説明

炭素膜の形成方法、磁気記録媒体の製造方法及び炭素膜の形成装置

【課題】平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜の形成方法、前記炭素膜を保護膜として用いて記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体の製造方法及び前記炭素膜の形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】カソード電極104と、アノード電極105と、基板ホルダ102と、を備えた成膜室101内を排気した後に、第2の導入管111から不活性ガスAを導入して、カソード電極104の加熱を行うクリーニング工程と、不活性ガスAの導入を止めて前記成膜室101内を排気した後に、第1の導入管103から導入した原料ガスGを前記カソード電極104で加熱して、カソード電極104とアノード電極105との間で放電させ、カソード電極104又はアノード電極105と基板ホルダ102に支持された基板Dとの間で電圧を印加して基板D上に炭素膜を形成する成膜工程と、を有する炭素膜の形成方法を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜の形成方法、磁気記録媒体の製造方法及び炭素膜の形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の分野では、記
録密度の向上が著しい。前記記録密度は、驚異的な速度で伸び続け、最近10年間で100倍程度となっている。
前記記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を、キーテクノロジーの一つとして挙げることができる。
【0003】
上記制御技術の一つに、ウインテェスター様式と呼ばれる技術がある。ウインテェスター様式は、磁気ヘッドの起動から停止までの基本動作を、磁気記録媒体に対して接触摺動−浮上−接触摺動としたCSS(接触起動停止)方式としたものであり、ハードディスクドライブの主流となっている。ここでは、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの接触摺動は避けることのできないものとなっている。
【0004】
そのため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のトライボロジー(tribology:摩擦・摩耗・潤滑のメカニズムなどを扱う学問領域)の問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っている。
そして、磁気記録媒体の磁性膜上に積層される保護膜を改善する努力が営々と続けられていると共に、この媒体(保護膜)の表面における耐摩耗性及び耐摺動性が、磁気記録媒体の信頼性を向上させる大きな柱となっている。
【0005】
前記保護膜には、磁気記録媒体の記録密度の向上を図るために磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)を低減した際に、前記磁気記録媒体と磁気ヘッドとが偶発的な接触しても、磁気記録媒体の磁気記録層を保護するような高い摺動耐久性や平坦性が要求される。また、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減するためには、前記保護膜の厚さをできるだけ薄くすることが要求される。このように、前記保護膜に対しては、平滑性は勿論のこと、薄く、緻密で且つ強靭であることが強く求められている。
【0006】
前記保護膜の材料としては、様々な材料が提案されているが、成膜性や耐久性等の総合的な見地から、主に、炭素からなる膜(以下、炭素膜)が採用されている。なお、前記炭素膜の硬度、密度および動摩擦係数等の特性は、磁気記録媒体のCSS特性または耐コロージョン特性に如実に反映される。
【0007】
前記炭素膜は、スパッタリング法、CVD法およびイオンビーム蒸着法等によって形成されている。スパッタリング法で形成した炭素膜は、例えば100Å以下の膜厚とした場合に、その耐久性が不十分となるおそれがある。また、CVD法で形成した炭素膜は、表面の平滑性が低く、膜厚を薄くした場合に、磁気記録媒体の表面の被覆率が低下して、磁気記録媒体のコロージョンを発生させるおそれがある。
【0008】
一方、イオンビーム蒸着法で形成した炭素膜は、スパッタリング法やCVD法で形成した炭素膜に比べて、より高硬度で、平滑性がより高く、より緻密な膜とすることができる。特許文献1、2には、イオンビーム蒸着法による炭素膜の形成方法の一例が開示されている。
【0009】
特許文献1は、CVD装置および磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、熱フィラメント−プラズマCVD装置が開示されており、真空雰囲気下の成膜室内で、通電加熱されたフィラメント状カソード(以下、フィラメント)とアノードとの間の放電により、炭化水素系の原料ガス(炭素含有ガス)をプラズマ状態とするイオンビーム蒸着法が記載されている。前記イオンビーム蒸着法を用い、前記原料ガスを励起分解して発生させた炭素イオン(炭素ラジカル)を、マイナス電位の基板表面に加速衝突させて、硬度の高い炭素膜を安定して成膜する。
【0010】
前記イオンビーム蒸着法で用いるフィラメントは、適度に炭化して用いる必要があった。前記フィラメントの炭化(炭化度)が不十分である場合には、成膜室に導入された原料ガスはフィラメントの炭化に用いられ、基板に十分な成長速度で炭素膜を析出させることができない。また、前記フィラメントの炭化が過度であり、前記フィラメントの表面が炭素膜で覆われる場合には、前記フィラメントの励起力が低下して、基板表面に析出される炭素膜の硬度が低下する。さらに、フィラメントの過度の炭化は、フィラメントの断線を誘発した。
【0011】
また、フィラメントで励起された活性な炭素ラジカルの平均自由行路を長くして、前記炭素ラジカルを広い範囲に到達させて前記炭素膜の膜厚を均一にするために、前記イオンビーム蒸着法での成膜の反応圧力は下げる必要があった。しかし、前記反応圧力を下げると、フィラメントに接触する原料ガスの量が減少し、フィラメントの炭化度が不十分となるおそれが発生した。
【0012】
原料ガスとして分子量の大きい炭化水素を使用することにより、前記反応圧力が低い場合でも、多くの炭素原子をフィラメントに供給することができ、前記フィラメントの炭化度の低下を抑制することができる。
しかし、前記分子量の大きい炭化水素は、常温常圧(20℃、1気圧)で液体状原料である場合が多く、気相成膜原料として使用するためには、この液体状原料を気化して使用する必要がある。そして、前記液体状原料を用いた場合には、気体状原料を用いた場合に比べて、フィラメント状カソードの寿命が短くなる傾向があった。さらに、連続成膜を行うと、フィラメント状カソードが徐々に劣化した。
【0013】
特許文献2は、製膜方法および磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、成膜の前後で、加熱されたフィラメント状カソードとアノードとの間の放電によりプラズマ状態とした不活性ガスプラズマにより、フィラメント状カソードのクリーニング処理を行うことにより、炭素含有モノマーガスを使用して、硬度の高い炭素膜を安定して成膜することが記載されている。
