説明

溶接状況監視方法及び溶接状況監視装置

【課題】撮像手段の設置位置が不明な状況下でも、溶接状況を監視できるようにする。
【解決手段】本発明では、少なくとも撮像手段16の設置位置が不明な状況下で溶接ロボット1の先端部12aを撮像し、当該先端部12aが写り込んだ画像を取得する。画像上における先端部12aの位置である撮像先端部位置Pと、溶接ロボット1の先端部12aの位置である実先端部位置Pとを取得する。撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求める。求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求め、この変換マトリックスTを用いて、光軸がロボット先端を向くように撮像手段16を動かして溶接状況を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCDカメラ等の撮像手段を用いて溶接ロボットでの溶接状況を監視する溶接状況監視方法及び溶接状況監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶接ロボットにて溶接を行っている際には、CCDカメラを用いて溶接ロボットの先端部、即ち溶接アーク光や溶融池を撮像し、撮像した溶接アーク光をモニタ上に表示して溶接状況の監視を行っている。このように、溶接状況を監視する溶接状況監視装置として特許文献1に示すものがある。
特許文献1では、溶接ロボットの腕部にCCDカメラを取り付け、このCCDカメラの光軸を溶接ロボットの先端部(溶接アーク光や溶融池等)に向け、当該先端部をCCDカメラにて撮像していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−230959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、溶接するときに溶接ロボットの姿勢(腕部の姿勢)を変更すると、その姿勢によっては、溶接ロボットの先端部がCCDカメラの死角に入り込み、溶接アーク光や溶融池を撮像できない状況が発生する場合がある。
そこで、CCDカメラを溶接ロボットの腕部に取り付けるのではなく、溶接ロボットとは別の場所(例えば、天井や壁など)に取り付けることによって死角の問題を解決することが考えられる。
【0005】
このように、CCDカメラを溶接ロボットとは別の場所に取り付けた場合、CCDカメラの設置位置を正確に把握することが必要となる。しかしながら、CCDカメラの設置位置を正確な3次元座標データとして取得することは、CCDカメラの取付誤差等の存在から困難な場合がある。このような場合は、溶接ロボットの先端部の位置との位置関係を正確に算出することができず、溶接ロボットの先端部の動きに合わせてCCDカメラを正確に追従して動かすことが難しいのが実情である。
【0006】
本発明は、問題点に鑑み、撮像手段の設置位置が不明な状況下でも、撮像手段を用いて正確に溶接状況を把握することができる溶接状況監視方法及び溶接状況監視装置を提供するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶接ロボットの先端部を撮像する撮像手段を設けた上で、当該撮像手段で前記先端部を撮像することによって溶接状況を監視する溶接状況監視方法において、少なくとも前記撮像手段の設置位置が不明な状況下で、溶接ロボットの先端部を撮像し、当該先端部が写り込んだ画像を取得する第1ステップと、前記画像上における先端部の位置である撮像先端部位置Pと、溶接ロボットの先端部の位置である実先端部位置Pとを取得する第2ステップと、前記撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求める第3ステップと、求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求める第4ステップと、求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、当該ロボット先端部位置Pのx座標及びy座標が0となるように撮像手段をパン又はチルトさせ、溶接状況を監視する第5ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、溶接作業を行う前に、第1ステップ〜第3ステップを行い、実際の溶接作業の際には、第4ステップ,第5ステップを行うとよい。
好ましくは、前記第1ステップにおいては、前記溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を広角倍率に設定しておき、前記撮像手段を動かさないで前記先端部を撮像するとよい。
【0009】
好ましくは、前記第1ステップにおいては、溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を上下又は左右を動かしながら、前記先端部を撮像するとよい。
好ましくは、前記撮像手段の画像における撮像先端部位置Pが画像上の所定の位置又は中心位置から所定範囲離れたときに、第1ステップ〜第3ステップまでを再び行うとよい。
【0010】
