説明

炭素系ナノ材料生成用触媒組成物、炭素系ナノ材料デバイス、電子放出素子用カソード基板及びその作製方法、並びに電子放出素子デバイス及びその作製方法

【課題】ガラス基板の上に炭素系ナノ材料を低温で生成させるための触媒組成物、この触媒組成物を用いて生成させた炭素系ナノ材料を備えたカソード基板及びその作製方法、並びにこのカソード基板を用いた電子放出素子デバイス及びその作製方法の提供。
【解決手段】Fe、Ni及びCoから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれらの合金であって触媒として機能する第1金属と、Cr、Mo、W、Nb、Ta及びVから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれらの合金である第2金属と、窒素又は窒素化合物とを含む触媒組成物。この触媒組成物を用いて生成した炭素系ナノ材料を備えたカソード基板及びこの基板を用いた炭素系ナノ材料デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系ナノ材料生成用触媒組成物、炭素系ナノ材料デバイス、電子放出素子用カソード基板及びその作製方法、並びに電子放出素子デバイス及びその作製方法に関し、特にカーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等の炭素系ナノ材料生成用触媒組成物、この触媒組成物を用いて低温で生成した炭素系ナノ材料を備えた炭素系ナノ材料デバイス、この炭素系ナノ材料を備えた電子放出素子用カソード基板及びその作製方法、並びにこのカソード基板を用いた電子放出素子デバイス及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等の炭素系ナノ材料は、その材料特性から様々な技術分野での応用が期待されており、製造方法の開発及び応用分野における用途開発が種々行われている。
【0003】
これらの炭素系ナノ材料の応用分野として、例えば、電界放射型ディスプレイ(Field Emission Display、以下、「FED」と称す)及び液晶用バックライト用のエミッタ、燃料電池、電気二重層、Liイオン電池用の電極材、水素貯蔵用途、半導体における配線材料、センサー、並びにトランジスタ等の分野を挙げることができ、その他にも応用分野は広い。
【0004】
FEDは、カソードの表面に存在する多数のエミッタに電界を印加して電子を放出させ、アノードを構成する蛍光体にこの電子を照射させて発光させる薄型ディスプレイであり、エミッタを用いて発光させるという点でCRTと同じ構造を有しており、鮮明な画像を提供できるディスプレイとして期待されている。FEDにおけるエミッタ材料としては、これまで、例えばMoの円錐形状を有すSpindt型が検討されていたが、最近では、より電界集中が可能な材料として線径がより細い炭素系ナノ材料が検討されている。
【0005】
この炭素系ナノ材料であるカーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等は、従来、アーク放電法やレーザー蒸発法等により製造されている。これらの製造法により製造される炭素系ナノ材料は、材料自体である。そのため、例えばFEDに炭素系ナノ材料を適用するには、基板に何等かの手法により接合することが必要になる。その結果、接合するための工程が必須となることにより、FEDの製作コストが高くなりやすく、また、接合界面における抵抗等により本来の炭素系ナノ材料の特性を提供することが困難になりやすい。
【0006】
このような問題点を改善する手法の一つとして、基板上に炭素系ナノ材料生成用触媒粒子を成膜し、この触媒粒子の上に炭素系ナノ材料を生成させる手法が提案されている。しかし、触媒粒子上に炭素系ナノ材料を生成させる場合には、炭素系ナノ材料の径、長さ等の構造を任意に決定することが難しいという問題がある。また、触媒ナノ粒子を粗に成膜させてカーボンナノ材料の構造を決定する手法もあるが、この場合には、触媒ナノ粒子の製造技術に多大なコストを要し、工業的に安価に提供できないという問題がある。
【0007】
また、上記従来技術を改善する手法として、特定の基板上にカーボンナノチューブを生成させたデバイス等も提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0008】
この特許文献1には、Cu、Ag、Au及びCrから選ばれた1種類以上の金属中に、Fe、Co及びNiから選ばれた1種類以上の金属が分散されている基板にカーボンナノチューブを生成したデバイスが提案されている。この基板を用いて、スパッタ法等でこの基板上に炭素系ナノ材料であるカーボンナノチューブを生成させている。しかしながら、この従来技術における実施例では、基板としてSiのみを使用し、その際の熱処理による触媒粒子生成若しくは炭素系ナノ材料の生成を600℃以上の温度で行っているに過ぎない。そのため、この従来技術に従って、ガラス基板上に炭素系ナノ材料を生成させることは困難であるという問題がある。
【0009】
この特許文献1記載の方法に対して本発明者らは追試実験を行った。その結果、FeとCr及びFeとCuを混合スパッタ法により作製した材料上に同様な炭素系ナノ材料であるグラファイトナノファイバーを生成させると、その高さが0.5μm以下と低くなるか、又はナノファイバーの径が、使用目的とする径の100μm以下よりも太くなり、目的を達成できないことが判明した。このことから、ガラス基板等への低温処理が必要な場合、すなわち、ガラス基板上に炭素系ナノ材料を生成した電子放出素子を用いる汎用的なディスプレイを作製する場合においても、炭素系ナノ材料を基板に容易に固定させながら生成する技術の提供が望まれる状況にある。
【0010】