【0014】
しかし、前記クリーニング処理を実施しても、前記液体状原料を用いた場合には、フィラメント状カソードの断線やフィラメントの経時変化が生じた。すなわち、成膜工程で、炭素含有ガスをフィラメント状カソードで励起分解して炭素膜を成膜するとき、前記液体状原料が、反応容器に接続する配管内で液体となって凝集する。次に、成膜の後のクリーニング工程で導入された不活性ガスにより、前記配管内に液体となって凝集した前記液体状原料が気化されて、前記不活性ガスに混入される。前記液体状原料が混入された不活性ガスを用いることにより、フィラメント状カソードのクリーニング処理が不十分となるとともに、クリーニング処理毎にフィラメントが徐々に炭化して、フィラメントが劣化した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−226659号公報
【特許文献2】特開2000−222724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜の形成方法、前記炭素膜を保護膜として用いて記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体の製造方法、及び、前記炭素膜の形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、炭素原料の供給配管と別に設けた供給配管から導入した不活性ガスを用いて、フィラメント状カソードのクリーニング処理をすることにより、不活性ガスへの炭素原料の混入を防いでフィラメント状カソードのクリーニング処理を十分なものとし、またクリーニング処理を繰り返すことによるフィラメントの炭化、劣化の進行を防止できることを見出して、本願発明を完成させた。
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
(1)本発明の炭素膜の形成方法は、フィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、を内部に備えた成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第2の導入管から不活性ガスを導入した状態で、前記カソード電極の加熱を行ってフィラメント表面のクリーニングを行うクリーニング工程と、前記不活性ガスの導入を止めて前記成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第1の導入管から導入した原料ガスを前記カソード電極で加熱して、前記カソード電極と前記アノード電極との間で放電させた後、前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板ホルダに支持された基板との間で電圧を印加して前記基板上に炭素膜を形成する成膜工程と、を有する。
(2)本発明の炭素膜の形成方法は、前記原料ガスが、炭素を含む常温常圧で液体状の原料が気化されたガスであることを特徴とする。
(3)本発明の炭素膜の形成方法は、前記炭素を含む常温常圧で液体状の原料がトルエンであることを特徴とする。
(4)本発明の炭素膜の形成方法は、前記第1の導入管に加熱機構が取り付けられていることを特徴とする。
(5)本発明の炭素膜の形成方法は、前記クリーニング工程と前記成膜工程とを繰り返すことにより、複数の基板に連続的に炭素膜を形成することを特徴とする。
(6)本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に磁性層を形成する工程と、先に記載の炭素膜の形成方法を用いて、前記磁性層上に炭素膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
(7)本発明の炭素膜の形成装置は、減圧可能な成膜室と、前記成膜室内に備えられたフィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、前記成膜室の壁面に接続された第2の導入管と、前記成膜室の壁面に接続された第1の導入管と、を有することを特徴とする。
(8)本発明の炭素膜の形成装置は、前記カソード電極を通電して加熱する第1の電源と、前記カソード電極と前記アノード電極との間で放電を生じさせる第2の電源と、前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を与える第3の電源と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成によれば、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜の形成方法、前記炭素膜を保護膜として用いて記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体の製造方法、及び、前記炭素膜の形成装置を提供することができる。
【0020】
本発明の炭素膜の形成方法は、フィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、を内部に備えた成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第2の導入管から不活性ガスを導入した状態で、前記カソード電極の加熱を行ってフィラメント表面のクリーニングを行うクリーニング工程と、前記不活性ガスの導入を止めて前記成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第1の導入管から導入した原料ガスを前記カソード電極で加熱して、前記カソード電極と前記アノード電極との間で放電させた後、前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板ホルダに支持された基板との間で電圧を印加して前記基板上に炭素膜を形成する成膜工程と、を有する構成なので、平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0021】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に磁性層を形成する工程と、先に記載の炭素膜の形成方法を用いて、前記磁性層上に炭素膜を形成する工程と、を有する構成なので、平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜を保護膜として用いることができ、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)および磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減して、記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体を製造することができる。
【0022】
本発明の炭素膜の形成装置は、減圧可能な成膜室と、前記成膜室内に備えられたフィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、前記成膜室の壁面に接続された第2の導入管と、前記成膜室の壁面に接続された第1の導入管と、を有する構成なので、平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の炭素膜の形成装置の一例を示す概略模式図である。
