潤滑構造およびその潤滑構造を用いた多段変速機
【課題】ケースの軸受開口部と軸部材との間にオイルシールと円筒状カラー部材を、潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けて軸部材の内側中空部に十分な潤滑油を導入できる潤滑構造およびその潤滑構造を用いた多段変速機を供する。
【解決手段】オイルシール(40)の外周環状開口(40xo)が軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、内周環状開口(40xi)が円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に臨むとともに、内側弾性リップ部(42i)が円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して内周環状開口(40xi)から連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さい潤滑構造およびその潤滑構造を用いた多段変速機。
【解決手段】オイルシール(40)の外周環状開口(40xo)が軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、内周環状開口(40xi)が円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に臨むとともに、内側弾性リップ部(42i)が円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して内周環状開口(40xi)から連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さい潤滑構造およびその潤滑構造を用いた多段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に軸支される軸部材の内側中空部に潤滑油を導入する潤滑構造および同潤滑構造を用いた多段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の軸部材がケースの軸受部にベアリングを介して回転自在に支持される構造の場合、軸部材の端部にケース側の蓋部を被せ、蓋部内の油路を経て軸部材の内側中空部に潤滑油を導入するのが一般的である。
しかし、軸部材の両端に種々の機構が取り付けられて、油路を形成することができない場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−47269
【0004】
特許文献1は、同じ出願人により先に出願した多段変速機の潤滑構造に係る発明であり、同特許文献1に開示された多段変速機は、メイン歯車軸に一体の歯車とカウンタ歯車軸に相対回転自在に軸支された歯車とが常時噛合い、カウンタ歯車軸内の係合切換え機構によりカウンタ歯車軸に有効に作用する歯車を選択して変速を行うものである。
【0005】
内部に係合切換え機構を備えるカウンタ歯車軸は、一端に駆動用スプロケットが設けられ、他端に変速用シフト機構が設けられているため、軸端部から中空部の係合切換え機構に潤滑油を導入することができないので、カウンタ歯車軸の周面から潤滑油を導入している。
すなわち、カウンタ歯車軸をベアリングを介して軸支するケースの軸受の軸受開口部に嵌挿された環状のオイルシールと円筒状カラー部材に潤滑油の導入路を形成して、軸受開口部の内周面に開口した油路開口とカウンタ歯車軸の内外を貫通した導入孔とを前記オイルシールと円筒状カラー部材の導入路が連通している。
【0006】
オイルシールの内周面とカウンタ歯車軸の外周面との間に円筒状カラー部材が挿入されるが、オイルシールの内周面に開口した内周環状開口と円筒状カラー部材の連通孔とが対向して連通すべくオイルシールの軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部が環状に設けられて、同内側弾性リップ部が円筒状カラー部材に押圧されて内周環状開口から連通孔に導かれる潤滑油の漏れを防止するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、オイルシールの環状の内側弾性リップ部の内径は、外力が加わらない状態では、円筒状カラー部材の外径より小さい。
そのため、軸受開口部に予め嵌挿された環状のオイルシールの内周面とカウンタ歯車軸の外周面との間に円筒状カラー部材が挿入されたとき、円筒状カラー部材の軸方向内側端面の外周縁部が、オイルシールの軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部のリップ先端に当接して内側弾性リップ部がめくり返され、内側弾性リップ部が元の中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した状態に弾性復帰せずにめくり返された状態のままとなってしまうことがある。
【0008】
内側弾性リップ部がめくり返された状態にあると、オイルシールの内周環状開口から円筒状カラー部材の連通孔に導かれる潤滑油の圧力が内側弾性リップ部をさらにめくる方向に作用して円筒状カラー部材の外周面との間に隙間を形成して潤滑油が漏れるおそれが多分にあり、カウンタ歯車軸の内側中空部に潤滑油が十分供給されないことになる。
【0009】
そこで、従来は、円筒状カラー部材の挿入により内側弾性リップ部がめくり返されたときは円筒状カラー部材を何度か軸方向に進退させて内側弾性リップ部が元の状態に復帰させ、その状態で円筒状カラー部材が所定位置に組付けられるように試行を繰り返す必要があり、組付け作業が容易ではなかった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、ケースの軸受開口部と軸部材との間にオイルシールと円筒状カラー部材を、潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けて軸部材の内側中空部に十分な潤滑油を導入できる潤滑構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本請求項1記載の発明は、
軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記軸部材(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記軸部材内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする潤滑構造である。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、同テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、
ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車(m1〜m6)と前記被動歯車(n1〜n6)の一方の複数の歯車が歯車軸(11)に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸(12)との間で歯車軸と各歯車の係合を歯車ごとに切り換える係合切換機構が備えられ、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機であって、
前記係合切換機構は、
各歯車(n1〜n6)の内周面の周方向複数箇所に周方向に係合面を有して設けられた係合部(31)と、
前記歯車軸(12)に軸支され揺動する一端が前記係合部(31)の係合面と係合および係合解除を行う揺動爪部材(R)と、
前揺動爪部材(R)の揺動する他端に径方向内側から接するピン部材(23)と、
前記歯車軸(12)の中空部内周面に軸方向に指向して削成されたカム案内溝(12g)に嵌って軸方向に移動し前記ピン部材(23)に摺接する摺接面に複数のカム面(v1〜v6)が軸方向所要箇所に形成され移動により前記ピン部材(23)を介して前記揺動爪部材(R)を作動する複数のカムロッド(C)とを備え、
前記変速駆動機構が、前記カムロッド(C)の内側で前記歯車軸(12)の中空中心軸に嵌挿され軸方向の移動により前記カムロッド(C)を移動させるシフトロッド(51)を備えた多段変速機において、
前記歯車軸(12)を回転自在に軸支する前記ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記歯車軸(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記歯車軸(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記歯車軸内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造を備え、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする多段変速機である。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の多段変速機において、
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項3または請求項4記載の多段変速機において、
前記係合切換機構が設けられた前記歯車軸(12)を出力軸(12)とし、
前記出力軸(12)における前記ベアリング(7L)のインナレース(7Li)が嵌合されるジャーナル部(12j)より外側に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ(12e)と、前記雄ねじ(12e)の内側に形成されたスプライン溝(12s)と、前記スプライン溝(12s)の前記雄ねじ(12e)との境目部分に周方向に形成された外周溝(12f)とからなり、
前記出力軸(12)に外嵌した前記円筒状カラー部材(33)が前記ジャーナル部(12j)に嵌着した前記インナレース(7Li)に当接し、
前記スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、
前記外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が前記出力スプロケット(32)を受けとめ、
前記半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が前記半割コッタ(35)に外嵌されて前記半割コッタ(35)を保持し、
前記雄ねじ(12e)に螺合したナット部材(37)が前記環状リテーナ(36)を前記半割コッタ(35)との間に挟むように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の潤滑構造によれば、軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に内嵌された環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材(33)が、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)を小さくしているので、円筒状カラー部材(33)の最大外径(d1)より小さく弾性変化する内径を有するオイルシール(40)のうち軸方向内側の環状の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)は円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外径(d2)より適度に小さくでき、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁が多少めくれた状態となっても、嵌挿を終えると、弾性によりめくれが解消され、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接する。
【0017】
内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接しているので、オイルシール(40)の内周環状開口(40xi)から円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に導かれる潤滑油の圧力は内側弾性リップ部(42i)が円筒状カラー部材(33)に弾性的に圧接する方向にさらに重ねて作用することになり、円筒状カラー部材(33)の外周面との間の隙間を確実に閉じ潤滑油の漏れを防止して軸部材(12)の内側中空部に潤滑油を十分供給することができる。
【0018】
このように、環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)を何度も進退させることなく一度の嵌挿作業で、ケース(1)の軸受開口部(1e)と軸部材(12)との間にオイルシール(40)と円筒状カラー部材(33)を潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けることができる。
【0019】
請求項2の潤滑構造によれば、円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)がオイルシール(40)の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいので、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁は筒状カラー部材(33)のテーパ面に接して滑りながら拡径し、めくり返されることなく軸方向内側端部(33e)の外周面に至り、よって内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢のまま円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接することができ、より円滑に組付け作業ができる。
【0020】
請求項3の多段変速機によれば、ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機において、ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に内嵌された環状のオイルシール(40)の内周面と歯車軸(12)の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材(33)が、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)を小さくしているので、円筒状カラー部材(33)の最大外径(d1)より小さく弾性変化する内径を有するオイルシール(40)のうち軸方向内側の環状の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)は円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外径(d2)より適度に小さくでき、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁が多少めくれた状態となっても、嵌挿を終えると、弾性によりめくれが解消され、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接する。
【0021】
内側弾性リップ部(42i)の円筒状カラー部材(33)への弾性力による圧接が弱くても、オイルシール(40)の内周環状開口(40xi)から円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に導かれる潤滑油の圧力が中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)を円筒状カラー部材(33)に圧接する方向に作用して円筒状カラー部材の外周面との間の隙間を確実に閉じ潤滑油の漏れを防止して軸部材の内側中空部に潤滑油を十分供給することができる。
【0022】
このように、環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)を何度も進退させることなく一度の嵌挿作業で、ケース(1)の軸受開口部(1e)と軸部材(12)との間にオイルシール(40)と円筒状カラー部材(33)を潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けることができ、多段変速機の組付け作業を容易にする。
【0023】
請求項4の多段変速機によれば、円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)がオイルシール(40)の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいので、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁は筒状カラー部材(33)のテーパ面に接して滑りながら拡径し、めくり返されることなく軸方向内側端部(33e)の外周面に至り、よって内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢のまま円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接することができ、より円滑に組付け作業ができる。
【0024】
請求項5の多段変速機によれば、出力軸(12)の軸端部におけるジャーナル部(12j)に嵌着したベアリング(7L)のインナレース(7Li)に出力軸(12)に外嵌した円筒状カラー部材(33)が当接し、スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が出力スプロケット(32)を受けとめ、半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が半割コッタ(35)に外嵌されて半割コッタ(35)を保持し、雄ねじ(12e)に螺合されたナット部材(37)が環状リテーナ(36)を半割コッタ(35)との間に挟むように構成したので、出力軸(12)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が円筒状カラー部材(33)と半割コッタ(35)との間に皿バネ(34)を介して挟まれて支持されるために、出力スプロケット(32)は軸方向に振れる力成分を吸収しながら所要の軸方向範囲内に常に位置して、安定した動力伝達を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段変速機が組み込まれた内燃機関の一部省略した右側面図である。
【図2】多段変速機の断面図(図1のII−II線断面図)である。
【図3】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す断面図(図5,図6のIII−III線断面図)である。
【図4】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す別の断面図(図5,図6のIV−IV線断面図)である。
【図5】図3,図4のV−V線断面図である。
【図6】図3,図4のVI−VI線断面図である。
【図7】シフトロッドとロストモーション機構の分解斜視図である。
【図8】シフトロッドにロストモーション機構組み付けた状態とカムロッド等の分解斜視図である。
【図9】カウンタ歯車軸およびピン部材とスプリングの一部の分解斜視図である。
【図10】カウンタ歯車軸の左側面図(図9のX矢視図)である。
【図11】揺動爪部材および支軸ピン,ピン部材,スプリングの分解斜視図である。
【図12】カウンタ歯車軸に変速駆動機構の一部および係合手段を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図13】図12に示す状態のカウンタ歯車軸に1つの軸受カラー部材を外装した状態を示す斜視図である。
【図14】シフトアップする過程の1状態を示す説明図である。
【図15】下側機関ケース1Lの上面図である。
【図16】同側面図である。
【図17】カウンタ歯車軸の左側軸受部分近傍の拡大断面図(図16のXVII−XVII線断面図)である。
【図18】同カウンタ歯車軸の左側軸受部分近傍の分解拡大断面図である。
【図19】オイルシールと円筒状カラー部材の分解拡大断面図である。
【図20】カウンタ歯車軸の潤滑構造を示す図17の要部を拡大した断面図である。
【図21】図20の一部をさらに拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図21に基づいて説明する。
本実施の形態に係る多段変速機10は、自動二輪車に搭載される内燃機関に組み込まれて構成されている。
図1は内燃機関Eの一部省略した右側面図であり、図2は多段変速機10の断面図(図1のII-II線断面図)であり、同図1および図2に示すように、該多段変速機10は、内燃機関と共通の機関ケース1に設けられている。
【0027】
