説明

溝掘り機

【課題】 コンクリートの床面等に配線用等の幅広の溝部を形成するための溝掘り機において、従来複数の切断刃による溝部の切り込み作業と、両溝部間のはつり作業を別々に行っていたので効率がよくなかった。本発明では、この二つの作業を同時に行うことができる溝掘り機を提供する。
【解決手段】 2枚の切断刃5,6間において、スピンドル4にカム部12を設けるとともにはつりケース21を相対回転可能に設け、はつりケース21にカム部12の回転により頭部を打撃されるたがね26を設けるとともに、はつりケース21を、たがね26をはつり加工部に向けて押圧する方向に付勢した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばレンガやコンクリートの壁あるいは床面に、配管用の溝を切削加工する場合等に用いられる溝掘り機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の溝の切削加工(溝掘り加工)に用いられる溝掘り機は、モータで回転するスピンドル上に一定の間隔をおいて2枚のカッタを取り付けておき、これを回転させて壁部等に二本の溝部を一定の深さで切り込み形成し、その後両溝部間をたがね等を用いて作業者が手作業ではつって除去することにより行われていた。ところが、このはつり作業を作業者が手作業で行うため作業には時間がかかり、またその作業は大変な労力を必要としていた。
そこで、従来例えば特公昭55-47571号公報に開示されているように、上記はつり作業を手作業ではなく溝掘り機の動力(駆動モータ)を利用して行えるようにしたはつり機構付きの溝掘り機が提供されている。このはつり機構付きの溝掘り機によれば、溝の切り込み作業およびはつり作業を共に動力を用いて行うことができるので、この種の溝掘り作業を迅速かつ楽に行うことができた。
【特許文献1】特公昭55−47571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のはつり機構付き溝掘り機では、溝の切り込み作業とはつり作業を時間をおいて別々に行う必要があったので、作業効率を一層高める必要があった。
本発明は、この問題に鑑みなされたもので、切断刃による溝の切り込み作業とはつり作業を同時に行うことができる溝掘り機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明は特許請求の範囲の各請求項に記載した構成の溝掘り機とした。
請求項1記載の溝掘り機によれば、スピンドルが回転すると、複数の切断刃により溝部が切り込み形成されると同時に、両溝部間のはつり加工部がたがね(チゼル)によってはつり加工されるので、従来溝部の切り込み加工とはつり加工を別々に行っていた場合に比して、溝掘り加工を迅速に行うことができる。
請求項2記載の溝掘り機によれば、スピンドルが回転すると、複数の切断刃により溝部が切り込み形成されると同時にカム部の回転によりたがねが往復動されてはつり加工がおこなわれるので、上記と同様の作用効果を奏する。たがねは、はつりケースに支持されており、はつりケースは、スピンドルに対して相対回転可能であるとともに、たがねを複数の溝部間すなわちはつり加工部に向けて押し付ける方向に付勢されている。このため、たがねははつりケースの付勢力と頭部の打撃力によってはつり加工部に打ち込まれ、これが繰り返されることによってはつり加工部がはつり加工される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1および図2は、本実施形態の溝掘り機1を示している。この溝掘り機1は、下方へ開口した概ね半円形のケース2を備えている。図2に示すようにこのケース2の背面には、電動モータ3が取り付けられている。この電動モータ3を駆動源として本例の溝掘り機1が作動する。この電動モータ3によりスピンドル4が回転する。このスピンドル4は、ケース2内に進入している。ケース2内においてスピンドル4には、2枚の切断刃5,6とはつり機構20が支持されている。2枚の切断刃5,6間に、はつり機構20が配置されている。この2枚の切断刃5,6とはつり機構20は、スピンドル4上に装着した固定フランジ7とスピンドル4の先端に設けたねじ軸部4aに締め付けた固定ナット8との間に挟み込まれた状態で当該スピンドル4上に固定されている。
図1に示すようにケース2の開口部には、カバー9が支軸10を中心にして上下に回動可能に支持されている。このカバー9は、支軸10の周囲に装着した捩りばね11によって、図1において下方(ケース2の開口部からはみ出す方向)へ回動する方向に付勢されている。このカバー9はケース2の内周側に沿って枠組み形成したもので、その内周側に2枚の切断刃5,6とはつり機構20が位置している。