【図2】本発明の炭素膜の形成装置で、永久磁石が印加する磁場とその磁力線の方向の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造される磁気記録媒体の別の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造される磁気記録媒体を具備した磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体の製造方法に用いられるインライン式成膜装置の一例を示す平面図である。
【図7】本発明の磁気記録媒体の製造方法に用いられるインライン式成膜装置のキャリアの一例を示す側面図である。
【図8】図7に示すキャリアの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
(第1の実施形態)
<<炭素膜の形成装置>>
まず、本発明の実施形態である炭素膜の形成装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態である炭素膜の形成装置を示す概略模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である炭素膜の形成装置121は、イオンビーム蒸着法を用いた成膜装置であり、減圧可能な成膜室101と、前記成膜室内に備えられたフィラメント状のカソード電極104と、前記カソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105と、前記カソード電極104から離間された位置に配置された基板ホルダ102と、前記成膜室101の壁面に接続された第2の導入管(以下、不活性ガス導入管)111と、前記成膜室の壁面に接続された第1の導入管(以下、原料ガス導入管)103と、排気管110と、を有する。また、基板ホルダ102には、基板Dが、カソード電極104と対向するように支持されている。
【0025】
<成膜室101>
成膜室101は、チャンバ壁101aによって気密に構成されている。また、成膜室101には排気管110が接続されており、排気管110に接続された真空ポンプ(図示略)を通じて内部を減圧排気可能とされている。
【0026】
<第1〜第3の電源>
成膜室101の外部には、カソード電極104を通電により加熱する第1の電源106と、カソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせる第2の電源107と、カソード電極104又はアノード電極105と基板Dとの間に電圧を印加して電位差を与える第3の電源108と、が配置されている。
【0027】
第1の電源106は、カソード電極104に接続された交流電源であり、炭素膜の成膜時にカソード電極104に電力を供給することができる。なお、第1の電源106は、交流電源に限られるものではなく、直流電源を用いてもよい。
第2の電源107は、−電極側がカソード電極104に接続され、+電極側がアノード電極105に接続された直流電源であり、炭素膜の成膜時にカソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせることができる。
第3の電源108は、+電極側がアノード電極105に接続され、−電極側がホルダ102に接続された直流電源であり、炭素膜の成膜時にアノード電極105とホルダ102に保持された基板Dとの間に電位差を付与する。なお、第3の電源108は、+電極側がカソード電極104に接続された構成としてもよい。
【0028】
なお、第1の電源106〜第3の電源108を操作して印加する電圧は、特に限定されるものではなく、基板Dのサイズに応じて適宜設定することが好ましい。
たとえば、基板Dが円盤状であり、そのサイズが外径3.5インチである場合には、第1の電源106は、その電圧を10〜100Vの範囲とし、電流を直流又は交流で5〜50Aの範囲に設定することが好ましい。また、第2の電源107は、その電圧を50〜300Vの範囲とし、電流を10〜5000mAの範囲に設定することが好ましい。さらに、第3の電源108は、その電圧を30〜500Vの範囲とし、電流を10〜200mAの範囲に設定することが好ましい。
【0029】
<原料ガス>
原料ガス導入管103から成膜室101内には、炭素を含む常温常圧で液体状の原料(以下、液体状の炭素化合物)を気化した気体(以下、原料ガス)Gが導入される。
【0030】
このように、原料ガスGとして、液体状の炭素化合物を気化したものを使用することが好ましい。これにより、成膜圧力に適した1Pa程度の条件下で、フィラメントを適度に炭化することができる。前記液体状の炭素化合物は、気体状の炭化水素等に比べ分子量が大きいためである。
前記液体状の炭素化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、スチレン等を用いることができ、特に、トルエン(toluene)を用いることが好ましい。
トルエンは、芳香族炭化水素に属する有機化合物である。トルエンの分子式はCCHであり、ベンゼンの水素原子の一つをメチル基で置換した構造を持つ。また、トルエンの融点は−93℃であり、沸点は110.6℃であり、常温常圧(20℃、1気圧)では液体状である。
【0031】
トルエンを用いる場合、1Pa程度の成膜圧力とした場合、フィラメント状のカソード電極を適度に炭化することができる。また、加熱したカソード電極で励起分解することによって高密度の炭素ラジカルを形成することができる。さらに、前記炭素ラジカルをイオン化して、加速電圧を印加することによって、基板上に高硬度の炭素膜を均一な膜厚で形成することができる。
【0032】
さらに、原料ガスGに、不活性ガスや水素ガスなどを含有させた混合ガス等を用いることがより好ましい。また、この混合ガスにおける炭化水素と不活性ガス等との混合割合は、炭化水素:不活性ガスを2:1〜1:100(体積比)の範囲とすることが好ましく、1:1〜1:50(体積比)の範囲とすることがより好ましい。これにより、成膜室101内でのプラズマの発生を誘発することができ、高硬度の耐久性の高い炭素膜を形成することができる。
【0033】
<加熱機構>
また、原料ガス導入管103には加熱機構112が取り付けられている。これにより、原料ガスGが、原料ガス導入管103内で凝集するのを防ぐことができる。さらに、反応容器101内への炭素原料の供給をより安定化することができる。
原料ガス導入管103の加熱温度は50℃程度とすることが好ましい。原料ガス導入管103の内部は減圧雰囲気であり、液体状の炭素化合物の沸点まで加熱しなくても、凝集した液体状の炭素化合物を気化して、取り除くことができる。
【0034】
<不活性ガス>
また、不活性ガス導入管111から成膜室101内には、不活性ガスAが導入される。不活性ガスAは、フィラメント状のカソード電極のクリーニング処理に使用される。
【0035】
<永久磁石>
成膜室101の外部には、アノード電極105を取り囲むように、永久磁石109が備えられている。このように、永久磁石109は、原料ガスGをイオン化して、前記イオン化した気体(以下、イオンビーム)を加速する領域(以下、励起空間R)の少なくとも一部を取り囲むように配置することが好ましい。これにより、カソード電極104とアノード電極105又は基板Dとの間で磁場を印加して、基板Dの表面に向かって加速照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。
