説明

溶射絶縁膜が備えられる構造体の製造方法

【課題】被形成物に反りが発生しないようにしつつ、アンカー効果が十分得られるような凹凸を形成できるようにする。
【解決手段】粗面処理としてプレス加工を行い、プレス加工によって、ヒートシンク3の下面3bに凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸を形成する。このように粗面処理をプレス加工によって行えば、ヒートシンク3の上面3aおよび下面3bを挟み込むようにして力が加えられるため、ヒートシンク3が反らず、かつ、十分に力を加えられるため、アンカー効果を得るのに十分な大きさの凹凸を形成できる。また、プレス型によって決まった形状の凹凸を形成することになるため、粗面の面内バラツキやヒートシンク3間でのバラツキが発生しないようにできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射絶縁膜が備えられる前に被形成物の表面に対して溶射絶縁膜の密着性を高めるための処理を行ってから溶射絶縁膜を被形成物に形成した構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートシンクのうち樹脂から露出させられた露出側面の絶縁を行うための構造として、露出側面に対して、電気絶縁性かつ熱良導体で耐熱性も高いセラミック絶縁薄膜等を絶縁膜として備えたものがある。この絶縁膜の中でも、成膜速度が高く、簡便であるという観点から、溶射絶縁膜が採用されている。
【0003】
このような溶射絶縁膜を採用する場合、溶射絶縁膜とヒートシンクとの密着性を高めるために、アンカー効果を得るための凹凸を形成すべく、ヒートシンクの表面をブラスト加工もしくは機械加工することで粗面処理することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−98412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブラスト加工では、アンカー効果が十分得られるような凹凸が形成されるように大きな粒子を用いることになるが、その場合には、ブラストの圧力によって粗面処理をするヒートシンクが反ってしまう問題がある。特に、厚さ数mm程度の板に対して粗面処理を行う場合には、その反りが顕著となる。また、その反りを抑制できるように小さな粒子を用いてブラスト加工を行うと、アンカー効果が十分得られる凹凸を形成できない。このため、溶射絶縁膜と粗面処理をした板との密着性が不十分だったり、粗面の面内バラツキやヒートシンク間でのバラツキが発生してしまう。
【0006】
一方、機械加工では、細かいローレットによってヒートシンクに凹凸を形成するための溝を形成することになるため、溝深さが得られないし、溝深さを得ようとすると何度もローレットを行わなければならない。このため、ヒートシンクが反ってしまうという問題が発生する。したがって、ヒートシンクに反りが発生しないようにしつつ、アンカー効果が十分得られるような凹凸を形成できる粗面処理が望まれる。
【0007】
なお、ここではヒートシンクに対して粗面処理を行う場合を例に挙げて説明したが、ヒートシンクに限らず、溶射絶縁膜が形成される被形成物であれば、どのようなものであっても上記問題が発生する。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、被形成物に反りが発生しないようにしつつ、アンカー効果が十分得られるような凹凸を形成できる溶射絶縁膜が備えられる被形成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、被形成物(3)の一面(3b)に対してプレス加工による粗面処理を行い、凸部(3c)および凹部(3d)を有する凹凸を形成する工程と、凸部(3c)および凹部(3d)を有する凹凸が形成された被形成物(3)の一面(3b)に対して溶射絶縁膜(6)を形成する工程とを含んでいることを特徴としている。
【0010】
このように粗面処理をプレス加工によって行えば、被形成物(3)を挟み込むようにして力が加えられるため、被形成物(3)が反らず、かつ、十分に力を加えられるため、アンカー効果を得るのに十分な大きさの凹凸を形成できる。また、プレス型によって決まった形状の凹凸を形成することになるため、粗面の面内バラツキや被形成物(3)間でのバラツキが発生しないようにできる。
【0011】