また、特許文献2には、ナノスケール導体を粗に生成する手法として、Cu等の金属粉末にナノメーターサイズの触媒粉末を混合させた後に圧縮、燒結、研磨し、次いで還元雰囲気にて熱処理して、ナノメーターサイズの触媒をCu等の金属中に埋め込み、触媒を表面に現出させる手法が提案されている。触媒粒子を基板中に分散させ、その触媒粒子上にカーボン系ナノファイバーを生成させることにより、基板上にナノファイバーを粗に生成させている。この従来技術では、その製造方法としてナノメーターサイズのFe、Co、Ni等の金属粒子を用いることが提案されているが、市販されているナノメーターサイズのこれらの金属粒子は通常粒径分布が広いので、この触媒粒子上に生成される炭素系ナノファイバーの径も、触媒粒子の径に依存して分布が広く、均一ではない。
【0011】
上記のように粒径サイズの分布が広い炭素系ナノファイバーをエミッタとして用いてFEDを作製した場合には、エミッション特性を安定させることが困難であり、その結果として良好な画像が得られない。また、粒径サイズを均一に制御して特別に調製した触媒粒子を使用したとしても、この粒径制御に多大な費用がかかるので、薄型ディスプレイ用途に用いるには不都合である。さらに、特許文献2のように還元雰囲気で熱処理すると、酸素、窒素等により形成された酸化物、窒化物等の不純物が制御されない状態で基板中に分散されてしまうので、炭素系ナノファイバー生成に大きな影響をもたらし、その結果、FEDのエミッション特性にも影響する。さらに、Cu等の金属粉末と触媒粉末との混合物を燒結する手法を用いているので、内部に空隙を有するものが得られ、FEDを作製した場合に、この空隙がガス等の発生要因となって内部真空度を低減させ、エミッション特性を低減させてしまうという問題もある。
【0012】
従って、例えば、電子放出素子を用いた汎用的なディスプレイ用のエミッタを作製するために、ガラス材料のような耐熱性の低い材料からなる基板を使用できるように、低温で、かつ生成密度が粗でありながら、その高さが十分に高い炭素系ナノ材料を生成できる触媒を開発し、その触媒を用いて得られる炭素系ナノ材料からなるエミッタ備えたカソード基板、及びこのカソード基板を利用する炭素系ナノ材料デバイスを開発することが求められている。
【特許文献1】特許第3363759号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2001−57146号公報()
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明は、ガラス基板等の上にカーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等の炭素系ナノ材料を600℃より低い温度で生成させることが必要な場合においても、これらの基板上に炭素系ナノ材料を簡易に生成させることができる炭素系ナノ材料生成用触媒、該触媒を用いて生成させた炭素系ナノ材料を備えたカソード基板及びその作製方法、並びにこの基板を用いる炭素系ナノ材料デバイスである電子放出デバイス及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記従来技術の問題点について鋭意検討した結果、これらの問題は、炭素系ナノ材料生成用触媒組成物として、炭素系ナノ材料生成用触媒としての機能を有するFe、Co及びNiから選ばれた第1金属に、その他の金属である第2金属及び窒素原子又は窒素化合物を含有せしめた触媒組成物を用いることにより解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明の炭素系ナノ材料生成用触媒組成物は、Fe、Ni及びCoから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれら金属の少なくとも2種類からなる合金であって触媒として機能する第1金属と、第2金属と、窒素又は窒素化合物とを含むことを特徴とする。
【0016】
上記第2金属は、Cr、Mo、W、Nb、Ta及びVから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれら金属の少なくとも2種類からなる合金であることを特徴とする。
【0017】
上記触媒組成物は、薄膜状であることが好ましい。この薄膜は、フォトリソグラフィ法により加工されたパターンを有するものであることが好ましい。
【0018】
上記炭素系ナノ材料は、グラファイトナノファイバーであることが好ましい。
【0019】
上記炭素系ナノ材料生成用触媒はさらに、Al、Ti、Si及びZrから選ばれた少なくとも1種類の金属を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の炭素系ナノ材料デバイスは、上記した触媒組成物上に生成させた炭素系ナノ材料を備えていることを特徴とする。この炭素系ナノ材料は、熱CVD法によって400〜600℃で生成されたものであることが好ましい。
【0021】
本発明の電子放出素子用カソード基板は、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該3元系触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成していることを特徴とする。
【0022】
このエミッタホールは、その内部に、電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の電子放出素子用カソード基板の作製方法は、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成してなる電子放出素子用カソード基板を作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料を熱処理し、次いでエッチングすることを特徴とする。
【0024】
この電子放出素子用カソード基板の作製方法において、電子放出素子形成用薄膜材料層は、熱処理の後に、この薄膜材料層に熱応力が印加されてなることを特徴とする。
【0025】
本発明の電子放出素子用カソード基板の作製方法はまた、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成してなる電子放出素子用カソード基板を作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成された絶縁層及びゲート電極層をエッチング処理してエミッタホールを形成することを特徴とする。この場合も、電子放出素子形成用薄膜材料層は、熱処理の後に、この薄膜材料層に熱応力が印加されてなることを特徴とする。