【0036】
なお、図1では、基板Dの右側が省略されているが、基板Dの右側にも左側に記載した構成と同一の装置を備えた成膜室が設置されている。これにより、基板Dの両面に炭素膜を形成することができる。
【0037】
<<炭素膜の形成方法>>
次に、本発明の実施形態である炭素膜の形成方法について説明する。
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、本発明の実施形態である炭素膜の形成装置を用いて実施されるものであり、クリーニング工程と、成膜工程と、を有する。なお、本発明の実施形態である炭素膜の形成装置で用いた部材と同一の部材については同一の符号を付して説明する。
<クリーニング工程>
まず、フィラメント状のカソード電極104と、カソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105と、カソード電極104から離間された位置に配置された基板ホルダ102と、を内部に備えた成膜室101内の気体を排気管110から排気する。
次に、成膜室101内に接続された不活性ガス導入管111から不活性ガスAを導入する。
次に、フィラメント状のカソード電極104を通電加熱して、フィラメント状のカソード電極104を適度に脱炭して、カソード電極104のフィラメントをクリーニング処理する。
【0038】
炭素膜の成膜工程の前後で、クリーニング工程を実施することによって、炭素膜を連続成膜する際に生じるフィラメントの過度の炭化を防止することができる。また、同時に、通電加熱されたフィラメントから発生する熱電子によってプラズマ化された不活性ガスがフィラメントの表面をアタックしてフィラメントの表面を活性化することにより、フィラメントによる原料気体の励起分解力を一定に保つことができる。これにより、次の成膜工程で、平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0039】
<成膜工程>
まず、不活性ガスAの導入を止めた後、成膜室101内の不活性ガスを排気管110から排気して、成膜室101内を減圧する。
次に、液体状の炭素化合物を気化して原料ガスGとした後、原料ガスGを成膜室101に接続された原料ガス導入管103から成膜室101内に導入する。
次に、原料ガスGを通電により加熱したフィラメント状のカソード電極104と、その周囲に設けられたアノード電極105との間で放電させる。これにより、原料ガスGは、第1の電源106からの電力の供給により加熱されたカソード電極104の熱プラズマと、第2の電源107に接続されたカソード電極104とアノード電極105との間で放電により発生したプラズマとによって励起分解されてイオン化した気体(炭素イオン)となる。
【0040】
次に、プラズマ中で励起され、イオン化した炭素イオンを含む原料ガスGを、第3の電源108によりカソード電極104又はアノード電極105と基板Dとの間で電位差を与えるように加速電圧を印加して、マイナス電位とした基板Dに向かって加速して、基板Dの表面に照射する。これによって、プラズマ中で励起された炭素イオンは、基板Dの表面に衝突して、基板Dの表面に炭素膜を形成する。
このように、イオンビーム蒸着法を用いることが好ましい。イオンビーム蒸着法を用いることにより、スパッタリング法やCVD法で形成した炭素膜に比べて、平滑度がより高く、より高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0041】
なお、励起空間Rは、永久磁石109によって磁場を印加されている。これにより、基板Dの表面に向かって加速照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。さらに、励起空間R内のイオン密度を高めることにより、励起空間R内の励起力を高めて、より高いエネルギー状態となった炭素イオンを基板Dの表面に加速照射して、硬度が高く緻密性の高い炭素膜を成膜することができる。
【0042】
前記炭素膜の膜厚は5nm以下とすることが好ましく、3nm以下とすることがより好ましい。これにより、平滑度がより高く、より高硬度で緻密な炭素膜を薄く形成して、磁気記録媒体の記録密度を向上させることができる。
【0043】
<複数の基板上への炭素膜の連続成膜>
なお、基板Dへの成膜の終了後、基板Dを取り外し、新たな基板を基板ホルダ102に載置した後、クリーニング工程と成膜工程を繰り返すことにより、複数の基板に順次、炭素膜を形成することができる。
【0044】
一般に、通電により加熱したフィラメント状のカソード電極104を用いて原料ガスGを励起分解して炭素膜を形成する工程を、複数の基板に対して連続して実施すると、フィラメント状のカソード電極104の炭化が徐々に進行する。また、カソード電極の励起分解力が低下するとともに、フィラメントに炭素が付着してフィラメントが太り、フィラメントの劣化や断線が発生する。
しかし、1つの基板への炭素膜の形成工程と、それに連続する次の基板への炭素膜の形成工程と、の間に、クリーニング工程を設けることにより、前記フィラメントの炭化の進行等を防ぐことができる。
【0045】
なお、前記クリーニング処理工程で、1本の導入管から原料ガスGと不活性ガスAの導入を行うと、導入管の内壁面で冷却されて液化凝集された原料ガスGが、クリーニング処理を行うために導入された不活性ガスAにより気化されて、不活性ガスAと一緒に成膜室内に導入されるおそれが発生する。そして、クリーニング処理中においてもカソード電極のフィラメントの炭化が生じるおそれが発生する。
しかし、本発明の実施形態である炭素膜の形成方法では、不活性ガスAを導入する不活性ガス導入管111と、原料ガスGを導入する原料ガス導入管103とを、それぞれ独立に備える構成なので、クリーニング処理の不活性ガスAへの原料ガスGの炭素の混入を防止して、カソード電極104のフィラメントの炭化を進行させるおそれはない。
これにより、本発明の実施形態である炭素膜の形成方法では、1枚の基板に炭素膜を形成するごとに、フィラメントのクリーニングを行うので、フィラメントの炭化度を適度に保つことができ、平滑度がより高く、より高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0046】
<永久磁石が印加する磁場とその磁力線>
図2は、永久磁石が印加する磁場とその磁力線の方向の一例を示す模式図である。
図2(a)は、図1に示した成膜装置に設置した永久磁石の磁場とその磁力線の方向の一例を示す模式図である。
図2(a)に示すように、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が基板D側、N極がカソード電極104側となるように永久磁石109が配置されている。これにより、永久磁石109によって生じた磁力線Mは、成膜室101の中央付近で、加速照射される炭素イオン(以下、イオンビーム)Bの加速方向とほぼ平行となる。
これにより、励起空間Rにおける炭素イオンは磁気モーメントを有するので、成膜室101内の中央付近に集中されて、励起空間R内のイオン密度が高められる。