例えば、請求項2に記載したように、粗面処理によって凹凸を形成する工程では、凸部(3c)および凹部(3d)の幅を数μm〜数十μmにすると共に、凸部(3c)の先端からの凹部(3d)の深さを数μm〜数十μmとすることができる。
【0012】
また、請求項3に記載したように、粗面処理によって凹凸を形成する工程では、凸部(3c)および凹部(3d)に加えて、凸部(3c)および凹部(3d)よりも幅が狭く、かつ、凹部よりも深さが浅い溝(3e)が形成されることにより、凹凸を多段で構成することもできる。
【0013】
このように、凹凸を多段となるような構造とすることもできる。このような多段の凹凸とすることで、より溶射絶縁膜(6)の粒子が被形成物(3)の一面(3b)の凹凸に食い込み、これらの接触面積が増加して密着性を高めることが可能となる。例えば、請求項4に記載したように、凹凸を2段階とする場合、溝(3e)の幅を数百nm〜数μm、深さを数百nm〜数μmで構成することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、被形成物(3)をプレス加工によって形成する工程を含み、被成形物(3)を形成する工程と粗面処理によって凹凸を形成する工程のプレス加工を同時に行うことを特徴としている。
【0015】
このようにすれば、被形成物の形成工程と凹凸の形成工程とを同時に行うことが可能となり、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、粗面処理によって凹凸を形成する工程の後に、凹凸が形成された一面(3b)に対してブラスト処理を行うことで凸部(3c)および凹部(3d)により構成される凹凸の表面に当該凹凸よりも小さな凹凸を形成することを特徴としている。
【0017】
このようにすれば、凸部(3c)および凹部(3d)からなる凹凸の表面に当該凹凸よりも小さい凹凸を形成することができ、表面積を増加させることができる。これにより、より溶射絶縁膜(6)の粒子が凹凸に食い込み、これらの接触面積が増加して密着性を高めることが可能となる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、粗面処理によって凹凸を形成する工程では、被形成物の一面に対してプレス加工を行って凹凸を形成する際に、同時に、被形成物の一面と反対側の面にも、被形成物の一面と同じ凹凸を形成することを特徴としている。
【0019】
このように、被形成物の両側に凹凸を形成することで、表裏面での応力の掛かり方が等しくなる。このため、溶射絶縁膜が形成される被形成物に高い平坦度が要求される場合には、片面にのみ凹凸を形成したときによる被形成面の反りをより一層抑制することが可能となる。なお、このように被形成物の表裏面に共に凹凸を形成する場合にも、プレス加工によって一度に形成できるため、ブラスト加工や機械加工のように、表裏面のそれぞれに別々の工程で凹凸を形成する場合と比較して、製造工程の簡略化も図れる。
【0020】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法は、例えば、請求項8に記載したように、上面(3a)および下面(3b)を有するヒートシンク(3)と、ヒートシンク(3)の上面(3a)側に配置されると共に、ヒートシンク(3)と電気的に接続されるパワー素子が形成された半導体チップ(2)と、ヒートシンク(3)の下面(3b)の表面に形成された溶射絶縁膜(6)と、半導体チップ(2)に形成されたパワー素子と電気的に接続される第1リード(4)と、ヒートシンク(3)を介して半導体チップ(2)に形成されたパワー素子と電気的に接続される第2リード(5)と、第1、第2リード(4、5)の一部および絶縁放熱層(6、12)のうちヒートシンク(3)の下面(3b)の表面に形成された部分を露出させた状態としつつ、半導体チップ(2)、ヒートシンク(3)、第1、第2リード(4、5)および絶縁放熱層(6、12)を封止した樹脂部(7)とを備える樹脂封止型半導体装置の製造方法に対して適用される。具体的には、粗面処理によって凹凸を形成する工程では、ヒートシンク(3)を被形成物とし、該ヒートシンク(3)の下面(3b)を被形成物の一面として、下面(3b)に対して凸部(3c)および凹部(3d)からなる凹凸を形成し、溶射絶縁膜(6)を形成する工程では、凹凸が形成されたヒートシンク(3)の下面(3b)に対して溶射絶縁膜(6)を形成することができる。
