炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法
【課題】結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料を得る。
【解決手段】炭素基材1上に炭化タンタル被覆膜2を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、炭素基材1表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含む。
【解決手段】炭素基材1上に炭化タンタル被覆膜2を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、炭素基材1表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素基材に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタルは耐熱性及び耐ガスエッチング性を備えることから、炭化タンタル被覆膜を被覆した炭化タンタル被覆炭素材料がSi,SiC,GaNなどの半導体用単結晶製造装置の部材に用いられている。炭化タンタル膜は、特許文献1,2に記載のように、例えば、炭素源とタンタル源とを反応させることにより形成される。
【0003】
特許文献1では、炭化タンタル層をアモルファス状にすることにより、炭化タンタル結晶の異方性を減少させ、炭化タンタル層の表面に化学的又は物理的に弱い部分を減少させている。一方、特許文献2における炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面を他のミラー面に対して特異的に発達させることにより、炭化タンタル被覆炭素材料の耐食性及び耐熱衝撃性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3938361号
【特許文献2】特許第3779314号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に開示された炭化タンタル層はアモルファス状である。また、特許文献2に開示された炭化タンタル被覆膜では、結晶粒がアモルファス状を脱し結晶状態に移行しているものの細かな結晶粒が密集している状態である。したがって、特許文献1,2に記載された炭化タンタル層では、結晶粒界が非常に多い。
【0006】
炭化タンタルの結晶粒界には残留物が取り込まれることが多いことから、結晶粒界が多いほど残留物を多く含む炭化タンタル被覆膜となる。また、結晶粒界は結晶粒に比べて強度が低い。このため、高温下において当該結晶粒界は破壊の起点となりやすく、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出し、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生する。よって、特許文献1,2に記載の結晶粒界が非常に多い炭化タンタル被覆膜では、寿命が短い炭化タンタル被覆炭素材料となる。
【0007】
そこで、本発明は、結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、前記炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、前記タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含む炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法である。
【0009】
本発明によると、炭素基材表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜とすることができる。したがって、炭素基材との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0010】
また、本発明は、前記タンタル被覆膜形成工程と、前記浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことが好ましい。これにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。
【0011】
さらに、本発明は、前記タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことが好ましい。これにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。
【0012】
加えて、本発明は、前記浸炭処理工程において、1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことが好ましい。これにより、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0013】
また、前記炭素基材の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることが好ましい。これにより、炭素基材の熱膨張係数が炭化タンタルの熱膨張係数に近いことから、炭化タンタル被覆膜にかかる熱応力を軽減できる。したがって、炭素基材から剥離しにくい炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0014】
さらに、前記タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、初回のタンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することが好ましい。これにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜とすることができる。したがって、炭素基材との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図2】高周波誘導加熱装置の概略図である。
【図3】炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図4】炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図5】炭化タンタル被覆炭素材料の断面模式図である。
【図6】炭化タンタルの結晶面の配向角度の測定方法を示した模式図である。
【図7】ガス透過率を測定する装置の概要図である。
【図8(a)】参考例1〜4の結果を示す図である。
【図8(b)】参考例1〜4の結果を示す図である。
【図9】参考例3の結果を示す図である。
【図10】参考例5,6の結果を示す図である。
【図11】参考例5,6の結果を示す図である。
【図12】参考例6の結果を示す図である。
【図13】参考例7,8の結果を示す図である。
【図14】参考例7,8の結果を示す図である。
【図15】参考例7の結果を示す図である。
【図16】実施例1のタンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図17】実施例1の結果を示す図である。
【図18】実施例1の結果を示す図である。
【図19】実施例1の結果を示す図である。
【図20】実施例2の下地となる炭化タンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図21】実施例2の下地となる炭化タンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図22】実施例2の結果を示す図である。
【図23】実施例2の結果を示す図である。
【図24】実施例2の結果を示す図である。
【図25】比較例1の結果を示す図である。
【図26】比較例1の結果を示す図である。
【図27】比較例1の結果を示す図である。
【図28】比較例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
本実施形態では、最初に、本発明に係る炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法を説明し、次に、他の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法を説明し、最後に、これらの方法により製造された炭化タンタル被覆炭素材料について説明する。
【0019】
〔炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法〕
(炭化タンタル被覆膜の形成方法(1))
本発明に係る方法は、炭素基材にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成方法と、タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを有する。以下に、図1を用いて本方法を詳細に説明する。図1(a)に示す炭素基材1を配置する。次に、図1(b)に示すように、炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を形成する(タンタル被覆膜形成工程)。そして、タンタル被覆膜を浸炭処理する(浸炭処理工程)。これにより、図1(c)に示すように、タンタル被覆膜は炭化タンタル被覆膜2に転化する。
【0020】
次に、上述したタンタル被覆膜形成工程及び浸炭処理工程について詳細に説明する。
【0021】
<タンタル被覆膜形成工程>
タンタル被覆膜の形成は、例えば、図2に示す装置を用いた化学蒸着(CVD)法により行うことができる。タンタル源には、例えば、五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルのハロゲン化合物を使用することができる。ここでは、図2に示す高周波誘導加熱装置を用いた化学蒸着(CVD)法について説明する。なお、タンタル被覆膜の形成方法は、CVD法に限定されずコンバージョン(CVR)法、溶射法、物理蒸着(PVD)法等を用いてもよい。まず、図1に示す高周波誘導加熱装置について説明する。
【0022】
<高周波誘導加熱装置>
図2に示すように、高周波誘導加熱装置はCVD反応室を有する。CVD反応室は、二重管構造からなる石英管内部に設置された断熱材(図示せず)に包まれた誘導負荷となる黒鉛炉壁(図示せず)内部を指す。また、石英管の外側には、高周波コイル(誘導コイル)を備えた加熱装置が配設されている。CVD反応室内の空間は高周波コイルにより加熱される。CVD反応室の一端には、原料ガスが導入されるガス導入管が配置されている。また、CVD反応室の他端には、排気口が形成されている。排気口にはCVD反応室内のガスを排気する排気管が配置されている。また、排気管の排気口に近い部分には可変バルブが設置されている。CVD反応室内の圧力は、可変バルブにより調整可能である。CVD反応室の上流にはガスフローコントローラーが設けられている。CVD反応室内へ導入される原料ガスのガス流量は、ガスフローコントローラーにより調整される。
【0023】
<タンタル被覆膜の形成方法における前処理>
CVD反応室内に1個又は複数個の炭素基材1を設置し(図2(a)参照)、CVD反応室内を約0.1〜0.01Torr(13.33Pa〜1.333Pa)まで真空引きする。次に、CVD反応室内部を加熱することにより、脱ガス処理を行う。詳細には、CVD反応室内に水素ガスを7000cc/min導入した後、CVD反応室内部を約1100℃まで加熱し、CVD反応室の脱ガスを行う。
【0024】
<高周波誘導加熱装置を用いたタンタル被覆膜の形成方法>
CVD処理によるタンタル被覆膜の形成工程を説明する。CVD反応室内を約800℃以上に保つとともに、可変バルブを操作することによりCVD反応室内を10Torr(1333Pa)以下に減圧する。そして、CVD反応室内に原料ガスとして五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルハロゲン化合物を10〜20sccmの流量で供給する。また、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガス、水素ガス又はそれらの混合ガスを供給する。なお、上記の単位[sccm]は、標準状態において一分間当りに流れる気体の量(cm3)を示す。上記条件下で炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を形成する(図1(b)参照)。
【0025】
なお、CVD法を用いてタンタル被覆膜を形成する場合、温度、圧力、各ガス流量および処理時間などのCVD条件を変えたり、これらの条件を適宜組み合わせたりすることによって、被覆膜の成長速度、結晶性及び膜厚、被覆膜を構成する結晶粒の大きさ、並びに、結晶の配向性などを変えることができる。CVD処理条件は当該技術分野の当業者が自由に設定を変更できるものであり、これらは決して本発明を限定するものではない。
【0026】
<タンタル被覆膜>
上述した方法により得られたタンタル被覆膜は、タンタル結晶粒により構成されている。タンタル被覆膜は、X線回折において、タンタル結晶の(100)面、(200)面、(211)面及び(220)面に対応した回折ピークを有する。また、前記(200)面の回折ピークが最大の回折強度を示し且つ、当該(200)面の半価幅が0.2°以下となる。炭素基材1の熱膨張係数が6.5×10−6〜8.0×10−6/Kである場合、炭素基材1とタンタル被覆膜とでは、熱膨張係数に差が生じる。この時、タンタル被覆膜は内部応力を有しており、X線回折図形において、ピークシフトやピークの分裂が観測される。
【0027】
ここで、前記タンタル被覆膜は、約1100℃以上で軟化し、炭素基材1の表面の凹凸に適合した形状に変化する。このため、炭素基材1の表面の開気孔の内部にタンタル被覆膜が入り込むことが可能となり、炭素基材1とタンタル被覆膜との密着性が向上すると考えられる。
【0028】
次に、上述した方法により形成したタンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程について説明する。
【0029】
<タンタル被覆膜の浸炭処理方法>
図示しない浸炭炉内に、タンタル被覆膜が形成された炭素基材1を配置する(図1(b))。浸炭処理では、前記浸炭炉内温度を1700〜2500℃とし且つ浸炭炉内を真空雰囲気10−2〜10Paとする。浸炭の炭素源には、予め設置した炭素源用黒鉛材や浸炭炉の黒鉛冶具類に含まれる炭素が用いられる。これらの炭素によりタンタル被覆膜が炭化タンタル被覆膜に転化する(図1(c))。
【0030】
本方法では、炭素基材1の表面の凹凸に適合した形状のタンタル被覆膜が浸炭処理され炭素基材との密着性が保たれ且つ、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆膜を得ることが可能となる。
【0031】
なお、上述した(1)の方法において、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。また、浸炭処理工程を行う前に、タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。ここで、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すとき、及びタンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すときに、タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われる。そこで、初回のタンタル被覆膜形成工程において、支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【0032】
次に、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)と異なる他の炭化タンタル被覆膜の形成方法を説明する。
【0033】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2))
ここでは、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成工程を説明する。本実施形態では、図3に示す装置を用いた方法を説明する。なお、炭化タンタル被覆膜の形成方法は、CVD法に限定されず、コンバージョン(CVR)法、溶射法、物理蒸着(PVD)法等を用いてもよい。また、以下の説明において、図3に示す装置の使用方法は上述した方法と重複するため、説明を省略することがある。
【0034】
図3を参照しつつ、図1に示す高周波誘導加熱装置を用いて炭化タンタル被覆膜を形成する方法を説明する。
【0035】
<炭化タンタル被覆膜の形成方法における前処理>
最初に、CVD反応室内を真空引きし、その後、脱ガス処理、CVD処理を順に行う。CVD反応室内に1個又は複数個の炭素基材21を設置し(図3(a)参照)、CVD反応室内を約0.1〜0.01Torr(13.33Pa〜1.333Pa)まで真空引きする。次に、CVD反応室内部を加熱することにより、脱ガス処理を行う。詳細には、CVD反応室内に水素ガスを7000cc/min導入した後、CVD反応室内部を約1100℃まで加熱し、CVD反応室の脱ガスを行う。
【0036】
〈炭化タンタル被覆膜の形成〉
続いて、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成工程を説明する。図2に示すCVD反応室内を850〜1100℃に保つとともに、可変バルブを操作することによりCVD反応室内を10Torr(1333Pa)以下に減圧する。その後、CVD反応室内に原料ガスとして五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルのハロゲン化合物とメタン(CH4)等の炭化水素ガスを供給する。また、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガス、水素ガス又はそれらの混合ガスを供給する。
【0037】
アルゴンガスや水素ガスには、純度が99.99%以上であると共に酸素含有量が5ppm以下の高純度のものを用いることが好ましい。上記条件下で炭素基材の表面に炭化タンタル被覆膜22を成膜する(図3(b)参照)。この際、炭化タンタル被覆膜22におけるC/Ta比が1.0〜2.0であることが好ましい。また、CVD反応室内に供給する原料ガスにおける炭素源はタンタル源に対して2〜25倍であることが好ましい。
【0038】
なお、アルゴンガスとともに水素ガスを供給した場合、五塩化タンタルとメタンガスと水素ガスとの混合ガスの熱分解反応により下記反応式(1)の反応が進行する。この反応により生成した炭化タンタルが炭素材料の表面に積層し、炭化タンタル被覆膜となる。
【数1】
【0039】