図1に示すように当該溝掘り機1の不使用状態では、カバー9が捩りばね11によってケース2の開口部から下方へ張り出された状態となり、これにより両切断刃5,6の下部およびはつり機構20が当該カバー9内に収容された状態となる。この意味で、カバー9は不使用時に切断刃5,6およびはつり機構20を収容する安全カバーとして機能する。
【0006】
はつり機構20は、はつりケース21を備えている。このはつりケース20は、軸受け22,22を介してスピンドル4上に相対回転自在に支持されている。このはつりケース21の内側においてスピンドル4にはカム部12が取り付けられている。このカム部12の外周には、周方向三等分位置において径方向に高さ(リフト量)が最も高くなる凸部を含むカム面12aが形成されている。
はつりケース21の内側には作動軸23が軸方向に移動可能に支持されている。この作動軸23の一端は上記カム部12のカム面12aに当接されている。この作動軸23の側方であって、はつりケース21の内側には中間アーム24が支軸25を介して上下に傾動可能に支持されている。この中間アーム24は、支軸25の周囲に介装した捩りばね(図示省略)により図1中時計回り方向(図中矢印で示す方向)に付勢されている。
この中間アーム24は支軸25から相互にほぼ反対方向に張り出す二つの作動アーム部24a,24bを備えている。駆動側の作動アーム部24aに上記作動軸23の他端部が突き当てられている。中間アーム24が図示時計回り方向に付勢されている結果、この作動軸23はカム部12のカム面12aに突き当てられる方向に付勢されている。
【0007】
従動側の作動アーム部24bには、たがね26の頭部が突き当てられている。たがね26は、はつりケース21の先端内側において軸方向に移動可能に支持されている。たがね26の頭部にはフランジ部26aが形成されて、はつりケース21からの抜け止めがなされている。このたがね26の先端側は、はつりケース21内から突き出される。
はつりケース21の上側部には、二つの壁部21a,21bが放射方向に張り出し形成されている。図1において左側の壁部21aとケース2との間には圧縮ばね27が介装されている。この圧縮ばね27によってはつりケース21は図1において反時計回り方向(ケース2の開口部から下方へ突き出す方向、以下はつり方向ともいう)に付勢されている。さらに、図1に示すようにケース2の内側にはストッパ突起2aが設けられている。はつりケース21がはつり方向に傾動すると、図示右側の壁部21bの先端が上記ストッパ突起2aに当接して、はつりケース21のはつり方向の傾動端が規制される。
一方、はつりケース21ひいてはたがね26は、圧縮ばね27に抗して反はつり方向(ケース2内に戻される方向)に移動する。
ケース2の前部(切断進行方向前側)には、切断刃5,6により巻き上げられた切断粉を集塵するためのダクト13が取り付けられている。このダクト13に集塵袋や集塵機(図示省略)が接続されて発生する切断粉が集塵される。
【0008】
以上のように構成した溝掘り機1によれば、以下のようにして例えばコンクリートの床面(ワークWという)に対して溝掘り加工がなされる。図3は、ワークWの上面に溝掘り機1の前部を載せ掛けたセット状態を示している。このセット状態では、カバー9が捩りばね11に抗して上方へ回動されてケース2内に移動し、これによりケース2の開口部から両切断刃5,6およびはつり機構20が露出された状態となる。
このセット状態から当該溝掘り機1を切断進行方向(図中白抜きの矢印で示した方向)に移動させ、これとともに電動モータ3を起動させると、両切断刃5,6がワークWの端部から一定の深さで切り込まれて2本の溝部が形成される。なお、電動モータ3を起動すると、スピンドル4の回転によりカム部12がこれと一体で回転し、これにより作動軸23がカム面12aのリフト量に応じて往復動する。作動軸23が中間アーム24の付勢力の間接作用に抗して往復動することにより、中間アーム24が支軸25を中心にして上下に傾動する。しかしながら、この段階では、たがね26がワークに当接されていないため、中間アーム24の傾動動作すなわち従動側作動アーム24bの上下動作はたがね26に作用せず、従ってたがね26は往復動しない。
溝掘り機1を切断進行方向にさらに移動させると両切断刃5,6の溝の切り込みと同時にたがね26がワークWに突き当てられ、これにより当該たがね26によるはつりが同時に行われる。すなわち、溝掘り機1の移動にともなってたがね26がワークWに当接され、この当接状態のまま溝掘り機1をさらに進行させることにより、はつりケース21が圧縮ばね27に抗して上方へ回動してケース2内に進入する。
【0009】