【0026】
本発明の電子放出素子用カソード基板の作製方法はまた、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成してなる電子放出素子用カソード基板を作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成された絶縁層及びゲート電極層をエッチング処理してエミッタホールを形成することを特徴とする。
【0027】
本発明の電子放出素子デバイスは、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有していることを特徴とする。
【0028】
本発明の電子放出素子デバイスの作製方法は、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有してなる電子放出素子デバイスを作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料を熱処理した後にエッチングし、次いで熱CVD法により炭素系ナノ材料を生成することを特徴とする。この場合、熱CVD法を、400〜600℃で実施することを特徴とする。また、電子放出素子形成用薄膜材料層の熱処理後に、この薄膜材料層に熱応力が印加されてなることを特徴とする。
【0029】
本発明の電子放出素子デバイスの作製方法はまた、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有してなる電子放出素子デバイスを作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成されたゲート電極層、絶縁層及び電子放出素子形成用薄膜材料層をエッチング処理してエミッタホールを形成し、このエミッタホール内に炭素系ナノ材料を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の触媒組成物によれば、ガラス基板、Si基板の差異なく、この触媒上に低温で炭素系ナノ材料を効率よく生成せしめることができる。従って、この触媒組成物を用いて生成せしめた炭素系ナノ材料を備えた電子放出素子用カソード基板を用いた電子放出デバイスのような炭素系ナノ材料デバイスを提供でき、このデバイスは、電子放出特性が良好であるという効果を奏することができる。このため、Liイオン電池用の電極材、水素貯蔵用途、半導体素子における配線用材料、燃料電池、センサー、並びにトランジスタ等の種々の分野で応用可能であり、特にFEDや液晶用バックライト用のエミッタ等の電子放出素子として効率よく電子を放出することが可能である。特にFEDにおいては、輝度が高く、分解能が高い良好な画像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
本発明によれば、Fe、Ni及びCoから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれら金属の少なくとも2種類からなる合金であって、触媒として機能する第1金属と、カソードとなり得る第2金属とを含み、さらに窒素又は窒素化合物を含む炭素系ナノ材料生成用触媒組成物が提供される。
【0033】
この第1金属は、炭素系ナノ材料であるカーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等を形成するための触媒として活性であり、各金属の役割は、以下述べるようなものであると考えられる。通常、これらの炭素系ナノ材料をアーク溶解法やCVD法等によって触媒上に生成させる場合、触媒組成物中の第1金属を炭素系ガスで炭化させた後に温度を上昇させて過度に固溶した炭素を吐き出させる。この場合、Feは容易に炭化されやすいために含有させておくのが好ましく、また、Co及びNiは炭化物を形成せず、高温時における固溶された炭素の触媒組成物内からの吐き出しを容易にするために含有させておくのが好ましい。従って、Fe、Co及びNiを複合させて含有した触媒組成物が最も好ましい。
【0034】
一般に、炭素系ナノ材料用の触媒としては、上記したような第1金属が用いられるが、これらの金属だけだと炭素系ナノ材料を生成させる時に、得られる炭素系ナノ材料のガラス基板への密着性が悪い。そのため、ガラス基板への密着性を向上させるためには、例えば、第1金属に密着性の良いその他の金属を添加するか、又はガラス基板と第1金属からなる触媒層との間に密着層を設けることが行われ得る。しかし、その他の金属を添加する場合に、Fe、Co、Niの含有量を低下させると、触媒機能が低下してしまい、満足に炭素系ナノ材料を生成させることが困難になる。また、密着層を設ける場合には、触媒層をパターニングする時に、密着層と触媒層を別々のエッチング液で処理することが必要になり、工程が長くなるという問題がある。従って、これらの問題を解決するには、第1金属にその他の金属を添加して第1金属の含有量を低下させても触媒機能を低下させることなく、満足な炭素系ナノ材料の生成を達成させ、また、一方ではカソードとしての機能を十分に維持できる手法を開発することが必要となる。
【0035】
本発明によれば、第1金属にその他の金属として第2金属を所定量含ませ、さらに窒素又は窒素化合物を所定量含ませることにより、上記問題を解決することができる。第2金属を含ませることにより、触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層がカソードとしての機能を兼ねることができると共に、ガラス基板と炭素系ナノ材料との密着性も向上し、また、窒素又は窒素化合物を含有せしめることにより触媒活性の向上が図れる。すなわち、窒素又は窒素化合物を含有させることで、第1金属の結晶組織をより微細にすることができるので、第1金属の粒子をより微細化させることができ、その結果、触媒活性を高めることができる。従って、600℃より低い温度でも炭素系ナノ材料の生成量を増加させることが可能となる。また、微細なFe、Co及び/又はNiからなる第1金属を微細な粒子状にさせることができるため、生成させる炭素系ナノ材料の径若しくは幅を微細にすることが可能となり、さらに所定量の窒素原子を含有せしめることにより、炭素系ナノ材料の構造を制御することが可能となる。