ところで、炭化水素は、その分子量が小さいほど、活性化エネルギーが大きく且つ反応温度が高い。このため、約850℃以上でCVD処理を行うためには、メタンCH4やエタンC2H6を用いることが適している。
【0040】
反応式(1)の反応が進行する際、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界には不純物が介在する。原料に塩化物を用いた際には、主に塩素系不純物が介在する。ここで、発明者の知見から、上記不純物(主に、塩素系不純物)は約850℃以上において炭化タンタル被覆膜から放出することが分かっている。本実施形態では、上述したように、CVD処理(炭化タンタル被覆膜の成膜工程)を850〜1100℃で行うことから、成膜と同時に被覆膜から上記不純物が放出され、炭化タンタル被覆膜の不純物濃度を低減できる。したがって、成膜後に、炭化タンタル被覆膜から不純物が放出するおそれがない。ここで、成膜後に炭化タンタル被覆膜から不純物が放出しないことは、1600℃以上の熱処理を行った際に炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生しないことにより判断できる。
【0041】
次に、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)の改良方法を説明する。
【0042】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3))
本方法は、炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、炭素基材の表面に炭化タンタル結晶核を形成する結晶核生成工程と、結晶核生成工程後に炭化タンタル結晶核を結晶成長させる結晶成長工程とを含み、前記結晶成長工程は、製造温度を漸次上昇させる(以下、昇温という。)昇温工程を有する。CVD処理温度が高いほど、炭化タンタル結晶粒が大きくなり、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を低減できる。しかし、CVD処理を950℃以上で行った場合、炭化タンタル被覆膜は炭素基材表面の気孔の径より大きな結晶粒を多く持つ。さらに、CVD処理温度が高いほど、短時間で結晶核形成から核成長に移行するため、炭素基材表面の凸部に形成された結晶核から結晶成長工程が進行し、炭素基材表面の凹部に結晶核形成が行き届かない。このため、炭化タンタル被覆膜と炭素基材との接触面積が減少し、密着度が低下する。また、炭化タンタル被覆膜は、タンタル被覆膜のように高温環境下で軟化して炭素基材表面の凹凸に適合するという性質を有さないため、接触面積を熱処理によって改善することは適わない。
【0043】
一方、CVD処理温度が低い場合は、炭素基材の凸部に形成された結晶核が結晶成長工程に移行する前に炭素基材表面の凹部にも十分な結晶核が形成され結晶成長を行い密着度の高い炭化タンタル被覆炭素材料を得ることができる。このため、本方法は、約950℃未満、好ましくは930℃未満においてCVD処理を行うことにより、前記炭素基材の表面の凹部内部及び凸部に炭化タンタル結晶核を形成(結晶核生成工程)した後、CVD処理温度を漸次上昇させる(昇温工程)ことにより、その結晶核の核成長を促す(結晶成長工程)。ここで、結晶核生成工程において、炭化タンタル結晶核を形成する温度を850〜950℃とすることが好ましい。これにより、炭素基材表面の凹部内部に十分な炭化タンタル結晶核を形成することが出来、炭素基材の表面の凹凸形状に適応した炭化タンタル被覆膜が得られる。
【0044】
また、上記昇温工程後に、前記製造温度を変化させないことが好ましい。これにより、結晶粒の発達した炭化タンタル被覆膜を積層させることができ、従来よりも結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜を所望の厚みで得られる。したがって、製造温度を上昇させた後、処理温度を950℃以上で保持することにより、所望の炭化タンタル被覆膜厚を得ることができる。また、昇温工程において、漸次上昇させる製造温度の温度差は50℃以上が好ましく、100℃以上であることがより好ましい。これにより、炭素基材の表面付近では、炭素基材の表面の凹凸形状に適応した炭化タンタル被覆膜が得られ、炭化タンタル被覆膜の外面付近では、結晶粒が発達し且つ結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜が得られる。さらに、昇温工程において、一定の速度で製造温度を上昇させることが好ましい。これは、急激に結晶性が変化することで炭化タンタル被覆膜の結晶粒成長を妨げるのを防ぐためである。これにより、炭素基材の表面の凹凸に適合した炭化タンタル被覆膜を得ることが可能となることから、炭化タンタル被覆膜の炭素基材に対する密着性が向上すると考えられる。
【0045】
上記方法により成長した結晶粒は、炭素基材表面付近から炭化タンタル被覆膜の外面に向けて傾斜的に大きくなっており、多角錘状の結晶粒が想像される。これは、CVD処理で炉内温度を漸次上昇させることによって、炭化タンタル被覆膜の結晶性を傾斜的に向上させることにより得られるものである。
【0046】
なお、炭化タンタル被覆膜厚みが好ましくは5μm、より好ましくは3μm以下の時点で炉内温度を漸次上昇させる昇温工程を終了することが好ましい。ここで、昇温速度が速すぎる場合、炭素基材の表面の凹部に結晶核が十分形成されないことから、炭化タンタル被覆膜の密着性の向上を図れない。また、昇温速度が遅すぎる場合は、結晶粒界の多い被覆膜となる。
【0047】
続いて、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)及び(3)の改良方法を説明する。
【0048】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(4))
本方法は、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)を2回以上行うことにより、多重コーティングを施した炭化タンタル被覆炭素材料を形成する方法であり、炭素基材の表面に第1炭化タンタル被覆膜を形成する第1形成工程と、第1炭化タンタル被覆膜上に1回以上新たな炭化タンタル被覆膜を形成する第2形成工程とを有する。CVD処理を用いた方法では、炭素基材を治具(支持具)によって支持した状態で炭化タンタル被覆膜の形成を行うことから、炭素基材と治具との接触面に炭化タンタル被覆膜が形成されない。したがって、初回の炭化タンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降の炭化タンタル被覆膜形成工程において被覆するように、支持位置を変更する。これにより、炭素基材の全表面を炭化タンタル被覆膜により被覆できる。
【0049】
具体的には、図4(a)に示すように、図示しない反応室内に、炭素基材31を、支持棒35(治具)により下方から支持した状態で配置する。そして、炭素基材31にCVD処理を施すことにより炭素基材31の表面に1層目の炭化タンタル被覆膜32を形成する(第1回目の成膜工程、図4(b))。このとき、炭素基材31の支持棒35との接触部には、炭化タンタル被覆膜32が形成されない。
【0050】
続いて、図4(c)に示すように、支持棒35による炭素基材31の支持位置を、炭化タンタル被覆膜32面に変更する。そして、第1回目の成膜工程と同一の条件でCVD処理を行うことにより、図4(d)に示すように、炭化タンタル被覆膜32の表面に2層目の炭化タンタル被覆膜33を形成する(第2回目の成膜工程)。これにより、炭化タンタル被覆膜32の表面に炭化タンタル被覆膜33が積層され、炭素基材31の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成できる。
【0051】
ただし、炭化タンタル被覆膜32は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。また、(311)面の回折線の半価幅が0.12°以下であることが好ましい。このような炭化タンタル被覆膜の上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成すれば、新たな炭化タンタル被覆膜33は下地の炭化タンタル被覆膜32の結晶粒に引きついて結晶成長を行い、炭化タンタル被覆膜32と炭化タンタル被覆膜33とが連続する。このことから新たな炭化タンタル被覆膜33が下地の炭化タンタル被覆膜32から剥離することを防ぐことができる。また、炭化タンタル被覆膜32の結晶粒界が従来よりも飛躍的に少ないことから、各炭化タンタル被覆膜形成工程により形成された炭化タンタル被覆膜32,33から不純物が放出されない。したがって、下地となる炭化タンタル被覆膜32と新たな炭化タンタル被覆膜33との間に不純物ガスが介在しない。また、下地となる炭化タンタル被覆膜32は新たな炭化タンタル被覆膜の形成のとき(CVD処理のとき)に結晶性が殆ど変化せず、新たな炭化タンタル被覆膜33との結晶性が同等のものとなる。したがって、下地となる炭化タンタル被覆膜32と新たな炭化タンタル被覆膜33とにおいて、結晶性の相違が生じにくく密着性がよい。
【0052】
一方、上記構成を有さない炭化タンタル被覆膜の上にCVD処理により新たな炭化タンタル被覆膜を形成しようとすると、CVD処理中に当該下地の炭化タンタル被覆膜から不純物が放出され、新たな炭化タンタル被覆膜と、下地の炭化タンタル被覆膜との間に不純物ガスが介在するおそれがある。新たな炭化タンタル被覆膜の形成のとき(CVD処理のとき)に、下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶性が向上し、この結晶性と新たな炭化タンタル被覆膜との結晶性との差異が大きくなる。したがって、新たな炭化タンタル被覆膜が剥離する不具合が生じる。
【0053】
また、炭化タンタル被覆膜32,33の密着性を向上させるために、炭化タンタル被覆膜32は、下記の特性を備えていることが好ましい。炭化タンタル被覆膜32は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(320)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、各炭化タンタル被覆膜形成工程により形成された炭化タンタル被覆膜の結晶粒界が従来よりも飛躍的に少ないことから、炭化タンタル被覆膜32から不純物が放出されない。さらに、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における(311)面及び(320)面に対応する回折線の強度の和が、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における炭化タンタルの全結晶面に対応する回折線の強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下であることが好ましい。これにより、十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成された炭化タンタル被覆膜32となることから、炭化タンタル被覆膜33の結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。加えて、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における(311)面または(320)面に対応する回折線の強度が最大となることが好ましい。これにより、炭化タンタル被覆膜32の結晶粒界を従来技術と比較して減少させることができる。また、炭化タンタル被覆膜のX線回折図形における前記(311)面または(320)面の回折線の半価幅が0.12 ° 以下であることが好ましい。これにより、結晶性が高く且つ十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成された炭化タンタル被覆膜32となることから、炭化タンタル被覆膜33の結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。
【0054】
なお、CVD法を用いて炭化タンタル被覆膜を形成する場合、温度、圧力、各ガス流量および処理時間などのCVD条件を変えたり、これらの条件を適宜組み合わせたりすることによって、被覆膜の成長速度、結晶性及び膜厚、被覆膜を構成する結晶粒の大きさ、並びに、結晶の配向性などを変えることができる。CVD処理条件は当該技術分野の当業者が自由に設定を変更できるものであり、これらは決して本発明を限定するものではない。
【0055】
次に、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)とCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法とを用いた方法を説明する。
【0056】
(炭化タンタル被覆膜の形成方法(5))
上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大の回折強度をしめす。CVD処理によって得られた炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面若しくは、(220)面の回折線が最大の回折強度をしめす。
【0057】
ここで、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、炭化タンタル被覆膜の上に、新たな炭化タンタル被覆膜を形成する際には下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶配向を引き継ぐことを見出した。これは、異なった製造工程によって作成した炭化タンタル被覆膜の結晶配向も同様となる。この特性により、例えば、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の上に浸炭処理を施した炭化タンタル被覆膜を形成する多重コーティングが可能となる。
【0058】
ここで、炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大であることが好ましい。この理由については、後述する。したがって、前記(311)面の回折線が最大である上述した炭化タンタル被覆膜形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜を第1炭化タンタル被覆膜とすることが好ましい。この第1炭化タンタル被覆膜上に、例えば、CVD処理による炭化タンタル被覆膜を形成することにより、当該多重コーティング被覆膜は最表面のX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大の回折強度をしめす被覆膜を得ることが容易となる。また、上述した炭化タンタル被覆膜形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜を繰返し行うよりも、工程数を減少させることが可能となる。ただし、それぞれの被覆膜におけるX線回折図形における(311)面又は(220)面の回折線の半価幅は0.12°以下が好ましい。これにより、断面において、少なくとも異なる2層の炭化タンタル被覆膜が積層された多重コーティング膜が炭素基材上に形成される。
【0059】
また、上記第1炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜を形成する炭素基材表面に平行な(311)面を有する結晶粒が主として存在する。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜が得られる。さらに、第1炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜を形成する炭素基材表面に平行な(220)面を有する結晶粒が主として存在する。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜が得られる。加えて、第1炭化タンタル被覆膜のX線回折図形における(311)面及び(220)面における回折線の強度の和が、第1炭化タンタル被覆膜のX線回折図形におけるX線回折により炭化タンタルに対応した全結晶面における回折線の強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下であることが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜は十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成される。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜を得られる。
【0060】
次に、上述した全ての方法により製造された本発明の炭化タンタル被覆炭素材料について説明する。なお、炭素基材41は上述した炭素基材1,21,31に対応し、炭化タンタル被覆膜42は、上述した炭化タンタル被覆膜2,22,32,33に対応する。
【0061】
図5に示すように、炭化タンタル被覆炭素材料400は、炭素基材41と、炭素基材41の表面に形成された炭化タンタル被覆膜42とを有する。
【0062】
(炭化タンタル被覆膜42)
炭化タンタル被覆膜42は、炭化タンタル結晶粒により構成されている。ここで、炭化タンタルとは、タンタル原子と炭素原子との化合物を意味しており、例えば、TaC,Ta2C等の化学式で表される化合物である。
【0063】
<結晶面の配向>
炭化タンタル被覆膜42は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。また、炭化タンタル被覆膜42は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。
【0064】
配向角度は、以下の方法によって測定される。図6に示すように、炭化タンタル被覆炭素材料400を回転させながら、X線を照射し、炭化タンタルの(220)面及び(311)面の回折ピークが現れる角度(配向角度)を測定する。結果を図9,12,15,19,21,24,26に示す。なお、図9,12,15,19,21,24,26に示すグラフにおいて、横軸は、図6に示す配向角度(α)である。縦軸は強度である
【0065】
炭化タンタル被覆膜を構成する結晶を上記配向とすることにより、結晶粒が成長しやすくなることから、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を大幅に低減できる。この理由を以下に説明する。
【0066】
炭化タンタル被覆膜のX線回折図形で確認される結晶面は、主に、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面である。これらの結晶面のうち、(111)面と(222)面及び、(200)面と(400)面とはそれぞれ平行な面であることから、以下においては、上記結晶面のうち(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の4面の関係を考える。
