説明

測位システム

【課題】GNSSにより測位される位置の誤差を推定することができる測位システムを提供すること。
【解決手段】衛星から受信した電波の到達時間から車両と衛星間の観測距離を計算する観測距離計算手段と、衛星から受信した位置情報に基づき所定時間の衛星の移動量ベクトルを推定する衛星移動ベクトル推定手段と、車両が走行しているリンクの勾配を推定する勾配推定手段と、車両の移動方向と前記勾配から、所定時間の車両の移動量ベクトルを推定する車両移動ベクトル推定手段と、衛星の移動量ベクトルと車両の移動量ベクトルとを比較して、衛星と車両間の推定距離の変化量を推定する距離変化量推定手段と、所定時間の観測距離の変化量を求め、推定距離の変化量と比較して衛星から受信する電波の信頼度を推定する信頼度推定手段と、信頼度に応じて衛星から受信した電波を処理し、車両の位置を推定する測位手段と、を有することを特徴とする測位システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSSによる移動体の測位システムに関し、特に、測位に用いる衛星を取捨できる測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(米国)、Galileo(欧州)、Glonass(ロシア)と呼ばれるGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた測位方法が知られている。この測位方法では、衛星からの電波の受信装置が所定数以上の人工衛星の電波を補足できれば、実用的には十分な精度が得られる。しかし、受信装置(例えば車両)の実際の位置に対し、GNSSにより測位した受信装置の位置に含まれる誤差をゼロにすることはできない。例えば、受信装置は、10機程度の衛星を補足することができるが、多くの衛星から受信した電波を測位に用いると却って誤差が増大する場合がある。特に、市街地では電波が衛星から受信装置に到着するまでに、建物に電波が反射するマルチパスが生じやすい。マルチパスが生じると、比較的大きな誤差が含まれることが多い(例えば、〜100m)。
【0003】
そこで、マルチパスの影響を低減する技術が考えられている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、マルチパスのある環境下でも測位位置の誤差を低減する目的で、右旋偏波用アンテナで受信した電波と左旋偏波用アンテナで受信した電波の電界強度を比較して、測位に用いる電波を選択するGNSS受信装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−186415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、受信した電波の信頼性を推定して測位に用いる電波を選択することはできないという問題がある。このため、特許文献1に記載のGNSS受信装置は、実際には誤差が少ない測位位置が得られる場合も電波を捨ててしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、受信した電波の信頼性を考慮して、測位された位置の精度を向上させる測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、衛星から受信した電波の到達時間から車両と衛星間の観測距離を計算する観測距離計算手段と、衛星から受信した位置情報に基づき所定時間の衛星の移動量ベクトルを推定する衛星移動ベクトル推定手段と、車両が走行しているリンクの勾配を推定する勾配推定手段と、車両の移動方向と前記勾配から、所定時間の車両の移動量ベクトルを推定する車両移動ベクトル推定手段と、衛星の移動量ベクトルと車両の移動量ベクトルとを比較して、衛星と車両間の推定距離の変化量を推定する距離変化量推定手段と、所定時間の観測距離の変化量を求め、推定距離の変化量と比較して衛星から受信する電波の信頼度を推定する信頼度推定手段と、信頼度に応じて衛星から受信した電波を処理し、車両の位置を推定する測位手段と、を有することを特徴とする測位システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
受信した電波の信頼性を考慮して、測位された位置の精度を向上させる測位システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】測位システムの概略を説明するための図の一例である。
【図2】測位システムの機能ブロック図の一例である。