本発明の他の技術的手段は、溶接ロボットの先端部を撮像する撮像手段を備え、当該撮像手段で前記先端部を撮像することによって溶接状況を監視する溶接状況監視装置において、少なくとも前記撮像手段の設置位置が不明な状況下で、溶接ロボットの先端部を撮像し、当該先端部が写り込んだ画像を取得する予備撮像手段と、前記画像上における先端部の位置である撮像先端部位置Pと、溶接ロボットの先端部の位置である実先端部位置Pとを取得する位置取得手段と、取得した撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求めるパラメータ算出手段と、求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求めるマトリックス算出手段と、求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、当該ロボット先端部位置Pのx座標及びy座標が0となるように撮像手段をパン又はチルトさせ、溶接状況を監視する監視撮像手段と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記予備撮像手段は、前記溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を広角倍率に設定しておき、前記撮像手段を動かさないで前記先端部を撮像するとよい。
好ましくは、前記予備撮像手段は、溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を上下又は左右を動かしながら、前記先端部を撮像するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撮像手段の設置位置が不明な状況下でも、撮像手段を用いて正確に溶接状況を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】アーク溶接を行う溶接ロボットと、この溶接ロボットでの溶接状況を監視する溶接監視装置とを示したものである。
【図2】(a)溶接アーク光を撮像した画像であり、(b)溶接アーク光の位置を検出するための画像((a)の二値化画像)である。
【図3】第1実施形態における第1ステップ及び第2ステップの詳細をまとめたものである。
【図4】カメラ座標系、ロボット座標系、フレームバッファ座標系を示したものである。
【図5】第2実施形態における第1ステップ及び第2ステップの詳細をまとめたものである。
【図6】溶接ロボットの先端部の位置と画像中心との距離Dとの関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
溶接ロボットの溶接状況を監視するにあたっては、CCDカメラ等を有する撮像手段を溶接ロボットとは離れた位置である天井や壁等に取り付け、CCDカメラにて溶接ロボットの先端部(溶接アーク光)を撮像することによって行っている。この場合、CCDカメラを取り付けた設置位置がデータとして得られていないと、溶接ロボットの先端部の位置と撮像した画像上における溶接ロボットの先端部との位置との関係が正確に求められず、溶接ロボットの先端部を動かしたときに、CCDカメラが先端部の動きに対して追従することができない場合がある。
【0015】
そこで、本発明では、CCDカメラの設置位置が分からなくても、溶接ロボットの先端部を動かしたときに追従することができるようにしている。
本発明の溶接状況監視方法及び溶接状況監視装置について詳しく説明する。
図1は、アーク溶接を行う溶接ロボットと、この溶接ロボットでの溶接状況を監視する溶接監視装置とを示したものである。
【0016】
図1に示すように、溶接ロボット1は、例えば、垂直多関節型の6軸のロボットであって、据付ベース2に近い第1軸Aから順に、第2軸B、第3軸C、第4軸D、第5軸E及び第6軸Fの回転軸を備える。それぞれの回転軸は、据付ベース2から順に設けられた第1リンク部材3、第2リンク部材4、第3リンク部材5、第4リンク部材6、第5リンク部材7によって接続され、据付ベース2から最も離れていて一端が第6軸Fに連結される第6リンク部材8には、溶接を行う溶接ツール9が設けられている。また、溶接ロボット1は、当該溶接ロボットを制御するロボットコントローラ10を備えている。
【0017】
このような、溶接ロボット1では、ロボットコントローラ10からの指令によって多数の回転軸A〜Fの周りにリンク部材3〜8を揺動又は回転させることによって溶接ツール9に設けた溶接トーチ12の向きを変えワークの溶接を行うことができる。
なお、溶接ロボット1は、垂直多関節型の6軸のロボットに限定されない。
一方、この溶接ロボット1を監視する溶接監視装置15は、撮像手段16と、制御装置17とを備えている。
【0018】
撮像手段16は、溶接ロボット1から離れた位置、例えば、溶接ロボット1が配置されている部屋の天井や側壁等に取り付けられており、溶接ロボット1の先端部(溶接トーチ12の先端であって溶接アーク光)を撮像することができるようになっている。なお、溶接ロボット1の先端部を説明の便宜上、単に先端部12aとして表現することがある。