機関ケース1の右側面図である図1に示すように、機関ケース1は、左右水平方向に指向するクランク軸6を境に上下割りの上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lが合体して構成されており、同機関ケース1は変速室2を一体に形成しており、同変速室2内に多段変速機10のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12が互いに平行に左右水平方向に指向して回転自在に軸支される。
上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lは、クランク軸6およびクランク軸6と同じ高さ位置で変速室2内の高い位置にあるカウンタ歯車軸12を上下から挟むように軸支して合体する。
【0028】
図2を参照して、合体した機関ケース1の後半部に変速室2が形成され、機関ケース1は変速室2内のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の左側部位を軸支するが、右側は大きく開いた変速室開口が形成され、同変速室開口を軸受蓋部材8が覆い、機関ケースの一部をなす同軸受蓋部材8がメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の右側部位を軸支する。
【0029】
メイン歯車軸11は、下側機関ケース1Lの側壁と軸受蓋部材8にベアリング3L,3Rを介して回転自在に軸支され、右ベアリング3Rを貫通して変速室2から突出した右端部には多板式の摩擦クラッチ5が設けられている。
摩擦クラッチ5の左側には、クランク軸6の回転が伝達されるプライマリ被動ギヤ4がメイン歯車軸11に回転自在に軸支されている。
内燃機関のクランク軸の回転がプライマリ被動ギヤ4から係合状態の摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達される。
【0030】
図2を参照して、メイン歯車軸11は中空円筒状をなし、中空内は比較的大きな内径の長尺の大径孔部11aと右側部の若干縮径した小径孔部11bとからなり、大径孔部11aに長尺プッシュロッド15lが挿入され、小径孔部11bに短尺プッシュロッド15sが摺動自在に嵌挿され、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrは小径孔部11bに嵌挿され、短尺プッシュロッド15sの左端部との間に3個のボール16を挟んでいる。
ボール16は小径孔部11bに軸方向の同位置に3個が入る外径を有し、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrと短尺プッシュロッド15sの左端部の互いに対向する端面には円環状に浅い環状溝が形成されていて3個のボール16を安定して挟持することができる。
【0031】
長尺プッシュロッド15lの左端部は、下側機関ケース1Lを左方に貫通して、クラッチ油圧アクチュエータ17のピストン17pに嵌着されている。
一方、短尺プッシュロッド15sの右端部は、メイン歯車軸11から右方に突出して摩擦クラッチ5のプレッシャプレート5pの中心部に当接している。
【0032】
したがって、クラッチ油圧アクチュエータ17が作動してピストン17pが長尺プッシュロッド15lを右方に押すと、ボール16を介して短尺プッシュロッド15sが押されて、プレッシャプレート5pをクラッチスプリング5sの弾性力に抗してプレッシャプレート5pを右方に移動させてクラッチスプリング5sの弾性力により係合していた摩擦クラッチ5の係合を解除することができる。
3個のボール16はスラストベアリングの役割をなし、短尺プッシュロッド15sの回転を長尺プッシュロッド15lに伝達しない。
【0033】
カウンタ歯車軸12は、その左側部位が上側機関ケース1Rと下側機関ケース1Lの両側壁間に挟まれたベアリング7Lを介して軸支され、右端部が軸受蓋部材8にベアリング7Rを介して軸支される。
【0034】
メイン歯車軸11には、左右のベアリング3L,3Rの間に駆動変速歯車m群がメイン歯車軸11と一体に回転可能にメイン歯車軸11に構成されている。
右ベアリング3Rに沿って第1駆動変速歯車m1がメイン歯車軸11に一体に形成され、メイン歯車軸11の同第1駆動変速歯車m1と左ベアリング3Lとの間に形成されたスプラインに右から左へ順に順次径を大きくした第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m2,m3,m4,m5,m6がスプライン嵌合されている。
【0035】
他方、カウンタ歯車軸12には、左右のベアリング7L,7Rの間に被動変速歯車n群が円環状の軸受カラー部材13を介して回転自在に軸支されている(図3,図4参照)。
カウンタ歯車軸12において、図3および図4に示すように、右ベアリング7Rの左に介装されたカラー部材14Rを介して外装された右端の軸受カラー部材13と、左ベアリング7Lの右に介装されたカラー部材14Lを介して外装された左端の軸受カラー部材13との間に、等間隔に5つの軸受カラー部材13が外装され、この全部で7つの軸受カラー部材13の隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして右から左へ順に順次径を小さくした第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6が回転自在に軸支されている。
【0036】
メイン歯車軸11と一体に回転する第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m1,m2,m3,m4,m5,m6は、カウンタ歯車軸12に回転自在に軸支される対応する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6にそれぞれ常時噛み合っている。
【0037】
第1駆動変速歯車m1と第1被動変速歯車n1の噛合が、最も減速比の大きい1速を構成し、第6駆動変速歯車m6と第6被動変速歯車n6の噛合が、最も減速比の小さい6速を構成し、その間順次減速比が小さくなって2速、3速、4速、5速が構成される。
カウンタ歯車軸12に変速段が奇数段の奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)と変速段が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)が交互に配列されることになる。
【0038】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、各被動変速歯車nと係合可能な係合手段20が後記するように組み込まれ、後記するように係合手段20の1構成要素である種類ごと2本ずつ4種類の計8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)がカウンタ歯車軸12の中空内周面に形成された後記するカム案内溝12gに嵌合して軸方向に移動自在に設けられる。
【0039】
このカムロッドCを駆動して変速する変速駆動機構50の1構成要素であるシフトロッド51が、カウンタ歯車軸12の中空中心軸に挿入されており、シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介して連動してカムロッドCを軸方向に移動する。
【0040】
このシフトロッド51を軸方向に移動する機構が、軸受蓋部材8に設けられている。
シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介してカムロッドCを軸方向に連動し、このカムロッドCの移動がカウンタ歯車軸12に組み込まれた係合手段20により各被動変速歯車nを選択的にカウンタ歯車軸12と係合して変速を行う。
【0041】
カウンタ歯車軸12に設けられるカウンタ歯車軸12と各被動変速歯車nとを選択的に係合する係合手段20について以下に説明する。
図7を参照して、変速駆動機構50のシフトロッド51は、円柱棒状をなし、軸方向の左右2か所に縮径して形成された外周凹部51a,51bがそれぞれ所定長さに亘って形成されている。
シフトロッド51の右端は雄ねじが形成された雄ねじ端部51bbとなっており、雄ねじ端部51bbの手前に6角形状のナット部51cが形成されている。
【0042】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bにそれぞれ対応してロストモーション機構52,53が組み付けられる。
左右のロストモーション機構52,53は、同じ構造のものを互いに左右対称になるように配設している。
【0043】
左側のロストモーション機構52は、シフトロッド51を摺動自在に嵌挿するスプリングホルダ52hが長尺ホルダ52hlと短尺ホルダ52hsの連結で構成され、内周面にシフトロッド51の外周凹部51aに対応する内周凹部52haが形成されている。
【0044】
このスプリングホルダ52hにシフトロッド51を貫通させてスプリングホルダ52hを外周凹部51aに位置させたとき、スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間が共通の空間を構成する。
【0045】
スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間に跨るようにスプリング受けである左右一対のコッタ52c,52cが対向して嵌挿され、両コッタ52c,52c間にシフトロッド51に巻回される圧縮コイルスプリング52sが介装されて両コッタ52c,52cを離間する方向に付勢する。
なお、コッタ52cは、スプリングホルダ52hの内周凹部52haの内径を外径とし、シフトロッド51の外周凹部51aの外径を内径とした中空円板状をなし、組み付けのため半割りにされている。
【0046】
右側のロストモーション機構53(スプリングホルダ53h,長尺ホルダ53hl,短尺ホルダ53hs,内周凹部53ha,コッタ53c,圧縮コイルスプリング53s)も同じ構造をしてシフトロッド51の外周凹部51bに配設される。
したがって、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左右のロストモーション機構52,53の圧縮コイルスプリング52s,53sを介してスプリングホルダ52h,53hが軸方向に移動する。
【0047】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bに取り付けられたロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外周面に、8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)が放射位置にあって当接される(図8参照)。
【0048】
カムロッドCは、断面が矩形で軸方向に長尺に延びる角柱棒状部材であり、スプリングホルダ52h,53hと接する内周側面の反対側の外周側面がカム面を形成しており、カム面にカム溝vが所要3か所に形成され、内周側面にはスプリングホルダ52h,53hのいずれか一方を左右から挟むように係止する一対の係止爪pが突出している。
カムロッドCは、断面が特別な形状をしておらず概ね外形が単純な矩形の角柱棒状部材であるので、カムロッドCを容易に製造することができる。
【0049】
カム溝v1,v3,v5が奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する3か所に形成された奇数段用カムロッドCao,Cboには、正回転(加速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用と逆回転(減速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用の2種類があり、一方の正回転奇数段用カムロッドCaoは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転奇数段用カムロッドCboは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有する(図8参照)。
【0050】
同様に、カム溝v2,v4,v6が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する3か所に形成された偶数段用カムロッドCae,Cbeには、正回転用と逆回転用の2種類があり、一方の正回転偶数段用カムロッドCaeは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転偶数段用カムロッドCbeは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有する(図8参照)。
【0051】
したがって、シフトロッド51の軸方向の移動により、右側のロストモーション機構53の圧縮コイルスプリング53sを介してスプリングホルダ53hとともに正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動し、左側のロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介してスプリングホルダ52hとともに逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動する。
【0052】
図8に示すように、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分には、円筒状をしたシフトロッド操作子55が、その内側に嵌装されたボールベアリング56を介して取り付けられる。
【0053】
ボールベアリング56は、軸方向に2個連結したもので、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分に嵌入され、雄ねじ端部51bbに螺合されるナット57によりナット部51cとの間で挟まれて締結される。
【0054】
したがって、シフトロッド操作子55は、シフトロッド51の右端部を回転自在に保持している。
このシフトロッド操作子55の螺着されたナット57より右側に延出した円筒部に直径方向に穿孔したピン孔55hが形成されており、同ピン孔55hにシフトピン58が貫通する。
【0055】
シフトピン58は、シフトロッド操作子55を貫通して一方にのみ突出するもので(図2参照)、図8に示すように、その突出する端部が後記するシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合する円柱状の係合部58aであり、シフトロッド操作子55を貫通する小径円柱部58cと係合部58aとの間に直方体状をした摺動部58bが形成されている。
【0056】
図1および図2を参照して、メイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の右端部位をベアリング3R,7Rを介して軸支する軸受蓋部材8には、カウンタ歯車軸12と同軸に右方に突出して筒状ガイド部8gが形成されている。
筒状ガイド部8gは、シフトロッド操作子55が摺動する円孔8ghを備え、その下部が斜め下方に切り欠かれてガイド長孔8glが軸方向に長尺に形成されている。
【0057】
軸受蓋部材8の筒状ガイド部8gの斜め下方には支軸65が植設され、支軸65にベアリング66を介して円筒状のシフトドラム67が回動自在に軸支されている。
筒状ガイド部8gのガイド長孔8glにシフトロッド操作子55を嵌挿すると同時に、シフトロッド操作子55を貫通するシフトピン58の直方体状をした摺動部58bを筒状ガイド部8gのガイド長孔8glに摺動自在に嵌挿し、シフトピン58の端部の係合部58aをシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合させる。
変速用モータ等の変速用アクチュエータ(図示せず)の動力(または手動のシフト操作の作動力)を、シフトドラム67の側縁に形成されたギヤ67gに伝達してシフトドラム67を順次変速段位置に回動する。
【0058】
このシフトドラム67の回動によりシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に移動するシフトロッド移動機構(シフトドラム67,シフトピン58,シフトロッド操作子55)は、メイン歯車軸11の右端の摩擦クラッチ5とカウンタ歯車軸12上の被動変速歯車nとの間にコンパクトに配設される(図2参照)。
【0059】
シフトドラム67のシフト案内溝Gは、ドラム外周面に2周以上に亘って螺旋を描くように形成され、その間に所定回動角度(例えば150度)毎に1速から6速までの各変速段位置が順に形成されている。
なお、1速の前にニュートラルNの位置がある。
【0060】
シフトドラム67の回動は、シフト案内溝Gに係合部58aを係合させたシフトピン58を軸受蓋部材8の筒状ガイド部8gのガイド長孔8glにガイドされて軸方向に平行移動してシフトロッド操作子55を介してシフトロッド51を軸方向に移動し、シフトロッド51の移動がロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0061】
ロストモーション機構52,53が組み付けられたシフトロッド51は、カウンタ歯車軸12の中空内に挿入され中心軸に配設される。
この中空円筒状のカウンタ歯車軸12は、内径がロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外径に略等しく、シフトロッド51に取り付けられたスプリングホルダ52h,53hを摺動自在に嵌挿する。
【0062】
そして、カウンタ歯車軸12の中空の内周面における8か所の放射位置に断面が矩形の8本のカム案内溝12gが軸方向に指向して延出形成されている(図10参照)。
8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeは、図8に示す配列で対応するカム案内溝12gに摺動自在に嵌合する。
同種類のカムロッドCは、中心軸に関して対称位置に配設される。
カウンタ歯車軸12に対するカム部材Cの回り止めとなるカム案内溝12gは、断面コ字状の単純な形状をして簡単に加工成形できる。
【0063】
カム案内溝12gの深さはカムロッドCの放射方向の幅に等しく、よってカムロッドCの外周側面であるカム面はカム案内溝12gの底面に摺接し、内周側面は中空内周面と略同一面をなしてスプリングホルダ52h,53hの外周面に接し、内周側面から突出した係止爪pはスプリングホルダ52h,53hのいずれかを両側から挟むようにして掴む。
【0064】
図9を参照して、中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aの左右両側に外径が縮径された左側円筒部12bと右側円筒部12cが形成されている。
カウンタ歯車軸12の右側円筒部12cにはワッシャ14Rを介してベアリング7Rが嵌合される(図3,図4参照)。
【0065】
図9および図18に示すように、カウンタ歯車軸12の左側円筒部12bは、ベアリング7Lのインナレース7Liが嵌合されるジャーナル部12jより外側(左側)に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ12eと、雄ねじ12eの内側に形成されたスプライン溝12sと、同スプライン溝12sの雄ねじ12eとの境目部分に周方向に形成された外周溝12fとからなる。
【0066】
そして、ジャーナル部12jとスプライン溝12sとの間にカウンタ歯車軸12の内側中空部と外側を連通するオイル導入孔12xが周方向に複数穿孔されている。
なお、カウンタ歯車軸12の内側中空部の左端開口は栓部材39により閉塞される。
スプライン溝12sにスプライン嵌合される出力スプロケット32の組付構造およびオイル導入孔12xを用いる潤滑構造は後記する。
【0067】
カウンタ歯車軸12の中空内は、カム案内溝12gが形成される内径がスプリングホルダ52h,53hの外径に等しい小径内周面と、同小径内周面の軸方向両側の内径がカム案内溝12gの底面と略同一周面をなす大径内周面とが形成されている(図3,図4参照)。
右側の拡大内径部の内側に前記シフトロッド操作子55が半分程挿入されている。
【0068】
このように、カウンタ歯車軸12の中空内にシフトロッド51とロストモーション機構52,53と8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeが組み込まれると、これら全てが一緒に連れ回りして、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左側ロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介して逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動し、右側ロストモーション機構53のコイルスプリング53sを介して正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動する。
【0069】
カウンタ歯車軸12の軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aは、図9に示すように、外径が大きく厚肉に構成されており、この厚肉の外周部に周方向に一周する幅狭の周方向溝12cvが第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6に対応して軸方向に亘って等間隔に6本形成されるとともに、軸方向に指向した軸方向溝12avが周方向に亘って等間隔に4本形成されている。
