X成分の出力電圧を利用した場合でも同様に評価可能である。
【0051】
図1に、本発明の長さ評価フロー図を示す。長さ評価は次の工程で可能となる。渦電流探傷装置の探傷プローブを被検査体上で移動(走査)させて、被検査体に対して渦電流探傷法を適用し、測定を開始121後、電流探傷装置の探傷プローブの各移動位置ごとに検出コイルからの電圧を渦電流探傷器に入力して検出コイルの基準電圧値に対する出力の変化を渦電流探傷器の出力電圧として検知して、各移動位置の位置座標上方とともにコンピュータに入力し、各移動位置に対する出力電圧のデータを作成し、そのデータに基づいて表示装置に出力電圧の分布曲線を表示する。このように出力電圧分布を測定する工程122の後に、工程122で得られた出力電圧の分布曲線5が図8や図9のように連続的な上に凸の分布を示す場合(プラス側に一つのピークとなる偏曲点を有する)は次を実施する。
【0052】
即ち、出力電圧の分布曲線5の出力電圧の最大値を出力電圧のデータから例えばコンピュータの演算処理で抽出する工程123、出力電圧の分布曲線5にマイナス側の偏曲点を有する場合、この値を基準として、ない場合は無欠陥部の電圧値を基準として、電圧分布の最大値の1/2以下の任意の閾値を出力電圧の分布曲線5に対して、例えばコンピュータで設定する工程124、その閾値を越える断面距離またはその閾値と一致する出力電圧を示す探傷プローブの位置の2地点の距離を、例えばコンピュータで算出する工程125、以上で長さ評価を実施できる。
【0053】
一方、工程122で得られた出力電圧の分布曲線5が図10,図11,図12のように不連続的な分布を有する場合(複数の偏曲点を有する)は次の工程を実施する。出力電圧の分布の周辺付近(欠陥の両端に相当する付近)に現れるプラスの偏曲点を、例えば出力電圧のデータからコンピュータで抽出する工程126、同じく出力電圧の分布の周辺付近にマイナス側の偏曲点を有する場合、この値を基準として、ない場合は無欠陥部の電圧値を基準として、プラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値を出力電圧の分布曲線5に対して、例えばコンピュータで設定する工程127、出力電圧の分布の周辺付近の閾値を越える断面距離またはその閾値を越える断面距離またはその閾値と一致する出力電圧を示す探傷プローブの位置の2地点の距離を、例えばコンピュータで算出する工程128、以上で長さ評価を実施できる。
【0054】
次に欠陥長さ評価が出来る装置の説明を記す。まず、渦電流探傷装置の渦電流プローブとしてマルチプローブの説明を行い、次にこのマルチプローブを利用した欠陥長さ評価が行える装置の説明をする。図14は複数のコイルを利用したマルチプローブ92を示している。マルチプローブ92は一度の走査でコイル列の長さに対応する範囲を探傷することができるため、高速検査が可能となる。
【0055】
マルチプローブ92は上述した渦電流プローブと同様に励磁コイル90と検出コイル
91があり、これを電子的にコイル列方向へ切り替えコイル列の長さに対応する範囲の探傷が可能となる。図中のコイル列方向に設けた複数の矢印は電子的な切り替え方向を示している。矢印の始点は励磁コイルを、終点は検出コイルを示し、1chからnchまでのコイル列に渡り電子的に切り替えることで、試験体3の表面に開口した欠陥93の長さ方向、即ち欠陥の一端から他端方向へ一組の励磁コイルと検出コイルとを移動させたと同じ状況を作る。これで、コイル列の長さに対応する範囲で渦電流探傷法を試験体に対して実施する。この渦電流探傷法で各チャンネルの検出コイルからの誘起電力を渦電流探傷器に入力して各チャンネルの位置ごとの出力電圧を検知して出力電圧の分布曲線のデータを作成して表示装置に出力電圧の分布を表示する。
【0056】
マルチプローブを利用した渦電流探傷装置を図15に示す。図15の渦電流探傷装置は上記したマルチプローブ92を専用の渦電流探傷器94に結線し、マルチプローブの一要素となる励磁コイルと検出コイルを電子的に切り替え、各chの出力電圧を表示することが出来る。例えば、図15に示すように各コイルの出力電圧のデータ96を基にして探傷領域を表示画面95のように2次元的に表示する表示装置を渦電流探傷装置が有する。
【0057】
表示画面95の内容では、欠陥の影響を受けた出力電圧の分布が漠然として判るがその分布から欠陥の長さを精度よく評価するには適さない。そこで、図16に示した渦電流探傷装置は、欠陥の長さを精度よく評価するように構成されている。
【0058】
即ち、図16の渦電流探傷装置も図15の渦電流探傷装置と同様に、渦電流探傷器がマルチプローブの各チャンネルの検出コイルから入力を受けると、渦電流探傷器は図15の渦電流探傷装置と同様に各チャンネルごとに出力電圧のデータ96を作って、コンピュータ104のメモリ(データ)97へ電送する。メモリ(データ)97内のデータ構成は、データ96のように各チャンネルごとに且つマルチプローブ全体の各走査位置ごとに出力電圧のレベルが表示できる構成となっている。
【0059】
渦電流探傷装置は、メモリ(データ)97内のデータを用いて、コンピュータ104の表示部105に各chの2次元的な出力電圧分布の表示106、表示106の欠陥部に対応する出力電圧の分布曲線5の表示107,長さ評価結果108の表示を行うように構成される。