具体的には、撮像手段16は、CCDカメラ18と、このCCDカメラ18の光軸を上下方向(チルト方向)に向けたり左右方向(パン方向)に向けるためのカメラ移動部19とを備えている。カメラ移動部19は、制御装置17からの指令によって作動し、CCDカメラ18の光軸を上下方向又は左右方向に向けることができる。カメラ移動部19は、制御装置17からの指令によって動作するようになっている。
【0019】
制御装置17は、CCDカメラ18、カメラ移動部19を制御するものであり、パソコン等で構成されている。この制御装置17は、CCDカメラ18及びロボットコントローラ10と信号線やインサーネットケーブル等を介して接続しており、CCDカメラ18にて撮像した画像データの取得、CCDカメラ18を動かしたときの光軸の位置、画像上での先端部12aの位置である撮像先端部位置P、実際の先端部12aの位置である実先端部位置P等を取得することができるようになっている。
【0020】
また、この制御装置17には、CCDカメラ18やカメラ移動部19等を制御するためのプログラムが格納されている。このプログラムの処理により、溶接ロボット1の先端部12aを撮像し、この先端部12aが写り込んだ画像を取得する。画像上における先端部12aの位置である「撮像先端部位置P」と、溶接ロボット1の先端部12aの位置である「実先端部位置P」とを取得して、撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)が求められる。変換パラメータは、並進成分であるx,y,zと、回転成分であるα,β,γとで表される。さらに、求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求める。その後、求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、カメラ光軸がロボット先端部位置を向くように、CCDカメラ18をパン又はチルトさせ、溶接状況を監視する。言い換えれば、カメラ座標でのロボット先端部位置のx座標及びy座標が0となるように、CCDカメラ18を左右に動かしたり、上下方向に動かしたりする。
【0021】
このプログラム(制御装置17内のプログラム)は、主に、予備撮像手段20、位置取得手段21、パラメータ算出手段22、マトリックス算出手段23、監視撮像手段24により構成されている。
次に、制御装置17に格納されたプログラムや当該プログラムによるCCDカメラ18等の動作について説明する。
【0022】
まず、予備撮像手段20は、撮像手段16の設置位置が不明な状況下においてCCDカメラ18が撮像した溶接ロボット1の先端部12aの画像を取得する。
ここで、撮像手段16の設置位置が不明な状況下とは、CCDカメラ18を溶接ロボット1が存在する部屋の天井や壁に設置したときの設置位置(設置座標)がデータとして得られていない状況である。さらに言い換えると、溶接ロボット1の先端部12aの位置をCCDカメラ18が撮像した画像上での位置に変換するための変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)が分からない状況下であって、CCDカメラ18を溶接ロボット1の先端部12aの動きに応じて追従させるときに、溶接ロボット1の先端部12aをCCDカメラ18の光軸上に一致させるために必要な変換マトリックスTが分からない状況下のことである。
【0023】
この予備撮像手段20は、先端部12aの画像を取得する前に、オペレータ等がCCDカメラ18の光軸を先端部12aにむけてCCDカメラ18の位置を固定し、その上でCCDカメラ18においてズーム倍率を変化させることで広角倍率にして、溶接ロボット1の先端部12aを含む広い視野が撮像できるようにする。そして、広角倍率にした状態でCCDカメラ18を動かさないで先端部12aをCCDカメラ18で撮像する。
【0024】
位置取得手段21は、予備撮像手段20で画像上での先端部12aの位置である撮像先端部位置Pを取得すると共に、実際の先端部12aの位置である実先端部位置Pを取得する。
具体的には、位置取得手段21は、予備撮像手段20で先端部12aが写り込んだ画像を取得した際、当該画像を取得したときの実先端部位置Pをロボットコントローラ10から取得する。また、位置取得手段21は、後述するように、画像上において写り込んでいる先端部12aを抽出して、抽出した先端部12aの位置を撮像先端部位置Pとして取得する。そして、位置取得手段21は、撮像先端部位置P及び実先端部位置Pを制御装置17内に設けられたメモリ等に保存する。
【0025】
パラメータ算出手段22は、画像に映り込んだ溶接ロボット1の先端部の位置である「撮像先端部位置P」と、溶接ロボット1の先端部の実空間での位置である「実先端部位置P」との関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求めるものである。
マトリックス算出手段23は、変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、ロボット座標で表現されたロボット先端部位置(実先端部位置P)とカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求める。
【0026】