【0067】
炭化タンタル結晶は立方晶であることから、面指数と方位指数が常に垂直である。(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の4面において、各面とのなす傾斜角度は、常に、(111)面と(200)面は54.7°、(111)面と(220)面は35.3°、(111)面と(311)面は29.5°、(200)面と(220)面は45.0°、(200)面と(311)面は25.2°、(220)面と(311)面は31.5°である。基準となる結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直な方向であると仮定したとき、当該基準の結晶面に対する他の結晶面が成す傾斜角度を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
<タンタル被覆膜形成工程と浸炭処理工程とを有する炭化タンタル被覆膜の形成方法(4)で形成した炭化タンタル被覆膜>
タンタルと炭化タンタルの密度はそれぞれ16.65g/cm3と13.90g/cm3である。このため、タンタル被膜に浸炭処理を施して炭化タンタル被膜に転化する場合に体積膨張が生じ、各結晶面の格子面間隔が広がる。この際に、各結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直に近づくほど、炭化タンタル被膜の内部応力が小さくなり、結果結晶粒界が減少すると推測される。
【0070】
<CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(1),(2),(3)で形成した炭化タンタル被覆膜>
上記(1),(2),(3)で形成した炭化タンタル被覆膜では、炭化タンタル結晶核が生成し、その結晶核が結晶成長する。炭化タンタル結晶の各結晶面は方位指数に対して成長する。炭化タンタル結晶粒は成長する過程で、隣り合う他の結晶粒とぶつかり合うことで成長が阻害される。炭化タンタル結晶における各結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直に近づくほど、隣り合う結晶粒によって生じる内部応力が小さくなり成長が阻害されにくくなると推測される。結果、結晶粒が発達し結晶粒界が減少する。
【0071】
このため、表1から、炭化タンタル被覆膜42における(220)面が主として炭素基材表面に対して平行であることが好ましく、(311)面が主として炭素基材41表面に対して平行であることがより好ましい。また(311)面が炭素基材41表面に対して平行な結晶粒と(220)面が炭素基材41表面に対して平行な結晶粒が主として混在していてもよい。これは、(311)面と、(220)面の配向角度において最大のピーク値を示す配向角度との差が31.5°以内であることより判断できる。これにより、炭化タンタル被覆膜42の結晶粒界を少なくすることができ、緻密且つ高強度の炭化タンタル被覆膜42を形成できる。
【0072】
<炭化タンタル被覆膜のX線回折図形>
炭化タンタル被覆膜42のX線回折図形によって求められる炭化タンタルの(220)面に相当する回折強度(以下、I(220)と示す)及び(311)面に相当する回折強度(以下、I(311)と示す)のうちいずれか一方の回折強度が最大となることが好ましい。ここで、回折強度とは、各結晶面に特有の回折角に現れるピーク値を意味する。また、I(220)とI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下の範囲であることが好ましい。
【0073】
ここで、各結晶面に相当するX線回折強度の総和とは、X線回折図形において求められる(111)面に相当するX線回折強度(以下、I(111)と示す)、(200)面に相当するX線回折強度(以下、I(200)と示す)、I(220)、I(311)、(222)面に相当するX線回折強度(以下、I(222)と示す)、及び(400)面に相当するX線回折線強度(以下、I(400)と示す)の総和(I(111)+I(200)+I(220)+I(311)+I(222)+I(400))である。以下、当該総和をIpと記す。また、X線回折の強度およびその和はすべて積分強度で比較している。
【0074】
炭化タンタルのI(220)及びI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和Ipに対して0.5以上且つ0.9以下の範囲であることにより結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜となる。
【0075】
なお、炭化タンタルのI(220)及びI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和Ipに対して0.5未満である場合は、結晶粒界が多くなると推測される。また、総和Ipに対して0.9を超える場合は、炭化タンタルにおける他の結晶面の成長が弱いことを意味し、結果結晶粒の小さな炭化タンタル被覆膜になると推測される。
【0076】
また、炭化タンタル被覆膜42におけるX線回折図形において、炭化タンタルの(220)面又は(311)面の回折線の半価幅は0.2°以下が好ましく、0.12°以下がより好ましい。炭化タンタルの(220)面の回折線は、約58.6°、(311)面は約70.0°の回折角に現われる。回折強度の高さとは、ピークの最大高さを意味する。回折線の半価幅は、最大高さの1/2の強度におけるピークの幅を意味し、結晶性の指標となる。
【0077】
よって、上述した炭化タンタル被覆膜に形成方法(1)〜(5)のいずれにおいても、結晶粒が大きく発達することにより、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を減少させることができる。
【0078】
炭化タンタル被覆膜42のX線回折図形は、例えば、X線分析装置として、リガク社製 アルティマ(Ulutima)を用いることにより測定することができる。
【0079】
<ガス透過率>
炭化タンタル被覆膜42において、ガス透過率は10−7cm2/s以下であることが好ましく、10−8〜10−11cm2/secであることがさらに好ましい。ガス透過率が上記範囲内にある場合、緻密な炭化タンタル被覆膜42となる。一般的に炭素基材は通常窒素ガス透過率10−2〜10−3cm2/secの値を有するため、当該炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率が10−7cm2/s以下である場合、炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率は、炭素基材の窒素ガス透過率の約10−5〜10−4倍となる。当該炭化タンタル被覆膜が緻密な膜である場合、耐熱性と耐ガスエッチング性が得られる。
【0080】
炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率は、例えば、図6に示す機器を用いて測定することができる。以下に、図6に示す機器を用いた場合の試料の炭化タンタル被覆膜の窒素ガス透過率の測定方法を説明する。
【0081】
測定試料を、直径約30mm以上の円板形状に形成し、窒素ガス透過率の測定前に十分に乾燥する。そして、乾燥させた測定試料を図7に示す透過セル内に設置し、ロータリーポンプ(ロータリー式真空ポンプ)およびターボ分子ポンプにより、透過セルの一次側及び二次側が一定の真空値になるまで減圧する。次いで、ロータリーポンプの作動を停止して、バルブ(図7に示すV1)を閉める。そして、透過セルの一次側に窒素ガスを一定のガス圧で供給する。窒素ガスは、一次側から測定試料を透過して二次側へと移動し、これにより、二次側の圧力が上昇し始める。その圧力上昇率を測定する。この圧力上昇率から次の式(2)、(3)を用いてガス透過率(K)を算出する。
K=(QL)/(ΔPA)・・・(2)
Q={(p2−p1)V0}/t・・・(3)
ここで、Kは窒素ガス透過率、Qは通気量、ΔPは一次側と二次側の圧力差、Aは透過面積、Lは測定試料の厚さ、p1は二次側の初期圧力、p2は二次側の最終圧力、V0は二次側の容積、tは測定時間である。
【0082】
上記測定方法及び算出方法から、炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率(K2)を、以下の方法により求める。まず、炭化タンタル被覆炭素材料400の窒素ガス透過率(K0)を測定する。次に、炭素基材41の表面全面に形成された炭化タンタル被覆膜42を研磨により除去し、炭素基材41のみの窒素ガス透過率(K1)を測定する。そして、次の関係式(4)から窒素ガス透過率(K2)を算出する。
(L1+L2)/K0=L1/K1+L2/K2・・・(4)
ここで、L1は炭素基材の厚さ、L2は炭化タンタルの被覆膜の厚さである。
【0083】
<炭化タンタル被覆膜の厚み>
炭化タンタル被覆膜42の膜厚は、10〜100μmであることが好ましい。炭化タンタル被覆膜厚が10μm未満である場合、ガス透過率が大きくなり十分な耐熱性と耐ガスエッチング性が得られない。
【0084】
次に、炭素基材について説明する。
【0085】
(炭素基材の製造方法)
原料粉末に結合材(ピッチ等)を添加して混合し、成形し、焼成することにより炭素基材が得られる。なお、必要に応じて、公知の方法により黒鉛化処理及び高純度化処理を施してもよい。また、炭素基材に表面加工処理を施してもよい。これにより、炭素基材の表面が粗面化され、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との密着性を向上させることができる。
【0086】
(炭素基材)
<炭素基材の灰分>
炭素基材は、不純物をできる限り含まないことが好ましい。具体的には、炭素基材に不純物として含まれる各元素は、アルミニウムが0.3ppm以下であり、鉄が1.0ppm以下であり、マグネシウムが0.1ppm以下であり且つケイ素が0.1ppm以下であることが好ましい。さらに、炭素基材の総灰分(本明細書では、単に灰分と示すことがある)は10ppm以下であることが好ましい。灰分は、JIS−R−7223で規定される灰分の分析方法などにより測定することができる。
【0087】
<炭素基材のガス放出圧力>
炭素基材の1000℃基準のガス放出圧力が10−4Pa/g以下であることが好ましい。1000℃基準のガス放出圧力とは、炭素基材の表面および細孔に吸着したガス分子が1000℃の温度下で脱離し、脱離したガスが雰囲気中の圧力を上昇させる圧力変化量を意味し、具体的には、特許第2684106号に開示される昇温脱離スペクトル(TDS)などにより測定することができる。ガス放出圧力が高いと、脱ガス処理時にCVD炉内汚染が高くなり、炭化タンタル被膜に不純物の混入する危険がある。
【0088】
<炭素基材の熱膨張係数>
炭化タンタル被覆膜の熱膨張係数は、6.5〜8.0×10−6/Kの範囲内にある。したがって、炭素基材の熱膨張係数を6.5〜8.0×10−6/Kとすることが好ましい。上記炭素基材を用いることにより、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との熱膨張係数差が小さな炭化タンタル被覆炭素材料を形成することができる。したがって、炭化タンタル被覆炭素材料の温度変化による膨張や収縮を生じた時、炭化タンタル被覆膜に熱応力が発生しにくいため、炭化タンタル被覆膜が剥離しにくい。
【0089】
炭素基材の熱膨張係数は、例えば、株式会社 リガク製 熱機械分析装置(Thermo Plus2 TMA8310)によって測定されるが、測定装置はこの装置に限られない。
【0090】
<炭素基材の密度>
炭素基材の密度は、1.65〜1.90g/cm3であることが好ましく、1.73〜1.83g/cm3であることがさらに好ましい。炭素基材の密度が上記範囲内にある場合、炭素基材の機械的強度が高くなる。
【0091】
炭素基材の平均気孔半径は、0.01〜5μmであることが好ましい。これにより、アンカー効果が十分に発揮され、炭素基材から炭化タンタル被覆膜が剥離しにくくなる。ここで「平均気孔半径」は、水銀圧入法によって測定する水銀ポロシメーターを用いて求めることができ、最大圧力が98MPaであり且つ試料と水銀の接触角を141.3°としたときの累積気孔容積の1/2の容積に対応する気孔半径である。なお、平均気孔半径が0.01μm未満である場合は、アンカー効果が十分に発揮されないため、炭化タンタル被覆膜が炭素基材から剥離しやすくなる。
【0092】
なお、炭素基材の大きさ及び形態は、図1,3〜5に示す形態に限定されず、様々な大きさ及び形態に変更することができる。例えば、炭素基材の上面に凸部が設けられていてもよい。
【0093】
ここで、基材として炭素基材を用いる理由を説明する。炭化タンタル被覆膜を形成する基材としては、炭素基材又はタンタル基材が望ましい。炭素基材は、加工が容易であるため好まれる。一方、タンタル基材を用いた場合、使用環境によっては炭化タンタル被覆膜中の炭素がタンタル基材に拡散し、基材を含む全体がセラミック化し靱性を失い脆くなる。このため、予め中心部材となる基材に靱性を有する炭素基材を用いることにより、基材を含む全体が炭化タンタルに転化する不具合を解消でき、高強度且つ長寿命な炭化タンタル被覆炭素材料を製造することができる。
【0094】
〈ボイド〉
ボイドとは、炭化タンタル被覆膜の表面に発生する直径数十から数百nmの穴の総称である。ボイドは、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出する際に発生すると推測される。これは、以下の2つの理由が考えられる。1つ目の理由として、結晶粒界には、未発達な炭化タンタルの結晶及び不純物等が残留している。2つ目の理由として結晶粒界は結晶粒に比べて強度が低いため破壊の起点となりやすい。したがって、上記2つの理由から、炭化タンタル被覆膜を熱処理する際、強度の弱い結晶粒界が破壊され、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出し、ボイドが発生すると推測される。よって、結晶粒界の少ない被覆膜ほどボイドの発生を抑えることできる。
【0095】
また、炭化タンタル被覆膜における結晶粒界を減少させることにより、当該被覆膜内部に微細なクラックが発生しても、そのクラックが広がったり、そのクラックが炭化タンタル被覆膜表面にまで到ったりすることを抑えることができる。なお、上記クラックとは、例えば、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との熱膨張係数差により発生する応力及び熱衝撃によるストレスにより発生するものである。
【0096】
なお、炭化タンタル被覆炭素材料は、例えば、化合物半導体の単結晶成長装置及びエピタキシャル成長装置の構成部材及び治具に用いられる。単結晶成長装置内及びエピタキシャル成長装置内では、1000℃以上の高温のアンモニアガスや塩化水素ガスなどのエッチングガスが用いられる。この際、炭化タンタル被覆膜にボイドやクラックが発生していると緻密性が低下する。このため、上記エッチングガスが炭素基材を消耗させる。さらに、エッチングガスにより消耗した炭素基材から放出される不純物が炭化タンタル被覆膜を透過し製品を汚染する恐れがある。
【0097】
以上に述べたように、本発明に係る炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)によると、炭素基材1表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜2に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材1表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜2とすることができる。したがって、炭素基材1との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0098】
また、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。
【0099】
さらに、タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。
【0100】
加えて、浸炭処理工程において、1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことにより、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0101】
また、炭素基材1の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることにより、炭素基材1の熱膨張係数が炭化タンタルの熱膨張係数に近いことから、炭化タンタル被覆膜2にかかる熱応力を軽減できる。したがって、炭素基材1から剥離しにくい炭化タンタル被覆膜2を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0102】
さらに、タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、初回のタンタル被覆膜形成工程において、支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【実施例】
【0103】
〔参考例1〜4〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0104】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記表2に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、当該炭素基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。
【0105】
【表2】
【0106】
参考例1〜4で得られた炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図8(a)に示し、X線回折図形を図8(b)に示す。
【0107】
図8(a)から、参考例1〜4のSEM像では、炭化タンタル被覆膜の結晶粒を観察できた。また、図8(b)から、参考例1〜4のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0108】
次に参考例1〜4のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表3から、参考例1〜4では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0111】
