説明

炭化珪素単結晶基板およびその製造方法

【課題】エピタキシャル成長(LPE)法により、4Hもしくは6H炭化珪素単結晶基板上に2H炭化珪素単結晶が30μm厚以上形成された基板と、その製造方法を提供する。
【解決手段】ルツボ3内でリチウムフラックス中で珪素と炭素の融液12を形成し、種結晶基板11として融液12に浸漬した4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]上に、2H炭化珪素単結晶のLPE膜を30μm厚以上成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に光デバイスや電子デバイスの基板材料として好適な、炭化珪素(SiC
)単結晶基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)単結晶は、熱的および化学的に非常に安定な半導体材料であり、珪
素(Si)に比べ、バンドギャップが2〜3倍、熱伝導率が約3倍、絶縁破壊電圧が約1
0倍、飽和電子速度が約2倍大きいという優れた特性を有している。このような優れた特
性から、炭化珪素単結晶はシリコンデバイスの限界を超えるパワーデバイスや、高温で動
作する耐環境デバイスの基板材料としての応用が期待されている。
【0003】
炭化珪素は多くの結晶多形(ポリタイプ)が存在する。この結晶多形とは化学量論的に
は同じ組成でありながら原子の積層の周期が(C軸方向にのみ)異なる多くの結晶構造を
取るものである。代表的なポリタイプは2H,3C,4H,6H,15Rである。Hは六
方晶、Cは立方晶、Rは菱面体構造を表している。数字は積層方向(C軸方向)の一周期
中に含まれるSi−C単位層の数を意味する。現在、上市されている炭化珪素単結晶は3
Cと4H,6Hであり、なかでも4H炭化珪素単結晶は、バンドギャップと飽和電子速度
の特性が良いことから、光デバイスや電子デバイスの基板材料として実用化研究の中心的
な材料となっている。
【0004】
2H炭化珪素単結晶は、4H炭化珪素単結晶よりバンドギャップと飽和電子速度の特性
がより良いことが知られている。2H炭化珪素単結晶の基板材料を得ることができれば、
より高性能な光デバイスや電子デバイスが得られるものである。
【0005】
炭化珪素単結晶の成長方法としては、気相成長法の昇華法とCVD法、アチソン法、液
相成長法が知られている。気相成長法には昇華法とCVD法がある。昇華法は、閉ざされ
た黒鉛坩堝中で炭化珪素粉末を2000℃以上の高温下で昇華させ、坩堝の低温部に設置
した種結晶基板上に再結晶化させる方法である。現在、上市されている4Hと6H炭化珪
素単結晶基板の多くは、この昇華法で製造されている。しかし、昇華法で成長させた単結
晶にはマイクロパイプ欠陥や積層欠陥の発生、結晶多形ができ易いという問題がある。C
VD法は原料をシランガスと炭化水素系ガスで供給するため、原料供給量が少なく厚い膜
が得られない。そのため、光デバイスや電子デバイスの基板材料として要求される、バル
ク単結晶を得ることが難しい。
【0006】
アチソン法は、容器内に設けられた黒鉛電極の周りに珪砂とコークスを詰めて、黒鉛電
極に通電し2000℃以上の高温とし、炭化珪素単結晶を得る方法である。アチソン法は
炭化珪素研磨材の製造技術として確立され産業に貢献している。しかし、光デバイスや電
子デバイスの基板材料としては、不純物が多く高純度品が得難いことと、大型の単結晶を
作ることができないという問題がある。
【0007】
液相成長法は、黒鉛坩堝内で珪素もしくは珪素化合物を融解し、その融液中に黒鉛坩堝
から炭素を溶解させて炭化珪素単結晶を析出させる方法である。しかし、珪素融液中への
炭素の溶解量が小さいため大きな単結晶を得ることが困難であった。
【0008】
前述した液相成長法の問題点を解決する方法として、珪素と炭素、少なくとも1種の遷
移金属を含む原料を黒鉛坩堝内で加熱溶融して融液を作り、この融液を冷却するか融液に
温度勾配を作り、種結晶基板上に炭化珪素単結晶を生成する方法が、特許文献1から3に
開示されている。特許文献1で得られているのは3C炭化珪素単結晶、特許文献2で得ら
れているのは6H炭化珪素単結晶である。融液を冷却する方法を温度降下法、融液に温度
勾配を作る方法を温度勾配法と称している。
【0009】
【特許文献1】特開2000−264790号 公報
【特許文献2】特開2002−356397号 公報
