説明

炭化珪素単結晶の成長方法

【課題】マイクロパイプの発生がなく、らせん転位や刃上転位などの転位密度が極めて少なく、かつ、異方位結晶の混入のない高品質な炭化珪素単結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】不活性雰囲気において、炭化珪素原料を2200〜2300℃の範囲内の第1の温度に、炭化珪素種結晶を第1の温度より低くかつ2200℃以上の第2の温度になるように加熱し、圧力を13.3〜26.6kPaの範囲内で炭化珪素単結晶の成長速度が80μm/h以下になるように調整して炭化珪素単結晶を成長させる第一の成長工程と、該成長工程に続いて成長速度を第一の成長工程より速くするために、第一の成長工程における圧力から0.93kPa/h以下の速度で減圧させる減圧工程と、減圧後の圧力で、炭化珪素原料を前記第1の温度に、炭化珪素種結晶を第2の温度に加熱維持し、第1の成長工程における成長速度より速い成長速度で成長させる第2の成長工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスおよびパワートランジスタ等の高耐圧・大電力用半導体素子に使用される炭化珪素単結晶基板を昇華法により作製する際に、特に高品質単結晶を成長させるための結晶成長方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化珪素単結晶基板は高耐圧電力用トランジスタ、高耐圧ダイオード等の高耐圧大電力用半導体デバイスの半導体基板として開発されている。そして、この炭化珪素単結晶基板の製造方法として、昇華法(改良レーリー法)が主に採用されている。図5はこの昇華法に用いられる装置の概略図で、容器体19と台座を備えた蓋体20よりなる黒鉛製坩堝の下半部内には、原料としてSiC粉末21が収容してあり、これに対向する蓋体20の下面には種結晶22が配置してある。不活性ガス雰囲気中に、この黒鉛製坩堝を配置し、減圧し、全体を1800〜2400℃に昇温する。SiC粉末21側が高温に、種結晶22側が低温になるように保持し、SiC粉末21からの昇華ガスが低温の種結晶22上で再結晶することにより単結晶23が成長する。昇温に伴い、SiC粉末21からは成長に寄与するSi、Si2C、SiC2、SiCなどの蒸気が発生し、特に融点が1400℃程度と低いSiの蒸気が初期に多く発生する。同時に、原料などに含まれる不純物の微粒子や結晶性の妨害微粒子なども坩堝内に浮遊する。これにより、種結晶上に成長する単結晶表面には、Siドロップレットや不純物微粒子などが付着し、これが起点となりマイクロパイプの発生や転位の発生につながっていると言われている。
【0003】
一方、炭化珪素単結晶から種結晶基板を作製するために、スライス、研磨、洗浄などにより加工が行われるが、この加工の際に種結晶表面には加工変質層が導入されてしまう。加工変質層は、炭化珪素が化学的に安定であることから適切なエッチャントがなく、除去することが困難となっている。このため、成長結晶中にはマイクロパイプやらせん転位などの欠陥が種結晶表面から多数発生してくる。また、昇華法では自然核発生的な核形成により結晶形(ポリタイプ)および結晶面の制御が困難なものなっていた。
【0004】
これを解決するために、成長初期に種結晶基板温度を2250℃〜2350℃、成長圧力を13.3〜40kPaとして成長初期層を形成した後、基板温度および成長圧力が最終的に2200〜2250℃、0.13〜2.7kPaになるように徐々に減じながら炭化珪素単結晶を成長させている(特許文献1参照)。
【0005】
また、(0001)面あるいは(000−1)面に対して4〜45°のオフ角を有した基板を種結晶とし、成長初期に0.05mm/h以下の成長速度で成長させた後、以降は1mm/h以下の成長速度で成長させるということが行われている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−284599号公報