【0047】
図2(b)は、成膜装置に設置する永久磁石の磁場とその磁力線の方向の別の一例を示す模式図である。
図2(b)に示すように、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極がカソード電極104側、N極が基板D側となるように永久磁石109が配置されている。これにより、図2(a)の場合と同様に、永久磁石109によって生じた磁力線Mは、成膜室101の中央付近で、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となる。これにより、励起空間Rにおける炭素イオンは磁気モーメントを有するので、成膜室101内の中央付近に集中されて、励起空間R内のイオン密度が高められる。
【0048】
図2(c)は、成膜装置に設置する永久磁石の磁場とその磁力線の方向の更に別の一例を示す模式図である。
図2(c)に示すように、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、N極とS極との向きを内周側と外周側とで交互に入れ替えた複数の永久磁石109が配置されている。これにより、図2(a)及び図2(b)の場合と同様に、永久磁石109によって生じた磁力線Mは、成膜室101の中央付近で、イオンビームBの加速方向とほぼ平行となる。これにより、励起空間Rにおける炭素イオンは磁気モーメントを有するので、成膜室101内の中央付近に集中されて、励起空間R内のイオン密度が高められる。
【0049】
以上のように、イオンビーム蒸着法を用いる際に、外部から磁場を印加することによって、基板Dの表面に向かって加速照射されるイオンビームBのイオン密度を高めて、この基板Dの表面に高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0050】
<<磁気記録媒体の製造方法>>
まず、磁気記録媒体及び磁気記録再生装置について説明する。
<磁気記録媒体>
図3は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を用いて製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
図3に示すように、磁気記録媒体122は、非磁性基板80の両面に磁性層810と、保護層84と、潤滑膜85とが順次積層されて構成されている。また、磁性層810は、非磁性基板80側から軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83が順次積層されてなる。
【0051】
保護層84は、本発明の実施形態である炭素膜の形成方法を用いて形成された高硬度で緻密な炭素膜である。保護層84は高硬度で緻密な炭素膜なので、保護層84の膜厚はたとえば2nm程度以下まで薄くすることができる。
【0052】
磁気記録媒体122をハードディスクドライブ装置(HDD装置)などに搭載した場合には、保護層84の膜厚を薄くすることにより、磁気記録媒体122と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することができる。これにより、磁気記録媒体122の記録密度を高めることができる。また、磁気記録媒体2の耐コロージョン性を高めることができる。
【0053】
以下、磁気記録媒体122の保護層84以外の各層について説明する。
<非磁性基板>
非磁性基板80としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0054】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0055】
<磁性層>
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。
また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。
一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0056】
磁性層810の全体の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、磁性層810は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層810の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0057】
<潤滑膜>
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤、脂肪酸等の固体潤滑剤などを用いることができる。通常は1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。潤滑剤の塗布方法としては、ディッピング法やスピンコート法など従来公知の方法を使用すればよい。
【0058】
図4は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を用いて製造される磁気記録媒体の別の一例を示す断面図である。
図4に示すように、磁気記録媒体123は、非磁性基板80の両面に磁性層810と、保護層84と、潤滑膜85とが順次積層されて構成されている。また、磁性層810は、非磁性基板80側から軟磁性層81および/または中間層82、記録磁性層83が順次積層されてなる。さらに、記録磁性層83には、磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されて形成されており、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体とされている。
【0059】
前記ディスクリート型の磁気記録媒体は、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディアや、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含むメディアであってもよい。
【0060】
前記ディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設けた後、前記マスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって、記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質して、非磁性領域83bを形成して作製する。
【0061】
<磁気記録再生装置>
図5は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体を搭載した磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。前記磁気記録再生装置は、ハードディスク(ドライブ)装置(以下、HDD装置)である。
磁気記録再生装置124は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体(以下、磁気ディスク)96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、磁気ヘッド98を任意の位置に駆動するヘッド駆動部99と、磁気記録再生信号処理系100と、を備えている。磁気記録再生信号処理系100では、入力されたデータを処理して(磁気)記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【0062】