【0036】
炭素系ナノ材料生成用触媒組成物を構成する第1金属に含有させる第2金属としては、Cr、Mo、W、Nb、Ta及びVから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれらの金属の少なくとも2種類からなる合金を用いることができる。第1金属の含有量としては、触媒機能を維持するためには、1.0〜70.0at%、また、第2金属の含有率としては、炭素系ナノ材料の生成時におけるガラス基板との密着性を達成するためには、少なくとも30at%であることが好ましい。この場合、炭素系ナノ材料の耐蝕性及びパターニング性の双方を考慮すると、Cr、Nb及び/又はTaを使用することが好ましい。また、本発明によれば、炭素系ナノ材料の耐蝕性及びパターニング性を改善させるために、上記金属の他にAl、Ti、Si及びZrから選ばれた少なくとも1種類の金属を耐蝕性及びパターニング性を考慮して所定量追加しても良い。
【0037】
上記窒素化合物としては、例えばFeN、FeN、CrN、NbN、TaN、MoN、WN、VN、AlN、TiN、及びZrN等を挙げることができ、その添加量は、窒素原子換算で5.0〜30.0at%である。
【0038】
本発明に係わる触媒組成物を、粉末状、板状、ポーラス状、薄膜状に形成させることが好ましく、その中でも特に、薄膜状に形成させることは、炭素系ナノ材料の触媒金属であるFe、Co及びNiの粒子サイズを微細にすることが可能となるために好ましい。薄膜状の触媒組成物を形成するために使用する基材としては、Si及びガラスの他に、例えば、Ga−As、Ge、ステンレス系、Cu系等から選ばれた金属材料及びアルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア等から選ばれたセラミック等を用いることができる。
【0039】
本発明によれば、グラファイトナノファイバーを400〜600℃の低温度にて生成させることができるために、製造コストを低くできるので好ましい。従って、本発明によれば、低温度での処理が必要なガラス基板のような素材に対しても、容易に炭素系ナノ材料を生成させることができる。
【0040】
本発明によれば、上記第1金属と第2金属とを組み合わせ、さらに窒素又は窒素化合物を含有せしめた触媒組成物を用いて触媒上に生成させた炭素系ナノ材料を備えた炭素系ナノ材料デバイスを提供できる。この炭素系ナノ材料デバイスに用いられる触媒組成物の形態としては、上記したように、第1金属の結晶粒サイズを微細にできることから薄膜状であることが好ましい。また、炭素系ナノ材料デバイスに用いる炭素系ナノ材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等を挙げることができ、この中でも特に工業性の点からグラファイトナノファイバーが好ましい。
【0041】
上記触媒組成物を用いて炭素系ナノ材料を生成させる方法としては、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、及びCat−CVD法等を用いることができる。この生成方法のなかでも熱CVD法は、装置構成が簡単であるので、製造装置を安価に製造することができ、製造コストを安くすることができるために好ましい。また、生成する炭素系ナノ材料のなかでもグラファイトナノファイバーは、装置構成の簡単な熱CVD法によって600℃より低い温度で生成させることができる。
【0042】
例えばグラファイトナノファイバーは、公知の炭素系ガスと還元性ガスとを流した雰囲気の中で400〜600℃に加熱して行う熱CVD法によって、触媒上に生成させることができる。炭素系ガスとしては、公知のものであれば特に制限はなく、例えば一酸化炭素や、アセチレン、エチレン等の炭化水素を使用することができる。装置構成が簡単な熱CVD法を用いることで、大面積を有する基板上に炭素系ナノ材料を生成させることが容易となり、目的とする炭素系ナノ材料デバイスを安価に製造することができる。触媒組成物の形態が、粉末状、板状、ポーラス状であっても、熱CVD装置内に載置された基板上にこの触媒組成物を設けることで、炭素系ナノ材料を簡易に効率よく生成させることが可能である。
【0043】
本発明におけるデバイスには、電子放出素子形成用薄膜材料層をフォトリソグラフィー法によってパターン形成した後に炭素系ナノ材料を形成させたものも含まれる。また、電子放出素子形成用薄膜材料層とそれ以外の薄膜層との積層構造とした後にフォトリソグラフィー法によってパターン形成した後に炭素系ナノ材料を形成させたものも含まれる。この薄膜材料層を形成する方法としては、一般に、スパッタ法、EB蒸着法、イオンプレーティング法等の成膜法を用いることができるが、その他の成膜法として、微細な触媒組成物粉末含有液を塗布(印刷)した後に焼成して薄膜を形成する印刷法等も用いることができる。
【0044】
また、本発明によれば、例えば、低温で十分な高さまで成長可能な炭素系ナノ材料からなるエミッタ材料が粗に生成してなるエミッタを用いる3極構造の電子放出素子及び電子放出素子デバイスを提供できる。
【0045】
本発明によれば、上記した触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、エミッタホールの内部に、電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを備えている電子放出素子用カソード基板を提供することができ、また、さらに基板上に収束電極等を備えることもできるので、これらのカソード基板を用い所望の3極構造の電子放出素子及び電子放出素子デバイスを提供できる。
【0046】
上記した電子放出素子用カソード基板は、例えば、上記した触媒組成物からなるターゲットを用いて、ガラス等からなる基板上に窒素ガスとAr等の不活性ガスとを所定の割合で供給し、RFスパッタ法等により電子放出素子形成用薄膜材料層を所定の膜厚で形成した後にフォトリソグラフィー法によりカソードパターンとし、このパターン上にSiO等からなる絶縁層を公知の手法を用いて所定の温度で形成する。電子放出素子形成用薄膜材料層は、絶縁層成膜時の加熱により熱処理がなされ、絶縁層成膜後、各々の成膜層によって発生する熱応力が印加されてなる。