【0060】
これらの表示を可能とする渦電流探傷装置の構成部分について詳細を以下に示す。即ち、各チャンネルの位置座標データと紐付けしてた各コイルの出力電圧のデータ96をメモリ(データ)97に蓄積し、各chの代表値として最大値変位の絶対値をコンピュータ
104の演算部98で算出し、プラスとマイナスの符号付でメモリ100に蓄積する。このデータは、ch間距離を軸とした欠陥部に対応する出力電圧分布の表示107に利用する。次に、この出力電圧の周辺付近に現れるプラスの偏曲点部及び最小値をコンピュータ104の比較部99で抽出し、これを利用して周辺付近の差分電圧範囲Vp−pをコンピュータ104で算出してメモリ101に蓄積する。別途、評価者は最大値の偏曲点からの閾値を入力部103からコンピュータ104に与える。この入力値を閾値として、メモリ100に蓄積した各chの代表値(欠陥部に対応する出力電圧分布のデータ)とコンピュータ104で比較する。長さ評価結果108には、閾値と一致する2点の出力電圧のデータを選択してその選択したデータが有する位置座標情報を抽出し、2点の位置座標情報から2点の距離を演算する処理をコンピュータ104が実行し、その実行結果が2地点の距離として表示部105内の評価結果108に表示される。その表示部105に表示された表示107は出力電圧の分布曲線5を横軸に出力電圧レベルを、縦軸に各チャンネルの位置を採用して表示したものであり、109が欠陥の一方の端部よりの出力電圧の最小値
(マイナスの偏曲点)を、111が欠陥の他端の端部よりの出力電圧の最小値(マイナスの偏曲点)を、110が欠陥の一方の端部よりの出力電圧の最大値(プラスの偏曲点)を、112が欠陥の他端の端部よりの出力電圧の最大値(プラスの偏曲点)を表している。
【0061】
渦電流探傷法では、探傷プローブを構成している各コイルと被検査体の表面との間隔を一定に保つことがリフトオフノイズの低減に寄与して、亀裂の長さ評価に好結果をもたらす。そのため、探傷プローブとしてマルチプローブを採用した際のマルチプローブの試験体と各コイルまでの距離を一定に保つための機構を以下に説明する。
【0062】
マルチプローブの試験体と各コイルまでの距離を一定に保つための機構は、マルチプローブ92の被検査体3との接触部が被検査体3に点接触する形状の複数の突起物に形成されている点に特徴的構成がある。
【0063】
その構成によれば、マルチプローブ92を図14の白抜き矢印の方向へ走査しても、突起物が被検査体3の表面との間隔を一定の間隔に維持するので、リフトオフノイズが抑制できる。そのため、リフトオフノイズによるマルチプローブの探傷性能の低下が抑制できる。
【0064】
上記の特徴的構成を備えたマルチプローブの第1実施例は次のとおりである。即ち、図17のように、屈曲性に富んで柔軟性のあるプラスチック製の基板201と、その基板
201の上面に固定された複数個の渦電流探傷用コイル202と、その基板201の下面に各渦電流探傷用コイル202の真下において形成された部分球面形状又は断面が逆三角形状の突起物204と、前記基板201にエッチングで高密度に配線した銅配線とから構成される。基板201としては、プラスチックの中でも耐熱性や機械的強度の良いポリイミド樹脂製のフィルム(フィルム厚が0.15ミリ )を用いることが好ましい。
【0065】
その渦電流探傷用コイル202とは、励磁コイル,検出コイル又は励磁・検出兼用コイルであり、それらのコイルには、銅配線が結線されて、マルチプローブ外の電源からコイルへ通電したり、コイルからの信号をマルチプローブに接続されている渦電流探傷装置の渦電流探傷器へと電送する際のマルチプローブ内での電送路として用いられる。
【0066】
このような基板201は、屈曲性がよく被検査体の表面形状に沿って柔軟に変形するので、フレキシブルプリント基板と称せられ、フレキシブルプリント基板を採用したマルチプローブは基板がリジッドなものに比較して柔軟性があることからフレキシブル型マルチコイルECTプローブと称せられている。
【0067】
基板201は、成型用の金型にプラスチックを流し込む成型加工やプラスチック板を切削加工する方法などで製造される。基板201に装備される突起物204は、金型に突起物の型も加工しておき、その金型による成型加工によって、あるいは、プラスチック板から基板1を切削加工で製造する際に、突起物204も同時に切削加工で成型することによって基板201と一体に製造される。
【0068】
基板201内に銅配線を電気配線として施すことで、渦電流探傷用コイル202から直接的に電線をフレキシブル型マルチコイルECTプローブの外に引き出すものに比べてそのプローブの取扱い時の断線防止が可能となる。また、部分球面または逆三角形断面の突起物204を備えたことで突起物204を被検査体3の表面に接触させてそのプローブを走査するので、基板201の摩耗による基板201内の電気配線(銅配線)の断線を抑えることができる。更に、基板201に熱や触媒等で硬化する材料を用いてある場合には、基板201を作成した後に、突起物204を熱や触媒等で硬くすれば、基板201の耐摩耗性を向上し、フレキシブル型マルチコイルECTプローブの寿命を向上できる。