はつりケース21を付勢する圧縮ばね27の間接作用によりたがね26が相対的にはつりケース21内に押し込まれると、中間アーム24の傾動動作により上下動する従動側作動アーム24bによってたがね26がはつりケース21から突き出す方向に叩かれる。たがね26がはつりケース21から突き出されると、その反動によってはつりケース21が圧縮ばね27に抗して反はつり方向にもどされる。その後、従動側作動アーム24bがたがね26から離間すると、圧縮ばね27によりはつりケース21が下動し、逆にたがね26がはつりケース21内に戻され、従って上記したように従動側作動アーム24bに叩かれる。このようにはつりケース21が上下に揺動しながら、この動作が繰り返されることによりワークWの、切断刃5,6によって形成された2本の溝部間(はつり加工部)がはつり加工される。この状態が図4に示されている。
このように例示した溝掘り機1によれば、切断刃5,6によって2本の溝部を切り込み形成すると同時に、この2本の溝部間(はつり加工部)がたがね26によってはつり加工されるので、従来溝部の切り込み作業とはつり作業を別々に行っていた場合に比して、溝掘り作業を迅速に行うことができる。しかも、溝部の切り込みとはつりがともに電動モータ3を駆動源とする動力によりなされるので、従来手作業ではつり作業を行っていた場合に比して溝掘り作業を迅速かつ楽に行うことができる。
【0010】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、スピンドル4上に2枚の切断刃5,6を備える場合を例示したが、3枚以上の切断刃を備える場合にも隣接する切断刃間に同様のはつり機構20を配置することにより同様の作用効果を得ることができる。
また、はつり機構20において1本のたがね26を備える構成を例示したが、2本以上のたがねを単一のはつりケースに備える構成としてもよい。この場合、より幅広い溝部を効率よくはつることができる。
また、カム部12のカム形状は、周方向3等分位置に凸部を有する形状を例示したが、凸部の数は必要とする打撃周期に合わせて変更することができる。
さらに、スピンドル4にカム部12を取り付け、このカム部12の回転に伴う作動軸23の往復動およびこれに伴う中間アーム24の傾動動作によってたがね26を打撃する構成を例示したが、これに代えて例えばリンク機構あるいはクランク機構を用いてたがね26を打撃する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る溝掘り機の内部構造をスピンドルの軸方向から見た縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る溝掘り機の内部構造を切断進行方向後ろ側から見た縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る溝掘り機をワークにセットした状態におけるその内部構造を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る溝掘り機であって、切断刃による溝部の切り込み動作とたがねによるはつり動作が同時に行われている状態におけるその内部構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0012】
1…溝掘り機
2…ケース、2a…ストッパ突起
3…電動モータ
4…スピンドル、4a…ねじ軸部
5,6…切断刃
7…固定フランジ
8…固定ナット
9…カバー
10…支軸
11…捩りばね
12…カム部、12a…カム面
20…はつり機構
21…はつりケース、21a,21b…壁部
22…軸受け
23…作動軸
24…中間アーム
24a…作動アーム部(駆動側)、24b…作動アーム部(従動側)
25…支軸
26…たがね、26a…フランジ部
27…圧縮ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転するスピンドル上に複数の切断刃を取り付けた溝掘り機であって、
前記スピンドルの回転を利用して往復動して、前記複数の切断刃により切り込み形成された複数の溝部間のはつり加工部をはつるたがねを備え、
該たがねの往復動によるはつり加工を前記複数の切断刃の回転による溝部の切り込み加工と同時に行う構成とした溝掘り機。
【請求項2】
請求項1記載の溝掘り機であって、
前記複数の切断刃間において、前記スピンドルにカム部を設けるとともにはつりケースを相対回転可能に設け、
前記はつりケースに、前記カム部の回転により頭部を打撃されるたがねを設けるとともに、該はつりケースを、前記たがねを前記はつり加工部に向けて押圧する方向に付勢した溝掘り機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−62087(P2006−62087A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243668(P2004−243668)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】