【0021】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる樹脂封止型半導体装置1の断面図である。
【図2】ヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図である。
【図3】図1に示す樹脂封止型半導体装置1の製造工程を示した断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる樹脂封止型半導体装置1のヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、他の実施形態として採用される樹脂封止型半導体装置1のヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる樹脂封止型半導体装置1の断面図である。以下、この図を参照して、本実施形態の樹脂封止型半導体装置1について説明する。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態の樹脂封止型半導体装置1は、半導体素子が形成された半導体チップ2、ヒートシンク3、リード(第1、第2リード)4、5、溶射絶縁膜6および樹脂部7などによって構成されている。
【0026】
半導体チップ2は、半導体素子として、駆動時に発熱するIGBTなどのパワー素子が形成されたものである。このため、ヒートシンク3を介して放熱を行うことで、半導体チップ2の過昇温を抑制している。例えば、半導体チップ2は、紙面上側から見たときの上面寸法が10mm□、厚さが0.2mmで構成されており、表面側がボンディングワイヤ8を通じてリード4に電気的に接続されていると共に、裏面側がはんだ9を介してヒートシンク3に搭載されることでヒートシンク3と電気的に接続されている。
【0027】
ヒートシンク3は、例えば銅(Cu)などの熱伝導率が高い金属板にて構成されている。例えば、ヒートシンク3は、紙面上側から見たときの上面寸法が20mm□、厚さが2mmとされている。このヒートシンク3の上面3aの中央位置に半導体チップ2が配置され、下面3bの表面に溶射絶縁膜6が形成されている。そして、ヒートシンク3の下面3bには、溶射絶縁膜6との接合性を良くし、アンカー効果が十分に得られるような構造となっている。
【0028】
図2に、ヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図を示す。この図に示されるように、下面3bには凸部3cと凹部3dからなる凹凸が形成されている。本実施形態では、下面3bに形成された凹凸を断面矩形波状とし、凸部3cおよび凹部3dの幅を数μm〜数十μm、凸部3cの先端からの凹部3dの深さも数μm〜数十μmとしている。
【0029】
リード4、5は、半導体チップ2に形成されたパワー素子を樹脂部7よりも外部において電気的に接続するための電極端子となるものであり、パワー素子の各部と電気的に接続されている。例えば、パワー素子がIGBTである場合には、リード4がIGBTにおけるゲート電極とボンディングワイヤ8を介して電気的に接続され、リード5がIGBTにおけるコレクタ電極とヒートシンク3を介して電気的に接続された構造とされる。
【0030】
なお、図1中では図示されていないが、IGBTにおけるエミッタ電極と電気的に接続されるリードも備えられており、リード4を通じてゲート電圧が制御されると、リード5や図示しないリードを通じてコレクタ−エミッタ間に電流が流されることで、パワー素子によるスイッチング動作が行えるように構成されている。
【0031】
溶射絶縁膜6は、絶縁放熱層として機能するもので、ヒートシンク3の下面3bの表面に形成されている。この溶射絶縁膜6は、溶射セラミック膜、例えば溶射アルミナ膜によって構成されており、ヒートシンク3のうち下面3bに対してアルミナ(Al23)を溶射することによって形成されている。このため、溶射絶縁膜6も、紙面上方から見たときの上面寸法が26mm□とされている。溶射絶縁膜6の厚さは任意であるが、厚すぎると熱抵抗が増大するため、ここでは厚さを例えば0.15mmとしている。
【0032】
このように、ヒートシンク3の下面3bの表面に溶射絶縁膜6が形成されている。このため、溶射絶縁膜6によってヒートシンク3が外部、例えば樹脂封止型半導体装置1が搭載される冷却器の基台から絶縁された状態となっている。
【0033】