【0069】
突起物204は、図17(d)図のように球面の一部分を成す形状である部分球面形状と、図17(e)図のように突端を下方に向けた際に円錐や多角錐などの逆三角形の断面となる形状の例がかかげられるが、被検査体3の表面に点接触乃至は点接触に近い状態で接触する形状であればどの様な形状でも良い。いずれの場合も、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。
【0070】
この様なマルチプローブを渦電流探傷プローブとして用いれば、被検査体3の表面凹凸を有する曲面形状部であってもその部位の検査において、リフトオフによるノイズ信号が発生しない原理を以下に説明する。図23のように、滑らかな曲面を表面6に有する被検査体3のその表面に対して、突起204の無いフレキシブル型マルチコイルECTプローブを探傷プローブとして適用して探傷した場合は、基板を被検査体3の表面に押し付けると、基板と被検査体との間に隙間が生じないので、フレキシブル型マルチコイルECTプローブをその表面に沿って走査しても、基板上に配置した渦電流探傷用コイルと被検査体の間隔(リフトオフ)が常に一定に保たれる。そのため、リストオフによるノイズ信号が発生しない探傷が可能である。
【0071】
しかし、グラインダ等で被検査体3の表面206を研摩した後においては、その表面
206が図23の中央の図のように凹凸状態となる。そのような凹凸状態では、局所的な表面凹凸により、基板上に配置した渦電流探傷用コイルと被検査体3の表面との間隔がフレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査する際に変動する。そのため、リフトオフによるノイズ信号が発生し、探傷性能が悪化する等の問題が生じる。また、従来のフレキシブル型マルチコイルECTプローブでは、被検査体3と基板とが直接接触するため、フレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査する際に基板が摩耗し、基盤内に施されている電気配線が断線する等の問題があった。
【0072】
一方、突起204を備えたフレキシブル型マルチコイルECTプローブでは、基板201の被検査体3の表面206との接触部に、部分球面状の突起物204を備えている。そのため、基板201を被検査体3の表面206に押し付けた際に突起物204が凸凹状の表面206に点接触して、基板201上に配置した渦電流探傷用コイル202と被検査体3の距離が突起物204で一定に保たれる。
【0073】
そのため、表面206が凹凸状態においても、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面206との間の間隔がフレキシブル型マルチコイルECTプローブを走査した際にも変化せず、リフトオフの変動によるノイズ信号が渦電流探傷用コイル内に誘導されることは無く、リフトオフノイズの発生を抑制できる。
【0074】
また、突起物204が被検査体3に接触するので、フレキシブル型マルチコイルプローブの基板201に施されている電気配線にまで摩耗が進行するまでに従来よりも時間がかかり、断線防止事故にいたるまでのプローブ寿命が飛躍的に延命化できる。
【0075】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る実施例2を、図18に示す。実施例2は、既述の図17(実施例1)のフレキシブル型マルチコイルプローブを改良したもので、改良内容を以下に解説し、その他の構成や作用は既述の実施例1と同じである。
【0076】
図2に示したフレキシブル型マルチコイルECTプローブの基板201は、表裏両面が平坦なフレキシブルプリント基板201に突起物204を機械的に固定したものである。突起物204は部分球面状あるいは逆三角形の断面を持つ形状を有し、材質は炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用している。その材料の硬度は被検査体3の表面206の硬度よりも高い硬度を示している。
【0077】
その突起物204は、図18(a)(b)(c)(d)(e)(f)のように、渦電流探傷用コイル202の中心線5の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。このように配置された突起物204は、基板201に接着した複数層のプラスチック板208で突起物
204の周囲を基板201とで挟んで基板201に固定されている。プラスチック板208は基板201の柔軟性を損なわないように、及び突起物204の最突端部がプラスチック板208よりの外側に突き出るようにその厚さを配慮する。
【0078】
そのほかの機械的固定方法としては、基板201に雌ネジ穴を開け、突起物204に加工した雄ネジをそのネジ穴に螺合させて基板201と突起物204とを固定する方法もある。
【0079】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る実施例3を、図19に示す。実施例3は、既述の実施例1を改良したもので、改良内容を以下に解説し、その他の構成や作用は既述の実施例1と同じである。