【0047】
この場合、例えば、電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成された絶縁層及びゲート電極層をエッチング処理してエミッタホールを形成し、このエミッタホール底部にエミッタを形成させて、カソード基板を作製する。
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0049】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(コーニング社製:1737)を載置し、Ar:N=93:7の比率の混合ガス雰囲気中で、Cr−4Fe−26Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃で、Cr−4Fe−26Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN含有量をAESにて分析したところ、11.1at%であることが確認できた。
【0050】
次いで、上記Cr−4Fe−26Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0051】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を550℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが0.5μm高さ、20〜50nmの線径で生成していることが確認できた。
【0052】
グラファイトナノファイバーが生成されたラインパターン薄膜付きガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。カソード基板及びアノード基板の双方に3.0kVの電圧を印加して電流密度値を測定すると共に、発光を観察した。112μA/cmの電流密度が得られ、また、発光しているのが観察され、本実施例で得られたグラファイトナノファイバーはバックライト等のデバイスに有効に利用できることが確認できた。
【実施例2】
【0053】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(コーニング社製:1737)を載置し、Ar:N=93:7の比率の混合ガス雰囲気中で、Mo−3Ti−13Fe−19Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃で、Mo−3Ti−13Fe−19Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN含有量をAESにて分析したところ、11.8at%であることが確認できた。
【0054】
次いで、上記Mo−3Ti−13Fe−19Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0055】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を550℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが0.7μm高さ、20〜50nmの線径で生成していることが確認できた。
【0056】
グラファイトナノファイバーが生成されたラインパターン薄膜付きガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。カソード基板及びアノード基板の双方に3.0kVの電圧を印加して電流密度値を測定すると共に、発光を観察した。138μA/cmの電流密度が得られ、また、発光しているのが観察され、本実施例で得られたグラファイトナノファイバーはバックライト等のデバイスに有効に利用できることが確認できた。
【実施例3】
【0057】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(コーニング社製:1737)を載置し、Ar:N=89:11の比率の混合ガス雰囲気中で、Cr−13Fe−26Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃でCr−13Fe−26Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN含有量をAESにて分析したところ、22.3at%であることが確認できた。
【0058】
次いで、上記Cr−13Fe−26Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、次いで100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0059】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を550℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが1.5μm高さ、20〜80nmの線径で生成していることが確認できた。
【0060】
グラファイトナノファイバーが生成されたラインパターン薄膜付ガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。カソード基板及びアノード基板の双方に3.0kVの電圧を印加して電流密度値を測定すると共に、発光を観察した。172μA/cmの電流密度が得られ、また、発光しているのが観察され、本実施例で得られたグラファイトナノファイバーはバックライト等のデバイスに有効に利用できることが確認できた。
(比較例1)
【0061】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(コーニング社製:1737)を載置し、Ar雰囲気中で、Cr−4Fe−26Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃でCr−4Fe−26Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。