樹脂部7は、リード4、5の一端と溶射絶縁膜6を露出させ、かつ、その他の部分を覆うように、樹脂成形によって形成されたものである。樹脂部7を構成する樹脂は、例えばシリカを内在させることで14ppm/℃の熱膨張係数を有したものとされ、ヒートシンク3の熱膨張係数に合わせ込まれている。このため、熱膨張や熱収縮が生じても、ヒートシンク3と樹脂部7との間での歪みが抑制され、これらの間の剥離が発生し難くなるようにされている。
【0034】
以上のように構成された本実施形態の樹脂封止型半導体装置1では、ヒートシンク3の下面3bを直接露出させるのではなく、溶射絶縁膜6を露出させた構造としている。この溶射絶縁膜6は、絶縁材料であるため、シリコングリースなどを介して冷却器の基台などに接続したときに、ヒートシンク3を冷却器などから電気的に絶縁することが可能となる。このため、ヒートシンク3と冷却器との絶縁を確保しつつ、ヒートシンク3および溶射絶縁膜6を介して、半導体チップ2で発生した熱を放出させることが可能となる。
【0035】
そして、本実施形態の樹脂封止型半導体装置1では、ヒートシンク3の下面3bに凸部3cおよび凹部3cからなる凹凸を形成しているため、下面3bと溶射絶縁膜6との間のアンカー効果を十分に発揮させることが可能となる。このため、下面3bと溶射絶縁膜6との密着性を向上させることができる。
【0036】
次に、上記のように構成される本実施形態の樹脂封止型半導体装置1の製造方法について説明する。図3は、本実施形態の樹脂封止型半導体装置1の製造工程を示した断面図である。
【0037】
まず、図3(a)に示すように、上面3aおよび下面3bを有するヒートシンク3とリード4およびヒートシンク3に接続されたリード5が形成された金属構造体を用意する。例えば、プレスによる金属板の打ち抜きもしくは型成形によってこの構造を形成することができる。このとき、リード5が接続されたヒートシンク3とリード4とは、後で切断される箇所において接続されており、この段階では金属構造体は一体化されている。
【0038】
そして、このような金属構造体におけるヒートシンク3の下面3bに、図2に示したような凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸を形成するための粗面処理を行う。具体的には、プレス型によってヒートシンク3の上面3aおよび下面3bを挟み込み、プレス加工を行う。プレス型のうち下面3bと対応する箇所に凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸と対応する凹凸を形成しておくことで、プレス加工によって、下面3bに凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸を形成することができる。
【0039】
このように粗面処理をプレス加工によって行えば、ヒートシンク3の上面3aおよび下面3bを挟み込むようにして力が加えられるため、ヒートシンク3が反らず、かつ、十分に力を加えられるため、アンカー効果を得るのに十分な大きさの凹凸を形成できる。
【0040】
この後、必要に応じてヒートシンク3の表面3aに対してはんだ9との接合性を良好にするためのNiメッキ処理などを行う。そして、図3(b)に示すように、下面3bの法線方向からほぼ一様に溶射することにより、ヒートシンク3の下面3bの表面に溶射絶縁膜6を形成する。例えば、アルミナ溶射により、溶射アルミナ膜からなる溶射絶縁膜6を例えば0.15mmの厚みで形成する。また、下面3bの表面に凹凸を形成しているため、溶射絶縁膜6が凹凸内に入り込み、凹凸によるアンカー効果を発揮させられる。
【0041】
その後、図3(c)に示すように、ヒートシンク3の上面3aに半導体チップ2と同寸法にカットした例えば0.1mmの厚みのSn−Cu系のはんだ箔を配置する。そして、その上に半導体チップ2を配置する。このとき、位置ズレを防ぐために、図示しない位置決め用の治具を利用して重ねている。
【0042】
そして、このように各部材をすべて重ねた状態で、ボイド率を低減するために真空リフロー槽に移動させ、真空リフローにてはんだ箔を溶融させる。これにより、ヒートシンク3と半導体チップ2との間がはんだ9にて接合される。なお、上述したように、ヒートシンク3の上面3aにNiメッキ処理などを行っておくと、このときのはんだ9による接合性を良くすることができる。
【0043】
