説明

炭素繊維含有断熱材

【課題】強度に優れた断熱材材料に適した炭素繊維フェルトを提供する。
【解決手段】メソフェーズピッチを用い、平均繊維径、繊維径分布、平均繊維長、BET比表面積を制御した炭素繊維フェルト、及びこれを用いた炭素繊維含有断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素繊維の繊維径及び繊維径分布、炭素繊維の比表面積を規定した炭素繊維フェルトに関するものである。更には、前述の炭素繊維フェルトを用いた炭素繊維含有断熱材に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。炭素繊維は強度・弾性率、耐熱性、耐久性が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、様々な用途に用いられ、例えば各種の補強材や断熱材などとして使用されている。補強材としては、例えば、プラスチックの補強材として用いることにより、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途、電子・電気用品用途などの構成材料として広く用いられている。しかし、プラスチックを含む組成物である以上、耐火性については限界があり、用途が限定されている。
【0003】
断熱材としては、例えば、半導体や機能性セラミックスなどの分野において、真空炉、半導体単結晶成長炉、セラミックス焼結炉、C/Cコンポジット焼成炉、金属処理炉などの高温処理炉の断熱材用充填材として使用されている。特許文献1には、高温処理炉の断熱材用充填材として、耐熱性にすぐれるメソフェーズピッチを用いた炭素繊維フェルトが提案されている。
【0004】
これら炭素繊維フェルトを用いた断熱材は、炭素繊維フェルトをそのまま断熱材として用いる方法(特許文献1)と、炭素繊維よりなるウェッブやフェルト、マット、クロス等に熱硬化性樹脂やピッチ等を含浸させ、これを加熱硬化させたのち、真空下又は不活性ガス雰囲気下で焼成する方法がある(特許文献2)。これらの方法はウェッブやフェルトを連続的に処理できるので、生産性に優れた方法である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−195396号公報
【特許文献2】特開平7−41372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら断熱材は高温状態という過酷な条件で使用されていることから、更なる耐久性が求められている。中でも、樹脂と炭素繊維フェルト間の接合を強固に維持し、断熱材の強度を高めることが求められている。強度に優れる高温処理炉用が求められているという観点から、炭素繊維と樹脂との界面の接合に良好な炭素繊維フェルト及びこれを用いた炭素繊維含有断熱材を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、強度に優れた断熱材を作成するための優れた充填材である炭素繊維フェルト及びこれを含んだ断熱材を提供することを鑑み、繊維長分布及び比表面積を制御したピッチ系炭素繊維フェルトを用いた断熱材が、断熱性に優れるだけではなく強度に優れたものとなることを見出し本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜15であり、平均繊維長が60〜400mmであり、BET比表面積が15〜100m/gであるピッチ系炭素繊維フェルト、およびその製造方法である。
【0009】
更に、本発明は前述のピッチ系炭素繊維フェルト100重量部と炭化物50〜1000重量部とが複合していることを特徴とする炭素繊維含有断熱材およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは、炭素繊維の平均繊維径、繊維径分布、平均繊維長及びBET表面積を適切な範囲に制御することで、これを用いた炭素繊維含有断熱材は断熱性に優れるだけではなく強度に優れたものとなる。これにより、高温処理炉用断熱材として好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維の平均繊維径は5〜20μmであることが必要である。5μm以下の場合には、単位重量辺りの炭素繊維の本数が多くなり、比表面積が大きくなる。結果、比表面積がある程度の数値を超えると、樹脂と炭素繊維の界面が増えすぎることになり、界面接合の欠陥の確率が高くなる。逆に平均繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より好ましくは10〜20μmである。繊維径がある程度太い方が、ピッチ系炭素繊維の比表面積が減少し、表面の酸化反応を抑制し、耐酸化性を高めるためである。
【0012】