【0070】
さらに、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部には、4本の軸方向溝12avで区画された4つの部分が各周方向溝12cvにおいて周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間に亘って長尺に左右均等に拡大した長尺矩形凹部12pと、周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間の一部で左右均等に拡大した短尺矩形凹部12qとが、軸方向に交互に形成されている。
【0071】
長尺矩形凹部12pの底面の周方向に離れた2か所に軸方向に長尺の楕円形をして周方向溝12cvに跨って若干凹んだスプリング受部12d,12dが形成されている。
また、短尺矩形凹部12qと軸方向溝12avとの間の厚肉部で周方向溝12cv上にピン孔12hが前記カム案内溝12gまで径方向に穿孔されている。
【0072】
すなわち、カウンタ歯車軸12の中空内周面から周方向の8か所に刻設されたカム案内溝12gの放射方向にピン孔12hが穿孔される。
各周方向溝12cv上にはそれぞれ4か所ピン孔12hが形成される。
【0073】
スプリング受部12dには、楕円形に巻回された圧縮スプリング22がその端部を嵌装させて設けられる。
ピン孔12hにはピン部材23が摺動自在に嵌挿される。
なお、ピン孔12hが連通するカム案内溝12gの幅は、ピン部材23の外径幅より小さい。
したがって、ピン孔12hを進退するピン部材23がカム案内溝12gに脱落することがないので、カウンタ歯車軸12への係合手段20の組み付けを容易にする。
【0074】
カム案内溝12gにはカムロッドCが摺動自在に嵌合されるので、ピン孔12hに嵌挿されたピン部材23は中心側端部が対応するカムロッドCのカム面に接し、カムロッドCの移動でカム溝vがピン孔12hに対応するとピン部材23がカム溝vに落ち込み、カム溝v以外の摺接面が対応するとピン部材は摺接面に乗り上げ、カムロッドCの移動により進退する。
ピン孔12h内でのピン部材23の進退は、その遠心側端部を周方向溝12cvの底面より外側に出没させる。
【0075】
以上のような構造のカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部に形成された長尺矩形凹部12pと短尺矩形凹部12qと両凹部間を連通する周方向溝12cvに、揺動爪部材Rが埋設され、軸方向溝12avに揺動爪部材Rを揺動自在に軸支する支軸ピン26が埋設される。
このようにして、全ての揺動爪部材Rが組み付けられた状態を図12に示す。
【0076】
図11の分解斜視図には、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rとが、互いの相対角度位置関係を維持した姿勢で図示されており、加えて各揺動爪部材Rを軸支する支軸ピン26および各揺動爪部材Rに作用する圧縮スプリング22とピン部材23が示されている。
【0077】
揺動爪部材Rは、全て同じ形状のものを使用しており、軸方向視で略円弧状をなし、中央に支軸ピン26が貫通する貫通孔の外周部が欠損して軸受凹部Rdが形成されており、同軸受凹部Rdの揺動中心に関して一方の側に長尺矩形凹部12pに揺動自在に嵌合する幅広矩形の係合爪部Rpが形成され、他方の側にはピン孔12hが形成された周方向溝12cvに揺動自在に嵌合する幅狭のピン受部Rrが延出し、その端部は短尺矩形凹部12qに至り幅広に拡大した幅広端部Rqが形成されている。
【0078】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrがピン孔12hが形成された周方向溝12cvに嵌合し、一方の係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに嵌合するとともに軸受凹部Rdが軸方向溝12avに合致し、他方の幅広端部Rqが短尺矩形凹部12qに嵌合する。
そして、合致した軸受凹部Rdと軸方向溝12avに支軸ピン26が嵌合される。
【0079】
揺動爪部材Rは、嵌合する周方向溝12cvに関して左右対称に形成されており、一方の幅広矩形の係合爪部Rpが他方のピン受部Rrおよび幅広端部Rqより重く、支軸ピン26に軸支されてカウンタ歯車軸12とともに回転したとき、遠心力に対して係合爪部Rpが重錘として作用して遠心方向に突出するように揺動爪部材Rを揺動させる。
【0080】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrが揺動中心に関して反対側の係合爪部Rp側より幅が狭く形成されている。
また、ピン受部Rrは、ピン部材23を受け止めるだけの幅を具えれば足りるので、揺動爪部材Rを小型に形成することができ、かつ他方の係合爪部Rpの遠心力による揺動を容易にすることができる。
【0081】
周方向に隣り合う揺動爪部材Rは、互いに対称な姿勢にカウンタ歯車軸12に組み付けられるので、互いに所定間隔を存して対向する係合爪部Rp,Rpは共通の長尺矩形凹部12pに嵌合し、他方の互いの近接する幅広端部Rqは共通の短尺矩形凹部12qに嵌合する。
【0082】
揺動爪部材Rの係合爪部Rpの内側にカウンタ歯車軸12のスプリング受部12dに一端を支持された圧縮スプリング22が介装され、ピン受部Rrの内側にピン孔12hに嵌挿されたピン部材23がカムロッドCとの間に介装される。
【0083】
このようにして、揺動爪部材Rが、支軸ピン26に揺動自在に軸支されてカウンタ歯車軸12の長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12q,周方向溝12cvに埋設され、一方の係合爪部Rpが圧縮スプリング22により外側に付勢され、他方のピン受部Rrがピン部材23の進退により押圧されることで、圧縮スプリング22の付勢力に抗して揺動爪部材Rが揺動する。
【0084】
ピン部材23が遠心方向に進行して揺動爪部材Rを揺動したときは、揺動爪部材Rは係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに没してカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものはない。
また、ピン部材23が退行したときは、圧縮スプリング22により付勢された係合爪部Rpがカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出し被動変速歯車nと係合可能とする。
【0085】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、互いに軸中心に90度回転した相対角度位置関係にある。
【0086】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転奇数段揺動爪部材Raoと、歯車の逆回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転奇数段係合部材Rboとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0087】
同様に、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転偶数段揺動爪部材Raeと、歯車の逆回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転偶数段係合部材Rbeとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0088】
正回転奇数段揺動爪部材Raoが前記正回転奇数段用カムロッドCaoの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転奇数段係合部材Rboが前記逆回転奇数段用カムロッドCboの移動により進退するピン部材23により揺動する。
同様に、正回転偶数段揺動爪部材Raeが前記正回転偶数段用カムロッドCaeの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転偶数段係合部材Rbeが前記逆回転偶数段用カムロッドCbeの移動により進退するピン部材23により揺動する。
【0089】
カウンタ歯車軸12に係合手段20を組み込む場合、まず右端の軸受カラー部材13を中央円筒部12aの外周端部に外装し、その軸受カラー部材13の内側の軸方向溝12avに支軸ピン26の一端を嵌入するようにして右端の係合手段20を組み込み、次の軸受カラー部材13を前記支軸ピン26の他端を覆うように外装し、被動変速歯車nを組み入れた後に、前段と同じようにして次段の係合手段20を組み込むことを、順次繰り返して、最後に左端の軸受カラー部材13を外装して終了する。
【0090】
図13に示すように、軸受カラー部材13は、中央円筒部12aの長尺矩形凹部12pおよび短尺矩形凹部12q以外の軸方向位置に外装され、それは軸方向溝12avに一列に連続して埋設される支軸ピン26の隣り合う支軸ピン26,26に跨って配置され、支軸ピン26および揺動爪部材Rの脱落を防止する。
カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの軸方向溝12avに埋設される支軸ピン26は、中央円筒部12aの外周面に接する深さに埋設されるので、軸受カラー部材13が外装されると、ガタなく固定される。
【0091】
7個の軸受カラー部材13がカウンタ歯車軸12に等間隔に外装され、隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして被動変速歯車nが回転自在に軸支される。
各被動変速歯車nは、左右内周縁部(内周面の左右周縁部)に切欠きが形成されて左右切欠きの間に薄肉環状の突条30が形成されており、この突条30を挟むように左右の軸受カラー部材13,13が切欠きに滑動自在に係合する(図3,図4参照)。
【0092】
この各被動変速歯車nの内周面の突条30に、係合凸部31が周方向に等間隔に6箇所形成されている(図3,図4,図5,図6参照)。
係合凸部31は、側面視(図5,図6に示す軸方向視)で薄肉円弧状をなし、その周方向の両端面が前記揺動爪部材Rの係合爪部Rpと係合する係合面をなす。
【0093】
正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)と逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は、互いに対向する側に係合爪部Rp,Rpを延出しており、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車n(およびカウンタ歯車軸12)の正回転方向で係合凸部31に当接して係合し、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの逆の回転方向で、係合凸部31に当接して係合する。
【0094】
なお、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車nの逆の回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合せず、同様に、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの正回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合しない。
【0095】
こうして6個の被動変速歯車nがカウンタ歯車軸12に組み付けられた状態で、カウンタ歯車軸12が機関ケース1の側壁および軸受蓋部材8に左右のベアリング7L,7Rを介して回転自在に軸支されると、6個の被動変速歯車nと7個の軸受カラー部材13が交互に組み合わされて左右から挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
軸受カラー部材13は、各被動変速歯車nの軸方向の力を支え、軸方向の位置決めとスラスト力を受けることができる。
【0096】
カムロッドCがニュートラル位置にあると、全ての被動変速歯車nは、それぞれ対応する係合手段20のカムロッドCの移動位置によりピン部材23が突出して揺動爪部材Rのピン受部Rrを内側から押し上げ係合爪部Rpを内側に引っ込めた係合解除状態にあって、カウンタ歯車軸12に対して自由に回転する。
【0097】
一方、係合手段20のカムロッドCのニュートラル位置以外の移動位置によりピン部材23がカム溝vに入り揺動爪部材Rが揺動して係合爪部Rpを外側に突出した係合可能状態となれば、対応する被動変速歯車nの係合凸部31が係合爪部Rpに当接して、該被動変速歯車nの回転がカウンタ歯車軸12に伝達されるか、またはカウンタ歯車軸12の回転が該被動変速歯車nに伝達される。
【0098】
前記変速駆動機構50において、変速用アクチュエータの駆動または手動のシフト操作によってシフトドラム67を所定量回動し、シフトドラム67の回動がシフト案内溝Gに嵌合したシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に所定量移動し、ロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0099】
カムロッドCが軸方向に移動することで、カムロッドCのカム面に摺接するピン部材23がカム溝vに入ったり抜けたりして進退し、揺動爪部材Rを揺動して、被動変速歯車nとの係合を解除し、他の被動変速歯車nと係合してカウンタ歯車軸12と係合する被動変速歯車nを変えることで変速が行われる。
【0100】
内燃機関の動力は、摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達されて、第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m1,m2,m3,m4,m5,m6を一体に回転しており、これらにそれぞれ常時噛合する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6をそれぞれの回転速度で回転させている。
【0101】
図3ないし図6は、1速状態を示しており、図5では第1被動変速歯車n1が矢印方向に回転し、図6では第2被動変速歯車n2が矢印方向に回転しており、第1被動変速歯車n1よりも第2被動変速歯車n2が高速で回転している。
【0102】
第1被動変速歯車n1に対応する係合手段20のピン部材23のみが正回転奇数段用カムロッドCaoのカム溝v1に入っており(図3参照)、したがって該係合手段20の正回転奇数段揺動爪部材Raoが係合爪部Rpを外側に突出して、回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに係合して(図5参照)、カウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1とともに第1被動変速歯車n1と同じ回転速度で回転している。
【0103】
この1速状態では、第2被動変速歯車n2は、対応する係合手段20のピン部材23が偶数段用カムロッドCae,Cbeのカム溝v2から出て突出し(図4参照)、該係合手段20の偶数段揺動爪部材Rae,Rbeが係合爪部Rpを内側に引っ込めているので、空回りしている。
他の第3,第4,第5,第6被動変速歯車n3,n4,n5,n6も同様で空回りしている(図3,図4参照)。
【0104】
ここで、2速に変速すべくシフトセレクトレバーの手動操作があり、シフトドラム67が回動してシフトロッド51が軸方向右方に移動し始めると、ロストモーション機構52,53のコイルスプリング52s,53sを介して8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動して軸方向右方に移動しようとする。
【0105】
以下、内燃機関の駆動による加速時に、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする過程の1状態を、図14に示し説明する。
図14(a)は当該状態の図3の歯車等を省略した断面図であり、図14(b)は当該状態の図4の歯車等を省略した断面図であり、図14(c)は図14(a),図14(b)のc−c線断面図(第1被動変速歯車n1の断面図)、図14(d)は図14(a),図14(b)のd−d線断面図(第2被動変速歯車n2の断面図)である。
【0106】
図14(d)を参照して、正回転偶数段用カムロッドCaeの移動で、カム溝v2にピン部材23が入り、よって第2被動変速歯車n2に対応する正回転偶数段揺動爪部材Raeが圧縮スプリング22の付勢力および係合爪部Rpの遠心力により揺動して係合爪部Rpを外側に突出し、第2被動変速歯車n2に係合可能となり、第1被動変速歯車n1とともに回転するカウンタ歯車軸12より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつき当接する。
【0107】
図14は、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつく直前の状態を示しており、図14(c)で第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoと係合した状態で、同時に図14(d)に示すように第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつく直前である。
なお、図14(c)において、有効に動力伝達している揺動爪部材Rと係合凸部31には格子ハッチを施している。
【0108】
図14に示す状態から、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつくと、より高速で回転する第2被動変速歯車n2によりカウンタ歯車軸12が第2被動変速歯車n2と同じ回転速度で回転し始め、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れ、実際の1速から2速へのシフトアップが実行される。
【0109】
第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れることで、正回転奇数段揺動爪部材Raoを固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のコイルスプリング53sにより付勢されていた正回転奇数段用カムロッドCaoが後れて右方に移動してカム溝v1に入っていたピン部材23が抜け出し、正回転奇数段揺動爪部材Raoを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込める。
【0110】
以上のように、1速の加速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする際に、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに当接して係合しカウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1と同速度で回転させている状態で、より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの係合爪部Rpに追いつき当接してカウンタ歯車軸12を第2被動変速歯車n2とともにより高速度で回転させて変速するので、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpは自然と離れていき係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0111】
2速から3速、3速から4速、4速から5速、5速から6速の各シフトアップも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段小さい被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合してシフトアップがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトアップ時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0112】
シフトダウンも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段大きい被動変速歯車nに揺動爪部材Rが係合してシフトダウンがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトダウン時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0113】
カウンタ歯車軸12は、内側中空部にシフトロッド51、8本のカムロッドC、ロストモーション機構52,53などが収容され、これらの摺動する部材に潤滑油を供給する必要があるが、図2に示すように、カウンタ歯車軸12の左端部には出力スプロケット32が設けられ、右端部に変速駆動機構50の一部が設けられているため、両端から潤滑油を導入できない。