【0062】
次いで、上記Cr−4Fe−26Ni膜表面にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布し後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0063】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、550℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが0.02μm高さ、20〜30nmの線径で生成しているだけで、上記実施例の場合と比べてほとんど生成していなかった。
【0064】
上記のようにして得られたラインパターン薄膜付きガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。カソード基板及びアノード基板の双方に3.0kVの電圧を印加して電流密度値を測定すると共に、発光を観察した。ほとんど電流が流れず、また、発光が観察されなかった。
(比較例2)
【0065】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(コーニング社製:1737)を載置し、Ar雰囲気中で、Fe−42Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃でFe−42Ni膜を100nm厚さで基板上に形成した。
【0066】
次いで、上記Fe−42Ni膜表面にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布し後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、塩化第二鉄液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0067】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、550℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが生成はしていたが、ガラス基板からグラファイトナノファイバーが剥がれていたことが観察された。
【実施例4】
【0068】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(旭硝子製:PD200)を載置し、装置内雰囲気をAr:N=93:7の比率になるように調整し、Cr−4Fe−26Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃で、Cr−4Fe−26Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN含有量をAESにて分析したところ、11.5%であることが確認できた。
【0069】
次いで、上記Cr−4Fe−26Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0070】
RFスパッタ法により、上記カソードパターン上に、基板温度400℃にてSiO膜を3μmの厚さで形成した。冷却後、SiO膜と電子放出素子形成用薄膜材料層との間に発生する熱応力によって、電子放出素子形成用薄膜材料層に応力を印加させることができた。
【0071】
DCスパッタ法を用い、上記SiO膜上に基板温度200℃でCrを300nm成膜した後に、レジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、300μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅150μmのゲートパターンを形成した。
【0072】
上記ゲートパターン上にレジスト層を形成し、このレジスト層に対してエミッタホールパターンを用いて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行い、さらにBHF液にてSiO膜をエッチング処理を行ってエミッタホールを形成した後に、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエミッタホール内部をエッチング処理し、レジストを除去してパターン膜付ガラス基板を作製した。
【0073】
次いで、上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を525℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが満足すべき高さ及び線径で生成していることが確認できた。
【0074】
図1は、本実施例で得られたグラファイトナノファイバーを有するパターン薄膜付ガラス基板の構造を模式的に示す断面図であり、1はカソード層、2絶縁層、3はゲート層、4はグラファイトナノファイバー、5はガラス基板である。図2は、本実施例で生成したグラファイトナノファイバーを有するFED用カソード基板の断面を示すSEM写真である。
【0075】
上記のようにしてグラファイトナノファイバーを生成したラインパターン薄膜付きガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。このカソードとアノードとの間に500Vの電圧を印加し、ゲート電極とカソードとの間に70V印加させたところ、アノード基板の蛍光体が発光し、電子放出が生じていることが確認できた。
【実施例5】
【0076】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(旭硝子製:PD200)を載置し、装置内雰囲気をAr:N=93:7の比率になるように調整し、Cr−7Fe−26Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃でCr−7Fe−26Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN含有量をAESにて分析したところ、12.2%であることが確認できた。