参考例3の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図9に示す。
【0112】
図9から、参考例3の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0113】
さらに、参考例1〜4で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0114】
〔参考例5,6〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0115】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g、且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記の表4に示すCVD処理温度条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。CVD処理の炉内圧力とガス流量は、それぞれ参考例1〜4と同等の条件とした。
【0116】
【表4】
【0117】
なお、参考例5,6では、CVD処理温度を100℃/Hrで漸次上昇させ、処理温度が1000℃に達したときに、昇温を停止し、処理温度を1000℃に維持しながら所望の厚みになるまで炭化タンタル被覆膜を作製した。得られた炭化タンタル被覆膜の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図10に示す。
【0118】
図10から、参考例5,6では、炭素基材表面の気孔や凹部内部に炭化タンタル被覆膜が形成されていた。また、炭化タンタル被覆膜を構成する炭化タンタル結晶は、黒鉛基材の表面付近から被覆膜外面に近付くにつれて傾斜的に大きくなっていることが明らかである。また、炭化タンタル被覆膜の表面付近では、結晶粒が成長しており、結晶粒界が大幅に減少していた。
【0119】
次に、参考例5,6のX線回折図形の結果を、図11に示す。図11から、参考例5,6のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0120】
次に参考例5,6のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
表5から、参考例5,6では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0123】
参考例6の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図12に示す。図12から、参考例6の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0124】
さらに、参考例5,6で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0125】
〔参考例7,8〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3),(4)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0126】
(参考例7)
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、CVD処理温度を1000℃としてCVD処理を施し、黒鉛基板上に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。CVD処理の圧力、原料ガス等の条件は、参考例1〜4と同等の条件とした。そして、得られた炭化タンタル被覆炭素材料に、上記と同じCVD条件でCVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0127】
(参考例8)
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g、且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、CVD処理温度を900℃としてCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。そして、CVD処理温度を100℃/Hrで漸次上昇させ、処理温度が1000℃に達したときに、昇温を停止し、処理温度を1000℃に維持しながら被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整しながら、下地の炭化タンタル被覆膜を所望の厚みになるまで作製した。次に、当該下地の被覆膜上にCVD処理温度を1000℃として再度CVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を作製した。このときの圧力、原料ガス等の条件は、参考例1〜4と同等の条件とした。
【0128】
得られた炭化タンタル被覆膜の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図13に示す。図13から、参考例7,8では、二重コーティングを行った際の新しい炭化タンタル被覆膜の結晶粒は下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶粒を引き継ぎ成長していることがわかった。このため、多重コーティング被覆膜の境界面(下地となる炭化タンタル被覆膜と新たな炭化タンタル被覆膜との境界面)からの剥離が生じなかった。
【0129】
次に、参考例7,8のX線回折図形の結果を、図14に示す。図14から、参考例7,8のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0130】
次に参考例7,8のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表6に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
表6から、参考例7,8では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0133】
参考例7の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図15に示す。図15から、参考例7の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0134】
さらに、参考例7,8で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0135】
〔実施例1〕
ここでは、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0136】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記の表7に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上にタンタル被覆膜を形成した。
【0137】
【表7】
【0138】
形成されたタンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)とX線回折図形を図16に示す。図16(a)にはSEM像を示し、図16(b)にはX線回折図形を示している。図16から、タンタル被覆膜のX線回折図形では、(110)面、(200)面、(211)面及び(220)面の回折線が確認でき、(200)面の回折線が最も強い回折強度を示した。また、(200)面の半価幅は、0.2°以下であった。
【0139】
次に、当該タンタル被覆膜に下記の条件下で浸炭処理を施した。前記タンタル被覆膜が形成された黒鉛基材を浸炭炉内に炭素源とともに配置し、浸炭炉内温度を2200℃とし且つ浸炭炉内を真空雰囲気2.0Paに保ち、1時間浸炭処理を行い、実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料を得た。
【0140】
実施例1で得られた炭化タンタル被覆炭素材料の炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像を図17に示す。図17(a)には表面SEM像を示し、図17(b)には断面SEM像を示している。図17から観察されるようにタンタル被覆膜を浸炭処理することで得られた炭化タンタル被覆膜は、結晶粒界が著しく減少していることが解る。また、炭化タンタル被覆膜が黒鉛基材の表面の凹凸に適合していることも確認できた。
【0141】
次に、実施例1のX線回折図形の結果を、図18に示す。図18から、実施例1のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0142】
次に実施例1のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表8に示す。
【0143】
【表8】
【0144】
表8から、実施例1では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0145】
実施例1の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図19に示す。図19から、実施例1の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界が減少している。
【0146】
さらに、実施例1で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0147】
〔実施例2〕
ここでは、上述した浸炭処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0148】
最初に、実施例1と同様な方法で黒鉛基材に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。当該下地となる炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)及びX線回折図形を図20に示す。図20(a)にSEM像を示し、図20(b)にX線回折図形を示している。図20から、下地となる炭化タンタル被覆膜のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。また、下地となる炭化タンタル被覆膜のIpに対するI(220)とI(311)の和((I(220)+I(311))/Ip)は0.53であり、炭化タンタルの(311)面の半価幅は0.10°であった。
【0149】
実施例2の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図21に示す。図21から、実施例2の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。
【0150】
次に、下地となる炭化タンタル被覆膜が形成された黒鉛基材に下記の表9に示す条件でCVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0151】
【表9】
【0152】
上記CVD処理により得られた新たな炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像を図22に示す。図22(a)には表面SEM像を示し、図22(b)には断面SEM像を示している。図22から観察されるように、下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶粒に新たな炭化タンタル被覆膜が引きついで成長したため、図22(b)の断面SEM像において異なる二種類の炭化タンタル被覆膜が積層されていることがわかる。
【0153】
次に、実施例2の条件で得られた新たな炭化タンタル被覆膜のX線回折図形の結果を、図23に示す。図23から、実施例2のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。これは、下地となった炭化タンタル被覆膜の結晶配向を引継いで新たな炭化タンタル被覆膜が形成されたためと考えられる。
【0154】
次に実施例2のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表10に示す。
【0155】
【表10】
【0156】
表10から、実施例2では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0157】
実施例2の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図24に示す。図24から、実施例2の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0158】
さらに、実施例2で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0159】
〔比較例1,2〕
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記表11に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。
【0160】
【表11】
【0161】
比較例1で得られた炭化タンタル被覆炭素材料の炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)と、X線回折図形とを図25に示す。図25(a)にはSEM像を示し、図25(b)にはX線回折図形を示している。図25から、比較例1のSEM像では、炭化タンタル被覆膜の表面に細かな結晶粒が多く存在していた。また、比較例1のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面の回折線が最も強い回折強度を示した。さらに、炭化タンタル(220)面の半価幅は0.15°であった。
【0162】
比較例1の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図26に示す。図26から、比較例1の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。最大のピーク値を示す(220)面に対応する(311)面のピーク値は、配向角度が約31.5°ずれた位置で確認できた。この結果は、比較例1の炭化タンタル被覆膜を構成する個々の結晶粒の(220)面が主として炭素基材の表面に対して平行に配向していることを示している。また、(311)面では、80°未満の位置で最大のピーク値を示していた。したがって、比較例1では、結晶粒の成長が阻害され結晶粒界の多い炭化タンタル被覆膜となった。
【0163】
次に、比較例1のCVD処理条件で作成した炭化タンタル被覆炭素材料を1600℃で熱処理し、炭化タンタル被覆膜の表面を観察した結果を、図27を用いて説明する。図27に示すように、炭化タンタル被覆膜には、多数のボイドが発生した。また、比較例2のCVD処理条件で作成した炭化タンタル被覆炭素材料を1600℃で熱処理し、炭化タンタル被覆膜の表面を観察したら、比較例2の炭化タンタル被覆膜にも同様にボイドが発生していた。
【0164】
〔比較例3〕
比較例1と同様の方法で、黒鉛基材に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。得られた炭化タンタル被覆炭素材料に比較例1(表11)と同等のCVD条件下でCVD処理を施すことにより、当該下地となる炭化タンタル被覆膜の上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。得られた炭化タンタル被覆炭素材料の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図28に示す。
【0165】
図28から、炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との間に明確な境界が生じていることが確認できた。比較例3では、新たな炭化タンタル被覆膜を形成時に下地となる炭化タンタル被覆膜から不純物が放出し、不純物ガスが下地となる炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との間に介在したためである。このため、新しい炭化タンタル被覆膜が剥離することが確認された。また、比較例3で形成した下地となる炭化タンタル被覆膜を熱処理した後に、同一の条件で新たな炭化タンタル被覆膜を形成した場合(重複コーティング)、下地となる炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との結晶性の差が大きくなり、下地となる炭化タンタル被覆膜の上に新しい炭化タンタル被覆膜が密着しないことが確認できた。
【0166】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0167】
1,21,31,41 炭素基材
2,22,32,33,42 被覆膜
400 炭化タンタル被覆炭素材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素基材に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタルは耐熱性及び耐ガスエッチング性を備えることから、炭化タンタル被覆膜を被覆した炭化タンタル被覆炭素材料がSi,SiC,GaNなどの半導体用単結晶製造装置の部材に用いられている。炭化タンタル膜は、特許文献1,2に記載のように、例えば、炭素源とタンタル源とを反応させることにより形成される。
【0003】
特許文献1では、炭化タンタル層をアモルファス状にすることにより、炭化タンタル結晶の異方性を減少させ、炭化タンタル層の表面に化学的又は物理的に弱い部分を減少させている。一方、特許文献2における炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面を他のミラー面に対して特異的に発達させることにより、炭化タンタル被覆炭素材料の耐食性及び耐熱衝撃性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3938361号
【特許文献2】特許第3779314号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に開示された炭化タンタル層はアモルファス状である。また、特許文献2に開示された炭化タンタル被覆膜では、結晶粒がアモルファス状を脱し結晶状態に移行しているものの細かな結晶粒が密集している状態である。したがって、特許文献1,2に記載された炭化タンタル層では、結晶粒界が非常に多い。
【0006】