【特許文献2】特開2005−29459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの方法も高品質な単結晶が得られるものの、成長初期から徐々に圧力を減圧させる際に、この速度によっては成長結晶中に種結晶の方位と異なった異方位結晶が混入しやすく、この結晶はウェーハとして使用できなくなり、歩留り低下、コストの上昇を引起こすという課題を有していた。
【0007】
本発明は、この従来の課題を解決するもので、マイクロパイプと呼ばれる空洞状の欠陥や転位が極めて少なく、かつ、異方位結晶の混入のない高品質な単結晶を再現性よく成長させる成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明の炭化珪素単結晶の成長方法は、炭化珪素単結晶からなる種結晶に、所定の温度で炭化珪素原料からの昇華ガスを供給し、炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の成長方法において、不活性雰囲気において、前記炭化珪素原料を2200〜2300℃の範囲内の第1の温度に、前記炭化珪素種結晶を前記第1の温度より低くかつ2200℃以上の第2の温度になるように加熱し、圧力を13.3kPa〜26.6kPaの範囲内で炭化珪素単結晶の成長速度が80μm/h以下になるように調整して炭化珪素単結晶を成長させる第一の成長工程と、前記第一の成長工程に続いて成長速度を第一の成長工程より速くするために、前記第一の成長工程における圧力から0.93kPa/h(7Torr/h)以下の速度で減圧させる減圧工程と、減圧後の圧力で、前記炭化珪素原料を前記第1の温度に、前記炭化珪素種結晶を第2の温度に加熱維持し、前記第1の成長工程における成長速度より速い成長速度で炭化珪素単結晶を成長させる第2の成長工程と、を備えることを特徴としたものである。
【0009】
さらに、炭化珪素単結晶の成長方法において、前記第一の成長工程の圧力と前記第二の成長工程の圧力との差である減圧幅を、17.3kPa(130Torr)以下とすることを特徴としたものである。
【0010】
さらに、炭化珪素単結晶の成長方法において、前記第一の成長工程における炭化珪素原料と炭化珪素種結晶との間の温度勾配は5℃/cm以下であることを特徴としたものである。
【0011】
さらに、炭化珪素単結晶の成長方法において、前記炭化珪素種結晶は、予め表面粗さRaが0.3〜0.8nmの範囲に表面加工された種結晶であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭化珪素単結晶の成長方法によれば、80μm/hの成長速度で成長させる第一の成長工程から第一の成長工程より速い成長速度で成長させる第二の成長工程までの間の減圧工程における減圧速度を0.93kPa/h(7Torr/h)以下とすることにより、マイクロパイプや転位が極めて少なく、かつ、異方位結晶の混入のない高品質な単結晶を再現性よく成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の炭化珪素単結晶の成長方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。図1に、本発明実施の形態における炭化珪素単結晶を成長させる際に使用する結晶成長装置を示す。図1において、1は真空容器であり、石英やステンレスなどの高真空を保つ材料で構成されおり、必要に応じて水冷されている。2は断熱材、3は黒鉛坩堝である。断熱材2は、黒鉛坩堝3の上部温度と下部温度を上部パイロメータ4と下部パイロメータ5により測定するために、上下の中央部に穴が設けられている。結晶成長が行われる黒鉛坩堝上部には種結晶である炭化珪素種結晶6が固定されており、坩堝下部には炭化珪素原料7が収容されている。黒鉛坩堝3を加熱するために、真空容器1を介して、高周波加熱コイル8が設置されている。真空容器1は、排気口9を通して真空ポンプにより排気される。また、ガス導入口10より高純度のアルゴンガスなどを供給し、図示していないが、排気口途中に設けられた圧力調整弁により所定の圧力に保たれるようになっている。