すなわち、前述したパラメータ算出手段22により、撮像先端部位置Pと、実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)が明らかとなっている。加えて、カメラ座標と画像上での座標(フレームバッファ座標)とは、カメラの取り付け位置によらず、その関係は明らかである。それ故、これらの情報を基にすれば、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを一意に求めることができ、マトリックス算出手段23により、この変換マトリックスTを算出している。
【0027】
監視撮像手段24は、マトリックス算出手段23によって求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、カメラ光軸がロボット先端部位置を向くように、言い換えれば、カメラ座標でのロボット先端部位置のx座標及びy座標が0となるように、CCDカメラ18を動かし溶接状況を監視する。
【0028】
このように、制御装置17に組み込まれたプログラム等を用いて撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求め、その上で、変換マトリックスTを求めることで、得られた変換マトリックスTを基に、CCDカメラ18の設置位置が分からなくても、CCDカメラ18を溶接ロボット1の先端部12aの動きに確実に追従させることができる。
【0029】
以下、溶接状況監視方法について詳しく説明する。なお、溶接状況監視方法の説明に合わせてCCDカメラ18等の動作も説明する。
溶接ロボット1にて溶接を行ったときの溶接状況を監視するには、図1に示すように、溶接開始前に溶接ロボット1が溶接をしたときに先端部12a(溶接アーク光)が見える位置であって天井や壁に取り付けられたCCDカメラ18を用いる。このCCDカメラ18の設置位置は、制御装置17やロボットコントローラ10には教示されておらず、CCDカメラ18の設置位置は分からない状況下である。
【0030】
次に、溶接を開始する時には、第1ステップとして溶接ロボット1の先端部12aを撮像し、先端部12aが写り込んだ画像を取得する。この第1ステップでは、溶接ロボット1の先端部12aが視野に入るようにCCDカメラ18を広角倍率に設定しておき、CCDカメラ18を動かさないで、溶接ロボット1の先端部12aのみを動かして溶接を行い、図2(a)に示すような先端部12a(溶接アーク光)が写り込んでいる画像を取得する。このように先端部12aの画像を得るのは予備撮像手段20等によって行う。
【0031】
そして、先端部12aの画像を取得すると、第2ステップでは、まず、画像上における先端部12aの位置である撮像先端部位置Pを抽出する。この第2ステップでは、図2(b)に示すように取得した先端部12aの画像を2値化し、2値化により抽出された画像において最大面積を有する領域の重心を算出することによって先端部12a(溶接アーク光)の位置を検出する。第2ステップでは、画像上での先端部12a(溶接アーク光)の位置(撮像先端部位置P)は、初回は=(,)とする。
【0032】
また、第2ステップでは、先端部12aの画像を取得した際、同時刻の先端部12aの位置(画像に対応した先端部12aの位置)をロボットコントローラ10から取得する。 第2ステップでは、先端部12a(溶接アーク光)の3次元空間上の位置(実先端部位置P)は、初回は=(,,)とする。
これによって、画像上での先端部12aの撮像先端部位置Pと3次元空間上の先端部12aの実先端部位置Pとの組合せを得ることができる。
【0033】
溶接ロボット1の先端部12aをT秒ごとに動かし、第1ステップ及び第2ステップを繰り返し行うと、式(1)に示すようなn個の撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの組合せを得ることができる。このように撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの取得は、位置取得手段21によって行う。得られた撮像先端部位置P及び実先端部位置Pはメモリに保存する。
【0034】
【数1】

【0035】
上述した第1ステップ及び第2ステップは、CCDカメラを固定して先端部12aを撮像しているため、各ステップを溶接ロボットで溶接を行いながら行うことが可能であるが、溶接ロボットで溶接を行う前の事前準備として、溶接ロボットを任意で動かして第1ステップ及び第2ステップを行ってもよい。
なお、溶接ロボット1を動かす時間T(間隔時間)において、間隔時間Tが非常に小さいと前後の位置が同じ値となり、変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を上手く求めることができない。一方、間隔時間Tが非常に大きいと変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を旨く求めることができるものの、上述したような位置データ(撮像先端部位置P、実先端部位置P)を取得するのに時間が掛かってしまう。そのため、このようなことを考慮して間隔時間Tは、短すぎず長すぎないように適切に設定することが好ましい。なお、溶接ロボット1において溶接する速度は、1分間当たり40cmであるため、例えば、間隔時間Tは15秒〜60秒が好ましい。