【特許文献3】特開2004−2173号 公報
【0010】
高品質の炭化珪素単結晶を安定に、また低コストで製造するには低温で成長させること
が必要である。前述の特許文献1〜3の実施例でも、結晶成長に必要な温度は1450℃
以上である。特許文献4には、アルカリ金属[特にリチウム(Li)]フラックス中で珪
素と炭素の融液を作って反応させることで、600℃〜1400℃と低温で、2H炭化珪
素単結晶を成長させている。
【0011】
【特許文献4】国際公開番号WO 2006/070749 A1 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1と2に記載されている改良レーリー法(昇華法の一例)で得られる種結晶
面と成長結晶の関係は、6H種結晶のC面(000−1)では4Hもしくは6Hの成長結
晶、4HC面種結晶では4Hが支配的な成長結晶である。Si面(0001)では4Hと
6Hの何れも6Hの成長結晶であり、15Rがしばしば混在する。これらの関係から、4
H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶上に、2H炭化珪素単結晶を成長させるこ
とはできていなかった。
【0013】
【非特許文献1】松波弘之編著「半導体SiC技術と応用」日刊工業新聞社刊 21ページ
【非特許文献2】応用物理 第74巻 第2号(2005) 222〜223ページ
【0014】
特許文献4には、6H−SiC結晶基板上もしくは4H−SiC結晶基板上に2H−S
iC単結晶を製造することが好ましいとの記載があるが、6H−SiC(4H−SiC)
結晶基板のどの結晶面に製造するかの詳細な記載がなく、また実施例にも記載はない。特
許文献4の実施例では、種結晶上に2H−SiCを成長させたものではなく、Liフラッ
クス中に珪素と炭素の融液を作って反応させたものである。2H炭化珪素単結晶基板(膜
)を電子デバイスや光デバイスに用いるには、良質で大面積が要求されるだけでなく厚み
も必要である。種結晶基板上に形成された2H炭化珪素単結晶膜に電子デバイスを形成す
る場合、少なくとも10μm程度の厚みは必要となってくる。30μm厚以上の2H炭化
珪素単結晶膜が得られれば、電子デバイス形成後種結晶基板を研磨等で除去した後、電子
デバイスに個片化することで、2H炭化珪素単結晶基板上に形成された電子デバイスを得
ることができる。そのため、大面積で厚みの厚い2H炭化珪素単結晶基板を、工業的によ
り効率的でより安定的により低コストで生産できる技術検討が必要である。
【0015】
本願発明は、より安定的により効率的に、4Hもしくは6H炭化珪素単結晶基板上に2
H炭化珪素単結晶が形成された基板と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の炭化珪素単結晶基板は、4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶の
C面[(000−1)面]に、2H炭化珪素単結晶が形成されることが好ましい。
【0017】
リチウムフラックス中に珪素と炭素を溶解した融液に、種結晶基板となる4Hもしくは
6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]を浸漬させ、浸漬させた状態を所定の時
間保持した後に温度を降下させる温度降下法で、種結晶のC面[(000−1)面]上に
LPE(Liquid Phase Epitaxial)成長で、2H炭化珪素単結晶
を成長させる。融液に温度勾配を作る温度勾配法で、種結晶基板のC面[(000−1)
面]上に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させることもできる。
【0018】
融液の組成はモル比で、リチウム:珪素:炭素=1.0:0.1〜1.0:0.1〜1
.0とすることができる。炭素の供給形態は黒鉛容器から供給される炭素や純炭素を添加
することができる。また、炭化リチウムの使用やメタンやプロパンガスのような炭化水素
ガスで供給することもできる。
【0019】
フラックスのリチウムには、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属や
、マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属を不純物として含ん