【0014】
続いて、炭化珪素原料7側を高温に、炭化珪素種結晶6側を低温にするために、高周波加熱コイル8を用いて加熱し、黒鉛坩堝3内の炭化珪素原料7を昇華ガスが発生する例えば2000℃以上の温度にして、昇華ガスを炭化珪素種結晶6上で再結晶化させて炭化珪素単結晶11を成長させる。
【0015】
以下に具体的な炭化珪素単結晶の成長方法を、図1に示した炭化珪素単結晶製造装置を用いて、詳細に説明する。
【0016】
炭化珪素種結晶6は、アチソン法、レーリー法および昇華法で作られた単結晶が用いられる。これらは、切断、研磨して種結晶として必要な形状とする。種結晶の最終仕上げとしては研磨ダメージを完全に取り除くために、化学機械研磨(CMP:hemical echanical olish)まで行う。本発明では、炭化珪素種結晶6の最終仕上げとしてCMPを用いたが、リアクティブイオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)や水素雰囲気中での熱エッチングなどの方法を用いても同様に加工変質層を除去できる。続いて、研磨などにより炭化珪素種結晶6の表面に付着した有機物や金属不純物を取り除くために、硫酸と過酸化水素水の混合液による洗浄、アンモニアと過酸化水素水による洗浄、塩酸と過酸化水素水による洗浄を行う。この洗浄方法は、一般的にRCA洗浄と呼ばれている。その後、さらに1100℃程度で犠牲酸化を行い、フッ化水素酸により犠牲酸化膜を除去して炭化珪素種結晶6として使用する。この炭化珪素種結晶6の表面処理を行うことにより、マイクロパイプや転位が極めて少ない高品質な単結晶を再現性よく成長させることができる。
【0017】
このように表面処理された炭化珪素種結晶6を、結晶成長部の黒鉛坩堝3の内面の上部に機械的またはカーボン系接着剤などを用いた接着による接合方法を用いて固定する。炭化珪素原料7を炭化珪素種結晶6に対向するように設置した黒鉛坩堝3を真空容器1内に置き、ロータリーポンプとターボ分子ポンプを用いて真空度3×10-4Paになるまで真空引きを行う。続いて、パイロメータの測定可能な温度である1200℃程度まで黒鉛坩堝3の外側に設置される高周波コイル8により黒鉛坩堝3を加熱昇温し、ベーキングを兼ねて真空度3×10-4Paまで待機する。ベーキングにおいて、黒鉛坩堝3、炭化珪素原料7や断熱材2などに吸着したガスや水分などを排出することができる。
【0018】
次に、高純度Arガスを導入し、真空容器1内の圧力が80〜93.3kPa(600〜700Torr)になるように調整する。この状態で、炭化珪素原料粉末7側の温度を2200〜2300℃内の所定の温度、例えば2230℃に加熱する。そして、炭化珪素種結晶6側の温度が炭化珪素原料7側の温度である2230℃より低くかつ2200℃以上になるように高周波コイル8と黒鉛坩堝3の相対位置を調節する。
【0019】
ここで、不活性ガスとして高純度Arガスのみとしたが、必要に応じて窒素ガスなどを添加することもできる。
【0020】
続いて、成長初期において、炭化珪素単結晶の成長速度が80μm/h以下となるようAr雰囲気圧力を13.3〜26.6kPaとなるように調節し、この状態で成長初期層を形成する。
【0021】
ここで、炭化珪素種結晶6側の温度を炭化珪素原料7側の温度より低くかつ2200℃以上とすることにより、基板表面に付着した原料分子の基板表面でのマイグレーションが活発になり、不要な2次元核発生や15Rや3Cといった異種ポリタイプの発生を抑制でき、単結晶基板表面の昇華再結晶化も活発になり、表面の乱れた部分が再構成される。このとき、炭化珪素種結晶温度でのSi、Si2C、SiC2、SiCの種結晶近傍での昇華ガスの蒸気圧が、飽和蒸気圧より過度になってしまうと、原料分子の結晶表面への付着量が瞬間的に多くなってしまい、基板表面での原料分子のマイグレーションが阻害されてしまうため、炭化珪素種結晶温度での昇華ガスの蒸気圧が飽和蒸気圧より過度にならないように雰囲気圧力を13.3〜26.6kPaにし、成長速度として80μm/hとしておく必要がある。