そこで、本カウンタ歯車軸12は、左ベアリング7Lによる軸支部の左側にオイル導入孔12xを形成して外周面から潤滑油を導入する潤滑構造を採用している。
【0114】
以下、カウンタ歯車軸12の内側中空部に潤滑油を供給する潤滑構造について図15ないし図21に基づき説明する。
図15および図16の下側機関ケース1Lの上面図と側面図を参照して、下側機関ケース1Lのベアリング7Lのアウタレース7Loを嵌合支持する軸受部1bは、内径を縮径して軸方向外側に膨出した軸受開口部1eを有しており、軸受部1bと軸受開口部1eの各内周面の軸方向外側寄りに内周溝1bv、1evが形成されている。
また、軸受開口部1eの内周面の軸方向内側に内周突条1epが形成されている(図18参照)。
【0115】
なお、軸受部1bと軸受開口部1eは上側機関ケース1Rにも形成されるものである。
図15および図16に示すように、下側機関ケース1Lには主油路Yが形成されていて、主油路Yから分岐した枝油路yが軸受開口部1eに延びて軸受開口部1eの内周面に油路開口1xを形成している(図18参照)。
【0116】
一方、カウンタ歯車軸12は、ジャーナル部12jにベアリング7Lを最大外径の中央円筒部12aとの間にワッシャ14Lを挟んで嵌着した状態(図17参照)で、同ベアリング7Lが機関ケース1の軸受部1bにアウタレース7Loを止め輪45で位置決めされて嵌合されると、図18に示すように、軸受開口部1eの内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に環状空間が構成され、下側機関ケース1Lの枝油路yの油路開口1xとカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xとが略同じ軸方向位置で同環状空間に開口している。
【0117】
この軸受開口部1eの油路開口1xを有する内周面に環状のオイルシール40が内嵌され、同オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xを有する外周面との間に円筒状カラー部材33が嵌挿される。
図19に示すように、環状のオイルシール40は、円筒部と内フランジ部とで断面L字に屈曲した環状金属片にゴム部材が焼き付けられた大径の外側環状シール部片41と小径の内側環状シール部片42が、同軸に内フランジ部を互いに外側にし軸方向に互いにオフセットして組み合わされゴム部材が互いを連結して構成されている。
【0118】
外側環状シール部片41はカウンタ歯車軸12の軸方向外側に位置し、軸方向内側の内側環状シール部片42は円筒部が外側環状シール部片41の円筒部の内側に適当な間隔を存して入り込んでいる。
そして、外側環状シール部片41のゴム部材は、内フランジ部の内周縁部が軸方向内側に向け若干中心軸側に斜めに環状弾性リップ部41iが延出して形成されており、内側環状シール部片42の円筒部は外側環状シール部片41の円筒部と環状弾性リップ部41iとの間に挿入された構成となっている。
なお、環状弾性リップ部41iの先端近傍にはリングバネ43が外嵌される。
【0119】
一方、内側環状シール部片42は、内フランジ部の内周縁部(オイルシール40の軸方向内側の内周縁部)から中心軸側に斜め軸方向外側(カウンタ歯車軸12の軸方向外側であって図7において左側)に向けて突出した内側弾性リップ部42iが環状に設けられている。
また、内側環状シール部片42の内フランジ部の外周縁部から遠心側に斜め軸方向内側に向けて突出した外側弾性リップ部42oが環状に設けられている。
そのため、オイルシール40は、内周面に環状弾性リップ部41iと内側弾性リップ部42iとの間に周方向に亘って開口した内周環状開口40xiが形成され、外周面に外側環状シール部片41の円筒部と外側弾性リップ部42oとの間に周方向に亘って開口した外周環状開口40xoが形成されている。
【0120】
そして、外側環状シール部片41と内側環状シール部片42は、外側環状シール部片41の円筒部と内フランジ部と環状弾性リップ部41iとからなる断面コ字部の中に内側環状シール部片42の円筒部が挿入されて両者間に形成された断面コ字状の間隙をゴム部材が内部連通路40xを残して部分的に連結しており、内部連通路40xは外周環状開口40xoと内周環状開口40xiを連通している。
【0121】
このオイルシール40の最大外径は、外側環状シール部片41の円筒部のゴム部材の外周面がなす外径で軸受開口部1eの内径より幾らか大きいが、弾性変化する。
オイルシール40の外力が加わらないときの最小内径は、環状弾性リップ部41iと内側弾性リップ部42iがなす内径dsである(図19参照)。
なお、オイルシール40の内径は弾性変化する。
【0122】
一方で、オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材33は、図19を参照して、軸方向内側端部33eを除く主体部33aの外径(円筒状カラー部材33の最大外径)d1に比較して軸方向内側端部33eの外径d2が小さく形成されている。
そして、軸方向内側端部33eの先端部は、先細りとなってテーパ面33tが形成され、テーパ面33tの先端縁の外径d3は、内側弾性リップ部42iの内径dsより小さいが、軸方向内側端部33eの外径d2は、内側弾性リップ部42iの内径dsより大きい。
すなわち、d3<ds<d2<d1の関係にある。
【0123】
円筒状カラー部材33の内周面には、主体部33aと軸方向内側端部33eとの境目辺りに周方向一周に亘って内周溝33xiが形成され、同内周溝33xiから外周面に穿孔する連通孔33xが周方向に複数形成されている。
なお、円筒状カラー部材33は、軸方向外側端部の外周縁に切欠き33bが形成されている。
【0124】
図20に示すように、オイルシール40が、機関ケース1の軸受開口部1eに挿入され、軸受開口部1eの内周面所定位置に内嵌し、内周溝1evに嵌合された止め輪46により位置決めされると、外側弾性リップ部42oが内周突条1epに圧接して外周環状開口40xoが軸受開口部1eの内周面の油路開口1xに臨む。
このように軸受開口部1eに内嵌されたオイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に、円筒状カラー部材33が嵌挿される。
【0125】
円筒状カラー部材33は主体部33aより外径の小さい外径d2の軸方向内側端部33e側(テーパ面33t側)から外径d2より小さい内径dsを有するオイルシール40に嵌挿されるので、軸方向内側端部33eの先端のテーパ面33tがまず環状弾性リップ部41iに接し拡径して貫通し、次いで軸方向内側端部33eの先端の傾斜したテーパ面33tが、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部42iの先端縁に軸方向外側から接し、内側弾性リップ部42iの先端縁は中心軸側に斜め軸方向外側に向いたまま滑りながらめくり返されることなく拡径し、軸方向内側端部33eの外径d2の外周面に至り、図21に実線で示すように、内側弾性リップ部42iは中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材33の軸方向内側端部33eの外周面に弾性的に圧接する。
【0126】
円筒状カラー部材33は主体部33aより軸方向内側端部33eの外径d2が小さく先端にテーパ面33tを有するので、円筒状カラー部材33の嵌挿により内側弾性リップ部42iがめくり返されことがなく、よって何度も進退させることでめくり返しを元の正常な姿勢に戻すようなことはせずに、一度の嵌挿作業で内側弾性リップ部42iを中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材33に圧接することができる。
【0127】
上記したように嵌挿された円筒状カラー部材33がベアリング7Lのインナレース7Liに当接すると、円筒状カラー部材33の連通孔33xがオイルシール40の内周環状開口40xiに臨み、円筒状カラー部材33の内周溝33xiにカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xが臨むことになる(図20参照)。
こうして、カウンタ歯車軸12の内側中空部に供給する本潤滑構造が構成される。
【0128】
すなわち、本潤滑構造は、図20に矢印で示すように、下側機関ケース1Lの主油路Yから分岐した枝油路yに分流したオイルが、軸受開口部1eの内周面に開口した油路開口1xからオイルシール40の外周環状開口40xoに流入し、オイルシール40内の内部連通路40xを通って内周環状開口40xiから円筒状カラー部材33の連通孔33xに入り、内周溝33xiを介してカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xに導かれて、オイル導入孔12xよりカウンタ歯車軸12の内側中空部に供給される。
【0129】
要部を拡大した図21に実線で示すように、オイルシール40の内側弾性リップ部42iは中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢で円筒状カラー部材33に弾性的に圧接しており、オイルシール40の内部連通路40xを流れるオイルの油圧は、図21に矢印で示すように、内側弾性リップ部42iが円筒状カラー部材33に弾性的に圧接する方向にさらに重ねて作用することになり、円筒状カラー部材33の外周面との間の隙間を確実に閉じオイルの漏れを防止してカウンタ歯車軸12の内側中空部にオイルを十分供給することができる。
【0130】
ここに、円筒状カラー部材33が軸方向内側端部33eの先端にテーパ面33tを有しないと、円筒状カラー部材33の嵌挿に際して、軸方向内側端部33eの嵌挿方向に対して垂直な先端面がオイルシール40の内側弾性リップ部42iの先端縁に当接して先端縁をめくり返す可能性があり、めくられた状態で図21に一点鎖線で示すように、軸方向内側端部33eの外周面に至ることがあるが、軸方向内側端部33eの外径d2が比較的小さいので、嵌挿が終わると、内側弾性リップ部42iのめくり返された先端は自身の弾性力により中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢に戻ることができる。
このように、内側弾性リップ部42iを元の正常な姿勢に戻すことが可能であるが、めくり返された内側弾性リップ部42iにより円筒状カラー部材33の嵌挿は抵抗が大きく円滑ではない。
【0131】
また、軸方向内側端部33eの外径d2が縮径されずに、主体部33aと同じ外径d1を有していたとすると、図21に二点鎖線で示すように、軸方向内側端部33eの比較的大きな外径d1の外周面により大きくめくり返された内側弾性リップ部42iは自身の弾性力により中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢に復帰することができないことがある。
内側弾性リップ部42iがこのようにめくり返された状態にあると、オイルシール40の内部連通路40xを流れるオイルの油圧は内側弾性リップ部42iをさらにめくる方向に作用して円筒状カラー部材33の外周面との間に隙間を形成して潤滑油が漏れるおそれが多分にあり、カウンタ歯車軸12の内側中空部に潤滑油が十分供給されないことになる。
【0132】
そこで、本円筒状カラー部材33は、主体部33aより軸方向内側端部33eの外径d2が小さくすることで、内側弾性リップ部42iのめくり返しをなくして潤滑油の漏れを防止し、円筒状カラー部材33の先端部にテーパ面33tを有することで、円筒状カラー部材33の嵌挿を円滑にして組付作業を容易にしたものである。
【0133】
以上のように、機関ケース1の軸受開口部1eにオイルシール40が内嵌され、オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に円筒状カラー部材33が嵌挿された後は、皿バネ34を円筒状カラー部材33の切欠き33bに係合して、カウンタ歯車軸12のスプロケット溝12sに出力スプロケット32がスプライン嵌合される。
すなわち、カウンタ歯車軸12は、出力軸であり、スプライン嵌合された出力スプロケット32にチェーン38が巻き掛けられて、チェーン38を介して後輪側に動力が伝達され、車両が走行する。
【0134】
カウンタ歯車軸12上において、スプロケット溝12sにスプライン嵌合された出力スプロケット32を、左側から押さえるように一対の半割コッタ35,35が外周溝12fに嵌合し、環状をなす一対の半割コッタ35,35に環状リテーナ36を外嵌する。
【0135】
環状リテーナ36は、環状に合体した半割コッタ35,35の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなり、環状側壁が半割コッタ35,35の外側面に当接すると外周壁が半割コッタ35,35の外周面を覆い、半割コッタ35,35を保持する。
そして、カウンタ歯車軸12の最外端の雄ねじ12eに袋状のナット部材37を螺合させ、環状リテーナ36を半割コッタ35との間に挟んで固定する(図17参照)。
【0136】
このようにカウンタ歯車軸12にスプライン嵌合した出力スプロケット32は、半割コッタ35に当接して軸方向の移動を規制され、ベアリング7Lのインナレース7Liに当接した円筒状カラー部材33との間に介装された皿バネ34により、半割コッタ35に弾性的に押圧されている。
したがって、チェーン38の巻き掛けにより出力スプロケット32に作用する軸方向に振れる力成分を皿バネ34により吸収しながら所要の軸方向範囲内に出力スプロケット32を常に位置させて、安定した動力伝達を可能としている。
【0137】
ここで、本多段変速機10のカウンタ歯車軸12における潤滑構造について説明する。
図10のカウンタ歯車軸12の左側面図に示すように、カウンタ歯車軸12の中空の内周面には、前記8か所のカム案内溝12gを2つおきにした4か所の放射位置(周方向に等間隔位置)に軸方向給油溝12yがカム案内溝12gに平行に削成されている(図5,図6参照)。
【0138】
各軸方向給油溝12yは所要のピン部材23が存在する軸方向位置で径方向に穿孔された径方向給油孔12zに連通し、径方向給油孔12zは軸方向給油溝12yと揺動爪部材Rが嵌合される周方向溝12cvとを連通する。
なお、各軸方向給油溝12yはピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通せず、1つおきの軸方向位置の径方向給油孔12zと連通する。
【0139】
すなわち、4本の軸方向給油溝12yのうち一方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通し(図11参照)、他方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通する(図12参照)。
【0140】
オイル導入孔12xによりカウンタ歯車軸12の中空端部に導入された潤滑油を、軸方向給油溝12yがカウンタ歯車軸12の中空部内周面に沿って軸方向に導くので、軸方向の通油の油路抵抗を小さくして小型の給油アクチュエータでも係合切換機構(揺動爪部材R、ピン部材23、圧縮スプリング22等の係合手段20およびカムロッドC)の全体に円滑に給油を行い十分潤滑することができる。
【0141】
軸方向給油溝12yは4本形成され、各軸方向給油溝12yは、ピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通しないので、軸方向給油溝12yの一端から供給された潤滑油を他端まであまり油圧を下げることなく通油でき、軸方向に配列された係合切換機構に略均等に給油することができる。
【符号の説明】
【0142】
E…内燃機関、1…機関ケース、1U…上側機関ケース、1L…下側機関ケース、1b…軸受部、1e…軸受開口部、Y…主油路、y…枝油路、2…変速室、4…プライマリ被動ギヤ、5…摩擦クラッチ、6…クランク軸、7L,7R…ベアリング、8…軸受蓋部材、 10…多段変速機、11…メイン歯車軸、12…カウンタ歯車軸、12x…オイル導入孔、12y…軸方向給油溝、12z…径方向給油孔、12j…ジャーナル部、12s…スプライン溝、12e…雄ねじ、12f…外周溝、13…軸受カラー部材、
20…係合手段、32…出力スプロケット、33…円筒状カラー部材、33e…軸方向内側端部、33t…テーパ面、33x…連通孔、34…皿バネ、35…半割コッタ、36…環状リテーナ、37…ナット部材、
40…オイルシール、40x…内部連通路、40xi…内周環状開口、40xo…外周環状開口、41…外側環状シール部片、41i…環状弾性リップ部、42…内側環状シール部片、42i…内側弾性リップ部、42o…外側弾性リップ部、43…リングバネ、
50…変速駆動機構、51…シフトロッド、55…シフトロッド操作子、58…シフトピン、67…シフトドラム、
m…駆動変速歯車、n…被動変速歯車、C…カムロッド、R…揺動爪部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に軸支される軸部材の内側中空部に潤滑油を導入する潤滑構造および同潤滑構造を用いた多段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の軸部材がケースの軸受部にベアリングを介して回転自在に支持される構造の場合、軸部材の端部にケース側の蓋部を被せ、蓋部内の油路を経て軸部材の内側中空部に潤滑油を導入するのが一般的である。
しかし、軸部材の両端に種々の機構が取り付けられて、油路を形成することができない場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−47269
【0004】
特許文献1は、同じ出願人により先に出願した多段変速機の潤滑構造に係る発明であり、同特許文献1に開示された多段変速機は、メイン歯車軸に一体の歯車とカウンタ歯車軸に相対回転自在に軸支された歯車とが常時噛合い、カウンタ歯車軸内の係合切換え機構によりカウンタ歯車軸に有効に作用する歯車を選択して変速を行うものである。
【0005】
内部に係合切換え機構を備えるカウンタ歯車軸は、一端に駆動用スプロケットが設けられ、他端に変速用シフト機構が設けられているため、軸端部から中空部の係合切換え機構に潤滑油を導入することができないので、カウンタ歯車軸の周面から潤滑油を導入している。
すなわち、カウンタ歯車軸をベアリングを介して軸支するケースの軸受の軸受開口部に嵌挿された環状のオイルシールと円筒状カラー部材に潤滑油の導入路を形成して、軸受開口部の内周面に開口した油路開口とカウンタ歯車軸の内外を貫通した導入孔とを前記オイルシールと円筒状カラー部材の導入路が連通している。
【0006】
オイルシールの内周面とカウンタ歯車軸の外周面との間に円筒状カラー部材が挿入されるが、オイルシールの内周面に開口した内周環状開口と円筒状カラー部材の連通孔とが対向して連通すべくオイルシールの軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部が環状に設けられて、同内側弾性リップ部が円筒状カラー部材に押圧されて内周環状開口から連通孔に導かれる潤滑油の漏れを防止するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、オイルシールの環状の内側弾性リップ部の内径は、外力が加わらない状態では、円筒状カラー部材の外径より小さい。
そのため、軸受開口部に予め嵌挿された環状のオイルシールの内周面とカウンタ歯車軸の外周面との間に円筒状カラー部材が挿入されたとき、円筒状カラー部材の軸方向内側端面の外周縁部が、オイルシールの軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部のリップ先端に当接して内側弾性リップ部がめくり返され、内側弾性リップ部が元の中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した状態に弾性復帰せずにめくり返された状態のままとなってしまうことがある。
【0008】
内側弾性リップ部がめくり返された状態にあると、オイルシールの内周環状開口から円筒状カラー部材の連通孔に導かれる潤滑油の圧力が内側弾性リップ部をさらにめくる方向に作用して円筒状カラー部材の外周面との間に隙間を形成して潤滑油が漏れるおそれが多分にあり、カウンタ歯車軸の内側中空部に潤滑油が十分供給されないことになる。
【0009】
そこで、従来は、円筒状カラー部材の挿入により内側弾性リップ部がめくり返されたときは円筒状カラー部材を何度か軸方向に進退させて内側弾性リップ部が元の状態に復帰させ、その状態で円筒状カラー部材が所定位置に組付けられるように試行を繰り返す必要があり、組付け作業が容易ではなかった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、ケースの軸受開口部と軸部材との間にオイルシールと円筒状カラー部材を、潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けて軸部材の内側中空部に十分な潤滑油を導入できる潤滑構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本請求項1記載の発明は、
軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記軸部材(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記軸部材内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする潤滑構造である。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、同テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、
ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車(m1〜m6)と前記被動歯車(n1〜n6)の一方の複数の歯車が歯車軸(11)に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸(12)との間で歯車軸と各歯車の係合を歯車ごとに切り換える係合切換機構が備えられ、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機であって、
前記係合切換機構は、
各歯車(n1〜n6)の内周面の周方向複数箇所に周方向に係合面を有して設けられた係合部(31)と、
前記歯車軸(12)に軸支され揺動する一端が前記係合部(31)の係合面と係合および係合解除を行う揺動爪部材(R)と、
前揺動爪部材(R)の揺動する他端に径方向内側から接するピン部材(23)と、
前記歯車軸(12)の中空部内周面に軸方向に指向して削成されたカム案内溝(12g)に嵌って軸方向に移動し前記ピン部材(23)に摺接する摺接面に複数のカム面(v1〜v6)が軸方向所要箇所に形成され移動により前記ピン部材(23)を介して前記揺動爪部材(R)を作動する複数のカムロッド(C)とを備え、
前記変速駆動機構が、前記カムロッド(C)の内側で前記歯車軸(12)の中空中心軸に嵌挿され軸方向の移動により前記カムロッド(C)を移動させるシフトロッド(51)を備えた多段変速機において、
前記歯車軸(12)を回転自在に軸支する前記ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記歯車軸(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記歯車軸(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記歯車軸内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造を備え、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする多段変速機である。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の多段変速機において、
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項3または請求項4記載の多段変速機において、
前記係合切換機構が設けられた前記歯車軸(12)を出力軸(12)とし、
前記出力軸(12)における前記ベアリング(7L)のインナレース(7Li)が嵌合されるジャーナル部(12j)より外側に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ(12e)と、前記雄ねじ(12e)の内側に形成されたスプライン溝(12s)と、前記スプライン溝(12s)の前記雄ねじ(12e)との境目部分に周方向に形成された外周溝(12f)とからなり、
前記出力軸(12)に外嵌した前記円筒状カラー部材(33)が前記ジャーナル部(12j)に嵌着した前記インナレース(7Li)に当接し、
前記スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、
前記外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が前記出力スプロケット(32)を受けとめ、
前記半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が前記半割コッタ(35)に外嵌されて前記半割コッタ(35)を保持し、
前記雄ねじ(12e)に螺合したナット部材(37)が前記環状リテーナ(36)を前記半割コッタ(35)との間に挟むように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の潤滑構造によれば、軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に内嵌された環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材(33)が、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)を小さくしているので、円筒状カラー部材(33)の最大外径(d1)より小さく弾性変化する内径を有するオイルシール(40)のうち軸方向内側の環状の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)は円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外径(d2)より適度に小さくでき、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁が多少めくれた状態となっても、嵌挿を終えると、弾性によりめくれが解消され、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接する。
【0017】
内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接しているので、オイルシール(40)の内周環状開口(40xi)から円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に導かれる潤滑油の圧力は内側弾性リップ部(42i)が円筒状カラー部材(33)に弾性的に圧接する方向にさらに重ねて作用することになり、円筒状カラー部材(33)の外周面との間の隙間を確実に閉じ潤滑油の漏れを防止して軸部材(12)の内側中空部に潤滑油を十分供給することができる。
【0018】
このように、環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)を何度も進退させることなく一度の嵌挿作業で、ケース(1)の軸受開口部(1e)と軸部材(12)との間にオイルシール(40)と円筒状カラー部材(33)を潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けることができる。
【0019】
請求項2の潤滑構造によれば、円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)がオイルシール(40)の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいので、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁は筒状カラー部材(33)のテーパ面に接して滑りながら拡径し、めくり返されることなく軸方向内側端部(33e)の外周面に至り、よって内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢のまま円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接することができ、より円滑に組付け作業ができる。
【0020】
請求項3の多段変速機によれば、ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機において、ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に内嵌された環状のオイルシール(40)の内周面と歯車軸(12)の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材(33)が、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)を小さくしているので、円筒状カラー部材(33)の最大外径(d1)より小さく弾性変化する内径を有するオイルシール(40)のうち軸方向内側の環状の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)は円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外径(d2)より適度に小さくでき、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁が多少めくれた状態となっても、嵌挿を終えると、弾性によりめくれが解消され、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接する。
【0021】
内側弾性リップ部(42i)の円筒状カラー部材(33)への弾性力による圧接が弱くても、オイルシール(40)の内周環状開口(40xi)から円筒状カラー部材(33)の連通孔(33x)に導かれる潤滑油の圧力が中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)を円筒状カラー部材(33)に圧接する方向に作用して円筒状カラー部材の外周面との間の隙間を確実に閉じ潤滑油の漏れを防止して軸部材の内側中空部に潤滑油を十分供給することができる。
【0022】
このように、環状のオイルシール(40)の内周面と軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)を何度も進退させることなく一度の嵌挿作業で、ケース(1)の軸受開口部(1e)と軸部材(12)との間にオイルシール(40)と円筒状カラー部材(33)を潤滑油の漏れが防止できる正常な状態に簡単に組付けることができ、多段変速機の組付け作業を容易にする。
【0023】
請求項4の多段変速機によれば、円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)がオイルシール(40)の内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいので、円筒状カラー部材(33)の嵌挿に際して、中心軸側に斜め軸方向外側に向いた内側弾性リップ部(42i)の環状の先端縁は筒状カラー部材(33)のテーパ面に接して滑りながら拡径し、めくり返されることなく軸方向内側端部(33e)の外周面に至り、よって内側弾性リップ部(42i)は中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢のまま円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の外周面に弾性的に圧接することができ、より円滑に組付け作業ができる。
【0024】
請求項5の多段変速機によれば、出力軸(12)の軸端部におけるジャーナル部(12j)に嵌着したベアリング(7L)のインナレース(7Li)に出力軸(12)に外嵌した円筒状カラー部材(33)が当接し、スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が出力スプロケット(32)を受けとめ、半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が半割コッタ(35)に外嵌されて半割コッタ(35)を保持し、雄ねじ(12e)に螺合されたナット部材(37)が環状リテーナ(36)を半割コッタ(35)との間に挟むように構成したので、出力軸(12)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が円筒状カラー部材(33)と半割コッタ(35)との間に皿バネ(34)を介して挟まれて支持されるために、出力スプロケット(32)は軸方向に振れる力成分を吸収しながら所要の軸方向範囲内に常に位置して、安定した動力伝達を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段変速機が組み込まれた内燃機関の一部省略した右側面図である。
【図2】多段変速機の断面図(図1のII−II線断面図)である。
【図3】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す断面図(図5,図6のIII−III線断面図)である。
【図4】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す別の断面図(図5,図6のIV−IV線断面図)である。
【図5】図3,図4のV−V線断面図である。
【図6】図3,図4のVI−VI線断面図である。
【図7】シフトロッドとロストモーション機構の分解斜視図である。
【図8】シフトロッドにロストモーション機構組み付けた状態とカムロッド等の分解斜視図である。
【図9】カウンタ歯車軸およびピン部材とスプリングの一部の分解斜視図である。
【図10】カウンタ歯車軸の左側面図(図9のX矢視図)である。
【図11】揺動爪部材および支軸ピン,ピン部材,スプリングの分解斜視図である。
【図12】カウンタ歯車軸に変速駆動機構の一部および係合手段を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図13】図12に示す状態のカウンタ歯車軸に1つの軸受カラー部材を外装した状態を示す斜視図である。
【図14】シフトアップする過程の1状態を示す説明図である。
【図15】下側機関ケース1Lの上面図である。
【図16】同側面図である。
【図17】カウンタ歯車軸の左側軸受部分近傍の拡大断面図(図16のXVII−XVII線断面図)である。
【図18】同カウンタ歯車軸の左側軸受部分近傍の分解拡大断面図である。
【図19】オイルシールと円筒状カラー部材の分解拡大断面図である。
【図20】カウンタ歯車軸の潤滑構造を示す図17の要部を拡大した断面図である。
【図21】図20の一部をさらに拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図21に基づいて説明する。
本実施の形態に係る多段変速機10は、自動二輪車に搭載される内燃機関に組み込まれて構成されている。
図1は内燃機関Eの一部省略した右側面図であり、図2は多段変速機10の断面図(図1のII-II線断面図)であり、同図1および図2に示すように、該多段変速機10は、内燃機関と共通の機関ケース1に設けられている。
【0027】
機関ケース1の右側面図である図1に示すように、機関ケース1は、左右水平方向に指向するクランク軸6を境に上下割りの上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lが合体して構成されており、同機関ケース1は変速室2を一体に形成しており、同変速室2内に多段変速機10のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12が互いに平行に左右水平方向に指向して回転自在に軸支される。
上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lは、クランク軸6およびクランク軸6と同じ高さ位置で変速室2内の高い位置にあるカウンタ歯車軸12を上下から挟むように軸支して合体する。
【0028】
図2を参照して、合体した機関ケース1の後半部に変速室2が形成され、機関ケース1は変速室2内のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の左側部位を軸支するが、右側は大きく開いた変速室開口が形成され、同変速室開口を軸受蓋部材8が覆い、機関ケースの一部をなす同軸受蓋部材8がメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の右側部位を軸支する。
【0029】
メイン歯車軸11は、下側機関ケース1Lの側壁と軸受蓋部材8にベアリング3L,3Rを介して回転自在に軸支され、右ベアリング3Rを貫通して変速室2から突出した右端部には多板式の摩擦クラッチ5が設けられている。
摩擦クラッチ5の左側には、クランク軸6の回転が伝達されるプライマリ被動ギヤ4がメイン歯車軸11に回転自在に軸支されている。
内燃機関のクランク軸の回転がプライマリ被動ギヤ4から係合状態の摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達される。
【0030】
図2を参照して、メイン歯車軸11は中空円筒状をなし、中空内は比較的大きな内径の長尺の大径孔部11aと右側部の若干縮径した小径孔部11bとからなり、大径孔部11aに長尺プッシュロッド15lが挿入され、小径孔部11bに短尺プッシュロッド15sが摺動自在に嵌挿され、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrは小径孔部11bに嵌挿され、短尺プッシュロッド15sの左端部との間に3個のボール16を挟んでいる。
ボール16は小径孔部11bに軸方向の同位置に3個が入る外径を有し、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrと短尺プッシュロッド15sの左端部の互いに対向する端面には円環状に浅い環状溝が形成されていて3個のボール16を安定して挟持することができる。
【0031】
長尺プッシュロッド15lの左端部は、下側機関ケース1Lを左方に貫通して、クラッチ油圧アクチュエータ17のピストン17pに嵌着されている。
一方、短尺プッシュロッド15sの右端部は、メイン歯車軸11から右方に突出して摩擦クラッチ5のプレッシャプレート5pの中心部に当接している。
【0032】
したがって、クラッチ油圧アクチュエータ17が作動してピストン17pが長尺プッシュロッド15lを右方に押すと、ボール16を介して短尺プッシュロッド15sが押されて、プレッシャプレート5pをクラッチスプリング5sの弾性力に抗してプレッシャプレート5pを右方に移動させてクラッチスプリング5sの弾性力により係合していた摩擦クラッチ5の係合を解除することができる。
3個のボール16はスラストベアリングの役割をなし、短尺プッシュロッド15sの回転を長尺プッシュロッド15lに伝達しない。
【0033】
カウンタ歯車軸12は、その左側部位が上側機関ケース1Rと下側機関ケース1Lの両側壁間に挟まれたベアリング7Lを介して軸支され、右端部が軸受蓋部材8にベアリング7Rを介して軸支される。
【0034】
メイン歯車軸11には、左右のベアリング3L,3Rの間に駆動変速歯車m群がメイン歯車軸11と一体に回転可能にメイン歯車軸11に構成されている。
右ベアリング3Rに沿って第1駆動変速歯車m1がメイン歯車軸11に一体に形成され、メイン歯車軸11の同第1駆動変速歯車m1と左ベアリング3Lとの間に形成されたスプラインに右から左へ順に順次径を大きくした第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m2,m3,m4,m5,m6がスプライン嵌合されている。
【0035】
他方、カウンタ歯車軸12には、左右のベアリング7L,7Rの間に被動変速歯車n群が円環状の軸受カラー部材13を介して回転自在に軸支されている(図3,図4参照)。
カウンタ歯車軸12において、図3および図4に示すように、右ベアリング7Rの左に介装されたカラー部材14Rを介して外装された右端の軸受カラー部材13と、左ベアリング7Lの右に介装されたカラー部材14Lを介して外装された左端の軸受カラー部材13との間に、等間隔に5つの軸受カラー部材13が外装され、この全部で7つの軸受カラー部材13の隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして右から左へ順に順次径を小さくした第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6が回転自在に軸支されている。
【0036】
メイン歯車軸11と一体に回転する第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m1,m2,m3,m4,m5,m6は、カウンタ歯車軸12に回転自在に軸支される対応する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6にそれぞれ常時噛み合っている。
【0037】
第1駆動変速歯車m1と第1被動変速歯車n1の噛合が、最も減速比の大きい1速を構成し、第6駆動変速歯車m6と第6被動変速歯車n6の噛合が、最も減速比の小さい6速を構成し、その間順次減速比が小さくなって2速、3速、4速、5速が構成される。
カウンタ歯車軸12に変速段が奇数段の奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)と変速段が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)が交互に配列されることになる。