次に、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法について説明する。なお、本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、HDD装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0063】
<インライン式成膜装置>
図6は、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法で用いるインライン式成膜装置(磁気記録媒体の製造装置)の一例を示す平面模式図である。
図6に示すように、インライン式成膜装置125は、ロボット台1と、ロボット台1上に截置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台1に隣接する基板供給ロボット室2と、基板供給ロボット室2内に配置された基板供給ロボット34と、基板供給ロボット室2に隣接する基板取り付け室52と、キャリア25を回転させるコーナー室4、7、14、17と、各コーナー室4、7、14、17の間に配置された処理チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20と、処理チャンバ20に隣接して配置された基板取り外し室54と、基板取り付け室52との基板取り外し室54との間に配置されたアッシング室3Aと、基板取り外し室54に隣接して配置された基板取り外しロボット室22と、基板取り外しロボット室22内に設置された基板取り外しロボット49と、これら各室の間で搬送される複数のキャリア25とを有して概略構成されている。
【0064】
各室2、52、4〜21、54、3Aは、隣接する2つの壁部にそれぞれ接続されており、各室2、52、4〜20、54、3Aの接続部にはゲートバルブ55〜71が設けられている。そして、ゲートバルブ55〜71が閉状態のとき、各室内はそれぞれ独立の密閉空間となる。また、各室2、52、4〜20、54、3Aには、それぞれ真空ポンプ(図示略)が接続されており、真空ポンプの動作によって、各室内は減圧状態となされる。
各コーナー室4、7、14、17は、キャリア25の移動方向を変更する室であり、内部には、キャリア25を回転させて次の成膜室に移動させる機構が設けられている。
【0065】
各室5、6、8〜13、15、16、18〜20は、処理チャンバとされている。各処理チャンバには、処理用ガス供給管(図示略)が接続されており、前記処理用ガス供給管には開閉を制御するバルブが設けられている。
前記バルブ及びポンプ用のゲートバルブ55〜71を開閉操作することにより、処理用ガス供給管からのガスの供給、各処理チャンバ内の圧力およびガスの排出を制御することができる。
【0066】
前記処理チャンバのうち、各室5、6、8〜13、15、16が、磁性層を形成するための処理チャンバである。この処理チャンバには、非磁性基板の両面に、軟磁性層81、中間層及び記録磁性層からなる磁性層を成膜する機構が備えられている。
また、前記処理チャンバのうち、各室チャンバ18〜20が、保護層を形成するための処理チャンバである。この処理チャンバには、図1に示した成膜装置(イオンビーム蒸着装置)と同様の構成を備えた装置が備えられている。
【0067】
なお、必要に応じて、マスク層をパターニングする処理チャンバや、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を実施する処理チャンバ、マスク層を除去する処理チャンバなどを追加してもよい。これにより、図4に示したディスクリート型の磁気記録媒体を製造することができる。
【0068】
基板カセット移載ロボット3は、成膜前の非磁性基板80が収納されたカセットから、基板取り付け室2に非磁性基板を供給するとともに、基板取り外し室22で取り外された成膜後の非磁性基板(磁気記録媒体)を取り出す。この基板取り付け・取り外し室2、22の一側壁には、外部に開放された開口と、この開口を開閉する51、55が設けられている。
【0069】
基板取り付け室52の内部では、基板供給ロボット34を用いて成膜前の非磁性基板がキャリア25に装着される。一方、基板取り外し室54の内部では、基板取り外しロボット49を用いて、キャリア25に装着された成膜後の非磁性基板(磁気記録媒体)が取り外される。アッシング室3Aは、基板取り外し室54から搬送されたキャリア25のアッシングを行った後、キャリア25を基板取り付け室52へと搬送させる。
【0070】
図7は、インライン式成膜装置のキャリアの一例を示す側面図である。また、図8は、図7に示したキャリアの拡大側面図である。
図7及び図8に示すように、キャリア25は、支持台26と、支持台26の上面に設けられた基板装着部27と、を有している。
なお、本実施形態では、基板装着部27を2基搭載した構成のため、これら基板装着部27に装着される2枚の非磁性基板は、それぞれ第1成膜用基板23及び第2成膜用基板24として示されている。
【0071】
基板装着部27は、第1及び第2成膜用基板23、24の厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板体28と、成膜用基板23、24の外周より若干大径となされた円形状の貫通穴29と、貫通穴29の周囲に設けられ、該貫通穴29の内側に向かって突出する複数の支持部材30と、を有して構成されている。
貫通穴29には第1及び第2成膜用基板23、24が嵌め込まれ、その縁部に支持部材30が係合することによって、成膜用基板23、24が縦置き(基板23,24の主面が重力方向と平行となる状態)に保持される。これにより、キャリア25に装着された第1及び第2成膜用基板23、24の主面は、支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して配置される。
【0072】
図7に示すように、処理チャンバ5、6、9、19には、搬送方向にそって、キャリア25を挟んで2つの支持台26が備えられている。なお、図7では省略しているが、処理チャンバ8、10〜13、15、16、18、20も同様の構成とされている。
例えば、まず、図7中の実線で示す第1処理位置にキャリア25が停止した状態で、このキャリア25の左側の第1成膜用基板23に対して成膜処理等を行う。
次に、キャリア25が図7中の破線で示す第2処理位置に移動して、この第2処理位置にキャリア25が停止した状態で、キャリア25の右側の第2成膜用基板24に対して成膜処理等を行う。
【0073】
なお、キャリア25を挟んだ両側に、それぞれ第1及び第2成膜用基板23、24に対向した4つの処理装置がある場合は、キャリア25の移動は不要となる。キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して同時に成膜処理等を行うことができる。
【0074】
成膜後は、第1及び第2成膜用基板23、24をキャリア25から取り外し、炭素膜が堆積したキャリア25のみをアッシング室3A内へと搬送する。
