説明

滑動テーブル

【課題】テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる滑動テーブルを提供すること。
【解決手段】支持板11、支持板の上面に配置された複数個の球体12、上側の開口の直径が球体の直径よりも小さく、かつ下側の開口の直径が球体の直径よりも大きな値に設定された複数の球体保持孔13を備え、そして各保持孔に上記球体を収容保持している球体保持板15、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板16を含む滑動テーブルであって、上記球体保持板が、支持板とテーブル板との間に配置された上記球体と同径の球体22を回転可能に収容している球体収容孔23を更に備え、この収容孔の上側の開口24aの直径が球体の直径よりも大きな値に設定され、そして下側の開口24bの縁部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決めテーブルを構成する部品として用いられる滑動テーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
位置決めテーブルは、顕微鏡で観察を行なう際の試料の位置決め、精密機械加工を行なう際の加工対象物の位置決め、あるいは液晶セルを構成する二枚のガラス基板を貼り合わせる際のガラス基板の位置決めなどに用いられている。
【0003】
位置決めテーブルは、滑動可能なテーブル板を備える滑動テーブルと、前記テーブル板の駆動装置とから構成される。
【0004】
図7は、従来の滑動テーブルの構成を示す断面図である。そして図8は、図7の滑動テーブル80の拡大図である。
【0005】
図7及び図8に示す滑動テーブル80は、支持板81、支持板81の上面に配置された複数個の球体82、82、〜、上下に開口する複数の球体保持孔83、83、〜を備え、そして各々の保持孔83に前記球体82を上下の開口84a、84bから部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板85、および複数個の球体82、82、〜の上に配置されたテーブル板86などから構成されている。これと同様の構成を有する滑動テーブルは、例えば、特許文献1及び特許文献2の各文献に開示されている。
【0006】
通常、滑動テーブル80の球体保持板85の各々の球体保持孔83の下側の開口84bの直径は、この保持孔83に球体82を収容するため、球体82の直径よりも大きな値に設定される。そして各々の球体保持孔83の上側の開口84aの直径は、球体82の直径よりも小さな値に設定される。これにより、球体保持板85は、各々の球体保持孔83の上側の開口84aの周縁部にて複数個の球体82、82、〜に支持される。このため、球体保持板85は、テーブル板86と支持板81との間に両者に非接触な状態で配置される。
【0007】
滑動テーブル80の支持板81の周縁部は、基台98に固定されている。支持板81の下側には、補助板96が備えられている。補助板96は、支柱97を介してテーブル板86に固定されている。そして、前記の支持板81と補助板96との間には、複数個の球体92、92、〜と、各々の球体92を回転可能に保持する球体保持板95とが配置されている。このような構成により、テーブル板86が複数個の球体82、82、〜を介して支持板81に押し付けられるため、テーブル板86を支持板81の表面に沿って高精度で移動させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−242989号公報(第2図)
【特許文献2】実開平3−117537号公報(第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の位置決めテーブルにおいては、その使用の際の配置あるいは運搬の状況などにより、位置決めの精度が低下する場合がある。特に、テーブル板を円滑に移動させるため、
球体保持板に保持された球体の周囲に潤滑用のグリースを充填した場合に、位置決めの精度が低下し易い。
【0010】
本発明者等の研究により、前記の位置決めの精度の低下は、位置決めテーブルの傾斜状態(特に、テーブル板を垂直に配置した状態)での使用、あるいは位置決めテーブルを運搬する際の振動により、球体保持板がテーブル板の側に移動して、その上面の全体がテーブル板の下面に貼り付き、このテーブル板の円滑な移動を妨げることが原因で生じることが判明した。特に、球体保持板に保持された球体の周囲に潤滑用のグリースを充填すると、球体保持板の上面の全体がテーブル板の下面に前記グリースを介して強固に貼り付き、テーブル板の円滑な移動を妨げ易くなる。