でいても良いものである。これら不純物のアルカリ金属やアルカリ土類金属は、フラック
スとして機能するため含有量を特に規定する必要がない。リチウムに含まれる不純物のア
ルカリ金属やアルカリ土類金属を許容することで、安価なリチウムを使用することができ
、製造コストの低減が図れる。3N以上の純度を有する原料を用いることができる。
【0020】
また、2H炭化珪素のLPE成長時にN型やP型元素をドープすることができる。2H
炭化珪素単結晶にドープするドーピング元素をフラックス中に含有させる事で、N型やP
型の2H炭化珪素単結晶を得ることができる。N型ドーピング材(元素)としては、窒素
(N)や燐(P)、P型ドーピング材としてはアルミニウム(Al)やホウ素(B)を選
択することができる。
【0021】
本願発明の炭化珪素単結晶基板は、4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶の
C面[(000−1)面]の傾きが、8度以下であることが好ましい。
【0022】
ジャスト(000−1)面であることが好ましいが、(000−1)面より8度以下の
オフアングル面であれば、ジャスト面と同等の物理特性を持つ2H炭化珪素単結晶が得ら
れる。8度以下のオフアングル面まで使用できるため、種単結晶基板の加工が容易となり
、製造コストの低減が図れる。
【0023】
本願発明の炭化珪素単結晶基板は、2H炭化珪素単結晶が液相中でエピタキシャル成長
したLPE膜であることが好ましい。
【0024】
リチウムフラックス中に珪素と炭素を溶解した融液中に、4Hもしくは6H炭化珪素単
結晶の種単結晶基板を浸漬させた状態で、所定時間保持した後温度を下げるか温度勾配を
設けて、種単結晶基板上に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させる。融液中で種単結晶基
板の位置や保持角度を一定とするため、種結晶基板保持治具を用いていることが好ましい
。種結晶基板の位置が不安定であると、温度勾配法で所定の温度差に制御できないため、
LPE膜の成長速度等にばらつきが発生する危険性がある。種結晶基板のC面が坩堝の底
面と接触するような事になると、2H炭化珪素単結晶のLPE成長が阻害されることが考
えられる。
【0025】
種結晶基板保持治具は、融液と接触しているので、溶融リチウムに対し耐蝕性を有する
必要がある。タングステン(W)やタングステン基合金、モリブデン(Mo)基合金、炭
化珪素セラミックで製作することが好ましい。
【0026】
本願発明の炭化珪素単結晶基板は、2H炭化珪素単結晶の厚み(LPE膜厚)が30μ
m以上であることが好ましい。
【0027】
2H炭化珪素単結晶の厚み(LPE膜厚)が30μm以上あると、電子デバイスや光デ
バイスを2H炭化珪素単結晶基板面に形成した後、種結晶基板部を研磨等で除去した後、
電子デバイスに個片化することで、2H炭化珪素単結晶のみで形成された基板上に、電子
デバイスや光デバイスを設けることができ、高性能化が期待できる。電子デバイスや光デ
バイス等を形成する間には、フォトリソ工程や製膜工程、ミリング工程等で、基板搬送や
治具への着脱など、数多く基板を取扱うものである。これら取扱い時に、基板が破損しな
いように、種結晶基板の除去は後工程に行うのが好ましい。
【0028】
本願発明の炭化珪素単結晶基板の製造方法は、リチウムと珪素、炭素の原料を秤量する
工程、4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶の種結晶基板を作製する工程、秤
量した原料と種結晶基板を坩堝に入れ、坩堝を密封容器に密封する工程、密封容器を加熱
しリチウムフラックス中で珪素と炭素の融液を作製する工程、種結晶基板のC面[(00
0−1)面]に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させる工程、密封容器冷却後炭化珪素単
結晶基板取り出す工程を有することが好ましい。
【0029】
リチウムフラックス中で珪素と炭素の融液を作製する工程は、不活性ガス雰囲気のグロ
ーブボックス内で、種結晶基板保持治具に種結晶基板のC面が接触しない様に保持して坩
堝に入れる。次に、リチウムと珪素、炭素を秤量して坩堝に入れる。坩堝は、更に耐熱を
有する密封容器に入れ密封する。グローブボックスから密封容器を取り出し、電気炉を用