最後に、図3(d)に示すように、半導体チップ2の所望箇所とリード4とをボンディングワイヤ8にて電気的に接続したのち、成形型内においてモールド樹脂による樹脂成形を行う。これにより、樹脂部7にて、半導体チップ2、ヒートシンク3、溶射絶縁膜6およびリード4、5の一部を封止する。そして、図示していないが、リード4およびリード5を切断して分離させることで、リード4がヒートシンク3から電気的に接触しない構造とできる。このようにして、図1に示した本実施形態の樹脂封止型半導体装置1が完成する。
【0044】
以上説明した本実施形態の樹脂封止型半導体装置1の製造方法によれば、プレス加工によって、下面3bに凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸を形成している。このように粗面処理をプレス加工によって行えば、ヒートシンク3の上面3aおよび下面3bを挟み込むようにして力が加えられるため、ヒートシンク3が反らず、かつ、十分に力を加えられるため、アンカー効果を得るのに十分な大きさの凹凸を形成できる。また、プレス型によって決まった形状の凹凸を形成することになるため、粗面の面内バラツキやヒートシンク3間でのバラツキが発生しないようにできる。
【0045】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の樹脂封止型半導体装置1は、基本的には第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0046】
本実施形態では、第1実施形態で説明したヒートシンク3の下面3bの凸部3cおよび凹部3dの形状を変更している。図4は、本実施形態の樹脂封止型半導体装置1のヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図を示す。この図に示されるように、凸部3cの表面と凹部3dの底面にさらに、凸部3cや凹部3dよりも幅が狭く、かつ、凹部3dの深さよりも浅い溝3eを形成することで、下面3bに形成される凹凸が多段となるようにしており、本実施形態では2段階としている。
【0047】
そして、粗い粗面を構成する凸部3cおよび凹部3dに関しては、これらの幅が数μm〜数十μm、凸部3cの先端からの凹部3dの深さも数μm〜数十μmとしている。また、細かい粗面を構成する溝3eに関しては、幅が数百nm〜数μm、幅も数百nm〜数μmとしている。このような溝3eに関しても、凸部3cおよび凹部3dを形成する際のプレス加工によって同時に形成することができる。
【0048】
このように、下面3bに形成する凹凸を多段となるような構造とすることもできる。このような多段の凹凸とすることで、より溶射絶縁膜6の粒子が下面3bの凹凸に食い込み、これらの接触面積が増加して密着性を高めることが可能となる。
【0049】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、ヒートシンク3の下面3bに対して凹凸を形成する工程を、ヒートシンク3とリード4およびリード5が形成された金属構造体を用意した後の粗面処理として行った。これに対して、ヒートシンク3やリード4、5が形成された金属構造体をプレス成形によって形成し、このプレス成形時に同時にヒートシンク3の下面3bに凹凸が形成されるようにしても良い。このようにすれば、被形成物であるヒートシンク3の形成工程と凹凸の形成工程とを同時に行うことが可能となり、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0050】
(2)上記各実施形態では、ヒートシンク3の下面3bに対してプレス加工によって凹凸を形成したのみであるが、凹凸を形成した後、更にこの凹凸が形成された下面3bに対して細かいブラスト材料でのブラスト処理を行うこともできる。このようにすれば、凸部3cおよび凹部3dからなる凹凸の表面に当該凹凸よりも小さい凹凸を形成することができ、表面積を増加させることができる。これにより、より溶射絶縁膜6の粒子が下面3bの凹凸に食い込み、これらの接触面積が増加して密着性を高めることが可能となる。
【0051】
なお、このときのブラスト処理では、細かなブラスト材料(例えば#百番台〜二百番台のブラスト材料)を用いているため、凹凸そのものをブラスト処理で形成する場合と比較してヒートシンク3に与える力が小さく、ヒートシンク3が反ってしまうことはない。
【0052】