そして、アッシング室3Aの任意の箇所から導入した酸素ガスを用いて、アッシング室3A内に酸素プラズマを発生させる。
前記酸素プラズマをキャリア25の表面に堆積した炭素膜に接触させて、炭素膜をCOやCOガスに分解して除去する。
【0075】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に磁性層を形成する工程と、先に記載の炭素膜の形成方法を用いて、前記磁性層上に炭素膜を形成する工程と、を有する。
搬送機構(図示略)により、非磁性基板を装着したキャリア25を、各室2、52、4〜21、54、3Aを順次搬送させながら、各室内において、非磁性基板の両面に、軟磁性層、中間層及び記録磁性層からなる磁性層を順次成膜し(非磁性基板の上に磁性層を形成する工程)、保護層を順次成膜する(前記磁性層上に炭素膜を形成する工程)ことによって、非磁性基板上の磁性層の表面に、保護層として高硬度で緻密な炭素膜を備えた上記磁気記録媒体を安定して製造することができる。
【0076】
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、フィラメント状のカソード電極104と、カソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105と、カソード電極104から離間された位置に配置された基板ホルダ1−2と、を内部に備えた成膜室101内を排気した後に、成膜室101に接続された第2の導入管111から不活性ガスAを導入した状態で、カソード電極104の加熱を行ってフィラメント表面のクリーニングを行うクリーニング工程と、不活性ガスAの導入を止めて成膜室101内を排気した後に、成膜室101に接続された第1の導入管103から導入した原料ガスGをカソード電極104で加熱して、カソード電極104とアノード電極105との間で放電させた後、カソード電極104又はアノード電極105と基板ホルダ102に支持された基板Dとの間で電圧を印加して基板D上に炭素膜を形成する成膜工程と、を有する構成なので、クリーニング処理の不活性ガスAへの原料ガスGの炭素の混入を防止して、カソード電極104のフィラメントの炭化を進行させるおそれはない。また、フィラメントによる原料気体の励起分解力を一定に保ち、平滑度の高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0077】
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、原料ガスGが、常温常圧で液体である炭素を含む材料が気化されたガスである構成なので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0078】
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、前記炭素を含む材料がトルエンである構成なので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0079】
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、第1の導入管103に加熱機構112が取り付けられている構成なので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0080】
本発明の実施形態である炭素膜の形成方法は、前記クリーニング工程と前記成膜工程とを繰り返すことにより、複数の基板Dに連続的に炭素膜を形成する構成なので、1枚の基板に炭素膜を形成するごとに、フィラメントのクリーニングを行って、フィラメントの炭化度を適度に保って、平滑度がより高く、より高硬度で緻密な炭素膜を連続的に形成することができる。
【0081】
本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板の上に磁性層を形成する工程と、先に記載の炭素膜の形成方法を用いて、磁性層上に炭素膜を形成する工程と、を有する構成なので、前記炭素膜を保護膜として用いて記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【0082】
本発明の実施形態である炭素膜の形成装置121は、減圧可能な成膜室101と、成膜室101内に備えられたフィラメント状のカソード電極104と、カソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105と、カソード電極104から離間された位置に配置された基板ホルダ102と、前記成膜室101の壁面に接続された第2の導入管111と、成膜室101の壁面に接続された原料ガス導入管103と、を有する構成なので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【0083】
本発明の実施形態である炭素膜の形成装置121は、カソード電極104を通電して加熱する第1の電源106と、前記カソード電極104と前記アノード電極105との間で放電を生じさせる第2の電源107と、カソード電極104又はアノード電極105と基板Dとの間に電位差を与える第3の電源108と、を有する構成なので、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜を形成することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
まず、非磁性基板として、外径3.5インチ(外径95mm、開口部径25mm)であって、NiPめっきが施されたアルミニウム基板を用意した。
次に、図6に示したインライン式成膜装置を用いて、A5052アルミ合金製のキャリアに装着された非磁性基板の両面に、膜厚60nmのFeCoBからなる軟磁性層と、膜厚10nmのRuからなる中間層と、膜厚15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層とを順次積層して磁性層を形成した。
次に、前記キャリアに装着された非磁性基板を、図1に示した成膜装置と同様の装置を有する保護膜形成用の処理チャンバに搬送した。
【0085】
前記保護膜形成用の成膜チャンバは、外径が180mm、長さが250mmの円筒形状を有する処理チャンバであり、SUS304からなるチャンバ壁を有する。また、前記保護膜形成用の成膜チャンバ内には、長さ約30mmのタングステンからなるコイル状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲を囲むように配置した円筒状のアノード電極と、が設けられている。また、前記保護膜形成用の成膜チャンバには、原料ガス導入管と、不活性ガス導入管とが接続されている。前記原料ガス導入管の管壁には、原料ガスを少なくとも50℃に加熱できる加熱装置が取り付けられている。
【0086】
また、前記アノード電極は、SUS304からなり、外径が140mm、長さが40mmの円筒状である。また、前記カソード電極と前記非磁性基板との距離は160mmである。さらに、前記チャンバ壁の周囲を囲むように、内径が185mm、長さが40mmの円筒状の永久磁石を配置した。中心にアノード電極が位置するとともに、S極が基板側となり、N極がカソード電極側となるように前記永久磁石を配置した。永久磁石のトータル磁力は50G(5mT)であった。