い加熱して融液を作る。加熱温度はリチウムの沸点(1347℃)以下とし、好ましくは
700℃〜1000℃である。電気炉で密封容器中の坩堝が加熱されると、リチウムが融
解してリチウムフラックスが形成され、次いでリチウムフラックス中に珪素と炭素が溶解
して、珪素と炭素の融液を得る。
【0030】
4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶の種結晶基板を作製する工程は、2H
炭化珪素単結晶(膜)がLPE成長する種結晶基板の面を、C面[(000−1)面]か
ら8度以下の面となる様に加工するものである。
【0031】
種結晶基板のC面に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させる工程は、種結晶基板を融液
に浸漬させて保持する工程、融液の温度を下げて2H炭化珪素単結晶を析出成長させる(
温度降下法)、もしくは融液に高温領域と低温領域を作り2H炭化珪素単結晶を析出成長
させる(温度勾配法)工程からなる。種結晶基板のC面と融液との接触時間は1〜100
時間、好ましくは10〜50時間である。
【0032】
温度降下法で、種結晶基板のC面上に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させるには、融
液温700〜1000℃で1〜100時間保持した後、時間当たり0.1〜100℃/H
rの一定速度で融液温を低下させる。600〜800℃まで融液温が下がったところで、
結晶成長を終了させる。その後、室温まで自然冷却して種結晶基板のC面に2H炭化珪素
単結晶が形成された炭化珪素単結晶基板を得る。成長初期段階で融液中の炭化珪素の過飽
和度を大きくして、種結晶基板が熔融するメルトバック現象を抑制するため、温度降下開
始時の融液温度の低下速度を大きくし、その後一定速度で融液温度を低下させるスーパー
冷却法(2段冷却法)を採用することもできる。
【0033】
温度勾配法で、種結晶基板のC面上に2H炭化珪素単結晶をLPE成長させるには、高
温領域の融液温度を800℃以上とし、低温領域の融液温度を700℃以上とし、高温領
域と低温領域の温度差を10〜500℃とする。坩堝の底部を高温領域に種結晶基板が融
液に接触する上部を低温領域とすることで、低温領域にある種結晶基板のC面に2H炭化
珪素単結晶を形成することができる。その後、室温まで自然冷却して種結晶基板のC面に
2H炭化珪素単結晶が形成された炭化珪素単結晶基板を得る。
【0034】
冷却後炭化珪素単結晶基板取り出す工程は、密封容器を室温まで冷却した後電気炉から
密封容器を取り出し、次に密封容器から坩堝を取り出して、エタノールや水で残留リチウ
ム等を除去し、坩堝から2H炭化珪素単結晶が形成された種結晶基板とその他の珪素と炭
素の混合生成物を取り出す工程と、これら種結晶基板と混合生成物を塩酸で処理する工程
、X線回折装置等で生成された結晶を測定する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0035】
種結晶基板となる4Hもしくは6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]に、2
H炭化珪素単結晶を低温度で30μm以上の厚みでLPE成長させることができ、工業的
により効率的でより安定的により低コストで生産できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下本願発明を、図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0037】
図1に、用いた炭化珪素単結晶成長装置の概要で、抵抗加熱式の電気炉15にステンレ
ス製の密封容器14を設置した状態を示す。電気炉内で密封容器内の融液を加熱、保温、
冷却を行い炭化珪素単結晶を成長させた。
【0038】
アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で、リチウム:珪素:炭素=0.163:
0.075:0.124のモル比で秤量し、総量約4.72(g)をタングステン製の坩
堝13に詰め、ステンレス製の密封容器14の内底面に配した。純度99.9%以上のリ
チウムと珪素、炭素を用いた。種結晶基板11は、約15mm×約10mm×約0.4m