(3)上記各実施形態では、ヒートシンク3の下面3bに対して断面矩形波状の凹凸を形成する場合について説明したが、他の凹凸形状であっても構わない。図5(a)〜(c)は、他の実施形態として採用される樹脂封止型半導体装置1のヒートシンク3の下面3bの表面を部分的に拡大した拡大断面図である。
【0053】
図5(a)に示されるように、先端が尖った凸部3cと底部が尖った凹部3dからなる断面三角波状(ノコギリ波状)の凹凸としても良い。この場合、例えば、隣り合う凸部3cの頂点間の距離が数μm〜数十μmとされる。また、図5(b)に示されるように、凸部3cや凹部3dに隣接する壁面にさらに溝3eを形成することで、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、図5(c)に示されるように、断面矩形状の凸部3cおよび凹部3dによって凹凸を構成しつつ、凸部3cおよび凹部3dそれぞれに形成する溝3eを断面三角波状としても良い。
【0054】
(4)上記各実施形態では、ヒートシンク3の上面3aに半導体チップ2を搭載し、これらを樹脂部7にて封止した樹脂封止型半導体装置1を例に挙げて説明したが、被形成物の表面に溶射絶縁膜を形成するような構造体であれば、どのようなものに対しても本発明を適用することができる。例えば、被形成物としてCVD装置などの静電チャックを挙げることができる。CVD装置の静電チャックでは、ウェハの搭載面と静電チャックとを絶縁するために、静電チャックの表面に溶射絶縁膜を形成すると好ましい。このような場合にも、静電チャックの表面にプレス加工によって凹凸を形成することで、上記効果を得ることができる。
【0055】
また、溶射絶縁膜を形成する側の面だけでなく、その反対側の面にも凹凸を形成するようにしても良い。すなわち、被形成物の両側に凹凸を形成することで、表裏面での応力の掛かり方が等しくなる。このため、溶射絶縁膜が形成される被形成物に高い平坦度が要求される場合には、片面にのみ凹凸を形成したときによる被形成面の反りをより一層抑制することが可能となる。なお、このように被形成物の表裏面に共に凹凸を形成する場合にも、プレス加工によって一度に形成できるため、ブラスト加工や機械加工のように、表裏面のそれぞれに別々の工程で凹凸を形成する場合と比較して、製造工程の簡略化も図れる。
【0056】
(5)上記各実施形態では、樹脂封止型半導体装置1に含まれる各部の構成材料の一例を挙げて説明しているが、上記材料は単なる一例であり、他の材料を用いても構わない。例えば、絶縁放熱層に含まれる溶射絶縁膜6として溶射アルミナ膜を用いたが、窒化アルミ(AlN)、窒化シリコン(SiN)、マグネシアスピネル(Al23・MgO)などの材料で構成される膜を用いても構わない。また、はんだ9の構成材料に関しても同様であり、Sn−Cu系以外に一般的に知られている他の材料を用いても良い。
【0057】
(6)上記各実施形態では、半導体チップ2で発した熱をヒートシンク3を通じて樹脂部7の一面側から露出させられた溶射絶縁膜6から放出させるようにしている。しかしながら、この構造も単なる一例を示したにすぎず、樹脂部7の両面から熱を放出させるタイプの樹脂封止型半導体装置に対して、本発明を適用することもできる。その場合、樹脂部7から露出されている放熱箇所のうち、冷却器に接続される側の面に関してのみヒートシンク3の表面に溶射絶縁膜6を備える構造としても構わないし、両方ともにそのような構造を備えるようにしても良い。
【符号の説明】
【0058】
1 樹脂封止型半導体装置
2 半導体チップ
3 ヒートシンク
4、5 リード
6 溶射絶縁膜
7 樹脂部
8 ボンディングワイヤ
9 はんだ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被形成物(3)の一面(3b)側の表面に対して溶射絶縁膜(6)を形成することにより構造体の製造を行う、前記溶射絶縁膜(6)が備えられた構造体の製造方法であって、
前記被形成物(3)の前記一面(3b)に対してプレス加工による粗面処理を行い、凸部(3c)および凹部(3d)を有する凹凸を形成する工程と、
前記凸部(3c)および前記凹部(3d)を有する凹凸が形成された前記被形成物(3)の前記一面(3b)に対して前記溶射絶縁膜(6)を形成する工程とを含んでいることを特徴とする溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項2】