【0038】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、各被動変速歯車nと係合可能な係合手段20が後記するように組み込まれ、後記するように係合手段20の1構成要素である種類ごと2本ずつ4種類の計8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)がカウンタ歯車軸12の中空内周面に形成された後記するカム案内溝12gに嵌合して軸方向に移動自在に設けられる。
【0039】
このカムロッドCを駆動して変速する変速駆動機構50の1構成要素であるシフトロッド51が、カウンタ歯車軸12の中空中心軸に挿入されており、シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介して連動してカムロッドCを軸方向に移動する。
【0040】
このシフトロッド51を軸方向に移動する機構が、軸受蓋部材8に設けられている。
シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介してカムロッドCを軸方向に連動し、このカムロッドCの移動がカウンタ歯車軸12に組み込まれた係合手段20により各被動変速歯車nを選択的にカウンタ歯車軸12と係合して変速を行う。
【0041】
カウンタ歯車軸12に設けられるカウンタ歯車軸12と各被動変速歯車nとを選択的に係合する係合手段20について以下に説明する。
図7を参照して、変速駆動機構50のシフトロッド51は、円柱棒状をなし、軸方向の左右2か所に縮径して形成された外周凹部51a,51bがそれぞれ所定長さに亘って形成されている。
シフトロッド51の右端は雄ねじが形成された雄ねじ端部51bbとなっており、雄ねじ端部51bbの手前に6角形状のナット部51cが形成されている。
【0042】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bにそれぞれ対応してロストモーション機構52,53が組み付けられる。
左右のロストモーション機構52,53は、同じ構造のものを互いに左右対称になるように配設している。
【0043】
左側のロストモーション機構52は、シフトロッド51を摺動自在に嵌挿するスプリングホルダ52hが長尺ホルダ52hlと短尺ホルダ52hsの連結で構成され、内周面にシフトロッド51の外周凹部51aに対応する内周凹部52haが形成されている。
【0044】
このスプリングホルダ52hにシフトロッド51を貫通させてスプリングホルダ52hを外周凹部51aに位置させたとき、スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間が共通の空間を構成する。
【0045】
スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間に跨るようにスプリング受けである左右一対のコッタ52c,52cが対向して嵌挿され、両コッタ52c,52c間にシフトロッド51に巻回される圧縮コイルスプリング52sが介装されて両コッタ52c,52cを離間する方向に付勢する。
なお、コッタ52cは、スプリングホルダ52hの内周凹部52haの内径を外径とし、シフトロッド51の外周凹部51aの外径を内径とした中空円板状をなし、組み付けのため半割りにされている。
【0046】
右側のロストモーション機構53(スプリングホルダ53h,長尺ホルダ53hl,短尺ホルダ53hs,内周凹部53ha,コッタ53c,圧縮コイルスプリング53s)も同じ構造をしてシフトロッド51の外周凹部51bに配設される。
したがって、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左右のロストモーション機構52,53の圧縮コイルスプリング52s,53sを介してスプリングホルダ52h,53hが軸方向に移動する。
【0047】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bに取り付けられたロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外周面に、8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)が放射位置にあって当接される(図8参照)。
【0048】
カムロッドCは、断面が矩形で軸方向に長尺に延びる角柱棒状部材であり、スプリングホルダ52h,53hと接する内周側面の反対側の外周側面がカム面を形成しており、カム面にカム溝vが所要3か所に形成され、内周側面にはスプリングホルダ52h,53hのいずれか一方を左右から挟むように係止する一対の係止爪pが突出している。
カムロッドCは、断面が特別な形状をしておらず概ね外形が単純な矩形の角柱棒状部材であるので、カムロッドCを容易に製造することができる。
【0049】
カム溝v1,v3,v5が奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する3か所に形成された奇数段用カムロッドCao,Cboには、正回転(加速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用と逆回転(減速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用の2種類があり、一方の正回転奇数段用カムロッドCaoは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転奇数段用カムロッドCboは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有する(図8参照)。
【0050】
同様に、カム溝v2,v4,v6が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する3か所に形成された偶数段用カムロッドCae,Cbeには、正回転用と逆回転用の2種類があり、一方の正回転偶数段用カムロッドCaeは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転偶数段用カムロッドCbeは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有する(図8参照)。
【0051】
したがって、シフトロッド51の軸方向の移動により、右側のロストモーション機構53の圧縮コイルスプリング53sを介してスプリングホルダ53hとともに正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動し、左側のロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介してスプリングホルダ52hとともに逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動する。
【0052】
図8に示すように、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分には、円筒状をしたシフトロッド操作子55が、その内側に嵌装されたボールベアリング56を介して取り付けられる。
【0053】
ボールベアリング56は、軸方向に2個連結したもので、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分に嵌入され、雄ねじ端部51bbに螺合されるナット57によりナット部51cとの間で挟まれて締結される。
【0054】
したがって、シフトロッド操作子55は、シフトロッド51の右端部を回転自在に保持している。
このシフトロッド操作子55の螺着されたナット57より右側に延出した円筒部に直径方向に穿孔したピン孔55hが形成されており、同ピン孔55hにシフトピン58が貫通する。
【0055】
シフトピン58は、シフトロッド操作子55を貫通して一方にのみ突出するもので(図2参照)、図8に示すように、その突出する端部が後記するシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合する円柱状の係合部58aであり、シフトロッド操作子55を貫通する小径円柱部58cと係合部58aとの間に直方体状をした摺動部58bが形成されている。
【0056】
図1および図2を参照して、メイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の右端部位をベアリング3R,7Rを介して軸支する軸受蓋部材8には、カウンタ歯車軸12と同軸に右方に突出して筒状ガイド部8gが形成されている。
筒状ガイド部8gは、シフトロッド操作子55が摺動する円孔8ghを備え、その下部が斜め下方に切り欠かれてガイド長孔8glが軸方向に長尺に形成されている。
【0057】
軸受蓋部材8の筒状ガイド部8gの斜め下方には支軸65が植設され、支軸65にベアリング66を介して円筒状のシフトドラム67が回動自在に軸支されている。
筒状ガイド部8gのガイド長孔8glにシフトロッド操作子55を嵌挿すると同時に、シフトロッド操作子55を貫通するシフトピン58の直方体状をした摺動部58bを筒状ガイド部8gのガイド長孔8glに摺動自在に嵌挿し、シフトピン58の端部の係合部58aをシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合させる。
変速用モータ等の変速用アクチュエータ(図示せず)の動力(または手動のシフト操作の作動力)を、シフトドラム67の側縁に形成されたギヤ67gに伝達してシフトドラム67を順次変速段位置に回動する。
【0058】
このシフトドラム67の回動によりシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に移動するシフトロッド移動機構(シフトドラム67,シフトピン58,シフトロッド操作子55)は、メイン歯車軸11の右端の摩擦クラッチ5とカウンタ歯車軸12上の被動変速歯車nとの間にコンパクトに配設される(図2参照)。
【0059】
シフトドラム67のシフト案内溝Gは、ドラム外周面に2周以上に亘って螺旋を描くように形成され、その間に所定回動角度(例えば150度)毎に1速から6速までの各変速段位置が順に形成されている。
なお、1速の前にニュートラルNの位置がある。
【0060】
シフトドラム67の回動は、シフト案内溝Gに係合部58aを係合させたシフトピン58を軸受蓋部材8の筒状ガイド部8gのガイド長孔8glにガイドされて軸方向に平行移動してシフトロッド操作子55を介してシフトロッド51を軸方向に移動し、シフトロッド51の移動がロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0061】
ロストモーション機構52,53が組み付けられたシフトロッド51は、カウンタ歯車軸12の中空内に挿入され中心軸に配設される。
この中空円筒状のカウンタ歯車軸12は、内径がロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外径に略等しく、シフトロッド51に取り付けられたスプリングホルダ52h,53hを摺動自在に嵌挿する。
【0062】
そして、カウンタ歯車軸12の中空の内周面における8か所の放射位置に断面が矩形の8本のカム案内溝12gが軸方向に指向して延出形成されている(図10参照)。
8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeは、図8に示す配列で対応するカム案内溝12gに摺動自在に嵌合する。
同種類のカムロッドCは、中心軸に関して対称位置に配設される。
カウンタ歯車軸12に対するカム部材Cの回り止めとなるカム案内溝12gは、断面コ字状の単純な形状をして簡単に加工成形できる。
【0063】
カム案内溝12gの深さはカムロッドCの放射方向の幅に等しく、よってカムロッドCの外周側面であるカム面はカム案内溝12gの底面に摺接し、内周側面は中空内周面と略同一面をなしてスプリングホルダ52h,53hの外周面に接し、内周側面から突出した係止爪pはスプリングホルダ52h,53hのいずれかを両側から挟むようにして掴む。
【0064】
図9を参照して、中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aの左右両側に外径が縮径された左側円筒部12bと右側円筒部12cが形成されている。
カウンタ歯車軸12の右側円筒部12cにはワッシャ14Rを介してベアリング7Rが嵌合される(図3,図4参照)。
【0065】
図9および図18に示すように、カウンタ歯車軸12の左側円筒部12bは、ベアリング7Lのインナレース7Liが嵌合されるジャーナル部12jより外側(左側)に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ12eと、雄ねじ12eの内側に形成されたスプライン溝12sと、同スプライン溝12sの雄ねじ12eとの境目部分に周方向に形成された外周溝12fとからなる。
【0066】
そして、ジャーナル部12jとスプライン溝12sとの間にカウンタ歯車軸12の内側中空部と外側を連通するオイル導入孔12xが周方向に複数穿孔されている。
なお、カウンタ歯車軸12の内側中空部の左端開口は栓部材39により閉塞される。
スプライン溝12sにスプライン嵌合される出力スプロケット32の組付構造およびオイル導入孔12xを用いる潤滑構造は後記する。
【0067】
カウンタ歯車軸12の中空内は、カム案内溝12gが形成される内径がスプリングホルダ52h,53hの外径に等しい小径内周面と、同小径内周面の軸方向両側の内径がカム案内溝12gの底面と略同一周面をなす大径内周面とが形成されている(図3,図4参照)。
右側の拡大内径部の内側に前記シフトロッド操作子55が半分程挿入されている。
【0068】
このように、カウンタ歯車軸12の中空内にシフトロッド51とロストモーション機構52,53と8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeが組み込まれると、これら全てが一緒に連れ回りして、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左側ロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介して逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動し、右側ロストモーション機構53のコイルスプリング53sを介して正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動する。
【0069】
カウンタ歯車軸12の軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aは、図9に示すように、外径が大きく厚肉に構成されており、この厚肉の外周部に周方向に一周する幅狭の周方向溝12cvが第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6に対応して軸方向に亘って等間隔に6本形成されるとともに、軸方向に指向した軸方向溝12avが周方向に亘って等間隔に4本形成されている。
【0070】
さらに、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部には、4本の軸方向溝12avで区画された4つの部分が各周方向溝12cvにおいて周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間に亘って長尺に左右均等に拡大した長尺矩形凹部12pと、周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間の一部で左右均等に拡大した短尺矩形凹部12qとが、軸方向に交互に形成されている。
【0071】
長尺矩形凹部12pの底面の周方向に離れた2か所に軸方向に長尺の楕円形をして周方向溝12cvに跨って若干凹んだスプリング受部12d,12dが形成されている。
また、短尺矩形凹部12qと軸方向溝12avとの間の厚肉部で周方向溝12cv上にピン孔12hが前記カム案内溝12gまで径方向に穿孔されている。
【0072】
すなわち、カウンタ歯車軸12の中空内周面から周方向の8か所に刻設されたカム案内溝12gの放射方向にピン孔12hが穿孔される。
各周方向溝12cv上にはそれぞれ4か所ピン孔12hが形成される。
【0073】
スプリング受部12dには、楕円形に巻回された圧縮スプリング22がその端部を嵌装させて設けられる。
ピン孔12hにはピン部材23が摺動自在に嵌挿される。
なお、ピン孔12hが連通するカム案内溝12gの幅は、ピン部材23の外径幅より小さい。
したがって、ピン孔12hを進退するピン部材23がカム案内溝12gに脱落することがないので、カウンタ歯車軸12への係合手段20の組み付けを容易にする。
【0074】
カム案内溝12gにはカムロッドCが摺動自在に嵌合されるので、ピン孔12hに嵌挿されたピン部材23は中心側端部が対応するカムロッドCのカム面に接し、カムロッドCの移動でカム溝vがピン孔12hに対応するとピン部材23がカム溝vに落ち込み、カム溝v以外の摺接面が対応するとピン部材は摺接面に乗り上げ、カムロッドCの移動により進退する。
ピン孔12h内でのピン部材23の進退は、その遠心側端部を周方向溝12cvの底面より外側に出没させる。
【0075】
以上のような構造のカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部に形成された長尺矩形凹部12pと短尺矩形凹部12qと両凹部間を連通する周方向溝12cvに、揺動爪部材Rが埋設され、軸方向溝12avに揺動爪部材Rを揺動自在に軸支する支軸ピン26が埋設される。
このようにして、全ての揺動爪部材Rが組み付けられた状態を図12に示す。
【0076】
図11の分解斜視図には、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rとが、互いの相対角度位置関係を維持した姿勢で図示されており、加えて各揺動爪部材Rを軸支する支軸ピン26および各揺動爪部材Rに作用する圧縮スプリング22とピン部材23が示されている。
【0077】
揺動爪部材Rは、全て同じ形状のものを使用しており、軸方向視で略円弧状をなし、中央に支軸ピン26が貫通する貫通孔の外周部が欠損して軸受凹部Rdが形成されており、同軸受凹部Rdの揺動中心に関して一方の側に長尺矩形凹部12pに揺動自在に嵌合する幅広矩形の係合爪部Rpが形成され、他方の側にはピン孔12hが形成された周方向溝12cvに揺動自在に嵌合する幅狭のピン受部Rrが延出し、その端部は短尺矩形凹部12qに至り幅広に拡大した幅広端部Rqが形成されている。
【0078】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrがピン孔12hが形成された周方向溝12cvに嵌合し、一方の係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに嵌合するとともに軸受凹部Rdが軸方向溝12avに合致し、他方の幅広端部Rqが短尺矩形凹部12qに嵌合する。
そして、合致した軸受凹部Rdと軸方向溝12avに支軸ピン26が嵌合される。
【0079】
揺動爪部材Rは、嵌合する周方向溝12cvに関して左右対称に形成されており、一方の幅広矩形の係合爪部Rpが他方のピン受部Rrおよび幅広端部Rqより重く、支軸ピン26に軸支されてカウンタ歯車軸12とともに回転したとき、遠心力に対して係合爪部Rpが重錘として作用して遠心方向に突出するように揺動爪部材Rを揺動させる。
【0080】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrが揺動中心に関して反対側の係合爪部Rp側より幅が狭く形成されている。
また、ピン受部Rrは、ピン部材23を受け止めるだけの幅を具えれば足りるので、揺動爪部材Rを小型に形成することができ、かつ他方の係合爪部Rpの遠心力による揺動を容易にすることができる。
【0081】
周方向に隣り合う揺動爪部材Rは、互いに対称な姿勢にカウンタ歯車軸12に組み付けられるので、互いに所定間隔を存して対向する係合爪部Rp,Rpは共通の長尺矩形凹部12pに嵌合し、他方の互いの近接する幅広端部Rqは共通の短尺矩形凹部12qに嵌合する。
【0082】
揺動爪部材Rの係合爪部Rpの内側にカウンタ歯車軸12のスプリング受部12dに一端を支持された圧縮スプリング22が介装され、ピン受部Rrの内側にピン孔12hに嵌挿されたピン部材23がカムロッドCとの間に介装される。
【0083】
このようにして、揺動爪部材Rが、支軸ピン26に揺動自在に軸支されてカウンタ歯車軸12の長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12q,周方向溝12cvに埋設され、一方の係合爪部Rpが圧縮スプリング22により外側に付勢され、他方のピン受部Rrがピン部材23の進退により押圧されることで、圧縮スプリング22の付勢力に抗して揺動爪部材Rが揺動する。
【0084】
ピン部材23が遠心方向に進行して揺動爪部材Rを揺動したときは、揺動爪部材Rは係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに没してカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものはない。