m厚の大きさの6H炭化珪素単結晶で、種結晶基板保持治具16に取り付けた。融液と接
する面がC面[(000−1)面]のジャスト面とした。
【0039】
密封された密封容器14をグローブボックスより取り出し、電気炉15内に密封容器1
4を設置した。電気炉15の温度を上げ坩堝12を900℃としリチウムを融解させてリ
チウムフラックス作製した。リチウムフラックス中に珪素と炭素を熔解させるため900
℃で2時間保持し珪素と炭素の融液を得た後、700℃まで10℃/時間の速度で融液の
温度を下げ、6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]に2H炭化珪素単結晶を成
長させた。700℃から室温までは炉冷した。
【0040】
室温迄冷却された密封容器14を開け、坩堝13を取り出した後エタノールと水を用い
て残留リチウムの除去処理を行い、坩堝から2H炭化珪素単結晶が形成された種結晶基板
とその他の珪素と炭素の混合生成物を取り出し、塩酸処理を行い炭化珪素単結晶基板を得
た。
【0041】
得られた炭化珪素単結晶基板の評価結果を、図2から図4に示す。図2は基板の断面と
表面のSEM写真、図3に基板のX線回折結果、図4に基板以外の混合生成物のX線回折
結果を示す。
【0042】
図2a)は、種結晶基板(6H炭化珪素単結晶)のC面側の断面部のSEM写真である
。図2a)の写真で、下向きの矢印領域が種結晶基板の6H炭化珪素単結晶で、上向きと
左向きの矢印で囲まれる領域が本実施例で得られた、約33μm厚の2H炭化珪素単結晶
LPE膜である。上向きと右向きの矢印で囲まれる領域は、2H炭化珪素単結晶LPE膜
ではなく雑晶となっている。図2b)は表面部のSEM写真である。図2a)と図2b)
から、種結晶基板のC面側の一部分ではあるが、LPE成長した2H炭化珪素単結晶の薄
膜が形成されていることが確認できた。該部分をEDS(Energy Dispers
ive X−ray Specttroscopy)で分析した結果(データは省略)、
珪素(Si)と炭素(C)から形成されていることが確認できた。
【0043】
図3は、LPE成長薄膜のX線回折結果である。用いた単結晶X線回折装置は、リガク
製R−AXIS RAPID2(2はローマ数字)である。種結晶基板の6H炭化珪素単
結晶の回折ピークは35.724°で、LPE薄膜の回折ピークは35.643°と異な
った位置にあることが判る。
【0044】
図4は、基板以外の混合生成物を、ω/2θでスキャンしたX線回折結果である。用い
た粉末X線回折装置は、リガク製RINT2000である。図4に示すように、強い2H
炭化珪素単結晶の回折ピークデータと、弱い3C炭化珪素単結晶の回折ピークデータが得
られた。
【0045】
図2から図4に示した結果から、種結晶基板である6H炭化珪素単結晶基板のC面に形
成されたLPE成長薄膜は、2H炭化珪素単結晶であると確認できた。
【実施例2】
【0046】
本実施例は、融液の原料配合比と種結晶基板、炉内温度以外は実施例1と同じである。
アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で、リチウム:珪素:炭素=0.140:0
.060:0.080のモル比で秤量し、総量約3.62(g)をタングステン製の坩堝
13に詰め、ステンレス製の密封容器14の内底面に配した。純度99.9%以上のリチ
ウムと珪素、炭素を用いた。種結晶基板11は、約15mm×約10mm×約0.4mm
厚の大きさの4H炭化珪素単結晶で、種結晶基板保持治具に取り付けた。融液と接する面
がC面[(000−1)面]のジャスト面とした。
【0047】
密封容器14を電気炉15内に設置し、電気炉15の温度を上げ坩堝13を925℃に
加熱して、リチウムを融解させリチウムフラックスを作製した。リチウムフラックス中に
珪素と炭素を熔解させるため925℃で2時間保持し珪素と炭素の融液を得た。925℃
から900℃までは10℃/時間の速度で融液の温度を下げ、900℃から750℃まで
は3℃/時間の速度で融液の温度を下げた後、700℃から室温までは炉冷した。
【0048】
得られた炭化珪素単結晶基板の評価結果を、図5に示す。図5a)は種結晶基板(4H
炭化珪素単結晶)のC面側の断面部を45度の角度から観察したSEM写真である。図5
a)の写真で、下向きの矢印領域が種結晶基板の4H炭化珪素単結晶で、上向きの矢印領