【0080】
図19に示したフレキシブル型マルチコイルECTプローブの基板201は、表裏両面が平坦なフレキシブルプリント基板201に突起物204を接着剤209で固定したものである。突起物204は部分球面状あるいは断面が逆三角形の形状を有し、材質は炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用している。その材料の硬度は被検査体3の表面206の硬度よりも高い硬度を示している。
【0081】
その突起物204は、図19(a)(b)(c)(d)(e)(f)のように、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長上に突起物204の最突端部位が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との配置関係が整えられている。このように配置された突起物204は基板201に接着剤209で接着されて固定される。
【0082】
このタイプのフレキシブル型マルチコイルECTプローブは簡単に突起物204を取付けられるが、突起物204の脱落が問題となりそうな接着剤209の接着力低下を引き起こす環境で使用する場合は別の実施例1や実施例2の固定方法を採用した方がよい。
【0083】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第4実施例を図20に示す。その第4実施例はコイル押付型マルチコイルECTプローブの例である。コイル押付型マルチコイル
ECTプローブのフレーム210には、図18(a)(b)(c)のように、被検査体3の表面に対向する面に、複数のコイルホルダ203をフレーム210から突き出る方向へ進出したりフレーム210側へ戻る方向へ退避したり出来るようにされている。
【0084】
このような被検査体の方向へ進退自在にされているコイルホルダ203は次のようにしてフレーム210に装着される。このフレーム210は探傷作業中に被検査体側へ押しあてがわれても変形することの無い剛性を持たせてある。
【0085】
即ち、フレーム210に形成されている開口211は、フレーム210の下面において狭い口径とされ、内側ではそれよりも広い口径とされている。その開口211の内側には、前記狭い開口よりも幅広なつば部212を有するコイルホルダ203が上下動自在に挿入され、その一部下部がフレーム210の下面から下方へ突き出ている。そのコイルホルダ203の上端部分と開口の上端部分との間にはコイルバネ213が設けられて、そのコイルバネ213が常にコイルホルダ203を開口211から突き出すようにコイルホルダ203にバネ力を加えている。
【0086】
開口から突き出されたコイルホルダ203の突端部は、図18(d)(f)のような部分球面状または図18(e)(g)のような円錐や多角錐などの突起端が下方に向けられた状態で逆三角形の断面形状を有する形状を有する突起物204として成型され、その突起物204がその最突端部で被検査体3の表面に点接触する形状とされている。
【0087】
コイルホルダ203の内側は、中空となっていて、その中には渦電流探傷用コイル202が内蔵され、渦電流探傷用コイル202の中心線205の延長線上に突起物204の最突端部が位置するように渦電流探傷用コイル202と突起物204との位置関係が配慮されている。渦電流探傷用コイル202には電気配線が結線され励磁用の電力や検出信号の伝送用に用いられる。このようにして、コイルホルダ203の先端に成型した突起物204は渦電流探傷用コイル202とコイルホルダ203を介して一体となっている。
【0088】
このようなコイル押付型マルチコイルECTプローブは、渦電流探傷用コイル202が渦電流探傷装置の渦電流探傷器や電源に接続されて用いられる。渦電流探傷を実施する際には、フレーム210を被検査体3の表面に向けて押すことによって、コイルホルダ203をその表面に押し付ける。その押し付けにより、被検査体3の表面に突起物204が点接触する。その被検査体3の表面が凹凸を有する場合には、凸部に接触した突起部が成型されているコイルホルダ203は、凹部に接触したコイルホルダ203よりも大きく開口
211内にコイルバネ213の力に逆らって押し入る。
【0089】
このようにして、その凹凸によって各コイルホルダ203の開口211内への押し入り寸法が相違しますが、その押し入り動作には、渦電流探傷用コイル202がコイルホルダ203と同量だけ押し入れ方向に移動しますので、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面との間隔(リフトオフ量)は一定に保たれます。そのため、リフトオフノイズの発生を抑制することが出来ます。
【0090】
コイル押付型マルチコイルECTプローブを走査して検査位置を被検査体3の表面に沿って移動させても、渦電流探傷用コイル202と被検査体3の表面との間隔(リフトオフ量)は一定に保たれますので、リフトオフノイズの発生を抑制することが出来ます。
【0091】