炭化タンタルの結晶粒界には残留物が取り込まれることが多いことから、結晶粒界が多いほど残留物を多く含む炭化タンタル被覆膜となる。また、結晶粒界は結晶粒に比べて強度が低い。このため、高温下において当該結晶粒界は破壊の起点となりやすく、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出し、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生する。よって、特許文献1,2に記載の結晶粒界が非常に多い炭化タンタル被覆膜では、寿命が短い炭化タンタル被覆炭素材料となる。
【0007】
そこで、本発明は、結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、前記炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、前記タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含む炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法である。
【0009】
本発明によると、炭素基材表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜とすることができる。したがって、炭素基材との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0010】
また、本発明は、前記タンタル被覆膜形成工程と、前記浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことが好ましい。これにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。
【0011】
さらに、本発明は、前記タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことが好ましい。これにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。
【0012】
加えて、本発明は、前記浸炭処理工程において、1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことが好ましい。これにより、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0013】
また、前記炭素基材の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることが好ましい。これにより、炭素基材の熱膨張係数が炭化タンタルの熱膨張係数に近いことから、炭化タンタル被覆膜にかかる熱応力を軽減できる。したがって、炭素基材から剥離しにくい炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0014】
さらに、前記タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、初回のタンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することが好ましい。これにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜とすることができる。したがって、炭素基材との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図2】高周波誘導加熱装置の概略図である。
【図3】炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図4】炭化タンタル被覆膜の形成方法を示す図である。
【図5】炭化タンタル被覆炭素材料の断面模式図である。
【図6】炭化タンタルの結晶面の配向角度の測定方法を示した模式図である。
【図7】ガス透過率を測定する装置の概要図である。
【図8(a)】参考例1〜4の結果を示す図である。
【図8(b)】参考例1〜4の結果を示す図である。
【図9】参考例3の結果を示す図である。
【図10】参考例5,6の結果を示す図である。
【図11】参考例5,6の結果を示す図である。
【図12】参考例6の結果を示す図である。
【図13】参考例7,8の結果を示す図である。
【図14】参考例7,8の結果を示す図である。
【図15】参考例7の結果を示す図である。
【図16】実施例1のタンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図17】実施例1の結果を示す図である。
【図18】実施例1の結果を示す図である。
【図19】実施例1の結果を示す図である。
【図20】実施例2の下地となる炭化タンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図21】実施例2の下地となる炭化タンタル被覆膜の結果を示す図である。
【図22】実施例2の結果を示す図である。
【図23】実施例2の結果を示す図である。
【図24】実施例2の結果を示す図である。
【図25】比較例1の結果を示す図である。
【図26】比較例1の結果を示す図である。
【図27】比較例1の結果を示す図である。
【図28】比較例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
本実施形態では、最初に、本発明に係る炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法を説明し、次に、他の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法を説明し、最後に、これらの方法により製造された炭化タンタル被覆炭素材料について説明する。
【0019】
〔炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法〕
(炭化タンタル被覆膜の形成方法(1))
本発明に係る方法は、炭素基材にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成方法と、タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを有する。以下に、図1を用いて本方法を詳細に説明する。図1(a)に示す炭素基材1を配置する。次に、図1(b)に示すように、炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を形成する(タンタル被覆膜形成工程)。そして、タンタル被覆膜を浸炭処理する(浸炭処理工程)。これにより、図1(c)に示すように、タンタル被覆膜は炭化タンタル被覆膜2に転化する。
【0020】
次に、上述したタンタル被覆膜形成工程及び浸炭処理工程について詳細に説明する。
【0021】
<タンタル被覆膜形成工程>
タンタル被覆膜の形成は、例えば、図2に示す装置を用いた化学蒸着(CVD)法により行うことができる。タンタル源には、例えば、五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルのハロゲン化合物を使用することができる。ここでは、図2に示す高周波誘導加熱装置を用いた化学蒸着(CVD)法について説明する。なお、タンタル被覆膜の形成方法は、CVD法に限定されずコンバージョン(CVR)法、溶射法、物理蒸着(PVD)法等を用いてもよい。まず、図1に示す高周波誘導加熱装置について説明する。
【0022】
<高周波誘導加熱装置>
図2に示すように、高周波誘導加熱装置はCVD反応室を有する。CVD反応室は、二重管構造からなる石英管内部に設置された断熱材(図示せず)に包まれた誘導負荷となる黒鉛炉壁(図示せず)内部を指す。また、石英管の外側には、高周波コイル(誘導コイル)を備えた加熱装置が配設されている。CVD反応室内の空間は高周波コイルにより加熱される。CVD反応室の一端には、原料ガスが導入されるガス導入管が配置されている。また、CVD反応室の他端には、排気口が形成されている。排気口にはCVD反応室内のガスを排気する排気管が配置されている。また、排気管の排気口に近い部分には可変バルブが設置されている。CVD反応室内の圧力は、可変バルブにより調整可能である。CVD反応室の上流にはガスフローコントローラーが設けられている。CVD反応室内へ導入される原料ガスのガス流量は、ガスフローコントローラーにより調整される。
【0023】
<タンタル被覆膜の形成方法における前処理>
CVD反応室内に1個又は複数個の炭素基材1を設置し(図2(a)参照)、CVD反応室内を約0.1〜0.01Torr(13.33Pa〜1.333Pa)まで真空引きする。次に、CVD反応室内部を加熱することにより、脱ガス処理を行う。詳細には、CVD反応室内に水素ガスを7000cc/min導入した後、CVD反応室内部を約1100℃まで加熱し、CVD反応室の脱ガスを行う。
【0024】
<高周波誘導加熱装置を用いたタンタル被覆膜の形成方法>
CVD処理によるタンタル被覆膜の形成工程を説明する。CVD反応室内を約800℃以上に保つとともに、可変バルブを操作することによりCVD反応室内を10Torr(1333Pa)以下に減圧する。そして、CVD反応室内に原料ガスとして五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルハロゲン化合物を10〜20sccmの流量で供給する。また、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガス、水素ガス又はそれらの混合ガスを供給する。なお、上記の単位[sccm]は、標準状態において一分間当りに流れる気体の量(cm3)を示す。上記条件下で炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を形成する(図1(b)参照)。
【0025】
なお、CVD法を用いてタンタル被覆膜を形成する場合、温度、圧力、各ガス流量および処理時間などのCVD条件を変えたり、これらの条件を適宜組み合わせたりすることによって、被覆膜の成長速度、結晶性及び膜厚、被覆膜を構成する結晶粒の大きさ、並びに、結晶の配向性などを変えることができる。CVD処理条件は当該技術分野の当業者が自由に設定を変更できるものであり、これらは決して本発明を限定するものではない。
【0026】
<タンタル被覆膜>
上述した方法により得られたタンタル被覆膜は、タンタル結晶粒により構成されている。タンタル被覆膜は、X線回折において、タンタル結晶の(100)面、(200)面、(211)面及び(220)面に対応した回折ピークを有する。また、前記(200)面の回折ピークが最大の回折強度を示し且つ、当該(200)面の半価幅が0.2°以下となる。炭素基材1の熱膨張係数が6.5×10−6〜8.0×10−6/Kである場合、炭素基材1とタンタル被覆膜とでは、熱膨張係数に差が生じる。この時、タンタル被覆膜は内部応力を有しており、X線回折図形において、ピークシフトやピークの分裂が観測される。
【0027】
ここで、前記タンタル被覆膜は、約1100℃以上で軟化し、炭素基材1の表面の凹凸に適合した形状に変化する。このため、炭素基材1の表面の開気孔の内部にタンタル被覆膜が入り込むことが可能となり、炭素基材1とタンタル被覆膜との密着性が向上すると考えられる。
【0028】
次に、上述した方法により形成したタンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程について説明する。
【0029】
<タンタル被覆膜の浸炭処理方法>
図示しない浸炭炉内に、タンタル被覆膜が形成された炭素基材1を配置する(図1(b))。浸炭処理では、前記浸炭炉内温度を1700〜2500℃とし且つ浸炭炉内を真空雰囲気10−2〜10Paとする。浸炭の炭素源には、予め設置した炭素源用黒鉛材や浸炭炉の黒鉛冶具類に含まれる炭素が用いられる。これらの炭素によりタンタル被覆膜が炭化タンタル被覆膜に転化する(図1(c))。
【0030】
本方法では、炭素基材1の表面の凹凸に適合した形状のタンタル被覆膜が浸炭処理され炭素基材との密着性が保たれ且つ、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆膜を得ることが可能となる。
【0031】
なお、上述した(1)の方法において、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。また、浸炭処理工程を行う前に、タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。ここで、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すとき、及びタンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すときに、タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われる。そこで、初回のタンタル被覆膜形成工程において、支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【0032】
次に、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)と異なる他の炭化タンタル被覆膜の形成方法を説明する。
【0033】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2))
ここでは、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成工程を説明する。本実施形態では、図3に示す装置を用いた方法を説明する。なお、炭化タンタル被覆膜の形成方法は、CVD法に限定されず、コンバージョン(CVR)法、溶射法、物理蒸着(PVD)法等を用いてもよい。また、以下の説明において、図3に示す装置の使用方法は上述した方法と重複するため、説明を省略することがある。
【0034】
図3を参照しつつ、図1に示す高周波誘導加熱装置を用いて炭化タンタル被覆膜を形成する方法を説明する。
【0035】
<炭化タンタル被覆膜の形成方法における前処理>
最初に、CVD反応室内を真空引きし、その後、脱ガス処理、CVD処理を順に行う。CVD反応室内に1個又は複数個の炭素基材21を設置し(図3(a)参照)、CVD反応室内を約0.1〜0.01Torr(13.33Pa〜1.333Pa)まで真空引きする。次に、CVD反応室内部を加熱することにより、脱ガス処理を行う。詳細には、CVD反応室内に水素ガスを7000cc/min導入した後、CVD反応室内部を約1100℃まで加熱し、CVD反応室の脱ガスを行う。
【0036】
〈炭化タンタル被覆膜の形成〉
続いて、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成工程を説明する。図2に示すCVD反応室内を850〜1100℃に保つとともに、可変バルブを操作することによりCVD反応室内を10Torr(1333Pa)以下に減圧する。その後、CVD反応室内に原料ガスとして五塩化タンタル(TaCl5)等のタンタルのハロゲン化合物とメタン(CH4)等の炭化水素ガスを供給する。また、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガス、水素ガス又はそれらの混合ガスを供給する。
【0037】
アルゴンガスや水素ガスには、純度が99.99%以上であると共に酸素含有量が5ppm以下の高純度のものを用いることが好ましい。上記条件下で炭素基材の表面に炭化タンタル被覆膜22を成膜する(図3(b)参照)。この際、炭化タンタル被覆膜22におけるC/Ta比が1.0〜2.0であることが好ましい。また、CVD反応室内に供給する原料ガスにおける炭素源はタンタル源に対して2〜25倍であることが好ましい。
【0038】
なお、アルゴンガスとともに水素ガスを供給した場合、五塩化タンタルとメタンガスと水素ガスとの混合ガスの熱分解反応により下記反応式(1)の反応が進行する。この反応により生成した炭化タンタルが炭素材料の表面に積層し、炭化タンタル被覆膜となる。
【数1】
【0039】
ところで、炭化水素は、その分子量が小さいほど、活性化エネルギーが大きく且つ反応温度が高い。このため、約850℃以上でCVD処理を行うためには、メタンCH4やエタンC2H6を用いることが適している。
【0040】
反応式(1)の反応が進行する際、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界には不純物が介在する。原料に塩化物を用いた際には、主に塩素系不純物が介在する。ここで、発明者の知見から、上記不純物(主に、塩素系不純物)は約850℃以上において炭化タンタル被覆膜から放出することが分かっている。本実施形態では、上述したように、CVD処理(炭化タンタル被覆膜の成膜工程)を850〜1100℃で行うことから、成膜と同時に被覆膜から上記不純物が放出され、炭化タンタル被覆膜の不純物濃度を低減できる。したがって、成膜後に、炭化タンタル被覆膜から不純物が放出するおそれがない。ここで、成膜後に炭化タンタル被覆膜から不純物が放出しないことは、1600℃以上の熱処理を行った際に炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生しないことにより判断できる。
【0041】
次に、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)の改良方法を説明する。
【0042】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3))
本方法は、炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、炭素基材の表面に炭化タンタル結晶核を形成する結晶核生成工程と、結晶核生成工程後に炭化タンタル結晶核を結晶成長させる結晶成長工程とを含み、前記結晶成長工程は、製造温度を漸次上昇させる(以下、昇温という。)昇温工程を有する。CVD処理温度が高いほど、炭化タンタル結晶粒が大きくなり、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を低減できる。しかし、CVD処理を950℃以上で行った場合、炭化タンタル被覆膜は炭素基材表面の気孔の径より大きな結晶粒を多く持つ。さらに、CVD処理温度が高いほど、短時間で結晶核形成から核成長に移行するため、炭素基材表面の凸部に形成された結晶核から結晶成長工程が進行し、炭素基材表面の凹部に結晶核形成が行き届かない。このため、炭化タンタル被覆膜と炭素基材との接触面積が減少し、密着度が低下する。また、炭化タンタル被覆膜は、タンタル被覆膜のように高温環境下で軟化して炭素基材表面の凹凸に適合するという性質を有さないため、接触面積を熱処理によって改善することは適わない。
【0043】