【図3】方法1の勾配算出方法を模式的に説明する図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の測位システム100の概略を説明するための図の一例である。本実施形態の測位システム100の特徴は以下のとおりである。
(1)衛星12の移動量ベクトルと車両11の移動量ベクトルから、測位システム100が衛星12と車両11間の疑似距離の変化量を推定する。
(2)測位システム100が衛星12と車両11間の観測距離を観測する。
(3)疑似距離の変化量と観測距離の変化量を比較して、衛星12から受信する電波の信頼度を見積もる。
【0011】
見積もった結果、疑似距離の変化量と観測距離の変化量の差が大きければ、その衛星12から受信する電波はマルチパスの影響受けている可能性が高いとして、測位システム100は測位に用いない。測位システム100がマルチパスの電波を受信すると、衛星12の配置にもよるが、おおむねマルチパス誤差(電波がマルチパスを経由した時間遅れ)と同等の位置誤差が発生してしまう。他の衛星12から受信した電波がマルチパスを経ていなくても、マルチパス経由で測位システム100が電波を受信した衛星12が一機でもあると、車両11の位置は真値に対し大きくずれる。したがって、マルチパスを測位演算から除外することで、車両11の位置を精度よく決定することができる。
【0012】
図1について詳細に説明する。車両11はノードN2とN1の間のリンクをノードN1からノードN2に向けて走行している。時刻tにおける車両11の位置はV、時刻t+1における車両11の位置はVt+1である。
【0013】
GPSの場合、衛星12は、高度約20200kmの上空をおよそ12時間で地球を一周するように周回している。周回軌道は6個あり、それぞれの周回軌道を4個以上の衛星12が周回することで、地球上のどの場所でも常に測位システム100が4個以上の衛星12を補足可能になっている。同じある衛星12の、時刻tにおける位置はS、時刻t+1における位置はSt+1である。
【0014】
時刻tから時刻t+1までの時間間隔は特に制約はないが、後述するように車両11の3次元の移動量ベクトルを求めるため、車両11が同一リンクを走行している程度の時間であることが好ましい。時刻tから時刻t+1までの衛星12の移動量ベクトルをm、車両11の移動量ベクトルをmとする。
【0015】
ベクトルeは、衛星12から車両11を見た単位ベクトルである(以下、視線ベクトルという)。車両11と衛星12までの距離が長いので、視線ベクトルeは短時間では変わらないとしてよい。なお、視線ベクトルeの大きさは「1」である。
【0016】
図2は、測位システム100の機能ブロック図の一例を示す。本実施形態の測位システム100は、例えばナビゲーション装置に搭載される。図2の各機能ブロックは、ナビゲーション装置のコンピュータのCPUがプログラムを実行することやIC回路により実現されている。
【0017】
GNSS信号受信部21は、衛星12が発信する電波を受信する。GPSを例に説明する。GNSS信号受信部21は、受信した電波をデジタルデータに変換し、各衛星毎に固有のC/Aコードと比較してC/Aコードを復調する。したがって、この時点で測位システム100は衛星12を特定することができる。C/Aコードには航法メッセージ・データが含まれる。GPSの場合、航法メッセージ・データには、衛星時計の補正データ,エフェメリス・データ,電離層補正パラメータ,UTC補正パラメータ,衛星12の健康情報やアルマナック・データなどが含まれる。アルマナックデータは周回軌道上における全ての衛星12に関する軌道情報であり、エフェメリスデータは各衛星12の正確な位置情報と信号を発射した時刻情報を含む。
【0018】
観測距離計算部22は、車両11と衛星12との間の観測距離ρを算出する。観測距離計算部22は、衛星12毎に保持している時計の時刻を合わせ、衛星12が電波を発射した時刻情報と現在の時刻との時間間隔に、大気中を電波が到達する速度をかけて、車両11と衛星12との間の観測距離ρを算出する。時刻tの観測距離をρ、時刻t+1の観測距離をρt+1、とする。
【0019】
時刻tと時刻t+1の間隔は、予め定められている(例えば、1〜数秒)。観測距離計算部22は、例えば定期的、又は、GNSS信号受信部21が新しい衛星12を補足した場合に、車両11と衛星12との間の観測距離ρ、ρt+1を算出する。ここで、時刻tと時刻t+1は、衛星12の移動量ベクトルmと車両11の移動量ベクトルmを算出するタイミングに利用されるので、観測距離計算部22は、観測距離ρを算出したタイミングと、観測距離ρt+1を算出したタイミングを、衛星位置計算部23や衛星移動ベクトル推定部24、及び、勾配推定部26や車両移動ベクトル推定部27に通知する。