【0077】
次いで、上記Cr−7Fe−26Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのラインパターン(カソードパターン)を形成した。
【0078】
RFスパッタ法により、上記ラインパターン上に基板温度400℃にてSiO膜を3μmの膜厚で形成した。冷却後、SiO膜と電子放出素子形成用薄膜材料層との間に発生する熱応力によって、電子放出素子形成用薄膜材料層に応力を印加させることができた。
【0079】
DCスパッタ法を用い、上記SiO膜上に基板温度200℃でCrを300nm成膜した後に、レジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した後に、300μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅150μmのゲートパターンを形成した。
【0080】
上記ゲートパターン上にレジスト層を形成し、このレジスト層に対してエミッタホールパターンを用いて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行い、さらにBHF液にてSiO膜をエッチング処理してエミッタホールを形成した後に、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエミッタホール内部をエッチング処理し、レジストを除去してパターン膜付ガラス基板を作製した。
【0081】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を525℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが生成していることが確認できた。
【0082】
上記のようにしてグラファイトナノファイバーが生成されたラインパターン薄膜付きガラス基板(カソード基板)と対向して、蛍光体とAlとを成膜したアノード基板を支持部材を介して1mmの間隔にてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。このカソードとアノードとの間に500Vの電圧を印加し、ゲート電極とカソードとの間に70V印加させたところ、アノード基板の蛍光体が発光し、電子放出が生じていることが確認できた。
【実施例6】
【0083】
スパッタ成膜装置内にガラス基板(旭硝子製:PD200)を載置し、装置内雰囲気をAr:N=91:9に調整し、Cr−13Fe−19Ni(at%)からなる組成のターゲットを用いて、RFスパッタ法により、基板温度200℃で、Cr−13Fe−19Ni膜を200nm厚さで基板上に形成した。得られた膜中のN量をAESにて分析したところ、21.2%含有していることが確認できた。
【0084】
次いで、上記Cr−13Fe−19Ni膜にレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布し、100μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅85μmのカソードパターンを形成した。
【0085】
RFスパッタ法により、上記ラインパターン上に基板温度400℃にてSiO膜を3μmの膜厚で形成した。冷却後、SiO膜と電子放出素子形成用薄膜材料層との間に発生する熱応力によって、電子放出素子形成用薄膜材料に応力を印加させることができた。
【0086】
DCスパッタ法を用い、上記SiO膜上に基板温度200℃でCrを300nm成膜した後に、レジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製、商品名:AZP1350)を800nmの厚さに塗布した。その後、300μmの間隔にて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行ってレジストを除去し、幅150μmのゲートパターンを形成した。
【0087】
上記ゲートパターン上にレジスト層を形成し、このレジスト層に対してエミッタホールパターンを用いて露光処理し、次いで1%KOH水溶液にて現像した。その後、硝酸第二セリウムアンモニウム液にてエッチング処理を行い、さらにBHF液にてSiO膜をエッチング処理してエミッタホールを形成した後に、レジストを除去してパターン膜付ガラス基板を作製した。
【0088】
上記パターン薄膜付きガラス基板を熱CVD装置内に設置し、装置内に1:1の比率の一酸化炭素ガスと水素ガスとをそれぞれ200sccm、大気圧下で流し、基板を525℃にて20分間加熱し、エミッタホール底部の電子放出素子形成用薄膜材料層上にグラファイトナノファイバーを生成せしめた。SEMにてグラファイトナノファイバーの生成状態を確認したところ、グラファイトナノファイバーが生成していることが確認できた。
【0089】
上記のようにしてグラファイトナノファイバーが形成されたラインパターン薄膜付ガラス基板(カソード基板)に蛍光体とAlとを塗布したアノード基板を1mmの間隔で対向させてセットし、1×10−4Paの真空中に設置した。このカソードとアノードとの間に500Vの電圧を印加し、ゲート電極とカソードとの間に70V印加させたところ、アノードパネルの蛍光体が発光し、電子放出が生じていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の触媒組成物を利用すれば、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノホーン及びグラファイトナノファイバー等の炭素系ナノ材料を低温で効率よく生成せしめることができるので、この炭素系ナノ材料を備えたカソード基板を用いて良好な電子放出特性を有する電子放出素子デバイス等の炭素系ナノデバイスを形成することができる。従って、例えば、FED及び液晶用バックライト用のエミッタ、燃料電池、電気二重層、Liイオン電池用の電極材、水素貯蔵用途、半導体素子における配線材料、センサー、並びにトランジスタ等の分野で利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例4で得られたカソード基板の構造を模式的に示す断面図。