一方、CVD処理温度が低い場合は、炭素基材の凸部に形成された結晶核が結晶成長工程に移行する前に炭素基材表面の凹部にも十分な結晶核が形成され結晶成長を行い密着度の高い炭化タンタル被覆炭素材料を得ることができる。このため、本方法は、約950℃未満、好ましくは930℃未満においてCVD処理を行うことにより、前記炭素基材の表面の凹部内部及び凸部に炭化タンタル結晶核を形成(結晶核生成工程)した後、CVD処理温度を漸次上昇させる(昇温工程)ことにより、その結晶核の核成長を促す(結晶成長工程)。ここで、結晶核生成工程において、炭化タンタル結晶核を形成する温度を850〜950℃とすることが好ましい。これにより、炭素基材表面の凹部内部に十分な炭化タンタル結晶核を形成することが出来、炭素基材の表面の凹凸形状に適応した炭化タンタル被覆膜が得られる。
【0044】
また、上記昇温工程後に、前記製造温度を変化させないことが好ましい。これにより、結晶粒の発達した炭化タンタル被覆膜を積層させることができ、従来よりも結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜を所望の厚みで得られる。したがって、製造温度を上昇させた後、処理温度を950℃以上で保持することにより、所望の炭化タンタル被覆膜厚を得ることができる。また、昇温工程において、漸次上昇させる製造温度の温度差は50℃以上が好ましく、100℃以上であることがより好ましい。これにより、炭素基材の表面付近では、炭素基材の表面の凹凸形状に適応した炭化タンタル被覆膜が得られ、炭化タンタル被覆膜の外面付近では、結晶粒が発達し且つ結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜が得られる。さらに、昇温工程において、一定の速度で製造温度を上昇させることが好ましい。これは、急激に結晶性が変化することで炭化タンタル被覆膜の結晶粒成長を妨げるのを防ぐためである。これにより、炭素基材の表面の凹凸に適合した炭化タンタル被覆膜を得ることが可能となることから、炭化タンタル被覆膜の炭素基材に対する密着性が向上すると考えられる。
【0045】
上記方法により成長した結晶粒は、炭素基材表面付近から炭化タンタル被覆膜の外面に向けて傾斜的に大きくなっており、多角錘状の結晶粒が想像される。これは、CVD処理で炉内温度を漸次上昇させることによって、炭化タンタル被覆膜の結晶性を傾斜的に向上させることにより得られるものである。
【0046】
なお、炭化タンタル被覆膜厚みが好ましくは5μm、より好ましくは3μm以下の時点で炉内温度を漸次上昇させる昇温工程を終了することが好ましい。ここで、昇温速度が速すぎる場合、炭素基材の表面の凹部に結晶核が十分形成されないことから、炭化タンタル被覆膜の密着性の向上を図れない。また、昇温速度が遅すぎる場合は、結晶粒界の多い被覆膜となる。
【0047】
続いて、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)及び(3)の改良方法を説明する。
【0048】
(CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(4))
本方法は、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)を2回以上行うことにより、多重コーティングを施した炭化タンタル被覆炭素材料を形成する方法であり、炭素基材の表面に第1炭化タンタル被覆膜を形成する第1形成工程と、第1炭化タンタル被覆膜上に1回以上新たな炭化タンタル被覆膜を形成する第2形成工程とを有する。CVD処理を用いた方法では、炭素基材を治具(支持具)によって支持した状態で炭化タンタル被覆膜の形成を行うことから、炭素基材と治具との接触面に炭化タンタル被覆膜が形成されない。したがって、初回の炭化タンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降の炭化タンタル被覆膜形成工程において被覆するように、支持位置を変更する。これにより、炭素基材の全表面を炭化タンタル被覆膜により被覆できる。
【0049】
具体的には、図4(a)に示すように、図示しない反応室内に、炭素基材31を、支持棒35(治具)により下方から支持した状態で配置する。そして、炭素基材31にCVD処理を施すことにより炭素基材31の表面に1層目の炭化タンタル被覆膜32を形成する(第1回目の成膜工程、図4(b))。このとき、炭素基材31の支持棒35との接触部には、炭化タンタル被覆膜32が形成されない。
【0050】
続いて、図4(c)に示すように、支持棒35による炭素基材31の支持位置を、炭化タンタル被覆膜32面に変更する。そして、第1回目の成膜工程と同一の条件でCVD処理を行うことにより、図4(d)に示すように、炭化タンタル被覆膜32の表面に2層目の炭化タンタル被覆膜33を形成する(第2回目の成膜工程)。これにより、炭化タンタル被覆膜32の表面に炭化タンタル被覆膜33が積層され、炭素基材31の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成できる。
【0051】
ただし、炭化タンタル被覆膜32は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。また、(311)面の回折線の半価幅が0.12°以下であることが好ましい。このような炭化タンタル被覆膜の上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成すれば、新たな炭化タンタル被覆膜33は下地の炭化タンタル被覆膜32の結晶粒に引きついて結晶成長を行い、炭化タンタル被覆膜32と炭化タンタル被覆膜33とが連続する。このことから新たな炭化タンタル被覆膜33が下地の炭化タンタル被覆膜32から剥離することを防ぐことができる。また、炭化タンタル被覆膜32の結晶粒界が従来よりも飛躍的に少ないことから、各炭化タンタル被覆膜形成工程により形成された炭化タンタル被覆膜32,33から不純物が放出されない。したがって、下地となる炭化タンタル被覆膜32と新たな炭化タンタル被覆膜33との間に不純物ガスが介在しない。また、下地となる炭化タンタル被覆膜32は新たな炭化タンタル被覆膜の形成のとき(CVD処理のとき)に結晶性が殆ど変化せず、新たな炭化タンタル被覆膜33との結晶性が同等のものとなる。したがって、下地となる炭化タンタル被覆膜32と新たな炭化タンタル被覆膜33とにおいて、結晶性の相違が生じにくく密着性がよい。
【0052】
一方、上記構成を有さない炭化タンタル被覆膜の上にCVD処理により新たな炭化タンタル被覆膜を形成しようとすると、CVD処理中に当該下地の炭化タンタル被覆膜から不純物が放出され、新たな炭化タンタル被覆膜と、下地の炭化タンタル被覆膜との間に不純物ガスが介在するおそれがある。新たな炭化タンタル被覆膜の形成のとき(CVD処理のとき)に、下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶性が向上し、この結晶性と新たな炭化タンタル被覆膜との結晶性との差異が大きくなる。したがって、新たな炭化タンタル被覆膜が剥離する不具合が生じる。
【0053】
また、炭化タンタル被覆膜32,33の密着性を向上させるために、炭化タンタル被覆膜32は、下記の特性を備えていることが好ましい。炭化タンタル被覆膜32は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(320)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、各炭化タンタル被覆膜形成工程により形成された炭化タンタル被覆膜の結晶粒界が従来よりも飛躍的に少ないことから、炭化タンタル被覆膜32から不純物が放出されない。さらに、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における(311)面及び(320)面に対応する回折線の強度の和が、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における炭化タンタルの全結晶面に対応する回折線の強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下であることが好ましい。これにより、十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成された炭化タンタル被覆膜32となることから、炭化タンタル被覆膜33の結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。加えて、炭化タンタル被覆膜32のX線回折図形における(311)面または(320)面に対応する回折線の強度が最大となることが好ましい。これにより、炭化タンタル被覆膜32の結晶粒界を従来技術と比較して減少させることができる。また、炭化タンタル被覆膜のX線回折図形における前記(311)面または(320)面の回折線の半価幅が0.12 ° 以下であることが好ましい。これにより、結晶性が高く且つ十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成された炭化タンタル被覆膜32となることから、炭化タンタル被覆膜33の結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。
【0054】
なお、CVD法を用いて炭化タンタル被覆膜を形成する場合、温度、圧力、各ガス流量および処理時間などのCVD条件を変えたり、これらの条件を適宜組み合わせたりすることによって、被覆膜の成長速度、結晶性及び膜厚、被覆膜を構成する結晶粒の大きさ、並びに、結晶の配向性などを変えることができる。CVD処理条件は当該技術分野の当業者が自由に設定を変更できるものであり、これらは決して本発明を限定するものではない。
【0055】
次に、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)とCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法とを用いた方法を説明する。
【0056】
(炭化タンタル被覆膜の形成方法(5))
上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大の回折強度をしめす。CVD処理によって得られた炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面若しくは、(220)面の回折線が最大の回折強度をしめす。
【0057】
ここで、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、炭化タンタル被覆膜の上に、新たな炭化タンタル被覆膜を形成する際には下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶配向を引き継ぐことを見出した。これは、異なった製造工程によって作成した炭化タンタル被覆膜の結晶配向も同様となる。この特性により、例えば、CVD処理による炭化タンタル被覆膜の上に浸炭処理を施した炭化タンタル被覆膜を形成する多重コーティングが可能となる。
【0058】
ここで、炭化タンタル被覆膜はX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大であることが好ましい。この理由については、後述する。したがって、前記(311)面の回折線が最大である上述した炭化タンタル被覆膜形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜を第1炭化タンタル被覆膜とすることが好ましい。この第1炭化タンタル被覆膜上に、例えば、CVD処理による炭化タンタル被覆膜を形成することにより、当該多重コーティング被覆膜は最表面のX線回折図形において炭化タンタルの(311)面の回折線が最大の回折強度をしめす被覆膜を得ることが容易となる。また、上述した炭化タンタル被覆膜形成方法(1)により得られた炭化タンタル被覆膜を繰返し行うよりも、工程数を減少させることが可能となる。ただし、それぞれの被覆膜におけるX線回折図形における(311)面又は(220)面の回折線の半価幅は0.12°以下が好ましい。これにより、断面において、少なくとも異なる2層の炭化タンタル被覆膜が積層された多重コーティング膜が炭素基材上に形成される。
【0059】
また、上記第1炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜を形成する炭素基材表面に平行な(311)面を有する結晶粒が主として存在する。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜が得られる。さらに、第1炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有することが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜を形成する炭素基材表面に平行な(220)面を有する結晶粒が主として存在する。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜が得られる。加えて、第1炭化タンタル被覆膜のX線回折図形における(311)面及び(220)面における回折線の強度の和が、第1炭化タンタル被覆膜のX線回折図形におけるX線回折により炭化タンタルに対応した全結晶面における回折線の強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下であることが好ましい。これにより、第1炭化タンタル被覆膜は十分に発達した炭化タンタル結晶粒により構成される。したがって、第1炭化タンタル被覆膜上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成することで特性を引き継いだ少なくとも2層の炭化タンタル被覆膜を得ることが出来る。この結果、結晶粒界が少なく、緻密且つ高強度な2層以上の炭化タンタル被覆膜を得られる。
【0060】
次に、上述した全ての方法により製造された本発明の炭化タンタル被覆炭素材料について説明する。なお、炭素基材41は上述した炭素基材1,21,31に対応し、炭化タンタル被覆膜42は、上述した炭化タンタル被覆膜2,22,32,33に対応する。
【0061】
図5に示すように、炭化タンタル被覆炭素材料400は、炭素基材41と、炭素基材41の表面に形成された炭化タンタル被覆膜42とを有する。
【0062】
(炭化タンタル被覆膜42)
炭化タンタル被覆膜42は、炭化タンタル結晶粒により構成されている。ここで、炭化タンタルとは、タンタル原子と炭素原子との化合物を意味しており、例えば、TaC,Ta2C等の化学式で表される化合物である。
【0063】
<結晶面の配向>
炭化タンタル被覆膜42は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。また、炭化タンタル被覆膜42は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。
【0064】
配向角度は、以下の方法によって測定される。図6に示すように、炭化タンタル被覆炭素材料400を回転させながら、X線を照射し、炭化タンタルの(220)面及び(311)面の回折ピークが現れる角度(配向角度)を測定する。結果を図9,12,15,19,21,24,26に示す。なお、図9,12,15,19,21,24,26に示すグラフにおいて、横軸は、図6に示す配向角度(α)である。縦軸は強度である
【0065】
炭化タンタル被覆膜を構成する結晶を上記配向とすることにより、結晶粒が成長しやすくなることから、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を大幅に低減できる。この理由を以下に説明する。
【0066】
炭化タンタル被覆膜のX線回折図形で確認される結晶面は、主に、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面である。これらの結晶面のうち、(111)面と(222)面及び、(200)面と(400)面とはそれぞれ平行な面であることから、以下においては、上記結晶面のうち(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の4面の関係を考える。
【0067】
炭化タンタル結晶は立方晶であることから、面指数と方位指数が常に垂直である。(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の4面において、各面とのなす傾斜角度は、常に、(111)面と(200)面は54.7°、(111)面と(220)面は35.3°、(111)面と(311)面は29.5°、(200)面と(220)面は45.0°、(200)面と(311)面は25.2°、(220)面と(311)面は31.5°である。基準となる結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直な方向であると仮定したとき、当該基準の結晶面に対する他の結晶面が成す傾斜角度を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
<タンタル被覆膜形成工程と浸炭処理工程とを有する炭化タンタル被覆膜の形成方法(4)で形成した炭化タンタル被覆膜>
タンタルと炭化タンタルの密度はそれぞれ16.65g/cm3と13.90g/cm3である。このため、タンタル被膜に浸炭処理を施して炭化タンタル被膜に転化する場合に体積膨張が生じ、各結晶面の格子面間隔が広がる。この際に、各結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直に近づくほど、炭化タンタル被膜の内部応力が小さくなり、結果結晶粒界が減少すると推測される。
【0070】
<CVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(1),(2),(3)で形成した炭化タンタル被覆膜>
上記(1),(2),(3)で形成した炭化タンタル被覆膜では、炭化タンタル結晶核が生成し、その結晶核が結晶成長する。炭化タンタル結晶の各結晶面は方位指数に対して成長する。炭化タンタル結晶粒は成長する過程で、隣り合う他の結晶粒とぶつかり合うことで成長が阻害される。炭化タンタル結晶における各結晶面の方位指数が炭素基材表面に対して垂直に近づくほど、隣り合う結晶粒によって生じる内部応力が小さくなり成長が阻害されにくくなると推測される。結果、結晶粒が発達し結晶粒界が減少する。
【0071】
このため、表1から、炭化タンタル被覆膜42における(220)面が主として炭素基材表面に対して平行であることが好ましく、(311)面が主として炭素基材41表面に対して平行であることがより好ましい。また(311)面が炭素基材41表面に対して平行な結晶粒と(220)面が炭素基材41表面に対して平行な結晶粒が主として混在していてもよい。これは、(311)面と、(220)面の配向角度において最大のピーク値を示す配向角度との差が31.5°以内であることより判断できる。これにより、炭化タンタル被覆膜42の結晶粒界を少なくすることができ、緻密且つ高強度の炭化タンタル被覆膜42を形成できる。