また、ピン部材23が退行したときは、圧縮スプリング22により付勢された係合爪部Rpがカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出し被動変速歯車nと係合可能とする。
【0085】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、互いに軸中心に90度回転した相対角度位置関係にある。
【0086】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転奇数段揺動爪部材Raoと、歯車の逆回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転奇数段係合部材Rboとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0087】
同様に、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転偶数段揺動爪部材Raeと、歯車の逆回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転偶数段係合部材Rbeとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0088】
正回転奇数段揺動爪部材Raoが前記正回転奇数段用カムロッドCaoの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転奇数段係合部材Rboが前記逆回転奇数段用カムロッドCboの移動により進退するピン部材23により揺動する。
同様に、正回転偶数段揺動爪部材Raeが前記正回転偶数段用カムロッドCaeの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転偶数段係合部材Rbeが前記逆回転偶数段用カムロッドCbeの移動により進退するピン部材23により揺動する。
【0089】
カウンタ歯車軸12に係合手段20を組み込む場合、まず右端の軸受カラー部材13を中央円筒部12aの外周端部に外装し、その軸受カラー部材13の内側の軸方向溝12avに支軸ピン26の一端を嵌入するようにして右端の係合手段20を組み込み、次の軸受カラー部材13を前記支軸ピン26の他端を覆うように外装し、被動変速歯車nを組み入れた後に、前段と同じようにして次段の係合手段20を組み込むことを、順次繰り返して、最後に左端の軸受カラー部材13を外装して終了する。
【0090】
図13に示すように、軸受カラー部材13は、中央円筒部12aの長尺矩形凹部12pおよび短尺矩形凹部12q以外の軸方向位置に外装され、それは軸方向溝12avに一列に連続して埋設される支軸ピン26の隣り合う支軸ピン26,26に跨って配置され、支軸ピン26および揺動爪部材Rの脱落を防止する。
カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの軸方向溝12avに埋設される支軸ピン26は、中央円筒部12aの外周面に接する深さに埋設されるので、軸受カラー部材13が外装されると、ガタなく固定される。
【0091】
7個の軸受カラー部材13がカウンタ歯車軸12に等間隔に外装され、隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして被動変速歯車nが回転自在に軸支される。
各被動変速歯車nは、左右内周縁部(内周面の左右周縁部)に切欠きが形成されて左右切欠きの間に薄肉環状の突条30が形成されており、この突条30を挟むように左右の軸受カラー部材13,13が切欠きに滑動自在に係合する(図3,図4参照)。
【0092】
この各被動変速歯車nの内周面の突条30に、係合凸部31が周方向に等間隔に6箇所形成されている(図3,図4,図5,図6参照)。
係合凸部31は、側面視(図5,図6に示す軸方向視)で薄肉円弧状をなし、その周方向の両端面が前記揺動爪部材Rの係合爪部Rpと係合する係合面をなす。
【0093】
正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)と逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は、互いに対向する側に係合爪部Rp,Rpを延出しており、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車n(およびカウンタ歯車軸12)の正回転方向で係合凸部31に当接して係合し、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの逆の回転方向で、係合凸部31に当接して係合する。
【0094】
なお、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車nの逆の回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合せず、同様に、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの正回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合しない。
【0095】
こうして6個の被動変速歯車nがカウンタ歯車軸12に組み付けられた状態で、カウンタ歯車軸12が機関ケース1の側壁および軸受蓋部材8に左右のベアリング7L,7Rを介して回転自在に軸支されると、6個の被動変速歯車nと7個の軸受カラー部材13が交互に組み合わされて左右から挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
軸受カラー部材13は、各被動変速歯車nの軸方向の力を支え、軸方向の位置決めとスラスト力を受けることができる。
【0096】
カムロッドCがニュートラル位置にあると、全ての被動変速歯車nは、それぞれ対応する係合手段20のカムロッドCの移動位置によりピン部材23が突出して揺動爪部材Rのピン受部Rrを内側から押し上げ係合爪部Rpを内側に引っ込めた係合解除状態にあって、カウンタ歯車軸12に対して自由に回転する。
【0097】
一方、係合手段20のカムロッドCのニュートラル位置以外の移動位置によりピン部材23がカム溝vに入り揺動爪部材Rが揺動して係合爪部Rpを外側に突出した係合可能状態となれば、対応する被動変速歯車nの係合凸部31が係合爪部Rpに当接して、該被動変速歯車nの回転がカウンタ歯車軸12に伝達されるか、またはカウンタ歯車軸12の回転が該被動変速歯車nに伝達される。
【0098】
前記変速駆動機構50において、変速用アクチュエータの駆動または手動のシフト操作によってシフトドラム67を所定量回動し、シフトドラム67の回動がシフト案内溝Gに嵌合したシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に所定量移動し、ロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0099】
カムロッドCが軸方向に移動することで、カムロッドCのカム面に摺接するピン部材23がカム溝vに入ったり抜けたりして進退し、揺動爪部材Rを揺動して、被動変速歯車nとの係合を解除し、他の被動変速歯車nと係合してカウンタ歯車軸12と係合する被動変速歯車nを変えることで変速が行われる。
【0100】
内燃機関の動力は、摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達されて、第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m1,m2,m3,m4,m5,m6を一体に回転しており、これらにそれぞれ常時噛合する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6をそれぞれの回転速度で回転させている。
【0101】
図3ないし図6は、1速状態を示しており、図5では第1被動変速歯車n1が矢印方向に回転し、図6では第2被動変速歯車n2が矢印方向に回転しており、第1被動変速歯車n1よりも第2被動変速歯車n2が高速で回転している。
【0102】
第1被動変速歯車n1に対応する係合手段20のピン部材23のみが正回転奇数段用カムロッドCaoのカム溝v1に入っており(図3参照)、したがって該係合手段20の正回転奇数段揺動爪部材Raoが係合爪部Rpを外側に突出して、回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに係合して(図5参照)、カウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1とともに第1被動変速歯車n1と同じ回転速度で回転している。
【0103】
この1速状態では、第2被動変速歯車n2は、対応する係合手段20のピン部材23が偶数段用カムロッドCae,Cbeのカム溝v2から出て突出し(図4参照)、該係合手段20の偶数段揺動爪部材Rae,Rbeが係合爪部Rpを内側に引っ込めているので、空回りしている。
他の第3,第4,第5,第6被動変速歯車n3,n4,n5,n6も同様で空回りしている(図3,図4参照)。
【0104】
ここで、2速に変速すべくシフトセレクトレバーの手動操作があり、シフトドラム67が回動してシフトロッド51が軸方向右方に移動し始めると、ロストモーション機構52,53のコイルスプリング52s,53sを介して8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動して軸方向右方に移動しようとする。
【0105】
以下、内燃機関の駆動による加速時に、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする過程の1状態を、図14に示し説明する。
図14(a)は当該状態の図3の歯車等を省略した断面図であり、図14(b)は当該状態の図4の歯車等を省略した断面図であり、図14(c)は図14(a),図14(b)のc−c線断面図(第1被動変速歯車n1の断面図)、図14(d)は図14(a),図14(b)のd−d線断面図(第2被動変速歯車n2の断面図)である。
【0106】
図14(d)を参照して、正回転偶数段用カムロッドCaeの移動で、カム溝v2にピン部材23が入り、よって第2被動変速歯車n2に対応する正回転偶数段揺動爪部材Raeが圧縮スプリング22の付勢力および係合爪部Rpの遠心力により揺動して係合爪部Rpを外側に突出し、第2被動変速歯車n2に係合可能となり、第1被動変速歯車n1とともに回転するカウンタ歯車軸12より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつき当接する。
【0107】
図14は、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつく直前の状態を示しており、図14(c)で第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoと係合した状態で、同時に図14(d)に示すように第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつく直前である。
なお、図14(c)において、有効に動力伝達している揺動爪部材Rと係合凸部31には格子ハッチを施している。
【0108】
図14に示す状態から、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつくと、より高速で回転する第2被動変速歯車n2によりカウンタ歯車軸12が第2被動変速歯車n2と同じ回転速度で回転し始め、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れ、実際の1速から2速へのシフトアップが実行される。
【0109】
第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れることで、正回転奇数段揺動爪部材Raoを固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のコイルスプリング53sにより付勢されていた正回転奇数段用カムロッドCaoが後れて右方に移動してカム溝v1に入っていたピン部材23が抜け出し、正回転奇数段揺動爪部材Raoを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込める。
【0110】
以上のように、1速の加速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする際に、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに当接して係合しカウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1と同速度で回転させている状態で、より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの係合爪部Rpに追いつき当接してカウンタ歯車軸12を第2被動変速歯車n2とともにより高速度で回転させて変速するので、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpは自然と離れていき係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0111】
2速から3速、3速から4速、4速から5速、5速から6速の各シフトアップも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段小さい被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合してシフトアップがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトアップ時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0112】
シフトダウンも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段大きい被動変速歯車nに揺動爪部材Rが係合してシフトダウンがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトダウン時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0113】
カウンタ歯車軸12は、内側中空部にシフトロッド51、8本のカムロッドC、ロストモーション機構52,53などが収容され、これらの摺動する部材に潤滑油を供給する必要があるが、図2に示すように、カウンタ歯車軸12の左端部には出力スプロケット32が設けられ、右端部に変速駆動機構50の一部が設けられているため、両端から潤滑油を導入できない。
そこで、本カウンタ歯車軸12は、左ベアリング7Lによる軸支部の左側にオイル導入孔12xを形成して外周面から潤滑油を導入する潤滑構造を採用している。
【0114】
以下、カウンタ歯車軸12の内側中空部に潤滑油を供給する潤滑構造について図15ないし図21に基づき説明する。
図15および図16の下側機関ケース1Lの上面図と側面図を参照して、下側機関ケース1Lのベアリング7Lのアウタレース7Loを嵌合支持する軸受部1bは、内径を縮径して軸方向外側に膨出した軸受開口部1eを有しており、軸受部1bと軸受開口部1eの各内周面の軸方向外側寄りに内周溝1bv、1evが形成されている。
また、軸受開口部1eの内周面の軸方向内側に内周突条1epが形成されている(図18参照)。
【0115】
なお、軸受部1bと軸受開口部1eは上側機関ケース1Rにも形成されるものである。
図15および図16に示すように、下側機関ケース1Lには主油路Yが形成されていて、主油路Yから分岐した枝油路yが軸受開口部1eに延びて軸受開口部1eの内周面に油路開口1xを形成している(図18参照)。
【0116】
一方、カウンタ歯車軸12は、ジャーナル部12jにベアリング7Lを最大外径の中央円筒部12aとの間にワッシャ14Lを挟んで嵌着した状態(図17参照)で、同ベアリング7Lが機関ケース1の軸受部1bにアウタレース7Loを止め輪45で位置決めされて嵌合されると、図18に示すように、軸受開口部1eの内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に環状空間が構成され、下側機関ケース1Lの枝油路yの油路開口1xとカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xとが略同じ軸方向位置で同環状空間に開口している。
【0117】
この軸受開口部1eの油路開口1xを有する内周面に環状のオイルシール40が内嵌され、同オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xを有する外周面との間に円筒状カラー部材33が嵌挿される。
図19に示すように、環状のオイルシール40は、円筒部と内フランジ部とで断面L字に屈曲した環状金属片にゴム部材が焼き付けられた大径の外側環状シール部片41と小径の内側環状シール部片42が、同軸に内フランジ部を互いに外側にし軸方向に互いにオフセットして組み合わされゴム部材が互いを連結して構成されている。
【0118】
外側環状シール部片41はカウンタ歯車軸12の軸方向外側に位置し、軸方向内側の内側環状シール部片42は円筒部が外側環状シール部片41の円筒部の内側に適当な間隔を存して入り込んでいる。
そして、外側環状シール部片41のゴム部材は、内フランジ部の内周縁部が軸方向内側に向け若干中心軸側に斜めに環状弾性リップ部41iが延出して形成されており、内側環状シール部片42の円筒部は外側環状シール部片41の円筒部と環状弾性リップ部41iとの間に挿入された構成となっている。
なお、環状弾性リップ部41iの先端近傍にはリングバネ43が外嵌される。
【0119】
一方、内側環状シール部片42は、内フランジ部の内周縁部(オイルシール40の軸方向内側の内周縁部)から中心軸側に斜め軸方向外側(カウンタ歯車軸12の軸方向外側であって図7において左側)に向けて突出した内側弾性リップ部42iが環状に設けられている。
また、内側環状シール部片42の内フランジ部の外周縁部から遠心側に斜め軸方向内側に向けて突出した外側弾性リップ部42oが環状に設けられている。
そのため、オイルシール40は、内周面に環状弾性リップ部41iと内側弾性リップ部42iとの間に周方向に亘って開口した内周環状開口40xiが形成され、外周面に外側環状シール部片41の円筒部と外側弾性リップ部42oとの間に周方向に亘って開口した外周環状開口40xoが形成されている。
【0120】
そして、外側環状シール部片41と内側環状シール部片42は、外側環状シール部片41の円筒部と内フランジ部と環状弾性リップ部41iとからなる断面コ字部の中に内側環状シール部片42の円筒部が挿入されて両者間に形成された断面コ字状の間隙をゴム部材が内部連通路40xを残して部分的に連結しており、内部連通路40xは外周環状開口40xoと内周環状開口40xiを連通している。
【0121】
このオイルシール40の最大外径は、外側環状シール部片41の円筒部のゴム部材の外周面がなす外径で軸受開口部1eの内径より幾らか大きいが、弾性変化する。
オイルシール40の外力が加わらないときの最小内径は、環状弾性リップ部41iと内側弾性リップ部42iがなす内径dsである(図19参照)。
なお、オイルシール40の内径は弾性変化する。
【0122】
一方で、オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に嵌挿される円筒状カラー部材33は、図19を参照して、軸方向内側端部33eを除く主体部33aの外径(円筒状カラー部材33の最大外径)d1に比較して軸方向内側端部33eの外径d2が小さく形成されている。
そして、軸方向内側端部33eの先端部は、先細りとなってテーパ面33tが形成され、テーパ面33tの先端縁の外径d3は、内側弾性リップ部42iの内径dsより小さいが、軸方向内側端部33eの外径d2は、内側弾性リップ部42iの内径dsより大きい。
すなわち、d3<ds<d2<d1の関係にある。
【0123】
円筒状カラー部材33の内周面には、主体部33aと軸方向内側端部33eとの境目辺りに周方向一周に亘って内周溝33xiが形成され、同内周溝33xiから外周面に穿孔する連通孔33xが周方向に複数形成されている。
なお、円筒状カラー部材33は、軸方向外側端部の外周縁に切欠き33bが形成されている。
【0124】
図20に示すように、オイルシール40が、機関ケース1の軸受開口部1eに挿入され、軸受開口部1eの内周面所定位置に内嵌し、内周溝1evに嵌合された止め輪46により位置決めされると、外側弾性リップ部42oが内周突条1epに圧接して外周環状開口40xoが軸受開口部1eの内周面の油路開口1xに臨む。
このように軸受開口部1eに内嵌されたオイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に、円筒状カラー部材33が嵌挿される。