図20の例ではコイルバネ213をコイルホルダ203のサスペンションとして用いて検査表面の凹凸に追従させたが、コイルバネ213の代わりにガス圧,水圧,油圧を用いたシリンダ装置でコイルホルダ203のサスペンションを構成しても良い。また、ゴム等の弾性体の中にコイルホルダ203を抜けないように埋め込み、その弾性体の弾性力を利用してコイルホルダ203をサスペンスしてもよい。
【0092】
コイル押付型マルチコイルECTプローブを走査する際に、コイルホルダ203と同材質の突起物204の摩耗が問題となる場合は、コイルホルダや突起物204の材料として熱硬化性プラスチックを採用して、少なくとも突起物204を熱硬化により耐摩耗性を向上できる。
【0093】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第5実施例を図21に示した。図21の第5実施例は、既述の第4実施例のコイル押付型マルチコイルECTプローブを改良した例である。改良内容を以下に説明し、ここで説明しない構成や作用は第4実施例と同じなのでその説明を省略する。即ち、改良点は、コイルホルダ203と突起物204とを別々に作成し、コイルホルダ203の端部に突起物204をはめ込むことで機械的にコイルホルダ203と突起物204を一体化する。
【0094】
その一体化のために、コイルホルダ203の端部には逆ハの字型の断面を有する孔214を加工しておく。その孔214には、図21(d)(e)(f)(g)のように、突起物204をはめ込んで、突起物204の突端はコイルホルダ203から突き出しておく。
【0095】
突起物204の摩耗が問題となる場合は、突起物204の材料として、炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用することで耐摩耗性の問題は解決する。このように、突起物204の材料をコイルホルダ203の材料とは相違する材料に選択して、必要に応じた材料が選択できる。
【0096】
フレキシブル型マルチコイルプローブに係る第6実施例を図22に示した。第6実施例は、既述の第4実施例のコイル押付型マルチコイルECTプローブを改良した例である。改良内容を以下に説明し、ここで説明しない構成や作用は第4実施例と同じなのでその説明を省略する。即ち、改良点は、コイルホルダ203と突起物204とを別々に作成し、図21(d)(e)(f)(g)のように、コイルホルダ203の端部に突起物204を接着剤209で接着してコイルホルダ203と突起物204を一体化する。
【0097】
突起物204の摩耗が問題となる場合は、突起物204の材料として、炭化ホウ素,工業用ダイヤモンド,工業用ルビー等の高硬度材料を採用することで耐摩耗性の問題は解決する。このように、突起物204の材料をコイルホルダ203の材料とは相違する材料に選択して、必要に応じた材料が選択できる。
【0098】
このタイプのコイル押付型マルチコイルECTプローブは簡単に突起物204をコイルホルダ203に取付けられるが、突起物204の脱落が問題となりそうな環境で使用する場合は第4実施例や第5実施例のような別の固定方法を突起物204をコイルホルダ203へ固定する方法として採用することが好ましい。
【0099】
渦電流探傷用コイル202の配置は、図17から図22に見受けられるように、千鳥配置でもよく正方格子配置でもかまわない。
【0100】
図17から図22に示したいずれかのマルチプローブを渦電流探傷器94に接続して渦電流探傷法の実施に用いれば、被検査体3の表面が平坦でなくともリフトオフノイズの悪影響を受けずに渦電流探傷結果や欠陥長さの評価が達成できる。
【0101】
図17から図22に示した各マルチプローブに基づいて以下のような提案が出来る。即ち、基板と、前記基板の一方の面に設けられた複数個の渦電流探傷用コイルと、前記一方の面とは反対の位置に面する前記基板の他方の面に、前記渦電流探傷用コイルの中心線延長上に設けられた複数個の突起物とを備えている渦電流探傷用マルチコイルプローブを第1の提案として提案できる。
【0102】
さらには、その第1の提案において、前記基板は前記渦電流探傷用コイルと結線された電気配線が施されているフレキシブルプリント基板である渦電流探傷用マルチコイルプローブを第2の提案として提案できる。
【0103】
また、フレームと、前記フレームに被検査体の方向へ進退自在に設けられた複数個の渦電流探傷用コイルと、前記渦電流探傷用コイルの前記被検査体に面する側に配置されて前記コイルと一体にされている複数個の突起物とを備えている渦電流探傷用マルチコイルプローブを第3の提案として提案できる。
【0104】
更には、第1の提案から第3の提案のいずれかの提案において、前記突起物の硬度は、前記被検査体の硬度以上とされている渦電流探傷用マルチコイルプローブが第4の提案として提案できる。
【0105】
更には、第1の提案から第4の提案のいずれかの提案において、前記突起物の前記被検査体側の部分は突起端を下方に向けた際に部分球面状又は逆三角形の断面を有する形状に形成されている渦電流探傷用マルチコイルプローブが提案できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、渦電流探傷法による非破壊検査を実施する渦電流探傷装置に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の欠陥長さ評価方法に関する説明図である。