【0072】
<炭化タンタル被覆膜のX線回折図形>
炭化タンタル被覆膜42のX線回折図形によって求められる炭化タンタルの(220)面に相当する回折強度(以下、I(220)と示す)及び(311)面に相当する回折強度(以下、I(311)と示す)のうちいずれか一方の回折強度が最大となることが好ましい。ここで、回折強度とは、各結晶面に特有の回折角に現れるピーク値を意味する。また、I(220)とI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和に対して0.5以上且つ0.9以下の範囲であることが好ましい。
【0073】
ここで、各結晶面に相当するX線回折強度の総和とは、X線回折図形において求められる(111)面に相当するX線回折強度(以下、I(111)と示す)、(200)面に相当するX線回折強度(以下、I(200)と示す)、I(220)、I(311)、(222)面に相当するX線回折強度(以下、I(222)と示す)、及び(400)面に相当するX線回折線強度(以下、I(400)と示す)の総和(I(111)+I(200)+I(220)+I(311)+I(222)+I(400))である。以下、当該総和をIpと記す。また、X線回折の強度およびその和はすべて積分強度で比較している。
【0074】
炭化タンタルのI(220)及びI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和Ipに対して0.5以上且つ0.9以下の範囲であることにより結晶粒界の少ない炭化タンタル被覆膜となる。
【0075】
なお、炭化タンタルのI(220)及びI(311)の和が各結晶面に相当するX線回折強度の総和Ipに対して0.5未満である場合は、結晶粒界が多くなると推測される。また、総和Ipに対して0.9を超える場合は、炭化タンタルにおける他の結晶面の成長が弱いことを意味し、結果結晶粒の小さな炭化タンタル被覆膜になると推測される。
【0076】
また、炭化タンタル被覆膜42におけるX線回折図形において、炭化タンタルの(220)面又は(311)面の回折線の半価幅は0.2°以下が好ましく、0.12°以下がより好ましい。炭化タンタルの(220)面の回折線は、約58.6°、(311)面は約70.0°の回折角に現われる。回折強度の高さとは、ピークの最大高さを意味する。回折線の半価幅は、最大高さの1/2の強度におけるピークの幅を意味し、結晶性の指標となる。
【0077】
よって、上述した炭化タンタル被覆膜に形成方法(1)〜(5)のいずれにおいても、結晶粒が大きく発達することにより、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界を減少させることができる。
【0078】
炭化タンタル被覆膜42のX線回折図形は、例えば、X線分析装置として、リガク社製 アルティマ(Ulutima)を用いることにより測定することができる。
【0079】
<ガス透過率>
炭化タンタル被覆膜42において、ガス透過率は10−7cm2/s以下であることが好ましく、10−8〜10−11cm2/secであることがさらに好ましい。ガス透過率が上記範囲内にある場合、緻密な炭化タンタル被覆膜42となる。一般的に炭素基材は通常窒素ガス透過率10−2〜10−3cm2/secの値を有するため、当該炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率が10−7cm2/s以下である場合、炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率は、炭素基材の窒素ガス透過率の約10−5〜10−4倍となる。当該炭化タンタル被覆膜が緻密な膜である場合、耐熱性と耐ガスエッチング性が得られる。
【0080】
炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率は、例えば、図6に示す機器を用いて測定することができる。以下に、図6に示す機器を用いた場合の試料の炭化タンタル被覆膜の窒素ガス透過率の測定方法を説明する。
【0081】
測定試料を、直径約30mm以上の円板形状に形成し、窒素ガス透過率の測定前に十分に乾燥する。そして、乾燥させた測定試料を図7に示す透過セル内に設置し、ロータリーポンプ(ロータリー式真空ポンプ)およびターボ分子ポンプにより、透過セルの一次側及び二次側が一定の真空値になるまで減圧する。次いで、ロータリーポンプの作動を停止して、バルブ(図7に示すV1)を閉める。そして、透過セルの一次側に窒素ガスを一定のガス圧で供給する。窒素ガスは、一次側から測定試料を透過して二次側へと移動し、これにより、二次側の圧力が上昇し始める。その圧力上昇率を測定する。この圧力上昇率から次の式(2)、(3)を用いてガス透過率(K)を算出する。
K=(QL)/(ΔPA)・・・(2)
Q={(p2−p1)V0}/t・・・(3)
ここで、Kは窒素ガス透過率、Qは通気量、ΔPは一次側と二次側の圧力差、Aは透過面積、Lは測定試料の厚さ、p1は二次側の初期圧力、p2は二次側の最終圧力、V0は二次側の容積、tは測定時間である。
【0082】
上記測定方法及び算出方法から、炭化タンタル被覆膜42の窒素ガス透過率(K2)を、以下の方法により求める。まず、炭化タンタル被覆炭素材料400の窒素ガス透過率(K0)を測定する。次に、炭素基材41の表面全面に形成された炭化タンタル被覆膜42を研磨により除去し、炭素基材41のみの窒素ガス透過率(K1)を測定する。そして、次の関係式(4)から窒素ガス透過率(K2)を算出する。
(L1+L2)/K0=L1/K1+L2/K2・・・(4)
ここで、L1は炭素基材の厚さ、L2は炭化タンタルの被覆膜の厚さである。
【0083】
<炭化タンタル被覆膜の厚み>
炭化タンタル被覆膜42の膜厚は、10〜100μmであることが好ましい。炭化タンタル被覆膜厚が10μm未満である場合、ガス透過率が大きくなり十分な耐熱性と耐ガスエッチング性が得られない。
【0084】
次に、炭素基材について説明する。
【0085】
(炭素基材の製造方法)
原料粉末に結合材(ピッチ等)を添加して混合し、成形し、焼成することにより炭素基材が得られる。なお、必要に応じて、公知の方法により黒鉛化処理及び高純度化処理を施してもよい。また、炭素基材に表面加工処理を施してもよい。これにより、炭素基材の表面が粗面化され、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との密着性を向上させることができる。
【0086】
(炭素基材)
<炭素基材の灰分>
炭素基材は、不純物をできる限り含まないことが好ましい。具体的には、炭素基材に不純物として含まれる各元素は、アルミニウムが0.3ppm以下であり、鉄が1.0ppm以下であり、マグネシウムが0.1ppm以下であり且つケイ素が0.1ppm以下であることが好ましい。さらに、炭素基材の総灰分(本明細書では、単に灰分と示すことがある)は10ppm以下であることが好ましい。灰分は、JIS−R−7223で規定される灰分の分析方法などにより測定することができる。
【0087】
<炭素基材のガス放出圧力>
炭素基材の1000℃基準のガス放出圧力が10−4Pa/g以下であることが好ましい。1000℃基準のガス放出圧力とは、炭素基材の表面および細孔に吸着したガス分子が1000℃の温度下で脱離し、脱離したガスが雰囲気中の圧力を上昇させる圧力変化量を意味し、具体的には、特許第2684106号に開示される昇温脱離スペクトル(TDS)などにより測定することができる。ガス放出圧力が高いと、脱ガス処理時にCVD炉内汚染が高くなり、炭化タンタル被膜に不純物の混入する危険がある。
【0088】
<炭素基材の熱膨張係数>
炭化タンタル被覆膜の熱膨張係数は、6.5〜8.0×10−6/Kの範囲内にある。したがって、炭素基材の熱膨張係数を6.5〜8.0×10−6/Kとすることが好ましい。上記炭素基材を用いることにより、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との熱膨張係数差が小さな炭化タンタル被覆炭素材料を形成することができる。したがって、炭化タンタル被覆炭素材料の温度変化による膨張や収縮を生じた時、炭化タンタル被覆膜に熱応力が発生しにくいため、炭化タンタル被覆膜が剥離しにくい。
【0089】
炭素基材の熱膨張係数は、例えば、株式会社 リガク製 熱機械分析装置(Thermo Plus2 TMA8310)によって測定されるが、測定装置はこの装置に限られない。
【0090】
<炭素基材の密度>
炭素基材の密度は、1.65〜1.90g/cm3であることが好ましく、1.73〜1.83g/cm3であることがさらに好ましい。炭素基材の密度が上記範囲内にある場合、炭素基材の機械的強度が高くなる。
【0091】
炭素基材の平均気孔半径は、0.01〜5μmであることが好ましい。これにより、アンカー効果が十分に発揮され、炭素基材から炭化タンタル被覆膜が剥離しにくくなる。ここで「平均気孔半径」は、水銀圧入法によって測定する水銀ポロシメーターを用いて求めることができ、最大圧力が98MPaであり且つ試料と水銀の接触角を141.3°としたときの累積気孔容積の1/2の容積に対応する気孔半径である。なお、平均気孔半径が0.01μm未満である場合は、アンカー効果が十分に発揮されないため、炭化タンタル被覆膜が炭素基材から剥離しやすくなる。
【0092】
なお、炭素基材の大きさ及び形態は、図1,3〜5に示す形態に限定されず、様々な大きさ及び形態に変更することができる。例えば、炭素基材の上面に凸部が設けられていてもよい。
【0093】
ここで、基材として炭素基材を用いる理由を説明する。炭化タンタル被覆膜を形成する基材としては、炭素基材又はタンタル基材が望ましい。炭素基材は、加工が容易であるため好まれる。一方、タンタル基材を用いた場合、使用環境によっては炭化タンタル被覆膜中の炭素がタンタル基材に拡散し、基材を含む全体がセラミック化し靱性を失い脆くなる。このため、予め中心部材となる基材に靱性を有する炭素基材を用いることにより、基材を含む全体が炭化タンタルに転化する不具合を解消でき、高強度且つ長寿命な炭化タンタル被覆炭素材料を製造することができる。
【0094】
〈ボイド〉
ボイドとは、炭化タンタル被覆膜の表面に発生する直径数十から数百nmの穴の総称である。ボイドは、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出する際に発生すると推測される。これは、以下の2つの理由が考えられる。1つ目の理由として、結晶粒界には、未発達な炭化タンタルの結晶及び不純物等が残留している。2つ目の理由として結晶粒界は結晶粒に比べて強度が低いため破壊の起点となりやすい。したがって、上記2つの理由から、炭化タンタル被覆膜を熱処理する際、強度の弱い結晶粒界が破壊され、結晶粒界に存在する残留物が結晶粒界に沿って放出し、ボイドが発生すると推測される。よって、結晶粒界の少ない被覆膜ほどボイドの発生を抑えることできる。
【0095】
また、炭化タンタル被覆膜における結晶粒界を減少させることにより、当該被覆膜内部に微細なクラックが発生しても、そのクラックが広がったり、そのクラックが炭化タンタル被覆膜表面にまで到ったりすることを抑えることができる。なお、上記クラックとは、例えば、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との熱膨張係数差により発生する応力及び熱衝撃によるストレスにより発生するものである。
【0096】
なお、炭化タンタル被覆炭素材料は、例えば、化合物半導体の単結晶成長装置及びエピタキシャル成長装置の構成部材及び治具に用いられる。単結晶成長装置内及びエピタキシャル成長装置内では、1000℃以上の高温のアンモニアガスや塩化水素ガスなどのエッチングガスが用いられる。この際、炭化タンタル被覆膜にボイドやクラックが発生していると緻密性が低下する。このため、上記エッチングガスが炭素基材を消耗させる。さらに、エッチングガスにより消耗した炭素基材から放出される不純物が炭化タンタル被覆膜を透過し製品を汚染する恐れがある。
【0097】
以上に述べたように、本発明に係る炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)によると、炭素基材1表面にタンタル被覆膜を形成し、このタンタル被覆膜を炭化タンタル被覆膜2に転化することにより、炭化タンタルの結晶粒界を従来技術と比較して飛躍的に減少させることができる。また、炭素基材1の表面にタンタル被覆膜を先に形成することにより、高温環境下で当該タンタル被覆膜が軟化し炭素基材1表面の凹凸に適合したものを炭化タンタル被覆膜2とすることができる。したがって、炭素基材1との密着度が高く、緻密且つ高強度な炭化タンタル被覆膜を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0098】
また、タンタル被覆膜形成工程と、浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことにより、容易に炭化タンタル被覆膜の膜厚を変更すること可能となる。
【0099】
さらに、タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことにより、タンタル被覆膜の膜厚を変更することが可能となる。
【0100】
加えて、浸炭処理工程において、1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことにより、高温環境下で消耗しにくい炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0101】
また、炭素基材1の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることにより、炭素基材1の熱膨張係数が炭化タンタルの熱膨張係数に近いことから、炭化タンタル被覆膜2にかかる熱応力を軽減できる。したがって、炭素基材1から剥離しにくい炭化タンタル被覆膜2を有する炭化タンタル被覆炭素材料が得られる。
【0102】
さらに、タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、初回のタンタル被覆膜形成工程において、支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することにより、炭素基材の全表面に炭化タンタル被覆膜を形成することができる。
【実施例】
【0103】
〔参考例1〜4〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(2)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0104】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記表2に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、当該炭素基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。
【0105】
【表2】
【0106】
参考例1〜4で得られた炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図8(a)に示し、X線回折図形を図8(b)に示す。
【0107】
図8(a)から、参考例1〜4のSEM像では、炭化タンタル被覆膜の結晶粒を観察できた。また、図8(b)から、参考例1〜4のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0108】
次に参考例1〜4のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表3から、参考例1〜4では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0111】
参考例3の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図9に示す。
【0112】
図9から、参考例3の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0113】
さらに、参考例1〜4で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0114】
〔参考例5,6〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0115】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g、且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記の表4に示すCVD処理温度条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。CVD処理の炉内圧力とガス流量は、それぞれ参考例1〜4と同等の条件とした。
【0116】
【表4】
【0117】
なお、参考例5,6では、CVD処理温度を100℃/Hrで漸次上昇させ、処理温度が1000℃に達したときに、昇温を停止し、処理温度を1000℃に維持しながら所望の厚みになるまで炭化タンタル被覆膜を作製した。得られた炭化タンタル被覆膜の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図10に示す。
【0118】
図10から、参考例5,6では、炭素基材表面の気孔や凹部内部に炭化タンタル被覆膜が形成されていた。また、炭化タンタル被覆膜を構成する炭化タンタル結晶は、黒鉛基材の表面付近から被覆膜外面に近付くにつれて傾斜的に大きくなっていることが明らかである。また、炭化タンタル被覆膜の表面付近では、結晶粒が成長しており、結晶粒界が大幅に減少していた。
【0119】
次に、参考例5,6のX線回折図形の結果を、図11に示す。図11から、参考例5,6のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0120】
次に参考例5,6のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
表5から、参考例5,6では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0123】
参考例6の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図12に示す。図12から、参考例6の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0124】