【0125】
円筒状カラー部材33は主体部33aより外径の小さい外径d2の軸方向内側端部33e側(テーパ面33t側)から外径d2より小さい内径dsを有するオイルシール40に嵌挿されるので、軸方向内側端部33eの先端のテーパ面33tがまず環状弾性リップ部41iに接し拡径して貫通し、次いで軸方向内側端部33eの先端の傾斜したテーパ面33tが、中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部42iの先端縁に軸方向外側から接し、内側弾性リップ部42iの先端縁は中心軸側に斜め軸方向外側に向いたまま滑りながらめくり返されることなく拡径し、軸方向内側端部33eの外径d2の外周面に至り、図21に実線で示すように、内側弾性リップ部42iは中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材33の軸方向内側端部33eの外周面に弾性的に圧接する。
【0126】
円筒状カラー部材33は主体部33aより軸方向内側端部33eの外径d2が小さく先端にテーパ面33tを有するので、円筒状カラー部材33の嵌挿により内側弾性リップ部42iがめくり返されことがなく、よって何度も進退させることでめくり返しを元の正常な姿勢に戻すようなことはせずに、一度の嵌挿作業で内側弾性リップ部42iを中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢で円筒状カラー部材33に圧接することができる。
【0127】
上記したように嵌挿された円筒状カラー部材33がベアリング7Lのインナレース7Liに当接すると、円筒状カラー部材33の連通孔33xがオイルシール40の内周環状開口40xiに臨み、円筒状カラー部材33の内周溝33xiにカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xが臨むことになる(図20参照)。
こうして、カウンタ歯車軸12の内側中空部に供給する本潤滑構造が構成される。
【0128】
すなわち、本潤滑構造は、図20に矢印で示すように、下側機関ケース1Lの主油路Yから分岐した枝油路yに分流したオイルが、軸受開口部1eの内周面に開口した油路開口1xからオイルシール40の外周環状開口40xoに流入し、オイルシール40内の内部連通路40xを通って内周環状開口40xiから円筒状カラー部材33の連通孔33xに入り、内周溝33xiを介してカウンタ歯車軸12のオイル導入孔12xに導かれて、オイル導入孔12xよりカウンタ歯車軸12の内側中空部に供給される。
【0129】
要部を拡大した図21に実線で示すように、オイルシール40の内側弾性リップ部42iは中心軸側に斜め軸方向外側に向いた姿勢で円筒状カラー部材33に弾性的に圧接しており、オイルシール40の内部連通路40xを流れるオイルの油圧は、図21に矢印で示すように、内側弾性リップ部42iが円筒状カラー部材33に弾性的に圧接する方向にさらに重ねて作用することになり、円筒状カラー部材33の外周面との間の隙間を確実に閉じオイルの漏れを防止してカウンタ歯車軸12の内側中空部にオイルを十分供給することができる。
【0130】
ここに、円筒状カラー部材33が軸方向内側端部33eの先端にテーパ面33tを有しないと、円筒状カラー部材33の嵌挿に際して、軸方向内側端部33eの嵌挿方向に対して垂直な先端面がオイルシール40の内側弾性リップ部42iの先端縁に当接して先端縁をめくり返す可能性があり、めくられた状態で図21に一点鎖線で示すように、軸方向内側端部33eの外周面に至ることがあるが、軸方向内側端部33eの外径d2が比較的小さいので、嵌挿が終わると、内側弾性リップ部42iのめくり返された先端は自身の弾性力により中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢に戻ることができる。
このように、内側弾性リップ部42iを元の正常な姿勢に戻すことが可能であるが、めくり返された内側弾性リップ部42iにより円筒状カラー部材33の嵌挿は抵抗が大きく円滑ではない。
【0131】
また、軸方向内側端部33eの外径d2が縮径されずに、主体部33aと同じ外径d1を有していたとすると、図21に二点鎖線で示すように、軸方向内側端部33eの比較的大きな外径d1の外周面により大きくめくり返された内側弾性リップ部42iは自身の弾性力により中心軸側に斜め軸方向外側に向いた正常な姿勢に復帰することができないことがある。
内側弾性リップ部42iがこのようにめくり返された状態にあると、オイルシール40の内部連通路40xを流れるオイルの油圧は内側弾性リップ部42iをさらにめくる方向に作用して円筒状カラー部材33の外周面との間に隙間を形成して潤滑油が漏れるおそれが多分にあり、カウンタ歯車軸12の内側中空部に潤滑油が十分供給されないことになる。
【0132】
そこで、本円筒状カラー部材33は、主体部33aより軸方向内側端部33eの外径d2が小さくすることで、内側弾性リップ部42iのめくり返しをなくして潤滑油の漏れを防止し、円筒状カラー部材33の先端部にテーパ面33tを有することで、円筒状カラー部材33の嵌挿を円滑にして組付作業を容易にしたものである。
【0133】
以上のように、機関ケース1の軸受開口部1eにオイルシール40が内嵌され、オイルシール40の内周面とカウンタ歯車軸12の外周面との間に円筒状カラー部材33が嵌挿された後は、皿バネ34を円筒状カラー部材33の切欠き33bに係合して、カウンタ歯車軸12のスプロケット溝12sに出力スプロケット32がスプライン嵌合される。
すなわち、カウンタ歯車軸12は、出力軸であり、スプライン嵌合された出力スプロケット32にチェーン38が巻き掛けられて、チェーン38を介して後輪側に動力が伝達され、車両が走行する。
【0134】
カウンタ歯車軸12上において、スプロケット溝12sにスプライン嵌合された出力スプロケット32を、左側から押さえるように一対の半割コッタ35,35が外周溝12fに嵌合し、環状をなす一対の半割コッタ35,35に環状リテーナ36を外嵌する。
【0135】
環状リテーナ36は、環状に合体した半割コッタ35,35の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなり、環状側壁が半割コッタ35,35の外側面に当接すると外周壁が半割コッタ35,35の外周面を覆い、半割コッタ35,35を保持する。
そして、カウンタ歯車軸12の最外端の雄ねじ12eに袋状のナット部材37を螺合させ、環状リテーナ36を半割コッタ35との間に挟んで固定する(図17参照)。
【0136】
このようにカウンタ歯車軸12にスプライン嵌合した出力スプロケット32は、半割コッタ35に当接して軸方向の移動を規制され、ベアリング7Lのインナレース7Liに当接した円筒状カラー部材33との間に介装された皿バネ34により、半割コッタ35に弾性的に押圧されている。
したがって、チェーン38の巻き掛けにより出力スプロケット32に作用する軸方向に振れる力成分を皿バネ34により吸収しながら所要の軸方向範囲内に出力スプロケット32を常に位置させて、安定した動力伝達を可能としている。
【0137】
ここで、本多段変速機10のカウンタ歯車軸12における潤滑構造について説明する。
図10のカウンタ歯車軸12の左側面図に示すように、カウンタ歯車軸12の中空の内周面には、前記8か所のカム案内溝12gを2つおきにした4か所の放射位置(周方向に等間隔位置)に軸方向給油溝12yがカム案内溝12gに平行に削成されている(図5,図6参照)。
【0138】
各軸方向給油溝12yは所要のピン部材23が存在する軸方向位置で径方向に穿孔された径方向給油孔12zに連通し、径方向給油孔12zは軸方向給油溝12yと揺動爪部材Rが嵌合される周方向溝12cvとを連通する。
なお、各軸方向給油溝12yはピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通せず、1つおきの軸方向位置の径方向給油孔12zと連通する。
【0139】
すなわち、4本の軸方向給油溝12yのうち一方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通し(図11参照)、他方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通する(図12参照)。
【0140】
オイル導入孔12xによりカウンタ歯車軸12の中空端部に導入された潤滑油を、軸方向給油溝12yがカウンタ歯車軸12の中空部内周面に沿って軸方向に導くので、軸方向の通油の油路抵抗を小さくして小型の給油アクチュエータでも係合切換機構(揺動爪部材R、ピン部材23、圧縮スプリング22等の係合手段20およびカムロッドC)の全体に円滑に給油を行い十分潤滑することができる。
【0141】
軸方向給油溝12yは4本形成され、各軸方向給油溝12yは、ピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通しないので、軸方向給油溝12yの一端から供給された潤滑油を他端まであまり油圧を下げることなく通油でき、軸方向に配列された係合切換機構に略均等に給油することができる。
【符号の説明】
【0142】
E…内燃機関、1…機関ケース、1U…上側機関ケース、1L…下側機関ケース、1b…軸受部、1e…軸受開口部、Y…主油路、y…枝油路、2…変速室、4…プライマリ被動ギヤ、5…摩擦クラッチ、6…クランク軸、7L,7R…ベアリング、8…軸受蓋部材、 10…多段変速機、11…メイン歯車軸、12…カウンタ歯車軸、12x…オイル導入孔、12y…軸方向給油溝、12z…径方向給油孔、12j…ジャーナル部、12s…スプライン溝、12e…雄ねじ、12f…外周溝、13…軸受カラー部材、
20…係合手段、32…出力スプロケット、33…円筒状カラー部材、33e…軸方向内側端部、33t…テーパ面、33x…連通孔、34…皿バネ、35…半割コッタ、36…環状リテーナ、37…ナット部材、
40…オイルシール、40x…内部連通路、40xi…内周環状開口、40xo…外周環状開口、41…外側環状シール部片、41i…環状弾性リップ部、42…内側環状シール部片、42i…内側弾性リップ部、42o…外側弾性リップ部、43…リングバネ、
50…変速駆動機構、51…シフトロッド、55…シフトロッド操作子、58…シフトピン、67…シフトドラム、
m…駆動変速歯車、n…被動変速歯車、C…カムロッド、R…揺動爪部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記軸部材(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記軸部材内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする潤滑構造。
【請求項2】
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、同テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする請求項1記載の潤滑構造。
【請求項3】
ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車(m1〜m6)と前記被動歯車(n1〜n6)の一方の複数の歯車が歯車軸(11)に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸(12)との間で歯車軸と各歯車の係合を歯車ごとに切り換える係合切換機構が備えられ、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機であって、
前記係合切換機構は、
各歯車(n1〜n6)の内周面の周方向複数箇所に周方向に係合面を有して設けられた係合部(31)と、
前記歯車軸(12)に軸支され揺動する一端が前記係合部(31)の係合面と係合および係合解除を行う揺動爪部材(R)と、
前揺動爪部材(R)の揺動する他端に径方向内側から接するピン部材(23)と、
前記歯車軸(12)の中空部内周面に軸方向に指向して削成されたカム案内溝(12g)に嵌って軸方向に移動し前記ピン部材(23)に摺接する摺接面に複数のカム面(v1〜v6)が軸方向所要箇所に形成され移動により前記ピン部材(23)を介して前記揺動爪部材(R)を作動する複数のカムロッド(C)とを備え、
前記変速駆動機構が、前記カムロッド(C)の内側で前記歯車軸(12)の中空中心軸に嵌挿され軸方向の移動により前記カムロッド(C)を移動させるシフトロッド(51)を備えた多段変速機において、
前記歯車軸(12)を回転自在に軸支する前記ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記歯車軸(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記歯車軸(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記歯車軸内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造を備え、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする多段変速機。
【請求項4】
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする請求項3記載の多段変速機。
【請求項5】
前記係合切換機構が設けられた前記歯車軸(12)を出力軸(12)とし、
前記出力軸(12)における前記ベアリング(7L)のインナレース(7Li)が嵌合されるジャーナル部(12j)より外側に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ(12e)と、前記雄ねじ(12e)の内側に形成されたスプライン溝(12s)と、前記スプライン溝(12s)の前記雄ねじ(12e)との境目部分に周方向に形成された外周溝(12f)とからなり、
前記出力軸(12)に外嵌した前記円筒状カラー部材(33)が前記ジャーナル部(12j)に嵌着した前記インナレース(7Li)に当接し、
前記スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、
前記外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が前記出力スプロケット(32)を受けとめ、
前記半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が前記半割コッタ(35)に外嵌されて前記半割コッタ(35)を保持し、
前記雄ねじ(12e)に螺合したナット部材(37)が前記環状リテーナ(36)を前記半割コッタ(35)との間に挟むように構成したことを特徴とする請求項3または請求項4記載の多段変速機。
【請求項1】
軸部材(12)を回転自在に軸支するケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記軸部材(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記軸部材(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記軸部材内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路(40x)により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造において、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする潤滑構造。
【請求項2】
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、同テーパ面(33t)の先端縁の外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする請求項1記載の潤滑構造。
【請求項3】
ケース(1)内に一対のベアリング(7L,7R)を介して回転自在に架設された互いに平行な歯車軸(12)にそれぞれ複数の駆動歯車(m1〜m6)と被動歯車(n1〜n6)が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車(m1〜m6)と前記被動歯車(n1〜n6)の一方の複数の歯車が歯車軸(11)に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸(12)との間で歯車軸と各歯車の係合を歯車ごとに切り換える係合切換機構が備えられ、変速駆動機構により前記係合切換機構が駆動されて変速を行う多段変速機であって、
前記係合切換機構は、
各歯車(n1〜n6)の内周面の周方向複数箇所に周方向に係合面を有して設けられた係合部(31)と、
前記歯車軸(12)に軸支され揺動する一端が前記係合部(31)の係合面と係合および係合解除を行う揺動爪部材(R)と、
前揺動爪部材(R)の揺動する他端に径方向内側から接するピン部材(23)と、
前記歯車軸(12)の中空部内周面に軸方向に指向して削成されたカム案内溝(12g)に嵌って軸方向に移動し前記ピン部材(23)に摺接する摺接面に複数のカム面(v1〜v6)が軸方向所要箇所に形成され移動により前記ピン部材(23)を介して前記揺動爪部材(R)を作動する複数のカムロッド(C)とを備え、
前記変速駆動機構が、前記カムロッド(C)の内側で前記歯車軸(12)の中空中心軸に嵌挿され軸方向の移動により前記カムロッド(C)を移動させるシフトロッド(51)を備えた多段変速機において、
前記歯車軸(12)を回転自在に軸支する前記ケース(1)の軸受開口部(1e)の内周面に環状のオイルシール(40)が内嵌され、
前記オイルシール(40)の内周面と前記歯車軸(12)の外周面との間に円筒状カラー部材(33)が嵌挿され、
前記円筒状カラー部材(33)は、外周面から内周面に連通する連通孔(33x)が設けられ、
前記歯車軸(12)には、前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に対向する位置に前記歯車軸内部の中空部に連通するオイル導入孔(12x)が穿孔され、
前記オイルシール(40)は、外周面に周方向に亘って開口した外周環状開口(40xo)と内周面に周方向に亘って開口した内周環状開口(40xi)とが内部連通路により連通されるとともに、軸方向内側の内周縁部から中心軸側に斜め軸方向外側に向けて突出した内側弾性リップ部(42i)が環状に設けられ、
前記外周環状開口(40xo)が前記軸受開口部(1e)の内周面の油路開口(1x)に臨み、
前記内周環状開口(40xi)が前記円筒状カラー部材(33)の前記連通孔(33x)に臨むとともに、前記内側弾性リップ部(42i)が前記円筒状カラー部材(33)の外周面に弾性的に圧接して前記内周環状開口(40xi)から前記連通孔(33x)に潤滑油を導くように構成された潤滑構造を備え、
前記円筒状カラー部材(33)は、最大外径(d1)に比較して軸方向内側端部(33e)の外径(d2)が小さいことを特徴とする多段変速機。
【請求項4】
前記円筒状カラー部材(33)の軸方向内側端部(33e)の先端部は、先細りとなってテーパ面(33t)が形成され、先端外径(d3)が前記オイルシール(40)の前記内側弾性リップ部(42i)の内径(ds)より小さいことを特徴とする請求項3記載の多段変速機。
【請求項5】
前記係合切換機構が設けられた前記歯車軸(12)を出力軸(12)とし、
前記出力軸(12)における前記ベアリング(7L)のインナレース(7Li)が嵌合されるジャーナル部(12j)より外側に突出した軸端部が、最外端に形成された雄ねじ(12e)と、前記雄ねじ(12e)の内側に形成されたスプライン溝(12s)と、前記スプライン溝(12s)の前記雄ねじ(12e)との境目部分に周方向に形成された外周溝(12f)とからなり、
前記出力軸(12)に外嵌した前記円筒状カラー部材(33)が前記ジャーナル部(12j)に嵌着した前記インナレース(7Li)に当接し、
前記スプライン溝(12s)にスプライン嵌合した出力スプロケット(32)が皿バネ(34)を挟んで前記円筒状カラー部材(33)を押圧し、
前記外周溝(12f)に嵌合した半割コッタ(35)が前記出力スプロケット(32)を受けとめ、
前記半割コッタ(35)の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなる環状リテーナ(36)が前記半割コッタ(35)に外嵌されて前記半割コッタ(35)を保持し、
前記雄ねじ(12e)に螺合したナット部材(37)が前記環状リテーナ(36)を前記半割コッタ(35)との間に挟むように構成したことを特徴とする請求項3または請求項4記載の多段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−77795(P2012−77795A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221554(P2010−221554)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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