【0011】
図9は、図7及び図8に示す滑動テーブル80を垂直に配置した状態を示す図である。図9に示すように、球体保持板85がテーブル板86の側に移動して、その上面(図9にて左側の表面)の全体がテーブル板86の下面(図9にて右側の表面)に貼り付くと(特に、グリースを介して貼り付くと)、テーブル板86の円滑な移動が妨げられる。このため、このテーブル板86を移動させる駆動装置の負荷が大きくなり、位置決めの精度が低下する傾向にある。
【0012】
本発明の課題は、テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる滑動テーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、支持板、支持板の上面に配置された複数個の球体、上側の開口の直径が球体の直径よりも小さく、かつ下側の開口の直径が球体の直径よりも大きな値に設定された複数の球体保持孔を備え、そして各々の球体保持孔に上記球体を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板を含む滑動テーブルであって、上記球体保持板が、支持板とテーブル板との間に配置された上記球体と同径の球体を回転可能に収容している球体収容孔を更に備え、この収容孔の上側の開口の直径が球体の直径よりも大きな値に設定され、そして下側の開口の縁部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブルにある。
【0014】
本発明の滑動テーブルにおいては、球体保持孔の上側の開口と球体収容孔の下側の開口とが、各々円形で且つ互いに同径であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の滑動テーブルでは、球体保持板が備える球体収容孔の下側の開口の縁部が開口の内側に突出していて、この開口の縁部と球体とが係合すると、球体保持板はテーブル板の側に移動することができなくなる。このため、球体保持板の上面の全体が、テーブル板の下面に貼り付くことはない。従って、本発明の滑動テーブルは、テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の滑動テーブルの構成例を示す断面図である。
【図2】図1の滑動テーブル10の拡大図である。
【図3】図2に示す滑動テーブル10の球体22の近傍の部位の拡大図である。
【図4】図3に示す滑動テーブル10を上下の向きが逆向きとなるように配置した状態を示す図である。
【図5】図1及び図2に示す滑動テーブル10を垂直に配置した状態を示す図である。
【図6】本発明の滑動テーブルの別の構成例を示す断面図である。
【図7】従来の滑動テーブルの構成を示す断面図である。
【図8】図7の滑動テーブル80の拡大図である。
【図9】図7及び図8に示す滑動テーブル80を垂直に配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の滑動テーブルを、添付の図面を用いて説明する。図1は、本発明の滑動テーブルの構成例を示す断面図である。図2は、図1の滑動テーブル10の拡大図である。そして図3は、図2に示す滑動テーブル10の球体22の近傍の部位の拡大図である。
【0018】
図1〜図3に示す滑動テーブル10は、支持板11、支持板11の上面に配置された複数個の球体12、12、〜、上側の開口14aの直径が球体12の直径よりも小さく、かつ下側の開口14bの直径が球体12の直径よりも大きな値に設定された複数の球体保持孔13、13、〜を備え、そして各々の球体保持孔13に上記球体12を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板15、および上記の複数個の球体12、12、〜の上に配置されたテーブル板16などから構成されている。この滑動テーブル10は、上記球体保持板15が、支持板11とテーブル板16との間に配置された上記球体12と同径の球体22を回転可能に収容している球体収容孔23を更に備え、この収容孔23の上側の開口24aの直径が球体22の直径よりも大きな値に設定され、そして下側の開口24bの縁部が、図4に示すように滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに、球体保持板15の下面(図1〜図3にて上面)の全体がテーブル板16の表面(図1〜図3にて下面)に密着することがないように開口24bの内側に突出していることに主な特徴がある。
【0019】