【0036】
図3は、第1実施形態における第1ステップと第2ステップとをまとめたものである。
位置データの保存数がゼロ(登録数がゼロ)であるとき、予備撮像手段20による先端部12aの画像の取得を開始する(S1)。制御装置17において間隔時間Tに達したか否かを判定するために、タイマーをゼロにセットし(S2:time=0)、タイマーをカウントアップして先端部12aの画像を撮像する(S3)。先端部12aの画像を取得すると、上述したように、位置取得手段21によって画像上における先端部12aを検出して撮像先端部位置Pを決定する(S4)。
【0037】
タイマーが間隔時間Tを超えると(S5、yes)、撮像先端部位置P及び実先端部位置Pを保存(登録)する(S6)。撮像先端部位置P及び実先端部位置Pの保存数が予め設定していた登録数を超える(登録数>n,S7,yes)と、第1ステップ及び第2ステップを終了する。
第1ステップ及び第2ステップが終了すると、撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求める第3ステップを行う。
【0038】
図4は、カメラ座標系、ロボット座標系、フレームバッファ座標系を示したものである。
ロボット座標系Σrは、据付ベース2に固定された部分を原点とし、原点から見て溶接トーチ12側を前方向としてX軸、左右方向(横方向)をY軸、上下方向をZ軸としたものである。カメラ座標系Σcは、CCDカメラ18を原点とし、光軸方向にZ軸、撮像面をX軸、Y軸に分けたものである。フレームバッファ座標系Σfは、画像上での座標であり、画像の中心を原点として、左右方向をX軸、上下方向をY軸としたものである。
【0039】
ここで、実先端部位置P=(x,y,z)とし、CCDカメラ18から見た溶接ロボット1の先端部位置をcP=(x,y,z)とすると、実先端部位置PとCCDカメラ18から見た溶接ロボット1の先端部位置との関係は、式(2)となる。
【0040】
【数2】

【0041】
溶接ロボット1の先端部位置cP=(x,y,z)をCCDカメラ18の撮像面に透視変換した位置を(ccdx,ccdy)とすると、溶接ロボット1の先端部位置cPと、CCDカメラ18の撮像面との関係は式(3)となる。
【0042】
【数3】

【0043】
さらに、CCDカメラ18の撮像面をフレームバッファ(フレームメモリ)の位置、即ち、画像上での位置(撮像先端部位置P)に変換すると、式(4)に示すものとなる。ここで、式(4)における(x,y,z,α,β,γ)が変換パラメータとなる。なお、式(4)におけるFは、変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)で構成される変換関数である。
【0044】
【数4】

【0045】
ここで、実先端部位置P、撮像先端部位置Pがn個あるときは、これらの関係は式(5)に示すようになるため、変換する式は式(6)に示すように表すことができる。
【0046】
【数5】

【0047】
第3ステップでは、例えば、変換関数Fは非線形関数なので、ヤコビアン行列を使って反復法により変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求める。このような変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)の算出は、パラメータ算出手段22にて行う。
変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)の算出後は、得られた変換パラメータを用いて、ロボット座標で表現されたロボット先端部位置(実先端部位置P)とカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求める。
【0048】
次に、第5ステップでは、第4ステップで求めた、変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、カメラ光軸がロボット先端部位置を向くように、CCDカメラ18の向きを変更する。
具体的には、まず、実先端部位置Pを、式(2)に基づいてロボット先端部位置Pに変換する。Pは、は直交座標XYZで表現されているので、これを上下回転θ、左右回転φ、距離rとする極座標へ変換する。
【0049】
その後、直交座標においてx=0,y=0の条件を満たすように、CCDカメラ18を上下回転θおよび左右回転φで回転させることで、カメラ光軸をロボット先端部位置に合わせる。また、カメラからロボット先端部位置までの距離rに応じてズームを調整する。同時にピントも調整するとよい。
これらの操作により、CCDカメラ18は、常に溶接ロボット1の先端部12a、即ち、溶接アーク光を撮像することにより溶接状況を監視することが可能となる。
【0050】
第4ステップはマトリックス算出手段23によって行い、第5ステップは監視撮像手段24によって行う。