域が本実施例で得られた約33μm厚の2H炭化珪素単結晶である。図5b)は表面部の
SEM写真である。実施例1と同様に、LPE成長薄膜が形成されていることが判る。デ
ータは省略するが、X線回折結果からLPE成長薄膜は2H炭化珪素単結晶であることが
確認できた。
【実施例3】
【0049】
本実施例は、種結晶基板のC面が8度のオフアングル面である以外は、実施例2と同じ
である。データは省略するが、種結晶基板のC面から8度のオフアングル面上に形成され
た、約50μm厚のLPE成長薄膜は2H炭化珪素単結晶であることが確認できた。
【実施例4】
【0050】
本実施例は、種結晶基板のC面角度と融液の原料配合比、炉内温度の冷却速度を変えた
ものである。アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で、リチウム:珪素:炭素=0
.35:0.20:0.20のモル比で秤量し、総量約10.4(g)をタングステン製
の坩堝13に詰め、ステンレス製の密封容器14の内底面に配した。純度99.9%以上
のリチウムと珪素、炭素を用いた。種結晶基板11は、約15mm×約10mm×約0.
4mm厚の大きさの4H炭化珪素単結晶で、種結晶基板保持治具に取り付けた。融液と接
する面がC面[(000−1)面]のジャスト面とした。密封容器14を電気炉15内に
設置し、電気炉15の温度を上げ坩堝13を925℃に加熱して、リチウムを融解させリ
チウムフラックスを作製した。リチウムフラックス中に珪素と炭素を熔解させるため92
5℃で2時間保持し珪素と炭素の融液を得た。925℃から900℃までは5℃/時間の
速度で融液の温度を下げ、900℃から750℃までは3℃/時間の速度で融液の温度を
下げた後、700℃から室温までは炉冷した。データは省略するが、種結晶基板のC面上
に形成された、約70μm厚のLPE成長薄膜は2H炭化珪素単結晶であることが確認で
きた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】密封容器を電気炉に設置した状態を示す概念図である。
【図2】実施例1で形成した基板の断面と表面のSEM写真である。
【図3】実施例1で形成した基板LPE成長薄膜のX線回折結果である。
【図4】実施例1で形成した基板以外の混合生成物を、ω/2θでスキャンしたX線回折結果である。
【図5】実施例2で形成した基板の断面と表面のSEM写真である。
【符号の説明】
【0052】
11 種結晶基板、12 融液、
13 坩堝、14 密封容器、
15 電気炉、16 種結晶基板保持治具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]に、2H
炭化珪素単結晶が形成されたことを特徴とする炭化珪素単結晶基板。
【請求項2】
4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪素単結晶のC面[(000−1)面]の傾きが
、8度以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項3】
2H炭化珪素単結晶が液相中でエピタキシャル成長したLPE膜であることを特徴とす
る請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項4】
2H炭化珪素単結晶の厚み(LPE膜厚)が30μm以上であることを特徴とする請求
項1もしくは3に記載の炭化珪素単結晶基板。
【請求項5】
リチウムと珪素、炭素の原料を秤量する工程、4H炭化珪素単結晶もしくは6H炭化珪
素単結晶の種結晶基板を作製する工程、秤量した原料と種結晶基板を坩堝に入れ、坩堝を
密封容器に密封する工程、密封容器を加熱しリチウムフラックス中で珪素と炭素の融液を
作製する工程、種結晶基板のC面[(000−1)面]に2H炭化珪素単結晶をLPE成
長させる工程、密封容器冷却後炭化珪素単結晶基板取り出す工程を有することを特徴とす
る炭化珪素単結晶基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239371(P2008−239371A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79500(P2007−79500)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】