【0020】
衛星位置計算部23は、衛星12の位置を算出する。衛星12の位置情報は、エフェメリス・データに含まれているので、その位置情報をそのまま利用することができる。なお、衛星位置計算部23は、エフェメリス・データの座標系(WGS-84)を日本測地系に変換するなど、測位システム100に適用可能な値に位置情報を変換する。時刻tの衛星12の位置はS、時刻t+1の衛星12の位置はSt+1、である。
【0021】
衛星移動ベクトル推定部24は、衛星12の位置S、St+1から衛星12の移動量ベクトルmを推定する。所定の(例えば日本測地系の)座標系の原点と衛星12の位置St+1を結ぶベクトルから、原点と衛星12の位置Sを結ぶベクトルを引いたベクトルが衛星12の移動量ベクトルmである。
【0022】
測位システム100は、地図DB(DataBase)25を有する。地図DB25には、道路網や交差点などの道路地図情報が、緯度・経度に対応づけて格納されている。地図DB25は、実際の道路網に対応したノード(道路と道路が交差する点、例えば交差点)と、リンク(ノードとノードを接続する道路)とを対応づけたテーブル状のデータベースである。なお、測位システム100は、地図DB25の一部又は全体を車両11の位置や進行方向に応じて、サーバからダウンロードしてもよい。
【0023】
勾配推定部26は、車両11が走行しているリンクの勾配を推定する。本実施形態では2つの方法で勾配を算出することができる。
方法1:車輪の回転から取得した加速度と、加速度センサの観測値から算出する方法。
図3は、方法1の勾配算出方法を模式的に説明する図の一例である。車両11は勾配θのリンクを走行している。勾配推定部26は車速センサが検出した車速の時間的な変化から加速度aを算出する。リンクに勾配がない場合、この加速度aと加速度センサが検出した加速度aは等しい。
【0024】
しかし、勾配θが正であると、加速度aは勾配θに応じて小さくなる(勾配θが負であると、加速度aは勾配θに応じて大きくなる)。この勾配θに応じた加速度をgとする。したがって、次式が成り立つ。
a=a−g
図示するように、加速度gは重力加速度gと勾配θから次のように現すことができる。
=g・sinθ
したがって、加速度aは、次のように現すことができる。
a=a−g・sinθ
したがって、勾配θは次式で現すことができる。
θ=arcsin{(a−a)/g}
方法2:各ノードの高度情報を地図DB25に蓄積し、リンクの端部の高度情報を用いてリンクの勾配を算出する方法。
【0025】
勾配推定部26は、ノードにおいて車両11の位置情報(三次元)を取得した場合に位置情報の標高(すなわち、高度情報h)を地図DB25に登録する。この位置情報は、測位演算部32が算出した位置である。高度情報hは精度が低いので、ノードにおける高度情報hを複数個N蓄積し、勾配推定部26はその平均<h>をそのノードの高度とする。
【0026】
【数1】

なお、Nの数が少ない内は、平均<h>の精度が低いおそれがあるので、Nは所定の閾値をこえてから勾配を求めてもよい。
【0027】
リンクの長さは地図DB25に登録されているので、勾配推定部26は、リンクを挟む2つのノードの高度の差をリンクの長さで割ることで、勾配θを算出する。方法2によれば、加速度センサがなくても勾配θを求めることができ、衛星12の信頼度を判定することができる。なお、勾配の算出に地図DB25に登録された高度情報を利用する場合、車両11の位置がリンク上に特定されている必要がある。
【0028】
車両移動ベクトル推定部27は、車両11の移動量ベクトルmを算出する。移動量ベクトルmのうち方向は、地図DB25に登録されているリンクの方向と勾配推定部26が推定した勾配θから求めることができる。移動量は、車速センサが検出した車速や移動距離から求めることができる。したがって、時刻tにおける車両11の位置V、時刻t+1における車両11の位置Vt+1を特定しなくても、移動量ベクトルmを求めることができる。
【0029】
なお、地図DB25に登録されているリンクの方向を、移動量ベクトルmの推定に用いる場合、車両11の位置がリンク上に特定されている必要がある。地図DB25に登録されているリンクの方向を用いないで、ヨーレートセンサが検出するヨー角を利用してもよい。
【0030】
視線ベクトル推定部29は、衛星12の位置と車両11の概略位置から視線ベクトルeを推定する。上記のように、視線ベクトルeは短時間では変化しないので、車両11の位置は概略でよい(例えば、最後に測位演算部32が測位した位置)。視線ベクトル推定部29は、座標系の原点と車両11の概略位置を結ぶベクトルから、原点と衛星12の位置を結ぶベクトルを引いて、単位長さにすることで視線ベクトルeを算出する。