ところで、第1ステップ〜第5ステップについて、例えば、実際に溶接を行うに際し、簡単な溶接を行いながら変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求めるまでの処理(第1ステップ〜第3ステップ)を行い、その後、複雑な溶接を行う際に第4ステップや第5ステップを行うようにしてもよい。
【0051】
或いは、実際の溶接を行う時に第1ステップ〜第5ステップまでを一挙に行うのではなく、ワーク板に対して実際の溶接を行う前に、予めテスト板を用意して当該テスト板に対して溶接を行いながら第1ステップ〜第3ステップ(変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求めるまでの処理)を行い、その後、実際のワーク板に対して溶接を行う際に第4ステップ及び第5ステップを行ってもよい。
【0052】
なお、第1ステップ〜第3ステップを行う場合は、テスト板に対して溶接を行う代わりに、溶接ロボット1の先端部にLEDなどの発光体を取り付け、この発光体を溶接アーク光に模して溶接ロボット1を動かして行っても良い。
以上、本発明によれば、CCDカメラ18の設置位置が不明な状況下でも、CCDカメラ18を用いて正確に溶接状況を把握することができる。また、溶接ロボット1の設置位置が不明な場合でも正確に溶接状況を撮像でき、オペレータは表示装置(モニタ)25を通じ離れた場所から溶接状況を把握することが可能である。
[第2実施形態]
第1実施形態では、第1ステップにおいて溶接ロボット1の先端部12aの画像を得る際にCCDカメラ18を広角倍率してCCDカメラ18を動かさないで先端部12aを撮像していたが、第2実施形態では、CCDカメラ18をパン方向やチルド方向に動かしながら溶接ロボット1の先端部12aを撮像している。なお、他のステップについては第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0053】
図5は、第2実施形態において第1ステップから第2ステップに至る手順をまとめたものである。
第1実施形態と同様に、位置データの保存数がゼロ(登録数がゼロ)であるとき、予備撮像手段20による先端部12aの画像の取得を開始する(S10)。制御装置17において間隔時間Tに達したか否かを判定するためにタイマーをゼロにセットし(S11:time=0)、タイマーをカウントアップして先端部12aの画像を撮像する(S12)。撮像した画像上における先端部12aを検出して撮像先端部位置Pを決定する(S13)。次に、撮像先端部位置Pと画像中心(C,C)とのずれ量を算出する(S14)。ずれ量は式(7)により求めることができる。
【0054】
【数6】

【0055】
ずれ量が予め定められた値(所定値)よりも大きい場合(S15,Yes)は、CCDカメラ18を動かして(S16)、S12にて、再び、先端部12aの画像を撮像する。このときのCCDカメラ18の移動量は、ずれ量にゲインパラメータを掛けることにより求める。即ち、CCDカメラ18の移動量は、ずれ量を基準として決定する。
ずれ量が予め定められた値(所定値)以下である場合(S15,No)は、画像に写り込んだ溶接ロボット1の先端部12aが画像の中心にあると判断する。そして、タイマーが間隔時間Tを超えているか否かを判断してタイマーが間隔時間Tを超えると(S17、Yes)、撮像先端部位置P及び実先端部位置Pを保存(登録)する(S18)。撮像先端部位置P及び実先端部位置Pの保存数が予め設定していた登録数を超える(登録数>n,S19,Yes)と、第1ステップ及び第2ステップを終了する。
【0056】
即ち、第2実施形態においては、画像に写り込んだ溶接ロボット1の先端部12aが画像中心になるようにCCDカメラ18をパン方向又はチルト方向に動かしながら、先端部12aを撮像している。
[第3実施形態]
第2実施形態において、第5ステップでは、変換行列によって変換した撮像先端部位置Pが画像上に存在するようにCCDカメラ18を動かして溶接ロボット1の先端部12aを撮像しているが、第3実施形態では、撮像した先端部12aが画像中心から大幅にずれた場合は、再度、第1ステップ〜第3ステップをやり直し、変換行列の再計算を行うこととしている。
【0057】
第5ステップにおいて、CCDカメラ18を動かしながら溶接ロボット1の先端部12aを撮像するトラッキングをおこなっているときに、図6や式(8)に示すように、溶接ロボット1の先端部12aと画像中心との距離Dが所定値(Dlen)以上となったとき、キャリブレーションが必要と判断して、第1実施形態又は第2実施形態に示した第1ステップ及び第2ステップを行うと共に、変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求め直す。
【0058】
【数7】

【0059】
即ち、第3実施形態においては、撮像手段16の画像における撮像先端部位置Pが画像上の所定の位置又は中心位置から所定範囲離れたときに、第1ステップ〜第3ステップまでを再び行うこととしている。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各種工程など適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 溶接ロボット
2 据付ベース
3 第1リンク部材
4 第2リンク部材