【0022】
これらの作用により、従来種結晶基板表面から発生していたマイクロパイプやらせん転位などの結晶欠陥が抑制される。また、この初期成長層を形成する際に炭化珪素原料温度と炭化珪素種結晶温度との差を原料表面と種結晶基板表面との間の距離で割った温度勾配を5℃/cmにしておくことが好ましい。これは、温度勾配が大きいと異種ポリタイプである15Rが混入しやすくなり、この部分からマイクロパイプが多数発生するからである。
【0023】
その後、成長速度が成長初期層を形成する速度より速くなるような圧力まで、減圧幅17.3kPa(130Torr)以下の範囲内で、減圧速度0.93kPa/h(7Torr/h)以下で減圧を行う。また、炭化珪素種結晶6側の温度を炭化珪素原料7側の温度より低くかつ2200℃以上を維持させたまま、この状態で所望の成長量を得るために結晶成長を行う。減圧速度を0.93kPa/h(7Torr/h)以下とすることにより、初期成長層形成時の安定な状態から急激な成長速度の変化を抑え、2次元的あるいは3次元的な核発生を抑制することができ、成長初期層から後の成長において異方位結晶が導入されるのを抑制することができる。さらに、この減圧速度の範囲で減圧幅を17.3kPa(130Torr)以下の範囲とすることにより、異方位結晶の混入を抑制することができる。もちろん、成長初期層の圧力を13.3kPaとすると、減圧幅はMAXで13.3kPaまでということになる。
【0024】
これら本発明の実施の形態により、マイクロパイプと呼ばれる空洞状の発生はなく、転位密度<5×103個/cm2と低く、異方位結晶の混入のない炭化珪素単結晶を再現性よく製造することができる。
【実施例1】
【0025】
本発明の炭化珪素単結晶の成長方法における減圧工程の減圧速度について、具体的に説明していく。
【0026】
炭化珪素種結晶としては、直径約10mm、厚さ0.3〜0.5mm、ポリタイプ6Hのレーリー基板を用いた。これは、レーリー基板の品質がマイクロパイプが0で、転位密度が5×103〜1×104/cm2と安定しているので、成長結晶中の欠陥を正確に比較評価することができるからである。
【0027】
レーリー基板は、成長面として使用しないカーボン面をダイヤスラリーによりRa=1.7nm程度まで研磨、成長面として使用するSi面をCMPによりRa=0.3〜0.8nmまで研磨し、1%HFで10min、超純水による流水洗浄5min、アンモニアと過酸化水素混合溶液で140℃ 10min、超純水による流水洗浄5min、5%HFで5min、超純水による流水洗浄5min、塩酸と過酸化水素混合溶液で140℃ 10min、超純水による流水洗浄5min、5%HFで5min、超純水による流水洗浄5min、1100℃ 6h犠牲酸化、5%HFで10min、超純水による流水洗浄10minの処理を施した。
【0028】
黒鉛坩堝の内径24mm、深さ80mmの坩堝に、炭化珪素原料(大平洋ランダム株式会社製GMF−SP)を高さ52mmになるように充填した。種結晶は黒鉛坩堝の蓋の中央に突出している直径10mm、高さ8mmの台座下面に貼付け保持した。
【0029】
この黒鉛坩堝を断熱材で覆い、真空容器にセットした。2×10-4Paになるまでターボ分子ポンプにより真空引きを行い、1200℃まで昇温し、3×10-4Paになるまでベーキングを行い、Arガスを導入し80kPa(600Torr)になるように調節し、黒鉛坩堝下部が2230℃になるまで昇温する。このとき、黒鉛坩堝上部温度が2220℃になるようにコイル位置を調節する。その後、50minかけて25.3kPa(190Torr)まで減圧を行い、この状態で5h成長を行う。
【0030】
この後、12kPa(90Torr)まで0.13〜1.33kPa/h(1〜10Torr/h)の減圧速度で減圧を行い、異方位結晶混入の確認を行った。初期成長層と減圧工程の間に、成長雰囲気ガスに窒素ガスを添加して炭化珪素単結晶を着色し、成長条件が変化した位置が分かるように窒素マーカーを導入した。成長した結晶は、成長方向と平行にスライスし、鏡面研磨し、透過顕微鏡観察による断面観察を行った。そして、初期成長層の成長速度とマイクロパイプの発生本数も調べた。