なお、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率として求められるCV値は、5〜15であることが必要である。CV値が5を下回ると、繊維径が非常に均等になるため、繊維と繊維の間に入り込む繊維径が低いフィラーが減ることになり、ピッチ系炭素繊維フェルトの密度が上がりにくくなり、ピッチ系炭素繊維フェルトの強度が低下する。また、CV値が15を超えると、繊維径の分布が広くなる事を意味し、耐酸化性の低い細い繊維径を多く含むことになる。CV値を制御する方法として特に限定は無いが、メルトブロー法においては紡糸時の粘度をある程度高くすることで、紡糸時の延伸効果を一定に制御できるようになり、繊維径が揃うすなわちCV値を制御することができる。
【0013】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維の平均繊維長は60〜400mmである。60mmより短いと、ピッチ系炭素繊維同士の交絡が減り炭素繊維フェルトの強度が低くなる。逆に400mmより大きくなると、炭素繊維フェルトの嵩密度が小さくなり、耐火性が低下する傾向になる。
【0014】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維は、BET比表面積が15〜100m/gであることが必要である。BET比表面積が15m/gより小さい場合、炭素繊維に樹脂を含浸させたとき、樹脂と炭素繊維との間の界面の量が少ないため、強度が十分な炭素繊維含有断熱材を得にくい。逆に、BET比表面積が100m/gより大きい場合、ピッチ系炭素繊維が多くの空隙を有することになり、ピッチ系炭素繊維の強度が低下し、複合材である炭素繊維含有断熱材率の強度が低下する。BET比表面積の好ましい範囲は20〜80m/g、さらには20〜50m/gである。BET比表面積はガス吸着法から求める比表面積の求め方で、比表面積の代表的な求め方である。BET比表面積はカンタクローム社製オートソーブやユアサイオニクス社製NOVAで測定することができる。
【0015】
炭素繊維のBET比表面積の制御法としては、具体的には紡糸や焼成の条件を制御する方法が挙げられる。紡糸条件としては紡糸時に溶融ピッチにかかるせん断力を適切に制御すれば良く、紡糸時の溶融ピッチの粘度、紡糸ノズルの吐出口長さLと吐出口の径D、導入角を適切に設定することで達成できる。焼成条件としては、焼成時の温度、焼成雰囲気の酸素濃度、焼成時間を制御することによって達成できる。一般的に焼成雰囲気の酸素濃度が高い程BET比表面積が高くなり、そのような条件で焼成時間を長くした場合、更にBET比表面積が高くなる。望ましい紡糸条件としては後述にもあるが、メソフェーズピッチの粘度が3〜25Pa・S(30〜250ポイズ)、紡糸ノズルの導入角αが10〜90°、紡糸ノズルの吐出口長さLと吐出口の径Dの比L/Dが6〜20である。望ましい焼成条件としては、酸素濃度は100ppm以下、焼成温度は600〜900℃、焼成時間は20〜60分である。
【0016】
以下本発明のピッチ系炭素繊維フェルトの好ましい製造法について述べる。
本発明で用いられるピッチ系炭素繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチは、黒鉛化性すなわち熱処理による芳香環の成長に優れるため、耐熱性を高める上で好ましいためである。
【0017】
原料ピッチとなるメソフェーズピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0018】
メソフェーズピッチは溶融後、ノズルより吐出しこれを冷却することによる溶融紡糸によって繊維化できる。紡糸方法としては、具体的には口金から吐出したピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でも、紡糸直後に繊維同士が絡み合ってマット状となり、フェルト化する際に工程上有利であることから、メルトブロー法を用いるのが好ましい。
メソフェーズピッチを溶融紡糸した後、不融化、焼成を経て最後にニードルパンチすることによってピッチ系炭素繊維からなるフェルトとする。
【0019】
本発明においては、紡糸時の温度は、メソフェーズピッチの粘度が3〜25Pa・S(30〜250ポイズ)の範囲にある温度であることが望ましい。更に好ましくは5〜20Pa・S(50〜200ポイズ)の範囲にある温度である。紡糸ノズルは、導入角αが10〜90°であり、吐出口長さLと吐出口の径Dの比L/Dが6〜20の範囲にあるノズルが好ましく用いられる。紡糸条件がこの範囲にある時、メソフェーズピッチにかかるせん断力が、芳香環をある程度配列させることできる。ある程度芳香環が配列した場合、耐熱性が高くなることから断熱材として好適である。しかし、例えば、粘度がより大きい、もしくは導入角がより小さい、もしくはL/Dがより大きい時などせん断力がより強くかかる条件では、配列が進みすぎて黒鉛化した際に、炭素繊維が割れやすくなり、ピッチ系炭素繊維の比表面積が大きくなってしまう。逆に粘度がより小さい、もしくは導入角がより大きい、もしくはL/Dがより小さいなどせん断力がより小さいなどせん断力が小さくかかる条件では、芳香環があまり配列しないため、高い耐熱性が得られない。
【0020】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が好ましい。