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程では、前記凸部(3c)および前記凹部(3d)の幅を数μm〜数十μmにすると共に、前記凸部(3c)の先端からの前記凹部(3d)の深さを数μm〜数十μmとすることを特徴とする請求項1に記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項3】
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程では、前記凸部(3c)および前記凹部(3d)に加えて、前記凸部(3c)および前記凹部(3d)よりも幅が狭く、かつ、前記凹部よりも深さが浅い溝(3e)が形成されることにより、凹凸を多段で構成することを特徴とする請求項1または2に記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項4】
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程では、前記凹凸を2段階とし、前記溝(3e)の幅を数百nm〜数μm、深さを数百nm〜数μmで構成することを特徴とする請求項3に記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項5】
前記被形成物(3)をプレス加工によって形成する工程を含み、
前記被成形物(3)を形成する工程と前記粗面処理によって凹凸を形成する工程のプレス加工を同時に行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項6】
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程の後に、前記凹凸が形成された前記一面(3b)に対してブラスト処理を行うことで前記凸部(3c)および前記凹部(3d)により構成される凹凸の表面に該凹凸よりも小さな凹凸を形成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項7】
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程では、前記被形成物の前記一面に対してプレス加工を行って前記凹凸を形成する際に、同時に、前記被形成物の前記一面と反対側の面にも、前記一面と同じ凹凸を形成することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法。
【請求項8】
上面(3a)および下面(3b)を有するヒートシンク(3)と、
前記ヒートシンク(3)の前記上面(3a)側に配置されると共に、前記ヒートシンク(3)と電気的に接続されるパワー素子が形成された半導体チップ(2)と、
前記ヒートシンク(3)の前記下面(3b)の表面に形成された溶射絶縁膜(6)と、
前記半導体チップ(2)に形成された前記パワー素子と電気的に接続される第1リード(4)と、
前記ヒートシンク(3)を介して前記半導体チップ(2)に形成された前記パワー素子と電気的に接続される第2リード(5)と、
前記第1、第2リード(4、5)の一部および前記絶縁放熱層(6、12)のうち前記ヒートシンク(3)の前記下面(3b)の表面に形成された部分を露出させた状態としつつ、前記半導体チップ(2)、前記ヒートシンク(3)、前記第1、第2リード(4、5)および前記絶縁放熱層(6、12)を封止した樹脂部(7)と、を備えた樹脂封止型半導体装置の製造方法において、
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の前記溶射絶縁膜が備えられた構造体の製造方法を用いて、
前記粗面処理によって凹凸を形成する工程では、前記ヒートシンク(3)を前記被形成物とし、該ヒートシンク(3)の前記下面(3b)を前記被形成物の前記一面として、前記下面(3b)に対して前記凸部(3c)および前記凹部(3d)からなる前記凹凸を形成し、
前記溶射絶縁膜(6)を形成する工程では、前記凹凸が形成された前記ヒートシンク(3)の前記下面(3b)に対して前記溶射絶縁膜(6)を形成することを特徴とする樹脂封止型半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52240(P2011−52240A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199595(P2009−199595)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】