【0031】
減圧速度を変化させた場合の、異方位結晶混入の有無、初期成長層の成長速度およびマイクロパイプ発生本数の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

減圧速度1.07kPa/h(8Torr/h)以上において、図2に示すように初期成長層12と減圧工程のほぼ界面の窒素マーカー13の近傍から異方位結晶14が混入されているという結果が得られた。この理由として、以下のようなことが考えられる。昇華法において、種結晶としてc面を成長面として使用する場合、種結晶は面方位が(0001)からずれの無いジャスト基板や(0001)から方位を故意にずらしたオフ基板が使用される。ジャスト基板といっても、完全にジャストにすることは難しく、0.5°程度のオフ角が存在してしまう。このため、種結晶表面としては、図3(a)に示すように、原子ステップ15とテラス16から構成されるような表面状態になる。この上に単結晶を安定した成長条件で成長させているときは、図3(b)に示すように、テラス16に原料分子17が吸着し、途中で脱離する分子もあるが、この原料分子17が基板表面でマイグレーションし、原子ステップ15に到達しステップフロー的に結晶成長が進行するという過程をたどる。しかしながら、安定した成長条件から成長条件を変化させ、急激にテラス16上に吸着する原料分子17が増加すると、図3(c)に示すように、吸着した原料分子17が原子ステップ15に向かってマイグレーションしていく途中で他の原料分子と結びつき、そこで新たな成長核18の発生を起こしてしまう。この成長核18は、テラス16上で発生するため、種結晶の結晶構造の情報が受継がれにくく、これが異方位結晶の核の原因となってしまう。この図3(c)に示した状態が、減圧速度1.07kPa/h(8Torr/h)以上の減圧速度の条件に相当していると予想される。
【0033】
また、初期成長層の成長速度は70μm/h程度であり、断面観察からではあるが、このときに発生していたマイクロパイプの本数は0であった。
【0034】
これらのことより、初期成長層形成後の減圧速度は0.93kPa/h(7Torr/h)以下であることが好ましいことが分かった。
【実施例2】
【0035】
本発明の炭化珪素単結晶の成長方法における減圧工程の減圧幅について、具体的に説明していく。
【0036】
炭化珪素種結晶としては、直径約10mm、厚さ0.3〜0.5mm、ポリタイプ6Hのレーリー基板を用い、表面の処理と洗浄に関しては実施例1と同様であるので省略する。
【0037】
黒鉛坩堝の内径24mm、深さ80mmの坩堝に、炭化珪素原料(大平洋ランダム株式会社製GMF−SP)を高さ52mmになるように充填した。種結晶は黒鉛坩堝の蓋の中央に突出している直径10mm、高さ8mmの台座下面に貼付け保持した。
【0038】
この黒鉛坩堝を断熱材で覆い、真空容器にセットした。2×10-4Paになるまでターボ分子ポンプにより真空引きを行い、1200℃まで昇温し、3×10-4Paになるまでベーキングを行い、Arガスを導入し80kPa(600Torr)になるように調節し、黒鉛坩堝下部が2230℃になるまで昇温した。このとき、黒鉛坩堝上部温度が2220℃になるようにコイル位置を調節した。その後、50minかけて25.3kPa(190Torr)まで減圧を行い、この圧力下で5h成長を行った。この後、25.3kPaの圧力より0.67kPa/h(5Torr/h)の減圧速度で6.7〜22kPa(50〜165Torr)の間で減圧幅を変化させて減圧を行い、減圧後の圧力が目標とする圧力に到達した時点で成長を止め、異方位結晶混入の確認を行った。初期成長層と減圧工程の境界および減圧工程において1.33kPa(10Torr)ごとに成長雰囲気ガスに窒素ガスを混入して炭化珪素単結晶を着色し、窒素マーカーを導入し、成長条件が変化した位置が分かるようにした。成長した結晶は、成長方向と平行にスライスし、鏡面研磨し、透過顕微鏡観察による断面観察を行った。今回も、ついでに、初期成長層の成長速度とマイクロパイプの発生本数も調べた。