【0021】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマットとなる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。ここで三次元ランダムマット状になることが、後の工程でフェルト化する際に有利になる。
【0022】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化する。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。続いて、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で600〜1500℃で焼成される。焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される場合が多い。
【0023】
三次元ランダムマットのフェルト化処理に用いる手法として特に制限はないが、ニードルパンチ処理,ウオータージェット処理等の交絡を増やす手段あるいは接着剤により繊維間を固定する方法等の接着手段などがあるが、操作が簡便であることや、効率的に処理できることから、ニードルパンチ処理が好ましい。フェルト化の際にニードルパンチを行う場合、ニードルパンチ密度は、3〜120パンチ/cm2 であることが好ましい。ニードルパンチ密度が3パンチ/cm2 未満と少ない場合、得られるフエルトの強度が低く、寸法安定性,ハンドリング性が悪くなる。逆に120パンチ/cmとフェルト化処理を多くしすぎると、炭素繊維の損傷が多くなり、フェルト強度が低下し好ましくない。
【0024】
炭素繊維フェルトの嵩密度は、用途に応じて選択でき、1〜30kg/m3であることが好ましい。嵩密度が高いと、断熱性が低下する傾向があり、嵩密度が低いと、耐火性が低下する傾向がある。
炭素繊維フェルトの厚みは、用途によって選択すればよく、特に限定されないが、例えば、1〜100mm、好ましくは5〜50mm程度である。
【0025】
断熱材の製造方法に特に制限は無いが、ピッチ系炭素繊維フェルトを熱硬化性樹脂に含浸し、熱硬化性樹脂を硬化させ成形体を得た後、成形体を500〜2200℃で熱処理してフェルトと炭化物との複合体を得る方法が挙げられる。具体的には、炭素繊維フェルトにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸し、通常、加圧成型した後に、100〜250℃程度で熱硬化して成形体を得、炭化処理を行なうことによって炭素繊維含有断熱材を得ることができる。この時の炭化処理の温度は800℃以上2000℃以下が好ましい。
【0026】
この時得られた断熱材はピッチ系炭素繊維フェルト100重量部に対し、炭化物50〜1000重量部含むことが好ましい。ここでの炭化物は上述の熱硬化性樹脂の熱処理および炭化処理によって得られた成分を意味する。炭化物が50重量部を下回る場合、ピッチ系炭素繊維フェルトの空隙が少ないことを意味し、すなわちピッチ系炭素繊維フェルトの嵩密度が高いことになり、断熱性の低下を招く。逆に炭化物が1000重量部を上回る場合、断熱材のほとんどが熱硬化性樹脂由来の炭化物で、耐酸化性の期待できるピッチ系炭素繊維フェルトが少ないことになり、望ましくない。好ましくはピッチ系炭素繊維フェイルと100重量部に対し、炭化物100〜700重量部である。炭化物とピッチ系炭素繊維フェルトの重量比は、得られた複合物の重量から予め測定しておいたピッチ系炭素繊維フェルトの重量を差し引くことで、炭化物の重量を求め、そこから算出することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素繊維の平均繊維径は、フェルトから抜き取ったピッチ系炭素繊維をJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維の平均繊維長は、フェルトからピッチ系炭素繊維を抜き取り、定規で60本測定し、その平均値から求めた。
(3)フェルトから抜き取ったピッチ系炭素繊維のBET比表面積はカンタクローム社製オートソーブ3を用いて求めた。
(4)断熱材の引張強度は、大型特性試験装置(東洋ボールドウィン製、SS−207−5P)で測定した。
(5)断熱材の熱伝導率は、京都電子製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(6)炭化物とピッチ系炭素繊維フェルトの重量比は、得られた複合物の重量から、予め測定しておいたピッチ系炭素繊維フェルトの重量を差し引くことで、炭化物の質量を求め、そこから算出した。
【0028】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。導入角α35℃、吐出口の径D0.2mm、吐出口長さL2mm(L/D=10)のキャップを使用し、吐出口における光学異方性のピッチ温度330℃で、スリットから350℃の加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径15.0μmのピッチ系繊維を作製した。この時の溶融ピッチの粘度は16.8Pa・S(168poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付430g/mのピッチ系短繊維からなる3次元ランダムマットとした。