5 第3リンク部材
6 第4リンク部材
7 第5リンク部材
8 第6リンク部材
9 溶接ツール
10 ロボットコントローラ
12 溶接トーチ
12a 先端部
16 撮像手段
17 制御装置
18 CCDカメラ
19 カメラ移動部
20 予備撮像手段
21 位置取得手段
22 パラメータ算出手段
23 マトリックス算出手段
24 監視撮像手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ロボットの先端部を撮像する撮像手段を設けた上で、当該撮像手段で前記先端部を撮像することによって溶接状況を監視する溶接状況監視方法において、
少なくとも前記撮像手段の設置位置が不明な状況下で、溶接ロボットの先端部を撮像し、当該先端部が写り込んだ画像を取得する第1ステップと、
前記画像上における先端部の位置である撮像先端部位置Pと、溶接ロボットの先端部の位置である実先端部位置Pとを取得する第2ステップと、
前記撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求める第3ステップと、
求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求める第4ステップと、
求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、当該ロボット先端部位置Pのx座標及びy座標が0となるように撮像手段をパン又はチルトさせ、溶接状況を監視する第5ステップと、
を備えていることを特徴とする溶接状況監視方法。
【請求項2】
溶接作業を行う前に、第1ステップ〜第3ステップを行い、実際の溶接作業の際には、第4ステップ,第5ステップを行うことを特徴とする請求項1に記載の溶接状況監視方法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいては、前記溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を広角倍率に設定しておき、前記撮像手段を動かさないで前記先端部を撮像することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接状況監視方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおいては、溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を上下又は左右を動かしながら、前記先端部を撮像することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接状況監視方法。
【請求項5】
前記撮像手段の画像における撮像先端部位置Pが画像上の所定の位置又は中心位置から所定範囲離れたときに、第1ステップ〜第3ステップまでを再び行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶接状況監視方法。
【請求項6】
溶接ロボットの先端部を撮像する撮像手段を備え、当該撮像手段で前記先端部を撮像することによって溶接状況を監視する溶接状況監視装置において、
少なくとも前記撮像手段の設置位置が不明な状況下で、溶接ロボットの先端部を撮像し、当該先端部が写り込んだ画像を取得する予備撮像手段と、
前記画像上における先端部の位置である撮像先端部位置Pと、溶接ロボットの先端部の位置である実先端部位置Pとを取得する位置取得手段と、
取得した撮像先端部位置Pと実先端部位置Pとの関係を示す変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を求めるパラメータ算出手段と、
求めた変換パラメータ(x,y,z,α,β,γ)を用いて、実先端部位置Pとカメラ座標で表現されたロボット先端部位置Pとを関係づける変換マトリックスTを求めるマトリックス算出手段と、
求められた変換マトリックスTを用いて、実先端部位置Pをカメラ座標でのロボット先端部位置Pへ変換した上で、当該ロボット先端部位置Pのx座標及びy座標が0となるように撮像手段をパン又はチルトさせ、溶接状況を監視する監視撮像手段と、
を備えていることを特徴とする溶接状況監視装置。
【請求項7】
前記予備撮像手段は、前記溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を広角倍率に設定しておき、前記撮像手段を動かさないで前記先端部を撮像することを特徴とする請求項6に記載の溶接状況監視装置。
【請求項8】
前記予備撮像手段は、溶接ロボットの先端部が視野に入るように撮像手段を上下又は左右を動かしながら、前記先端部を撮像することを特徴とする請求項6に記載の溶接状況監視装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106317(P2012−106317A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258022(P2010−258022)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】