【0039】
減圧幅を変化させた場合の、異方位結晶混入の有無、初期成長層の成長速度およびマイクロパイプ発生本数の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

減圧幅18.7kPa(140Torr)以上において、異方位結晶が混入されていることがわかった。減圧幅18.7kPa(140Torr)では、断面観察より成長終了間際に異方位結晶が混入しており、減圧幅20kPa(150Torr)、21.3kPa(160Torr)、22kPa(165Torr)では、減圧幅が18.7kPa(140Torr)になった近辺から異方位結晶が混入しているという結果が得られた。昇華法による単結晶の成長において、図4に示すように、成長温度が一定の条件化では、成長圧力が減少していくとともに成長速度が反比例的あるいは指数関数的に速くなる関係がある。これは、原料粉末から昇華する原料分子が圧力の減少とともに急激に増加することを意味している。このことから、減圧幅18.7kPa(140Torr)以上において異方位結晶が混入した理由は、17.3kPa(130Torr)の減圧幅を越えた圧力での成長において、急激に原料粉末から昇華した原料分子が成長単結晶表面に到達し、図3(c)における現象と同様のことが起こったためと考えられる。
【0041】
また、初期成長層における成長速度は65〜77μm/h程度であり、断面観察からではあるが、発生していたマイクロパイプの本数は0であった。
【0042】
これらのことより、初期成長層形成後の最適な減圧速度での減圧幅は17.3kPa(130Torr)以下が好ましいことが分かった。
【実施例3】
【0043】
本発明の炭化珪素単結晶の成長方法における第一の成長工程の炭化珪素原料と炭化珪素種結晶との間の温度勾配について、具体的に説明していく。
【0044】
炭化珪素種結晶としては、直径約10mm、厚さ0.3〜0.5mm、ポリタイプ6Hのレーリー基板を用い、表面の処理と洗浄に関しては実施例1と同様であるので省略する。
【0045】
黒鉛坩堝の内径24mm、深さ80mmの坩堝に、炭化珪素原料粉末(大平洋ランダム株式会社製GMF−SP)を高さ60mmになるように充填した。種結晶は黒鉛坩堝の蓋の下面に貼付け保持した。炭化珪素原料粉末表面と種結晶表面との間の距離は、20mmになるようにした。
【0046】
この黒鉛坩堝を断熱材で覆い、真空容器にセットした。2×10-4Paになるまでターボ分子ポンプにより真空引きを行い、1200℃まで昇温し、3×10-4Paになるまでベーキングを行い、Arガスを導入し80kPa(600Torr)になるように調節し、黒鉛坩堝下部が2230℃になるまで昇温した。このとき、黒鉛坩堝上部温度が2210℃〜2230℃の間で変化するようにコイル位置を調節した。その後、50minかけて25.3kPa(190Torr)まで減圧を行い、この状態で5h成長を行った。この後、0.67kPa/h(5Torr/h)の減圧速度で8kPa(60Torr)まで減圧を行い、この圧力で64h成長を行った。成長した結晶は、結晶表面側の一部は成長方向と垂直方向に、残りの結晶は成長方向と平行方向にスライスし、研磨を行った。平行方向にスライスした結晶に関しては、透過偏向顕微鏡観察により、初期成長層に15Rなどの異種ポリタイプが混入していないかどうかの確認を行った。垂直方向にスライスした結晶に関しては、溶融KOHにより500℃ 5minエッチングを行い、顕微鏡観察によりマイクロパイプと転位の数を計測し、それぞれ密度を算出した。
【0047】
温度勾配を0〜10℃/cmで変化させた場合の、成長初期の異種ポリタイプ混入の有無、マイクロパイプ密度、転位密度の結果を表3に示す。温度勾配は、坩堝下部温度と坩堝上部温度との差を原料表面と種結晶表面との間の距離20mmで割って算出した。