【0029】
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から285℃まで平均昇温速度2℃/分で昇温して不融化、更に800℃、酸素濃度50ppmの条件下で30分間焼成を行った。得られた焼成マットをニードルパンチ密度100パンチ/cmで処理を行い、炭素繊維フェルトを得た。焼成後のフェルト中のピッチ系炭素繊維の平均繊維径は13.8μm、CV値が7.9、平均繊維長は110mmであった。BET比表面積は35m/gであった。
【0030】
[実施例2]
実施例1で作成した炭素繊維フェルトを、フェノール樹脂(群栄化学(株)製、PL−2211)に浸漬させ、ロールプレスで圧縮し余分なフェノール樹脂を搾り出した後、250℃で成形体とし、800℃で焼成した。更に、2000℃で熱処理し、炭素繊維含有断熱材を得た。ピッチ系炭素繊維フェルト100重量部に対し、炭化物は400重量部含まれていた。断熱材の引張強度は0.79MPa、熱伝導率は0.052W/m・Kであった。
【0031】
[比較例1]
実施例1において、焼成条件を焼成温度600℃、酸素濃度2000ppmの条件下で行った以外は同様の方法で、炭素繊維フェルトを作製した。炭化後のピッチ系炭素繊維の平均繊維径は13.6μm、CV値が9.8、平均繊維長は110mmであった。BET比表面積は240m/gであった。
【0032】
[比較例2]
比較例1で作成した炭素繊維フェルトを、フェノール樹脂(群栄化学(株)製、PL−2211)に浸漬させ、ロールプレスで余分なフェノール樹脂を搾り出した後、250℃で成形体とした後、800℃で焼成した。更に、2000℃で熱処理し、炭素繊維含有断熱材を得た。ピッチ系炭素繊維フェルト100重量部に対し、炭化物は400重量部含まれていた。断熱材の引張強度は、0.45MPa、熱伝導率は0.049W/m・Kであった。
【0033】
[比較例3]
実施例1において、紡糸温度を350℃とした以外は同様の方法で、炭素繊維フェルトを作製した。この時の溶融ピッチの粘度は2.0Pa・S(20poise)であった。炭化後のピッチ系炭素繊維の平均繊維径は10.2μm、CV値が18.4、平均繊維長は30mmであった。BET比表面積は180m/gであった。
【0034】
[比較例4]
比較例3で作成した炭素繊維フェルトを、フェノール樹脂(群栄化学(株)製、PL−2211)に浸漬させ、ロールプレスで余分なフェノール樹脂を搾り出した後、250℃で成形体とした後、800℃で焼成した。更に、2000℃で熱処理し、炭素繊維含有断熱材を得た。ピッチ系炭素繊維フェルト100重量部に対し、炭化物は400重量部含まれていた。断熱材の引張強度は、0.38MPa、熱伝導率は0.039W/m・Kであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは断熱性に優れるだけでなく強度が優れるので、樹脂と複合化し断熱材とした時に耐久性に優れたものとなる。これにより本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは高温処理炉での使用に適した断熱材に活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜15であり、平均繊維長が60〜400mmであり、BET比表面積が15〜100m/gであるピッチ系炭素繊維フェルト。
【請求項2】
平均繊維径が10〜20μmである請求項1に記載のピッチ系炭素繊維フェルト。
【請求項3】
メソフェーズピッチをメルトブロー法により繊維化し、次いで不融化および炭化することにより得た炭素繊維ランダムマットを、ニードルパンチによりフェルト化することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維フェルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維フェルト100重量部と炭化物50〜1000重量部とが複合していることを特徴とする炭素繊維含有断熱材。
【請求項5】
炭化物が熱硬化性樹脂由来のものであることを特徴とする請求項4に記載の炭素繊維含有断熱材。
【請求項6】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維フェルトを熱硬化性樹脂に含浸し、熱硬化性樹脂を硬化させ成形体を得た後、成形体を500〜2200℃で熱処理してフェルトと炭化物との複合体を得ることを特徴とする請求項4に記載の炭素繊維含有断熱材の製造方法。

【公開番号】特開2009−185411(P2009−185411A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26359(P2008−26359)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】