【0087】
原料ガスとしては、トルエンをガス化して用いた。そして、ガス流量を2.9SCCMとし、反応圧力を0.3Paとし、カソード電力を225W(AC22.5V、10A)とし、カソード電極とアノード電極間の電圧を75Vとし、電流を1650mAとし、イオンの加速電圧、電流値を200V、60mAとし、成膜時間を3秒間とする成膜条件で、前記磁性層上に炭素膜からなる保護層を形成した。成膜後、処理チャンバから前記基板を取り出した。前記炭素膜の膜厚は3.5nmであった。
【0088】
次に、カソード電極のクリーニング処理を行った。
クリーニングガスにはアルゴンを用い、ガス流量を2SCCMとし、チャンバ内圧力を0.3Paとし、カソード電力を225Wとし、1秒間のクリーニング処理を行った。
【0089】
上記の条件でクリーニング処理工程と炭素膜の成膜工程を繰り返して、1000枚の磁気記録媒体を製造した。
1枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚と、1000枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚と、を比較した結果、1000枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚は、1枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚に対して約4%膜厚が薄かった。
【0090】
(比較例1)
クリーニングガスの供給を原料ガスと同じ配管を用いた他は実施例1と同様にして、1000枚の磁気記録媒体を製造した。
1枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚と、1000枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚と、を比較した結果、1000枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚は、1枚目の磁気記録媒体の炭素膜厚に対して約14%膜厚が薄かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の炭素膜の形成方法、炭素膜の形成装置及び磁気記録媒体の製造方法は、平滑度が高く、高硬度で緻密な炭素膜の形成方法、前記炭素膜を保護膜として用いて記録密度を向上させ、生産効率を高めた磁気記録媒体の製造方法、及び、前記炭素膜の形成装置に関するものであり、磁気記録媒体を製造・利用する産業において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0092】
1…基板カセット移載ロボット台、2…基板供給ロボット室、3…基板カセット移載ロボット、3A…アッシング室、4、7、14、17…コーナー室、5、6、8〜13、15、16、18〜20…処理チャンバ、22…基板取り外しロボット室、23…第1成膜用基板、24…第2成膜用基板、25…キャリア、26…支持台、27…基板装着部、28…板体、29…円形状の貫通穴、30…支持部材、34…基板供給ロボット、49…基板取り外しロボット、52…基板取り付け室、54…基板取り外し室、55〜72…ゲートバルブ、80…非磁性基板、81…軟磁性層、82…中間層、83…記録磁性層、84…保護層、85…潤滑膜、810…磁性層、101…成膜室、101a…チャンバ壁、102…基板ホルダ、103…原料ガス導入管(第1の導入管)、104…カソード電極、105…アノード電極、106…第1の電源、107…第2の電源、108…第3の電源、109…永久磁石、110…排気管、111…不活性ガス導入管(第2の導入管)、112…加熱機構、121…成膜装置、122、123…磁気記録媒体、124…磁気記録再生装置(HDD装置)、125…インライン成膜装置、A…不活性ガス、B…イオンビーム、D…基板、G…原料ガス、M…磁力線、R…励起空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、を備えた成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第2の導入管から不活性ガスを導入した状態で、前記カソード電極の加熱を行ってフィラメント表面のクリーニングを行うクリーニング工程と、
前記不活性ガスの導入を止めて前記成膜室内を排気した後に、前記成膜室に接続された第1の導入管から導入した原料ガスを前記カソード電極で加熱して、前記カソード電極と前記アノード電極との間で放電させた後、前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板ホルダに支持された基板との間で電圧を印加して前記基板上に炭素膜を形成する成膜工程と、を有することを特徴とする炭素膜の形成方法。
【請求項2】
前記原料ガスが、炭素を含む常温常圧で液体状の原料が気化されたガスであることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項3】
前記炭素を含む常温常圧で液体状の原料がトルエンであることを特徴とする請求項2に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項4】
前記第1の導入管に加熱機構が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項5】
前記クリーニング工程と前記成膜工程とを繰り返すことにより、複数の基板に連続的に炭素膜を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項6】
非磁性基板の上に磁性層を形成する工程と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素膜の形成方法を用いて、前記磁性層上に炭素膜を形成する工程と、を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
減圧可能な成膜室と、前記成膜室内に備えられたフィラメント状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に設けられたアノード電極と、前記カソード電極から離間された位置に配置された基板ホルダと、前記成膜室の壁面に接続された第2の導入管と、前記成膜室の壁面に接続された第1の導入管と、を有することを特徴とする炭素膜の形成装置。
【請求項8】
前記カソード電極を通電して加熱する第1の電源と、前記カソード電極と前記アノード電極との間で放電を生じさせる第2の電源と、前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を与える第3の電源と、を有することを特徴とする請求項7に記載の炭素膜の形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−225238(P2010−225238A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71731(P2009−71731)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】