【0048】
【表3】

7℃/cm以上の温度勾配において、種結晶表面と成長単結晶の界面から15R異種ポリタイプが混入していることが観察でき、この領域からマイクロパイプが発生していた。転位密度としては、0〜15℃/cmの間のすべての温度勾配条件において、5×103/cm2以下となっていた。7℃/cm以上の温度勾配において15R異種ポリタイプが混入した理由としては、温度勾配が大きいということは原料側温度と成長結晶との間の温度差が大きいということであり、これは種結晶周辺の過飽和度が大きいということを意味している。過飽和度が大きいということは、種結晶表面に到達する原料から昇華した原料分子の量が多くなり、図3(c)に示した現象と同様のことが起こり、テラス上に種結晶の結晶構造を受継がない核が発生し、これにより15Rが混入したものと考えられる。
【0049】
これらのことから、第1の成長工程においては、温度勾配としては5℃/cm以下とすることが好ましいことがわかった。
【0050】
温度勾配は、上述のように第1の成長工程において問題となるが、第2の成長工程においては、炭化珪素原料7を2200〜2300℃の範囲内の第1の温度に、炭化珪素種結晶6を第1の温度より低くかつ2200℃以上の第2の温度になるように加熱された状態であればよく減圧下で温度変化が生じ温度勾配が多少変化しても問題とならない。
【実施例4】
【0051】
本発明の炭化珪素単結晶の成長方法における炭化珪素種結晶の表面状態について、具体的に説明していく。
【0052】
炭化珪素種結晶としては、直径約10mm、厚さ0.3〜0.5mm、ポリタイプ6Hのレーリー基板を用いた。成長面でないカーボン面をダイヤスラリーによりRa=1.7nm程度まで研磨、成長面であるSi面をCMPによりRa=0.3〜0.8nmまで研磨したものと、成長面でないカーボン面をダイヤスラリーによりRa=1.7nm程度まで研磨、成長面であるSi面をパッドを用いたダイヤスラリーによるポリッシュによりRa=1nmまで研磨したもの、の2種類を用意した。種結晶の洗浄は、実施例1と全く同じであるので省略する。
【0053】
黒鉛坩堝の内径24mm、深さ80mmの坩堝に、炭化珪素原料粉末(大平洋ランダム株式会社製GMF−SP)を高さ60mmになるように充填した。種結晶は黒鉛坩堝の蓋の下面に貼付け保持した。炭化珪素原料粉末表面と種結晶表面との間の距離は、20mmになるようにした。
【0054】
この黒鉛坩堝を断熱材で覆い、真空容器にセットした。2×10-4Paになるまでターボ分子ポンプにより真空引きを行い、1200℃まで昇温し、3×10-4Paになるまでベーキングを行い、Arガスを導入し80kPa(600Torr)になるように調節し、黒鉛坩堝下部が2230℃になるまで昇温した。このとき、黒鉛坩堝上部温度が2220℃になるようにコイル位置を調節した。その後、50minかけて25.3kPa(190Torr)まで減圧を行い、この状態で5h成長を行った。この後、0.67kPa/h(5Torr/h)の減圧速度で8kPa(60Torr)まで減圧を行い、この圧力で64h成長を行った。成長した結晶は、成長方向と垂直方向にスライスし、鏡面研磨を行った。この結晶に関しては、溶融KOHにより500℃ 5minエッチングを行い、顕微鏡によりマイクロパイプと転位の数を計測し、それぞれ密度を算出した。
【0055】
CMPまで行った種結晶を用いた場合と、ダイヤポリッシュまで行った種結晶を用いた場合のそれぞれについて結晶欠陥の評価を行った。また、再現性をとるために、それぞれに対して3回の成長と評価を行った。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