さらに、参考例5,6で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0125】
〔参考例7,8〕
ここでは、上述したCVD処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(3),(4)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0126】
(参考例7)
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、CVD処理温度を1000℃としてCVD処理を施し、黒鉛基板上に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。CVD処理の圧力、原料ガス等の条件は、参考例1〜4と同等の条件とした。そして、得られた炭化タンタル被覆炭素材料に、上記と同じCVD条件でCVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0127】
(参考例8)
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g、且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、CVD処理温度を900℃としてCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。そして、CVD処理温度を100℃/Hrで漸次上昇させ、処理温度が1000℃に達したときに、昇温を停止し、処理温度を1000℃に維持しながら被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整しながら、下地の炭化タンタル被覆膜を所望の厚みになるまで作製した。次に、当該下地の被覆膜上にCVD処理温度を1000℃として再度CVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を作製した。このときの圧力、原料ガス等の条件は、参考例1〜4と同等の条件とした。
【0128】
得られた炭化タンタル被覆膜の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図13に示す。図13から、参考例7,8では、二重コーティングを行った際の新しい炭化タンタル被覆膜の結晶粒は下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶粒を引き継ぎ成長していることがわかった。このため、多重コーティング被覆膜の境界面(下地となる炭化タンタル被覆膜と新たな炭化タンタル被覆膜との境界面)からの剥離が生じなかった。
【0129】
次に、参考例7,8のX線回折図形の結果を、図14に示す。図14から、参考例7,8のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面及び(311)面の少なくとも一方の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0130】
次に参考例7,8のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表6に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
表6から、参考例7,8では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0133】
参考例7の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図15に示す。図15から、参考例7の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0134】
さらに、参考例7,8で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0135】
〔実施例1〕
ここでは、上述した炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0136】
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記の表7に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上にタンタル被覆膜を形成した。
【0137】
【表7】
【0138】
形成されたタンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)とX線回折図形を図16に示す。図16(a)にはSEM像を示し、図16(b)にはX線回折図形を示している。図16から、タンタル被覆膜のX線回折図形では、(110)面、(200)面、(211)面及び(220)面の回折線が確認でき、(200)面の回折線が最も強い回折強度を示した。また、(200)面の半価幅は、0.2°以下であった。
【0139】
次に、当該タンタル被覆膜に下記の条件下で浸炭処理を施した。前記タンタル被覆膜が形成された黒鉛基材を浸炭炉内に炭素源とともに配置し、浸炭炉内温度を2200℃とし且つ浸炭炉内を真空雰囲気2.0Paに保ち、1時間浸炭処理を行い、実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料を得た。
【0140】
実施例1で得られた炭化タンタル被覆炭素材料の炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像を図17に示す。図17(a)には表面SEM像を示し、図17(b)には断面SEM像を示している。図17から観察されるようにタンタル被覆膜を浸炭処理することで得られた炭化タンタル被覆膜は、結晶粒界が著しく減少していることが解る。また、炭化タンタル被覆膜が黒鉛基材の表面の凹凸に適合していることも確認できた。
【0141】
次に、実施例1のX線回折図形の結果を、図18に示す。図18から、実施例1のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。
【0142】
次に実施例1のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表8に示す。
【0143】
【表8】
【0144】
表8から、実施例1では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0145】
実施例1の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図19に示す。図19から、実施例1の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜の結晶粒界が減少している。
【0146】
さらに、実施例1で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0147】
〔実施例2〕
ここでは、上述した浸炭処理による炭化タンタル被覆膜の形成方法(1)を用いて炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0148】
最初に、実施例1と同様な方法で黒鉛基材に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。当該下地となる炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)及びX線回折図形を図20に示す。図20(a)にSEM像を示し、図20(b)にX線回折図形を示している。図20から、下地となる炭化タンタル被覆膜のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。また、下地となる炭化タンタル被覆膜のIpに対するI(220)とI(311)の和((I(220)+I(311))/Ip)は0.53であり、炭化タンタルの(311)面の半価幅は0.10°であった。
【0149】
実施例2の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図21に示す。図21から、実施例2の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。
【0150】
次に、下地となる炭化タンタル被覆膜が形成された黒鉛基材に下記の表9に示す条件でCVD処理を施し、新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0151】
【表9】
【0152】
上記CVD処理により得られた新たな炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像を図22に示す。図22(a)には表面SEM像を示し、図22(b)には断面SEM像を示している。図22から観察されるように、下地となる炭化タンタル被覆膜の結晶粒に新たな炭化タンタル被覆膜が引きついで成長したため、図22(b)の断面SEM像において異なる二種類の炭化タンタル被覆膜が積層されていることがわかる。
【0153】
次に、実施例2の条件で得られた新たな炭化タンタル被覆膜のX線回折図形の結果を、図23に示す。図23から、実施例2のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(311)面の回折線が最も強い回折強度を示した。これは、下地となった炭化タンタル被覆膜の結晶配向を引継いで新たな炭化タンタル被覆膜が形成されたためと考えられる。
【0154】
次に実施例2のIpに対するI(220)とI(311)の和と各被覆膜における炭化タンタルの(311)面の半価幅の評価結果を表10に示す。
【0155】
【表10】
【0156】
表10から、実施例2では、Ipに対するI(220)とI(311)の和は0.5以上且つ0.90以下の範囲内にあり、(311)面の半価幅は0.20以下であった。
【0157】
実施例2の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図24に示す。図24から、実施例2の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面及び(311)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。この際、炭化タンタルの結晶粒が発達しており、炭化タンタル被覆膜に結晶粒界が減少している。
【0158】
さらに、実施例2で得られた炭化タンタル被覆膜を1600℃で熱処理した後、炭化タンタル被覆膜表面にボイドが発生していなかった。
【0159】
〔比較例1,2〕
熱膨張係数が7.8×10−6/K、1000℃基準のガス放出圧力が10−6Pa/g且つ灰分が2ppmである、直径60mm及び厚さ10mmの黒鉛基板に、下記表11に示すCVD処理条件でCVD処理を施し、黒鉛基板上に炭化タンタル被覆膜を形成した。このとき、炭化タンタル被覆膜のC/Taの組成比が1.0〜2.0となるように調整した。
【0160】
【表11】
【0161】
比較例1で得られた炭化タンタル被覆炭素材料の炭化タンタル被覆膜の表面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)と、X線回折図形とを図25に示す。図25(a)にはSEM像を示し、図25(b)にはX線回折図形を示している。図25から、比較例1のSEM像では、炭化タンタル被覆膜の表面に細かな結晶粒が多く存在していた。また、比較例1のX線回折図形では、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面が観察でき、(220)面の回折線が最も強い回折強度を示した。さらに、炭化タンタル(220)面の半価幅は0.15°であった。
【0162】
比較例1の表層のX線回折により観察される炭化タンタルの(220)面及び(311)面の配向角度の結果を図26に示す。図26から、比較例1の炭化タンタル被覆膜は、X線回折により炭化タンタルに対応した回折ピークの(220)面の配向角度において80°以上に最大のピーク値を有する。最大のピーク値を示す(220)面に対応する(311)面のピーク値は、配向角度が約31.5°ずれた位置で確認できた。この結果は、比較例1の炭化タンタル被覆膜を構成する個々の結晶粒の(220)面が主として炭素基材の表面に対して平行に配向していることを示している。また、(311)面では、80°未満の位置で最大のピーク値を示していた。したがって、比較例1では、結晶粒の成長が阻害され結晶粒界の多い炭化タンタル被覆膜となった。
【0163】
次に、比較例1のCVD処理条件で作成した炭化タンタル被覆炭素材料を1600℃で熱処理し、炭化タンタル被覆膜の表面を観察した結果を、図27を用いて説明する。図27に示すように、炭化タンタル被覆膜には、多数のボイドが発生した。また、比較例2のCVD処理条件で作成した炭化タンタル被覆炭素材料を1600℃で熱処理し、炭化タンタル被覆膜の表面を観察したら、比較例2の炭化タンタル被覆膜にも同様にボイドが発生していた。
【0164】
〔比較例3〕
比較例1と同様の方法で、黒鉛基材に下地となる炭化タンタル被覆膜を形成した。得られた炭化タンタル被覆炭素材料に比較例1(表11)と同等のCVD条件下でCVD処理を施すことにより、当該下地となる炭化タンタル被覆膜の上に新たな炭化タンタル被覆膜を形成した。得られた炭化タンタル被覆炭素材料の断面を電子顕微鏡によって撮影した像(SEM像)を図28に示す。
【0165】
図28から、炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との間に明確な境界が生じていることが確認できた。比較例3では、新たな炭化タンタル被覆膜を形成時に下地となる炭化タンタル被覆膜から不純物が放出し、不純物ガスが下地となる炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との間に介在したためである。このため、新しい炭化タンタル被覆膜が剥離することが確認された。また、比較例3で形成した下地となる炭化タンタル被覆膜を熱処理した後に、同一の条件で新たな炭化タンタル被覆膜を形成した場合(重複コーティング)、下地となる炭化タンタル被覆膜と新しい炭化タンタル被覆膜との結晶性の差が大きくなり、下地となる炭化タンタル被覆膜の上に新しい炭化タンタル被覆膜が密着しないことが確認できた。
【0166】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0167】
1,21,31,41 炭素基材
2,22,32,33,42 被覆膜
400 炭化タンタル被覆炭素材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、
前記炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、
前記タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含むことを特徴とする炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記タンタル被覆膜形成工程と、前記浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことを特徴とする請求項1に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記浸炭処理工程において、
1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭素基材の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、
初回のタンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することを特徴とする請求項2又は3に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項1】
炭素基材上に炭化タンタル被覆膜を形成する炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法であり、
前記炭素基材の表面にタンタル被覆膜を形成するタンタル被覆膜形成工程と、
前記タンタル被覆膜を浸炭処理する浸炭処理工程とを含むことを特徴とする炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記タンタル被覆膜形成工程と、前記浸炭処理工程とを順に複数回繰返すことを特徴とする請求項1に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記タンタル被覆膜形成工程を複数回繰返すことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記浸炭処理工程において、
1700℃〜2500℃で浸炭処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭素基材の熱膨張係数は6.5〜8.0×10−6/Kであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記タンタル被覆工程は、被覆対象物が支持具により支持されながら行われ、
初回のタンタル被覆膜形成工程において、前記支持具により生じた欠損部分を、2回目以降のタンタル被覆膜形成工程において被覆することを特徴とする請求項2又は3に記載の炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図2】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図10】
【図13】
【図16】
【図17】
【図20】
【図22】
【図25】
【図27】
【図28】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図2】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図10】
【図13】
【図16】
【図17】
【図20】
【図22】
【図25】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−153070(P2011−153070A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294084(P2010−294084)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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