このように、本発明の滑動テーブル10では、球体保持板15の球体収容孔23の下側の開口24bの縁部が突出していて、この開口24bの縁部と球体22とが係合すると、この球体保持板15はテーブル板16の側に移動することができなくなる。
【0020】
このため、この滑動テーブル10は、図5に示すように垂直に配置して使用した場合(あるいは、運搬中に大きな振動が付与された場合)であっても、球体保持板15の上面(図5にて左側の表面)の全体が、テーブル板16の下面(図5にて右側の表面)に貼り付くことはない。従って、本発明の滑動テーブル10は、テーブル板16の円滑な移動を安定に実現することができる。
【0021】
そして、本発明の滑動テーブル10を用いて位置決めテーブルを構成すると、その運搬や使用の状態に依らない安定した高い精度での位置決めが可能になる。
【0022】
前記のように、球体収容孔23の下側の開口24bの縁部を、図4に示すように滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに、球体保持板15の下面(図1〜図3にて上面)の全体がテーブル板16の表面(図1〜図3にて下面)に密着することがないように開口24bの内側に突出させるためには、この開口24bの縁部の形状を、例えば、次のようにして定めればよい。
【0023】
図2及び図3に示すように、滑動テーブル10のテーブル板16と球体保持板15との間隔L1は、球体保持板15の球体保持孔13の上側の開口14aの縁部の形状により定まる。そして、球体保持板15の球体収容孔23の下側の開口24bの縁部は、図4に示すように、滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときの球体保持板15の下降量L2が、上記間隔L1よりも小さくなるような形状に定める。この開口24bの縁部の具体的な形状は、例えば、球体保持板15の幾何学的な設計、あるいは試作(試作品の上記下降量L2が、上記間隔L1よりも小さいことを確認する)によって簡単に定めることができる。
【0024】
この球体収容孔23の下側の開口24bの縁部は、縁部の全体が開口の内側に突き出ていてもよいし、縁部の一部が開口の内側に突き出ていてもよい。
【0025】
各々の球体保持孔13の上側の開口14aの直径は、球体12の直径の30乃至95%(特に、40乃至90%)の範囲内の値に設定することが好ましい。
【0026】
図2に示すように、球体保持孔13の上側の開口14aと球体収容孔23の下側の開口24bとが、各々円形で且つ互いに同径であると、下記のように、球体保持孔13と球体収容孔23との形成が容易になる。
【0027】
先ず、球体保持板15の球体保持孔13と球体収容孔23とを形成する位置に、球体保持孔13の上側の開口14aの直径(すなわち、球体収容孔23の下側の開口24bの直径)と同径の複数の貫通孔を形成する。次に、これらの複数の貫通孔のうち球体保持孔と対応する位置にある貫通孔の下側部分を、その直径が球体12の直径よりも大きな直径となるように切削加工(例、座ぐり加工)することにより、球体保持孔13を形成する。そして、前記の複数の貫通孔のうち球体収容孔と対応する位置にある貫通孔の上側部分を、その直径が球体22の直径よりも大きな直径となるように切削加工(例、座ぐり加工)することにより、球体収容孔23を形成する。このような簡単な機械加工により、球体保持板15の球体保持孔13と球体収容孔23とを形成することができる。
【0028】
球体保持板15には、球体収容孔が複数形成されていてもよいが、通常、球体収容孔の数と球体保持孔の数とを合計した数(すなわち、テーブル板を支持する球体の総数)は、テーブル板のサイズ、あるいはテーブル板に加わる荷重の大きさに応じて適切な数に設定される。
【0029】
球体保持板15には、球体保持孔13、そして球体収容孔23に加えて、これらの孔の形状とは異なる形状を有し、前記球体12と同径の球体を収容する孔(例、球体12の直径よりも大きな直径を有する円柱形の孔)が備えられていてもよい。
【0030】
図1の滑動テーブル10の支持板11の周縁部は、基台28に固定されている。支持板11の下側には、補助板26が備えられている。補助板26は、支柱27を介してテーブル板16に固定されている。そして、前記の支持板11と補助板26との間には、複数個の球体32、32、〜と、各球体32を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持する複数個の球体保持孔を持つ球体保持板35とが配置されている。
【0031】