種結晶をCMP処理まで施した場合は、マイクロパイプ密度0本/cm2、転位密度<4×103個/cm2が再現性よく得られた。種結晶の処理がダイヤモンドのポリッシュまでの場合は、マイクロパイプ密度<5本/cm2、転位密度<1.9×104個/cm2と欠陥が多く、成長ごとに非常に値がばらついており、非常に不安定であった。これらのことから、種結晶の単結晶を成長させる表面をCMP処理まで行い、Ra=0.3〜0.8nmとすることにより、マイクロパイプ密度0本/cm2、転位密度<4×103個/cm2が再現性よく得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明にかかる炭化珪素単結晶の成長方法は、昇華法を用いて種結晶から単結晶を成長させる場合において、結晶の成長過程で新たな欠陥を発生させること無く高品質な単結晶を成長させることができるため、昇華法により成長できる単結晶である硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態における炭化珪素単結晶成長用の成長装置の概略構成図
【図2】本発明の実施例1における炭化珪素成長における減圧速度が大の場合の異方位結晶が混入した炭化珪素単結晶の断面を示す図
【図3】本発明の実施例1における異方位結晶混入のメカニズムを説明するための図
【図4】炭化珪素単結晶の成長速度と成長圧力の関係を示す図
【図5】炭化珪素単結晶を成長させるための昇華法装置の概略図
【符号の説明】
【0059】
1 真空容器
2 断熱材
3 黒鉛坩堝
4 上部パイロメータ
5 下部パイロメータ
6 炭化珪素種結晶
7 炭化珪素原料
8 高周波加熱コイル
9 排気口
10 ガス導入口
11 炭化珪素単結晶
12 初期成長層
13 窒素マーカー
14 異方位結晶
15 原子ステップ
16 テラス
17 原料分子
18 成長核
19 容器体
20 蓋体
21 SiC粉末
22 種結晶
23 単結晶


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶からなる種結晶に、所定の温度で炭化珪素原料からの昇華ガスを供給し、炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の成長方法において、
不活性雰囲気において、前記炭化珪素原料を2200〜2300℃の範囲内の第1の温度に、前記炭化珪素種結晶を前記第1の温度より低くかつ2200℃以上の第2の温度になるように加熱し、圧力を13.3kPa〜26.6kPaの範囲内で炭化珪素単結晶の成長速度が80μm/h以下になるように調整して炭化珪素単結晶を成長させる第一の成長工程と、
前記第一の成長工程に続いて成長速度を第一の成長工程より速くするために、前記第一の成長工程における圧力から0.93kPa/h(7Torr/h)以下の速度で減圧させる減圧工程と、
減圧後の圧力で、前記炭化珪素原料を前記第1の温度に、前記炭化珪素種結晶を第2の温度に加熱維持し、前記第1の成長工程における成長速度より速い成長速度で炭化珪素単結晶を成長させる第2の成長工程と、を備えることを特徴とする炭化珪素単結晶の成長方法。
【請求項2】
前記第一の成長工程の圧力と前記第二の成長工程の圧力との差である減圧幅を、17.3kPa(130Torr)以下とすることを特徴とする請求項1記載の炭化珪素単結晶の成長方法。
【請求項3】
前記第一の成長工程における炭化珪素原料と炭化珪素種結晶との間の温度勾配は5℃/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の炭化珪素単結晶の成長方法。
【請求項4】
前記炭化珪素種結晶は、予め表面粗さRaが0.3〜0.8nmの範囲に表面加工された種結晶であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の成長方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−119273(P2007−119273A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310770(P2005−310770)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】