【図2】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図3】渦電流探傷コイルと金属製試験体の配置図。
【図4】コイルが作る渦電流分布の説明図である。
【図5】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図6】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図7】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図8】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図9】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図10】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図11】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図12】渦電流プローブによる出力電圧分布の説明図である。
【図13】本発明による欠陥長さ評価の実験結果の説明図である。
【図14】本発明の渦電流探傷装置に利用するプローブの説明図である。
【図15】従来の渦電流探傷装置の説明図である。
【図16】本発明の渦電流探傷装置の説明図である。
【図17】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第1実施例にを示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図18】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第2実施例示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図19】フレキシブル型マルチコイルECTプローブの第3実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図20】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第4実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図21】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第5実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図22】コイル押付型マルチコイルECTプローブの第6実施例を示す図にして、(a)図はそのプローブの立面図、(b)図はそのプローブの下面図、(c)図はそのプローブの右側面図、(d)図は部分球面状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(e)図は錘状の突起物を用いた場合のそのプローブのa−a断面図、(f)図は(d)図の丸印で囲った部位の拡大断面図、(g)図は(e)図の丸印で囲った部位の拡大断面図である。
【図23】従来例と本発明の実施例によるフレキシブル型マルチコイルECTプローブを表面凹凸を有する被検査体の曲面部にそのプローブをあてがった状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0108】
1…励磁コイル、2…検出コイル、3…試験体(被検査体とも言う)、10…プラス側の偏曲点(最大値とも言う。)、11…マイナス側の偏曲点(最小値とも言う。)、12…差分電圧範囲Vp−p、13…閾値。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦電流探傷法による表面欠陥の検査において、表面欠陥による出力電圧の分布を用いて、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項2】
請求項1において、表面スリットを探傷した時の出力電圧が実質的にリサージュ波形のX軸またはY軸方向のいずれかに出力する条件に設定し、表面欠陥を探傷した時に得られる設定した軸成分の出力電圧が、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値を利用し、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項3】
請求項2において、設定した軸成分の出力電圧が連続的な上に凸の分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力電圧の最大値と1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力分布の周辺付近に現れるプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項4】