球体保持板15の場合と同様に、球体保持板35が、支持板11と補助板26との間に配置された上記球体32と同径の球体42を回転可能に収容している球体収容孔を備えていて、この収容孔の上側の開口の直径が球体42の直径よりも大きな値に設定され、そして下側の開口の縁部が、滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに球体保持板35の下面(図1にて上面)の全体が支持板11の表面(図1にて下面)に密着することがないように開口の内側に突出していることが好ましい。これにより、図1に示す球体保持板35の上面の全体が、支持板11の下面に貼り付くことが防止される。このため、滑動テーブル10のテーブル板16の円滑な移動を更に安定に実現することができる。従って、滑動テーブル10を用いた位置決めテーブルの更に安定した高い精度での位置決めが可能になる。
【0032】
滑動テーブル10の支持板11、球体12、22、32、42、テーブル板16、補助板26、支柱27、そして基台28は、例えば、鋼(例、高炭素クロム鋼、ステンレス鋼)やアルミニウムに代表される金属材料から形成される。これらの部品は、軽量化のため樹脂材料から形成したり、あるいは耐熱性の向上のためセラミック材料から形成したりすることもできる。
【0033】
球体保持板15、35は、その球体保持孔及び球体収容孔の機械加工が容易になることから、ステンレス鋼やアルミニウムに代表される金属材料、あるいはポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、そしてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂に代表される樹脂材料から形成される。
【0034】
本発明の滑動テーブルは、例えば、従来の滑動テーブルをそのまま利用して、球体保持板の球体保持孔と球体保持孔との間に球体収容孔を形成し、この収容孔に球体保持孔に保持される球体と同径の球体を収容することにより簡単に作製することもできる。
【0035】
図6は、本発明の滑動テーブルの別の構成例を示す断面図である。
【0036】
図6の滑動テーブル60の構成は、支持板11の下側に球体、球体保持板、補助板が備えられていないこと、支柱67の長さが基台68に到達しない長さに設定されていること、そして基台68が開口を有していないこと以外は図1の滑動テーブル10と同一である。
【0037】
本発明に従う図6の構成の滑動テーブル60は、支持板11の下側に球体、球体保持板、補助板を備えていないため、その製造コストが低く、そして組み立ても容易である。
【符号の説明】
【0038】
10 滑動テーブル
11 支持板
12 球体
13 球体保持孔
14a 球体保持孔13の上側の開口
14b 球体保持孔13の下側の開口
15 球体保持板
16 テーブル板
22 球体
23 球体収容孔
24a 球体収容孔23の上側の開口
24b 球体収容孔23の下側の開口
26 補助板
27 支柱
28 基台
32 球体
35 球体保持板
42 球体
60 滑動テーブル
67 支柱
68 基台
80 滑動テーブル
81 支持板
82 球体
83 球体保持孔
84a 球体保持孔の上側の開口
84b 球体保持孔の下側の開口
85 球体保持板
86 テーブル板
92 球体
95 球体保持板
96 補助板
97 支柱
98 基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板、支持板の上面に配置された複数個の球体、上側の開口の直径が球体の直径よりも小さく、かつ下側の開口の直径が球体の直径よりも大きな値に設定された複数の球体保持孔を備え、そして各々の球体保持孔に上記球体を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板を含む滑動テーブルであって、
上記球体保持板が、支持板とテーブル板との間に配置された上記球体と同径の球体を回転可能に収容している球体収容孔を更に備え、この収容孔の上側の開口の直径が球体の直径よりも大きな値に設定され、そして下側の開口の縁部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブル。
【請求項2】
球体保持孔の上側の開口と球体収容孔の下側の開口とが、各々円形で且つ互いに同径である請求項1に記載の滑動テーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−276461(P2010−276461A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128964(P2009−128964)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【Fターム(参考)】