【0031】
疑似距離変化量推定部28は、衛星12の移動量ベクトルm、車両11の移動量ベクトルm及び視線ベクトルeから、疑似距離の変化量Δρ*を推定する。
【0032】
Δρ*=−(m−m)・e …(1)
(m−m)と視線ベクトルeは向きがほぼ180度異なるので、両者の内積を負にすると、(m−m)の長さが得られる。(m−m)の長さは、時刻tにおける衛星12と車両11の距離を基準にした場合の、時刻t+1における衛星12と車両11の距離である。
【0033】
衛星信頼度算出部31は、観測距離ρ、ρt+1から求めた観測距離の変化量Δρ(=ρt+1−ρ)と、疑似距離の変化量Δρ*から、衛星12の信頼度を算出する。観測距離ρ、ρt+1にはマルチパスの影響が含まれ得るのに対し、疑似距離の変化量Δρ*にはマルチパスの影響が含まれない(衛星12の移動量ベクトルmはデジタルデータから算出されている)。したがって、ΔρとΔρ*が大きく異なる場合、観測距離にマルチパスを代表とする誤差が含まれていると推定することができる。
【0034】
衛星信頼度算出部31は、例えば次式から信頼度rを算出する。
r=Δρ−Δρ* …(2)
なお、信頼度rの算出方法は一例であり、「r=(Δρ−Δρ*)/Δρ*」や「r=Δρ/Δρ*」「r=1/(Δρ−Δρ*)」等としてもよい。
【0035】
測位演算部32は、信頼度rに基づき衛星12の信頼度を判断し、車両11の位置を測位する。式(2)によれば値が大きいほど信頼性が低いことになるので、測位演算部32は、例えば、信頼度rが閾値より大きい場合、その衛星12から受信した電波を測位に用いない。この場合、マルチパスが車両11の位置に与える影響をゼロにすることができる。または、測位演算部32は、信頼度rに応じて、その衛星12から受信した電波により算出される観測距離ρに重み付けを与えて、車両11の位置を算出してもよい。この場合、マルチパスの程度に応じてマルチパスが車両11の位置に与える影響を低減することができる。
【0036】
また、測位演算部32は、信頼度rが閾値より大きい場合、その衛星12から受信した電波を測位に用いず、閾値以下の場合、信頼度rに応じて観測距離ρに重み付けを与えて、車両11の位置を算出してもよい。
【0037】
測位演算部32は、除外すべき衛星12があればそれを除外して、最終的に4つ以上の衛星12を補足して各衛星12までの距離を算出する。そして、少なくとも3つの衛星12を中心とする3つの球の表面の交点を求めることで、電波から測位される車両11の位置(緯度・経度・標高)を決定する。測位演算部32は、衛星12を3つしか補足できない場合は、緯度・経度のみを算出する。
【0038】
本実施形態の測位システム100によれば、マルチパスにより受信した電波を測位演算に使用いないか又は影響を低減できるので、車両11の位置の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
21 GNSS信号受信部
22 観測距離計算部
23 衛星位置計算部
24 衛星移動ベクトル推定部
25 地図DB
26 勾配推定部
27 車両移動ベクトル推定部
28 疑似距離変化量推定部
29 視線ベクトル推定部
31 衛星信頼度算出部
32 測位演算部
100 測位システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星から受信した電波の到達時間から車両と衛星間の観測距離を計算する観測距離計算手段と、
衛星から受信した位置情報に基づき所定時間の衛星の移動量ベクトルを推定する衛星移動ベクトル推定手段と、
車両が走行しているリンクの勾配を推定する勾配推定手段と、
車両の移動方向と前記勾配から、前記所定時間の車両の移動量ベクトルを推定する車両移動ベクトル推定手段と、
前記衛星の移動量ベクトルと前記車両の移動量ベクトルとを比較して、衛星と車両間の推定距離の変化量を推定する距離変化量推定手段と、
前記所定時間の前記観測距離の変化量を求め、前記推定距離の変化量と比較して衛星から受信する電波の信頼度を推定する信頼度推定手段と、
前記信頼度に応じて衛星から受信した電波を処理し、車両の位置を推定する測位手段と、
を有することを特徴とする測位システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80928(P2011−80928A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234930(P2009−234930)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】