前記請求項3において、出力分布の周辺付近にプラスとマイナスの偏曲点の対が現れる場合は、マイナスの偏曲点の出力電圧を基準とし、その基準とプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項5】
渦電流探傷法による表面欠陥の検査装置において、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して電圧最大変位を求める手段と、出力分布と入力部からの閾値とを比較し、閾値を越える断面距離または2地点の距離を算出する手段と、該距離を表示する表示部を有することを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項6】
被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷法において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき、該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを検査することを特徴とする渦電流探傷法。
【請求項7】
被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷装置において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを算出する手段を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項1】
渦電流探傷法による表面欠陥の検査において、表面欠陥による出力電圧の分布を用いて、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項2】
請求項1において、表面スリットを探傷した時の出力電圧が実質的にリサージュ波形のX軸またはY軸方向のいずれかに出力する条件に設定し、表面欠陥を探傷した時に得られる設定した軸成分の出力電圧が、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値を利用し、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項3】
請求項2において、設定した軸成分の出力電圧が連続的な上に凸の分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力電圧の最大値と1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合、無欠陥領域の出力電圧を基準とし、その基準と出力分布の周辺付近に現れるプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項4】
前記請求項3において、出力分布の周辺付近にプラスとマイナスの偏曲点の対が現れる場合は、マイナスの偏曲点の出力電圧を基準とし、その基準とプラスの偏曲点の出力電圧の1/2以下の任意の閾値で切った出力電圧分布の断面あるいは線から、表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを評価することを特徴とする表面欠陥長さ評価方法。
【請求項5】
渦電流探傷法による表面欠陥の検査装置において、連続的な上に凸の分布をもつ場合は出力電圧の最大値、また、出力分布が不連続的な分布をもつ場合は出力分布の周辺付近に現れる偏曲点を利用して電圧最大変位を求める手段と、出力分布と入力部からの閾値とを比較し、閾値を越える断面距離または2地点の距離を算出する手段と、該距離を表示する表示部を有することを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項6】
被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷法において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき、該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを検査することを特徴とする渦電流探傷法。
【請求項7】
被検体の表面欠陥を検査する渦電流探傷装置において、該表面欠陥による出力電圧の分布に基づき該表面欠陥の存在範囲または欠陥の開口長さを算出する手段を備えたことを特徴とする渦電流探傷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−8806(P2008−8806A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180640(P2006−180640)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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