【図2】実施例4で生成したグラファイトナノファイバーを有するFED用カソード基板の断面を示すSEM写真。
【符号の説明】
【0092】
1 カソード層 2 絶縁層
3 ゲート層 4 グラファイトナノファイバー
5 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Ni及びCoから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれら金属の少なくとも2種類からなる合金であって触媒として機能する第1金属と、第2金属と、窒素又は窒素化合物とを含むことを特徴とする炭素系ナノ材料生成用触媒組成物。
【請求項2】
上記第2金属が、Cr、Mo、W、Nb、Ta及びVから選ばれた少なくとも1種類の金属又はこれら金属の少なくとも2種類からなる合金であることを特徴とする請求項1記載の炭素系ナノ材料生成用触媒。
【請求項3】
上記触媒組成物が、薄膜状であることを特徴とする請求項1又は2記載の炭素系ナノ材料生成用触媒組成物。
【請求項4】
上記触媒組成物が、フォトリソグラフィ法により加工されたパターンを有する薄膜状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素系ナノ材料生成用触媒組成物。
【請求項5】
上記炭素系ナノ材料が、グラファイトナノファイバーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素系ナノ材料生成用触媒組成物。
【請求項6】
さらに、Al、Ti、Si及びZrから選ばれた少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素系ナノ材料生成用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物上に生成した炭素系ナノ材料を備えていることを特徴とする炭素系ナノ材料デバイス。
【請求項8】
上記炭素系ナノ材料が、熱CVD法によって400〜600℃で生成されたものであることを特徴とする請求項7記載の炭素系ナノ材料デバイス。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成していることを特徴とする電子放出素子用カソード基板。
【請求項10】
上記エミッタホールは、その内部に、電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを備えていることを特徴とする請求項9記載の電子放出素子用カソード基板。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成してなる電子放出素子用カソード基板を作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料を熱処理し、次いでエッチングすることを特徴とする電子放出素子用カソード基板の作製方法。
【請求項12】
上記電子放出素子形成用薄膜材料層は、熱処理の後に、この薄膜材料層に熱応力が印加されてなることを特徴とする請求項11記載の電子放出素子用カソード基板の作製方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、また、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成してなる電子放出素子用カソード基板を作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成された絶縁層及びゲート電極層をエッチング処理してエミッタホールを形成することを特徴とする電子放出素子用カソード基板の作製方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有していることを特徴とする電子放出素子デバイス。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有してなる電子放出素子デバイスを作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料を熱処理した後にエッチングし、次いで熱CVD法により炭素系ナノ材料を生成することを特徴とする電子放出素子デバイスの作製方法。
【請求項16】
上記熱CVD法を、400〜600℃で実施することを特徴とする請求項15記載の電子放出素子デバイスの作製方法。
【請求項17】
上記電子放出素子形成用薄膜材料層の熱処理後に、この薄膜材料層に熱応力が印加されてなることを特徴とする請求項15又は16記載の電子放出素子デバイスの作製方法。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒組成物からなる電子放出素子形成用薄膜材料層と、絶縁層と、ゲート電極層とを順次基板上に備え、該触媒組成物中の第2金属がカソード層を構成しており、さらに該電子放出素子形成用薄膜材料層と絶縁層とゲート電極層とで囲まれたエミッタホールを備え、このエミッタホール内の電子放出素子形成用薄膜材料層上に生成させた炭素系ナノ材料からなるエミッタを有してなる電子放出素子デバイスを作製する際に、該電子放出素子形成用薄膜材料層上に絶縁層及びゲート電極層を加熱下に順次形成した後、形成されたゲート電極層、絶縁層及び電子放出素子形成用薄膜材料層をエッチング処理してエミッタホールを形成し、このエミッタホール内に炭素系ナノ材料を生成することを特徴とする電子放出素子デバイスの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−319761(P2007−319761A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151700(P2006−151700)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000101710)アルバック成膜株式会社 (39)
【Fターム(参考)】